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2012年 12月号 【特集】

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2012年 12月号 【特集】
∼最近の取り組みから∼
国際協力銀行の広報誌
JBIC Today
SpotLight
JBIC 初の鉄道セクター向けプロジェクトファイナンス
インフラ・ファイナンス部門 運輸・通信事業部第1ユニット
五辺 和茂 ユニット長 平本 英紀 調査役※に聞く
JBICは2012年7月、
(株)
日立製作所
(日立)
が出資する英国
本邦メーカー製車両と保守サービスを英国に提供
て。先例がない中で、多様な関係者が満足する道を模索する必要が
の
「車両調達および保守サービス提供に係る鉄道車両官民連携
と五辺ユニット長は振り返ります。
クトの1つとなっています。今後も車両更新の需要拡大が見込ま
日英の民間金融機関が名を連ね、案件のストラクチャーは極めて複
(PPP)
プロジェクト」
である本件は、英国政府の最重要プロジェ
れており、
日本企業のビジネス機会の創出が期待されています。
金融危機による停滞を乗り越え
のモデルにするという使命と責任感を持って、交渉にあたりました」
金融機関にはJBIC、欧州投資銀行という公的金融機関のほか、
雑。平本調査役は
「一緒に担当したストラクチャードファイナンスの
専門家である弁護士からも、
こんなに複雑なストラクチャーは見た
ことがないと評されたほど」
と語ります。関係者間の利害調整は難航
し、お互いの妥協点を見出すために、非常に難しい交渉が続きまし
もともと、先進国である英国はJBICの融資対象国ではありません
た。
「それでも、
この案件は日本政府が進めるパッケージ型インフラ
でしたが、2010年4月の政令改正によって、
日本企業の先進国での
海外展開の目玉案件です。絶対に良い形で成就させなければなら
都市間高速鉄道に関する事業に対して支援を行うことができるように
ないという思いで交渉に臨みました」
(五辺ユニット長)
なり、
JBICの本プロジェクトへの本格的な取り組みが始まりました。
当時は、入札が終了して日立側が優先交渉
権を獲得していたものの、
リーマンショック後も
続く不安定な金融市場、
英国政府の政権交代、
五辺ユニット長
平本調査役
相手の本音を理解
厳しい交渉を経て、
ロンドンオリンピック開幕を目前にした2012
新政権下での緊縮財政等を背景として、
英国政
年7月27日に融資契約を締結しました。交渉では、相手が何を考え
府内でインフラ整備計画全体が大幅な見直し
ているのか、本音の部分をよく理解すること、相手方との円滑なコ
対象となり、本件も、英国政府内でのレビュー
ミュニケーションを保つことも重要でした。
「今回、JBICにとって英国
の対象として、
事実上凍結している状態でした。
PPPマーケットには初参加なので、相手の主張の背後にある価値観
そこで、
日本政府とともに英国政府に働きかけ
そしてその優先順位を見極めるよう努めました」
と語る五辺ユニット
ると同時に、
日本政府はJBICによる融資が可能
長。平本調査役も
「幸い、JBICはさまざまな相手にアクセスできる立
となるよう政令を改正しました。そうした努力も
場にあります。民間銀行とはもちろん、スポンサーとも強い信頼関
あって、
2011年3月に受注が正式に確定。同年
係がある。英国政府・運輸省とも良好な関係にあるので、関係者との
10月には、融資に参加する金融機関の組成が
突っ込んだ協議を通じ、お互いのコミュニケーションを深め、その結
済み、
プロジェクトファイナンスをめぐる具体的
果生まれた信頼関係によって案件を成功裏にクローズさせることが
な交渉がスタートしました。とはいえ以降の道
できたと思います」
と語ります。
のりも、
平坦ではありませんでした。
英国政府の要望通りの期限までにファイナンスをまとめた今回の
トラックレコードは、英国のみならず、他国での受注競争においても
難航した利害調整
今後評価されることが期待されます。JBICでは引き続き、
日本企業が
参画する、
