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T - 奈良先端科学技術大学院大学附属図書館

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T - 奈良先端科学技術大学院大学附属図書館
ス パ ッ タ リ ン グ 法 に よ る 高 品 位 Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3
薄膜の作製とその焦電特性の研究
2009年3月
奈良先端科学技術大学院大学
物質創成科学研究科
長 尾 宣 明
目次
第 1 章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.2
本研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.2.1
赤外線センサーの社会的意義・・・・・・・・・
1
1.2.2
赤外線放射・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
1.2.3
各種赤外線センサーの比較・・・・・・・・・・
4
焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 特 徴 お よ び 課 題・・・・・・・・
6
1.3.1
焦電体材料・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
1.3.2
焦電型赤外線センサーの動作機構・・・・・・・
10
1.3.3
高品位薄膜焦電体の指針・・・・・・・・・・・
11
1.3.4
地球観測衛星搭載に向けた高品位焦電薄膜の
1.3
研究開発の経緯と要求仕様・・・・・・・・・・
12
1.4
本研究の目的と意義・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
1.5
本論分の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
第 2 章 P b 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 試 料 の 作 製 方 法 と 評 価 方 法 ・ ・ ・ ・
23
2.1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
23
2.2
R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ 法 に よ る 試 料 作 製 方 法・・・・・
24
2.2.1
R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 ・・・・・・・
24
2.2.2
ターゲット作製方法・・・・・・・・・・・・・
28
2.2.3
スパッタリング条件・・・・・・・・・・・・・
28
2.3
薄膜の評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
2.4
薄膜の電気特性評価方法・・・・・・・・・・・・・・・
30
2.4.1
誘電率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30
2.4.2
焦電係数・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
2.4.3
自発分極、残留分極・・・・・・・・・・・・・
34
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
第 3 章 高 L a 組 成 Pb 1 - x L a x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 高 品 位 成 膜 と 散 漫 相 転 移
37
3.1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
3.2
常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 と 散 漫 相 転 移・・・・・・・・・・
38
i
3.3
高 La 組 成 Pb 1 - x L a x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 作 製 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
40
3.4
高 La 組 成 Pb 1 - x L a x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 相 転 移 挙 動 ・ ・ ・ ・ ・ ・
53
3.4.1
タ ー ゲ ッ ト 組 成 と 誘 電 率 ・・・・・・・・・・・・
53
3.4.2
ターゲット組成と常誘電-強誘電相転移から
散 漫 相 転 移 へ の 変 化 ・・・・・・・・・・・・・・
55
3.5
高 La 組 成 Pb 1 - x L a x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 焦 電 特 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
61
3.6
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 へ の M n 添 加 に よ る 高 性 能 化 ・ ・ ・
66
4.1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
66
4.2
作製方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
68
4.2.1
ターゲット作製方法・・・・・・・・・・・・・
68
4.2.2
スパッタリング条件・・・・・・・・・・・・・
68
4.2.3
M n 添 加 に よ る 格 子 定 数 の 変 化 ・・・・・・・・・
69
4.3
焦 電 特 性 、自 発 分 極 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
70
4.4
M n 添 加 に よ る 焦 電 特 性 向 上 の 考 察 ・・・・・・・・・・・
73
4.5
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
85
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
86
第4章
第5章
高 性 能 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー へ の 応 用 ・・・・・・・・・
87
5.1
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
87
5.2
焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 特 性 と 性 能 評 価 指 数 ・・・・・・
88
5.3
ポ イ ン ト 型 赤 外 線 セ ン サ ー へ の 応 用・・・・・・・・・・
94
5.4
地 球 観 測 衛 星 搭 載 用 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー へ の 応 用・・
105
5.5
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11 4
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11 5
第6章
結 論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
116
謝 辞 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11 8
研 究 業 績 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11 9
ii
略号表
ADEOS
Advanced Earth Observing Satellite
AV N I R
A d v a n c e d Vi s i b l e a n d N r e a - I n f r a r e d R a d i o m e t e r
CMOS
Complementary Metal-Oxide Semiconductor
CNES
Centre National d'Etudes Spatiales
DPT
D i ff u s e d P h a s e Tr a n s i t i o n
FA
Factory Automation
HA
Home Automation
ILAS
I mp r o v e d L i m b A t m o s p h e r i c S p e c t r o m e t e r
IMG
I n t e r fe r o m e t r i c s M o n i t o r f o r G r e e n h o u s e G a s e s
IT
I n f o r ma t i o n Te c h n o l o g y
ITS
I n t e l l i g e n t Tr a n s p o r t S y s t e m s
JAXA
Japan Aerospace Exploration Agency
KTP
KH2PO4
NASA
National Aeronautics and Space Administration
N EP
No i s e E q u i v a l e n t Po we r
N S C AT
N A S A S c a t t e r o me t e r
O CT S
Oc e a n C o l o r a n d Te mp e r a t ur e Sc a n ne r
PLT
Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3
PL Z T
Pb 1 - y La y ( Zr x Ti 1 - x ) 1 - y / 4 O 3
POLDER
P o l a r i z a t i o n a n d D i r e c t i o n a l i t y o f t he E a r t h ’s R e f l e c t a n c e s
PVDF
P o l y - Vi n y l i d i n e D i f l u o r i d e
PZ T
Pb Z r x Ti 1 - x O 3
RF
Radio Frequency
R HE E D
Re fl e c t i o n Hi g h - E n e rg y E l e c t r o n D i ff r a c t i o n
RIS
Retroreflector In Space
SEM
Scanning Electron Microscope
TEM
Tr a n s mi s s i o n E l e c t r o n M i c r o s c o p e
TOM S
Tot a l O z o n e M a p p i n g S p e c t r o m e t e r
VBA
Vi s u a l B a s i c f o r A p p l i c a t i o n s
XRD
X - r a y d i ff r a c t i o n
iii
第 1章
1 .1
序論
はじめに
本章では、はじめに赤外線センサーが置かれている現在の社会的な
背景を述べ、本研究が行われるに至った経緯を示す。特に、本研究の
基盤となる赤外線センサーおよび鉛系ペロブスカイト型強誘電体薄膜
の特徴を概観し、その利点と高感度化に対する課題について論じ本研
究の意義と目的を明らかにする。
1 .2
1.2.1
本研究の背景
赤外線センサーの社会的意義
近年、材料の高性能化・高機能化の進展にともない、電子デバイス
の高性能化・高集積化・大面積化・低コスト化等を目標とした研究開
発 が 急 速 に 進 展 し て い る 。ま た 情 報 処 理 ( I T ) 技 術 の 急 速 な 発 展 に と も な
い情報処理装置に情報を入力する各種のインターフェースやセンサー
の必要性がますます高まっている。特に、家電分野、防犯・防災等の
セ キ ュ リ テ ィ 分 野 、 フ ァ ク ト リ ー オ ー ト メ ー シ ョ ン ( FA) 、 ホ ー ム オ ー
ト メ ー シ ョ ン ( H A) 、 高 度 道 路 交 通 シ ス テ ム ( I T S ) 等 の 多 く の 分 野 で 、 人
体および物体の温度を非接触かつ高速で検知する、高感度かつ汎用の
赤外線センサーが強く求められている。
更に現在では、地球温暖化やエネルギー問題などグローバルな環境
問題が全世界的に広がりを見せており、京都議定書批准のための二酸
化 炭 素 (CO2)排 出 量 の 抑 制 は 、 地 球 規 模 の レ ベ ル で 早 急 に 取 り 組 ま な け
ればならない課題である。このため、冷暖房や種々の機器等の高度な
温度制御によるエネルギー消費量の削減のみならず、地球規模での環
境モニタリングが必要とされており、高感度な赤外線センサーによる
温 度 測 定 技 術 に 加 え て 、大 気 中 の CO2 や 、メ タ ン (CH4)等 の 温 暖 化 ガ ス
並 び に オ ゾ ン (O3)、 フ ロ ン ガ ス 、 窒 素 酸 化 物 (NOx)、 硫 黄 酸 化 物 (SOx)等
のモニタリング技術が必要とされている。
赤外線センサーは、その動作原理によって主に量子型と熱型に大別
されるが、本研究では熱型赤外線センサー、その中でも特に強誘電体
薄膜材料からなる焦電型赤外線センサーに関する新しい取り組みとそ
の成果を論じ、さらに地球環境モニタリング衛星に搭載する赤外線セ
1
ンサーへの適用について検討を行った。
1.2.2
赤外線放射
赤 外 線 は 、波 長 が 0.7 μ m ~ 1 0 0 0 μ m の 電 磁 波 で あ り 、可 視 光 線 の よ う
に 人 間 の 肉 眼 で 確 か め る こ と は で き な い が 、 絶 対 零 度 ( 0K) 以 上 の 温
度 に あ る 物 体 は 、全 て そ の 表 面 か ら 熱 放 射 エ ネ ル ギ ー を 放 出 し て い る 。
これらの赤外線は可視光線と同じく反射、屈折、回折などの光学的な
性質を持っており、遠くの物体から電磁波として空間を伝播してきた
赤外線を光学的に集光することによってセンシングを行うことができ
る。
物 体 の 温 度 と 熱 放 射 エ ネ ル ギ ー の 波 長 に 対 す る 分 布 は 、 Planck の 法
則
(1)
として次式で表される。
W ( λ ) = C 1 λ - 5 { e xp( C 2 / λ T ) - 1 } - 1
( W / c m 2 μ m)
・ ・ ・( 1 . 1 )
こ こ で 、W ( λ ) は 単 位 波 長 当 た り の 放 射 エ ネ ル ギ ー 、λ は 放 射 赤 外 線 の
波 長 ( μ m) 、 T は 黒 体 の 絶 対 温 度 ( K) 、 C 1 は 3 . 7 4 × 1 0 4 、 C 2 は 1.438× 10 4 で
あ る 。 こ の Pl a n c k の 法 則 に よ る 黒 体 か ら の 放 射 に よ る 分 光 発 散 度 の 波
10
-2
8
6
2
Spectral radiant emittance W (W/cm μm)
長 ・ 温 度 依 存 性 を 図 1-1 に 示 す 。
80℃
4
60℃
2
10
40℃
-3
8
6
4
20℃
2
10
0℃
-20℃
-4
8
6
4
2
10
-5
1
2
3
4
5
6
7 8 9
10
2
Wavelength λ (μm)
図 1-1
黒体からの放射による分光発散度の波長・温度依存性
2
ま た 、 黒 体 か ら 放 射 さ れ る 全 エ ネ ル ギ ー W は 、 第 ( 1 . 1) 式 を 全 波 長
領 域 で 積 分 し て 得 ら れ 、こ れ は 図 1- 1 の 曲 線 の 下 の 面 積 に 相 当 す る 。こ
れ は 、 St e f a n - Bo l t z m a n n の 法 則 ( 2 ) と し て 次 式 で 表 さ れ る 。
W = σT4
( W/ c m 2 )
・ ・ ・( 1 . 2 )
こ こ で 、 σ は 、 5 . 6 7 × 1 0 - 1 2 ( W/ c m 2 K 4 ) で あ る 。 こ の 式 は 、 黒 体 か ら 放
射される全エネルギーが絶対温度の4乗に比例することを示している。
次 に 、第( 1 . 1 )式 で 分 布 の ピ ー ク を 与 え る 波 長 λ m a x は 、Wi e n の 変 位
則 ( 3 ) に よ り 、 第 ( 1.3 ) 式 で 与 え ら れ る 。
λmax= C3/T
( μ m)
・ ・ ・( 1 . 3)
こ こ で C 3 は 、 2 8 9 7 ( μ m・ K) で あ る 。 こ れ ら の 法 則 に よ り 、 物 体 の 温 度
が高くなるにつれてその物体から放射される赤外線の波長のピークは
短くなっていくことがわかる。
通常、物体は黒体よりも赤外線の吸収・放射が少なく、その放射率
は物体の材質や表面状態によって異なる。従って、赤外線センサーを
用いて赤外線量を測定する場合、物体の放射率による補正が必要とな
る 。 一 般 に 、 光 が 物 体 に 入 射 す る と 、 そ の 一 部 は 反 射 (ρ)さ れ 、 一 部 は
吸 収 (α)さ れ 、 残 り は 透 過 (τ)す る 。 こ れ ら の 間 で は 、 エ ネ ル ギ ー 保 存 則
が次式のように成立する。
ρ+α+τ=1
・ ・ ・( 1 . 4)
ま た 、物 体 の 放 射 エ ネ ル ギ ー εσ T 4 と 吸 収 率 α の 比 は 一 定 で あ り 、同 じ
温 度 の 黒 体 の 放 射 エ ネ ル ギ ー に 等 し い と い う 関 係 が あ る た め ε=α の 関
係が成立する。これらより
ε = 1 − ρ −τ
・ ・ ・( 1 . 5 )
の関係が得られる。物体の厚さが十分厚く入射エネルギーが透過しな
い 、 即 ち τ =0 の 場 合 、
ε =1 − ρ、 ρ =1 − ε
・・・ ( 1 . 6 )
3
の関係が成立し、物体の放射率ε を求めることができる。
Transmittance (%)
次 に 、 波 長 に 対 す る 大 気 の 赤 外 線 透 過 ス ペ ク ト ル を 図 1-2 に 示 す 。
100
80
60
40
20
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
Wavelength (μm)
図 1-2
大気の赤外線透過スペクトル
一 般 に 、 赤 外 線 は 空 気 中 で の CO2 や H2O、 O3 等 の 吸 収 に よ っ て 、 図
1 - 2 の よ う な 透 過 ス ペ ク ト ル を 示 し 、赤 外 線 透 過 率 の 高 い 領 域 、所 謂 大
気 の 窓 は 、 2 ~ 2 . 5 μ m、 3 ~ 4 . 2 μ m、 4 . 5~ 5 μ m、 8~ 9 . 8 μ m 、 1 0 ~ 1 3 μ m で あ
る こ と が わ か る 。従 っ て 、人 体 等 の 3 0 0 K 程 度 の 熱 源 を 赤 外 線 セ ン サ ー
で 検 知 す る た め に は 、1 0μ m 前 後 の 赤 外 線 を 検 知 す る こ と が 重 要 で あ る 。
一 方 、 ガ ス な ど を 検 知 す る た め に は 、 3 ~ 13 μ m に 現 れ る 各 分 子 の 赤 外
線吸収スペクトルに対応した透過率の極小部を検知することが重要で
あるといえる。
1.2.3
各種赤外線センサーの比較
赤外線センサーにおいて最も重要な装置は、赤外線の受光部(受光
素子)である。前述のように、赤外線センサーは、その検出原理の違
い に よ っ て 量 子 型 と 熱 型 と に 大 別 さ れ る 。表 1 - 1 に 代 表 的 な 赤 外 線 セ ン
サ ー の 特 徴 の 比 較 一 覧 を 示 す 。 量 子 型 赤 外 線 セ ン サ ー (4,5)に は 、 赤 外 線
領域の電磁波を光子としてとらえた半導体の光電効果による光導電型
と光起電力型がある。量子型は、高感度で応答速度が速く、高い温度
分 解 能 を 有 す る 反 面 、 I n S b や H g C d Te 等 の バ ン ド ギ ャ ッ プ の 狭 い 半 導
体 は 素 子 の 冷 却 を 必 要 と し 、 C M OS イ メ ー ジ セ ン サ ー は バ ン ド ギ ャ ッ
プが比較的広いため近赤外~可視域でしか使用できないなど半導体の
バンドギャップに起因した感度の波長依存性が大きく、コスト、装置
サイズ、メンテナンス等に課題がある。この量子型赤外線センサーに
おいては、赤外線検知の理論限界に近いところまで研究開発が進めら
4
れ て い る ( 6 , 7 ) 。こ れ に 対 し て 、熱 型 赤 外 線 セ ン サ ー ( 8 , 9 ) に は 、焦 電 型 ( 1 0 , 1 1 ) 、
ボ ロ メ ー タ ー 型 ( 1 2 - 2 1 ) 、サ ー モ パ イ ル 型 ( 2 2 - 2 4 ) な ど 様 々 な タ イ プ の も の が
あ り (25-28)、 感 度 や 応 答 速 度 な ど の 点 で 量 子 型 に 劣 る 反 面 、 室 温 動 作 が
可能であり低価格、小型軽量、低消費電力で且つメンテナンスフリー
であるため、実用的な面では量子型より優れている。焦電型は、強誘
電体材料の分極率の温度変化を検知するものであり、ボロメーター型
は、金属などの電気抵抗の温度変化を検知するものである。また、サ
ーモパイル型は、異なる二つの金属を接続することによって熱電対を
形成しこれらの冷接点と温接点との間の熱起電力により赤外線を検知
するものである。この様に熱型の赤外線センサーにおいては、受光素
子 の 温 度 変 化 が 出 力 信 号 に 影 響 を 及 ぼ す (29-31)。 従 っ て 、 熱 型 の 赤 外 線
センサーの感度と応答速度を向上させるためには、受光素子の熱容量
を低減させなければならず、受光素子の薄膜化に関する研究が非常に
重要である。また、受光部の基板構造をダイアフラム構造、ブリッジ
構造などとして、受光素子から基板への熱の散逸を最小限に抑制する
ための研究も行われている。また、赤外線を効率良く熱に変換するた
め の 赤 外 線 吸 収 膜 の 研 究 (32)や 、 こ の 熱 に よ る 出 力 を 高 く す る た め に 材
料の温度特性を高くすることも非常に重要な研究課題である。さらに
赤外線画像を得るための研究として、近年の半導体集積技術を駆使す
ることにより、素子自体を 1 次元あるいは更に 2 次元に配列し、信号
処 理 回 路 と 一 体 形 成 さ せ る 赤 外 線 イ メ ー ジ ン グ (33)の 研 究 も 行 わ れ て い
る 。 高 性 能 ・ 高 機 能 な 赤 外 線 セ ン サ ー (34)の 開 発 に は 、 こ れ ら 多 く の 要
素技術を確立していくことが必要とされる。
表 1-1
検知方式
各種赤外線センサーの比較
動作原理 感度 コスト
光起電力
量子型
(光起電力)
熱型
短所
◎
×
高感度
冷却必要
波長依存性大
◎
×
高感度
冷却不要
近赤外域のみ
半導体
CMOS
長所
焦電体
分極率
○
○
冷却不要
チョッパー必要
ボロメーター
抵抗値
△
△
-
発熱
×
×
-
素子大
サーモパイル 熱起電力
5
この様な赤外線センサーの比較の中で焦電型赤外線センサーは、他
の熱型赤外線センサーに比べて信号出力が高く、雑音出力が低いため
S/ N 比 が 高 く 、チ ョ ッ パ ー を 必 要 と す る が 対 象 物 の 移 動 に よ る 赤 外 線 変
化を検出する用途に優れており低コストで人体検出が可能であるため、
現在、自動照明や機器の消費電力削減のための自動スイッチとして広
く使用されている。しかしながら、前述したように住環境の快適制御
やガスモニタリング等の高度な要望に対して、更に高感度な焦電型赤
外 線 セ ン サ ー へ の 要 望 が 高 ま っ て い る 。図 1- 3 に 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー
の応用範囲の拡がりを示す。
ガスセンサー
環境監視衛星
(ADEOS/ILAS)
個人認証システム
画像診断装置
薄膜材料
⇒アレイ型センサー
自動走行
壁面測温
歩行者認識
非破壊検査
FA
環境モニター
オートモーティブ
セキュリティ
非接触温度測定
人体検知
バルク材料
(セラミクス、単結晶)
⇒ポイント型センサー
焦電型赤外線センサーの応用範囲
フォトリソグラフィー
デジタル信号処理技術
半導体技術
CVD
MEMS パッケージ技術
薄膜技術
画像認識技術
スパッタリング
イオン注入
図 1-3
ワイヤーボンディング
異方性エッチング
焦電型赤外線センサーを支える要素技術とその応用の
将来像
1 .3
1.3.1
焦電型赤外線センサーの特徴および課題
焦電体材料
誘電体は最も基本的な常誘電体および圧電体、焦電体、強誘電体の
4 種 類 に 分 類 さ れ る (35)。 こ れ を 結 晶 学 的 に 結 晶 の 対 称 性 で 分 類 す る と
32種類の点群になる。32種類に分類された誘電体結晶のうち21
種類は点対称中心を持たず、このうち20種類は圧電性を持ち圧電性
結 晶 ( 圧 電 体 ) で あ る (35)。 圧 電 性 結 晶 の う ち 1 0 種 類 は 自 発 分 極 を 持
ち 焦 電 性 結 晶 ( 焦 電 体 ) で あ る (35)。 残 り の 1 0 種 類 の 圧 電 性 結 晶 は 自
発 分 極 が 無 く 焦 電 性 を 示 さ な い ( 例 え ば 水 晶 ) (35)。 焦 電 性 結 晶 の 一 部
は、電界印加により自発分極の向きを反転できるという性質、即ち強
6
誘 電 性 を 有 し 強 誘 電 体 で あ る (35)。 図 1-4 に こ れ ら の 分 類 を 示 す 。
誘電体
圧電体
水晶
焦電体
ZnO
AlN
強誘電体
PbTiO3,PZT
BaTiO3
図 1-4
誘電体、圧電体、焦電体、強誘電体の分類
強誘電体は強誘電性を持つとともに,焦電性、圧電性および誘電性
も合わせ持っており、通常これらの特性を示す様々な物性定数の値も
大きいため、優れた誘電体材料、圧電体材料、焦電体材料として幅広
く用いられている。
焦 電 体 材 料 と し て は チ タ ン 酸 鉛 Pb Ti O 3 、 チ タ ン 酸 ジ ル コ ン 酸 鉛
Pb Zr x Ti 1 - x O 3 ( PZ T) 等 の 強 誘 電 体 セ ラ ミ ク ス や タ ン タ ル 酸 リ チ ウ ム
L i Ta O 3 等 の 単 結 晶 が 多 く 用 い ら れ て い る 。 複 合 酸 化 物 で あ る P bTi O 3 、
PZ T 等 の ペ ロ ブ ス カ イ ト 構 造 を 示 す 強 誘 電 体 は 、 優 れ た 焦 電 特 性 、 圧
電特性、電気光学特性を備えた材料である。強誘電体材料は、その誘
電特性、圧電特性並びに焦電特性を利用した電子デバイスとして、工
業的に幅広い分野で応用されている。
強 誘 電 体 の 歴 史 は 、Va l a s e k に よ っ て ロ ッ シ ェ ル 塩 の 強 誘 電 性 が 1 9 2 1
年 に 確 認 さ れ た こ と に 始 ま る 。 そ の 後 、 1935 年 に リ ン 酸 カ リ KH2PO4
( KT P )、 1 9 4 2 ~ 1 9 4 4 年 頃 米 国 、 日 本 、 旧 ソ ビ エ ト 連 邦 に お い て ほ ぼ 同
時 期 に チ タ ン 酸 バ リ ウ ム B a Ti O 3 の 強 誘 電 性 が 発 見 さ れ た 。 Ba Ti O 3 は 、
その誘電率の大きさから非常に注目を引き、強誘電体の物性およびそ
の 応 用 に 関 す る 研 究 が に わ か に 活 発 に な っ た 。 そ の 後 、 Ba Ti O 3 と 類 似
の構造を有する強誘電体、即ちペロブスカイト型強誘電体と呼ばれる
一連の数多くの新しい強誘電体或いは反強誘電体が次々と登場して今
日に至っている。
ペ ロ ブ ス カ イ ト と は 、 も と も と 灰 チ タ ン 石 Ca Ti O 3 の こ と を 指 し 、 こ
の 名 前 は 発 見 者 で あ る P e r o v s k y に ち な ん で 名 づ け ら れ た 。ペ ロ ブ ス カ
イ ト と 同 じ 結 晶 構 造 を ペ ロ ブ ス カ イ ト 構 造 と 呼 び 、 ABO3 で 示 さ れ る 3
7
元系から成る複合酸化物である。理想的には、立方晶系の単位格子を
持 ち 、図 1 - 5 に 示 す よ う に 立 方 晶 の 各 頂 点 に 金 属 A が 、体 心 に 金 属 B が 、
そして金属Bを中心として酸素Oは立方晶の各面心に配置している。
Pb
O
Ti
図 1-5
P b Ti O 3 ペ ロ ブ ス カ イ ト 構 造 ( 立 方 晶 )
Pb Ti O 3 、 Ba Ti O 3 等 の ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 強 誘 電 体 は 変 位 型 強 誘 電 体 に
属し、これらは常誘電相において分極を担うイオンが、ポテンシャル
の極小位置にあることで定義されている。この変位型強誘電体の特徴
と し て 、 相 転 移 温 度 ( キ ュ リ ー 点 Tc) の 前 後 で 結 晶 構 造 が 異 な る 構 造
相 転 移 が 起 こ る こ と が 挙 げ ら れ る 。 Tc よ り 高 い 温 度 域 で は 、 結 晶 の 対
象 性 が 高 い 立 方 晶 で 常 誘 電 体 で あ る が 、 Tc よ り 低 い 温 度 域 で は 、 正 方
晶 等 の よ り 結 晶 対 象 性 が 低 い 構 造 に 転 移 す る 。 こ の た め 、 Tc 付 近 で の
物性は温度変化に対して敏感であり、誘電率の極大等、様々な物性定
数 の 特 異 点 が 観 測 さ れ る 。 Tc 以 下 の 温 度 域 で は 強 誘 電 体 と し て の 性 質
を 示 し 、 あ る 結 晶 軸 方 向 に 自 発 分 極 Ps を 有 す る よ う に な る 。
強 誘 電 体 の 自 発 分 極 Ps は 、 強 誘 電 体 の 温 度 を 上 昇 さ せ て 行 く と Tc
以 上 の 高 温 域 で は P s が 消 失 し 常 誘 電 体 と な る 。こ の た め P s は 、温 度 依
存 性 を 持 ち 、 こ の 温 度 変 化 に よ る 自 発 分 極 の 変 化 量 ( ΔPs) が 焦 電 電 流
焦電係数
γ = (dPs/dT )
ΔPs
自発分極Ps
と し て 発 生 す る 。図 1 - 6 に 自 発 分 極 P s の 温 度 依 存 性 と 焦 電 係 数 γ を 示 す 。
ΔΤ
キュリー点 Tc
温度T [℃]
図 1-6
自 発 分 極 Ps の 温 度 依 存 性
8
焦 電 体 の 焦 電 効 果 の 大 き さ を 示 す 焦 電 係 数 γ は 、単 位 体 積 あ た り に 単
位 温 度 変 化 が 与 え る 分 極 の 変 化 Δ P で 定 義 さ れ る 物 性 定 数 で あ る 。こ れ
は 即 ち 図 1-6 の 自 発 分 極 Ps の 温 度 依 存 性 カ ー ブ に お け る 接 線 の 傾 き に
相当し、
γ = Δ P/ Δ T ( = Δ P s / Δ T)
・ ・・( 1 . 7)
で表される。従って、焦電効果の大きい材料、即ち焦電係数の大きい
焦 電 体 材 料 と は よ り 小 さ な 温 度 変 化 ΔT に 対 し て よ り 大 き な 自 発 分 極
の 変 化 ΔPs を 示 す 材 料 と い う こ と が で き る 。
代 表 的 な 強 誘 電 体 ・ 焦 電 体 材 料 と し て 知 ら れ て い る Pb Ti O 3 は 、 1 9 5 0
年 に S h i r a n e ら と S mo l e n s k i i に よ っ て 、4 9 0 ℃ に T c を 持 つ 強 誘 電 体 で あ
る こ と が 報 告 さ れ た 材 料 で 、 室 温 で は 正 方 晶 、 Tc 以 上 で は 立 方 晶 の ペ
ロ ブ ス カ イ ト 構 造 で あ る (36)。
室 温 で の 格 子 定 数 は 、 a = 0 . 3 9 0 4 n m、 c = 0 . 4 1 5 2 n m、 c / a= 1 . 0 6 4 で 、 結 晶
異 方 性 が Ba Ti O 3 に 比 べ て 大 き い 。
Pb Ti O 3 は 、
1 ) キ ュ リ ー 点 Tc が 高 い
( 4 9 0℃ )
