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小説と映画の技法―小説の映像化をめぐる考察― 14W-03

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小説と映画の技法―小説の映像化をめぐる考察― 14W-03
14W-03
小説と映画の技法―小説の映像化をめぐる考察―
小方孝†
草島雄太郎†
小林信之†
花田健自†
熊谷友子†
真部雄介‡
小林厚太†
秋元泰介‡
佐藤秀樹†
佐々木昇平†
晴山秀†
相坂岳志†
小野淳平†
阿部弘基†
土橋賢† 冨手瞬†
小野寺康†
中山諒†
佐々木康二† 清藤綾香†
丹友幸†
有馬朋和†
安田孝道†
立花卓†
鈴木健† 高橋雄大†
葛岡恭平†
田中大地†
大石顕祐‡
平松雅也†
高橋良寿†
葛西琢磨†
佐藤春奈†
石畠浩平†
†
志村和彦†
田老洋樹†
水原勇気†
坂本拓洋†
中嶋美由紀‡
熊谷真哉†
道又龍介†
高橋大佐†
千葉裕介†
岩手県立大学ソフトウェア情報学部
‡
岩手県立大学大学院ソフトウェア情報学研究科
1.
はじめに
我々は,物語生成システムプロジェクトとして研究を行っている.我々の提案している物
語生成システム[小方 2003ab]は主に物語の概念表現を生成・加工する機構,及び概念表現を
言葉や映像,音楽などといった表現媒体へと変換する機構などからなる.物語生成システム
では物語の構成要素を物語内容,物語言説,物語表現の 3 つに分けて考えている.物語内容
とは物語の中で実際に起こる出来事を指し,物語言説とは物語内容をどのように語るかとい
う形式である.物語内容と物語言説を記述したものが物語の概念表現である.そしてこの概
念表現を表現媒体(言葉,映像,音楽など)を用いて表現したものが物語表現であり,表層
表現と呼んでいる.図 1 に物語生成システムの概要を示す.
図 1
物語生成システムの概要
-1-
今回我々は,映像を使用した物語表現の方法を模索するために,小方研究室のメンバー総
勢(42 名)である 1 つのプロジェクトを実行した.そのプロジェクトとは小説を映画の技法
を用いて映像化するというものである.このプロジェクトの実施は,プロジェクトメンバー
を 9 つのグループに分けて,全てのグループに共通の課題を与えるという方法で行った.課
題の内容は,
「日本の著名作家の小説と,日本の著名映画監督の映画をそれぞれ 1 作品選び,
これらの作品を分析し,小説の内容を映画の表現方法で映像化せよ」というものである.映
像化のツールとしては TVML(NHK が開発した映像記述言語)を指定した.これ以外の方
法については特に指定せずに,各グループで自由に行った.
以下,2 章で各グループが取り上げた題材とその分析方法について紹介し,3 章で分析を基
に行った映像化の手法をいくつかの例を挙げながら説明する.そして 4 章では実際に製作さ
れた映像作品の例をいくつか挙げて解説する.最後の 5 章では,以上の結果をまとめ,考察
及び今後の展望について述べる.
2.
題材と分析手法
各グループが取り上げた小説と映画の一覧を表 1 に示す.
表 1
小説作者
各グループの題材
小説タイトル
映画監督
映画
グループ 1 大江健三郎
奇妙な仕事
小津安二郎
晩春
グループ 2 川端康成
地獄
溝口健二
近松物語
グループ 3 夏目漱石
夢十夜
黒澤明
羅生門
グループ 4 横光利一
機械
北野武
HANA-BI
グループ 5 三島由紀夫
毒 薬 の 社 会 的 効 溝口健二
雨月物語
用について
グループ 6 谷崎潤一郎
刺青
グループ 7 宮沢賢治
どんぐりと山猫 黒澤明
生きる
グループ 8 坂口安吾
桜 の 森 の 満 開 の 北野武
TAKESHI’S
小津安二郎
彼岸花
下
グループ 9 太宰治
大力
溝口健二
夜の女たち
各グループが行った分析の中で代表的な分析手法を紹介する.小説の内容を映画の表現方
法で映像化するという課題であったため,全てのグループが行った分析の基本的な方針は,
小説の分析としては内容の抽出を行い,映像の分析としては表現方法の分析(カメラワーク,
編集,音の使用法など)を行うというものとなった.以下にいくつかの代表的な分析例を示
す.
-2-
2.1 小説の分析
小説の分析ではテクストからの行為や舞台背景の抽出が主に行われた.以下にいくつかの
グループの分析例を示し,解説する.
●行為抽出の例(グループ 1:『奇妙な仕事』
)
小説の中から全ての行為(主体,客体,場所,道具など)を抽出して表にまとめた.表 2
に分析表の一部(全 232 行為中 18 行為)を示す.