海外のインフラプロジェクトを積極的に支援していきます。
契約締結に至るまでに、いくつものハードルがありました。その背
景には
“初めて”
の要素が多かったことが挙げられます。
本プロジェクトは、JBICにとって初の鉄道セクター向けプロジェク
トファイナンスとなりましたが、PPPの長い歴史を持つ英国政府に
とっても、鉄道車両の導入に関わるPPPは初めて。参加する日立も、
鉄道部門での本格的なプロジェクトファイナンス
(英国PFI)
は初め
英国都市間高速鉄道計画に向けたプロジェクトファイナンス
JBICは2012年7月、(株)日立製作所が出資する英国法人アジリティ・トレインズ・ウェ
スト社との間で、英国都市間高速鉄道プロジェクトを対象として、融資金額約10億ポ
ンド(JBIC分)を限度とするプロジェクトファイナンスによる貸付契約を締結しました。
本融資は、日本の民間金融機関、海外の民間金融機関および欧州投資銀行との協調
融資(総額約22億ポンド)であり、民間金融機関融資分の一部に対しては、独立行政法
人日本貿易保険による海外事業貸付保険が付保されます。
※平本調査役の部署名は案件承諾時のもの。現在はマニラ駐在員事務所駐在員。
国際協力銀行では、本誌を季刊で発行しています。
本誌に掲載されている画像、文章の無断転用・無断転載はお断りします。
JBIC TODAY
(ジェービック トゥデイ)
2012年12月号 2012年 12月発行
ありました。
「 逆に言うと、
これを今後の鉄道インフラ・ファイナンス
プロジェクトファイナンスによる貸付契約を締結しました。英国初
〒100-8144 東京都千代田区大手町1丁目4番1号 Tel. 03-5218-3100 株式会社国際協力銀行 企画・管理部門 経営企画部 報道課 URL : http: //www. jbic. go. jp
法人との間で、英国都市間高速鉄道プロジェクトを対象として、
2012 December
英国の高速鉄道計画に
参画する日本企業を支援
日米両国企業の
JBICの主要業務
資源
インフラ
海外ビジネス支援
国際金融社会への貢献
海外における資源開発、
取得の促進
∼最近の取り組みから∼
株式会社国際協力銀行(JBIC)は、日本政府100%出資の政策
SpotLight
日本の産業の国際競争力
の維持、
向上
金融機関です。我が国及び国際経済社会の健全な発展に寄与する
ことを図るべく、輸出金融、輸入金融、投資金融、事業開発等金融、
海外インフラプロジェクト
への支援
国際金融秩序の混乱の防止
またはその被害への対処
JBICの知的貢献
保証、
ブリッジローン、
出資、
調査などの業務を行っています。
ナレッジ提供
国際金融の知見、
ノウハウ、
現地事情の情報提供
詳しい内容はJBIC WEBサイトを
ご覧ください。
www.jbic.go.jp/ja/special
第三国向け輸出支援
JBICは、10月、米国の公的輸出信用機
証・再保証機能を活用した連携のための協
関である米国輸出入銀行
(Export-Import
定書締結はJBICとして初めてとなります。
Bank of the United States)
との間で、
日
本件は、
借入人等の関係者にとっての事務
米両国企業の第三国向け輸出を、保証・再
負担の軽減、ひいてはファイナンス組成の
調印式の様子
保証機能を活用しつつ両機関が連携して
迅速化にも資するものであり、
今後、
日米両
フラプロジェクト等において、
日本企業の輸
支援するための協定書に調印しました。保
国企業の協力が期待される第三国でのイン
出の拡大に寄与することが期待されます。
日本向けの銅資源の中長期的な確保
トルコ及び周辺国における
及び安定供給に貢献
JBICは、11月、①三菱商事(株)、②三
本件は、三菱商事及び三井物産が世界
しており、長期安定的な銅資源の確保は喫
井物産
(株)
及び③三井物産が100%出資
有 数 の 鉱 山 会 社であるチリ共 和 国 法 人
緊の課題となっています。本件によって引
するオランダ王国法人Oriente Copper
Anglo American Sur S.A.の株式の一部
取権を確保する銅精鉱等は、
日本の国内製
Netherlands B.V.
