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中国という選択: 多国籍企業から見た投資環境

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中国という選択: 多国籍企業から見た投資環境
中国開発フォーラム2013年
調査報告書
中国という選択:
多国籍企業から見た投資環境
協力して共通の課題に
取り組む
世界は歴史的な変革を遂げようとしています。こ
れまでは少数の先進国だけが経済発展の果実を享受
してきましたが、これからは大多数の国々がその恩
恵を受けるようになります。中国、インド、ブラジ
ル、インドネシアなど一部途上国では幅広く中産階
級が出現しており、今後20年のうちに、世界人口の
大半が中産階級化するというすばらしい光景が実現
することでしょう。こうした変化は企業や個人にか
つてない機会をもたらすに違いありませんが、同時
に、多様かつ困難な課題も出てくるでしょう。例え
ば、世界経済の再均衡化、国際秩序の再構築、環境
や天然資源の持続可能性をどう図っていけばいいの
でしょうか。これらの問題を克服するためには、各
国政府、国際組織、民間部門がこれまで以上に広範
かつ効果的な対話と協力を推し進める必要がありま
す。グローバル化の立役者である多国籍企業は、こ
うした対話を進める上でとりわけ重要な役割を果た
しています。
1 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
中国開発フォーラムは、中国国務院発展研究セン
ターによって2000年に創設されて以来、国際的な対
話と協力の場となってきました。このフォーラムは、
「世界と対話し、ともに発展する」ために、異なるさ
まざなまな意見を融合・衝突させ、互いに刺激し合う
知的供宴を提供しようとするものです。私たちは、こ
のフォーラムを通して開放的で創造性に満ちたナレッ
ジパートナーのネットワークを構築してきました。
フォーラムには政府のさまざまな部局、中国企業や外
資系企業、国際機関、学術機関を代表する方々が参加
していますが、その全てがネットワークに欠くことの
できない存在です。数々の分野を代表する皆さまの配
慮と努力のおかげで、ネットワークはより深く、より
強く、より実りあるものになりました。
2012年9月にPwCインターナショナルの会長であ
るDennis Nally氏と会談した際に、中国の投資環境に
対する多国籍企業の期待を理解・評価するための調査
を中国開発フォーラムに代わってPwCに実施しても
らえないかと持ちかけたところ、強い関心を示して
くれました。PwCは、専門のプロジェクト研究チー
ムを立ち上げ、この研究を正式に開始しました。
本報告書は、ナレッジパートナーのネットワーク
がますます深化し、強化されつつあることを示す輝
かしい事例です。多国籍企業227社の最高経営責任
者(CEO)から得た回答に基づく分析に加えて、
11人のCEOとの詳細なインタビューも掲載していま
す。今後の対中投資について世界的多国籍企業がど
ういう展望を抱いているかだけでなく、現在起こり
つつある中国経済モデルの転換がいかに大きなチャ
ンスを生み出しているかも明らかにしています。中
国の投資環境の最適化に対する世界的多国籍企業の
期待は熟慮検討に値します。中国と世界が相互理解
を深め、全ての利害関係者にとって有利な状況をつ
くり出す上で、本報告書は大いに役立つでしょう。
この場を借りて、高いプロ意識を持って本調査を
実施したPwC調査チームならびにその支援を行った中
国発展研究基金会のスタッフに心から感謝の意を表し
ます。中国開発フォーラムのナレッジパートナー間の
協力が拡大し、私たちの研究がさらに深まり、より揺
るぎない関係とより多彩な対話の場が構築され、より
多くの協力の成果が得られることを願います。
Lu Mai
Secretary General
China Development Research Foundation
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
2
序文:
明るい将来
多国籍企業は中国における投資機会をどう見据
え、さらなる機会拡大に向けて中国政府にいかなる
変更を求めているのでしょうか。この疑問に答える
洞察に満ちた調査報告書を公表できることを光栄に
思います。本報告書の作成にあたり中国発展研究基
金会の緊密な協力に感謝の意を表します。
PwCインターナショナルは世界各地にメンバーを
擁し、中国市場に強い興味と関心を持つ著名な組織
であり、私はその会長として、今回の調査結果を格
別の思いで読んでいます。とりわけ、さまざまな業
界のCEOの多くが私と同じように、中国経済の長期
的展望について楽観的な見解を持っていることに力
づけられました。
本報告書が指摘するように、中国への外国投資は
今、決定的瞬間を迎えています。この数十年間にお
ける中国経済の発展はめざましく、今後4年のうちに
購買力平価ベースで見た市場規模で米国を追い抜
き、世界最大の市場になると見込まれています。外
国直接投資の誘致に成功したことが急成長を支える
大きな要因となりました。2012年の対中直接投資額
は1,117億米ドルに上りました。今回の調査結果も
同様に前向きで、中国で事業展開していると答えた
企業のうち70%以上が今後5年間で対中投資を拡大
する予定があると回答しています。
3 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
外国投資の受け手として中国は、利害関係者に相
互に有益な価値を提供することができます。この
先、中国の経済的健全性を増進させる上で、外国直
接投資は引き続き重要な役割を果たすことになるで
しょう。中国がバリューチェーンの上流を目指して
「メイド・イン・チャイナ」から「デザインド・イ
ン・チャイナ」へ、さらには「イノベーティッド・
イン・チャイナ」へと転換する過程で、全ての関係
者に大きな機会がもたらされるでしょう。
しかし、最近の世界経済情勢の変化は、中国が今
後、外国投資を引き付ける上で新たな課題に直面す
ることも示しています。新興市場諸国が先進国に代
わって世界経済の原動力となりつつある中、国際的
な投資家の目はますますこれらの諸国に向けられて
います。インド、ブラジル、トルコに加えて、一部
のアフリカ諸国も有望な外国投資先となっており、
多国籍企業にとって選択肢も増えています。
さらに着目すべきは、中国が最も積極的に外国投
資を誘致しようとしている分野の多くで、外国投資
獲得に向けた競争が激化しているということです。
消費者・産業向け製品・サービスなどの分野では、
中国が引き続き最も成長すると考えられています。
しかし、ブラジルをはじめとするライバル諸国との
差は縮まりつつあり、インタビューに応じてくれた
技術系企業のCEOは、中国よりブラジルの方が成長
の見込みが大きいと考えています。
中国政府は、国内消費の拡大を図り、2020年ま
でに国民一人当たり所得を倍増させ、社会保障を拡
充するためのさまざまな措置を講じるなど、激化す
る競争環境に積極的に対処しようとしています。今
回調査した国際企業の多くは、こうした措置によっ
て投資先としての中国の魅力が高まったと考えてい
ます。
同時にチャンスにもなり得ます。重要なことに、国
際企業は、対中投資が自社にとっても中国にとって
も価値を生み出せるよう、現地企業や政府当局者と
いつでも喜んで連携する用意があることが今回の調
査で確認できました。外国直接投資をめぐる競争は
ますます激しくなりますが、中国の将来は引き続き
明るいです。
投資先としての魅力をさらに高めるために中国政
府はどんな措置をとるべきかという問いに対して
は、「透明性向上と汚職防止」や「経済活動に対す
る政府介入の縮小と民間の競争促進」をはじめ、数
々の要望が寄せられました。
今回の調査に貴重な時間を割き、洞察に満ちた回
答を寄せてくれた世界中のCEO、とりわけ詳細なイ
ンタビューに応じていただいた皆さまに、心から感
謝します。インタビューでのコメントの一部は本報
告書に掲載しています。
もう一つの顕著な動向は、人材獲得競争の激化で
す。中国企業が成熟と拡大を遂げ、海外市場へ進出
する動きも出てくるにつれ、中国に進出している国
際企業は、有能な中国人人材の確保に向けてますま
す熾烈な競争に直面しています。このことは、驚く
ほど高い離職率に如実に表れています。着目すべき
は、インタビューを行った国際企業がこれを中国側
の問題ではなく自らの問題と捉え、国際的に活躍す
る機会を提供するなど、現地の有能な人材を獲得、
開発、維持するための方策を自ら見出す必要がある
と考えていることです。
Dennis M. Nally
Chairman
PricewaterhouseCoopers International Ltd.
