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Title
Author(s)
セルロースからの直接エネルギー変換システム
菅野, 康仁
Citation
Issue Date
Text Version ETD
URL
http://hdl.handle.net/11094/334
DOI
Rights
Osaka University
セル ロー スか らの直接エネルギ ー変換 システム
Directenergyconversionsystemfromcellulose
2010年
大 阪 大 学 大 学 院 工 学研 究 科
菅 野
精 密科 学 ・応 用 物 理 学 専 攻
康仁
YasuhitoSugano
学位論文
Directenergyconversionsystemfromcellulose
セ ル ロー ス か らの 直 接 エ ネ ル ギ ー 変 換 シ ス テ ム
大阪大学大学院工学研究科
精密科学 ・応用物理学専攻
博 士 後 期課 程3年
菅野
康仁
目次
第1章
序 論
1-1緒
言5
1-2既
往 の セル ロー ス 系 バ イ オマ ス か らのエ ネ ル ギー 変 換 技 術7
1-3燃
料電 池 を用 い たセ ル ロー ス 系バ イ オ マ ス か らのエ ネ ル ギ ー 変 換 技 術..8
1-3-1微 生 物 燃 料電 池15
1-3-2酵 素 燃 料 電 池17
1-3-3金 属 燃 料 電 池18
1-4本
研 究 の 目的 と意 義19
参 考 文 献22
第2章
セ ル ロー ス の電 気化 学 的直 接 酸 化 反 応 系 の構 築
2-1緒
言26
2-2セ
ル ロー ス の溶 解27
2-2-1溶
解 前 後 にお け るセ ル ロー ス の 結 晶構 造 変 化30
2-3セ
ル ロ ー ス の電 気 化 学 的酸 化 反 応31
2-4電
気 化 学 的酸 化 反 応 に よ るセ ル ロー ス の構 造 変 化37
2-5電
気 化 学 的酸 化 反 応 に対 す るセ ル ロー ス の分 子 サ イ ズ の影 響39
2-6セ
ル ロー ス 燃 料 電 池 の作 製 ・評価43
2-7ま
とめ44
2
参 考 文献45
第3章
電 気 化 学 的 に直 接 酸 化 され た セ ル ロー ス誘 導 体 の構 造解 析
3-1緒
言47
3-2セ
ル ロー ス の 電 気 化 学 的 酸 化 反応 と反 応 電子 数47
3-3電
気 化 学 的 に酸 化 され た セ ル ロー ス 誘 導 体 の 構 造解 析49
3-3-1酸
化 セ ル ロー ス 誘導 体 の特 性 変 化49
3-3-2酸
化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の構 造 変 化52
3-3-3酸
化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の 分子 量 分 布58
3-4セ
ル ロー ス の電 気 化 学 的酸 化 反 応 機 構 に関 す る考 察60
3-5酸
化 セ ル ロー ス誘 導 体 の被 分 解 能 の評 価62
3-6ま
とめ64
参 考 文 献65
第4章
セ ル ロー ス分 解 のた め の生体 構 造 模 倣 型 人 工触 媒 系 の創 生
4-1緒
言67
4-2生
体 構 造模 倣 型 人 工 触 媒 の作 製70
4-3生
体 構 造模 倣 型 人 工 触 媒 の触 媒 発 現 とpH依
4-4生
体 構 造模 倣 型 人 工 触 媒 の触 媒能 と機 能 化CNT量
4-5ア
ミ ノ酸修 飾 によ る生体 構 造 模 倣 型 人 工触 媒 の触 媒 発 現 へ の影 響...。..76
4-6生
体 構 造模 倣 型 人 工 触 媒 の 反応 効 率80
3
存 性73
の 関 係74
4-7ま
とめ87
参 考 文 献88
第5章
総 括89
業績 リス ト95
謝 辞101
4
第1章
序 論
1-1緒
論
産 業 革 命 以 降 、 石 油 な どの化 石 資源 か ら、 エ ネ ル ギ ー や 工業 原 料 を統 合 的 に
製 造 す る技 術 体 系 で あ るオ イ ル リ フ ァイ ナ リー は 、20世
紀 に お け る 先進 諸 国 の
発 展 に 大 き く貢 献 した 。 しか し、 化 石 資 源 の 大 量 消 費 は 、温 暖 化 や 大 気 汚 染 な
どの 、 地 球 規 模 で の環 境 問 題 を深 刻 化 させ た 。 また 、化 石 資 源 の採 掘 可 能 埋 蔵
量 も、 石 油 で は約40年
程 度 と見 積 も られ 、資 源 の枯 渇 に よ るエ ネ ル ギ ー お よ び
物 質 供 給 問 題 が 危 惧 さ れ て きて い る。 この よ うな 環 境 お よ び エ ネル ギ ー ・物 質
供 給 問 題 の解 決 策 の 一 つ と して 、 従 来 の 化 石 資 源 の 消 費 型 社 会 か ら、 再 生 可 能
な 資 源 を利 用 した循 環 型 社 会 へ の転 換 が 必 要 で あ る と考 え られ て い る。 特 に、
環 境 負 荷 が 少 な く、 再 生 可 能 な 石 油 代 替 エ ネ ル ギ ー の 導 入 が 重 要 で あ る と言 わ
れ て い る。1-3再 生 可 能 工 ネ ル ギ ー には 、 太 陽光 や 風 力 、 波 力 、 地 熱 な どが 検 討
され て い るが 、 場所 に よ って 利 用 可 能 な 資 源 量 が 異 な る こ とや 、 自然 条 件 に左
右 され る とい った 問 題 が あ る 。そ こで 、 再 生 可 能 で あ る だ けで な く、 炭 素 源 の
サ イ クル と して カ ー ボ ンニ ュ ー トラル な 資 源 で あ るバ イ オ マ ス が 注 目され て い
る 。1-7バ イ オマ ス は、 太 陽 エネ ル ギ ー を有 機 物 の形 で 固定 化 した動 植 物 体 で あ
り、 地 球 上 に 豊 富 に、 広 域 に分 布 して い る再 生 可 能 資 源 で あ る 。 そ の持 続 可 能
な管 理 の下 で 資 源 と して 使 用 され れ ば 、 地 球 温 暖 化 の原 因 の 一 つ と考 え られ て
い るCO2の
増 大 に寄 与 しな い。 ま た、 廃 棄 物 系バ イ オ マ ス な ど を、 有用 物 質 に
5
変 換 す る こ と(バ
イ オ マ ス リフ ァイ ナ リー)が
可 能 で あ るた め 、総 合 的 な エ ネ
ル ギ ー の安 定 性 や 利 用 範 囲 の広 さ な どの 点 で 、バ イ オ マ スが 石 油 代 替 資 源 の 一
つ と して 期 待 され て い る(図L1)。
バ イ オ リフ ァイ ナ リー で は、 食 料 と競 合 しな い 、 食 品 廃 棄 物 や 林 地 残 材 、 農
業残 渣 な どの 廃棄 また は未 利 用 の セ ル ロー ス 系バ イ オ マ ス を 、 エ ネ ル ギ ー お よ
び物 質 供給 源 と して有 効 利 用 す る こ とが 、特 に重 要 な 課 題 とな って い る。8冒16し
か し、 セ ル ロー ス 系 バ イ オ マ ス は 難 分解 ・難 溶 解 性 で あ り、 そ の 利 活 用 は 円滑
には 進 ん で い な い とい う現 状 が あ る。図1.2は
、我 が 国 の 各種 バ イ オマ ス の利 用
状 況 を示 した もの で 、 林 地 残 材 や 食 品 廃 棄 物 、稲 ワ ラや もみ 殻 な どの 農 業 残 渣
な どの 利 用 率 が 低 い。 食 料 と競 合 しな い 、 これ らの セ ル ロー ス 系 バ イ オ マ ス を
有効 活 用 して い く ことが 、 資 源 の 少 な い我 が 国 に と って 、特 に 重 要 な 課 題 とな
って い る。
6
1.2既 往 のセ ル ロー ス 系 バ イ オ マ ス か らの エ ネ ル ギ ー 変 換 技術
現 在 、セ ル ロー ス 系 バ イ オ マ ス の 実 用 的 な 利 用 に 向 け た研 究 開 発 が 求 め られ
て い る 。セ ル ロー ス 系バ イ オ マ ス 、 特 に そ の 主 成 分 で あ るセ ル ロー ス は 、 エ タ
ノー ル や 水 素 な どのエ ネル ギ ー 、 また は 機 能 性 の 樹 脂 や ポ リマ ー 、 プ ラス チ ッ
クな どの物 質 供 給 源 と成 り得 るた め 、 さ ま ざ まな 分 野 で そ の 利 用 技 術 に関 す る
研 究 が 盛 ん に行 わ れ て い る 。 セ ル ロー ス は グル コー ス(ま
位)の
た はセ ロ ビオ ー ス 単
ポ リマ ー で 、 植 物 の 細 胞 壁 な どに含 まれ 、 木 材 な どの 強 固 な構 造 に寄 与
して い る。 グル コー ス は 約2890kJ/molの
ギ ブ ス エ ネ ル ギ ー を有 して お り、そ の
ポ リマ ー で あ るセ ル ロー ス は 、 そ の分 子 量 に比 例 した潜 在 的 エ ネル ギ ー を有 し
て い る。 この セ ル ロー ス を エ ネ ル ギ ー 利 用 に関 す る 代表 的 な 例 と して 、 セ ル ロ
ー ス か らエ タ ノー ル また は 水 素 を生 成 す る試 み が 挙 げ られ る 。12'16難溶 性 のセ ル
7
ロー ス を、 酵 素 な どを 用 いて 、 グル コ ー ス な ど の可 溶 性 の 単糖 成 分 まで 分解 し
(糖化 プ ロセ ス)、6,17-27次 に、 得 られ た 可溶 性 糖 成 分 を 、微 生物 を用 いて エ タ
ノー ルや 水 素 な どの燃 料 物 質 に変 換 す る(発 酵 プ ロセ ス)。28-33こ れ らの燃 料 物
質 を燃 料 電 池 な どの エ ネ ル ギ ー 変 換 装 置 に供 給 す る こ とで 、最 終 的 にバ イ オマ
ス か らエ ネ ル ギ ー を取 り出す とい う試 み が 行 わ れ て い る(エ
ネル ギ ー 変 換 プ ロ
セ ス)(図1.3)。
Figure1.3Conventionaltechnologyrelatedwithenergyconversionfromcellulosic
biomass
しか しな が ら、糖 化 お よび 発 酵 プ ロセ ス には 、 外 部 か らのエ ネ ル ギ ー 供 給や
特 別 な 操 作 が 必 要 で あ る他 、 各 プ ロセ ス 連結 間 にお け るエ ネル ギ ー損 失 な どの
問 題 が あ る(図1.4)。34,35特
に糖 化 プ ロセ スで は、 未 だ実 用 的な 糖 化 技 術 は確
立 され て お らず 、対 費 用 効 果 の 高 い 糖 化 技 術 の研 究 開 発 が 求 め られ て い る。
L3燃
料 電 池 を利 用 した セ ル ロー ス 系 バ イ オ マ ス か らの エ ネル ギ ー 変 換 技 術
バ イ オ マ ス をエ ネル ギ ー資 源 と して 利 用 す る場 合 、 バ イ オマ ス か らの エ ネ ル
ギ ー 変 換 過 程 に 関わ る投 入 エ ネ ル ギ ー(ト
ー タル エ ネ ル ギ ー コ ス ト)を 抑 え、
そ のエ ネ ル ギ ー 収 支 が 実 用 的 な 範 囲 に収 ま るか が 重 要 とな って くる。
8
バ イ オ マ ス か らの エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 は、 実 際 に バ イ オ マ ス を エ ネ ル ギ ー 資
源 と して利 用 す る際 の重 要 な 評価 基 準 とな って くる。
この よ うな 背 景 の 中 、 近 年 、 高 いエ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 を有 す る燃 料 電 池 を用
いた バ イ オ マ スか らの エ ネ ル ギ ー 利 用 に 関 す る研 究 が 盛 ん に行 わ れ て き て い る 。
36,37燃 料 電 池 は
、 燃 料物 質 の化 学反 応(∠G〈0)を
、 電 池 内 の 一対 の 電 極 上 にお
け る電 極 反 応 と して 進 行 させ る こ と に よ り、 そ の化 学 エ ネ ル ギ ー を 直 接 電 気 エ
ネ ル ギ ー に変 換 で き る電 気 化 学変 換 シス テ ム で あ る。そ のエ ネ ル ギ ー 変換 効 率η
は 次 式 で 表 され 、
γ1=(∠1H-T∠s)/∠H(1.1)
(∠H:エ ン タル ピー 変 化,T:絶 対 温 度,as:エ
9
ン トロ ピー変 化)
従 来 の 熱 機 関 の エ ネ ル ギ ー 効 率 の 上 限 を 規 定 す る カ ル ノ ー サ イ ク ル η=(THTL)/TH),(TH>TL))よ
り も 高 く 、次 世 代 の エ ネ ル ギ ー 分 野 に お け る 重 要 な 基 幹 技 術
の 一 つ で あ る と 考 え ら れ て い る(図1.5)。(カ
ル ノ ー サ イ ク ル で は 、THを
取 ら な い と 効 率 が 良 く な ら ず 、 実 際 の 発 電 効 率 は ∼40%程
気 化 学 反 応 で は 、理 論 発 電 効 率 は80%∼90%で
て ら れ た2相
大き く
度 で あ る。 一 方 、 電
あ る 。)燃 料 電 池 は 、 分 離 膜 で 隔
構 造 内 に 、 外 部 回 路 で 連 結 して い る 一 対 の 電 極 が 組 み 込 ま れ た 比
較 的 簡 単 な 構 造 を 有 し て お り(図1.6)、
や 、 場 所 に 依 存 し な い 燃 料 補 給(充
大 型 化 か ら小 型 化 ま で の ス ケ ー ル 制 御
電)が
可 能 で あ る こ とか ら 、 携 帯 性 の 高 い
分 散 型 エ ネ ル ギ ー 供 給 装 置 と い う特 徴 も 有 し て い る 。
燃 料 電 池 か ら 得 ら れ る 電 力 密 度Pは
、 以 下 の式 で 表 され る。
P[W/m2]=E[V]×1[A]/S[m2](1.2)
こ こ で 、Eは
起 電 力 、1は 外 部 回 路 に 流 れ る 電 流 、Sは
電 極 面 積 で あ る。 燃 料物
質 か ら 電 気 エ ネ ル ギ ー を 取 り 出 し て い る と き 、 燃 料 電 池 の ア ノ ー ドお よ び カ ソ
ー ドで は そ れ ぞ れ 酸 化 還 元 反 応 が 起 こ っ て い る 。
例 え ば 、 バ イ オ マ ス の 主 成 分 で あ る セ ル ロ ー ス((C6HloO5)。)の 構 成 糖 単 位 で あ る
グ ル コ ー ス(C6Hl206)か
ら 、 燃 料 電 池 を介 して 電 気 エ ネ ル ギ ー を 取 り 出 す 場 合 、
次 の よ うな 半 反 応 が そ れ ぞ れ の 電 極 上 で 進 行 し て い る 。
ア ノ ー ド:C6Hl206+6H20→6CO2+24H++24e-(1.3)
カ ソ ー ド:6CO2+24H++24e→12H20(1.4)
電 池 全 体 と して は 、 グ ル コ ー ス の 酸 化 反 応 で あ り、 以 下 の よ う に 表 さ れ る 。
C6HI206+6CO2→12H20(1.5)
こ の と き 、 ア ノ ー ドお よ び カ ソ ー ド 間 に は 、 電 子 の エ ネ ル ギ ー 差 に 応 じ た 電 位
差(起
電 力)が
生 じ る(図1.7)。
10
Figure
1.5 Efficiency
efficiency
Carnot
of Fuel cells and Carnot
at standard
limit is shown
pressure,
for comparison,
Oxidation of substrate
Figure
referred
Limit.
to Higher
Maximum
Heating
with 50°C exhaust
Semi-permearble
menbrane
1.6 Composition
of general
11
Reduction
fuel cells
H2 fuel cell
Value.
temperature.
of 02
The
Figure1.70peratingpotentialoffuelcellsystemcreatedbyanodeandcathodeinthe
viewofreactionsatelectricdoublelayer
そ れ ぞ れ の 半 反 応 の エ ネ ル ギ ー 状 態 は 、 既 知 の 標 準 酸 化 還 元 電 位EOと
して 参 照
す る こ と が で き 、 そ れ ぞ れ の 正 味 の 反 応 の 起 電 力 を 見 積 も る こ と が で き る(表
1.1)。 こ の 場 合 、 グ ル コ ー ス を 燃 料 と し て 得 ら れ る 燃 料 電 池 の 起 電 力 は 、 ∠E=
Ecath。d,-Ean。d。
よ り1.25Vで
電 子 が 電 位 の 低 い 電 極(ア
あ る こ と が わ か る 。こ の と き 電 極 に 負 荷 を つ な げ ば 、
ノ ー ド)か
ら 高 い 電 極(カ
が 流 れ る。
12
ソ ー ド)へ
移 動 して 電 流
Table1.1Standardoxidation-reductionpotentialsofhalfreaction(vs.SHE)
Reac虹on
O,÷
2HNα
耳爭!V
n
⇔2H、0
斗H÷ 一 斗e層
コ〒1⑪H+〒10e一
〈
⇒Nっ+6H,0
.OL
÷0.80
CQ,_$H+_8e
⇔CH4-2Hユ0
-0 .25
NAD++H+÷2e喞
⇔NADH
-032
HCOOH+4H〒+4e'
⇔CH30H+Hユ0
-0 .36
C5HloO5+2H+÷2(ゴ
⇔C5H1ユ0δ
CO1÷6H÷
⇔CHヨOH+HユO
-0 .斗0
⇔CH30H+Hユ0
-0 .40
2H㌧2e'
⇔Hユ
-0 .41
6COユ+2斗H7-÷2斗{ジ
⇔C5HuO5-6Hユ0
-x _43
2CO、+12H÷
{⇒CユH;OH-3Hユ0
-x _50
÷6{∫
CH.COOH÷4H〒
コ
÷4e一
÷12e'
やHユ0
-0 .36
近年 、 こ の燃 料 電 池 の 仕 組 み を利 用 して 、 セ ル ロー ス を糖 化 処 理 して 得 られ
る グル コー スか ら、 直 接 電 気 エ ネル ギ ー を取 り出 す グル コー ス燃 料 電 池 に関 す
る研 究 開発 が 活 発 化 して お り、発 酵 プ ロセ ス を必 要 とせ ず 、 携 帯 性 の 高 い燃 料
電 池 を利 用 す る た め 、 よ り応 用 範 囲 を広 げた バ イ オ マ ス か らの エ ネ ル ギ ー 変 換
技 術 と して期 待 され て い る(図L8)。36-40地
球 上 に豊 富 に分 布 して い るバ イ オ
マ ス を、 燃 料 電 池 を介 して そ の場 で 効 率 的 にエ ネル ギ ー に変 換 す る こ とが 可 能
に なれ ば、 場 所 に依 存 しな い分 散 型 エ ネ ル ギ ー 供給 シス テ ム の構 築 が 可 能 とな
13
り、持 続 可 能 な 循環 型社 会 の 形成 に大 き く寄 与 す る も の と考 え られ る。
Figure1.8Energydiagramofrecentenergyconversionsystemusingfuelcell
以 下 に 、 バ イ オ マ ス 成 分 を 燃 料 と し た 燃 料 電 池(バ
イ オ 燃 料 電 池)に
関す る研
究 例 を紹 介 す る 。 バ イ オ 燃 料 電 池 は 、 燃 料 物 質 の 酸 化 還 元 反 応 に関 す る触 媒 系
の 違 い に よ り 、 主 に 三 つ の 種 類(微
池)に
生 物 燃 料 電 池 、 酵 素 燃 料 電 池 、 金 属燃 料電
分 類 され 得 る 。
14
1-3-1微 生物 燃 料 電 池
微 生 物 燃 料 電 池 は 、微 生 物 の代 謝 能 を 、 燃 料 物 質 の酸 化 還元 反 応 に 関 わ る触 媒
と して 利 用 す る燃 料 電 池 で あ る。41-44微 生物 に 限 らず 、 生 命 シス テ ム の本 質 は
非 平 衡 状 態 に あ り、 代 謝 とは広 い意 味 で エ ン トロ ピー 増 大 の方 向 に 抗 して 自然
エ ネ ル ギ ー を 取 り入 れ 、 利 用 す る全 過 程 の こ と と考 え られ る。 生物 は 原 理 的 に
開 放 系 で 、 決 して 平 衡 に は な く、 た え ず 高 エ ンタ ル ピー 、低 エ ン トロ ピー の栄
養 物(燃
料 物 質)を
反 応 系(代
取 り込 み 、特 定 の 基 質 か ら特 定 の生 成 物 に 至 る一 連 の酵 素
謝 経路)を 経 て 、低 エ ンタル ピー 、高 エ ン トロ ピー の物 質 に分解 し、
そ の過 程 で 自 由エ ネ ル ギ ー を獲 得 して い る。 代 謝 経 路 は 一般 に、 糖 、脂 肪 、 タ
ンパ ク 質 な ど を分 解 して低 分子 の代 謝 中 間体 に分 解 す る 異化 経 路 と、 異化 で 得
られ た エ ネ ル ギ ー を利 用 して 低 分 子 化 合 物 か ら、 よ り複 雑 な 高 分 子 化 合 物 を合
成 し、 細 胞 合 成 を行 う同 化 経 路 に分 け られ る。 生 命 が 燃 料 物 質(例
マ ス 成 分 で あ る グル コ ー ス)か
え ばバ イ オ
らエ ネル ギ ー を獲 得 す る際 、 この 異化 経 路 にお
い て 、 よ り分 子 量 の 小 さ い ピル ビ ン酸 な どに分 解 され る。 好 気 条 件 で は、 この
ピル ビ ン酸 は 、さ らに トリカ ル ボ ン酸 回 路(TCA回
路)でNADHとFADH2を
生成
し、 これ らが 電 子 伝 達 系 で 酸 素 に よ り酸 化 され る とき 、 酸化 的 リン酸 化 でArp
(ア デ ノ シ ン3リ
ン酸)を 生成 す る 。1分 子 のArpが
加 水 分解 され る と、約31kJ
の エ ネ ル ギ ー が放 出 され る 。細 胞 は、 燃 料 物 質 か ら変 換 したArpを
源 と して 蓄 え 、 必要 に応 じてArpを
エネルギー
加 水 分解 し、 化 学 的 な 仕事 、運 動 、 輸 送等
に利 用 す る機 能 を有 して い る。 微 生 物 燃 料電 池 は 、 この燃 料 物 質 の異 化 、 お よ
び そ の過 程 で 生成 され る電 子 給 与体(NADH,FADH2)と
酸 素 の酸 化 還 元 反 応 を燃
料 電 池 シ ス テ ム に組 み 込 む こ とで 、 燃 料 物 質 か ら電 気 エ ネ ル ギ ー を取 り出 す こ
と を可 能 に して い る(図1.9(a))。45-50グ
ル コー ス を燃 料 と した 場 合 、 そ れ ぞ れ
の標 準 酸 化 還 元 電位 の値 か ら、 理想 的 には1.24V程
15
度 の 起 電 力 が 得 られ るは ず
で あ るが 、実 際 には 微 生 物 代 謝 お よ び電 子 授 受 反 応 に お け る微 生 物 と電 極 間 の
抵 抗 に起 因す る エ ネ ル ギ ー ロ ス な ど によ り、 微 生物 燃 料 電 池 の起 電 力 は 、 理 論
値 よ りも低 くな る(図1.9(b))。
Figure1.9Schemeofmicrobialfuelcells.(a)Compositionofthefuelcell.(b)Potential
lossineachstageofreactionprocesses.