(OCN)
との間で、それ
を取得し、銅精鉱等の引取権を取得するた
錬所に供給される予定となっており、鉱物
ぞれ①融資金額2,695百万米ドル(JBIC
めに必要な資金を融資するものです。
資源確保の観点からも意義の高いもので
分)
、②同314百万米ドル
(同左)
及び③同
銅は、日本の産業にとって必須の金属資
す。JBICは、今後も日本企業による鉱物資
1,706百万米ドル限度
(同左)
の貸付契約
源ですが、
日本は銅地金の原料である銅精
源などの重要資源の開発・取得の促進を積
に調印しました。
鉱の全量を、チリ等海外からの輸入に依存
極的に支援していきます。
日本企業による長期安定的な
木材チップの確保を支援
JBICは、10月、王子ホールディングス
KTHは、年間約53万BD
(絶乾重量)
トンの
( 株 )が 出 資 するインドネシア 法 人 P T .
木材チップを製造し、その全量を王子グ
Korintiga Hutani
(KTH)
との間で、融資金
ループ各社向けに販売する予定です。
額28百万米ドル限度
(JBIC分)
の貸付契約
日本は、製紙原料としての木材チップ需
要の過半を海外からの調達で賄っている
本件は、KTHがインドネシアの中央カリ
一方、世界の木材チップ需給は、新興国の
然木の伐採を要さない植林木由来の木材
マンタン州で実施するユーカリ及びアカシ
経済成長に伴う紙需要の拡大を受けて、
チップを日本企業が長期安定的に確保す
アの植林木由来の木材チップの製造・販売
中長期的に逼迫することが見込まれてい
るものであり、環境に配慮した持続可能な
事業に必要な資金を融資するものです。
ます。本融資は、限りある資源としての天
資源調達に寄与するものです。
インフラ海外展開を支援
るタイ王国法人Gulf JP UT Company
ヤ県ロジャナ工業団地において、発電容量
Limited(GUT)
との間で、ウタイ・ガス焚
1,600MW(800MW×2系列)のガス焚
定し、各行を通じて円又は米ドル建の中長
A.S.との間で、融資金額120百万米ドル相
じて円又は米ドル建の中長期資金を融資
期資金を融資するものです。
当(JBIC分、以下同じ)、11月、AKBANK
するものです。また、Turkiye Is Bankasi
さらに、11月、
トルコ輸出入銀行及び
T.A.S.との間で、融資金額300百万米ドル
A.S.との間では、融資金額60百万米ドル
T. Garanti Bankasi A.S.と、12月には、
相当、Yapi ve Kredi Bankasi A.S.との
相当、Yapi ve Kredi Bankasi A.S.との
Yapi ve Kredi Bankasi A.S.との間で、
間で、融資金額210百万米ドル相当を限
間では、融資金額90百万米ドル相当を限
今後の資金協力に係る情報交換等を目的
度とする、
トルコ及び周辺国
(中東、中央ア
度とする再生可能エネルギー及び気候変
とした覚書をそれぞれ締結しました。
ジア、北アフリカ 等)向けの輸出クレジッ
動緩和セクターを対象とした輸出クレジッ
JBICは、輸出クレジットラインを通じて、
トライン設定のための一般協定を締結し
トライン設定のための一般協定も締結し
また、現地の銀行との緊密な協力・連携関
ました。本件は、
トルコ及び周辺国の地場
ました。本件は、
トルコの地場企業が日本
係の強化を図ることによって、
トルコ及び
企業がインフラ整備に伴う建設機械等の
から再生可能エネルギー等関連機器を購
周辺国での日本企業のビジネス展開を支
本邦機器を購入するためのクレジットラ
入するためのクレジットラインを各行に設
援していきます。
及びサムライ債市場の活性化を支援
JBICは、11月、
インドネシア政府が日本
GATE)」
に基づき保証します。
で発行する円建て外債
(サムライ債)
に対す
インドネシア政府発行のサムライ債に対
る保証に関する諸契約に調印しました。本
する保証供与は、2009年7月及び2010年
債券は、総額600億円の私募債形式の円
11月に続くもので、
日本の資本市場の国際
調印式の様子
建て債券であり、
JBICはその元本全額及び
