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「燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発」 事業原簿
「燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発」 (中間評価)第一回分科会 資料4-1 「燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発」 事業原簿 担当部署 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 1 燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発 (次世代型高密度エネルギーリチウム電池要素技術開発を除く) 事業原簿 担当部室 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 − 目 次 − 概要 プログラム・プロジェクト基本計画 プロジェクト用語集 Ⅰ.事業の位置付け・必要性について 1.NEDOの関与の必要性・制度への適合性. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .1 1.1 NEDOが関与することの意義 1.2 実施の効果(費用対効果) 2.事業の背景・目的・位置づけ. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .5 2.1 事業の背景・目的・意義 2.2 事業の位置付け 2.2.1 プロジェクトの性格・位置づけ 2.2.2 関連動向と成果の位置づけ Ⅱ.研究開発マネジメントについて 1.事業の目標. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .10 1.1 事業の全体目標 1.2 目標設定の根拠 2.事業の計画内容. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .13 2.1 事業全体、個別研究の開発項目の計画内容 2.2 研究開発項目毎の内容の詳細 2.2.1 研究テーマ毎の内容、計画及び研究手法について 2.2.2 研究テーマ毎の目標(研究開発目標と自主目標) 2.3 研究開発の実施体制 2.4 研究の運営管理 i Ⅲ.研究開発成果について 1.事業全体の成果. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .24 1.1 車載用リチウム電池技術開発 1.2 高性能リチウム電池要素技術開発 2.事業全体の詳細. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .29 2.1 車載用リチウム電池技術開発 (1)高出力長寿命型リチウム電池システムの開発(マンガン系) (2)高出入力長寿命型リチウム電池システムの開発(ニッケル系) (3)燃料電池自動車用リチウム電池技術開発の車載用リチウム電池技術開発(複合系) 2.2 高性能リチウム電池要素技術開発 (1)電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発 (2)正負極新規材料、不燃リチウム電池、セパレータ材料など電池材料開発 Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて 1.実用化、事業化の見通し. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .79 1.1 実用化のイメージ、見通し 1.2 研究開発終了時における技術開発の方向性と実用化に向けた課題 1.2.1 ユーザーニーズと技術開発の方向性 1.2.2 技術的課題 1.2.3 実用化に向けた社会的課題 1.3 波及効果 2.今後の展開. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .82 ii 概要 作成日 平成16年 4月22日 制度・施策 (プログラム)名 固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログラム 事業名 燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発費補助事業 プロジェ 02028 (次世代型高密度エネルギーリチウム電池要素技術開発を除く) クト番号 担当推進部/担当者 燃料電池・水素技術開発部/宮崎、池谷 0.事業の概要 石油代替、省エネルギーの促進及び環境保全の観点から、燃料電池自動車を中心とす るクリーンエネルギー自動車の技術開発及び導入促進は喫緊の課題である。この時、駆 動時の電力供給、制動時のエネルギー回収・貯蔵を走行に合わせて瞬時に行う二次 電池の活用は、エネルギーの高効率利用に欠くことはできない。こうした車載用二 次電池に対する要請を満足し得るのは、理論上、リチウム電池しかなく、車載用 (大型)リチウム電池の実用化は、燃料電池の高効率性を最大限に生かした燃料電 池自動車システムを成立させるためのキーとなる技術である。 本研究開発は、燃料電池自動車等のエネルギー効率及び負荷応答性の更なる向上 に資する車載用高性能リチウム電池の実用化を図ることを目的として、以下の研究 開発を実施している。 車載用リチウム電池技術開発 車載用に必要な能力を有するリチウム電池の実用化に向け、入出力密度の向上・長寿 命化を目的とした材料の薄膜化、新構造の開発等により、軽量・コンパクトでかつ低コ ストな高入出力・長寿命リチウム電池を開発する。 高性能リチウム電池要素技術開発 リチウム電池の更なる性能向上に向け、入出力特性解析、劣化機構解析等に基づく電 池総合特性評価技術並びに加速的耐用年数評価技術の開発を行うとともに、広範囲な状 況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電池の実用化に向け、新規電極材料や固 体高分子電解質等の要素技術開発を行う。 iii 我が国においては、経済産業省を中心として、燃料電池実用化戦略研究会と燃 料電池実用化推進協議会の連携の下、固体高分子形燃料電池の実用化に向けた取 組みがなされているところである。燃料電池実用化戦略研究会報告及び固体高分 子形燃料電池/水素エネルギー利用技術開発戦略が提出され、2001年8月に 「固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログラム」が策定された。産学 官の適切な役割分担の下、固体高分子形燃料電池技術開発、水素エネルギー利用 技術開発、燃料電池自動車・水素供給ステーション・定置用燃料電池の実証試 験、ソフト面でのインフラ整備として基準・標準等に関わる固体高分子形燃料電 池システム基盤整備事業(ミレニアム・プロジェクト)等による体系的・総合的 な事業等の推進がなされ、燃料電池の実用化・普及に向けて取り組んでいるとこ ろである。 平成13年に開催された燃料電池実用化戦略研究会においては、 「燃料電池自動 車用蓄電池の技術開発に取り組むことが必要である」と記載され、さらに、平成 1 . 事 業 の 位 置 付 13年6月に取りまとめられた総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会にお 「クリーンエネルギー自動車本体の価格が競合する一般自動車の価格と比 け ・必要性につ いては、 いて 較して割高であることに加え、走行距離など自動車の性能や燃料供給インフラの 整備が不十分といった解決すべき課題がある」と記載された。これらの課題を乗 り越えるために、燃料電池自動車の高効率利用に関する技術開発を推進する必要 がある。燃料電池自動車は、燃料電池で発電した電気エネルギーにより駆動する 自動車である。また、燃料電池は、ガソリンエンジンより十分高効率であるが、 特に低負荷域で最大の効果を示すという特性を示す。このため、加速等の高負荷 の出力に高性能二次電池から電力を供給し、走行のための駆動エネルギーをサポ ートすることは、燃料電池自動車システムの一層の高効率化に不可欠である。ま た、減速時には、機械的なブレーキに寄らず、エネルギー回収する回生ブレーキ の活用は、エネルギー利用の高効率化に繋がる。回生制動により回収したエネル ギーを一時的に二次電池に蓄電し、必要に応じて駆動時のエネルギーとして利用 が可能になる。駆動時の電力供給、制動時のエネルギー回収・貯蔵を走行に合わ せて瞬時に行う二次電池の活用は、エネルギーの高効率利用に欠くことはできな い。こうした車載用二次電池に対する要請を満足し得るのは、理論上、リチウム 電池しかなく、車載用(大型)リチウム電池の実用化は、燃料電池の高効率性を 最大限に生かした燃料電池自動車システムを成立させるためのキーとなる技術で ある。 iv 2.研究開発マネジメントについて 事業の目標 主な実施事項 H14fy (国直轄) H15fy H16fy H17fy H18fy 事業の計画内容 車載用開発 要素技術開発 開発予算 H14fy H15fy H16fy H17fy H18fy 総額 特会 (国直轄) 1,000 854 − − − 1,854 運営交付金 − 407 1,146 1,553 総予算額 1,000 1,261 1,146 3,407 (単位:百万円) 経産省担当原 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 政策課 課 開発体制 運営機関 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 共同先 (株)日立、新神戸電機(株) 、松下電池工業(株) 、日本電池(株) 委託先 三菱電機(株) 、 (株)ユアサ、トレキオン(株) 、 (財)電中研、 (独)産総研(3件) 、 (独)物・材機構、佐賀大学、三重大学 情勢変化への対 平成14年度は経済産業省直轄事業として実施。 応 平成15年度から運営機関を新エネルギー・産業技術総合開発機構へ移行した。 v 本研究開発は、燃料電池自動車等のエネルギー効率及び負荷応答性の更なる向上に 資する車載用高性能リチウム電池の実用化を図ることを目的として、以下の2項目を設 定して、研究開発を推進している。 ①車載用リチウム電池技術開発 マンガン系の開発では、マンガン溶出の改善効果のある正極材料を開発し、10Ah級 単電池の基本設計に適用した。ニッケル系の開発では、入出力密度、エネルギー密度を向 上させた正極、負極材料を開発し、10Ah級単電池の基本設計に適用した。複合系の開 発では、安全性、長寿命、高出力化に適する電池材料を選択し、5Ah級単電池の基本設 計に適用した。各系において、5∼10Ah級単電池での初期特性試験により、15年度 目標(1800W/kg、50Wh/kg)を達成する見通しである。 ②高性能リチウム電池要素技術開発 【電池総合特性評価技術、加速的耐用年数評価技術】電池総合特性評価のための試験法・ 評価項目に基づく、小容量電池による試験等により、電池総合特性評価技術の検討を行っ 3.研究開発成果 た。加速的耐用年数評価のための試験法に基づく、小容量電池による試験での検討を行 について い、容量保持率については高い温度条件でより劣化が加速する傾向を明らかにした。 【正極材料】スピネルマンガン系による被覆技術の開発では、長寿命化をはかる材料製造 法の検討、表面被覆が可能な金属系材料・焼成条件の検討を実施した。新規材料では、充 放電特性向上ため、材料作製条件の検討・サイクル寿命の検討を実施した。 【負極材料】被覆技術の開発では、Sn、Siの合成方法の検討を行った。窒化物系で は、合成方法の検討、添加物の検討を行い、合成材料の高容量化・サイクル寿命を確認し た。初期容量では480mAh/kg以上を示した。 【電解質材料】難燃性・高分子系電解質では、電気的性能の優れる電解液(イオン性液 体)を選定した。また、固体化技術において機械強度の改善、イオン導電性の向上を図っ た。また、全固体電解質(イオン伝導性セラミック)では、薄膜形成法の検討を通じて界面抵抗低 減を図った。 【セパレータ材料他】耐熱セパレータの試作により、候補材料の選定・収縮率の低い配合 比率の抽出を行った。また、PTC機能電極の試作により、カーボン・ポリエチレン系を 構成材料とする候補材料を選定した。 投稿論文 特許 「査読付き」53件、「その他」72件 「出願済」15件 vi 本事業には電池メーカーが中心となって参画して推進しているが、燃料電池自動車 等の技術開発を進める自動車メーカーなどの法人は参画していない。このため、開発 終了時点もしくは途中段階で、燃料電池自動車開発メーカーなどに向け、本事業の成 果としてリチウム電池の諸性能・諸特性を積極的に開示し、喧伝することが重要であ る。燃料電池自動車と組み合わせた燃料電池システムとして入れ込んだ、実用化に向 けた評価が必要である。補助動力である二次電池開発のみでは実用化を進めることは できない。 現在、NEDOが推進する固体高分子形燃料電池システム普及基盤整備事業や水素 安全利用等基盤技術開発事業において、燃料電池自動車の基盤整備、導入・普及の各 段階において障害となりうる各種の規格・規制の見直し作業が行われている。リチウ ム電池の自動車への搭載は、電気自動車への経験があり、数kWh級リチウム電池の燃 料電池自動車等への大量採用に向けて大きな障害はない。もちろん、今後の実用化に 4.実用化、事業 化の見通し 際しては、安全性確認、性能評価などの試験方法を含む車載用リチウム電池に関する 規格・標準・基準といった社会的整備は必要になる。 高出力化技術は、車載用途の電池に限られるものではなく、介護用機器・電動工具 など携帯型の高出力が要求される駆動用電源としての応用展開が期待できる。軽量・ コンパクト、急速な充電、放電が対応できるため、電動工具など電力負荷の大きい機 器でも利用が可能で,利便性向上が望める。また、長寿命化技術は、定置型の電力貯 蔵用やバックアップ電源など長期耐久性が求められる用途への適用が可能である。瞬 時の対応を要求するバックアップ電源では、高入出力化により負荷応答特性の向上に より、小容量の電池システムでの構築が可能となり、低コスト化も望める。軽量・コ ンパクト、高出力特性を有するリチウム電池は、ロボット等の各種移動型電源用途で 広く利用でき、さらに移動型機器の可能性が広がる。また、新エネルギー利用である 不安定な風力、太陽光発電での電力供給の安定化に、高入出力エネルギー対応の高性 能リチウム電池の活用がある。定置用固体高分子形燃料電池システム利用において も、一般需要家での利用では電力需要と発電量のズレが有り、二次電池による調整に 応用できる。 5.評価に関する 評価履歴 事項 実施時期 16年度 中間評価実施 評価予定 実施時期 19年度 事後評価実施予定 策定時期 平成15年3月 策定 6.基本計画に関 する事項 vii 平成16・02・03産局第6号 平成16年2月3日 固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログラム基本計画 1. 目的 我が国のエネルギー供給の安定化・効率化、地球温暖化問題(CO 2 )・地域環境問題 (NOx、PM等)の解決、新規産業・雇用の創出、水素エネルギー社会の実現等に資するた め、固体高分子形燃料電池について、早期の実用化・普及を目指す。 2. 政策的位置付け 「産業発掘戦略−技術改革」(「経済財政運営と構造改革に関する基本計画2002」 (2002年6月閣議決定)に基づき2002年12月に取りまとめ)の「環境・エネル ギー」分野における戦略目標(技術のグリーン化、産業のグリーン化及び市場のグリーン 化)に対応するものである。 科学技術基本計画(2001年3月閣議決定)における国家的・社会的課題に対応した 研究開発の重点化分野であるエネルギー分野、分野別推進戦略(2001年9月総合科学 技術会議)における重点分野であるエネルギー分野に位置づけられるものである。 また、産業技術戦略(2000年4月工業技術院)における社会的ニーズ(環境と調和 した経済社会システムの構築、エネルギー・資源の安定供給確保)への対応、革新的、基 盤的技術(エネルギー・環境技術)の涵養、知的な基盤の整備への対応を図るものである。 また、エネルギー基本計画(2003年10月閣議決定)における新エネルギーに関す る技術における重点的施策に対応するものである。 さらに、新エネルギー部会報告書(2001年6月総合資源エネルギー調査会新エネル ギー部会)における今後の新エネルギー導入に向けた国の施策の在り方への対応を図るも のである。 3. 目標 効率性、環境特性に優れる燃料電池は、CO2による地球温暖化問題、都市部における自 動車のNOx、PM問題等の解決に資する技術であり、燃料電池自動車については、2010 年約5万台、2020年約5百万台、定置用燃料電池については、2010年約2.1 百万kW、2020年約10百万kWの導入を目指す。 4. 研究開発内容 【プロジェクト】 (1)固体高分子形燃料電池システム技術開発事業(運営費交付金) ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、エネルギーの安定供給 と環境制約を同時に克服することを可能とした固体高分子形燃料電池の早期実用化・普 及に資するため、要素技術(固体高分子電解質膜、セパレーター等の技術)及びシステ ム化技術を開発する。 ②技術的目標及び達成時期 2004年度までに、固体高分子形燃料電池の高性能化、高耐久化、低コスト化等の 要素技術及びシステム化技術の開発を行い、初期導入に遜色のないレベルの基本的技術 を確立する。 ③研究開発期間 2000年度∼2004年度 ④中間・事後評価の実施時期 中間評価を固体高分子形燃料電池要素技術開発等事業については2003年度、固 体高分子形燃料電池システム化技術開発事業については2002年度、事後評価を2 005年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (2)水素エネルギー利用技術開発事業 ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から、水素エネルギー社会の構築に向け、 水素エネルギー利用のトータルシステムの調査・研究を行うとともに、水素貯蔵タ ンク、水素供給ステーションなど水素の製造、輸送・貯蔵、利用等に係る技術開発 を実施する。 ②技術的目標及び達成時期 2003年度までに、水素エネルギー利用システムのエネルギー総合効率、環境 性及び経済性評価を行い水素の導入戦略の検討を行うとともに、安全評価手法の検 討等を行う。また、そのシステムを構成する水素製造技術(固体高分子電解質水電 解法)、輸送・貯蔵技術(断熱構造、低温溶接技術、液体水素ポンプ、水素貯蔵材 料、水素タンク等)及び利用技術(水素供給ステーション等)の開発を行う。 ③研究開発期間 1999年度∼2002年度 ※燃料電池の初期導入時の環境整備を加速化するため、本事業は2002年度で 終了するが、その成果を水素安全利用等基盤技術開発事業で活用する。 ④事後評価の実施時期 事後評価を2003年度に実施。 ⑤実施形態等 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (3)水素安全利用等基盤技術開発事業(運営費交付金) ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、2005年の燃料 電池の本格的な導入を前に、円滑な普及・導入に資するために、水素安全技術開発、 水素インフラ技術開発、水素周辺技術開発及び水素技術開発支援を行う。 ②技術的目標及び達成時期 2004年度末までに、規制の再点検に資する信頼性等の評価試験方法の確立及 びデータ取得、水素の安全性に関する技術開発を行い、民間事業者が主体となって 実施する例示基準案等の作成につなげる。また、燃料電池の普及に向け、2007 年度までに、更なる安全・低コストな水素製造・利用に係る技術開発を行う。 ③研究開発期間 2003年度∼2007年度 ④中間・事後評価の実施時期 中間評価を2005年度に、事後評価を2008年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (4)製鉄プロセスガス利用水素製造技術開発事業 ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、大量のエネルギー を消費する製鉄プロセスのエネルギー利用高度化により、燃料電池用の水素を大量 かつ効率的に供給できるプロセスを構築するため、製鉄所が有するコークス炉から 発生する副生ガス(コークス炉ガス)について、その保有顕熱を利用して効率的に 改質し、水素に転換する技術開発を行う。 ②技術目標及び達成時期 2005年度までに、コークス炉ガス固有のガス組成に対して反応性が高く耐久 性を有する触媒、顕熱を利用し空気中の酸素を効率的に分離する固体電解質分離膜 を開発するとともに、それらを組み合わせた高効率水素製造技術の開発を行う。 ③研究開発期間 2001年度∼2005年度 ④中間・事後評価の実施時期 中間評価を2003年度に、事後評価を2006年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (5)天然ガス液体燃料化(GTL)技術研究事業 ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、天然ガス等から合 成され硫黄等の不純物を含まない液体炭化水素系燃料であり、燃料電池自動車用燃 料、ディーゼル代替燃料等として期待されるGTL(Gas to Liquid)製造技術の開 発を実施する。 ②技術目標及び達成時期 2003年度までに、GTLパイロットプラント(7バーレル/日)を用いた実証 試験により、合成ガス製造用触媒、FT合成用触媒、プロセスの最適化等の研究開発 を行う。 ③研究開発期間 2001年度∼2003年度 ④事後評価の実施時期 事後評価を2004年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (6)高効率高温水素分離膜の開発(運営費交付金) ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、高効率・省エネル ギーの水素製造プロセスを開発するため、高い耐熱性と、高い水素選択透過性を併 せ持つ高温水素分離膜の開発と膜モジュール化技術開発を一体的に行う。 ②技術目標及び達成時期 2006年度までに、無機膜の微細構造制御技術、化学組成制御技術、モジュー ル化技術等を確立する。 ③研究開発期間 2002年度∼2006年度 ④中間・事後評価の時期 中間評価を2004年度に、事後評価を2007年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。 【関連施策】 (7)固体高分子形燃料電池システム普及基盤整備事業(ミレニアムプロジェクト)(運 営費交付金) ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、固体高分子形燃料 電池の実用化・普及段階において必要となる安全性・信頼性等の基準・標準などの 普及基盤を整備することを目的として、評価試験を通じた各種データの収集、試験 評価手法の確立、基準・標準案の提案等を行う。 ②技術目標及び達成時期 2004年度までに、自動車用、定置用ごとに評価試験を行い、各種データの収 集、評価用試験体の開発、試験・評価装置の開発、試験評価手法の確立、基準・標 準案の提案等を行う。また、本事業の成果については、逐次、国際標準化対応を図 る。 ③研究開発期間 2000年度∼2004年度 ④中間・事後評価の実施時期 ミレニアムプロジェクトの評価・助言会議において毎年度評価を実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (8)固体高分子形燃料電池システム実証等研究事業 ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、固体高分子形燃料 電池の環境性能、エネルギー総合効率等のデータや技術的課題など、開発・普及に 必要となる基礎的情報を得るため、技術の進展を踏まえつつ、燃料供給ステーショ ンの実証を含む燃料電池自動車の公道走行試験、定置用燃料電池コージェネレー ションシステムの実使用条件下での運転試験等を行う。併せて、燃料電池/水素エ ネルギーの普及啓発を図る。 ②技術目標及び達成時期 2005年度までに、水素供給ステーションについて複数の異なるタイプの実証 試験を行うとともに、内外の企業の参加を得て燃料電池自動車、燃料電池バスの公 道走行試験を実施する。これにより燃料電池の環境性能、エネルギー総合効率等の データや技術的課題等、燃料供給インフラ整備の具体的検討、基準・標準の検討、 企業の開発競争などを進めるに際して必要となる基礎的情報を得る。定置用燃料電 池コージェネレーションシステムについては、2004年度までに実使用条件下で の運転試験を行うことにより、開発・普及に必要な基礎的情報を得る。 また、これらの実証試験に併せて、普及啓発活動を行うことにより、燃料電池/ 水素エネルギーの意義に関する社会の認識を深めることを目指す。 ③研究開発期間 2002年度∼2005年度 ④事後評価の実施時期 燃料電池自動車等については事後評価を2006年度に、定置用燃料電池につい ては2005年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (9)LPガス固体高分子形燃料電池システム開発事業(運営費交付金) ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、LPガス固体高分子 形燃料電池システムを設置・運転・評価を行いつつ、LPガスから水素を製造するた めの前処理装置及び燃料改質システムの高効率化の研究開発を行う。 ②技術目標及び達成時期 2005年度までに、水素を製造する前処理装置、高効率かつ小型化したLPガス 固体高分子形燃料電池システムの開発を行う。 ③研究開発期間 2001年度∼2005年度 ④中間・事後評価の実施時期 中間評価を2003年度に、事後評価を2006年度に実施。 ⑤実施形態 民間団体、民間企業等から最適な研究体制を構築し実施。 (10)燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発(運営費交付金) ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、燃料電池自動車等 の電気系自動車について効率等の更なる向上を実現するとともに、蓄電技術の用途 拡大を促進するために、蓄電池の中で最も高いエネルギー効率を持つ高出力・長寿 命のリチウム電池の開発を実施する。 ②技術目標及び達成時期 A.車載用リチウム電池等技術開発 2006年度までに、出入力密度の向上・長寿命化を目的とした新たな材料開発 を行い、燃料電池自動車等の性能・効率を向上する軽量・コンパクトでかつ低コス トな高出力・長寿命リチウム電池の開発を行う。また、入出力特性解析、劣化機構 解析等に基づく電池総合特性評価技術並びに加速的耐用年数評価技術の開発や、将 来の高度安全性リチウム電池の探求を目的とした新規電極材料や固体高分子電解質 等の開発を行う。 B.次世代型高密度エネルギーリチウム電池技術開発 広範な分野への利用拡大に向けて、重量・体積エネルギー密度が高く、高信頼 性・大容量のリチウム電池の技術開発を行う。 ③研究開発期間 A:2002年度∼2006年度 B:2003年度∼2007年度 ④中間・事後評価の実施時期 A:中間評価を2004年度に、事後評価を2007年度に実施。 B:中間評価を2005年度に、事後評価を2008年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から最適な研究体制を構築し実施。 (11)携帯情報機器用燃料電池技術開発(運営費交付金) ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、携帯情報機器の多 機能化による消費電力増加及び使用時間増加という要求に応えるため、軽量で大き なエネルギー容量を有し、既存電池に比べ省エネルギー化を図ることが可能な燃料 電池を開発する。さらに、携帯情報機器用燃料電池の普及を促進するため標準化を 睨んだ安全確保及び性能試験方法等の調査研究及び基盤技術開発を行う。 ②技術目標及び達成時期 2005年度までに、携帯用燃料電池の実用化技術の確立を図るとともに、安全確 保及び性能試験法等の確立を図り、標準化に取り組む。 ③研究開発期間 2003年度∼2005年度 ④中間事後評価の実施時期 事後評価を2006年度に実施。 ⑤実施形態 民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。 【公的研究機関による関連基礎研究】 (12)次世代型分散エネルギーシステム基盤技術研究開発 ①概要 エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、燃料電池の技術開 発を円滑に進めるための基礎的支援技術の開発として、燃料電池用クリーン燃料製 造技術、分散型電源システムの高性能化及び新規水素貯蔵材料開発の支援技術開発 を実施する。 ②技術目標及び達成時期 2006年度までに、①燃料電池用クリーン燃料製造技術の支援のため芳香族炭 化水素等の触媒上における反応機構及び触媒の劣化機構等の解明、②分散型電源シ ステム高性能化の支援のため、各種燃料電池の構成材料への炭素析出メカニズムの 解明、性能劣化機構等の解明、及び流量の高精度計測を中心とした発電効率の測定 方法のJIS化等の規格標準化に必要な要素技術の開発等の研究、③新規水素貯蔵 材料開発の支援のため水素貯蔵量と水素貯蔵材料の微細構造(結晶構造、層状組織 の状態)の関係等の解明などの技術開発を行う。 ③研究開発期間 2002年度∼2006年度 ④中間・事後評価の実施時期 中間評価を2004年度に、事後評価を2007年度に実施。 ⑤実施形態 独立行政法人産業技術総合研究所が実施。 5. 研究開発実施に当たっての留意点 事業の全部又は一部について独立行政法人の運営費交付金により実施されるもの(事業 名に(運営費交付金)と記載したもの)は、運営費交付金の総額を算定する際に使用する ものであることから、当該部分は、国の裁量によって実施されるものではなく、中期目標、 中期計画等に基づき当該独立行政法人の裁量によって実施されるものである。 6. プログラムの期間、評価等 プログラムの期間は、2002年度∼2004年度までとし、プログラムの事後評価 を2005年度に行うとともに、研究開発以外のものについては2007年度に検証す る。 7.研究開発成果の政策上の活用 ①標準化対応 ・各プロジェクトで得られた成果のうち、標準化すべきものについては、適切な標準化活動 (国際規格(ISO/IEC)、日本工業規格(JIS)、その他国際的に認知された標準の提案等)を 実施する。特に、固体高分子形燃料電池システム普及基盤整備事業(ミレニアムプロジェク ト)及び携帯情報機器用燃料電池技術開発については、その成果を積極的に活用する。 ②規制見直し・制度整備 ・水素安全利用等基盤技術研究開発事業等による水素の安全性に関する取得データを基 に、安全確保を前提としつつ適切な規制となるよう各種現行規制の見直しを行う。 ③データの提供 ・プロジェクトを通じて得られた基礎データ等について、プロジェクト実施期間中から可能な 限りデータを社会に提供する。 8.政策目標の実現に向けた環境整備等 ①燃料電池自動車の燃料供給体制整備 ・2010年頃までは、実証試験用燃料供給設備等も活用して段階的に整備を行う。 ②導入促進 ・国、地方自治体、関連企業等による率先導入を推進することにより初期需要を創出する。 国の支援策については、開発状況を見ながら検討を行う。 ・燃料電池や燃料電池自動車、インフラ整備にむけて税制措置により推進する。 ③普及啓発 ・啓発活動、特に、実証試験におけるデモンストレーション走行試験等の活用により、燃料 電池システムの有効性を示すことや水素エネルギーに関する社会的受容性を高める。 ④周辺調査 ・燃料電池用白金族金属需給動向調査(2004年度~2005年度) 燃料電池の普及に向け必要となる白金族金属についての需給動向及び見通しを調査 することにより安定供給確保策の検討等を行う。 ④国際的協調 ・ 欧米政府等と制度面等に関する情報交換・意見交換を実施する。また、我が国における 研究・開発に携わる人材不足問題を解決するため、広く国際的な提携、協力関係、分業体 制の構築を推進する。 9. 改訂履歴 (1) 平成14年2月28日付け制定。 (2) 平成15年3月10日付け制定。固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログ ラム基本計画(平成14・02・25産局第12号)は、廃止。 (3) 平成16年2月3日付け制定。固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログラ ム基本計画(平成15・03・07産局第2号)は、廃止。 P02028 (固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログラム) 「燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発」基本計画 燃料電池・水素技術開発部 1.研究開発の目的・目標・内容 (1)研究開発の目的 我が国のエネルギー供給の安定化・効率化、地球温暖化問題(CO 2)・地球環境問 題( NOx、 PM等) の 解 決 、 新 規 産 業 ・ 雇用 の 創 出 、 水 素 エ ネ ルギ ー 社 会 の 実 現等 に 資 するため、固体高分子形燃料電池の早期の実用化・普及を目指す「固体高分子形燃料 電池/水素エネルギー利用プログラム」の一環として本プロジェクトを実施する。 石油代替、省エネルギーの促進及び環境保全の観点から、また、我が国の産業競争 力強化及び新規産業創出の観点から、燃料電池自動車を中心とするクリーンエネル ギー自動車の技術開発及び導入促進は喫緊の課題である。 燃料電池は、ガソリンエンジンより十分高効率であり、特に低負荷域で最大の効率 を示すという特性を持つ。その高効率性を最大限に生かすため、加速時等の高負荷時 の出力のサポートや制動時の回生エネルギーを効率よく利用できる蓄電技術の確立は 燃料電池自動車の一層の高効率化には、必要不可欠である。 こうしたニーズを十分満足させるには、理論上、リチウム電池しかなく、日本のみ ならず海外においても精力的に開発が進められている。燃料電池自動車用リチウム電 池の実現には、現在の高エネルギー密度といった特長に加え、格段の高出入力性能の 確保と長寿命化、低コスト化が求められている。 本研究開発は、燃料電池自動車等のエネルギー効率及び負荷応答性等のさらなる向 上に資する車載用高性能リチウム電池の実用化を図ることを目的とする。 (2)研究開発の目標 車載用リチウム電池の実用化に向け、高出入力化、長寿命化、低コスト化を図ると 共に、更なるリチウム電池の性能向上に向け、評価技術並びに高度安全性を有する電 池要素技術の確立を図る。 平成16年度に別紙の目標を単電池並びに電池モジュールの開発状況から見通し、 平成18年度には車載用システムとして目標を達成する。 (3)研究開発の内容 ①車載用リチウム電池技術開発(1/2定額) 車載用に必要な能力を有するリチウム電池の実用化に向け、出入力密度の向上・長 寿命化を目的とした材料の薄膜化、新構造の開発等により、軽量・コンパクトでかつ 低コストな高出入力・長寿命リチウム電池の開発を行う。 平成16年度までは単電池の開発を重点的に行い、平成17年度以降は車載を想定 した電池システムとして開発を発展させる。 ②高性能リチウム電池要素技術開発(1/1定額) リチウム電池の更なる性能向上に向け、入出力特性解析、劣化機構解析などに基づ く電池総合特性評価技術並びに加速的耐用年数評価技術の開発を行うとともに、広範 な状況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電池の実現に向け、新規電極材料 や固体高分子電解質など要素技術の開発を行う。 2.研究開発の実施方式 (1)研究開発の実施体制 本研究開発は、平成14年度は資源エネルギー庁新エネルギー対策課において事業 を実施したものであるが、平成15年度以降は、独立行政法人新エネルギー・産業技 術 総 合 開 発 機 構 ( 以 下 、「 N E D O 技 術 開 発 機 構 」 と 言 う 。) に お い て 委 託 し て 実 施 する。なお、研究開発実施者は平成14年6月経済産業省において選定。平成15年 度以降は、実質的に継続事業であるため、原則NEDO技術開発機構において公募に よる研究開発実施者の選定は行わない。 共同研究開発に参加する各研究開発グループの有する研究開発ポテンシャルの最大 限の活用により効率的な研究開発の推進を図る観点から、それぞれの研究テーマの達 成目標を実現すべく研究開発を実施する方式を採用する。 (2)研究開発の運営管理 研究開発全体の管理・執行に責任を有するNEDO技術開発機構は、経済産業省及 び研究開発責任者と密接な関係を維持しつつ、プログラムの目的及び目標、並びに本 研究開発の目的及び目標に照らして適切な運営管理を実施する。具体的には、必要に 応じて、NEDO技術開発機構に設置する技術審議委員会及び技術検討会等、外部有 識者の意見を運営管理に反映させる他、四半期に一回程度研究開発責任者等を通じて プロジェクトの進捗について報告を受けること等を行う。 3.研究開発の実施期間 本研究開発の期間は、平成14年度から平成18年度までの5年間とする。 研究開発スケジュール 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 ①車載用リチウム電池技術開発 ②高性能リチウム電池要素技術 開発 中 間 評 価 事 後 評 価 4.評価に関する事項 NEDO技術開発機構は、技術的及び政策的観点から、研究開発の意義、目標達成 度、成果の技術的意義ならびに将来の産業への波及効果等について、外部有識者によ る研究開発の中間評価を平成16年度、事後評価を平成19年度に実施する。なお、 評価の時期については、当該研究開発に係る技術動向、政策動向や当該研究開発の進 捗状況等に応じて、前倒しする等、適宜見直すものとする。 5.その他の重要事項 (1)研究開発成果の取り扱い ①成果の普及 得られた研究開発の成果については、NEDO技術開発機構、実施者とも普及に努 めるものとする。 ②知的財産権の帰属 委託研究開発の成果に関わる知的財産権については 、 「 独立行政法人新エネルギー・ 産業技術総合開発機構新エネルギー業務方法書」第26条の規定等に基づき、原則と して、すべて受託者(共同研究者)に帰属させることとする。 (2)基本計画の変更 NEDO技術開発機構は、研究開発内容の妥当性を確保するため、社会・経済的状 況、内外の研究開発動向、産業技術政策動向、プログラム基本計画の変更、第三者の 視点からの評価結果、研究開発費の確保状況、当該研究開発の進捗状況等を総合的に 勘案し、達成目標、実施期間、研究開発体制等、基本計画の見直しを弾力的に行うも のとする。 (3)根拠法 本プロジェクトは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法第15条 第1項第1号ハに基づき実施する。 6.基本計画の改訂履歴 (1)平成15年3月、NEDO理事会によって制定。 (2)平成16年3月、独立行政法人化に伴い根拠法等を改訂。 【別紙】 [研究開発達成目標] 項 目 目 出入力密度 エネルギー密度 寿 命 充放電エネルギー効率 経 安 信 済 全 頼 性 性 性 標 値 1800W/kg 70Wh/kg 15年 96% 初期導入時、ハイブリッド化 による車両価格の増加が10% 以下を見通せること 5万円/kWh 車載における濫用、使用環境条件に 耐えること 注)燃料電池自動車の最新公開情報等に基づき適宜この数値は見直しを行う。 達成目標は、次の条件を想定。 1.改質型燃料電池車の起動時の数分間、パワーアシストできる電池容量として、 3kWhを想定。 2.出入力密度、エネルギー密度は、電池本体とパッケージ並びに電池保護装置を 含め、3kWhシステムで重量45kg体積40Lを想定。 3.寿命は、使用環境条件において、15年を経過しても電池出入力並びに容量が 初期の80%以上あること。 4.充放電エネルギー効率は、動的負荷条件によること。 用語解説 用語 説明 リチウム電池 リチウムイオンを電気化学活性種とする電池の総称。一次電池、二次電池とが ある。高い電池電圧を示し、高エネルギー密度が特長。電解液に、水溶液系が 利用できない。特に、負極にリチウム金属を利用するものをリチウム金属電池、 含リチウム化合物を利用するものをリチウムイオン電池という。 ニッケル水素電池 正極に水酸化ニッケル、負極に水素を利用する電池。水素極に水素吸蔵合金 を利用したニッケル水素電池が、コンパクト・ 長寿命を特長に民生に利用されて いる。EV/HEV用途にも商品化されており、プリウスなどにも搭載されている 鉛電池 正極に酸化鉛、負極に鉛、電解液に硫酸を利用した電池。民生での歴史が長 く、一般のガソリン自動車に利用されている。 電池 電池には、一次電池、二次電池、燃料電池などの、化学反応により電気を発電 するものと、太陽電池などの物理現象により発電するものがある。 二次電池 一次電池 繰返し、外部からの二次的な電気エネルギーを貯め、必要時に応じて供給でき る電池。 乾電池などに代表されるが、放電だけ可能で充電ができない電池。繰り返して 使うことができない。 燃料電池 水素、一酸化炭素、メタンなどの燃料と、酸素との化学反応により、電気・熱エネ ルギーを取り出す。 固体高分子形燃料電池 固体高分子を電解質に利用し、水素と酸素との化学反応による燃料電池。作動 温度が100℃程度と低く、高効率での作動が期待される。 燃料電池自動車 燃料電池から供給される電気で走行する自動車。 ハイブリッド自動車 二つ以上の系統からのエネルギー供給を受けて走行する自動車。トヨタのプリ ウスは、回生制動で回収した回生エネルギーを電気エネルギーに変換し、二次 電池に貯蔵。必要に応じて、エンジンからの機械エネルギーを補助している。 燃料電池自動車では、二次電池を搭載して、回生エネルギーを回収する燃料 電池ハイブリッド自動車がある。 電気自動車 電動モーターにより走行する自動車。燃料電池自動車も、電動モーターで走行 するため、その一つとして考えられる。二次電池だけで走行する電気自動車は、 長年実用化が進められているが、普及台数は国内で5千台程度。 回生制動 ガソリン自動車では、減速を機械的なブレーキとエンジンブレーキにより行う。こ の時、運動エネルギーは、熱に変換して廃棄している。電気自動車等の電動 モータを利用する自動車では、減速時に電動モータで発電して、電気を貯めるこ とが可能となる。 回生エネルギー 回生制動から得られるエネルギー。減速時のエネルギーを二次電池などに貯め て、必要時に利用することで、高い効率が達成できる。 入出力密度 電池の単位質量あるいは単位体積当りに取り出せる出力。W/kgやW/l等の単 位が用いられる。 エネルギー密度 電池の単位質量あるいは単位体積当りに取り出しうるエネルギー。Wh/kgや Wh/l等の単位が用いられる。 容量密度 充電や放電の一回あたりのプロセスで入出力される電気量。Ah/kgやAh/l等の 単位が用いられる。 分極 電池電圧や電極電位が電流を流す前の値から電流を流すことによって変化す ることをいう。変化量の絶対値が小さいものほど優れた電池といえる。 耐用年数 リチウム電池の利用対応年数。充放電利用状態、保存状態などを経て、寿命に 至らない、耐久年数をいう。 用語 説明 寿命 定められた条件下で充放電を繰り返したとき、初期の値に対して定められたあ る値まで容量が低下する、または出力が低下する。この間に充放電を繰り返す ことのできるサイクル数のこと。サイクル寿命とも言う。 模擬走行充放電パターン 燃料電池自動車等の一定パターン走行したときに二次電池が充電・放電するの を模擬したパターン。二次電池のサイクル寿命などを評価するときに利用する。 電池電圧 電池に負荷をかけず、開回路にした時の正・ 負極端子間の電圧を開路電圧とい い、電池の起電力とほぼ等しい。公称電圧は、充電状態の開路電圧より少し低 い電圧で、電池の起電力の表示に用いる電圧。 充電状態 定格容量に対する放電電気量の比率( %) 。SOCで示す。 時間率 充放電電流の大きさを表す言葉。電流I で放電し、t 時間で放電終始電圧になる とき、これをt 時間率放電という。電池の容量に対して比較的小さな電流での放 電を低率放電、大きな電流での放電を高率放電という。 またt時間率での定格容量の数値Ctを用いて、放電電流を一般的にnCtAで表 すことがある。例えば定格容量(5HR)が1.5Ahの電池の0.2C放電は、0.2×1.5A すなわち、0.3A放電を意味する。 常温溶融塩 正・ 負イオンからなる塩のうち、常温付近で液体の性状を示す塩。最近ではイオ ン性液体とも呼ばれる。 イオン性液体 ( 常温溶融塩参照) 正極 +符号の付いた、放電時に外部回路へ電流が流出する側の電極であり、負極 よりも電位が貴なもの。板状のものは正極板ということが多い。 負極 −符号の付いた、放電時に外部回路から電流が流入する側の電極であり、正 極よりも電位が卑なもの。板状のものは負極板ということが多い。 セパレータ 短絡防止と間隔保持の目的で、正・ 負極板間に挿入する、微孔性または多孔性 の膜,薄板や枠体で、イオン電導が可能で電子電導性のないもの。電解液保持 の機能ももっている。 活物質 起電反応のもとになる物質で、正極活物質はPbO2,NiOOH,MnO2などの酸化力 の強い物質であり、負極活物質はPb、Cd,Zn,Liなどの還元力の強い金属や物質 である。 マンガンスピネル リチウムマンガン酸化物には、岩塩型、斜方晶、結晶性スピネル、欠陥スピネル などの結晶構造の違うものが有る。この内、マンガンスピネルは、4V程度の放 電電圧が期待でき、高エネルギー密度が期待できる。 電解質 正・ 負極板での電気化学的な起電反応に際して、正負極間をイオンを移動させ るイオン電導体であり、電子電導性のないもの。 固体電解質 電解質は通常液体であり,イオン解離した陽イオンと陰イオンが液体中を移動 することで電流が流れるが,ある種の物質中では固体中をイオンが移動する. このような物質の中で電子伝導性のない物質を固体電解質と呼ぶ. 電解液 電解質を溶媒に溶かしたもの。鉛電池では、硫酸、ニッケル水素電池では水酸 化カリウム水溶液。リチウム電池では、非水系の有機溶媒が用いられる。 改質器 ガソリン、天然ガスなどの化石燃料から水素を取り出す。硫黄を取り除く、水素 に変換、一酸化炭素を取り除くなどの工程からなる。 高圧水素 車上改質技術が待たれる中で、燃料電池自動車は、タンクに水素を貯蔵する。 走行距離を得るために、35MPaの高圧水素を搭載している。さらに、走行距離を 伸ばすために、70MPaも試みられている。 車上改質 ガソリンなどを車上で改質して水素を製造して、燃料電池に供給する。 Ⅰ.事業の位置付け・必要性について 1. NEDOの関与の必要性・制度への適合性 1.1 NEDOが関与することの意義 国家プロジェクトである「固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用プログラム」は、 我が国のエネルギー供給の安定化・効率化、地球温暖化問題(CO2)・地域環境問題(N Ox、PM等)の解決、新規産業・雇用の創出、水素エネルギー社会の実現等に資するた め、固体高分子形燃料電池について、早期の実用化・普及を目的として設置された。「燃 料電池自動車等用リチウム電池技術開発」事業は、このプログラムの一環として推進され ている。 国家プロジェクトの固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)の研究開発(「固体高分子形燃料電池の研究開発」)は、旧通商産業省工業技術院に おけるムーンライト計画(省エネルギー技術研究開発計画)の一環として、平成4年度か ら技術開発が開始された。平成5年度からはニューサンシャイン計画(旧工業技術院の新 エネルギー・省エネルギー・地球環境に関する技術研究開発計画)の一環として受け継が れ推進された。第2次燃料電池発電技術研究開発基本計画に沿って、第1期(∼平成7年 度)、第2期(平成8年度∼平成12年度)が行われた。平成11年度の産業技術審議会 評価部会「燃料電池発電技術研究開発評価委員会」(委員長:内田 勇 東北大学教授) によるプロジェクト評価を経て、現在、第3期に相当する「固体高分子形燃料電池の研究 開発」に受け継がれ、我が国のPEFCに関するR&Dとして中心的役割を果たしている。 20世紀末に国際的な燃料電池開発競争が激しくなる中、平成11年12月のミレニア ム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)における「地球温暖化防止のための次世 代技術の開発・導入」で燃料電池導入目標が示されたことに伴い、PEFC関連の新規プ ロジェクトが開始され、国のPEFCに係る開発予算は飛躍的に増大してきた。この間、 平成11年12月に資源エネルギー庁長官の私的研究会として、産学官から構成される 「燃料電池実用化戦略研究会」(座長:茅 陽一 慶應義塾大学教授)が発足し、国内外 の企業や学識経験者等による幅広い審議が行われた。 燃料電池の実用化・普及には、燃料供給インフラも含めた対応、基準・標準、規制等へ の対応、社会的受容性の向上等も必要である。そのためには、1社・1業界のみによる取 組みは難しく、政府が要となり、各業界等の参加を得て、適切な産学官役割分担の下に推 進する必要がある。我が国においては、経済産業省を中心として、燃料電池実用化戦略研 究会と燃料電池実用化推進協議会の連携の下、固体高分子形燃料電池の実用化に向けた取 組みがなされているところである。燃料電池実用化戦略研究会報告及び固体高分子形燃料 電池/水素エネルギー利用技術開発戦略が提出され、2001年8月に「固体高分子形燃 料電池/水素エネルギー利用プログラム」が策定された。産学官の適切な役割分担の下、 固体高分子形燃料電池技術開発、水素エネルギー利用技術開発、燃料電池自動車・水素供 給ステーション・定置用燃料電池の実証試験、ソフト面でのインフラ整備として基準・標 準等に関わる固体高分子形燃料電池システム基盤整備事業(ミレニアム・プロジェクト) 等による体系的・総合的な事業等の推進がなされ、燃料電池の実用化・普及に向けて取り 組んでいるところである。 2001年に開催された燃料電池実用化戦略研究会において審議された固体高分子形燃 1 料電池/水素エネルギー利用技術開発戦略においは、「燃料電池自動車用蓄電池の技術開 発に取り組むことが必要である」と記載されている。 一方、2001年6月に取りまとめられた総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会 においては、「クリーンエネルギー自動車本体の価格が競合する一般自動車の価格と比較 して割高であることに加え、走行距離など自動車の性能や燃料供給インフラの整備が不十 分といった解決すべき課題がある」と記載されている。これらの課題を乗り越えるために、 燃料電池自動車の高効率利用に関する技術開発を推進する必要がある。 石油代替、省エネルギーの促進及び環境保全の観点から、燃料電池自動車を中心とする クリーンエネルギー自動車の技術開発及び導入促進は喫緊の課題である。合わせて、燃料 電池の持つ高効率性を最大限に生かせる蓄電技術の開発が求められている。燃料電池自動 車は、燃料電池で発電した電気エネルギーにより駆動する自動車である。また、燃料電池 は、ガソリンエンジンより十分高効率であるが、特に低負荷域で最大の効果を示すという 特性を示す。このため、加速等の高負荷の出力には高性能二次電池から電力を供給し、走 行のための駆動エネルギーをサポートすることは、燃料電池自動車システムの一層の高効 率化に不可欠である。また、減速時には、機械的なブレーキに寄らず、エネルギー回収す る回生ブレーキの活用は、エネルギー利用の高効率化に繋がる。回生制動により回収した エネルギーを一時的に二次電池に蓄電し、必要に応じて駆動時のエネルギーとして利用が 可能になる。駆動時の電力供給、制動時のエネルギー回収・貯蔵を走行に合わせて瞬時に 行う二次電池の活用は、エネルギーの高効率利用に欠くことはできない。こうした車載用 二次電池に対する要請を満足し得るのは、理論上、リチウム電池しかなく、車載用(大 型)リチウム電池の実用化は、燃料電池の高効率性を最大限に生かした燃料電池自動車シ ステムを成立させるためのキーとなる技術である。 一方、海外に目を向けると、米国エネルギー省では、1991年に自動車用先進電池コ ンソーシアム(USABC)を設立し、その中で掲げるPNGV目標の実現に向けた車載用リチウ ム電池の開発を実施し、2000年以降も次期フェーズへと事業を展開した。2003年 2月からは新政権のもとFreedamCAR計画の中で、燃料電池自動車等の車載用リチウム電池 の開発を推進している。また、欧州においても燃料電池自動車の開発を進めており、車載 用リチウム電池開発は世界的に見て官民を上げて技術開発を行う段階である。我が国にお いても、国際競争力の強化、維持の観点から推進する必要性がある。 新エネルギーは、エネルギーの安定供給の確保、地球環境問題への対応等の観点から開 発と導入促進が進められているが、競合エネルギーに比較して導入コストが高い等、市場 機能の活用のみで充分導入を図ることが出来ない。特に燃料電池自動車についてはエネル ギーの安定供給、地球環境問題への対応等の観点から、早急な実用化が求められており、 国(NEDO)が技術開発として実用化開発、及び、実用化に係る評価技術等、要素技術 の開発を促進することが必要である。 1.2 実施の効果(費用対効果) 2001年総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会においては、燃料電池自動車等 の電気系自動車の導入台数について、クリーンエネルギー自動車の導入目標348万台のう ち、燃料電池自動車を5万台(2010年)、500万台(2020年)としている。クリー 2 ンエネルギー自動車のひとつとして挙げられるハイブリッド電気自動車における導入実績 は、市場投入から約3年で5万台程度投入された。これを参考に予想すると、2010年 の導入量を推進するためには少なくとも2007年頃から市場投入がなされ、2010年 以降に本格的な実用化普及が進むことになる。 その中で、本技術開発により、民需創出効果、地球温暖化対策に係る経済活動への制約 軽減の効果も期待できる。 (1)民需創出効果 民需創出効果を別表に示すメーカーヒアリングによる設備投資額の設定、生産台数の仮 定を元に試算すると、2010年から2020年における伸びは、民間設備投資需要では 約7千億円が見込まれる。民間消費需要は、2010年までに約840億円、さらに、20 20年には約4,000億円の増加が見込まれる(表I.1-1) 。 本技術開発は、5ヵ年で総額数十億円の事業として計画しているものであり、民需創生 を促し、新規産業、雇用拡大など多大な費用対効果が期待できる。さらに、燃料電池自動 車での利用分野以外にも、ポータブル機器、電動車椅子、電気自動車、風力・太陽光発電 などの不安定な再生可能エネルギーの活用の分野で、高出入力対応のリチウム電池は大い に利用でき、新規産業の創生に貢献しえる。 表I.1-1 2010年 2020年 民需創出効果の予測 民 間 投 資 需 要 投資から誘発される 民 間 消 費 需 要 消費から直接派生 (累計) 雇用創出効果(累計) (累計) する雇用(累計) 900億円 1,800人 840億円 1,000人 8,700億円 17,000人 5,000億円 9,500人 (2)地球温暖化対策に係る経済活動への制約低減の効果 燃料電池自動車は、ガソリンエンジンから発生する機械的エネルギーを直接的に駆動に 利用するのではなく、燃料電池で発電した電気エネルギーを、モーターを介して機械エネ ルギーに変換して駆動している。すなわち、駆動から見れば、電気自動車のひとつと言え る。 燃料電池自動車の開発初期では、コスト増加、部品点数の増加などの点から、二次電池 を搭載しない燃料電池自動車が開発されてきた。しかし、制動時のエネルギー回収や加速 時のエネルギーアシスト、さらには、始動時のアシストなど、エネルギー利用効率の向上、 利便性の向上から、二次電池などの蓄電システム搭載したハイブリッド形燃料電池システ ムの開発が進められている。 燃料電池自動車等では、制動時のエネルギー回生・加速時のエネルギー放出を効率よく 行う蓄電システムの搭載により、燃料消費率(燃費)及び利便性が格段に向上する。現在、 市場で普及段階にあるハイブリッド自動車にニッケル水素電池を搭載することで、走行燃 費は14%から32%の向上が見込まれると報告されている。また、高圧水素搭載型燃料電池 自動車においても、エネルギー回生を目的にした蓄電技術としてニッケル水素電池を搭載 3 することにより、30%以上の燃費改善ができたとの報告がある。燃料電池自動車に蓄電シ ステムを車載することによりエネルギー利用効率は確実に向上する。 本事業で研究開発するリチウム電池は、ニッケル水素電池よりも、二倍程度の高い重 量・体積エネルギー密度、高いエネルギー効率が期待できる。そのため、車体重量の軽量 化、車体のコンパクト化が期待でき、更なるの燃費、エネルギー利用効率の向上が期待で きる。 本事業で期待できる、これらの成果を燃料電池等自動車に導入すれば、燃料電池のエネ ルギー効率が低い起動時や超低負荷時、および、加速時などの高負荷領域での駆動アシス トが期待できる。さらには、制動時のエネルギー回生が可能となり、エネルギー利用効率 が向上し、燃料電池の特長である高効率性と排ガスのクリーンさを最大限に発揮できる。 燃料電池自動車の導入目標が2010年には5万台、2020年には500万台とされている ことによれば、2020年における二酸化炭素削減量は203万トンC/年と試算され、原油 換算では、280万kL/年の削減効果が見込まれる。 さらには、各家庭、事業所などへの設置が予想される定置用燃料電池の導入・普及目標 は2020年で、1,000万kWである。定置用燃料電池の補助電源、余剰発電電力の貯蔵、 高負荷時のエネルギー供給電源としての展開も期待できる。さらには、本事業での成果と なる、利用効率及び負荷応答特性など利便性の向上に資する高性能・低コストなリチウム 電池の蓄電技術が確立すれば、燃料電池から離れた分野においても波及効果が期待できる。 リチウム電池の軽量・コンパクト性、高い負荷応答特性の点から、分散型電池電力貯蔵や、 ロボットなど各種移動型電源への用途への応用、さらには、風力・太陽光発電等の再生可 能エネルギーなど不安定な自然エネルギーの安定化利用への適用、災害時のバックアップ 電源にも期待でき,環境調和型社会の創生に貢献すると確信する。 4 2.事業の背景・目的・位置づけ 2.1 事業の背景・目的・意義 21世紀に向けて、化石エネルギーの高効率利用、石油代替エネルギーの導入促進は、 わが国のエネルギー政策の重要な柱であり、また窒素酸化物(NOx)等環境汚染物質低減 などの環境問題への貢献も強く求められている。さらに、1997年12月には気候変動枠 組条約第3回締約国会議(COP3)において温室効果ガス(特に二酸化炭素(CO2))排出 量削減量が規定され、この目標達成が喫緊の課題となっている。また、平成13年6月に 取りまとめられた総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会においては、「クリーンエ ネルギー自動車本体の価格が競合する一般自動車の価格と比較して割高であることに加え、 走行距離など自動車の性能や燃料供給インフラの整備が不十分といった解決すべき課題が ある」と記載されており、更には、2001年8月に開催された第10回燃料電池実用化 戦略研究会において審議された固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用技術開発戦略 においても、「燃料電池自動車用蓄電池の技術開発に取り組むことが必要」と記載されて おり、推進する意義がある。 石油代替、省エネルギーの促進及び環境保全の観点から、また、我が国の産業競争力強 化及び新規産業創出の観点から、燃料電池自動車を中心とするクリーンエネルギー自動車 の技術開発及び導入促進は喫緊の課題である。 燃料電池は、ガソリンエンジンより十分高効率であり、特に低負荷域で最大の効率を示 すという特性を持つ。その高効率性を最大限に生かすために、加速時等における高負荷時 の駆動出力のサポートや制動時の回生エネルギーを効率よく利用できる蓄電技術の確立は 燃料電池自動車にとって必要不可欠である。 こうしたニーズを十分満足させるには、理論上、最高のエネルギー密度を有するリチウ ム電池しかなく、日本のみならず海外においても精力的に研究開発が進められている。さ らに、燃料電池自動車用リチウム電池の実現には、現在の高エネルギー密度といった特長 に加え、格段の高出入力性能の確保と長寿命化、低コスト化が期待されている。 現在、実用化段階にある蓄電技術として、リチウム電池以外に、鉛蓄電池、ニッケル水 素電池、ニッカド電池、キャパシタなどがある。各種蓄電技術の特性、特長を表I.2-1に まとめた。 現在、数万台規模で国内外市場に普及しているガソリンエンジンハイブリッド自動車に は、主にニッケル水素電池が採用されている。ニッケル水素電池は、比較的軽量・コンパ クトであり、長い寿命が期待できる。しかし、電池電圧が開放電圧で1.2Vと低く、多数 セル接続からなる電池システムを構築する必要がある。この場合、電池特性の高い均一性 と信頼性が要求され、コスト高の一因となる。また、理論的なエネルギー密度(最大限に 期待できる軽量・コンパクトさ)はリチウム電池に比べて小さい。キャパシタは、瞬時の 出入力での充放電が可能で、製造コストが低く抑えられ、軽量であるなどの特長を有する が、体積エネルギー密度(コンパクトさ)が小さく、自動車の限られた空間利用を損なう 懸念がある。鉛蓄電池やニッカド電池は、長い歴史から高い信頼性があるが、サイクル寿 命が短く、その電池特性から理論的に、高い重量・体積エネルギー密度が期待できない。 リチウム電池では、ニッケル水素電池よりも、理論的に高い重量・体積エネルギー密度 が期待でき、軽量・コンパクト化が可能で、燃料電池等自動車等の燃費など走行性向上が 5 達成できる。また、電池電圧が開放電圧で4V程度と高く、三分の一程度まで電池接続段 数を減らすことができる。