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一 般 地 質 第 1 1 話 – 67 – 学 (大 藤) 変 成 岩 と 変 成 帯 あるにも関わらず,ある線を境に片側では特定の鉱物A 変成岩と変成帯 (例えば緑泥石)が見られ,反対側では鉱物Aが見られず 岩石が生成時と異なる温度・圧力条件下におかれると, 代わりに鉱物B(例えばザクロ石)が見られるということ 岩石全体の化学組成は一定のままでも,構成鉱物の組合せ がある.この様に,変成岩分布域を,特徴的な鉱物により がその温度・圧力で安定なものへと変化する.また,構成 幾つかの帯(この場合 zone)に分けることを変成 分帯 鉱物の配列のしかた(組織という)が変化する.この過程 (zonal mapping)という.第 11.1 図には,変成岩研究の古 が変成作用(metamorphism)であり,この過程で生成した 典的フィールドである,スコットランド高地バロウ型変成 岩石が変成岩(metamorphic rocks)である.一方,岩石全 帯での変成分帯の例を示した. 体の化学 組成が大 きく変 化した場 合,それは変 質 作 用 (metasomatism, alteration)と呼ばれ,変成作用とは区別さ 累進変成作用 れる.第 11.3 図に,3種のアルミノ・ケイ酸塩鉱物(紅 造岩鉱物の高温・高圧下での化学反応は, (比較的単純 柱石,藍晶石,珪線石:いずれも,組成は Al2SiO 5)の温 な系のみだが)実験的にかなり良くわかっている.多くの 度‐圧力座標内での安定領域 -同じ化学組成でも,温度‐ 広域変成帯を変成分帯すると,変成作用の温度(のピー 圧力条件によって安定な鉱物がどのように変わるか- を ク)条件が,一方向に徐々に上昇していることがわかって 示した(この様な図を,相図という).この図は,変成作 いる.この様に,温度の上昇に伴って起こる変成作用を, 用の実体を端的に示している. 累進変成作用(progressive metamorphism)または昇温変成 変成岩 には,広域にわ たって 帯状に 分布し , 変 成 帯 (metamorphic belt)を形成するものがある.この手の変成 岩を,広域変成岩(regional metamorphic rocks)と呼ぶ.ま た一方で,貫入火成岩体の周囲には,岩体の熱により接触 変成岩(contact metamorphic rocks)が生じた接触変成帯 (contact aureole)が見られることがある. 変成岩の形成温度・圧力条件 作用(prograde metamorphism)という.累進変成地域の高 温側に向かって,ある変成鉱物が初めて出現する線(多く の場合変成分帯の境界)を,その変成鉱物のアイソグラッ ド(isograd)と呼ぶ. 変成相と変成相系列 マフィックな岩石は,化学組成は比較的一定であるが, 変成作用の(温度ピーク時の)温度・圧力条件により敏感 実験鉱物・岩石学の成果により,主要な変成鉱物あるい に鉱物組成を変える.2種のマフィック岩が大変違う鉱物 は変成鉱物組合せの安定物理条件(温度・圧力条件)は判 組成を示すときには,それらを作った変成作用の温度・圧 明している.また,それらと,野外地質学による変成帯の 力が違っていたと考える.マフィック岩のある一定の鉱物 構成および構造の研究成果とを総合することで,各変成帯 組成は,温度-圧力平面内でのある範囲で安定であると考 の形成された場も,わかるようになってきている. えられる.この様に,マフィックな変成岩の鉱物組成から 決められた,温度・圧力条件の範囲でできる変成岩の状態 変成分帯 を,一つの変成相と呼ぶ.マフィック岩に伴って産する他 変成作用を受けた地域では,全岩化学組成はほぼ同じで 第 11.1 図 鉱物組成の累進的変化の例 種の岩石も,マフィック岩と同じ変成相に属すると考える 変成岩研究の古典的な フィールド, スコットランド高地のバロウ型変成帯の例 第 11.2 図 主な変成相の,推定温度・圧力範囲 – 68 – 第 11 話 変 (この考えには,実は問題がある).よく用いられる変成相 は,第 11.2 図の 10 種類である. 