競争力の維持及び向上政策の一環として、
及び同国経済の安定化に寄与すると共に、
利息の一部をJBICの
「サムライ債発行支援
JBICの保証を通じて、
インドネシア政府の
日本の投資家に幅広い投資機会を提供し、
ファシリティ
(Guarantee and Acquisition
東京市場でのサムライ債発行を支援するこ
サムライ債市場の活性化にも寄与すること
toward Tokyo market Enhancement:
とにより、同国政府の資金調達先の多様化
を企図しているものです。
i
完成イメージ
複合火力発電所プロジェクトを対象とし
複合火力発電所を建設・操業し、タイ電力
て、融資金額284百万米ドル(JBIC分)
を
公社
(EGAT)
に対して25年間にわたり売
の最新設備を使用して、発電所の建設・管
限度とするプロジェクトファイナンスによ
電する事業であり、電源開発が中心となっ
理・運営を一貫して行うパッケージ型イン
る貸付契約を締結しました。
て、三菱重工業(株)の高効率低環境負荷
フラ海外展開プロジェクトです。
2 JBIC Today 2012 December
イン
(融資枠)を各行に設定し、各行を通
植林地
日本企業によるパッケージ型
本プロジェクトは、GUTが、同国アユタ
JBICは、10月、Turkiye Is Bankasi
インドネシア政府の資金調達先多様化
に調印しました。
JBICは、10月、電源開発(株)が出資す
日本企業のビジネス拡大を支援
nformation
平成24年9月中間期決算の公表
JBICは、
11月28日、
平成24年9月中間期決算を公表しました。詳細はWEBサイト
(http://www.jbic.go.jp/ja/about/press/2012/1128-03/HP.pdf)
をご覧ください。なお、JBICの中間財務諸表等は
「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」
(EDINET:コードは
E26837)
にて開示されています。
JBIC Today 2012 December 3
新興国の人口増加や経済成長、先進国におけるインフ
ジェクトの成否の鍵を握ると言っても過言ではありません。
ラ老朽化等を背景に、電力、上下水道、鉄道、道路、港湾、空
こうした中、JBICは、IMF・世界銀行年次総会期間中の
港、通信といった各種インフラの整備や更新需要は世界的
2012年10月、財務省、世界銀行及び一般社団法人全国銀
に拡大しています。このような旺盛な海外のインフラ需要
行協会の後援を得て、東京でインフラ開発における官民の
に対応すべく、日本企業の関心も高まりつつありますが、
適切な役割分担のあり方を主要テーマとする『JBICインフ
海外インフラ事業においては先進国企業のみならず、中国
ラ開発セミナー』を開催しました。本セミナーには国内外の
や韓国をはじめとする新興国企業との競争も激しさを増し
インフラ関連企業や民間金融機関、官公庁や在京大使館等
ています。
から延べ200人もの参加者があり、内外からの関心の高さ
また一方で、海外でのインフラ整備にあたっては長期か
が伺えました。
つ巨額の資金が必要になることもあり、各国の財政事情
JBICは、従来より、日本企業によるプラント機器の輸出や
の制約も相俟って、インフラ開発の手法として、官民連携
海外インフラ事業への参画を金融面から支援してきたとこ
(PPP=Public Private Partnership)の導入が進められて
ろ、今号は、海外でのインフラ開発を成功に導くための官と
いますが、官と民の適切な役割分担を構築できるかが、プロ
民の適切な役割分担にフォーカスを当てて特集します。
分担
2012年10月に開催された
「JBICインフラ開発セミナー」
の様子
「JBICインフラ開発セミナー」
の冒頭、JBIC総裁の奥田は、
めには、
ホスト国の政府、貸し
海外インフラ開発に係る問題意識やJBICの姿勢について
手、民間投資家を含む関係当
次のように述べました。
事者間での適切なリスクシェ
アリングや合意形成が重要で
新興国の経済成長を背景に今後、世界的に急速かつ膨大
す。
また、