また、正負極において、溶解析出を伴わないリチウムイオンの 移動のみによる電池反応で充放電が繰返されることから長いサイクル寿命が期待できる。 これらの特長から、燃料電池自動車等搭載用の蓄電技術として、リチウム電池は最も適し ている電池であると考える。 本研究開発は、燃料電池自動車等のエネルギー効率及び負荷応答性等のさらなる向上に 資する車載用高性能リチウム電池の実用化を図ることを目的とした(図I.2-1)。高い負荷 応答性を有し、小型化、軽量化、長寿命化等の要求に応える電池として、現状考えられる 二次電池の中で最も高いエネルギー密度を持ち、寿命の長いリチウム二次電池を選択した。 表I.2−1 各種二次電池の開発状況 エネルギー密度 Wh/kg Wh/L (理論値) 150 250 (1000) 電池の種類 リチウム二次電池 (Li) 鉛電池 (Pb) ニッケル・水素電池 (Ni/MH) ニッカド電池 (Ni/Cd) キャパシター 3.5 高エネルギー密度、軽量、コンパ クト、長寿命 40 (252) 70 2.1 高信頼、低エネルギー密度 65 (278) 155 1.35 長寿命、エネルギー密度がやや低 い 50 (244) 110 1.35 高信頼、カドミウムを使用 15 20 2000 1.2、 or 3.0 長寿命、高信頼、重量・体積とも に低エネルギー密度 車載用リチウム電池技術開発 1800 リチウム電池 出力密度( 出力密度(W/kg W/kg W/kg) ) 1600 高性能リチウム電池要素技術開発 1400 総合効率向上への寄与 特長 開発状況 各種電池のエネルギー密度・出力密度比較 高 制動エネルギー回収能力/加速性能 電池電圧 V 日産ティーノ 1200 キャパシタ 1000 800 New Prius ニッケル水素電池 600 400 200 鉛電池 0 0 20 低 40 60 80 100 120 140 160 180 エネルギー密度(Wh エネルギー密度(Wh/kg Wh/kg) /kg) 低 高 軽量・コンパクト/一充電航続距離 総合効率向上への寄与 図I.2-1 各種電池のエネルギー密度と出力密度の関係:本事業の開発目標 6 2.2 事業の位置づけ 2.2.1 プロジェクトの性格・位置付け 燃料電池は、水素と酸素から電気を作り出すため、その発電の過程においては、ゼロ・ エミッションである。化石燃料の改質により水素を作り出す場合には、CO2が発生するが、 従来の熱機関に比べエネルギー効率が高い分、CO2 排出量は低減される。さらに、将来、 再生可能エネルギーから水素を作り出せれば、ゼロ・エミッションが達成できることにな る。このため、運輸・民生部門におけるCO2 排出量抑制という地球環境問題対策の一つ となり得る可能性が高い。自動車用では、従来の内燃機関に比べエネルギー効率が高いた め、改質形であってもCO2排出量抑制効果が大きく、さらにNOx 、SOx 、PM 等と いう有害物質をゼロ若しくは、極微量しか排出しないため、交通量の多い都市部などにお ける地域環境問題対策としては、極めて有効な手段の一つである。 環境負荷の少ない燃料電池であるが、ガソリンエンジンより十分高効率を示しながら、 特に低負荷領域で最大効率を示すという特性を示す。このため、加速等の高負荷を要求す る時の出力を高性能二次電池などの蓄電技術を利用してサポートするということは、燃料 電池自動車システムの一層の高効率化に必要不可欠である。こうした車載用二次電池に対 する要請を満たし得るのは、理論上、リチウム電池しかなく、車載用(大型)リチウム電 池の実用化は、燃料電池の高効率性を最大限に生かした燃料電池システムを成立させるた めのキーとなる技術である。 既に国プロにおいて、分散型電力貯蔵、電気自動車用の大型リチウム電池の研究開発が 行われ、また、小型リチウム電池も一般に市販されている。そのような中で、より高性能 な、実用性を有する車載用、大型リチウム電池を目指すには、競争的原理を導入し、民間 企業や財団法人等の自己責任の下で、その活力を生かす補助方式の方が効率的な技術開発 を進めることが可能となると考える。したがって、燃料電池およびハイブリッド車用リチ ウム電池の技術開発は補助事業として位置付けて実施している。 本技術開発では、燃料電池自動車用の蓄電池として利用する高性能リチウム電池を開発 する「車載用リチウム電池技術開発」と、その固体高分子電解質、電極材料等の要素技術 開発、重量・体積エネルギー密度が高く、高信頼性・大容量に資する技術開発を行う「高 性能リチウム電池要素技術開発」を開発テーマとして設置した。なお、前者には、補助率 50%として、競争的に研究開発を行うこととした。 本技術開発は、平成14年度から5ヵ年計画でスタートした。平成14年度は経済産業 省の直轄事業(特枠事業)として進められた。平成15年度からは新エネルギー・産業技 術開発機構(NEDO)・新電力技術開発室がこれを引継ぎ、技術開発を推進し、200 3年10月からは、新エネルギー・産業技術開発機構の独立法人化による組織改正を経て、 現在は、燃料電池・水素技術開発部で推進している。 2.2.2 関連技術と成果の位置づけ 燃料電池は、燃焼過程を経ることなく、化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出 すことのできる画期的な方法である。従来の熱機関では避けることのできない「カルノー の定理」の制約を受けることがなく、高効率発電の可能性がある。燃料電池実用化戦略研 究会における技術研究戦略(2001年8月)においては、2010年以降における性能 7 目標について自動車用燃料電池スタックの効率は55%以上(HHV)、定置用燃料電池の システム全体としての総合効率は80%以上(HHV)としている。 燃料電池は、水素と酸素から電気を作り出すため、その発電の過程においては、ゼロ・ エミッションである。化石燃料の改質により水素を作り出す場合には、CO2が発生するが、 従来の熱機関に比べエネルギー効率が高い分、CO2 排出量は低減される。さらに、将来、 再生可能エネルギーから水素を作り出せれば、ゼロ・エミッションが達成できることにな る。このため、運輸・民生部門におけるCO2 排出量抑制という地球環境問題対策の一つ となり得ることが期待される。自動車用では、従来の内燃機関に比べエネルギー効率が高 いため、改質形であってもCO2 排出量抑制効果が大きく、さらにNOx 、SOx 、P M 等という有害物質をゼロ若しくは極微量しか排出しないため、交通量の多い都市部な どにおける地域環境問題対策としては、極めて有効な手段の一つである。定置用でも、従 来の熱機関に比べ発電効率が高く、コージェネレーションにより排熱も利用でき、CO 2 などの排出量を抑制して、より高い効率での運用が望める。 燃料電池の燃料である水素は、改質という過程が必要となるものの、より広い範囲の燃 料種から転換可能である。また、水素は、化石燃料からの改質に加え、風力発電、太陽光 発電、地熱発電等の再生可能エネルギーにより電気分解によっても得ることができ、より 多様なエネルギー源からのエネルギー供給が可能となる。 定置用燃料電池は、マイクロガスタービンやディーゼル・エンジンと同様に、分散型電 力エネルギーとしても期待できる。分散型電力エネルギーの利点としては、エネルギー需 要地に近接した場所で発電を行うことから、大規模集中型電源からの送電に比べてエネル ギー損失が極めて小さいこと、コージェネレーションにより排熱利用が可能となること、 さらに、災害時のバックアップ電源にもなり得ることなどが期待できる。 燃料電池技術は、その効率性、環境特性等から将来のエネルギー・環境分野の「Key Technology 」の一つであると認識されている。21世紀は「環境の世紀」ともいわれて おり、環境に係る技術力の差が企業の競争力の優劣に大きな影響を与えることから、燃料 電池の技術開発・実用化は、将来の我が国産業の競争力にかかわってくるものである。そ の実用化には、部品供給の裾野の広い自動車産業を始めとして、電気機器産業、素材産業、 エネルギー産業など、幅広い産業にわたる技術を要することから、我が国産業界全体に与 える影響は極めて大きく、新たな技術の進展により、新規産業の創造、雇用創出の可能性 も大きい。 環境負荷の少ない燃料電池であるが、十分に高いエネルギー利用効率を示しながら、特 に低負荷領域で最大効率を示すという特性を示す。このため、瞬時に高負荷を要求する時 の要求出力に対するサポートためにも高性能二次電池などの蓄電技術利用は、燃料電池自 動車システムの一層の高効率化に必要不可欠である。こうした要請を満たし得るのは、理 論上、リチウム電池しかなく、車載用(大型)リチウム電池の実用化は、燃料電池の高効 率性を最大限に生かしたシステムを成立させるためのキーとなる技術である。 リチウム二次電池技術は、1950年代の米国における研究開発に始まり、「常温にお いてメンテナンスフリーで使え、最も軽く、最も小型にできる究極の二次電池技術」とし て、世界各国が実用化を目指して研究開発を展開してきた。我が国においても、1990 年代後半には、リチウムイオン型二次電池が、携帯ビデオレコーダーの電源としてわが国 8 の民生用情報・通信機器市場にようやく登場し、数Whの小型二次電池技術としての実用 性が本格的に注目され始めた。 リチウム二次電池の市場動向は、コスト的な面では、ニッカド電池、ニッケル水素電池 などの二次電池に比べると高い現状があった。しかし、リチウム電池は、高い重量・体積 エネルギー密度を有し、小型・軽量化に適していることから、携帯電話、ノートパソコン 等の携帯用機器に用いる民生用小型電池の分野で広く普及してきた。携帯機器の分野では、 軽量・コンパクトさ、さらには、機器の要求する電気容量、出力性能の点から、鉛電池、 ニッカド電池、ニッケル水素電池からリチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)へと 電池の種類は移行してきている。 1993年2月からは、国家プロジェクト・ニューサンシャイン計画の中で「分散型電 池電力貯蔵技術開発」が開始され、家庭など需要サイドでの負荷平準化用(「定置型」)あ るいは電気自動車用( 「移動体用」 )として高いエネルギー密度、高いエネルギー変換効率、 常温作動等の優れた特徴を有する大容量リチウム二次電池技術の研究開発、特に電気自動 車用としての研究開発を実施した。これにより、重量エネルギー密度150Wh/kg、体積エ ネルギー密度300Wh/l、出力密度400W/kg、サイクル寿命1,000サイクルを見込めるリチウ ム電池を開発した。ここで研究開発したリチウム電池技術は、小型コミューターカー(二 人乗り)電気自動車や、アシスト形電動自動車などに採用されている。 電気自動車は、排出ガスゼロ、静寂走行の低環境負荷型の自動車として期待がかかる。 しかし、電気自動車の一充電走行距離は搭載する電池の電気容量に依存する。そのため、 長い走行距離を確保するために大容量の二次電池を搭載する要求がある。これにより、大 容量の電気を充電するために長い充電時間を要し、搭載する電池容量の大きさからコスト 高となる。また、車体重量、車両内空間確保の観点からも、大容量の二次電池搭載は難し い。これらを要因として、電気自動車の一般乗用車への普及は困難な状況にある。 現在は、電気自動車に代わって、数分で燃料供給が可能で、十分な走行距離を確保でき る可能性がある燃料電池自動車に注目が集まっている。燃料電池の特性をさらに有効に、 最大限に利用するには、蓄電技術によるサポートは必要不可欠である。そのためにも、高 負荷応答性のある、高出入力特性を有する、軽量・コンパクトなリチウム電池が必要であ る。 9 Ⅱ.研究開発マネジメントについて 1. 事業の目標 1.1 事業の全体目標 燃料電池は、ガソリンエンジンより十分高効率であるが、特に低負荷領域で最大効率を 示すという特性を示す。このため、加速等の高負荷時の出力を高性能二次電池でサポート するということは、燃料電池自動車システムの一層の高効率化に必要不可欠である。本技 術開発事業では、こうした車載用二次電池に対する要請を満たし得る車載用(大型)リチ ウム電池の実用化を進める。 燃料電池自動車等の効率などの更なる向上(燃費にして30%UP)を実現するとともに、 蓄電技術の用途拡大を促進するために、蓄電池の中でも最も高いエネルギー効率(96%、 ニッケル水素電池など約80%)を持つ高性能リチウム電池開発を実施する。燃料電池自動 車等のエネルギー効率や加速性能等を向上させる車載用リチウム電池の実用化に向けて、 高出入力化、長寿命化、低コスト化を図ると共に、更なるリチウム電池の性能向上に向け、 評価技術並びに高度安全性を有する電池要素技術の確立を図る必要がある。そこで、「車 載用リチウム電池技術開発」と「高性能リチウム電池要素技術開発」を設定した。「車載 用リチウム電池技術開発」では、車載に必要な能力を有するリチウム電池の実用化に向け、 出入力密度向上(現状の2倍)・長寿命化(現状3年から10年以上の信頼性確保)を目的と した材料の薄膜化、新構造の開発等により、軽量・コンパクトかつ低コストな高出力・長 寿命リチウム電池の開発を行う。一方、「高性能リチウム電池要素技術開発」では、リチ ウム電池の更なる性能向上に向け、出入力特性解析、劣化か機構解析などに基づく電池総 合特性評価技術並びに加速的耐用年数評価技術(10年の耐用年数を短期間で評価する技 術)の開発を行うとともに、広範な状況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電池 開発を目的として、新規電極材料や固体高分子電解質などの要素技術の開発を行う。 「車載用リチウム電池技術開発」では、燃料利用効率及び負荷応答性等の利便性の向上 に資する高性能・低コストなリチウム電池の蓄電技術の確立を目的として、負荷応答特性 に係わる指標として出入力密度1,800W/kg(現状:1,000W/kg(ニッケル水素電池の値) ) などの目標値を設定した。 平成15年度末には、単電池並びに電池モジュールの開発状況から今後の開発状況を見 通し、表Ⅱ.1−1に示す開発目標を設定した。平成18年度には車載用システムとして目標 を達成する。 なお、燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発のうち「車載用リチウム電池技術開 発」は、競争的原理を導入し、自己責任の下で効率的な技術開発を推進することにした。 10 表Ⅱ.1−1 開発目標 項 目 出入力密度 エネルギー密度 寿 命 充放電エネルギー効率 経 済 性 安 全 性 信 頼 性 達成目標は、次の条件を想定。 目 標 値 1,800W/kg 70Wh/kg 15年 96% 初期導入時、ハイブリッド化によ る車両価格の増加が10%以下を 見通せること 5万円/kWh 車載における濫用、使用環境条件 に耐えること 1.改質型燃料電池車の起動時の数分間、パワーアシストできる電池容量として、 3kWhを想定。 2.出入力密度、エネルギー密度は、電池本体とパッケージ並びに電池保護装置を 含め、3kWhシステムで重量45kg体積40Lを想定。 3.寿命は、使用環境条件において、15年を経過しても電池出入力並びに容量が 初期の80%以上あること。 4.充放電エネルギー効率は、動的負荷条件によること。 一方、「高性能リチウム電池要素技術開発」では、寿命評価法や将来の高度安全性の探 求に向けた革新的な要素技術の確立を目指し、出入力密度1800W/kgに加え、エネルギー の蓄積特性に関わる指標としてエネルギー密度(Wh/kg)120Wh/kg(現状40Wh/kg(ニ ッケル水素電池の値)を加えた目標値を設定した。具体的には、リチウム電池の更なる性 能向上に向け、出入力特性解析、劣化機構解析などに基づく電池総合特性並びに加速的耐 久年数評価技術(10年の耐用年数を短期間で評価する技術)の開発を行う。また、広範囲 な状況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電池の開発を目的として,新規電極材料 や高分子電解質などの要素技術の開発を行う。 1.2 目標設定の根拠 本事業開始当時、ガソリンエンジンハイブリッド自動車に車載され、実用化段階にあっ たニッケル水素電池の性能は、モジュール電池で重量エネルギー密度、出力密度でそれぞ れ40Wh/kg、1000W/kg程度であった。本技術開発ではリチウム二次電池の潜在能力(理 論エネルギー密度等)を最大限に引き出すべくチャレンジャブルな目標を設定した。ガソ リンエンジンハイブリッド小型乗用車に搭載されている電池重量を40∼50kgと、電気駆動 型自動車に搭載しているモーター出力を80kWと仮定して、要求する重量出力密度は1,600 ∼2,000W/kgと算出した。これより、出力密度1,800W/kgを目標値とした。 車載する電池容量は、ガソリンなどの化石燃料の改質器搭載燃料電池を仮定して、 3kWhとした。これは、改質器始動から水素供給までに要する時間を30分程度と仮定し、 11 電池からの電力供給だけでも走行できる容量として算定した(電池のみでの単独走行で約 20km、50%充電で10km。電気自動車は200kmの走行で約30kWhを消費) 。搭載する電池 の重量40∼50kg、容量3kWhより、電池の重量エネルギー密度は60∼75Wh/kgと算出され る。これより、「車載用リチウム電池技術開発」では、電池システムで70Wh/kgを目標値 と し た 。 一 方 、「 高 性 能 リ チ ウ ム 電 池 要 素 技 術 開 発 」 で は 、 重 量 エ ネ ル ギ ー 密 度 で 120Wh/kgと、ニッケル水素電池の二倍以上の目標値とした。エネルギー変換効率は、ニ ッケル水素電池よりも高い、リチウム電池の一般的な実績値から、96%とした。耐久年数 は、高信頼性確立のために自動車の耐久年数10年を保証できる10年以上の15年とした。燃 料電池自動車を普及促進するためにも、コストを抑える必要があり、現状のリチウム電池 20万円/kWhの25%まで低減する5万円/kWhを目標値とした。なお、車載における濫用、 使用環境下に劣化がないことを加えた。 また、「高性能リチウム電池要素技術開発」では、リチウム電池研究開発の促進に資す る技術として、リチウム電池の更なる性能向上に向け、出入力特性解析、劣化機構解析な どに基づく電池総合特性並びに加速的耐久年数評価技術(10年の耐用年数を短期間で評価 する技術)の開発を行う。さらに、安全性確保の意味で、広範囲な状況下で十分な安全性 を保持しうる不燃リチウム電池の開発を目的として,新規電極材料や高分子電解質などの要 素技術の開発を行う。 12 2.事業の計画内容 2.1 事業全体、個別研究の開発項目の計画内容 本事業の実施期間を平成14年度から5ヵ年とした。平成16年度までの3ヵ年で、電池 システムの基礎となる単電池・モジュール電池構築のために、材料研究や電池構成研究を 中心に実施する。平成17年度以降は、3ヵ年で開発した単電池・モジュール電池をベー スに、最終目標である車載用リチウム電池システムの実現化を目指す研究開発を実施する。 なお、2年目終了後に、中間評価を実施するとし、本中間評価を実施する(表Ⅱ.2−1) 。 車載用リチウム電池技術開発では、研究開発テーマ3つを4法人で競争的に実施すると した。また、高性能リチウム電池要素技術開発では、研究テーマ9つを8法人で実施した。 各実施者は、個々にテーマ分担すると共に、車載用リチウム電池技術開発ならびに高性能 リチウム電池要素技術の実施者間で互いに協調を取りあう体制を構成した。また、一部、 大学、自動車関係者からなる委員会を設置し、助言・指導を仰ぎながら、研究開発を推進 することにした。 表Ⅱ.2−1 第1次基本計画における研究開発スケジュール 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 中 事 ①車載用リチウム電池技術開発 間 後 ②高性能リチウム電池要素技術開発 評 評 価 価 2.2 研究開発項目毎の内容の詳細 2.2.1 研究テーマ毎の内容、計画及び研究手法について 本事業の実施にあたり、「車載用リチウム電池技術開発」と「高性能リチウム電池要 素技術開発」との2系統の研究開発を実施ている。それぞれは以下に述べるように推進し ている。 ① 車載用リチウム電池技術開発 車載用に必要な能力を有するリチウム電池の実用化に向け、出入力密度の向上・長寿命 化を目的とした材料の薄膜化、新構造の開発等により、軽量・コンパクトでかつ低コスト な高出入力・長寿命リチウム電池の開発を行う。 平成16年度までは単電池の開発を、材料研究および電池構成の検討に重点を置き、平 成17年度以降は車載を想定した電池システムとして開発を発展させる。 ② 高性能リチウム電池要素技術開発 リチウム電池の更なる性能向上に向け、出入力特性解析、劣化機構解析などに基づく電 池総合特性評価技術並びに加速的耐用年数評価技術の開発を行うとともに、広範な状況下 で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電池の実現に向け、新規電極材料や固体高分子 電解質など要素技術の開発を行う。 13 基本計画における研究開発内容は表Ⅱ.2−2のとおりである。 表Ⅱ.2−2 基本計画における研究開発内容 内 ① 容 開発担当法人 車載用リチウム電池技術開発 車載用に必要な能力を有するリチウム電池の実用化に向け、出入力密度の向上・長寿命化を目的とした材料の薄 膜化、新構造の開発等により、軽量・コンパクトでかつ低コストな高出入力・長寿命リチウム電池の開発を行う。 ・マンガン系 マンガン酸化物/有機電解液/非晶系 (株)日立製作所/新神戸電機(株) ・ニッケル系 ニッケル・コバルト酸化物/有機電解液/コークス系黒鉛 松下電池工業(株) ・複合系 複合酸化物系/有機電解液/黒鉛系 日本電池(株) ② 高性能リチウム電池要素技術開発 リチウム電池の更なる性能向上に向け、出入力特性解析、劣化機構解析などに基づく電池総合特性評価技術並び に加速的耐用年数評価技術の開発を行うとともに、広範な状況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電池の 実現に向け、新規電極材料や固体高分子電解質など要素技術の開発を行う。 (評価技術) ・電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発 (電池側からの非破壊試験法確立のアプローチ) (財)電力中央研究所 (解体試験等による電池構成部材からの評価技術確立のアプローチ) (独)産業技術総合研究所 (正極・負極) ・ベースメタル元素を利用した新規酸化物正極材料開発 ・ナノ複合体を利用するハイレート対応新型リチウムイオン電池の要素技術の開発 ・新規全固体リチウム二次電池用正負極の高性能化 (電解質) ・電池の難燃化・固体化のための新規電解質の研究 (独)産業技術総合研究所 佐賀大学 三重大学 ・高出入力リチウム電池用新規複合電解質の開発 ・全固体型リチウム電池用新規複合電解質に関する研究 (株)ユアサコーポレーション/(財)産業技術総合研 究所 トレキオン(株) (独)物質・材料研究機構 (セパレータ他) ・高安全PTC機能電極・耐熱セパレータ技術開発 三菱電機(株) 14 2.2.2 研究テーマ毎の目標(研究開発目標と自主目標) (1) 車載用リチウム電池技術開発 燃料電池自動車等のエネルギー効率や加速性能等を向上させる車載用リチウム電池の実 用化に向け、高出入力化、長寿命化、低コスト化を図ると共に、更なるリチウム電池の性 能向上に向け、評価技術並びに高度安全性を有する電池要素技術の確立を図る。平成16 年度に表Ⅱ.2-3の研究開発目標を単電池並びに電池モジュールの開発状況から見通し、平 成18年度には車載用システムとして目標を達成する。 表Ⅱ.2−3 研究開発目標 項 目 目 標 値 1,800W/kg 出入力密度 70Wh/kg エネルギー密度 寿 命 15年 96% 充放電エネルギー効率 初期導入時、ハイブリッド化によ る車両価格の増加が10%以下を 経 済 性 見通せること 5万円/kWh 安 全 性 車載における濫用、使用環境条件 信 頼 性 に耐えること 達成目標は、次の条件を想定。 1)改質型燃料電池車の起動時の数分間、パワーアシストできる電池 容量として、3kWhを想定。 1) 出入力密度、エネルギー密度は、電池本体とパッケージ並びに電 池保護装置を含め3kWhシステムで重量45kg体積40Lを想定。 2) 寿命は、使用環境条件において、15年を経過しても電池出入力 並びに容量が初期の80%以上あること。 3) 充放電エネルギー効率は、動的負荷条件によること。 (2) 高性能リチウム電池要素技術開発 高性能リチウム電池要素技術開発では、電池の安全性を向上させるための不燃リチウ ム電池の実現に向けた開発目標に従い、研究開発当初の課題に基づき設定した表Ⅱ.2-4∼7 の自主目標のもとに研究開発を推進した。 15 表Ⅱ.2−4 電池総合特性評価技術、加速的耐用年数評価技術の開発自主目標 電池総合特 リチウム電池の更なる性能向上に向け、出入力特性解析などに基づく電池 性 評 価 技 総合特性評価技術並びに加速的耐用年数評価技術の開発を行う。 中間目標(平成16年度) 術、加速的 ・ 小型電池に適用可能な電気的特性試験法の確立、加速的耐用年数 耐用年数評 評価試験法の提案 価技術の開 最終目標(平成18年度) 発目標 ・ 車載用システム(電池)に適用可能な電気的特性試験法の確立、 加速的耐用年数評価試験法の提案 電 力 中 央 研 【課題】 究 所 ( 非 破 ・車載用リチウム電池の電気的特性試験法の提案と妥当性確認 壊的) ・動的負荷サイクルによるサイクル試験 ・加速的耐用年数評価技術の確立 【目標】 1)車載用リチウム電池の電気的特性試験法の提案と妥当性確認 2)動的負荷サイクルによるサイクル試験と非破壊試験法による劣化推定 3)10倍以上の加速的耐用年数評価法の開発 【目標の根拠】 燃料電池は超低負荷時(減速・停車)および高負荷領域(加速・登坂 時)では、発電効率は最大とならない特性があるため、燃料電池自動車の 駆動モータの要求入力に対応した高い出力を補う蓄電池が必要となる。さ らに回生エネルギーも電気入力として蓄積して全体として効率を高める必 要がある。このようなパワーアシストやデュアルモード走行も可能となる 車載用リチウム電池に適した試験評価法が必要となる(目標1)。特に耐久 性・寿命の観点から、深い放電深度(DOD)は必ずしも必要ないが、動 的負荷による長いサイクル寿命が要求されると同時に、寿命経過途中の劣 化状況を非破壊的法方法で推定し把握することも実運用上で重要となる (目標2)。さらには、研究開発段階においては、15年間の耐用年数を実時 間スケールで評価しつつ技術開発を進めることは事実上不可能である。し たがって、耐用年数が15年であれば、少なくとも1∼2年で評価しうる加 速的耐用年数評価法の開発(目標3)は、車載用リチウム電池開発に必須 である。 産 業 総 合 技 【課題】 術 研 究 所 ・電池の構成部材(電極、電解質、集電体等)に着目した劣化機構解析技 (電池解体試 術、信頼性(熱特性)評価技術等の開発 験) ・加速的耐用年数評価技術の確立 【目標】 1)車載型実電池の劣化因子の抽出と定量化 2)熱測定に基づく電池の余命推定法及び劣化電池熱安定性評価法の構築 3)10倍以上の加速的耐用年数評価法の開発 16 【目標の根拠】 出入力特性に影響を与える電池分極特性や電池容量等の各種電池特性 が、同一の経年劣化率を示すとは限らないことから、効率的な電池開発を 進めるためには劣化機構に基づいて各種電池特性の経年劣化の特徴を勘案 した電池総合特性評価法の確立が急務である。しかし、そのためには、定 性的な劣化機構の解明では十分とはいえず、車載型実電池における各劣化 因子の抽出とその定量化(目標1)を可能にすることが必要である。電池 の分極熱特性については、熱測定による分極劣化原因の解明によって、電 池の温度変化などによる電池の劣化状態の診断、引いては電池の余命を推 定する手法の構築(目標2)に繋げることが必要である。次に、電池の劣 化状態によっては、電池特性(容量や出入力特性等)は十分であるもの の、熱安定性の観点での信頼性が著しく低下して使用が認められない状況 に至っている場合も想定される。そのため、熱特性評価に基づく劣化電池 の熱安定性評価法の構築(目標2)を行うことが必要である。 一方、15年もの耐用年数を実時間スケールで評価しつつ技術開発を進め ることは事実上不可能であり、少なくとも耐用年数15年であれば1∼2年 で評価しうる加速的耐用年数評価法の開発(目標3)は、車載用リチウム 電池開発に必須である。 表Ⅱ.2-5 正極・負極開発目標 正極・負極 正極材料:低コストに優位なスピネルマンガン系の被覆技術により熱安定 性、長寿命化、高出入力化の向上を図る技術、ならびに低コス 材料の ト、熱安定性に優位な、鉄系、銅系等の新規電極材料により高性 開発目標 能電極を開発する。 中間目標(平成16年度) ・ 被覆技術では高出入力化に対応できる60CAの動作を見通すこ と。 ・ Fe系、Cu系等の新規電極材料で5CA程度の動作を見通すこと。 最終目標(平成18年度) ・ 高出入力化に対応できる60CA作動を達成すること。 ベースメタ ル元素を活 用した新規 酸化物正極 材 料 開 発 (正極)(産 業技術総合 負極材料:従来の炭素材料に比べて高出入力化、長寿命化等を実現するた め、ケイ素、すず、カーボン材料への被覆技術により高出入力化 を図る技術、ならびに、窒化物系の新電極材料を開発する。 中間目標(平成16年度) ・ 被覆技術では高出入力化に対応できる60CAの動作を見通すこ と。 ・ 窒化物系の新規電極材料で5CA程度の動作を見通すこと 最終目標(平成18年度) ・ 高出入力化に対応できる60CA作動を達成すること。 【課題】 ・車載用リチウム二次電池用の普及のためには構成部材特に正極材料の一 層の省資源化、低コスト化が強く求められている。 ・リチウムマンガンスピネルLiMn2O4は低コスト正極として期待されてい るが60℃においてはマンガンの溶出に伴う充放電特性劣化が顕著であり このような高温サイクル試験においても安定した充放電特性を示す新規 低コスト正極材料開発が必要不可欠である。 17 研究所) 【目標】 ①作動電圧3V以上、充放電容量100mAh/g以上(5時間率より速い充放電レ ートにおいて)の充放電特性を有する鉄、銅系などの新規正極材料の開 発。 ②1/5時間率程度までの充放電が可能で、60℃においての充放電特性劣化 がほとんどないこと。 ③上記材料の100g/バッチの製造技術の確立。 【目標の根拠】 ①及び② 現状のリチウムマンガンスピネルの5時間率における充放電特性 (平均作動電圧4V、充放電容量100mAh/g)と同等で、かつ60℃での充放電 特性において開発材料の優位性が見いだせるように設定。 ③製造量に関しては電池メーカー等にて塗布型電極試作が可能な量として 設定。 ナ ノ 複 合 体 【課題】 を 利 用 す る ・ 酸素構造安定化スピネルの長寿命化及びハイレート特性化をはかる。 ハ イ レ ー ト ・ 電池の高エネルギー密度化をはかるため黒鉛以上の容量を有する黒鉛複 対応新型リ 合化負極材料を開発する。 チ ウ ム イ オ 【目標】 ン 電 池 の 要 ・正極容量100 mAh/g、60℃容量保持率99.99%/cycle、60CAでの容量が 素技術開発 0.2CA容量の1/3 ( 正 極 、 負 ・負極容量 450 mAh/g, 70℃容量保持率99.5%, 60CAでの容量が0.2CA容 極)(佐賀大 量の1/3 学) 【目標の設定】 [正極] ・正極材料は、容量が90mAh/g以上になると高温(50-60℃)でのサイク ル劣化が激しくなるため、この値を100 mAh/g越えた高容量を設定。 ・サイクル特性は、1年間の高温日(60℃)が100日、70℃2日、低温日 の劣化率は60℃の1/2とし、1日1回の充放電で10年の寿命(初期容量 の70%)を確保できる値を設定。 ・車両加速時間を最大1分間程度(60CA)とし、車両を加速するのに耐え る容量(0.2CA放電の1/3)を設定。 [負極] ・現在の電池容量を10%以上増大させせることを目指し、負極材料の容量 は、現在最高レベルの黒鉛材料よりも100 mAh/g程度高い450 mAh/gと した。 ・容量保持率及びレート特性は正極に準じて設定した。 新 規 全 固 体 【課題】 リ チ ウ ム 二 ・窒化物と合金系材料および炭素材料との複合体を作成し、窒化物単独電 次電池用正 極の欠点であった不可逆容量の発生や充電からの開始が不可能という問 負極の高性 題を解決し、高容量負極の実現をはかる。 能 化 ( 正 ・安価金属であるFeとCuを用いたLi5FeO4とLi2CuO2を合成し、新規低コ 極 、 負 極 ) スト・高容量正極材料として材料組成の最適化、焼成条件の検討を行 ( 三 重 大 う。 18 学) 【目標】 ・Li2.6M0.4N(M=遷移金属)と炭素材料、合金、酸化物等との複合負極 で、有機電解液系で600mAh/g、100サイクル以上を目指す。 ・Li5FeO4 、Li2Ni1-xCuxO2において有機電解液系で容量200mAh/g以上、 100サイクル以上の特性を目指す。 ・三重大学のコインセルにおいてレート特性として正負極とも約1CAで 充放電を行った際に上記容量を維持することを目標とする。 【目標の根拠】 ・窒化物負極の単独での最大可逆容量は約900mAh/gである。複合化対象 として炭素材料を選んだ場合、その理論容量が375mAh/gであるから、 等量混合物の容量は約600mAh/gとなる。混合比率は構成材料が有する 不可逆容量の大きさによるが、窒化物を50%以上の主体として考え、 600mAh/g以上という目標値を設定。 ・正極では実用材料であるLiCoO2の容量である150mAh/gを超えることを 目指し、また同構造を有する材料系では最大容量を示すLiNiO2 に匹敵 する200mAh/gを設定。 ・サイクル数とレートはセル形態に依存するため、三重大学において採用 するコインセルにおいて実用材料であるLiCoO2 を試験した場合の性能 を凌駕する指標として1CAで容量低下がないという条件を設定。 19 表Ⅱ.2−6 電解質開発自主目標 電解質材料 高出入力、高安全な難燃性電解質・高分子電解質・固体電解質を開発す の開発目標 る。 電池の難燃 化・固体化の ための新規電 解質の研究 (ユアサコー ポレーション /産業技術総 合研究所) 高出入力リ チウム電池 用新規複合 電解質の開 発(トレキ オン) 中間目標(平成16年度) ・ 電池性能を低下させることなく、濫用時において安全性機構を簡 略化できる高安全性の技術を見通すこと。 最終目標(平成18年度) ・ 高出入力化に対応する電池性能として1800W/kg相当を達成する こと。 【課題】 ・リチウム電池の安全性向上のためには、揮発性・可燃性を有する有機電 解液に替わる、難燃性・難揮発性高安全性電解質が必要。 ・ 安全性向上のためには、難燃性または自己消火性を有すると共に漏液 を発生しない電解質が必要。 ・ PFG-NMR法による電解質評価と導電メカニズムの解明により材料設計 指針の提供が必要。 【目標】 ①漏液の抑制と出力特性を維持した固体化電解質の開発 ②常温溶融塩および/または難燃化剤による固体化電解質用難燃性液体電 解質の開発 ③高出力・高安全性を兼ね備えた難燃化・固体化電解質の小型実電池への 適用検証 電解質特性:イオン伝導度1mS/cm、電池特性:出力密度1800W/kg 【目標の根拠】 出力密度のプロジェクト目標を達成し、かつ、安全性を飛躍的に向上さ せた高出力特性と高安全性を両立する電池を実現するため、電解質の難燃 化技術と固形化技術の融合により、最適な電解質組成の提案を目指す。 【課題】 ・ 車載用リチウム電池の安全性を向上させるために、難燃性・自消性の ゲル又は固体高分子電解質開発が期待されている。 ・ ゲル又は固体高分子電解質開発は一般にイオン伝導性が劣るが、常温 以下の温度での高いイオン導電度と低い電荷移動抵抗が求められてい る。 【目標】具体的には下記の目標値を設定した。 イオン伝導度 : 10-3S/cm以上 (-20℃∼80℃) 電気化学窓 : -0.2V∼5V(vs.Li/Li+) 難燃性 : UL94VTM-0 パス 厚さ 30μm以下であって、無補強で使用出来ること 小さな電荷移動抵抗と速いLiイオン移動性を有すること 【目標の根拠】 車載用リチウム電池の安全性を確保するための難燃性・自消性、運転環境 下における電池の性能を確保するためのイオン伝導性・電荷移動抵抗、コ スト低減のためセパレータや補強剤の不使用などを満たすように設定。 20 全 固 体 型 リ 【課題】 チウム電池 車載用リチウム電池では、在来のものに比べ可燃性物質である電解質量 の高出力化 が大幅に増加するため、安全性に対する抜本的な対策が求められる。電 に関する研 解質に固体電解質を用いるとリチウム電池の構成材料をすべて不燃性と 究(電解質) することができ、安全性を確保できるものの、全固体型リチウム電池の (物質・材 出力電流は、一般的に液体電解質系のものに比べて小さく、出力特性の 料 研 究 機 向上が求められる。 構) 【目標】 ・ 全固体型リチウム電池の高出力化メカニズムの提案。 ・ 室温における出力電流密度5mA/cm2。 【目標の根拠】 ・ 車載用リチウム電池技術開発の出入力密度の目標値である1800W/kg を発生する電流密度に相当。 表Ⅱ.2−7 セパレータ材料他開発自主目標 セパレータ 濫用時の安全性を高める、耐熱セパレータ、PTC機能電極を開発する 中間目標(平成16年度) 材料他の開 ・ 高温時に熱収縮率3%以下のセパレータ、濫用時の140℃程度で 発目標 高安全PTC 機能電極・耐 熱セパレータ 技術開発(セ パレータ材料 他)(三菱電 機) 動作するPTC機能材料を作製する。 最終目標(平成18年度) ・ 高温時に熱収縮率1%以下のセパレータ、濫用時の130℃程度で 動作するPTC機能電極を開発する。 【課題】 リチウム二次電池を燃料電池自動車等に適用する場合は電池の安全性向 上が重要であり、異常動作時(濫用時)においても安全が確保される構成 部材及び機構が必要である。 【目標】 1)高温時に熱収縮率3%以下となるセパレータ膜の作製 2)濫用時想定温度(140℃)程度で動作するPTC機能材料の作製 電池の安全性向上のための方策として電池構成部材の耐熱性向上及び電池 内部の安全機能構築が必要と考えられ、安全性を確保可能と予想される物 性指標として上記目標値を設定 2.3 研究開発実施体制 経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部政策課の御指導のもと、 独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)は、独立行政法人等の公的研究 機関と密接な連携を保ち本プロジェクトを推進した。 研究開発は、表Ⅱ.2-8に示す研究担当との共同研究・委託(受託)によって行い、 「車載 用リチウム電池開発」では研究テーマ3つを4法人で、「高性能リチウム電池要素技術開 発」を研究テーマ9つを8法人が実施ししている。「車載用リチウム電池技術開発」で電 池開発実施する研究テーマ3つでは、それぞれ異なる電池系の研究開発を行い、開発目標 の達成を競い合う体制とした。また、「高性能リチウム電池要素技術開発」で実施する電 池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発では、2法人がそれぞれを分担し、相互 21 に情報交換して、電池開発の実施者と協力して効率的に進めることとした。 表Ⅱ.2-8 経済産業省 第1次基本計画における研究開発体制 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部政策課 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 ①車載用リチウム電池技術開発 株式会社日立製作所、新神戸 高出力長寿命型リチウム電池システムの開発(マンガン系) 電機株式会社 松下電池工業株式会社 高出入力長寿命型リチウム電池システムの開発(ニッケル系) 日本電池株式会社 燃料電池自動車用リチウム電池技術開発の車載用リチウム電池技術 開発(複合系) ②高性能リチウム電池要素技術開発 財団法人電力中央研究所 電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発(電池側からの 非破壊試験法確立のアプローチ) 独立行政法人産業技術総合研 電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発(解体試験等に 究所 よる電池構成部材からの評価技術確立のアプローチ) 独立行政法人産業技術総合研 ベースメタル元素を活用した新規酸化物正極材料開発(正極) 究所 佐賀大学 ナノ複合体を利用するハイレート対応新型リチウムイオン電池の要 素技術開発(正極、負極) 三重大学 新規全固体リチウム二次電池用正負極の高性能化(正極、負極) 株式会社ユアサコーポレーシ 電池の難燃化・固体化のための新規電解質の研究 ョン、独立行政法人産業技術 総合研究所 トレキオン株式会社 高出入力リチウム電池用新規複合電解質の開発 独立行政法人物質・材料研究 全固体型リチウム電池の高出力化に関する研究(電解質) 機構 三菱電機株式会社 高安全PTC機能電極・耐熱セパレータ技術開発(セパレータ材料 他) 22 2.4 研究の運営管理 研究開発全体の管理・執行に責任を有するNEDO技術開発機構は、経済産業省、及び、 本事業の実施先研究開発責任者と密接な連携を維持し、本事業の目的及び開発目標、並び に、各研究開発の目的及び目標に照らして、国内外の動向を見ながら、適切な運営管理を 実施している。 また、「高性能リチウム電池要素技術開発」における「電池総合特性並びに加速的耐用 年数評価技術の開発」の実施にあたり、財団法人電力中央研究所と独立行政法人産業技術 総合研究所では、燃料電池自動車等リチウム電池の評価技術検討委員会を設置し、大学や 国立研究所、電池ユーザー(自動車会社等)の意見を踏まえながら、プロジェクトを的確 に推進する体制とした(表Ⅱ.2-9) 。 表Ⅱ.2-9 「燃料電池自動車等用リチウム電池の評価技術検討委員会」の委員名簿 委員会名称 : 燃料電池自動車等用リチウム電池の評価技術検討委員会 氏 名 所 属 田中 祀捷 (委員長) 早稲田大学大学院情報生産システム研究科 教授 濱 純 福岡県工業技術センター・センター長(∼H15.3.31) 菅野 了次 東京工業大学院総合理工学研究科 教授 清水 健一 独立行政法人産業技術総合研究所 エネルギー利用研究部門 クリーン動力研究グループ 主任研究員 (H15.4.1∼) 稲葉 稔 同志社大学工学部機能分子工学科 助教授 中條 諭 財団法人自動車工業会 本事業においては、効率的に、加速的に推進しするために研究体制を構築した。「車載 用リチウム電池開発」においては、担当する各開発担当法人が独自の技術で競争的にそれ ぞれ電池系の優位性を最大限引き出すべく研究体制とした。これらの電池系で研究開発し た試作電池を、リチウム電池の長寿命化のための研究開発を推進するために、「高性能リ チウム電池要素技術開発」において「電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開 発」を担当する電力中央研究所、産業技術総合研究所に供試電池を提供し、加速的寿命評 価技術の開発に協力した。また、電力中央研究所と産業技術総合研究所は評価技術開発で 得られた内容については、それぞれの開発担当法人と情報共有を行い、技術開発の向上に 努める協力体制を構築し、相互に協力することとした。電池開発を担当する実施者と評価 方法開発を担当する実施者との間で、技術開発で詳細については機密保持協定を結び、電 池開発を担当する実施者の意欲を尊重する体制とした。さらに、「燃料電池自動車等用リ チウム電池の評価技術検討委員会」には、「車載用リチウム電池開発」の実施者はオブザ ーバーとして参加し、開発情報の提供や試験法に関する技術資料の提供、評価方法の検討 に協力した。 一方、「高性能リチウム電池要素技術開発」で電池材料の研究開発の実施では、リチウ ム電池の更なる性能向上、広範な状況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電池の 実現に向け、委託先の提案に基づく提案公募的な研究を採択した。各開発担当法人が独自 の技術で競争的にそれぞれ電池材料の優位性を最大限引き出すべく研究体制とした。 23 Ⅲ.研究開発成果について 1. 事業全体の成果概要 1.1 車載用リチウム電池技術開発 「車載用リチウム電池技術開発」では、車載用に必要な能力を有するリチウム電池の実 用化に向け、低コスト化が期待できる新規材料(低コスト化に優位なマンガン系、高出力 化に優位なニッケル系、両者の特性を引き出す複合系)をベースに材料の薄膜化、新構造 の開発等により、軽量・コンパクトでかつ低コストな高出入力・長寿命リチウム電池の開 発を行っている。 表Ⅲ.1-1 車載用リチウム電池技術開発 開発項目 高出力長寿命型リチウム 電池システムの開発 (マンガン系) (日立製作所/新神戸電 機) 高出入力・長寿命リチウ ムイオン電池の技術開発 (ニッケル系) (松下電池工業) 成果の概要 ハイブリッド車用ニッケル水素電池(出力密度:約1000 W/kg)の2倍の高出 入力密度と15年の長寿命を有する低コスト・高安全な燃料電池車用リチウ ム電池を開発する。5年計画の前半では単電池開発を重点的に進め、後半で は電池性能向上とともに車載可能な電池システムを開発し、最終年度に車 載・実証試験を実施する。 平成14年度では単電池材料探索を進め、正極材料のパルス放電曲線解析技 術、負極材料のパルス抵抗評価技術を開発した。単電池構造開発では捲回式 角形電池構造について捲回群構造、封口技術、集電技術等を検討し、その加 工に関わる要素技術を開発した。 平成15年度では平成14年度に探索した電池材料をベースに長寿命化、高出 力化を図ると共に、角形単電池構造の改良を進め出入力密度、エネルギー密 度の目標達成度を検証した。さらに、角形単電池の濫用試験、振動・衝撃試 験を推進した。また、車載用電池モジュール構造の基本検討を行うと共に制 御システムの基本設計をも合わせて推進した。 燃料電池自動車、ハイブリッド電気自動車等のクリーンエネルギー自動車 の普及促進を図るために、これら自動車の高効率化と負荷特性応答性の向上 を目指して、軽量・コンパクトでかつ低コストな高出入力・長寿命リチウム イオン電池を開発する。平成14年度、平成15年度は要素技術開発を中心 に基本仕様を確立し、単電池の原型開発を行った。 正極には、安全性、サイクル寿命特性の点で課題を有していたニッケル酸 リチウム正極活物質のNi元素の一部をCoおよびAlで置換、固溶し、結晶構 造の安定化を図ることで熱安定性を向上し、パルスサイクル寿命特性の大幅 な改善を図った。また活物質合成プロセスの改良により高出入力化を図っ た。負極には高率充放電パルスサイクル寿命特性に適した新規炭素材料を開 発し長寿命化を図った。これらの要素技術を用いた5Ah級単電池の原型開発 を行い、目標達成度を検証した。また、単電池の放熱特性、モジュール化、 パック化に向けた体積効率の確保をも視野に入れ、新規に10Ah級角形単電 池を開発した。生産性に優位な捲回式の電極群構成方法を確立し、5Ah級単 電池に比べ更に低抵抗となるようなタブレスの集電構造を開発した。電池容 量は10Ahの定格容量を満たすことを確認しており、各種電池特性確認試験 を実施した。 24 燃料電池自動車等用リチ ウム電池技術開発の車載 用リチウム電池技術開発 (複合系) (日本電池) 1.2 正極材料にマンガン系、ニッケル系、両者の特性を引き出せる複合系、お よび試験対照としてコバルト系の材料を、負極材料に黒鉛系および難黒鉛化 性の炭素材料を用いて試験用小型電池を作製し、その性能を評価した。その 結果、正極材料には入力およびエネルギー密度の点でニッケル系および複合 系のものが、負極材料には出入力性能の点で難黒鉛化性炭素が優位であるこ とがわかった。 正極材料に複合系の材料を、負極材料に難黒鉛化性炭素を用いて最終目標 の約1/3サイズの4Ah級単電池を設計し、試作した。この単電池の出入力密 度は2,400W/kg以上、エネルギー密度は52Wh/kgであった。安全性は、釘刺 し試験においては破裂・発火のないことを確認できた。また、ラミネート製 ケースを用いた軽量タイプの電池の開発では、主に電池の構造および製造方 法の検討をおこなった。 また、最終目標の約1/3サイズの4Ah級単電池を用いて、車載時を想定し た組電池モジュールの基本設計等をおこなって、冷却効果、組立てコスト、 信頼性等を考慮した電池の配列法を開発した。 高性能リチウム電池要素技術開発 「高性能リチウム電池要素技術開発」では、リチウム電池の更なる性能向上に向け、出 入力特性解析、劣化機構解析などに基づく電池総合特性評価技術並びに加速的耐用年数評 価技術の開発を行うとともに、広範な状況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチウム電 池の実現に向け、新規電極材料や固体高分子電解質など要素技術の開発を行っている。 表Ⅲ.1-2 高性能リチウム電池要素技術開発 開発項目 電池総合特性試験並び 評 に加速的耐用年数評価 価 技術の開発 技 (電池側からの非破壊 術 試験法確立のアプローチ) (電力中央研究所) 電池総合特性試験並びに加速的耐用年数評価技術の開発 成果の概要 電池総合特性試験法として、米国・欧州および日本における電気自動車 やハイブリッド自動車のための電池に関する試験法を調査し、内容を分 析整理した。燃料電池自動車に車載するリチウム二次電池の評価項目と 試験方法をまとめた。それにもとづき、小容量電池等による試験での手 順検討を行った。また、非破壊試験法による劣化機構解析のため、AC インピーダンススペクトル測定や精密熱量計による小容量電池の計測を 行った。定性的に電池性能劣化に伴う内部インピーダンスの増加や周囲 温度・充電状態(SOC)に依存する内部発熱傾向を把握した。 加速的耐用年数評価技術を開発するため、車載用電池の小容量セルの 提供を受け、実用模擬試験、保存試験およびパルス寿命試験を実施し た。その結果、加速因子として電池周囲温度と充電状態を抽出した。ま た、経時的な劣化とサイクル劣化の和が、実使用模擬状態でのカレンダ ー寿命の劣化に相当するとの見通しを得た。 25 燃料電池自動車用電池としてのリチウム電池の実用化の促進のために必 要不可決な加速的耐用年数評価技術の開発を目標とし、非破壊試験を行 う電力中央研究所と連携を取りながら、解体試験により電池内部の構成 電池総合特性試験並び 材の劣化因子の抽出を進めている。モデル電池を製作し、劣化因子とし に加速的耐用年数評価 てまず電極材料の結晶構造変化に着目してサイクル劣化との相関を検討 技術の開発 したところ、材料系によって容量低下に対する結晶構造変化の影響に違 (解体試験等による電 いのあることを明らかにした。また熱に着目した信頼性評価結果より、 池構成部材からの評価 電池の分極による電力損失分以外の発熱が観測され、劣化反応の存在が 技術確立のアプローチ) 示唆された。サイクル経過に伴い発熱量が増大したが、インピーダンス (産業技術総合研究所) 測定結果における反応抵抗の増大との関連性を見出した。さらに保存試 験で温度条件が最も保存特性に影響すると言う結果を得たが、今後、温 度の影響を最も受ける因子を特定し、熱測定や電池部材の劣化の調査を 進め、加速試験法を確立する。 表Ⅲ.1-3 高性能リチウム電池要素技術開発(正極・負極) 開発項目 正 極 ・ 負 極 材 料 成果の概要 10年以上の耐用年数を持つ燃料電池自動車等用のリチウム二次電池の開発及 びその普及促進に資するため、最も重要な構成材料の一つである正極材料を 資源的に豊富でかつ安価な元素(ベースメタル元素)で設計し、正極材料の低 コスト化と安定供給を目的とした研究開発を行う。対象とするベースメタル 元素としては鉄を最も重要な元素と位置づけている。今まで鉄酸リチウム ベースメタル元素を (LiFeO2)を代表とする様々な酸化物が正極材料として検討されてきたが3V 活用した新規酸化物 以上の高い作動電圧で充放電可能な材料は見いだされていなかった。一方低 正極材料開発 コスト正極として期待されるマンガン酸リチウムは高温(50℃以上)での充放 (正極) 電特性サイクル劣化が著しくその問題解決法として新規正極材料開発が必要 (産業技術総合研究所) とされてきている。上記背景を鑑み本プロジェクトはマンガン酸リチウム (LiMn2O4)並の低コスト性、省資源性を保持しかつ充放電特性及び耐用 年数において優れるリチウムイオン二次電池用新規ベースメタル系酸化物正 極材料を開発するとともに、その量産のための100g/バッチの製造基礎技術 を確立する。 [正極] 佐賀大学は2001年にスピネル中の酸素欠損がサイクル劣化の最 大の原因であること明らかにした。更に、本プロジェクトにより、酸素 量論スピネルのうち、不活性ガス下660℃で焼成しても酸素欠損を生じ ないスピネルを酸素構造安定化スピネルと称し、この新たな発見により このタイプのスピネルの実用化に大幅な進展を見た。即ち、酸素構造安 ナノ複合体を利用す 定化スピネルは、高温でのサイクル劣化が著しく小さく、スピネル正極 るハイレート対応新 の長寿命を保証するものであった。また、酸素量論スピネルを使用して 型リチウムイオン電 も、層状系4V級正極材料で被覆処理を施すとレート特性を損なうこと 池の要素技術開発 なく高温サイクル特性が改善でき、かつマンガン溶解量も抑制できるこ (正極、負極) と発見した。 (佐賀大学) [負極] 黒鉛と高容量のシリコンを複合化し、450 mAh/gの容量で約100 サイクルの寿命を実現し、長寿命化の指針を明らかにした。また、本材 料系に銀微粒子等を加えた複合化は、更なるサイクル寿命の改善に有効 なことを見出し、本手法が錫系の材料に応用できることを確認した。 これらの研究に関する成果は2件の特許申請、19件の研究論文、2 2件の講演というかたちで外部発表している。 26 新規全固体リチウム 二次電池用正負極の 高性能化 (正極、負極) (三重大学) 容量とサイクル特性に優れた正負極新規材料の開発を行った。負極とし て 窒 化 物 を 主 体 と す る 種 々 の 複 合 電 極 を 検 討 し た 。 MCMB と Li2.6Co0.4Nの組み合わせでは、炭素材料特有の不可逆容量を発生させ ずに初期効率100%、500mAh/gの容量を発生させることに成功した。 Si・グラファイト・窒化物の3成分複合体において、800mAh/gの容量規 制でサイクルを行ったところ、100%の効率で20サイクル以上充放電を 行うことができた。酸化物であるCoOと複合化した場合は約550mAh/g で優れたサイクル特性を示した。正極材料ではこれまでに検討されたこ とのない結晶構造を有し、安価なFeやCuを含む材料を取り上げた。逆 蛍石型構造を有するLi5Fe1-xMxO4(0<x<1)においてFe100%の場合に 200mAh/g の 容 量 で 20 サ イ ク ル を 達 成 し た 。 1 次 元 鎖 状 構 造 を も つ Li2Cu1-xNixO2において容量規制でサイクル試験を行ったところ目標値 を超える250mAh/gでカットオフした場合でも容量劣化なしに20サイク ルを達成した。 表Ⅲ.1-4 高性能リチウム電池要素技術開発(難燃化) 開発項目 電池の難燃化・固体化 電 のための新規電解質の 解 研究 質 (ユアサコーポレーシ 材 ョン/産業技術総合研 料 究所) 高出入力リチウム電 池用新規複合電解質 の開発 (トレキオン) 成果の概要 有機電解液系において安全性に最も影響を及ぼす可燃性・液漏れの克服 のため、難燃性液体電解質の探索と高分子材料を用いた固形化の手法の 開発を行っている。難燃性液体電解質としては常温溶融塩或いは難燃化 剤添加有機電解液の検討を行い、難燃性の高い電解質組成を見出した。 常温溶融塩ではさらに導電率向上を目指す必要性がある。次に難燃性液 体電解質の固体化を検討し、固体化に供する高分子材料の架橋密度と漏 液防止性の関係を調べた。これらの電解質の動的特性評価をパルス傾斜 磁場勾配NMR法により行い、その結果全ての可動イオン中リチウムイ オンの移動は最も遅く、アニオンの種類や濃度にほとんど依存しない傾 向が得られた。今後は以上の結果を活用しながら、高出力電池用の電解 質設計の絞り込みを行う。さらに液体電解質の最終的な評価の一環とし てリチウム金属を利用した特性と安全性の評価を行うと共に、固体化電 解質について小型実電池における出入力特性と安全性の評価を行う。 難燃性、自消性のゲル高分子電解質として、電気化学的に比較的安定な 脂肪族、脂環族系の新規イオン性液体を数種選択し、ホストポリマーで あるポリフッ化ビニリデンとイオン性液体を複合化させ、高分子/イオン 性液体複合電解質を「高分子複合電解質の燃料セル用リチウム電池用途 向け応用研究」として作製した。その結果、当初掲げた本研究の目標特 性を満たす最適処方を見出し、成膜条件と構造、物性の関係を明らかに して高イオン伝導度(>3mS/cm)と十分な力学的強度(<10μm)の両特性 を兼ね備えたゲル高分子電解質処方を確立した。低温域においても、30℃まで1mS/cm以上のイオン伝導度を維持させることを可能とし、良 好な低温特性を示す処方を見出した。更に、本電解質と最適な活物質と して正極にLiMn2O4、負極に難黒鉛化性炭素、そして導電剤などを選 定し、電極/電解質界面抵抗低減のため、高分子/イオン性液体複合電解 質を含有する電極を試作した。コインセルによる電池性能試験を行い、 難燃性のゲル高分子電解質使用リチウム電池の常温作動(Li充放電)を 確認した。 27 安全性に対する懸念は、電解質に可燃性の有機溶媒を用いるリチウム電池の 本質的な問題である。本研究は広範囲な条件下で安全性を保持しうる不燃リ チウム電池の開発を目的とする。全固体型リチウム電池を車載用電池として 展開する上での大きな課題は、出力密度が液体電解質系のものに比べて小さ 全固体型リチウム電 なことである。全固体型リチウム電池を高出力化し、車載用リチウム電池と 池の高出力化に関す して使用可能なものとする要素技術として、電極活物質材料/固体電解質材 る研究 料界面への修飾層の形成による界面イオン伝導の高速化、ならびに電池材料 (電解質) の微粒子化による電極活物質材料/固体電解質材料界面面積の増大を検討す (物質・材料研究機構)る。 H14∼H15は、界面修飾材料を探索するための、電極活物質材料/固体電解 質材料の薄膜界面の作製に成功した。また、電池材料の微粒子化について は、気相法を用いることにより固体電解質粒子の粒径を数十ナノメートルま で微細化することに成功した。 表Ⅲ.1-3 高性能リチウム電池要素技術開発(セパレータ材料など) 開発項目 成果の概要 耐熱セパレータ開発に関しては、セラミック粉体と樹脂から構成される「無 機・有機複合セパレータ膜」を基本コンセプトとし、セラミック粉体と樹脂 の種類、配合比、製膜プロセスの探索・検討を行い、複合セパレータ膜を試 作した。この試作膜の加熱試験を行った結果、セラミック粉体と樹脂の最適 セ 高安全PTC機能電 化により低収縮性多孔質膜が作製可能となる見通しを得た。さらに試作膜を パ 極・耐熱セパレータ技 用いたリチウム電池は、従来のポリオレフィンセパレータ膜を使用した電池 レ 術開発 と同等の電池特性が得られることがわかった。PTC機能電極開発に関して | (セパレータ材料他) は、キーマテリアルであるPTC材料の原料種・組成を探索・検討し、電極用 タ (三菱電機) 材料となるPTC材料候補を選定した。また候補材料微粒子を使用したPTC微 他 粒子複合正極板を試作した。この試作正極板を用いた電池の基礎特性評価を 行い、正極板として使用可能であることを確認した。さらに放電時における 電池電圧の温度依存性評価を行った結果、電圧降下特性を有することを確認 し、本電極が電池安全性向上に対して有効である可能性を見出した。 28 2. 事業全体の詳細 2.1 車載用リチウム電池技術開発 (1) 高出力長寿命型リチウム電池システムの開発(マンガン系) 株式会社 日立製作所、新神戸電機 株式会社 1. 概要 ハイブリッド車用ニッケル水素電池(出力密度:約1000 W/kg)の2倍の高出入力密度と15 年の長寿命を有する低コスト・高安全な燃料電池車用リチウム電池を開発する。5年計画 の前半では単電池開発を重点的に進め、後半では電池性能向上とともに車載可能な電池シ ステムを開発し、最終年度に車載・実証試験を実施する。 平成14年度では単電池材料探索を進め、正極材料のパルス放電曲線解析技術、負極材料 のパルス抵抗評価技術を開発した。単電池構造開発では捲回式角形電池構造について捲回 群構造、封口技術、集電技術等を検討し、その加工に関わる要素技術を開発した。 平成15年度では平成14年度に探索した電池材料をベースに長寿命化、高出力化を図ると 共に、角形単電池構造の改良を進め出入力密度、エネルギー密度の目標達成度を検証した。 さらに、角形単電池の濫用試験、振動・衝撃試験を推進した。また、車載用電池モジュー ル構造の基本検討を行うと共に制御システムの基本設計をも合わせて推進した。 2. 成果の詳細 2.1 開発目標 本開発の5年計画の後半では車載試験を中心とした研究開発を推進し、最終年度の平成 18年度には実車走行試験を行う予定である。そのためには、平成17年度に開発目標(表1.1 −1)が達成可能な電池システムの開発が不可欠である。これを前提に自社目標(表1.1−1) を設定した。 表1..1-1 自社目標および開発目標 自社目標 項目 H16年度 入出力密度 重量エネル ギー密度 コスト H15年度 単電池 2500W/kg 65Wh/kg - 単電池 2800W/kg 75Wh/kg コスト試算実施 モジュール 1700W/kg 55Wh/kg - 安全性 - 濫用試験の実施 - 開発目標 最終年度(H18) モジュール 1800W/kg 70Wh/kg 5万円/kWh 車載における濫用、 使用環境に耐える 2.2 単電池開発 2.2.1 材料開発 非晶質炭素および黒鉛の基本性能(出入力、容量)をモデルセルで、負極について評価し た結果、非晶質炭素の方が黒鉛より容量は劣るものの、抵抗が低く(図1.1−1)、出入力性 能、特に入力性能が黒鉛の2倍近い値を示した。開発の目的が、出入力が重要視される燃 料電池車用の電源であることから、総合的に判断し非晶質炭素を負極材料に選定した。 資源豊富なMn系材料をベースに探索範囲を拡大し、異種元素置換新規結晶構造の正極材 料を高出力、高容量、長寿命の観点から探索し、新規な異種元素置換LiMnxMyO2(Mは遷移 金属元素)正極材料系を選定し、140∼150 Ah/kgの大きな放電容量の材料を開発した。さ 29 らに正極活物質の粒子構造を改良し、高出力化を狙った粒子構造制御材Aはパルス放電試 験の結果、粒子構造を制御していないB、Cに比較して極めて抵抗が低く、高出力が期待で きることを確認した(図1.1−2)。