変成岩の温度・圧力条件のほどを,変成度(metamorphic 成 岩 と 変 成 帯 片理(schistosity) ・片状組織(schistose texture) :変成岩中 の板状(雲母類など),柱状,または針状(角閃石の仲 間など)の鉱物が,お互いに平行に配列して作る組織. grade)という.最も低いのが沸石相(zeolite facies:第 11.2 流動によって鉱物が回転したり,結晶成長速度に主応力 図 に は 載 っ て い な い ), 高 い の が グ ラ ニ ュ ラ イ ト 相 軸の方位に依存した異方性が生じたりした時に形成する (granulite facies)である.グラニュライト相では,フェル と考えられている. 線構造(lineation):片理面上に見える線状の構造. 縞状組織(banding) :鉱物組成または構造の違う薄層(ま たはレンズ状体)が重なってできたような平行組織.一 般に,片理(結晶粒子の定向配列)を伴う. 片麻状組織(gneissosity) :縞状組織は顕著だが,片理を伴 わない組織.成因的には,色々なもの(原岩の層理,変 形による伸長性の縞模様,脈の定向的な注入,応力下で の定向性を持った分子の移動?)を含むとみられる. シックな岩石は部分融解を始める. 累進変成帯は,固有の変成相系列(metamorphic facies series)をもつ.いうなれば,変成度の低い変成相から高 い変成相への,変成相の配列順序である.この変成相系列 は,そのまま変成作用時の地中の温度・圧力勾配を表わす と仮定することが多い(第 11.3 図) (この仮定には,実は 問題がある).第 11.3 図において,傾斜の緩やかな直線で 示されるのが,低圧力/温度比の変成相系列である.この 変成相系列を特徴づけるアルミノ・ケイ酸塩鉱物から,紅 柱石-珪線石系列と呼ばれることもある.同様に,中圧力 /温度比の変成相系列は,藍晶石-珪線石系列と呼ばれる ことがある. 変成岩の岩型 ホルンフェルス(hornfels) :片理や縞状組織をもたない, 無方向性の変成岩で,斑状変晶をもつことも多い.接触 日本の三波川変成帯(後述)の変成岩は,一般に高圧型 変成作用でできるのが普通. 変成岩と呼ばれるが,これは高圧力/温度比の変成相系列 スレート(slate) :一般に細粒な泥質の弱変成岩で,層理 をもつ累進変成帯であるという意味である.日本の高圧変 面を明瞭に切る片理(スレート劈開 (slaty cleavage) と呼 成帯は,場所により多少異なるが,ぶどう石-パンペリー ばれることが多い)をもつもの.粘板岩(clay slate)は, 石相→緑色片岩相→藍閃石片岩相→緑れん石角閃岩相→エ クロジャイト相からなる.また,高温型変成帯と呼ばれる 飛騨変成帯や領家変成帯は,同様に,低圧力/温度比の変 成相系列をもつ累進変成帯である.飛騨変成帯の変成相 は,最大グラニュライト相におよぶ. 変成岩の組織と岩型 変成岩は,地表よりも高温・高圧の場で形成される.そ スレートの一種. 千枚岩(phyllite):スレートと同程度~やや高い変成度を 持った泥質岩で,層理面に平行に割れやすいもの. (結晶)片岩((crystalline) schist):片理の良く発達した変 成岩.日本では,高圧力/温度比の変成相系列の変成岩 に用いられることが多い(例:三波川結晶片岩類). 片麻岩(gneiss) :比較的高温でできた,片麻状組織を呈す る変成岩. の様な場では,一般に地表よりも分子の拡散や結晶の延性 圧力‐温度‐時間経路 流動(次回に話します)が起こりやすいため,変成岩は特 有の組織をもつことが多い. 昇温変成作用の過程では,既存の鉱物の多くが変成鉱物 に置き換わってしまう.しかし,温度の下降に伴う後退変 変成岩の組織 斑状変晶(porphyroblast) :変成作用でできる,斑状の大き な結晶. 第 11.4 図 礫質片岩の露頭写真 変成作用の起こるような高温・ 高圧下では, 岩石が塑性変形しやすくなる. 上図の礫岩中の礫 第 11.3 図 累進変成帯での, 変成相系列と温度勾配 も,塑性変形により,画面横方向に伸長している. 