インフラ開発に関す
なインフラ需要の増加が見込まれております。一方で、従来こ
る法制度やルールから、入札
れらのインフラ投資を主に担ってきた援助資金を含む政府部
実施方法に至る一連の透明
門の財政は、厳しさを増しております。必要となるインフラ投資
性のある枠組みを整える必要
需要と政府部門により支出可能なインフラ投資額とのギャップ
があります。
への対応は、新興国の潜在的成長力を開花させる上で喫緊
JBICは世界中でインフラプ
かつ重要な課題です。膨大なインフラ需要は、国内外の民間
ロジェクトに携わった長きにわたる経 験を有しており、官 民
企業にとって、新たなビジネス機会としても大きな期待が寄せら
連携による
“持続可能なインフラ開発”
に向けた枠組みづくり
れている分野であります。
への支援や、金融メニューの充実化を通じ、
グローバルな貿易・
このような背景から、民間部門の資金・ノウハウを活用しなが
投資促進に資するインフラ開発支援に取り組んでいく所存です。
株式会社国際協力銀行
代表取締役総裁
奥田 碩
らインフラ開発を行う手段として、PPPがこれまで以上に注目を
集めるようになってきております。PPPが効果的に実施されるた
JBIC Today 2012 December 5
官と民との適切なリスク・責任の分担
負担しきれないリスクが存在します。従ってインフラプロジェクト
においては、
ホスト国政府による一定のコミットメントと関与が、
前述のように、近年、官民連帯によるインフラ開発方法であ
プロジェクトの成否を占う上で重要な要素となります。
る「PPP」への期待が高まっており、PPP形式による資金調
特に新興国の案件では、
プロジェクトコストを下回る料金(タ
達は、2011年においてPF全体の4分の1程度を占め、前年比
リフ)設定、非効率かつ予見可能性の低い行政手続き、中央・
約25%増となりました。
この背景には、特に新興国において民
地方政府間の制度面等の整合性の欠如、
ホスト国政府側の
間の資金・ノウハウ活用による自国政府の債務負担軽減及び
PPPスキーム実施能力の欠如等、多くの課題が散見される
効率的なインフラ整備の促進が、持続的な成長を図る上で
ことから、JBICは公的金融機関として、
ファイナンス面での支
喫緊の課題であるとの認識が高まっていることが考えられま
援に留まらず、
インフラプロジェクトに民間部門が円滑に参入
す。PPPによるインフラ整備を実現するべく、新興国では様々
できるbankableなPPP制度の整備をホスト国政府に働きか
な制度整備が進められていますが、
こうした各国の取り組み
けることも行っています。
この点でJBICは、従来の「Public」
の中には、制度整備の内容が民間への過大なリスク移転を
と「 P r i v a t e 」に加え、サービスの受 益 者である「 P e o p l e 」
伴い、事業採算性に関する予見可能性を低下させるなど、所
及 び 民 間 投 資 家 や 金 融 機 関 から成る「 P r o v i d e r s o f
謂「bankability(金融機関等からの資金調達を行えるだけ
Finance」を含めた「4つのP」の間で長期的かつ建設的な
の事業スキームになっているかどうか)」の視点が欠けている
「Partnership」が構築される、いわば「5つのP」の調和によ
例も散見されます。
インフラは経済活動や国民生活の基盤で
り、
「官」と「民」の間で適切なリスク・責任の分担がなされる
あり、料金設定や事業運営のあり方など、
ホスト国(事業実施
枠組みが重要と考えています。
国)政府の方針に影響されることから、民間事業者だけでは
■ 新興国プロジェクトの事業性:PPPの課題
■ JBICが関わってきたインフラ関連プロジェクトの数々
拡大する世界のインフラ需要と
資金調達の動向
では前年同期比で約15%減の水準に留まっています。
また、
資金調達の形態についても、
「融資」から「債券」
(プロジェク
トボンド)
にシフトする動きが見られ、2012年に入り、PF全体に
世界全体で拡大しつつあるインフラ需要については、2011
占める債券形態での資金調達の割合が、前年比でほぼ倍増