表 2
番
号
ペ
ー
ジ
Action
Agent
1
9
上
『奇妙な仕事』の行為分析表の一部
C-Agent
Object
Instrumen
t
Location
前屈みに歩く
僕
鋪道
2
耳を澄ました
僕
十字路
3
訊ねる
僕
4
入って行った
僕
説明を受けて
いた
女子学生,私大
生
9
下
5
守衛
From
Goal
Next-location
病院の受付
<病院の前>
男
病院の裏<倉庫などがあ
る>
倉庫の前
私大生の後ろ(倉庫の
前)
6
立った
僕
7
見つめる
男
8
軽くうなずく
男
倉庫の前
9
説明をくりか
えした
男
倉庫の前
10
いった
男
倉庫の前
11
注意をする
男
倉庫の前
12
入って行く
男
倉庫の前
病院
歩いた
僕,女子学生,
私大生
倉庫の前
学校の裏門の方<十字
路経由>
13
僕
倉庫の前
14
いった
女子学生
<倉庫前から十字路ま
での道>
15
驚く
私大生
<倉庫前から十字路ま
での道>
16
訊ねた
私大生
17
いった
女子学生
<倉庫前から十字路ま
での道>
18
いった
私大生
<倉庫前から十字路ま
での道>
<倉庫前から十字路ま
での道>
女子学生
●物語の舞台の分析(グループ 1:『奇妙な仕事』
)
小説のテクストから物語の舞台,背景に関する記述を抽出し,それをもとに地図を作成し
た.図 2 に作成した地図を示す.
-3-
附属病院の前の広い歩道を時計台へ向かって…
急に視界の展ける十字路で、
若い街路樹のしなやかの梢の連りの向うに建築中の建物の鉄骨がぎしぎし空に突きたってる
…(p9.上.1)
僕は大学の行き帰りにその舗道を… (p9.上.8)
木造の倉庫が残っていたりする病院の裏へ入っていった。(p9.下.1)
倉庫前に作られた囲いの中へ僕が犬を引いて行き… (p10.上.4)
犬置場はコンクリートの低い塀に囲まれた広場だった。(p10.上.8)
…囲いの外へ出て行く。(p11.上.18)
ひどく血に汚れた皮は水洗場で洗いおとすのだ。 (p11.下.6)
残飯置場を見ますか。…犬殺しは事務員と倉庫の間の暗い通路へ入って行った。 (p13.下.6)
… (p13.下.23)
僕らは死体焼却場の巨きい煙突を見上げた。 (p14.下.5)
学校の掲示板でアルバイト募集の広告を…(p9.上.13)
病院の受付では…(p9.上.16)
僕は皮張りの長椅子に寝そべっていた。看護婦は・・・(p17.上.1)
犬の声は夕暮れた空へひしめき合いながら(p18.下.2)
芝生
水
洗
場
建築中の建物
煙突あり
煙突あり
囲い
の中
倉
庫
前
残飯
置場
倉
庫
焼
却
場
治療室
治療室
受付
受付
街
路
樹
至時計台
囲い
の外
倉
庫
犬
置
場
裏口
病院
正面玄関
掲示板
掲示板
至大学
十字路
図 2
大
学
『奇妙な仕事』の舞台分析により作成した地図
-4-
●台本の作成(グループ4:『機械』)
グループ 4 は小説中から骨格となるあらすじを作成し,
TVML 化のための台本を作成した.
この台本の一部を表 3 に示す.
表 3
ストーリーの流れ
主人が暗室の秘密
を私に教える
私に嫉妬する軽部
軽部が穴ほぎ用ペ
ルスを隠す
『機械』の分析により作成した台本の一部
シーン
キャラ動作詳細
アイテム
主人が私を暗室に呼び込む
動作:主人が私を暗室に連れて入る
暗室の入り口が見える風景
真鍮の地金の着色についての
説明
発話:主人「プレートの色を ∼ 置いて
なさるべきだ」
実験中の画像
私が実験にのめり込む
動作:机の上で手を動かしたり首を
振ったりする
実験室の背景
軽部が私の暗室出入りに気づ
く
動作:暗室に出入りする私を見て怒り
に震える軽部
暗室の入り口が見える風景
気を悪くする軽部に気づく私
動作:ちらりと軽部を見るが、すぐに仕
事に戻る私
穴ほぎペルスが無いことに気
づく私
動作:キョロキョロしたりウロウロしたり
する私
軽部に行方を聞く
会話:私と軽部のやりとり
●場面分割・再構成(グループ8:『桜の森の満開の下』
)
『桜の森の満開の下』は出来事を生起した時間順に語られていない.グループ 8 はこれを
時間・空間的な連続性からA∼Z,α∼εの 31 場面に分割し,時間を基準として再構成した.
場面分割の結果を図 3 に,それを再構成したものを図 4 に示す.
A:現代の常識(桜の下で宴会)
B:江戸時代の話(桜の下で宴会)
C:大昔(物語の主な舞台)
D:近頃の状況(桜の下で宴会)⇔狂い死にする女
E:鈴鹿峠に旅人が桜の森の花の下を通らなければなら
ない頃
F:花の咲かない頃
G:花の季節
H:旅人が桜の森の下を通らなくなって何年かあと
I:山賊が山に住みついた十何年後
J:山賊が女の亭主を殺す時
K:山賊が自分の女房たちを殺す時
L:桜の森の満開の下のイメージ
M:山の長い冬が終った頃
N:山での女との生活
O:山での今迄の生活
P:山での女の所作
Q:お天気の日
R:毎朝
S:都について,山賊と女の会話
T:二日か三日の後に森の満開が訪れようとしている頃
U:桜の森の下について,山賊と女の会話
V:三日目
W:都での生活
X:夜毎
Y:彼等の家
Z:毎日の首遊び
α:首遊び詳細
β:男の都での日常
γ:山賊とビッコの女の会話,そして山賊の放浪
δ:ある朝,桜の花の下
ε:山への帰還の途上
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
O
P
Q
R
S
T
U
V
W
X
Y
Z
α
β
γ
δ
ε
図 3
『桜の森の満開の下』の場面分割
-5-
全ての出来事
時系列内の出来事
C:大昔 E:昔
F
G
H:何年かあと
O
J
I
K
M
P:山での女
If お天気
毎日
N
T
S
U
V
R
Q
B
D
Z
W
X
Y
A
α
γ
δ
ε
L
β
図 4
『桜の森の満開の下』の場面の再構成
●場面の分類(グループ 9:『大力』)
小説を場面単位に分割し,各々の場面に含まれる主要な行為から以下の項目に分類した.