この 起 電 力低 下 を減 らす た め に、 電 極 表 面 との 電 子 伝 達 能 の 高 い微 生 物 の 探索
お よ び ス ク リー ニ ン グが 重要 とな って く る。 微 生 物 燃 料 電 池 は 、 未 だ 実 用 的 な
段 階 で はな い が 、 燃 料 種 に合 わ せ て 微 生物 を選 択 す る こ とで 、 ほ と ん ど全 て の
16
バ イ オ マ ス 成 分 を燃 料 と して 利 用 す る こ とが 可 能 で あ る こ とや 、 燃 料 が 供 給 さ
れ る 限 り(微 生物 が 生 きて い る限 り)、 比 較 的 安 定 に電 力 供給 で き る た め 、そ の
適 用 範 囲 は広 い。51し か し、 燃 料 電 池 に適 した 微 生物 の遺 伝 子 発 現 や 代 謝 制 御
な どが 難 し く、 電 池 出 力や 安 定 性 、 動作 環 境 な どに 問 題 点 が あ る。52燃 料 電 池
と微 生 物 を ひ とつ の バ イ オ燃 料 電 池 シス テ ム と して機 能 させ る に は 、 微 生 物 の
生 命 機 能 を シ ス テ ム と して 捉 え 、 細 胞 を構 成 す る部 品 の情 報 や 、 ハ イ ス ル ー プ
ッ トに得 られ る遺伝 子 発 現 、 タ ンパ ク質 発 現 、 代 謝 物 濃 度 、代 謝 流 速 分 布 な ど
の 情 報 を統 合 的 に解 析 し、 シス テ ム 同士 を合 理 的 に統 合 させ る必 要 が あ り、解
決 す るべ き課 題 は多 い と い う現 状 が あ る 。
1-3-2酵 素 燃 料 電 池
酵 素 燃 料電 池 は 、 上 述 した 代 謝 ネ ッ トワー ク にお い て 、 電子 伝 達 反 応 を触 媒
す る酵 素 そ の も の を電 極 上 に 固定 化 させ 、電 池 電 極 を 酵 素 反 応 の電 子 受 容体 と
して 作 用 させ る こ とで 、 酵 素 の基 質 とな る燃 料 物 質 か ら電 気 エ ネ ル ギ ー を取 り
出す こ とが 可 能 な バ イ オ 燃 料 電 池 で あ る。53-58生体 触 媒 で あ る酵 素 を利 用 して い
るた め 、 酵 素 燃 料 電 池 は 、 常 温 にお け る 動 作 、酵 素 の 基 質 とな り得 る全 て の燃
料 種 が 利 用 可 能 、 高 価 な 無 機 触 媒 が 不 要 な ど の特 徴 を有 して い る 。 また 、 酵 素
の持 つ 高 い基 質 選 択 性 か ら、 電 極 上 にお け る ク ロス 反 応(燃
還 元 も起 こる反 応)の
料 の酸 化 と 同時 に
心 配 が 少 な い た め 小 型 化 が可 能 で あ り、 ま た 高 い生 体 適
合 性 も有 して い る こ とか ら、 生体 埋 め込 み 型 の発 電 デ バ イ ス と して 、 医療 分 野
か ら も期 待 され て い る。59-61現在 の酵 素 燃 料 電 池 系 は、主 に グル コ ー ス オキ シ ダ
ー ゼ(GOD)や
グ ル コー ス デ ヒ ドロゲ ナ ー ゼ(GDH)を
触 媒 と して ア ノー ド電 極 上
に修 飾 した も のが 盛 ん に研 究 され て い る 。 これ らの 酵 素 に よ り、 グル コー スが
酸 化(C6H1206+1/202→C6HloO6+H20)さ
れ て グ ル コ ノ ラク トンが 生 成 さ れ 、 理
17
論 的 に は1.18Vの
起 電 力が 得 られ る。 しか し、 上 述 した よ うに、 実 際 は電 池 の
反 応 段 階 で徐 々 に電 位 差 が 小 さ くな る。
酵 素 燃 料 電 池 の 場合 、 酵 素 が 触 媒 す る グル コー ス 酸 化 反 応 に 関与 す る電 子 を
電 池 電 極 に伝 達 して 、 燃 料 電 池 の発 電 機 能 が 有 効 とな るが 、 グル コ ー ス の酸 化
反 応 を行 う酵 素 の触 媒活 性 サ イ トは 、絶 縁 性 の タ ンパ ク質 構造 の 内部 に存 在 し、
電 極 と の間 で 電 子 伝 達 す る こ とが で きな い。 そ の た め 、 メ デ ィ エ ー タ ー(電
伝 達 物 質)を
子
介 して 酵 素 反 応 で 得 られ る電 子 を電 池 電 極 に伝 達 す る必 要 が あ る。
そ の 際 、 燃 料 物 質(グ
ル コ ー ス)か
ら酵 素 、 酵 素 か らメ デ ィエ ー ター に電 子 が
移 る に 従 い 、 徐 々 に酸 化 還 元 電 位 の低 下 が起 こ り、 電 池 の起 電 力が 低 下 す る。
ま た 、 使 用 す る メデ ィ エ ー タ ー の安 定 性 な ど に起 因す る、 燃 料 電 池 性 能 の 安 定
性 や 短 寿命 な どの 問題 点 が 存 在 す る。
1-3-3金 属燃 料 電 池
金 属 燃 料 電 池 は 、バ イ オ マ ス 由来 の燃 料 物 質 の酸 化 還 元 反 応 を、 微 生 物 や 酵 素
な どの 生 体 触 媒 で は な く、 金 属 の触 媒作 用 を用 い た 燃 料 電 池 で あ る。 い くつ か
の 金 属 は 、 ア ル カ リ環 境 下 に お い て グル コー ス な どの ア ル ドー ス の酸 化 反 応 を
触 媒 す る ことが 報 告 さ れ て い る。62-64この 金 属 の糖 酸 化 に対 す る触 媒 能 を燃 料 電
池 電 極 と して 機 能 させ る こ とで 、 メデ ィ エ ー ター な ど を介 さず 、 電 極 表 面 で グ
ル コー ス な どの 燃 料 物 質 と電 子 授 受 す る こ とが 可 能 な化 学 燃 料 電 池 に応 用 す る
ことが で き る 。65そ の た め、 微 生物 燃 料 電 池 や 酵 素 燃 料 電 池 と比 べ て 電 圧 降下
の要 因 とな る要 素 が 少 な く、 よ り理 論 値 に近 い起 電 力(1.18V)を
考 え られ る。 また 、生体 触 媒 を使 用 しな い た め 、温 度 やpHな
得 られ る と こが
ど反 応 環 境 のデ ザ
イ ンが 可 能 とな り、 微 生物 燃 料 電 池 お よ び 酵 素 燃 料 電 池 とは異 な る 方 向か らバ
イ オ マ ス 利 用 に関 す る燃 料 電 池 技 術 が 展 開 され る可 能 性 を有 して い る。
18
現 在 、 これ らのバ イ オ 燃 料 電 池 は、 ウ ォー クマ ンな どの 商 用 電 源 と して使 用
さ れ 、 今 後 は 、携 帯 電 話 や ノー トパ ソ コ ンな ど、他 の 携 帯 機 器 の電 源 装 置 と し
て の 利 用 が 期 待 さ れ て い る。 この よ うに 、 バ イ オ マ ス か らのエ ネル ギ ー 変 換 過
程 にお け る プ ロセ ス 数 の減 少 は 、 エ ネル ギ ー 変 換 効 率 や 分 散 型 エ ネ ル ギ ー 供 給
性 の 向 上 な どが見 込 まれ 、 バ イ オ マ ス が よ り多 く の分 野 で代 替 資源 と して 利 用
され る こ とが 期待 され る。 しか し、既 存 の技 術 で は、 不 溶 性 の 高 分 子 で あ るセ
ル ロー ス な ど のバ イ オ マ ス の 主 成 分 が 電 池 電 極 と電 気 化 学 的 に相 互 作 用 す る こ
とが で き ず 、 燃 料 と して 利 用 可 能 な もの は 、 上 述 した グ ル コ ー ス な どのセ ル ロ
ー ス 由 来 の 可 溶 性 の糖 成 分 に限 られ て い る 。 現 在 のバ イ オ マ ス か らの エ ネ ル ギ
ー 変 換 技術 に は 、 依 然 と して 、 そ の主 成 分 で あ るセ ル ロー ス か ら、 グ ル コ ー ス
に分 解 す る糖 化 プ ロセ ス が 必 要 で あ る とい う現 状 と課 題 が あ る。
1.4本 研 究 の 目的お よび 意 義
従 来 の バ イ オ マ ス か らの エ ネ ル ギ ー 変 換 技 術 で は 、 エ ネ ル ギ ー を 生 成 す るた
め に 、 糖 化 や 発 酵 な ど、 外 部 か らエ ネル ギ ー を必 要 とす る い くつ か の プ ロセ ス
が 必 要 で あ り、バ イ オ マ ス か らの エ ネル ギ ー 変 換 シス テ ム 系全 体 の エ ネ ル ギ ー
変 換 効 率 は低 い とい う現 状 が あ る 。 ま た 、 地 球 上 に豊 富 に 、広 域 に分 布 して い
るセ ル ロー ス 系バ イ オ マ ス の分 散 型 エ ネ ル ギ ー 供 給 に適 した利 点 を十 分 に利 用
す る こ とが で きて お らず 、 エ ネル ギ ー資 源 と して の バ イ オ マ ス が 持 つ ポ テ ン シ
ャル を最 大 限 に発 揮 で きて いな い。
本 研 究 で は 、バ イ オ マ ス の主 成 分 で あ るセ ル ロー ス を 、糖 化 も発 酵 プ ロセ ス
も介 さず 、 従 来 のバ イ オ 燃 料 電 池 シ ス テ ム よ り も高 いエ ネル ギ ー 変 換 効 率 で 、
直 接 電 気 エ ネ ル ギ ー に変 換 で き る、 次 世 代 の バ イ オ 燃 料 電 池 シ ス テ ム 系 の 提
19
• 4-4%114 .Y9-(al
Figure
1.10 Direct
Figure
1.11 Energy
1.10t-3ct1.11)0
energy
diagram
conversion
of direct
system
from
energy
conversion
fuel cell
20
cellulose
using
system
fuel cell.
from
cellulose
using
未 利 用 ま た は 廃棄 され る セ ル ロー ス 系 バ イ オ マ ス は、 人類 の 生 活 圏 に豊 富 に
存 在 して お り、 そ れ らがonsiteで
携 帯電 話 な どの 携 帯 機 器 の 燃 料 源 と して使 用
で きれ ば、バ イ オマ ス の エ ネル ギ ー 利用 に関 す る技 術 レベ ル が 大 き く向 上 す る。
ま た 、 エ ネ ル ギ ー と同 時 に、 機 能 性 のセ ル ロー ス 系 ポ リマ ー な ど、 よ り付 加価
値 の高 い工 業 原 料 も製 造 す る ことが 可 能 で あ るた め 、次 世 代 の 重 要 な化 石 資 源
代 替 技 術 と して 、 持 続 可 能 な 循 環 型 社 会 の 形 成 に貢 献 で き る と考 え られ る。 ま
た 、現 在 の セ ル ロー ス な ど の高 分 子 の改 質技 術 に 、電 気 化 学 的 手 法 を取 り入 れ
る こ とで 、従 来 の改 質 技 術 で は制 御 の難 しか った 領 域 に応 用 ・展 開 で き 、 新 た
な 機 能 性 新 素 材 や 、 ナ ノ材 料 な どを選 択 的 に生 成 で き る こと も期 待 され る。
本 論 文 の構 成
本 論 文 は 、本 章(序
論)を
含 めた 全5章
か ら構 成 さ れて い る。 以 下 に、 各 章 の
概 要 を述 べ る。
第2章
で は 、結 晶性 セ ル ロー ス を、 金 属 電 極 の糖 酸 化 に対 す る触 媒 能 を発 現 で
き る環 境 下 で 、 そ の分 子 内 ・分 子 間水 素 結 合 を切 断 させ た とき の 、 セ ル ロー ス
分 子 と電極 表 面 との電 気 化 学 的 相 互 作 用 につ いて 述 べ る。 ま た 、 セ ル ロー ス を
直 接 燃 料 と して 作 動 す るセ ル ロー ス 燃 料 電 池 の特 性 を示 し、 セ ル ロー ス か らの
直 接 エ ネル ギ ー 変 換 シス テ ム につ いてn論
第3章
す る。
で は 、セ ル ロー ス を電 気 化 学 的 に酸 化 す る こ とで得 られ る酸 化 セ ル ロ
ー ス 誘 導 体 の構 造 を 、X線
回 折 、 フー リエ 変 換 赤 外 分光 お よ び サ イ ズ 排 除 ク ロ
マ トグ ラ フィ ー を用 い て 調 べ 、 セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 酸 化 反 応 の 前 後 にお け
る構 造 変 化 に つ いて 述 べ る。 また 、 構 造 解 析 結 果 お よ び 反 応 電 子 数 と生 成 酸 化
21
セ ル ロ ー ス 誘 導 体 の 量 的 関 係 か ら 、 セ ル ロー ス の 電 気 化 学 的 酸 化 に 関 す る 反 応
機 構 に つ い て 議 論 す る。 最 後 に 、酵 素 を用 い た酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の被 糖 化
能(分
第4章
解 能)を
調 べ 、 構 造 変 化 に伴 うセ ル ロ ー ス の 特 性 変 化 に つ い て 述 べ る 。
で は 、 セ ル ロ ー ス の 分 解 反 応 を 触 媒 す る 酵 素(セ
部 位 を 、 カ ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ(CNT)を
ル ラ ー ゼ)の
触 媒活 性
用 いて 再 構 築 した生 体 構 造 模 倣 型 人 工触
媒 に つ い て 議 論 す る。 また 、 本 人 工 触 媒 の触 媒 活 性 に影 響 を与 え る実 験パ ラ メ
ー タ(pH
,CNT量
な ど)を 調 べ 、 生 体 構 造 模 倣 型 人 工 触 媒 の 触 媒 反 応 機 構 に つ い て
考 察 す る 。
第5章
で は 、本 論 文 にお け る研 究 成 果 を ま と め る。
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25
第2章
2-1緒
セ ル ロー ス の電 気 化 学 的直 接 酸 化 反 応 系 の構 築
言
本 章 で は 、結 晶 性 セ ル ロー ス を、糖 を酸 化 させ る金 の触 媒 能 が 発 現 で き る
環 境 下 に溶 解(分
子 分 散)さ
せ 、 セル ロー ス 分 子 が 電 極 表 面 と電 気 化 学 的 に相
互 作 用 で き る環 境 を構 築 す る こ とで 、糖 化 お よ び 発 酵 プ ロセ ス を介 さず 、 セ ル
ロー ス か ら直 接 電 気 エ ネ ル ギ ー を取 り出 す こ とが 可 能 な 、ユ ニ ー ク な エ ネ ル ギ
ー 変 換 シス テ ム につ いて 述 べ る 。
電 池 電 極 と燃 料 物 質 の電 気 化 学 反応 は 、 電 極 が 電解 質 溶 液 と接 して い る電 極
表 面(界
面)で
起 こる。 電 極 が 電解 質 に接 す る と電 極 界 面 に 静 電 気 的電 位 が 発
生 し、 バ ル ク 溶 液 か らは 異 な る 界 面構 造 で あ る電 気 二 重 層 が 形 成 され る。 電 気
二 重 層 の厚 さ は 数A程
度 で 、 この 領域 内 で 電 極 と燃 料 物 質 の電 子 授 受 反 応 が進
行 す る 。 グ ル コ ー ス な どの可 溶 性 の 単糖 成 分 は 、 この電 気 二 重 層 内 で 電 極 表 面
と電 気 化 学 的 に相 互 作 用 す る こ とが可 能 で あ り、 これ まで に多 くの 可 溶 性 糖 成
分 の 電 気 化 学 的 特 性 に関 す る知 見 が得 られ て き て い る。7-13これ らの研 究報 告 は 、
金 属 電 極 を用 い た グル コー ス燃 料 電 池 の 構 想 お よ び 開発 に大 き く寄 与 して い る 。
しか しな が ら、 グ ル コー ス の ポ リマ ー で あ る セ ル ロー ス は 、 単 に分 子 量 の増 加
だ けで な く、 一 本 一 本 の ポ リマ ー(セ
ル ロー ス 分 子 鎖)同
士 に よ る化 学 結 合 ネ
ッ トワー ク が 形 成 され た 不 溶 性 の 結 晶構 造 を 有 して い る。 そ の た め 、 電 極 表 面
近傍 の電 気 二 重 層 内 に各 セ ル ロー ス分 子 が 侵 入 す る こ とが 難 し く、 電 極 と電 気
化 学 的 に相 互 作 用 す る こ とが で き な い 。 実 際 、 これ まで にセ ル ロー ス な ど水 不
溶 性 の高 分 子 ポ リマ ー 分 子 と、 アル カ リ環 境 下 にお け る金 属 電 極 上 との電 極 電
気 化 学 的知 見 に 関 す る研 究 は ほ とん ど報 告 さ れ て お らず 、金 属 電 極 を用 い たセ
26
ル ロー ス か ら の直 接 エ ネ ル ギ ー 変 換 は 難 しい と い う現 状 が あ る 。 セ ル ロー ス と
電 極 を電 気 化 学 的 に相 互 作 用 させ るた め に は 、 まず 金 属電 極 の 糖 酸 化 に対 す る
触 媒 能 が発 現 で き る環 境 下 で 、セ ル ロー ス 分子 の結 晶 性 を壊 す必 要 が あ る。
2-2セ
ル ロー ス の溶 解
結 晶性 セ ル ロー ス は 、 分 子 内 ・分 子 間 水 素 結 合 お よ び 分 子 間 の疎 水 結 合 に よ
って そ の結 晶 構 造 を維 持 して い る(図2.1)。
セ ル ロー ス の溶 解 は、 セ ル ロー ス
分 子 間 に 形成 され て い る これ らの結 合 をす べ て 切 断 し、 セ ル ロー ス 分 子 間 の相
互 作 用 を 緩和 させ 、 セ ル ロー ス分 子 鎖 を分 子 レベ ル で 分 散 で き て い る こ とを示
す 。 この 状態 を形 成 させ る には 、 セ ル ロー ス 中 の水 素 結 合 あ る い は疎 水 結 合 を
切 断 す る こと に加 えて 、これ らの相 互 作 用 を妨 げ るよ う にセ ル ロー ス分 子 のOH
基 の一 部(あ
る い はす べ て)を
ブ ロ ッ ク して お く必 要 が あ る。
Figure2.1Chemicalstructureofcellulose
27
セ ル ロー ス の 溶 解 に 関 す る研 究 は、 繊 維 工 業 の分 野 で 盛 ん に行 わ れ て お り、
現 在 さ ま ざ まな セ ル ロー ス 溶 剤 に 関す る研 究 が 行 わ れ て い る。 セ ル ロー ス は ア
ル カ リ性 環 境 下 で は 比 較 的 安 定 で あ り、水 酸 化 銅 エ チ レ ン ジ ア ミ ン溶液 等 の ア
ル カ リ性 のセ ル ロー ス 溶 剤 の研 究 な どが 報 告 され て い る。 また 、非 水 系 セ ル ロ
ー ス 溶 剤 と して 、 ジ メ チ ル ス ル ポ キ シ ド、 ジ メチ ル ホ ル ム ア ミ ド、 ジ メチ ル ア
セ トア ミ ドな どを 主溶 媒 と した 溶 媒 系 に 関 す る研 究 も盛 ん に行 わ れ て い る。 こ
れ らの 溶 媒(系)は
、 セ ル ロー ス の水 酸 基 と反 応 あ る い は強 い相 互 作 用 し、 不
安 定 な 誘 導体 あ る い は錯 体 を 形成 させ 、セ ル ロー ス の 溶解 状態 を維 持 して い る 。
一 部 の セ ル ロー ス 溶剤 は 、再 生セ ル ロー ス 成 形 品 の 工 業 生 産 に利 用 さ れ て い る 。
も っ と も大 量 に生 産 さ れ て い る の が レー ヨ ン繊 維 で あ る 。 まず セ ル ロ ー ス を
20%程
度 の水 酸化 ナ トリウム 水 溶 液 に浸 漬 し、 液 体 の二 硫 化 炭 素 を加 え る こ と
に よ り、 セ ル ロー ス の水 酸 基 の 一部 が キ サ ン トゲ ン酸 塩(R-0-CS2Na)と
い う誘 導
体 とな って 可 溶 化 され 、 粘 セ ル ロー ス 溶 液 が 得 られ る。 この セ ル ロー ス の キサ
ン トゲ ン酸塩 溶 液 を希 硫 酸 一
無 機 塩(硫
酸 ナ トリウ ム)含
有 水 溶 液 中 に注 入す る
こ と に よ り、 キサ ン トゲ ン酸 塩 部 分 が セ ル ロ ー ス 水 酸 基 か ら外 れ 、 繊 維 状 の 再
生 セ ル ロー ス ゲル が 生 成 し、 これ を乾 燥 す る と レー ヨ ン繊 維 が 得 られ る 。 この
キ サ ン トゲ ン酸 塩 法 で は 、有 毒 な 硫化 水 素 が 発 生 す る た め 、環 境 に負 荷 を与 え
な い 新 しいセ ル ロー ス の 溶 剤 の研 究 開発 が 求 め られ て い る。
2-2-1溶
解 前後 にお け るセ ル ロー ス の結 晶構 造 変 化
セ ル ロー ス の溶 媒 は い くつ か報 告 され て い るが 、 本 研 究 で は 、3種
類 の溶媒
(イ オ ン液 体 、 水 酸 化 ナ トリウム/チ オ 尿 素 混 合 溶 媒 、水 酸 化 ナ トリ ウム)を
用
い て セ ル ロー ス の 溶解 を検 討 した 。 まず 、 イ オ ン液 体 を用 い た 場 合 、 セ ル ロー
28
ス は 溶 解 した が 、非 常 に高 い粘 性 が あ る とい う難 点 が あ った 。 ま た 、水 酸 化 ナ
トリ ウム とチ オ 尿 素 の 混 合 溶 媒 を用 い た 場 合 、 低 温 処 理(-15°C)の
後、セル ロ
ー ス は 良 く溶 け た が 、 電 気 化 学測 定 時 、 電 極 表 面 へ のチ オ 尿 素 の 吸 着 現 象 が 激
しい とい う問 題 点 が あ っ た 。 一方 、 水 酸 化 ナ トリウム のみ を用 い た 場 合 、 低 温
処 理(-15°C)の
後 セ ル ロー ス が 溶解 し、 さ らに これ らの 問題 は観 察 され な か っ
た た め 、本 実 験 にお け るセ ル ロー ス溶 媒 と した 。図2.2は 、セ ル ロー ス の溶 解 前
後 にお け るセ ル ロー ス 含 有 水 酸 化 ナ トリウ ム 溶 液 の顕 微 鏡 画 像 を示 して お り、
溶 解 前 で は セ ル ロー ス の構 造 が 観 察 され て い る の に対 し、溶 解 後 で は これ らの
構 造 が 観 察 され な くな った ことが わ か る 。ま た 、図2.3は 、セ ル ロー ス の溶 解 前
後 にお け るセ ル ロー ス のX線
回 折(XRD)パ
ター ン を示 して い る。 溶解 前 で は 、
セ ル ロ ー ス の結 晶構 造 に 由来 す る二 つ の主 要 な 回折 ピー ク(2θ=20,23°)が
検出
され て い るの に対 し、 溶 解 後 で は これ らの 回 折 ピー ク は検 出 され て お らず 、セ
ル ロー ス の結 晶性 力嘸 くな って い る(ま た は10㎜(X線
の結 晶 サ イ ズ に まで 低 下 して い る)こ
回折 の検 出 限界)以
下
と を示 して い る 。13こ の溶 解 機 構 は 、 ま
ず 水 が 水 酸 化 ナ トリウ ム と水 和 構 造 を形 成 し、 次 に この水 和 構 造 体 がセ ル ロー
ス と相 互 作 用(溶
媒 和)し
て 、 セ ル ロー ス を溶 解 させ る と考 え られ て い る。 そ
のた め 、 水 和 構 造 の維 持 あ る い は溶 媒 和 促 進 の た め 、低 温 ほ ど溶 解 が進 ん で い
る と考 え られ る。 セ ル ロー ス の結 晶 性 の 低 下 は 、 上述 した セ ル ロー ス分 子 内 ・
分 子 間 水 素 結 合 ネ ッ トワー ク の崩 壊 を示 唆 して お り、セ ル ロー ス 分 子 鎖 一一
本一
本 が 、 水酸 化 ナ トリウ ム 溶液 中で ラ ン ダ ム な 配 向性 を有 した 状 態 を 形 成 して い
る と考 え られ る。 これ らの 結 果 か ら、 この セ ル ロー ス溶 液 を用 い る こ とで 、 電
極 界 面 との 間 で 電 子 授 受 可 能 な 電 気 二 重 層 領 域 に ま で個 々 の セ ル ロー ス 分 子 が
到 達 で き る 可 能 性 が 考 え られ 、 金 電 極 と電 気 化 学 的 に相 互作 用 す る こ とが 期 待
され る。
29
Figure
2.2 Microscopic
Figure 2.3 X-ray diffractgrams
images
of cellulose
in alkaline
solution.