2 ) 自 発 分 極 Ps が 非 常 に 大 き い
( 約 75 μ C / c m 2 )
3 ) 比 誘 電 率 εr が 小 さ い
( ε r = 190 ( セ ラ ミ ク ス ))
等 の 特 徴 を 持 っ て い る 。 こ の た め P b Ti O 3 は 、 室 温 付 近 で 安 定 に 動 作 可
能であり、後述するように比誘電率が比較的低いため、赤外線センサ
ーとしての出力が大きく取れるなど優れた特徴を持っている。また、
Pb Ti O 3 の A サ イ ト 或 い は B サ イ ト を 他 の 金 属 元 素 で 置 換 す る こ と に よ
って、キュリー点や比誘電率、電気光学係数などを変化させることが
可能であるため、焦電体としてのみならず、誘電体、圧電体、光学変
調素子などさまざまな分野に応用されている。
9
1.3.2
焦電型赤外線センサーの動作機構
1.2.3 節 で 述 べ た よ う に 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー は 、 物 体 か ら 放 射 さ れ
る赤外線エネルギーを吸収した際の素子の温度上昇による分極率の温
度変化によって発生する表面電荷の変化を検出する熱型のセンサーで
あ る 。 図 1-7 に 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 原 理 を 示 す 。
赤外線
(a)
+
+
+
+
+
+
(b) +
ΔT
-
+
-
+
R
+
+
+
+
+
図 1-7
+
+
+
+
+
+
+
Vpyro
ipyro
焦電型赤外線センサーの原理
図 1 - 7 に 示 す よ う に 最 も 単 純 な 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 構 造 は 、赤 外
線の受光部である焦電体が対向する2つの電極によって挟まれている。
焦電体は自発分極を持っており赤外線が入射する前の初期状態におい
て は 、図 1 - 7 ( a ) に 示 す よ う に 、焦 電 体 の 分 極 は 表 面 電 荷 に よ っ て 打 ち 消
されている。次に、受光部に赤外線が入射し焦電体の温度が上昇する
と自発分極が温度上昇に対して負の依存性を持つため、焦電体の分極
が 減 少 す る 。こ れ に よ り 焦 電 体 の 表 面 は 、図 1 - 7 ( b ) に 示 す よ う に 、そ れ
まで分極を打ち消していた表面電荷が過剰な状態となるため、外部回
路に電流が流れる。この焦電体の焦電効果による電流を焦電電流と呼
ぶ。実際の焦電型赤外線センサーにおいては、焦電体の電極間に高抵
抗 の 抵 抗 素 子 R を 接 続 し 、 抵 抗 素 子 の 両 端 に 表 れ る 電 圧 V p y r o を 、 FET
或いはオペアンプ等の入力インピーダンスが高い素子によって測定す
ることで、出力を得ている。
このように焦電型赤外線センサーは、その動作原理が受光部の温度
変化を検知するものであるため、静止した物体、もしくは非常に動き
が遅い物体を検知する際には、入射する赤外線をチョッパーによって
O N / O F F す る 必 要 が あ る が 、量 子 型 と は 異 な り 受 光 素 子 の 冷 却 が 不 要 の
ため室温動作が可能で、波長依存性が無いという優れた特徴を有して
いる。
10
1.3.3
高品位薄膜焦電体の指針
高感度な焦電型赤外線センサーを実現するためには、受光部である
焦電体材料の材料特性を向上させることが必要である。また、入射す
る赤外線による温度の変化量を増加させるためには、受光部の熱容量
を減少させることが必要となる。このため高感度な焦電型赤外線セン
サーを実現するためには、焦電体材料を薄膜化した高品位な焦電体薄
膜 の 研 究 開 発 が 重 要 と な る 。 表 1-2 に 指 針 と な る 項 目 の 一 覧 を 示 す 。
表 1-2
高品位薄膜焦電体材料の研究開発指針
( 1 ) 温 度 変 化 量 ΔT を 増 加
ⅰ )熱 容 量 を 減 少
体 積 を 減 少 →薄 膜 化
比 熱 を 低 減 →材 料 選 択
ⅱ )基 板 へ の 熱 の 散 逸 を 抑 制
→
ダイアフラム、ブリッジ構造
ⅲ )赤 外 線 の 吸 収 係 数 を 上 げ る →赤 外 線 吸 収 膜
( 2 ) 焦 電 係 数 γを 増 加
ⅰ )分 極 の 温 度 変 化 を 増 加
→
Tc を 減 少
ⅱ )分 極 を 増 加
a ) 電 極 に 対 し て 垂 直 方 向 に 分 極 軸 を 配 向 →c 軸 配 向
b) 材 料 の 自 発 分 極 を 増 加
( 3 ) 比 誘 電 率 εr を 低 減
( 4 ) 誘 電 損 失 tanδを 低 減
11
1.3.4 地 球 観 測 衛 星 搭 載 に 向 け た 高 品 位 焦 電 薄 膜 の 研 究 開 発
の経緯と要求仕様
地球上のあらゆる物質は、太陽光などの電磁波を受けると物質の性
質に応じて各波長毎に物質固有の反射をする。また物質は、その性質
と温度に応じて各波長毎に特有の割合で電磁波を放射する。これらを
利用して物質からの反射ないし放射する電磁波の波長とその強さを測
定すると、その物質に直接触れることなく性質や状態を測定すること
ができる。この様に人工衛星や航空機などに搭載した観測器を使い、
離れた位置から地球表面を観測する技術はリモートセンシングと呼ば
れ、アメリカの地球観測衛星「ランドサット」や日本の気象観測衛星
「ひまわり」等、現在では宇宙から地球を観測することの有用性が広
く認識されるようになった。
また近年、地球温暖化や省エネ・省資源等、環境問題などに対する
技術的課題に取り組むために、地球規模での環境モニタリングが必要
と さ れ て お り 、高 感 度 な 赤 外 線 セ ン サ ー に よ る 温 度 測 定 技 術 に 加 え て 、
大 気 中 の CO2 や 、 CH4 等 の 温 暖 化 ガ ス 並 び に O3、 フ ロ ン ガ ス 、 NOx、
SOx 等 の モ ニ タ リ ン グ 技 術 が 必 要 と さ れ て い る 。 こ の 様 な 状 況 の な か 、
わ が 国 に お い て も 1990 年 代 の 初 頭 に 地 球 温 暖 化 、オ ゾ ン 層 の 破 壊 、熱
帯雨林の減少、異常気象の発生等の環境変化に対応した全地球規模の
観測データを取得し、国際協力による地球監視に役立てるとともに、
次世代地球観測システムに必要なプラットフォーム・バス技術、軌道
間データ中継技術等の開発を行うことを目的とした、地球観測プラッ
ト フ ォ ー ム 技 術 衛 星 「 み ど り 」 (ADEOS)(37-39)の 開 発 が 行 わ れ た 。 こ の
衛 星 は 、 高 度 約 800km の 軌 道 か ら 陸 域 、 海 域 及 び 大 気 を 総 合 的 か つ 継
続的に観測するために、各種の地球観測用センサーを搭載したプラッ
ト フ ォ ー ム 衛 星 で あ り 、 衛 星 本 体 が 約 4×4×4m3 の 大 型 衛 星 で あ り 太 陽
電 池 パ ネ ル ( 約 3 × 2 4 m 2 ) と 散 乱 計 ア ン テ ナ を 展 開 す る と 進 行 方 向 に 約 11
m 、 横 方 向 29m と な り 、 こ れ ま で 日 本 が 開 発 し た 最 大 級 の 人 工 衛 星 で
あ る 。 こ の ADEOS に は 、 宇 宙 航 空 研 究 開 発 機 構 (JAXA)( 旧 宇 宙 開 発
事 業 団 )が 開 発 を 担 当 す る 高 性 能 可 視 近 赤 外 放 射 計 ( AV NI R) お よ び 海 色
海 温 走 査 放 射 計 ( O C TS ) お よ び ア メ リ カ 国 立 航 空 宇 宙 局 ( N A S A ) 散 乱 計
( N S C AT) お よ び オ ゾ ン 全 量 分 光 計 ( TOM S) 、 フ ラ ン ス 国 立 宇 宙 開 発 セ ン
タ ー ( C N ES) の 地 表 反 射 光 観 測 装 置 ( P O L D E R ) 、通 産 省 の 温 室 効 果 気 体 セ
ン サ ー ( I M G ) 、 地 上 ・ 衛 星 間 レ ー ザ 長 光 路 吸 収 測 定 用 リ フ レ ク タ ( RI S) 、
お よ び 環 境 庁 の 改 良 型 大 気 周 縁 赤 外 分 光 計 (ILAS)の 6 種 類 の セ ン サ ー
12
が 搭 載 さ れ て い る 。打 ち 上 げ 時 の 重 量 は 約 3500kg で あ り 、軌 道 上 に お
け る 太 陽 電 池 パ ネ ル の 発 生 電 力 は 約 4500W 以 上 で あ る が 、 通 信 デ ー タ
処理系、電源系および姿勢軌道制御系等のユニットはそれぞれ熱的、
電気的、かつ機械的に独立しており、組立および試験を容易としてい
る。また、多数の観測機器を運用するための自動化・自律化機能、観
測データをデータ中継衛星経由で地上に伝送するための軌道間データ
通信機能など優れた特徴を有している。
こ の う ち I L A S は 極 域 成 層 圏 の オ ゾ ン 層 を 監 視・研 究 す る た め 環 境 庁
か ら 依 頼 を 受 け て 旧 松 下 技 研( 株 )に お い て 開 発 を 行 い 、こ の I L A S に
搭載する高性能焦電型赤外線センサー用の焦電体薄膜材料の開発を行
うために旧松下電器産業株式会社中央研究所(現パナソニック株式会
社 先端技術研究所)において研究が開始された。
次 に 、ILAS で 用 い ら れ て い る 太 陽 光 を 光 源 と し て 人 工 衛 星 に よ っ て
大 気 成 分 を モ ニ タ リ ン グ す る 太 陽 掩 蔽 法 (40)の 原 理 に つ い て 述 べ る 。
太 陽 掩 蔽 法 は 、図 1 - 8 に 示 す よ う に 地 球 の 周 回 軌 道 を ま わ る 衛 星 が 地
球の影から出て太陽光を受ける日の出の際(位置A)に、地球周縁の
大気成分により特定の波長で吸収された太陽光を分光し、そのスペク
トル強度を赤外線センサーで検出するもので、大気を通過しない位置
Bにおけるスペクトル強度と比較することで、より正確な大気成分の
分 析 が 可 能 と な る 。ILAS は 太 陽 を 光 源 と し て 対 流 圏 上 部 か ら 成 層 圏 の
赤 外 ( 8 5 0 - 1 6 1 0 c m - 1 ) 及 び 可 視 ( 7 5 3 - 7 8 4 n m) の 2 つ の バ ン ド で の 大 気 の 周
縁 方 向 の 吸 収 ス ペ ク ト ル を 測 定 し 、赤 外 領 域 で オ ゾ ン ( O 3 ) 、硝 酸 ( H N O 3 ) 、
二 酸 化 窒 素 ( N O 2 ) 、エ ア ロ ゾ ル 、水 蒸 気 、フ ロ ン 、メ タ ン ( C H 4 ) 、一 酸 化
二 窒 素 ( N 2 O) 等 の オ ゾ ン ホ ー ル 現 象 に 関 連 す る 大 気 微 量 成 分 を 、 ま た 可
視領域の酸素分子吸収線からエアロゾル等を測定可能である。
ADEOS/ILAS
(A)
(B)
ゼロ校正(100%太陽参照光)
太
陽
光
大気吸収
日昇観測
地球
日没観測
大気圏
成層圏
図 1-8
衛星高度
800km
太陽掩蔽法による大気成分のモニタリングの概念図
13
図 1 - 9 に 地 球 観 測 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 技 術 衛 星「 み ど り 」の 全 体 図 お よ
び 軌 道 上 で の 観 測 イ メ ー ジ 図 を 、 図 1-10 に ILAS の 構 成 図 を 示 す 。
(a)
衛星進行方向
NSCAT
IOCS
+Y(Pitch)
+X(Roll)
OCTS
+Z(Yaw)
IMG
太陽電池パネル
RIS
AVNIR
POLDER
ILAS
地球方向
(b)
図 1-9
地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」
(a)全 体 図 、 (b)軌 道 上 で の 観 測 イ メ ー ジ 図
14
図 1-10
ILAS の 全 体 構 成 図
ま た 、 ILAS は 、 赤 外 線 お よ び 可 視 光 の 分 光 光 学 系 の 他 に 太 陽 の 中 心
を追尾するための太陽追尾センサー用の光学系も搭載している。図
1 - 11 に I L AS の 全 体 光 学 ブ ロ ッ ク 図 を 示 す 。
図 1 - 11
ILAS の 全 体 光 学 ブ ロ ッ ク 図
15
次 に 、 ILAS の 赤 外 線 セ ン サ ー 部 の 設 計 仕 様 を 表 1-3 に 示 す 。
表 1-3
I L AS 赤 外 検 出 器 の 仕 様
分光方式
1 次元アレイ検出器を用いた回折格子分光器
素子数
44 素 子
素子間隔
0.4mm
波長分解能
0 . 1 2 μ m( 平 均 値 )
素子サイズ
0 . 4 m m× 3 . 8 m m
比検出能
1 . 1 × 10 8 c mH z 1 / 2 / W
赤 外 線 セ ン サ ー 部 の 感 度 は 、 一 般 の 電 子 回 路 の S/ N 比 に 相 当 す る 出 力
電 圧 と ノ イ ズ 電 圧 の 比 で あ る 比 検 出 能 D * で 表 さ れ 、I L AS の 赤 外 線 セ ン
サ ー 部 の D * は 、1.1 ×1 0 8 ( c mHz 1 / 2 / W) 以 上 の 高 性 能 な 特 性 が 要 求 さ れ た 。
1.3.3 で 述 べ た よ う に 、 焦 電 体 素 子 の 膜 厚 が 厚 く な る ほ ど 素 子 の 温 度 変
化 が 減 少 し 感 度 が 低 下 す る 。こ の た め 、従 来 の Ba Ti O 3 や Pb Ti O 3 等 の セ
ラミクス材料では、アレイ型で尚且つ高密度・高感度の焦電型赤外線
セ ン サ ー を 開 発 す る こ と が 非 常 に 困 難 で あ る こ と か ら 、 P LT 系 強 誘 電
体 材 料 を 高 度 に c 軸 配 向 さ せ た 薄 膜 を 開 発 し 、 焦 電 係 数 が Pb Ti O 3 セ ラ
ミクスに比べて 1 桁大きく尚且つ比誘電率が従来と同程度に低い、新
たな薄膜焦電体材料開発することで地球観測衛星に搭載可能な高性能
焦電型赤外線センサー用薄膜材料の研究開発に取り組んだ。
16
1 .4
本研究の目的と意義
本研究は、地球環境観測衛星に搭載可能な高感度赤外線センサーを
開 発 す る た め に 、 高 周 波 ( R F) マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 に よ る 高
度 に c 軸 配 向 し エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 し た P b 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 ( P LT) の 高 品
位薄膜作製技術を確立し、この技術によって得られた薄膜の特性を明
確にし、その工学的応用、特に焦電体薄膜材料としての応用の可能性
を 明 ら か に す る と と も に 、 PLT 薄 膜 の 高 い 焦 電 特 性 に 注 目 し 、 新 た な
材料組成による高感度赤外線アレイセンサーの提案を行い、その実現
可能性について検討を行うことを目的としている。
前節で述べたように、焦電型赤外線センサーは、冷却装置が不要で
低コストであり他の熱型赤外線センサーに比べ感度が高く、これを薄
膜化することによって高感度化することができる。この焦電型赤外線
セ ン サ ー 材 料 と し て は 、 P b Ti O 3 の P b の 一 部 を La で 置 換 し た PLT 系 材
料 は 、 La 濃 度 を 増 加 さ せ る こ と に よ っ て キ ュ リ ー 点 が 低 下 し 、 キ ュ リ
ー 点 以 下 の 温 度 に お い て は 正 方 晶 で 、 そ の c 軸 方 向 に 自 発 分 極 Ps が 発
現 す る 。 従 っ て 、 高 La 組 成 域 に お い て c 軸 方 向 に 高 度 に 配 向 し た エ ピ
タキシャル薄膜を作製することによって焦電特性の大幅な向上が期待
で き る こ と に 着 目 し た 。そ こ で 、R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 で 、
こ れ ま で 困 難 で あ っ た 高 La 組 成 域 に お け る 高 度 に c 軸 配 向 し た エ ピ タ
キ シ ャ ル PLT 薄 膜 ( 4 1 , 4 2 ) を 作 製 し 、 PLT 薄 膜 の 焦 電 特 性 と 相 転 移 挙 動 の
明確化と、ドーピングによる散漫相転移挙動抑制の可能性を明らかに
することを研究課題とした。これまで強誘電体薄膜における遷移金属
の 添 加 は 殆 ど 報 告 例 が 無 く 、 P LT 薄 膜 に お い て は ア ル カ リ 土 類 金 属 で
あ る M g の 添 加 ( 4 3 ) が 報 告 さ れ て い る の み で あ る 。 ま た 、 PLT 薄 膜 に お
ける散漫相転移を材料組成によって改善する試みも前例が無く、本章
で 述 べ る P LT 薄 膜 へ の M n 添 加 は 初 の 試 み で あ る 。 こ の た め P LT 薄 膜
へ の M n 添 加 は 、単 に 焦 電 係 数 を 改 善 す る 目 的 に と ど ま ら ず 材 料 物 性 と
しても非常に興味深い試みといえる。
また、これらの薄膜作製技術および材料技術を応用し、汎用性の高
い高感度ポイント型赤外線センサーおよび地球衛星搭載用高感度赤外
線アレイセンサーの提案を行った。前述のように、近年、人体および
物体の温度を非接触かつ高速で検知する高感度かつ汎用の赤外線セン
サ ー が 、 家 電 分 野 、 防 犯 ・ 防 災 等 の セ キ ュ リ テ ィ 分 野 、 FA 、 H A 、 I TS
等の分野において、システムの安全性、制御性や快適性の向上、およ
17
び 消 費 エ ネ ル ギ ー の 低 減 に よ る CO2 排 出 量 の 削 減 の た め に 切 望 さ れ て
いる。また更に、地球温暖化や省エネ・省資源等、環境問題などに対
する技術的課題に取り組むために、地球規模での環境モニタリングが
必要とされており、高感度な赤外線センサーによる温度測定技術に加
え て 、 大 気 中 の CO2 や 、 CH4 等 の 温 暖 化 ガ ス 並 び に O3、 フ ロ ン ガ ス 、
NOx、SOx 等 の モ ニ タ リ ン グ 技 術 が 必 要 と さ れ て い る 。こ の 様 な 要 求 に
正に応える室温動作可能で高感度な赤外線センサーとして、高品位成
膜技術と新規な材料組成により、高性能で小型の汎用型ポイント型セ
ンサーおよび地球観測衛星に搭載可能なアレイセンサーを提案した。
これにより、赤外線センサーの温度分解能、波長分解能における性
能向上、小型軽量化によるシステム一体化の容易さ、低価格に伴う応
用分野の拡大など、従来のセンサーでは実現が非常に困難であった多
くの面で大幅な進展が期待できるものである。
さらに、これらの蓄積した技術は、焦電的な応用のみならず圧電的
応用や光学的応用へ展開できるものであり、今後の強誘電体薄膜の実
用化のための一つの方向を示したものと思われる。
18
1 .5
本論文の構成
本論文は、第1章を含めて 6 つの章から構成されている。以下にそ
の概要を示す。
第1章では、まず一般的な赤外線センサー実用の状況と、焦電体材
料および強誘電体材料に関する既往の研究、およびこれらを踏まえた
上 で PLT 薄 膜 試 料 の 課 題 に つ い て の 議 論 を 行 い 、本 論 文 の 目 的 を 示 す 。
第 2 章 で は 、RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ 法 を 用 い た 薄 膜 形 成 方 法 に よ
る成膜条件と作製した薄膜の評価方法および誘電率の温度特性、焦電
特 性 、P- E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ 測 定 等 の 電 気 的 な 特 性 の 評 価 方 法 に つ い
て述べる。
第 3 章 で は 、ま ず 前 半 で 、PLT の 分 極 軸 で あ る c 軸 に 高 度 に 配 向 し た
薄 膜 を 得 る た め の 成 膜 条 件 の 検 討 を 行 い 、P t ( 1 0 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に エ
ピタキシャル成長した c 軸配向膜が得られ、従来の焦電材料に対して
数倍の焦電係数を実現することが可能であることを示す。また、従来
成 膜 が 非 常 に 難 し く こ れ ま で 検 討 さ れ て い な か っ た La 置 換 量 x が 0.15
以 上 の 高 L a 組 成 領 域 に お け る P LT 薄 膜 の 高 品 位 成 膜 に つ い て 述 べ る 。
次に、後半では、得られた薄膜の電気特性および常誘電-強誘電相転
移 挙 動 を 評 価 し た 結 果 に つ い て も 述 べ 、高 La 組 成 域 に お け る P LT 薄 膜
の 相 転 移 挙 動 が 、 x=0.15 付 近 を 境 に 通 常 の 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 か ら
散漫相転移へ急激に移行し、更なる焦電特性の向上のためには散漫相
転移を抑制する必要があることを述べる。
第 4 章 で は 、更 な る 高 性 能 化 を 目 指 し て 、c 軸 配 向 し た PLT 薄 膜 の 散
漫相転移を抑制し添加物による更なる焦電特性の高性能化への取り組
みについて述べる。ここでは添加物として、種々の酸化数をとること
で La 置 換 に よ っ て 生 じ た 電 荷 の ア ン バ ラ ン ス を 補 償 し 得 る M n に 着 目
し 、P LT ( x= 0 . 1 5 ) に M n O 2 を 0 ~ 1 . 7 mo l % 添 加 し M n ド ー プ を 行 い 、そ の
結 果 M n O 2 を 1 . 0 mo l % 添 加 し た も の に お い て 焦 電 係 数 が 最 大 と な り 散
漫相転移から通常の常誘電-強誘電相転移へ復帰する現象を見出した
こ と に つ い て 述 べ る 。 こ の 結 果 か ら 、 Pb 1 - x La x Ti 1 - x
/4O3
(x=0.15)
+ 1 . 0 mo l % M n O 2 に お い て 従 来 に 比 べ て 焦 電 係 数 が 一 桁 大 き く 尚 且 つ 比
誘電率が比較的低い非常に優れた薄膜焦電材料を実現できることを示
す。
第 5 章 で は 、 前 章 で の M n ド ー プ を 行 っ た P LT の c 軸 配 向 膜 の 評 価
結果を受け、ポイント型赤外線センサーおよび地球観測衛星搭載用ア
19
レイ型センサーへの適用に向けて焦電型赤外線センサーの特性の試算
評価を行い、この材料を用いたエピタキシャル薄膜が高性能焦電型赤
外線センサー用薄膜材料として非常に優れていることを示す。
第 6 章 で は 、本 論 文 で 得 ら れ た こ の 様 な 高 L a 組 成 に お け る P LT 薄 膜
の 配 向 制 御 と Mn ド ー プ に よ る 相 転 移 挙 動 の 制 御 に 関 す る 知 見 の 総 括
と今後の課題について提示を行う。
20
参考文献
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21
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22
第2章
Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 試 料 の 作 製 方 法 と
評価方法
2 .1
はじめに
第 1 章 で は 、 Pb Ti O 3 の P b を La で 置 換 し た Pb 1 - x L a x Ti 1 - x / 4 O 3 ( PLT )
の La 濃 度 を 増 加 さ せ 、 キ ュ リ ー 点 を 低 下 さ せ る こ と で 焦 電 係 数 γ を 向
上させ、焦電型赤外線センサーの高感度化の課題を解決する可能性が
あ る こ と を 示 し た 。 し か し 、 本 研 究 の 開 始 時 点 で は 、 高 La 組 成 域 に お
け る PLT 薄 膜 を c 軸 配 向 さ せ エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 さ せ た 報 告 は な く 、
1 . 3 節 で 述 べ た よ う に 、 PLT の 分 極 軸 で あ る c 軸 方 向 に 高 度 に 配 向 さ せ
たエピタキシャル薄膜が実現されなければ、焦電型赤外線センサーの
性能向上を議論することはできない。
通常、酸化物強誘電体の作製方法はセラミクスの焼結方法をそのま
ま用いて高圧下で焼結を行うか或いはフラックスを用いたりするもの
であるが、基本的には熱平衡条件下でのプロセスである。これに対し
て、薄膜の結晶成長は低ガス圧中で原子あるいは分子を活性化させた
非熱平衡条件下で行われ、基板上に飛来する粒子のエネルギーの大き
さを制御することが可能である。従ってこれらの薄膜形成時の特徴を
活かすと、従来のセラミクスでは得られない構造の物質が形成され、
形成温度も著しく低下することが期待される。一方、材料の微細構造
と い う 観 点 か ら す る と 、 セ ラ ミ ク ス の 焼 結 体 で は 0.1μm 程 度 の 結 晶 粒
子 で あ る の に 対 し て 、 薄 膜 の 成 長 で は 蒸 着 粒 子 の 大 き さ が 0.1nm 程 度
の原子団或いは分子団からなる超微粒子である点が大きく異なってい
る。
本章では、まず本研究の第一目標を実現するために本研究で選択し
た 作 製 方 法 で あ る R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 に つ い て 述 べ 、次
に PLT 薄 膜 の 膜 特 性 を 評 価 す る た め に 必 要 な 評 価 方 法 お よ び 評 価 結 果
について述べた後に電気的特性評価のための評価系および評価方法に
ついて述べる。
23
2 .2
RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 に よ る 試 料
作製
2.2.1
RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法
酸化物材料の薄膜化方法を考えた場合、これらの物質が高融点の物
質や多元の化合物などから構成されていることから、一般に酸化物材
料 を 薄 膜 化 す る 際 に は 抵 抗 加 熱 蒸 着 法 や 電 子 ビ ー ム ( E B) 加 熱 蒸 着 法 等
の熱蒸着プロセスよりもイオンプロセスの方が有効である。
また、イオンプロセスの中でもスパッタリング法は、広範囲の複雑
な化合物を薄膜化することが可能であり、材料プロセス的にも興味深
い 。こ の た め Ba Ti O 3 や P b Ti O 3 等 の よ う な 多 元 系 セ ラ ミ ク ス 材 料 の 薄 膜
化 に も 広 く 用 い ら れ て い る 。ス パ ッ タ リ ン グ 法 は 、固 体 表 面 に 数 e V 以
上のエネルギーを持つイオン、中性原子、分子などの粒子を衝突させ
ると、その固体の表面の原子や分子が弾き出される現象(スパッタリ
ング現象)を利用したものである。スパッタリング法はその原理に基
づ い て 以 下 の よ う な 特 徴 を 有 し て い る 。 (1-4)
(1)高エネルギー粒子の衝突を用いるため、高融点の物質でも薄
膜化が可能。
(2)ターゲットである固体の表面を順次蒸発させていくプロセス
であるため、蒸気圧の異なる複数の成分からなる多元系材料でも組成
のずれが少ない。
( 3 ) 飛 来 粒 子 が 数 eV~ 数 十 eV の 比 較 的 高 い エ ネ ル ギ ー を 有 す る
ため基板上での表面運動の活性化が高く、基板温度の低温化が期待で
き、基板との付着力も高い。
RF ス パ ッ タ リ ン グ 法 は 、 1 0 - 1 ~ 1 0 Pa 程 度 の 真 空 度 に お い て 原 材 料 物
質から構成されるターゲットとアースに落とされたチャンバー間に高
周波電圧を印加してグロー放電を発生させ、その際に生じる弱電離プ
ラズマによりチャンバー内のガスをイオン化し加速してターゲットに
衝突させることでターゲット表面の構成元素を叩き出し、所定の基板
上 に 付 着 ・ 堆 積 さ せ る と い う も の で あ る 。 RF ス パ ッ タ リ ン グ 法 は 、 印
加する電圧が高周波であるため多くの酸化物のように絶縁体であって
も、チャージアップの問題が無く良好にスパッタリング可能である。
こ の 改 良 型 で あ る R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 ( 5 ) は 、1 9 7 0 年 代
に開発され、従来のものに比べて成膜速度が速いという優れた特徴を
24
有 し て い る 。こ の R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 は 、タ ー ゲ ッ ト 表
面近傍に平行磁界を発生させ、この磁界によって電子が磁力線に沿っ
て螺旋運動を行うことで高密度の放電プラズマが発生する領域がター
ゲット表面に形成されることで、効率的にスパッタリングを行わせる
よ う に し た も の で あ る 。 こ の た め 、 RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法
は 、 成 膜 速 度 が 速 く 、 10-1Pa 程 度 の 比 較 的 低 ガ ス 圧 の 条 件 下 に お い て
も 安 定 に 動 作 が 可 能 等 の 特 徴 を 持 ち 、電 源 と し て 高 周 波 を 用 い る た め 、
金属から絶縁体、低融点から高融点物質まで非常に幅広い材料を薄膜
化可能である。また、成膜時に反応性ガスをチャンバー内に導入する
ことにより、酸化物のみならず窒化物等の化合物薄膜を形成すること
も可能である。
上 記 の よ う な 、 RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 の 特 徴 を 踏 ま え 、
PLT の よ う な 高 融 点 複 合 酸 化 物 材 料 の 薄 膜 形 成 方 法 と し て は 、 本 方 法
が 最 適 で あ る と 考 え た 。 図 2 - 1 に 、本 研 究 で 使 用 し た R F マ グ ネ ト ロ ン
スパッタリング装置の概略図を示す。
チャンバー
ヒーター
基板ホルダ
基板
シャッター
スパッタガス
真空排気
ターゲット
S
N
S
N
S
N
RF高圧電源
図 2-1
RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 装 置 の 概 略 図
25
RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 に よ る 酸 化 物 強 誘 電 体 の 薄 膜 化 は 、
通常、酸化物強誘電体材料の粉体をプレスし成型した圧粉体或いは焼
結体からなるターゲットを直接スパッタリングして得られる。この場
合、作製された薄膜の特性は前述の如く、飛来してくる粒子や基板表
面に到着した粒子の基板表面での移動度・付着確率などの微視的な諸
因子によって決まる。実際にスパッタリング装置で薄膜を作製する場
合 、こ れ ら の 微 視 的 な 諸 因 子 は 、以 下 の よ う な 条 件 に よ っ て 変 化 す る 。
(1)基板材料(結晶構造、表面状態、清浄度等)
(2)基板温度
(3)ターゲット(組成、構造、表面温度)
(4)スパッタガス(全圧、組成、分圧比)
(5)ターゲット投入電力
(6)成長速度
(7)電極構造(ターゲット構造、基板位置)
従って、スパッタリング法で良好な特性の薄膜を作製するためには、
これらの成膜条件を適切に制御し、最適条件を見出す必要がある。
図 2 - 2 に 、本 研 究 で 使 用 し た R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 装 置 の
外 観 図 を 示 す 。本 研 究 で は 、ア ネ ル バ 製 R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン
グ 装 置 S H- 2 0 1 を 使 用 し た 。基 板 加 熱 は 、基 板 ホ ル ダ の ヒ ー タ ー を シ ー
ス 熱 電 対 で 温 度 を モ ニ タ リ ン グ し PID 制 御 に よ る サ イ リ ス タ 温 調 器 を
