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「かいこう」ビークル漂流事故調査 最終報告書

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「かいこう」ビークル漂流事故調査 最終報告書
「かいこう」ビークル漂流事故調査
最終報告書
平成 16 年 1 月 19 日
「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会
目次
第1部 「かいこう」ビークル漂流事故調査最終報告
第 1 章 序言
・・・・・・ 1
第 2 章 「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会
・・・・・・ 2
第 3 章 「かいこう」ビークル漂流事故の原因と委員会からの提言 ・・・ 5
3-1 二次ケーブルの破断原因について
3-2 ビークルを回収できなかった原因
3-3 事故全般について
3-4 保険について
第 4 章 今後の JAMSTEC の対応
・・・・・・8
4-1 二次ケーブルの改善について
4-2 二次ケーブルの当面の運用について
4-3 二次ケーブル破断時の安全対策について
4-4 運用と技術開発について
4-5 新ビークル建造までの暫定的措置
第 5 章 1万m級無人探査機「かいこう」の 必要性
・・・・・・10
5-1 巨大地震にみる深海調査の必要性
5-2 「かいこう」後継機の必要性
第 6 章 まとめ
・・・・・・11
第2部 「かいこう」ビークル漂流事故調査結果
第 1 章 事故発生状況および事故発生後の対応
・・・・・・ 1
1-1 「かいこう」による事故当日の調査目的
1-2 ビークル漂流事故に至る経緯
1-3 事故発生直後の現場の対応
1-4 ビークル捜索
1-5 JAMSTEC における事故の対応
第 2 章 No.0 二次ケーブル破断に至る経過
・・・・・・13
2-1 二次ケーブルおよび二次ケーブルハンドリング装置
2-2 二次ケーブル開発時のトラブル
2-3 二次ケーブル運用上のトラブル
2-4 破断した No.0 二次ケーブル装備の経緯
2-5 No.0 二次ケーブル破断に至る経過(一部推定)
第 3 章 二次ケーブル破断原因の調査
・・・・・・23
3-1 原因調査方法について
3-2 No.0 二次ケーブル破断状況の調査
3-3 No.0 二次ケーブルの解体調査結果
3-4No.3,No.4 二次ケーブル試験結果
3-5二次ケーブル引留部近傍におけるアラミド繊維編組の切断原因
第 4 章 浮上後ビークルを発見できなかった原因
・・・・・・41
4-1 ビークル浮上時刻のケーススタディ(二次ケーブル破断時刻の推定)
4-2 浮上後ビークルを発見できなかった原因
第 5 章 安全に関する対応
・・・・・・45
5-1 安全装置について
5-2 「かいこう」の保険について
第6章 事故に対する委員会所見
・・・・・・47
6-1 二次ケーブルについて
6-2 事故発生後の対応について
6-3 二次ケーブル破断後の安全対策について
第 7 章 今後の対応に関する提言
・・・・・・50
7-1 二次ケーブルの改善について
7-2 二次ケーブルの当面の運用について
7-3 二次ケーブル破断時の安全対策について
7-4 運用と技術開発について
7-5 保険について
7-6 深海での観測・作業の重要性の認識への努力
第 8 章 まとめ
・・・・・・52
8-1 二次ケーブル破断について
8-2 事故全般について
第3部
『「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会』第一次報告書指摘事項等に対する
海洋科学技術センター対処方針
第 1 章 第一次報告書に対する JAMSTEC の対処方針について
・・・・ 1
第 2 章 事故原因の調査結果について
・・・・・・ 2
第 3 章 事故発生後の処置について指摘事項
・・・・・・ 3
第 4 章 現有二次ケーブルの開発について
・・・・・・ 4
第 5 章 現有二次ケーブルの運用について
・・・・・・ 5
5-1 No.0 二次ケーブル使用可否の判断について
5-2 二次ケーブル張力の計測について
第 6 章 マニュアルの見直しについて