of cellulose solution. (i) cellulose sample before
dissolution, (ii) cellulose sample after dissolution.
30
2-3セ
ル ロー ス の 電気 化 学 的酸 化 反 応
作 製 した セ ル ロー ス 溶 液 を用 い て 、 セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 特 性(電
応 答)を
流一
電位
調べた。電流一
電 位 応 答 は 、 ポ テ ン シオ ス タ ッ トを用 いた サ イ ク リッ ク
ボ ル タ ン メ ト リー に よ り測 定 し た 。 サ イ ク リ ッ ク ボ ル タ ン メ ト リー(cyclic
voltammetry;cv)は
、 電 位 走 査 法 と も呼 ば れ 、 電 驪
位 を初 期 電 位(E、)から掃 印
速 度(v)で 反 転 電位(Eλ)まで掃 印 した の ち逆 転 し、E1まで も ど した とき に流 れ る電
流 を測 定 す る手 法 で あ る。Eiを 電 極 反 応 の起 こ らな い 電位 に 、 ま たEλ を電 極 反
応 が 拡 散 律 速 とな るよ うな電 位 で 走 査 す る と、 反 応 電 流 の ピー ク 波 形 を示 す 電
流 電 圧 曲線(サ
イ ク リ ック ボル タモ グ ラ ム)が
得 られ る。 負 電 流 が観 測 され る
場 合 、 電 極 表 面 にお い て還 元 反応 が 優 先 的 に進 行 して い る こ と を示 す 。 ま た、
正 電 流 が観 測 され る場 合 、酸 化 反 応 が 優 先 的 に進 行 して い る こ と示 す 。 本 実 験
で は、このCV測
定 を用 い て 、金 電極 表 面 にお け るセ ル ロー ス の酸 化 電 流 の検 出
を試 み た 。本 実 験 にお け るCV測
電 極 、参 照 極 と してAg/AgC1電
∼0 .4、走 査 速 度5mV/secと
定 で は、作 用 極 と して金 電 極 、対 極 と して 白金
極 か ら成 る電 気 化 学 セ ル を作 製 し、走査 範 囲一
〇.1
して 電 気 化 学 測 定 を行 った(図2.4)。
Figure2.4Electrochemicalcell.(i)Anode,(ii)Cathode,(iii)SaturatedKCl
31
図25は
、金 電 極 表 面 にお け るセ ル ロー ス のサ イ ク リ ック ボル タモ グ ラム(電 流
一
電 位 曲線)を
示 して い る 。 セ ル ロー ス が 無 い、 ま た は溶 解 して い な い場 合 、 走
査 電 位 に対 す る酸 化 電 流 は ほ とん ど検 出 され な か った 。 一 方 、セ ル ロー スが 溶
解 して い る 場合 、走 査 電 位0.09Vお
よび0.24Vに
お いて 、 二 つ の酸 化 ピー クが
検 出 さ れ た 。 これ は、 セ ル ロー ス を水 酸 化 ナ トリウム 溶 液 中 に分 子 分 散 させ る
こ とで 、 バ ル ク 中 のセ ル ロー ス 分 子 鎖 一 本 一 本 が 、 電 子 授 受 可 能 な 電 極 表 面 近
傍 の電 気 二 重 層領 域 に た ど りつ くこ とが 可 能 とな り、金 電 極 表 面(Au-OH)上
にお
け るセ ル ロー ス 分 子 の 吸 着(Au-OH-Cellulose)、
電 子 授 受(Cellulose→Oxidized
cellulose+ne)、
い った 一 連 の反 応 を含 む 、 セル
電 極 表 面 か らの離 脱(Au-OH)と
ロー ス の 電気 化 学 的酸 化 反 応 が 進 行 した も の と考 え られ る。
32
Figure 2.5 Electrochemical
Cyclic voltammograms
characterisation of 2% (w/v) cellulose and its sugar units:
of (a) cellulose solution in 1.33 M NaOH after cold treatment
(picture inset) (i), cellulose in 1.33 M NaOH before cold treatment (picture inset) (ii),
and 1.33 M NaOH control (iii). (b) cellobiose in 1.33 M NaOH (i), and control (ii). (c)
glucose 1.33 M NaOH (i), and control (ii). Scan rate 5 mV/s, with 40 mM phosphate
buffer solution, pH 7.0 (PBS) as the supporting electrolyte.
33
ま た 、 セ ル ロー ス が 溶 液 中 に分 子 分 散 した こ と によ り、 反 応 溶 液 内 の セ ル ロー
ス のmol濃
度 お よ び拡 散 速 度 が増 加 し、 次 式 で 示 され る コ ッ トレル の 式 に従 っ
て セ ル ロー ス の酸化 電 流 が検 出 され た もの と考 え られ る。
nFAD。112C。
i(t)_
X1/2tl/2
こ こで 、i(t)は電 流値 、nは 電 子 数 、Fは フ ァ ラデ ー 定 数 、Doは
拡 散 係 数 、Coは
基 質 濃 度 、tは 走査 時 間 を表 す 。
ま た酸 化 ピー クが 一 つ 以 上検 出 さ れ た こ とか ら、 セ ル ロー ス の 電 気 化 学 的酸 化
反 応 は 、 複 数 の 電 子 伝 達 が 関与 す る多 電 子 酸 化 反 応 で あ る可 能 性 も示 唆 して い
る。 こ こで 、セ ル ロ ース の構 成 糖 単 位 で あ る グル コー ス お よ び セ ロ ビオ ー ス(グ
ル コ ー ス の2量
体)の
サ イ ク リ ック ボ ル タ モ グ ラム と比 較 して み る と、各 糖 成
分 に は 、 そ れ ぞ れ 特 有 の電 気 化 学 的応 答 を示 す ことが わ か る 。 各 糖 成 分 の酸 化
ピー ク電 位 お よび 酸 化 ピー ク電 流(Ip。)をTable2.1に 示 す 。
Table 2.1Electrochemicalparameters
LLLL./GLI.
of sugars
Peakpotential(V)
Peak
potential (V)
Current (mA)
Glucose
0.32
40
Cellobiose
0.25
0.25
20
Cellulose
0.091
nn
34
最 も高 いEp。 を 示 した のは セ ル ロー ス(0。09V)で
た の は グル コ ー ス(0.32V)で
ー ス(40mA)で
あ り、 最 も低 いEp。 を示 し
あ った 。 ま た 、最 も高 い1。pを示 した の は グル コ
あ り、最 も低 い1。pを示 した のは セ ル ロー ス(1mA)で
あ っ た 。セ ロ
ビオ ー ス のEp、 はセ ル ロー ス とグル コ ース のE。pの 中間 よ りも グル コ ー ス側(0.25
V)、1。pは両 者 の ほ ぼ 中間値(20mA)で
あ っ た 。 この 結 果 か ら、糖 を構 成 す るモ ノ
マ ー糖 単位 が増 加 す る に従 い、糖 の電 気 化 学 的酸 化 反 応 にお け るE。pが ネ ガ テ ィ
ブ側 に シ フ トし、1。pが減 少 す る傾 向が 示 唆 され た 。 この 傾 向 は 、電 極 界 面 にお
ける ポ リマ ー 特 有 の 電 気 化 学 的 挙 動 と して 、 意 義 深 い知 見 が 得 られ た もの と思
わ れ る。 得 られ た ボ ル タ モ グ ラム が セ ル ロー ス 由来 の もの で あ る こ と を確 認 す
るた め に、 セ ル ロー ス 溶液 内 に含 まれ る グル コー ス を測 定 した 。 そ の結 果 、作
製 した セル ロ ー ス 溶液 内 に は、 約0.03mg!mlの
グル コー ス が 含 まれ て い る こと
が わ か っ た 。 そ こで 、 標 準 グ ル コ ー ス 溶 液 と して 、 同 濃 度 の グ ル コ ー ス(0.03
mg/ml)を 含 む 水 酸 化 ナ トリウ ム水 溶 液 を調 整 し、 同様 のサ イ ク リッ ク ボ ル タ ン
メ トリー を行 い、 セ ル ロー ス の ボ ル タ モ グ ラム と比 較 す る こ とで 、 セ ル ロー ス
溶 液 内 に含 まれ る グル コー ス の影 響 につ いて 調 べ た 。図2.6は
、金 電 極 表 面 にお
け る標 準 グル コー ス溶 液 のボ ル タモ グ ラム を示 して お り、 グル コー ス 特 有 のE。p
付 近 に 、 酸 化 ピー ク が検 出 され た 。 こ こで 、 セ ル ロー ス の ボ ル タモ グ ラム と比
較 して み る と、 走 査 電 位 に対 す るセ ル ロー ス の酸 化 電 流 は 、 標 準 グル コ ー ス の
酸 化 電 流 よ りも大 き く、 セ ル ロー ス 溶 液 内 に含 まれ る グ ル コ ー ス は 、セ ル ロー
ス の電 気 化 学 特性 に対 す る影 響 が 小 さい こ とが わ か っ た(図2.7)。
この 結 果 か
ら、 得 られ た ボル タモ グ ラム は、 セ ル ロー ス 特 有 の もの で あ る と考 え られ る。
35
Figure 2.6 Cyclicvoltammogram
of standard glucose sample. (blue line: 0.03 mg/ml of
glucose in 1.33 M NaOH, black line: 1.33 M NaOH)
Figure 2.6 Cyclicvoltammograms
of cellulose and standard glucose sample. (red line:
2 % (w/v) cellulose in 1.33 M NaOH, blue line: 0.03 mg/ml of glucose in 1.33 M NaOH,
black line: 1.33 M NaOH)
36
以 上 の 結 果 か ら、糖 の酸 化 に対 す る金 電 極 の触 媒 能 が 発 現 で き る環 境 下 で セ
ル ロー ス の 分 子 内 ・分 子 間 水 素 結 合 を崩 壊 させ る こ とで 、電 極 上 で セ ル ロー ス
を電 気 化 学 的 に直 接 酸 化 で き る こ とが 示 され た 。 また 、 グル コ ー ス や キ シ ロー
ス 、セ ロ ビオ ー ス な ど、 可 溶 性 の 糖 類(六
単糖 、 五 単 糖 、 オ リゴ 糖 な ど)の
金
属 電 極 表 面 にお け る電 気 化 学 的 特 性 に 関 す る報 告 例 は多 く存 在 す るが 、14セ ル
ロー ス の よ うな 、 水 不 溶 性 の 多 糖 類 の電 極 表 面 にお け る電 気 化 学 的 特 性 に 関す
る報 告 は ほ とん どな い こ と を考 え れ ば、 本研 究 で 得 られ たセ ル ロー ス の ボル タ
モ グ ラム は 、 多 糖 類 の金 属 電 極 上 にお け る新 し い電 気 化 学 的 知見 と して 、 今 後
の新 しい研 究 展 開 に寄 与 す る と思 わ れ る 。
2-4電
気 化 学 的 酸 化 反 応 によ るセ ル ロー ス の構 造 変化
セ ル ロー ス の 電 気 化 学 的酸 化 反 応 は、 セ ル ロー ス 分 子 と電 極 表 面 にお け る電
子 授 受 反 応 で あ るた め 、 酸 化 反応 前 後 に お い て セ ル ロー ス分 子 の 構 造 が 変 化 し
て い る と考 え られ る。 本 項 で は 、 フー リエ 変 換 赤 外 分 光(FT-IR)を 用 いて 、 電 気
化 学 的 な 酸 化 反 応 の 前 後 にお け る セル ロ ー ス の構 造 解 析 を行 っ た。FTIR測
は 、真 空凍 結 乾 燥 処 理 によ り粉 末 上 に した 試 料 を用 い た。図2.7に
よ び 電 気 化 学 的 酸化 反 応 前後 に お け るセ ル ロー ス のFTIRス
定で
、溶 解 前後 お
ペ ク トル を示 す 。溶
解 前 の セ ル ロー ス には 、 い くつ か の特 徴 的な 鋭 い 吸 収 ピー クが 観 察 され た 。 セ
ル ロー ス の 溶解 後 に は 、 これ らの ピー ク強 度 が 変 化 し、特 にOH基
3300cm-1付
近 の ピー ク 強 度 が減 少す る変 化 が 観 察 され た。 つ ぎ に 、セ ル ロー ス
が電 気 化 学 的 に酸 化 され る と、Cニ0ま
1400cm1付
に 由来 す る
た はC-0-Hの
近 の 吸収 ピー ク強 度 が 顕 著 に増 加 した。15
37
内 角偏 角 振 動 に帰 属 す る
Figure2.7FT-IRspectraofcellulosesample.(i)cellulosebeforesolubilization;(ii)
celluloseaftersolubilization(beforeoxidation);(iii)celluloseafteroxidation.IRspectra
werecollectedfrom650to4000cm'1.Theoxidisedcellulosesampleswerecollected
fromcelluloseafterundergoingcyclicvoltammetryuntildisappearingoftheoxidation
peak(4500scancycles).
この 結 果 は、 電 気 化 学 的 に酸 化 され たセ ル ロー ス は 、 分 子 鎖 上 の カ ル ボ ニ ル 基
が増 加 したセ ル ロー ス 誘導 体 に変 化 した 可 能 性 を示 して い る。興 味 深 い こと に、
酸 化 反 応 前後 に お いて 、セ ル ロー ス溶 液 の粘 性 の増 加 が 確 認 され た(Table2.2)。
酸 化 さ れ た セ ル ロー ス 誘 導体 が 、 この溶 液 粘 性 の増 加 に 寄 与 して い る 可能 性 が
考 え られ る。 この電 気 化 学 的 に酸 化 され た セ ル ロー ス 誘 導体 につ いて は 、3章 で
詳 しく述 べ る。
38
Table2.2.Viscosityofcellulosesolutionbeforeandafteroxidationbycyclic
voltammetricanalysis(CV).
