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スピン鎖模型によるAdS/CFT対応の解析

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スピン鎖模型によるAdS/CFT対応の解析
スピン鎖模型による AdS/CFT 対応の解析
T.M
1
Abstract
AdS/CFT correspondence is the equivalence between Type IIB string
theory on AdS5 × S 5 space (a product of five dimensional anti-de Sitter
space with a five dimensional sphere) and N = 4 supersymmetric YangMills (STM) theory in 4 dimension. N = 4 SYM is a conformal field theory that is invariant under conformal transformations [1, 2, 3]. Conformal
group consists of Pioncaré transformations, dilatation (scale transformation) and special conformal transformations. N is the number of type of
supersymmetry and “II” means the number of type of supersymmetry is
two. Both theory have same symmetry. Four dimensional conformal group
is SO(4, 2) and corresponds to isomatries of AdS 5 . The gauge theory has
SU (4)R-symmetry which rotates six scalar fields and four fermions. This
R-symmetry corresponds to isometries of S 5 . AdS/CFT correspondence is
weak/strong duality. If this correspondence is correct, we can analyze strong
coupling region by weak coupling region of the corresponding theory. So this
correspondence is useful but proof is hard.
There are many evidences that support the AdS/CFT correspondence.
This master thesis concentrates on equivalence between anomalous dimensions of single trace operators in SYM and energy spectrum of string. A
single trace operator is the traced composite operator which consists of
scalar fields, gauge fields, fermions and covariant derivative of these fields.
Matrices of anomalous dimension correspond to the Hamiltonian of spin
chain, so we can use the Bethe equation to diagonalize the matrices.
In section 2, we review large N gauge theory, conformal transformation,
anti-de Sitter space, AdS/CFT correspondence and chiral primary operator.
In section 3, we derive the Bethe ansatz equation for the Heisenberg XXX1/2
spin chain by two different approaches, namely the coordinate Bethe ansatz
and the algebraic Bethe ansatz. In section 4, we show anomalous dimension
of single trace operator of scalar fields in N = 4 SYM is equivalent to the
SO(6) spin chain. Section 4 is based on [4] In section 5, we take scaling limit
L → ∞, where L is the number of cite.Then Bethe ansatz equation become
in the form of Riemann-Hilbert problem. We can also reduce a problem
of computing energy of string to Riemann-Hilbert problem. We compute
single cut solution of the Riemann-Hilbert problem for gauge theory and
string theory. Then anomalous dimension agree with energy of string up to
two loop. Section 5 is based on [5]
2
目次
1
導入
2
AdS/CFT 対応
2.1 Large N ゲージ理論 . . .
2.2 共形変換 . . . . . . . . . .
2.3 反 de Sitter 空間 . . . . . .
2.4 AdS/CFT 対応 . . . . . .
2.5 カイラルプライマリ演算子
4
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6
6
8
10
11
13
3
Bethe 仮説
16
3.1 XXX1/2 模型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
3.2 座標 Bethe 仮説 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
3.3 代数的 Bethe 仮説 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
4
N = 4 超対称 Yang-Mills 理論の異常次元
31
4.1 異常次元とスピン系のハミルトニアン . . . . . . . . . . . . . . . . 31
4.2 演算子の異常次元の例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
4.3 スピン鎖模型との対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38
5
Riemann-Hilbert 問題
5.1 スケーリング極限 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.2 超楕円曲線 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.3 2 ループの補正 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.4 1 ループのゲージ理論のシングルカット解 . . . . . .
5.5 S 3 上の弦のシグマ模型 . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.6 S 3 上の弦のシグマ模型のシングルカット解 . . . . . .
5.7 スピン鎖と S 3 上のシグマ模型の 2 ループまでの比較
6
結論
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40
40
42
46
47
48
53
56
58
3
1
導入
素粒子論における目標の一つは力を統一することである。自然界には 4 つの基
本的な力が存在してそれは強い力、電磁気力、弱い力、重力である。このうち、最
初の 3 つの力は統一的に記述できるが、これに重力を入れようとすると繰り込め
ない発散が出て来てしまう。この発散は粒子が点であることに起因するので粒子
を長さを持った弦とすれば発散を避けられる。粒子を弦と考える弦理論には弦に
は開いた弦(開弦)と閉じた弦(閉弦)がある。閉弦の中には質量 0 のスピン 2 の
粒子が含まれており、これは重力の粒子、グラビトンと考えられる。ボソンとフェ
ルミオンの間の対称性である超対称性 (SUSY:supersymmetry) を入れた超弦理論
は量子重力理論の候補となっている。弦理論が整合性のある理論となるための次
元は決まっていて、その次元のことを臨界次元という。臨界次元は超弦理論の場
合は 10 次元である。
弦理論は元々1960 年代に実験で見つかった多くのメソンとハドロンを記述す
る試みで作られた理論である。そのアイデアはこれらの粒子を弦の違う振動モー
ドとして見ることであった。弦を使うといくつかのハドロンスペクトラムの特徴
をうまく記述できる。たとえばハドロンの質量の 2 乗 m2 とスピン J の関係には
J ∼ Am2 + const(A は定数)という関係があり、この直線のことを Regge 軌跡と
いうが、これは弦の描像で簡単に理解できる。この関係を次元解析から考えてみ
ると弦の張力は [T ] = M LT −2 、スピンは [J] = M L2 T −1 、相対論的であるとする
と光の速さが入って [c] = LT −1 、量子効果から [~] = M L2 T −1 、これらと弦の質量
m から
c3
J = B m2 + C~, B, C は無次元の定数
(1.1)
T
となり、Regge 的な振る舞いが得られた。しかし後にハドロンとメソンは実はクォー
クからできていることが発見され、それを記述する量子色力学 (QCD:Quantum
chromodynamics) にとって代わられた。QCD はゲージ群を SU (3) とするゲージ理
論であり SU (3) の 3 はクォークのカラーの数を表している。
’t Hooft はカラーの数 N を無限大にしたとき、図形展開によってゲージ理論が
結合定数が 1/N の弦理論に対応することを示した [6]。これは弦を使った描像でな
ぜレッジェ的振る舞いを記述できたのかを説明する。このようなゲージ理論と弦
理論の間の対応関係がわかってくれば、一方の理論で解析が困難なことも、もう
一方の理論を使って解析することができる。
1997 年に Maldacena によって提唱された AdS/CFT 対応は AdS5 × S 5 上の IIB
型超弦理論と共形変換の下で不変な理論 (CFT:Comformal field theory) である 4
次元の N = 4 超対称 Yang-Mills 理論 (SYM) の間の双対性である [1, 2, 3]。ここ
で AdS5 とは 5 次元の反 de Sitter 空間のことで、S 5 とは 5 次元球面のことである。
共形変換とは Poincaré 変換、スケール変換、特殊共形変換からなる変換である。
N = 4 は超対称の種類が 4 つであることを表わして、IIB 型超弦理論の II は超対称
性の種類が 2 つであることを示している。4 次元の共形変換群は SO(4, 2) であり、
4
これは弦理論側では 5 次元の反 de Sitter 空間 (AdS) が持つアイソメトリーに対応
する。またゲージ理論側には 6 つのスカラー場と 4 つのフェルミオン場を回す大
域的な対称性、SU (4)R 対称性があるが、これは弦理論側では 5 次元球面が持つア
イソメトリーに対応している。このように双方の理論は同じ対称性を持っている。
Yang-Mills 理論の摂動論が有効なのは’t Hooft 結合定数 λ = gY2 M N が非常に小
さいとき
R4
λ ∼ gs N ∼ 4 ¿ 1
(1.2)
ls
である。一方、弦理論側の古典的重力は AdS5 と S 5 の半径 R が弦の長さに比べて
大きい場合
R4
À1
(1.3)
ls4
に有効である。二つの理論の有効な領域は逆であり、強弱双対になっている。よっ
てこの対応が正しい場合は一方の強結合領域をもう一方の弱結合領域の摂動論を
使って解析することができる。しかし、逆にいえばこの対応が正しいかどうかを
比較するのを困難にしている。
この AdS/CFT 対応が成りったっていることを示すためにゲージ理論と弦理論
の間の“ 辞書作り ”が盛んにおこなわれている。この修士論文ではその中の N = 4
SYM の局所シングルトレース演算子の異常次元 γ と弦のエネルギーの関係につい
て見ていく。ここで局所と言っているのは演算子の中に含まれる場がすべて同じ
点の関数であるからである。異常次元は演算子の 2 点関数
hO(x)O(y)i =
const
(x − y)2∆
(1.4)
にでてくるスケール次元 ∆ = L + γ の中に含まれる。L は演算子の中の L 個のス
カラー場の次元 [Φ] = 1 を足したもので異常次元 γ は量子補正である。スカラー場
のシングルトレース演算子の異常次元を求めるためには演算子の混合の効果を含
んだ異常次元行列 Γ を対角化しなくてはならないが Γ はスピン鎖模型のハミルト
ニアンと対応していて Bethe 仮説方程式を使うことで解くことができる。
この修士論文の構成は次の通りである。まず 2 節で AdS/CFT 対応のレビューを
行う。3 節では Bethe 仮説方程式を導出する。4 節では N = 4SYM のスカラー場の
シングルトレース演算子の異常次元が SO(6) スピン鎖のハミルトニアンと一致する
ことを示す。5 節では異常次元と弦のエネルギーを求める問題を Riemann-Hilbert
問題に帰着させ、2 ループまで比べる。
5
2
AdS/CFT 対応
この節では [7] を元に AdS/CFT 対応を説明する。AdS/CFT 対応のレビューは
他に [8, 9] がある。
AdS/CFT 対応は AdS5 × S 5 (5 次元の反 de Sitter 空間と 5 次元球面の積) 上の
IIB 型超弦理論と共形変換の下で不変な理論 (CFT:Comformal field theory) である
4 次元の N = 4 超対称 Yang-Mills 理論 (SYM) の間の双対性である [1, 2, 3]。
この節ではまず、2.1 小節において’t Hooft が提唱したカラーの数 N が無限大
の時のゲージ理論と弦理論の対応関係について見ていく。2.2 小節では 4 次元の
N = 4 超対称 Yang-Mills 理論の対称性である共形変換の代数が AdS5 のアイソメ