~30年で総額24兆米ドル規模に及ぶとの試算 1 があると共
しています(11年=約3.8%、12年第3四半期時点では約7%)。
に、
アジアの新興国のインフラ需要についても、2010~20年の
この背景としては、欧州債務危機による欧州系銀行の信用
間で約8兆米ドル に及ぶとの推計もあります。
力低下やバーセルⅢ規制の影響等により、PFの主要な担い
このような膨大な資金需要があるインフラ・プロジェクトの実
手であったフランス系銀行を中心に海外民間金融機関による
現にあたっては、多くの場合、巨額かつ長期の安定的な資金
長期資金の提供が抑制的なものとなっており、その代替とし
を集めることが求められます。Dealogic社の発表 によれば、
て、
プロジェクトボンド等を通じた資本市場からの資金調達に
インフラ関連のプロジェクト・ファイナンス
(リミテッドリコース・ファ
対するニーズが高まっていることが考えられます。
また、
この分
イナンス、以下「PF」)の市場規模は、
ギリシャに端を発した一
野における本邦金融機関やJBICのような各国の公的金融機
連の欧州債務危機等の影響もあり、2012年第3四半期時点
関、国際機関などへの期待も高まっています。
2
3
1 経済産業省産業構造審議会貿易経済協力分科会インフラ・システム輸出部会
「実務者
レベル検討会報告」
(2012年6月)
2 アジア開発銀行
(ADB)
推計
3 Dealogic Project Finance Review : First Nine Months of 2012
6 JBIC Today 2012 December
JBIC Today 2012 December 7
パッケージ型インフラ海外展開支援
に向けた動き
らの収益を示す所得収支の黒字幅が近年拡大している日本
ファンドへの出資やインフラ事業会社への出資等を通じて日本
にとって、増大するインフラ需要に対し、輸出増加のみならず、
企業の海外事業展開を金融面から積極的に支援しています。
(DMICDC)への出資検討や、ベトナム・ハノイ市及びホーチ
日本の優れたインフラ・システムを現地展開することで一層の
また、2011年5月の株式会社国際協力銀行法の公布・施行や
ミン市との間で2012年9月に調印した民活インフラ案件促進を
海外で増大しつつあるインフラ整備需要については、多く
収益を確保することは、
日本の経済構造にも合致したもので
その後の関連政令等の施行もあり、特定のインフラ分野など
目的とする業務協力協定等があります。
の日本の関連企業や地方自治体等にとっても、長年培ってき
あると考えられます。
を対象に、JBICによる先進国向けの輸出金融が可能となっ
このように、制度設計又は案件形成初期段階から官民一
た他、先進国向けの投資金融の対象範囲も拡大されました。
体となってホスト国政府や現地事業会社の取り組みに関与す
日本企業による海外インフラ展開
支援に向けたJBICの取組み
また、短期のつなぎ資金の供与や現地通貨建支援の強化、
ることで、
日本企業の強みに合致した案件形成を行うことが
インフラ関連企業を含む海外企業のM&A支援の強化など
可能となり、
さらに、
プロジェクトの契約内容や実行・監理体制
の機能強化も行なわれています。
等に関する支援を通じて、PPP実施能力の補完というニーズ
の協力や設備の運転・保守・人材育成などを含めた総合的な
JBICでは、2011年7月に内部組織を部門制に移行した際
さらに、
こうした金融ツールに加え、官民を含む関係者間の
にも応えることが可能となると考えています。
パッケージとしてのインフラ整備への期待が寄せられるように
にインフラ・ファイナンス部門を立ち上げ、
インフラ・セクター全
適切なリスク分担を通じたPPPプロジェクトのbankabilityの
なってきています。世界的に旺盛なインフラ整備需要に対応
般に関する日本企業支援をきめ細やかに行うための体制を整
確保という観点から、近年JBICが特に力点を置いているの
今後もJBICは、従来の日本企業によるプラント等の関連設
し、
日本の経済成長に繋げていこうと、
日本政府も2010年6月
えた他、2012年4月には、株式会社日本政策金融公庫から分