このほかにも、中国が投資先としての魅力を高め
る余地があります。例えば、比較的小規模な企業
(事業展開先が5カ国未満の企業)で中国に進出して
いるのは10%未満にとどまっています。中国がより
知識主導型の経済に移行すれば、現時点ではあまり
進出していない小規模な外資系技術専門会社の投資
を獲得できる可能性があります。さらに、外国企業
に対する投資規制を緩和することによって、対外進
出する中国企業と対中投資をする多国籍企業の双方
に開かれた市場を提供し、相互に有益な状況を導き
出すことができるでしょう。
全般的に見て明らかなのは、世界最大の外国直接
投資先としての中国の地位はますます大きな競争に
さらされているということです。しかし、中国には
恵まれた条件を利用する能力があり、その能力を
もってすれば、こうした競争の激化は脅威であると
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
4
5 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
目次
対中投資環境を再定義する:
今後30年を見据えて............................................................................................ 7
CEOの見解............................................................................................................... 9
投資先No.1........................................................................................................... 11
多国籍企業は変化の意味を捉えきれていない........................................ 18
多国籍企業はより高い透明性を求めている............................................ 21
知的財産権に関する懸念................................................................................ 24
新産業の台頭で激化する人材獲得競争..................................................... 26
中西部も射程内に.............................................................................................. 28
本社の立地は市場規模を反映していない................................................. 29
長期的繁栄に向けて.......................................................................................... 30
調査方法................................................................................................................ 3 1
調査協力者............................................................................................................ 32
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
6
対中投資環境を再定義する:
今後30年を見据えて
中国は重要な発展段階に入った。中産階級の拡大と消費主導型経済への転換を受
け、多くの外国企業が中国における事業展開のあり方を再検討している。この大きな
チャンスを活かすため、中国も外資系企業も新たな現実に適応しようと同じ道を歩い
ている。相互の信頼と協力関係に支えられた新たな連携のあり方を見出すことができ
れば、持続可能な将来を実現することができる。
一世代前、中国の改革主義者たちは国際社会に向き合うことを決意した。その結果
どうなったか。過去30年間における中国の経済発展に匹敵する成功をおさめた国は、
近代の歴史にほとんど例を見ない。
外資系企業と中国の転換
外資系多国籍企業が事業拡大を目指し
て中国で投資を行うと、それは同時に中
国の経済発展にも大きく寄与し、結果と
して相互に有益な状況を生み出してき
た。外資系企業は、資本や技術や経営ノ
ウハウを提供するだけでなく、現地の人
材を育成することで中国産業の近代化を
助け、雇用面でも大きく貢献した1。
外資系企業が長期的な事業の持続可能
性を志向していることは、中国企業との
競争や提携に対する前向きな姿勢にも見
て取れる。競争によって、例えばHaierの
ような現地企業はビジネス手法の改善を
迫られ、より効率的な企業に生まれ変
わった。また、Lenovo、ZTE、Huaweiと
いった世界に通用するブランドも生ま
れた。
中国企業は、世界的多国籍企業の技術
的専門知識、基準や最良の経営手法、顧
客サービス能力を活かして中国内外で増
加する中産階級のニーズに応えることも
できる。より重要なのは、外国企業は中
国国内の人材開発を助け、中国における
イノベーション文化の構築に大きく貢献
するということである。
最適な投資を誘致するには、政府と企
業の信頼・協力関係の構築が重要であ
る。研究開発への民間の関与が高まれ
ば、中国に潜在するイノベーション能力
が解き放たれるかもしれない。技術移
転、法の支配、知的財産権関連の法執行
に関する懸念を軽減することで、そのよ
うな環境が生まれ、より多くの中国発の
イノベーションが促されるだろう。
「2015年までに15車種の新車を
中国市場に投入する。中国におけ
る販売力と生産力をともに倍増さ
せる。その過程で、優良な雇用や
キャリア形成機会を創出し、私た
ちが事業を行う地域の重要な一員
となる。これは、100年以上前に
Henry Fordが唱えた理念で、その
理念を今日の中国に伝えられるこ
とを誇りに思う」
Alan Mulally
Ford Motor Company社長兼CEO
“China 2012 FDI inflows slow, stay on track for $100 billion.”(2012年11月19日付けロイター)
1
7 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
「中国共産党第18回全国代表大会で示された野心的な経済計画は、繁
栄をもたらす手段としてさらなる都市化を進めると述べている。IBM
は、より効率的かつ安全で環境にやさしいスマーターシティの構築に
向けて、中国の地方政府当局と緊密に協力していることを誇りに思
う」
Virginia M. Rometty
IBM Corporation 会長・社長兼最高経営責任者
General Electric(GE)やBoeingを含む
インタビュー回答企業の多くは、中国で
事業を構築し、中国側の提携先企業の成
長と国際市場での競争を支援する上で、
連携協力がいかに重要かを強調した。実
際、GEやBoeingのような多国籍企業との
技術協力は、Commercial Aircraft Corporation of China(Comac)の成長に大きな
役割を果たした。同社は、長年にわたっ
て本格的な新規参入が途絶えていた世界
の商用航空機市場への参入を果たした。
しかし、中国は現在、国内消費拡大に
よる経済の多角化と強化を目指した経済
構造転換のさなかにあり、「イノベー
ション主導型経済」の構築に向けて、技
術的進歩による国内総生産(GDP)成長
率への寄与度を高めようとしている。つ
まり、中国は過去30年間にわたり外国投
資をテコに経済力と潜在力を大幅に拡大
させてきたが、ここへきて、新たな課題
が出てきたということである。今後、外
国投資を経済転換に資する方向に誘導
し、相互に有益な結果をもたらすにはど
うすればいいかという問題である。
2
バリューチェーンの上流へ
2012年3月に中国を公式訪問した経済
協力開発機構(OECD)のAngel Gurría事
務総長は、「中国の最重要課題はバ
リューチェーンの上流に向かって進み続
けることである」と述べた。中国がイノ
ベーション力を高め、知識主導型経済に
移行するにつれ、外国投資および外資系
企業はその過程でどういう役割を果たす
のだろうか。外国との競争や協力が世界
市場における中国の競争力を高め、次世
代技術の開発や開拓に貢献し得ることが
研究で明らかになっている。ある研究
は、外国資本であることが外国からの技
術移転の最も重要な要因であり、それが
巡り巡って、中国企業の全要素生産性
(長期的な技術力の尺度)の上昇をもた
らすと示唆している2。
中国では、外国投資の誘致のあり方や
位置付けが大きく変わろうとしている。そ
して、その将来を形づくる上で決定的に重
要な役割を果たすのは、ほかならぬ投資な
のである。ここで検討すべき重要な問題が
いくつかある。どうすれば中国は外国投資
環境を最適化できるのか。どうすれば相互
に有益な結果をもたらしつつ、中国の経済
転換に資する方向に外国投資を誘導するこ
とができるのか。最も優秀な人材を引き寄
せ、開発するためにはどんな投資が必要な
のか。研究開発やイノベーションへの投資
は、どのように中国をバリューチェーンの
上流に押し上げることができるのか。今回
の調査がこうした問題の答えを見出す助け
となればと思う。
本報告書を作成するために私たちが調
査・インタビューしたCEOは、改革は正し
い方向に向かっていると述べている。現時
点で重要なのは、中国が長期的繁栄に向け
て着実に進むよう、政府と外国企業の間に
相互信頼と誠実さに基づく関係を構築する
ことである。
Xu, Bin. “Foreign Competition and Productivity of Chinese Firms.” Shanghai: China Europe International Business School and
University of Florida, 2003.