SamplesH20Cellul°ses°luti°nCellul°ses°luti°n(after(b
eforeoxidation)oxidation)
Viscosity1
mPa.s]
.36.5312.9[
グル コー ス な ど の可 溶 性 単糖 類 の 金 電 極 上 にお け る電 気 化 学 的 酸 化 反 応 で は 、
グ ル コ ー ス の 還 元 末 端 で あ る ア ル デ ヒ ド基 が 、 ア ル カ リ 環 境 下 に お け る 金 の 触
媒 活 性 部 位(Au-OH)に
よ り 酸 化 さ れ 、カ ル ボ キ シ ル 基 に 変 化 す る と い う 反 応 機 構
が 報 告 され て い る。 セ ル ロー ス は グル コ ー ス のポ リマ ー で あ るた め 、そ の 分子
鎖 に 還 元 末 端 と し て ア ル デ ヒ ドが 存 在 し て お り 、 上 述 し た ア ル カ リ 環 境 下 に お
け る金 電極 の糖 酸 化 に対 す る触 媒 能 が セ ル ロー ス 分 子 に対 して 作 用 した とす れ
ば 、 少 な く と も 、 セ ル ロ ー ス の 還 元 末 端 で あ る ア ル デ ヒ ド基 が 酸 化 さ れ 、 カ ル
ボ キ シ ル 基 に 変 化 して い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 以 上 の 結 果 か ら、 電 気 化 学 的
に セ ル ロー ス を 酸 化 させ る こ と で 、 少 な く と も 分 子 鎖 上 の 還 元 末 端 が 酸 化 さ れ 、
カ ル ボ キ シル 基 に変 化 したセ ル ロー ス 誘 導 体 が 形 成 され た 可能 性 か 示 唆 さ れ た 。
2-5電
気 化 学 的酸 化 反 応 に対 す るセ ル ロー ス の分 子 サ イ ズ の影 響
セ ル ロー ス の電 気 化 学 的酸 化 にお け る反 応 機 構 に 関す る知見 を得 る た め 、 セ
ル ロ ー ス の1、pに 対 す る セ ル ロ ー ス の 分 子 サ イ ズ の 影 響 に つ い て 調 べ た 。 異 な る
サ イ ズ の セ ル ロ ー ス 試 料 を 調 整 す る た め に 、 ボ ー ル ミル を用 い た 物 理 的 な 破 砕
処 理 を行 っ た 。 ボ ー ル ミル 処 理 さ れ た セ ル ロー ス の分 子 サ イ ズ は、 動 的光 散乱
法(DLS)に
よ りそ の 大 き さ を 測 定 し た 。 最 終 的 に 、DLS測
39
定 値 で お よ そ100㎜
お よび500㎜
を中心 に分 布 す るセ ル ロー ス試 料 を調 整 す る こ とが で きた 。 こ の
試 料 を用 い て 、 セ ル ロー ス の サ イ ク リッ ク ボ ル タ モ グ ラム を測 定 し、 分子 サ イ
ズ の違 い によ る1、pの変 化 を比 べ た。そ の結 果 、セ ル ロー ス の分子 サ イ ズ が 、DLS
測 定 値 で500㎜
け る1。pが約13%増
か ら100㎜
に80%減
少 す る と、セ ル ロー ス の金 電 極 表 面 にお
加 した(図2.8)。セル ロー ス の 分子 サ イ ズ とそ の長 さが 線 形 的
に関 連 して い る とす る と、 分子 サ イ ズ が80%減
ル ロー ス 分子 数 は5倍
少す る こ とで、 重 量 あ た りの セ
に増 加 す る はず で あ る 。 さ らに 、そ れ ぞ れ のセ ル ロー ス
分 子 が 還 元 末 端 を有 す る と仮定 す る と、1。pが
最 大500%増
加 し得 る はず で あ る。
溶 液 中 に お け るセ ル ロー ス 分 子 の拡 散 速 度 な どの諸 律 速 因子 の影 響 を考 慮 して
も、分 子 サ イ ズ の減 少 量 に対 す る1。pの増 加 量 が 極 め て小 さ い。以 上 の結 果 か ら、
セ ル ロー ス の 分子 サ イ ズ を 減 少 させ る こ とで 、金 電 極 表 面 にお け る1。pが増 加 す
る こ とが わ か った 。 しか し、分 子 サ イ ズ の減 少 に伴 う還 元 末 端 の増 加 量 と、 得
られ た1、pの増 加 量 の 一 致 が 認 め られ な か った 。 これ は 、 アル カ リ環 境 下 にお け
る セ ル ロー ス と金 表 面 の 電 子 授 受 反 応 が 、 既 存 の グ ル コ ー ス な どの モ ノマ ー 分
子 とは 異 な る 、ポ リマ ー分 子 特 有 の反 応 機 構 を有 して い る可 能 性 が 考 え られ る。
セ ル ロー ス の電 気 化 学 的酸 化 に関 す る反 応 機 構 の よ り詳 し い考 察 に つ い て は 、
第3章
で後 述 す る。
40
Figure 2.8 Electrochemical characterisation of cellulose samples:
(a) size distribution
after nano-particulation
to (i) 100 nm and (ii) 500 nm. (b) cyclic voltammograms of (i)
100 nm, (ii) 500 nm
and (iii) without cellulose.
Scan rate 5 mV/s, with 40 mM
phosphate buffer solution, pH 7.0 (PBS) as the supporting electrolyte.
41
2-6セ
ル ロー ス燃 料 電 池 の作 製 ・評価
2-3項 よ り、金 電極 の 有 す る糖 酸 化 に対 す る触 媒 能 を発 現 で き る環 境 下 で 、セ
ル ロー ス の分 子 内 ・分 子 間 水 素 結 合 を切 断 す る こ とで 、 セ ル ロー ス が 電 極 表 面
と電 気 化 学 的 に 相 互 作 用 で き る反 応 場 を構 築 す る こ とが 可 能 とな り、 セ ル ロー
ス が 電 極 上 で 直 接 酸 化 され 得 る こ とがわ か っ た。 そ こで 、 バ イ オ マ ス の主 成 分
で あ るセ ル ロ ー ス か ら、 糖 化 も発 酵 プ ロセ ス も介 さ ず 、 直 接 電 気 エ ネ ル ギ ー を
供 給 す る こ とが 可 能 な 、ユ ニ ー クな セ ル ロー ス 燃 料 電 池 の作 製 を試 み た 。 図2.9
は、 実 際 に作 製 した 燃 料 電 池 の構 造 で あ る。 セ ル ロー ス 燃 料 電 池 の電 流 電 圧 曲
線 を、 異 な る抵 抗(100Ω
一100kΩ)を
用 い て デ ジ タル マル チ メー ター によ り測
定 した 。 セ ル ロー ス 燃料 電 池 の電 力密 度P(W/m2)は
、 以 下 の 関係 か ら求 め た 。
P[W/m2]=E[V]XI[A]/A[m2](2-1)
こ こで 、Eは
電 池 電 圧[V]、1は
を示 す 。 図2.10に
外 部 回 路 に流 れ た 電 流[A]、Aは
電 極 表 面 積[m2]
、 セ ル ロー ス燃 料 電 池 の電 池 特 性 を示 す 。 測 定 の結 果 、セ ル
ロー ス 燃 料 電 池 の最 大 電 流 密度 は497mA/m2、
最 大 電 力 密 度 は44mW/m2で
あっ
た 。 こ の値 は 、 グ ル コ ー ス な どのバ イ オ マ ス 由来 の糖 成 分 を燃 料 とす るバ イ オ
燃 料 電 池 よ り も低 い 。16し か し、 先 に述 べ た よ うに 、既 存 の エ ネ ル ギ ー 変 換 技
術 で は 、電 気 エ ネ ル ギ ー を取 り出す 過 程(糖
化 お よ び 発 酵 プ ロセ ス)で
、外部
か らエ ネル ギ ー を投 入 す る必 要 が あ る 。 さ らに 、既 存 の プ ロセ ス の組 合 せ で 成
る エ ネ ル ギ ー 変 換 系 で は 、 各 プ ロセ ス の連 結 箇 所 に お け るエ ネ ル ギ ー 損 失 な ど
の 問 題 も抱 え て い る 。 これ らの要 素 を考 慮 す る と、本 研 究 で 構 築 で き た セ ル ロ
ー ス 燃 料 電 池 系 は 、従 来 の も の と比 べ て 、 燃 料 物 質 か らの エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率
が 高 い 、 新 しいバ イ オ マ ス か らのエ ネ ル ギ ー 変 換 シ ス テ ム と して 提 案 で き る も
の と思 われ る 。
42
Figure
2.9 Diagram
and cross-sectional
picture
of the cellulose
fuel cell system
.
Figure 2.10 Characteristics of cellulose fuel cells. (i) current density, (ii) power density.
Fuel cell parameters were measured using several values of resistance with a digital
multi-meter.
43
2-7ま
とめ
本 章 で は 、 金 の糖 酸 化 に対 す る触 媒 能 が 発 現 で き る アル カ リ環 境 下 で 、電
気 化 学 的 に不 活 性 な セ ル ロー ス の 結 晶 構 造 の維 持 に寄 与 して い る分 子 内 ・分 子
間水 素 結 合 を切 断 す る こ とで 、 セ ル ロー ス分 子 鎖 一 本 一 本 が 溶 液 中で ラ ンダ ム
な 配 向 性 を有 し、 金 電 極 と電気 化 学 的 に相 互 作 用 で き る電 気 化 学 的 に活 性 な状
態 を形 成 させ 、金表 面 上(Au-OH)で
セ ル ロー ス を直 接 、電気 化 学 的 に酸 化 で き る
こ とを 見 出 した 。 ま た 、 水 不 溶 性 多 糖 類 の最 初 の電 気 化 学 的 知見 と して 、 セ ル
ロー ス の サ イ ク リ ック ボ ル タ モ グ ラム を得 る ことが で き た 。 また 、 電 気 化 学 的
に酸 化 され た セ ル ロー ス は 、 分 子 上 のカ ル ボ キ シル 基 が 増 加 した セ ル ロー ス 誘
導 体 に 変 化 す る こ とが わ か った 。 さ らに 、実 際 にセ ル ロ ー ス を直 接 燃 料 と して
作 動 す る、 セ ル ロー ス 燃 料 電 池 の 作 製 に 成功 した 。 これ に よ り、 バ イ オ マ ス の
主 成 分 で あ るセ ル ロー ス か ら、 糖 化 も発 酵 プ ロセ ス も必 要 とせ ず 、 直 接 電気 エ
ネ ル ギ ー に 変 換 す る こ とが 可能 な 、 新 しいバ イ オ マ ス か らの エ ネ ル ギ ー変 換 シ
ス テ ム 系 の 構 築 に成 功 した 。 ま た 、 この エ ネ ル ギ ー 変 換 シ ス テ ム 系 は 、 エ ネ ル
ギ ー 変 換 と物 質 変 換 が 、電 極 上 の 電子 授 受 反 応 を介 して 共 役 して い る た め 、 エ
ネ ル ギ ー 供 給 と平 行 して 、物 質 供 給 も可 能 で あ る と い う特 徴 も有 して い る。従
来 のセ ル ロー ス の 改 質 技 術 で は 、 エ ネ ル ギ ー を消 費 して 目的 生 成 物 を得 て い る
こ と を考 え れ ば 、 本 シス テ ム 系 は 、 セ ル ロー ス か ら電 気 エ ネル ギ ー を 取 り出 し
な が ら、 ポ リマ ー 系 工 業 原 料 も同 時 に生 成 で き るユ ニ ー ク なセ ル ロー ス リ フ ァ
イ ナ リー シス テ ム と い う特徴 も有 して い る 。
44
Scheme1.Pathwaytocelluloseoxidationonagoldelectrode.(i)Cellulose
crystallisedstate;(ii)Dissolutionbreaksintra/internalhydrogenbonds;(iii)
Nano-particulationincreasestheamountofreducingterminals.
参
考
文
献
1R.C.Saxena,D.K.Adhikari&H.B.Goyal,Renew.Sust.Energ
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182,1-17.
46
翩
η.2005,5,
第3章
電 気 化 学 的 に直 接 酸 化 され たセ ル ロー ス誘 導 体 の構 造 解 析
3-1緒
言
前 章 よ り、 セ ル ロー ス が電 気 化 学 的 に酸 化 され る こ とで 、そ の 分 子 鎖 上 にお
け るカ ル ボ ニ ル 基 が 増 加 した セ ル ロー ス 誘 導 体 に変 化 す る こ とが 示 唆 され た。
本 章 で は 、 こ の 電 気 化 学 的 に 生 成 さ れ た 酸 化 セ ル ロ ー ス 誘 導 体 の 、X-ray
diffraction(XRD),Fouriertransmissioninfraredspectroscopy(FT-IR),Sizeexclusion
chromatography(SEC)を
用 いた 構 造解 析 を行 った 。 さ らに、 セ ル ロー ス の酸 化 反
応 に 関 与 した 電 子 お よび 生 成 した 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の量 的 関 係 を考 察 し、
セ ル ロ ー ス の 電 気 化 学 的酸 化 反 応 に伴 う酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 へ の反 応 機 構 の
解 明 を試 み る。 また 、 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の酵 素(Cellulase)に よ る被 分解 能 を
調 べ 、 得 られ た セ ル ロー ス 誘 導体 の特 性 評 価 を行 った 。
3-2セ
ル ロー ス の電 気 化 学 的酸 化 反 応 と反応 電 子 数
本 項 で は 、 電 気 化 学 的 に酸 化 さ れ た セ ル ロー ス 誘 導 体 の試 料 作 製 と、 そ の 時
セ ル ロー ス の 酸 化 反応 に関 与 した 電子 数 に つ いて 述 べ る 。図3.1は
、電 気 化 学 セ
ル 系 へ の電 位 の 掃 印 開 始 時 お よ び修 了 時 にお け る 、 セ ル ロー ス の ボ ル タモ グ ラ
ム 、 お よび この 時 セ ル ロー ス の酸 化 反応 に 関与 した 電 気 量(ク ー ロ ン[C])を 、電
位 の掃 印 回数 に対 して プ ロ ッ トした もの を示 す 。 この 図 か ら、セ ル ロー ス か ら
金 電 極 表 面 へ の電 子 授 受 数 は、 電 位 の掃 印 回数 の増 加 に した が い 、指 数 関数 的
に減 少 して い る こ とが 分 か る。 これ は 、 セ ル ロー ス と金 電 極 表 面 に お け る電 子
伝 達 速 度 に、 セ ル ロ ー ス の 電 極 表 面 へ の 拡 散 速 度 が 追 い つ いて い な い 可 能 性 が
47
考 え られ る。 この結 果 を基 に、 本 実 験 に お い て セ ル ロー ス の酸 化 反 応 に 関 与 し
た総 電 気 量(3,75C)を
考 察 に 用 い た(3-4参
求 め、セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 酸 化 に関 す る反 応 機 構 の
照)。
Figure3.1Theelectrochemicaloxidationofcellulose.(a)Cyclicvoltammogramof
celluloseusingAuelectrodeunderthealkalinecondition.(i)Initialcycle(1scan),(ii)
Middlecycle(500scans),(iii)Finalcycle(3,000scans) .Scanrange:-0.1VtoO.4V,
Scanrate:50mV/s(respecttoAg/AgCI).(b)Thecoulombvalueduringcellulose
oxidation.(lnset:coulombvalueduringO^-500scansofCV.)
48
3-3電
気 化 学 的 に酸化 され た セ ル ロー ス誘 導 体 の構 造 解 析
3-3-1酸
化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の特 性変 化
電 気 化 学 的 に酸 化 され た セ ル ロー ス は 、分 子 上 のカ ル ボ ニ ル 基 が 増 加 した
セ ル ロー ス 誘 導 体 に変 化 す る ことは 、既 に2章
で 示 され た 。 こ こで は 、 カ ル ボ
ニ ル 基 の増 加 に よ る、酸 化 セ ル ロー ス 誘導 体 の特 性 変化 につ い て述 べ る 。3-2項
で 作 製 した酸 化 セ ル ロー ス誘 導 体含 有 水 酸 化 ナ ト リウ ム 水 溶液 に、 塩 酸 を徐 々
に加 え てpHを
中性(7.0)に 調 整 した。そ の 結 果 、溶 液 中 に分 子 分 散 して い た セ ル
ロー ス の析 出 が 観察 され た(再
生セ ル ロー ス)。 先 に述 べ たが 、 セ ル ロー ス が 水
酸 化 ナ トリウム 水 溶液 に溶 解(分
が セ ル ロー ス 分 子 上 のOH基
子 分 散)し
て い る 時 、OH一 イ オ ン(NaOH由
来)
と相 互 作 用 してお り、1-3セ ル ロー ス 分 子 上 のOH
基 同士 に よ る 分 子 内 ・分 子 間相 互 作 用 が 弱 ま って い る状 態 が 形 成 され て い る と
考 え られ る(図3.2)。
Figure3.2Chemicalstructureofcelluloseafterdissolution.
49
そ の 結 果 、 セ ル ロー ス 分 子.,本
一 本 が 溶液 中 に分 散 す る こ とが 可 能 とな り、
無 色 透 明な セ ル ロー ス 溶 液 を得 る こ とが で き る 。 こ こで 塩 酸 を滴 下 す る と、 中
和 効 果 によ りセ ル ロー ス 分 子 と相 互作 用 して い たOH一 が取 り除 か れ 、セ ル ロー
ス分 子 のOH基
由来 の分 子 内 ・分 子 間水 素 結 合 が 再 び 形 成 され る。 そ の 結果 、
結 晶 性 のセ ル ロー ス(再
生 セ ル ロー ス)が
析 出 し、溶 液 が 白濁 した もの と思 わ
れ る 。 この 中 和溶 液 を 、遠 心 分 離(12,000rpm,15min)に
よ り上 清 と沈 殿 成 分 に分
け 、凍 結 乾 燥 処 理 して 粉 末 状 試 料 を調 整 した 。 この電 気 化 学 的 酸 化 お よ び 中和
処 理 した セル ロー ス 溶 液 の 上清 お よび 沈 殿 成 分 の粉 末 試 料 の構 造 特 性 を、FT-IR
を用 い て解 析 した。
興 味深 い ことに、 カル ボニル基 に帰属す る吸収 ピーク の増加 は、 上清試 料 の
FT-IRス
ペ ク トル に現 れ 、沈 殿 試 料 の ス ペ ク トル に は現 れ な か った(図3.3)。
こ
の結 果 か ら、 電 気 化 学 的 に酸 化 され た カ ル ボ ニ ル 基 リ ッチ な セ ル ロー ス 誘 導 体
は 、親 水 性 の カ ル ボニ ル 基 の 増 加 に伴 う水 と の親 和 性 が 増 加 した 、 水 可 溶 性 の
セ ル ロ ー ス誘 導 体 に変 化 した 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。また 、沈 殿試 料 のFT-IRス
ペ
ク トル は 、酸 化 され る 前 の元 の 結 晶 性 セ ル ロー ス のス ペ ク トル に似 て い る こ と
か ら、 沈 殿 成 分 は再 生 セ ル ロー ス で あ る と考 え られ る。4-6
50
Figure 3.3 FT-IR analysis of cellulose samples. (a) FT-IR spectra of cellulose
samples (i) cellulose (before dissolution), (ii) cellulose (after dissolution, before
electrochemical oxidation), (iii) cellulose (after electrochemical oxidation). (b)
FT-IR spectra of water soluble and insoluble parts in cellulose after
electrochemical oxidation. (i) supernatant (soluble part), (ii) pellet (insoluble
part). Resolution: 4 cm-1. Range: 650 to 4000 cm'.
51
3-3-2酸
化 セ ル ロー ス 誘導 体 の構 造 変 化
前 項 で は 、金 表 面 にお け るセ ル ロー ス の電 気 化 学 的酸 化 反 応 によ り、 水 不 溶
性 のセ ル ロー ス が 、 水 可 溶 性 の酸 化 セ ル ロー ス誘 導 体 に変 化 した 可 能 性 が 示 さ
れ た 。 本 項 で は 、 電気 化 学 的 な酸 化 反 応 が セ ル ロー ス の構 造 に与 え る影 響 を よ
り詳 し く理解 す るた め に 、XRDお
よびFT-IRを
用 いて 、 セ ル ロー ス の酸 化 反 応
の 前 後 にお け るセ ル ロー ス溶 液 の水 可 溶 成 分 お よ び 水 不 溶 成 分 の 構 造 解 析 を行
った 。 そ の際 、3-3-1項 で 作 製 した酸 化 セ ル ロー ス含 有 水酸 化 ナ トリウ ム水 溶 液
を元 に、 図3.4に 示 した試 料 調 整 を行 い、 本 構 造 解 析 用 の試 料 と した 。
構 造 解 析 の前 に 、 こ こで 調 整 した試 料 を用 い、 セ ル ロー ス 溶 液 の 水 可 溶 成 分
お よ び 水 不 溶 成 分 の 重 量 を測 定 した。 そ の結 果 、 電 気 化 学 的酸 化 反 応 の前 後 に
お い て 、 セ ル ロー ス 溶 液 の水 可 溶/不 溶 成 分 比 に変 化 が あ る こ とが 分 か っ た(図
3。5)。興 味 深 い こ と に 、3000回
6.4%(8.2×103[gDの
の電 位 走 査 を伴 う電 気 化 学 的酸 化 反 応 の 後 、
セ ル ロー ス溶 液 内 の水 可溶 成 分 が 増 加 し、水 不 溶 成 分 比 は減
少 して いた 。 この結 果 は 、 セ ル ロー ス の 電気 化 学 的酸 化 に よ り、 セ ル ロー ス 溶
液 内 の水 不溶 成 分 が 、 水 可 溶 性 成 分 に変 化 した 可 能 性 を示 し、3-3-1項 で 示 唆 さ
れ た電 気 化 学 的酸 化 に よ る水 可 溶 性 セ ル ロー ス 誘 導 体 の存 在 を支 持 して い る。
こ こで 、電 気 化 学 的酸 化 前 のセ ル ロー ス 溶 液 にお いて 、微 量(2%程
度)の 水 可 溶
成 分 の 存 在 が 示 唆 され て い るが 、 これ は 透析 処 理 によ る水 酸 化 ナ トリ ウム 成 分
を完 全 に(100%)取
ー ス のOH基
り除 く こ とが で き ず 、 水 酸 化 ナ トリウム 由来 のOH一 が セ ル ロ
に作 用 して い る分 子 分 散 状 態 の セ ル ロー ス(Cellulose -0δ一Hδ+・OH-)
に起 因す る もの で あ る と考 え られ る。 ま た 、 酸化 反 応 後 の セ ル ロー ス溶 液 の 量
が 酸 化 前 に 比 べ て 減 少 して い るが 、 これ は透 析 ・遠 心 分 離 ・凍 結 乾 燥 を含 む試
料 作 製 の全 過 程 に お け る 、 人為 的操 作 に起 因 す る 試 料 回収 率 の 低 下 に 由来 す る
52
も の で あ る と考 え られ る。
Cellulosesolution
l
Dialysis
l
△
Centrifugation
(12,000叩m,15min)
SupernatantPellet
lWasingwithmilli-Qwater(twice)
Centrifugation
(12,000rpm,15min)
A
SupernatantPellet
↓F・eeze岫g
Cellulosepowder
lDiss°luti°n
Cellulosesolution
l
Electrochemicaloxidation
l
Dialysis
l
△
Centrifugation
(12,000rpm,15min)
SupernatantPellet
lFreezedryingl
SolublecomponentsInsolublecomponents
ll
XRDandFT-IRmeasurement
Figure3.4.Samplepreparationforstructureanalysis
53
Figure3.5Massbalanceofsupernatantandpelletcomponentsasadryweight
incellulosesolutionbeforeandafterelectrochemicaloxidation.Thetotalmass
includesthesupernatantandpelletpartsincellulosesolutionafterdissolution
processwasdefinedas100%ofvolume.Eachsamplewasmeasuredby
balancerafterfreezedryingtreatment.(i:supernatantbeforeoxidation,ii:
pelletbeforeoxidation,iii:supernatantafteroxidation,iv:pelletafteroxidation)
さ ら に詳 し く電 気 化 学 的 酸 化 反 応 に伴 うセ ル ロー ス の 水 可溶 成 分 お よ び水 不
溶 成 分 の構 造 変 化 を調 べ るた め に 、酸 化 反 応 前後 にお け る 各セ ル ロー ス試 料 の
構 造解 析 を行 った 。図3.6に
ス 溶液 の 水 可溶 成 分 のXRDお
、電 気化 学 的 な 酸 化 反 応 の 前 後 にお け る 、セ ル ロー
よ びFT-IRス
ペ ク トル を示 す 。XRDス
ペ ク トル か
ら、 電 気 化 学 的酸 化 反 応 の 前後 にお い て 、 セ ル ロー ス の 結 晶性 に大 き な変 化 は
検 出 され ず 、セ ル ロー ス の溶 解 以 降 、そ の構 造 は ア モ ル フ ァス に近 い状 態 に あ
る こ とが わ か った。13,14また 、FT-IRス ペ ク トル で は、酸 化 反 応 の 前 後 にお いて 、
カル ボ ニル 基 に 帰属 す る 吸収 ピー ク(1400cm雪1)の 強度 が 顕 著 に変化 して お り、セ
ル ロー ス の酸 化 に よ り、そ の分 子 上 のカ ル ボ ニ ル 基 が 増 加 した化 学 構 造 に変 化
54
Figure 3.6 Structural analysis of water soluble and insoluble parts in cellulose
samples before and after electrochemical oxidation. (a) XRD spectra of water
soluble part in cellulose samples. (In-set shows FT-IR spectra.) (i) before
dissolution), (ii) after dissolution, (before electrochemical oxidation), (iii) after
electrochemical oxidation.
