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LNGに代わる新技術 !? 「天然ガスハイドレート輸送システム」

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LNGに代わる新技術 !? 「天然ガスハイドレート輸送システム」
LNGに代わる新技術 !?
「天然ガスハイドレート輸送システム」
宮田和明,奥井智治,平山裕章*
天然ガスハイドレート(NGH : Natural Gas Hydrates1)輸送システムは,LNGに代わる新た
な天然ガスの輸送手段として注目されている。その理由は,NGHの生成,輸送時の温度がLNG
に比べて高いことから,NGH生成設備や輸送船に関する設備投資を低く押さえられる可能性が
あるからである。ハイドレートを工業的に大量に取扱う技術の開発は開始されたばかりであり,
今後の技術開発への取組が必要である。
近年,日本近海を含む世界各地の海底または,凍土地帯に賦存するメタンハイドレートが非
在来型の炭化水素資源として脚光を浴びている。そのため,近年ハイドレートに関する研究は
加速され,ハイドレートに関する物理的な特性も判明している。よく紹介される雪状のハイド
レートの塊には,その体積の約170倍ものメタンガス(標準状態換算)を包蔵する性質がある。
このため,天然ガスの輸送媒体として成立する可能性を有する。
1990年代に入ってから,NGHを天然ガスの輸送媒体とするコンセプトが発表された。また.
NGH輸送システムの経済性の検討も行われ,北海のガス田に適用した場合,LNGに比べてかな
りの初期投資コストの削減を示唆する結果が報告されている。これらを受けて,複数の研究機
関や企業において,要素技術の開発が始められた。一部では,ベンチプラントレベルの研究開
発を行ったり,国際コンソーシアムを結成して研究開発を進めているグループもある。
で可能と考えられており,LNGの輸送温度
1.はじめに
(−162℃)に比べて非常に高い温度(常温に近
い温度)で取扱いができるため,設備投資や操
天然ガスハイドレート(NGH:Natural Gas
業費用が低く抑えられると言われている。その
Hydrates)輸送システムは,近年その概念が
発表され,そのシステムに係る要素技術開発が
ため,初期設備投資が莫大になるLNGでは開
発できなかった中小規模ガス田の開発を促進す
ようやく開始されたばかりである。そのため,
ると期待されている。
今後多くの克服すべき課題がある。一方,
本稿では,NGHの特性,NGH輸送システム
NGH輸送システムは,その輸送温度が約-15℃
の概要,NGH輸送システムを巡る国内外の動向
とそれらに必要な要素技術の開発現状と課題,
*本稿は,石油開発技術センター天然ガス有効利用技術研
究 プ ロ ジ ェ ク ト チ ー ム 宮 田 和 明 ( E-mail: [email protected]),奥井智治(E-mail: [email protected]),平
山裕章(E-mail: [email protected])が担当した。
1 本稿では,天然ガスを人工的にハイドレート化したもの
を「NGH」と呼ぶこととする。天然界に存在するハイド
レートは,一般に「メタンハイドレート」と呼ばれてい
ることから,それを踏襲する。「メタンハイドレート」に
は,メタンのみならずエタンやプロパンも含まれている。
また,「NGH」,「メタンハイドレート」を含むハイドレー
ト全般を指す場合は「ハイドレート」と記載する。
およびNGH輸送システムの利点を紹介する。
2.NGHとは
ハイドレートの存在は,石油鉱業界では1930
年代に,低温または急激な温度低下を伴う配管
内部で発見された。当初は,水とハイドレート
化するガス(表1参照)が共存する配管(大水
―1―
石油/天然ガス レビュー ’01・11
深の海底パイプラインや氷海域のパイプライ
ず,積極的な工業分野への応用研究も開始され
ン)内において,ハイドレートが生成し,配管
た。
を閉塞する事故を起こすことから厄介者として
扱われていた。そのため,ハイドレートに関す
NGHは単位体積あたり,約170倍の大量のガ
ス を 包 蔵 す る ( メ タ ン ガ ス の 場 合 , 図 1 )。
る研究は生成防止に主眼がおかれ,ハイドレー
NGHの存在する熱力学的な条件を図2に示す。
トが熱力学的にどのような条件(温度,圧力)
で生成するかといった予測手法の研究がなされ
た。
1960年代にはいると旧ソ連の永久凍土地帯に
おいて,天然に存在するメタンハイドレートが
発見され,1970年代には米国フロリダ沖におい