以上の結果から、飛躍的な性能向上が期待できる新規な 4.3 4.4 4.2 4.2 非晶質 4.1 4.0 黒鉛 4.0 電圧 (V) モデル電池電圧( V) 粒子構造制御材を正極材料に選定した。 ΔV 3.9 3.8 B C 3.4 10秒目電圧 R=ΔV/I 0 5 10 15 放電電流(C) 図1.1-1 放電時の黒鉛と非晶質炭素とのI-V特性比較 A 3.6 I 3.8 3.7 低抵抗 1C、-30℃ 3.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 時間(秒) 図1.1-2 正極材料の低温下でのパルス放電 選定した正負極材料の電極仕様(電極組成、電極密度など)を設計し、設計電極を適用し た先行試作の円筒形電池の寿命試験を自社基準の試験法により実施した。予測推定寿命は 15年であり、選定材料が開発目標の15年寿命が達成可能な能力を有する材料系であるとの 見通しを得た。 2.2.2 構造開発 本開発では低コスト化を考慮に入れ、高価な生産設備であるレーザー溶接機を用いない プレス加工技術の一種であるカシメ構造による封止技術を採用した。角形カシメ構造とそ の生産技術開発のため、カシメ装置と最適なカシメ工程を開発し、構造の信頼性を向上し た。本開発電池は大電流が想定されるため、集電部のわずかな抵抗が出入力特性に大きく 影響する。そこで、集電構造及び材料の総合的な改良を行い集電部の抵抗を低減した。こ れら開発技術を適用した車載用の10Ah級角形単電池(図1.1−3)を試作・評価し、入力密度 2500W/kg、出力密度3000W/kgを得た(図1.1−4)。 自社目標に対する達成度は入力密度が100%(対自社目標平成15年度)、89%(対自社目標 平成16年度)、出力密度が120%(対自社目標平成15年度)、107%(対自社目標平成16年度) であった(表1.1−2)。重量エネルギー密度は70Wh/kgであり、その達成度は108%(対自社 目標平成15年度)、93%(対自社目標平成16年度)であり、平成15年度の自社目標を達成し た。 30 表1.1-2 自社目標に対する達成度 項 目 単電池目標 (H15年度) 単電池目標 (H16年度) 入力密度 2500W/kg 2800W/kg 出力密度 2500W/kg 2800W/kg 重量エネルギ ー密度 65Wh/kg 75Wh/kg 開発実績 (H15年度) 2500W/kg (達成度100% 対H15) (達成度89% 対H16) 3000W/kg (達成度120% 対H15) (達成度107% 対H16) 70Wh/kg (達成度108% 対H15) (達成度93% 対H16) 5000 入出力密度 (W/kg) 入力 4000 3000 2000 1000 0 図1.1-3 試作角形単電池の外観写真 2.3 出力 0 50 SOC (%) 100 図1.1-4 角形単電池の入出力特性 モジュール開発 2.3.1 構造開発 電池モジュール設計の基礎データ取得し、構造設計においては単電池の発生電力の損失 を最小限に留め高出力化を図るため、単電池間の接続構造の設計・検討を進めた。また、 単電池の熱特性を評価し、熱設計の指針を得るとともに車載を考慮した電池モジュール設 計のため、単電池の振動・衝撃試験を行い、単電池レベルで車載環境に対して問題がない ことを確認した。 総合的な電池モジュール設計のため、円筒形電池、ラミネート電池をも試作・評価し、 評価結果を基に電池モジュールの出入力密度および重量エネルギー密度を設計ベースで求 めた(表1.1−3)。出入力密度はいずれの電池形状においても開発目標達成を見通せる結果 であった。しかしながら、重量エネルギー密度の達成度の見通しは76∼80%であり、今後 改良を進める。 31 表1.2.1-3 電池モジュール設計値 表1.1-3 電池モジュール設計値 項目 角形電池 円筒形電池 ラミネート電池 自社目標 (H16年度) 開発目標 (H18年度) 入力密度 1950W/kg (115%)* (108%)** 1950W/kg (115%)* (108%)** 2300W/kg (135%)* (128%)** 1700W/kg 1800W/kg 出力密度 2300W/kg (135%)* (128%)** 2300W/kg (135%)* (128%)** 2600W/kg (153%)* (144%)** 1700W/kg 1800W/kg 重量エネルギ ー密度 53Wh/kg (96%)* (76%)** 53Wh/kg (96%)* (76%)** 56Wh/kg (102%)* (80%)** 55Wh/kg 70Wh/kg *自社目標に対する達成度 **開発目標に対する達成度 2.3.2 システム開発 2.3.2.1 制御アルゴリズム開発 燃料電池自動車の車両総合シミュレーションで、一般的な都市走行パターンでの燃料電 池自動車とハイブリッド自動車の二次電池負荷パターンとを比較し、燃料電池自動車の方 がハイブリッド自動車より放電深度が大きく、急峻な負荷変動は主に二次電池が応答して いる結果を得た。この結果を制御アルゴリズムに反映させ、電池状態検知アルゴリズムの 基本構想をまとめた。 2.3.2.2 制御システム試作・試験 制御アルゴリズムの開発成果に基づき、電池制御回路の部品点数の低減による信頼性向 上と体積、コストの大幅削減を目的として、カスタムIC(集積回路)基本設計のために、IC 化に適した制御回路を設計した。設計の結果、部品点数が50%以下になることがわかった。 さらに、IC要求仕様に基づき、IC開発メーカーを選定してICの詳細設計を進めた。 2.4 劣化電池解析 小型電池を試作し、財団法人電力中央研究所、独立行政法人産業技術総合研究所の試験条 件を参考に寿命試験を開始した。 32 (2) 高出入力・長寿命型リチウムイオン電池の開発(ニッケル系) 松下電池工業株式会社 1.電池材料の高性能化 正極については、長寿命化、熱安定性確保、出入力向上が大きな課題であり、これらを 中心に高性能化を図った。長寿命化については、ニッケル系酸化物LiNiMO2を中心に元素 MとしてCoおよびAlで置換、固溶することにより結晶構造の安定化を図った。またCoおよ びAlの固溶方法としては、一般に用いられている粉体での混合、熱処理法ではなく、共沈 法と呼ばれる液体での固溶体を合成した。CoおよびAlの固溶量としてはそれぞれ30%、 17%が最適であることを見出し、後述の5Ah級単電池を用いた放電深度(DOD)幅3%とした パルスサイクル寿命試験において、45,000サイクルを経過し容量維持率97%であり、出力低下は未だ 見られていない(図1.2.2−1) 。 熱安定性についてはCoおよびAlを固溶することによる結晶構造の安定化により充電状態に おける熱分析(DSC)の結果、熱分解温度が300℃以上であることを確認し、一般に熱安定性 が高いと言われているLiMn2O4と同等以上の熱安定性を確保することができた。 出入力向上については、ニッケル酸リチウムの合成プロセスの改良を行い、従来比40%の 出入力向上を可能とした。 (図1.2.2−2) 。 負極については、主に長寿命化の観点から大電流によるパルス充電およびパルス放電のサイク ル寿命特性に優れる炭素材料の開発に注力した。難黒鉛化性炭素材料と黒鉛材料について、 種々のパルスサイクル寿命試験を行った結果、高率充電パルスについては難黒鉛化性炭素材料が優 れ、高率放電パルスについては黒鉛系材料の方が若干優位であることを見出した。また、難 黒鉛化性炭素材料は初期効率が低いために電池容量の低下が大きいことが欠点であった。 このような知見に基づき新規に負極炭素材料の開発を試みた。炭素前駆体レベルでの構造 制御を行い、更に黒鉛化の条件をも制御することで、得られる炭素材料をリチウムイオン の吸蔵、放出に適した構造にコントロールし、高率パルス充電および高率パルス放電の双方に 優れ、初期効率も黒鉛材料に近づけた新規の特殊黒鉛化処理炭素Aを開発した(図1.2.2− 3) 。 2. 5Ah級単電池の開発 電池材料の高性能化により、活物質の反応抵抗成分を低減化し高出入力化を図った。単電 池の開発では、正、負極板作製に係る源泉工程(合剤ペーストの調合、集電芯材への合剤 ペーストの塗工、圧延)のプロセス技術開発を行うと共に、特に高出入力化の電極構造、 集電構造の観点から、正極板、負極板にそれぞれ合剤未塗工部を設け、1枚の集電板を芯 材端部の合剤未塗工部分に直接溶接して集電するタブレスの集電構造を具現化し、電池の 構造部材抵抗成分を低減化した。また電極を薄型、長尺化することにより反応面積の拡大 を図り、電池の反応抵抗成分を低減化し高出入力化を可能とした。 これらの電極設計、集電構造を用い、最終的な10Ah級単電池の開発に先行し5Ah級の円 筒形単電池の開発を行った(図1.2.2−4)。その結果、重量エネルギー密度87.5Wh/kg、体 積エネルギー密度186.2Wh/l、出力密度3,327W/kg(SOC50%、10秒、25℃)、入力密度 2,849W/kg(SOC50%、10秒、25℃)が得られ、高出入力型単電池の原型開発を具現化した。 33 カレンダー寿命についても各種温度環境下で試験を行い、84日間を経過し容量低下、出力低下 は未だ見られていない(図1.2.2−5) 。最終目標である15年を目指して加速寿命評価法の開 発と寿命推定技術の構築を検討中である。安全性に関しては、釘刺し試験、圧壊試験、外 部短絡試験、過放電試験、水中投下試験の結果、いずれも発火、破裂なしであり、釘刺し 試験と圧壊試験においては発煙が認められた。しかしながら連続過充電試験においては発 火、破裂に至る結果となり、放熱特性を含めた電池構造の見直しを含めて検討中である。 3.10Ah級単電池の開発 上記5Ah級単電池の開発で採用した電極構造、集電構造を応用し、単電池の放熱特性、モ ジュール化、パック化に向けた体積効率の確保をも視野に入れ、新規に10Ah級角形単電池 の開発を行った。円筒形同様に生産性に優位な捲回式の角形電極群構成方法を確立し、 5Ah級単電池に比べ更に低抵抗となるようなタブレスの集電構造を開発した(図1.2.2−6)。 その結果、重量エネルギー密度76.5Wh/kg、体積エネルギー密度144Wh/l、出力密度 1,725W/kg(SOC50%、10秒、25℃)、入力密度1,616W/kg(SOC50%、10秒、25℃)が得ら れた(図1.2.2−7) 。5Ah級単電池に比べ電池構造部材の重量比率が大きいために電池構造 部材の軽量化に取り組み、最終自主目標として80Wh/kg以上、出入力密度2,000W/kg以上 を目指す。現在、電池組立条件、電極設計仕様、電解液量の最適化などについて検討中で 80 80 60 60 40 40 20 20 0 0 0 20000 40000 60000 80000 サイクル数 -20 100000 120000 図1.2.2−1 5Ah級単電池のパルスサイクル寿命特性 出力密度/W/kg(SOC50%, 10秒, 25℃) 100 DC-IR 増加率 /% 容量維持率 /% あり、各種電池特性確認試験を実施の予定である。 3500 40%出力向上 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 従来合成法正極 改良合成法正極 図1.2.2−2 正極活物質合成プロセス改良による 出力密度の向上 34 80 80 60 60 DC-IR増加率 /% 容量維持率 /% 100 40 難黒鉛化性炭素材料 40 20 20 0 特殊黒鉛化処理炭素A 0 0 20000 40000 60000 -20 80000 100000 サイクル数 図1.2.2−3 図1.2.2−4 5Ah級単電池の外観写真 負極炭素材料の違いによるパルスサイクル寿命特性 (正極:LiNi0.53Co0.3Al0.17O2 DOD3%, 充電10C, 放電20C) 80 60 60 40 40 20 20 0 0 DC-IR増加率 /% 80 保存条件:SOC50%, 60℃ 28日間毎に容量測定、 DC-IR測定, 25℃ 図1.2.2−6 10Ah級角形単電池の外観写真 -20 0 50 100 150 200 250 300 保存日数 /days 図1.2.2−5 5Ah級単電池の高温保存特性 4.5 4.0 電圧 /V 容量回復率 /% 100 3.5 3.0 充電:3.3A to 4.2V 放電:3.3A to 2.5V 温度:25℃ 2.5 2.0 0 図1.2.2−7 35 2 4 6 容量 /Ah 8 10 12 10Ah級角形単電池の初期充放電特 (3) 燃料電池自動車等リチウム電池技術開発の車載用リチウム電池技術開発(複合系) 日本電池株式会社 開発概要 本開発では、燃料電池自動車等に車載されるリチウム電池に必要な高出入力密度、高エ ネルギー密度、長寿命および高安全な性能を有し、かつ低コストな電池を開発する。その ために、前半の3年間では、電池材料の基礎技術開発をおこないながら、最適な材料の開 発および絞込みを進めて、最終目標の約1/3サイズの単電池(以下、1/3サイズの単電池と 称す)及び組電池の開発をおこなう。後半の2年間では、電池材料のさらなる高性能化を はかりながら、1/3サイズの単電池および組電池からのスケールアップをおこない、最終目 標性能を満たす組電池システムを開発する。そのために、電池材料の開発成果や、1/3サイ ズ単電池及び組電池の評価結果のフィードバックをおこないながら、的確に開発を進める。 平成14年度には、電池材料の基礎技術開発を進めた。また、各種材料の基本性能評価を おこなって、最適化および絞込みをおこなった。平成15年度には、平成14年度の開発成果 を発展させて、本プロジェクトの用途に必要な評価試験も実施して、材料の絞込みをはか った。また、1/3サイズの単電池の設計および試作をおこない、その性能を評価した。さら に、電池の軽量化をはかるために、新規な形状の電池の開発を進め、単電池の試作および 評価をおこなった。また、これらの単電池を用いて、組電池モジュールの基本設計等をお こなった。 開発成果 リチウム電池においては、一般に、出入力密度とエネルギー密度とはトレードオフの関 係にある。本開発では、このプロジェクトの燃料電池自動車等に車載されるリチウム電池 に必要な性能として、より重要と考えられる高い出入力密度を保持しながら、エネルギー 密度を向上させることを目標として検討を進めた。 リチウム電池の性能は、電池を構成する材料によって大きな影響を受けるので、その開 発および選択は非常に重要である。電極材料や電解質等の電池材料について基礎技術開発 をおこなってその最適化を進め、要求性能を満たすように性能を向上させることが不可欠 であると考えられる。とくに、電極材料は、最も重要な検討項目の1つである。また、本 開発の目標は極めて高いので、単電池や組電池においても、構造や配列の検討だけでなく、 新たな材料の開発や導入も必要であると考えられる。 開発した材料は、その性能評価を進めながら、単電池に適用した。単電池の容量は、最 終目標では10Ah程度のものが必要となるが、ここでは、1/3サイズの単電池を用いて性能 評価をおこない、問題点の抽出を進めた。また、要求される性能には、相互にトレードオ フの関係にあるものも含まれている。諸性能を総合的に判断しながら、開発と評価とを並 行しておこない、相互にフィードバックをかけながら開発を進める必要がある。 組電池の開発においても、1/3サイズの単電池を用いて検討をおこなった。 (1) 電池材料の基礎技術開発 最も重要な検討項目の1つである電極材料の開発をおこない、最適化および絞り込みを おこなった。正極材料には、低コスト化に優位なマンガン系のLiMn2O4、高出力化に優位 36 なニッケル系のLiNi1-xMxO2(Mは遷移金属)、両者の特性を引き出せる複合系のLiNi1-xyMnxMyO2 (Mは遷移金属)、および試験対照としての既存材料であるコバルト系のLiCoO2 を用いた。負極材料には、黒鉛系および難黒鉛化性の炭素材料を用いた。これらの電極材 料を用いて作製した正極板および負極板を用いて、合計8種類の試験用小型電池を作製し、 その性能を評価した。 正極材料の性能を比較するために、負極材料に黒鉛系炭素を用いた場合および難黒鉛化 性炭素を用いた場合の出力密度、入力密度、エネルギー密度および安全性試験の結果を表 1.3−1に示す。この表における出力密度等の数値は、マンガン系の値を100としたときの 相対値で示した。この表から、正極材料としては、入力性能およびエネルギー密度の点か ら、ニッケル系および複合系のものが優位であることがわかった。また、マンガン系の材 料は、とくに釘刺し試験における安全性に優れることがわかった。 以上より、正極材料には、安全性に優れるマンガンを含む複合系の材料が優位であると 考えられる。今後の検討では、個々の材料の特徴を活かした材料開発が必要と考えられる。 表1.3−1 各種正極材料を用いた小型電池の性能比較(正極材料の比較。出力、入 力、エネルギー密度は、マンガン系の値を100としたときの相対値(%)) a) 負極材料に黒鉛系炭素を用いた場合。 正極種 Mn系 Ni系 複合系 Co系 出力密度 入力密度 エネル ギー密度 100 100 100 90 211 136 76 198 123 98 157 136 釘刺し ○ × × × 安全性試験 過充電 オーブン ○ ○ ○ △ △ △ × △ b) 負極材料に難黒鉛化性炭素を用いた場合 正極種 Mn系 Ni系 複合系 Co系 備考 安全性試験 出力密度 入力密度 エネル ギー密度 釘刺し 過充電 オーブン 100 100 100 ○ △ ○ 92 174 141 × ○ △ 86 159 104 × ○ ○ 98 140 133 × × △ 安全性の指標は、○:問題なし、△:ほぼ問題なし、×:要改善を示す。 つぎに、負極材料の性能を比較するために、正極材料に複合系のものを用いた電池の評 価結果を表1.3−2に示す。この表から、とくに出入力性能の点において、難黒鉛化性炭素 材料を用いたものが黒鉛系のものより優れていることがわかった。一方、難黒鉛化性炭素 材料を用いた場合にエネルギー密度が小さくなる点は、今後の検討課題である。 また、これらと並行して、電極材料の粉体改質装置の開発も進めた。 37 表1.3−2 各種負極材料を用いた小型電池の性能比較(負極材料の比較。正極材料は複 合系。出力、入力、エネルギー密度は、黒鉛系の値を100としたときの相対値(%) 負極種 黒鉛系 難黒鉛化性 出力密度 入力密度 エネル ギー密度 100 100 100 118 129 69 備考 釘刺し × × 安全性試験 過充電 オーブン △ △ ○ ○ ) 安全性の指標は、○:問題なし、△:ほぼ問題なし、×:要改善を示す。 (2) 単電池の開発 リチウム電池においては、入出力密度とエネルギー密度とはトレードオフの関係にある。 本開発では、高い入出力密度を保持しながら、エネルギー密度を向上させる検討を進めた。 (1)項の検討結果をもとに、正極材料に複合系のLiNi1-x-yMnxMyO2 (Mは遷移金属)を、負 極材料に難黒鉛化性炭素を用いて、1/3サイズの4Ah級単電池を設計し、試作した。この電 池には、金属製のケースを用いた。試作した単電池の外観写真を図1.3−1に示す。この単 電池を用いて、種々の性能試験をおこなった。この単電池の常温下における各率放電性能 を図1.3−2に示す。この単電池は、高率の10CAでの放電時にも分極の小さい良好な特性 を示し、エネルギー密度は52Wh/kgであった。また、入出力密度は2,400W/kg以上であっ た。また、この単電池の安全性を調べた結果、釘刺し試験において破裂・発火のないこと を確認できた。これらについては、本年度の自社目標を達成した。また、寿命性能につい ても評価予定である。 Cell voltage / V 4.3 1CA 4 3.7 3CA 3.4 3.1 5CA 2.8 10CA 2.5 0 1 2 3 4 5 Discharge capacity / Ah 図1.3−1 4Ah級単電池の外観写真 図1.3−2 4Ah級単電池の各率放電性能 また、電池の軽量化を目的として、金属製のケースに代えてラミネート製のものを用い た軽量で新規な形状の単電池の開発をおこなった。ここでは、主として電池の構造および 製造方法の検討をおこなった。一例として、正極にマンガン系の材料を、負極に黒鉛系炭 素を用いて試作した4Ah級単電池の外観写真を図1.3−3に、放電性能を図1.3−4に示す。 電池の構造を検討することによって、高率での放電が可能な単電池を開発することができ た。また、製造方法を検討することによって、高温高湿な環境下で保存した場合の電池の 性能低下を抑制することができた。今後、正極に複合系材料や、負極に難黒鉛化性炭素材 料を用いた電池の設計・試作を実施する予定である。 38 Cell voltage / V 4.3 4.0 1CA 3.7 3.4 3.1 10CA 2.8 2.5 0 1 2 3 4 Discharge capacity / Ah 図1.3−3 4Ah級ラミネート型電池の外観 図1.3−4 4Ah級ラミネート型電池の放電性能 このラミネート型の電池を本プロジェクトの用途に適用できれば、電池の軽量化がはか れるので、質量あたりのエネルギー密度および入出力密度の向上が期待できる。そのため には、上記の試作電池の性能をベースに高率放電および入出力性能の向上等をはかるとと もに、さらなる高性能化を進める必要がある。 並行して、これらの単電池を製作するために必要な製造設備およびその性能の検査・評 価設備の開発も進めた。 (3) 組電池の開発 車載時を想定した組電池モジュールの基本設計等をおこなった。 上記で試作した4Ah級の単電池を用いてシミュレーションをおこなって、冷却効果、組 立てコスト、信頼性等を考慮した組電池の配列法を検討した。 また、ラミネート製のケースを用いた新規な形状の単電池についても、同様に概念設計 およびシミュレーションを実施して、冷却効果に優れたモジュール電池の配列法を検討し た。これらの検討結果は、今後の組電池の開発につなげていく予定である。 (4) 今後の予定 H16年度には、最終目標の約1/3サイズの4Ah級単電池を用いて、1kWh級組電池を設 計・試作し、その性能評価をおこなう。また、これまでに開発した電池材料の性能評価を 継続するとともに、電極材料についてはさらに検討を進め、組成や物性等についても詳細 に検討する。単電池については、寿命や安全性の評価を継続し、評価結果をフィードバッ クしながら、更なる高性能化の検討につなげていく。 H17年度からは、それまでに検討した1/3サイズの4Ah級単電池および1kWh級組電池の 評価結果をもとに大型化の検討をおこない、最終目標の3kWh級組電池を開発し、その性 能評価を実施する予定である。また、電池材料および電極材料についてもさらに検討を進 め、H18年度の中旬までに、最終仕様を決定する予定である。さらに、3kWh級組電池に ついては、車載時および実使用時を想定した性能評価も実施する予定である。 39 2.2 高性能リチウム電池要素技術開発 (1) 電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発 (1)-1 電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発 (電池側からの非破壊試験法確立のアプローチ) 財団法人電力中央研究所 (1)-1-1 評価試験法の調査・分析・提案 燃料電池自動車等用の車載電池についての入出力特性などの電気的特性試験法に関して、 米国のDOE・国研・自動車メーカなどによって検討されたPNGV試験マニュアル、Freedo mCAR試験マニュアル、並びに欧州自動車メーカの制定したEUCAR試験法の分析を行う とともに、国内のハイブリッド自動車用密閉型ニッケル水素電池に関する規格(JEVS) での検討に関して調査を行った。こうした調査結果をもとに、研究者・技術者の有識者で構 成される「燃料電池等用リチウム電池の評価技術検討委員会」に指導・助言を仰ぎつつ、 車載用リチウム電池技術開発の目的に合致した電気的特性に関する試験方法を提案した (表1-1-1)。本試験項目は単電池を対象としたもので、今後、単位電池(電池モジュー ル)へ応用展開するためには、具体的な単位電池構成の想定が必要である。 提案内容の一例として、燃料電池自動車等用の車載電池のサイクル寿命、耐用年数(カ レンダーライフ)の判定基準について、所定の容量もしくは入出力に対して80%以下とす る場合、容量試験方法における充放電時間率(1/3CA)と、出力特性における継続時間(1 0秒間)など条件を提案した(図1-1-1)。 (1)-1-2 実規模電池による評価試験法の確認 ハイブリッド自動車用のリチウムイオン電池を試験対象として、電池総合特性を評価す るための試験に着手し、試験手順の検討と試験装置を製作するための仕様へ反映させた (図1-1-2)。 (1)-1-3 小容量電池の動的負荷サイクル試験 小容量電池で動的負荷サイクル試験に着手した。すなわち、米国で推奨されているDyna mic Stress Testと, 欧州で採用されているL字放電を基本とする回生モードを考慮した充 放電パターンについて検討した。充放電装置性能および試験の簡便性を考慮してパターン を作成し、電池容量と最大電流の比を10とした。(図1-1-3) (1)-1-4 非破壊試験法による劣化機構推定 劣化機構推定のため、小容量電池を用いて充放電法試験、および抵抗成分を解析するA Cインピーダンススペクトル測定(周波数;50kHzから5mHz)に着手した。また、高温 状態とした場合の副反応推定のため双子形熱量計(高温型熱量計)による熱測定を行った。 a.ACインピーダンス法 電池内部では電子(電極内部)とイオン(主に電解質中)により電気伝導する。イオンの移動 が遅いことと、電荷交換が行われる電極/電解質界面での反応抵抗、二重層容量などの存 在のため、交流測定法によりインピーダンスの周波数応答が得られる。このインピーダン スの実数成分、虚数成分の複素平面表示から、電池内部の状態を等価回路で表現すること ができる。 定格420mAhの17500型円筒型セルについて、未履歴時および各種試験経過後のACイン ピーダンス測定を行った。また、初期2サイクルの容量試験後、完全放電状態(SOC0%) 40 から3時間率で20%、35%、50%、65%、80%、100%(4.2Vまでの定電流法)充電した 各SOCにおけるACインピーダンスも測定した。さらに、サイクル・保存・パルス試験に おける測定結果から、等価回路モデルにより各成分の変化傾向について取りまとめた(表 1-1-2)。 b.高温熱量計 電池温度の上昇は、電池内の副反応(自己放電等)を加速し、劣化を促進する可能性が ある。そこで、劣化外部診断の一手法として高温(80℃付近まで)における自己放電挙動 を熱測定で捉えることを目的とし、「高温型熱量計」による電池の精密熱量測定法を考案 し、高精度に測定するため電池ホルダー機構に改良を加えた。その結果、各充電状態(SO C)における自己発熱を高精度に計測できた。(図1-1-4) (1)-1-5 耐用年数評価試験法の検討 当所の経験と耐用年数評価法の文献調査を参考とし、複雑多岐にわたる因子について燃 料電池自動車等用のリチウム二次電池の耐用年数評価法(加速法)のアプローチを次にま とめた。 ・有望な加速因子としては、温度および充電状態がある。実用上使用範囲内である55℃、 SOC80%までとそれ以外の範囲での相関関係(劣化機構の同一性・相違性)を見極め、 加速による時間短縮効果を検討する必要がある。 ・リチウム電池では充放電率、放電深度に着目した加速試験例は少ない。使用電圧範囲が 標準条件とほぼ同一のため劣化過程が同じ要因となる可能性があるため、検討する価値 はある。 ・推定手法として、劣化過程の反応速度から、劣化率と経過時間の1/2乗の関係を注視する 必要がある。これは、劣化原因を正極、負極側に特定しないが、一般に活物質粒子表面 の皮膜(または非晶質化層)成長をモデル化したものである。また、温度を加速因子と した場合、アレニウス型のデータ処理から反応過程を考察できる可能性がある。 ・劣化原因を保存劣化とサイクル劣化に分離して検討する必要がある。さらに、実用上の (保存+サイクル)劣化との加成性を検証する必要がある。 ・寿命判定の電池性能指標として、出力低下が有望の可能性が高い。出力と電池内部イン ピーダンスの関係を把握する必要がある。 (1)-1-6 小容量電池による耐用年数評価加速試験 上記の考察にもとづき、各種実験条件を定め、小容量セルの充放電試験によりデータ蓄 積を図った。すなわち、加速的耐用年数評価技術について、温度(40℃基準)、電池の充 電状態(SOC=50%基準)に着目した試験条件・試験法を考案した。温度範囲(0℃∼8 0℃)とDOD幅(最大±15%)、および最大電流(20CA)として、試験条件を組み合わ せて小容量電池で試験を実施した。その結果、保存試験において、電池性能の劣化率のSO C依存性があること、パルス負荷電流値(10CA、20CA)の違いによる性能劣化の差異は ないなどの知見を得た(図1-1-5)。 41 表1-1-1 電気総合特性に関する試験項目・条件の検討事項例 (1)電池容量試験;電圧範囲,充放電率,温度範囲,他 (2)入出力特性試験;充電状態(SOC),継続時間,他 (3)パルスサイクル試験;充放電パルス,判定基準,他 (4)自己放電率試験;放置期間,温度,他 (5)カレンダーライフ試験;パルス間隔,保存条件,他 (6)温度特性試験;充放電率,パルス, 等 表1-1-2 加速的耐用年数評価技術確立のための3試験経過後におけるACインピーダンス測定のまとめ サイクル試験 保存試験 パルス試験 温 Rs ・80℃1セルのみ大きく増加 ・80℃2セルとも大きく増加 ・80℃1セルのみ増加 度 正極 ・Rp Rpが温度とともに増加 Rpが温度とともに増加 ・Rpが温度とともに増加 Rpが温度とともに増加 ・Rp Rpが温度とともに増加 Rpが温度とともに増加 依 L ・Cdlは有意差なし ・Cdlは有意差なし ・Cdlは有意差なし 存 負極 ・Rpが80℃2セルとも増加 ・Rpが80℃2セルとも増加 ・Rpが80℃2セルとも増加 性 S 60℃以下では有意差なし ・Cdl Cdlは Cdlは80℃で大きく減少 80℃で大きく減少 ・Cdl Cdlが温度とともに減少 Cdlが温度とともに減少 ・Cdlが温度とともに減少 Cdlが温度とともに減少 (100日以降発散傾向 (100日以降発散傾向) 日以降発散傾向) rate依存性 ・10-20Cで依存性なし ・10-20Cで依存性なし DOD依存性 ・3-10%で依存性なし ・3-30%で依存性なし SOC依存性 ・正極:高SOCで高抵抗化 ・その他は変化なし Rs:電解質等の抵抗成分、Rp:電極/界面抵抗、Cdl:電気二重層容量 15 充放電電流(相対値 C) 10 5 放電 0 充電 -5 -10 -15 0 100 200 図1-1-1 300 時間(秒) 400 出入力特性の試験方法 42 500 600 図1-1-2 電池総合特性の試験 装置の外観 Heat Flow / µW at 50 h rest 図1-1-3 動的負荷サイクル試験(簡易充放電プロファイル) 100 80 60 40 20 0 0 20 40 60 80 SO C / % 図1-1-4 電池自己発熱量の充電状態(SOC)に対する依存性 43 100 図1-1-5 耐用年数評価技術 の検 討 各試験結果について同一試験日数(50日、100 日)断面で比較結果を計算 *保存試験:保存日数(時間劣化) *連続サイクル試験: (サイクル劣化) 50日=25,000サイクル、 100日=50,000サイクル *実使用模擬試験: (時間劣化+サイクル劣化) パルス負荷付与日数+保存日数 性能低下率計算値=(保存による性能低下率) ×0.9+(連続サイクルによる性能低下率)× 0.1 44 (1)−2 電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の開発 (解体試験等による電池構成部材からの評価技術確立のアプローチ) 独立行政法人産業技術総合研究所 本事業では高入出力密度と長寿命等の特性を有するリチウム電池の技術開発を支援し、 車載用リチウム電池の性能向上とその加速的開発に資するために、劣化機構解析技術、信 頼性(熱特性)評価技術等の開発及び加速的耐用年数評価技術を確立に向けて、①劣化機 構解析や②信頼性(熱特性)評価などの電池総合特性評価を行うとともに、推定された劣 化機構をもとに入出力特性等の経時変化を定量化すること等により③加速的耐用年数評価 技術の開発を行っている。 