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
8
CEOの見解
中国経済の強みは、安い労働力から拡大する中産階級へ、「メイド・イン・チャイ
ナ」から「デザインド・イン・チャイナ」へと移りつつあり、それとともに、外国企
業にとっての機会と課題の性格も変わりつつある。
既に中国に進出している企業は、中国経済の転換によってもたらされる機会を素早
く捉え、活用しようとしている。この新たな成長の軸足は、比較的小規模のハイテク
企業が参入する新たな機会も生み出すかもしれない。しかし、労働コストが高まるこ
とで、分野によっては外国企業にとって中国で生産を続けることが困難になるかもし
れない。また、バリューチェーンの上流に向かうということは、技術移転や知的財産
権の保護をめぐる問題が起きやすくなる可能性もある。
本報告書のために実施したCEO意識調査では、インド、ブラジル、米国も含むさま
ざまな市場の中で、中国が最も大きな成長性を見込める市場と見なされていることが
確認された(11ページ参照)。しかし、国際投資誘致をめぐる競争は激しく、とりわ
け中国が成長の目玉と位置付けているハイテク部門において、その傾向は顕著であ
る。今回の調査では、中国が世界中からの投資を最大限活用するために解決すべき数
々の障壁や問題点も明らかになった。
投資環境のさらなる改善のために中国政府ができることは何かという問いに対し
て、一番多かった回答は「透明性向上と汚職防止」で、「経済活動に対する政府介入
の縮小と民間の競争促進」がこれに続いた(詳細については21ページ参照)。
本報告書の内容を踏まえると、これらの点が中国にとってさらなる繁栄の足がかり
となる大きな強みであり機会であるとともに、今後、外国投資の誘致と商業的発展を
推し進めるために対処すべき課題であり潜在的脅威であると考えられる。
9 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
強み
弱み
• 中国の新指導部が「改革開放の深化」の継続を約束
• 技術移転および知的財産権保護に関する懸念
• 世界最大の経済国に向けた着実な歩み
• 自由化の速度に関する懸念
• 特に消費者・産業向け製品・サービス分野において外国企
業にとって最も有望な投資先
• 目標設定や契約発注などにおける不透明性
• 力強い国内需要があり、将来的にさらに拡大する見込み
• 研究開発投資が加速(R&D)
• 事業の許認可や労働許可などの手続きの非効率性
• 国内企業優先主義
• 説明責任の強化と透明性の向上を図ることが競争問題の克
服を促し、外国企業も事業計画を立てやすくなる
• 特に成長の目玉と位置付けられる分野において、中国以外
の急成長市場との外国投資誘致競争が激化
• 強制的技術移転を段階的に廃止し、合弁事業が独自に提携
関係を構築できるようにすれば、相互の信頼が高まり、さ
らなる投資を呼び込むことができる
• 知的財産権保護に関する懸念から、ハイテク企業が対中投
資を躊躇するおそれがある
• 中国法人を設立し、現地人材を雇用している多国籍企業に
中国企業と同等の地位と市場アクセスを与えれば、多国籍
企業の中国市場に対するコミットメントが高まる
• 中国が対内投資のさらなる自由化を進めないと、中国企業
の対外投資が制限されるおそれがある
• 「外商投資産業指導目録」に定められる条件を緩和すれ
ば、政策上および商業上の自由度が増し、対外進出する中
国企業と対中投資を行う多国籍企業がともに開かれた市場
へのアクセスを得られる
機会
脅威
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
10
投資先No.1
中国は引き続き世界で最も有望な投資先と見なされて
いる。しかし、そのほかの主要国の追い上げも激し
く、とりわけ中国が成長の目玉と位置付けている重要
分野で競争が激化している。
投資先として目指す
成長市場
図1
次に示す主要市場のうち投資先を三つ選ぶとすると、どこを選ぶか。
19%
ロシア
25%
56%
37%
トルコ
中国
インド
11%
南アフリカ
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:全回答者227名)
注:各回答者が複数の投資先を選択したので数値を足し合わせると100%を超過する。
11 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
12%
インドネシア
Boeing ChinaのMarc Allen総裁は、
「近年、『中国で勝てなければ、勝った
ことにならない』というのが米企業の圧
倒的大多数のほぼ常識となっている」と
の見解を示した。
Allen氏のコメントは、グローバルビジ
ネスにおいて中国がいかに重要かを反映
している。中国は最も成長が期待される
「Ford Motor Companyにとって、
中国はきわめて重要な市場であ
る。多くの第三者機関は、2015
年までに、中国の自動車販売台数
が年間2800万台に達し、米州と
欧州を抜いて世界最大の自動車市
場になると予測している。中国の
顧客にすばらしい車を提供できる
よう、提携先と協力して、市場に
おける位置付けを確保することが
当社の将来にとって重要と考えて
いる」
34%
26%
市場と見なされており(図1参照)、調査
協力者の80%超が2013年の中国におけ
る収益が増加すると見込んでいる。PwC
第16回世界CEO意識調査でも中国は依然
として最も大きな事業拡大が見込める国
と見なされており、今回の調査結果もこ
れに呼応している3。
Alan Mulally,
Ford Motor Company 社長兼CEO
米国
メキシコ
52%
ブラジル
3
PwC第16回世界CEO意識調査「不測の事態を乗り越える―生き残りと成長のための適応」(2013年)
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
12
地域別対中投資
今回の調査によると、対中投資を行っ
ている確率は北米企業が最も高い(図2参
照)。
図2
対中投資に関するCEOの回答(地域別)
アフリカ(21)
Jean Lemierre,
BNP Paribas会長
特別顧問/元欧州復興開発銀行
(European Bank for Reconstruction
and Development)総裁
86%
アジア太平洋(23)
39%
61%
中東欧(10)
40%
60%
中南米(55)
40%
60%
同様に、中国の将来性に対する信頼度
も北米企業が最も大きくなっている(北
米企業の回答者のうち80%超が中国を三
大投資先の一つに挙げている)。ただ
し、北米以外の各地域(中東を除く)で
も、少なくとも回答者の40%が投資先と
して中国を想定している(図3参照)。
「中国の投資条件は総じて良好で
ある。経済成長率は依然として高
く、外国投資額が高い水準にある
ことからもわかるように、中国は
ほかの国々に対して競争優位を維
持している」
14%
100%
中東(6)
57%
北米(28)
43%
43%
西欧(84)
57%
対中投資を行っている
対中投資を行っていない
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:全回答者227名)
注:上記グラフの数値は小数点以下を四捨五入しており、合計すると101%または99%になる場合がある。
図3
最も大きな事業成長が見込める三大投資先市場の一つに中国を選んだ回答者の割合
52%
82%
70%
65%
55%
45%
17%
アフリカ
(21)
アジア太平洋
(23)
中東欧
(10)
中南米
(55)
中東
(6)
北米
(28)
西欧
(84)
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:全回答者227名)
成長戦略
成長戦略としては、提携、合弁事業、
ライセンス生産のような協調重視の有機
的アプローチが多くの企業にとって重要
と思われるが、図4に示すように、事業の
合併・買収(M&A)と未開発地域開発が
最も支持されている(それぞれ回答者の
成長戦略40%超が選択)。中国企業を対
象とする買収(額面ベース)は過去最高
だった2011年に比べて2012年は下落し
たものの、2013年は再び上昇に転じると
見込まれている4。
中国で事業展開していると答えた回答
者に今後5年間に対中投資の規模を変更す
る予定があるか尋ねたところ、70%超が