て,海底から天然のメタンハイドレートが発見
された。その後,日本での南海トラフにおける
基礎試錐(2000年)によるメタンハイドレート
の確認に代表されるように,全世界に広範に且
つ大量に天然ガスがハイドレートとして賦存し
ていることから注目されるに至った。
これらを背景にハイドレートに関する研究が
図2 ハイドレートの相平衡図(Sloanら)
(メタンよりもエタン,プロパン,ブタンとなるにつ
れて低圧でもハイドレート化しやすい)
進み,非在来型資源としての観点からのみなら
図1 ハイドレートのガス包蔵イメージ
石油/天然ガス レビュー ’01・11
―2―
この図からNGHはより温度が低いほど,またよ
り圧力が高いほど安定であり,生成しやすいこ
自身を冷却するとともに,解けだした水が氷結
とが分かる。また,低温であるほど大気圧に近
してNGHの周囲を氷が取り巻くことにより分
解条件においても分解速度がさらに遅くなると
い圧力で安定的に存在する。したがって,条件
言う現象である。ドライアイスを水の中に入れ
を満たす低温では,大気圧に近い圧力で同量の
て溶かしている時に,ドライアイスの「煙り」
ガスを貯蔵することができる。例えば170気圧
のボンベに充填されているガスを,同じ容器に
が出なくなることがある。これは,ドライアイ
ハイドレートとして貯蔵すると,1℃ではその
けるのを防いでいるからである。自己保存効果
圧力は30気圧でよく,−80℃では1気圧でよい。
はこの現象によく似ている。この自己保存効果
スの周囲に氷の膜ができて,ドライアイスが解
また,NGHは分解潜熱が大きいため,室温
により,理論的な条件よりもさらに緩やかな条
では非常にゆっくりと分解する。NGHの潜熱
は氷と同じ位のレベルにある。例えば,雪が降
件でNGHを取り扱えるので,NGHを安定的に
存在させるために,温度を下げたり,圧力を高
り積もった後に,温度が上昇しても暫くは残雪
めたりするためのエネルギーを減らすことがで
として残る。NGHも同様に,雪のようにゆっ
くりと解けてゆく。図3にハイドレートに点火
きる。
した際の写真を示す。非常に緩やかにNGHが
解けるとともに,分離したガスが燃えている様
NGHをミクロな視点から捉えると,水分子
が形成する格子(籠)にガス(ゲスト分子)が
取り囲まれている(図4参照)。ハイドレート
子が見て取れる。
の種類は現在,3種類確認されており,主にゲ
さらに,NGHの魅力的な性質として「自己
保存効果」が挙げられる。自己保存効果は,
スト分子の大きさがハイドレートの種類を決定
NGHの持つ大きい潜熱により,分解時に自分
成する籠に入れないのでハイドレートは生成し
する。さらに大きい分子になると,水分子の構
ない。一方,籠の大きさに比べて,小さすぎる
分子もハイドレートを形成しない。
水分子
メタン分子
図4 ハイドレート構造概念図
3.NGH輸送システムの概要
NGH輸送システムの概念フローを図5に示
す。NGH輸送システムは大まかに生成,輸送,
図3 燃えるメタンガスハイドレート
(東京ガス㈱提供)
再ガス化の3つの工程に分けられる。
最初の生成工程では,油ガス田から生産され
―3―
石油/天然ガス レビュー ’01・11
た天然ガスを受け入れてコンデンセートの分
離,酸性ガス(CO2や硫化水素)等の不純物を
除去する。そして,NGH生成反応器において,
にNGHのみを輸送するのではなく,原油やコ
ンデンセートとのスラリーとして船舶輸送する
低温高圧の天然ガスと水を接触させて,NGH
概念も提案されている。
いずれの輸送方法を選択したとしても,船は
を生成する。NGH生成反応器における生成手
NGHが分解しない条件を保つ輸送船であれば
法はいくつかの種類が検討されている。
十分であり,このことはLNG船と大きく異な
NGH生成反応器に供給された水と天然ガス
る点である。NGHは前述の通り自己保存効果
が全てNGH化するためには一般に長い時間が
も含めて大気圧下では,約−15℃程度の温度で
必要となり,また生成したNGHが容器内や配
管内で閉塞してしまう危険性が高いことから
安定であると考えられているため,LNG船に
使用される高価な極低温用のニッケル合金鋼の
NGH反応器の出口ではNGHと水が混合した
使用は必要なく,一般に普及している安価な炭
NGHスラリーにしておくことが適当と考えら
素鋼が利用できる。したがって,NGH輸送船
は冷凍船のようなイメージが適当であると考え
れる。
次に,NGHを輸送に適した形態に加工する
必要がある。スラリーには,大量の天然ガスが
包蔵されているNGHと,微量の天然ガスが溶
解しているだけで天然ガスを包蔵する容量は殆