H15年度までの成果は以下のとおりである。 ① 劣化機構解析 2) 小型モデル電池の試作 実際の製品電池では、性能を向上させるために電極活物質や電解液にさまざまな添加剤 などが含まれていることから、劣化機構の詳細な解析を進める上で複雑にすることも考え られる。そこで電池の劣化因子の抽出を行うためには、そのような実際の電池を用いた劣 化機構の解析を進めるとともに、添加剤等を含まず基準となる小型モデル電池による劣化 機構の検討をあわせて行うことが非常に有効であると考えられる。そこで基準となる小型 モデル電池の製造を目標に、電極材料としてニッケル系層状酸化物材料(正極)及び難黒 鉛化性炭素(負極)を用いた電池の製造技術の開発を行い、電池仕様をほぼ決定した。な お、得られた電池は更なる内部抵抗低減が必要であるが、この点については電極設計及び 電解液等を最適化することで対応可能と考えており、特に電極設計の最適化について現在 検討中である。 3) 劣化機構解析 電池の劣化については、まず、正極活物質を 中心に容量劣化機構に関する検討を行った。正 極材料としては、ハイブリッド自動車用として Sample A (Host) マンガンスピネル系酸化物材料及びニッケル系 層状酸化物材料について検討した。マンガンス ピネル系酸化物材料の室温及び高温でのサイク ル試験による劣化の機構解析をX線回折測定に よって行った結果、放電状態におけるマンガン スピネル系酸化物材料の結晶の格子定数が劣化 につれて小さくなることが観測された。当該材 料系においては劣化因子の抽出に向けて、中性 L a t tic e p a ra m e t e r / Å もっともよく検討が行われている2種類の材料、 8.20 Sample B 8.15 Sample C Sample D 8.10 1cycle (RT) 340cycle (RT) 150cycle (55deg) 8.05 Sample E Sample F Sample G 子、X線等を利用した電池反応前後の結晶構造 解析が有効な一手段であることが分かった。一 方、ニッケル系層状酸化物材料においては、劣 100 95 90 85 80 75 70 Capacity retention ratio / % 化による格子定数の変化は極めて小さいことが 明らかとなり、容量低下と結晶構造変化を併せ 45 図1. Li1.08Mn1.92O4の容量劣化率と格子定数の関係 て議論することは難しいことが分かった。 ② 信頼性(熱特性)評価 1) 分極熱特性解析 燃料電池自動車等の用途では高い入出力特性が要請されるので、出力の低下をもたらす 分極や内部抵抗の増大についても十分な検討が必要である。本研究では、電池の分極・抵 抗を評価する手法として熱測定に注目し、電池の劣化状態診断法として確立することを目 指している。すなわち、電池を充放電した時には電池の発熱あるいは吸熱が見られるが、 その要因としては、電池反応のエントロピー変化と、電極界面の電気化学的分極および内 部抵抗、副反応、自己放電などが考えられ、それぞれの発熱要因を個別に評価することが 出来れば、充放電にともなう発熱挙動の変化から電池の劣化を評価できると期待される。 そこで、車載型電池を模擬した小型電池について、熱量計にて種々のレートで充放電し た時の発熱挙動を測定した。25℃の等温条件において3時間率のレートで充放電した時の 発熱変化では、70∼100%の充電状態(SOC)の高い領域にいくつか発熱および吸熱ピー クが観察されたことから、活物質の相転移の存在が示唆された。また放電時の発熱ピーク に対応する熱挙動が充電時には顕著に観察されず、充電時と放電時で可逆な反応を経由せ ずに別の電極反応が進行する過程があることが推察された。 次に、充電時の発熱について、充電レートが1時間率を越えると分極抵抗に起因する発 熱が支配的になることが確認され、さらに 分極に要した電力エネルギーが必ずしも実 5C充電開始(CC ) 10C放電開始(CC ) 充電停止 放電停止 るなど、高入出力時の発熱メカニズムを再 休止 劣化電池熱挙動解析 10C放電開始(CC ) 休止 90 検討する必要があることが明らかとなった。 2) 3.62V充電開始(CV ) 400 85 P / mW 充放電サイクルによる劣化試験について は、試験中の電池自身の発熱により環境温 度が変動することが危惧されたため、熱量 300 測定値 80 200 補正値 75 P / mW 時間に発熱に変換されないことも示唆され 100 計の中で試験することにより発熱量の評価 70 を試みた。電池の劣化を引き起こす副反応 -50 0 50 100 0 200 150 t/s が生じている場合は、それに伴う熱現象に より、印加電力と発熱量との収支が取れな 図2. サイクル試験中の電池の発熱挙動 くなると予想され、副反応の定量化が可能 15 になるものと考えられる。 発熱量(平均14.15J) ハイブリッド自動車での充放電を模擬し 細な熱変化を正確に評価することは難しい 消費した電力エネルギー W/J たパルスサイクル試験中の熱測定では、詳 10 ものの、1サイクル当たりの発熱量や全測定 期間の積算値として求めた総発熱量は議論 に十分値するものであることが確認できた。 さらに、サイクル劣化試験中の電池の発熱 挙動を熱量計で測定することにより、劣化 5 -1000 0 1000 2000 3000 n / cycle 4000 5000 6000 図3. 1サイクル当たりの電池の総発熱量と消費された電力エネルギー 46 を引き起こす反応の熱的な解析を試みた結果、電力損失分よりも発熱量が多いことが明ら かとなり、電池反応以外の反応、すなわち劣化反応の存在が示唆された。この過剰な発熱 量と電池の劣化との関連付けが行えれば本手法は電池の劣化速度を評価する手法となりう るものであることから、今後も引き続き検討を行う。 一方、電池の交流インピーダンス測定からも、反応抵抗がサイクル経過とともに増大し ていることが示唆された。このことは、サイクルに伴う発熱量の増大と対応しており、引 き続き検討を行う。 ③ 加速的耐用年数評価法の開発 加速耐用年数評価試験のための加速因子として温度や充電率をパラメーターとして、 電中研によって行われた加速劣化試験後の電池について、解体試験による劣化要因の検討 を開始した。また、クロスチェックとして、電中研が提案した保存パターンのうち、代表 的な保存条件SOC=50%:40℃保存及びSOC=65%:40℃保存、SOC=50%:60℃での容量 保持率についての測定を保存試験開始時より実施し、電中研が見出した「SOCよりも温度 変化がより劣化を加速している傾向」を確認した。 以上の15年度までの成果と16年度からの予定を以下にまとめる。 ・ 電池構成材の劣化因子抽出のため、基準となる添加剤等を含まない小型モデル電池の 開発については、電極材料としてニッケル系層状酸化物材料LiNi0.8Co0.2O2(正極)及 び難黒鉛化性炭素(負極)の材料選択を完了した。今後、ハイブリッド自動車の充放 電を模擬したパルス試験若しくは類似の評価試験を行う。 ・ 正極活物質を中心に容量劣化機構に関する検討を行い、特にハイブリッド自動車用と してもっともよく検討されている2種類の材料、マンガンスピネル系酸化物材料及びニ ッケル系層状酸化物材料について検討した。マンガンスピネル系酸化物材料において は、中性子、X線等を利用した電池反応前後の結晶構造解析が劣化因子の抽出に有効な 一手段であることを明らかにできた。一方、ニッケル系層状酸化物材料においては、 劣化による結晶の格子定数の変化は極めて小さいことが明らかとなり、今後は結晶構 造解析以外の評価解析手法の検討を取り急ぎ行う。 ・ 電池の分極・抵抗を評価する手法として熱測定の適用を検討した結果、電池の分極や 副反応に起因する熱挙動を捉えることが可能であることが分かった。今後、電池の解 体試験による結果とあわせて、熱挙動と電池内の現象の対応について検討を進める。 ・ ハイブリッド自動車での充放電を模擬したパルスサイクル試験中の熱測定においては、 電池劣化反応に基づくと示唆される過剰な発熱挙動の存在が明らかとなった。この過 剰な発熱量と電池の劣化との関連付けが行えれば本手法は電池の劣化速度を評価する 手法となりうるものであることから、今後も引き続き検討を行う。 ・ 電池の交流インピーダンス測定からも、反応抵抗がサイクル経過とともに増大してい ることが示唆された。このことは、サイクルに伴う発熱量の増大と対応しており、イ ンピーダンス測定結果の等価回路シミュレーション等のより詳細な検討を行う。 ・ 加速耐用年数評価試験のための加速因子として温度や充電率をパラメーターとして、 電中研によって行われた加速劣化試験後の電池について、解体試験による劣化要因の 検討を開始した。今後は、特に劣化の激しかった電池系について優先的に検討し、劣 47 化因子の抽出を急ぐ。一方、クロスチェックとして、電中研が提案した保存パターン の う ち 、 代 表 的 な 保 存 条 件 SOC=50% : 40 ℃ 保 存 及 び SOC=65% : 40 ℃ 保 存 、 SOC=50%:60℃での容量保持率についての測定を保存試験開始時より実施し、電中 研が見出した「SOCよりも温度変化がより劣化を加速している傾向」を確認した。 48 (2) 正負極新規材料、不燃リチウム電池、セパレータ材料など電池材料開発 (2)−1 ベースメタル元素を活用した新規酸化物正極材料開発 産業技術総合研究所 本プロジェクトは10年以上の耐用年数を持つ燃料電池自動車等用のリチウム二次電池の 開発及びその普及促進に資するため、最も重要な構成材料の一つである正極材料(※電池の +極側に用いる材料で電池電圧、電池容量すなわち電池使用時間を決定づける材料)を資源 的に豊富でかつ安価な元素(ベースメタル元素)で設計し、正極材料の低コスト化と安定供 給を目的とした研究開発を行っている。ベースメタル元素としては鉄を最も重要なものと 位置づけている。その理由として鉄は既存の酸化物正極の中で最も安価なマンガン酸リチ ウム(LiMn2O4)の構成元素であるマンガンより金属換算価格において1/2以下、地殻中存 在比は50倍以上あるためである。 今まで鉄酸リチウム(LiFeO2)を代表とする様々な酸化物が正極材料として検討されてき たが3V以上の高い作動電圧で充放電可能な材料は見いだされていなかった。一方低コスト 正極として期待されるマンガン酸リチウムは高温(50℃以上)での充放電特性サイクル劣化 が著しくその問題解決法として新規正極材料開発が必要とされてきている。 上記背景を鑑み本プロジェクトにおいてはマンガン酸リチウム(LiMn2O4)並の低コス ト性、省資源性を保持しかつ充放電特性及び耐用年数において優れるリチウムイオン二次 電池用新規ベースメタル系酸化物正極材料を開発するとともに、その量産のための100g/バ ッチの製造基礎技術を確立する。 具体的な正極材料充放電特性として、5時間率より速い充放電レートにおいて作動電圧 3V以上、充放電容量100mAh/g以上、0.2時間率程度での充放電が可能、及び耐用年数 (60℃以上においても放電容量劣化がほとんどないこと)を有するリチウムイオン二次電 池用新規ベースメタル系酸化物正極材料を100g/バッチで製造できる技術を開発する。 一般に正極は充放電を担う上記正極材料に加えて、炭素材料などの導電剤と両者を結び つける微量の結着剤から構成されている。目標達成のためには(1)正極材料そのものの高性 能化、(2)正極材料-導電剤間の密着性を高めるための複合化手法の確立、(3)正極材料、正 極材料-導電剤複合体の充放電特性に関わる因子抽出が必要である。そのため以下の4つの サブテーマを設定した。 2) 当 所 で 見 い だ し た 新 規 鉄 系 4V 級 正 極 材 料 で あ る 鉄 含 有 Li2MnO3 (Li1.2(Fe0.5Mn0.5)0.8O2)を対象とした充放電特性改善のための湿式精密合成技術の開 発(「高性能鉄含有Li2MnO3製造基礎技術の開発」:(1)正極材料そのものの高性能化 に対応)。 3) 上記材料を中心とし、得られた材料の品質管理を目的とした正極材料の素材評価技 術の開発(「充放電特性早期診断のための素材評価法の開発」 :(3)正極材料、正極材 料-導電剤複合体の充放電特性に関わる因子抽出に対応)。 4) 上記材料にとらわれない新規ベースメタル系正極材料の探索(「新規ベースメタル 系正極材料の開発」 :(1)正極材料そのものの高性能化に対応)。 5) サブテーマ1及び3で得られた正極活物質の高出力化に関する研究(「炭素材料との 複合化による正極材料の高出力化技術の開発」 :(2)正極材料-導電剤間の密着性を高 めるための複合化手法の確立に対応)。 49 本プロジェクト開始前はサブテーマ1)の「高性能鉄含有Li2MnO3製造基礎技術の開発」 において、鉄含有Li2MnO3(Li1.2(Fe0.5Mn0.5)0.8O2)の初期放電容量は5時間率において 60mAh/g程度しかなく、実用正極として用いられているマンガン酸リチウムの放電容量 100mAh/gに遠く及ばないため正極材料としての魅力に乏しかった。この問題を解決す るため14年度において鉄含有Li2MnO3の合成条件の最適化を実施しその基本的な製造 プロセスを確立した。特に鉄-マンガン共沈物作製温度を室温以下(+5℃以下)で行うこと、 焼成温度を600-700℃に最適化することにより85mAh/g以上の初期放電容量が達成でき た。さらに平成15年度においては鉄、マンガン以外の異種金属添加による充放電特性 改善を試み、20%の異種金属添加(組成式:Li1.2(Fe0.5Mn0.3M0.2)0.8O2)により目標に近い 95mAh/gの初期放電容量を得ることができた(図1)。H16年度は化学組成の最適化や 炭素材料との複合化などを通じてさらなる充放電特性の改善(充放電容量のサイクル劣化 抑制等)と塗布型電極を用いた0.2時間率での充放電試験を実施し本材料の実用化の可能 性を検討する予定である。 4.5 電池電圧 / V 4.0 3.5 異種金属A添加 異種金属B添加 (H15年度末) 合成条件最適化 (H14年度末) 3.0 0 プロジェクト開始前 20 40 60 80 100 初期放電容量 /(mAh/g) 図1 鉄含有Li2MnO3(Li1.2(Fe0.5Mn0.5)0.8O2)および異種金属(M)添加後の鉄含有Li2MnO3 (Li1.2(Fe0.5Mn0.3M0.2)0.8O2)正極の3時間率(42mA/g)における初期放電特性(4.3V充電後)。 サブテーマ2) 「充放電特性早期診断のための素材評価法の開発」においては、14年 度において鉄含有Li2MnO3と同一の結晶構造を有する鉄含有LiCoO2を用いて充放電時の 鉄イオン価数、配列の変化を検討した。今まで鉄含有LiCoO2は鉄イオンを固溶させてい ないLiCoO2に比べて放電容量が小さくなる傾向が報告されていたがその原因に関しては 明らかになっていなかった。X線リートベルト解析、X線吸収分光法、57Feメスバウワ分 光法などの種々の解析技術を駆使することにより、充放電時の鉄イオンの挙動が明らか となった。すなわち充放電前は3価である鉄イオンは充電時に4価に酸化されるとともに リチウムイオン拡散路にあたる酸素4配位位置に移動し、再度リチウムイオンが構造内 に挿入される放電時に鉄イオンが元の位置に完全に戻らないために、挿入が鉄イオン存 50 在により著しく妨げられることが初めて明らかとなった。上記結果より鉄含有Li2MnO3 の放電容量を改善するためには、少なくとも得られた試料の鉄イオン分布をモニタリン グすることが重要であることが見いだせた。15年度においては鉄含有Li2MnO3の化学 組成、鉄イオン分布、鉄イオン価数、不純物量をそれぞれ元素分析、X線リートベルト 解 析 、 57Feメ ス バウ ワ分 光 、磁 化測 定 によ り検 討 し、 充放 電 特性 に優 れ た鉄 含有 Li2MnO3はリチウム量が多く、鉄イオン乱れが小さく、4価鉄量が多くかつ不純物量が 少ないことが明らかとなった。 サブテーマ3) 「新規ベースメタル系正極材料の開発」においては、14年度において は鉄系ベースメタル材料として新規材料LiFeTiO4を見いだした。その物質はNaFeTiO4 の溶融塩中でのNa/Liイオン交換法にて合成することができたが、充放電容量が2mAh/g 以下と低く物質設計の再検討が必要なことがわかった。15年度は主にマンガン系ベー スメタル材料を検討し、2種の新規材料としてLiMn2O4(※上述のマンガン酸リチウムと は結構構造が異なる。)およびLiMnTiO4をNa/Liイオン交換法にて作製できた。いずれ も30時間率という低い充放電レートながら150mAh/g以上の放電容量を有することがわ かった(図2) 。また新規材料LiMn2O4の4V領域の充放電容量は現状ではマンガン酸リチ ウムの60%程度(60mAh/g)であるが、平均放電電圧は4.22Vに達し、マンガン酸リチウム に比べ0.2V高くリチウムマンガン酸化物の中で最も高い放電電圧を示すことが明らかと なった。16年度は両材料の5時間率での充放電試験を基本とし、合成条件、化学組成 の最適化を通じてさらなる充放電容量の改善を目指す。 電池電圧/V 5.0 LiMnTiO4 4.0 1サイクル目 10サイクル目 3.0 2.0 電池電圧/V 5.0 LiMn2O4 4.0 1サイクル目 10サイクル目 3.0 2.0 0 50 100 150 20 放電容量/mAh/g 図4 LiMnTiO4およびLiMn2O4の30時間率での充放電特性(1および10サイクル後)。 51 サブテーマ4) 「炭素材料との複合化による正極材料の高出力化技術の開発」は15年 度下半期より開始したテーマである。複合化手法として通電焼結法(※正極および炭素材 料粉末を黒鉛型内に入れ、型を圧縮しつつ断続的にパルス通電することにより粉末を加 熱し両者を接合させることにより複合体を形成する方法である。)を用いて検討を行った。 本手法の有効性を検証するため既存正極(リン酸鉄リチウムLiFePO4、ニッケルコバルト 酸リチウムLiCo0.2Ni0.8O2 、マンガン酸リチウムLiMn2O4)を対象として検討を行った。 既存正極材料と導電剤である炭素材料(アセチレンブラック)を重量比8:2または9:1で 混合した後、通電焼結してその充放電特性を通電焼結前の混合物と比較した。複合体正 極はリン酸鉄リチウムにおいては5時間率において混合物に対して約2倍の放電容量 (90mAh/g)が得られた。ニッケルコバルト酸リチウム、 マンガン酸リチウムにおいては 1時間率にて10-20%の放電容量増大効果が確認できた。このことは通電焼結法がベース メタル系正極の充放電特性改善手法として有効であることを示しており、16年度より ベースメタル正極への適用を開始する。 これらの研究遂行によりH16年度終了までに実用化可能な新規低コスト正極材料を提 案する。 52 電池電圧 / V 4.0 LiFePO4 (5時間率) 3.5 3.0 電池電圧 / V 電池電圧 / V 2.5 複合体 混合物 4.0 LiNi0.8Co0.2O2 (1時間率) 3.5 複合体 3.0 混合物 LiMn2O4 (1時間率) 4.0 3.5 3.0 0 混合物 50 複合体 100 初期放電容量 / mAh g 図6 150 -1 リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiCo0. 2Ni0.8O2)、マンガン 酸リチウム(LiMn2O4)複合体および混合物の5時間率での初期放電特性の比較。LiFePO4は4.0V 充電後、LiCo0.2Ni0.8O2およびLiMn2O4はともに4.3V充電後のものである。 以上 53 (2)−2 ナノ複合体ハイレート対応新型リチウム電池の研究 佐賀大学 1正極 1.1 目的 本研究は、資源量が豊富で毒性がなく低コスト正極材料であるスピネルマンガン系材料 に焦点を絞り、その最大の難点である高温劣化及び高温でのMn溶解を克服することによ り、過酷な温度環境に曝される車載用電池の長寿命化に寄与することが主目的である。最 適化した正極の場合、最終的にレート特性を支配するのは、結晶内のリチウムイオンの拡 散速度であり、リチウムイオンが結晶内を3次元的に移動できるスピネルマンガン系は、 優れたレート特性の電池が製造可能な正極材料である。 1.2 酸素構造安定化スピネルの開発 佐賀大学は2001年にスピネルマンガン(以下スピネルと表示する)中の酸素欠損が サイクル劣化の最大の原因であること明らかにした。酸素欠損のない酸素量論スピネルの 合成には、低温焼成が望ましいが比表面積が大きく、50-60℃での電解液へのマンガン溶 解度が大きいため、黒鉛負極が劣化することとなる。佐賀大学では、まず高温焼成により 高結晶性のスピネルを合成した後、酸素取り込み作用の大きいLiOHを加えて低温焼成し、 酸素欠損を修復し酸素量論スピネルとする新規合成法を開発した。 更に、本プロジェクトにより、酸素量論スピネルのうち、不活性ガス下660℃で焼成し ても酸素欠損を生じないスピネルを酸素構造安定化スピネルと称し(特許申請中)、この 新たな発見によりこのタイプのスピネルの実用化に大幅な進展を見た。酸素構造安定化ス ピネル、L i1.05Al0.15Mn1.80O4+δは図1に示すように60℃でも良好なサイクル特性を示す。 ここで寿命に関するパラメーターとして1サイクル当たりの容量保持率(f)を用いた。 fはnサイクル目の容量(Cn)とn-1サイクル目の容量(Cn-1)の商(Cn/Cn-1)で定義する。 fの値は実験した全てのサイクルに渡って一定とするとnサイクル目の容量Cnは1サイク ル目の容量C1を用いた式、Cn=C1(C2/C1)(C3/C2)*****(Cn/Cn-1)=C1*fn-1 で表せる。即ち、 nサイクル後の容量は1サイクル目の容量C1とfの値で決まることとなる。CnがC1の70% を寿命とするとfが決まれば充放電可能なサイクル数が求まり、1日1回充放電するとの仮 定をおくとnが寿命を示すこととなる。この試料は初期容量94.5 mAh/gを示し、50サイク ル目の容量は91 mAh/gである。この値は、f=0.9992に相当する。この組成の化合物の理論 容量は107 mAh/gで12 mAh/gも容量の小さな酸素過剰の化合物である。この組成でも最終 焼成温度を高くすることにより過剰酸素の一部を除き、100 mAh/gの容量を確保すること が可能である。マグネシウムドープの酸素量論スピネルでも高温サイクル特性の良好なス ピネルが得られたが、現在酸素構造安定化スピネルか否かを判定する実験を進めている。 これらの特性を表1にまとめて示した。 これまでの成果は、高い目標値を掲げたため、 スピネル単独の系で最終目標値(容量、容量保持率)を達成していないが60℃のfの値が 0.999を越える例はこれまでの学術論文に記載されていず、佐賀大学開発の酸素構造安定 化スピネルはいずれもfが0.999以上の高温環境下での長寿命を保証する画期的な成果であ る。 54 Capacity / mAh g . –1 150.0 100.0 50.0 0.0 0 10 20 30 40 50 Cycle number 図1 Alドープ酸素構造安定化スピネルの60℃サイクル特性 表1 スピネル化合物の分類、およびその容量と1サイクル当たりの容量保持率f(60℃) f(-) 組成 容量(mAh/g) 分類 L i1.05Al0.15Mn1.80O4+δ 94.5 0.9992 酸素構造安定化スピネル Li1.036Mg0.100Mn1.864O4.02 97.0 0.9997 検討中 Li1.033Mg0.069Mn1.898O4+δ 109 0.9995 酸素量論スピネル δ>0 1.3 被覆型スピネル化合物 スピネル系材料のサイクル特性改善の手法に電解液とスピネル表面の直接的な接触が断 てる表面被覆法がある。本手法の有益性を示すため、スピネル母材には、Mgドープの酸素 量論スピネルを用いた。被覆は、被覆層を形成する活物質の金属組成比の水溶液でスピネ ル母材表面を濡らし、乾燥後焼成する手法を用いた。スピネル母材の容量は102 mAh/g, 60℃のfの値は0.9975、85℃ではf=0.996である。このスピネル母材は85℃でも既に70℃ の 目 標 値 f=0.995 に 到 達 し て い る 。 図 2 に ス ピ ネ ル 母 材 を ナ ノ レ ベ ル の 厚 み で LiNi0.5Co0.5O2被覆したスピネルの60℃及び85℃サイクル特性を示す。被覆処理により容 量は5-7 mAh/g程低下するがサイクル特性は格段に改善される。被覆に伴い60℃でのfの値 は0.9975から0.99975へと増加する。1サイクル当たりの容量ロス(1-f)で比較すると、 容量ロスは60℃ではほぼ1/10に、85℃では半分に減少する。高温になるほど被覆によるサ イクル特性改善効果は小さくなる。ここで容量109 mAh/g、60℃のfの値が0.9995の酸素量 論スピネルに、被覆処理を施した場合の容量保持率を算出してみる。この試料の60℃での 容量ロスは0.05%であり、被覆によりこの値が1/10となるので容量ロスは0.005%となり、 計算上容量保持率は目標値以上の0.99995となる。容量も109 mAh/gあるので被覆による57mAh/gの容量低下を考慮しても100 mAh/g以上の容量がみこめる。即ち、現状の技術レ 55 ベルの組み合わせでも60℃の容量、容量保持率の目標値に到達可能で、正極に関しては1 0年程度の寿命を保証する見込みができた。 被覆型材料の場合、被覆に伴うレート特性の低下が懸念されが、ナノレベルLiCoO2被覆 Mgドープ酸素量論スピネルでの室温レート特性測定により、被覆処理によるレート特性の 低下はなる、レート特性はスピネル母材の特性に依存する。 Capacity/(mAh/g) 100 A 50 ●:被覆前 未被覆 ○:被覆後 被覆 0 100 100 B B 50 50 00 0 50 50 100 100 Cyclenumber number Cycle 図2 Mgドープスピネルの高温サイクル特性に及ぼすLiNi0.5Co0.5O2被覆の影響 A:60℃、B:85℃ 2.負極 2.1 目的 合金系の材料は、現在使用されている黒鉛負極よりも2倍以上の容量を有し、リチウム イオン電池の更なる高エネルギー密度化をはかれる次世代材料とされている。ここでは 4000 mAh/g以上の容量を有するシリコン、および容量は1000 mAh/gレベルであるが金属 導電性を有する錫を取り上げ、容量450 mAh/g以上を示し、良好なレート特性を有する黒 鉛複合型負極材料の開発を進める。これらの材料は、リチウムの挿入・脱離に伴い数倍に 及ぶ膨張収縮を起こすことが電極寿命を短くしている。すでに申請者の研究室で開発した、 黒鉛をCVD法(化学的蒸着法)によるナノカーボン層で被覆し、負極サイクル特性を向 上させた手法を、シリコンなど合金系系材料に応用するものである。 2.2 ナノカーボン被覆黒鉛-シリコン複合体負極 ここで開発中の負極は、充放電が不可能なシリコンを黒鉛と複合化し、黒鉛材料の間隙 にシリコンを分散させ、あるいはその後CVD法によりナノカーボン層を、この複合体上に 被覆するものである。後述するように負極寿命を格段に改善したものである。 図3に黒 鉛-シリコン複合化材料(重量比7:3)の室温サイクル特性を示す。500 mAh/gの定容量充 電では、放電容量は最終目標値を越える480 mAh/g以上の値を示す。サイクル寿命は80 サイクル程度と実用化にむけては課題を残すが、粉体のシリコン負極が充放電できないこ 56 とを考慮すると、この複合体が負極材料として十分機能することを示している。このよう なサイクル特性改善は、黒鉛の種類を問わず現れることを確認した。ナノカーボン被覆処 理を施すとシリコンの膨脹・収縮も抑制できるので更なるサイクル特性改善が見込める。 レート特性に関する評価も加え、レート特性向上の指針を明らかにしていく。 2.3 ナノカーボン被覆黒鉛-合金系-ナノ金属複合体系 黒鉛-シリコン複合体にナノ金属粒子を分散させることにより、サイクル特性を改善でき ることを見出した。図4に示すように銅粒子複合体では1サイクル目の容量は660 mAh/g, 2サイクル目は400 mAh/g と大きく容量を減ずるのに対しAgナノ粒子複合体では1サイク ル目から800 mAh/g以上の放電容量を示し、2サイクル目も750 mAh/g以上の高い放電容 量を保持する。銀粒子の添加は非常に有効でこの他、ニッケル粒子も有効なことが分かっ た。 このナノ金属複合化技術を錫系材料に適用し、黒鉛-錫(又は酸化錫)-銀複合体系(黒 鉛:錫系材料=1:1)でも容量目標値を上回る500 mAh/gを越える複合体の合成に成功した。 錫系では、銀のみならずNiナノ粒子との複合化も有効であった。 + Li insertion capacity + Li extraction capacity MCMB 6-28 + Si 7:3 1000 Capacity / mAh*g -1 800 600 400 Coin cell 200 0 0 20 40 60 80 100 Cycle Number 図3 黒鉛(MCMB6-28)-シリコン複合化負極の室温サイクル特性 充電量;上:900 mAh/g, 中:700 mAh/g, 下:500 mAh/g Cell Voltage / V 3.0 2.0 Ag 1.0 0.0 0 200 400 600 800 Capacity / mAh 1000 .g 1200 1400 1600 1400 1600 –1 Cell Voltage / V 3.0 2.0 Cu 1.0 0.0 0 200 400 600 800 Capacity / mAh 1000 .g 1200 –1 図4 黒鉛-Si-ナノ金属複合化負極の充放電挙動 黒鉛(MCMB):Si:ナノ金属=0.5:0.45:0.05(重量) 57 以上述べた研究成果は、2件の特許申請、19件の研究論文、22件の講演というかた ちにまとめた。 今後正極は、レート特性の向上を目指す研究を進めるとともに実用的なシート電極での サイクル特性改善を進める。負極は、カーボン被覆処理法の確立とサイクル特性の更なる 改善を進めるとともに、レート特性に関するデータ集積を進め、レート特性改善の指針を 明らかにしていく。 58 (2)−3 全固体リチウム二次電池用正負極の高性能化 三重大学 事業目的 全体目標の車載用リチウム電池の高入出力化、長寿命化、低コスト化を図ると共に、更 なるリチウム電池の性能向上に向けた電池要素技術の確立を達成するために、三重大学に おいては、新規電極材料の要素技術の開発を正極・負極に対して行うことを担当する 材料の開発指針として低コスト化を図るため遷移金属第一周期の元素であるMn, Fe, Ni, Cu等、比較的安価で自然界に遍在するものを多く含む材料を提案する。