使 用 し 5 5 0 ~ 6 5 0 ± 1℃ の 温 度 範 囲 で 成 膜 を 行 っ た 。
基 板 は 、 (100) で 壁 開 し 、 表 面 を 鏡 面 研 磨 し た
MgO 単 結 晶
( 1 2 m m× 1 2 m m× 0 . 5 m m) 基 板 を 使 用 し た 。 ま た 、 電 気 特 性 を 測 定 す る 試 料
に は 、 下 部 電 極 と し て MgO(100)基 板 上 に RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ
ン グ 法 に よ っ て ( 1 0 0 ) に 配 向 し た P t 薄 膜 ( 0 . 2μ m 厚 ) を 形 成 し た も の を 使
用 し た 。Pt 薄 膜 を 作 製 す る 条 件 は 、基 板 温 度 6 0 0 ℃ 、ス パ ッ タ リ ン グ ガ
ス は 、 A r と O 2 の 混 合 ガ ス で 、 全 圧 は 0 . 5 P a で あ る 。 上 部 電 極 に も Pt
薄 膜 を 使 用 し 、メ タ ル マ ス ク に よ っ て 直 径 0 . 2 m m φ の 上 部 電 極 を 形 成 し
た。
26
図 2-2
本 研 究 で 使 用 し た RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ
装置の外観図
27
2.2.2
ターゲット作製方法
鉛系酸化物強誘電体薄膜は、酸化鉛の蒸気圧が高いため薄膜作製時
に 鉛 の 欠 損 を 生 じ や す い 。 こ の た め タ ー ゲ ッ ト は 、 PLT 粉 末 に Pb O 粉
末 を 添 加 し た 混 合 物 を 使 用 し た 。組 成 は 、( 1- y) P b 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 + y P b O
で 表 さ れ る 。種 々 の La 濃 度 の 薄 膜 を 作 製 す る た め 、タ ー ゲ ッ ト 原 料 と
な る PLT 粉 末 の 作 製 を 行 っ た 。 PLT 粉 末 の 作 製 方 法 は 、
1 ) 所 定 の 組 成 比 に 秤 量 し た 、 Pb O 、 Ti O 2 、 La 2 O 3 粉 末 を 乳 鉢 で 粉 砕
混合
2)ボールミルを使用し 2 次混合した後、乾燥
3)乾燥したケイクを乳鉢で再度粉砕混合
4 ) 坩 堝 を 使 用 し 1200℃ で 仮 焼
5)坩堝から取り出し乳鉢で粉砕
で あ る 。 PLT 粉 末 の 組 成 は E D X で 確 認 し た 。 そ の 後 、 Pb O 粉 末 を 添 加
し乳鉢で混合した後、銅皿に入れ表面を均したのちプレスを行った。
M n の ド ー ピ ン グ を 行 う 際 は 、 P LT 粉 末 に 、 所 定 の 組 成 比 に 秤 量 し た
M n O 2 粉 末 を Pb O と と も に 添 加 し 、乳 鉢 で 混 合 し た 後 、同 様 に 銅 皿 に 入
れプレスしターゲットを作製した。
2.2.3
スパッタリング条件
成膜する際には、基板ホルダからの輻射熱でターゲット表面の吸着
水を脱離させる目的で、スパッタリングを開始する前にシャッターを
開 け た 状 態 で 基 板 温 度 を 550~ 650℃ ま で 上 昇 さ せ 、 そ の 後 、 シ ャ ッ タ
ー を 閉 じ た 状 態 で 放 電 を 開 始 し プ レ ス パ ッ タ リ ン グ を 15 ~ 3 0 mi n 行 い 、
ターゲットからの脱ガスによるガス圧の変動が安定するのを確認して
か ら シ ャ ッ タ ー を 開 け 、 基 板 上 に P LT 薄 膜 の 成 膜 を 行 っ た 。 成 膜 終 了
時 に は 、 シ ャ ッ タ ー を 閉 じ 放 電 を 停 止 し た 後 、 P LT 薄 膜 の 酸 素 欠 陥 を
軽 減 し 尚 且 つ 冷 却 時 間 を 短 縮 す る た め Ar お よ び O 2 ガ ス を そ の ま ま 流
し な が ら 冷 却 を 行 っ た 。作 製 し た 試 料 の 取 り 出 し 温 度 は 、8 0 ℃ で あ る 。
表 2-1 に 、 主 な ス パ ッ タ リ ン グ 条 件 を 示 す 。
28
表 2-1
スパッタリング条件
基板温度
550~ 650℃
ガス組成比
[ A r ] / ( [ A r ]+ [ O 2 ] ) = 0 . 1 ~ 1 . 0
ガス圧
0 . 5 Pa
RF パ ワ ー 密 度
0 . 7 ~ 2.0 W/c m 2
成膜レート
4 ~ 9 n m / mi n
ターゲット
( 1 - y ) P b 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 + y Pb O ( y = 0 . 2 )
2 .3
薄膜の評価方法
作 製 し た 薄 膜 の 評 価 は 、 主 に X 線 回 折 法 ( XRD) と 走 査 電 子 顕 微 鏡
( SEM) を 用 い て 行 っ た 。 ま た 、 配 向 性 の 良 い 薄 膜 に つ い て は 、 透 過
電 子 顕 微 鏡 ( TEM ) お よ び 反 射 高 速 電 子 回 折 法 ( R HE E D ) を 用 い て エ
ピタキシャル成長を確認した。
R HE E D 法 と は 、 電 子 銃 か ら 1 0 ~ 5 0 k e V の 高 速 電 子 線 を 1 ~ 100 μ m に
絞 っ て 薄 膜 の 膜 面 に 対 し て 1 ~ 3° の 低 角 度 で 照 射 す る こ と に よ り 膜 の
表面で回折した電子線を蛍光スクリーンに投影して回折像を観察する
こ と で 薄 膜 表 面 の 結 晶 構 造 や 平 滑 性 を 測 定 す る 方 法 で あ る 。 (6,7)
図 2 - 3 に 、 R HE E D 装 置 の 概 略 図 を 示 す 。 高 速 電 子 線 を 試 料 表 面 す れ
すれに入射させるため、入射電子線の潜り込みは試料表面から数原子
層にとどまり、この表面近傍の数原子層のみが回折に関与するため、
表面状態に非常に敏感で、表面近傍の原子の配列の情報を得ることが
できる。ナノメートルスケールの表面平滑度を持つ良質な薄膜結晶に
つ い て 、結 晶 の 対 称 性 を 有 す る 方 向 へ 電 子 線 を 照 射 し て R H E E D 像 を 測
定すると、回折点が薄膜表面に対して垂直方向に立ったストリークと
呼ばれる縦棒状の輝線が何本か対称的に並んだパターンが観測される。
これらの輝線の間隔は結晶格子の間隔に逆比例、即ち逆格子の間隔に
比例する。また、表面が荒れている場合、表面の凹凸により3次元的
な回折がおこり、回折像はスポット状になる。これにより薄膜表面の
モフォロジーが平滑か凹凸かを判定することができる。
29
電子銃
収束
コイル
真空チャンバー
蛍光
スクリーン
電子線
基板
ディフ
レクタ
図 2-3
2 .4
2.4.1
RHEED装置の概略図
薄膜の電気特性評価方法
誘電率
P LT 薄 膜 は 、 強 誘 電 体 で あ り そ の 物 性 は 、 相 転 移 挙 動 に よ り 大 き く
変 化 す る 。 こ の た め 、 PLT 焦 電 体 薄 膜 を 高 性 能 化 す る た め に は 薄 膜 の
状態での誘電率の温度特性を評価解析することが重要である。本研究
に お い て は 、 高 L a 濃 度 の 組 成 を 持 つ 薄 膜 を 検 討 す る た め 、キ ュ リ ー 点
が 室 温 付 近 ま で 低 下 す る こ と を 想 定 し 、 試 料 温 度 が - 1 4 0 ℃ か ら + 5 5 0℃
の温度範囲で測定可能な電気測定用チャンバーを新たに設計し、作製
を行った。
図 2-4 に 電 気 測 定 用 チ ャ ン バ ー の 概 略 図 を 示 す 。 Pt(100)/ MgO(100)
基 板 上 に 作 製 し た P LT 薄 膜 上 に 直 径 0 . 2 m m φ の 上 部 電 極 を 作 製 し た 後 、
電 気 測 定 用 チ ャ ン バ ー の 基 板 ホ ル ダ に 固 定 し 、Au 線 を 用 い て 下 部 電 極
と上部電極をそれぞれ信号ラインの同軸ケーブルに接続した。基板ホ
ルダには、シース熱電対とシースヒーターを無誘導巻きした加熱用ヒ
ーターを配置し熱伝導性を向上させるためにヒーターと基板ホルダ間
にグラファイトシートを挿入した。室温以下に冷却する際には、基板
ホルダ上部の円筒部に液体窒素を注入し冷却をおこなった。誘電率の
温 度 特 性 の 測 定 は 主 に 昇 温 過 程 で 行 い 、 温 度 制 御 に は PI D 制 御 に よ る
サ イ リ ス タ 温 調 器 を 使 用 し た 。 昇 温 速 度 は 、 1~ 10 ℃ / mi n で 行 っ た 。 冷
却時のチャンバー内部の結露を防止するため、チャンバー内部はロー
ターポンプにより真空引きし、窒素置換を行った。シールドケーブル
は 、 市 販 の も の で は 高 温 時 に 被 覆 が 融 解 し て し ま う た め 、 Cu の 単 線 に
ビ ー ズ 状 の 碍 子 を は め た 後 C u の 網 線 を 被 せ 固 定 し た も の を 作 製 し 、ハ
30
ー メ チ ッ ク シ ー ル の BNC 端 子 を チ ャ ン バ ー 蓋 に 取 り 付 け 接 続 し た 。
誘 電 率 の 温 度 特 性 の 測 定 に は 、 Hewlett-Packard 社 製 プ レ シ ジ ョ ン
L CR メ ー タ ー H P - 4 2 8 4 A を 使 用 し 、 パ ー ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ ー ( P C) と
G P I B で 接 続 し 、 自 動 測 定 を 行 っ た 。 図 2- 4 に 誘 電 率 の 温 度 特 性 測 定 時
の測定系の概略図を示す。自動測定プログラムは、マイクロソフト社
製 表 計 算 ソ フ ト Excel の マ ク ロ 機 能 を 利 用 し 、 GPIB 制 御 用 ド ラ イ バ と
Exc e l 用 プ ラ グ イ ン を 用 い て V B A で 記 述 し 、 実 行 す る こ と で 、 デ ー タ
ー を 直 接 E x c e l で 取 り 扱 う こ と が 可 能 と な り 、測 定 の 効 率 化 を 行 う こ と
が 可 能 と な っ た 。 測 定 は 各 温 度 ご と に 1 0 0 H z か ら 1 M Hz ま で の 9 種 類
の周波数で行い、各測定周波数における比誘電率は、電極面積および
膜厚から算出した幾何学静電容量と測定した静電容量から算出した。
液体窒素
ハーメッチクシール
シールド線
熱電対
端子 BNC
. .
ヒーター
熱電対
Au線
図 2-4
基板 基板
ホルダー
電気特性測定用チャンバーの概略図
31
R.P.
2.4.2
焦電係数
P LT 薄 膜 の 焦 電 特 性 を 評 価 す る た め に 、 前 述 の 電 気 測 定 用 チ ャ ン バ
ーを用いて焦電電流の測定を行った。焦電電流は非常に微小であり通
常 の 電 流 計 で は 測 定 で き な い た め 、 Hewlett-Packard 社 製 ピ コ ア ン メ ー
タ ー H P - 4 1 4 0 B を 用 い て 測 定 を 行 っ た 。 測 定 は - 1 0 ℃ ~ + 50 ℃ の 温 度 範 囲
で 昇 降 温 速 度 5 ℃ / mi n に て 行 っ た 。図 2 - 5 に 焦 電 係 数 お よ び 誘 電 率 の 温
度特性測定時の評価システムの概略図を示す。焦電係数は、測定した
焦 電 電 流 と 昇 降 温 速 度 か ら 式 (2.1)を 用 い て 算 出 し た 。
γ = ( d P/ dT) ( dT / dt )
・ ・ ・( 2 . 1)
GPIB
pAメーター
HP-4140B
パーソナル
コンピュータ
PID温度
コントローラー
LCRメーター
HP-4284A
デジタル温度計
.
液体窒素
シールド線
.
熱電対
Au線
図 2-5
ヒーター
基板 基板
ホルダー
R.P.
焦電係数および誘電率の温度特性評価システム
本 研 究 に お い て は 、c 軸 配 向 し た PLT 薄 膜 は 、A s D e p o の 状 態 で 焦 電
電流が検出され、通常の強誘電体材料を焦電型赤外線センサーとして
使用する際に必要となる分極処理を行っていないにもかかわらず、図
2-6 に 示 す よ う に 分 極 が 一 方 向 に 揃 う 所 謂 自 然 分 極 (8-10)が 発 生 し て い
32
る と 考 え ら れ る 。こ の c 軸 配 向 膜 に 特 徴 的 な 性 質 は 小 型 で 高 分 解 能 な 1
次元或いは 2 次元のアレイセンサーを作製するのに非常に有益である。
何故ならば、高温で高電界を印加する分極処理は、薄膜のように非常
に薄い材料を破壊することなく均一に分極処理することが困難なため
である。
PLT薄膜
分極P
Pt電極
MgO基板
図 2-6
c 軸 配 向 し た PLT 薄 膜 に お け る 自 然 分 極 の 模 式 図
33
2.4.3
自発分極、残留分極
1 . 3 節 で 述 べ た よ う に 、焦 電 効 果 は 自 発 分 極 の 温 度 変 化 に よ る も の で
あ る 。 こ の た め 、 PLT 薄 膜 の 自 発 分 極 を 測 定 評 価 し 強 誘 電 体 と し て の
特性を明確にすることは、焦電型赤外線センサーの材料特性を向上さ
せる際にも非常に重要であると考えられる。強誘電体の自発分極を測
定 す る 際 に は 一 般 に ソ ー ヤ ・ タ ワ ー ( S a w y e r- To w e r ) 回 路 法 が 用 い ら
れ る 。 図 2-7 に ソ ー ヤ ・ タ ワ ー 回 路 の 回 路 図 を 示 す 。
+q
VF
試料
-q
交流
電源
Vy
+q
Cs
-q
図 2-7
参照
コンデンサー
オシロスコープ
ソーヤ・タワー回路
ソーヤ・タワー回路とは、強誘電体を2つの対向する電極で挟み、こ
の 電 極 の 一 方 に 直 列 に 参 照 用 コ ン デ ン サ ー Cs を 接 続 し 、 強 誘 電 体 の 両
端 の 電 圧 V F を オ シ ロ ス コ ー プ の x 軸 方 向 に 、 参 照 用 コ ン デ ン サ ー Cs
の両端の電圧をオシロスコープの y 軸方向に印加してリサジュー曲線
を描かせることで、強誘電体特有のヒステリシス現象を測定するもの
である。
図 2-8 に 本 研 究 で 用 い た P-E ヒ ス テ リ シ ス 測 定 時 の 測 定 系 の 概 略 図
を 示 す 。こ の 測 定 シ ス テ ム で は 一 般 的 な A C 電 源 の か わ り に 信 号 発 生 装
置 で 正 弦 波 を 発 生 さ せ 、D C ア ン プ で 電 圧 増 幅 し た の ち 回 路 に 印 加 す る
ことで、任意の周波数と電圧を試料に印加することができるようにし
た。また、試料および参照コンデンサーの両端の電圧を差動プローブ
を用いて測定することで、試料をフローティング状態で測定すること
が可能となった。
34
オシロスコープ
Ch.1 Ch.2
+
-
Vx
Vy
DCアンプ
.
.
差動プローブ
参照コンデンサー
Cs
+
-
シールド線
信号発生装置
差動プローブ
熱電対
Au線
図 2-8
P- E ヒ ス テ リ シ ス 測 定 シ ス テ ム
35
ヒーター
基板 基板
ホルダー
R.P.
参考文献
(1)
K . L . C h o p l a : “ T h i n F i l m P he n o m e n a ” ( M c G r a w - H i l l , N e w Yor k ,
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和 佐 清 孝 、 早 川 茂 : 「 薄 膜 化 技 術 」 (共 立 出 版 , 1982).
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金 原 粲 : 「 ス パ ッ タ リ ン グ 現 象 」 (東 京 大 学 出 版 会 , 1984)
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金 原 粲 : 表 面 技 術 68 ( 2 0 0 7 ) 7 0 5 .
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N . M a s u d a n d J . B . P e n d r y : J . P h y s . C S o l i d St a t e P h y s . ( 1 9 7 6 ) 1 8 3 3 .
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(1986) 2914.
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R . Ta k a y a m a , Y. To m i t a , K . I i j i ma a n d I . U e d a : J . A p p l . P h y s . 6 1
( 1 9 8 7 ) 4 11 .
( 1 0 ) R . Ta k a y a m a a n d Y. To m i t a : J . A p p l . P h y s . 65 ( 19 8 9 ) 1 6 6 6 .
36
第3章
高 La 組 成 Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 高 品
位成膜と散漫相転移
3 .1
はじめに
本章では、最初に強誘電体材料を焦電体として使用し焦電特性の高
性能化を図る際に重要となる強誘電体の相転移について述べ、
Pb( M g 1 / 3 Nb 2 / 3 ) O 3 ( 1 ) の よ う な 多 元 系 複 合 酸 化 物 強 誘 電 体 に し ば し ば 見 ら
れ る 散 漫 相 転 移 (2)に つ い て 述 べ る 。
次 に 、 PLT 系 焦 電 体 薄 膜 材 料 の 高 性 能 化 を 目 指 し 、 成 膜 条 件 を 最 適
化 す る こ と に よ っ て c 軸 配 向 し た P LT 薄 膜 が 作 製 可 能 で あ る こ と を 述
べ る 。ま た 、最 適 条 件 化 で 成 膜 す る 際 の 薄 膜 の 成 長 初 期 段 階 に 着 目 し 、
成長のごく初期の段階では結晶核が多数生成し粒成長が見られるが、
膜厚が増加するにつれて横方向への成長が顕著となって表面が平坦な
テ ラ ス 状 と な り 、 膜 厚 が 5 0 n m で は 粒 界 が 消 失 し PLT 薄 膜 の 表 面 は 完
全 に 平 坦 な 状 態 と な る こ と を 示 す 。さ ら に T E M 、R H E E D に よ る 測 定 を
行 い 、 M gO ( 1 0 0 ) 基 板 お よ び P t ( 1 0 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に 最 適 条 件 化 で 成
膜 し た P LT 薄 膜 は い ず れ も エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 す る こ と を 示 す 。ま た 、
従 来 成 膜 が 難 し く ほ と ん ど 検 討 さ れ て こ な か っ た La 濃 度 ( x ) が 0 . 2 0 以
上 の 高 L a 組 成 領 域 に お け る PLT 薄 膜 の 高 品 位 成 膜 に つ い て 述 べ る 。こ
こ で は 、 第 一 段 階 と し て L a 濃 度 x = 0 . 1 5 の P LT 薄 膜 を 成 膜 し 、 次 に 第
二 段 階 と し て La 濃 度 x = 0 . 2 0 ~ 0 . 3 0 の PLT 薄 膜 を 成 膜 す る こ と で 、 高
La 組 成 の PLT 薄 膜 に お い て も c 軸 配 向 さ せ る こ と が 可 能 で あ る こ と を
示す。
後 半 で は 、 得 ら れ た PLT 薄 膜 の 電 気 特 性 お よ び 相 転 移 挙 動 を 評 価 し
た 結 果 に つ い て 述 べ 、La 濃 度 x が 0 . 1 5 以 上 に 増 加 す る と 通 常 の 常 誘 電
-強誘電相転移から散漫相転移に移行し比誘電率が急増するとともに、
キュリー点の低下にもかかわらず焦電係数が逆に低下し、その結果、
焦 電 体 薄 膜 材 料 と し て の P LT の La 濃 度 x は 、0 . 1 5 が 最 適 値 で あ る こ と
を述べる。
37
3 .2
常誘電-強誘電相転移と散漫相転移
第1章で述べたように誘電体のうち自発分極を有し、外部電界によ
って自発分極が反転する性質を持つ誘電体は強誘電体と呼ばれ、強誘
電体の温度を上昇させると温度上昇と共に自発分極が減少し、遂には
自 発 分 極 が 消 失 し 通 常 の 誘 電 体 、 即 ち 常 誘 電 体 と な る 。 Pb Ti O 3 に お い
ては、このとき結晶構造が変化し強誘電相では正方晶、常誘電相では
立方晶となり、この相転移は常誘電-強誘電相転移と呼ばれている。
通常、強誘電体において見られる常誘電-強誘電相転移では、常誘
電 - 強 誘 電 相 転 移 温 度 (=キ ュ リ ー 点 Tc)以 上 の 温 度 か ら Tc に 向 か っ て
温 度 を 低 下 さ せ る に し た が い 比 誘 電 率 εr は 増 加 し 、 こ の と き の 比 誘 電
率 ε r と 温 度 T の 関 係 は 、 下 記 の C u r i e - We i s s 則 に 従 う 。
ε r = C / ( T- T c ) + ε
・・・ ( 3 . 1 )
こ こ で 、 C: キ ュ リ ー 定 数 、 T c : キ ュ リ ー 点 、 ε: 定 数 項 で あ る 。 式 ( 3. 1)
か ら 、 εr は Tc に お い て 発 散 す る が 実 際 の 誘 電 測 定 に お い て は 、 有 限 の
値 と な り 、 εr は 非 常 に 大 き な 値 と な り εr の 温 度 特 性 は Tc 付 近 に お い て
非常に鋭いピークを示す。
こ れ に 対 し 散 漫 相 転 移 ( D PT) と は 、Ba Ti O 3 と Ba Sn O 3 の 固 溶 体 ( 3 - 6 ) や 、
Pb( M g 1 / 3 Nb 2 / 3 ) O 3 の よ う に AB O 3 ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 構 造 の B サ イ ト イ オ
ンが複数の価数の異なるイオンで構成される化合物では、しばしば誘
電率の温度変化が緩やかになり常誘電-強誘電相転移が不明瞭になっ
ていく現象が観測され、一般に散漫相転移と呼ばれている。特に
Pb( M g 1 / 3 Nb 2 / 3 ) O 3 の よ う な 、 B サ イ ト イ オ ン が ラ ン ダ ム に 配 置 し た 不 規
則型複合型ペロブスカイト酸化物においては、微視的な領域における
組成分布が存在するため相転移温度が分散し、これによって相転移が
ブロードな状態、即ち散漫な相転移状態となるため散漫相転移と呼ば
れている。また、比誘電率の周波数分散が大きくなり、周波数が高く
なるにつれて誘電率が減少すると同時に誘電率のピークは高温側に移
動 す る 現 象 が 見 ら れ る た め 、緩 和 型 強 誘 電 体( リ ラ ク サ ー )と 呼 ば れ 、
大きな誘電率を有するにもかかわらず温度特性が緩やかであるため、
リ ラ ク サ ー 材 料 は 、セ ラ ミ ク ス コ ン デ ン サ ー の 誘 電 体 材 料 ( 7 - 9 ) や 圧 電 材
料 (10-12)と し て 広 く 用 い ら れ て い る 。 散 漫 相 転 移 に お い て は 、 比 誘 電 率
ε r と 温 度 T の 関 係 は 、 C u r i e - We i s s 則 で は な く 以 下 の 式 に 従 う こ と が 知
38
られている。
(1/εr-1/εm)1/n = ((T- Tm)/C’)
・・・( 3 . 2 )
こ こ で 、 C’: 定 数 、 T m : ピ ー ク 温 度 、 ε m : 温 度 T m に お け る 比 誘 電 率 で
あ る 。 Pb Ti O 3 や Ba Ti O 3 n な ど 通 常 の 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 で は 、 n = 1 、
Pb( M g 1 / 3 Nb 2 / 3 ) O 3 な ど の リ ラ ク サ ー に お い て は n= 2 と な る ( 1 3 ) 。
式 ( 3 . 2 ) に お い て n = 1 の 場 合 、通 常 の C u r i e - We i s s 則( 式 ( 3 . 1 ) )と な り 、
n は 相 転 移 の 緩 や か さ を 示 す 指 標 、即 ち D i ff u s e n e s s と 定 義 さ れ て い る 。
本 研 究 に お い て は 、種 々 の La 濃 度 に お け る PLT 薄 膜 の 誘 電 率 の 温 度
特性を測定し、ピーク温度以上の温度域における比誘電率と温度から
( 1 / ε r - 1 / ε m ) と ( T - T m ) の 両 対 数 プ ロ ッ ト を と り 、そ の 傾 き か ら D i ff u s e n e s s
を求め、通常の常誘電-強誘電相転移から散漫相転移への移行度合い
を評価する指標とした。
39
3 .3
高 La 組 成 Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 作 製
PLT 薄 膜 の 配 向 は 、 成 膜 時 の 基 板 温 度 や ス パ ッ タ リ ン グ ガ ス の Ar と
O2 の 組 成 比 な ど 成 膜 条 件 に 強 く 影 響 を 受 け る 。 成 膜 条 件 と 薄 膜 の 配 向
性 の 関 係 を 明 ら か に す る た め に c 軸 配 向 率 αお よ び XRD 測 定 に お け る
各 ピ ー ク の 相 対 強 度 を 用 い て 評 価 検 討 を 行 っ た 。 c 軸 配 向 率 αお よ び 各
ピ ー ク の 相 対 強 度 Ir の 定 義 を 以 下 に 示 す 。
α = I ( 0 0 1 ) / [I ( 0 0 1 ) + I ( 1 0 0 ) ] ,
・・・ ( 3. 3)
I r ( 0 0 1 ) = I ( 0 0 1 ) / [ I ( 0 0 1 ) + I ( 10 0) + I ( 1 0 1 ) + I ( 111 ) ] ,
I r ( 1 0 0 ) = I ( 1 0 0 ) / [ I ( 0 0 1 ) + I ( 10 0) + I ( 1 0 1 ) + I ( 111 ) ] ,
I r ( 1 0 1 ) = I ( 1 0 1 ) / [ I ( 0 0 1 ) + I ( 10 0) + I ( 1 0 1 ) + I ( 111 ) ] ,
I r ( 111 ) = I ( 111 ) / [ I ( 0 0 1 ) + I ( 10 0) + I ( 1 0 1 ) + I ( 111 ) ] ,
・ ・ ・( 3 . 4 )
こ こ で 、 I ( 0 0 1 ) 、 I ( 1 0 0 ) 、 I ( 10 1) 、 I ( 111) は 、 そ れ ぞ れ ペ ロ ブ ス カ イ ト の
0 0 1 、 1 0 0 、 1 0 1 、 111 反 射 ピ ー ク で あ る 。
図 3 - 1 に P t ( 1 0 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 成 膜
時 の 基 板 温 度 に 対 す る 各 相 対 ピ ー ク Ir の 依 存 性 を 示 す 。 ス パ ッ タ リ ン
グ ガ ス の 組 成 は 、 [ A r ] / ( [ A r ] + [ O 2 ] ) = 0.5 と し た 。 得 ら れ た 薄 膜 は 主 に
( 0 0 1 ) 配 向 し て お り 、 基 板 温 度 が 550 ℃ で は 、 ( 1 0 0 ) 配 向 の 他 に ( 111) 配 向
も 僅 か に 見 ら れ た 。基 板 温 度 を 6 0 0 ℃ ま で 上 昇 さ せ る と 、α = 0 . 9 程 度 ま
で 向 上 し 、 ( 111) 配 向 は 全 く 見 ら れ な か っ た 。 さ ら に 基 板 温 度 を 上 昇 さ
せ 650℃ で 成 膜 す る と (100)配 向 が 優 位 と な り α は 、 0.5 以 下 と な っ た 。
図 3 - 2 に 基 板 温 度 6 0 0 ℃ に て 作 製 し た PLT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 成 膜 時 の ス
パ ッ タ リ ン グ ガ ス 組 成 に 対 す る 各 相 対 ピ ー ク I r の 依 存 性 を 示 す 。図 3 - 2
か ら 明 ら か な よ う に O 2 リ ッ チ な ガ ス 組 成 で は 、 ( 1 0 0 ) 配 向 が 増 加 し αが
減 少 し 僅 か な が ら ( 111) 配 向 も 見 ら れ た 。 Ar 濃 度 を 増 加 さ せ る こ と に よ
り ( 1 0 0 ) お よ び ( 111) が 減 少 し ( 0 0 1 ) 配 向 が 支 配 的 と な り 、 [ A r ] / ( [ A r ] +
[ O 2 ]) = 0 . 8~ 0 . 9 付 近 に お い て α ≧ 0 . 9 5 と 、 高 度 に c 軸 配 向 し た P LT 薄
膜が得られた。
40
Ralative intensity (a.u.)
1.0
I r(001)
0.8
0.6
0.4
I r(111)
I r(101)
0.2
0.0
525
I r(100)
550
575
600
625
650
675
Substrate temperature (℃)
図 3-1
P t ( 1 0 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 成
膜 時 の 基 板 温 度 に 対 す る 各 相 対 ピ ー ク Ir の 依 存 性
Ralative intensity (a.u.)
1.0
0.8
I r(001)
0.6
0.4
I r(111)
I r(101)
0.2
0.0
0.0
0.2
0.4
I r(100)
0.6
0.8
1.0
[Ar]/([Ar]+[O2])
図 3-2
基 板 温 度 6 0 0 ℃ に て 作 製 し た PLT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 成 膜 時 の ス
パ ッ タ リ ン グ ガ ス 組 成 に 対 す る 各 相 対 ピ ー ク Ir の 依 存 性
41
これらの結果から、基板温度およびスパッタリングガス組成比は、
6 0 0 ℃ 、 [ A r ] / ( [ A r ]+ [ O 2 ]) = 0 . 9 が 最 適 値 と 判 断 し 、 以 後 全 て の 成 膜 に お
いて、この基板温度とガス組成比を基準とした。一般にスパッタリン
グ法におけるガス圧は配向性や成膜レートに影響を与えるが、本研究
において使用したスパッタリング装置においては、上記の条件下では
配向性は殆どガス圧の影響を受けなかった。これは、基板とターゲッ
ト 表 面 間 の 距 離 が 5 0 m m m と 比 較 的 近 く 、タ ー ゲ ッ ト 上 の プ ラ ズ マ に 基
板表面が晒されているため基板の最表面が高温となりターゲットから
放たれたスパッタリング粒子の基板表面でのマイグレーションが促進
さ れ た た め と 考 え ら れ る 。 表 3-1 に 最 適 成 膜 条 件 を 示 す 。
表 3-1
最適成膜条件
基板温度
600℃
ガス組成比
[ A r ] / ( [ A r ]+ [ O 2 ]) = 0 . 9
ガス圧
0.5Pa
RF パ ワ ー 密 度
1 . 3 W/ c m 2
42
図 3 - 3 に 、最 適 条 件 下 で 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の X R D 回 折 パ タ ー
ン を 示 す 。 こ の 図 か ら 明 ら か な よ う に 最 適 条 件 下 で 成 膜 し た P LT 薄 膜
は、非常に高度に c 軸配向していることが分かる。
(002)
Intensity (a.u.)
(001)
MgO(200)
Pt(200)
(100)
20
30
40
50
2θ (deg.)