トリーである SO(4, 2) の代数と同じことを示す。2.3 小節では AdS 空間について述
べる。2.4 小節では Maldacena が提唱した AdS/CFT 対応について記述する。2.5
ではカイラルプライマリ演算子について述べる。
2.1
Large N ゲージ理論
ゲージ群 SU (N ) を持つゲージ理論を考える。その結合定数を gY M とする。ゲー
ジ理論の結合定数による摂動展開は複雑なものになるが、各項で N を大きく取り
1/N で展開すると簡単になる。そして Large N ゲージ理論に双対な理論が弦理論
であることがわかる [6]。
まず N → ∞ をとったとき結合定数 gY M をどうスケールすればいいかを知る必
要がある。Large N 極限をとったとき QCD スケール ΛQCD が定数であるように結
合定数 gY M をスケールするのは自然である。pure SU (N ) Yang-Mills 理論の 1 ルー
プベータ関数方程式は
dgY M
11 g 3
µ
= − N Y M2 + O(gY5 M )
(2.1)
dµ
3 16π
となる。ここで µ は繰り込みのスケールを表す。よって leading term が large N で
同じオーダーになるためには λ ≡ gY2 M N を固定して N → ∞ をとればよい。λ を
’t Hooft 結合定数といい、この極限を’t Hooft 極限という。
ここでは large N の物理を見るために、N × N のエルミート行列に値を持つ、
つまり SU (N ) の随伴表現に従う場 Φi のラグランジアンを考えよう。ここで場を
ラベルする添え字 i は Lorentz 群の足であったり、フレーバー足であったりする。
Yang-Mills 理論のようにスカラー場 Φ の 3 点頂点を gY M に比例するように、さら
に 4 点頂点を gY2 M に比例するようにラグランジアンを作ると
L ∼ tr(dΦi dΦi ) + gY M cijk tr(Φi Φj Φk ) + gY2 M dijkl tr(Φi Φj Φk Φl )
(2.2)
となる。ここで cijk と dijkl はある定数である。スカラー場を Φ̃i = gY M Φi でスケー
ルし直すとラグランジアンは
i
1 h
tr(dΦ̃i dΦ̃i ) + cijk tr(Φ̃i Φ̃j Φ̃k ) + dijkl tr(Φ̃i Φ̃j Φ̃k Φ̃l )
(2.3)
L∼ 2
gY M
6
となり、1/gY2 M = N/λ の係数がラグランジアン全体につく。ラグランジアン (2.3)
の Feynman 図を作ってみよう。異なる添え字の行列場は直交するので一つの場 Φ
に着目する。スカラー場の成分を fundamental な添え字 k 、anti-fundamental な添
え字 l を使って Φkl と表わす。SU (N ) において伝播関数は
­
®
1
Φkl Φmn ∝ (δnk δlm − δlk δnm )
N
(2.4)
となる。Large N 極限では第 2 項は消えるので無視すると Feynman 図は
­
®
Φkl Φmn ∝ k
n
m
l
(2.5)
となる。上の線が fundamental な線で δnk に対応していて下の線が anti-fundamental
な線で δjm に対応している。頂点も同様に二重線で描くと、真空の図は図 2.1 のよ
うに外線のない閉じたループからなる図形と見なせる。単線の外側のループを周
(a)
(b)
図 2.1: 真空の Feynman 図
囲とする曲面の単体分割とみなせる。ループを回ったとき左手にある面を表向き
の面とする。この曲面に点を加えてコンパクト化すれば、それぞれの図は向きづ
けされた閉曲面となる (図 2.2)。それぞれの図に対応する N と λ のべきについて
図 2.2: 真空の Feynmann 図 (a) に点を加えてコンパクト化した図
考える。ラグランジアン (2.3) より、各頂点から N/λ、伝播関数から λ/N 、そして
ループでは Kronecker デルタの縮約をとるので δii = N が寄与する。よって V 個の
7
頂点 (= 単体の点)、E 個の伝播関数 (= 頂点間の線が作る単体の辺)、F 個のルー
プ (= 閉じた単線が作る単体の面) をもった図は
N V −E−F λE−V = N χ λE−V
(2.6)
に比例する。ここで χ は Euler 標数 χ ≡ V − E − F である。向きづけされた閉曲
面では χ = 2 − g となる。ここで g は種数と呼ばれ、曲面の穴の数を示している。
g = 0 は球面と同じトポロジーを持った曲面で、g = 1 はトーラスと同じトポロ
ジーを持った曲面である。よって二重線で描かれた場の理論の図の摂動展開は
∞
X
g=0
N
2−2g
∞
X
i
cg,i λ =
∞
X
N 2−2g fg (λ)
(2.7)
g=0
i=0
の形をしている。ここで fg は λ のある関数である。(2.7) より、Large N 極限では
g = 0 の曲面、つまり球面と同じトポロジーを持った曲面が支配的になる。g = 0
の Feynman 図は平面上で線を交わることなく描けるので planar diagram と呼ばれ
る。実際に N のべきを計算してみよう。図 2.1(a) は N 2−3+3 = N 2 である。一方、
図 2.1(b) は二重線が交わっており N 4−6+2 = N 0 となり、g = 1 なのでトーラスと
同じトポロジーを持っている。図 2.1(b) はトーラス上では線を交差させずに描く
図 2.3: 2.1(b) をトーラス上で線を交差せずに描いた図
ことができる (図 2.3)。展開 (2.7) は 1/N を弦の結合定数 gs とみなせば閉弦の摂動
展開と同じである。この類似は場の理論の弦理論が関係していると信じる強い動
機になっている。実際閉弦の摂動論において gs のべきは閉曲面の Euler 標数であ
ることが知られている。
2.2
共形変換
計量 ηµν = diag(−1, +1, . . . , +1) を持った d(≥ 3) 次元 Minkowski 空間の場合を
考える。共形変換とは変換 xµ → x0µ (x) (µ, ν = 0, . . . , d − 1) の下で計量 ηµν が
0
= Ω2 (x)ηµν
ηµν → ηµν
8
(2.8)
のようにスケールを除いて形を保つ変換である。微小変換 δxµ = −²µ (x) を考える
と (2.8) は
ηµν + ∂µ ²ν + ∂ν ²µ = Ω2 (x)ηµν (x)
(2.9)
∂µ ²ν + ∂ν ²µ = f (x)ηµν
(2.10)
ここで Ω2 (x) − 1 ≡ f (x) と置いた。∂µ (2.10)νρ + ∂µ (2.10)νρ − ∂ρ (2.10)µν の計算を
すると
2∂µ ∂ν ²ρ = ηµρ ∂ν f (x) + ηνρ ∂µ f (x) − ηµν ∂ρ f (x)
(2.11)
µν の縮約をとると
∂ 2 ²ρ =
2−d
∂ρ f (x)
2
(2.12)
(2.12) を使うと
∂ 2 (∂µ ²ν + ∂ν ²µ ) = (2 − d)∂µ ∂ν f (x)
(2.13)
これと (2.10) に ∂ 2 をかけたものから
∂ 2 f (x) = 0
(2.14)
f (x) = A + Bx
(2.15)
よって
ここで A, B は定数。これを (2.11) に代入すれば
∂µ ∂ν ²ρ = const
(2.16)
となるので ² は x の 2 次までしかないことがわかる。よって共形変換をなす微小変
換は
並進
回転
スケール変換
特殊共形変換
微小変換
aµ
ωµν xν
λxµ
2cρ xρ xµ − xρ xρ cµ
生成子
Pµ = −i∂µ
Mµν = i(xµ ∂ν − xν ∂µ )
D = ixµ ∂µ
Kµ = i(2xµ x · ∂ − x2 ∂µ )
の4種類からなる。共形変換の代数は
[Mµν , Pρ ] = −i(ηµρ Pν − ηνρ Pµ );
[Mµν , Kρ ] = −i(ηµρ Kν − ηνρ Kµ )
[Mµν , Mρσ ] = −iηµρ Mνσ ± permutations;
[Mµν , D] = 0;
[D, Pµ ] = −iPµ ;
[Pµ , Kν ] = 2iMµν − 2iηµν D
[D, Kµ ] = iKµ
(2.17)
となる。この代数は SO(d, 2) の代数と同型である。それを見るためには生成子
Jab (a, b = 0, . . . , d + 1) を
Jµν = Mµν ;
1
Jµd = (Kµ − Pµ );
2
9
Jµ(d+1) ;
J(d+1)d = D
(2.18)
で定義すれば、代数 (2.17) は
[Jab , Jcd ] = −iηac Jbd ± permutations
(2.19)
の形になり、ηab = (−1, +1, . . . , +1, −1) の計量を持った SO(d, 2) の代数であるこ
とがわかる。
共形群の表現はスケール演算子 D の固有関数で固有値 −i∆ を持った演算子によ
り特徴づけられる。ここで ∆ は場のスケール次元と呼ばれるものである。これは
スケール変換 xµ → λxµ の変換の下で
φ(x) → φ0 (x) = λ∆ φ(λx)
(2.20)
となること意味する。交換関係 (2.17) より Pµ は場の次元を 1 上げ、Kµ は次元を 1
下げる。これはまた演算子の次元が [Pµ ] = 1, [Kµ ] = −1 であることに対応してい
る。場の次元には下限があり、x = 0 において Kµ を作用させて消える演算子をプ
ライマリ演算子という。プライマリ演算子に対する共形変換群の生成子の作用は
[Pµ , Φ(x)] = i∂µ Φ(x)
(2.21)
[Mµν , Φ(x)] = [i(xµ ∂ν − xν ∂µ ) + Σµν ] Φ(x)
(2.22)
µ
[D, Φ(x)] = i(−∆ + x ∂µ )Φ(x)
£
¤
[Kµ , Φ(x)] = i(x2 ∂µ − 2xµ xν ∂ν + 2xµ ∆) − 2xµ Σµν Φ(x)
(2.23)
(2.24)
となる。
2.3
反 de Sitter 空間
ここでは弦理論側の部分空間、反 de Sitter 空間について見てみる。(p + 2) 次元
の中の反 de Sitter 空間 (AdSp+2 ) は平坦な計量
2
ds =
−dX02
−
2
dXp+2
+
p+1
X
dXi2
(2.25)
i=1
を持った (p + 3) 次元空間の超双曲面
X02
+
2
Xp+2
−
p+1
X
Xi2 = R2
(2.26)
i=1
で表わされる。この空間は SO(2, p + 1) のアイソメトリを持っており、一様等方な
空間である。(2.26) は
X0 = R cosh ρ cos τ,
Xi = R sinh ρΩi
Xp+2 = R cosh ρ sin τ
X
(i = 1, . . . .p + 1;
Ω2i = 1)
i
10
(2.27)
と解ける。ここで Ω は p 次元単位球面の座標を表す。これを (2.25) に代入すれば
AdSp+2 の計量
ds2 = R2 (− cosh2 ρdτ 2 + dρ2 + sinh2 dΩ2 )
(2.28)
を得る。これを大域的座標という。
また
¢
1 ¡
1 + u2 (R2 + ~x2 − t2 ) ,
2u
= Ruxi (i = 1, . . . , p)
¢
1 ¡
=
1 − u2 (R2 − ~x2 + t2 )
2u
X0 =
Xi
X p+1
とすると、計量は
µ
2
ds = R
2
Xp+2 = Rut
du2
+ u2 (−dt2 + d~x2 )
2
u
(2.29)
¶
(2.30)
となり、これを Poincaré 計量という。
2.4
AdS/CFT 対応
ここでは AdS5 × S 5 上の IIB 型超弦理論と N = 4 超対称 Yang-Mills 理論の対応
について見てみる [1]。まず平坦な 10 次元 Minkowski 空間上の IIB 型超弦理論を
考える。超弦理論には D ブレーンと呼ばれる超曲面が存在し、D ブレーンは開弦
の端が存在できる空間として定義される。IIB 型超弦理論には空間次元が奇数の D
ブレーンが存在する。空間次元 p を持った D ブレーンは Dp ブレーンと呼ばれる。
N 枚の D3 ブレーンが重なっている場合を考える。D3 ブレーンは (9+1) 次元の
時空 (バルク) に広がった (3+1) 次元の面である。ここで最初の数字は空間次元を、
後の数字は時間次元を示している。
このバックグラウンド上で弦理論は 2 つの摂動的励起状態があり、ひとつはバ
ルクの励起である閉弦で、もう一つは D ブレーン励起である開弦である。弦の長
さのスケール ls よりも低エネルギー E ¿ 1/ls で系を考えると質量 0 の弦のみ励起
できる。
質量 0 のモードの有効作用は
S = Sbulk + Sbrane + Sint
(2.31)
である。ここで Sbulk は質量 0 の粒子しかない 10 次元超重力理論の作用と高次の
微分の補正を足したもので
Z
Z
1
√
Sbulk ∼ 2
gR ∼ (∂h)2 + κ(∂h)2 h + . . .
(2.32)
2κ
と書ける。ここで g = η + κh である。
11
Sbrane は D3 ブレーン上の作用で N = 4 U (N ) 超対称 Yang-Mills 理論の作用と
高次の微分の補正である。ここで U (N ) のゲージ場が出てくるのは弦の両端が N
枚のブレーンにくっつくとき、そのくっつき方が N 2 通りであることと U (N ) の次
元が N 2 であることと対応している。Sint はバルクとブレーンの相互作用の作用で
ある。
低エネルギー極限を見るにはエネルギーと次元のないパラメータ gs と N を固定
し、ls → 0 をとる。すると補正項と相互作用項には ls が入っているため、10 次元超
重力理論の作用と N = 4 U (N ) 超対称 Yang-Mills 理論の作用がだけ残り、バルク
とブレーンの相互作用の作用は消える。よってバルクとブレーンの理論は decouple
する。
これを別の視点で見てみる。D ブレーンは質量と charge を持った物体で様々な
超重力場のソースとして作用する。超重力の D3 ブレーン解は
ds2 = f −1/2 (−dt2 + dx21 + dx22 + dx23 ) + f 1/2 (dr2 + r2 dΩ25 )
F5 = (1 + ∗)dt ∧ dx1 ∧ dx2 ∧ dx3 ∧ df −1
R2
f = 1 + 4 , R4 ≡ 4πgs α02 N
r
(2.33)
で与えられ、t, x1 , x2 , x3 は D3 ブレーンの world volume 上の座標で、D3 ブレーン
は r = 0 の位置に存在していていると考えられる [10]。ここで α0 = ls2 、∗ は Hodge
作用素と呼ばれ、計量 g を持った m 次元多様体の r-形式 dxµ1 ∧ · · · ∧ dxµr に対して
p
|g| µ1 ...µr
νr+1
∗ (dxµ1 ∧ · · · ∧ dxµr ) =
ε
∧ · · · ∧ dxνm
(2.34)
νr +1...νm dx
(m − r)!
と作用する。ε は完全反対称テンソルで


