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平成24年度 B日程 小論文

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平成24年度 B日程 小論文
平成 24 年度琉球大学法科大学院入学試験(小論文)の問題と講評
【問題】次の【新聞記事】及び【司法制度改革推進計画(抜粋)】を読み,以下の設問に答
えなさい。
【新聞記事】司法制度改革に伴う法曹人口の増加で,弁護士を目指す司法修習生の「就職
難」が深刻化する中,法律事務所に入って経験を積む従来型の「イソ弁(居候弁護士)」で
はなく,すぐに独立開業する「ソクドク(即独立)」の道を選ぶ新人弁護士が増えている。
経験不足を周囲のサポートで補いながら活路を見いだす若手もいるが,“成功”への道の
りは険しく,日本弁護士連合会は開業のためのマニュアルを作成するなどして支援を強化
している。
昨年1月,A 弁護士(30)は東京都新宿区のJR飯田橋駅近くのビルに個人で事務所を
開いた。東大在学中の 2006 年 11 月に3度目の挑戦で司法試験に合格。08 年3月に卒業し
た当初は「イソ弁」になろうと考えていたが,面接まで進んだ都内の法律事務所には採用
されなかった。「誰も雇ってくれないなら,自分で仕事を取ればいい」。そんな思いで「ソ
クドク」を決意したという。
だが,最初の1か月の収入はゼロ。家賃などは預金を取り崩してしのいだ。「待っていて
も仕事は来ない」と,大学時代に歌舞伎町や銀座のクラブでアルバイトした経験を生かし,
なじみ客だった企業経営者ら 100 人を回り,あいさつ状と名刺を配った。
ようやく軌道に乗り出したのは昨年秋頃。現在は,主に建物の明け渡しや賃料の回収な
ど不動産関係の依頼を引き受け,顧問先も5社を数える。
「信用にかかわるので,事務員を
雇った方がいい」との先輩弁護士の助言を受けて事務員を雇い入れ,今年8月にはビル内
のワンルームから2DKに事務所を移した。
ただ,実際の事件では,経験が少ないだけに,司法修習の同期や先輩に意見を求めるこ
とも多く,実務の手腕はベテランと歴然とした差があると実感している。
(読売新聞平成 23 年 10 月 8 日朝刊より)
【司法制度改革推進計画(抜粋)】現在の法曹人口が,我が国社会の法的需要に十分に対応
することができていない状況にあり,今後の法的需要の増大をも考え併せると,法曹人口
の大幅な増加が急務となっているということを踏まえ,司法試験の合格者の増加に直ちに
着手することとし,後記の法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定め
ながら,平成 22 年ころには司法試験の合格者数を年間 3,000 人程度とすることを目指す。
(平成 14 年3月 19 日閣議決定)
〔設問〕司法制度改革に伴う法曹人口の増加につき,司法制度改革推進計画の予定どおり
増加すべきであるとの見解,あるいは,増加のペースを緩和すべきであるとの見解のいず
れかに立ち,反対の見解を批判しつつ自己の見解を論じなさい。
【出題趣旨】
現在司法界において大きな問題となっている法曹人口問題につき,いわゆる弁護士の就
職難に関する記事の内容を踏まえ,これを予定どおり増加させるべきか,それとも増加の
スピードを緩めるべきかにつき,反対説を批判しつつ論じさせる問題である。
法曹人口問題そのものは法律問題ではなくいわば政治問題であること,および,問題文
以外に解答に必要な知見はいわゆる法曹人口に関する司法制度改革の理念(明確なルール
と自己責任原則に貫かれた事後監視・救済型社会への転換を図り,自由かつ公正な社会を
実現していくためには,司法制度を支える体制の充実強化を図るべく,司法制度を支える
法曹人口を量的にも大きくする必要があること)であり,法科大学院の受験者であれば知
っていることが望ましい(つまり,知っているかどうかで判断することが不当ではない)
ものであることから,未修者を含む小論文試験のテーマとなりうると考えたものである。
法曹人口を閣議決定の予定どおり増加させるべきとの見解に立てば,司法制度改革の理
念のみならず,記事に引用されているソクドク弁護士が行っているような経営努力は,世
間からみれば当たり前のことであり,さらに広げられるべきものであるといった観点から
の論述も可能であろう。
これに対し,法曹人口増加のペースを緩めるべきとの見解からは,ソクドク弁護士の質
の低下が依頼者・国民の利益を害するおそれがあること,質の低下を補うだけの OJT が確
保されるかどうかの担保が必要であることなどを指摘し,とりあえず増加のペースを緩め
るとしても司法制度改革の理念には反しないといった観点からの論述が可能であろう。
受験者自身の立場(多くは,法曹人口を増加してもらえれば自分も法曹になれる点で好
ましいと考えることが想定される。
)を論拠とすることも否定しないが,その場合,法曹と
いう職業に要求される能力や資質についてどのように考えるのかを踏まえて論じないと,
単なる手前勝手な立論になってしまうことに留意されるべきであろう。
【採点講評】
問題で問われている内容が,法曹人口の在り方という,受験生にとって関心の高いトピ
ックであったことから,多くの答案が,一通りのことは書けていた。その分,技巧的な対
策で対応する必要もなく,また,論文作成力の基礎を備えて論じられているかどうかを的
確に見極めることができたように思う。
もっとも,自説と司法改革の理念との関係を的確に示すことのできていた答案は比較的
少なく,また,自説に立脚して新聞記事に報道された事実を的確に分析できていた答案も
比較的少なかった。引用された新聞記事中には,いずれの立場からも自説の根拠として利
用できる事実が含まれているので,短い記事の中から的確にそのような事実を使い,分析
できていた答案は好印象であった。
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