55
した こ とが 改 めて 示 され た 。7-9こ れ らの結 果 は、 セ ル ロー ス 分子 鎖 上 のOH基
が 酸 化 され て 親 水 性 のカ ル ボ ニ ル基 に変 化 し、セ ル ロー ス分 子 のOH基
由来 の
分 子 内 お よ び 分 子 間水 素結 合 ネ ッ トワー ク の 形 成 を妨 げ 、水 可 溶 性 のセ ル ロー
ス誘 導 体 が 形 成 され て い る可 能性 を示 唆 して い る。10-12方
応 の前 後 にお け るセ ル ロー ス 溶液 の 水 不溶 成 分 のXRDお
、電気 化 学 的酸 化 反
よ びFT-IRス
で は 、水 可 溶 成 分 と は異 な る構造 変 化 が観 察 され た(図3.7)。XRDを
ペ ク トル
用 い た測
定 結 果 か ら、 結 晶 性 セ ル ロー ス を、 水 酸 化 ナ トリウム を用 い て 水 中で 分 子 分 散
可 能 な 状 態(Cellulose-OOHS+・OH-)に
した後 、透 析 によ り水 酸 化 ナ トリウ ム 由来 の
OH一 を取 り除 いて 再 び 結 晶化 させ た 再 生 セ ル ロー ス は、特 に20=23°
にお け る ピ
ー ク 強 度 が低 下 して い る こ とが 示 され 、 も と のセ ル ロー ス とは 異 な る結 晶構 造
を有 して い る こ とが わ か った 。こ の と き のFT-IRス
ペ ク トル に顕 著 な変 化 は な く、
各 吸収 ピー ク 強 度 が 低 下 す る とい う現 象 が確 認 され た 。 さ らに、 電 気 化 学 的酸
化 反 応 の後 、透 析 処 理 によ り結 晶化 させ た 再 生 セ ル ロー ス のXRD測
23°にお け る ピー ク強 度 が さ らに低 下 し、 他 にZe=Zo°
定 で は 、20-
にお け る ピー ク強 度 も顕
著 に低 下 して い る こと を示 す 結 果 が 得 られ た 。 この 結 果 は 、 電気 化 学 的 酸 化 処
理 後 の再 生セ ル ロー ス は、 も とのセ ル ロー ス お よ び 電 気 化 学 処 理 前 の再 生 セ ル
ロー ス とも異 な る、 よ り低 結 晶性 の構 造 を有 して い る こ と を示 して い る。 この
低 結 晶 性 の再 生 セ ル ロー ス は、 セ ル ロー ス の 電 気化 学 的 酸 化 によ りそ の 分 子 鎖
上 のOH基
が カ ル ボ ニ ル 基 に変 化 した が 、 セ ル ロー ス の 分子 内 ・分 子 間水 素結
合 の 形 成 を完 全 に 阻 害 で き る程 度 に まで 酸 化 され て い な い不 完 全酸 化 セ ル ロー
ス 誘 導 体 が 再 結 晶 化 した も ので あ る と考 え られ る。 セ ル ロー ス の酸 化 反 応 が さ
ら に進 行 す れ ば 、 分 子 内 ・分 子 内相 互 作 用 を 阻 害 す る に足 る カル ボ ニ ル 基 を有
す る 、 水 溶 性 の酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 が 形 成 され る もの と推 察 され る。 これ ま
で 、セ ル ロー ス の溶 解 処 理 が 、 再 生 セ ル ロー ス の構 造 に与 え る影 響 につ いて 研
56
Figure 3.7 XRD spectra of water insoluble part in cellulose samples. (In-set
shows FT-IR spectra.) (i) before dissolution, (ii) after dissolution, before
electrochemical oxidation, (iii) after electrochemical oxidation. Experimental
parameters in XRD are following. Cu Ka radiation at 40 kV and 30 mA with a
scan range of 0.04°. The diffraction angle range: 16 to 30°.
57
究 した報 告 例 は存 在 す る が 、セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 酸 化 処 理 が 、 再 生 セ ル ロ
ー ス の構 造 に与 え る影 響 に関 す る報 告 は ほ とん どな い 。15'17以上 の構 造 解 析 結 果
か ら、 セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 酸 化 反 応 に よ り、 も との水 不 溶 性 の セ ル ロ ース
が 、 カ ル ボ ニ ル 基 の増 加 した 分 子 構 造 に変 化 し、 次 第 に分 子 内 ・分 子 間 の水 素
結 合 相 互 作 用 が 弱 ま り、 最 終 的 にそ の結 晶性 が低 下 した ア モ ル フ ァス状 の 水可
溶性 酸 化 セル ロー ス誘 導 体 に変 化 した ことが 示 唆 され た 。
3-3-3酸
化 セ ル ロー ス 誘 導体 の 分子 量分 布
水 可 溶 性 の 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 に 関 す る よ り詳 しい情 報 を得 るた め に、 サ
イ ズ排 除 ク ロマ トグ ラ フ ィー(SEC)を 用 い た 、酸 化 セ ル ロー ス誘 導 体 の分 子 量 分
布 を測 定 した 。sEcで
は 、shodex製
3.8に 、再 生 セ ル ロー ス(in-set)お
のカ ラムoHpacksB805HQを
用いた。図
よ び酸 化 セ ル ロー ス 誘 導体 の ク ロマ トグ ラム
を示 す 。
電 気 化 学 的 酸 化 反 応 前 の 再 生セ ル ロー ス の ク ロマ トグ ラム で は 、 一 つ の ピー ク
が検 出 さ れ た の に対 し、 電 気 化 学 的 酸 化 反 応 後 の 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の ク ロ
マ トグ ラム で は、 複 数 の ピー ク が検 出 され た 。 こ の結 果 は 、 金 表 面 に お け るセ
ル ロー ス の 電 気 化 学 的酸 化 反応 に よ り、 一種 類 の セ ル ロー ス か ら複 数 の酸 化 セ
ル ロー ス誘 導 体 が 生成 した こと を示 唆 して い る 。SECで
は 、 分 子 サ イ ズ に起 因
す る保 持 時 間 の違 い を利 用 して 、 分 子 サ イ ズ の大 き い分 子 か ら検 出 され る。 し
か し、 本 実 験 結 果 は分 子 サ イ ズ の 違 い に よ る影 響 で は な く、 酸 化 セ ル ロー ス 誘
導 体 の分 子 上 に存 在 す る カル ボ ニル 基 お よ び 水酸 基 の 割 合 の 変 化 と、SECカ
ラ
ム 内充 填 材 の 表 面 官 能 基 との化 学 的相 互 作 用 の違 い に起 因す る もの と考 え られ
る。
58
Figure3.8SECspectrumofwatersolubleoxidizedcellulosederivatives.Flowrate:1.O
ml/min,Injectionvolume:30オ1,sampleconcentration:1.Omg/ml(w/v),mobilephase:
milli-Qwater,coulumntemp:25°C.Somepolyethyleneglycol(PEG)wereusedasa
MWmarker.(lnsetfigureisSECspectrumoforiginalcellulosebeforeoxidation.)
先 に 示 し た カ ル ボ ニ ル 基 に 帰 属 す る1400cm1に
お け る吸 収 ピー ク強 度 の 増加 は 、
酸 化 反 応 の 程 度 の 異 な る 複 数 の 酸 化 セ ル ロ ー ス 誘 導 体 の 平 均 と して 検 出 さ れ た
も の で あ る と 考 え られ る 。 ま た 、 仮 に ク ロ マ トグ ラ ム の 保 持 時 間 の 違 い が 分 子
サ イ ズ の違 い に起 因す る 場合 、金 表 面 上 にお いて セ ル ロー ス の水 酸 基 が 酸 化 さ
れ 、 カル ボ ニ ル 基 に変 化 す る 反応 以 外 に 、 セ ル ロー ス 分子 鎖 の 切 断 に関 わ る反
応 も 起 こ っ て い る こ と を 示 唆 す る 。 これ ま で に 、 セ ル ロ ー ス が 水 酸 化 ナ ト リ ウ
59
ム 水 溶 液 中 に分 子 分 散 で き る状 態(Cellulose-0δ一Hδ+・OH-)にある とき 、セ ル ロー ス
分 子 のC1位
お よ びC4位
C3、C5、C6位
は高 磁 場側(低ppm側)に
は 低磁 場側(高ppm側)に
シ フ トし、 そ の他 のC2、
シ フ トす る とい う13C-NMRを
実 験 結 果 が 報 告 され て い る。溶 液NMRに
用 いた
お け る化 学 シ フ トの変 化 は 、主 に電子
密 度 の 変化 に対 応 して い る た め 、 この とき の セ ル ロー ス 分 子 は、C2、C3、C5、
C6の 電 子 密 度 が 減 少 し、C1お
よ びC4の
電 子 密 度 が 増 加 して い る こと を意 味 し
て い る 。 セ ル ロー ス分 子 が 切 断 され る場 合 、 そ の構 成 糖 単 位(グ
士 のC1お
よびC4位
ル コ ー ス)同
によ る化 学結 合 で 形 成 され るβ一1,4一
グ リコ シ ド結 合 が 切 断 さ
れ る こ と と同 義 で あ る。このセ ル ロー ス 分 子 の グ リコ シ ド結合 に 関わ るClお
びC4位
よ
炭 素 の電 子 密 度 の偏 りが 、金 表 面 にお け る電 気 化 学 的 反応 に よ る電 子 授
受 反 応 を介 して 、 セ ル ロー ス 分 子 の分 解 反 応 に寄 与 して い る とす れ ば、非 常 に
興 味深 い研 究 が 展 開 され る も の と考 え られ る。
3-4セ
ル ロー ス の電 気 化 学 的酸 化 反 応 機 構 に 関す る考 察
セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 酸 化 反 応 の 反 応 機 構 を明 らか にす るた め に 、金 表 面
に お け るセ ル ロー ス の酸 化 反 応 に 関 与 した電 子 と、 生 成 した 酸 化 セ ル ロー ス 誘
導 体 の 量 的 関係 を調 べ た 。 これ ま で に、 セ ル ロー ス の 構 成糖 単 位 で あ る グ ル コ
ー ス が 、 ア ル カ リ環 境 下 にお け る 金 属 電 極 上(ex.Au-OH)で
電 気化 学 的 に酸 化 さ
れ る反 応 は、 グ ル コー ス の還 元 末 端 で あ るア ル デ ヒ ド基 が 、 電 極 上 で カル ボ キ
シ ル 基 に変 化 す る2電
子 反応 で あ る こ とが解 明 され て い る。18・19フ ァ ラデ ー の
電 気 分 解 の法 則 か ら、 反 応 電 子 数 と反 応 生成 物 との 関 係 は 、 以 下 の よ う に表 さ
れ る。
一
〔多〕〔M〕(3.1)
60
ここで 、mは
ー 定 数(96
反応 生成 物 の量[9]、Qは
,500Cmorl)、Mは
反 応 に 関与 した 電 子 数[c]、Fは
フ ァラデ
反 応 物 質 の分 子 量[gmol-1]、zは 反 応電 子 数 を表 す 。
グル コー ス の電 気 化 学 的 酸 化 反 応 と同 様 に、 そ の ポ リマ ー で あ るセ ル ロー ス の
電 気 化 学 的 酸 化 反 応 が2電
子 反応(zニ2)で あ る とす る と、反 応 生成 物 で あ る酸 化
セ ル ロー ス 誘 導 体 は 、 フ ァ ラデ ー の 電気 分 解 の法 則 か ら約9.7g生
成 され る こ と
にな る。しか し、実 際 に 生成 した酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の 重量 は8.2×10"3g(3-3-2
参 照)で あ り、 理 論 値 と実 測 値 に大 きな 差 異 が あ る。 この 結果 は 、セ ル ロー ス の
電 気 化 学 的 酸 化 反 応 で は 、2電 子 以 上 の電 子授 受 反応 が 関 与 して い る こ とを示 唆
して い る。 これ まで の 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の構 造 解 析 結 果 と併 せ て 考 察 す る
と、 アル カ リ環 境 下 にお け る金 電極 上 の電 気 化 学 的 な セ ル ロー ス の 酸 化 反 応 機
構 は、 セ ル ロ ー ス 分 子 鎖 の還 元 末端 で あ る ア ル デ ヒ ド基 か らカ ル ボ キ シル 基 へ
の2電
子 反 応 、 お よび セ ル ロー ス 分子 鎖 上 の 複数 の水 酸 基 か らカル ボ ニル 基 へ
の1電
子 反 応 を有 す る、 多 電子 酸化 反応 で あ る可能 性 が 考 え られ る 。実 際 、 高
分 子 ポ リマ ー で あ るセ ル ロー ス の還 元 末 端 が 酸 化 され 、 親 水性 の カ ル ボキ シル
基 に変 化 した だ け で 、 分 子 全 体 の水 と の親 和 性 が 増 加 した水 溶 性 物 質 に変 化 し
た とは 考 え に くい 。 そ こで 、 セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 酸 化 反 応 によ り、 どの程
度 の 水 酸 基 が カル ボ ニ ル 基 に変 化 した か を 、 フ ァ ラデ ー の電 気 分解 の法 則 お よ
び 実測 値(m:8.2×lo-3[9](3-3-2参
照),Q:3.75[c](3-2参
照),M:5.o×105[gmol-1]
(3-3-3参 照))か ら見 積 も った 。そ の結 果 、 本実 験 に お け るセ ル ロー ス の電 気 化 学
的酸 化 反 応 に お い て 、少 な く と も約2370電
子 が酸 化 反応 に関 与 して い る こ とが
示 され た 。 これ は 、 一分 子 のセ ル ロー ス鎖 上 に存 在 す る水 酸基 の約28.4%が
カ
ル ボ ニ ル 基 に変 化 した こ と を示 唆 して い る。 この試 算 結 果 か ら、 一 分 子 のセ ル
ロー ス が 水 に溶 解(分
子 分 散)可
能 とな る の に必 要 な カ ル ボ ニ ル 基 の割 合 を推
察 す る こ とが で き た。 以 上 の 結 果 か ら、 アル カ リ環 境 下 に お け る金 表 面 上 のセ
61
ル ロー ス の 電 気 化 学 的 酸 化 反 応 は 、 そ の還 元 末端(ア
シル 基 に変 化 す る2電
す る複 数 の1電
3-5酸
ル デ ヒ ド基)が
カルボキ
子 反 応 お よび 、 分 子鎖 上 の 水 酸 基 が カル ボニ ル 基 に変 化
子 反 応 を伴 う、 多 電子 酸 化 反応 で あ る可能 性 が 示 され た 。
化 セ ル ロー ス 誘 導体 の被 分解 能 の評 価
セ ル ロー ス が 水 可 溶 性 の酸 化 セ ル ロー ス誘 導 体 とな る こ とで 、 も と のセ ル ロ
ー ス と どの よ うな 特 性 変 化 が あ る のか を調 べ た 。 本 項 で は 、セ ル ロー ス の特 性
の 一 つ と して 、 酵 素 に よ る被 分解 能 につ い て 述 べ る。 セ ル ロー ス 誘 導 体 の被 分
解 能 は 、T.reesei由来 のセ ル ラーゼ(2mg/ml)と
を 、50mMの
各種 セ ル ロー スサ ン プル(10mg/ml)
クエ ン酸 緩 衝 液 中(pH:4.8)に て50°Cで 反 応 させ 、 生成 した グル コ
ー ス濃 度 を 、 酵 素 法 を用 い て測 定 し、 元 の結 晶 性 セ ル ロー ス と比 較 す る こ とで
評 価 した 。 図3.9は 、酵 素 によ る基 質 の 分 解 反 応 時 間 に対 す る 、分 解 生成 物(グ
ル コー ス)濃
度 を示 して い る 。 こ の結 果 か ら、 酸 化 セ ル ロー ス誘 導 体 の被 糖 化
速 度 は 、 も との セ ル ロー ス お よ び 再 生 セ ル ロー ス よ り も高 い こ とが わ か る。 特
に、 酵 素 反 応 初 期 にお け る基 質 の 分解 速 度 に 大 き な 差 異 が み られ る。 これ は 、
セ ル ロー ス お よ び 再 生 セ ル ロー ス は 水 不 溶 性 で あ り、 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 は
水 可 溶 性 で あ るた め 、 基 質 と酵 素 の 接 触 確 率 が 異 な る こ とに起 因 して い る もの
と考 え られ る。 図3.10は
、 各 基 質 の 酵 素 によ る被 糖 化 率 を示 して い る 。そ の結
果 、 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 の被 糖 化 能 は 、 も との セ ル ロー ス お よ び 再 生 セ ル ロ
ー ス よ りも約3倍
高 い こ とが 示 され た 。 また 、 この酸 化 セ ル ロー ス誘 導 体 の被
分解 能 は 、CMCの
分 解 能 に 匹敵 す る ことが わ か った 。 これ らの結 果 か ら、水 不
溶 性 セ ル ロー ス を電 気 化 学 的 に酸 化 して 得 られ た水 可 溶 性 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導
体 は 、酵 素 によ って よ り分 解 しや す い物 質 特 性 を有 して い る こ とが わ か っ た。
62
Figure 3.9 Glucose yield against the enzymatic reaction time. (i) cellulose
(original), (ii) insoluble part of cellulose after electrochemical oxidation, (iii)
soluble part of cellulose after electrochemical oxidation, (iv) carboxymethyl
cellulose (CMC).
63
Figure3.10Enzymaticsaccharificationrateofcellulosesample.(i)cellulose
(original),(ii)insolublepartofcellulose(afteroxidation),(iii)solublepartof
cellulose(afteroxidation),(iv)CMC.
3-6ま
とめ
水 不 溶 性 の セ ル ロー ス を電 気 化 学 的 に直 接 酸 化 させ る こ とに よ り、 分 子 鎖 上
にお け る カ ル ボ ニ ル 基 が 増 加 した 、 水 可 溶 性 の セ ル ロー ス 誘導 体 が 生 成 す る こ
とが 示 され た 。この 水可 溶 性 のセ ル ロー ス 誘 導 体 は 、元 のセ ル ロー ス に比 べ て 、
酵 素 に よ る 被 糖 化 能 が 高 い とい う特 徴 を有 す る こ と もわ か った 。 また 、 一 つ の
電 気 化 学 的 反 応 場 で 得 られ る セ ル ロー ス 誘 導 体 は 一 種 類 で は な く、 複 数 種 存 在
す る可 能 性 が 示 唆 され た。 さ らに、 セ ル ロー ス の 電 気 化 学 的酸 化 反 応 の メカ ニ
ズ ム に関 す る研 究 結 果 も得 られ 、セ ル ロー ス 分子 鎖 の 還 元 末 端(COH基)だ
な く、 分 子 鎖 上 の複 数 のOH基
けで
が 酸 化 され る多電 子 反 応 で あ る可能 性 が 示 唆 さ
64
れ 、 グ ル コ ー ス な ど 、 他 の 燃 料 物 質 の 酸 化 反 応 が2電
子 反 応 で あ る こと を考 え
れ ば 、 セ ル ロ ー ス が 燃 料 と し て 非 常 に 高 い ポ テ ン シ ャ ル を 有 し て い る こ とが わ
か っ た 。電 気 化 学 的 な セ ル ロー ス の 酸 化 反 応 に 関 す る反 応 機 構 の解 明 は 、セ ル
ロ ー ス か ら の エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 の 向 上 だ け で な く、 選 択 的 に 、 特 定 の セ ル ロ
ー ス誘 導 体 を生 成 あ る い はデ ザ イ ンす る こ とが 可 能 な 制 御 系 の 構 築 に も大 き く
寄 与 す る ことが 期 待 され る。
本 研 究 成 果 に よ り 、従 来 の セ ル ロ ー ス な ど の 難 溶 性 ポ リ マ ー の 改 質 技 術 分 野 に 、
電 気 化 学 的 手 法 を導 入 で き る ことが 示 さ れ 、 電 極 電 位 や そ の 材 質 、 界 面 状 態 な
ど 、 各 種 電 気 化 学 的 パ ラ メ ー タ が 加 わ り 、 従 来 の 化 学 的 改 質 で は 制 御 の 難 しか
っ た 領 域 に応 用
・展 開 で き る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 こ れ に よ り 、 新 た な 機 能 性
新 素 材 や 、 ナ ノ 材 料 な ど を 選 択 的 に 生 成 で き る こ と も期 待 さ れ る 。
参 考 文 献
1M.R.Edward,Nature.2008,454,841-845.