短時間で多くのリ チウムイオンを出し入れする高速充放電反応に対応できるよう、高容量化をベースとした 材料開発を行う。負極材料としてリチウム窒化物を検討する。窒化物は酸化還元を行う負 極材料として炭素材料の2倍以上の高容量を可逆的に発生する材料であるが、合成直後の 状態では充電から開始できないという欠点を有する。そこで他材料との複合化を行い欠点 の克服を目指す。 正極材料としてLi2Cu1-xNixO2とLi5Fe1-xMxO4(M=Co, Mn)を検討する。これらの化合 物の特徴はリチウムや遷移金属の配位状態が既存材料におけるものと異なる特殊な結晶構 造を有することである。このためリチウムの収容量、構造内拡散速度といった熱力学的、 速度論的な性質が大きく変化する可能性を有する。これらの材料について高容量で安価な 新規材料を提案するための材料合成技術を開発する。 事業概要 Li2.6Co0.4Nは、黒鉛の2.5倍の約900mAh/gの容量を持つ負極である。これと他の材料を 複合化して充電可能状態にし、特性評価を行った。複合化の相手は合金系材料、炭素系材 料、酸化物系材料の3種である。また主体である窒化物自身の改善として窒化物中のCo元 素の位置にNiやCuを置換した3元系化合物群の中で、長期サイクル安定性に優れた組成の 探索を行った。また大きなスケールの構造の制御として、窒化物粒子径をミクロンオーダ ーに粉砕することで窒化物に欠陥を導入し、初期充電容量の増加の実現を試みた。 これら複合体負極材料に対して有機電解液系における挙動を調査した。いくつかの複合 体に対してはポリマー電解質に対する調査も行った。Li2.6M0.4N(M=遷移金属)複合負極 で、有機電解液系で600mAh/g、100サイクル以上、ポリマー電解質系で450mAh/g、50サ イクル以上を目指した。 正極材料について、Li5FeO4系材料は逆蛍石型構造を有するので4面体位置にリチウムが 位置する。このためリチウムの式量あたりの収容量が従来の層状化合物よりはるかに大き い。この特性が実際の容量として発揮できるか、基本的な電極特性を検討した。次いでFe の一部をCo, Mnで置換した材料の合成を行い、置換により電極容量やサイクル効率などの 電極特性にどのような影響があるか検討した。また鉄の価数を検出するメスバウア測定を 通じてその充放電メカニズムを明らかにすることを試みた。Li2CuO2系材料は一次元の鎖 状構造を有し鎖間にリチウムを収容できるため高容量が期待できる。Li2CuO2の電極挙動 を把握すると共にCu位置をNiで置換した材料を合成し、Cu/Ni比の最適値を検討した。 これらLi5FeO4、Li2Ni1-xCuxO2 の両電極系において有機電解液で容量200mAh/g以上、 100サイクル以上の特性を目指した。 59 成果の詳細 1 窒化物系負極材窒化物単独電Li2.6Co0.4Nの Co位置をCu及びNiで置換した系を合成し、その 1200 1100 電極特性を検討した。その結果、Li2.6Co0.4N― 成が、高容量でLi2.6Co0.4Nよりもサイクル性が優 れ て い る こ と が 分 か っ た 。 図 1 は Li2.6Co0.2Cu0.2NにさらにFeを一部固溶させた結 果であり、Fe固溶体はさらなる容量の増加と安 -1 Discharge capacity / mAh g Li2.6Cu0.4Nライン上のLi2.6Co0.2Cu0.2N近辺の組 1000 900 800 700 600 500 400 Li2.6Co0.4N Li2.6Co0.2Cu0.2N Li2.6Co0.2Cu0.15Fe0.05N 300 200 100 定したサイクル性を示した。 0 0 6 12 窒化物・炭素材料の複合負極 18 24 30 Cycle number 窒化物と炭素材料とを適当量組み合わせると 不可逆容量がない複合負極として作動させるこ とができる。そこでメソカーボンマイクロビー ズ (MCMB) と の 複 合 化 を 検 討 し た 。 MCMB と 図1サイクル性の良いLi2.6Co0.2Cu0.2NにFe を添加することで可逆容量がおおよそ 800 mAh/gと増加する。さらに充電と放電にみ られる電圧のヒステリシスが小さくなる。 Li2.6Co0.4Nの混合物をボールミル処理すると、窒 化 物 の 微 粉 末 が MCMB 表 面 を 被 覆 す る 。 1.6 Li2.6Co0.4N:MCMB(3:7重量比)の結果を図2 1.4 に示す。初期効率は100%となり、約450mAh/gで Li2.6Co0.2Cu0.2Nに置き換えると容量とサイクル性 1.0 Voltage / V 安定したサイクル性を示した。窒化物を Cycle 1 Cycle 2 Cycle 6 1.2 0.8 0.6 0.4 のさらなる向上を図ることが可能である。 0.2 0.0 窒化物・金属材料の複合負極 -0.2 0 100 200 合金系負極は大きな可逆容量を示すが、第1サ イクルにおいて大きな不可逆容量を示す。 Li2.6Co0.4NとSiOを組み合わせた場合にこの初期 不可逆容量をうまくキャンセル出来ることを図3 300 400 500 Cycle number 図2 Li2.6Co0.4N-MCMB 複合負極の充放 電曲線。炭素材料固有の不可逆容量は観 測されない。 に示す。Li2.6Co0.4Nの初めの放電容量は小さい 1600 一方、SiOは約2200mAh/gの大きな初期放電容量 1400 を持つが、充電容量は1400mAh/g程度である。こ の二種の活物質を適当な比で混合すると、放電と 充電の容量をうまくバランスさせ、初期サイクル に お い て 100% の 効 率 を 実 現 で き る 。 SiO と Li2.6Co0.4Nを1:1の重量比で混合した電極を作 1200 800 600 400 200 複合負極となる。実際には1000mAh/g程度の容量 0 た。Siはリチウムの挿入脱離に伴う体積変化によ 60 Li2.6Co0.4NとSiO1.1 1000 ると理論的には1150mAh/gの可逆容量を発生する が得られたが、この容量はサイクルと共に減少し SiO1.1 -1 Discharge capacity (mAh g ) (100mAh/g)が、充電容量は大きい(約900mAh/g)。 Li2.6Co0.4N 0 2 4 6 8 10 12 14 Cycle number 16 18 20 図3 Li2.6Co0.4N-SiO複合負極のサイクル に伴う容量変化。 り電子の伝導経路が失われ、次第に特性が劣化することが知られている。窒化物との複合 負極においても同様に体積変化の問題があると考えられ、より強固な電子伝導パスを作る 必要があることが示唆される。 窒化物・炭素・金属材料の複合負極 SiOは窒化物と複合化することで、不可 3000 逆容量を解消することができたが、サイク られなかった。そこでSi金属粉末と窒化物、 さらにグラファイトの3成分を複合化する ことで、サイクル性の向上を図ったところ 図4に示すように目標の600mAh/gを超え Discharge capacity / mAh g-1 2500 ル性については、徐々に低下するのが避け a) Pure silicon electrode b) Composite electrode under test condition 1 c) Composite electrode under test condition 2 2000 1500 Cutoff:1.4/0.02V 挿入容量を800 mAh g-1 に限定 1000 500 Siのみ Siのみ る800mAh/gの容量規制で20サイクル以上 0 容量劣化なしに充放電を行うことができた。 0 6 12 18 Cycle number これはサイクル特性の優れた炭素材料を混 図4 Li2.6Co0.4N, Si, Graphiteの複合電極の 充放電曲線。充放電に伴い窒化物とSiは非晶 質化する。充電容量を800mAh/gに限定する と一回目から100%の効率で良いサイクル性 を示す。 合することで伝導パスを確保すると共に、 Siの高分散性を実現したことが原因と考え られる。本事業においてこの3元系複合材 料が最も優れた特性を示した。 Li5FeO4 及びその置換体の正極 2 3.5 Fe100%のLi5FeO4 において は式 量あたり最大1.2のリチウムを可逆 的に出し入れすることができた。こ れは約200mAh/gの容量に相当し、 目標値を達成している。メスバウア Voltage V / V 特性 3.0 Li5.4Fe0.6Co0.4O4 2.5 2.0 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 -1 Capacity c / mAh·g 測定から得られるFeの価数変化の 図5 Li5+xFe1-xCoxO4 の正極特性。 x=0.4 の場 合 。 電 流 密 度 は 500µA/cm2 。 カ ッ ト オ フ を x=1.0 に相当する 200mAh/g の容量規制で行っ た。 情報を解析した結果、この材料の酸 化還元反応には一部O2p軌道電子が 関与している可能性が示された。 置換体正極としてFe位置に同価 数のAl3+を置換した場合は置換量とともに容量が大きく減少する結果となった。d電子を 持たないAl3+は電子伝導性を減少させたと考えられ、負の効果が現れたと結論される。 次にCo置換の効果について論ずる。Coは2価の状態で固溶し、その一般的な組成式は Li5+xFe1-xCoxO4(0<x<1)となる。Co置換量に従い、式量あたりのリチウム数が増大する。 また、Coは2価から4価までの価数変化が可能で、形式的にはFeの場合と比較して容量が 2倍になる。つまり、より多くのリチウムを出し入れすることに対する構造の許容度が増 す。図5はx=0.4の場合について目標値である200mAh/gに相当する1当量のリチウムを出 し入れした際のサイクル特性について検討を行った結果で最初の20サイクルを示している。 61 全体的な分極の変化はFe100%(x=0)の場合とよく似ており、本系の基本的な電位プロファ イルは結晶構造に由来していることが推測される。Coを置換することにより第一サイクル の不可逆容量が小さくなり、より優れた可逆性を示すことが分かった。 3 Li2Cu1-xNixO2の正極特性 5 ってしまうため、容量規制でサイクル試験 4 を行った図6は充放電特性、図7はサイク Voltage/V Fe系と同様に電圧規制では過充電が起こ ルに伴う可逆容量の変化を示す。図7左図 3 2 は200mAh/gで右図は250mAh/gでカット 1 オフした場合の特性である。目標値を超え る250mAh/gの場合は少し乱れも観測され 00 るが、両者とも容量劣化なしに20サイクル 100 200 Specific capacity/mAhg -1 300 図 6 Li2Cu0.6Ni0.4O2 の 充 放 電 曲 線 。 250mAh/gでカットオフを行った。 を達成した。また、この挙動はx=0.5付近 で得られ、0.5から離れるほど可逆容量は 低下することを見出した。 [m A h /g] 4 00 [mAh/g] :c ha rge :charge 300 :d is c ha rge :discharge 3 00 200 2 00 100 0 0 1 00 10 20 [cycle] 0 0 10 20 [c y cle ] 2 図7 Li2Ni1-xCuxO2の充放電容量。最初の20サイクルを示す。 左:200、右:250mAh/gカットオフ まとめと今後の予定 今回適用した窒化物複合負極、逆蛍石型および一次元鎖状型正極の3種であるが、どの 材料も容量の目標値に到達し、優れたサイクル特性を示した。コイン型試験セルではレー ト特性の正確な評価が難しいが、活物質粒子の微細化による表面積の増大、薄膜化による 利用率の向上等、セル作成技術の部分で最適化を行えば高速充放電にも十分に対応可能で あると考えられる。今回正極の試験において200から250mAgh/gという制限を設けたが、 理論的にはさらに大きい容量が可能であり、今後検討する予定である。 62 (2)-4 電池の難燃化・固体化のための新規電解質の研究 株式会社ユアサコーポレーション/独立行政法人産業技術総合研究所 本開発の目的は、有機電解液系において安全性に最も影響を及ぼす可燃性・液漏れの克 服のため、難燃性液体電解質の探索と高分子材料を用いた固形化の手法の開発を行い、さ らに小型実電池における入出力特性と安全性の評価を行うものである。従来、究極の安全 性を求めて研究開発されてきた全固体電解質型電池において、高出力特性と高安全性を両 立させるためには電池の超薄膜化が不可欠であり、製造技術的に実用化は困難であった。 そこで本研究開発では、難燃性・自己消火性を付与された混合液体電解質を用いることに より、電池の高出力特性と高安全性を確保し、さらに上記混合液体電解質を固形化するこ とにより、漏液を防止した新規電解質の開発を目指す。そのために次に示すような目標を 設定した。 ① 漏液の抑制と出力特性を維持した固体化電解質の開発 ② 常温溶融塩および/または難燃化剤による固体化電解質用難燃性液体電解質の開 発 ③ 高出力・高安全性を兼ね備えた難燃化・固体化電解質の小型実電池への適用検証 電解質特性:イオン伝導度1mS/cm、電池特性:出力密度1800W/kg 上記の目標の達成のため、①難燃性・自己消火性を付与した液体電解質の開発、②高分 子材料などを用いた固形化の手法の開発、③電解質・電極中のイオン種の動的特性評価、 ④電池の設計・電解質の薄膜化(H16年度開始)、⑤実電池の作製と評価(H16年度開始)、 からなる開発課題を設定した。これらの課題ごとの進捗状況は以下のとおりである。 ① 液体電解質の開発 難燃化電解質のベースとなる難燃性・自己消火性を有する液体電解質の開発を行う。そ の方法としては大きくは従来の有機溶媒系電解液をベースとし、難燃化剤を使用する手法 と、全く新しい電解液材料である常温溶融塩をベースとする電解液を開発する手法を検討 する。最終的な電解液組成の決定においては両者の混合系も含めて検討を行う。 常温溶融塩電解液としては、リチウム系電池に適用可能で難燃性・信頼性向上の観点か ら期待される還元安定性の高い 非対称4級アンモニウム塩系に Li/0.4 M LiTFSI in PP1 着目して材料探索を行い、有望 3-TFSI/LiCoO2 0.1C な候補材料として六員環構造を 有するPP13-TFSI(N-methyl-Npropylpiperidinium ( bis(trifluoromethane sulfonyl)imide ))を見出した 。 分子構造を図1中に示している。 Li/LiCoO2 セ ル で の C/10 程 度 の 充放電特性は、図1に示すとお 図1 Li/0.4 mol dm-3 LiTFSI in PP13-TFSI /LiCoO2 セルの 充放電特性 (3.2-4.2 V, C/10 レートでの定電流法, 25℃). り有機電解液と比較しても遜色 無いといえる。また熱分解開始 温度(熱重量測定において1%重 63 量減少時の温度とする)は360℃と高い熱安定性を示し、難燃性電解液としての機能が期 待できるが、液体の導電率そのものが有機電解液系に比較して1桁以上低く、高速での充 放電が難しいため、導電率を向上させる手法を検討した。その結果、置換基導入により得 た新規常温溶融塩では導電率が2倍以上向上し、それに伴いレート特性も向上した(図2)。 ただし支持電解質塩溶解状態で導電率が0.64S/cmであり更なる導電率向上を図る予定であ る。 常温溶融塩の電池への適用例は限られており、電池部材の適用性についてあまり詳しい 報告が無いため、本事業で開発したPP13-TFSIをモデル電解液ベースとして電池部材・電 極材料との相性を調査している。電池部材の中で特に懸念されたAl集電体の腐食は過酷な 条件(6.5V、60℃)においても顕著でなく使用に問題がないことがわかった。また電池の 特性を左右する炭素負極材料については、黒鉛化度の高い材料では初回の不可逆容量が 70%以上と非常に大きく、放電容量もCCCV(定電流-定電圧)モードの充電を加えても理 論値の20%に留まった。一方アセチレンブラックや現在高出力電池の負極材料として注目 を集めているハードカーボンで理論値の50%以上の容量を得ることができ、適用可能性が 高いことがわかった。 難燃化剤を使用する電解液の開発においては、難燃性・自己消火性液体電解質の探索を 進めた結果、難燃化剤として、難燃性を有するフッ素化リン酸エステルを従来の有機電解 液に添加することにより、図3に示すように電解液の難燃性発現を確認した。また、樹脂 類の難燃化剤として知られている、芳香族 環を有するリン酸エステル類についても難 0.8 燃性発現の確認を行ったが、フッ素化リン Normalized capacity 1 酸エステルの方が良好な難燃性を示すこと 0.6 が分かった。これらの難燃化剤を添加した 0.4 電解液において、イオン伝導度は6-8mS/cm 置換基導入後新規電解質 0.2 と目標値を大きく上回った。また難燃化剤 H14に見出した常温溶融塩 添加電解液を用いて小型電池を作製して各 0 0 図2 0.2 0.4 0.6 Discharge rate / C 0.8 種電池特性への影響を調査したところ、比 1 較的良好に作動することが確認されたが、 H14に見出したPP13-TFSIと置換基導入後の 添加量によって電池特性に影響することが 新規電解質を含むLi/LiCoO2 セルのレート特性 分かった。 (3.2-4.2 V, C/10 – 1C mAでの定電流法, 25℃、 C/10での放電容量を1として規格化して表示). 以上の液体電解質の検討結果をもとに、 H16年度末に向けて常温溶融塩の難燃化剤 としての使用も視野に入れ 難燃化剤無添加 難燃化剤添加後 液体電解質の組成の絞込み を行い、固体化、さらに電 解質の薄膜化などの設計に 供する。 図3 難燃化剤添加による電解質の難燃性発現の確認結果 64 ② 分子材料などを用いた固形化の手法の開発 液体電解質 架橋型ポリエーテル系ホスト高分子を用いて 有機電解液を固形化した固体化電解質の各種特 メチル化率50% 性とホスト高分子の架橋密度の相関性について 調査・検討し、架橋密度の低いホスト高分子を メチル化率20% 用いた固体化電解質ほどイオン伝導度が高くな ることが分かった。これらの固体化電解質を用 メチル化率0% いた小型電池の電池特性についても、架橋密度 の低いホスト高分子を用いた固体化電解質を用 いた電池ほど良好な特性を示したが、漏液防止 0 50 100 150 電池に100kgf/cm2の加重を加えた際の 電解液漏れ量 / % の観点からは、機械的強度も鑑み、架橋密度を 最適化する必要があることが分かった。高分子 の架橋密度と漏液試験結果との関係を調べた例 図4 固体化電解質を用いた小型電池 の漏液試験結果 を図4に示す。なお、無機材料などを利用した固形化手法の可能性についても探索を行っ ており、機械的強度の向上などを目指して無機化合物とのハイブリッド化などを用いた薄 膜化技術についても基礎特性の検討を開始した。 ③ 電解質・電極中のイオン種の動的特性評価 個々の成分の拡散の状態を個別に評価することのできるPFG-NMR(パルス磁場勾配法 NMR)により、本事業で開発する液体電解質・固体化に供する高分子材料・固体化電解質 における可動イオンの拡散の過程を調査し、高出力電池として望ましい電解質設計への指 針を提供することを目的として研究を行ってきた。 電解液に関する基本的情報として有機溶媒中の各構成要素の塩濃度依存性を測定し、Li+ の溶媒和の状態や各構成成分の拡散の速さの序列を明らかにした。その結果、Li+は全ての 構成要素中最も拡散が遅いことがわかった。さらに低粘度溶媒も正確に測定できるような 対流効果抑制手法を開発し、実用電池に用いられる2成分系電解液の評価を行った。それ により溶媒同士の相溶性や個々の溶媒の移動速度等がイオンの移動に影響を与えることが 示された。さらに難燃性電解液の構成材料として開発中の常温溶融塩の評価も開始した。 現在のところ、Li+の拡散が最も遅いこと、支持塩のリチウム塩の添加により常温溶融塩を 構成するカチオン・アニオンとも拡散が遅くなる事がわかっている。更にその拡散速度の 低下の度合いは塩の組み合わせにより変化することが明らかになりつつある。 以上の電解液の固体化を検討するにあたり、固体化材料の候補材料についてneatな状態 の高分子の構造と運動性について評価し、固体化電解質の初期設計に用いた。 さらに電池中の環境を模擬したイオンの動的挙動の解明と、PFG-NMR法のみでは直接求 められない導電パラメータの算出のため、測定プローブ両端に電極を挿入して電場を印加 する測定手法を開発し、イオンペアの寄与を除いた正味のイオンの拡散定数と解離度を測 定した。 以上より、電解質中の全ての可動イオン中Li+の移動は最も遅く、アニオンの種類や濃度 にほとんど依存しない傾向が得られたので、この結果を材料設計指針として活用しながら、 65 H16年度より高出力電池用の電解質設計の絞り込みを行う。 以上H15年度までの成果をまとめると、難燃性の高い電解液組成を見出し、今後更に出 力特性向上のための組成の最適化を進める必要があることがわかった。また固体化手法の 適用により漏液性を大きく改善できることがわかったが、漏液性と高入出力特性とを両立 する方法を更に検討する必要があることがわかった。これらの結果を踏まえ、H16年度よ り以下の検討を進める。 ・ 液体電解質部分について、難燃性を発現し同時に出力向上を可能とする組成への最適 化を進めるとともに、金属Liを負極として用いると、耐還元性と安全性の点で最も厳 しい条件となる事を利用して特性と安全性の評価を行う。 ・ 固体化電解質部分の組成の最適化を進めつつ、H16年度末に向けて電解質設計の絞込み を行うと共に、無機化合物とのハイブリッド化などを用いた電解質部分の薄膜化技術 を応用し、電解質の薄膜化のための要素技術について最適化を図る予定である。また、 電池内のリチウムイオン輸送を向上させるための電池構造の設計を行う予定である。 ・ 以上の要素技術の検討結果をまとめ、固形化技術と難燃化技術を融合し、燃料電池自 動車等用リチウム電池に適応可能な難燃性・自己消火性を付与された固体化電解質を 用いて最終目標実現を見通すための小型実電池の設計に展開し、安全性試験の予備検 討を開始する予定である。 成果の達成度を下表にまとめる。 研究開発項目 目標値 液体電解質の開発 難燃性評価 難燃性発現 成果 達成度 難燃性発現 達成 イ オ ン 伝 導 度 1以上 6∼8(有機溶 一部達成 (mS/cm) 媒系電解液ベー スの場合) 電池出力特性(W/kg) 1800以上 リチウム負極使用時の 難燃性発現 未着手 − 未着手 − 0 達成 3∼7 達成 未着手 − 電池難燃性 固体化電解質の開 電解液漏液量(%) 発( 0 イ オ ン 伝 導 度 1以上 (mS/cm) 電池出力特性(W/kg) 1800以上 電解質・電極中 導電メカニズム解明手 電場勾配法開 実証済み のイオン種の動 法開発 発・実証 的特性評価 材料設計指針提供 材料開発への 継続中 貢献 66 達成 継続中 以上の結果を総合し、5年の研究開発期間終了時において目標達成に対する問題は無いと考え ている。 67 (2)−5 高入出力リチウム電池用新規複合電解質の開発 トレキオン株式会社 1.高分子/イオン性液体複合電解質膜処方の最適化 (1) 新規イオン性液体の選定 平成14年度実施の電気化学窓の測定結果文献1)から電気化学窓の広いと推定された脂肪族 および脂環族の第4級アンモニウム塩を膜の物性、イオン伝導度、引張強度から数種を選 定した。 (2)複合電解質の製膜法 PVdFをホストポリマーとする溶液とイオン性液体、支持塩、重合開始剤(ベンゾイルパ ーオキサイド)の各所定量をDMAcに溶解した溶液の2種類を所定量混合し、均一な溶液と した後、アプリケータでガラス板上に塗工し、110℃で30分真空乾燥することで複合電解 質膜を製膜した。 (3)ホストポリマー、イオン性液体、支持塩の適合性 a. ホストポリマー ポリフッ化ビニリデン(PVdF)は、膜の力学的性質を考慮して、PVdFの銘柄を選定した。 PVdF単独膜の引張り強度(MPa)/破断伸度(%)は、48MPa/20%>48MPa/2%>36MPa/16% >34MPa/20%であり、48MPa/20%品をホストポリマーとして選択した。 b. イオン性液体の種類と処方 4 MPP TEME DEME MOETMA DAA MOETMA (S olid) DAA (Solid) イオン性液体については、重合性イ オン性液体をイオン伝導度の高い4級 ウム塩等を選び、アニオンにはTFSIを mS/ 体(IL)は電気化学窓の広いピペリジ 3 2 σ ( アンモニウム塩、非重合性イオン性液 用いて、イオン性液体とPVdFとの反応 1 を伴わない単純ブレンド系、グラフト ブレンド系を実施した。 0 図1より、単純ブレンド系−ゲルタ イプ 全固体 全固体 (参考) 0 10 PVdF/IL=35/65(wt比)、LiTFSI 12 15wt. % ( ∼ 1.4M ) 以 上 に お い て 、 -3 20℃で10 S/cm以上のイオン伝導度と4 又、支持塩濃度を上げる程、イオン 伝導度は大きくなり逆に引張り強度は 8 TS (MPa) 解質膜が得られた。 全固体 全固体 (参考) 小さくなること、参考までに実施した 2 イオン伝導度が小さく引張り強度が大 40 6 4 ソリッドタイプは、ゲルタイプに比べ 30 MPP TEME DEME MOETMA DAA MOETMA (Solid) DAA (Solid) 10 ∼6MPaの引張り強度を満足する複合電 20 Li (wt%) 0 0 タイプでは、PVdF/IL(wt比)が小さく 20 30 40 Li (wt%) 図 1 単純ブレンド系(ゲル∼ソリッド)タイプ なると、つまりIL成分の増加と共にパ Li 濃度における伝導度と強度 PVdF/IL = 35/65 きくなることがわかった。また、ゲル 68 10 ーコレーション的にイオン伝導度が大 4 DAA-MPP DAA-TEME DAA-DEME MOE-MPP MOE-TEME MOE-DEME きくなることがわかった。図1のLi濃 る「イオン性液体中ではLi塩濃度が上 がるとイオン伝導度が下がる(粘度効 果)挙動」と対照的な結果になった。 3 σ ( mS / 度依存性の挙動は、一般に知られてい 1 図2に、グラフトブレンド系のゲル タイプPVdF/変性イオン性液体/IL/Li =28/21/21/30、ソリッドタイプPVdF/ 変性イオン性液体/Li=28/42/30のイ オン伝導度を示す。ゲルタイプでは、 汎用イオン性液体或いは変性イオン性 2 0 IL IL/PIL PIL PVdF/PIL/IL/Li PVdF/PIL/IL/ PVdF/PIL/IL/ 28/0/42/30 Li Li 28/21/21/30 28/42/0/30 図2 グラフトブレンド系イオン性液体(PIL+IL)と伝導度 1.E-01 液体のみに比べて、イオン伝導度が高 MPP DEME TEME くなっている。これは、二重結合含有 1.E-02 がミクロ相分離され、ほどよくイオン 伝導マトリックスが形成されているた めであると考えられる。 log(S/cm) PVdF-イオン性液体-変性イオン性液体 1.E-03 1.E-04 図3に単純ブレンド系ゲルタイプ、 PVdF/ イ オ ン 性 液 体 = 35/65 、 Li30 w 1.E-05 t%のイオン伝導度の温度依存性を示 す。 -30℃ ∼80℃にわたって ほぼ10 2.7 2.9 - 3.1 3.3 3.5 3.7 -3 1/T(×10 /K) 3.9 4.1 4.3 図3 単純ブレンド系ゲルタイプ イオン伝導度 温度依存性 PVdF/IL=35/65 Li30wt% 3 S/cmを保持した。 c. イオン性液体と支持塩の関係 イオン性液体として、EMI・TFSI、EMI・BF4、支持塩としてLiTFSI、LiBF4の組み合わせ 組成のイオン伝導度に及ぼす影響を検討した。Li塩のアニオンの影響は小さく、イオン性 液体側のアニオンの種類に層別され、イオン性液体のアニオンがBF4の場合、TFSI塩に比べ て全温度でイオン伝導度が大きく、高温(80℃)ではその差が小さいが、低温(20℃以 下)で差は拡大する。EMI・BF4の融点は15℃であり、0℃から-30℃では固体になっている と思われるにもかかわらず、80℃∼-30℃で、10-3S/cmを保持した。この事実から、イオン 性液体を含むゲル電解質中のイオン伝導度は粘度依存性が小さいと考えられる。 2. 製膜条件と膜構造 新規複合電解質膜のSEM観察と偏光顕微鏡 図4 観察により、膜はミクロンスケール(数μ m)の粒子と更にその粒子内にナノスケール (∼15nm)の粒子(図4)が形成されており、 大きな粒子と粒子の間には空隙が存在し、空 隙は一部、Li/ILが詰まっているものと偏光 顕微鏡観察により推定される。ミクロンスケ ールの粒子は製膜条件と密接な関係があり、 69 200nm 乾燥温度が低い場合、比較的大きな粒子が形成され、乾燥温度が高い場合、比較的小さな 粒子が詰まった密な構造となる。この膜構造の形成は溶剤の乾燥速度とPVdFの結晶化速度 の兼ね合いによるものと推定され、同じ乾燥温度においても、減圧か常圧かによって、膜 構造が変わり、この傾向は低い乾燥温度の場合顕著である。Michotら文献3)はPVdFの膜形成 において、貧溶剤溶液からの膜形成、結晶性の高いPVdFからの膜形成において、ボイドが 形成され易いことを報告している。 3. 新規複合電解質含有活物質複合電極の創製 (1)一体成型電極の考え方 新規複合電解質の電極内部への適用は、活物質および導電剤を分散した電極塗工液を集 電体に塗工・乾燥して、新規複合電解質含有電極を直接、作製する「直接法」、通常の空 孔電極と新規複合電解質膜を別々に作り、電極−新規複合電解質膜積層体に、電池ケース 内でイオン性液体を含浸する「成分含浸法」、そして、通常の空孔電極を作り、その上に 新規複合電解質溶液を塗工・含浸・乾燥し、電解質膜を同時に形成後積層する「新規複合 電解質含浸法」の三つの汎用方法を採用した。 電極を構成する正極活物質は、車載用高入出力型のリチウムイオン電池として、安全面、 コスト面から研究が進んでいるLiMn2O4、負極活物質は難黒鉛化性炭素を選定した。なお、 高入出力特性は電極膜厚依存性が大であるが文献4)、容量、エネルギー密度も考慮して正極 15μm、負極10μmを目標値とした。 (2)新規複合電解質含有電極の一体成形 a. 直接法 電極中でPVdFを含む新規複合電解質溶液に、無機活物質および導電剤を分散させた電極 合 剤 か ら 電 極 を 作 製 し た 。 正 極 は 、 PV d F/ 四 級 ア ン モ ニ ウ ム 塩 イ オ ン 性 液 体 ・ TFSI/LiTFSI/VGCF−H/LiMn2O4 =8/14/5/6/67(wt%)組成で混合し、膜厚21μmの電極を作っ た。貫通抵抗、剥離性、折り曲げ性などは満足できるものであった。負極も同様に、PVd F/四級アンモニウム塩イオン性液体・TFSI/LiTFSI/難黒鉛化成炭素=8/16/6/70(wt%)組成 で混合し、膜厚18μmの電極を作った。貫通抵抗、剥離性、折り曲げ性などは満足できる ものであった。