・・・・・・ 7
6-1 現有二次ケーブルの点検要領について
6-2 マニュアルの改訂
第 7 章 安全対策および安全管理体制について
・・・・・・ 9
7-1 二次ケーブル破断後の安全対策について
7-2 安全評価体制
第 8 章 今後の JAMSTEC における技術開発について
・・・・・・11
8-1 運用と技術開発について
8-2 試験設備の充実について
第 9 章 新二次ケーブルの開発について
・・・・・・13
第 10 章 現有二次ケーブルの暫定的運用について
・・・・・・14
第 11 章 代替ビークルによる暫定的運用について
・・・・・・16
「かいこう」システム
支援母船「かいれい」
一次ケーブル
ランチャー
二次ケーブル
ビークル
第1部
「かいこう」ビークル漂流事故調査最終報告
第 1 章 序言
海洋科学技術センター(以下、JAMSTEC)の1万m級無人探査機「かいこう」は、平成 15 年 5
月 29 日、高知県室戸岬沖の南東約 130kmの南海トラフにおいて調査を行い、南海地震に関
わる長期観測データの回収に成功した直後、二次ケーブルの破断により、「かいこう」ビークル
が浮上、漂流状態に陥った。直ちに海空から広域にわたる捜索を行ったが、ビークルの発見に
は至らなかった。
「かいこう」は、1万1千mという世界最深の海底に到達し得る世界唯一の深海調査システム
である。建造以来 296 回の潜航を実施し、従来ほとんど知られていなかった世界最深の海底に
科学の光を当てるとともに、超高圧下に生息する新種のバクテリアを多数発見するなど貴重な
科学的成果をあげる一方、巨大地震発生のメカニズムに関する深海底調査など社会的にも
「かいこう」にしか成し得ない貢献をはたしており、その活動は全世界から注目されていた。
「かいこう」を失うことにより、今後の深海研究のみならず、防災に関わる社会的に重要な研
究活動にも大きな支障が発生すると考えられる。したがって、JAMSTEC の社会的使命を全うす
るためにも「かいこう」による調査を継続する必要があり、事故原因を究明し、「かいこう」ビーク
ル後継機の建造に資することが望まれる。
『「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会(以下、本委員会)』は、事故原因を調査究明し、
今後の対応策を検討することを目的として設置された。本委員会は事故後の2ヶ月間に4回の
委員会を開催し、事故の物理的・力学的な要因、委員会所見、指摘事項、および JAMSTEC に
対する提言を取りまとめ、『「かいこう」 ビークル漂流事故調査委員会』第一次報告書を
JAMSTEC の理事長宛てに提出した。その内容は、本報告書第2部に示されている。
この第一次報告書に対し、JAMSTEC により対処方針の検討が行われ、第3部に示されるよう
に取りまとめられた。
第一次報告書提出後に2回の委員会を開催し、それまで十分に検討されていない事故に関
連する組織的、構造的問題および前記対処方針について検討を行い、最終報告書を取りまと
めた。
本委員会は、JAMSTEC が今回の事故を乗り越え、さらに深海調査技術の進展に対する積
極的な取り組みを堅持することを期待するとともに、本報告書がそのための一助となることを願
うものである。
-1-
第2章 「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会
『「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会』は、平成 15 年 6 月 2 日付で JAMSTEC に設置
された、『「かいこう」ビークル漂流緊急対策本部』本部長(JAMSTEC 理事長)の要請により、
「かいこう」二次ケーブル破断によるビークル漂流事故の原因調査および対策を目的として平
成 15 年 6 月 17 日に設置された。
委員会の構成を表 2-1 に、開催された会議および調査実施状況を表 2-2 に示す。
本委員会の検討事項は、以下の項目である。
(1)二次ケーブル破断原因に関する調査検討
(2)「かいこう」システムハードウェアに関する調査検討
(3)「かいこう」システムの運用方法に関する調査検討
(4)ビークル亡失に関する調査検討
(5)二次ケーブルの破断防止に関する検討
(6)ハードウェアの改善に関する検討