(µ1 µ2 . . . µm ) が (12 . . . m) の偶置換のとき
 +1
²µ1 ...µm =
−1
(µ1 µ2 . . . µm ) が (12 . . . m) の奇置換のとき

 0
その他
(2.35)
で定義される。無限遠点の観測者から見た低エネルギー極限を考える。ひとつは
バルクを伝わる質量 0 の粒子である。もう一つは r = 0 近くのあらゆる励起モード
である。なぜ質量 0 の励起に限らないかというと gtt が定数でないことから r の位
置で観測されたエネルギー E は赤方偏移によって弱まり無限遠点の観測者にとっ
て低エネルギーに見えるためである。r の位置のエネルギー E と無限遠点の観測
者から見たエネルギー Ep は
E = f −1/2 Ep
(2.36)
の関係がある。
バルクの質量 0 の粒子の波長はブレーンの典型的な重力のサイズに比べて非常に
長く、ブレーンと相互作用は起こさない。また事象の地平線 r = 0 近くの励起は重
12
力ポテンシャルを超えることはできない。このことから低エネルギー極限では二つ
の理論が decouple していることがわかる。r → ∞ で計量は 10 次元の Minkowski
空間になる。一方 r ¿ R では計量は
ds2 =
2
r2
2
2
2
2
2 dr
(−dt
+
dx
+
dx
+
dx
)
+
R
+ R2 dΩ25
1
2
3
R2
r2
(2.37)
となる。r = R2 u とおけば Poincaré 計量 (2.30) が出てきて、AdS5 × S 5 の空間で
あることがわかる。よって decouple した二つの理論は 10 次元 Minkowski 空間の
超重力理論と AdS5 × S 5 上の IIB 型超弦理論である。
今二つの見方で理論を見てみたが、低エネルギーでどちらの見方でも decouple
した理論のひとつに平坦な空間上の超重力理論が出た。よってもう片方の理論を
同一視するのは自然である。つまり (3+1) 次元の N = 4 U (N ) 超対称 Yang-Mills
理論と AdS5 × S 5 上の IIB 型超弦理論は等価であるという予想が導かれた。
では近似が妥当な領域はどこであるか考えてみよう。Yang-Mills の結合定数 gY M
と弦の結合定数 gs は
4πi
θ
i
x
τ≡ 2 +
=
+
(2.38)
gY M
2π
gs 2π
の関係がある。Yang-Mills 理論の摂動論が有効なのは’t Hooft 結合定数が小さい
領域
4
(2.33) R
(2.38)
λ = gY2 M N ∼ gs N ∼ 4 ¿ 1
(2.39)
ls
である。一方、古典的重力は AdS5 と S 5 の半径 R が弦の長さに比べて大きい場合
R4
À1
ls4
(2.40)
が有効なので二つの領域は両立しない。一方が強結合のとき、もう一方は弱結合
になっているのでこの対応証明は難しい。しかしこれが正しければ場の理論の強
結合領域を超重力理論を使うことで解けるので有用な対応関係になっている。
2.5
カイラルプライマリ演算子
4 次元の N = 4 超対称性代数 (SUSY:Supersymmetry) は 4 つの生成子 QA
α (とその
複素共役 Q̄α̇A ) をもっている。ここで α は Weyl スピノルの添え字 (SO(3, 1)Lorentz
群の 2) で A は SU (4)R R 対称性群の 4̄ の添え字である。代数は
µ
A
{QA
α , Q̄α̇B } = 2(σ )αα̇ Pµ δB
B
{QA
α , Qβ } = {Q̄α̇A , Q̄β̇B } = 0
である。ここで σ i (i = 1, 2, 3) は Pauli 行列で (σ 0 )αα̇ = −δαα̇ である。
13
(2.41)
4 次元の N = 4 超対称性代数は 1 よりも大きいスピンを含まない多重項、ベク
トル多重項をもっている。ベクトル多重項はベクトル場 Aµ (µ は SO(3, 1)Lorentz
群のベクトルの添え字)、4 つの Weyl フェルミオン λαA (SU (4)R の 4̄)、6 つのスカ
ラー場 ΦI (I は SU (4)R の 6 の添え字) である。超対称性生成子のこれらの場に対
する作用は
£ A I¤
Qα , Φ
∼ λαB ,
£ I J¤
µν
{QA
,
α , λβB } ∼ (σ )αβ Fµν + ²αβ Φ , Φ
B
µ
I
{QA
α , λ̄β̇ } ∼ (σ )αβ̇ Dµ Φ ,
£ A
¤
Qα , Aµ ∼ (σµ )αα̇ λ̄A
²α̇β̇
β̇
(2.42)
となる。Q̄ も同様な作用をする。ここで σ µν はスピノル表現での Lorentz 群の生成
子、Dµ は共変微分、Fµν ≡ [Dµ , Dν ] は field strength である。(2.42) の 3 行目まで
の表現次元は 4 × 6 → 4̄, 4 × 4̄ → 1 + 15, 4 × 4 → 6 となっている。
超対称性代数と共形変換代数は組み合わされ代数は超共形代数と呼ばれる代数
を作る。この代数は超対称性と共形変換の生成子と新たに 2 つの生成子からなる。
ひとつはフェルミオン的な生成子 S で、もうひとつは R 対称性の生成子 R である。
そして交換関係は
i
[D, Q] = − Q;
2
{S, S} ' K;
i
[D, S] = S;
2
{Q, S} ' M + D + R;
[K, Q] ' S;
[P, S] ' Q; (2.43)
が加わる。この交換関係から Q は次元を 1/2 上げ S は次元を 1/2 下げることがわ
かる。
超共形理論にはカイラルプライマリ演算子という演算子がある。この演算子は
超対称性の short representation で、超電荷 Q の組み合わせで消滅するプライマリ
演算子である。カイラルプライマリ演算子は量子補正を受けない。
では N = 4SU (N ) 超対称 Yang-Mills 理論ののカイラルプライマリ演算子を
作ってみよう。超電荷 Q の場に対する作用 (2.42) を見ればフェルミオンとゲージ
場は descendant(他の場に Q を作用して得られる場) であることがわかる。よっ
てカイラルプライマリ表現の lowest component はスカラー場のみから作られる。
¢
¡
OI1 I2 ...In ≡ tr ΦI1 ΦI2 . . . ΦIn の形をした演算子を考えてみよう。(2.42) には ΦI の
交換子が入っているので、もしある添え字が反対称なら descendant になる。よっ
て添え字は対称でなくてはならない。
こうして作った演算子がカイラルプライマリ演算子かどうかは Q を作用させた
時、
“ ヌルベクトル ”が出るかどうかで確認できる。n = 2 のときについて解析し
てみよう。2 つの 6 の対称な積は 6 × 6 → 1 + 200 で与えられる。1 は tr(ΦI ΦI ) で
これに Q を作用させると (2.42) より
£ A
¤
Qα , tr(ΦI ΦI ) ∼ C AJB tr(λαB ΦJ )
(2.44)
14
となる。右辺は 4 で、それは左辺の積 4 × 1 からでる最も一般的な表現である。
よってヌルベクトルは表れないことがわかった。一方 200 は対称なトレースレス
な積 tr(Φ{I ΦJ} ) ≡ tr(ΦI ΦJ ) − 16 δ IJ tr(ΦK ΦK ) でこれに Q を作用させると
{I J}
K
{QA
α , tr(Φ Φ )} ∼ tr(λαB Φ )
(2.45)
となる。右辺に表れたのは 20 で、左辺は原理的に 4 × 200 → 20 + 60 となる。
しかし 60 は右辺には出てこず、これはヌルベクトルである。よって tr(Φ{I ΦJ} ) は
SUSY 代数の short representation である。同様の操作でカイラルプライマリ演算
子は 6 の対称トレースレスな積に対応することを証明できる。
15
3
Bethe 仮説
この節では次章で必要となるスピン鎖模型と Bethe 仮説を説明する。Bethe 仮
説は 1931 年に 1 次元反強磁性の Heisenberg ハミルトニアンを解くために Bethe に
よって用いられた方法である [11]。代数的 Bethe 仮説のレビューとして Faddeev の
[12, 13] や初歩的なことから書かれた Nepomechie の [14] がある。本節を書くのに
これらのレビューを参考にした。
3.1
XXX1/2 模型
L 個のスピンを持ち、周期的境界条件を持った 1 次元の鎖を考える。この鎖は
Hilbert 空間
L
Y
HL =
⊗hl
(3.1)
l=1
上で定義される。ここで各局所空間 hl は 2 次元複素空間
hl = C2
(3.2)
である。スピン変数 Sli が各 hl に作用する。スピン変数の交換関係は
j
[Sli , Sm
] = iI~εijk Slk δlm
(3.3)
である。ここで I は単位行列、εijk は Levi-Civita 記号である。スピン変数 Sli はス
ピンの大きさが 1/2 のときは Pauli 行列
Ã
!
Ã
!
Ã
!
0
1
0
−i
1
0
σ1 =
, σ2 =
, σ3 =
(3.4)
1 0
i 0
0 −1
によって
Sli =
~ i
σ
2 l
(3.5)
と表わされる。以下では ~ = 1 とする。
Heisenberg 模型のハミルトニアンは
H=
L
X
1
l=1
2
(1 −
X
i
σli ⊗ σl+1
)
(3.6)
i
i
で与えられる。周期的境界条件より σL+l
= σli になっている。この模型は σ i の係
数がすべて同じことから XXX1/2 模型と呼ばれ、sl(2) 対称性
[H, S i ] = 0
16
(3.7)
を持っている。ここで S i は全スピン
Si =
X
Sli
(3.8)
l
である。より一般的なハミルトニアン
H=
L
X
i
J i σli σl+1
(J 1 , J 2 , J 3 はすべて違う値)
(3.9)
l,i
は sl(2) 対称性がなく、XYZ1/2 模型と呼ばれる。
ハミルトニアン H のスペクトラムは有限な L に対しては 2L × 2L の行列をコン
ピューターを使って解ける。しかし我々が興味を持っているのは L → ∞ の極限
で、そのときは代数的方法のみが有効である。
3.2
座標 Bethe 仮説
では座標 Bethe 仮説と呼ばれる方法でハミルトニアンを対角化してみよう [15]。
周期的境界条件をもったスピン鎖を考える。強磁性の基底状態は
|0i = | ↑ . . . ↑i
(3.10)
で与えられる。ダウンスピンの位置が n1 < n2 < · · · < nJ にあるスピン鎖を
|n1 , n2 , . . . , nJ i
(3.11)
|1, 3, 4iL=5 = | ↓↑↓↓↑i
(3.12)
で表わそう。例えば
である。次にハミルトニアンを置換演算子を使って表してみよう。置換演算子 P
は σ で表わすと
X
1
P = (I ⊗ I +
σi ⊗ σi)
(3.13)
2
i
となる。これをみるために (3.13) を 4 × 4 の行列で表わしてみよう。行列のテンソ
ル積は


a
b
a
b
a
b
a
b
11
11
11
12
12
11
12
12
!
! Ã
Ã

 a b
b11 b12
a11 a12
 11 21 a11 b22 a12 b21 a12 b22 
(3.14)
=
⊗

 a21 b11 a21 b12 a22 b11 a22 b12 
b21 b22
a21 a22
a21 b21 a21 b22 a22 b21 a22 b22
で定義される。よって (3.13) は



P=

1
0
0
0
0
0
1
0
17
0
1
0
0
0
0
0
1





(3.15)
となる。これを a ⊗ b の空間にかけてみる。
Ã
!
a1
a2
a⊗b=
Ã
b1
b2
⊗
なので P を a ⊗ b に作用させると

1 0 0 0
 0 0 1 0

Pa ⊗ b = 
 0 1 0 0
0 0 0 1
!





a1 b 1
a1 b 2
a2 b 1
a2 b 2



=


a1 b1
a1 b2
a2 b1
a2 b2

 
 
=
 





a1 b 1
a2 b 1
a1 b 2
a2 b 2
(3.16)



