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インターネットを介したコミュニケーション
日心第70回大会(2006) インターネットを介したコミュニケーション -大学生におけるチャットコミュニケーションの印象形成- ○田原理恵1・松田浩平2 1 ( 文京学院大学大学院人間学研究科・2文京学院大学人間学部) Key words: CMC,印象形成,日常会話 目 的 心理学では Kaisrer(1984)等,インターネット普及以前からコンピュー タ を 介 し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン (CMC : Computer-Mediated Communication)に関する研究が行われてきた.かつての CMC 研究で は現実での対面場面(FTF:Face To Face)と比べてどのような違いがあ るかなど,モードの違いによる差異に着目することが多かった.メディ アの1つであるチャットはリアルタイムで言葉のやり取りが出来る同期性 と双方向性を兼ね備えたインターネット・コミュニケーションである.チャ ットを使用した CMC と FTF の差の検討等の研究も多く行われてきた. しかし対談者の印象を比較したものは少なく,また実験的に日常的な 雑談等を題材にしたものは殆どない.そこで本研究では日常性の高い テーマの会話を用い,それを読んだ者が話者に対してどのような印象 を形成するか,架空の会話場面を作成し,表示形式によって差異が現 れるかどうかを質問紙によって探索的に検討した.これを基に実験的 に場面設定をした研究の基礎資料とする. 方 法 【調査対象者】大学生81 名(男性:46 名,女性:35 名).平均年齢19.0 歳 (SD=0.91)であった. 【話題】田原(2005,日本応用心理学会第 72 回大会)の大学生の日常会 話に関する調査より,高頻度で話題に上る『TV(ドラマ)』と『学校(試験)』 を用いた. 【場面】情動の差異を図るため,『TV(ドラマ)』では討議的な会話構成と し,『学校(試験)』では非討議的な会話構成とした. 【人物】自己主張性の高い人物と低い人物を各 1 名と,中性の相づち役 1 名の計 3 名を設定し,印象評定は中性を除く 2 名を対象とした. 【会話の長さ】チャット場面での約 30 分間を想定し,1 発言を 1 行(40 文 字)以内として各場面とも 85 発言前後とした.発言数によって評定に影 響が及ばないよう,評定対象人物は共に 30 発言前後,非評定対象人 物は 25 発言程度とした. 【話し言葉】言葉遣いによって性別が同定されないよう一人称を用いず, 丁寧になる表現を避けた. 【会話表示形式】Web ブラウザ上に表示されたチャット場面をスクリーン ショットし,文書ファイルで編集したものをチャット形式とし,台詞のみの 構成を表記した文章をシナリオ形式とした. 【評定語】佐藤(2005)の大学生の自己を表現する際に用いられる印象 語のうち,他者を評価する際に用いられる形容詞を 17 対 34 語任意に 選出したものに,「男性的な-女性的な」の 1 対を加えた 18 対 36 語を 5 件法で評定させた. 【質問紙】B4 冊子形式に 2 つの会話場面が掲載されているものを作成 した.カウンターバランスを取るため,提示順序と表示形式の異なるも のを 2 種類使用した(表 1) . 表 1. 質問紙構成 冊子 会話 表示 1) TV(ドラマ)…情動あり チャット A 2) 学校(試験)…情動なし シナリオ 1) 学校(試験)…情動なし チャット B 2) TV(ドラマ)…情動あり シナリオ なお,会話場面は見開き 1 ページになるよう掲載し,印象評定は次 のページから行う構成とした. 結 果 会話と表示形式について異なる評定者を配置し,評価得点を従属変 数とした情動場面(2)×人物(2)×会話形式(2)の分散分析を行った結果, 下位検定で「おとなしい-活発な」,「男性的な-女性的な」,「無口な -お喋りな」を除く形容詞対から表示の主効果が認められた(表 2). 表2.形容詞対ごとの分散分析の主効果 印象語 F pr<F 11.77 .01 10.冷たい-温かい 37.13 .01 02.素直な-頑固な 49.95 .01 11.しっかりした -いい加減な 10.18 .01 01.明るい-暗い F pr<F 印象語 03.厳しい-優しい 40.45 .01 13.内向的な-外向的な 6.32 .05 04協調的な -マイペースな 5.88 14.賢い-愚かな 15.面白い-つまらない 9.14 6.19 .01 .05 05.自分勝手な -思いやりのある 38.61 .01 16.強気な-弱気な 6.32 .05 06.頼りがいのある -頼りがいのない 4.94 17.平凡な -風変わりな 6.08 .05 09.のんびりした -せっかちな 14.83 .01 18.生意気な -おくゆかしい 15.56 .01 .05 .05 ※01,15,14:DF=(1,316), 02-04,06,09-11,1316-18:DF(1,317) そこで 18 の形容詞対について,会話形式ごとに評定得点の平均を算 出したものを図示した(図 1). 図 1. チャット(C)とシナリオ(S)の印象評価得点の平均 また,形容詞対を変数に,因子数を 3 として最尤法により因子抽出を 行い,Haris-Kaiser 基準で斜交回転を行った.第 1 因子は「外向性」,第 2因子は「社会的望ましさ」,第3因子は「愚かさ」を示唆する因子であっ た.また,Thurstone の推定式で因子得点を求め,情動場面(2)×人物 (2)×会話形式(2)の分散分析を行った.第 1 因子はチャットのネガティブ な主効果が認められ (F(1,313)=4.92,p<.05) ,情動と表記の交互作用 が認められた(F(1,313)=3.92,p<.05).第 2 因子はチャットのネガティブな 主効果が認められ(F(1,313)=50.66,p<.01),人物と会話との間に交互作 用が認められた(F(1,313)=95.55,p<0.1).第 3 因子はチャットのネガティ ブな主効果(F(1,313=13.89,p<.01)と,主張性と会話との間に交互作用が 認められた(F(1,313)=93.19,p<0.1). 考 察 等しい会話内容での印象評定者が別人であるにも関わらず,形式 の違いのみで印象の変化が検出された.各評定を比較したところ, 表示形式がチャットの場合に,マイナスイメージの高い印象語に平 均値がシフトした.これより,会話の媒体がチャットとなること自 体が印象評定にネガティブイメージを付与していることが示唆され た.今後は CMC と FTF の比較において紙媒体ではなく,電子を媒 体とした場合にも同等の差異が現れるかどうかを実験的に検討する 必要がある. (TABARA Rie, MATSUDA Kouhei)