2M.F.Demirbas,Appl.EneNg.2009,86,5151-5161.
3N.Mosier,C.Wyman,B.Dale,R.Elander,Y.Y.Lee,M.Holtzapple&M.Ladisch,
B'o照 ε50z鋼cε.Technol.2005,96,673-・:・
4R.W.Kessler,U.Becher,R.Kohler&B.Goth,Biomass.β'oε
237-249.
5R.C.Saxena,D.K.Adhikari&H.B.Goyal,Renew.Sust.EneYg.Rev.2009,13,
167-178.
6S.K.Chaudhuri,D.R.Lovley,Nat.Biotechnol.2003,21,1229-1232.
7T.Heinze&T.Liebert,.Prog.Polym.Sci.2001,26,1689-1762.
8S.J.Eichhorn,C.A.Bailline,N.Zafeiropoulos,L.Y.Mwaikambo,M.P.Ansell,A.
65
ηεアg.1998,14,3,
Dufresne,K.M.Entwistle,P.J.Herrera-Franco,GC.Escamilla,L.Groom,M.
Hughes,C.Hill,T.GRials&P.M.Wild,J.Mater.Sci.2001,36,2107-2131.
9A.Samir,F.Albin&A.Dufresne,Biomacromolecules.2005,6,612-626.
10K.Dieter,H.Brigitte,P.F.Hans&B.Andreas,AngewChem.Int.Ed.2005,44,
3358-3393.
11C.D.Blasi,E.GHernandez&A.Santoro,Ind.Eng.Chem.Res.2000,39,873-882.
12X.Yin,A.Koschella&T.Heinze,React.Funct.Polym.2009,69,341-346.
13T.Sasaki,T.Tanaka,N.Nanbu,Y.Sato&K.Kainuma,Biotechnol.Bioeng.1979,
XXI,1031-1042.
14S.Y.Oh,D.LYoo,Y.Shin,H.C.Kim,H.Y.Kim,Y.S.Chung,W.H.Park&J.H.
Youl,CaYbohyd.Res.2005,340,2376-2391.
15A.Isogai&R.H.Atalla,Cellulose.1998,5,309-319.
16J.Cai,L.Zhang,Macromol.Biosci.2005,5,539-548.
17A.Lue,LZhang&D。Ruan,漁
αo襯o乙Chem.∫)hys.2007,208,2359-2366.
18LBecerik,Turk.J.Chem.1999.23,57-66.
19S.B.Aoun,Z.Dursun,T.Koga,GS.Bang,T.Sotomura&1.Taniguchi,2004.J.
E7θc∫70α
ηα乙C乃
θ〃z.567,175-183.
66
第4章
セル ロ ー ス 分 解 の た め の 生 体 構 造 模 倣 型 人 工 触 媒 系 の 創 生
4.1緒
言
2章 お よ び3章
か ら、本 研 究 で提 案 した セ ル ロー ス か らの直 接 エ ネ ル ギ ー 変 換
シス テ ム は 、糖 化 お よ び 発 酵 プ ロセ ス を必 要 とせ ず 、 セ ル ロー ス か ら直 接 電 気
エ ネ ル ギ ー お よ び機 能 性 ポ リマ ー を同 時 に生 成 可 能 な 、 新 しいバ イ オ マ ス か ら
のエ ネル ギ ー ・物 質 変 換 シ ス テ ム 系 の 実 現 可 能 性 を示 した 。 しか し、 エ ネル ギ
ー 供 給 とい う観 点 か ら見 た 場 合 、 セ ル ロー ス か ら得 られ る電 力 が低 い とい う問
題 点 が あ る。 セ ル ロー ス 燃 料 電 池 の 電 力 密 度 の 向 上 は 、地 球 上 に広 域 に分 布 し
て い るバ イ オ マ ス をon-siteで 利 用 で き る可 能 性 を秘 めた 、 次 世 代 の エ ネ ル ギ ー
供 給 シ ス テム の構 築 に貢 献 す る ことが期 待 され る。
セ ル ロー ス 燃 料 電 池 の 電 力 密 度 を決 定 す る 重 要 な 要 素 と して は、 主 に電極 間
電 位 差 、電 流 密 度 、 反 応 物 質1分
子 当 りの電 子 授 受 数 な どが 考 え られ る。 電 極
電 位 お よび 電 流 密 度 の 向 上 に向 けた 研 究 は 、 燃 料 電 池 分 野 を は じめ と した 多 く
の 領 域 で 取 り組 まれ て お り、 反 応 物 質 に 適 した電 極 材 料 を使 用 す る こ とや 、 電
極 表 面 をナ ノ構 造 化 し、糖 酸 化 に対 す る新 た な触 媒 能 を発 現 させ る こ とに よ り、
電 極 間 電 位 差 の増 加 や 、 有 効 反 応 表 面 積 の増 加 に伴 う見 か け の電 球 密 度 の 向上
が見 込 まれ る 。
また 、 燃 料物 質1分
子 当 りか ら得 られ る電 子 数 の 向 上 に関 して は 、 グ ル コー ス
の ポ リマ ー で あ るセ ル ロー ス は 、グル コー ス な ど他 の低 分子 燃 料 物 質 と比べ て 、
十 分 酸 化 され た後 に お いて も、 モ ノマ ー 単 位 に まで 分 解 され る こ とで 、電 極 上
で 酸 化 され 得 る構 造 を有 す る燃 料 物 質 を新 た に供 給 す る こ とが で き 、 さ らに 多
く の電 力が 得 られ る こ とが 見 込 ま れ る。 本 シ ス テ ム で は 、セ ル ロー ス を電 気 化
67
学 的 に酸 化 す る ことで 、被 分 解 能 の 高 い 、水 溶 性 の 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 が 生
成 され る こ とが 示 され た(3章
参 照)。 機 能性 電 極 の作 製 な ど、 上述 した 既 存 の
最 適 化 に よ り、 よ り多 くの エ ネ ル ギ ー お よび 分 解 され や す い酸 化 セ ル ロー ス 誘
導 体 が 生 成 さ れ 、 この 誘 導 体 を分 解 ・糖 化 させ 、 さ らにエ ネル ギ ー を取 り出す
こ とで 、従 来 の グル コー ス な ど を用 いた バ イ オ 燃 料電 池 よ り も、燃 料 物 質 か ら
の エ ネ ル ギ ー 変 換効 率 の 高 い 燃 料電 池 シ ス テム 系 の構 築 が 可能 とな る。 しか し、
酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 を分 解 ・糖 化 す る ため に 、従 来 の 糖 化 プ ロセ ス を再 び 取
り入 れ て は 、本 研 究 の コ ンセ プ トと一 致 しな い 。 そ こで 、新 た にセ ル ロー ス の
加 水 分 解 反 応 を触 媒 す る酵 素 の触 媒活 性 部 位 の 構造 を、 人 工 的 に燃 料 電 池 電 極
また は 電 池 内構 造 に形 成 させ る こ とで 、 従 来 の バ イ オ 燃 料 電 池 に 比 べ て 、 エ ネ
ル ギ ー 変 換 効 率 お よ び 分 散 型 エ ネル ギ ー 供 給 性 に優 れ た 、 新 しいセ ル ロー ス 燃
料電 池 シス テ ム 系 が構 築で き る と考 え られ る。
Figure4.1Schemeofdirectenergyconversionfromcellulosewithhighefficiency
68
自然 界 で は 、酵 素(Cellulase)が セ ル ロー ス を分解 す る際 、 酵 素 の 活 性 中心 で あ
る2つ
のカ ル ボ キ シル 基 が セ ル ロー ス 内 の β一1,4一
グ リコ シ ド結 合 を切 断 す る反 応
を触 媒 す る。1-3こ の2つ
の カル ボキ シル 基 の間 に は数Aの
距 離 が あ り、 この空
間 内 で セ ル ロ ー ス の グ リコ シ ド結 合 が 切 断 され る。 一方 の 基 はマ イ ナ ス 電荷 を
帯 び 、 も う一方 の基 は電 荷 を帯 びて いな い構 造 を持 って お り、 この2つ
の基 が
同 時 にR-1,4一グ リコ シ ド結 合 に作 用 す る と い う反 応機 構 が報 告 され て い る 。4-6
本 章 で は 、カ ー ボ ンナ ノチ ュー ブ(CNT)な
どの ナ ノ材 料 を用 い て 、 このセ ル ラ
ー ゼ の活 性 中心 を模 した 構 造 を 人 工 的 に 再 構 築 し
発 現 を試 み る(図4.1)。
、糖 の 分解 を触 媒 す る反 応 の
現 在 、ゼ オ ライ トを は じめ 、 金 属 や 担 持体 な どのナ ノ
材 料 の種 類 、 ま た は そ の粒 子 径 の大 き さ と触 媒 能 の 関 係 を検 討 す る研 究 は よ く
行 わ れ て い る が 、 ナ ノ材 料 を用 い て 、 上 述 した酵 素 な ど の生 体 分 子 が 持 つ 、 独
特 の構 造 を模 した触 媒 能 の発 現 に 関す る研 究 報 告 は ほ とん どな い。川A単
位の
制御 は 難 しい が 、 そ れ で も確 率 的 に酵 素 の 活 性 中心 模 倣 構 造 に よ る 、 糖 の分解
反 応 を発 現 で き る 可 能 性 が 考 え られ る 。 本 章 で 提 案 す る生 体 構 造 模 倣 型 人 工 触
媒 は 、 セ ル ロ ー ス か らの エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 の 向 上 だ けで な く、触 媒 科 学 の分
野 に新 た な方 向性 を示 す こ とがで き る と考 え られ る。
69
Figure4.1Hypothesisofsugardegradationbycarbonnanotubestructuredbiomimetic
catalyst.
4-2生
体構造模倣型人工触媒の作製
生 体 構 造 模 倣 型 人 工触 媒 を構 築 す るた め 、糖 の 分 解 反 応 に対 す る触 媒活 性 部
位 と な るカ ル ボ キ シル 基 を 修 飾 し、 本 人 工 触 媒 の 基 本 構 成 単 位 とな る
CNT(COOH-CNT)を
作 製 した 。CNT表
面 に お け るCOOHの
修 飾 は、 これ まで 多
く の 方 法 が 報 告 され て い る 。12-14本 研 究 で は 、 酸 処 理 を用 い た 一 般 的 な 方 法
70
(HNO3:H2SO4,1:3,(vん)で
COOH-CNTのFT-IRス
調 整 し た 。14図4.2に
ペ ク トル を 示 す 。COOH-CNTのFT-IRス
(1430,1460)、1640お
C-0-Hお
、COOH-CNTを
よ びOHの
よ び2980cm-1に
COOH-CNTを
よび
ペ ク トル で は 、
お い て 、 カ ル ボ キ シ ル 基 由 来 の>C=0、
内 角 振 動 吸 収 ピ ー ク が 検 出 さ れ た の に 対 し 、CNTのFT-IR
ス ペ ク トル で は 、 こ れ ら の 吸 収 ピ ー ク は 検 出 さ れ な か っ た 。14こ
酸 処 理 に よ りCNTに
、CNTお
の結 果 か ら、
糖 の 触 媒 活 性 部 位 と な る カ ル ボ キ シ ル 基 を修 飾 し た
作 製 で き た こ とが 確 認 さ れ た 。
Wavenumbers[cm1]
Wavenumbers[cm']
Figure4.2FT-IRspectraofCNTandCOOH-CNT:(A)TherangeofOHbending
vibrationderivedfromcarboxylate,(i)CNT,(ii)COOH-CNT.(B)TherangeofC=O
bendingvibrationderivedfromcarboxylate,(i)CNT,(ii)COOH-CNT.
71
作 製 したCOOH-CNTを
用 いて 、セ ル ラ ーゼ の活 性 部 位 構 造 を模 倣 した 人 工触
媒 の作 製 を試 み た。 ア ミ ノシ ラ ン処 理 を施 した1×1.5cmの
ま た はCOOH-CNTを
滴 下 し、80°Cの オー ブ ンで 乾 燥 させ た 。この 操作 を繰 り返
し、 ガ ラス基 盤 上 にCNTま
た はCOOH-CNTが
成 させ た 。 図4.3に 、作 製 したCNTお
像 を示 す 。SEM観
ガ ラス 基 盤 に 、CNT
察 か ら、CNTお
造 上 の違 い は な く、 と も にCNTが
積 層 した マ トリ ッ クス構 造 を形
よ びCOOH-CNTマ
よびCOOH-CNTマ
トリッ クス のSEM画
トリッ クの 間 に大 き な構
何 層 に も折 り重 な っ て で き た、 複 雑 な ナ ノ構
造 を有 して い る こ とが わ か る。 また 、CNT同
士 が 近 接 した 領 域 も観察 す る こ と
が で き 、 これ らの構 造 が 、 生 体 構 造 模 倣 型 人 工 触 媒 の触 媒 発 現 に寄 与 す る もの
と考 え られ る 。
Figure4.3SEMimagesofCNTbasedmatrix.(a)1オmscale,(b)100nrriscale.
72
4-3生 体 構 造模 倣 型 人 工触 媒 の触 媒 発 現 とpH依
存性
本 節 で は 、4-2節 で 作 製 し た 生 体 構 造 模 倣 型 人 工 触 媒 の 触 媒 発 現 に つ い て 議
論 す る 。 本 人 工 触 媒 の 触 媒 発 現 を 評 価 す る た め に 、10mMの
ル コ ー ス 分 子 のC1お
よ びC4位
がR-t,4一 グ リ コ シ ド結 合 し て 成 る グ ル コ ー ス の 二
量 体)を
含 む ク エ ン 酸 リ ン 酸 緩 衝 液 をCNTお
100オ1滴
下 し て24時
測 定 し た 。 図4.4に
セ ロ ビ オ ー ス(グ
よ びCOOH-CNTマ
トリッ クス に
間 反 応 させ 、 溶 液 中 の グ ル コ ー ス 濃 度 を 、 酵 素 法 を 用 い て
、 異 な るpH環
ッ ク ス 上 の グ ル コ ー ス(分
境 下 に お け るCNTお
解 生 成 物)濃
よ びCOOH-CNTマ
度 を示 す 。
Figure4.4EffectofpHonnano-structurebasedcatalystagainstdegradationof
cellobiose:(i)CNTmatrix,(ii)COOH-CNTmatrix.
73
トリ
本 人 工触 媒 を用 い たセ ロ ビオ ー ス の 分解 実 験 の結 果 、COOH-CNTマ
を用 い た 場合 の方 が、CNTマ
トリ ックス を用 い た場 合 よ りも、 基 質 の 分解 成 分
で あ る グル コ ー ス の濃 度 が 高 か った 。 この 結 果 は 、CNT上
のCOOHが
ー ス の 分解 反 応 に影 響 して い る こと を示 して い る 。 また 、CNTマ
用 い た 場 合 、 異 な るpHに
COOH-CNTマ
トリッ クス
セ ロ ビオ
トリッ クス を
対 す る グル コー ス 濃 度 の変 化 は み られ な か った が 、
トリ ック ス を用 い た場 合 、 生成 した グル コ ー ス濃 度 にpH依
が あ る こ とが わ か り、COOH-CNTマ
トリ ック ス 上 の 反 応環 境 場 のpHが3.0の
存性
と
き 、 反 応 溶 液 内 の グル コー ス 濃 度 が 最 も高 か っ た 。 一 般 に、 官 能 基 の プ ロ トン
化/脱 プ ロ トン化 の平衡 条 件 はpK値
で 与 え られ る。カ ル ボ キ シル基 のpK値
3.1∼4.4で
あ る こ と を 考 え る と 、COOH-CNTマ
COOH/CO()一
のカ ップ リン グ構 造 が 形 成 す る確 率 が 高 いpH3.0付
現 した 結 果 は 、 よ り実 際 の酵 素(セ
ル ラー ゼ)の
が約
トリ ック ス の触 媒 能 が 、
近 で最 も高 く発
触 媒 活 性 部 位 が 形 成 す る反 応
場 に近 い構 造 を構 築 で き た可 能 性 を示 唆 して い る。
4-4生
体 構 造模 倣 型 人 工触 媒 の触 媒 能 と機 能 化CNT量
の 関係
生体 構 造 模 倣 型 人 工触 媒 の触 媒 発 現 が 、 実 際 の酵 素(セ
ル ラー ゼ)の
触媒活性
部 位 に近 い構 造 を形 成 す る確 率 が 支 配 的 に 関与 して い る場 合 、触 媒 反 応 に 関与
す るCOOH-CNTの
増 加 量 に比 例 して 、触 媒 発 現 も増 加 す る と考 え られ る。そ こ
で 、 異 な るCOOH-CNT量
で 構 築 され たCOOH-CNTマ
トリ ック ス を用 い た場 合
に対 す る生 成 グ ル コ ー ス 濃 度 を調 べ 、本 人 工 触 媒 の触 媒 発 現 に 関 す る考 察 を試
み た 。COOH-CNT量
の 異 な るマ トリック ス は、COOH-CNTの
る こ とで作 成 した 。 図45に
滴 下 回数 を制御 す
、本 人 工 触 媒 を構 成 す るCOOH-CNT量
成 グル コー ス 濃度 を示 す 。 この 図か ら、COOH-CNT量
74
に対 す る 生
が増 加 す る に つれ て 、反
応 溶 液 内 の グル コー ス 濃 度 が 増 加 した こ とが わ か る。 こ の結 果 か ら、 あ る一 定
の確 率 の元 で 、糖 の グ リコ シ ド結 合 を切 断 す る の に必 要 なCOOH/COO構
成 され てお り、 さ らにCOOH/COO一
が 増 加 す る こ とで 、COOH/COσ
造が形
構 造 を 形 成 す る確 率 因子 で あ るCOOH-CNT
構 造 の絶 対 数 が 増 加 し、 この構 造 が 寄 与 す る糖
の 分解 反 応 が 促 進 され た と考 え られ る。 以 上 の 結 果 か ら、本 章 で提 案 した 生体
構 造 模 倣 型 人 工 触 媒 の 糖 の 分 解 反 応 は 、COOH-CNTを
用 い て 再 構 築 した
COOH/COO'構
造 が 触 媒 して お り、 ま た そ の 触 媒 発 現 量 は 、 人 工 触 媒 に お け る
COOH/COO構
造 の形 成 確 率 に依 存 して い る可 能 性 が 示 唆 され た 。
Figure4.5ConcentrationofglucoseproducedagainsttheamountofCOOH
functionalizedCNTonaglasssubstrate.
75
4-5ア
ミ ノ酸 修 飾 に よ る生 体 構 造 模倣 型 人 工触 媒 の触 媒 発現 へ の影 響
こ れ ま で の 結 果 か ら、 生 体 構 造 模 倣 型 人 工 触 媒 の 擬 似 活 性 部 位 で あ る
COOH/COO一
構 造 の 形成 確 率 の増 加 に比 例 して 、本 人 工触 媒 の 反応 効 率 が増 加 す
る可 能 性 が示 唆 され た 。本 節 で は 、酸 性 ア ミ ノ酸 をCOOH-CNTに
人 工触 媒 構 造 内 にお け る活 性 部 位(COOH/COσ
化 学 修 飾 させ 、
構 造)の 形成 確 率 の 増 加 を試 み 、
糖 分 解(β一1,4一
グ リコ シ ド結 合 の切 断 反 応)の 触 媒 反 応 効 率 の 向上 を試 み る 。本 実
験 で は 、 二 つ のカ ル ボ キ シル 基 を有 す る酸 性 ア ミ ノ酸 で あ る グ ル タ ミ ン酸 お よ
び ア ス パ ラギ ン酸 を用 いた(図4.6)。
Figure4.6Chemicalstructuresofaminoacid.(i)Glutamicacid,(ii)Asparticacid.
COOH-CNTへ
の修 飾 に は 、EDCを
ボ キ シ ル 基(COOH)と
反応 促 進 剤 と して用 い 、COOH-CNTの
カル
グル タ ミ ン酸 ま た は アス パ ラギ ン酸 の ア ミ ノ基(NH3)を 化
学 結 合 させ た ア ミ ノ酸修 飾CNTマ
トリッ クス を新 た に作 製 した 。 図4.6か
らわ
か りよ うに、ア ミ ノ酸 修 飾 人 工触 媒 で は、そ の 構 成 単位 で あるCOOH-CNT上
の
一 つ の カ ル ボ キ シル 基 に対 して 、 二 つ の カル ボ キ シル 基 を有 す るア ミ ノ酸 の ア
ミ ノ基 と結 合 す るた め 、 カ ル ボ キ シル基 の 数 が最 大2倍
76
に増 加 す る(図4.7)。
そ の た め 、 ア ミ ノ酸修 飾 人 工触 媒 の触 媒 活 性 構 造 の 形 成確 率 が 増 加 し、そ の触
媒 活 性 が ア ミ ノ酸 を修 飾 して い な い もの よ り高 くな る可 能 性 が 考 え られ る。
Figure4.7SchemeofaminoacidmodificationonCOOH-CNT
こ の ア ミ ノ酸 を修 飾 した こと に よ る本 人 工触 媒 の触 媒活 性 へ の影 響 を調 べ るた
め に 、4-3節
と同様 の 測 定 を行 い、 ア ミ ノ未 修 飾 の触 媒 活 性 と比 較 した。 まず 、
グル タ ミン酸 を修 飾 した こ とに よ る 人 工 触 媒 活 性 へ の影 響 に つ い て 議 論 す る。
図4.8は
、 グル タ ミ ン酸 修 飾(Glutamicacid-COOH-CNT)人
工触 媒 の 異 な るpHに
お け る グ ル コ ー ス 生 成 量 を示 して い る。 この 図 か ら、 グル タ ミ ン酸 修 飾 人 工触
媒 を用 いた 場 合 の 生 成 グル コー ス濃 度 にpH依
存 性 が あ り、反 応 溶 液 のpHが3.0
の と き最 も高 い グル コー ス が 生 成 され た こ とが わ か る。また 、 この とき(pH:3.0)
の 生 成 グル コ ー ス 濃 度 は 、 グ ル タ ミ ン酸 未 修 飾 の人 工触 媒 を用 いた 場 合 よ り も
約1.6倍
高か った 。
77
Figure4.8EffectoftheglutamicacidfunctionalizedCNTmatrixagainstthecellobiose
degradationatdifferentpHvalues.