引き上げる予定があると答えた(図5参
照)。
図4
現時点における中国での主要成長戦略モデルを次のの選択肢の中から三つ選ぶとすると、どれ
か。今後5年間を想定した場合はどうか。
有機的成長モデル
44%
44%
未開発地域
未開発地域
への投資
への投資
28%
28%
38%
38%
設備拡張
設備拡張
販売ライセンス/
販売ライセンス/
フランチャイズ
フランチャイズ
非有機的成長モデル
51%
51%
38%
38%
合併
合併
・
・
買収
買収
43%
43%
11%
11%
合弁事業
合弁事業
戦略的提携
戦略的提携
22%
22%
30%
30%
新製品の
新製品の
研究開発
研究開発
34%
34%
今後5年間
今後5年間
現在
現在
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:中国に投資していると答えた回答者90名)
PwC M&A 2012 Review and 2013 Outlook(2013年1月)
4
13 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
38%
38%
36%
36%
37%
37%
26%
26%
図5
投資計画
今後5年間に対中投資の規模を変更する予定があると答えたCEO
29%
23%
16%
12%
12%
7%
1%
引き下げ
26%‒50%
変更なし
0%
引き上げ
1%̶25%
引き上げ
26%̶50%
引き上げ
51%̶75%
引き上げ
75%超
わからない
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:中国に投資していると答えた回答者90名)
しかし、今回の調査では、多国籍企業
が最良の投資機会を求めて、世界的資源
配分の再検討をどの程度行っているかも
明らかになった。それぞれが目指す三大
市場に投資資金をどう振り分けるかを尋
ねたところ、中国を三大市場の一つに挙
げた回答者の30%超が投資資金の半分以
上を中国に投じる(10単位の投資資金の
うち5単位以上を配分) 5という心強い結
果が得られた(図6参照)。しかし、ほと
んどの回答者はもっと幅広い資金配分を
図7が示すように、対中投資に振り分
ける資金の割合はブラジルやインドより
高いものの米国より低くなっている。
図6
対中投資に
振り分ける資金
三大投資先市場に振り分ける投資資金が10単位あるとすると、そのうち何単位を中国に投資す
るか
26%
27%
23%
12%
8%
2%
2%
1
想定しており、ほかの投資先との競争が
高まっていることが明らかになった。
2
3
4
5
6
7
1%
8
9
10
資金単位数
資金単位数
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:三大投資先市場の一つとして中国を挙げた回答者128名)
回答者に仮想資金10単位を各自が選んだ三大投資先市場に振り分けてもらった。
5
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
14
図7
世界市場における
投資資金の配分
CEOは投資資金10単位を世界中の市場にどう振り分けるか
資金単位数
国
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
米国(78)
3%
13%
21%
24%
21%
9%
4%
1%
1%
4%
4.31
中国(128)
2%
12%
26%
27%
23%
8%
2%
0%
0%
1%
3.95
メキシコ(58)
7%
23%
23%
26%
14%
4%
2%
0%
0%
2%
3.47
ブラジル(119)
7%
24%
29%
21%
13%
3%
2%
0%
0%
1%
3.34
南アフリカ(26)
8%
19%
46%
15%
8%
0%
4%
0%
0%
0%
3.12
インドネシア(28)
0%
39%
36%
7%
18%
0%
0%
0%
0%
0%
3.04
トルコ(56)
0%
43%
27%
20%
9%
2%
0%
0%
0%
0%
3.00
ロシア(43)
5%
26%
42%
23%
5%
0%
0%
0%
0%
0%
2.98
インド(84)
4%
32%
42%
19%
2%
1%
0%
0%
0%
0%
2.88
0%
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:少なくとも1単位の投資資金を振り分けた回答者を母数とし、具体的な数は国により異なる)
15 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
平均
50%
技術系企業はブラジルを目指す
業種別投資先市場
投資誘致競争の激しさはブラジルの躍進によっても示されている。ブラジルは成長
見込みで中国に次ぐ2位につけている(図1参照)。中国は、充実した製造拠点として
の特徴を反映して、消費者・産業用製品・サービス分野の企業にとって最も大きな成
長を見込める投資先と見なされている(図8参照)。しかし、技術および金融サービス
分野ではブラジルを投資先に挙げる企業の方が多く、この二つの分野への投資誘致で
中国が課題に直面していることを示している。
図8
各業種のCEOが選んだ四大成長市場
58%
48%
中国
ブラジル
80%
55%
37% 37%
インド
米国
64%
48%
33% 33%
中国
ブラジル
インド
トルコ
40%
中国
ブラジル
28%
インド
消費者・産業用製品・サービス
金融サービス
技術・情報通信・娯楽
対象:全回答者(158名)
対象:全回答者(42名)
対象:全回答者(25名)
米国
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:消費者・産業用製品・サービス、金融サービス、技術・情報通信・娯楽の各分野からの回答者
合計225名)
「Dow Corningが中国で事業展開
するのは、中国の顧客をサポート
するため、そして、当社が有する
専門知識と技術とイノベーション
力が中国経済を方向づけようとし
ている動向や中国政府の優先課題
に合致しているからである」
Jeremy Burks、Dow Corning
グレーターチャイナ担当社長
6
中国が成長の目玉と位置付ける分野を
強化する上で課題に直面していること
は、その多くが既に世界中で貿易摩擦や
保護主義的措置の原因となっていること
からも明らかである。航空機、電子、再
生可能エネルギーもその中に含まれる。
具体的な摩擦の事例としては、米国で中
国企業による米国企業の買収が阻止され
たケースがある。欧州連合(EU)は総じ
て米国より開放的と見られているが、中
国企業の対EU投資について中国欧州連合
商工会議所(European Union Cham ber of
Commerce in China)が最近とりまとめ
た報告書は、新たな規制に対する懸念が
中国企業の間で高まっていると指摘して
いる。例えば、EU企業が中国で障壁に直
面した場合、中国企業によるEU域内での
買収や事業活動に対して報復措置がとら
れるのではないかといった懸念である6。
世界経済の相互関連と相互依存がかつ
てないほど深まる中、中国企業が海外で
事業活動を行いやすくするために中国国
内で外国企業による自由な事業活動を認
めることは、ますます重要になってい
る。GEチャイナのMark Hutchinson社長兼
CEOは、「多国籍企業の中国での成功を支
援することは中国にとって重要」と述べ
ている。
中国欧州連合商工会議所(European Union Chamber of Commerce in China)、「Chinese Outbound Investment in the European Union (中国
の対EU投資)」(2013年1月)。
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
16
投資と成長を呼び込む要因
国内需要が最大の投資呼び込み要因
投資を引き寄せるさまざまな要因につ
いて、中国はほかの主要市場に比べてど
ういう状況にあるのだろうか。図9は、多
国籍企業が投資と事業拡大を目指す対象
として特定の国を選ぶ理由を示したもの
である。中国は、拡大する国内需要(回
答者の34%が選択)が最大の魅力となっ
ている。ただし、この理由を挙げた回答
者の割合はブラジル(同81%)の方がは
るかに高い。
図9
投資先を選ぶ際に最も大きな決定要因となったのはどの要因か?