A. 相撲(相撲や,暴れるなどの場面)
B. 会話(会話が中心となる場面)
C. 移動(ある場所から別の場所へと移動する場面)
D. その他(A,B,C に分類されない場面)
2.2 映画の分析
映画の分析としては,構造分析やカメラワークの分析などを主に行った.以下いくつかの
分析例を挙げながらどのような分析を行ったかを説明する.
●映画の構造分析(グループ8:
『TAKESHIS
』
)
グループ 8 は映画『TAKESHIS’』を分析し,いくつかの特徴的な表現技法を抽出した.以
下に例を 3 つ示す.
①似たシーン,又は同じシーンが繰り返し使われる.いくつかのシーンを挙げると,ラ
ーメン屋・オーディション会場のシーン(図 5)が 7 回使用,花束と芋虫にまつわるシ
ーンが 5 回使用,銃撃戦のシーンが 3 回使用されていた.
-6-
図 5
繰り返し使用されるラーメン屋及びオーディション会場のシーン
②「北野」と「たけし」の間の視点転換により世界観自体が変わるという表現方法が多
く使用されている.この視点転換のつなぎ方には様々な方法がある.
「たけし」から「北
野」への視点転換の一例を図 6 に示す.
「たけし」がセットで撮影をしている.
「北野」が太陽をまぶしがる
→「たけし」が照明をまぶしがる
→「北野」が起きる
図 6
場面転換のつなぎの例
③物語内容の時間順に映すのではなく,時間的に連続する出来事の間に過去の出来事を
挿入するという表現が多用されている.図 7 の図上の流れは時間的に連続しているとみ
なせるシーンであるが,映画の表現では図下のように間に過去のシーンを挿入している.
-7-
また負けた…
どうでした?
時間的に連続する出来事
(回想シーンの挿入)
映画の表現
図 7
『TAKESHIS'』:回想シーンの挿入
●カメラワーク分析の例その1(グループ 2:『近松物語』)
グループ 2 は『近松物語』
(溝口健二)のカメラワーク分析を行い,会話シーンのカメラワ
ークとして以下のような規則を抽出した.
・話している人の動作に合わせてカメラが動く
・話し手と聞き手が 1 つの画面に入る
・人物のアップはまれである
・座った状態での会話を映す視点には図 8 に挙げる 2 パターンがある.図左は会話して
いるものを横から映す場合で,図右は一方の話者の背後から映す場合である.
・屋内では人物を中心に映し,屋外では景色を中心に映す
スペース
多い
図 8
座った状態での会話シーンのカメラワーク
●カメラワーク分析の例その 2(グループ 4:『HANA-BI』
)
グループ4は『HANA-BI』(北野武)を分析し,特徴的な表現方法として次のようなもの
-8-
を発見した.
・はじめに非行為者を行為者視点から映し,次に全体を横から映す.
・カメラは風景を写し,行為は音で表現する.
(例えば海を映し,銃声を響かせる.
)
●カメラワーク分析の例その 3(グループ1:『晩春』,グループ6:『彼岸花』
)
グループ 1 とグループ 6 は小津安二郎の作品(
『晩春』と『彼岸花』
)のカメラワークを分
析し,次のような規則を発見した.
・作品全体をローポジション(目線よりも低い位置から映す)
,水平アングル(カメラの
角度を水平にする)
,固定ショット(カメラを動かさない)という統一したカメラワーク
で映す
・会話シーンでは基本的に話者を斜めからのミディアムショット(胸から上を映す)で
映し,シーンの最初と最後にはフルショット(会話者全員の入るショット)を入れる(図
9 に例示).
・シーンの変わり目に風景のショットを入れ,そのとき BGM を使用する(図 10 に例示)
.
会話シーンの最初と最後に入るフルショット
会話時のミディアムショット
図 9
『晩春』のカメラワーク
BGM使用
場面A
風景
図 10
場面B
シーン転換時の風景ショット
●オープニング分析(グループ 1:『晩春』)
グループ 1 は『晩春』のオープニングの分析を行った.分析結果として以下のような表現
-9-
方法が得られた.実際の『晩春』のオープニング画面を図 11 に示す.
・最初に富士山を背景として映画配給会社名の表示
・映画タイトルは横書きで大きな文字,スタッフロールは主に縦書き
・BGMを使用
・時間の長さは 2 分 19 秒
①
②
③
④
⑤
⑥
図 11
『晩春』のオープニング
●場面の分類(グループ 9:『夜の女たち』
)
映画を時間や場所の分断によりシーン単位に分割し,各々のシーンに含まれる主要な行為
から以下の A∼D の 4 タイプに分類し,各項目の表現方法を分析した.以下のようにシーン
のタイプによって異なる表現方法がされていることを発見した.