=b⊗a

(3.17)
となり、置換していることがわかる。置換演算子 P(3.13) を使うとハミルトニアン
H(3.6) は
X
(1 − Pl,l+1 )
(3.18)
H=
l
となる。ハミルニアン H(3.18) を n 番目にダウンスピンをもった状態|ni = | ↑ . . . ↑↓↑ . . . ↑i
に作用させると
H|ni = (1 − Pn−1,n )|ni + (1 − Pn,n+1 )|ni
= 2|ni − |n − 1i − |n + 1i
(3.19)
一つのダウンスピンを持った状態は
|ψ(p1 )i =
L
X
eip1 n |ni
(3.20)
n=1
とするとハミルトニアン H(3.18) の固有状態となる。これを 1 マグノン状態とい
う。p1 はマグノンの運動量である。実際
H|ψ(p1 )i =
L
X
eip1 n (2|ni − |n − 1i − |n + 1i)
n=1
L
X
= 2
e
ip1 n
|ni −
L−1
X
n=1
ip1 (n+1)
e
n=0
eip1 (n−1) |ni)
n=2
−ip1
= (2 − e − e
)|ψ(p1 )i
³p ´
1
|ψ(p1 )i
= 4 sin2
2
ip1
|ni −
L+1
X
(3.21)
となる。2 行目から 3 行目へは周期的境界条件 |n + Li = |ni, eip1 (n+L) = eip1 n を
使った。1 マグノンの運動量は周期的境界条件より量子化されて p1 = 2πk
となっ
L
ている。次に 2 マグノン状態
X
|ψ(p1 , p2 )i =
ψ(n1 , n2 )|n1 , n2 i
(3.22)
1≤n1 ≤n2 ≤L
18
を考える。ここで ψ(n1 , n2 ) は 2 粒子の波動関数である。これにハミルトニアンを
作用させると
X
X
H|ψ(p1 , p2 )i =
ψ(n1 , n2 )
(1 − Pl,l+1 )|n1 , n2 i
1≤n1 ≤n2 ≤L
=
X
l
E2 ψ(n1 , n2 )|n1 , n2 i
(3.23)
1≤n1 ≤n2 ≤L
となる。ここ E2 はハミルトニアンの固有値である。E2 ψ(n1 , n2 ) の値は n1 , n2 の位
置で変わってくる。n1 , n2 が離れている場合、|n1 , n2 i の状態が出てくるのは恒等
演算子が |n1 , n2 i に作用した場合と置換演算子が |n1 − 1, n2 i, |n1 + 1, n2 i, |n1 , n2 −
1i, |n − 1, n2 + 1i に作用した場合である。よって
E2 ψ(n1 , n2 ) = 4ψ(n1 , n2 ) − ψ(n1 − 1, n2 ) − ψ(n1 + 1, n2 )
−ψ(n1 , n2 − 1) − ψ(n1 , n2 + 1)
(n2 > n1 + 1)
(3.24)
となる。一方 n1 , n2 が隣り合っている場合、|n1 , n2 i の状態が出てくるのは恒等演
算子が |n1 , n2 i に作用した場合と置換演算子が |n1 − 1, n2 i, |n1 , n2 + 1i に作用した
場合である。よって
E2 ψ(n1 , n2 ) = 2ψ(n1 , n2 ) − ψ(n1 − 1, n2 ) − ψ(n1 , n2 + 1)
(n2 = n1 + 1)
(3.25)
ここで ψ(n1 , n2 ) は
ψ(n1 , n2 ) = ei(p1 n1 +p2 n2 ) + S(p2 , p1 )ei(p2 n1 +p1 n2 )
(3.26)
という形をしていると仮定しよう(Bethe 仮説)。ここで S(p2 , p1 ) は散乱粒子の S
行列である。第 2 項は運動量を単に交換する 2 粒子散乱(弾性散乱)を表してい
る。(3.26) を (3.24) に代入すれば E2 は 1 粒子のエネルギーの和
³p ´
³p ´
1
2
E2 = 4 sin2
+ 4 sin2
(3.27)
2
2
であることがわかる。(3.25) からは S 行列が決まって
ϕ(p1 ) − ϕ(p2 ) + 1
S(p1 , p2 ) =
,
ϕ(p1 ) − ϕ(p2 ) − 1
³p´
1
ϕ(p) = cot
2
2
(3.28)
となる。S(p1 , p2 )−1 = S(p2 , p1 ) となっている。周期的境界条件
ψ(n1 , n2 ) = ψ(n2 , n1 + L)
(3.29)
より
eip1 L = S(p1 , p2 ),
19
eip2 L = S(p2 , p1 )
(3.30)
となる。この積をとれば運動量が p1 + p2 = 2πn
で量子化されていることがわかる。
L
J マグノン状態は J 体の波動関数
" J
#
X
X
iX
ψ(n1 , . . . , nJ ) =
exp i
pP (i) xi +
θP (i)P (j)
(3.31)
2
i=1
i<j
P ∈Perm(J)
で書くことができる1 [16]。ここで和は {1, . . . , J} の J! 通りの置換について足し上
げられている。位相 θij = −θji は S 行列と
S(pi , pj ) = exp[iθij ]
(3.32)
の関係がある。(3.31) は多体の散乱過程が弾性散乱する二体の S 行列で表わせるこ
と意味している。J マグノンのエネルギーは 1 粒子のエネルギーの和
EJ =
J
X
4 sin
i=1
2
³p ´
i
2
で与えられる。周期的境界条件から Bethe 仮説方程式
Y
S(pk , pi )
eipk L =
(3.33)
(3.34)
i6=k
が得られる。
3.3
代数的 Bethe 仮説
別の方法で Bethe 仮説を導出してみよう [12, 13, 14]。まず Lax 演算子を導入す
る。Lax 演算子は局所量子空間 hn と補助空間 V = C2 に作用する演算子で
Ll,a (u) = uIl ⊗ Ia +
iX i
σ ⊗ σai
2 i l
(3.35)
で表わされる。ここで Il ,σl は hl に、Ia ,σa は V に作用する単位行列と Pauli 行列で
ある。
Lax 演算子を補助空間に作用する行列の形で書くと
!
Ã
u + iσl3 /2
iσl− /2
(3.36)
Ll,a u =
u − iσl3 /2
iσl+ /2
となる。ここで σ ± = σ 1 ± iσ 2 。また、Lax 演算子は置換演算子 P(3.13) を使って
書き変えると
1
J=2 のとき (3.26) とは因子 exp(iθ12 /2) 分だけ異なるが固有関数には因子分の自由度があるの
で問題はない。
20
µ
Ll,a (u) =
i
u−
2
¶
Il,a + iPl,a
(3.37)
と書ける。
では Lax 演算子の交換関係を導いてみよう。2 つの Lax 演算子 Ll,a1 (u), Ll,a2 (u) を
考える。この 2 つの演算子は量子空間は同じだが、補助空間はそれぞれ V1 と V2 に作
用する演算子である。積 Ll,a1 (u)Ll,a2 (u) と Ll,a2 (u)Ll,a1 (u) はテンソル積 hl ⊗V1 ⊗V2
の空間で意味をなす。2 つの Lax 演算子と V1 ⊗ V2 上に作用する演算子 Ra1 ,a2 (u − v)
を使うと
Ra1 ,a2 (u − v)Ll,a1 (u)Ll,a2 (v) = Ll,a2 (v)Ll,a1 (u)Ra1 ,a2 (u − v)
(3.38)
という関係式を得る。これを YB(Yang-Baxter) 方程式と呼ぶ2 。ここで Ra1 ,a2 (u)
は R 行列と呼ばれるもので
Ra1 ,a2 (u) = uIa1 ,a2 + iPa1 ,a2
(3.39)
である。
(3.37) と (3.39) を見比べると Lax 演算子 Ll,a (u) と R 行列 Ra1 ,a2 (u) は本質的に
は同じものであることがわかる。
よって (3.38) を確認するには Ll,a (u) のかわりに (3.39) を使い、置換演算子に対
する交換関係
Pl,a1 Pl,a2 = Pa1 ,a2 Pl,a1 = Pl,a2 Pa2 ,a1
(3.40)
と明らかな対称性
Pa2 ,a1 = Pa1 ,a2
(3.41)
を使うと証明できる。
Lax 演算子は交差した 2 本の線によって表すことができる。図 3.1 において太線
が補助空間の添え字、細線がサイトを表している。
図 3.1: Lax 演算子 Ll,a1 の図形表現
この図形を使えば YB 方程式 (3.38) は図 3.2 のように表すことができる。
2
正確には Lax 演算子が R 行列の場合に YB 方程式と呼ぶ。
21
図 3.2: YB 方程式の図形表現
(3.38) において R 行列、Lax 演算子の順序を逆にする操作が、図 3.2 では線 a1
と線 a2 の交点を線 l の右側に持ってくることに対応している。
Lax 演算子は幾何学的には鎖に沿った接続として解釈される。l 番目のサイトか
ら l + 1 番目のサイトへの移動は Lax 演算子を使って
φl+1 = Ll ψl
(3.42)
と定義する。すべてのサイトについて順番に積をとったもの
TL,a (u) = LL,a (u) . . . L1,a (u)
(3.43)
は転送行列 (transfer matrix) と呼ばれる。この演算子は補助空間 V における行列
で書けば
Ã
!
AL (u) BL (u)
TL,a =
(3.44)
CL (u) DL (u)
となり、各成分は全量子空間 HL における演算子である。この転送行列 TL,a から
ハミルトニアンが生成されることが後でわかる。
TL,a (u) に対して YB 方程式と同じ形の関係式、T T R 関係式を作ることができる。
Ra1 ,a2 (u − v)Ta1 (u)Ta2 (v) = Ta2 (v)Ta1 (u)Ra1 ,a2 (u − v)
(3.45)
である。ここで下付きの L を落とした。今後も混乱が生じない場合は省略する。
T T R 関係式 (3.45) を証明するには、演算子は完全に添え字が違う時可換 [Ll,a1 , Lm,a2 ] =
0 であることと、YB 方程式 (3.38) を使う。
Ra1 ,a2 (u − v)Ta1 (u)Ta2 (v)
= Ra1 ,a2 (u − v)LL,a1 LL,a2 LL−1,a1 LL−1,a2 . . . L1,a1 L1,a2
= LL,a2 LL,a1 Ra1 ,a2 (u − v)LL−1,a1 LL−1,a2 . . . L1,a1 L1,a2
..
.
= LL,a2 LL,a1 LL−1,a2 LL−1,a1 . . . L1,a2 L1,a1 Ra1 ,a2 (u − v)
= Ta2 (v)Ta1 (u)Ra1 ,a2 (u − v).
22
(3.46)
T T R 関係式を図で表すと図 3.3 のようになる。
図 3.3: T T R 関係式の図形表現。
“ train ” argument と呼ばれる。
転送行列 TL,a (u)(3.43) は Lax 演算子 (3.35) の積なので u の L 次多項式
X¡
¢
i
TL,a (u) = uL + uL−1
σli ⊗ σ i + . . .
2
l,i
(3.47)
P
で書け、第 2 項に全スピン S i = l σli /2 が出てきた。
T T R 関係式 (3.45) に左から R 行列の逆行列をかけて、補助空間の添え字を書
くと
i
i
Ta1a1ja1 (u)Ta2a2ja2 (v)
−1i
,i
(3.48)
k
k
l
,l
= Ra1 ,aa21kaa2,ka (u − v)Ta2al2a (v)Ta1al1a (u)Raa11,a2a2ja1 ,ja2 (u − v)
1
2
2
1
補助空間 V1 ⊗ V2 上でトレースをとると
tra1 Ta1 (u)tra2 Ta2 (v) = tra2 Ta2 (v)tra1 Ta1 (u)
(3.49)
F (u) = trT (u) = A(u) + D(u)
(3.50)
[F (u), F (v)] = 0
(3.51)
となる。
とおくと (3.49) は
となる。trσ i = 0 なのでトレースをとると (3.47) の第 2 項は消え、F (u) の非自明
な u 展開は uL−2 のべきから始まる。
L
F (u) = 2u +
L−2
X
Ql ul .
(3.52)
l=0
(3.51) と (3.52) より N − 1 個の可換な演算子 Ql があることがわかった。この演算
子の族にハミルトニアン H が属することをこれから示す。
u = i/2 は特別な点で Lax 演算子は
LL,a (i/2) = iPL,a
23
(3.53)
となり、いかなる u に対しても
d
LL,a (u) = IL,a
du
(3.54)
となる。これらの式により F (u) の u = i/2 近傍での展開は容易になる。
u = i/2 のとき転送行列は
TL,a (i/2) = iL PL,a PL−1,a . . . P1,a
(3.55)
となる。この置換演算子の弦を置換演算子の性質 (3.40)(3.41) を使って、演算子を
左から右へと置換していくと
iL P1,2 P2,3 . . . PL−1,L PL,a
(3.56)
という形にできる。補助空間で置換演算子 PL,a (3.13) をトレースすれば
tra PL,a = IL
(3.57)
となる。よって Hilbert 空間 HL 上のシフト演算子 U は
U = i−L tra TL,a (i/2) = P1,2 P2,3 . . . PL−1,L
(3.58)
で表わされる。置換演算子 (3.17) は l 番目のサイトの演算子 (2 × 2 行列)Xl に対
して
Pl1 ,l2 Xl2 Pl1 ,l2 = Pl1 ,l2 (Il ⊗ Xl2 )Pl1 ,l2 = Xl1 ⊗ Il = Xl1
(3.59)
と書き直せるので
Xl U = P1,2 . . . Xl Pl−1,l Pl,l+1 . . . PL−1,L
(3.60)
= P1,2 . . . Pl−1,l Xl−1 Pl,l+1 . . . PL−1,L
= U Xl−1
∴ U −1 Xl U = Xl−1
(3.61)
P† = P; P2 = I
(3.62)
また、置換演算子 (3.13) は
の性質を持っているので演算子 U はユニタリ
U †U = U U † = I
(3.63)
である。よって重要な観測量である運動量を導入することができる。定義より、運
動量 P は無限小のシフトを生成し、それは格子上ではサイトをひとつシフトする
ことに対応するので
eiP = U
(3.64)
24
となる。さらに F (u) の u = i/2 近傍の展開を進めると
¯
X
¯
d
Ta (u)¯¯
= iL−1
PL,a . . . P̂l,a . . . P1,a
du
u=1/2
(3.65)
l
となる。ここで ˆ はその演算子を除くこと意味する。先ほどのように置換演算子を
入れ替え補助空間についてトレースをとると
¯
X
¯
d
= iL−1
Fa (u)¯¯
P1,2 . . . Pl−1,l+1 . . . PL−1,L
(3.66)
du
u=1/2
l
となる。U −1 をかければ多くの置換演算子をキャンセルできて
¯
¯
¯
¯
1X
d
d
−1 ¯
=
=
Fa (u)Fa (u) ¯
ln Fa (u)¯¯
Pl,l+1
du
du
i
u=i/2
u=i/2
(3.67)
l
となる。Fa (u) は可換なので対数の微分の定義に問題はない。
(3.67) と (3.18) を比べると
¯
¯
d
H = −i
ln Fa (u)¯¯
+L
du
u=i/2
(3.68)
となり、H が F (u) によって生成される L − 1 個の可換な演算子の族に含まれ、大
量の保存量があることがわかった。これに全スピンの第 3 成分 S 3 を加えてると L
個の可換な演算子の族ができる。これが L 自由度を持ったこの模型の可積分性の
証明である。
転送行列の非対角要素を使うと、F (u) の可換な族の固有状態を記述することが
てきる。では F (u) の全ての族を対角化する方法を転送行列と Lax 演算子のいくつ
かの性質に基づいて記述してみよう。それは調和振動子のハミルトニアン n = ψ † ψ
を交換関係 [ψ, ψ † ] = I と ψω = 0 となる状態に基づいて取り扱うのを一般化したも
のと見ることができる。
T T R 関係式の行列の成分の中で、ここで関係する式は
[B(u), B(v)] = 0
(3.69)
A(u)B(v) = f (u − v)B(v)A(u) + g(u − v)B(u)A(v)
(3.70)
D(u)B(v) = h(u − v)B(v)D(u) + k(u − v)B(u)D(v)
(3.71)
ここで
u−i
u
u+i
h(u) =
u
f (u) =
g(u) =
i
u
k(u) = −
25
i
u
(3.72)
である。これらの関係式を T T R 関係式から読み取るには V ⊗ V 上の行列で T T R
関係式を表す必要がある。V ⊗ V 上のすべての対象は 4 × 4 の行列で、その自然な
基底は C2 ⊗ C2 における
e1 = e+ ⊗ e+ ,
e2 = e+ ⊗ e− ,
である。ここで
Ã
e+ =
e3 = e− ⊗ e+ ,
!
1
0
Ã
,
e− =
である。置換演算子 P は 4 × 4 行列で表わすと

1 0 0 0
 0 0 1 0

P=
 0 1 0 0
0 0 0 1
e4 = e− ⊗ e−
(3.73)
!
0
1
(3.74)





(3.75)
となるので R 行列 (3.39) は



R(u) = 


a(u)
b(u) c(u)
c(u)
b(u)
a(u)




(3.76)
となる (0 は省略した)。ここで
a = u + i,
b = u,
c=i
である。転送行列 Ta1 (u) と Ta2 (v) は

A(u)
B(u)

A(u)

Ta1 (u) = 
 C(u)
D(u)
C(u)

A(v) B(v)
 C(v) D(v)

Ta2 (v) = 

A(v)
C(v)
よって



Ta1 (u)Ta2 (v) = 

A(u)A(v)
A(u)C(v)
C(u)A(v)
C(u)C(v)
A(u)B(v)
A(u)D(v)
C(u)B(v)
C(u)D(v)
26
(3.77)

B(u) 



D(u)

(3.78)



B(v) 
D(v)
B(u)A(v)
B(u)C(v)
D(u)A(v)
D(u)C(v)
B(u)B(v)
B(u)D(v)
D(u)B(v)
D(u)D(v)
(3.79)