図 3-3
最 適 条 件 下 で 作 製 し た PLT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の
XRD 回 折 パ タ ー ン
次 に 、 最 適 条 件 下 で 作 製 し た PLT 薄 膜 の 成 長 初 期 過 程 を 調 べ る た め
に 、成 長 初 期 段 階 に お け る 表 面 SE M 観 察 を 行 っ た 。図 3 - 4 に 、M g O ( 1 0 0 )
基 板 お よ び P t ( 1 0 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 成 長
初 期 段 階 に お け る 表 面 SE M 像 を 示 す 。各 段 階 に お け る 膜 厚 は 成 膜 レ ー
トから換算し、所望の膜厚となる時間でシャッターを閉じることで膜
厚の制御を行った。
43
図 3-4
MgO(100)基 板 お よ び Pt(100)/ MgO(100)基 板 上 に 作 製 し た
P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 成 長 初 期 段 階 に お け る 表 面 S E M 像
44
成 長 の 初 期 段 階 で あ る 膜 厚 5nm に お い て は 、 MgO 基 板 お よ び Pt/MgO
基 板 と も に 10 ~ 数 十 n m の PLT 粒 子 が 多 数 存 在 し 、そ の 後 、膜 厚 1 3 n m
に お い て は 、PLT 粒 子 は 1 0 0 n m 程 度 の 粒 径 に 成 長 し M g O 基 板 上 の PLT
薄膜においては表面の平坦性が増し、テラス状に成長している。さら
に 膜 厚 を 増 加 し た 膜 厚 2 5 n m に お い て は 、 M g O 基 板 上 の PLT 薄 膜 表 面
は 、ほ ぼ 平 坦 と な り P t / M g O 基 板 上 の PLT 薄 膜 も 横 方 向 に 成 長 し テ ラ ス
状 と な り 、膜 厚 5 0 n m に お い て は 、M g O 基 板 と P t / M g O 基 板 の 差 が 無 く
な り 、 と も に 非 常 に 平 坦 性 の 良 い P LT 薄 膜 と な る こ と が 判 明 し た 。 図
3 - 5 に 、 各 成 長 初 期 段 階 に お け る P LT 薄 膜 成 長 の 様 子 の 模 式 図 を 示 す 。
図 3-5
各 成 長 初 期 段 階 に お け る P LT 薄 膜 成 長 過 程 の 模 式 図
45
RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 は 、 基 板 に 飛 来 す る 粒 子 の エ ネ ル
ギ ー が 数 eV か ら 十 数 eV と 他 の 成 膜 方 法 に 比 べ て 大 き く 、 ま た 基 板 温
度 が 6 0 0 ℃ と 比 較 的 高 温 で あ る 為 、表 面 で の マ イ グ レ ー シ ョ ン が 大 き い
と考えられる。また、基板からの再蒸発やスパッタリングガスによる
バックスキャッタリングがあるため、表面の凹凸が平坦化され易く横
方 向 へ の 成 長 が 促 進 さ れ る と 考 え ら れ る 。図 3 - 4 の 成 長 初 期 過 程 の S E M
観 察 結 果 か ら 、 最 適 条 件 下 で 成 膜 し た PLT 薄 膜 は 、 成 長 初 期 段 階 に お
い て 核 と な る PLT 微 粒 子 が 数 n m 成 長 し た 後 、 表 面 マ イ グ レ ー シ ョ ン
により横方向への成長が促進され結晶粒がテラス状に大きく成長し、
その後互いに融合して非常に平坦性の良い薄膜が形成されたと考えら
れる。
次 に 、基 板 と の 界 面 の 状 態 を 調 べ る た め 、高 分 解 能 TEM に よ る 観 察
を 行 っ た 。 図 3 - 6 ( a ) に M g O 基 板 上 に 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 断 面
T E M 像 を 、図 3 - 6 ( b ) に 基 板 と の 界 面 付 近 の を 拡 大 し た 高 分 解 能 T E M 像
を示す。
(a)
( b)
図 3 - 6 ( a ) M g O 基 板 上 に 作 製 し た P LT( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 断 面 T E M 像
(b)基 板 と の 界 面 付 近 の 断 面 TEM 拡 大 像
46
図 3 - 6 ( a ) か ら こ の PLT 薄 膜 は 粒 界 や ク ラ ッ ク が 見 ら れ ず 、 非 常 に 緻 密
で 均 一 性 が 高 い こ と が 分 か る 。図 3 - 6 ( b ) に お い て 、M g O 基 板 か ら [0 01 ]
方 向 に P LT 薄 膜 内 ま で 原 子 レ ベ ル で つ な が っ た 原 子 像 が 見 ら れ 、 PLT
薄 膜 は M g O 基 板 上 に エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 し て い る こ と が 分 か る 。ま た
更 に 、 PLT 薄 膜 と 基 板 の 界 面 に 周 期 的 な 暗 コ ン ト ラ ス ト 部 が 見 ら れ 、
そ の 周 期 は 約 2 . 9 4 n m で あ っ た 。M g O の 格 子 定 数 a M g O は 、a M g O = 0 . 4 2 1 3 n m
で あ り 、 X R D か ら 求 め た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の a 軸 の 格 子 定 数 a P LT は 、
a P LT = 0 . 3 9 4 4 n m で あ っ た 。 格 子 定 数 か ら 算 出 し た ミ ス フ ィ ッ ト 周 期 は 、
{ a P LT / ( a M g O - a P LT ) } × a P LT / 2 = 2 . 9 n m
と な り 、高 分 解 能 T E M 像 の 基 板 界 面 付 近 に お い て 見 ら れ た 暗 コ ン ト ラ
スト部の周期とほぼ一致している。格子定数から求めた格子不整合度
は約6%と大きく、これらの結果から格子不整合歪みを緩和するため
に周期的なミスフィット転位が生じたと考えられる。また、この様な
大 き な 格 子 不 整 合 度 に も か か わ ら ず PLT 薄 膜 が M g O 上 に エ ピ タ キ シ ャ
ル 成 長 可 能 な 理 由 は 、こ の ミ ス フ ィ ッ ト 転 位 に よ る も の と 考 え ら れ る 。
次に、
P t ( 10 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の
R HE E D 像 を 図 3 - 7 ( a ) お よ び ( b ) に 示 す 。 基 板 へ の 電 子 線 の 入 射 方 向 は 、
( a ) < 1 0 0 > M g O 入 射 、 ( b ) < 11 0 > M g O 入 射 で あ る 。 図 3 - 7 か ら 明 ら か な よ
うに、明瞭なストリークが観察され、薄膜表面は非常に平滑であるこ
と が 分 か る 。こ の R HE E D 像 の 観 察 結 果 か ら 基 板 の 結 晶 方 位 と PLT 薄 膜
の結晶方位の関係は、
( 0 0 1 ) P LT / / ( 0 0 1 ) M g O
< 1 0 0 > P LT / / < 1 0 0 > M g O
であった。
以 上 の 結 果 か ら 、 P t ( 1 0 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄
膜 は 、 M gO ( 1 0 0 ) 基 板 と 同 様 に P t ( 1 0 0 ) / M g O ( 1 0 0 ) 基 板 上 に お い て も エ ピ
タキシャル成長していることを確認した。
47
(a)
(b)
図 3-7
Pt ( 1 0 0 ) / M g O( 1 0 0 ) 基 板 上 に 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の
R HE E D 像 、 ( a ) < 1 0 0 > M g O 入 射 、 ( b ) < 11 0 > M g O 入 射
48
次 に 、 PLT 薄 膜 の キ ュ リ ー 点 を 下 げ 焦 電 係 数 を 向 上 さ せ る た め に 、
La 濃 度 x が 0 . 2 0 以 上 の 高 La 組 成 域 に お け る PLT 薄 膜 の c 軸 配 向 に 取
り 組 ん だ 。 こ れ ま で 高 La 組 成 域 の PLT を R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ
ン グ 法 を 用 い て 薄 膜 を 作 製 す る と 、 XRD 測 定 に お い て 、 (001)の み な ら
ず ( 1 0 0 ) や ( 11 0 ) , ( 111 ) な ど 多 く の ピ ー ク が あ ら わ れ 、多 結 晶 薄 膜 と な り c
軸配向したエピタキシャル薄膜が得られなかった。しかしながらその
原 因 は こ れ ま で ほ と ん ど 解 明 さ れ て こ な か っ た 。こ の た め 高 L a 組 成 の
PLT を 薄 膜 化 す る た め の 最 適 な 成 膜 条 件 や 、 薄 膜 の 物 性 等 も 殆 ど 明 ら
かにされていない。
Pb Ti O 3 系 強 誘 電 体 の 薄 膜 を 作 製 す る 際 に c 軸 配 向 さ せ る た め に は 、
基 板 か ら の 圧 縮 応 力 が 非 常 に 重 要 な 役 割 を 担 う こ と が 知 ら れ て い る (14)。
薄 膜 の 成 膜 時 の 基 板 温 度 は キ ュ リ ー 点 よ り 高 い 600℃ 付 近 で あ る た め 、
成膜直後の薄膜は立方晶の常誘電相である。基板として使用している
M g O は 、平 均 熱 膨 張 係 数 が 1 4 . 8 × 1 0 - 6 / K と P b Ti O 3 の 1 2 . 6 × 1 0 - 6 / K に 比 べ
て 大 き い た め 、 成 膜 後 の 冷 却 過 程 に お い て P b Ti O 3 薄 膜 は 、 基 板 か ら 圧
縮 応 力 を 受 け る 。 Pb Ti O 3 は 、 強 弾 性 体 で あ る た め 、 冷 却 過 程 に お け る
常誘電相から強誘電相へ相転移する際にこの圧縮応力を緩和するため
に正方晶の c 軸が基板に対して垂直方向に伸びることで c 軸配向が支
配的になると考えられる。
PLT の L a 濃 度 を 増 加 さ せ て い く と a 軸 の 格 子 定 数 が 増 加 す る と と も
に c 軸 の 格 子 定 数 が 減 少 し 、t e t r a g o n a r i t y ( =c / a ) が 減 少 す る 。即 ち 強 誘 電
体としての性質の低下とともに強弾性体としての性質も低下するため
基 板 か ら の 圧 縮 応 力 に よ る c 軸 配 向 の 機 構 が 働 か ず 、高 L a 組 成 域 に お
い て は c 軸 配 向 し た PLT 薄 膜 が 得 ら れ な か っ た と 考 え ら れ る 。
こ の 課 題 を 解 決 す る た め 基 板 上 に 第 一 段 階 と し て La 濃 度 x=0.15 の
PLT 薄 膜 を 1 0 n m 成 膜 し 、こ の 一 段 階 目 の P LT 薄 膜 を バ ッ フ ァ ー 層 と し
て 、そ の 上 に 第 二 段 階 と し て La 濃 度 x = 0 . 2 0 ~ 0 . 3 0 の PLT 薄 膜 を 1 ~ 3 μ m
成 膜 す る こ と で c 軸 配 向 し た 高 La 組 成 の P LT 薄 膜 を 作 製 す る こ と を 試
み た 。図 3 - 8 に 二 段 階 成 膜 を 行 っ た 高 La 組 成 P LT 薄 膜 の 構 成 図 を 示 す 。
ま た 、表 3 - 2 に 高 La 組 成 P LT 薄 膜 を 二 段 階 成 膜 よ っ て 作 製 す る 際 の 成
膜条件を示す。
49
2nd Step PLT(x=0.20~0.30)
1st Step PLT(x=0.15)
Pt
MgO
図 3-8
二 段 階 成 膜 を 行 っ た 高 La 組 成 PLT 薄 膜 の 構 成 図
表 3-2
高 La 組 成 PLT 薄 膜 の 成 膜 条 件
基板温度
600℃
ガス組成比
[ A r ] / ( [ A r ]+ [ O 2 ] ) = 0 . 9
ガス圧
0 . 5 Pa
RF パ ワ ー 密 度
1 . 3 W/ c m 2
ターゲット組成
膜厚
第一段階目
( 1 - y ) P b 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 + y P b O ( x= 0 . 1 5 , y = 0 . 2 )
第二段階目
( 1 - y ) P b 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 + y Pb O ( x = 0 . 1 5 ~ 0 . 3 , y = 0 . 2 )
第 一 段 階 目 : 10nm
第 二 段 階 目 : 2~ 3μm
50
図 3 - 9 に 高 La 組 成 PLT 薄 膜 の X R D 回 折 パ タ ー ン を 示 す 。
x = 0.25
(002)
(001)
MgO(200)
Intensity (a.u.)
Pt(200)
(002)
(001)
x = 0.20
MgO(200)
x = 0.15
Pt(200)
(002)
(001)
MgO(200)
Pt(200)
(100)
20
30
40
50
2θ (deg.)
図 3-9
P LT ( x = 0 . 1 5 , 0 . 2 0 , 0 . 2 5 ) 薄 膜 の X R D 回 折 パ タ ー ン
図 3 - 9 に お い て 、L a 濃 度 x = 0 . 1 5 の も の は 一 段 階 で 膜 厚 を 3μ m 成 膜 し た
も の で あ り 、 La 濃 度 x = 0 . 2 0 、 0 . 2 5 の も の は 上 記 の 二 段 階 成 膜 を 行 い 、
一 段 階 の 膜 厚 を 1 0 n m、 二 段 階 の 膜 厚 を 3 μ m 成 膜 し た も の で あ る 。 L a
濃 度 x = 0 . 2 0 お よ び 0 . 2 5 の PLT 薄 膜 に お い て は 、二 段 階 成 膜 を 行 っ た に
も か か わ ら ず 、 一 段 階 目 の La 濃 度 x = 0 . 1 5 の PLT 薄 膜 の ピ ー ク は 見 ら
れ ず 、( 0 0 1 ) お よ び ( 002) の ピ ー ク は 高 角 側 に シ フ ト し た 。ま た 、La 濃 度
x=0.15 の も の に お い て わ ず か に 見 ら れ た (100)の ピ ー ク は 全 く 見 ら れ な
か っ た 。 こ の 結 果 か ら La 濃 度 x = 0 . 1 5 の PLT 薄 膜 を バ ッ フ ァ ー 層 と し
51
て 使 用 し 二 段 階 成 膜 を 行 う こ と に よ っ て 、 La 濃 度 が x=0.20 以 上 の 高
La 組 成 の PLT 薄 膜 に お い て も c 軸 配 向 さ せ る こ と が 可 能 で あ る こ と を
実 証 し た 。 図 3 - 1 0 に 、 La 濃 度 x= 0 ~ 0 . 3 0 に お け る X R D か ら 求 め た 格
子 定 数 の La 濃 度 依 存 性 を 示 す 。こ れ 以 降 、特 に こ と わ り が な い 場 合 は 、
La 濃 度 x = 0 ~ 0 . 1 5 ま で は 一 段 階 成 膜 、L a 濃 度 x = 0 . 2 0 ~ 0 . 3 0 は 二 段 階 成
膜 に よ っ て 作 製 し た PLT 薄 膜 を 示 す 。
0.420
Lattice constant (nm)
0.415
c
0.410
0.405
0.400
a
0.395
0.390
0.385
0.00
0.05
図 3-10
0.10
0.15
0.20
La content X
0.25
0.30
PLT 薄 膜 の 格 子 定 数 の La 濃 度 依 存 性
図 3 - 1 0 か ら 明 ら か な よ う に 、L a 濃 度 が 増 加 す る に 従 っ て a 軸 の 格 子 定
数 は 徐 々 に 増 加 す る の に 対 し て c 軸 の 格 子 定 数 は 大 き く 減 少 し 、 La 濃
度 x=0.26 に お い て は 格 子 定 数 が a 軸 の 曲 線 延 長 線 と 交 わ り 、 こ の こ と
か ら La 濃 度 x = 0 . 2 6 付 近 に お い て PLT 薄 膜 は 正 方 晶 か ら 立 方 晶 に 相 転
移したと考えられる。
52
高 La 組 成 Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 相 転 移
3 .4
挙動
3.4.1
ターゲット組成と誘電率
PLT 薄 膜 の 相 転 移 挙 動 を 調 べ る た め に 、 各 La 組 成 に お け る 誘 電 率 の
温 度 依 存 性 を 測 定 し た 。 測 定 方 法 は 、2 . 4 節 で 述 べ た 測 定 方 法 と 同 じ 測
定 系 を 使 用 し た 。 図 3 - 11 に 、 La 濃 度 x = 0 . 1 5 、 0 . 2 0 、 0 . 2 5 、 0 . 3 0 に お け
る 比 誘 電 率 εr の 温 度 依 存 性 を 示 す 。 使 用 し た 測 定 周 波 数 は 、 全 て 1kHz
である。
1.2x10
4
x = 0.15
1.0
x = 0.20
εr
0.8
x = 0.25
0.6
x = 0.30
0.4
0.2
0.0
-100
0
100
200
300
400
500
Temperature (℃)
図 3 - 11
La 濃 度 x = 0 . 1 5 、 0 . 2 0 、 0 . 2 5 、 0 . 3 0 に お け る P LT 薄 膜 の
比 誘 電 率 εr の 温 度 依 存 性
図 3 - 11 か ら 明 ら か な よ う に 、 各 L a 濃 度 に お け る 誘 電 率 の ピ ー ク 温 度
は 、 La 濃 度 を 増 加 さ せ る の に 伴 っ て 減 少 し て お り 、 x = 0 . 1 5 で は 3 3 0 ℃
付 近 に あ っ た 比 誘 電 率 の ピ ー ク が 、 x=0.30 で は 室 温 付 近 に ま で 低 下 し
た 。 ま た 比 誘 電 率 の ピ ー ク の 形 状 も 、 x=0.15 で は 比 較 的 鋭 く シ ャ ー プ
な ピ ー ク 形 状 が 見 ら れ た が 、 La 濃 度 を 増 加 さ せ る に 従 っ て ピ ー ク 形 状
は 徐 々 に ブ ロ ー ド に な っ て い く 現 象 が 見 ら れ た 。こ の 高 La 組 成 域 に お
け る PLT 薄 膜 の 誘 電 率 の ピ ー ク 形 状 の 変 化 は 、 組 成 に よ る 相 転 移 挙 動
53
の 変 化 を 示 し て お り 、 こ れ に つ い て は 3.4.2 で 詳 細 に 述 べ る 。
次 に 、 各 La 濃 度 に 対 す る キ ュ リ ー 点 T c の 変 化 を 、 図 3 - 1 2 に 示 す 。
600
500
Tc (℃)
400
300
200
100
0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
La content x
図 3-12
PLT 薄 膜 に お け る キ ュ リ ー 点 T c の L a 濃 度 依 存 性
図 3 - 1 2 か ら 明 ら か な よ う に 、T c は 、La 濃 度 を 増 加 さ せ る の に 伴 っ て 減
少 し て い る 。し か し な が ら T c の L a 濃 度 依 存 性 は 、完 全 な 直 線 で は な く
ベガード則からわずかではあるが上に凸の弓形の形状をしている。ま
た 、 PLT セ ラ ミ ク ス 材 料 で は 、 x = 0 . 2 6 に お い て T c が 室 温 を 示 す こ と が
報 告 さ れ て い る の に 対 し て 、 本 研 究 の c 軸 配 向 し た P LT 薄 膜 に お い て
は 、 x=0.30 に お い て Tc が 室 温 ま で 低 下 し た 。 強 誘 電 体 の エ ピ タ キ シ ャ
ル成長薄膜においは、基板との格子不整合や基板からの圧縮或いは引
っ張り応力による歪みが発生し、通常のセラミクスなどのバルク状態
に比べて相転移温度が数十℃から百数十℃程度変化することが報告さ
れ て い る ( 1 4 , 1 5 ) 。 本 研 究 に お い て は 、 基 板 と し て PLT よ り 熱 膨 張 係 数 が
大 き い M gO 単 結 晶 を 使 用 し て い る た め 、基 板 温 度 6 0 0℃ で 作 製 し た PLT
薄 膜 に は 圧 縮 応 力 が 働 い て い る と 考 え ら れ る 。ま た 、 2 . 3 節 で 述 べ た よ
うに基板界面付近には格子不整合を緩和するために転位が導入されて
い る こ と か ら 、 こ の ベ ガ ー ド 則 か ら の ず れ 、 お よ び バ ル ク の P LT の T c
の 値 か ら の ず れ は 、 内 部 応 力 に よ る Tc の 上 昇 と 考 え ら れ る 。
54
3.4.2 タ ー ゲ ッ ト 組 成 と 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 か ら 散 漫 相 転
移への変化
PLT 薄 膜 の 各 L a 組 成 に お け る 誘 電 率 の 温 度 依 存 性 測 定 の 結 果 か ら 、
C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト を 行 い 、 相 転 移 の ブ ロ ー ド 化 を 定 量 的 に 評 価 す る
こ と を 試 み た 。3 . 2 節 で 述 べ た よ う に 、C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト を 両 対 数 軸
で プ ロ ッ ト し た と き の 傾 き 即 ち 、 式 ( 3.2) の 指 数 部 n は 、 通 常 の 常 誘
電 - 強 誘 電 相 転 移 の と き n=1、 リ ラ ク サ ー 等 の 散 漫 相 転 移 の と き n=2
を 示 す こ と が 知 ら れ お り 相 転 移 の 散 漫 度 合 い ( D i ff u s e n e s s ) を 示 す 。
図 3 - 1 3 に 、 PLT 薄 膜 の 各 La 濃 度 に お け る 両 対 数 軸 で プ ロ ッ ト し た
C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト を 示 す 。
-2.0
Log (1/εr-1/εm )
-3.0
x = 0.15
-4.0
x = 0.20
-5.0
x = 0.25
x = 0.30
-6.0
-7.0
-8.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
Log (T-Tc)
図 3-13
種 々 の L a 濃 度 に お け る P LT 薄 膜 の 両 対 数 軸 で の
C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト
図 3 - 1 3 か ら 明 ら か な よ う に 、 各 L a 濃 度 に お け る C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト
の 傾 き 、即 ち D i ff u s e n e s s は 、La 濃 度 が 増 加 す る に 従 っ て 増 加 し て い る
ことが分かる。
55
図 3 - 1 4 に 、 PLT 薄 膜 に お け る D i ff u s e n e s s ( n) の 各 L a 濃 度 依 存 性 を 示
す。
2.2
Diffuseness n
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
La content x
図 3-14
PLT 薄 膜 に お け る D i ff u s e n e s s n の 各 La 濃 度 依 存 性
( ◆ : K . I i j i m a , T. Ta k e u c h i , N . N a g a o , R Ta k a y a m a a n d I U e d a , P r o c . 9 t h
I E E E I S A F, ( 1 9 9 4 ) , 5 3 - 5 8 . ( 1 6 ) )
図 3 - 1 4 に お い て 、La 濃 度 が x= 0 か ら x = 0 . 0 5 ま で は 、n は 、ほ ぼ 1 を 示
し 通 常 の 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 と 考 え ら れ る 。 La 濃 度 を 増 加 さ せ る に
し た が い n の 値 は 増 加 し 、 x = 0 . 1 0 で は 、 n = 1 . 2 で あ っ た 。 さ ら に La 濃
度 を 増 加 さ せ る と 、 x = 0 . 1 5 で は 、 n = 1 . 6 に 急 増 し 、 x = 0 . 3 0 で は 、 n = 2 .0
と 、 完 全 に 散 漫 相 転 移 状 態 と な っ た 。 こ の 結 果 か ら 、 PLT 薄 膜 に お け
る 相 転 移 挙 動 は 、La 濃 度 に 強 く 依 存 し 、T c が 室 温 と な る x = 0 . 3 0 の 組 成
に お い て は 、c 軸 配 向 し た エ ピ タ キ シ ャ ル 薄 膜 で あ っ て も 、そ の 相 転 移
は、リラクサーと同様の散漫相転移であることが判明した。
このような状態における相転移挙動の解釈として以下の3点が考え
られる。
(1)スパッタリング時に生じた酸素などの欠陥
( 2 ) L a 置 換 に よ り 生 じ た Ti イ オ ン の 価 数 の 揺 動 に よ る リ ー ク 電 流
56
(3)微視的な組成のゆらぎによる相転移温度の分布と誘電分散
そ こ で 、こ れ ら の 要 因 を 考 察 す る た め 、各 周 波 数 に お け る L a 濃 度 x = 0 . 1 5
の PLT 薄 膜 の 誘 電 率 の ピ ー ク 温 度 T m か ら Vo g e l - F u l c h e r プ ロ ッ ト に よ
る解析を行った。粘性体の緩和現象についてある状態から次の状態へ
移行する際の挙動を緩和時間と活性化エネルギーにより記述した式は、
Vo g e l - F u l c h e r の 式 或 い は Vo g e l - F u l c h e r 則 ( 1 7 , 1 8 ) と 呼 ば れ て お り 、 近 年
Vo g e l - F u l c h e r 則 を 用 い て 磁 性 体 の ス ピ ン グ ラ ス に お け る 緩 和 現 象 や リ
ラクサーの誘電分散、誘電緩和現象の解析を行った例が報告されてい
る 。 (19-21)
Vo g e l - F u l c h e r の 式 を 下 記 に 示 す 。
f = f0exp{(-Ea/kB(Tm-TVF)}
・・・
( 3.5)
こ こ で 、 f: 測 定 周 波 数 、 Ea: 活 性 化 エ ネ ル ギ ー 、 TVF: 緩 和 の 凍 結 温 度 、
k B : B o l t z m a n n 定 数 、T m : 各 周 波 数 に お け る 比 誘 電 率 の ピ ー ク 温 度 で あ る 。
図 3 - 1 5 に 、L a 濃 度 x = 0 . 1 5 に お け る PLT 薄 膜 の Vog e l - F u l c h e r プ ロ ッ ト
を 示 す 。 ま た 、 表 3- 3 に 、 Vo g e l - F u l c h e r プ ロ ッ ト か ら 求 め た 活 性 化 エ
ネ ル ギ ー と 、典 型 的 な リ ラ ク サ ー で あ る 0 . 9 P b ( M g 1 / 3 Nb 2 / 3 ) O 3 - 0 . 1 P b Ti O 3
の Vo g e l - F u l c h e r プ ロ ッ ト か ら 求 め た 活 性 化 エ ネ ル ギ ー ( 2 2 ) お よ び 、酸 素
欠 陥 の ホ ッ ピ ン グ な ら び に Ti イ オ ン の 酸 化 還 元 に よ る 価 数 の 変 動
( Ti 3 + ⇔ Ti 4 + ) 時 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー の 比 較 を 示 す ( 2 3 ) 。
57
624
Tm (K)
623
622
621
620
1
2
3
4
5
6
7
Log(f (Hz))
図 3-15
La 濃 度 x = 0 . 1 5 に お け る P LT 薄 膜 の
Vo g e l - F u l c h e r プ ロ ッ ト
表 3-3
活性化エネルギーの比較
PLT (x = 0.15) thin films.