A. 暴力(リンチなど暴力的な行為が中心となる場面)
・やられる人を中心に映す
・カットが多い
・時々上から全体を見下ろすショットが入る
・ビンタや鞭で打つ音などの効果音を使用する
B. 会話(会話が中心となる場面)
・カットがほとんど無い
・会話者全員を 1 フレームにおさめる
・BGM を使用しない
C. 移動(道などを移動する場面)
・カメラは遠くの高いところから人物を見下ろす形で追う
・BGM を挿入する
D. その他(A,B,C に分類されない場面)
・その他のシーンについては分析しなかった
- 10 -
3.
映像化の方法
それぞれのグループは小説と映画の分析をもとに映像化の指針を立て,それをもとに映像
化を行った.各グループの映像化の指針を表 4∼表 6 に示す.映像化の主な手順は全てのグ
ループ共通して以下の手順だった。
① 小説世界の舞台・背景の作成
② 登場人物の設定
③ 物語内容の映像化(TVML スクリプト化)
④ 映像化された物語内容(TVML スクリプト)に対する映画の表現方法の適用
この手順それぞれについていくつかのグループの例を示しながら説明していく.
- 11 -
表 4
小説(著者)
映画(監督)
物語内容
物語言説
映像化指針(グループ 1∼3)
グループ1
奇妙な仕事(大江健三郎)
晩春(小津安二郎)
z
小説を 21 場面に分割
z
小説の風景描写などの記
述から,登場する場所の
地図を作成し,舞台セッ
トを作成
z
小説中の行為を全て書き
出し→全てを映像化する
のは困難,表現可能なも
ののみに限定
z
会話内容の省略など
z
状況を説明する文章は,
解釈を行ない映像化
z
z
出来事が起こった順番
(小説と同様)
第三者の視点で映像化
(小説は僕の視点)
グループ2
地獄(川端康成)
近松物語(溝口健二)
z
小説に登場する場所は全 7 箇
所
z
状況を説明する文章は,解釈
を行ない人物の動作や会話
によって映像化(小説のはじ
めと終わりの部分は字幕)
z
回想シーン
¾
現在の視点から過去を
「語る」回想
¾
視点ごと過去へと移
し,過去の出来事を「演
じる」回想(過去の回
想シーンに登場する主
人公が演じながら過去
を語る)
「暗転→登場人物の一言→
回想へ」
z
物語を現在から過去へと追
う(小説と同様)→回想シー
ンの挿入(小説と同様)
グループ3
夢十夜(夏目漱石)
羅生門(黒澤明)
z
会話文は基本的キャラク
ターにしゃべらせる
z
細かい動作は省略
z
「物が動く」などは、省略
(映像化しない)
z
z
z
z
ナレーション
字幕
z
z
用いない
用いない
z
z
カメラワーク
z
発話者のバストショット
を斜め方向から移す
会話シーンのはじめと終
わりに全体を写すショッ
トを挿入
z
z
用いない
小説のはじめと終わりの状
況を説明する文章の表現は,
字幕を用いる
話し手に合わせてカメラが
動く
話し手と聞き手が1フレー
ムに納まる
人物のアップは少ない
室内では人物中心,屋外では
景色を中心に映す
人物が手前(カメラ側)には
けることはない
暗転
z
z
z
z
z
z
z
z
場面転換
z
BGM・効果
音
z
z
その他
z
見どころ
z
z
暗転し,風景ショットを
挿入→風景ショットによ
って時間経過を表す
晩春のなかで用いられた
音楽を録音して使用
効果音は,
「犬の鳴き声」
や「学校のチャイム」な
ど物語内容に合わせて使
用
晩春を模倣したオープニ
ングを作成
z
オープニング
陽気なBGMに乗せた犬
殺し
z
表 5
小説(著者)
グループ4
機械(横光利一)
映画(監督)
HANA-BI(北野武)
夢を見ている人(主人公)
の視点で映像化.