(7)運用方法の改善に関する検討
-2-
表 2-1「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会構成
所 属
委員長
東京大学生産技術研究所 教授
専 門
海中工学
委員
九州大学応用力学研究所長 教授
海洋流体工学
委員
工学院大学国際基礎工学科 教授
失敗学
委員
委員
委員
委員
委員
委員
委員
委員
委員
大阪大学大学院工学研究科
船舶海洋工学専攻 教授
東京大学大学院工学系研究科
環境海洋工学専攻 教授
日本大学理工学部海洋建築工学科 教授
(独)海上技術安全研究所海洋開発研究領域
海洋空間利用研究グループ長
(財)沿岸開発技術研究センター
調査部 第二調査部長
(独)海上技術安全研究所海洋開発研究領域
深海技術研究グループ長
東京大学生産技術研究所
海中工学研究センター 研究員
東京大学地震研究所
地震地殻変動観測センター 助教授
海洋科学技術センター
海洋技術研究部長
海中工学
海洋工学
海洋建築工学
リスク管理
海洋施設工学
深海技術研究
海中工学
海洋地震学
海洋技術研究
オブザーバ
B社
海中ケーブル
オブザーバ
C社
海中ケーブル
オブザーバ
D社
海中ケーブル
事務局
海洋科学技術センター 研究業務部
-3-
表 2-2 「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会に係わる会議および調査状況
開催日
1
6 月 25 日(水)
2
7 月 1日(火)
3
7 月 5日(土)
4
7 月 11 日(金)
5
7 月 17 日(木)
6
7 月 19 日(土)
7
7 月 22 日(火)
8
7 月 30 日(水)
9
10 月 29 日(水)
10
1 月 19 日(月)
委員会等の開催内容
備 考
第一回「かいこう」ビークル
漂流事故調査委員会
No.0 二次ケーブル解体調査
【JAMSTEC】
No.0 二次ケーブル解体調査
(立会)【JAMSTEC】
第二回「かいこう」ビークル
漂流事故調査委員会
外観調査、捻れ・うねり計測、外径
計測の実施
X線調査、外部・内部シース解体
調査の実施
No.0 二次ケーブル解体調査
(立会)【A 社】
動力線の顕微鏡調査、解体調
査、アラミド繊維引張り試験の実
施
No.0 二次ケーブル破断部
断面顕微鏡観察
第三回「かいこう」ビークル
漂流事故調査委員会
第四回「かいこう」ビークル
漂流事故調査委員会
第五回「かいこう」ビークル
漂流事故調査委員会
第六回「かいこう」ビークル
漂流事故調査委員会
-4-
東京大学工学部(本郷)にて実施
第3章
「かいこう」ビークル漂流事故の原因と委員会からの提言
「かいこう」ビークルとランチャーを繋ぐ二次ケーブルが破断し、ビークルが亡失し
た原因について、以下にまとめる。また、事故を踏まえて本委員会にて検討した JAMSTEC
への提言についても併記する。なお、検討事項の詳細については第2部参照。
3-1 二次ケーブルの破断原因について
(1)No.0 二次ケーブルの破断は、荷重試験および解体検査等の結果から、設計破断強
度を上回るような張力によるものではなく、ランチャー・ビークルの結合・離脱
や、通常の運用によって、引留部近傍のシース開口部におけるアラミド繊維編組
の強度が低下したことが原因であったと推測される。これはさらに、引留部の構
造や、ケーブルの高水圧に対する耐久性に起因するものと考えられる。
【提言】
抗張力体として用いる繊維の検討を行い、構造や引留方法を変更した二次ケー
ブルを新たに設計し、十分な試作試験を行った上で、より耐久性の高い二次ケー
ブルを新規に製作すべきである。
(2)二次ケーブル引留部については、マニュアルに明確な保守点検の規程や安全性に
関する基準がなく、運用上の盲点になっていたため、引留部近傍の編組に一部損
傷が見られたにも拘わらず、損傷の重大性に対する認識が甘く、十分な検討をせ
ずに No.0 二次ケーブルが使用されたことが事故発生につながった。
【提言】
今後は、二次ケーブルが消耗品であるという立場にたって、マニュアルを整備
し、必要な点検を行い慎重に運用すべきである。
3-2
ビークルを回収できなかった原因
ビークル亡失の原因として二次ケーブル破断時の回収システムの不備があげられ