0.9Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-0.1PbTiO3
oxygen vacancy hopping
charge fluctuation of Ti ion
17.9 meV
40.7 meV
0.96 ~ 1.05 eV
1.33 ~ 1.51 eV
図 3 - 1 5 に お い て 、各 周 波 数 に お け る 誘 電 率 の ピ ー ク 温 度 T m と 周 波 数 の
対 数 を プ ロ ッ ト を 四 角 で 、 Vo g e l - F u l c h e r の 式 ( 3 . 5 ) に よ る フ ィ ッ テ ィ
ン グ の 結 果 を 破 線 で 示 し た 。 測 定 結 果 は 、 Vo g e l - F u l c h e r 則 に 良 く の っ
て お り 、 フ ィ ッ テ ィ ン グ の 結 果 か ら 係 数 を 求 め 活 性 化 エ ネ ル ギ ー Ea を
算 出 し た 。 そ の 結 果 、 表 3- 3 に 示 す よ う に 、P LT ( x = 0 . 1 5 )薄 膜 の 活 性 化
エ ネ ル ギ ー は 、 E a = 1 7 . 9 me V と 小 さ く 、 典 型 的 な リ ラ ク サ ー で あ る
Pb( M g 1 / 3 Nb 2 / 3 ) O 3 - 0 . 1 P b Ti O 3 ( E a = 4 0 . 7 me V ) と 同 程 度 の 値 で あ る の に 対
し て 、 酸 素 欠 陥 の ホ ッ ピ ン グ ( E a = 0 . 9 6 ~ 1 . 0 5 e V ) や Ti イ オ ン の 酸 化 還
元 に よ る 価 数 の 変 動 ( Ti 3 + ⇔ Ti 4 + )( E a = 1 . 3 3 ~ 1 . 5 1 e V ) に 対 し て 約 2 桁
小 さ な 値 と な っ た 。こ の た め P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に お け る 常 誘 電 - 強 誘 電
58
相転移と散漫相転移の中間的な相転移挙動は、酸素欠陥のホッピング
や Ti イ オ ン の 価 数 の 変 動 に よ る リ ー ク 電 流 に よ る 見 か け 上 の 誘 電 分 散
では無いと考えられる。
リラクサーにおける散漫相転移挙動は微視的な組成の無秩序な分布
(23)
に よ る も の で あ る 。前 節 で 述 べ た よ う に 、P b ( M g 1 / 3 N b 2 / 3 ) O 3 等 の 不 規
則型複合型ペロブスカイト酸化物においては、複数の B サイトイオン
が ラ ン ダ ム に 配 置 さ れ る た め 微 視 的 な 領 域 に お い て 組 成 の 分 布 (23)が 生
じ 、 十 nm か ら 数 十 nm の ナ ノ ド メ イ ン が 形 成 さ れ る こ と が 報 告 さ れ て
い る (26-28)。 そ れ ら 個 々 の 領 域 に お け る 相 転 移 温 度 は 、 組 成 に よ り 異 な
っ た Tc を 有 す る た め 全 体 と し て の 相 転 移 温 度 が な だ ら か に 分 散 し こ れ
によって相転移がブロードな状態、即ち散漫相転移となる。このため
リラクサーにおいては、通常の強誘電体に見られるようなキュリー点
以上に昇温した際における結晶構造の相転移や自発分極の消失などが
明確には見られない。また、リラクサーのもうひとつの特徴は、誘電
率 の 温 度 依 存 性 に お け る ピ ー ク 温 度 (Tm) が 大 き な 周 波 数 依 存 性 を 持 つ
こ と で あ る 。 (24)
本 研 究 に お け る c 軸 配 向 し た エ ピ タ キ シ ャ ル P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 は 、
図 3 - 1 5 に 示 し た よ う に 、誘 電 率 ピ ー ク の 周 波 数 依 存 性 が 非 常 に 小 さ く 、
Di ff u s e n e s s も n = 1 . 6 で あ る た め 、 完 全 な リ ラ ク サ ー 状 態 で は な い 。 し
か し な が ら 、 PLT 系 材 料 に お い て L a 濃 度 が 増 加 す る と La が 不 規 則 に
Pb の サ イ ト を 置 換 す る た め 微 視 的 に は 組 成 の 分 布 が 生 じ て い る と 考 え
ら れ る 。 こ の x ≧ 0 . 1 5 の 高 La 組 成 領 域 に お い て 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移
から散漫相転移へ移行する原因については、次の様な理由が考えられ
る。
PLT に お い て は 、組 成 式 ( Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 ) が 示 す よ う に 、P b 2 + を L a 3 +
で 置 換 し 電 荷 補 償 の た め T i 4 + が 欠 損 す る 。 こ の た め 表 3- 4 に 示 す 様 に
La x (mol%)
VTi(mol%)
5
10
15
20
25
30
表 3-4
Nunit cell
1.3
2.5
3.8
5.0
6.3
7.5
80.0
40.0
26.7
20.0
16.0
13.3
Distance(nm)
32
16
11
8
6
5
L a 濃 度 x 、 T i 欠 損 濃 度 V T i 、 1 Ti 欠 損 当 た り の ユ ニ ッ ト
セ ル 数 お よ び Ti 欠 損 間 の 相 関 長 の 一 覧
59
x ≧ 0.15 の 組 成 に お い て は 、 酸 素 八 面 体 と B サ イ ト イ オ ン に よ る 双 極
子 の 長 距 離 秩 序 の 相 関 長 が 、約 10 n m 以 下 と な る 。溶 融 し た P bTi O 3 を 超
急 冷 し 作 製 し た ア モ ル フ ァ ス PbT iO 3 に お い て は 、 グ レ イ ン サ イ ズ が 約
15nm と な り ソ フ ト モ ー ド が 消 失 す る た め 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 で は な
く 散 漫 相 転 移 と な る こ と が 報 告 さ れ て い る ( 2 5 ) 。 ま た 、 Pb (Mg 1 / 2 Nb 2 / 3 )O 3
や P L ZT 等 の R e l a x o r セ ラ ミ ク ス に お い て も 中 性 子 線 非 弾 性 散 乱 の 測 定
結 果 か ら 、 十 nm か ら 数 十 nm の ナ ノ ド メ イ ン が 形 成 さ れ ソ フ ト モ ー ド
が 消 失 す る こ と が 報 告 さ れ て い る ( 2 6 - 2 8 ) 。 こ の た め 本 研 究 の P LT 薄 膜 に
お い て も x ≧ 0 .1 5 で は 、 上 記 の よ う に T i の 欠 損 に よ っ て 長 距 離 秩 序
(双極子の静電力)が短距離秩序(格子力)より弱くなることで局所
安定化しナノドメインが形成され、通常の常誘電-強誘電相転移から
散漫相転移に移行したと考えられる。
60
3 .5
高 La 組 成 Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 の 焦 電 特 性
図 3 - 1 6 に 各 La 濃 度 に お け る PLT 薄 膜 の 焦 電 係 数 γ お よ び 比 誘 電 率 ε r
の 変 化 を 示 す 。 図 3- 16 に お い て La 濃 度 が x= 0 か ら x = 0 . 1 5 ま で は 、 La
濃 度 の 増 加 と と も に 焦 電 係 数 γ が 増 加 し た 。 し か し な が ら La 濃 度 を さ
ら に 増 加 さ せ る と 、 x=0.20 か ら x=0.30 の 組 成 領 域 に お い て は 、 当 初 の
予 測 に 反 し て La 濃 度 の 増 加 と と も に 焦 電 係 数 γ が 低 下 す る 現 象 が 見 ら
れ た 。 ま た 比 誘 電 率 ε r は 、 La 濃 度 の と と も に 増 加 し 、 キ ュ リ ー 点 が 室
温 付 近 ま で 低 下 し た x=0.30 に お い て は 、 εr =4650 ま で 増 加 し た 。
12x10
-8
5000
4000
8
3000
εr
2
γ (C/cm K)
10
6
2000
4
1000
2
0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0
0.30
La content x
図 3-16
各 La 濃 度 に お け る PLT 薄 膜 の 焦 電 係 数 γ お よ び 比 誘 電 率
ε r ( 1 k Hz ) の 変 化 ( ◆ , ▲ : K . I i j i m a , T . T a k e u c h i , N . N a g a o ,
R Takayama and I Ueda, Proc. 9th IEEE ISAF, (1994), 53-58.(16))
61
こ の 現 象 の 要 因 と し て 以 下 の よ う な 機 構 が 考 え ら れ る 。 図 3-17 に
PLT 薄 膜 の La 濃 度 を 増 加 さ せ て い っ た と き の 焦 電 係 数 γ の 変 化 に つ い
ての模式図を示す。
( 1 ) 0≦ x≦ 0.15
D i ff u s e n e s s が 小 さ く 転 移 が 鋭 い た め 、 La 濃 度 の 増 加 に よ る T c の 低
温 化 に 伴 っ て 自 発 分 極 の 温 度 勾 配 (− dPs / dT ) が 増 加 ( 図 3 - 1 7 ( a ) ⇒ ( b) )
( 2 ) 0.15< x ≦ 0.30
Di ff use n ess が 大 き い た め La 濃 度 の 増 加 に よ る T c の 低 温 化 よ り む し
ろ転移が非常にブロード化した効果により自発分極の温度勾配
Ps (C/cm 2)
(− dPs / dT ) が 減 少 ( 図
3-17(b)⇒ (c)) (29)
Pyroelectric constant
γ = (dPs /dT)
(a)
(b)
Tc
(c)
Tc ’
TRT
Tc ”
Temperature (℃)
図 3-17
焦 電 係 数 γ の La 濃 度 依 存 性 の 機 構
こ の た め 、 La 濃 度 が x = 0 . 1 5 に お い て 、 焦 電 係 数 γ が 最 大 に な っ た と 考
えられる。
し か し な が ら 、 x = 0 . 1 5 の P LT 薄 膜 の 焦 電 係 数 は 、 9 . 5 × 1 0 - 8 C / c m 2 と
Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス の 約 5 倍 で あ り 当 初 の 目 標 ス ペ ッ ク に 対 し て は ま だ
低 く 、P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス の 焦 電 係 数 に 対 し て 1 桁 向 上 さ せ る た め に は 、
さ ら に 2 倍 程 度 、 焦 電 係 数 を 向 上 さ せ な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 La 濃
度 を 増 加 さ せ る こ と で 比 誘 電 率 εr も 増 加 し て お り 、 赤 外 線 セ ン サ ー と
しての性能評価指数を向上させるためには、焦電係数の増加と供に比
誘 電 率 εr の 増 加 を 抑 制 し な け れ ば な ら な い 。
62
3 .6
まとめ
本章では焦電体薄膜材料の高性能化を目指し、これまで成膜が非常
に 難 し く 検 討 さ れ て い な か っ た La 置 換 量 x が 0 . 1 5 以 上 の 高 La 組 成 領
域 に お け る PLT 薄 膜 の 高 品 位 成 膜 に つ い て 述 べ た 。 ま た あ わ せ て 、 得
られた薄膜の電気特性および常誘電-強誘電相転移挙動を評価した結
果についても述べた。
こ こ で は 、従 来 、c 軸 配 向 が 困 難 で 多 結 晶 薄 膜 し か 得 ら れ な か っ た 高
La 組 成 域 の PLT 薄 膜 に 対 し て 二 段 階 成 膜 を 行 う こ と に よ っ て 、 高 度 に
c 軸 配 向 し た 薄 膜 が 得 ら れ る こ と を 示 し 電 気 特 性 の 評 価 を 行 っ た 。作 製
し た 種 々 の La 濃 度 の 薄 膜 の 誘 電 率 の 温 度 特 性 を 、 両 対 数 軸 に よ る
C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト を 行 い 解 析 を 行 っ た 結 果 、 高 L a 組 成 域 に お け る
PLT 薄 膜 の 相 転 移 挙 動 が 、 x = 0 . 1 5 付 近 を 境 に 通 常 の 常 誘 電 - 強 誘 電 相
転移から散漫相転移へ急激に移行し、常温での比誘電率が急増すると
共 に 、 x=0.20 以 上 の 組 成 域 に お い て は 焦 電 係 数 が 逆 に 低 下 す る こ と が
判明した。
こ の 散 漫 相 転 移 の 原 因 に つ い て Vo g e l - F u l c h e r プ ロ ッ ト に よ る 解 析 を
行 っ た 。 そ の 結 果 、 酸 素 欠 陥 や Ti イ オ ン の 酸 化 数 の 変 化 に よ る リ ー ク
ではなく、微視的な領域での組成の揺らぎに起因することを強く示唆
し た 。 し か し な が ら 、 PLT 薄 膜 材 料 に お け る 焦 電 特 性 は 、 x = 0 . 1 5 で 最
大 と な り 、そ の 焦 電 係 数 は 9 . 5 × 1 0 - 8 C / c m 2 と Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス の 約 5 倍
程 度 に と ど ま り 目 標 ス ペ ッ ク に 対 し て は 、ま だ 低 い も の で あ っ た 。I L A S
搭 載 す る 赤 外 線 セ ン サ ー と し て 、 P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 対 し て 焦 電 係 数
を 1 桁向上させ尚且つ比誘電率の増加を抑制するためには散漫相転移
を抑制する必要があることを示した。
このような、相反する課題を解決するために、ドーピング技術によ
る相転移挙動の制御を試みた結果を次章で詳細に述べる。
63
参考文献
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64
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2916.
65
第4章
高 La 組 成 Pb 1 - x La x Ti 1 - x / 4 O 3 薄 膜 へ の Mn
添加による高性能化
4 .1
はじめに
前 章 で は 、 高 La 組 成 域 に お け る P LT 薄 膜 の 相 転 移 挙 動 が 、 x = 0 . 1 5
付近を境に通常の常誘電-強誘電相転移から散漫相転移へ急激に移行
し 比 誘 電 率 が 急 増 す る と 共 に 、 x=0.20 以 上 の 組 成 域 に お い て は 散 漫 相
転移により自発分極の温度変化がブロードになるため焦電係数が低下
し x=0.15 で 最 大 と な る こ と を 述 べ た 。 こ の た め 更 な る 焦 電 特 性 の 向 上
のためには散漫相転移への移行を抑制する必要がある。
本 章 で は 、c 軸 配 向 し た PLT 薄 膜 の 散 漫 相 転 移 を 抑 制 す る た め 、添 加
物による更なる焦電特性の高性能化への取り組みについて述べる。こ
こ で は 添 加 物 と し て 、複 数 の 酸 化 数 を と る こ と で La 置 換 に よ っ て 生 じ
た 電 荷 の ア ン バ ラ ン ス を 補 償 し 得 る M n に 着 目 し た 。従 来 、強 誘 電 体 の
単 結 晶 や セ ラ ミ ク ス 等 の バ ル ク 材 料 に お い て は 、誘 電 損 失( t a n δ )や 電
気 機 械 結 合 定 数 を 改 善 す る 目 的 で Mn な ど の 遷 移 金 属 イ オ ン の 添 加 が
行 わ れ て き た 。B a Ti O 3 単 結 晶 中 の M n イ オ ン は 、お も に 酸 素 欠 陥 V O と
対 を 成 し 、 Mn-VO に よ る 双 極 子 を 形 成 し 電 荷 を 補 償 す る こ と で tanδを
減 少 さ せ 、 さ ら に 分 極 処 理 に よ っ て Mn-VO 双 極 子 が 、 強 誘 電 体 の 分 域
構造の分極と同一方向に配向し、分域壁の移動を抑制するピンニング
効 果 に よ っ て 抗 電 界 Ec が 増 加 す る (1,2)。 ま た 、 B サ イ ト を 置 換 し た Mn
は 、ア ク セ プ タ ー と し て 働 き 酸 素 欠 陥 に よ っ て 発 生 し た キ ャ リ ア( V O ’ →
V O ” + e - ) を ト ラ ッ プ し リ ー ク を 抑 制 す る た め PZ T セ ラ ミ ク ス 等 に お い
て は 電 気 特 性 を 改 善 す る た め に よ く 用 い ら れ て い る ( 3 , 4 ) 。セ ラ ミ ク ス に
お い て 結 晶 粒 中 に 固 溶 で き な か っ た M n は 粒 界 な ど の 界 面 に 析 出 し 、界
面 に 多 数 存 在 す る 欠 陥 を 補 償 す る こ と で リ ー ク を 抑 制 す る 。M n イ オ ン
の価数は、これらバルク材料を作製する際の冷却過程における雰囲気
に よ っ て 変 化 し 、 酸 素 分 圧 を 低 下 さ せ る こ と で 、 Mn イ オ ン は 、 Mn4+
か ら Mn3+へ と 価 数 が 変 化 す る こ と が 報 告 さ れ て い る (5-8)。
一 方 、 強 誘 電 体 薄 膜 に お け る 遷 移 金 属 の 添 加 例 は 殆 ど 無 く 、 PLT 薄
膜 に お い て は 、ア ル カ リ 土 類 金 属 で あ る M g の 添 加 ( 9 ) が 報 告 さ れ て い る
の み で あ る 。 ま た 、 P LT 薄 膜 に お け る 散 漫 相 転 移 を 材 料 組 成 に よ っ て
改 善 す る 試 み も 前 例 が 無 く 、 本 章 で 述 べ る P LT 薄 膜 へ の M n 添 加 は 初
66
の 試 み で あ る 。 こ の た め P LT 薄 膜 へ の M n 添 加 は 、 単 に 焦 電 係 数 を 改
善する目的にとどまらず材料物性としても非常に興味深い。
本 章 の 前 半 で は 、 試 料 の 作 製 方 法 と し て 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) の タ ー ゲ ッ ト
に M n O 2 を 0 ~ 1 . 7 mo l % 添 加 し M n ド ー プ を 試 み 、 得 ら れ た 薄 膜 の 評 価
を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 MnO2 を 1.0mol%添 加 し た も の に お い て 焦 電 係 数
が最大となり誘電率も低下することを見出し、焦電体材料として非常
に優れた特性を有していることを述べる。
後 半 で は 、こ の M n の 添 加 に よ る 焦 電 特 性 向 上 の 効 果 を 考 察 す る た め 、
3 . 4 節 で 行 っ た 両 対 数 軸 で の C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト に よ る 解 析 を 行 い 、
Mn を 添 加 す る こ と に よ っ て 散 漫 相 転 移 か ら 通 常 の 常 誘 電 - 強 誘 電 相
転 移 へ 復 帰 す る 現 象 が 見 出 さ れ た 。 ま た 、 L a n d a u - G i n z b u rg- De v o n s h i r e
( L G D ) 理 論 ( 1 0 ,11 ) に よ る 熱 力 学 的 な 考 察 を 行 い M n 添 加 に よ る 内 部 応 力
および格子歪と焦電係数の関係についても論じる。
67
4.2
作製方法
4.2.1
ターゲット作製方法
PLT 薄 膜 に M n を 添 加 し た 効 果 を 検 討 す る た め 、タ ー ゲ ッ ト は 2 章 と
同 様 の 方 法 を 使 用 し 作 製 し た 、 PLT 粉 末 に P b O 粉 末 を 添 加 し た 混 合 物
に 、M n O 2 を 添 加 し た も の を 使 用 し た 。組 成 は 、( 1- y- z ) Pb 1 - x L a x Ti 1 - x / 4 O 3
+ y Pb O + z M n O 2 で 表 さ れ る 。 La 濃 度 は 、 焦 電 係 数 γ が 最 も 高 か っ た
1 5 m o l % ( x= 0 . 1 5 ) の も の を 使 用 し M n の 添 加 効 果 を 検 討 し た 。 タ ー ゲ ッ
ト粉末の作製方法は、
1 ) 所 定 の 組 成 比 に 秤 量 し た 、 P b O 、 Ti O 2 、 La 2 C O 3 粉 末 を 乳 鉢 で 粉
砕混合
2)ボールミルを使用し 2 次混合した後、乾燥
3)乾燥したケイクを乳鉢で再度粉砕混合
4 ) 坩 堝 を 使 用 し 1200℃ で 仮 焼
5)坩堝から取り出し乳鉢で粉砕
で あ る 。PLT 粉 末 の 組 成 を E D X で 確 認 し た の ち 、Pb O 粉 末 お よ び M n O 2
粉末を添加し乳鉢で混合した後、銅皿に入れ表面を均したのちプレス
を行い、ターゲットを作製した。
4.2.2
スパッタリング条件
表 4-1 に 、 主 な ス パ ッ タ リ ン グ 条 件 を 示 す 。
表 4- 1
スパッタリング条件
基板温度
600℃
ガス組成比
[ A r ] / ( [ A r ]+ [ O 2 ]) = 0 . 9
ガス圧
0 . 5 Pa
RF パ ワ ー 密 度
1 . 3 W/ c m 2
68
4.2.3
Mn 添 加 に よ る 格 子 定 数 の 変 化
図 4 - 1 に 、 M n O 2 添 加 量 が 0 mo l % か ら 1 . 7 mo l % ま で 増 加 さ せ た 際 の
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + M n O 2 薄 膜 の X R D 測 定 か ら 求 め た 格 子 定 数 の 変 化 を 示 す 。
MnO2 の 添 加 量 を 増 加 さ せ て い く と 格 子 定 数 は 、 a 軸 が 増 加 し c 軸 が 減
少 し 正 方 晶 の t e t r a g o n a l i t y ( c / a) が 減 少 す る 傾 向 が 見 ら れ た 。La に 比 べ て
Mn の 量 が 少 な い た め こ れ ら 格 子 定 数 の 変 化 は 小 さ い が 、 MnO2 添 加 量
を 増 加 さ せ る こ と t e t r a g o n a l i t y が 減 少 す る 傾 向 が 見 ら れ る こ と か ら 、強
誘電相である正方晶から常誘電相である立方晶へ近づいていると考え
られる。
0.414
1.030
0.410
1.025
0.406
1.020
0.402
1.015
0.398
1.010
a
0.394
Tetragonality c /a
Lattice constant (nm)
c /a
c
1.005
0.390
0.0
0.5
1.0
1.5
1.000
2.0
MnO2 (mol%)
図 4-1
( 1- y) PLT( x = 0. 15) + y M n O 2 薄 膜 の 格 子 定 数 の
MnO2 添 加 量 依 存 性
69
4 .3
焦電特性、自発分極
図 4 - 2 に 種 々 の M n O 2 添 加 量 の ( 1 - y ) P LT ( x = 0 . 1 5 ) + y M n O 2 薄 膜 の 焦 電
係 数 の 変 化 を 示 す 。 図 4- 2 に お い て 添 加 量 y が 0 m o l % か ら 1 . 0 mo l % ま
で は 、 M nO 2 を 添 加 す る こ と に よ っ て 焦 電 係 数 が 増 加 し 、 0 m o l % の
9 . 5 × 1 0 - 8 C c m 2 / K か ら 1 . 0 mo l % の 1 5 . 8 × 1 0 - 8 Cc m 2 / K ま で 増 加 し た こ と が わ
か る 。 し か し な が ら 、 M n O 2 添 加 量 1 . 3 m o l % の P LT ( x = 0 . 1 5 ) + M n O 2 薄 膜
に お い て は 、焦 電 係 数 は 11 .1× 10 - 8 Cc m 2 / K と 、0 m o l % か ら 1 . 0 mo l % と は
逆 に 焦 電 係 数 が 減 少 し 、焦 電 係 数 は M n O 2 添 加 量 が 1 . 0 mo l % に お い て 最
大となった。
15
-8
2
γ (×10 C/cm K)
20
10
5
0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
MnO2 (mol%)
図 4-2
種 々 の M nO 2 添 加 量 に お け る ( 1 - y ) P LT ( x = 0 . 1 5 ) + y M n O 2
薄膜の焦電係数の変化
70
図
4-3
La
に 、 種 々 の
濃 度 に お け る
PLT
薄 膜 お よ び
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 の 焦 電 係 数 γ と 比 誘 電 率 ε r の プ ロ ッ ト を
示す。
18x10
-8
5000
PLT+1.0mol%Mn
16
4000
12
3000
2
γ (C/cm K)
14
εr
10
8
2000
6
4
1000
2
0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0
0.30
La content x
図 4-3
種 々 の L a 濃 度 に お け る P LT 薄 膜 お よ び P LT( x = 0 . 1 5 ) +
1.0mol%MnO2 薄 膜 の 焦 電 係 数 γ と 比 誘 電 率 εr の プ ロ ッ ト
( ◆ ,▲ : K. Iijima, T. Takeuchi, N. Nagao, R Takayama and I
Ueda, Proc. 9th IEEE ISAF, (1994), 53-58.(16))
こ こ で 、 ■ : P LT 薄 膜 の 焦 電 係 数 、 ● : P LT 薄 膜 の 比 誘 電 率 、 □ : P LT
( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 の 焦 電 係 数 、○:P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2
薄膜の比誘電率である。
こ の 図 か ら 明 ら か な よ う に 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 の 焦 電
係 数 は 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に 比 べ て 大 き く 増 加 し て お り 、 そ の 値 は
γ = 1 5 . 8 × 1 0 - 8 C/ c m 2 K と バ ル ク ( Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス ) の 約 10 倍 の 値 を 示 し た 。
ま た 、 M n を 添 加 す る こ と で 比 誘 電 率 も 低 下 し 、 PLT( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の ε r
=330 か ら 253 に 低 下 し た 。
71
次 に 、図 4 - 4 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 お よ び P LT( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 mo l % M n O 2 薄
膜 P - E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ の 測 定 結 果 を 示 す 。 図 4- 4 か ら 明 ら か な よ
う に 、 M nO 2 を 添 加 し て い な い PLT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の P - E ヒ ス テ リ シ ス ル
ー プ は 、 非 対 称 性 が 強 く P r の 平 均 値 は 、 16 μ C / c m 2 程 度 で あ っ た 。 こ れ
に 対 し て M n を 添 加 し た P LT 薄 膜 は 、 上 下 左 右 と も に 対 称 的 で ル ー プ
が 大 き く 開 き P r は 、 4 5 μC / c m 2 に 増 加 し た 。
こ の 結 果 か ら 、M n の 添 加 に よ っ て 結 晶 性 が 向 上 す る と と も に 、自 発
分極および残留分極が増加し、強誘電性が増したと考えられる。
60
PLT(x=0.15)+1.0mol%Mn
40
PLT(x=0.15)
2
P (μC/cm )
20
0
-20
-40
-60
-200
-100
0
100
200
E (kV/cm)
図 4-4
P LT( x = 0 . 1 5 ) お よ び P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 の
P- E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ
72
4 .4
Mn 添 加 に よ る 焦 電 特 性 向 上 の 考 察
前 節 で 述 べ た よ う に 、 PLT 薄 膜 に M n を 添 加 す る こ と で 焦 電 係 数 γ が
増 加 す る こ と が 判 明 し た 。こ こ で は 、M n 添 加 に よ る 焦 電 係 数 の 向 上 に
ついて考察をおこなった。焦電係数を増加させるためには、自発分極
の 温 度 依 存 性 を 増 加 さ せ な け れ ば な ら な い 。こ の た め に は 図 4- 5 に 示 す
ように、
( 1 ) キ ュ リ ー 点 Tc の 減 少
(2)自発分極の増加
が大きな要因となる。
Ps (C/cm 2)
Pyroelectric constant
γ = (dPs /dT)
(c)
(a)
Tc
(b)
Tc ’
TRT
Temperature (℃)
図 4- 5
焦電係数増加の要因
図 4-5 に 示 す よ う に 、 (a)⇒ (b)に お い て は Tc が 減 少 し Ps の 温 度 に 対 す
る 変 化 率 が 大 き な 領 域 が 室 温 に 近 づ く こ と で 焦 電 係 数 γが 増 加 す る 。ま
た 自 発 分 極 P s は 、室 温 か ら T c に 向 か っ て 減 少 す る 負 の 傾 き を 持 っ て お
り 、 (a)⇒ (c)に お い て は Tc が 同 じ で あ っ て も Ps が 増 加 す る こ と で Ps の
変化率が増加するため、焦電係数が増加する。3章で述べたように、
PLT 薄 膜 の La 濃 度 x が x = 0 . 1 0 ま で は 、 Di ff us ene s s が 1 に 近 く 通 常 の
常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 で あ る た め 、 Tc が 減 少 す る こ と で Ps の 温 度 に 対
する変化率が増加し焦電係数が増加した。
73
40
PLT(x=0.20)
PLT(x=0.25)
2
P (μC/cm )
20
PLT(x=0.30)
0
-20
-40
-100
-50
0
50
100
E (kV/cm)
図 4-6
P LT ( x = 0 . 1 5 , 0 . 2 0 , 0 . 2 5 , 0 . 3 0 ) の P- E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ
し か し な が ら 、 さ ら に La 濃 度 を 増 加 さ せ て い く と 、 T c が 減 少 す る の
みならずが急激に増加し通常の常誘電-強誘電相転移から散漫相転移
へ 移 行 し て し ま っ た 。ま た 、図 4- 6 に 示 す よ う に La 濃 度 x が 0 . 2 0 以 上
の 組 成 領 域 に お い て は La 濃 度 の 増 加 に よ っ て P - E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ
が 小 さ く 閉 じ 自 発 分 極 Ps が 減 少 し て し ま い 、 こ れ ら 2 つ の 要 因 に よ っ
て焦電係数が、逆に減少してしまったと考えられる。
M n を 添 加 し た PLT 薄 膜 に お い て は T c は 、 3 5 0 ℃ か ら 330℃ と 変 化 が
小 さ く 上 記 ( 1 ) の 要 因 だ け で は 説 明 で き な い 。 ま た 、 4.3 節 で 述 べ た
よ う に P LT( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に M n を 添 加 す る こ と で P r は 、 1 6 μC / c m 2 か ら
4 5 μ C / c m 2 に 増 加 し た 。し か し な が ら 自 発 分 極 の 温 度 依 存 性 は T c 付 近 で
は急激に減少するのに対して、室温付近では変化が非常に緩やかであ
る た め 、 単 純 に 焦 電 係 数 の 増 加 率 が Pr の 増 加 率 に 比 例 す る と は 言 い 切
れ ず 、 PLT 薄 膜 の 相 転 移 の 急 峻 さ に 強 く 依 存 す る と 考 え ら れ る 。
そ こ で 上 記 2 つ の 要 因 以 外 に 考 え ら れ 得 る Mn 添 加 に よ る 焦 電 係 数
増加の要因として
( 3 ) Mn 添 加 に よ る 散 漫 相 転 移 の 抑 制
( 4 ) Mn 添 加 に よ る 基 板 と の 不 整 合 歪 お よ び 内 部 応 力 の 増 加
( 5 ) Mn 添 加 に よ る 格 子 欠 陥 お よ び 電 荷 の 補 償
に着目した。
74
( 3 ) Mn 添 加 に よ る 散 漫 相 転 移 の 抑 制
焦 電 係 数 γ は 強 誘 電 体 の 自 発 分 極 の 微 分 で あ る た め 、相 転 移 が ブ ロ ー
ド化するとγ が低下し、逆に相転移がシャープになるとγ が増加する。
M n 添 加 に よ る 相 転 移 の D i ff u s e n e s s を 評 価 す る た め 、 両 対 数 軸 に よ る
C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト を 図 4- 7 に 示 す 。
-4.0
Log (1/εr-1/εm )
PLT(x=0.15)+1.0mol%MnO2
-5.0
-6.0
-7.0
0.0
PLT(x=0.15)
0.5
1.0
1.5
2.0
Log (T-Tc)
図 4-7
P LT ( x = 0 . 1 5 ) ( △ ) お よ び P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2
( ■ ) の 両 対 数 軸 に よ る C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト
75
図 4 - 7 の 接 線 の 傾 き か ら D i ff u s e n e s s を 求 め た と こ ろ n = 1 . 4 で あ っ た 。
図 4 - 8 に 、 種 々 の L a 濃 度 に お け る P LT 薄 膜 の Di ff us e ne s s お よ び
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 の D i ff u s e n e s s の プ ロ ッ ト を 示 す 。
2.2
Diffuseness n
2.0
1.8
1.6
1.4
PLT(x=0.15)+1.0mol%MnO2
1.2
1.0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
La content x
図 4-8
種 々 の L a 濃 度 に お け る P LT( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 ( ■ ) お よ び
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 ( □ ) の Di ff use ness n の プ ロ ッ ト
( ◆:K . I i j i m a , T. Ta k e u c h i , N . N a g a o , R Ta k a y a m a a n d I U e d a , P r o c .
