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オバマとカーター、どちらもつらいよ
リサーチ TODAY 2011 年 11 月 10 日 オバマとカーター、どちらもつらいよ 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 米国の大統領選挙まで約1年になった。来年の今頃はどのような大統領に決まっているだろうか。筆者 は2008年にオバマ氏が米国第44代大統領に就任以来、オバマ大統領の振る舞いやパフォーマンスに 大変好感をもっている。しかし、筆者はオバマ大統領に対し就任時から一貫して「再選されない不幸な星 の下に生まれた不運の大統領」と評価してきた。それは、オバマ大統領が自助努力を越える極めて難し い局面で政権運営を行っていると認識しているからであった。すなわち、米国が2007年以降の深刻なバ ランスシート調整にあるなかで、オバマ氏は2008年に政権を獲得したが、たとえどの大統領が就任しても 再選されにくいとの認識だ。しかも、オバマ大統領のようにスタート段階の期待が高ければ高いほど、そ の失望が大きくなってしまう悲劇が加わる。筆者はこの3年余り、オバマ大統領と30年前のカーター大統 領との類似性を議論してきた1。 今振り返ると、オバマ氏もカーター氏も時代の転換局面において登場した大統領と評価することが出 来る。1977年に大統領に就任したカーター氏は、様々な政策分野において転換シナリオを掲げた。同様 に、2009年に大統領に就任したオバマ氏が「チェンジ」をスローガンに掲げたのも歴史的な転換を印象 付けるものだった。 1977年のカーター政権の誕生はウォーターゲート事件、ベトナム戦争等、1970年代の米国の閉塞感 から清新な大統領を求める動きに沿ったものだった。カーター大統領は「人権外交」、「対話」を旗印とし て、大統領就任初期は人気を博するが、イラン革命や旧ソ連によるアフガン侵攻が発生すると、「弱腰外 交」と強い世論の批判を浴びた。結局、カーター大統領は再選されず、「強いアメリカ」を求めるレーガン 大統領の誕生になった。 オバマ大統領の誕生にも、サブプライム問題以降の米国の閉塞状況のなか、新たな潮流を求める声 がバックにあった。オバマ大統領が掲げる「チェンジ」の声に、ニューディール再来の期待も強かった。し かし、その後の3年間は期待と現実のギャップが一層拡大した3年間でもあった。外交面でも「対話と協 調」を志向する動きがカーター大統領と類似するが、その成果はいまだ表れていない。カーター大統領と 同様に、オバマ大統領の外交姿勢が「弱腰」と映る面も多いようだ。 もっと歴史を遡って第二次大戦後の60年余りを振り返ると、前半30年から後半30年にかけての転換期 にカーター政権が存在し、米国の針路を自由化・グローバル化に向けた。その後30年が経過し、再びそ の路線の転換にオバマ政権が位置している可能性がある。カーター大統領がその先見性と調整力で大 統領を退いた後に評価を高め、「最強の元大統領」2と称されるように、オバマ大統領も後世からみて新た 1詳しくは、 「金融社会主義」(高田創・柴崎健・石原哲夫著、東洋経済新報社、2009 年)を参照いただきたい。 カーター氏は、 「最初から元大統領だったらよかったのに」と揶揄されることもある。同様に、オバマ氏は「最後ま で次期大統領だったらよかったのに」と言われるかもしれない。 2 1 リサーチTODAY 2011 年 11 月 10 日 な針路を示した大統領とされる可能性もあるだろう。次の図表は両氏を取り囲む環境の比較であるが、転 換局面と構造調整を抱える難しさという点で共通点が多いと考えている。 ■図表:オバマ大統領とカーター元大統領 オバマ大統領(民主党) 任 期 2009-2013 年 国際環境 欧州不安、アラブの春 米国国債格下げ 米国経済 2007 年以降のバランスシート調整 自動車産業危機 新 興 国 新興国の台頭 資源価格 資源価格高騰 為 替 2007 年以降のドル安 カーター元大統領(民主党) 1977-1981 年 中東紛争、旧ソ連のアフガン侵攻 イラン大使館事件(米国の威信の失墜) 1970 年代の石油ショック 自動車産業危機 資源国の台頭 石油危機で原油価格高騰 1971 年の変動相場制移行後のドル安 (資料)みずほ総合研究所 どちらの大統領も米国経済の調整、時代環境の転換、米国の威信の失墜のなかで苦境に立っている。 ただし、現在の米国のバランスシート調整の度合いが第二次大戦後最大規模であること、さらに、今回は 欧州を巻き込んだバランスシート調整が加わること、そして日本でも1990年代以降のバランスシート調整 の後遺症が続いていることを考慮すれば、オバマ大統領の置かれた環境はより一層厳しいだろう。 米国の政治環境を振り返れば、「強いアメリカ」を志向する「躁」の状態と、威信の失墜に伴う「鬱」のモ ードが繰り返されてきた。したがって、今後の経済・市場動向を占う鍵も大統領選を巡る環境にあると考え ている。当面、米国の大統領選を巡る政治社会環境に市場の注目が集まると展望される3。 3 米国の政治社会環境に関しては、当社のユーヨーク事務所長である安井明彦著「アメリカ 選択肢なき選択」(日本経済新聞出 版社、2011 年)を参照いただきたい。同書も激変を生み出した国民の渇望と失望を中心に分析している。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2