る。二次ケーブル破断後にビークルの水中測位を行うシステムが搭載されていなか
ったことにより、ビークルの位置情報が得られなかったことは、ビークルを見失う
最大の原因となった。また、浮上後の位置確認手段として、ラジオビーコンしか搭
載しておらず、浮上したビークルの発見を不確実にした。
【提言】
二次ケーブルが破断することを前提として、浮力を確実に確保し、浮上中、ビ
ークルの水中位置を確実に捕捉し、浮上後、確実にビークルを回収できるように
すべきである。
-5-
3-3 事故全般について
(1)「かいこう」は世界唯一の1万m級無人探査機であり、世界的最先端の技術領域
の開発であったにもかかわらず開発終了後は運用のすべてが運用部門に一任さ
れ、その後の技術的なフォローがなされなかった。技術的に課題の多い二次ケー
ブルや安全装置等についても建造当初から改良等の見直しのないまま、運用され
ていたことが事故のひとつの要因と考えられる。
これは、JAMSTEC の技術開発部門と運用部門の連携および安全評価体制が不十
分であったためと考えられる。
【提言】
無人機の運用における技術的な問題点が、深海技術の基礎を充実させるとい
う観点で、運用技術が技術開発部門に確実にフィードバックされるような組織
的な構造を構築する必要がある。
また、最先端の深海調査を推進するためには、最新技術を継続的に導入するこ
とが不可欠であり、安全を含めた技術的な見直しを定期的に行う仕組みが必要で
ある。
(2)二次ケーブルの開発過程で高圧化の試験を含め、各種の試験が行われたが、今回
の事故原因となった引留部におけるアラミド繊維の諸問題については、問題点と
して抽出されなかった。
【提言】
新しい技術の開発においては、想定される事象を十分検討した上で試験を行う
ことは当然であるが、開発終了後も安全性向上に向けて最新技術に関する情報収
集と積極的な導入を継続して行う必要がある。
3-4
保険について
「かいこう」完成当初から平成 14 年度までは、損傷した場合の修理費等を填補
する船舶保険および第三者に損害を与えた場合に損害を填補する船主責任保険(通
称 P&I 保険)を付保していたが、財政状況が厳しいことや過去にさしたるトラブル
等がなかったことから平成 15 年度の船舶保険を付保しなかった。このため、ビー
クルの再建費用を保険により捻出することができなくなった。
【提言】
深海研究に使う無人機は、有人潜水船などの他のシステムでは実現できない活
動を行っている。大型無人機については、亡失した場合に再建費用を短期間で捻
出することが困難である。また、海中無人機技術において 100%の信頼性を求め
ることが困難であることから、JAMSTEC は、共用して運用する大型無人機がトラ
ブルに見舞われた場合を想定し、迅速に復旧して運用を継続するために、代替機
-6-
の準備や保険などの方策を検討することが望まれる。
-7-
第4章
今後の JAMSTEC の対応
JAMSTEC は、『「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会』第一次報告を元に、事故
の再発防止を行い、事故を乗り越え、新たな深海技術の開発に取り組むために、第 3
部に示す対策を定めた。以下に、その対策に対する本委員会の意見を含めてまとめる。
4-1
二次ケーブルの改善について
JAMSTEC は、事故に対する恒久対策として、二次ケーブルに部分的な改良を加える
のではなく、材料、構造、引留方法などすべての項目について、見直しを行い、今
回の事故を通して得られた知見を基に新しい二次ケーブルを設計し、十分な試作試
験を行った上で、製作を行うという方針を出した。
この方針は、本委員会の指摘を盛り込んだ適切なものと判断する。しかしながら
新たな設計は新たなリスクを伴うので、開発および運用にはより慎重な姿勢が望ま
れる。
4-2
二次ケーブルの当面の運用について
二次ケーブルの設計製作には相当の期間が必要である。この間、調査研究の空白
期間を最小にするために現有二次ケーブルと同様の設計をした二次ケーブルによる
暫定的運用とそのための運用基準が JAMSTEC から提案された。
現有二次ケーブルは、破断事故が起こったものの、200 回を越える使用実績がある。
JAMSTEC からの提案は、ケーブルの事故原因となる弱点を運用方法で強化するこ