(3.80)
となり Ta1 (v)Ta2 (u) はこの行列のすべての成分の順序が逆になった形になってい
る。(3.70) を得るために T T R 関係式 (3.45) の (1,3) 成分を使うと
a(u − v)B(u)A(v) = c(u − v)B(v)A(u) + b(u − v)A(v)B(u)
(3.81)
の式が出てくる。ここで u ↔ v の交換をすると
A(u)B(u) =
a(v − u)
c(v − u)
B(v)A(u) −
B(u)A(v)
b(v − u)
b(v − u)
(3.82)
となり (3.70) が得られた。他の関係式も同様にして得られる。(3.70)(3.71) は調和
振動子の
ψn = (n + 1)ψ, ψ † n = (n − 1)ψ †
(3.83)
に代わるものである。ψω = 0 を満たす最高ウエイト ω に対応するのは
C(u)Ω = 0
(3.84)
を満たす状態 Ω である。この状態 Ω を見つけるには各 hl において、補助空間の行
列の形で書かれた Lax 演算子 (3.36) が上三角化されるベクトル ωl を見つける。
Ã
!
u + 2i
∗
Ll (u)ωl =
ωl .
(3.85)
0
u − 2i
このベクトルは ωl = e+ で与えられる。∗ はこの要素が我々にとって重要でないこ
とを意味する。HL におけるベクトル Ω を
Y
⊗ωl
(3.86)
Ω=
l
とすれば
Ã
T (u)Ω =
を得る。ここで
αL (u)
∗
L
0
δ (u)
i
α(u) = u + ,
2
!
δ(u) = u −
Ω
(3.87)
i
2
(3.88)
である。言い換えれば
C(u)Ω = 0;
A(u)Ω = αL (u)Ω;
D(u)Ω = δ L (u)Ω
(3.89)
となり、Ω は A(u) と C(u) の同時固有状態であり、F = A + D の固有状態になっ
ている。他の固有状態は
Φ({u}) = B(u1 ) . . . B(uJ )Ω
27
(3.90)
という形をしている。Φ({u}) が F (u) の固有ベクトルになるための条件はパラメー
タ u1 , . . . uJ に代数的な関係式を与える。
(3.70) を使って A(u) を Ω に持っていくと
A(u)B(u1 ) . . . B(uJ )Ω =
J
Y
f (u − uk )αL (u)B(u1 ) . . . B(uJ )Ω
k=1
+
J
X
Mk (u, {u})B(u1 ) . . . B̂(uk ) . . . B(uJ )
(3.91)
k=1
となる。第 1 項は (3.70) の右辺の第 1 項のみを使って得られる項で、固有ベクト
ルの形になっている。それ以外の項は (3.70) の右辺の第 2 項を使ったときに出て
くる 2J − 1 個の項の組み合わせである。係数 Mk は極めて複雑であるが、M1 は簡
単に求めることができる。A(u) と B(u1 ) の交換には (3.70) の第 2 項を、それ以外
には第 1 項を使うと
M1 (u, {u}) = g(u − u1 )
J
Y
f (u1 − uk )αL (u1 )
(3.92)
k=2
を得る。しかし B(u) 同士の可換性から B(uj ) を前に持ってくることで同様に Mj
を求められる。よって Mj (u, {u}) は M1 (u, {u}) で u1 → uj の入れ替えを行えば得
られ、
J
Y
f (uj − uk )αL (uj )
(3.93)
Mj (u, {u}) = g(u − uj )
k6=j
となる。
D(u) に対しても同様に
D(u)B(u1 ) . . . B(uJ )Ω =
J
Y
h(u − uk )δ L (u)B(u1 ) . . . B(uJ )Ω
k=1
+
J
X
Nk (u, {u})B(u1 ) . . . B̂(uk ) . . . B(uJ )
(3.94)
k=1
を得る。ここで
Nj (u, {u}) = k(u − uj )
J
Y
h(uj − uk )δ L (uj )
(3.95)
k6=j
である。(3.72) より
g(u − uj ) = −k(u − uj )
28
(3.96)
である。これを使うと A(u) + D(u) を Φ({u}) にかけた時に出てくる余分な項が
キャンセルする条件は
J
Y
f (uj − uk )α (uj ) =
L
J
Y
h(uj − uk )δ L (uj )
(j = 1, . . . , J)
(3.97)
F (u)Φ({u}) = (A(u) + D(u))Φ({u}) = Λ(u, {u})Φ({u})
(3.98)
k6=j
k6=j
となる。この条件を課せば
となる。ここで
Λ(u, {u}) = α (u)
L
J
Y
f (u − uk ) + δ (u)
L
k=1
J
Y
h(u − uk )
(3.99)
k=1
(3.72)(3.88) を使えば (3.97) は
µ
uj + i/2
uj − i/2
¶L
J
Y
uj − u k + i
=
uj − uk − i
k6=j
(3.100)
と書ける。この式を Bethe 仮説方程式 (BAE) といい、uj を Bethe ルートという。座
標 Bethe 仮説方程式 (3.34) の形にするには、後に出てくる関係式 p(u) = 1i log u+i/2
u−i/2
を使って変数変換すればよい。
固有値 u(u, {u}) は u の L 次の多項式でなくてならないが、一見 (3.99) は u = uj
に極を持っているように見える。しかし、Bethe 仮説方程式は実はこの極を取り除
く条件になっている。実際 (3.99) は
Λ(u, {u})
=
u→uj
J
Y
u − uj − i
u − uj + i
L
α (u)
f (u − uk ) ·
+ δ (u)
h(u − uk ) ·
u − uj
u − uj
k6=j
k6=j
L
J
Y
−−−→ αL (uj )
J
Y
f (uj − uk )
k6=j
J
Y
−i
i
− δ L (uj )
h(uj − uk )
(3.101)
u − uj
u
−
u
j
k6=j
となり、この極を打ち消す条件は (3.97) であり、つまり Bethe 仮説方程式 (3.100)
である。しかしこれは {u} がすべて異なる場合にしか成り立たない。同じ値の u
が存在すると、高次の見た目の極が出てきて、これをキャンセルするための方程
式が新たに必要になる。
また、Bethe 仮説方程式 (3.100) の複素共役をとって、逆数にすると
µ
u∗j + i/2
u∗j − i/2
¶L
=
J
Y
u∗j − u∗k + i
k6=j
29
u∗j − u∗k − i
(3.102)
となり、uj の複素共役 u∗j も Bethe ルートであることがわかる。よって Behte ルー
トは複素共役とペアになった複素数か実数である。では固有値 (3.99) から、シフ
ト演算子 (3.58) の固有値を求めてみよう。
U Φ({u}) = iN F (i/2)Φ({u}) =
Y uj + i/2
Φ({u})
uj − 1/2
j
(3.103)
となる。この対数をとれば運動量
P Φ({u}) =
X
p(uj )Φ({u})
(3.104)
j
が出てくる。ここで
p(u) =
1
u + i/2
log
i
u − i/2
(3.105)
で、運動量はこの和で表わされる。エネルギー H(3.68) も同様に和の形で表わさ
れる。
X
HΦ({u}) =
²(uj )Φ({u})
(3.106)
j
ここで
²(u) =
u2
1
+ 1/4
(3.107)
である。²(u) と p(u) は
d
p(u)
(3.108)
du
という関係があり、u は準粒子 (マグノン) のラピディティと解釈できる。ラピディ
ティを消去すれば、運動量とエネルギーを結びつける分散関係
³ ´
2 p
²(p) = 4 sin
(3.109)
2
²(u) = −
を得る。これは前の小節で出てきた 1 粒子のエネルギー (3.21) と同じである。
30
4
N = 4 超対称 Yang-Mills 理論の異常次元
N = 4 超対称 Yang-Mills 理論のスカラー場を混合した演算子 trΦ1 . . . ΦL を考
える場合、L が増えるにつれ演算子の数は急速に増える (∼ 6L ) ので問題は複雑に
なる。しかし Minahan-Zarembo はこの種の演算子の異常次元の行列が、ある種の
可積分なスピン鎖のハミルトニアンと同等であることを示した [4]。この対応から
Bethe 仮説を用いて異常次元の行列を解くことができる。
4.1
異常次元とスピン系のハミルトニアン
この節では N = 4 超対称 Yang-Mills 理論 (SYM) における異常次元を求める。
SYM の作用は
½
¾
Z
1
1 2
1
4
2
2
S= 2
d x tr − Fµν + (Dµ Φi ) + [Φi , Φj ] + フェルミオンの項
(4.1)
gY M
2
2
である。ここで Dµ は共変微分
Dµ = ∂µ − i[Aµ , ],
(4.2)
Fµν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ − i[Aµ , Aν ]
(4.3)
Fµν は
である。ゲージ場 Aµ 、スカラー場 Φi 、フェルミオン場はすべて SU (N ) の随伴表
現である。µ, ν はローレンツ群 SO(1, 3) のベクトルの足、i, j は SO(6)(' SUR (4))
のベクトルの足である。ここではスカラーとゲージボソンの伝播関数が等しくな
る Feynman ゲージを使う。
微分を含まないすべてのスカラー演算子
O[ψ] = ψ i1 ...iL trΦi1 . . . ΦiL
(4.4)
に対する planar 1 ループの繰り込みを考える。ここで ψ i1 ...iL は普通の数である。
このような演算子を OA でラベル付けする。planar 図とは二重線で Feynman 図を
書いた時、線を交差せず書ける図である。繰り込まれた演算子は一般的には裸の
演算子の線形結合
A
(4.5)
= Z AB OB
Oren
になる。繰り込み因子 Z は相関関数
E
D
1/2
1/2
A
ZΦ Φj1 (x1 ) . . . ZΦ ΦjL (xL )Oren (x)
(4.6)
が有限であることを要請すると決まる。ここで ZΦ は波動関数の繰り込み因子で二
点関数 < Φi Φj > を有限にする因子である。すべての繰り込み因子は紫外切断と
31
large-N 極限での t’ Hooft 結合定数に依っている。繰り込み因子から異常次元の行
列 Γ が決まって
dZ −1
Γ=
Z
(4.7)
d ln Λ
となる。Γ の固有ベクトルは繰り込み可能な演算子に対応して、その固有値が異常
次元である。よって二点関数は
hOn (x)On (y)i =
const
|x − y|2(L+γn )
(4.8)
となる。
ここで γn は Γ の固有値となる。スケール次元 ∆ = L + γn で定義された L は O
は [Φi ] = 1 のスカラー場 L 個からできていることから来ていて、γn の部分が異常
次元である。
では異常次元の行列を 1 ループの効果から求めてみよう。まず SYM の作用 (4.1)
を Euclid 化
t → −it,
A0 → iA0
(4.9)
すると
¾
1 2
1
2
2
SE = −iS = 2
d x tr
F + (Dµ Φi ) − [Φi , Φj ] + フェルミオンの項
gY M
2 µν
2
(4.10)
となる。Feynman 図を作るために書き直すと
Z
n
1
1
1
SE = 2
d4 x tr (∂µ Aν )2 + (∂µ Φi )2 − [Φi , Φj ]2 − [Aµ , Φi ]2 − [Aµ , Aν ]2
gY M
2
2
o
−2i∂µ Φi [Aµ , Φi ] − 2i∂µ Aν [Aµ , Aν ] + フェルミオンの項
Z
n
1
d4 x tr (∂µ Aν )2 + (∂µ Φi )2 + Φ2i Φ2j − (Φi Φj )2 + 2A2µ Φ2i − 2(Aµ Φi )2
= 2
gY M
+A2µ A2ν − (Aµ Aν )2 − 2i∂µ Φi [Aµ , Φi ] − 2i∂µ Aν [Aµ , Aν ]
o
+フェルミオンの項
(4.11)
1
½
Z
4
planar 1 ループの Feynman 図は 4.1 である。水平線は演算子 O(ψ)(4.4) を表して
いて il 等の添え字は各スカラー場 (格子上のサイト) を示している。planar 1 ルー
プでは最近接の相互作用しかない。
図 4.1 の (a) はゲージボソンの交換で、flavor に依存しないので Z 因子は SO(6)
の添え字について対角になり
Z
(a)...jl jl+1 ...
...il il+1 ...
=I−
λ
jl+1
ln Λδijll δil+1
16π 2
(4.12)
となる。図 4.1 の (b) はスカラー場の頂点で 2 つの種類に分かれる (図 4.2)。図 4.2
32
jl
il
(a)
jl+1
jl
il+1
il
(b)
jl+1
jl
il+1
il
jl+1
()
il+1
図 4.1: planar 1 ループの Feynman 図
i
j
1
+1
j
j
i
j
i
i
図 4.2: スカラー場の頂点
( )
i
k
l
k
k
( )
n
l
l
( )
j
n
m
l
n
k
j
m
( )
m
i
m
n
図 4.3: 二重線で表わしたスカラー場の頂点
33
の左の頂点を二重線で表わすと図 4.3 のように表わされる。planar で二重線を交わ
らせずに Feynman 図を作るのは図 4.2 とそれと回転させた頂点で、全部で 8 種類
j
jl+1
l
ある。図 4.2 の左の頂点から δill+1 δijl+1
の因子、右の頂点から −δijll δil+1
の因子、右
jl jl+1
の因子が来る。よって Z 因子は
の頂点を 90 度回転させたものから −δil il+1 δ
(b)...j jl+1 ...
Z ...ill il+1
...
³
´
λ
jl+1 jl
jl jl+1
jl jl+1
=I−
ln Λ 2δil δil+1 − δil δil+1 − δil il+1 δ
16π 2
(4.13)
となる。図 4.1 の (c) は 1 ループ自己エネルギー補正の図で波動関数の繰り込みを
導く。全部で 4 種類あって、図 4.4 で (a) はゲージ場の補正、(b) フェルミンループ
(c) スカラー場の 4 点頂点 (d) スカラー場とゲージ場の 4 点関数となっている。こ
(a)
(b)
()
(d)
図 4.4: 自己エネルギー補正
れに対応する繰り込み因子は [17] で計算され
ZΦ = I −
λ
ln Λ
4π 2
(4.14)
となる。自己エネルギーの補正の半分は external leg の波動関数の繰り込みでキャ
ンセルする。よって Z 因子は
Z
(c)...jl jl+1 ...
...il il+1 ...
=I+
λ
jl+1
ln Λδijll δil+1
2
8π
(4.15)
(a)(b)(c) による寄与を足すと
...j j
...
l+1
Z...illil+1
... = I +
´
³
λ
jl+1 jl
jl jl+1
jl jl+1
δ
+
δ
δ
+
2δ
δ
ln
Λ
−2δ
il il+1
il
il+1
il il+1
16π 2
(4.16)
となる。全 Z 因子はすべてのサイトの Z 因子の積をとったものである。異常次元
の行列は 2 つの演算子を使って表現できる。ひとつはトレース演算子
jj
l+1
= δil il+1 δ jl jl+1
Killil+1
(4.17)
でもう一つは置換演算子
j
jj
l+1
l
= δill+1 δijl+1
Pillil+1
34
(4.18)
である。各スカラー場 Φi が格子上のサイトにあるとするとこれらの演算子はテン
ソル積 R6 ⊗ R6 上で
X
Ka ⊗ b = (a · b)
êi ⊗ êi
(4.19)
Pe ⊗ b = b ⊗ a
(4.20)
のように作用する。ここで êi は R の直交単位ベクトルである。(4.16)(4.17)(4.18)
を使うと異常次元の行列 (4.7) は
Γ=
L
λ X
(Kl,l+11 + 2 − 2Pl,l+1 )
16π 2 l=1
(4.21)
となり、これは SO(6) スピン鎖のハミルトニアンである。
4.2
演算子の異常次元の例
では求めた異常次元の行列 (4.21) を使って、実際に演算子の異常次元を求めて
みよう。N = 4 SYM において簡単で最も重要なスカラー演算子はカイラルプライ
マリ演算子 |CP Oi である。カイラルプライマリ演算子は対称でトレースレスであ
るので、トレース演算子 K の固有値は 0 であり、置換演算子 P の固有値は 1 であ
る。よって
Γ|CP Oi = 0
(4.22)
となる。これはカイラルプライマリ演算子のスケール次元は超対称性によって守
られ、量子補正を受けないことを反映してる。
もう一つの興味深い演算子は Konihsi スカラー
KO = trΦi Φi
(4.23)
である。これは 2 つのサイトを持った格子に対応している。これは置換の下では
不変で、トレース演算子の下では K|KOi = 6|KOi であるので異常次元は
Γ|KOi =
3λ
|KOi
4π 2
(4.24)
である。これは [18] の計算と一致する。
次に 2 つの inpurity を持った BMN 演算子
Oij =
J
X
ψl trΦi Z l Φj Z J−l
(i 6= j, i, j = 3, . . . , 6)
(4.25)
l=0
を考える。ここで Z = Φ1 + iΦ2 、ψl は周期的 ψJ+1 = ψ0 である。BMN 演算子は
光円錐ゲージの弦のハミルトニアンの固有状態と
|0; Ji ⇔ trZ J
J
ai†
0 |0; Ji ⇔ trΦi Z
X
j†
ai†
e2πiln/J trΦi Z l Φj Z J−l
n a−n |0; Ji ⇔
l
35
(4.26)
のように対応している。1 行目が基底状態、2,3 行目が励起状態である。BMN 演
算子は Φ1 と Φ2 を回す R 対称群の生成子の下で charge J を持っている。弦側では J
は光円錐上の弦の長さである。では BMN 演算子に (4.25) に異常次元の行列 (4.21)
を作用させてみよう。今の場合、格子の長さは L = J + 2 である。まず置換演算
子の部分を考える。
J+2
X
J
X
Pm,m+1
m=0
=
ψl trΦi Z l Φj Z J−l
l=0
J−1
X
©
2ψl trZΦi Z l−1 Φj Z J−l + (J − 2)ψl trΦi Z l Φj Z J−l
l=1
2ψl trΦi Z l+1 Φj Z J−l−1
ª
+ψ0 trΦi Z J Φj + 2ψ0 trΦi ZΦj Z J−1 + (J − 1)ψ0 trΦi Φj Z J
(4.27)
+2ψJ trΦi Z J−1 Φj Z + (J − 1)ψJ trΦi Z J Φj + ψJ trΦi Φj Z J
J
X
{2ψl+1 + (J − 2)ψl + 2ψl−1 + (δl0 − δlJ )(ψ0 − ψJ )} trΦi Z l Φj Z J−l
=
l=0
トレース演算子からの寄与はなく全体では
·
¸
λ
1
(Γψ)l = − 2 ψl+1 + ψl−1 − 2ψl + (δl0 − δlJ )(ψ0 − ψJ )
4π
2
(4.28)