ま た 、 図4,9に
グル タ ミ ン酸 修 飾 人 工触 媒 を構 成 す るCOOH-CNT量
に対 す る 生
成 グル コ ー ス 濃度 を示 す 。 この 図 か ら、人 工触 媒 を構 成 す るCOOH-CNT量
が増
加 す る と、 生 成 グル コ ー ス量 が 増 加 す る傾 向 が 示 唆 され るが 、 ア ミ ノ酸 を修 飾
して いな い 人 工触 媒 の結 果(4-4節)と 比 べ る と、COOH-CNTの
増 加 量 と生 成 グル
コ ー ス の増 加 量 の 関 係 が リニ アで は な か った 。 これ らの結 果 か ら、 本 人 工触 媒
を構 成 す るCOOH-CNTに
グル タ ミ ン酸 を修 飾 す る こ とで 、糖 の分 解 反応(ロー1,4一
グ リ コ シ ド結 合 の 切 断)に 対す る触 媒 活 性 が 向 上す る こ とが 示 され た 。
78
Figure4.9Concentrationofglucoseproducedagainsttheamountofglutamicacid
functionalizedCOOH-CNTmatrix.
これ は 、 人 工 触 媒 内 の カル ボ キ シル 基 の 数 が 増 加 し、 糖 の分 解 に対 す る触 媒 反
応 を発 現 で き る 、 よ り多 くの触 媒 部 位(COOH/COO構
造)が
形成 され た た め 、
触 媒 活 性 が 増 加 した と考 え られ る。
次 に 、 ア ス パ ラギ ン酸 を修 飾 した こ と に よ る 人 工触 媒 活 性 へ の影 響 につ いて 議
論 す る。図4.10は
な るpHに
、ア スパ ラギ ン酸 修 飾(Asparticacid-COOH-CNT)人
お け る グル コー ス生 成 量 を示 して い る。 この 図 か ら、ア スパ ラギ ン酸
修 飾 人 工触 媒 を用 いた 場合 の 生成 グル コ ー ス濃 度 に もpH依
のpHが3.0の
工触 媒 の 異
存 が あ り、反 応 溶 液
とき最 も高 い触 媒 活 性 を発 現 した ことが わ か る。
79
Figure4.10EffectoftheaminoacidfunctionalizedCNTmatrixagainstthecellobiose
degradationatdifferentpHvalues.
しか しな が ら、 グル タ イ ン酸 修 飾 人 工触 媒 と比 べ て 、 アス パ ラギ ン酸 修 飾 人 工
触 媒 の 触 媒 活 性 は低 い こ とが 示 され た。 興 味 深 い こ とに、 セ ル ラ ー ゼ に類 す る
天 然 の 酵 素 の多 くが 、 グル タ ミン酸 由 来 の カ ル ボ キ シル 基 を触 媒 活 性 部 位 と し
て 機 能 させ て い る こ とが 知 られ て い る。 本研 究 の 今 後 の成 果 に よ り、 酵 素 の部
分 的 な 立 体構 造 の意 義 を 明確 にで き る可 能 性 が 考 え られ る。
4-6生
体 構 造模 倣 型 人 工触 媒 の 反応 効 率
前 節 まで の結 果 か ら、 本 研 究 で構 築 した 生体 構 造 模 倣 型 人 工触 媒 が 、被 模
倣 酵 素(セ ル ラー ゼ)と 同様 の触 媒能 を発 現 で き る こ とが 示 され た 。本 節 で は 、
80
こ の 生 体 構 造 模 倣 型 人 工 触 媒 の 触 媒 能 を 、 他 の 生 体 触 媒(酵
較
・評 価
し 、 本 人 工 触 媒 の 触 媒 効 率 お よ び 反 応 速 度 論
素)の
触 媒 能 と 比
を 考 察 す る 。 表4.1に
、 生
体 構 造 模 倣 触 媒 お よ び 生 体 触 媒 の 特 異 活 性 の 値 を 示 す 。
Table4.1Thespecificactivityofsugardegradablecatalysts.
CatalystSpecificactivityReferences
[nmol/min/mg]
exoglucanase(derivedfromAspergillussp.)44015
(3-glucosidase(derivedfromAspergillussp.)102015
(3-glucosidase(derivedfromappleseed)38016
Bio-mimeticnano-structurebasedcatalyst3.82Thiswork
本 人 工触 媒 の基 質 に対 す る特 異 活 性 は約3.82nmol/min/mgofcatalystで
の天 然 の 生 体 触 媒 で あ る 酵 素(セ
ル ラー ゼ)と
あ り、 他
比 較 す る と、 本 人 工触 媒 の触 媒
効 率 が 極 め て 低 い こ とが わ か る。 これ は 、 人 工 触 媒 に お い て 、 糖 の分 解 反 応 を
発 現 可 能 なCOOH/COO構
構 成 す るCOOH-CNTの
造 の数 が 少 な い ことが 考 え られ る。恐 ら く人 工 触 媒 を
ほ と ん どが 、理 想 的 なCOOH/COO一
構 造 を形 成 す るた め
の足 場(scaffolds)として機 能 して い る もの と思 わ れ る。 この 考 察 か ら、 実 用 的な
触 媒 能 を有 す る 人工 触 媒 の構 築 を考 慮 した 場 合 、前 節 で 述 べ たCOOH/COσ
の形
成 確 率 は低 い と い う こ とが 示 され た 。 ま た 、 本 人 工触 媒 が 模 倣 した構 造 は、 酵
素 の触 媒 活 性 部 位 に 由 来 す る構 造 だ けで あ り、 酵 素 の 持 つ 他 の重 要 な 機 能(基
質 の 認 識 お よび 結 合 機 能 、 基 質 の触 媒 部 位 へ の誘 導 ・配 向 制 御 機 能 、 触 媒 反 応
後 の 基 質 と の離 脱 機 能 な ど)を
発 現 す る構 造 は 、本 人 口触 媒 に は 形 成 され て い
な い 。 そ の た め 、天 然 の 酵 素 の触 媒 効 率 に比 べ て 、そ の 機 能 の一 部 しか 発 現 で
81
き な い 本 人 工 触 媒 の 触 媒 効 率 は 低 か っ た も の と考 え ら れ る 。
こ こ で 、 表4.1で
示 し た 酵 素 の 分 子 量 お よ び 単 位 重 量 あ た りの 酵 素 分 子 の 数
[㎜ 、it/mg]を 試 算 し た も の を 表4.2に
示 す 。
Table4.2Molecularweightandthemolecularnumberofenzyme.
Totalnumberof
CatalystMolecularweight
molecule
[unit/mg]
Exoglucanase(Aspergillussp.)575001.04696×1016
β一glucosidase(Aspergillussp.)400001.505xlOl6
(3-glucosidase(appleseed)120(kDa)5.018×1015
人 工 触 媒 の 分 子 量 に つ い て は 、 そ の 構 成 単 位 で あ る ひ と つ のCNTをlunitと
て 、 特 異 活 性 を 試 算 し た 。CNTは
直 径55㎜
、 長 さ1.2オmの
し
棒 状 構造 と して扱
い 、 炭 素 一炭 素 結 合 間 距 離 を1.42Aと
し た 。17本
層 数 の 定 量 は 未 確 認 で あ る が 、4,5層
程 度 か ら数 十 層 の 範 囲 で あ る と 仮 定 し た 。
仮 に4層
CNTが
構 造 と し て 試 算 す る と 、lmgのCNTマ
実 験 で 使 用 し たCNTの
断 面 の
ト リ ッ ク ス に 約5.64・1012個
の
存 在 す る こ とが 示 唆 され た 。 これ らの情 報 を元 に、 次 式 に従 って 一 分子
の 触 媒 当 り の 特 異 活 性E[㎜ol/min/unitofcatalyst]を
求 め た。
Specificactivity[nmoUmin]
E[nmoUmin/unit]_
Totalnumberofmoleculeinonemgofcatalystsample[unit/mg]
そ の 結 果 、本 人 工触 媒 の 一分 子 当 りの特 異活 性 の方 が 、 酵 素 の 一 分 子 当 りの特
異 活 性 よ り も 高 か っ た(図4.ll)。
82
Figure4.11Specificactivityofcellobiosedegradationagainsttheoneunitofcatalysts.
この結 果 は 、 本 人 工 触 媒 の 重 量 当 りの活 性 部 位 数 が 、 酵 素 の 重 量 当 りの 活 性 部
位 数 よ り も多 い可 能 性 を 示 唆 して い る。 一般 に、 セ ル ラー ゼ に類 す る 酵 素 は、
数 百kDaの
タ ンパ ク質 複 合体 で あ り、 そ の各 々の タ ンパ ク質 複 合 体 に(主
に)
一 つ の活 性 部 位 を持 つ 。15・16その た め 、個 々 の触 媒 一・
分子 当 りの活 性 は 、 重 量
が 大 き く反 応 サ イ ト数 が 一 つ しか な い酵 素 よ りも、 重 量 が 酵 素 の タ ンパ ク質 複
合体 と比 べ て 軽 く、 ま た低 い 形 成 確 率 な が ら も複 数 の 反 応 サ イ トが 存 在 す る可
能 性 を有 す る 生体 模 倣 型 人 工触 媒 の方 が 高 い と い う結 果 が 得 られ た もの と考 え
られ る。 この 結 果 か ら、本 人 工 触 媒 は 、触 媒 重 量 当 りの触 媒 反 応 サ イ ト数 が 酵
素 に比 して 多 い と い う特 徴 が 示 され た 。
83
次 に 、 本 人 工 触 媒 の触 媒 活 性 部 に寄 与 す る カ ル ボ キ シ ル 基 の 数 を 中和 滴 定 に よ
り求 め 、CNT上
にお け るカ ル ボ キ シル 基 の 密 度 を試 算 した 。中和 滴 定 で は 、1mM
の水 酸 化 ナ トリウム 水 溶 液 に、 水 に分 散 させ たCOOH-CNT(lmg/ml)溶
に滴 下 して い き、 滴 下 量 に対 す るpH変
液 を徐 々
化 を測 定 した(図4.11)。
Figure4.11NeutralizationtitrationofsodiumhydroxideusingtheCOOH-CNT:
(i)CNT,(ii)COOH-CNT.
本 滴 定 に お け る 中 和 反 応 で は 、 以 下 の 反 応 が 進 行 して い る と 考 え られ 、
CNT-(COOH)x+X・NaOH→CNT-(COONa)x+X・H20
図4.11の
結 果 お よび 次 式 か ら、CNT一
分 子 あた りに存 在 す るカ ル ボ キ シル 基 の
数 を見 積 も った 。
84
riNaOH
x=
1TICNT・(cooH)n!McNT(cooH)n
(nN。OH:10[オmol](反
応 した 水酸 化 ナ トリウ ム 量)、mcNT(cooH)。:3.3[mg](平
点 に達 す るま で のCOOH-CNT量)、McrrT(cooH)。:1.15×108[g/mol](CNTの
衡
分子
量))
そ の 結 果 、一 つ のCNT上
に約3.48×105unitの
こ とが 示 され た 。 これ は 、CNTの
カル ボキ シル 基 が修 飾 さ れて い る
単位 表 面 積1nm2当
り に約1.68unitの
キ シル 基 が存 在 して い る こ とにな る。 この 一 つ のCNT上
カル ボ
に お け るカル ボ キ シル
基 間 の平 均 距 離 は 、 触 媒 サ イ トと して 機 能 す る カル ボ キ シル 基 間 の距 離 よ り も
大 き く、 ま た 、CNT上
に修 飾 され た カル ボ キ シル 基 の配 向 性 も、CNT平
して垂 直方 向 に修 飾 さ れ る と考 え られ て い る た め 、一 つ のCNT上
面 に対
で糖 の分 解 反
応 が進 行 す る可 能 性 は 少 な く、少 な くと も二 つ 以 上 のカ ル ボ キ シル 基 修 飾CNT
が触 媒 サ イ トの 形 成 に必 要 で あ る こ とを 示 して い る 。 ま た 、仮 に二 つ のカ ル ボ
キ シル 基 修 飾CNTが
近 接 して いた と して も、CNT上
の全 て の カ ル ボ キ シル 基 が
糖 の 分解 反 応 に有 効 な 触 媒 サ イ トの形 成 に寄 与 す る とは 限 らず 、 多 くのカ ル ボ
キ シル 基 が 触 媒 サ イ トの形 成 に寄 与 で き て いな い可 能 性 が 十 分 考 え られ る。 さ
ら に、 触 媒 反 応 に寄 与 す る一 対 のカ ル ボ キ シル 基 は 、 一 方 が プ ロ トン化 して お
り他 方 は 脱 プ ロ トン化 して い る状 態 で は じめ て 糖 の分 解 活 性 サ イ トと して 機 能
す る と考 え られ る た め 、 有 効 な 触 媒 サ イ トの 形 成 確 率 は さ らに 低 くな る と考 え
られ る。図4.12は
、本 人 工触 媒 を構 成 す るCNT一
分 子 あ た りに存 在 す る有 効 な
触 媒 サ イ ト数 を見 積 も った 結 果 を示 す 。人 工 触 媒 を構 成 す るCNT一
の触 媒 サ イ ト数(Y[unit/molecule])は 、一 分 子 の 生 体 触 媒(酵
85
素)に
分子 あた り
は 一 つ の触 媒
Figure4.12Thenumberofactivesitespermoleculeofcatalyst.OneCNTstructurewas
consideredasonemoleculeofcatalyst.
サ
イ
ト が
存
在
す
る
[㎜01/min/molecule]励
こ
と か
ら 、
本
人
工
触
媒
お
よ
び
生
体
触
媒
の 特
異 活
性
匕を 取 る こ と で 見 積 も っ た 。
EB;t・t且yst[nmol/min/molecule]
Y[unit/molecule]_
EEnzyme[nmol/minmolecule]
そ の結 果 、一 つ のCNTに
、一つ 以 上 の触 媒 サ イ トが 存 在 す る可 能 性 が 示 唆 され 、
本 人 工触 媒 で は 、 天 然 の 生体 触 媒 よ りも多 く の触 媒 活 性 サ イ トが 形 成 され 得 る
と い う特 徴 が 示 され た 。 また 、本 試算 結 果 はCNTを4層
最 小 値 で あ る。 さ らに 、本 人 工触 媒 で は、CNTお
構 造 と して 見積 も った
よ びCOOH基
の 配 向 性 の最 適
化 は行 わ れ て い な いた め 、そ の触 媒 反 応 効 率 は、 長 い進 化 の過 程 で 最 適 化 され
て きた 天 然 酵 素 の カ ル ボ キ シル 基 間 の距 離 お よ び 配 向 性 が 寄 与 す る触 媒 反 応 効
率 よ り も低 い可 能 性 が十 分考 え られ る。 そ の た め 、CNTが4層
86
以 上 の構 造 を有
す る可 能 性 と、個 々 の触 媒 サ イ トの反 応効 率 の違 い を考 慮 す る と、実 際 のCNT
一 分 子 あ た りの触 媒 サ イ ト数 は今 回見 積 も った 値 よ りも多 い と思 わ れ る 。 今後
の 最 適 化 、特 にCNTお
(COOH/COOり
よ びCOOHの
配 向性 の 制御 によ る理 想 的 な 触 媒 活 性 部位
の形 成 確 率 の 向 上 によ り、 さ ら に糖 分解 の触 媒 効 率 の 増 加 が 期 待
され る。
4-7ま
とめ
糖 のR-1,4一グ リコ シ ド結 合 を加水 分 解 す る酵 素 セ ル ラーゼ の触 媒 活 性 部 位
の構 造 を、ナ ノ材 料 で あ るCNTを
用 いて 再構 築 し、セ ル ラー ゼ と 同様 の糖 の分
解 機 能 を発 現 す るバ イ オ ミ メテ ィ ックな 人 工 触 媒 を構 築 す る ことが で き た 。本
人 工触 媒 の触 媒 活 性 は 、カル ボ キ シル 基 のpK値
付 近 で 最 大 とな り、また 人工触
媒 中 に存 在 す る カ ル ボ キ シル 基 の量 の増 加 と と も に、触 媒 活 性 が 増 加 す る こと
が 示 され た。 これ は 、 本 人 工 触 媒 が 、糖 の 加 水 分 解 反 応 を触 媒 す る活 性 部 位 構
造 の 形 成 確 率 に依 存 して い る こ とが 示 唆 され た。 また 、 カ ル ボ キ シ ル 基 の数 が
等 し い グル タ ミ ン酸 お よ び ア スパ ラギ ン酸 を修 飾 した 人 工 触 媒 の活 性 に違 いが
認 め られ 、 ア ミ ノ酸 の 構 造 由来 の機 能 に 起 因す る 興 味 深 い要 素 が あ る こ とが 示
され た 。 これ は 、 セ ル ラー ゼ の活 性 部 位 を形 成 す るカ ル ボキ シル 基 の多 くが 、
グル タ ミ ン酸 由 来 の も ので あ る 理 由 を解 き 明 か す 方 向 に展 開で き る も の と思 わ
れ る。 本 章 で 展 開 され て き た 生体 構 造 模 倣 型 の 人 工 触 媒 に 関す る概 念 は 、本 論
文 の 目的 で あ る セ ル ロー スか らの効 率 的 な 直 接 エ ネ ル ギ ー 変 換 系 の 構 築 だ けで
な く、 既 知 の 反 応 機 構 を扱 う他 の 生体 関 連 分 野 に も大 き く寄 与 す る こ とが で き
る と考 え られ る 。 本 人 工 触 媒 に 関 す る研 究 は 、従 来 とは 異 な る方 向 か ら生命 の
本 質 に迫 る研 究 展 開 に貢 献 で き る可能 性 を秘 め て い る と思 わ れ る 。
87
参
考
文
献
1R.H.Doi&A.Kosugi,NatureReviewsMicrobiology.2004,2(7),541-551.
2C.Sanchez,BiotechnologyAdvances.2009,27,185-194.
3R.E.Nordon,S.J.Craig&F.C.Foong,BiotechnolLett.2009.31,465-476.
4A.Ochiai,T.Itoh,Y.Maruyama,A.Kawamata,B.Mikami,W.Hashimoto&K.
Murata,J.BIOL.CHEM.2007.282,NO.51,37134-37145.
5A.Vasella,G.J.Davies&M.Bohm,CuYrentOpinioninChemicalBiology.2002.
6,619-629.
6A.White&D.R.Rose,Curr.Opin.3跏c.Biol.1997,7,645-651.
7C.M.Thomas&T.R.Ward,Appl.OYganomet.Chem.2005,19,35-39.
8G.L.Elizarova,G.M.Zhidomirov&V.N.Parmon,CatalysisToday.2000,58,
..
9Z.Fang&R.Breslow,Org.Lett.2006,8,2,251-254.
10V.R.Choudhary,S.K.Jana&B.P.Kiran,Catal.Lett.1999,59,217-219.
11A.V.Krishnan,K.Ojha&C.Pradhan,OrganicProcessResearch&Development.
2002,6,132-137.
12C.M.Thomas&T.R.Ward,Appl.Organomet.Chem.2005,19,35-39.
13C.Zhou,S.Wang,Q.Zhuang&H.Zhewen.CARBON.2008,46,1232-1240.
14M.K.Kumar&S.Ramaprabhu,J.Phys.Chem.B.2006,110,11291-11298.
15PS.Bagga,D.K.Sandhu&S.Sharma.ゐ
勿
16H.L.Yu,J.H.Xu,W.T.Lu&GQ.Lin,Enzyme.Microb.Tech.2007,40,354-361.
17M.T.Yin,M.L.Cohen,Phys.RevB.1984,29,12,6996-6998.
88
乙Bαc嬬o乙1990,68,61-68.