とにより、事故の再発防止を図るものであり、本委員会は緊急を要する当面の対処
方法として、事故の教訓を生かした適切なものであると判断する。
4-3
二次ケーブル破断時の安全対策について
深海技術の特殊性を考慮すると、新たに開発される二次ケーブルにしても、その
破断の可能性を完全に否定することはできない。JAMSTEC の二次ケーブル破断に対す
る対策は、ビークルの水面での浮量を確実に確保し、浮上中と浮上後のビークル位
置を確実に捕捉する方策とそれらが確実に作動する工夫も盛り込まれている。
本委員会は、JAMSTEC の対策が事故により得られた知見を生かしたものであり、適
切なものであると判断する。
4-4
運用と技術開発について
JAMSTEC は、運用部門と技術開発部門の情報交換と協力関係を改善するため、研究
業務部を中心として運用部門から技術開発部門への運用における問題点、ノウハウ
等のフィードバックと、技術開発部門から運用部門への技術的フォローを行える体
- 8 -
制の構築を進めている。
また、JAMSTEC は、運用と技術開発における事故・不具合情報の水平展開を図るた
め研究安全委員会を強化するとしている。
これについて、本委員会は事故の教訓を生かした適切なものであると評価するが、
新たな体制が技術開発と安全対策において有効に機能することが重要であり、
JAMSTEC は実施状況と有効性を確認しなければならない。
4-5
新ビークル建造までの暫定的措置
新ビークルの建造には、その性能および安全性を十分確認するために相応の期間
が必要である。一方、水深 6500m を超える深度での研究を継続的に行わなければな
らない。以上のことから、JAMSTEC は、後継機ができるまでの暫定的な措置として細
径光ファイバー方式 7000m級 ROV 試験機「UROV7K」を改造し、
「かいこう」ビークル
に転用することにより深度 7000mまでの調査に対応する提案を行っている。
JAMSTEC の「UROV7K」の安全対策は、「二次ケーブル暫定運用基準」と、「二次ケー
ブル破断時の安全対策」に準拠した対策を施すこととしている。
本委員会は、上記のケーブルに関する安全対策が、本委員会の提言を踏まえたも
のと判断する。
なお、
「UROV7K」は、潜航深度、運動性能および作業能力において「かいこう」ビ
ークルには及ばない。したがって、長期的には地震発生メカニズム等の研究に重大
な支障を与えると考えられることから「UROV7K」の運用は、あくまでも暫定的な処
置である。
- 9 -
第5章
5-1
1 万m級無人探査機「かいこう」の必要性
巨大地震にみる深海調査の必要性
本委員会では第1章で述べたように1万m級無人探査機が必要不可欠のものであ
るとの認識に立って事故原因の調査に当っているが、ここでは改めて巨大地震に焦
点を当てて「かいこう」の必要性について述べる。
平成 7 年阪神・淡路大震災の後、近い将来に発生の可能性が大きい東海地震、さ
らには将来的に予想される東南海地震、南海地震などによる大災害が、かなりの確
度で指摘されており、災害への関心は急速に高まっている。
国民生活に直接影響を及ぼす地震に関する研究は、災害を最小限に抑えるための
防災計画を策定する上できわめて重要なものとなっている。中でも前述の巨大地震
や津波は深海底を起源としているので、深海底の観測は不可欠である。しかし、「か
いこう」のような深海無人機以外ではアクセスして作業することが困難であること
から、深海底の観測は、陸域に比べ圧倒的に不足している。深海底の総合的な調査
を通じて、地殻や地球内部の変動メカニズムを解明することは、国民が安心して暮
らすために急務であると考えられる。
5-2 「かいこう」後継機の必要性
「かいこう」は、1万1千mまで潜航できる世界唯一の深海調査システムであり、
上記研究に必要な日本周辺に分布する海溝などの深海底の調査には欠かせない深海
調査システムである。JAMSTEC が所有する有索式重作業 ROV「ハイパードルフィン」
は、3,000m 以浅でしか活動できず、海洋の平均水深が約 3,800m であることから容
易に理解できるように、「かいこう」は、我が国の深海調査のための無人機として世
界に唯一のものであった。
「かいこう」を失うことは、地震発生メカニズムの解明や予測研究、有用微生物
の発見・応用等、国民生活の安心・安全や豊かさに関わる研究に著しい支障を来し