となる。これは δ 0 ポテンシャルともった格子 Schrödinger 演算子の形になってい
る。ψ を Γ の固有状態にするには
·
¸
(2l + 1)nπ
S
ψl = cos
(4.29)
J +1
とするか
·
ψlA
2(l + 1)πn
= sin
J +2
¸
(4.30)
とする [19]。ここで ψlS は BMN 演算子 Oij が i, j の添え字の交換の下で対称とな
る固有状態で ψlA は反対称となる固有状態である。それぞれに対する固有値は
µ
¶
λ
πn
2
S
sin
γn =
(4.31)
π2
J +1
µ
¶
λ
πn
A
2
γn =
sin
(4.32)
π2
J +2
である。[19] で説明されたように同じ J を持った対称、反対称演算子は違う超多
重項に属するので、異常次元は違っている。
最後に次の形をした一重項 BMN 演算子
O=
J
X
l=0
φl
6
X
trΦi Z l Φi Z J−l − χtrZ̄Z J+1
i=3
36
(4.33)
を考える。第一項は (4.25) とほとんど一緒だが Φj が Φi に変わっていて、ここか
らトレースの寄与が来る。すなわち
J+2
X
Km,m+1
m=0
J
X
φl
l=0
6
X
= K0,1 φ0
= φ0
i=3
6
6
XX
6
X
trΦi Z l Φi Z J−l
i=3
J
trΦi Φi Z + KJ+2,0 φJ
trΦj Φj Z J + φJ
i=3 j=1
= 4φ0
6
X
6
X
trΦi Z J Φi
i=3
6
6
XX
trΦj Z J Φj
i=3 j=1
trΦj Φj Z J + 4φJ
6
X
trΦj Z J Φj
j=3
j=3
+4(φ0 + φJ )trZ̄Z
J+1
(4.34)
となる。また第二項では置換演算子と単位行列の部分は打ち消しあう。トレース
演算子の部分から寄与は
J+2
X
Km,m+1 χtrZ̄Z J+1
m=0
= (K0,1 + KJ+2,0 )χtrZ̄Z J+1
6
X
= 4χ
trΦi Φi Z J + 4χtrZ̄Z J+1
i=3
(4.35)
となる。よって異常次元の行列はこれらの演算子に対して
·
¸
λ
1
(Γφ)l = − 2 φl+1 + φl−1 − 2φl − (δl0 + δlJ )(φ0 + φJ − χ)
4π
2
λ
Γχ = − 2 (φ0 + φJ − χ)
4π
(4.36)
と作用する。これは self-consistent source と斥力 δ 関数ポテンシャルを持った Schrödinger
演算子である。固有関数は
·
¸
(2l + 1)πn
φl = cos
J +3
µ
¶
πn
χ = 2 cos
(4.37)
J +3
であり、固有値は
λ
γn = 2 sin2
π
である。
37
µ
πn
J +3
¶
(4.38)
4.3
スピン鎖模型との対応
ハイゼンベルク模型ではスピンアップとスピンダウンの二つの状態がある。ま
たハイゼンベルク模型のハミルトニアン (3.18) は異常次元の行列 (4.21) と比べる
とトレースの項がない。トレース演算子が 0 になる状態に対応する演算子は 2 つ
の複素スカラー Z = Φ1 + iΦ2 と W = Φ3 + iΦ4 から作れる。Z を | ↑i、W を | ↓i
に対応させるとスピン鎖との対応は
tr(ZW W ZZZW W ) ⇔ | ↑↓↓↑↑↑↓↓icyclic
(4.39)
となる。左辺はトレースがあるため複素スカラー場のサイクリックな置換の下で不
変である。よって右辺もスピンのサイクリックな置換の下で不変な状態を考える。
では 2 個のダウンスピン、J 個のアップスピンを持った L = J + 2 のスピン鎖を
考えよう(2 マグノン状態)。このエネルギーを Bethe 仮説方程式を使って解き、
対応する演算子の異常次元と比べる。まず、サイクリックな置換の下で不変であ
るという条件からシフト演算子 U (3.64)、つまり全運動量は運動量条件
U = eiP = 1
(4.40)
が課される。個々の運動量は (3.105) のように書けるので、この条件は
λ1 + i/2 λ2 + i/2
=1
λ1 − i/2 λ2 − i/2
(4.41)
となる。Bethe ルートは複素共役とペアとなるか、実数であるかしかない。この場
合、解は u1 = −u2 である。Bethe 仮説方程式 (3.100) は
µ
u1 + i/2
u1 − i/2
¶J+2
2u1 + i
2u1 − i
·
¸
2πn
u1 + i/2
∴
= exp
u1 − i/2
J +1
=
となる。よって
p(u1 ) =
2πn
J +1
(4.42)
(4.43)
(4.44)
となり、個々のエネルギーは (3.109) より
µ
²(p) = 4 sin
2
πn
J +1
¶
(4.45)
となる。ハイゼンベルク模型のハミルトニアン (3.18) と異常次元の行列 (4.21) を
見比べれば、異常次元は
µ
¶
λ
πn
λ
2
γn = 2 2²(p) = 2 sin
(4.46)
8π
π
J +1
38
PJ
となる。一方ゲージ理論側の演算子は O = l=0 ψl trW Z l W Z J−l でこの異常次元
の計算は BMN 演算子 (4.25) の (i, j) 対称なものと同じである。よってこの演算子
の異常次元は (4.31) であり、スピン鎖から求めたものと一致した。
座標 Bethe 仮説で出した 2 マグノン状態 (3.22) とゲージ理論の演算子 O は同じ形
になるべきなので確かめてみる。運動量条件 p1 = −p2 を課して n1 = 1, n2 = l + 1
とすれば、
L−1
LX
|ψ(p1 , p2 )i =
ψ(1, l + 1)|1, l + 1i
(4.47)
2
l=1
となる。ψ(l, l + 1)(3.26) は p1 = −p2 の条件の下でゲージ理論の演算子の ψl と因子
を除いて一致するので、2 マグノン状態とゲージ理論の演算子 O は同じ形になった。
39
5
Riemann-Hilbert 問題
この節では Behte 仮説方程式を解く問題を Riemann-Hilbert 問題に帰着してみ
る。ここの内容は [5, 20] に依っている。
5.1
スケーリング極限
スケーリング極限 L → ∞ を考えてみよう。Bethe 仮説方程式 (3.100) の対数を
とると
µ
¶
J
X
uj + i/2
uj − u k + i
L log
=
log
− 2πinj
(5.1)
uj − i/2
uj − uk − i
k=1(k6=j)
となる。ここで uj は Bethe ルート、nj はモード数と呼ばれる任意の整数で複素数
の対数関数が多価関数であることから出てきたパラメータである。異なったモー
ド数は K 個であるとする。そして同じモード数を持ったルートの数は L のオー
ダーであると仮定する。L → ∞ での運動量の振る舞いを (4.44) から見積もると
p ∼ 1/L である。また運動量と Bethe ルートの関係 (3.105) を u について解くと
u=
1
p
cot
2
2
(5.2)
となる。p が小さい時 cot(p/2) ∼ 2/p なので、Bethe ルートのオーダーは uj ∼ L
である。uj = Lxj とスケールし直すと (5.1) は
1
2
=
xj
L
J
X
k=1(k6=j)
1
− 2πnj
xj − xk
(5.3)
となる。ここで log(1 + x) ∼ x (x ¿ 1) を使った。モード数 nl をもったルートは
スケーリング極限では x = −1/(2πnl ) 付近に集まり、近くのルートとの典型的な
距離は ∆x ∼ 1/L である。よって同じモード数をもったルートはスケーリング極
限 L → ∞ で複素平面上に連続的な線を作る。モード数 nl が作る線を Cl = (al , bl )
で表わすことにする。Cl は対数のカットに対応する。Bethe ルートの分布は密度
1X
ρ(x) =
δ(x − xj )
L j
J
(5.4)
もしくはレゾルベント
1X 1
G(x) =
=
L j=1 x − xj
J
Z
C
dξρ(ξ)
x−ξ
(5.5)
で特徴づけられる。ここで C はカットの和 C = C1 ∪ · · · ∪ CK である。密度は
Z
dξρ(ξ) = α
(5.6)
C
40
で規格化されている。ここで α = J/L は filling fraction と呼ばれるもので、全スピ
ンに対するダウンスピンの割合を示している。またレゾルベント G(x) は x → ∞
で
α
G(x) = + . . .
(x → ∞)
(5.7)
x
と振舞う。
Bethe 仮説方程式のスケーリング極限 (5.3) は xj → x ∈ Cl として、密度 (5.4) を
使って表すと
Z
1
dξρ(ξ)
+ 2πnl = 2−
= G(x + i0) + G(x − i0) x ∈ Cl
(5.8)
x
C x−ξ
R
となる。ここで −C dξ は Cauchy の主値積分
Z
− dξ =
C
Z
K
X
k=1(k6=l)
µZ
dξ + lim
²→0
Ck
Z
x−²
dξ +
al
¶
bl
dξ
(5.9)
x+²
で、積分経路 Cl 上にある ξ = x の特異点を除いて積分することを意味する。(5.8)
の第 2 式と第 3 式が等しいことは
G(x + i0) + G(x − i0)
Z
Z
dξρ(ξ)
dξρ(ξ)
=
+
C x + i0 − ξ
C x − i0 − ξ
Ã
!
Z
Z
Z
dξρ(ξ)
dξρ(ξ)
dξρ(ξ)
= 2−
+ lim
+
²→0
C x−ξ
C²,− x − ξ
C²,+ x − ξ
Z
dξρ(ξ)
= 2−
C x−ξ
(5.10)
となることからわかる。ここで積分経路 C²,− は図 5.1 のようにとってある。C²,+
は C²,− を上下に反転させた経路である。最後の部分は密度 ρ(ξ) が積分経路 C²,± 上
に値を持たないので第 2 項と第 3 項は消えた。もし密度 ρ(ξ) が積分経路 C²,± 上で
値を持ったとしても ξ = x + ²eiθ と置いて計算すれば第 2 項と第 3 項で相殺する。
al
x
x
x
+
C;
図 5.1: 積分経路 C²,−
41
bl
運動量条件 (4.40) はスケーリング極限で
1 X 1 (5.5)
= −G(0) = 2πm,
P =
L j=1 xj
J
m∈Z
(5.11)
となる。または (5.8) を考慮すると運動量条件は
I
1
G(x)dx
−
= −G(0)
2πi O
x
K Z
X
ρ(x)dx
=
x
k=1 Ck
Z
K
X
= 2π
nl
ρ(x)dx
l=1
とも書ける。ここで
限で
= 2πm,
H
O
Cl
nl , m ∈ Z
(5.12)
は原点近傍の周回積分である。異常次元はスケーリング極
Z
I
J
λ
λ
λ X
ρ(x) (5.5)
dx
(3.107)(5.4)
=
γ=
²(Lxj )
dx 2 = − 2
G(x)
2
8π j=1
8π L C
x
8π L O 2πix2
(5.13)
となる。
このようにリゾルベント G(x) から P や γ といった保存量を求められる。では転
送行列の固有値 Λ(3.99) をリゾルベント G(x) を使って書き直してみよう。3.3 小節
で行ったように保存量を求めるときは固有値 Λ とその導関数の u = i/2 の値を使
うので、固有値 Λ(3.99) の第二項は L が十分に大きな場合には保存量の計算には
効いてこない。よって第二項を落して u = Lx + i/2 とスケールし直すと、固有値
Λ(3.99) は L → ∞ で
"
#
X
T (Lx + i/2)
1
i
= exp −
L
(Lx + i)
L j x − xj
(5.5)
=
=
exp [−iG(x)]
· µ
¶¸
8π 2 Lγ
exp −i −P −
x + ...
λ
(5.14)
となり、リゾルベント G(x) はスケーリング極限において局所保存量の生成関数に
なっていることがわかる。
5.2
超楕円曲線
では (5.8) の一般解を構築してみよう。まず、擬運動量
p(x) = G(x) −
42
1
2x
(5.15)
を導入する。(5.8) を使えば p(x) は
p(x + i0) + p(x − i0) = 2πni ,
x ∈ Ci
(5.16)
の形に書ける。これは与えられた不連続性から解析関数 p(x) を決める RiemannHilbert 問題の形をしている。p(x) は各カット Ci に不連続性を持つ 2 価関数であ
り、2 枚の複素平面をカットでつなぐことで 1 価関数にすることができる。2 つの平
面のうち 1 つを平面を物理的平面と呼ぶことにする。定義 (5.5) から G(x) は x = 0
に極を持たない。よって (5.15) の 1/(2x) の x = 0 の極は物理的平面では p(x) の極
とキャンセルするようにする。
カットを持つ複素平面は超楕円曲線 Σ
Σ:
2
y =x
2K
+ r1 x
2K−1
+ · · · + r2K
2K
Y
=
(x − xi )
(5.17)
j=1
によって特徴づけられる。xi は K 個のカットの端の座標、ブランチポイントであ
る。(5.17) が実数になる条件を課すと各ブランチポイントは複素共役 x2j = x∗2j+1
を持たなくてはならない。もしくは xk は実数であってもいいが、ここでは実数の
場合は考えない。この条件は Bethe ルートが複素共役とセットか実数でなくては
ならないことに対応している。Cl = (x2l , x2l+1 ) のようにカットをとる。
また y は平方根の積であるので、カットを境に y の符号は反転する。よって (5.16)
から p(x) の形は
p(x) = g(x)y(x) + πni x ∈ Ci
(5.18)
とかける。ここで g(x) は有理関数とする。すると dp は
P2K Q2K
0
dp = g (x)ydx + g(x)
i=1
j6=i (x
− xj )
2y
dx = h(x)
dx
y
(5.19)
P2K Q2K
ここで h(x) = 2g 0 (x)y 2 + g(x) i=1 j6=i (x − xj )/2 である。よって dp は y と有理
関数 h(x) で書ける。
では dp に対する条件を Σ 上の A-cycle と B-cycle を使って表してみよう。A-cycle
とはカットの周りを回る cycle のことで、B-cycle とはカット通る cycle のことであ
る (図 5.2)。(5.16) は Σ 上の B-cycle(図 5.2 参照)にわたる積分の形に書き直すこ
とができて
2π(ni − nj ) = p(xi + i0) − p(xj − i0) + p(xi − i0) − p(xj + i0)
Z xi +i0
Z xi −i0
I
=
dp +
dp =
dp
xj −i0
xj +i0
(5.20)
Bij
となる。ここでは y の反転 y → −y を行い、積分経路の一つを 2 番目の平面に移し
た。また y の反転すると (5.19) より dp も反転するので、図 5.3 のように積分経路
43
図 5.2: カットの周りを回る A-cycle とカットを通る B-cycle
図 5.3: (a) 物理的面上の積分 (b)y を反転させた後の積分
は向きをかえ積分経路全体は B-cycle となる。Bij は i 番目のカットと j 番目のカッ
トを通る B-cycle を意味している。よって (5.20) から dp の B 周期に対して K − 1
個の条件
I
dp = 2π(ni − nK )
i = 1, . . . , K − 1
(5.21)
Bi
が課される。ここで Bi ≡ BiK である。一方 A 周期に対する条件は物理的平面上
での p(x) の 1 価より
I
dp = 0
i = 0, . . . , K − 1
(5.22)
Ai
の条件が課される。さらにもう 1 つの条件は (5.16) の K 番目の式を書き直して
Z ∞+
p(∞+ ) − p(∞− ) =
dp = 2πnK
(5.23)
∞−
となる。ここで ∞+ は物理的平面上の無限遠点で、∞− は 2 番目の平面上の無限
遠点である。積分経路は物理的平面上の無限遠点から出発して K 番目のカットを
通り、2 番目の平面の無限遠点で終わる (図 5.4)。
これらの条件から dp は決まる。x = 0 で G(x) が極を持たないためには p(x) は
(5.15) より
1
p(x) = − + b1 x + b2 x2 + . . .
(5.24)
2x
44
図 5.4: (5.23) の積分経路
の形でなくてはならない。よって x = 0 の近傍で dp は
dp =
dx
+ O(1) (x → 0)
2x2
となる。また (5.7) より x → ∞ で
µ
¶
1
dp =
− α dx/x2 + . . .
2
(x → ∞)
(5.25)
(5.26)
である。よって dp の一般的な形は (5.19)(5.25)(5.26) より
dp =
K−1
dx X
ak xk−1
y k=−1
(5.27)
となる。dp が x = 0 の近傍で (5.25) の振る舞いをすることを要請すれば、最初の
2 つの係数は決まって
√
r2K
r2K−1
a−1 =
, a0 = √
(5.28)
2
4 r2K
となる。(5.22) から残りの K − 1 個の係数 ak は決定され、dp は完全に決まる。
残りの K 個の条件 (5.21)(5.23) は超楕円曲線 Σ(5.17) の係数を決定する。よって
K 個のフリーパラメータが残った。これは K 個のカット Cj 上の Bethe ルートの
filling fraction
I
Z
1
(5.5)
Sj =
p(x)dx =
ρ(x)dx, j = 1, . . . , K − 1
2πi Aj
Cj
I
Z
K−1
X
1
(5.5)
p(x)dx =
SK =
ρ(x)dx = α −
Sj
(5.29)
2πi AK
CK
j=1
に対応するパラメータである。filling fraction α は dp の無限遠点での振る舞い (5.26)
から dp の係数でかけて aK−1 = 12 − α となる。
全運動量 P (5.12) は filling fraction Sj (5.29) で表わすと
1
P =−
2πi
I
O
X
p(x)dx
= 2π
nj Sj = 2πm
x
j=1
K
45
(5.30)
となる。擬運動量 p(x) は全運動量 P (5.30) と異常次元 γ(5.13) を使って表すと
p(x) = −
1
8π 2 Lγ
− 2πm −
x + O(x2 )
2x
λ
となる。(5.27) と (5.31) を比べれば異常次元 γ は
µ
¶
2
r2K−1
λ
r2K−2
a1
γ= 2
−
−√
2
8π L 4r2K
16r2K
r2K
(5.31)
(5.32)
と書ける。
5.3
2 ループの補正
高次の補正を考慮に入れる場合、長距離で相互作用する Inozemtsev 鎖 [21, 22]
を考える。2 ループ補正された Bethe 方程式は
e
ipj L
=
J
Y
k=1(k6=j)
uj − u k + i
uj − uk − i
(5.33)
で与えられる [23]。運動量 pj = pj (uj ) は
u = u0 (p) +
λ
sin p + O(λ2 )
2
8π
(5.34)
で定義される。u0 (p) は
eip =
u0 + i/2
u0 − i/2
(5.35)
で与えられる。2 ループまでで (5.33) は