基本的に複数の夢の内容
を語る。
1つ1つの夢は出来事順
に語る(小説と同様)
「第三夜」は回想シーンあ
り
用いない
発話内容を字幕として表
示
z
z
会話時は基本的に固定
動作がある場合は,動作主
を追いかける or 動きが
わかるように全体を撮影
z
暗転(夢から夢の急に切り
替え)
「ドアの音(開閉など)
」,
「歩
く音(砂利道など)」,「水の
流れる音」,
「地獄の音」
,
「食
器の音」など物語内容に合わ
せて使用
z
BGMなし、効果音あり
カメラワーク適用時に、背景
が見切れないように背景画
像をずらす
回想シーン
z
z
第三夜の回想シーン
映像化指針(グループ 4∼6)
グループ5
毒薬の社会的効用について(三島
由紀夫)
雨月物語(溝口健二)
- 12 -
グループ6
刺靑(谷崎潤一郎)
彼岸花(小津安二郎)
物語内容
z
z
物語内容の核の部分を残した,
あらすじを作成
あらすじから,ストーリの流れ
に沿ってシーン別に,人物とそ
の行為,小道具,場所(舞台)
などを書き出した台本を作成
z
z
z
物語言説
z
出来事の順番に進まず,印象的
z
用いる(状況説明)
z
z
小津安二郎の技法
¾
ローポジション
¾
水平アングル
¾
固定ショット
¾
話者のバストショッ
ト
z
意味を持った登場人物を全
て一画面に収める
ズーム―ワイド間の切り替
えは不連続(瞬間的)
人物 B に人物 A が近づいて
いくシーンの場合,カット
インしてくる A の動きを捉
えた後,B と A の 2 ショッ
トを撮影
歩くシーンは,カメラで対
象を追う
部屋の中など行為が少ない
シーンは,カメラの動きは
少ない
暗転
z
z
用いない
転換時に風景挿入,BGM
挿入
場面転換時に用いる
物語内容に合わせた効果音
を使用
z
z
z
オープニング
動物園を見て周るシーン
化
字幕
z
z
用いない
会話シーン
¾
会話している人物が並ん
でいる場合は,会話の中
心にある人物を,中心に
撮影
¾
向かい合っている場合
は,横から全体を撮影
¾
全体を写すときは,斜め
から撮影
行為シーン
¾
非行為者を行為者視点か
ら撮影 → 全体を撮影
¾
行為を音で表現し,カメ
ラは風景を撮影
カメラワーク
z
場面転換
z
BGM・効果
音
z
その他
見どころ
z
z
行為を表す音を用いる
3 人の登場人物の行動と関係が
まるで機械のように展開して
いく様子
表 6
z
用いない
基本的に第三者の視点で映像
用いる(主人公(私)の視点)
z
z
れる
z
z
大きな動きは少なく,会話
が中心
小説中の行為は,できるだ
けそのままキャラクターの
動作を作成
→細かい動作(刺青を彫る)
などは表現不可能と判断
状況説明の文章は,ナレー
ション&字幕を用いる
¾
→行為表現が可能な
ものは解釈し映像化
する
刺青は,画像を用意
z
そのシーンまでの経緯が語ら
ナレーション
z
z
出来事の順番(小説と同様)
z
¾
小説は、作者が X 氏
z
の伝記を見て、X 氏の
周りに起こった出来
事を語る
→はじめに作者がキャラク
ターとして登場し、話の発
端を語る映像を作成
→それ以降は、X 氏の世界
を第三者視点で映像化
用いない
z
z
なシーンを先に示し,その後に
z
小説中の行為を書き出し
¾
人物を実際にどのよ
うに動かすか、細か
く書き出す
状況を説明する文章は,解
釈を行ない映像化 か 無
視する
舞台セットは,本文の情景
描写から抜き出して作成
z
z
z
z
z
z
出来事の順番(小説と同様)
第三者の視点(小説と同様)
用いない
z
z
映像化指針(グループ 7∼9)
グループ7
小説(著者) どんぐりと山猫(宮沢賢治)
映画(監督) 生きる(黒澤明)
物語内容
z
小説の記述から,舞台設
定,登場人物,セリフ,動
作,効果音を書き出して整
理
z
「生きる」を模倣し,登場
人物の一人がナレーター
として語る部分を作成
グループ8
桜の森の満開の下(坂口安吾)
TAKESHIS'(北野武)
z
小説から、行為・及び実
行された行為の記述、登
場オブジェクト・舞台の
記述をピックアップ。
z
小説を時空間の連続性か
ら 31 の場面に分割し、時
系列の順序を分析。
- 13 -
グループ9
大力(太宰治)
夜の女達(溝口健二)
z
小説のストーリをその
まま映像化
z
状況説明の文章などは
基本的に無視
z
小説と映画のシーンを
対応付ける
<小説>
<映画>
相撲 ----- 暴力
会話 ----- 会話
z
z
物語言説
z
出来事が起こった順(小説
と同様)
z
分割した場面を並べ替え z
て映像を再構成
隣接する場面同士の関
係:時系列順の場面転換、
時系列の反転、連想によ
って異なる世界観の場面
が繋がる場面転換
隣接しない場面同士の関
係:同一場面・類似場面
を繰り返す技法
個々の場面に使われた技
法:不条理なキャラクタ
ーを挿入、日舞・タップ
ダンスを踊るキャラクタ
ーを挿入
用いない
z
用いない
z
用いる(発話内容)
z
用いない
z
カメラポジション・アン
グル
¾
登場人物と同じ目線
の高さ
フレームサイズ
¾
バストショット、フ
ルショットがメイン
z
会話シーン:カット少
なく.登場人物全員を
1フレームにおさめる
相撲シーン:やられる
人を中心に.カット多
く.時々上から見下ろ
し,全体を撮影
移動シーン:高く遠い
ところから人物を追う
z
z
z
z
ナレーショ
ン
字幕
z
カメラワー
ク
z
z
z
z
場面転換
BGM・効果
音
z
z
その他
z
見どころ
z
状況説明の文章などはナ
レーションを用いる
発話内容とナレーション
は字幕
被写体が一人のときは,人
物を正面から撮影
被写体が 2 人以上のとき
は,全体が見えるように撮
影→物語における重要な
発言が行われる場合はそ
の人物を正面から撮影
カメラの移動は,極力控え
固定.迫力や臨場感などを
目的として動かす場合も
ある
BGMなし
小説中の擬音やオノマト
ペに対し効果音添付
z
z
z
z
z
z
z
z
z
どんぐり達の裁判のシー
ン
移動 ----- 移動
相撲の技は実際の相撲
の映像や解説を参考に
する
ラストシーンで「夜の
女達」を模倣
z
一部場面に、小説にない
台詞・効果音を挿入
年々増えていく妻
出来事が起こった順番
(小説と同様)
暗転
移動シーンでBGM利
用
相撲シーンで効果音利
用(「パチン」
「ドスッ」)
z
z
z
相撲シーン(主人公が
投げられるシーン)
ラストシーン(主人公
が死ぬシーン)
3.1 舞台・背景の作成,及び登場人物の設定について
舞台・背景の作成は,2 章で紹介した物語舞台の分析(図 2)のように,小説の中の描写
の文を基に,作成した CG 画像や適当な写真を背景画像として TVML に貼り付けることで行
う.又,登場人物の設定とは小説中の登場人物に対して,適当な TVML のキャラクターを割
り当てることである.作成した背景の例を図 12 と図 13 に,登場人物の設定の例を図 14 に
示す.