ている。したがって、「かいこう」ビークル後継機を建造し、深海調査を継続する必
要がある。
-10-
第6章 まとめ
JAMSTEC の1万m級無人探査機「かいこう」ビークルは、平成 15 年 5 月 29 日、高知県室戸
岬沖の南東約 130kmの南海トラフにおいて、二次ケーブルの破断により浮上、漂流した。6 月
21 日まで、海空から広域の捜索が行われたが、ビークル発見の手がかりは得られていない。
本委員会は、事故原因を究明し、JAMSTEC に対する提言等を取りまとめた。それを受けて
JAMSTEC がまとめた『「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会第一次報告書指摘事項等に
対する海洋科学技術センター対処方針』が、本委員会の指摘と事故の教訓を踏まえた対策で
あると評価すると共に JAMSTEC が今回の事故を乗り越え、新たな深海技術の開発に取り組む
ために十分な対策であることを確認した。
本委員会は、「かいこう」が実施してきた深海調査の継続が必要であるとの認識に立って、
JAMSTEC が提案する「UROV7K」を「かいこう」ビークル代替機として使用することによるシステ
ムの暫定運用についても検討し、それが本委員会の提言等を踏まえたものであると判断した。
「かいこう」は、1万1千mまで潜航できる世界唯一の深海調査システムであり、「かいこう」を失
うことは、地震発生メカニズムの解明や予測研究、有用微生物の発見・応用等、国民生活の安
心・安全や豊かさに関わる研究に著しい支障を来すことが考えられる。したがって、本委員会は、
「かいこう」ビークル後継機の一日も早い建造と新しい「かいこう」による深海調査の再開を希望
する。さらに、万一の事故が発生した場合にも、ダウンタイムをできるだけ少なくするための方策
を準備することが望ましい。
海洋科学は、国民生活に直結した研究分野であり、適切な研究環境の基に、科学・技術・運
用の相互牽引によって円滑に発展することが望まれる。本委員会は、JAMSTEC が「かいこう」
漂流事故を契機に、海洋科学技術分野における中核的研究拠点として柔軟で開かれた研究
体制を整備すると共に責任と実行力のある推進体制を確立することを期待する。また、
JAMSTEC の本事故に対する真摯な取り組みが、本報告書により国民に理解され、今後の活動
においてより一層国民の協力が得られることを希望する。
- 11 -
第2部
「かいこう」ビークル漂流事故調査結果
第 1 章 事故発生状況および事故発生後の対応
1-1 「かいこう」による事故当日の調査目的
「かいこう」および母船「かいれい」は、平成 15 年度深海調査研究の公募採択課題「南海
トラフ地震発生帯の総合研究」他3課題を実施するため、平成 15 年 5 月 17 日(土)~平成
15 年 6 月 9 日(月)の間、四国沖から熊野灘沖にかけての南海トラフにおいて調査を行っ
ていた。
当日の潜航調査内容は、平成 13 年 6 月に ODP 計画(Ocean Drilling Program )の掘削
船「ジョイデス・レゾリューション」(全長;143m、幅;21m、排水量;18,600t、櫓高;62m)が、
高知県室戸岬沖約 130 ㎞の海域に掘削した掘削孔(Hole 808 I)(図 1-1)に、同船が設置
した「A-CORK(Advanced Circulation Obviation Retrofit Kit)」と呼ばれる孔内長期水理
学的モニタリング装置に記録されたデータ(主に圧力データ)を、「かいこう」ビークルにより
回収することが目的で、データの回収に成功した(図 1-2)。この圧力データを元に、海底
下の堆積物に含まれる間隙水の流体特性を解明することで、地震研究に資することが出
来る。
その後は、もう一つの掘削孔(Hole 1173B)の孔内圧力計のデータ回収や、熱流量測定
等の作業を予定していた。
南海トラフ室戸岬
南東沖約130km
ODP Hole 808I
A- CORK設置点
水深4675m
●
図 1-1
事故発生海域
-1-
図 1-2 左:孔内長期水理学的モニタリング装置【A-CORK(Advanced Circulation
Obviation Retrofit Kit)】
右:A-CORK におけるデータ回収作業(水中着脱コネクタ)