第5章
総括
本 研 究 で は 、 バ イ オ マ ス の 主 成 分 で あ るセ ル ロー ス を、 糖 化 も発 酵 プ ロセ ス
も介 さ ず 、従 来 のバ イ オ 燃 料 電 池 シス テ ム よ りも高 いエ ネル ギ ー 変 換 効 率 で 、
直 接 電 気 エ ネ ル ギ ー に変 換 で き る 、ユ ニ ー ク な セ ル ロー ス燃 料 電 池 シ ス テ ム 系
構 築 を試 み 、 バ イ オ マ ス の新 しい利 用 技 術 の 提 案 を行 っ た 。 これ に よ り、 地 球
上 に豊 富 に、 広 域 に分 布 して い るバ イ オ マ ス を、 分 散 型 エ ネ ル ギ ー 供 給 源 と し
て 利 用 す る実 現 可 能 性 を示 し、 次 世代 の エ ネ ル ギ ー 供給 網 シス テ ム の 構 築 ・デ
ザ イ ン に寄与 す る こ とが 期 待 され る。
そ の 最 初 の段 階 と して 、 金 の糖 酸 化 に 対 す る触 媒 能 が 発 現 で き る ア ル カ リ環
境 下 で 、電 気 化 学 的 に不 活 性 なセ ル ロー ス の結 晶構 造 の 維 持 に寄 与 して い る分
子 内 ・分 子 間 水 素 結 合 を切 断 させ 、 セ ル ロー ス分 子 と金 電 極 が 電 気 化 学 的 に相
互 作 用 で き る 反 応 環 境 を見 出 す こ と に成 功 した 。 これ に よ り、 従 来 不 可 能 で あ
った セ ル ロー ス か らの直 接 エ ネ ル ギ ー 変 換 が 可能 とな り、 従 来 技 術 に必 須 の糖
化 お よ び発 酵 プ ロセ ス を介 さ ず 、 直 接 セ ル ロー ス か ら電 気 エ ネル ギ ー 供 給 が 可
能 な 、 新 しいバ イ オ 燃 料 電 池(セ
ル ロー ス 燃 料電 池)系
の構 築 に成 功 した 。
さ らに 、セ ル ロー ス の化 学 エ ネ ル ギ ー を電 気 エ ネ ル ギ ー に変 換 した 後 、 水 不
溶 性 の セ ル ロー ス が 水 可 溶 性 の 酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 に変 化 す る こ とが わ か っ
た。 この 結 果 を も と に 、 酸 化 反 応 の前 後 に お け るセ ル ロ ー ス の 構 造 お よ び 反 応
特 性 を調 べ 、セ ル ロー ス の電 気 化 学 的 酸 化 の反 応 機 構 の側 面 が 明 らか にな っ た。
これ らの 結 果 か ら、 エ ネ ル ギ ー と 同時 に ポ リマ ー 系 工業 原 料 も生 成 で き るセ ル
ロー ス リ フ ァイ ナ リー シ ス テ ム に展 開で き る可 能 性 が 示 され 、 セ ル ロー ス の直
接 エ ネ ル ギ ー 変 換 シ ス テ ム 系 の 新 しい可 能 性 が 示 され た 。 また 、 ひ とつ の電 気
化 学 反 応 場 で 得 られ る酸 化 セ ル ロー ス 誘 導 体 は一 種 類 で は な く、 複 数 種 存 在 す
89
る こ とが 示 唆 さ れ 、従 来 の セ ル ロー ス の 改 質 技 術 に も応 用 ・展 開で き る こ とも
示 され た 。 ま た 、 この 酸 化 セ ル ロー ス誘 導 体 は 、 も との セ ル ロー ス に比 べ て 、
酵 素 に よ る被 糖 化 能 が 高 い こ とが わ か った 。 本 論 文 で は 、 この分 解 しや す い酸
化 セ ル ロー ス 誘 導体 を さ らにエ ネ ル ギ ー 源 と して利 用 す る こ とで 、 燃 料 物 質 か
らのエ ネル ギ ー 変 換 効 率 の高 いセ ル ロー ス 燃 料 電 池 の 改 良 を試 み 、 糖 の分 解 反
応 を触 媒 す る 新 しい 人 工酵 素 の創 生 を試 み た 。 そ の 結 果 、 化 学 修 飾 した カ ー ボ
ンナ ノチ ュー ブ(CNT)を 用 い て 、糖 を分解 す る酵 素 セ ル ラー ゼ の触 媒 活 性 中心 の
構 造 を 人 工 的 に再 構 築 し、酵 素 と 同様 の触 媒 機 能 を発 現 す る 、 バ イ ミメ テ ィ ッ
ク な 人 工触 媒 の 創 生 に成 功 した 。 現 在 、 ゼ オ ライ トを は じめ 、 金 属 や 担 持 体 な
どの ナ ノ材 料 の種 類 、 ま た は そ の粒 子 径 の大 き さ と触 媒 能 の 関 係 を検 討 す る研
究 は よ く行 わ れ て い る が 、 ナ ノ材 料 を用 い て 、 上 述 した 酵 素 な どの 生体 分 子 が
持 つ 、 独 特 の 構 造 を模 した触 媒 能 の発 現 に関 す る研 究 報 告 は ほ とん どな い。A
単位 の 制 御 は 難 しいが 、 そ れ で も確 率 的 に酵 素 の活 性 中心 模 倣 構 造 に よ る 、糖
の分 解 反 応 を発 現 で き る可 能 性 が 考 え られ る。 本 研 究 で 提 案 す る 人 工 触 媒 に よ
り、 酵 素 の 部 分 的 な機 能 評価 が で き る可 能 性 が 考 え られ 、 セ ル ロー ス か らの エ
ネ ル ギ ー 変 換 効 率 の 向 上 だ けで な く、従 来 とは 異 な る方 向か ら生命 の本 質 に迫
る研 究 展 開 に寄 与す る こ とが 期 待 され る。
90
Summary
The demand
a lack
for energy
of sufficient
alternative
based
energy
reported.
techniques
infrastructure.
from
using
cells
specialised
reaction
a much
due to cutting
of fermentation
types
based
of sugar
for these
cellulose
need
for complicated
this technique
via
as a viable
important
research
transfer
if cellulose
progress
from
electrochemical
process
cells
from
functional
of soluble
been
hydrogen
and
devised
and developed.
mainly
tapped
of its stored
cells.
In this respect,
sugars
surface
91
supply
now,
various
the fuels
to be produced
wide
source.
is a crucial
electrodes
direct
step.
of
steps
and allows
enabling
The
adoption
the intermediate
energy,
on gold or silver
reported.
energy
as an energy
Reducing
electric
However,
limits
and
fermentation
Until
and still need
substantially
system
been
for distributed
of biomass
to the electrode
have
process.
these
into the
without
electrode
conversion
fuel cell technology.
in bio fuel
biomass
this
have
whole
can convert
of application
been
can be widely
for operating
which
derived
for utilization
components
oxidation
fuel
energy
like saccharification
green
to be made
biomass
input
such as glucose
saccharification
conversion
Unfortunately,
its energy
cells have
cells are monosaccharide
from
very
biofuel
and energy
for
to exploit
of biomass.
range
from
techniques
as an
topics
component
on anodic
broader
important
using
of sugars
of sugars
of conventional
and
biomass
intensively
equipment,
energy
Utilizing
is generated
the main
bio
industrialisation,
one of the most
fermentation
sugar-based
chemical
have
A number
growth,
sources.
becoming
energy
cellulose,
Recently,
oxidation
Biofuel
society.
processes,
from
require
renewable-energy
saccharification,
these
produced
due to population
is increasingly
including
Using
ethanol
source
sustainable
source
energy
cost-effective
energy
material
is increasing
further
electron
Indeed,
under
is
the
alkaline
conditions
has
However,
as
complicated
cellulose
far
have
chapter
we
not been
are
2, direct
electrode.
characteristics
To
the
best
to increase
generated
both the electric
and could
of
characteristics
of
structure.
Since
it possible
an analytical
surface.
cells.
utilization
we considered
and, develop
current
energy,
and
study
cellulose
We characterized
generated.
new
power
Main
present
with
of a sustainable
to
technique
results
in each
report
achieved
of the
on
basic
conditions.
A
We nano-particulated
cellulose
and
cellulose
The
based
without
but
for utilization
cell
and
steps
cell system
reagents
in the
is simple,
and
of biomass
time.
This
constituents,
industry.
cellulose
on gold,
using
system
saccharification
biomaterial-based
oxidation
fuel
important
fuel
to both
of the derivatives
92
was
alkaline
of water-soluble
electrochemical
the structure
regard
first
under
initial
generation.
cellulose
is the
derivatives
possibilities
the production
using
This
experiments
lead to the development
3, we report
and evaluated.
is economical
raises
this
of cellulose
and cellulose
for electrical
of dissolved
knowledge,
oxidation
These
of cellulose
water-insoluble
conditions.
the
processes.
In chapter
fuel
direct
electrochemical
on an electrode
oxidation
of our
successfully
managed
proof-of-concept
on
conditions,
protocols
electrochemical
labour-intensive,
reports
of their rigid crystalline
certain
directly
of sugar-based
as follow.
fuel cell was constructed
less
no
The
because
dissolution
of electrochemical
fermentation
are
as cellulose.
under
can be oxidized
development
there
mostly
is possible
are summarized
to the
aware,
such
cellulose
cellulose
utilization
leading
studied
of cellulose
In chapter
gold
as
the present
in which
reported,
polysaccharides
dissolution
exploit
been
derivatives
under
XRD,
the
FTIR,
from
alkaline
and SEC
techniques. The results suggest that some hydroxyl groups on cellulose molecule are
oxidized
into the carbonyl groups
due to electrochemical
oxidation.
We further
demonstrated that these oxidized cellulose derivatives are more readily degraded by
cellulase enzymes more readily than the original cellulose. In addition, the calculation
of electron
transfer
during
electrochemical
oxidation
process
between
cellulose
molecule and gold electrode revealed it to be a multiple electron transfer reaction
process. These results have direct application to the development of a novel cellulose
refinery
technology
water-soluble
with
simultaneous
electricity
generation
and production
of
cellulose derivatives. To be able to utilize cellulose, one of the major
constituents of biomass- yet very hard to directly tap into- should be considered a key
contribution to bio-refinery in the near future.
In chapter 4, I claim successful construction of a bio-inspired catalyst based on the
CNT matrix functionalized with carboxylate groups. This nanostructure
is capable of
catalyzing sugar degradation reaction by cleaving the 13-1,4-glycosyl bonds of the sugar
substrate by the same way as the natural cellulase. Our construct successfully mimicked
the active center of the sugar degrading 13-glycosyl hydrolases. The catalyst functioned
optimally at pH ----3.0. Our work will allow for the construction of an array of artificial
catalysts that mimic the conformation of the active centers of enzymes, for which the
structure—catalysis relationships
speculated.
are already
With some improvement,
known
or at least can be partially
such bio-inspired
catalysts
can be used in
bioprocess industries, especially in bio-energy conversion, thereby avoiding the use of
hazardous
microbial cultures or expensive
natural enzymes. Recently,
for on-site
utilization of biomass, a unique fuel cell was developed capable of generating electricity
93
directly
direct
from cellulose.13
energy
sources,
for
constructs
complex
enzymatic
This novel
catalysis,
macroscopic
We propose
conversion
system
example,
wastes,
can be used
enzyme
that
that the integration
will
as a fuel
for systematic
conformations
to
enable
for
us to use
generating
evaluation
gain
of this artificial
of the
a better
biomass
from
electricity.
functional
insight
into
catalyst
with
ubiquitous
Moreover,
individual
the
a
such
parts
mechanisms
of
of
activity.
bio-mimetic
natural
approach
catalytic
biological
processes,
can enhance
the scientific
which
in turn,
will,
networks.
94
understanding
provide
information
of synthetic
related
to
業 績
リ ス
ト
本 学 位 論 文 に 関 す る 原 著 論 文
1.YasuhitoSugano,Mun'delanjiVestergaard,HiroyukiYoshikawa,Masato
SaitoandEiichiTamiya,
"Di
rectelectrochemicaloxidationofcellulose:Acellulose-basedfuelcellsystem,"
Electroanalysis.(doi.10.1002/elan.201000045).
2.YasuhitoSugano,Mun'delanjiVestergaard,MasatoSaitoandEiichiTamiya,
"C
arbonnanotubestructuredbiomimeticcatalystforpolysaccharidedegradation,"
(submitted).
3.YasuhitoSugano,HoaLeQuynh,Mun'delanjiVestergaard,Sathuluri
RamachandraRao,HiroyukiYoshikawa,MasatoSaito,YamaguchiYoshinoriand
EiichiTamiya,
"Electrochemical4ε
γ∫
磁
翩
加(fcell
ul・se・ngo14プOYenhancedcellulase
degradablesubstratesandstructuralcharacterization,"(submitted).
95
関 連 原 著 論 文
1.LeQuynhHoa,YasuhitoSugano,HiroyukiYoshikawa,MasatoSaitoand
EiichiTamiya,
"Abi
ohydrogenfuelcellusingaconductivepolymernanocompositebasedanode,"
BiosensorsandBioelectronics.(doi:10.1016/j.bios.2010.04.017)
総 説
・解 説 等
1.菅
野 康 仁,民
谷 栄 一.
"セ ノ〃 ロ ー ズ 燃 料 露 勉"
燃 料 電 池,Vb1.9,No.1,2009.
国 際 会 議 発 表
1.YasuhitoSugano,JunichiNaruse,LeQuynhHoa,HiroyukiYoshikawa,Masato
SaitoandEiichiTamiya,
"Celluloserefinerysystemusingdirectelectrochemicaloxidation
,"
7thAsianConferenceonElectrochemistry(7thACEC).Kumamotouniversity,
Japan,2010。05.18-22(口
頭 発 表)
2.YasuhitoSugano,MasatoSaito,andEiichiTamiya,
"Directelectricitygenerationfromcelluloseusingfuelcell
,"
FirstInternationalSymposiumonAtomicallycontrolledFabricationTechnology.
Osakauniversity,Japan,2009.02.16-17(ポ
ス タ ー 発 表)
96
3.YasuhitoSugano,Masato.SaitoandEiichiTamiya,
"Bi
ofuelCellswithCelluloseNano-Particles,"
TheElectrochemicalSociety,PacificRimMeeting2008.Honolulu,Hawai,
2008.10.13.(口
頭 発 表)
国 内会 議 発 表
口頭 発 表
1.菅
野 康 仁 、 成 瀬 淳 一 、HoaLeQuynh、
"燃 釋 露 抛Pシ ズ テ ム を::た
電 気 化 学 会 第77大
2.菅
野 康 仁,成
会.富
瀬 淳 一,吉
吉 川 裕 之 、 斉 藤 真 人 、 民谷 栄 一
セ ノ〃∠コー ズ の 瓦 広 生 戎 物 の 繃"
山 大 学 五 福 キ ャ ン パ ス,2010.03.29
川 裕 之,斉
藤 真 人,民
谷 栄 一
"セ ノ〃ロ ー ズ 燃 響 馳"
第61回
3.菅
日 本 生 物 工 学 会 大 会.名
野 康 仁,成
古 屋 大 学 東 山 キ ャ ン パ ス,2009.09.23
瀬 淳 一,HoaLeQuyn,吉
川 裕 之,斉
藤 真 入,民
谷 栄 一
"セ ノ〃σ 一 ズ か ら の 直 髪 工 ネ ノ〃ギ ー 変 契 シ ズ テ ム"
2009年
4.菅
電 気 化 学 秋 季 大 会.東
京 農 工 大 学 小 金 井 キ ャ ン パ ス,2009.09.11
野 康仁 、 成 瀬 淳 一 、 斉藤 真 人 、 民 谷 栄 一
"セ 泓 ・Q一 ズ の ナ ノ 撤 デ 危 と バ イ 撚
電 気 化 学 会 第76大
会.京
響 窓 勉 へ の 旃"
都 大 学 吉 田 キ ャ ン パ ス,2009.03.30
97
5.菅 野 康 仁,MinhazUddinAhmed,斎
"茉 棚
藤真 人,民 谷 栄 一
ノゾイ才 マズ か らの靂 気 盈 ・
学工 ネル ギ ー変 麓"
電 気 化 学 会 第75大
会.山 梨 大 学,2008.03.29
6.菅 野 康 仁 、 山村 昌平 、高 村 禅 、 民谷 栄 一
"纖
の縱
第59回
勿 を舅 の
、
を ググ ノセノ〃ロ ーズ 系 バ イ 才 マズ の糖 准"
日本 生物 工学 会.大 会 広 島大 学 東 広 島キ ャ ンパ ス,2007.09.25-27
7.菅 野 康 仁 、 山村 昌平 、 池 田 隆造 、 高 村 禅 、 民谷 栄 一
"纖
の担 子 慮 を房 のた 禾 嬲
農 芸化 学 会2007年
ハ"イ才 マズ カ)らの羶 盈 プ ∠
コセズ"
度大会、東京農業大学
世 田谷 キ ャ ンパ ス,2007.03.24-27
8.菅 野 康 仁,池 田 隆造,石 川 光 祥,山 村 昌平,高 村
"禾 砺
禅,民 谷 栄 一
バ イ 才 マズ か らの微 塗 物 変 麓 〆
ごよ る丞 素 鑵"
電 気 化 学 会 第73回
大 会 、 首 都 大 学 東 京 南 大 沢 キ ャ ンパ ス,2006.04.Ol-03
9.菅 野 康 仁 、 清 水 和 幸
。フt務欝 の
αc朗 遺宏 デ 磯
が 培 養得 性 及 び瀚
影 響"
生 物 工 学 会 九 州 支 部 大 会2005
98
罠懸
タンノ1°
グ 質の発 現 〆
ご及 ぼ す
ポスター発表
10.菅
野 康 仁,成
瀬 淳 一,HoaLeQuyn,吉
川 裕 之,斉
藤 真 人,民
谷栄一
"セ ノ〃ム7一 ズ 燃 料 霞 勉"
第3回
11.菅
電 気 化 学 研 究 会.神
戸 大 学,2009.11.28
野 康 仁 、 山村 昌平 、 池 田隆 造 、 高 村 禅 、 富 山雅 光 、 民 谷 栄 一
"蠍
の艦
物 を ー
ー た 禾1糊
バ イ 才 マ ズ の 撈 盈 シ ズ テ ム"
北 陸 地 区 講 演 会 と 研 究 発 表 会.富
12.菅
山 大 学 工 学 部,2006.11.18
野 康 仁 、 山村 昌平 、池 田隆 造 、石 川 光 祥 、高 村 禅 、 富 山雅 光 、 民谷 栄 一
"蠍
の 汐 脅擲 擶
を ノ万の た 禾 祠!房ソゾイ 才 マズ か ら の エ ネ
生 体 機 能 関 連 化 学 部 会(第21回)・
命 化 学 研 究 会(第9回)合
ノ
ψ ギ ー 変 契"
バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 部 会(第9回)・
同 シ ン ポ ジ ウ ム.京
生
都 大 学,2006.9.28-30
特許等
1.民 谷 栄 一,菅
野 康 仁.電
気 化 学 を 用 い た ポ リ マ ー の 製 造 方 法 と 生 成 物 ,特 願
2010-073902
そ の 他(受
賞 暦 等)
ポ ス ター 賞
1.菅 野 康 仁.駟
2.菅
野 康 仁.最
霾気盈槊
纉200g.ll.28
優 秀 ポ ズ タ ー 貫.石
川 県 加 賀 市 バ イ オ マ ス タ ウ ン 構 想 事 業 .2005
99
新 聞記 事
3.民 谷 栄 一,菅 野 康 仁.木 謝 か ら直 醗
経 産 業 新 聞2009.04.17
100
雷 鰍
磨 毒嬲
ノ1"イ才 震抛 〆
ご」
置.日
謝辞
本 研 究 は 、 民谷 栄 一 教 授 の ご指 導 の も と、 大 阪 大 学 大 学 院 工学 研 究科 精 密 科
学 ・応 用 物 理 学 専 攻 にお い て行 わ れ た もの で あ る。本 研 究 を遂行 す る に あ た り、
多 くの方 々 に ご協 力頂 き ま した 。 こ こで厚 く御 礼 申 し上 げ ます 。
博 士 前期 過 程 か ら博 士 後 期 課 程 の問 、 終 始 懇 切 な ご指 導 、 ご鞭 撻 を賜 りま し
た。 大 阪 大 学 大 学 院 工学 研 究 科 教 授 民 谷 栄 一 先 生 に謹 ん で感 謝 申 し上 げ ま す 。
本 学 位 論 文 作 成 に あ た り御 検 討 いた だ き 、 有 益 な御 教 示 を賜 りま した 本 学 大
学 院 工 学 研 究 科 教 授 笠 井 秀 明先 生 、 小林 慶裕 先 生 、神 戸 大 学大 学 院 工学 研 究 科
教 授 近 藤 昭 彦 先 生 に厚 く御 礼 申 し上 げ ます 。
本 学 大 学 院 工 学 研 究 科 助 教 吉 川 裕 之 先 生 には 日々 の研 究 に 関 して ご意 見 、 ご
指 導 賜 りま した 。 心 よ り御 礼 申 し上 げ ます 。
X線
回 折 測 定 に ご協 力頂 き ま した本 学 大 学 院 工 学 研 究 科 教 授 今 中信 人 先 生 、
助 教 田村 真 治 先 生 に厚 く御 礼 申 し上 げ ます 。
走 査 型 電 子 顕 微 鏡 観 察 に ご協 力 頂 き ま した 本 学 産 業 科 学研 究 所 教 授 松 本 和
彦 先 生 、 准 教 授 前 橋 兼三 先 生 、助 教 大 野 恭秀 先 生 に厚 く御 礼 申 し上 げ ます 。
電 極 素 材 の 作 製 に ご協 力 頂 き ま した 、本 学 大 学 院 工 学 研 究 科 講 師 清 野 智 史 先
生 に厚 く御 礼 申 し上 げ ます 。
日々 の研 究 に あた りご意 見 い た だ き ま した 山 口佳 則 特 任 准 教 授 、 斎 藤 真 人 助
教 に御 礼 申 し上 げ ます 。
日々 の研 究 生活 にお い て 、 よ く議 論 して 頂 い たMun'delanjiVestergaard博
HaMinhHiep博
士 、MohammadM.Hossain氏
、HoaLeQuynh氏
士、
に、心 よ り深 く
感 謝 い た しま す 。
日々 の研 究 生 活 で 共 に切 磋 琢 磨 し、 大 変 お 世 話 にな っ た 田 中嘉 人 博 士 、安 國
101
良平 博 士 、GuillaumeLaurent博
士 、佐 武 主 康 氏 、横 山委 未 氏 、谷 山俊 一氏 に深 く
感 謝 いた します 。
日々 の研 究 室 生 活 にお いて 様 々 な 形 で ご協 力 、 ご意 見 い た だ き ま した 民 谷 研
究 室 の皆 様 に 感 謝 いた します 。合 田真 紀 子 様 、 川 和 田晴 己 様 、信 岡美 穂 様 、 五
条 久 美 子 様 、 藤 原 泰 子 様 に は 、 日々 の研 究 生 活 を送 る上 で 様 々 な御 援 助 を賜 り
ま した 。 心 よ り感 謝 申 し上 げ ます 。
最 後 に 、進 学 の 機 会 を与 えて 頂 く と共 に 、終 始 暖 か く見 守 って くれ た 家 族 に
深 く感 謝 し ます 。
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