どゼロである水が混在している。水ばかりを運
ぶことのないよう,脱水して極力NGHに付随
られ,LNG船に比べると建造費が大幅に低減
可能と考えられる。
最後の工程が再ガス化である。受入れ港に到
着後,NGHを荷揚する。海水を利用したヒー
トポンプにより熱を回収し,その熱をNGHに
投入して天然ガスと水に分解させる。天然ガス
する水を落とす必要がある。
2番目の工程は輸送工程である。生成工程か
は水を分離した後,脱湿処理,熱量調整等の必
ら出てくるNGHをコンベヤ等により輸送船に
ガス化工程を全てNGH輸送船上で行う概念も
ある。この場合,輸送船の設計はもちろん,輸
移送する。コンベヤではNGHが分解しないよ
うに保冷システムとする必要がある。また,単
要な処理を行い利用先に供給される。また,再
送船の運航スケジュールと再ガス化に要する時
図5 NGHチェーンフロー図
石油/天然ガス レビュー ’01・11
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間の最適化も課題となってくる。
て,石油公団の特別研究「メタンハイドレート
4.NGH輸送システムに関する国内外の動向
開発技術」(平成7∼11年度)において紹介さ
れている。また,新エネルギー・産業技術総合
開発機構(NEDO)が「ガスハイドレート資源
世界で最初にNGHを天然ガスの輸送媒体と
したシステム概念構築を行ったのは,
化技術先導研究開発」(平成9∼11年度)にお
いて「利用システムに関する調査研究」(財団
Gudmundsson教授(ノルウェー理工大学,ト
ロハイム)である(1996年)。同教授によると
法人エネルギー総合工学研究所実施)でNGH
輸送システムについて調査を行った。当該研究
北海領域のガス田をLNGにより開発した場合
においては,メタンハイドレートの生成速度や
に比べ,NGH輸送システムを採用すると初期
分解速度の実験的研究,シーズ技術調査として
投資額で約25%の低減が可能と見積もられてい
る(表2参照)。現在,同教授の下,ノルウェ
NGH輸送システムの検討や天然ガスパイプラ
イン輸送でのハイドレート生成とその防止に関
ー政府の支援を受けてShell,Akar Eng.等の会
社とコンソーシアムを組成して研究開発を行っ
ては,前出のGudmundsson教授の概念をベー
ている模様である。
また,Advantica(英国:旧BG Technology2)
する検討を行った。NGH輸送システムに関し
スとして,同様の条件においてNGH輸送シス
テムの経済性評価を行った(表3)
。その結果,
においてもNGH輸送システムの研究開発を行
初期設備投資額に関して,LNGの場合と比較
っている。同社では,NGHを1日当たり1トン
程度生成する規模のベンチプラントを製作して
を行い,NGH輸送システムでは約17%の投資
を低減できる可能性が示された。また,日本に
エンジニアリングデータを取得している。
その他,フランスや韓国もハイドレートを天
輸入されるLNGをNGH輸送システムに代替し
然ガスの輸送媒体とする研究に注目しており,
た場合,年間で170万トンのCO 2削減の可能性
も示され環境負荷の軽減にも効果があると考え
研究着手されるものと考えられる。
また,以上の企業等からは様々な方法による
られている。
これらの調査研究の結果を受けて,本年度よ
NGH輸送システムの概念の特許が出願されて
り運輸施設整備事業団ではNGH輸送システム
の輸送船の技術開発に焦点を当てた競争的資金
いる。
国内においては,NGH輸送システムについ
http://www.bgtech.co.uk/bgtechtools/searchengine.nsf/ru
framesearch/CreateDocument参照
2
を計上し,公募により研究主体を募集した。公
募の結果,三井造船㈱,独立行政法人 海上安
全技術研究所,大阪大学のグループが選定され
た。当該研究では,NGH輸送船内部で効率的
―5―
石油/天然ガス レビュー ’01・11
にNGHを充填する形態,方法,安全性等に関
場に既存技術として存在する。しかしながら,
して調査研究を行うこととしている。
NGH輸送システムでは低温高圧という条件で
あるため,既存技術の改良により安全性,気密
5.NGH輸送システムに必要な要素技術と課題
性,氷結に伴う閉塞等のトラブルを解決する必
要がある。
「3.NGH輸送システムの概要」で紹介した
工程毎に,必要と考えられる要素技術とその課
また,NGHの自己保存効果は,NGHを取り
囲む氷が圧力容器の役割を果たしているため成
題について紹介する。