9 t h I E E E I S A F, ( 1 9 9 4 ) , 5 3 - 5 8 . ( 1 2 ) )
図 4 - 8 に 示 す よ う に 、 今 回 新 た に P LT( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に M n を 添 加 す る こ
と で D i ff u s e n e s s が 減 少 し 散 漫 相 転 移 か ら 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 へ 復 帰
す る 現 象 が 見 出 さ れ た 。 こ れ に よ り 、 PLT 薄 膜 の La 濃 度 を 増 加 す る こ
とで常誘電-強誘電相転移から散漫相転移へ移行途中であった
P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 相 転 移 が 、M n を 添 加 す る こ と で 散 漫 相 転 移 が 抑 制 さ
れ、ブロード化した相転移がシャープになったため、自発分極の温度
変化もシャープになり焦電係数が増加したと考えられる。また比誘電
率についても散漫相転移が抑制されたことで増加が抑制されたと考え
られる。
次 に 、M n 添 加 に よ る 散 漫 相 転 移 抑 制 の メ カ ニ ズ ム に つ い て 考 察 す る 。
76
( 4 ) Mn 添 加 に よ る 基 板 と の 格 子 歪 み の 増 加
Mn の 添 加 量 を 増 加 さ せ て い く と 格 子 定 数 は 、 a 軸 が 増 加 し c 軸 が 減
少 し 正 方 晶 の t e t r a g o n a l i t y ( c / a ) が 減 少 す る 傾 向 が 見 ら れ た 。こ れ は 即 ち
Mn 添 加 量 を 増 加 さ せ る こ と で 強 誘 電 相 で あ る 正 方 晶 か ら 立 方 晶 の 常
誘電相に近づいていることを示唆しているため、
( 1 )の T c を 若 干 低 下
さ せ て い る こ と と 相 関 し て い る と 考 え ら れ る 。 し か し そ の 一 方 で 、 Mn
添加量を増加させることで基板との格子定数の差による歪み、即ち不
整 合 歪 u m ( = ( b - a) / b, b: 基 板 の 格 子 定 数 、 a : P LT 薄 膜 の a 軸 の 格 子 定 数 )
は 、 表 4-2 に 示 す よ う に 、 Mn 添 加 量 の 増 加 と と も に 増 加 す る 傾 向 が 見
ら れ た 。近 年 、Ba Ti O 3 と Sr Ti O 3 の 混 晶 体 で あ る Ba 1 - x Sr x Ti O 3 に お い て 、
Tc が 室 温 付 近 と な る x=0.6 付 近 の 組 成 を 有 す る 薄 膜 を 種 々 の 単 結 晶 基
板上にエピタキシャル成長させ、基板との格子不整合歪が焦電係数に
及 ぼ す 影 響 に つ い て 報 告 さ れ て い る (13-16)。 そ こ で Mn 添 加 量 の 増 加 に
よる格子不整合歪と焦電係数の関係について、ギプスの自由エネルギ
ー を L a n d a u - Gi nz b u rg - D e v o n s h i r e ( L G D ) 理 論 に 従 っ て 熱 力 学 的 な 考 察 を
行った。
表 4-2
種 々 の M nO 2 添 加 量 に お け る 格 子 定 数 と 不 整 合 歪
Additive amount of MnO2
[mol%]
0
0.3
1.0
1.3
1.7
Lattice parameter
c [nm]
a [nm]
0.4042
0.4042
0.4042
0.4042
0.4032
0.3944
0.3944
0.3949
0.3954
0.3954
um
0.0053
0.0053
0.0066
0.0078
0.0078
は じ め に 、ギ プ ス の 自 由 エ ネ ル ギ ー Δ G を 分 極 P の 級 数 に 展 開 し 式 を
整 理 す る こ と で 自 発 分 極 P s を 温 度 T と u m の 関 数 と し て 導 き 、次 に 自 発
分極の微分値を計算することで焦電係数を求めた。
ギ プ ス の 自 由 エ ネ ル ギ ー ΔG を 以 下 に 示 す 。
77
Δ G = α1 ( P1 2 + P2 2 + P 3 2 ) + α11 ( P1 4 + P2 4 + P3 4 )
+ α 1 2 ( P 1 2 P2 2 + P2 2 P3 2 + P3 2 P2 2 ) + α111 ( P1 6 + P2 6 + P3 6 )
+ α 11 2 { P1 4 ( P2 2 + P3 2 ) + P2 4 ( P 3 2 + P1 2 ) + P 3 4 ( P1 2 + P2 2 ) }
+ α123P12 P22 P32 –s11(σ12 + σ
–s 4 4 ( σ
4
2
+ σ
4
2
+ σ
4
2
2
2
+ σ
3
2
)/2 - s12(σ 1σ
2
+ σ 2σ
3
+ σ 3σ 1)
) / 2 - Q11 ( σ 1 P1 2 + σ 2 P2 2 + σ 3 P3 2 )
-Q12{(σ 1(P22 + P32) + σ 2(P32 + P12 ) + σ 3(P12 + P22)}
-Q44(σ 4P2P3 + σ 5P3P1 + σ 6P1P2)
・・ ・( 4 . 1 )
こ こ で 、 Pi : 分 極 、 σ i: 応 力 : αi, αij and αijk : 誘 電 ス テ ィ ッ フ ネ
ス 、 sij 弾 性 コ ン プ ラ イ ア ン ス 、 Qij : 電 歪 係 数 で あ る 。 ま た 、 σ 1, σ 2,
σ 3 は 、 通 常 の 応 力 、 σ 4, σ 5, σ 6 は 、 せ ん 断 応 力 で あ る 。 LGD 理 論 に従
いギ プ ス の 自 由 エ ネ ル ギ ー ΔG を分 極 Pi 、電 界 E
i
および 不 整 合 歪 u m を
用 いて記 述 すると
Δ G = α1 * ( P1 2 + P2 2 ) + α3 * P3 2 + α 11 * ( P1 4 + P2 4 ) + α3 3 * P3 4 + α1 2 * P1 2 P2 2
+ α 1 3 * ( P1 2 P3 2 + P3 2 P3 2 ) + α111 ( P1 6 + P2 6 + P3 6 )
+ α 11 2 { P1 4 ( P2 2 + P3 2 ) + P2 4 ( P 3 2 + P1 2 ) + P 3 4 ( P1 2 + P 2 2 ) }
+ α123 P12 P22 P32 + σa2/(s11 + s12) - (E1 P1 + E2 P2 + E3 P3)
・・・(4.2)
但 し 、 正 規 化 し た 係 数 αi*, αij* は そ れ ぞ れ 、
α1 * = α1 – u m ( Q11 + Q1 2 ) / ( s 11 + s 1 2 ) ,
α 3 * = α 1 – 2u m Q 1 2 / ( s 1 1 + s 1 2 ) ,
α 1 1 * = α 1 1 + { ( Q 1 1 2 + Q 1 2 2 ) s 1 1 – 2 Q 1 1 Q 1 2 s 1 2 }/ 2( s 1 1 2 - s 1 2 2 ) ,
α3 3 * = α11 + Q1 2 2 / ( s 11 + s 1 2 ) ,
α 1 2 * = α 1 2 + { ( Q 1 1 2 + Q 1 2 2 ) s 1 2 – 2 Q 1 1 Q 1 2 s 1 1 } / ( s 1 1 2 - s 1 2 2 ) + Q 4 4 2 / 2s 4 4 ,
α1 3 * = α1 2 + { Q1 2 ( Q 11 + Q1 2 ) } / ( s 11 + s 1 2 )
・ ・・ ( 4 . 3 )
で あ る ( 1 2 - 1 5 ) 。通 常 の 常 誘 電 - 強 誘 電 相 転 移 を 示 す 強 誘 電 体 に お い て は 、
誘 電 ス テ ィ ッ フ ネ ス α 1 は 、 C u r i e - We i s s 則 、
α1 = (T - Tc) / 2ε0C
・・・(4.4)
で与 えられる。
こ こ で 、 C : キュ リ ー 定 数 、 ε 0 : 真 空 の 誘 電 率 、 T c : キ ュ リ ー 温 度 、 で あ る 。
本 研 究 に お け る PLT 薄 膜 は 正 方 晶 で あ り 、Pt ( 1 0 0 ) / M g O( 1 0 0 )基 板 上 に
78
エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 し た c 軸 配 向 膜 で あ る 。 こ の た め 、 式 (4.2)に お い
て P1 = P2 = 0、 P3 ≠ 0 で あ り 、 外 部 か ら 印 加 さ れ る 電 界 が な い 場 合 、
自 発 分 極 Ps は、Ps = P3 となる (13-16)。 ∂ΔG /∂P3=0 か ら 自 発 分 極 Ps は式
(4.3)を 式 (4.2)に代 入 し整 理 すると、
P s = P 3 = ( - α 3 * / 2α 3 3 * ) 1 / 2
・ ・ ・( 4 . 5 )
で表 される。
よっ て 焦 電 係 数 γ は 、 自 発 分 極 の 微 分 であ る ため 式 ( 4 . 5 ) か ら、
γ = ∂Ps/∂T = ∂P3/∂T
・・・(4.6)
で与 えられる。
図 4 - 9 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 に 対 し て 焦 電 係 数 γ の 温 度 依 存
性 の 計 算 を 行 っ た 結 果 を 示 す 。誘 電 ス テ ィ ッ フ ネ ス α 1 1 お よ び 電 歪 係 数
Q 1 2 は 、 α 1 1 = - 9 . 2 5 2 ( 1 0 7 m 5 / C 2 F) 、 Q 1 2 = - 2 . 6 ( 1 0 - 2 m 4 / C 2 )
(17,18)
計 算 さ れ た 25 ℃ に お け る 焦 電 係 数 γ
-8
est
は、γ
e s t =1 9 . 2 × 10
を用いた。
C / c m 2 K であ っ
た。 焦 電 測 定 に よ る 実 測 値 は 、 γ = 1 5 . 8 × 10 - 8 C/ c m 2 K であ り、 実 験 値 に 比 較 的
近い値が得られた。
25.0
-8
2
γ (×10 C/cm K)
30.0
20.0
15.0
10.0
0
100
200
300
400
Temperature (℃)
図 4-9
L G D モ デ ル に よ る P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 の
焦電係数γ の温度依存性
79
し か し な が ら 、図 4 - 9 に お い て 焦 電 係 数 の 温 度 特 性 は 、温 度 の 増 加 と と
も に 上 昇 し て は い る が 、 Tc 付 近 で の 増 加 は 比 較 的 緩 や か で 発 散 し て い
な い 。M n を 添 加 し た PLT 薄 膜 の D i ff u s e n e s s は 、M n を 添 加 し て い な い
PLT 薄 膜 に 比 べ て 減 少 し て お り 、 散 漫 相 転 移 か ら 通 常 の 常 誘 電 - 強 誘
電 相 転 移 に 近 い 状 態 に 復 帰 し て い る た め 、 焦 電 係 数 の 温 度 特 性 は Tc に
近 づ く に つ れ 急 激 に 増 加 し T c 付 近 で 発 散 す る と 考 え ら れ る 。こ の た め 、
ギ プ ス の 自 由 エ ネ ル ギ ー Δ G を 計 算 す る 際 に 不 整 合 歪 の み な ら ず Mn 添
加による内部応力の増加を考慮し、基板界面に沿った 2 次元応力を仮
定 す る と 、 σ 1≠ 0、 σ 2≠ 0、 σ 2=σ 3=σ 4=σ 5=σ 6=0 ま た P1 = P2 = 0、 P3 ≠
0 で あ る た め 式 (4.1)は 、
Δ G = α 1 P 3 2 + α 1 1 P 3 2 + α 1 1 1 P 3 6 –s 1 1 ( σ 1 2 + σ
2
2
)/2 - s12(σ
-Q12( σ 1P2 + σ 2P3 )
2
2
1
σ 2)
・ ・・( 4 . 7 )
で表 される。
い ま 、基 板 と 薄 膜 か ら な る バ イ モ ル フ を 仮 定 す る と 、熱 応 力 σ x 、σ
以下の式で表される
(17,18)
y
は、
。
σ x = σ y = β 1 ( C 1 + C 2 ) Δ T,
C 1 = 2 ( E 1 I 1 + E 2 I 2 ) / t 1 ( t 1 + t 2 ) L, C 2 = t 1 E 1 / 2 ,
I1= t13L/12, I1= t23L/12,
β1=(αT2-αT1)/[(t1+ t2)/2 + {2(E1I1+E2I2)/(t1+t2)}{1/(E1t1L)+1/( E2t2L)}]
・ ・・( 4.8)
こ こ で 、 αT1: 薄 膜 の 熱 膨 張 係 数 、 αT2: MgO 基 板 の 熱 膨 張 係 数 、 E1:
薄 膜 の ヤ ン グ 率 、E 2:M g O 基 板 の ヤ ン グ 率 で あ り 、t 1:薄 膜 の 膜 厚 、t 2 :
MgO 基 板 の 膜 厚 、 I1: 薄 膜 の 慣 性 モ ー メ ン ト 、 I2: MgO 基 板 の 慣 性 モ
ー メ ン ト 、 L: 試 料 長 さ 、 Δ T: 室 温 と の 温 度 差 、 で あ る 。 バ イ モ ル フ の
試料端が固定されていると仮定するとさらに、
σ
x’=
σ
y’=
-(αT2-αT1) E1ΔT/(1-ν1)
・ ・・( 4.9)
が 生 じ る 。 こ こ で 、 ν1: 薄 膜 の ポ ア ソ ン 比 で あ る 。 外 部 応 力 が 無 い 場
合 、 σ 1、 σ
2
は、
80
σ 1= σ 2= σ x+ σ
・ ・・ ( 4 . 1 0 )
x’
となる。
さらに、リラクサーなど散漫相転移を示す材料においては、
C u r i e - We i s s 則 か ら の ず れ が 大 き い ( 1 9 ) 。こ の た め 散 漫 相 転 移 を 考 慮 す る
た め に 誘 電 ス テ ィ ッ フ ネ ス α1 と し て 通 常 の 強 誘 電 体 に お け る
C u r i e - We i s s 則 で は な く 以 下 の 式 を 用 い た 。
α1 = {(T – Tm) / 2ε0C }n
・・・ ( 4.11 )
こ こ で 、 n: D i ff u s e n e s s 、 T m : 比 誘 電 率 の ピ ーク 温 度 であ る 。 ∂ Δ G / ∂ P 3 = 0
か ら 自 発 分 極 Ps は式 (4.7)よ り 、
P s = P 3 = [ { -α 1 1 + ( α 1 1 2 - 3α 1 1 1 ( α 1 - Q 1 2 ( σ 1 + σ 2 ) ) ) 1 / 2 }/ 3 α 1 1 1 ] 1 / 2 ・ ・ ・( 4 . 1 2 )
で 表 さ れ る 。 焦 電 係 数 γ は 、 自 発 分 極 の 微 分 であ る ため 式 ( 4 . 6 ) に 、 式 ( 4. 8 )
か ら 式 (4.12)を 代 入 す る こ と で 、 計 算 す る こ と が で き る 。
100
60
1.0mol%Mn (n=1.4)
-8
2
γ (×10 C/cm K)
80
40
1.0mol%Mn (実測値)
20
0.0mol%Mn (n=1.6)
0.0mol%Mn (実測値)
0
図 4-10
0
100
200
Temperature (℃)
300
内 部 応 力 お よ び D i ff u s e n e s s を 考 慮 し た モ デ ル に よ る M n O 2
添 加 の 有 無 に よ る P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 焦 電 係 数 γ の 温 度 依 存
性
81
図 4 - 1 0 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に 対 し て M n O 2 添 加 の 有 無 に よ る 焦 電 係 数 γ
の 温 度 依 存 性 の 計 算 を 行 っ た 結 果 を 示 す 。 計 算 に 用 い た 値 は 、 αT1 :
1 . 1 5 × 1 0 - 5 、 α T 2 : 1 . 3 5 × 1 0 - 5 、 E 1 : 1 3 8 G Pa 、 E 2 : 2 4 8 G P a 、 t 1 : 3 μ m 、 t 2 :
0.5mm、 L: 6mm、 ν1: 0.3 で あ る (17,18)。 白 丸 ( ○ ) は 、 室 温 で 測 定 し
た 1 . 0 mo l % M n O 2 を 添 加 し た も の の 実 測 値 を 、 黒 四 角 ( ■ ) は 、 M n O 2
を添加していないものの実測値を示す。
図 4 - 1 0 に お い て M n 添 加 有 り の P LT 薄 膜 の 焦 電 係 数 の 温 度 特 性 は T c
付 近 で の 急 激 に 増 加 し 発 散 し て お り 、図 4- 9 の 不 整 合 歪 の み を 考 慮 し た
モ デ ル に 比 べ て 、よ り 現 実 的 な モ デ ル で あ る と い え る 。ま た 、Mn 添 加
に よ っ て Tc が 低 下 し 焦 電 係 数 も 増 加 す る 傾 向 が み ら れ 、 こ れ は Mn 添
加 量 に よ る 内 部 応 力 の 増 加 を 反 映 し た も の で あ る 。さ ら に 、M n 添 加 し
て い な い PLT 薄 膜 は D i ff u s e n e s s が 大 き い 為 、相 転 移 が ブ ロ ー ド と な り
T c 付 近 で の 自 発 分 極 の 変 化 率 は 小 さ く 、 Di ff u s ene s s の 小 さ い M n 添 加
有 り の 曲 線 は 相 転 移 が シ ャ ー プ 化 す る た め Tc 付 近 で の 自 発 分 極 の 変 化
率 が 大 き く な り γの 温 度 依 存 性 の 曲 線 が 発 散 す る と 予 測 さ れ た が 、計 算
結 果 は 予 想 通 り Mn 添 加 に よ っ て γの 温 度 依 存 性 の 曲 線 の 変 化 率 が 増 加
し 、 T c 付 近 で 発 散 す る 結 果 が 得 ら れ た 。 計 算 さ れ た 2 5℃ に お け る 焦 電
係 数 γ e s t は 、 γ e s t = 1 6 . 9 × 1 0 - 8 C / c m 2 K で あ った 。 焦 電 測 定 に よる 実 測 値 は 、 γ e x p
= 1 5 . 8 × 1 0 - 8 C/ c m 2 K で あ り 、 実 測 値 と かな り 良 い 一 致 が 得 られ た。 こ の 結 果 か ら、
PLT 薄 膜 の D i ff u s e n e s s の 減 少 と 内 部 応 力 の 増 加 が 焦 電 係 数 の 増 加 の 主 な
要 因 であ る と 考 え ら れ る 。
( 5 ) Mn 添 加 に よ る 格 子 欠 陥 お よ び 電 荷 の 補 償
PLT の 組 成 は 、組 成 式 PLT で 表 さ れ る よ う に Pb Ti O 3 の Pb 2 + イ オ ン を
La 3 + イ オ ン で 置 換 す る こ と で 生 じ る 電 荷 の ア ン バ ラ ン ス を Ti 4 + が 欠 損
す る こ と で 補 償 す る た め 、 La 濃 度 を 増 加 さ せ る に 従 っ て AB O 3 ペ ロ ブ
ス カ イ ト 構 造 の B サ イ ト イ オ ン が 徐 々 に 欠 損 し て い く 。3 . 4 節 で 述 べ た
よ う に 、P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の D i ff u s e n e s s の 増 加 は 、酸 素 欠 陥 の ホ ッ ピ ン
グ や Ti イ オ ン の 価 数 の 揺 動 で は な か っ た こ と か ら 、 本 研 究 に お け る c
軸 配 向 し た エ ピ タ キ シ ャ ル P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 は 、L a 置 換 に よ る 電 荷 の ア
ン バ ラ ン ス を B サ イ ト の Ti の 欠 損 に よ っ て 補 償 し て い る と 考 え ら れ る 。
ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 強 誘 電 体 に お い て は 、酸 素 八 面 体 の 中 心 付 近 に あ る B
サ イ ト イ オ ン 、 即 ち B a Ti O 3 や Pb Ti O 3 の Ti イ オ ン が 常 誘 電 体 相 で あ る
立方晶から、強誘電体相である正方晶へ相転移する際に、その位置が
酸素八面体の中心から c 軸方向に沿って僅かに移動することで双極子
82
モーメントが生じ自発分極を生じる。この B サイトイオンの移動に起
因した自発分極は、外部から印加された電界がある値以上となったと
きに一斉に反転することで分極が電界に対してヒステリシスを持つと
いう強誘電性を発現する原因となっており、B サイトに起因する双極
子 モ ー メ ン ト の 長 距 離 秩 序 が 強 誘 電 体 の 物 性 に 深 く 関 わ っ て い る 。 Mn
イ オ ン は 、 イ オ ン 半 径 が M n 3 + : 0 . 0 6 6 n m, M n 4 + : 0 . 0 6 0 n m と Ti 4 + : 0 . 0 6 8 n m
と 近 く 容 易 に B サ イ ト に 入 る と 考 え ら れ る 。こ の た め 高 La 濃 度 の 組 成
域 に お い て 欠 損 し た Ti に 変 わ っ て M n が B サ イ ト を 埋 め る こ と で 、 ペ
ロブスカイト構造の骨格を成す B サイトイオンを中心とする酸素八面
体 が 安 定 化 し た の で は な い か と 考 え ら れ る 。ま た 、3 . 4 節 で 述 べ た よ う
に P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に お け る D i ff u s e n e s s の 増 加 は 、酸 素 欠 陥 に よ る も の
ではなかった。本研究においては、第2章で述べたように成膜後の冷
却 過 程 に お い て も Ar と O 2 ガ ス を 流 し 0 . 5 Pa 程 度 の 低 真 空 雰 囲 気 下 で 除
冷 を 行 っ て お り 、 酸 素 欠 陥 に 起 因 す る 電 流 リ ー ク や t a nδ の 悪 化 は 見 ら
れなかった。しかしながら、非平衡状態で薄膜を形成するスパッタリ
ング法で作製した酸化物薄膜は酸素欠陥を生じやすく、完全に酸素欠
陥が無い薄膜を形成することは非常に困難である。このため、本研究
に お い て 作 製 し た c 軸 配 向 エ ピ タ キ シ ャ ル PLT 薄 膜 に お い て も 、 あ る
程 度 の 酸 素 欠 陥 を 有 し て い る と 考 え ら れ る 。 P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に M n を
添 加 す る こ と で 比 誘 電 率 が 減 少 し た 原 因 に つ い て は 、 Ec 以 下 の 電 界 で
交 番 電 界 を 印 加 し た 際 、 酸 素 欠 陥 と M n イ オ ン か ら な る M n- V O 双 極 子
によるピンニング効果によって電界に対する分極の応答が抑制される
(1)
ため誘電率が減少したと考えられる。
ま た 前 節 で 述 べ た よ う に 、 M n を 添 加 し た P LT( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の P - E ヒ
ス テ リ シ ス ル ー プ は 、 M n を 添 加 し て い な い P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に 比 べ て
P r が 2 倍 程 度 増 加 し て お り 、 上 記 の 欠 損 し た Ti イ オ ン に 代 わ っ て M n
イオンが B サイトを置換したことによって強誘電性が向上したことを
示 し て い る 。 ま た 、 M n を 添 加 す る こ と で P LT( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の P - E ヒ ス
テリシスループは、上下に大きく対称的に開き、電界が 0 付近におけ
る分極の傾きも減少している。同じ組成の強誘電体であってもセラミ
クススや多結晶薄膜等においては、分極の方向がそれぞれの分域で異
な る た め 、 分 域 構 造 を も っ た 強 誘 電 の P- E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ は 、 電
界 が 0 付 近 に お け る 残 留 分 極 Pr に 対 し て 、 Ec 以 上 の 電 界 を 印 加 し た と
き の 分 極 P m が 大 き く な り 、ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ は 斜 め に 歪 ん だ 形 状 と
なる。一方、分域構造を持たない分極処理を行った単結晶の強誘電体
83
においては、結晶全体が一つのドメインであり分極の方向が一方向に
揃 っ て い る た め P r と P m は 、ほ ぼ 等 し く な り ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ は 長 方
形 に 近 づ く 。 従 来 の 強 誘 電 体 薄 膜 の P- E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ は バ ル ク
の単結晶に比べて結晶性が低く、斜めに歪んだヒステリシスループと
な る 傾 向 が 強 か っ た (20,21)。 ま た 、 リ ラ ク サ ー に お い て は 微 視 的 な 領 域
における組成変動のため明確な分域構造を持たず分極の大きさと方向
も 分 布 し て い る た め P m に 対 し て P r が 非 常 に 小 さ く 、P- E ヒ ス テ リ シ ス
ループは細く閉じ非常に歪んだS字曲線に近い形状となる。これに対
し て 本 研 究 に お け る M n を 添 加 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の P - E ヒ ス テ リ シ
スループは、電界が 0 付近における分極の傾きが減少し上下対象の長
方形的に開いていることから、単結晶のようなシングルドメインにか
な り 近 い 分 域 構 造 を 持 っ て い る と 考 え ら れ 、 上 記 の 欠 損 し た Ti イ オ ン
に 代 わ っ て M n イ オ ン が B サ イ ト を 置 換 し た こ と に よ っ て PLT 薄 膜 の
長距離秩序が回復し散漫相転移が抑制されたと考えられる。
また一般にセラミクス等において添加物は、結晶粒と結晶粒の間の
粒 界 に 偏 析 す る こ と が 多 く 、本 研 究 に お い て も M n O 2 添 加 量 が 1 . 0 mo l %
の 試 料 に お い て は 、 膜 は 透 明 で あ っ た が 、 M n O 2 添 加 量 が 1 . 7 mo l % の 試
料 に お い て は 、 薄 い 黒 色 に 着 色 し た こ と か ら 、 M n O 2 添 加 量 が 1 . 0 mo l %
を 超 え る と P LT の 結 晶 内 に 取 り 込 ま れ な か っ た M n が 偏 析 、 あ る い は
新たな欠陥を形成し、これによって焦電係数が低下したのではないか
と考えられる。
こ れ ら の 考 察 結 果 か ら 、M n を 添 加 し た PLT 薄 膜 に お け る 焦 電 係 数 の
増 加 と 比 誘 電 率 の 減 少 の 原 因 は 、M n 添 加 に よ る 散 漫 相 転 移 の 抑 制 で あ
り 、こ の 散 漫 転 移 を 抑 制 す る 要 因 は 、M n 添 加 に よ る 格 子 欠 陥 お よ び 電
荷の補償によるものと考えられる。
84
4 .5
まとめ
本 章 で は 、c 軸 配 向 し た PLT 薄 膜 の 散 漫 相 転 移 を 抑 制 し 添 加 物 に よ る
更なる焦電特性の高性能化への取り組みについて述べた。ここでは添
加 物 と し て 、種 々 の 酸 化 数 を と る こ と で La 置 換 に よ っ て 生 じ た 電 荷 の
ア ン バ ラ ン ス を 補 償 し 得 る M n に 着 目 し 、 P LT ( x = 0. 1 5 ) 薄 膜 を 作 製 す る
際 の タ ー ゲ ッ ト に M n O 2 を 0 ~ 1 . 7 mo l % 添 加 し M n ド ー プ を 試 み た 。
得 ら れ た 薄 膜 の 評 価 を 行 っ た 結 果 、M n ド ー プ に よ る 配 向 性 の 低 下 は
見 ら れ ず 、 M nO 2 を 1 . 0 mo l % 添 加 し た も の に お い て 焦 電 係 数 が 最 大 と な
り 誘 電 率 も 若 干 低 下 す る こ と を 示 し た 。 Mn の 添 加 量 の 増 加 に 伴 っ て
t e t r a g o n a l i t y は 僅 か に 低 下 し 、M n O 2 を 1 . 0 mo l % 添 加 す る こ と に よ っ て 、
散漫相転移から通常の常誘電-強誘電相転移へ復帰する現象が見られ
ることを示した。
こ の Mn 添 加 効 果 の 考 察 を 行 い 、 ギ プ ス の 自 由 エ ネ ル ギ ー を
L a n d a u- G i n z b u rg - D e v o n s h i r e の 理 論 に 従 っ て 格 子 不 整 合 歪 お よ び 内 部 応
力を考慮した熱力学的なモデルをたて焦電係数の温度依存性を予測し
た 。 そ の 結 果 γ e s t = 1 6 . 9 × 10 - 8 C / c m 2 K と 、 室 温 に お け る 実 測 値 γ e x p =
1 5 . 8 × 1 0 - 8 C / c m 2 K と か な り 良 い 一 致 を 得 た 。ま た M n O 2 添 加 量 が 1 . 3 m o l %
以 上 に お い て 焦 電 係 数 が 低 下 す る 原 因 に つ い て は 、 添 加 量 が 1 . 0 mo l %
超 え る と 薄 膜 が 着 色 し て く る こ と か ら PLT の 結 晶 内 に 取 り込 ま れ な かっ た
Mn が偏 析 、あるいは新 たな欠 陥 を形 成 しこれによって焦 電 係 数 が 低 下 したの
では ない かと 考 え ら れ る。
表 4 - 3 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 と P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス お よ び
P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 と の 焦 電 特 性 の 比 較 を 示 す 。
表 4-3
焦電特性の比較
γ (×10-8c/cm2K)
εr
Tc(℃ )
15. 8
253
330
PLT ( x = 0 . 1 5 ) t h i n f i l ms
9.5
330
350
Pb Ti O 3 c e r a mi c s
1.8
190
490
Material
PLT ( x = 0 . 1 5 ) + M n t hi n fi l ms
以 上 の 結 果 か ら 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 に お い て 従 来 の
Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 比 べ て 焦 電 係 数 が 一 桁 大 き く 非 常 に 優 れ た 焦 電 体
薄膜材料を実現できることが明らかになった。
85
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86
第5章
5 .1
高性能焦電型赤外線センサーへの応用
はじめに
本 章 で は 、 第 4 章 で 述 べ た P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 高 品 位 薄 膜 技
術を使用した、高感度で高性能焦電型赤外線センサーへの応用につい
て論じる。
第1章で述べたように赤外線を用いたセンシング技術は、非接触で
尚且つ高速度で種々の物体の表面温度を測定できるため、気象観測、
環境モニタリング、資源探査などリモートセンシングの分野から、医
療、工業用温度分布測定、更には人体や物体の位置検出、防犯、防災
な ど の セ キ ュ リ テ ィ 分 野 に 至 る ま で 非 常 に 応 用 範 囲 が 広 い (1)。 こ の た
め赤外線センサーは、赤外線センシング技術の分野の中で中核となる
重 要 な デ バ イ ス で あ る 。 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー は 、 自 発 分 極 の Ps の 温
度変化を利用したものであり熱型赤外線センサーの中でも感度、応答
性など点で優れている。また、室温動作可能で冷却不要という点から
も高性能な焦電型赤外線センサーの開発が期待されている。
常 温 付 近 の 温 度 物 体 か ら 放 射 さ れ る 赤 外 線 エ ネ ル ギ ー は 、 Wi e n の 変
位 則 ( 2 ) に よ り 、 ほ ぼ 10 μ m を ピ ー ク と す る 波 長 分 布 を 示 す 。 1 0 μ m 帯 の
赤 外 線 を セ ン シ ン グ す る 場 合 InSb 等 の 半 導 体 を 用 い た 量 子 型 赤 外 線 セ
ンサーでは、バンドギャップによって決まる吸収端以上の長波長領域
で は 赤 外 線 を 吸 収 し な い た め 10 μ m よ り 短 波 長 側 の エ ネ ル ギ ー し か 変
換できない。一方、焦電型赤外線センサーは長波長まで平坦な感度特
性 を 持 つ た め 、常 温 付 近 の 物 体 か ら 放 射 さ れ る 10 μ m 帯 の 赤 外 線 を 検 出
する用途に対して非常に有利である。
高 性 能 の 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー を 構 成 す る 場 合 、 焦 電 材 料 に は (1)焦
電 係 数 γ 、 ( 2 ) 体 積 比 熱 C v 、 ( 3 ) 比 誘 電 率 ε r 、 ( 4) 誘 電 損 失 t a n δ 等 の 材 料 特
性が重要となる。
本 章 で は 、 前 半 に お い て P LT( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 mo l % M n O 2 薄 膜 を ポ イ ン ト
型 赤 外 線 セ ン サ ー へ 応 用 す る 際 に 重 要 と な る 、電 圧 感 度 、ノ イ ズ 電 圧 、
比 検 出 能 等 の 赤 外 線 セ ン サ ー と し て の 特 性 を 、 Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス と 比
較 し 論 じ る 。 後 半 で は 地 球 観 測 衛 星 に 搭 載 す る ILAS(5,6)用 ア レ イ 型 赤
外 線 セ ン サ ー へ の 応 用 に つ い て 述 べ 、 44 素 子 の 1 次 元 ア レ イ セ ン サ ー
に 用 い る 際 の セ ン サ ー 特 性 を 論 じ 、ILAS の 設 計 仕 様 を 十 分 に 満 た す こ
とができることを述べる。
87
5 .2
焦電型赤外線センサーの特性と性能評価指数
従 来 、 焦 電 材 料 と し て は 、 L i Ta O 3 ( 3 , 4 ) 、 T G S(( N H 2 C H 2 C O O H ) 3 H 2
S O 4 ) ( 5 ) な ど の 単 結 晶 、 P b Ti O 3 ( 6 - 9 ) , PZ T ( 1 0 - 1 4 ) 等 の セ ラ ミ ク ス 、 PVDF
な ど の 有 機 フ ィ ル ム ( 1 5 ) が 用 い ら れ て い た 。 表 1- 2 に 種 々 の 焦 電 材 料 の
特性の比較を示す。
表 1-2
種々の焦電材料の特性比較
比誘電率
εr
焦電係数γ
[×10-8C/cm2K]
体積比熱 Cv
[J/cm3K]
キュリー点
[℃]
TGS 単結晶
38
3.5
2.5
49
PbTiO3 セラミクス
190
1.8
3.2