- 14 -
十字路
学校の掲示板
時計台風景
囲いの中
水洗場
図 12
犬置場
舞台の例(グループ 1:『奇妙な仕事』
)
土俵
丸亀屋の庭
丸亀屋
山
庵
図 13
舞台の例(グループ 9:『大力』)
- 15 -
僕 (bob)
女子学生(baby)
私大生(hiro)
ブローカー(buddy)
犬殺し(mattu)
事務員(masa)
警察(abeno)
看護婦(mary)
病院の受付(prince)
犬(rabi)
図 14
登場人物の設定(グループ 1:『奇妙な仕事』)
3.2 物語内容の映像化について
小説は言葉で書かれているため,映像化するためにはテクスト中の行為等を具体化する必
要がある.小説分析によって抽出された行為を元に動作を具体化して TVML スクリプトを記
述することで映像化を行う.物語内容映像化の例をいくつか示す.
●行為の映像化1(グループ 5:
『毒薬の社会的効用について』)
小説のテクストに含まれる行為を具体的な動作として箇条書きし,それを TVML スクリプ
トとして記述する.図 15 にこの手順の例を示す.
①X氏(主人公)が机のところの
椅子に座っている
②頭の上に両手を乗せる
③うつむく
④しばらく停止
「両手で深く頭を抱へ、事
務机に映つてゐる真昼の電
灯の投影を見つめながら憂
鬱な瞑想に耽った。」
character: definepose(name=BOB,
180.00, roty=0.00, rotz=0.00)
character: definepose(name=BOB,
75.00, roty=75.00, rotz=0.00)
character: definepose(name=BOB,
180.00, roty=0.00, rotz=0.00)
character: definepose(name=BOB,
75.00, roty=-50.00, rotz=0.00)
pose=pose1, joint=RightUpperArm, rotx=pose=pose1, joint=RightLowerArm, rotx=pose=pose1, joint=LeftUpperArm, rotx=pose=pose1, joint=LeftLowerArm, rotx=-
character: definepose(name=BOB, pose=pose2, joint=Head, rotx=35.00, roty=0.00,
rotz=0.00)
図 15
行為の映像化
- 16 -
●行為の映像化 2(グループ 2:
『地獄』)
シーンごとにそのシーンのイメージ図(絵コンテ)を作成し,それに基づき映像化を行う.
作成した絵コンテの例を図 16 に示す.図左側は,屋内での会話シーンであり,映画『近松
物語』の会話シーンを参考に登場人物を配置している.図右側は屋外で椿を見ながら立ち止
まるシーンであり,映画『近松物語』の屋外のシーンを参考に背景を大きく映す画面構成と
している.
進行方向
(互いに向き合っている)
椿
視線
西寺
村野
村野
西寺
机
回想に入る前の村野との
会話シーン
図 16
木を見上げて立ち止まるシーン
作成した絵コンテの例
- 17 -
●状況説明や情景描写の映像化 1(グループ 1:『奇妙な仕事』)
グループ 1 は状況説明や情景描写を,舞台背景・風景を使用することで表現している.テ
クストからの映像化の例を図 17 に示す.
「付属病院の前の広い鋪道を時計台へ向かって歩いて行
くと急に視界の展ける十字路で、若い街路樹のしなやか
な梢の連りの向うに建築中の建物の鉄骨がぎしぎし空に
突き立っているあたりから数知れない犬の吠え声が聞え
て来た。(中略)僕は大学への行き帰りにその鋪道を前
屈みに歩きながら、十字路へ来る度に耳を澄した。(中
略)…僕はそれらの声をあげる犬の群れに深い関心を
持っていたわけではなかった。しかし三月の終りに、学
校の掲示板でアルバイト募集の広告を見てから、それら
の犬の声は濡れた布のようにしっかり僕の躰にまといつ
き、僕の生活に入りこんで来たのだ。」
①夕刻、主人公「僕」が大学の帰り道に病院前を前屈みに
歩く。
②十字路に差し掛かり、犬の吠え声を聞く。
付属病院前
暗転
十字路
図 17
時計台
付属病院前
十字路
大学
状況説明・情景描写の映像化
- 18 -
①日付が変わり、朝。
②僕は十字路に差し
掛かり、犬の吠え声を
聞く。
③僕は病院前を通り、
大学へ行く。
④大学の風景。
⑤掲示板を見る。
⑥病院へ向かう。
学校の掲示板
●状況説明や情景描写の映像化 2(グループ 5:『毒薬の社会的効用について』
)
グループ 5 は,状況説明・情景描写を小説内の登場人物によるナレーションとして表現し
ている.図 18 にこの例を示す.