が、PPP制度上の課題等についてホスト国政府に助言等を
備・機器の輸出とともに、
インフラプロジェクトへの日本企業の
に閣議決定された「新成長戦略」にパッケージ型インフラ海
離して株式会社国際協力銀行となり、
インフラ分野をはじめと
行う政策対話の枠組みと、開発マスタープランへの関与等を
事業参画も積極的に支援し、拡大しつつある海外インフラ需
外展開の推進を盛り込み、その後2012年7月に閣議決定され
する日本企業の海外事業展開をより機動的に支援することを
通じた案件形成初期段階からの支援です。前者は、
インドネ
要について、
日本企業のビジネス機会の創出・拡大につなげて
た「日本再生戦略」においても重点施策として明記し、その支
図っています。
シア、
メキシコ及びブラジルなどの各国政府との間で実施し
いくことができるよう、
さまざまな側面から政策金融機関として
援に力を注いできています。
この点、
日本の経済構造に照らし
ファイナンス面では、前述のパッケージ型インフラ海外展開
ており、中でも日本勢が受注したインドネシア・中部ジャワ石炭
の役割を果たして参りたいと考えています。
合わせても、貿易依存度(輸出入額/GDP)は3割弱と主要先
支援等に係る日本政府の方針も踏まえ、電力、水、鉄道、港湾
火力発電所案件では、本枠組みを通じた議論が官民のリス
進国では米国に次ぐ低さであり、国際収支の中で海外投資か
など幅広いインフラ分野を対象に、融資・保証に加え、
インフラ
ク分担の在り方に反映されるなど、具体的な成果が見られま
たその高度な技術力を活かせる機会として注目されつつあり
ますが、最近の傾向として、
インフラ関連の機器を単体で輸出
しようとしても、先進国や台頭著しい新興国を含む競合先企
業との価格競争に晒される他、相手国側からも周辺分野で
■ JBICインフラ・投資促進ファシリティ
(E-FACE)
した。後者では、
インドのデリー・ムンバイ産業大動脈開発会社
■ 案件形成初期段階からの関与の概念図
JBICは、2011年4月、
パッケージ型インフラの海外展開をはじめとする戦略的プロジェクトを、民間資金を最大限動員しつつ、
より積極的に推進
することを目的として
「JBICインフラ・投資促進ファシリティ」
(Enhanced Facility for Global Cooperation in Low Carbon Infrastructure
and Equity Investment: 通称E-FACE)
を創設しました。本ファシリティにより、
パッケージ型インフラの海外展開支援、M&A案件及び巨額資源
権益取得案件等への投資促進、省エネ・新エネ事業及びアジア向け案件へのリスクマネー供給等を企図しています。
8 JBIC Today 2012 December
JBIC Today 2012 December 9
わが社の
海外物語
橋本電機工業株式会社
(愛知県高浜市)
森林資源国ロシアが求めた日本の技術力
ハバロフスク州に誕生したロシア極東最大級の木材加工工場。
その中核となる生産設備を納入したのは、
建材生産設備で世界トップクラスの実力を誇る愛知県のメーカー、橋本電機工業です。
橋本電機工業製の木材加工プラント設備
ロシア極東最大級の
木材加工工場ライン
世界有数の森林資源保有国である
自動化されたプラント設備は、材質や
インが作れる設備メーカーは、世界的
ボールなどの生産設備も手がけてい
製造環境、予定している製品に合わせ
にも多くはありません。このため、納入
ます。中小企業研究センター賞、全国
て、全て
「オーダーメード」
で作られて
した先からの評判やインターネットな
発明賞、科学技術庁長官奨励賞、技術
いるのが特徴です。
どを通じてユーザーがこちらを探し出
優秀賞など、さまざまな賞も受賞して
してくれることもあり、世界のユーザー
きました。
から日本製品への期待や評価を感じる
こうした不断の革新と新技術への
ことは多々あります」
と語ります。
チャレンジを続けながら、ユーザーの
ロシア。そこでは付加価値の高い国内
木材産業の育成のため、近年、丸太の
半世紀に及ぶ海外展開
輸出関税率の段階的な引き上げが続