一 第 11.5 図 縞状組織をもつ変成岩 般 地 質 – 69 – 学 (大 藤) 下左図の様な花崗岩類を原岩とする,変成岩(下右).片理を伴う縞状組織をもつ.片理は,上図に 示されたように,最大圧縮主応力軸( 1)に垂直に生ずる場合と,剪断すべり面に平行に生ずる場合との両者がある. 成作用時には,昇温変成時の鉱物の一部が残されることが 徐々に温度は下降(isobaric cooling)する.この場合,変 ある.この様な鉱物を用いて,その岩石が蒙った温度・圧 成帯は反時計回りの時間的温度‐圧力経路をたどる.始生 力条件の歴史を知ることができる場合がある.圧力‐温度 代(今から 40–25 億年前)の大陸地殻をなすグラニュライ 座標上に,上記の条件変化を示した図を,圧力‐温度‐時 ト帯の多くは,このタイプの変成帯である. 間経路(P–T–t path)と呼ぶ(第 11.6 図).変成帯が急激 日本の変成帯 に隆起した場合,圧力は急激に下がるが温度は急激に下が らず,断熱上昇に近いことが起こる.この場合,変成帯は 第 11.7 図に日本の主要な広域変成帯を,3つのタイプ 時計回りの時間的温度‐圧力経路をたどる.日本の代表的 に分けて示した.代表的なものの変成年代は,概ね以下の 変成帯や,衝突変成帯の多くは,このタイプの変成帯であ 様である:阿武隈(120 Ma),飛騨-隠岐(330 Ma,240 る.一方,変成作用の元となった大規模な熱源が徐々に遠 Ma),日高(50–40 Ma),神居古潭(100 Ma),領家(100– ざかったり消滅したりした場合,圧力は変わらないまま 80 Ma),三波川(100–70 Ma),三郡(440 Ma,230 Ma, 180 Ma). 日本の広域変成帯は,低圧力/温度比型の変成帯と,高 圧力/温度比型の変成帯とが対の変成帯(paired metamorphic belts)をなしていることで世界的に有名である.確か に,飛騨-隠岐(低圧力/温度比型)と三郡(高圧力/温 度比型),領家(低圧力/温度比型)と三波川(高圧力/ 温度比型)等は,分布からも変成年代からも,対の変成帯 と呼ぶにふさわしいかも知れない.一般に,低圧力/温度 比型の変成帯は地温勾配の高い火山弧下で,高圧力/温度 比型の変成帯は地温勾配の低い大洋プレートの沈み込み帯 深部でそれぞれ形成されたと漠然と考えられている.ま た,中圧力/温度比型の変成帯は,厚い地殻を持つ大陸の 第 11.6 図 変成岩類の時間的温度-圧力経路 変成岩類が急激に 衝突帯でできると考える人もいる.富山県の宇奈月には, 上昇して冷却が遅れると, 時計回りの経路が形成される. また, 日本では珍しい,中圧力/温度比型変成帯が知られてい 変成の場が徐々に冷却すると, 反時計回りの経路が形成される. る. – 70 – 第 11.7 図 第 日本の主要な広域変成帯 11 話 変 成 岩 と 変 成 帯 飛騨帯(高温型)と三郡帯(高圧型),および領家帯(高温型)と三波川帯(高圧型)という,ほ ぼ同時期に形成された性質の異なる変成帯の対が, 注目されている. 一 第 11.8 図 般 地 質 学 (大 藤) ベーズン・アンド・レーンジ区の変成コア・コンプレックス – 71 – ホィップル山地変成コア・コンプレックスの地質平面図(上 図) と地質断面図 (下図). 地下深部で形成された変成岩類を中核として, その周囲に正断層群で断たれた非変成の地層が分布するの が,変成コア・コンプレックスの特徴である.図の地域では,下盤プレートのマイロナイト類(来週勉強する用語)を中核として,正 断層に断たれた第三紀 (漸進世~鮮新世) の非変成堆積岩類および火山岩類が分布している. 世界には,ダイヤモンドを産するような超高圧変成帯も ることも,同様に困難である.近年,一般に考えられてい 存在する.また,大隕石孔の周辺には,石英の超高圧相で る変成帯の上昇機構は,(1) 伸長場における上昇モデルと あるコーサイトやスティショバイトの報告もある.隕石の (2) 沈み込みプレート境界に沿った絞り出しモデルとの2 衝突に伴い,局所的な超高圧変成作用が起こる場合がある つに大別される. ことを示している. 