「…最近の出版物の87パーセントは成功者の伝記物
であると言う事実は注目に値する。…X氏なる匿名の
人物の…伝記が…私の愛読書になった。…願わくは本
書の紹介が…として役立たんことを。」
小説内の著者がナレーターとして登場
図 18
X氏の物語
情景説明・情景描写のナレーターによる表現
3.3 映像化された物語内容に対する映画の表現技法の適用
具体化された物語内容に対しての映画の表現方法の適用としては,主に場面の結合や順序
の入れ換え,カメラワークの適用,音楽や効果音の挿入などがある.これについては 4 章で
実際に各グループが作成した作品の例を示しながら説明する.
4.
完成作品の例
各グループが作成した作品の中からいくつか見所を取り上げて紹介する.
●グループ 1:『奇妙な仕事』(大江健三郎)+『晩春』
(小津安二郎)より
オープニングを『晩秋』のオープニング(図 11)を模倣して作成.BGM も同じものを使
用している.図 19 にオープニング画面を一部示す.
①
②
③
④
⑤
⑥
図 19
奇妙な仕事のオープニング画面
- 19 -
●グループ 3:『夢十夜』
(夏目漱石)+『羅生門』
(黒澤明)より
100 回陽の沈むのを待つシーン.朝日,青空,夕日を繰り返し映すことで表現している.
図 20 にこのシーンの画像を示す.
昼
お墓の前で100晩
経つのを数える
朝日
図 20
夕暮れ
『夢十夜』の 100 回陽の沈むのを待つシーン
●グループ 6:『刺青』
(谷崎潤一郎)+『彼岸花』
(小津安二郎)より
会話シーンを小津映画のカメラワーク(図 9)を模倣して表現しており,基本的に話者を
ミディアムショットで映し,シーンの最初と最後には全体を映すフルショットを入れる.図
21 に会話シーンの画像を示す.
会話シーン最初のフルショット
話者のミディアムショット
図 21
会話シーン終わりのフルショット
『刺青』の会話シーン
●グループ 7:『どんぐりと山猫』
(宮沢賢治)+『生きる』
(黒澤明)より
山猫がどんぐりたちに話しかけるシーン.山猫とどんぐりの大きさの違いを表現するため
に山猫が映るシーンではどんぐりを映さないという方法を取っている.図 22 に作品からキ
ャプチャーした画像を示す.
- 20 -
どんぐりたちに話しかけているシーン
(どんぐりたちは小さいので映さない)
図 22
どんぐりたちのアップの映像
山猫がどんぐりたちに話しかけるシーン
●グループ 8:『桜の森の満開の下』
(坂口安吾)+『TAKESHIS
』
(北野武)より
『TAKESHIS’』の分析によって得られた表現技法(類似場面の繰り返しや,「夢」もしく
は「回想」に類する場面の挿入)を模倣して表現した例を図 23 に示す(図上段は類似場面
の繰り返し,図下段は回想の挿入)
.
・・・
男を殺して着物を奪う
亭主を殺して女を奪う
女をさらう
女を家につれてくる
回想
図 23
『桜の森の満開の下』の一部
●グループ 9:『大力』太宰治+『夜の女たち』
(溝口健二)より
主人公(才兵衛)が師匠(鰐口)に上手投げで投げられるシーン.及び,投げられた才兵
衛が自宅で息を引き取るシーンを図 24 に示す.投げられるシーンではやられる人(才兵衛)
を中心に映している.上手投げの動作は実際の相撲の映像を見て分析した.才兵衛が息を引
き取るシーンは『夜の女たち』のラストシーンを模倣している.
『夜の女たち』のラストシー
ンはリンチされた後にうずくまる女たちの背後にある聖母マリアのステンドグラスを映すと
いうものだったので,これを模倣して,鰐口にやられた才兵衛が息を引き取った後に仏様を
映している.
『夜の女たち』から模倣したリンチシーンとラストシーンの画像を図 25 に示す.
- 21 -
図 24
才兵衛が鰐口に投げられるシーン及び才兵衛が息を引き取るシーン
夜の女たちのリンチシーン
夜の女たちのラストシーン
図 25
5.
『夜の女たち』のリンチシーン及びラストシーン
おわりに
本論文では,9 つの小説を 4 人の映画監督の映画の技法を用いて映像化した結果を報告し
た.我々の本来の目的は,今回行ったような映像制作に関わる様々な処理と等価な処理をコ
- 22 -
ンピュータによって実現すること,すなわち映像制作支援ツールとしてのコンピュータでは
なく,コンピュータが多様な物語の映像表現を自動生成するための方法を確立することにあ
る.したがって,最後に,物語の自動映像化という観点から,今回実際に小説を映像化(TVML
による 3DCG アニメーション化)するという過程を通じて得られた知見について,現在まで
我々が行ってきている研究との関連を示しながら述べる.