490
PZT セラミクス
380
5.0
3.1
220
LiTaO3 単結晶
54
2.3
2.8
618
PVDF 有機フィルム
11
0.4
2.4
120
焦電体材料
従 来 の ポ イ ン ト 型 赤 外 線 セ ン サ ー と し て 、 L i Ta O 3 単 結 晶 、 Pb Ti O 3 ,
PZ T セ ラ ミ ク ス な ど を 用 い た も の が 既 に 実 用 化 さ れ て い る 。 ま た 、 ア
レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー と し て は 、Li Ta O 3 や T G S 単 結 晶 、P b Ti O 3 や P Z T
セ ラ ミ ク ス 、P V D F 有 機 フ ィ ル ム を 用 い た も の が 報 告 さ れ て い る が 、こ
れらの単結晶やセラミクスなどのバルク材料を用いたものは、焦電素
子の微細化や薄膜化が困難であるため高密度で多素子のアレイセンサ
ーの実用化例は少ない。
1.3.2 で 述 べ た よ う に 、 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 実 際 の 出 力 信 号 は 微
小な焦電電流であるため、温度分解能を上げるためには出力を増加さ
せることが重要である。また、単に出力が大きくても雑音成分が多け
れば実際の温度分解能が低下してしまうため、センサーの性能として
は 雑 音 出 力 に 対 す る 出 力 信 号 の 比 、 即 ち S/ N 比 を 向 上 さ せ る こ と も 重
要である。受光部である焦電体素子の温度変化は、入射する赤外線の
エネルギーが一定の条件化では焦電体素子の熱容量に反比例し、外部
に取り出せる焦電電流は、焦電体素子を挟む電極間の静電容量に反比
例する。これら焦電材料の材料特性と赤外線センサーとしての感度の
関係を次に示す。
a)電圧感度
既 に 述 べ た よ う に 焦 電 体 に お い て 自 発 分 極 Ps の 温 度 変 化 は 焦 電 係 数
88
γ と呼ばれ、次式で定義される。
γ = d P s / dT
・・・ ( 5. 1)
こ こ で 、γ が 大 き い ほ ど 赤 外 線 に よ る 温 度 変 化 を 電 気 信 号 に 変 換 す る 効
率が高い。しかしながら、一定強度の赤外線を連続して焦電体に照射
した場合焦電体の温度は初期には上昇するが、時間とともにある一定
の温度に飽和する。焦電型赤外線センサーは、焦電体の温度変化が生
じたときにのみ過渡的に信号を出力する微分型のセンサーであるため、
常に出力を得るためには入射する赤外線をチョッパーなどで変調して
断続的とし、交流応答により赤外線を検知するためのチョッピング機
構 が 必 要 と な る 。周 波 数 f ( = ω / 2 π ) で チ ョ ッ ピ ン グ し た 赤 外 線 を 焦 電 体 に
照 射 し た 場 合 、 温 度 変 化 の 周 波 数 成 分 ΔT は 、 次 式 で 表 さ れ る 。
Δ T= η I w ( G 2 + ω 2 H 2 ) - 1 / 2
・ ・・( 5 . 2 )
こ こ で 、 η : 輻 射 率 、 I w: 赤 外 線 強 度 の 各 周 波 数 成 分 、 G: 熱 放 散 、 H :
熱 容 量 で あ る 。 式 (5.2)よ り 感 度 即 ち 温 度 変 化 を 大 き く す る た め に は 、
輻 射 率 η を 大 き く し 、熱 放 散 G 、熱 容 量 H を 小 さ く す れ ば よ い 。こ の た
め焦電体素子の表面上に赤外線吸収膜の形成や、焦電体の膜厚を可能
な限り薄くする即ち薄膜化することは、非常に有効である。また検出
部の基板を中空構造として焦電体を浮かし、吸収した熱の伝導を抑制
することが必要となる。
次 に 、焦 電 電 圧 V p y r o は 焦 電 係 数 γ に Δ T 、面 積 A お よ び 外 部 回 路 の イ
ンピーダンスを乗じたもので、次式で表される。
V p y r o = ωγ A R ( 1+ ω 2 τ E 2 ) - 1 / 2 Δ T
= ( η ωγ A R I w)/ { G( 1+ ω 2 τ E 2 ) 1 / 2 ( 1 + ω 2 τ T 2 ) 1 / 2 }
・・・ ( 5. 3)
こ こ で 、 R は ( 素 子 + 負 荷 ) の 合 成 抵 抗 、 τ E ( = R C) は 電 気 的 時 定 数 ( C は 素
子 + 負 荷 の 合 成 容 量 )、 τ T は 熱 時 定 数 ( = H/ G) で あ る 。
次 に 、赤 外 線 セ ン サ ー の 電 圧 感 度 RV は 、出 力 感 度 と 入 射 赤 外 線 強 度
との比で表される。
RV = Vpyro/ Iw
89
= ( η ωγ A R ) / {G ( 1 + ω 2 τ E 2 ) 1 / 2 ( 1 + ω 2 τ T 2 ) 1 / 2 }
・ ・ ・( 5 . 4 )
b)電圧感度性能指数
式 (5.4)に お い て 、 外 部 回 路 の 入 力 イ ン ピ ー ダ ン ス が 十 分 に 大 き い 場
合 、ω τ E ≫ 1 、ω τ T ≫ 1 で あ る た め 次 式 の よ う に 近 似 す る こ と が で き る 。
R V ≒ ( η ωγ A R ) / ( G ・ ω τ E ・ ω τ T ) = ( ηγ A) / ( ω H C )
・ ・ ・( 5 . 5 )
焦 電 体 の 熱 容 量 H お よ び 静 電 容 量 C は 、焦 電 体 の 膜 厚 t 、体 積 比 熱 C v ( =
比 熱 C s ・ 密 度 ρ ) 、真 空 の 誘 電 率 ε 0 、比 誘 電 率 ε r を 用 い て 次 式 で 表 さ れ る 。
H = C v At
・・・ ( 5. 6 )
C = ε 0 ε r A/ t
・ ・ ・( 5 . 7 )
式 (5.6)、 式 (5.7)を 式 (5.5)に 代 入 し 整 理 す る と
R V = ηγ / ( ω C v ε 0 ε r A)
・ ・ ・( 5 . 8 )
と な る 。こ こ で η 、 ω 、 A は 、赤 外 線 セ ン サ ー を 構 成 す る 際 の デ バ イ ス 構
造 に よ っ て 決 定 さ れ る 定 数 で あ る た め 、電 圧 感 度 と 材 料 特 性 の 関 係 は 、
RV ∝ γ /( Cvεr)
・ ・ ・( 5 . 9 )
となる。従って赤外線センサーの感度を向上させるためには、焦電係
数が大きく、熱容量が小さく、比誘電率が小さく静電容量が小さく、
素子面積が小さいことが望ましい。これにより焦電型赤外線センサー
に 用 い ら れ る 電 圧 感 度 性 能 指 数 ( ま た は 単 に 性 能 指 数 ) Fv は
Fv = γ /( Cvεr)
・ ・ ・( 5 . 1 0 )
で表され、焦電体材料の性能を評価する上で重要な目安となる。
90
c)ノイズ電圧
焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 雑 音 成 分 で あ る ノ イ ズ 電 圧 V N に は 、主 と し
て次の3種類がある。
ⅰ)温度ノイズ
ⅱ)誘電損ノイズ
ⅲ)入力抵抗ノイズ
ⅰ)温度ノイズ
温 度 ノ イ ズ (VNT)は 、 赤 外 線 セ ン サ ー が 授 受 す る 熱 放 射 に 温 度 揺 ら ぎ
があることによって生じるもので、次式で表される。
V N T = R V ( 4 k T 2 G) 1 / 2 / η
・ ・ ・( 5 . 11 )
ここで k は、ボルツマン定数である。
ⅱ)誘電損ノイズ
焦電型赤外線センサーは、前述のように入射赤外線をチョッパーで
変調し交流応答を検出するため、焦電素子を含む検出回路は交流回路
となる。誘電損失とは、誘電体に交流電場を印加した際に電気エネル
ギ ー の 一 部 が 熱 と な っ て 失 わ れ る 現 象 で 、 誘 電 損 ノ イ ズ (VND)は 、 焦 電
型 赤 外 線 セ ン サ ー の 焦 電 素 子 の 誘 電 損 失( t a n δ )に よ っ て 生 じ る も の で
あり、次式で表される。
VND = (4kT・tanδ /ωC)1/2
・ ・ ・( 5 . 1 2 )
ⅲ)入力抵抗ノイズ
抵抗体の中で電子は熱運動をしているため、抵抗体両端には絶えず
電圧変動が生じている。この電子の不規則性によってナイキストの式
( 4k T R/ Δ f ) 1 / 2 で 表 さ れ る ノ イ ズ が 発 生 し て い る ( Δ f : 測 定 回 路 の 周 波 数
帯 域 幅 )。入 力 抵 抗 ノ イ ズ ( V N R ) は 、素 子 の 等 価 抵 抗 に よ っ て 生 じ る も の
で、次式で表される。
V N R = { 4k T R/ ( 1 + ω 2 τ E 2 ) } 1 / 2
・・・(5.13)
91
今、熱雑音をジョンソン雑音とすると誘電損ノイズと入力抵抗ノイズ
がジョンソン雑音ということになる。
こ の 他 に 、外 部 回 路 に 使 用 す る F E T か ら の ノ イ ズ と し て F E T 電 流 ノ
イ ズ I n ( A / Hz ) に よ る ノ イ ズ 電 圧 I n R/ ( 1+ ω 2 τ E 2 ) 1 / 2 お よ び FE T 電 圧 ノ イ ズ
En が あ る 。
こ れ ら ノ イ ズ 電 圧 の う ち 、 実 用 的 な 周 波 数 帯 1 Hz か ら 1 0 k Hz で は 、
誘電損ノイズが支配的である。
d)比検出能
赤外線センサーの特性を一義的に評価することができるものとして
比 検 出 能 D*が あ る 。 D*は 、 赤 外 線 セ ン サ ー の 感 度 と ノ イ ズ の 比 で あ り
次のように定義されている。
D * = R V ( AΔ f ) 1 / 2 / V N
・・・(5.14)
前 述 の よ う に 実 用 的 な 周 波 数 帯 1 Hz か ら 1 0 k Hz で は 、 誘 電 損 ノ イ ズ が
最も支配的であり、外部回路の入力インピーダンスが十分に大きい場
合 、 ωτ E ≫ 1 、 ωτ T ≫ 1 で あ る た め 、
D * = R V ( AΔ f ) 1 / 2 / V N D
≒ η γ / { ( 4 k T) 1 / 2 C v ( ωε 0 ε r t a n δ ) 1 / 2 t 1 / 2 }
・・ ・ ( 5 . 1 5 )
と な る 。 ま た 、 温 度 ノ イ ズ か ら 得 ら れ る D*の 限 界 値 D*TF は 、
D * T F = { η 2 A/ ( 4 k T 2 G) } 1 / 2
・・・(5.16)
となる。
e)比検出能性能指数
式 (5.15)に お い て 、 η、 ω、 T は 、 赤 外 線 セ ン サ ー を 構 成 す る 際 の 構 造
によって決定される定数であるため、比検出能と材料特性の関係は、
D*∝ γ /Cv(εr tanδ・t)1/2
・ ・ ・( 5 . 1 7 )
と な る 。 一 般 の 電 気 回 路 に お け る S/N 比 に 相 当 す る 比 検 出 能 評 価 指 数
92
Fm は 、
F m = γ / C v ( ε r t a n δ・t ) 1 / 2
・・・( 5. 1 8 )
で 表 さ れ 、 Fv と と も に 焦 電 体 材 料 の 性 能 を 評 価 す る 指 標 と し て 非 常 に
よく使用されている。
これらの性能評価指数から、高性能の焦電型赤外線センサーを構成
する際に焦電材料には次のような特性が要求される。
(1)温度変化に対する分極の変化、即ち焦電係数γ が大
(2)吸収した熱エネルギーに対して温度上昇を増加させるため、
体 積 比 熱 Cv が 小 。
(3)出力を電圧として取り出す際、表面電荷に対して静電容量が
小 さ い 方 が 出 力 電 圧 が 増 加 す る た め 比 誘 電 率 εr は 小 さ い 方 が 良 い が 、
センサー部の面積が非常に小さくなると信号読み出しの際のノイズが
増 加 す る こ と か ら εr は 、 あ る 程 度 大 き い 方 が よ い 。
( 4 ) 誘 電 損 ノ イ ズ 成 分 の 原 因 と な る tanδが 小 。
(5)アレイセンサーにおいては熱のクロストークを抑制するに各
素子間の熱拡散係数が小。
また、厚みが薄くなるほどノイズが低減するため、セラミクス等の
バ ル ク 材 料 よ り も 薄 膜 の 方 が D*が 高 く な る 。 こ の た め 、 高 性 能 な 焦 電
型赤外線センサーを開発するためには、焦電体薄膜材料の開発が必須
である。
f)等価ノイズ入力
NE P ( N o i s e E q u i v a l e n t P o w e r ) と も 呼 ば れ 、 赤 外 線 セ ン サ ー の ノ イ
ズ と 同 じ 出 力 信 号 を 与 え る 入 力 パ ワ ー を 示 し 、 上 記 の D*と は 、
D * = A 1 / 2 / N EP
・ ・ ・( 5 . 1 9 )
の関係となり、その物理的な意味は、赤外線センサーが検出可能な最
小入力パワーを示す。
93
5 .3
ポイント型赤外線センサーへの応用
焦電体材料を用いたポイント型赤外線センサーは、人体や物体の検
知、体温測定などの応用分野において高感度で尚且つ低コストの赤外
線センサーとして近年、ますます注目を集めている。ここでは、
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 を ダ イ ア フ ラ ム 型 の ポ イ ン ト 型 赤 外 線
センサーに用いる際の感度やノイズと膜厚、チョッピング周波数、と
の関係について述べる。
焦電型赤外線センサーの性能を評価する性能評価指数には、前節で
述 べ た よ う に 電 圧 感 度 R v 、ノ イ ズ 電 圧 V N 、比 検 出 能 D * な ど が あ り 、こ
れ ら の 特 性 は 焦 電 係 数 γ、比 誘 電 率 εr、誘 電 損 失 tanδ、体 積 比 熱 Cv 等 の
焦電体材料の材料特性およびセンサーの形状に依存する。
焦電体薄膜材料を用いてポイント型センサーを構成する際には、熱
容 量 を 小 さ く す る た め に 、図 5 - 1 に 示 す よ う な 円 板 型 の 焦 電 体 薄 膜 の 周
囲を基板で支持したダイアフラム型のセンサー構造が最も適している
と考えられる。このダイアフラム型の構造においては、焦電体が吸収
した熱は、主に焦電体薄膜と電極薄膜をとおして伝わる熱拡散による
ものと考えられるため、熱コンダクタンスは、次式で表される。
G= 2 πk t / l n ( r 2 / r 1 ) + 2 πk
ELtEL/ln(r2/r1)
・ ・ ・( 5 . 2 0 )
こ こ で 、 k: 焦 電 体 薄 膜 の 熱 伝 導 率 、 t: 焦 電 体 薄 膜 の 膜 厚 、 k
EL:
電極
薄 膜 の 熱 伝 導 率 、 t E L: 電 極 薄 膜 の 膜 厚 、 r 1: 受 光 電 極 の 半 径 、 r 2: 中 心
から基板までの半径、である。
r1
受光電極(Ni-Cr)
t EL
焦電体
t
下部電極(Pt)
MgO基板
r2
図 5-1
焦電体薄膜を用いたポイント型赤外線センサーの
断面構造
94
熱容量Hは、次式であらわされる
H= C v At + C v E L At E L
・ ・ ・( 5 . 2 1 )
こ こ で 、C v:焦 電 体 薄 膜 の 体 積 比 熱 、C v E L:電 極 薄 膜 の 体 積 比 熱 で あ る 。
ま た 、 電 気 時 定 数 τ E は 、 検 出 回 路 の 入 力 と な る FE T の 入 力 容 量 ( 数 pF)
が焦電体薄膜の容量に対して十分に小さいため無視すると、
τ E = RC=Rε 0 ε r A / t
・・・(5.22)
式 (5.4)に 式 (5.20)、 式 (5.21)、 式 (5.22)を 代 入 す る こ と で 、 電 圧 感 度 Rv
と 膜 厚 t 、 チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f の 関 係 が 求 ま る 。 図 5 - 2 お よ び 図 5- 3
に 焦 電 体 と し て P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 お よ び Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク
スを用いた際の種々のチョッピング周波数 f における電圧感度の膜厚
依 存 性 を 示 す 。計 算 に 用 い た そ れ ぞ れ の 値 を 表 5 - 1 に 示 す 。焦 電 体 セ ラ
ミクスを用いる際には、なるべく膜厚の薄い素子を作製するためにス
ラ イ ス 法 や グ リ ー ン シ ー ト 法 (7)な ど が 検 討 さ れ て い る が 、 ス ラ イ ス 法
は 、 切 削 ・ 研 磨 な ど に よ り 焦 電 体 を 薄 く し て い く た め 、 膜 厚 は 100μm
程 度 が 限 界 で あ る 。 一 方 グ リ ー ン シ ー ト 法 は 、 Pb Ti O 3 粉 末 に バ イ ン ダ
ーを混ぜスリットコーター等を使用してフィルム上に塗布し乾燥・焼
結 さ せ る た め 、 ス ラ イ ス 法 に 比 べ 膜 厚 を 低 減 す る が 可 能 で あ る が 、 40
~ 5 0μ m 程 度 が 限 界 で あ る 。 受 光 部 の 形 状 と し て
P LT ( x = 0 . 1 5 )
+ 1 . 0 mo l % M n O 2 薄 膜 お よ び Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス 何 れ も 直 径 1 m m φ の 円 板
状 で 受 光 電 極 は 、直 径 0 . 3 m m φ の N i - C r 電 極 、下 部 電 極 は ( 1 0 0 ) 配 向 し た
Pt 電 極 と し 基 板 は ( 1 0 0 ) で 壁 開 し た M g O 単 結 晶 基 板 と し た 。
95
10
5
8
6
4
R V (V/W)
2
10
10Hz
20Hz
4
8
6
50Hz
4
100Hz
2
10
200Hz
3
8
6
4
2
10
2
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-2
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 電 圧 感 度 Rv の 膜 厚
依 存 ( P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 )
10
5
8
6
4
R V (V/W)
2
10
4
8
6
4
10
10
2
10Hz
20Hz
8
6
50Hz
4
100Hz
2
200Hz
3
2
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-3
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 電 圧 感 度 Rv の 膜 厚
依 存 性 ( Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス )
96
表 5-1
γ
P LT =
計算に用いた値
γ
1 5 . 8 × 1 0 - 8 ( C / c m 2 K)
ε r P LT = 2 5 3
1 . 8 × 1 0 - 8 ( C/ c m 2 K)
εr Pb TiO3 = 190
tanδ= 0.01
tanδ= 0.01
3
C v E L = 2 . 9 ( J / c m 3 K)
C v = 3 . 2 ( J / c m K)
k=
Pb TiO 3 =
3.2( W/ mK)
k E L = 1 3 ( W/ mK )
11
R= 1×10 (Ω)
t E L = 0 . 1 ( μ m)
r 1 = 0 . 1 5 ( m m)
r2= 0.5(mm)
η= 0.4
10Hz 程 度 の 低 い 周 波 数 に お い て 、Rv は 膜 厚 と と も に 増 加 す る が 、t
= 1 0 μ m 以 上 の 膜 厚 領 域 に お い て 飽 和 す る 。周 波 数 が 高 く な る に 従 っ て
Rv が 飽 和 す る 膜 厚 が 薄 く な り 、 100Hz 以 上 の 高 い 周 波 数 に お い て は 、
t = 1μm 以 上 の 領 域 に お い て Rv は t に 依 存 せ ず 一 定 と な っ た 。 ま た 、
Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 比 べ て P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 薄 膜 の R v は 1 桁
大きな値となっており、焦電係数の大きな焦電体材料の方がセンサー
の出力が増加することが分かる。
次に、ノイズと膜厚、チョッピング周波数の関係を求めた。前節で
述べたように焦電体材料特性、形状に関わるノイズ成分は、主に温度
ノイズ、誘電損ノイズ、入力抵抗ノイズであるため、焦電センサーの
全 ノ イ ズ 電 圧 VN は 次 の よ う に 表 さ れ る 。
VN= VNT+ VND+ VNR
= ( R v 2 ・ 4k T 2 G / η 2 + 4k T t a n δ t / ( ω ε 0 ε r A)
+ 4 k T R / { 1 + ( ω ε 0 ε r A / t ) 2 }) 1 / 2
・ ・・( 5 . 2 3 )
・
図 5 - 4 お よ び 図 5- 5 に 式 ( 5 . 2 3 ) か ら 求 め た P LT( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 mo l % M n O 2 薄
膜 お よ び Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス を 用 い た 際 の 種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 に
お け る 全 ノ イ ズ 電 圧 VN の 膜 厚 依 存 性 を 示 す 。
97
10
-5
8
6
10Hz
4
20Hz
2
100Hz
8
6
VN (V)
10
50Hz
-6
4
200Hz
2
10
-7
8
6
4
2
10
-8
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-4
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 全 ノ イ ズ 電 圧 VN の
膜 厚 依 存 ( P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 薄 膜 )
10
8
6
10
4
10Hz
2
20Hz
50Hz
-6
8
6
VN (V)
10
-5
100Hz
4
200Hz
2
-7
8
6
4
2
10
-8
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-5
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 全 ノ イ ズ 電 圧 VN の
膜 厚 依 存 性 ( Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス )
98
Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 何 れ に お い て も
膜厚が厚いほど、また周波数が低いほどノイズ電圧が増加することが
分 か る 。セ ラ ミ ク ス 等 の 厚 膜 材 料 は 、膜 厚 の 限 界 が 4 0~ 50 μ m 程 度 で あ
るため、同一周波数では薄膜型の方がノイズが少ないことが分かる。
図 5 - 6 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 薄 膜 ( 膜 厚 2 μ m ) を 用 い た 際 の 各 ノ
イ ズ 成 分 の 周 波 数 依 存 性 を 示 す 。ま た 、図 5- 7 に Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス ( 膜
Noise voltage (V)
厚 5 0 μ m) を 用 い た 際 の V N 、V N T 、V N D お よ び V N R の 周 波 数 依 存 性 を 示 す 。
10
-5
10
-6
10
-7
10
-8
10
-9
VN
VND
VNT
VNR
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5-6
P LT( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 mo l % M n O 2 薄 膜 ( 膜 厚 2 μ m) を 用 い た 際 の V N 、
VNT、 VND お よ び VNR の 周 波 数 依 存 性
99
10
-4
Noise voltage (V)
VN
10
-5
10
-6
VNR
VND
VNT
10
-7
10
-8
2
1
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5-7
P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス ( 膜 厚 50 μ m) を 用 い た 際 の V N 、 V N T 、 V N D
お よ び VNR の 周 波 数 依 存 性
一 般 に 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー に お い て は 、 誘 電 損 ノ イ ズ VND が 支 配 的
で あ る と 言 わ れ て い る 。 図 5 - 7 か ら 明 ら か な よ う に P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス
に お い て は 、 温 度 ノ イ ズ VNT よ り も 入 力 抵 抗 ノ イ ズ VNR お よ び 誘 電 損
ノ イ ズ VND の 方 が 大 き く 、 従 来 の 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー と 同 様 の 傾 向
を 示 し て い る 。 一 方 、 図 5 - 6 か ら 明 ら か な よ う に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l %
M n O 2 薄 膜 用 い た 焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー は 、チ ョ ッ パ ー と し て 用 い ら れ
る 数 Hz~ 数 十 Hz の 周 波 数 域 に お い て は 誘 電 損 ノ イ ズ VND よ り む し ろ
温 度 ノ イ ズ VNT の 方 が 支 配 的 で あ る こ と が 判 明 し た 。 こ れ は 、 本 研 究
に お け る P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 の 焦 電 係 数 が 従 来 の P b Ti O 3 セ
ラミクスに比べて 1 桁大きいため、温度揺らぎによる表面電荷即ち出
力の変動が大きいためと考えられる。
次 に 赤 外 線 セ ン サ ー の 出 力 と ノ イ ズ の 比 即 ち S/ N 比 に 相 当 す る 比 検
出 能 D * を 求 め た 。 こ こ で は 増 幅 器 の 帯 域 幅 を 1 Hz と し た 。 図 5- 8 お よ
び 図 5 - 9 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 薄 膜 お よ び Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス を
用 い た 際 の 種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 比 検 出 能 D*の 膜 厚 依
存性を示す。
100
10
9
7
6
5
4
2
20Hz
1/2
D (cmHz /W)
3
10
10Hz
8
50Hz
100Hz
*
7
6
5
200Hz
4
3
2
10
7
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
2
10
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-8
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 比 検 出 能 D*の 膜 厚 依
存 ( P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 )
10
9
7
6
5
4
2
1/2
D (cmHz /W)
3
10
8
20Hz
*
7
6
5
10Hz
4
50Hz
100Hz
200Hz
3
2
10
7
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-9
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 比 検 出 能 D*の 膜 厚 依
存 性 ( Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス )
101
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 、 Pb Ti O3 セ ラ ミ ク ス 何 れ に お い て も 膜
厚が薄いほど比検出能が高く赤外線センサーとしての性能が高くなる
こ と を 示 し て い る 。 し か し な が ら 、 Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス の 膜 厚 は 、 4 0 ~
5 0 μ m 程 度 が 限 界 で あ る た め D * の 値 は 、 1 ~ 2 × 1 0 7 c mH z 1 / 2 / W 程 度 し か 得
ら れ な い の に 対 し て 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 で は 、 膜 厚 2 μ m
の も の で は 、 3 ~ 5 × 1 0 8 c mH z 1 / 2 / W と な り 、 1 桁 以 上 性 能 が 向 上 す る こ と
がわかる。
図 5 - 1 0 お よ び 図 5 - 11 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 お よ び Pb Ti O 3
セ ラ ミ ク ス を 用 い た 際 の 種 々 の 膜 厚 に お け る 比 検 出 能 D*の 周 波 数 依 存
性を示す。
10
9
8
6
1μm
4
2μm
5μm
10μm
20μm
10
8
8
6
4
50μm
2
*
1/2
D (cmHz /W)
2
10
7
8
6
4
2
10
6
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5 - 10
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 を 用 い た 際 の 種 々 の 膜 厚
に お け る 比 検 出 能 D*の 周 波 数 依 存 性
102
10
9
8
6
4
10
8
1μm
8
6
2μm
5μm
10μm
20μm
4
2
*
1/2
D (cmHz /W)
2
10
7
8
6
50μm
4
2
10
6
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5 - 11
Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス を 用 い た 際 の 種 々 の 膜 厚 に お け る 比 検
出 能 D*の 周 波 数 依 存 性
図 5 - 11 に 示 す よ う に Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス を 用 い た 場 合 、 D * は 2 0 H z 付 近
に ピ ー ク を 持 ち 周 波 数 依 存 性 が 大 き い 。 こ の た め 、 P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス
を焦電型赤外線センサーに用いる際には、チョッピング周波数の最適
範囲が狭いためセンサーを設計する際には注意を要することがわかる。
一 方 、図 5 - 1 0 に 示 す よ う に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 を 用 い た 場
合 、比 検 出 能 D * の 周 波 数 特 性 は 1 0 H z か ら 6 0 H z 付 近 に お い て か な り 平
坦な特性を示し、チョッパーを設計する際の設計マージンが広く柔軟
な設計が可能であることが判明した。
こ れ ら の 特 性 か ら 、 Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 比 べ
P LT ( x = 0 . 1 5 )
+ 1 . 0 mo l % M n O 2 薄 膜 は 、焦 電 型 赤 外 線 セ ン サ ー 材 料 と し て 非 常 に 優 れ た
特性を有していることが明確となった。
図 5 - 1 2 に PLT 薄 膜 焦 電 体 材 料 を 用 い て 実 用 化 さ れ た 非 接 触 型 体 温 計
の概略図を示す。赤外線センサー部分にはポイント型薄膜焦電センサ
ーが使用されており、従来の接触式体温計では測定時間が 5 分程度、
予 測 式 で も 30 秒 ほ ど 必 要 と し て い た と こ ろ を 、数 秒 で 測 定 す る こ と が
可能となった。体温の測定部位としては、接触式体温計で一般に使用
されている脇下ではなく耳孔にレンズ部分を挿入することで測定誤差
が少なく、従来動きが激しいために正確な測定が困難であった乳幼児
103
の体温を短時間で正確に測定することが可能となった。
この様に、高性能な薄膜焦電体材料を赤外線センサーに使用するこ
とによって、赤外線センサーの応用分野を医療用などにも広げること
が可能となった。
図 5-12
薄膜焦電型赤外線センサーを用いた非接触耳孔型体温計
104
5 .4
地球観測衛星搭載用アレイ型赤外線センサー
への応用
第 1 章 で 述 べ た よ う に 、 大 気 中 の CO2 や 、 CH4 等 の 温 暖 化 ガ ス 並 び
に O3、 フ ロ ン ガ ス 等 を 地 球 規 模 で モ ニ タ リ ン グ す る た め に 人 口 衛 星 か
ら 地 球 の 大 気 を 観 測 す る 地 球 観 測 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 技 術 衛 星「 み ど り 」
( A D E O S ) ( 1 6 - 1 8 ) が 1 9 9 6 年 に 打 ち 上 げ ら れ た 。こ の 地 球 観 測 衛 星「 み ど り 」
には、太陽光を光源として日の出と日没に大気を透過する際の透過ス
ペクトルを観測することで大気中の二酸化炭素や、メタン等ガス成分
を モ ニ タ リ ン グ す る 改 良 型 大 気 周 縁 赤 外 分 光 計 (ILAS)(16,17)が 搭 載 さ れ
ている。
次 に 、ILAS の 最 も 重 要 な セ ン サ ー 部 分 で あ る 赤 外 検 出 器 の 設 計 仕 様
を 表 5-2 に 示 す 。
表 5-2
赤外検出器の仕様
分光方式
1 次元アレイ検出器を用いた回折格子分光器
素子数
44 素 子
素子間隔
0.4mm
波長分解能
0 . 1 2 μ m( 平 均 値 )
素子サイズ
0 . 4 m m× 3 . 8 m m
F値
4.0
チョッピング周波数
15Hz
電圧感度
300V/ W
等価ノイズ入力
( NE P )
1 . 1 n W/ Hz 1 / 2
上 記 仕 様 か ら 比 検 出 能 D*を 求 め る と
D*= A1/2/NEP
= 1.1×108 (cmHz1/2/W)
となり、高感度な焦電型赤外線センサーの開発が不可欠である。
105
焦電体薄膜材料を用いて 1 次元アレイ型センサーを構成する際には、
熱 容 量 を 小 さ く す る た め に 、 図 5-13 に 示 す よ う な 長 方 形 型 の 焦 電 体 薄
膜の長辺側を基板で支持したブリッジ型のセンサー構造が最も適して
いると考えられる。
下部電極(Pt)
MgO基板
焦電体
受光電極(Ni-Cr)
図 5-13
ILAS 用 1 次 元 ア レ イ 型 焦 電 セ ン サ ー の 概 略 図
次 に 、 前 節 と 同 様 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 を ブ リ ッ ジ 型 の
1 次 元 ア レ イ 赤 外 線 セ ン サ ー と し て 用 い る 際 の 感 度 や ノ イ ズ と 膜 厚 、チ