生成工程における第一段階である酸性ガス処
(氷)が存在しないと,自己保存効果が働かな
理等は既存技術である。NGH輸送システムの
くなる可能性も心配される。自己保存効果の理
成立のキーテクノロジーは,NGH生成技術で
ある。現在,机上の検討のものからベンチプラ
論的な研究と最適な脱水レベルの把握も必要で
ントレベルのものまで複数の生成技術が研究さ
立すると言われている。脱水により十分な水
ある。
輸送工程における器である輸送船は構造的に
れている。いずれにしても,水と天然ガスの接
はLNG船に比べて,船倉の圧力も大気圧であ
触する界面積を大きくして,かつ経済的に
り,温度も−50℃以上,さらに望ましくは−
NGHを生成する技術の開発が重要となる。ま
た,天然ガスはメタン,エタン,プロパン等の
15℃程度であるため,大きな課題はあまりない
複数種類の成分からなる混合ガスである。ガス
と言える。また,NGHの自己保存効果により
大気圧において安全に輸送できる。しかも,船
の組成毎にハイドレート化する条件が異なるの
倉内部の温度が,何らかの理由でNGHが分解
で,天然ガスからNGHを生成させる際は,
NGH化し易いガスとし難いガスの違いに起因
するような温度となっても,急速にはNGHは
溶解しないことからガスの噴出等は起こらない
して,偏った組成のガスがNGHに包蔵されて
ので,緊急時の対策も比較的容易と考えられ
しまう。NGH輸送システムにより供給する天
然ガスの組成,つまり品質を維持する上では,
る。
NGH化するガス組成の制御も重要な課題であ
NGHをブロック形状等で輸送する場合には,
その形状の最適化により,船倉空間の有効利用
る。
の検討も必要である。
生成したNGHスラリーを脱水する技術も,
前述の通り輸送における経済効率を向上させる
また,NGHの揚降荷システムは低温におけ
る固体制御技術が必要である。粉体の移送技術
上で重要である。脱水技術は,様々なものが市
は存在するが,低温となると結露に伴うNGH
石油/天然ガス レビュー ’01・11
―6―
固結や閉塞等の課題が考えられる。
ガスとして主に,メタン,エタン,プロパン等
最後の再ガス化の工程では,NGHを如何に
早く分解して,製品の天然ガスを供給するかが
を含む都市ガスを利用してどのような条件(圧
重要となる。NGHが安定的に天然ガスを包蔵
することは,すなわち分解に時間がかかること
利用した場合,どのような成分割合でNGH化
力,温度)でNGHが生成するか,都市ガスを
するかという観点から試験を行った。
を意味する。しかし,これは輸送時における
また,要素技術に関する検討として,「5.
NGH形態の場合に限定される。したがって,
NGH輸送システムに必要な要素技術と課題」
NGHを細かく砕いて熱媒に浸し早急にNGHを
分解させることや,機械的な工夫等により早急
において示した課題として挙げられるNGH生
成技術に関して昨年度,試験的調査を実施した。
な入熱の方法を検討する必要がある。また,供
NGH生成技術に関しては,水の中にガス気泡
給先で必要とする天然ガスは所定の圧力を持つ
を分散することで,NGHを生成させる「気泡
式」,気泡式でガスと水の接触界面積を増加さ
必要がある。大気圧下でNGHを分解しても,
大気圧の天然ガスしか得られない。コンプレッ
せるために攪拌フィンを設置した「攪拌気泡
サーにより昇圧して供給する方法もあるが,設
式」,充填されたガスに微小液滴を噴霧する
備を増やすと投資額が嵩んでしまうため,温度
「噴霧式」等が代表的である(図6参照)
。
当該委託では,ガスと水の接触界面積量と所
制御とあわせて必要とする圧力条件下でNGH
要動力の観点から,噴霧式を採用して試験研究
を分解する等の方法も検討する必要がある。
を行い,効率的なNGH生成条件を調査した。
6.石油開発技術センター(TRC)における取
組み
TRC天然ガス有効利用技術研究プロジェク
トチームでは,天然ガスの開発促進を図る技術
開発として,天然ガスの液体燃料化(GTL)
技術を進めている。また,ジメチルエーテル
(DME)に係る利用技術開発も行われる予定で
ある。ハイドレート利用技術に関しては,これ
また,同時にNGHスラリーを脱水できる脱水
装置の検討を実施した。
本年度から開始された石油・天然ガス開発・
利用促進型大型研究提案公募事業では,NGH
輸送システムの要素技術に関する研究が3件応
募された。これらの研究はNGH輸送システム
の関連するプラントに焦点を絞り工業スケール
での実証試験を通じて,それらの確立と評価を
らに並び,NGH輸送技術の情報収集を行い,
行うものである。これらの研究開発が採択され