橋本 恭典 代表取締役社長
会社概要
いています。原木を付加価値の高い加
橋本電機工業は、設計、製造から施
一方で、順調にビジネスが進むこと
環境に合わせるために、汎用的な製品
工木材にして資源価値を高め、木材産
工まで一貫して行う建材設備分野で、
ばかりではありません。
「金融危機を挟
でも可能な限りの改良や調整を重ねて
業を発展させようとしているためです。
国内外から高い評価を得ている愛知
んで引き合いがピタリと止むことも経
きました。
そこで求められたのが、高品質な合板
県のメーカーです。創業は1946年。電
験しましたし、日本製はやはり高いと、
「私たちのビジネスは、納入して終わ
を効率よく作り出せる技術でした。
動機や配電盤の修理・販売からスター
購入を断念されるケースもあります。
りではありません。長く使える機械だ
カラ松材の宝庫であるハバロフスク
トした同 社は、1 9 5 4 年 、当 時 近くに
さらに近年の円高は、輸出企業にとっ
からこそ、その後のメンテナンスで長
州アムールスク市の工場に日本から導入
あった木材会社の依頼で、板の巻き取
て大変な逆風ともなっています。そん
くユーザーと向き合い、
それがユーザー
されたのは、橋本電機工業製の木材
り機を製作したのをきっかけに合板分
な 時に私たちはJ B I C の 融 資 制 度を
の設備拡張の際のリピートオーダーに
加工プラント設備。このプラント設備
野に進出。以来、弛まぬ技術革新を積
海外ユーザーに紹介し、日本の生産設
も繋がります。円高などの競争条件に
では、枝や皮を取り払われた丸太が、
自
み重ねてきました。
備導入を望むユーザーをサポートする
一喜一憂しない『ものづくり』を、
これ
仕組みがあることを説明しています」
からも目指していきたいと考えてい
社名 橋本電機工業株式会社 創業 1946年(昭和21年)9月
設立 1954年(昭和29年)8月
資本金 9,600万円
動的に装置にセットされ高速回転を始
合板産業における原材料の供給地
代表者 代表取締役社長 橋本恭典
めると、まるで大根の“桂むき”をする
は海外が中心です。このため、同社の
事業内容
各種産業機械設計製作及び
これに付随する一切の業務
ように、丸太からあっという間に薄板が
海外向け輸出も1960年代からと歴史
生み出されます。毎分180メートル
(同
が長く、東南アジアや北米、中南米諸
型機)ものスピードで作られる板はコ
国などに輸出しています。直近1年間
ンベヤーで運ばれ断裁。さらに、乾燥
の売上のおよそ半分は海外向けとなっ
現在、関連会社を含めると社員は約
させ、含水率や節目の具合等により品
ています。橋本社長は
「私たちのような
200名にのぼり、建材生産設備の他、
質判定をして選別する。その全行程が
オーダーメードのきめ細やかな生産ラ
自動 車 生 産 設 備 、さらに食 品やダン
本社所在地 〒444-1301
愛知県高浜市新田町
五丁目1番地17
関連会社 株式会社ウロコマシナリー
株式会社キョウテク
橋栄工業株式会社
10 JBIC Today 2012 December
(橋本社長)
ま す 」と語る橋 本 社 長 。同 社 の そ の
橋本電機工業の社屋
JBICの関わり
J B I C は 2 0 1 1 年 1 2 月 、ロシア 開 発 対
外 経済銀行(Vnesheconombank、略
称:V E B )との 間 で 、融 資 金 額 2 2 , 9 5 0
千 米ド ル( J B I C 分 )を 限 度 とす る 貸 付
契 約 に調印しました。本融資は株式会社
三 菱 東 京 U F J 銀 行 との 協 調 融 資 によ
るもので、ロシア連 邦 法 人 Amurskaya
Lesopromyshlennaya Kompaniya LLC
社が橋本電機工業より木材加工プラント
機器一式を購入するための資金が、VEBを
通じて供与されました。
真 摯な姿 勢 が 、世 界から注目されて
円高に負けないものづくりを
います。
JBIC Today 2012 December 11
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