中国
(128)
ブラジル
(119)
インド (84)
米国
(78)
メキシコ
(58)
トルコ
(56)
ロシア
(43)
インド
ネシア
(28)
南アフ
リカ (26)
拡大する国内市場および需要
34%
81%
46%
23%
29%
23%
60%
39%
38%
現地企業と対等の競争条件
30%
24%
23%
28%
26%
30%
19%
32%
15%
政府による優遇措置
27%
22%
18%
27%
31%
25%
16%
21%
31%
優れた技能人材
27%
18%
35%
27%
26%
21%
23%
18%
38%
安い労働力
26%
18%
48%
24%
21%
23%
21%
25%
19%
有利な税制
22%
5%
23%
28%
22%
20%
12%
21%
23%
品質力とコスト力に優れたサプライヤー
21%
18%
11%
31%
22%
29%
16%
11%
31%
サプライチェーンの近接
20%
20%
14%
22%
19%
25%
26%
14%
15%
高度なインフラ
20%
11%
12%
23%
22%
25%
14%
18%
12%
官僚主義や規制の少なさ
17%
6%
11%
22%
31%
23%
9%
14%
23%
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:回答者227名)
投資資金の配分で見るとインドの順位
は低いが(図7参照)、投資先に選ぶ理由
として拡大する国内需要を挙げた回答者の
割合は、中国よりもインドの方が高くなっ
ている。高付加価値分野への投資を呼び込
むには優れた技能人材の存在が重要になる
が、この点においても、インドの方が勝っ
ていると回答者は見ている。
もちろん、こうした比較をそのまま鵜
呑みにすることはできない。中国はインド
やブラジルに比べてはるかに大きな市場で
ある。発展段階も異なる。中国がこれまで
の輸出・投資主導の拡大と消費主導の成長
のバランスをとろうとしているのに対し
て、インドとブラジルは違う方向を目指し
ている。さらに、中国はインドやブラジル
17 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
0%
100%
より幅広い理由で投資先に選ばれてお
り、投資家にとっての魅力が比較的均一
に広がっていることがうかがえる。
とはいえ、この比較が示しているの
は、中国が多国籍企業に多くの魅力を提
供する一方、多くの重要分野における魅
力がやや欠けており、改善すべき余地が
あるかもしれないということである。こ
うした分野で明らかな改善が見られない
場合、中国はほかの市場の後塵を拝する
ことにもなりかねない。とりわけ、成長
の目玉と位置付けられている分野におい
てそうなる可能性がある。
多国籍企業は変化の意味を
捉えきれていない
多国籍企業は消費市場の拡大が生み出す可能
性を認識しているが、この成長を持続するため
に必要な所得上昇が何を意味するかについては
十分理解していないかもしれない。さらに、
イノベーション主導型経済への移行によっても
たらされる機会に対する注目は驚くほど低いよ
うだ。
中国共産党第18回全国代表大会で提示された政策の中で自社の
事業に最も大きな影響を与えると思われるものを三つ選んでもら
ったところ、内需拡大がトップだった(図10参照)。これは前章
で示したように国際的企業グループが投資先として中国を選ぶ理
由を反映している。中国の消費拡大は世界の経済成長にとっても
きわめて重要な要素となっている。
「当社は、成長が見込まれ、かつ、当社の事
業を行う上で予測可能な安定した条件がある
ところに投資する。公正で透明性が高く自由
な事業環境と知的財産権の十分な保護もきわ
めて重要な要素である。さらに、熟練労働力
の存在、インフラの質、開かれた市場、貿易
振興も検討する」
Peter Löscher、Siemens AG 社長兼CEO/ド
イツ財界アジア太平洋委員会会長
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
18
政府重要政策の
影響
図10
中国共産党第18回全国代表大会で示された重要政策分野でCEOが重視するもの
消費を中心とする
内需拡大による経済発展
金融改革の深化、外国為替管理と
金利政策の着実な自由化
2020年までに国民
一人当たり所得倍増
(都市部および農村部)
48%
43%
41%
発展を妨げる組織的障壁
除去に向けた取り組み
高度製造業、近代的サービス業、主要
新興産業の持続可能な発展、
従来型産業の転換
単位当たり炭素排出
量と主要な汚染物質
排出量の削減
32%
26%
18%
イノベーション主導型経済構築に向
けて、技術的進歩による
GDP成長率への寄与度引き上げ
18%
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:回答者227名)
19 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
「GEが中国に進出してからかなりの時が経過した。生産コストを安くあ
げることが当初の目的だったが、そのうち『どうすれば中国市場に食い
込めるか』を考えるようになった。さらに進んで第3段階は、『どうすれ
ば中国発のイノベーションを実現できるか』が課題となる。今、私たち
はまさしくそのイノベーションの段階にある」
Mark Hutchinson、General Electric China 社長兼CEO
現在進行中の金融改革によって広がる
ビジネスの可能性も認識されている。主
な動きとしては、人民元の国際化や金利
規制の緩和が挙げられる。外国銀行の市
場シェアは2%に満たない状況である
が、2011年の利益は過去最高となっ
た7。経済体制の移行によって、さまざま
な金融商品・サービスの提供が可能にな
り、外国の金融機関は商品設計やリスク
管理に関する知識を持ちこみ、成果を得
られるようになる。
軽視されている技術機会
安い労働力が第1次外国投資ブームを
呼び込んだ主要な要因の一つだったとす
ると、今後その機会はどんどん少なくな
るだろう。中国政府はバリューチェーン
の上流を目指し、2020年までに所得を倍
増(図10で3番目に影響が大きいとされ
た政策)させようとしているからであ
る。しかし、こうしたコストの変化は十
分に認識されていないかもしれない。今
回の調査によると、安い労働力が依然と
して中国に投資する主要な理由となって
おり、この点については、唯一インドの
みが中国より有利と見なされている。
バリューチェーンの上流を目指した取
り組みや環境にやさしい開発へのコミッ
トメントは、専門知識・技術を持ち込
み、新たな投資ブームを生み出す機会で
あるにもかかわらず、安い労働力に比べ
てはるかに小さい影響しかもたらさない
と考えられている。技術・情報通信・娯
楽分野の企業に限ってみても、イノベー
ション主導型経済への動きが事業に大き
な影響を及ぼすと答えた回答者は30%に
満たなかった。直近のPwC世界CEO意識
調査の結果も同様で、中国を投資先・成
長市場と見なしているCEOのうち現地に
おけるイノベーション力や研究開発力の
増強を重視していると答えた回答者はわ
「中国はいずれ資本市場の抜本的
な改革を行い、企業がこの市場を
さらに活用できるようにしなけれ
ばならなくなるだろう。そしてそ
のために、中国資本市場を構築す
るにあたって私たちの技能が役立
つのではないかと思う」
Jean Lemierre、BNP Paribas会
長特別顧問/元欧州復興開発銀行
総裁
ずか19%だった8。インドや米国の同比率
は、はるかに高い。
外国企業は中国における貴重な機会を
見逃しているのだろうか。外国企業の意
欲を鈍らせる障壁があるのだろうか。後
述するように、本調査報告の回答者が指
摘した懸念に、知的財産権保護や規制の
透明性・方向性に関するものが含ま
れる。
「中国が直面する課題は、全ての
利害関係者に恩恵をもたらすよう
なバランスのとれた成長モデルを
いかに維持していくかということ
である。ますます相互連結が深ま
る中、世界の安定に向けてより大
きな役割を果たすとともに、所得
格差の問題を解決することが重要
である」
Claudio facchin、ABB Group上
級副社長/北アジア地域担当社
長/ABB China Ltd. 会長兼社長
政策当局は、イノベーションや環境に
配慮した開発への取り組みによってビジ
ネスが広がる可能性を示し、関心を呼び
起こす手立てを考えるべきである。これ
までの外国企業誘致は、多額の資金と広
範な輸出先をもたらす大企業を優遇する
傾向があった。今回の調査でも、比較的
小規模(事業展開先が5カ国未満)で中国
に進出している企業の少なさ(10%未
満)が際立った。知識主導型経済に移行
するにつれ、現時点ではあまり進出して
いない小規模な外資系技術専門会社の存
在が重要になるだろう。
「西欧人は何か勘違いしている
のではないだろうか。というの
も、何が起きているか理解して
いるとは思えないからだ。第12
次五カ年計画が発表されて約2年
になるが、より質の高いゆるや
かな成長を目指すことが謳われ
ているという事実に、私たちは
ようやく気づいたばかりなので
ある」
Sir Martin Sorrell卿、WPP最高
経営責任者
PwC「中国における外資系銀行」(2012年7月)
PwC第16回世界CEO意識調査「不測の事態を乗り越える―生き残りと成長のための適応」(2013年)
7
8
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
20
多国籍企業はより高い透明
性を求めている
調査回答者は、中国が投資潜在力を最大化する
ためには、規制および競争環境に関する数々の
問題を解決する必要があると考えている。
政府重要政策の影響
投資環境のさらなる改善のために中国政府ができることは何かという問いに対し
て、一番多かった回答は「透明性向上と汚職防止」で、ほかの回答を大きく上回った
(図11参照)。これに続いて多かったのは、「経済活動に対する政府介入の縮小と民
間の競争促進」だった。業種別でも全体の結果とほぼ同様の結果が得られたが、技
術・情報通信・娯楽分野の企業については、特に、競争環境と市場の開放性を重視す
る傾向が見られた。
図11
中国政府が重点を置くべきとCEOが考える政策
透明性向上と汚職防止
経済活動に対する政府介入