NGH物性および,要素技術に係る研究を委託
た曉には,運輸施設整備事業団の行うNGH輸
送船に係る研究開発との適切な連携により,一
(三菱重工業㈱,東京ガス㈱)により行った。
NGH物性に関しては,天然ガスを模擬する
連のチェーンとしてのNGH輸送技術の開発促
図6 各NGH生成方式概念
―7―
石油/天然ガス レビュー ’01・11
進を図りたい。
いない。これは日本国内での需要が少ないこと,
7.NGH輸送システムの今後の展望
LNGの代表的な売買契約がテイクオアペイ形
式の長期契約が主であること,また天然ガスが
気体であり取扱いが難しいこと,などに起因す
NGH輸送システムは,研究している機関に
より,その位置づけは異なり,LNGの代替と
したり,中小規模ガス田の開発促進,フレアガ
ると考えられる。また,産ガス国がガスの引き
渡し価格に与える影響も大きな課題である。
スの有効利用等を目的としている。
しかしながら,温暖化ガスであるCO2の排出
が少ない天然ガスの重要性はますます今後増大
最近までに公表されたNGH輸送システムの
経済性評価からは,初期投資額が小さいことか
すると考えられる。NGHという形態は,天然
ガスを全く別の製品(灯軽油・ナフサ・メタノ
ら中小規模ガス田の開発につながることと,そ
ール等)に化学的に転換する技術でもなく,
の設備を大きくしてもLNGに比べスケールメ
リットが得られないことが共通した結果である
LNGの様に,ガスから液体に変換する液化・
沸騰の変化でもない。ガスと水の構造化という,
と言える。つまり,LNGの様に大規模なガス
田に適しているのではなく,一定規模までの,
非常にユニークな変化を利用する。このユニー
いわゆる中小規模ガス田に適していると言え
あるライフサイクルアセスメント(LCA)の
観点から評価しても,環境負荷の少ないクリー
る。
LNGにより経済的に開発できるガス田は,
Shellによると5Tcfの可採埋蔵量が必要である
と言われている。また,天然ガス資源は原油の
ように中東には偏在しておらず,日本周辺では,
クな変化を利用すると,近年注目される概念で
ンな燃料となる可能性を持つ。
上述のような背景をふまえると,需要が増加
することで市場が成熟化し,規制緩和により天
東南アジアやロシア極東にも賦存している。東
然ガスの取扱が容易になれば,例えばIPP向け
や中小ガス事業者への天然ガス供給や,天然ガ
南アジア海域の,既発見でありながら経済的な
スのスポット取引への対応等によりLNGによ
理由により開発されていないガス田は多くある
る天然ガス輸入を補完する形で,NGH輸送シ
ステムによる天然ガス輸入の実現性も高まって
(図7参照)。殆どのガス田は5Tcf以下の埋蔵
量であり,これらのガス田を経済的にかつ,炭
くるものと期待される。
化水素資源の輸入先の偏りを和らげる開発シス
テムとして,NGH輸送システムは候補の一つ
参考文献
と考えられる。
一方,天然ガスは原油の様に市場が発達して
1.NEDO,平成11年3月,平成10年度ガスハ
イドレート資源化技術先導研究開発 成果
報告書
2.NEDO,平成12年3月,平成11年度ガスハ
イドレート資源化技術先導研究開発 成果
報告書
3.J.S. Gudmundsson et al,1996年,Frozen
hydrate for transport of natural gas, 2nd
International Conference on Natural Gas
Hydrates
4.J.S. Gudmundsson et al,1998年,Hydrate
Concept for Capturing Associated Gas,
SPE50598
図7 東南アジア地域における既発見ガス田の推定
可採埋蔵量と分布
石油/天然ガス レビュー ’01・11
5.E.Dendy Sloan, Jr. et al,1994年,Natural
Gas Hydrates,Annals of the New York
―8―
ギー総合工学 第22巻第2号,59−68
Academy of Sciences
6.奥井智治,1997年,メタンハイドレートの
利用技術,日本エネルギー学会誌第76巻第
8.石油公団,平成13年3月,21世紀のエネル
ギー資源“メタンハイドレート”の開発,
5号,390−397
石油/天然ガスレビュー,Vol13 No.2,
7.兼子弘,松尾和芳,1999年,ガスハイドレ
15−26
ート船による天然ガス輸送,季報 エネル
―9―
石油/天然ガス レビュー ’01・11
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