uj + i/2 −
uj − i/2 −

L
uj
λ
8π 2 u2j +1/4

uj
λ
8π 2 u2j +1/4
=
J
Y
k=1(k6=j)
uj − uk + i
uj − u k − i
(5.36)
と書き変えられる。u = xL でスケールし直しスケーリング極限 L → ∞ をとれば
(5.8) が補正された式
Z
λ 1
1
dξρ(ξ)
+ 2 2 3 + 2πnl = 2−
, x ∈ Cl
(5.37)
x 8π L x
C x−ξ
が得られる。
運動量条件は
J
Y
uj


uj + i/2 −
uj − i/2 −
uj
λ
8π 2 u2j +1/4
uj
λ
8π 2 u2j +1/4
46
L
 =1
(5.38)
またはスケーリング極限で
¶
µ
¶
µ
Z
I
1
λ 1
dx
1
λ 1
2
+ 2 2 3 +O(λ ) = −
G(x)
+ 2 2 3 +O(λ2 )
2πm = dxρ(x)
x 8π L x
2πi
x 8π L x
(5.39)
となる。異常次元は
¸
J ·
X
λ
λ2
2 p(uj )
4 p(uj )
γ =
+ O(λ3 )
(5.40)
sin
− 4 sin
2
2π
2
8π
2
j=1
¸
J ·
X
λ
1
3λ2
1
λ2
1
=
+
+
+ O(λ3 )
2 u2 + 1/4
4 (u2 + 1/4)2
4 (u2 + 1/4)3
8π
128π
128π
j
j
j
j=1
またはスケーリング極限で
µ
µ 2¶
¶
Z
λ 1
3λ2
1
λ
3
γ = L dxρ(x)
+
+O
+ O(λ )
8π 2 L2 x2 128π 4 L4 x4
L6
µ
µ 2¶
¶
I
λ 1
λ
3λ2
1
dx
3
G(x)
+
+O
+ O(λ ) (5.41)
= −
2πi
8π 2 L x2 128π 4 L3 x4
L5
となる。
(5.37) を解くには擬運動量
p(x) = G(x) −
を導入して x → 0 で dp =
1
2x2
+
3T
x4
1
T
− 2
2x x
(5.42)
+ O(1) の条件を満たす
K−1
dx X
ak xk−1
dp =
u k=−3
(5.43)
を見つけなければならない。
5.4
1 ループのゲージ理論のシングルカット解
では具体的にカットが 1 つのときの Bethe 方程式の解を考えよう。(5.8) は
Z
1
dξρ(ξ)
= 2πn + 2−
= 2πn + G(x + i0) + G(x − i0), x ∈ C
(5.44)
x
C x−ξ
となる。運動量条件 (5.30) より
nα = m
(5.45)
となる。(5.44) からリゾルベント G(x) は
G(x) =
p
1
− πn + f (x) (x − x1 )(x − x2 )
2x
47
(5.46)
の形になる。カットが一つの状況を考えているので平方根の中身は 2 次になって
いる。x = 0 で極が取り除かれることと、(5.7) より x → ∞ で
G(x) =
m/n
+ ...
x
(x → ∞)
となることを要請すると G(x)(5.46) は
s
µ
¶
1
1
2m
1
πn
G(x) =
x2 −
1−
x+ 2 2
− πn +
2x
x
πn
n
4π n
(5.47)
(5.48)
に決まる。(5.19) より
1
y =x −
πn
2
2
µ
2m
1−
n
¶
x+
1
4π 2 n2
(5.49)
となる。リゾルベント (5.48) から異常次元 (5.13) は
γ=
λm(n − m)
2L
(5.50)
となる。この解は
J1 + J2 = L
(5.51)
mJ1 + (m − n)J2 = 0
(5.52)
J3 = 0
(5.53)
を満たす [24] の circular 弦の解と一致する。circular 弦とは AdS5 × S 5 の S 5 の部分
空間 S 3 と AdS 5 の時間座標中を動く弦である。弦が S 3 を囲んでいるので circular
弦とよばれる。ここで J1 = J12 , J2 = J34 , J3 = J56 は S 5 上の弦の可換な角運動量
である。弦は S 5 の部分空間 S 3 中を回るため、J3 = 0 は 0 になっている。
5.5
S 3 上の弦のシグマ模型
ここでは AdS5 × S 5 の部分空間 S 3 × Rt 上を動く弦の解が Riemann-Hilbert 問
題 (5.16) 帰着することを示す。ここで S 3 は S 5 の部分空間、Rt は AdS 5 の大域的
時間座標の空間である。大域的時間座標は大域的座標 (2.28) における τ のことで
あるが、ここでは X0 で表わすことにする。弦の世界面上の計量を共形ゲージ
hab = ηab = diag(+1, −1),
a, b = τ, σ
(5.54)
にとる。ここで τ は世界面の時間的な座標、σ(0 ≤ σ ≤ 2π) は空間的な座標でであ
る。共形ゲージの下で S 3 × Rt の弦のシグマ模型の作用は
√ Z 2π Z
¤
£
λ
(5.55)
S=
dσ dτ (∂a Xi )2 − (∂a X0 )2
4π 0
48
である。ここで Xi , i = 1, . . . , 4 は R4 に埋め込まれた S 3 のデカルト座標
Xi Xi = 1
である。S 3 は SU (2) の群多様体なので SU (2) の元
Ã
! Ã
!
X1 + iX2 X3 + iX4
Z1 Z2
g=
≡
∈ SU (2)
−X3 + iX4 X1 − iX2
−Z̄2 Z̄1
(5.56)
(5.57)
を使うと作用 (5.55) は
√ Z 2π
·
¸
Z
λ
1 2
2
S=−
dσ dτ trja + (∂a X0 )
4π 0
2
と書ける。ここで ja = g −1 ∂a g =
1 A A
j σ
2i a
(5.58)
である。運動方程式は
∂+ ∂− X0 = 0
(5.59)
∂+ j− + ∂− j+ = 0
(5.60)
である。ここで ∂± = ∂τ ± ∂σ 、j± = jτ ± jσ である。定義からカレントは平坦
∂+ j− − ∂− j+ + [j+ , j− ] = 0
(5.61)
であることを示せる。さらに世界面の計量に対する運動方程式から Virasoro 条件
1 2
trj = −(∂± X 0 )2
2 ±
(5.62)
X 0 = κτ
(5.63)
1 2
trj = −κ2
2 ±
(5.64)
が出る。運動方程式 (5.59) は
と置けば解けて
を得る。
作用は大域的な SUL (2) × SUR (2) 対称性を持っている。SUL (2) 対称性は g → hg
の下での対称性で SUR (2) 対称性は g → gh の下での対称性である。ただし h は
SU (2) の定数の元である。SUL (2) × SUR (2) の対称性は N = 4SYM における
SO(6)R 対称性の部分群 SU (4) と同一視できる。SYM の 6 つのスカラー場 Φi (i =
1, . . . , 6) は SO(6) の下で S 5 のデカルト座標 Xi (i = 1, . . . , 6) と同じように変換す
る。複素スカラー場 Z = Φ1 + iΦ2 , W = Φ3 + iΦ4 と Z1 = X1 + iX2 , Z2 = X3 + iX4
は SUL (2) × SUR (2) の下で同じ量子数を持っている。g → hg は
√ Z
λ
A
(5.65)
QL =
dσlτA
4π
49
で生成される。ここで la = gja g −1 = ∂a gg −1 は左カレントである。この変換の下
で (Z1 , −Z̄2 ) と (Z2 , −Z̄1 ) は二重項として変換する。Z1 , Z2 は Q3L = 1 のチャージ
を持っている。trΦL−J
ΦJ2 + . . . の演算子は
1
Q3L = L
(5.66)
のチャージを持っている。g → gh は
QA
R
√ Z
λ
=
dσjτA
4π
(5.67)
で生成される。つまり ja は左カレントである。この変換の下で (Z1 , Z2 ) は二重
項として変換する。Z1 は Q3R = 1、Z2 は Q3R = −1 のチャージを持っている。
trΦL−J
ΦJ2 + . . . の演算子は
1
(5.68)
Q3R = L − 2J
のチャージを持っている。
演算子のスケール次元は弦のエネルギーに対応していて、それは大域的時間の
並進によって生成され
√ Z 2π
√
λ
∆=
dσ∂τ X0 = λκ
(5.69)
2π 0
となる。
スペクトラルパラメータに依存するカレント J± (x) を
J± (x) =
j±
1±x
(5.70)
で定義する。J± (x) が平坦
∂+ J− − ∂− J+ + [J+ , J− ] = 0
(5.71)
であることと j± が (5.60)(5.61) を満たすことは同値である。また (5.71) は線形問題
·
µ
¶¸
1
j+
j−
LΨ = ∂σ −
−
Ψ=0
(5.72)
2 1−x 1+x
·
µ
¶¸
1
j−
j+
MΨ = ∂τ −
+
Ψ=0
(5.73)
2 1−x 1+x
の一貫性条件
[L, M] = 0
(5.74)
と同値である。初期条件 Ψ(x; τ0 , 0) = 1 を課した (5.72) の解 Ψ(x; τ, σ) からモノド
ロミー行列 Ω(x) を定義する。
µ
¶
Z 2π
j−
1
j+
−
Ω(x) = Ψ(x; τ0 , 2π) = P exp
dσ
(5.75)
2 1−x 1+x
0
50
ここで P はパスオーダーを表す。擬運動量
trΩ(x) = 2 cos p(x)
(5.76)
を導入する。モノドロミー行列 (5.75) は x = ±1 に極を持っている。x → −1 での
振る舞いを考えと
¶
Z 2π µ
1 j−
trΩ(x) → trP exp
(x → −1)
dσ −
21+x
0
j−
π 2 j−2
= tr(1 − π
+
+ ...)
1+x
2 (1 + x)2
π 2 κ2
(5.64)
= 2−
+ ...
(1 + x)2
πκ
= 2 cos
(5.77)
1+x
なる。x = 1 の振る舞いも同様にして求めれば擬運動量の漸近的振る舞いは
πκ
p(x) = −
+ . . . (x → ∓1)
(5.78)
x±1
となる。次に x → ∞ の振る舞いを考える。x → ∞ では L = ∂σ + jτ /x + . . . と
なり、
Z 2π
1
trΩ = 2 + 2
dσ1 dσ2 trjτ (σ1 )jτ (σ2 ) + . . .
2x 0
4π 2 Q2R
(5.67)
= 2−
+ ...
λx2
4π 2 (L − 2J)2
(5.68)
= 2−
+ ...
(5.79)
λx2
(5.80)
が得られる。よって
p(x) = −
2π(L − 2J)
√
+ ...
λx
(x → ∞)
(5.81)
が得られる。最後に x → 0 の振る舞いを見る。x → 0 では L = ∂σ + jσ − xjτ + . . .
となり、これは L = g −1 (∂σ − xlτ + . . . )g と書き直せる。よって
µ
¶
Z 2π
−1
Ω(x) = g (2π)P exp −x
dσlτ + . . . g(0)
(5.82)
0
となる。g(σ) の周期性から Ω(0) = 1、よって p(0) = 2πn である。さらに展開して
Z
x2 2π
trΩ = 2 +
dσ1 dσ2 trlτ (σ1 )lτ (σ2 ) + . . .
2 0
4π 2 Q2L 2
(5.65)
= 2−
x + ...
λ
4π 2 L2 2
(5.66)
x + ...
(5.83)
= 2−
λ
51
となる。よって
2πL
p(x) = 2πm + √ x + . . . (x → 0)
λ
である。x = ±1 の特異点を取り除けばリゾルベント
G(x) = p(x) +
(5.84)
πκ
πκ
+
x−1 x+1
(5.85)
を得る。リゾルベントは密度 ρ を使って表すと
Z
ρ(ξ)
G(x) = dξ
(5.86)
x−ξ
√
となる。x → ∞ で G(x) ∼ 2π[κ − (L − 2J)/ λ]/x である。リゾルベントの無限
遠点での漸近的振る舞いは (5.7) より密度の規格化条件
Z
2π
dxρ(x) = √ (∆ + 2J − L)
(5.87)
λ
を決める。リゾルベント G(x)(5.85) の原点での漸近的振る舞いより
I
Z
G(x)dx
1
ρ(x)
−
= dx
= 2πm
2πi
x
x
と
1
−
2πi
I
G(x)dx
=
x2
(5.88)
Z
ρ(x)
2π
(5.89)
= √ (∆ − L)
2
x
λ
が出てくる。Im(trΩ) = 0, |Ω| > 2 となる領域は forbidden zone と呼ばれる。forbidden zone の両側で擬運動量は値を変え、
dx
p(x + i0) + p(x − i0) = 2πnk
x ∈ Ck
(5.90)
となる。ここで Ck は forbidden zone が作る曲線であり、擬運動量 p(x) のカットで
ある。(5.86) を考慮すれば、密度に対する積分方程式
Z
ρ
2πκ
2πκ
G(x + i0) + G(x − i0) = 2− dξ
=
+
+ 2πnk x ∈ Ck (5.91)
x−ξ
x−1 x+1
が出てくる。よってスピン鎖と同様に Riemann-Hilbert 問題が得られた。しかし極
h
i
πκ