まず,物語内容に関しては,「物語内容の概念抽出とあらすじの抽出」「物語世界の構築」
といった要素が挙げられる.これらについて我々は,それぞれ別の観点から研究を試みてい
る.[大石 2008]では,小説などの文章表現から文法知識を用いて物語内容の概念(表層格)
を自動抽出するシステムの開発を進めている.一方,[中嶋 2008]では,物語の概念表現から
人物や場所,物などが時間経過にしたがって変化していく過程(物語世界)のモデル化を試
みている.その他,今回の取り組みにおいて,小説「奇妙な仕事」から小説世界の地図を構
成するといった処理も「物語世界の構築」の 1 つと考えられる.
次に,物語内容の映像表現,すなわち「行為の表現力の拡充」が挙げられる.ここでいう
表現力とは,物語内容を最低限伝えるための表現力という意味である.映像に登場する人物
の身体運動は精緻なものではなくても,文脈やその周囲(環境や行為対象の人物や物)の変
化との因果関係が表現されれば,内容を伝えることが十分に可能であると考えている.問題
は,リアリティの追及ではなく行為内容を伝えるための構成要素の洗い出し・具体化とその
体系化であると考えられる.その体系化に関する考察は,[真部 2007a] [真部 2007b]で行っ
ている.
物語の概念構造,物語世界に関する知識,行為の概念体系が得られたと仮定した場合,次
にそれらの情報(知識)を利用して自動で映像を構成する必要がある.具体的には,登場人
物の設定や舞台・場面の構成などがこれにあたる.これに関しては,[有馬 2008][草島 2007]
において,物語の概念表現から TVML スクリプトを自動で構成し出力するシステムを開発し
ている.
その他,
「カメラワークや音による表現技法の確立」も重要な要素である.カメラワークに
ついては,[沼田 2007a][沼田 2007b][有馬 2008a][有馬 2008b]において,小津安二郎の映像
撮影ルールの一部を体系化し,TVML に自動適用するシステムを開発している.この取り組
みは,当然,小津安二郎だけではなく北野武や溝口健二などの映像撮影ルールを検討してい
くことでさらなる発展が可能である.また,音の使用方法については,[平松 2008]で行って
いる.
最後に,まだ我々が試みていない要素として「映像編集の技法と自動化」が挙げられる.
北野武の映画分析や坂口安吾「桜の森の満開の下」の分析で見られたように,物語順序を再
構成することは物語言説の一要素であり,多様な物語の映像表現を自動生成するために必要
不可欠である.また,編集は,カメラワークや音の使い方と相互依存関係にある.具体的な
編集技法を念頭に置いたカメラワークや音の使用方法またはその逆も考えられる.
- 23 -
文献
[有馬 2008a] 有馬朋和・草島雄太郎・小方孝:物語生成における映像構成と撮影技法,文学
と認知・コンピュータ研究分科会Ⅱ第 14 回定例研究会予稿集,14G-08,2008.
[有馬 2008b] 有馬朋和・小方孝:映画の映像撮影技法の分析とシミュレーション,情報処理
学会第 70 回全国大会講演論文集,1ZH-6,2008.
[小方 2003a] 小方孝:物語の多重性と拡張文学理論の概念―システムナラトロジーに向けて
Ⅰ―,In 吉田雅明(編)
,複雑系社会理論の新地平,127-181,専修大学出版局,2003.
[小方 2003b] 小方孝:拡張文学理論の試み―システムナラトロジーに向けてⅡ―,In 吉田雅
明(編)
,複雑系社会理論の新地平,309-356,専修大学出版局,2003.
[大石 2008] 大石顕祐・小方孝:自然言語テクストからのストーリー抽出と事象概念構造化シ
ステムの構想,情報処理学会第 70 回全国大会講演論文集,4ZH-7,2008.
[草島 2008] 草島雄太郎・小方孝:物語概念表現からの映像構成支援システム,情報処理学
会第 70 回全国大会講演論文集,6ZH-1,2008.
[中嶋 2008] 中嶋美由紀・小方孝:物語内容における構造の考察とシステム化,情報処理学
会第 70 回全国大会講演論文集,5ZH-6,2008.
[沼田 2007a] 沼田真克・小方孝:物語生成システムにおける自動撮影シミュレーションの基
礎的検討,情報処理学会第 69 回全国大会講演論文集(分冊 4)
,4Z-5,505-506,2007.
[沼田 2007b] 沼田真克・小方孝:映画の撮影技法に基づく物語映像撮影シミュレーションの
自動化に向けて,人工知能学会第 2 種研究会 ことば工学研究会(第 25 回)資料,137-152,
2007.
[平松 2008] 平松雅也・小方孝:物語生成システムにおける効果音自動添付システムの構想,
情報処理学会第 70 回全国大会講演論文集,6ZH-2,2008.
[真部 2007a] 真部雄介・小方孝:物語生成における映像からの動作概念記述のボトムアップ
アプローチ―動作から行為への階層性に基づいて―,人工知能学会第 21 回大会,1F1-7(4
ページ),2007.
[真部 2007b] 真部雄介・小方孝:物語生成システムにおける映像の自動生成のための行為概
念記述に関する基礎的考察,認知科学会第 24 回全国大会, 420-423,2007.
- 24 -
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