しかし、両極共、SEM観察及び密度測定により、電極内部に空孔が30∼ 新規 複合電解質 をバ イン ダーとする 電極 (直接法) 新規複合電解質含有非空孔電極 (集電体に塗工 → 熱融着積層 乾燥) 負極 新規複合電解質膜 新 規 複 合 電 解 質溶 ( PET フィ ルムに 塗工 → 乾燥 → 剥離 (成分含浸法) Cu 通常の電極合剤 → 乾燥) 電解質溶液を塗工 通常の空孔電極 (集電体に塗工 図5 Al イオン性液体含浸 通常の空孔電極 (集電体に塗工 正極 膜 → (含浸 → 熱融着積層 乾燥) PILCE 含有電極/PILCE 膜一体化 70 (新規複合電解質含浸 40%含まれていることが判明した。この空孔を全て新規複合電解質で埋めるには、約2倍 量の新規複合電解質が必要になり、目標性能を満足するには現実性が薄い。 b. 成分含浸法 PVdFをバインダーとして、LiCoO2系正極(膜厚15μm)を作り、1MLiTFSI/ピペリジウ ム・TFSI液を100℃で真空含浸した。電極内部ではPVdFの網目の中にLi/イオン性液体が 含浸された形となり、平成14年度報告文献1)のマクロ相分離系新規複合電解質に相当する 形である。 Li箔を対極として、新規複合電解質膜を挟み、コインセルを作製した(セル1)。C/20、 カット電圧3-4.2 V で充放電試験を行った結果を図6に示す。 c. 新規複合電解質含浸法 PVdFをバインダーとしてLiMn2O4系正極を作り、その上に新規複合電解質溶液(PVdF/ピ ペリジウム・TFSI/Li・TFSI=28/50/20)を塗工・130℃での減圧含浸・乾燥を繰り返し、 新規複合電極−新規複合電解質膜積層体を作製した。作製した新規複合電解質含有電極− 新規複合電解質膜積層体を作用極として、対極にLi金属箔を用いて、コインセルを作製し た(セル2)。C/20、カット電圧 3- 4.3 Vで充放電試験を行った結果を図6に示す。 セル1は理論放電容量135mAh/gに比べてやや劣るが、10サイクルで容量維持率88%。ク ーロン効率良好。セル2は理論放電容量104mAh/gに比べてやや劣るが、10サイクルで容量 維持率が97%で良好。クーロン効率は93%前後で安定であった。10サイクル後、セルを解 体し、観察したが、アミン臭等の臭い、変色等はみられず、電気化学的に安定であること が示された。このことより、低レートながら、常温作動可能なゲル高分子電解質リチウム 0 1 2 3 4 5 6 cycle number Discharge Charge efficiency 50 7 8 9 Capasity(mAh/g) Capasity(mAh/g) 50 efficiency(%) 100 150 100 100 50 Discharge Charge efficiency 0 1 2 3 4 5 6 cycle number 7 8 efficiency(%) 150 100 150 200 150 200 50 9 図6新規複合電解質充放電サイクル特性 (a)成分含浸法 LiCoO2極 (b)新規複合電解質含浸法 電池が実現出来た。 LiMn2O4極 参考文献 1) 経済産業省補助事業<燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発>(要素技術 開発) 「高出力リチウム電池用新規複合電解質の開発」 平成14年度成果報告書 (トレキオン株式会社提出) 2) T.Michot et al., Electrochimica Acta,45,1347(2000) 71 (2)−6 全固体型リチウム電池の高入出力化に関する研究 物質・材料研究機構 1.事業目的 安全性に対する懸念は、電解質に可燃性の有機溶媒を用いるリチウム電池の本質的な問題で ある。車載用リチウム電池では、在来のものに比べ電解質量が大幅に増加する上に、電池の大 型化にともない放熱が困難となるため、安全性に対する懸念はきわめて深刻な問題となる。リ チウム電池の安全性を高めるもっとも有効な方法は電解質として不燃性の無機固体電解質を用 いることであるが、これまでの全固体型リチウム電池は一般に出力性能が低く、車載用電池へ の展開には高出力化することが不可欠である。本研究は、リチウムイオン伝導性セラミックを 用いた不燃性リチウム電池を車載用途へ展開するための要素技術として、全固体型リチウム電 池を高出力化することを目的とする。 2.事業内容 これまでの全固体型リチウム二次電池に関する研究の結果、電池出力の律速段階は正極活物 質/固体電解質界面におけるイオン移動であると結論付けられた。全固体型リチウム二次電池 を高出力化するためには、この界面を改良することが必要であり、本研究において検討するそ のための方策は下記の「Iモデル接合界面の作製と解析」ならびに「II 実証接合界面の作製」 の2つである。 第一の方策は、電極活物質/固体電解質界面に修飾層を設け、この界面におけるイオン伝導 を高速化することである。しかしながら全固体型リチウム電池のこれまでの研究においては、 活物質粒子と固体電解質粒子の混合体を電極として電極特性を調べることが中心であった。こ の方法によると、固体粉末同士の分散状態、接触状態、表面状態等の不正確なパラメータが多 く、活物質材料/固体電解質材料界面におけるイオン伝導現象を定性的に論じることは可能で あるが、伝導にかかわるパラメータを正確に抽出することが困難である。それに対し、薄膜系 を用いた場合には、界面におけるイオン伝導現象を一次元系として取り扱うことができ、界面 におけるイオン伝導機構を明瞭に解析することができる。このような薄膜系のモデル界面を作 製するために、①活物質材料、固体電解質材料の薄膜形成法を開発し、②モデル界面を作製す るとともに、これらの解析を行う。さらに、この界面に修飾層を設けイオン伝導に及ぼす影響 を調べることで、高出力化するための修飾層材料を最適化する。近年、液体電解質系において 活物質粒子表面にアルミナ等の被覆を行なう研究がなされているが、薄膜系において研究を進 めることで、粒子形状や表面形態を変化させることなく所望の厚みの修飾層を形成することが 可能となり、界面イオン伝導に対する修飾層の寄与をより明確に検討することが可能となる。 本事業では、これら薄膜系を用いた研究を「Iモデル接合界面の作製と解析」と位置づけ、薄膜 系界面の作製と解析、ならびに界面修飾材料の検討を行なう。 全固体型リチウム電池を高出力化するための第二の方策は、電池構成材料を微粒子化するこ とである。上記薄膜系は、界面イオン伝導やその高速化機構を検討するためには適しているも のの、活物質層の厚みに制限があるため電池を大容量化することは困難である。大容量の電池 を構成するためには、活物質粉末と固体電解質粉末を複合化することで反応面積を大きくした 電極を用いる必要がある。全固体系における出力特性が液体電解質系に比べ劣る原因のひとつ 72 は、このような複合電極においても活物質と電解質の接触が固体同士の接触であり、電気化学 反応界面の面積が小さなものとなり、さらに粒子間に空隙が存在することである。粒子径の小 さな材料を用いると、空隙をこの微粒子で充填することが可能となり、接触面積を拡大し、充 填密度を向上させることができる。そのために、活物質材料、固体電解質材料の微粒子化を行 なう。また、界面修飾材料の探索は、 「Ⅰモデル接合界面の作製と解析」において物理蒸着法に より作製した薄膜系を用いて行なうが、実用電池系の電極は活物質粉末と固体電解質粉末の複 合系となるため、界面修飾材料を活物質粉末粒子あるいは固体電解質粉末粒子表面に形成する 必要がある。このような修飾材料層の形成には、物理的蒸着法ではなく、化学的手法をとる必 要があるため、修飾層形成法についても合わせて検討を行なう。これらの方策により、複合体 電極の高出力化を達成する(II 実証接合界面の作製)。 3.成果 I モデル接合界面の作製と解析 ① 活物質材料、固体電解質材料の薄膜形成法の開発 蒸着法としては、蒸着源からの組成ずれが少なく、比較的容易に両材料の薄膜が得られると 考えられるパルスレーザーデポジション法を採用した。蒸着源の作製条件、ならびに蒸着雰囲 気、基板温度等の薄膜作製条件の最適化の結果、固体電解質薄膜としてLISICON型結晶構造を 有するLi3.25Ge0.25P0.75S4の薄膜化、電極活物質材料としてLiCoO2およびLiMn2O4の薄膜化に成 功した。 作製した固体電解質(Li3.25Ge0.25P0.75S4)薄膜のイオン伝導度(左、横軸:絶対温度の逆数、縦軸: イオン伝導度) 、LiCoO2(中)およびLiMn2O4(右)薄膜のサイクリックボルタモグラム。 ② 薄膜系における活物質材料/固体電解質材料界面の作製とキャラクタリゼーション 上記で得られた活物質材料薄膜、固体電解質材料薄膜を積層することによりモデル界面の作 製をおこない、この界面における電気化学特性、構造等を調べる。これまで、Li+イオン分布の 様子を二次イオン質量分析(SIMS)により調べ、LiCoO2 / Li3.25Ge0.25P0.75S4 界面ならびに LiMn2O4 / Li3.25Ge0.25P0.75S4界面におけるLi+イオン濃度の変化を明瞭に観察することが可能と なった。 ③ 界面修飾材料の探索 上記で得られた界面に設け、界面イオン伝導を高速化する材料として、高いイオン伝導性を 73 有するセラミック材料の検討を行なった。LiMn2O4粒子上に修飾層を形成したところ、界面イ ンピーダンスを1/10以下に低減することが可能となった。 Li0.90Mn2O4 / Li+イオン伝導性固体電解質界面の複素インピーダンス。(○:修飾 層を形成しない界面におけるインピーダンス、□:400 °Cにおいて修飾層を形 成した界面におけるインピーダンス、△:600 °Cにおいて修飾層を形成した界 面におけるインピーダンス) II 実証接合界面の作製 ① 活物質材料、固体電解質材料の微粒子化 微粒子作製法の開発として、低真空下におけるレーザーアブレーション法の検討を行なった。 イオン伝導性材料として、Li+イオンの高速伝導体であるLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を用い、酸素気流 中でアブレーションを行った結果、粒径が数十ナノメートルの固体電解質微粒子を得ることに 成功した。 微粒子作製に用いたアブレーション装置の概念図(左)ならびに作製したLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3の微粒子 のTEM像とEDXスペクトル(右) ② 活物質、固体電解質微粒子を用いた界面制御による活物質材料/固体電解質材料界面の高 出力化 粒子表面への化学的修飾層形成法として、ゾル−ゲル法、静電噴霧法の検討を実施した。ゾ 74 ル−ゲル法の検討としては、アルコキシドを用いたLiTi2(PO4)3薄膜の作製を行い、得られた薄 膜がバルクに比べ優れたイオン伝導性を示すことを実証した。さらに、静電噴霧法の開発にお いては、アルコール溶液を用いることにより緻密なZnO薄膜の作製に成功した。 静電噴霧法の原理図(左)とこの方法により得られたZnO薄膜の断面SEM像 4.まとめと今後の予定 「モデル接合界面の作製と解析」では、固体電解質用、電極活物質用の2つのチャンバー導 入と、いくつかの試料についての薄膜形成条件の確立を終えた。薄膜界面の作製ならびに界面 の観察に成功するとともに、界面修飾材料の候補としてリチウムイオン伝導性固体電解質を用 いることで高出力化が可能であることを見出した。今後、界面修飾層として各種リチウムイオ ン伝導性固体電解質の形成と、界面修飾層が界面イオン伝導に及ぼす影響を検討し、最適な界 面修飾層を探索する。 また、 「実証接合界面の作製」では、全固体型リチウム電池材料を微粒子化する方法として、 レーザーアブレーション法を用い、数十ナノメートルの固体電解質粒子を形成した。また、修 飾層の化学的形成法においては、アルコキシド、水溶液を用いた修飾層形成が可能となった。 今後、「 モデル接合界面の作製と解析」において選定した修飾材料を用い、全固体リチウム電 池材料粉末への化学的修飾層形成を行う。さらに、このようにして修飾層を設けた材料粉末を 用いて複合化電極を作製し、モデル電池において高出力化の実証を行なう。 75 (2)‐7 高安全PTC機能電極・耐熱セパレータ技術開発 三菱電機株式会社 (開発の目的) 燃料電池自動車等に使用されるリチウム電池は、貯蔵エネルギーが小型電子機器用リチウム電 池と比較して大幅に大きい。また車載用途の場合は運転者または乗客に近接して電池が設置さ れるケースも想定されるため、濫用時における電池温度異常上昇など電池が不安定状態化した 場合においても電池安全性を確保する必要性が高まる。 本事業では、この電池安全性を確保する要素技術開発として、温度上昇時においても熱収縮等 の材料形態変化が小さく電極間短絡発生を抑止可能な耐熱セパレータ技術の開発を行う。一方 この耐熱セパレータは低熱収縮性を目指すことから、従来電池温度異常上昇の際にセパレータ 膜が担っていたシャットダウン機能(温度上昇の際にセパレータ膜収縮による膜中空孔閉塞に よりリチウムイオンの移動を遮断し電池機能を喪失させて安全性を確保する機能)は低下する。 この安全機能を補完するために、電極にPTC(Positive Temperature Coefficient:本開発で は温度上昇に伴い電子抵抗が非線形に増大する性質と定義する)機能を組み込み、異常動作に より電池温度が上昇した場合に、電極内部の電子抵抗上昇に伴う集電能低下により電池反応を 低下させることにより電池の熱暴走を抑制し、電池安全性を確保することが可能な電極技術の 開発を行う。 (中間評価時点での成果) 耐熱セパレータ技術開発 耐熱セパレータ開発においては、その構成材料には電気化学安定性(リチウム電池内部でも反 応しないこと)だけでなく化学的な熱安定性(想定温度域で融解、分解等の変成が発生しない こと)が求められる。また電極間のイオン伝導性確保のために膜中の空孔率を高める必要があ る。そこでこれらを満たすことが可能な構成材料系として、「高い耐熱性を有するセラミック微 粒子と樹脂バインダーとの複合系」を選定し、本材料系を用いた耐熱セパレータを基本コンセ プトとした。 本開発はこれまでに、キーマテリアルとなるセラミック粉体やバインダー樹脂の基礎物性評価 を実施し、これらの評価結果をもとに試作用のセラミック粉体種及びバインダー樹脂種の選定 を行った。 このセラミック粉体とバインダー樹脂を組成を変えて溶剤中に溶解・分散させたペ ーストを作製後に製膜を行い、種々のセラミック/バインダー樹脂比率の「セラミック・樹脂 複合セパレータ膜」 (約20μm厚)を試作した。これら試作セパレータ膜に関し、各種膜物性試 験、加熱保存試験による形態変化評価を行い、高温下(150℃)でも低収縮なセパレータ膜を得る ことができた(図1)。 さらに、この試作セパレータ膜を用いてカード形態のラミネート電池を試作し、その電池特性 評価を行った。充放電サイクル特性及び負荷特性に関しては、セラミック粒径0.01µm使用時に おいて従来のポリエチレン製セパレータ膜を使用した電池と同等の特性が得られる見通しを得 た(図2) 。 76 図1.加熱保存試験(60分保存)後のセパレータ膜の形態 試験前の膜サイズ:50mm×50mm 試作耐熱セパレータ膜:(a)125℃保存、(b)150℃保存 従来のポリエチレンセパレータ膜:(c)125℃保存、(d)150℃保存 放電容量保持率 (%) 120 PEセパレータ 0.01µm 100 80 60 0.3µm 40 粒径(0.01µm) 粒径(0.3µm) PEセパレータ 20 0 0 100 200 300 充放電サイクル数 400 500 図2.試作耐熱セパレータ(セラミック粒径:0.01µm、0.3µm) 及び従来セパレータを使用したリチウム電池の充放電サイクル特性 (放電容量保持率:各サイクル数における放電電気量を 放電1回目の放電電気量で規格化した値) 77 PTC機能電極技術開発 PTC機能電極開発においては、電極にPTC機能を組み込む方策として「PTC特性を有する微 粒子材料の正極活物層中への複合による集電能変化の利用」を基本コンセプトとした。正極活 物質層中に複合するPTC特性を有する微粒子材料は、電気化学的に安定であることが必須であ ることから、本開発におけるPTC材料としては電池材料として実績のあるカーボンブラック・ ポリエチレン系を選定し、カーボン種及びカーボン/ポリエチレン組成を変えた混練材料を試 作した。さらに混練材料の電子抵抗率温度依存性評価を行い、その結果をもとに電極に複合す るPTC材料を選定した。 106 この選定したPTC材料を正 ○ reference electrode ● PTC-6wt% electrode △ PTC-12wt% electrode 極活物質層に複合するために粉 Resistivity(Ωcm) 砕・微粒化を行い、正極活物質 粒径と同等以下の粒径となる平 均粒径20μm以下のPTC材料 微粒子を作製した。さらにこの 微粒子を正極活物質層中に複合 したPTC微粒子複合正極板を 105 104 103 102 作製した。 この正極板の電子 抵抗率温度依存性評価を行い、 10 50 130∼140℃において電子抵抗率 100 150 Temperature(℃) 200 が非線形に増大することを確認 した(図3)。 図3.PTC微粒子複合正極板の電子抵抗率温度依存性 (●: PTC材6重量%複合、△:同12重量%複合、○:従来電極) この試作正極板を用いたカード型ラ ミネート電池を試作し、その充放電 5 160 ○ (a) 試験を行った結果、放電レート1C 量)において設計容量にて放電が可 能であったことから、この試作複合 正極板はリチウム電池用正極として 使用可能であることを確認した。さ らに試作電池の放電時電圧の温度依 存性評価を行った結果、PTC材料の 4 150 3 140 2 130 1 120 0 抵抗率が上昇する温度と同温度域で 0 2 4 6 8 10 110 12 Time(min) 電池電圧が急降下したことをから (図4)、本電極が電池安全性向上 に対して有効である可能性を見出した。 図4.電池放電時電圧の温度依存性: (a)通常正極使用、(b) PTC複合正極使用 78 Temperature(℃) 合に1時間で完全放電させる電流 Cell Voltage (V) (満充電状態の電池を放電させる場 △ Temperature ● (b) Ⅳ 実用化・事業化の見通しについて 1.実用化・事業化の見通し 1.1 実用化のイメージ、見通し 本事業におけるリチウム電池開発では、車載用リチウム電池技術開発において、高い入出力 密度かつ重量エネルギー密度と相反する性能の両立を求めている。さらには長い寿命、低コス ト、高い安全性を含め、極めてハードルの高い開発目標を設定している。本事業で開発を目指 すリチウム電池は、現状のリチウム電池やニッケル・水素電池を性能・コストの両面で遥かに 凌ぐレベルのものである。従って、燃料電池自動車の補助電源として充分に実用化でき、燃料 電池自動車の普及促進を加速する。さらには、類似の用途として、ガソリンエンジンハイブリ ッド車へも本研究の成果を展開し、実用化されると期待できる。 2004年現在に公道を走行する燃料電池自動車は、主に高圧水素タンク搭載型である。こ のような水素直接供給の燃料電池自動車の次には、改質器搭載型の燃料電池自動車への展開も 。リチウム電池は、エネルギー利用効率の向上のみならず、改質器の始 予想される(図VI.1-1) 動時間までの時間帯、極低温環境下での始動、瞬時でのエネルギー変動負荷への供給など燃料 電池には不得手な電力供給を補い、燃料電池自動車の走行性能向上において、大きな便益を与 える。 図 VI.1-1 燃料電池自動車のイメージ図(改質器なしで、高圧水素タンクを車載する形もある。そ の時は燃料タンクが高圧水素タンクとなる。)(日本自動車研究所のHPより) 最終目標を達成する電池性能は、燃料電池等自動車への実用化が大いに期待できるものと考 えられる。燃料電池自動車やハイブリッド自動車の利便性ニーズに適した、軽量・コンパクト、 高入出力特性、高エネルギー利用効率、低コストなどの特長を有する二次電池を提供すること により、低環境負荷なグリーン自動車の普及促進に繋がる。将来の需要として、低環境負荷循 環型社会に向け、経済産業省の燃料電池自動車の導入目標が2020年、500万台、ハイブリ ッド自動車の市場予測が2010年、250万台であり、成果の実用化・普及については、将来 極めて大きな市場が見込まれている(矢野総合研究所の報告書より)。これらの市場動向を視野 に入れながら、実用化を進め、環境対応車の普及に貢献していくことが期待できる。 一方、電池評価技術開発に関して、車載用リチウム電池の基礎的な特性を把握する試験方法 が確立し、さらに評価手順マニュアルなどを含む試験条件が明示されることにより、開発され る電池性能を客観的に評価できるようになる。また、短期間で耐用年数(寿命)推定ができる ことで、リチウム電池性能の改善・改良に資し、電池技術開発が加速化する。これにより、電 池ユーザー(燃料電池自動車の製造業者等)側からの電池選択が効率化され、燃料電池自動車 等のクリーンエネルギー自動車の開発促進・市場拡大に貢献できると期待される。さらには、 79 燃料電池自動車やハイブリッド自動車での展開が予想される国際標準・規格作りにおいて、本 事業での成果からのデータ提供が期待でき、グローバルスタンダード作りに資する。また、電 池材料研究開発を行う要素技術開発では、さらに高い安全性を確保し、高エネルギー密度や高 出力密度を達成する新規電極材料、セパレータ、電解質などを提供し、次世代の低環境負荷型 自動車の普及促進に資する。 1.2 研究開発終了時における技術開発の方向性と実用化に向けた課題 1.2.1 ユーザーニーズと技術開発の方向性 車載用リチウム電池技術開発において、平成15年度までに単電池レベルの原型仕様として は、高入出力で長寿命な電池を構成し得る目処が得られたことで、既存のリチウム電池、ニッ ケル水素電池等を上回る高性能電池を具現化することができた。今後、モジュール化、パック 化に移行し実用化に導くためには、これら電池構成材料や電池製造プロセスの量産仕様を確立 する必要がある。さらに、コストダウンと絶対的な安全性確保の見通しを得ること、競合する ニッケル水素電池やキャパシタなどとの差別化のできる特長を伸ばす、技術開発を進める必要 がある。 「高性能リチウム電池要素技術開発」での電池評価技術においては、提案する評価法の精度 が高くなるほど、実用化に対する貢献度が大きくなることが期待できる。このため、開発され る車載用リチウム電池について検証を重ねる必要がある。すなわち、提案する評価法の精度向 上を図り、信頼性が高く広く受け入れられる試験法とするため、試験データによる実績を培う 必要がある。とくに、加速的耐用年数評価技術では、開発電池の耐用年数15年を確保するため の電池作動の環境条件や使用条件を明らかにし、電池技術開発へのフィードバックにより、電 池の適用市場を広げるための技術課題を解明する支援研究とする。電池材料の研究開発では、 さらに高い安全性、高エネルギー密度、高出力密度を達成したの新規材料をリチウム電池に適 用し、実用化に向けた開発研究に段階的に移行する。 1.2.2 技術的課題 燃料電池自動車に車載するリチウム電池は、自動車の利便性を損なうことなく、走行性能を 向上させるものでなければならない。燃料電池自動車等の低環境負荷型自動車普及促進のため にも、低コスト化、量産化技術の確立は不可欠である。さらに、高いエネルギー密度を有しな がらも、安全性を十二分に確保し、高い信頼性、耐久性を保証できなくてはならない。 本事業においては、燃料電池自動車の走行性能なを含めた利便を確実に向上するためにも、 軽量・コンパクトな(車両の軽量化、室内空間の有効利用)、かつ、大入出対応可能な(回生エ ネルギーなどの有効利用)電池技術を開発する。また、信頼性・耐久性の確立のために加速耐 用年数評価技術も開発する評価技術方法は、実用化時に果たして十分に寿命を模擬できている かは課題として残り、実用化を進めながら、より確実なものとして精度を上げていく必要があ る。 一方、安価な原材料を用いた高エネルギー密度、高入出力密度なリチウム電池を開発できる としても、普及促進に資するためには、低コスト化を目指したリチウム電池の量産化技術開発 が必要である。燃料電池自動車にリチウム電池を車載する時、高電圧化のために多数セルを直 列に接続する。この時、多数接続セル内での電池性能ばらつき、特に、内部抵抗、電気容量で 80 のばらつきが大きくなる、電池システムの性能劣化が加速する。これを防ぐためにも、個々の 電池性能ばらつきを抑えた、より均一な電池の量産技術が必要である。 また、走行性能などの利便性向上のためにも、更に高いエネルギー密度、入出力密度と、電 池の不燃化など安全性向上も、車載するリチウム電池には要求される。「高性能リチウム電池要 素技術開発」では、安全性保持のための不燃化を目的として、正負極電極、セパレータ、電解 質を対象として、新規電極材料や固体高分子電解質などの要素技術開発を行い、目的を満足す る成果を得る見込みである。しかし、これらの開発は、本事業では各部材の開発に留まり、実 用化にはリチウム電池の最適設計、さらには、組電池化の検討が必要となる。より高性能なリ チウム電池の開発のためには、本事業で進める「車載用リチウム電池の実用化技術開発」で実 施するのと同様の工程を経て実用化を見込むことになる。 二次電池の組電池利用で常に求めれれることであるが、さらに、電池のリサイクル、劣化判 定、精度の高い簡便な運用技術の確立なども必要である。 1.2.3 実用化に向けた社会的課題 本事業には電池メーカーが中心となって参画して推進しているが、燃料電池自動車等の技術 開発を進める自動車メーカーなどの法人は参画していない。このため、開発終了時点もしくは 途中段階で、燃料電池自動車開発メーカーなどに向け、本事業の成果としてリチウム電池の諸 性能・諸特性を積極的に開示し、喧伝することが重要である。燃料電池自動車と組み合わせた 燃料電池システムとして入れ込んだ、実用化に向けた評価が必要である。補助動力である二次 電池開発のみでは実用化を進めることはできない。 現在、NEDOが推進する固体高分子形燃料電池システム普及基盤整備事業や水素安全利用 等基盤技術開発事業において、燃料電池自動車の基盤整備、導入、および普及の各段階におい て障害となりうる各種の規格・規制の見直し作業が行われている。リチウム電池の自動車への 搭載は、電気自動車への経験があり、数kWh級の車載に関して問題はない。このような体制が 進めば、車載用リチウム電池の燃料電池自動車等への大量採用に向けて大きな障害はない。も ちろん、今後の実用化に際しては、安全性確認、性能評価などの試験方法を含む車載用リチウ ム電池に関する規格・標準・基準といった社会的整備は必要になる。 1.3 波及効果 本事業での研究開発成果を自動車用等の燃料電池へ導入すれば、燃料電池の効率が低い起動 時・超低負荷時および高負荷領域でのリチウム電池作動と回生制動が可能となるため、燃料電 池の特長である高効率性と排ガスのクリーンさを最大限発揮でき、燃料電池自動車等の導入が 促進される。燃料電池自動車の導入目標は2020年で500万台であり、CO2削減量203万tC/ 年、原油換算では280万kL/年の削減効果がある。さらに、定置用の燃料電池の導入・普及目標 は2020年で1000万kWであり、これら定置用の燃料電池の補助電源への展開も期待できる。 また、本事業で開発した電池技術は、燃料電池自動車以外のガソリン車等のハイブリッド車 はもちろん、自動車以外の用途にも利用でき、新規産業の創生、雇用拡大、省エネルギー・新 エネルギー利用への波及が予測される。 高出力化技術は、車載用途の電池に限られるものではなく、介護用機器・電動工具など携帯 型の高出力が要求される駆動用電源としての応用展開が期待できる。軽量・コンパクト、急速 81 な充電、放電が対応できるため、電動工具など電力負荷の大きい機器でも利用が可能で,利便 性向上が望める。また、長寿命化技術は、定置型の電力貯蔵用やバックアップ電源など長期耐 久性が求められる用途への適用が可能である。瞬時の対応を要求するバックアップ電源では、 高入出力化により負荷応答特性の向上により、小容量の電池システムでの構築が可能となり、 低コスト化も望める。軽量・コンパクト、高出力特性を有するリチウム電池は、ロボット等の 各種移動型電源用途で広く利用でき、さらに移動型機器の可能性が広がる。 一方、新エネルギー利用である不安定な風力、太陽光発電での電力供給の安定化に、高入出 力エネルギー対応の高性能リチウム電池の活用がある。特に、風力発電では、風力の急激な変 動による発電のカットオフ・カットインがあり、系統との連系において、急激な変動は系統の 不安定化を引き起こす懸念がある。しかし、この時の一時的な変動をリチウム電池へ電力貯蔵 により、電力供給の安定化に大いに活用できる。定置用固体高分子形燃料電池システム利用に おいても、一般需要家での利用では電力需要と発電量のズレが有り、二次電池による調整に応 用できる。風力発電、太陽光発電など、不安定な再生可能なエネルギーの導入・系統への安定、 需要サイドとの時間的なズレの調整など、利用価値は高い。 これらの幅広い分野において、高入出力特性を有するリチウム電池の活用・利用はあり、省 エネルギー・新エネルギーを進めた環境調和型社会の創生に寄与することが期待できる。 2.今後の展開 本事業で推進する「車載用リチウム電池技術開発」では、入出力密度および重量エネルギー 密度の相反する性能の両立を求め、さらには、寿命、コスト、安全性を含めた極めて高い開発 目標を設定している。平成16年度までは単電池の開発を重点的に行い、平成17年度以降は 車載を想定した電池システムとして開発を発展させる。平成16年度までの成果として、電池 性能面では、入出力密度、もしくは、重量エネルギー密度のどちらかは達成しているが、両立 はできていない。しかし、小型試作電池では、両立を期待させる性能が確認されている。今後 は、実用化の容量を有する電池の開発を目標として、電池の構成部材、電極構成、電解液量な どと、電池構造や製造条件を検討して、相反する高い開発目標を達成する。さらに、寿命、コ スト、安全性を確保するためにも、電池総合特性並びに加速的耐用年数評価技術の研究成果を 取り入れ、寿命評価方法、劣化判定方法を確立することが、今後の研究開発には重要と考える。 車載用リチウム電池の実用化に向け、目標達成に向けての出力、エネルギー密度の向上や寿命 面・安全面での耐久性の高信頼化が必要である。さらに、単電池を用いたモジュール、組電池の 設計の最適化を図る また、 「高性能リチウム電池要素技術開発」では、リチウム電池の更なる性能向上に向け、入 出力特性解析、劣化機構解析などに基づく電池総合特性評価並びに加速的耐用年数評価技術の 開発を行ってきた。平成16年度までに、非破壊試験・解体試験の両アプローチでは、総合特 性の評価方法を提案し、劣化との相関を立証しつつある。耐用年数評価技術では、要因整理し、 加速要因を検討している。提案した試験方法、評価方法の精度向上を進め、より簡便な短時間 で判定できる試験方法を提出する。一方、広範な状況下で十分な安全性を保持しうる不燃リチ ウム電池の実現に向け、新規材料や固体高分子電解質などの要素技術の開発では、新規の正負 極の電極材料や難燃化電解質、セパレータなどを提案し、その性能向上を進めているが、高い エネルギー密度、長いサイクル寿命の可能性は材料レベルで示されているが、電池としての性 82 能や、目標である高入出力性能は達成できていない。今後は、電池への適用を考え、内部抵抗 を減らしたシート電極や試料材料微細化なとの検討を加えて実用化に向けた技術開発を行う。 83