ョッピング周波数との関係について述べる。
受 光 部 の 形 状 と し て
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 は 、
1 7 . 6 m m × 3 . 8 m m の 長 方 形 の 板 状 で 受 光 電 極 は 、 幅 0 . 3 8 × 3 . 8 m m の Ni- Cr
電 極 、下 部 電 極 は ( 1 0 0 ) 配 向 し た P t 電 極 と し 基 板 は ( 1 0 0 ) で 壁 開 し た M g O
単結晶基板とした。
図 5-14 に 種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 電 圧 感 度 Rv の 膜 厚 依
存 、 図 5-15 に 種 々 膜 厚 に お け る 電 圧 感 度 Rv の 周 波 数 依 存 を 示 す 。 図
5 - 1 4 お よ び 図 5 - 1 5 か ら 、各 周 波 数 と も に 2 μ m 以 上 の 膜 厚 領 域 に お い て
Rv は 、 膜 厚 に よ ら ず ほ ぼ 一 定 値 に 飽 和 し 、 主 に チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f
によって決定されることが分かる。
106
10
4
8
6
4
R V (V/W)
2
10
10Hz
3
8
6
20Hz
4
50Hz
2
10
100Hz
2
8
6
200Hz
4
2
10
1
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-14
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 電 圧 感 度 Rv の 膜 厚
依存
10
4
8
6
4
R V (V/W)
2
10
3
8
6
4
2
10
2
50μm
20μm
8
6
4
5μm
10μm
2μm
1μm
2
10
1
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
Frequency (Hz)
図 5-15
種 々 膜 厚 に お け る 電 圧 感 度 Rv の 周 波 数 依 存
107
5 6 7 8
1000
図 5-16 に 種 々 の 膜 厚 に お け る 全 ノ イ ズ 電 圧 VN の 周 波 数 依 存 性 を 示
VN (V)
す。
10
-5
10
-6
10
-7
10
-8
50μm
20μm
10μm
5μm
2μm
10
1μm
-9
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5-16
種 々 の 膜 厚 に お け る 全 ノ イ ズ 電 圧 VN の 周 波 数 依 存 性
図 5-16 か ら 、 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー に お い て も ポ イ ン ト 型
赤外線センサーと同様の傾向を示し、膜厚の増加、またチョッピング
周波数 f の低下とともにノイズが増加することが分かる。
図 5 - 1 7 に 膜 厚 2μ m に お け る 各 ノ イ ズ 成 分 の 周 波 数 依 存 を 示 す 。 図
5-17 に お い て 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー は 、 ポ イ ン ト 型 赤 外 線 セ
ンサー比べ全ノイズ電圧は 1 桁低く、温度ノイズ成分は入力抵抗ノイ
ズ成分と同程度に低く、焦電型センサーとしてのノイズは主に誘電損
ノイズ成分よって決まることが分かる。これは、受光部の面積がポイ
ント型センサーに比べて 1 桁大きいためである。
108
10
-6
Noise voltage (V)
VN
10
-7
VND
VNT
10
-8
10
-9
10
VNR
-10
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5-17
膜 厚 2μm に お け る 各 ノ イ ズ 成 分 の 周 波 数 依 存
次 に 、図 5 - 1 8 に 種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 比 検 出 能 D * の
膜 厚 依 存 性 を 、図 5 - 1 9 に 種 々 の 膜 厚 に お け る 比 検 出 能 D * の 周 波 数 依 存
性 を 示 す 。 ま た 比 較 の た め 、 焦 電 体 材 料 と し て Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス を 用
い た 際 の 種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 比 検 出 能 D*の 膜 厚 依 存
性 を 図 5-20 に 、 種 々 の 膜 厚 に お け る 比 検 出 能 D*の 周 波 数 依 存 性 を 図
5-21 に 示 す 。
109
10
10
8
6
4
10
10Hz
9
8
6
1/2
D (cmHz /W)
2
20Hz
4
*
2
10
50Hz
100Hz
200Hz
8
8
6
4
2
10
7
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
2
10
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-18
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 比 検 出 能 D*の 膜 厚
依 存 性 ( P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 薄 膜 )
10
10
9
10
8
10
7
10
6
1μm
2μm
5μm
1/2
D (cmHz /W)
10
*
10μm
20μm
50μm
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5-19
種 々 の 膜 厚 に お け る 比 検 出 能 D*の 周 波 数 依 存 性
( P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 薄 膜 )
110
10
10
8
6
4
10Hz
10
20Hz
50Hz
9
8
6
1/2
D (cmHz /W)
2
4
*
2
10
8
8
6
100Hz
200Hz
4
2
10
7
0.1
2
3
4
5 6 7 8
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
Thickness (μm)
図 5-20
種 々 の チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f に お け る 比 検 出 能 D*の 膜 厚
依 存 性 ( Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス )
10
10
9
1μm
2μm
5μm
1/2
D (cmHz /W)
10
8
10
7
10
6
*
10
10μm
20μm
50μm
1
2
3
4
5 6 7 8
10
2
3
4
5 6 7 8
100
2
3
4
5 6 7 8
1000
Frequency (Hz)
図 5-21
種 々 の 膜 厚 に お け る 比 検 出 能 D*の 周 波 数 依 存 性
( Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス )
111
図 5-18 か ら 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー は 、 ポ イ ン ト 型 赤 外 線 セ ン
サ ー 比 べ 比 検 出 能 D * は 1 桁 程 度 高 く 、高 感 度 化 し て い る こ と が 分 か る 。
ま た 図 5 - 19 か ら 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー 比 検 出 能 D * は 、ポ イ ン
ト 型 赤 外 線 セ ン サ ー と は 異 な り 、 1 0 Hz か ら 数 十 Hz の 波 数 域 に お け る
比 検 出 能 D * の ピ ー ク は 見 ら れ ず 、周 波 数 の 低 下 と と も に D * が 増 加 す る
傾向がみられた。これは受光部面積の増加によってピーク位置が低周
波数側にシフトしたためであり、この 1 次元アレイ型赤外線センサー
に お い て は 、 チ ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 f を 減 少 さ せ る こ と で D*を 増 加 さ せ
ることが可能である。
一 方 、 焦 電 体 材 料 と し て Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス を 用 い た 1 次 元 ア レ イ 型
赤 外 線 セ ン サ ー は 、図 5- 20 お よ び 図 5 - 2 2 に 示 す よ う に 、同 一 膜 厚 、同
一 周 波 数 で 比 較 し て も P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 に 比 べ て D * が 1
桁 低 い こ と が 分 か る 。 ま た 、 ILAS の 赤 外 線 検 出 器 の 設 計 仕 様 で あ る チ
ョ ッ ピ ン グ 周 波 数 15Hz に お け る D*の 値 は 、 セ ラ ミ ク ス の 限 界 膜 厚 で
あ る 40~ 50μm と す る と 、
D * P b T i O 3 = 4 ~ 5 × 1 0 7 c mHz 1 / 2 / W
程 度 で あ る の に 対 し て 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 を 用 い た 場 合
は 、 膜 厚 が 2~ 5μm に お い て
D * P LT + M n = 1 ~ 2 × 1 0 9 c mH z 1 / 2 / W
と 、 Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 比 べ て 2 桁 程 度 増 加 す る こ と が 判 明 し た 。
ま た 、 こ の と き の 電 圧 感 度 Rv は 、 そ れ ぞ れ 、
R v P b T i O 3 = 8 0 ~ 9 0 V/ W
R v P LT + M n = 500 ~ 600V/ W
で あ り 、ILAS の 設 計 仕 様 に お け る Rv お よ び NEP か ら 算 出 し た D*の 値
は、
R v = 3 0 0 V/ W
D * = 1 . 1 × 1 0 8 c mH z 1 / 2 / W
で あ る 。こ の た め Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス で は 、I L A S の 赤 外 線 検 出 器 の 設 計
仕 様 を 満 た す こ と が で き な い の に 対 し て 、 P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2
薄膜を用いることによって、設計仕様を十分に満たすことが可能であ
ることが分かる。
表 5 - 3 に P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1. 0 m o l % M n O 2 薄 膜 を 用 い た 1 次 元 ア レ イ 型 赤
外線センサーの基本特性を示す。
以 上 の 結 果 か ら 、 P LT( x = 0 . 1 5 ) に 1 . 0 mo l % の M n O 2 を 添 加 し た
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 の 高 度 に c 軸 配 向 し た エ ピ タ キ シ ャ ル 薄 膜
112
を 用 い る こ と に よ っ て 、地 球 観 測 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 技 術 衛 星「 み ど り 」
に 搭 載 す る ILAS 用 の 高 感 度 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー を 実 現 す る
ことが可能であることが明らかとなった。
表 5-3
P LT( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 mo l % M n O 2 薄 膜 を 用 い た
1 次元アレイ型赤外線センサーの基本特性
PLT+ M n 薄 膜
電 圧 感 度 ( 15 Hz ) ( V/ W)
比 検 出 能 (cmHz
1/2
/ W)
600
2× 1 0
P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス
90
9
5×107
素 子 数 (本 )
44
44
素子サイズ
0 . 4 m m× 3 . 8 m m
0 . 4 m m× 3 . 8 m m
膜 厚 ( μ m)
2
40
113
5 .5
まとめ
本 章 で は 、 前 章 で の M n ド ー プ を 行 っ た P LT の c 軸 配 向 膜 の 評 価 結
果を受け、ポイント型赤外線センサーおよび地球観測衛星搭載用 1 次
元アレイ型センサーへの適用に向けてセンサーデバイスの特性の試算
評価を行い、この材料を用いた c 軸配向エピタキシャル薄膜が焦電型
赤外線センサー用薄膜材料として非常に優れていることを示した。表
5 - 4 に I L AS 用 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 設 計 仕 様 お よ び
P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2 薄 膜 を 用 い た 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ
ー の 特 性 を 示 す 。 本 研 究 に お い て 得 ら れ た Mn 添 加 エ ピ タ キ シ ャ ル c
軸 配 向 P LT 薄 膜 を 用 い る こ と に よ っ て 、I L A S の 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線
センサーの設計仕様を十分に満足する高性能焦電体赤外線センサーを
実現することができることを示した。
表 5-4
I L AS 用 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー
I L AS 設 計 仕 様
電 圧 感 度 ( 1 5 H z ) ( V/ W)
比 検 出 能 (cmHz
1/2
/ W)
300
PLT + M n 薄 膜
600
1.1×10
8
2×109
素 子 数 (本 )
44
44
素子サイズ
0 . 4 m m× 3 . 8 m m
0 . 4 m m× 3 . 8 m m
膜 厚 ( μ m)
2
-
114
参考文献
(1)
赤 外 線 技 術 研 究 会 編 ; 赤 外 線 工 学 (オ ー ム 社 1991)
(2)
工 業 調 査 会 編 ; セ ン サ ー 活 用 技 術 (1984)
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(4)
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Ap p l . Phy s . 40 ( 2 0 0 1 ) 7 1 3 .
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9 3 ( 19 9 4 ) 5 9 .
115
第6章
結論
本章では、本研究で得られた結論を総括して述べる。本論文は、地
球環境観測衛星に搭載する高感度赤外線センサーを開発するために、
従来のセラミクス材料に対して 1 桁以上感度の高い焦電体赤外線セン
サ ー 材 料 の 創 生 を 目 的 と し て 、RF マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 に よ
る P b 1 - x L a x Ti 1 - x / 4 O 3 ( PLT) 系 焦 電 体 材 料 の 高 品 位 薄 膜 の 作 製 と 添 加 物 に
よる相転移挙動の制御および 1 次元アレイセンサーへの応用に関する
研究をまとめたものである。本研究では、高度に c 軸配向しエピタキ
シ ャ ル 成 長 し た P LT 薄 膜 の 作 製 に 成 功 し 、 更 に こ れ ま で 成 膜 が 困 難 で
検 討 さ れ て い な か っ た 高 L a 組 成 の PLT 薄 膜 の 作 製 に も 成 功 し 、PLT 薄
膜の焦電特性を明らかにした。また、最も焦電係数が高かった
P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 の 焦 電 係 数 を 更 に 向 上 さ せ る た め に M n 添 加 に よ る 改
善 を お こ な っ た 。 そ の 結 果 、 従 来 の Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 比 べ て 焦 電 係
数 を 1 桁 向 上 さ せ る こ と に 成 功 し た 。 こ の P LT( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 mo l % M n O 2
薄膜をポイント型赤外線センサーおよび 1 次元アレイ型赤外線センサ
ー の 焦 電 体 素 子 と し て 使 用 す る こ と で 従 来 の Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 対 し
て 1 桁以上感度を向上させることが可能であることを明確にした。
以下に本研究によって得られた主な結論を述べる。
( 1 ) R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ 法 に よ る P LT 薄 膜 の 作 製 を 試 み 、
成 膜 条 件 を 最 適 化 す る こ と で c 軸 配 向 率 α が 90 % 以 上 の 非 常 に 配 向
性 の 良 い PLT 薄 膜 を 作 製 す る こ と に 成 功 し 、 R HE E D お よ び T E M に
よ っ て M g O お よ び Pt 基 板 上 に エ ピ タ キ シ ャ ル 成 長 し て い る こ と を
確 認 し た 。 ま た 従 来 、 c 軸 配 向 が 困 難 で あ っ た 高 La 組 成 域 の PLT 薄
膜 を 、基 板 上 に バ ッ フ ァ ー 層 と し て P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 を 1 0 n m 成 膜 し 、
そ の 上 に La 濃 度 x = 0 . 2 0 ~ 0 . 3 0 の P LT 薄 膜 を 作 製 す る 二 段 階 成 膜 に よ
っ て c 軸 配 向 し た 高 L a 組 成 の P LT 薄 膜 を 作 製 す る こ と に 成 功 し た 。
( 2 ) 作 製 し た 種 々 の La 濃 度 の PLT 薄 膜 の 誘 電 率 の 温 度 特 性 を 、 両 対 数
軸 に よ る C u r i e - We i s s プ ロ ッ ト を 行 い 解 析 し た 結 果 、相 転 移 の 緩 や か
さ を 示 す D i ff u s e n e s s が x = 0 . 1 5 付 近 か ら 急 増 し 、 高 L a 組 成 域 に お け
る P LT 薄 膜 の 相 転 移 挙 動 が 、 x = 0 . 1 5 付 近 を 境 に 通 常 の 常 誘 電 - 強 誘
電相転移から散漫相転移へ急激に移行し比誘電率が急増すると共に、
x=0.20 以 上 の 組 成 域 に お い て は 焦 電 係 数 が 逆 に 低 下 す る こ と を 明 ら
か に し た 。 P LT ( x = 0 . 1 5 ) 薄 膜 に お け る 散 漫 相 転 移 の 原 因 に つ い て
116
Vo g e l - F u l c h e r プ ロ ッ ト に よ る 解 析 を 行 っ た 結 果 、 活 性 化 エ ネ ル ギ ー
が 1 7 . 9 m e V と 小 さ く 、酸 素 欠 陥 や Ti イ オ ン の 酸 化 数 の 変 化 に よ る リ
ークではなく、ミクロスコピックな領域での組成の揺らぎに起因す
る こ と を 明 ら か に し た 。PLT 薄 膜 の 焦 電 係 数 は La 濃 度 x = 0 . 1 5 で 最 大
と な り γ= 9.5×10-8C/cm2 で あ っ た 。
( 3 ) 焦 電 係 数 の 更 な る 向 上 と 比 誘 電 率 の 低 減 と い う 、相 反 す る 課 題 を 解
決するために添加物による散漫相転移の抑制を試み、複数の酸化数
を と る こ と で 電 荷 の ア ン バ ラ ン ス を 補 償 し 得 る Mn に 着 目 し 、
P LT ( x = 0 . 1 5 ) に M n O 2 を 0 ~ 1 . 7 m o l % 添 加 し c 軸 配 向 薄 膜 を 作 製 し た 。
そ の 結 果 、M n O 2 添 加 量 が 1 . 0 m o l % に お い て 、焦 電 係 数 が 最 も 向 上 し 、
γ = 1 5 . 8 × 1 0 - 8 C / c m 2 と 従 来 の P b Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 対 し て 焦 電 係 数 を 1
桁 向 上 さ せ る こ と に 成 功 し た 。 作 製 し た P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M n O 2
薄 膜 は 、Di ff u s e n e s s が 減 少 し 、P- E ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ も 大 き く 対 称
的 に 開 い て 残 留 分 極 が 増 加 し 、M n を 添 加 す る こ と で 散 漫 相 転 移 が 抑
制 さ れ る こ と を 実 証 し た 。こ の 様 な 、M n 添 加 に よ る PLT 薄 膜 の 散 漫
相転移の抑制に関する研究例は、これまで報告されておらず本研究
が初めてのことである。
( 4 ) P LT ( x = 0 . 1 5 ) + 1 . 0 m o l % M nO 2 薄 膜 を ポ イ ン ト 型 赤 外 線 セ ン サ ー お よ
び 1 次元アレイ型赤外線センサーへ応用する際に重要となる、電圧
感度、ノイズ電圧、比検出能等の赤外線センサーとしての特性を試
算 し Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス と 比 較 検 討 を 行 っ た 。そ の 結 果 、R v = 6 0 0 V/ W、
D * = 2 × 1 0 9 c mH z 1 / 2 / W と 従 来 の Pb Ti O 3 セ ラ ミ ク ス に 対 し て 、電 圧 感 度 、
比検出能ともに 1 桁以上高い優れた特性をもち、地球観測プラット
フ ォ ー ム 技 術 衛 星 「 み ど り 」 (ADEOS)に 搭 載 す る 改 良 型 大 気 周 縁 赤
外 分 光 計 (ILAS)用 の 高 感 度 1 次 元 ア レ イ 型 赤 外 線 セ ン サ ー の 設 計 仕
様 ( R v = 3 0 0 V/ W 、 D * = 1 . 1 × 1 0 8 c mH z 1 / 2 / W) を 十 分 に 満 た す こ と を 明 ら
か に し た 。 ま た 、 こ の PLT 系 薄 膜 を 用 い た ポ イ ン ト 型 赤 外 線 セ ン サ
ーは非接触型体温計として実用化された。
最後に、本研究で得られた高品位成膜技術および高性能薄膜焦電体
材料は、今後の電子デバイス開発の発展のみならず、人体センシング
や 車 載 用 ナ イ ト ビ ジ ョ ン 、環 境 モ ニ タ リ ン グ 、リ モ ー ト セ ン シ ン グ 等 、
人々の暮らしを取り巻く安全で快適な社会の実現ならびに地球環境の
保全技術に寄与するものと考えられる。
117
謝辞
本研究の遂行と論文作成にあたり、懇切なる御指導と御鞭撻を賜り
ました、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科
塩嵜忠教
授に衷心よりの感謝の意を表します。
また御親切なる御討論と御教示を賜りました奈良先端科学技術大学
院大学物質創成科学研究科
冬木隆教授、大門寛教授、内山潔准教授
に心より深く感謝致します。
本研究の場を与えて頂きましたパナソニック株式会社先端技術研究
所所長
上田大助博士、パナソニック株式会社先端技術研究所ナノテ
クノロジー研究所ナノプロセス技術グループマネージャー
藤井映志
博士に深甚なる謝意を表します。
本論文の作成にあたり、多大なる御指導と御鞭撻を頂きましたパナ
ソニック株式会社中尾研究所技監
飯島賢二博士に心から感謝致しま
す。
本研究の遂行にあたり、貴重な御助言、御討論と多大な御協力を頂
きましたパナソニック株式会社先行デバイス開発センター
博 士 、パ ナ ソ ニ ッ ク 株 式 会 社 映 像 デ バ イ ス 開 発 セ ン タ ー
パナソニック株式会社セミコンダクター社
博士、京都大学大学院工学研究科
高山良一
竹内孝之氏、
冨田佳宏氏、故上田一朗
和佐清孝博士、日頃有益な御討論
を頂きましたパナソニック株式会社先端技術研究所ナノテクノロジー
研究所
足立秀明博士、張替貴聖博士、パナソニック株式会社先行デ
バイス開発センター
北畠真博士、日頃の業務に関しまして多大な御
協力を頂きましたパナソニック株式会社先端技術研究所ナノテクノロ
ジー研究所の各氏の方々に深く感謝致します。
また学位取得にあたり温かい御指導と激励を賜りましたパナソニッ
ク株式会社役員
権センター
上 野 山 雄 博 士 、パ ナ ソ ニ ッ ク 株 式 会 社 R& D 知 的 財 産
日比野純一氏、パナソニック株式会社映像デバイス開発
セ ン タ ー PDP 開 発 グ ル ー プ マ ネ ー ジ ャ ー
高田祐助氏、パナソニック
株 式 会 社 AVC ネ ッ ト ワ ー ク ス 社 映 像 ・ デ ィ ス プ レ イ デ バ イ ス 事 業 グ ル
ー プ PDP 先 行 開 発 グ ル ー プ マ ネ ー ジ ャ ー
北川雅俊博士に深く感謝致
します。
本研究はこれら多くの方々の御指導と御協力により達成されたもの
であり、ここに心より厚く御礼申し上げます。
118
研究業績
1. 学 術 誌 発 表 論 文
( 1 ) “ Pr e p a r a t i o n a n d Pr o p e r t i e s o f ( Pb , La ) Ti O 3 P y r o e l e c t r i c T h i n F i l ms b y
R F - M a g n e t r o n S p u t t e r i n g ” , N o b u a k i N a g a o , Ta k a y u k i Ta k e u c h i a nd
K e n j i I i j i m a , J p n . J . A p p l . P h y s . , 32 ( 9 B ) , ( 1 9 9 3 ) 4 0 6 5 - 4 0 6 8 .
( 2 ) “ P r e p a r a t i o n o f P b - B a s e d F e r r o e l e c t r i c s T h i n F i l ms b y R F - M a g n e t r o n
S p u t t e r i n g M e t h o d a n d T h e i r P r o p e r t i e s ” , N o b u a k i N a g a o, Ta k a y u k i
Ta k e u c h i a n d K e n j i I i j i m a , Tra ns . M a t . Re s . So c . J pn ., 1 4 B , ( 1 9 9 4 )
1667-1670.
( 3 ) “ G i a n t p y r o e l e c t r i c c o e ff i c i e nt o f M n- d ope d PLT t hi n fi l ms e pi t a xi a l l y
g r o wn o n ( 0 0 1 ) Pt / M g O. ” , No b u a k i Na g a o a n d K e n j i I i j i ma : t o b e
p u b l i s h e d i n Va c uu m , ( 2 0 0 9 ) .
( 4 ) “ S p u t t e r i n g o f L e a d - B a s e d F e r r o e l e c t r i c s ” , K e n j i I i j i ma , Nob u a k i Na g a o ,
Ta k a y u k i Ta k e u c h i , I c h i r o U e d a , Yo s h i h i r o To m i t a a n d Ry o i c h i
Ta k a y a m a , M a t . R e s . S o c . S y m p . P r o c . 3 1 0, ( 1 9 9 3 ) 4 5 5 - 4 6 5 .
( 5 ) “ P r e p a r a t i o n a n d p r o p e r t i e s o f L a n t h a n u m M o d i f i e d P b Ti O 3 T hi n Fi l ms
b y R F - M a g n e t r o n S p u t t e r i n g ” , K e n j i I i j i m a , Ta k a y u k i Ta k e u c h i ,
No bu aki Na gao , Ry o i c hi Ta k a y a m a a n d I c h i r o U e d a , P r o c . 9 t h I E EE
International Symposium on Applications of Ferroelectrics, (1994)
53-58
2. 学 会 ・ 研 究 会 発 表
( 1 ) 「 R F マ グ ネ ト ロ ン ス パ ッ タ リ ン グ に よ る ( P b , L a ) Ti O 3 焦 電 体 薄 膜 の
作 製 と そ の 特 性 」, 長 尾 宣 明 , 竹 内 孝 之 , 飯 島 賢 二 : 第 9 回 強 誘 電
体 応 用 会 議 ( 19 9 3 ) .
( 2 ) “ S p u t t e r i n g o f L e a d - B a s e d F e r r o e l e c t r i c s ” , K e n j i I i j i ma , Nob u a k i Na g a o ,
Ta k a y u k i Ta k e u c h i , I c h i r o U e d a , Yo s h i h i r o To m i t a a n d Ry o i c h i
Ta k a y a m a : M a t e r i a l R e s e a r c h S o c i e t y S y m p o s i u m ( 1 9 9 3 )
119
( 3 ) “ P r e p a r a t i o n o f P b - B a s e d F e r r o e l e c t r i c s T h i n F i l ms b y R F - M a g n e t r o n
S p u t t e r i n g M e t h o d a n d T h e i r P r o p e r t i e s ” , N o b u a k i N a g a o, Ta k a y u k i
Ta k e u c h i a n d K e n j i I i j i ma : T h e 3 r d I U M R S I n t e r n a t i o n a l C o n f e r e nc e
o n A d v a n c e d M a t e r i a l s ( 19 9 3 )
( 4 ) “ P r e p a r a t i o n a n d p r o p e r t i e s o f L a n t h a n u m M o d i f i e d P b Ti O 3 T hi n Fi l ms
b y R F - M a g n e t r o n S p u t t e r i n g ” , K e n j i I i j i m a , Ta k a y u k i Ta k e u c h i ,
No bu aki Na gao , Ry o i c h i Ta k a y a m a a nd I c h i r o U e d a : T h e 9 t h I E E E
International Symposium on Applications of Ferroelectrics (1993).
3. そ の 他 発 表 論 文
( 1 ) “ D i e l e c t r i c R e l a x a t i o n s o f E t h y l e n e I o n o m e r s . ” , S h i n i c h i Ya n o , N o b u a k i
Na gao ,
Masayuki
Hattori,
Eisaku
Hirasawa
and
Kenji
Ta d a n o ,
M a c r o m o l e c u l e s 2 5 ( 1 ) ( 19 9 2 ) 3 6 8 - 3 7 6 .
( 2 ) “ E ff e c t s o f Wa t e r S o r p t i o n o n t h e St r uc t u r e a n d P r o p e r t i e s o f E t h y l e n e
I o n o m e r s . ” , S h o i c hi K u t s u m i z u , N o b u a k i N a g a o , K e n j i Ta d a n o , H i t o s h i
Ta c hi n o , E i s a k u H i r a s a w a a n d Sh i n i c h i Ya n o , M a c r o mo l e c u l e s 2 5 ( 2 5 )
(1992) 6829-6835.
( 3 ) “ Di e l e c t r i c R e l a x a t i o n St u d i e s o n Wa t e r A b s o r p t i o n o f E t h y l e ne
I o n o m e r s . ” , S h i ni c h i Ya n o , K e n j i Ta d a n o a n d N o b u a k i N a g a o , S h o i c h i
K u t s u m i z u , H i t os h i Ta c hi n o a n d E i s a k u Hi r a s a w a , M a c r o mo l e c u l e s , 2 5
(26) (1992) 7168-7171
( 4 ) “ De v e l o p m e n t o f A g F e n c e E l e c t r o d e St r uc t u r e P D P w i t h o u t I TO ” ,
No bu aki Na gao , N a o k i K o s u g i , Tor u A n d o , Yus u k e Ta k a t a , M a s a k i
N i s h i mu r a , K e i s u k e S u m i d a a n d S h i n y a F u j i w a r a , P r o c . 9 t h I D W2 002
(2002).
(5) “Development of Plasma Display Panel using Ag Fence Electrode
St r uc t u r e w i t h o u t I TO. ”, No bua ki Na g a o , Tor u A n d o , S h i n y a F u j i w a r a ,
Hideki Ashida, Daisuke Adachi, Proc. ICCE2003, (2003) 17-19.
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