の縮小と民間の競争促進
73%
53%
国内消費と内需
の拡大
28%
イノベーション
力や起業力の
開発を促す環境
整備
26%
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:回答者227名)
21 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
資本市場改革の
加速
30%
中国進出を
促す優遇措置の
拡充
22%
透明性の向上は、市場全体で対等に競
争できる環境をつくるために必要不可欠
な要素と見られている。とりわけ、政府
契約の受注者決定や経済計画・目標の設
定における透明性向上が求められて
いる。
規制動向
さらなる外国投資を呼び込み、外国の
投資家や企業にとって快適な環境を整備
するために、中国当局は「知識とイノ
ベーションを重要な社会的価値と位置付
け、革新者や発明者の努力を認め、透明
性を高めることによって知的財産権を効
果的に保護し、特許の数よりもイノベー
ションの質を重視すべきである」と、
Siemens AGの社長兼CEOであるPeter
Löscher氏は述べている。
インタビューで繰り返し話題に上るの
は、より迅速かつ効率的で開かれた許認
可手続きの必要性である。外国企業が事
業展開する上でどういう障壁があり、ど
うすればその障壁を克服することができ
るか尋ねたところ、Dow Corningのグレー
ターチャイナ担当社長のJeremy Burks氏
は、「活気に満ちた事業環境にしたいの
であれば、企業が機会をすかさず捉えら
れるようにしなければならない。『今あ
るライセンスでこの事業を行うことはで
きないし、新しいライセンスを申請する
には6カ月待たなければならない』と言わ
せてしまってはならない。こういうとこ
ろで多くの機会が逸されている」と述
べた。
改革の速度に関する懸念
調査では、改革の速度に関する懸念も明らかになった。回答者の多くは、規制環境
がこの3年間ほとんど変わっていないと考えている(図12参照)。
図12
次のの主要分野における中国の規制環境は過去3年間でどうなったか(改善、悪化、変わらない)
悪化
資本市場規制
外国投資規制
外国為替管理
税財政
知的財産制度とその執行
変わらない
4%
45%
10%
7%
28%
42%
16%
23%
21%
22%
52%
44%
わからない
23%
25%
50%
7%
改善
11%
14%
30%
26%
出典:PwC世界CEOパネル調査(回答者数227名)
「装置化と相互連結化と知的高度化が急速に進む世界では、いかなる
国の経済も、相互の交流と協力なくして成功はあり得ない。だからこ
そ、イノベーションがさえぎられることなく自由に国境を超えられる
よう、先進国か途上国かを問わず、全ての国の政府に対して協力を呼
びかけている」
Virginia M. Rometty、IBM Corporation会長・社長兼最高経営責任者
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
22
特に懸念されているのは「外商投資産
業指導目録」である。これは、どういう
事業活動が奨励され、どういう事業活動
が制限もしくは禁止されるかを示したも
ので、多くの業種において公正な競争を
妨げる障壁と見られている。ある特定の
政策について、インタビューに応じた数
名の回答者は、中国が国際的に競争する
のを困難にしていると指摘している。
規制当局の変化を認識する
しかし、一部の回答者は、規制当局や
政策担当者の態度が変わりつつあると感
じている。特に、イノベーション政策に
ついて、General Electric Chinaの社長兼
CEOであるMark Hutchinson氏は、「かつ
てに比べて彼ら(政策担当者)はかなり
開放的になった。態度も率直で、『多国
籍企業も(現地企業と同じように)必
要』と考え、その考えを実践している」
との認識を示した。
「私は中国モデルを大いに評価している。確かに、多くの問
題や課題がある。しかし、中国の制度の中で事業活動を行う
すべを学び、内側からその制度を変えようと努力すれば、前
に進むことができる。中国人は聞く耳を持っている。辛抱強
く耳を傾け、そして学ぶ。これは、彼らの大きな強みであ
り、私たち西欧人がどこかへ忘れてきた強みだ」
Sir Martin Sorrell、Chief Executive, WPP
改革への意気込みは最近発表された政
府活動報告にもうかがえる9。同報告は、
改革開放が中国の発展と進歩をもたらす
原動力であるとした上で、税財政制度の
改革の迅速化を図り、金融制度改革をさ
らに推し進める必要があると指摘して
いる。
2013年3月5日に北京で開催された第12回全国人民代表大会第1回会議で発表。
9
23 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
知的財産権に関する懸念
中国がバリューチェーンの上流を目指し、真の創造性
とイノベーション力を発揮するためには、技術移転や
知的財産権保護に関する懸念を払拭する必要がある。
知的財産権に関する法制とその執行状況が改善したと考えている回答者
はほんの一握り(14%)にとどまっている。エコノミスト・インテリジェ
ンス・ユニット(EIU:Economist Intelligence Unit)が2011年に実施した
調査によると、市場へのアクセスと引き換えに知的財産権を放棄すること
が求められる可能性について「懸念している(concerned)」または「非
常に懸念している(very concerned)」と答えた回答者が全体の50%近く
に上った10。こうした懸念は、直近のPwC世界CEO意識調査で、中国を投資
先と考えているビジネスリーダーで同国におけるイノベーション機能を強
化しようとしている割合がわずか19%にとどまっている理由かもしれな
い11。
「私は中国の大ファンで、この20年間で彼らは驚くべき偉業を成し
遂げたと思っている。しかし、法の支配の確立は、中国が真の創造性
とイノベーション力を発揮するために対処すべき最も重要な課題であ
る。これは、中国が中産階級の罠にとらわれたままになるのか、それ
とも韓国のようになるのかを決定づけることになる」
Mark Hutchinson、General Electric China社長兼CEO
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)、“Multinational companies in China: What future?(2011年12月)
PwC第16回世界CEO意識調査「不測の事態を乗り越える―生き残りと成長のための適応ー」(2013年)
10
11
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
24
Eurasia Group社長のIan Bremmer氏
は、中国で効果的な知的財産権保護が行
われないままだと中国企業の海外進出に
支障が出るおそれがあると指摘する。よ
り効果的な保護を行えば、外国企業との
より緊密な提携が促され、重要部門にお
ける長期的投資と成長が持続し、中国が
新たな市場に進出するにつれて必要な専
門知識も進歩するというのがBremmer氏
の考えだ。「より属人的な技能、すなわ
ち、組織経営について語ることが増え、
企業統治についてトップレベルで話し合
うようになった。商品確保のためになじ
みのない、場合によっては不安定な市場
に入っていく必要が出てくるので、今
後、カントリーリスクの分析も重要に
なってくる」と言う。
知的財産権に関する懸念については、
上海米国商工会議所(American Chamber
of Commerce in Shanghai)の「China
Business Report 2012-2013」も重要課題
として指摘し、次のように述べている。
「長きにわたり懸案となっている知的財
産権の執行と保護をめぐる諸問題は、引
き続き、中国で事業活動を行う米国企業
の妨げとなっている。2012年の調査で、
知的財産権の保護が自社の事業活動に
とって『決定的に重要(critically important)』または『とても重要(very important)』と答えた企業の割合は70%に増
えた。また、今回の調査結果では、知的
財産権の執行状況について『同じ
(same)』と答えた企業が66%、『悪化
した(deteriorated)』と答えた企業が
6%と2011年に比べてやや増加するな
ど、過去12カ月間で知的財産権に関する
問題が最大の懸念になったことがうかが
われる」12。
上海米国商工会議所 (American Chamber of Commerce in Shanghai)、“China Business Report 2012-2013”
12
25 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
新産業の台頭で激化する
人材獲得競争
中国が次なる発展段階への転換を持続し、国際市場
で競争していくには、人材(技能を持った外国人や海
外帰りの中国人を含む)を獲得し、開発する力がきわ
めて重要であることは明らかである。
直近のPwC世界CEO意識調査では、投
資先として中国を挙げたビジネスリー
ダーの40%超が今後12カ月における重要
な目標として現地における人材獲得を挙
げ、2番目に重要な優先課題となった13。
技術系の人材や創造的才能を有する人
材に対する需要は増え続け、これに伴い
獲得競争も激化し、状況はますます
困難になると予想される。Boeing China
のMarc Allen総裁は、「パイロット、整備
士なども含め人材不足が最大の制約要因
となっている」とした上で、「機体を動
かすために必要なパイロットをはじめと
するスタッフが不足しているため、繁忙
路線の運航に必要な新型機を受け取るの
にしばしば苦労するというような話さ
え、オペレーターから聞こえてくるよう
になった。この問題は優先的に解決する
必要がある」と述べている。
13
「私たちに突きつけられた課題は、どうすれば現地におけ
る存在感をもっと強力に示すことができるかということ
だ。中国で事業を行う外国の会社と見られていてはいけな
い。なぜなら、経営陣は本社からの駐在者ではなく中国人
であり、多くの部分において外国の会社ではないからだ。
中国のWPPは、やや趣の異なる、より現地に根ざした組織