伸長場での上昇モデル 変成帯の上昇 伸長場における上昇モデルとは,地殻(or リソスフェ 地下深所の高温・高圧条件下で形成された変成岩類の上 アー)上層部が伸長により薄化することに伴い,アイソス 昇機構は,未だに議論の対象である.かつては,短縮場で タシーを保つために地殻下層部が相対的に上昇するという の衝上運動により地下深所のものが地表へ上昇するという ものである. 考えが主流であった.しかし,アイソスタシー(isostasy) 地殻(またはリソスフェア)は,海水中に浮かぶ氷山の に逆らって地下深所のものを上昇させる(=位置エネル ようにマントル(またはアセノスフェア)の上にのってい ギーを与える)には,大変な仕事量を要する.傾斜方向の る.密度の大きいマントルの上に,密度の小さい地殻が 運動成分をもつ横すべり断層運動のみで変成岩を上昇させ のっており,全体として圧力の均衡がとれていると考えら – 72 – 第 11 話 変 成 岩 と 変 成 帯 た.ところが,今から約10,000年前頃に氷河が比較的急に 融けてなくなったため,氷河の荷重がなくなり,再びアイ ソスタシーが成り立つように地殻が隆起している.隆起の 速度は,10,000 年に 300 m ほどだという.同様な隆起は, 何らかの原因で地殻が薄くなる場所でも起こる. 合衆国西部のベーズン・アンド・レーンジ区(Basin and Range Province;第 11.8 図)は,文字通り山脈と山間盆地 が平行に繰り返す地区で,高い地殻熱流量やマントルの低 地震波速度が観測される.ここの地形を作る原因となって いるのは,大陸地殻の伸長・薄化をもたらした平行な正断 層群で,その変位により山脈と盆地が繰り返す(第 11.8・ 9 図).薄化した大陸地殻の中核部には,地下深所の岩石 が顔を出している.この様に,非変成岩から成る地帯の中 核部に露出する変成岩類を,変成コア・コンプレックス (metamorphic core complex)と呼ぶ. 沈み込み帯の付加楔状体(accretionary wedge)中や横す べり断層(断層については,次回勉強します…)沿いでも, 伸長場が生じて地下深所の岩石が上昇すれば変成帯は上昇 しうる.日本では,中央構造線という横すべり断層を境 第11.9 図 伸長場における変成コア・コンプレックスの形成過程 マイロナイト帯およびそこから派生する正断層群の活動により 地殻の中~上部が伸長・薄化する.地殻が薄化すると,単位面 積当たりの地殻の荷重が軽くなるため, アイソスタシーで断層 下盤プレートの地下深所の変成岩類が隆起してくる. に,領家変成帯と三波川変成帯が接している.両変成帯の 上昇に,中央構造線の横すべり運動が関与した可能性は大 きい. 絞り出し(wedge extrusion)モデル 絞り出しモデルとは,沈み込み帯深所の変成岩類が沈み れている.氷山で例えたように,高い山脈では一般に地殻 込むプレートに沿って斜めに飛び出してくるとするモデル が厚く(≒氷山の根が深い),大洋底など低い地形の部分 である.このモデルは,世界の高圧変成帯の多くが,上盤 では地殻が薄い(≒氷山の根が浅い).このような圧力の を正断層,下盤を逆断層によって画されるとする見解に基 均衡を,アイソスタシーと呼ぶ. づいており,海嶺,海台,大陸地殻など軽い物質の沈み込 氷河時代に厚い氷床で覆われていた地域では,このアイ みが上昇の要因であると考えるものである(第 11.10 図). ソスタシーの実体を知ることができる.スカンジナビア半 このモデルは,最近脚光を浴びているが,高圧変成帯の上 島,グリーンランド,北米大陸北部などは,氷河時代に厚 盤・下盤の断層がともに観察できる例はほとんどないた い氷に覆われ,その状態でアイソスタシーが成り立ってい め,その正しさは十分検証されていない. 高圧変成岩類 中 浮揚 央 海嶺 の 性沈 み込 み 第 11.10 図 高圧変成帯の絞り出しモデル 高温で密度が比較的小さい中央海嶺の浮揚性沈み込み (buoyant ridge subduction) に伴い, 高圧変成岩類が沈み込み帯沿いに上昇するというモデル. 日本の三波川変成帯などで提唱される. 密度の小さな中央海嶺から上向きの “浮力” が作用すれば, 高圧変成岩類が上昇しそうだということは理解できる.