の構造は (5.8) と違っている。dp は x = ±1 では dp ∼ dx (π±1)
+
O(1)
、x → ∞
2
では dp ∼
2π
√
(L
λ
dx
dp = πκ
y
− 2J) dx
のように振る舞う。よって dp の形は
x2
Ã
0
0
X
y+
y−
y−
y+
+
+
+
+
bk xk−1
(x − 1)2 (x + 1)2 x − 1 x + 1 k=1
0
=
となる。ここで y± = y|x=±1 , y±
K−1
dy
|
dx x=±1
52
である。
!
(5.92)
√ x とスケールし直すと (5.87)(5.88)(5.89)
では 5.1 小節の結果と比べてみよう。x → 4πL
λ
(5.91) はそれぞれ
Z
J
∆−L
dxρ(x) = +
(5.93)
L
2L
I
Z
dx
ρ(x)
−
G(x) = dx
= 2πm
(5.94)
2πix
x
I
Z
λ
dx
λ
ρ(x)
− 2
G(x)
=
dx
=∆−L
(5.95)
8π L
2πix2
8π 2 L
x2
Z
ρ
x∆/L
G(x + i0) + G(x − i0) = 2− dξ
= 2
+ 2πnk , x ∈ Ck (5.96)
x−ξ
x − 16πλ2 L2
となる。 Lλ2 → 0 の極限では ∆ = L + O(λ/L) なので、この極限では 5.1 小節の
結果 (5.6)(5.8)(5.12)(5.13) と一致する。
5.6
S 3 上の弦のシグマ模型のシングルカット解
最後に、S3 上の弦理論の解と Bethe 仮説方程式 (5.91) のシングルカット解を比
較してみる。
まず S 3 上に住む弦の複素座標
Z1 = X1 + iX2 ,
Z2 = X3 + iX4
(5.97)
で表す。ここで
|Z1 |2 + |Z2 |2 = 1
(5.98)
を満たすものとする。
Z1 = cos
θ0 iw1 τ +im1 σ
e
,
2
Z2 = sin
θ0 iw2 τ +im2 σ
e
,
2
t = κτ
(5.99)
の形をした解を見つけてみよう。θ0 /2 は S 3 の極角で範囲は 0 ≤ θ0 ≤ π である。運
動方程式 (5.60) よりパラメーターの関係
w12 − m21 = w22 − m22
(5.100)
が出てくる。Virasoro 条件 (5.62) から
θ0
θ0
+ (w22 + m22 ) sin2
2
2
θ
θ
0
0
0 = w1 m1 cos2 + w2 m2 ∼2
2
2
κ2 = (w12 + m21 ) cos2
(5.101)
が出てくる。これを書き直せば
cos2
w2 m 2
θ0
=
,
2
w2 m2 − w1 m1
53
sin2
θ0
w1 m1
=
2
w1 m 1 − w2 m 2
(5.102)
κ2 =
(w1 w2 + m1 m2 )(w1 w2 − m1 m2 )
w2 m2 − w1 m1
となる。(5.100)(5.103) は
wI
mI
(5.103)
µ
¶
κ p
1
=
WI + √
2
WI
µ
p ¶
κ
1
√
=
− WI
2
WI
(5.104)
で解ける。
弦のエネルギー ∆、R チャージ J1 = J, J2 = L − J は (5.65)(5.67) より
√
∆ = λκ
√ R 2π
√
Q3 +Q3
2 θ0
J1 = L 2 R = λ 0 dσ
cos
ω
=
λ cos2 θ20 w1
1
2π
2
√ R 2π
√
Q3 −Q3
2 θ0
J2 = L 2 R = λ 0 dσ
sin
ω
(5.105)
λ sin2 θ20 w2
2
2π
2
となる。(5.100)(5.101) より
(w12 + m22 − m22 )(J1 −
√
λw1 )2 − (J2 w1 )2 = 0
J1 m1 + J2 m2 = 0
(5.106)
m1 = −m2 = m のとき簡単になって
∆2 = (J1 + J2 )2 + λm2
(5.107)
となる。
これを Bethe 仮説方程式のシングルカット解と比べる。まず x → x/a でスケー
1
ルし直す。ここで a = 4πκ
である。すると (5.87)(5.88)(5.89) は
Z
J
∆−L
dxρ(x) =
+
∆
2∆
I
Z
dx
ρ(x)
−
G(x) = dx
= 2πm
(5.108)
2πix
x
I
λ
dx
− 2
G(x) = ∆ − L
8π ∆
2πix2
となる。(5.91) は
Z
G(x + i0) + G(x − i0) = 2− dξ
1
ρ
=
x−ξ
2
µ
1
1
+
x−a x+a
¶
− 2πn
(5.109)
になる。m1 = m, m2 = m − n と置き、(5.92)(5.109) を満たすリゾルベントの形は
µ
¶
µ
¶
1
1
1
1 (1 + ²)−1/2 (1 − ²)−1/2 √ 2
+
+
G(x) =
+
Ax + Bx + C−πn
4 x−a x+a
4
x−a
x+a
(5.110)
54
である。x ± a の極を物理的平面でキャンセルするための条件は
B = 4πκ²
C+
A 2
(4πκ)
=1
(5.111)
である。漸近的な振る舞い (5.7) から
µ
¶
√
1
1
+√
A √
= 4πn
1−²
1+²
(5.112)
となり、運動量条件 (5.108) から
µ
¶
√
1
1
G(0) = πκ C − √
+√
− πn = −2πm
1−²
1+²
√
を得る。Y ≡ 1 − ²2 と定義すると、(5.111)(5.112)(5.113) は
µ 2
¶
n
Y2
(n − 2, )2
2
κ =
+
2 1+Y
1−Y
を導く。(5.111)(5.112) と Y を使うと G(x) の無限遠点での振る舞いは
√
µ 2
¶
κ (1 + Y ) 1 − Y 2 n2 (1 − Y )
1
x→∞ 1
√
G(x) ∼
+
−
2x
Y2
1 − Y 2 4nκx
(5.113)
(5.114)
(5.115)
となる。(5.114) の κ2 を (5.115) に代入して、密度の規格化条件 (5.108) から
n2 (1 − Y )2 − (n − 2m)2 (1 + Y )2 =
4n(J1 − J2 ) √
√
1−Y2
λ
(5.116)
となる。
n−m
m
L J2 = L
(5.117)
n
n
なら、(5.108) と (5.115)(5.116) は両立する。(5.116) は (5.115) を使うと Y の 4 次式
J1 =
(n2 (1 − Y )2 − (n − 2m)2 (1 + Y )2 )2 − 16(n − 2m)2 (1 − Y 2 )
L2
=0
λ
(5.118)
が出てくる。n = 2m の場合、Y = 1 で (5.114) は (5.107) になる。(5.107)(5.111)(5.112)
を使えば G(x)(5.110) は
!
Ã
r
2
1
x
1
L
− 2πm (5.119)
G(x) =
1 + 4πm x2 +
λ
1
2 x2 − 16π
16π 2 m L2 + λm2
2 L2 +λm2
となる。最後に G(x) を x = 0 の周りで展開して (5.107) の 3 番目のと比較すれば
(5.107) が出てくる。
55
5.7
スピン鎖と S 3 上のシグマ模型の 2 ループまでの比較
5.6 小節において n = 2m の場合のエネルギー ∆ を求めたが、一般の n, m の値
に対して、少なくとも摂動的に ∆ を求めることはできる。Y を λ/L2 で展開
X µ λ ¶n
Y =
Yn
(5.120)
L2
n
して、オーダーごとに (5.118) を解くと
(n − 2m)2 λ
3(n − 2m)4 λ2
(6(n − 2m)2 − n2 )(n − 2m)4 λ3
+
−
+ ...
2
L2
8
L4
16
L6
(5.121)
となる。これを (5.114) に代入すると
Y =1−
∆=L+
m(n − m) λ m(n − m)(n2 − 3m(n − m)) λ2
−
+ ...
2
L
8
L3
(5.122)
となる。(5.122) の 1 次は Heisenberg スピン鎖の 1 ループシングルカットの異常次
元 (5.50) と一致する。
2 次の項を比較するためには Inozemtsev 鎖の 2 ループ近似を使う。(5.37) から
G(x) の一般的な形は
µ
¶
D
1
T
E
T √ 2
G(x) =
+
+
+
+
Ax + Bx + 1 − πn
(5.123)
2x x3
2x x2 x3
となる。ここで T =
めに
λ
16π 2 L2
である。x = 0 の 1 位と 2 位の極をキャンセルするた
1
E + BT = 0
(5.124)
2
1
D + EB + AT − B 2 T = 1
(5.125)
4
の条件が出てくる。λ/L2 の 1 次までの運動量条件 (5.39) から
µ
¶
1
1
1
1
1
1 3 1
2
3
− DB + EB − EA − T B + T AB − T
B − AB = π(n − 2m)
4
8
2
16
4
16
4
(5.126)
が出てくる。ここでかっこの項は (5.39) の第 2 項から来たものである。そして無
限遠点での振る舞いから
√
D A = 2πn
(5.127)
がでてくる。これらの式を λ/L2 の一時まで解くと
D = 1 − δ,
λ
(n − 2m),
4πL2 µ
A = (2πn)2 (1 + 2δ)
¶
λ
B = −4π(n − 2m) 1 + δ + 4m(n − m) 2
L
E
56
(5.128)
が得られる。ここで
λ
(n2 − 6m(n − m))
2L2
である。これらの値を (5.123) に代入すれば
δ=−
G0 (0) = −4π 2 m(n − m) + 2π 2 m(n − m)(n − 3m)(2n − 3m)
(5.129)
λ
+ ...
L2
1 000
G (0) = −16π 4 m(n − m)(n2 − 5m(n − m)) + . . .
3!
(5.130)
を得る。最後にこれを (5.41) に適用すれば
λ
3λ2 G000 (0)
0
G
(0)
−
+ ...
8π 2 L
128π 4 L3 3!
m(n − m) λ m(n − m)(n2 − 3m(n − m)) λ2
+ ...
=
−
2
L
8
L3
γ = −
(5.131)
となる。これは (5.122) に一致する。よってゲージ理論の異常次元と弦のエネルギー
が確かに対応していることがわかった。
57
6
結論
この修士論文では AdS5 × S 5 上の IIB 型超弦理論と 4 次元の N = 4 超対称 YangMills 理論 (SYM) の間の双対性である AdS/CFT 対応をゲージ理論のシングルト
レース演算子の異常次元 γ と弦のエネルギーを比較して検証した。
3 節において、Heisenberg XXX1/2 模型の Bethe 仮説方程式を導いた。Bethe 仮
説方程式は転送行列 T (u) のトレースをとった F (u) の固有値が極を持たない条件
になっていた。同じ値を持つ Bethe ルート ui = uj が存在すると 2 位の極が出てき
て極を取り除くことができなくなる。よって極を取り除くためには Bethe ルート
uj はすべて違う値を持たなくてはならない。また Bethe 仮説方程式の形から Bethe
ルートは複素数のペアをもってでてくるか実数でしかない。そして本論文では述
べなかったが Bethe ルートの数 J はサイトの数 L の半分を超えない (J ≤ L/2)。こ
のことや XXX1/2 模型以外の模型については [12, 13] で述べられている。
4 節は [4] を元にしていて、4 次元の N = 4 超対称 Yang-Mills 理論 (SYM) のシ
ングルトレース演算子の planar 1 ループの異常次元が SO(6) スピン鎖模型のハミ
ルトニアンに一致することを見た。また SO(6) の SU (2) サブセクター、複素スカ
ラー場 Z = Φ1 + iΦ2 , W = Φ3 + iΦ4 だけから作ったシングルトレース演算子は
Heisenberg XXX1/2 模型のスピン鎖と同一視できることを示した。
tr(ZW W ZZZW W ) ⇔ | ↑↓↓↑↑↑↓↓icyclic .
この対応は [25] によって拡張され、スカラー場、フェルミオン場、ゲージ場とそ
れらの共形微分を含むシングルトレース演算子の planar 1 ループの異常次元が
SU (2, 2|4) 超スピン鎖のハミルトニアンに対応することが示された。
5 節では、[5] で示された方法によって Bethe 仮説方程式を解く問題をスケーリ
ング極限 L → ∞ をとることによって Riemann-Hilbert 問題に帰着させた。また
S 3 上の弦のシグマ模型のエネルギーも同様に Riemann-Hilbert 問題から解けるこ
とを示した。そして Inozemtsev 鎖を使うことによって、スピン鎖模型から出した
異常次元と弦のエネルギーが 2 ループまで合うことを示した。
さらなるスピン鎖模型と弦理論の解析で AdS/CFT 対応の検証していくことが
今後の課題である。
謝辞
締切ぎりぎりまで修士論文の指導をしてくださった I 先生ありがとうございま
す。そして S 先生をはじめ、研究室の皆さまに対して日頃からの感謝の意を表し
たいと思います。
58
参考文献
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