にしようという計画がある。いずれ、より力強い地位を確
立できると信じている」
Sir Martin Sorrell卿、WPP最高経営責任者
PwC第16回世界CEO意識調査「不測の事態を乗り越える―生き残りと成長のための適応ー」(2013年)
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
26
中国は適切な技能を持った人材を十分
輩出しているのだろうか。本報告書作成
にあたり主要市場への投資決定要因を比
較したところ、技能人材の存在において
中国はブラジルより優位にあるがインド
より劣っており、こうした人材の有無が
競争要因となっていることがわかった
(図13参照)。
インタビューに応じてくれた数人の回
答者は、どれだけ人材が輩出されている
かではなく、どうやって人材を獲得する
かが問題であると考えている。中国企業
は、事業拡大と新規分野への参入を進め
ており、かつてなく魅力的な雇用条件と
将来性を提供できるようになっている。
このことは驚くほどに高い離職率に裏付
けされている。
投資決定に最も大きな影
響を及ぼす人材要因
Royal Dutch Shell Groupの最高財務責
任者のSimon Henry氏は、「生産量は問題
ない。成都と楡林で操業しており、今後さ
らに増員する可能性もあるが、現時点で両
方合わせて1,000人ほどの技術スタッフが
働き、うまく行っている。特に成都につい
ては、地元に優れた大学がある」とした上
で、「きわめて競争の激しい市場なので、
問題は、私たちがどうやって最も優れた人
材を呼び込むかということであり、さらに
は、シェルの一員になって、長く働き続
け、ゆくゆくはシェルのリーダーになっ
て、中国にとどまらず世界中で活躍したい
と思わせるような人材開発をどう進めてい
くかということである」と述べた。
図13
各市場への投資決定に人材要因が影響を及ぼすと答えたCEOの割合
26%
27%
中国(128)
18%
18%
ブラジル(119)
インド(84)
35%
24%
27%
米国(78)
21%
メキシコ(58)
26%
トルコ(56)
23%
21%
ロシア(43)
21%
23%
25%
インドネシア(28)
18%
19%
南アフリカ(26)
38%
安い労働力
優れた人材
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:少なくとも1単位の投資資金を振り分けた回答者を
母数とし、具体的な数は国により異なる)
27 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
48%
中西部も射程内に
多国籍企業は比較的開発の進んでいない中西
部の可能性を認識しつつあるものの、経済的に
裕福で開発の進んだ沿海部が引き続き外国投資
の主な目的地となっている。
EIUの調査(2011 Multinational companies and China: What future?)は、裕
福な沿海都市部が引き続き成長のために
目指す目的地であることを示した。しか
し、中西部への外国投資はこの10年間、
継続して伸びている(外国直接投資全体
に占める割合が2002年の13%から2011
年は17%に上昇) 14。これで中国経済の
転換は加速されるのだろうか。
中国政府は国全体としてより均等な発
展と富の分配を目指しており、外国企業
に新たな機会が開かれようとしている。
例えば、比較的開発の進んだ都市と提携
して内陸部の市場を開拓しつつ、労働集
約的な産業を中西部に移転して優遇措置
の恩恵を手にする機会がもたらされるか
もしれない。
Royal Dutch Shellは、中国全体におけ
る存在感を重視する企業の一つである。
同社の最高財務責任者Simon Henry氏は、
「本社はもちろん北京だが、販売をはじ
め、例えばサプライヤーとの窓口といっ
たさまざまな活動の拠点を上海や広東に
も設けている。サービス部門の多くは上
海地区をベースに活動している。私たち
はナショナルプレーヤーでなければなら
ないが、市場もしくは資源があるところ
に重点を置く必要がある」と述べた。
Siemens AGも新たな地域に足を踏み入
れ、経済の進歩に合わせて事業活動の軸
足を調整しようとしている。同社のPeter
Löscher社長兼CEOは、「これまでに残し
てきた大きな足跡と中国全土で65カ所に
設けた支社を基盤に、『お客様のすぐそ
ばに(zero distance to the custom-er)』
というアプローチで、中国の主要地域の
全てで市場機会を活用できるようにして
きた。さらに、中西部にもバリュー
チェーンを拡大していく。この方式は、
中国における当社のサプライヤーベース
を拡大し続ける上でも大いに役立つ」と
述べた。さらに、「今後事業を進めてい
く上で、中国の都市化はますます重要な
「総じて、内陸地域における研究開発や製造拠点の拡大は急速に進ん
でいる。石油・ガス、電気機械・機器、電力設備など当社の顧客業界
の西部地域への拡大は、平均をはるかに上回るペースで進むだろう。
人材面においても、内陸部は大きな供給源となっており、中でも科学
技術系の一流大学のある主要都市は重要な役割を果たしている」
Claudio Facchin、ABB Group上級副社長/北アジア地域担当社
長/ABB China Ltd.会長兼社長
要因になってくると思われるが、当社
は、先端技術を駆使して、産業高度化、
海上風力発電をはじめとする再生可能エ
ネルギーの開発、社会医療の向上に向け
た中国の取り組みを支援していく」との
考えを示した。
「労働コストにおける近隣諸国と
の競争が中国にとって脅威になる
とは思わない。この点における
競争力については、中国の西部地
域がきわめて有望だからだ。しか
し、金融制度の強化については、
中国は引き続き取り組む余地があ
ると思われる」
Jean Lemierre、BNP Paribas会
長特別顧問/元欧州復興開発銀行
総裁
それでもなお、中国全人口の過半が東
南中部に集中し、GDPに占める同地域の
割合が過半を大きく上回っていることを
考えると、沿海地域からほかの地域への
企業誘致は今後も難題であり続けるだろ
う15。優遇税制などのインセンティブが重
要になってくる。同時に、工場立地や事
業進出に関する手続きの簡便化と透明性
向上も重要である。
中華人民共和国商務部(2012年11月)
PwC、“Doing business and investing in China” (2013年1月)
14
15
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
28
本社の立地は
市場規模を反映していない
中国に地域本社を置いているか今後設置する
予定があると答えた回答者は少数にとどまって
おり、事業拠点としての中国の魅力に疑問を投
げかけている。
地域本社の設置
本社の存在は、その国の事業環境や生活・労働環境に満足していることを示す指標
である。しかし、最大の市場であるにもかかわらず、中国で事業を行っていると答え
た回答者のうち、アジア太平洋地域本社を中国に設置しているか今後設置する予定が
あると答えたのは半数未満にとどまった(図14参照)。
図14
アジア太平洋地域本社を中国に置くことは世界戦略に含まれるか
42%
現在、アジア太平洋地域
本社を中国に置いている
42%
2%
アジア太平洋地域本社を
中国に移す計画がある
アジア太平洋地域本社を
中国に移す予定はない
13%
アジア太平洋地域
本社は設けていない
出典:PwC世界CEOパネル調査(対象:中国に投資していると答えた回答者90名)
中国欧州連合商工会議所(European
Union Chamber of Commerce in China)
の調査によると、アジア太平洋地域本社
の場所として最も多く選ばれているのは
シンガポールと香港で、上海は第3位だっ
た 16 。また、本社立地場所を決める基準
としては、顧客や市場への近接性が最も
重要で、望ましい法規制環境が僅差でこ
れに続いた。
PwCの世界の都市力比較では、経済
力、イノベーションに対する受容度、事
業のやりやすさから、医療、住宅、環境
といった生活の質に関する要因まで、さ
まざまな視点から見た場合、上海と北京
がどういう位置付けになるかを調べた。
両都市とも経済力では高得点を獲得した
が、参入の容易さや雇用規制といった事
業活動の重要な側面については、あまり
高い得点を得られなかった。環境に関す
る指標も改善の余地が残されている17。
もっと多くの地域本社を誘致するため
には、資金移動を容易にし、ビザや労働
許可の発給を円滑化するとともに、魅力
的な生活の質を提供することが重要で
ある。
16
中国欧州連合商工会議所 (European Union Chamber of Commerce in China)/Roland Berger、“European Business in China: AsiaPacific Headquarters Study ”(2011年4月)
17
PwC「世界の都市力比較2012」(2012年10月)
29 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
長期的繁栄に向けて
本報告書では、中国経済の発展に伴い、多国籍企業の認識と戦略が変わりつつある
ことが確認された。ただし、こうした変化が何を意味するのか、また、その変化がど
ういう機会をもたらすのかについては、必ずしも十分な理解と対応がなされているわ
けではない。CEOは、投資を妨げる可能性のあるいくつかの障壁が存在することを指
摘しており、今後、その対処が重要になってくるだろう。しかし、本報告書では、多
国籍企業がこうした問題を解決し、互いの目標を達成するために、中国の企業や政策
担当者と積極的に協力したいと考えていることも確認された。
こうした協力と、その協力を持続させるために必要な相互信頼と誠実な対応は、中
国の外国投資環境を向上させる上できわめて重要である。これを行うことによって、
最先端の人材や技術の開発とイノベーション能力の構築が促され、その結果、中国は
自国が持つ経済的潜在力を最大限発揮し、中国国民に豊かな将来をもたらすことがで
きるだろう。
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
30
調査方法
本調査は、多国籍企業のCEOが今後の
対中投資についてどういう展望を持って
いるか、また、中国の経済目標に適う方
法でより多くの投資を呼び込むために中
国政府に何ができると考えているかを探
るものである。その目的は、中国の政策
当局と外国企業の相互理解を深め、互い
の目標をいかにして達成するかについて
議論を促すことである。本報告書は、中
国開発フォーラムのためにPwCが作成
した。
5
0
5
33%
22%
17%
16%
0
国数
11%
5
0
とそうでないところの両方を調査対象に
含めている。また、世界各地の主要企業
の役員11名とのインタビューも行った。
さらに、包括的かつ客観的な見解を提供
するため、国際組織、事業者団体、コン
サルティング会社が最近実施した調査研
究も引用している。
本調査のために貴重な時間と洞察をご
提供いただいた調査協力者の皆さまに感
謝する。
何カ国で事業活動を行っているか
5
0
一次調査は、PwC世界CEO意識調査
(パネル調査)の対象者群から抽出した
227名のCEOを対象に2013年初頭に実施
した調査の結果得られた意見を反映して
いる。PwCのパネル調査対象群は、あら
ゆる業種、企業規模、本社所在地(先進
国と新興諸国)を網羅する多国籍企業の
サンプルで構成されている。どういう市
場を重視し、事業計画で中国をどう位置
付けているのかについて多国籍企業の見
解を偏りなく把握できるよう、現時点に
おいて中国で事業展開をしているところ
1
2-4
5-10
11-20
金融サービス
(42)
消費者・
産業用製品・サービス
(158)
技術・
情報通信・娯楽
(25)
1
10%
38%
2–4
25%
14%
12%
16%
5–10
17%
19%
12%
11–20
13%
2%
16%
20+
34%
26%
44%
出典:PwC世界CEOパネル調査 (対象:消費者・産業用製品・サービス、金融サービス、
技術・情報通信・娯楽の各分野からの回答者合計225名)
20+
国数
国数
アフリカ
(21)
アジア太平洋
(23)
中東欧
(10)
中南米
(55)
中東
(6)
北米
(28)
西欧
(84)
1
19%
30%
–
20%
50%
11%
10%
2–4
29%
30%
20%
29%
17%
21%
14%
5–10
5%
17%
30%
5%
33%
21%
24%
11–20
29%
9%
20%
9%
–
7%
11%
20+
19%
13%
30%
36%
–
39%
42%
対象:全回答者(227名)
31 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
調査協力者
Marc Allen
Jean Lemierre
President
Boeing China
Senior Advisor to the Chairman
BNP Paribas
Former President
European Bank for Reconstruction and
Development
Ian Bremmer
Peter Löscher
President
Eurasia Group
President and CEO
Siemens AG
Chairman of the Asia-Pacific
Committee of German Business (APA)
Jeremy Burks
Alan Mulally
Greater China President
Dow Corning
President and CEO
Ford Motor Company
Claudio Facchin
Virginia M. Rometty
Senior Vice-President, ABB Group,
Head of ABB North Asia Region,
Chairman and President, ABB China Ltd.
Chairman, President and
Chief Executive Officer
IBM Corporation
Simon Henry
Sir Martin Sorrell
Executive Director, Chief Financial Officer
Royal Dutch Shell Group
Chief Executive
WPP
Mark Hutchinson
President and CEO
General Electric China
中国開発フォーラム2013年 調査報告書
32
調査協力者
本調査報告書の作成にあたり、以下に示すPwCおよび中国発展研究基金会の個人およびグループが協力した。
アドバイザリーグループ
Lu Mai
Matthew Phillips
Fang Jin
Mark Gilbraith
Frank Lyn
Amy Cai
David Wu
Allan Zhang
Nora Wu
Cai Xiaofeng
編集
調査・データ分析
Yu Jiantuo (CDRF)
Herman Cheng (PwC)
Jeff Deng (PwC)
Christina Soon (PwC)
TJ Yen (PwC)
本調査は、ロンドンのコンサルティ
ング会社Meridian Westが調整役とな
り実施された。
プロジェクト管理
デザイン
Xu Jinjin (CDRF)
Wang Ye (CDRF)
Cynara Tan (PwC)
Echo Chen (PwC)
Jen Flowers (PwC)
Sarah Rodwell (PwC)
Suzanne Snowden (PwC)
Alina Stefan (PwC)
Stephen Chow (PwC)
Artin Lin (PwC)
Shawn Zhang (PwC)
Secretary General
China Development Research Foundation
Deputy Secretary General
China Development Research Foundation
Managing Partner
PwC China and Hong Kong
Public Policy and Regulatory Affairs Leader
PwC China
Shanghai Office Lead Partner
PwC China
33 中国という選択―多国籍企業から見た投資環境―
Financial Services Markets Leader
PwC China and Hong Kong
Partner
PwC China
Partner
PwC China
Director
PwC China
Senior Advisor
PwC China
お問い合わせ先
日本のお問い合わせ先
本調査結果の内容に関するお問い合わせ:
桂 憲司
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
パートナー
03-3546-8480(代表)
[email protected]
Cynara Tan
Head of Marketing and Communications
Asia Pacific
+852 2289 8715
[email protected]
Suzanne Snowden
Head of Global Thought Leadership
London, UK
+44 20 7212 5481
[email protected]
メディアの皆さまからのお問い合わせ:
Mike Davies
Director, Global Communications
London, UK
+44 20 7804 2378
[email protected]
Echo Chen
Associate Director, Marketing and Communications
Beijing
+86 10 6533 8700
[email protected]
調査方法に関するお問い合わせ:
Christina Soon
Manager, Marketing and Communications
Hong Kong
+852 2289 8761
[email protected]
www.pwc.com/jp
PwCは、世界158カ国 に及ぶグローバルネットワークに180,000人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人の価値創造を
支援しています。詳細は www.pwc.com/jp をご覧ください。
PwC Japanは、あらた監査法人、京都監査法人、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースおよびそれらの関連会社の総称です。各法
人はPwCグローバルネットワークの日本におけるメンバーファーム、またはその指定子会社であり、それぞれ独立した別法人として業務を行っています。
本報告書は、PwC メンバーファームが2013年4月に発行した「Choosing China: Insights from multinationals on the investment environment」を翻訳したものです。
電子版はこちらからダウンロードできます。 www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/report.jhtml
オリジナル(英語版)はこちらからダウンロードできます。 http://preview.thenewsmarket.com/Previews/PWC/DocumentAssets/279068.pdf
日本語版発刊月: 2013年9月
管理番号: M201304-3
©2013 PwC. All rights reserved.
PwC refers to the PwC Network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further
details.
This content is for general information purposes only, and should not be used as a substitute for consultation with professional advisors.
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