1-2 ビークル漂流事故に至る経緯
(1)事故発生期日:平成 15 年 5 月 29 日、「かいこう」第 296 回調査潜航
(2)潜航位置および水深: 南海トラフ室戸岬南東沖約 130km(A-CORK Hole 808 I)
34 ゚ 21.215’N、134 ゚ 56.700’E、4675m
(3)事故発生当時の気象・海象
天候:晴れ、風向:ESE、風力:6(11m/s~14m/s)、風浪:4(1.3m~2.5m)、うねり:4(2~
4m)、視程:7(13km)、
流向:North~NNE
流速(k’t):0.7~0.8
(4)潜航作業
「かいこう」は、09 時 30 分着水(図 1-3-①)、11 時 7 分にビークルはランチャーから離
脱し、調査を開始した(図 1-3-②)。13 時 12 分、予定された海底作業を終了し、ランチ
ャー高度 130m にて、結合のため二次ケーブルの巻き取りを行ったが(図 1-3-③)、巻き
取り終了直前、二次ケーブルの異変に気付いた。通常、ゴムモールド部(二次ケーブル
外部シースとはテープで留めてあり接着されていない)直下に有るべきベルマウスと引き
-2-
留め金具を定位置よりも下方に視認した(図 1-3-④)。更に、抗張力体のアラミド繊維と
思われるものがひらひらとしており、外部シース下方には剥き出しの内部シースが確認
できた。この時点で、アラミド繊維編組が切断したものと判断した。
「かいこう」運航長は、「かいれい」船長に現状の説明を行い、ランチャーとビークルの
結合が不可能な最悪の場合を想定し、分離揚収の可能性大である旨伝えた。
二次ケーブルの巻き取りを行い、結合を試みたが、ゴムモールドがローラーにあたり、
結合位置手前で二次ケーブルの巻き取りが出来ないため、結合スライダが作動できず、
結合できない状態となった(図 1-3-④)。2 回目の結合を試みたが、ビークル光ライン
「断」が発生、ビークルの制御は不可能となった。続いて、ビークルはゆっくり右に傾い
た(ランチャーのカメラで確認)。ビークル光ライン「断」の約 15 秒後に、3,000V 高圧給
電ラインの地絡が発生、高圧給電「断」となり、ランチャーおよびビークルの給電は停止
した。給電停止後、マニュアルに従って直ちに一次ケーブルの巻き取りを開始した。
アラミド繊維編組の切断を視認していたため、巻き取り時にビークルの流体抵抗でケ
ーブル破断を防ぐため、線速を 25m/分とした。一次ケーブル巻き取り時に、ビークルの
二次ケーブルがランチャーに絡まないよう、またビークル浮上時に母船との接触を防ぐ
ため、ビークルがランチャーの後方に位置するように、「かいこう」運航長から「かいれい」
船長に、母船の微速前進を依頼した(図 1-3-⑤)。
(5)その他特記事項
①本潜航は、No.0 二次ケーブルに換装後3潜航目であった。
②本潜航の作業内容は特に困難なものではなく、また分離曳航でもなかった。
③海底でのビークルは何等異変もなく、二次ケーブルの拘束等、特に気付くことはなかっ
た。
④ランチャーとビークルの離脱時にも、ゴムモールド部その他は目視で何等異常は認めら
れなかった。
⑤潜航中の二次ケーブル張力は最大 440kgf であった(張力異常の警報設定値 500kgf)。
⑥二次ケーブル換装後、2回の潜航における最大張力は 390kgf であった。
⑦バラスト切り離し装置の設定時間は、1時間としていた。
⑧孔内計測データ回収のため、水中着脱コネクターをサンプルバスケット内に置き、接続ケ
ーブルを細ヒモでバスケットに固縛していた。
-3-
着底、海底作業
(11 時 55 分~13 時 12 分)
着水(9 時 30 分)
かいこう
一次ケーブル
結合状態で下降
(高度 100m まで)
ランチャー
(高度 100m で分離)
二次ケーブル
海底
(水深 4675m)
ビークル
図 1-3-①
図 1-3-②
海底作業終了、
二次ケーブル巻取(13 時 12 分)
二次ケーブル巻取
図 1-3-③
-4-
二次ケーブル異変確認(13 時 22 分)
正常時
ビーク
ランチャー
白黒 TV カメラ
ル
ランチャー白黒
TV カメラで確認
No.296Dive 時
切断したアラミド繊維
剥き出しの内部シース
結合装置部
ビーク
引留金具が結合位置にくる
と結合スライダが作動し、ラ
ンチャー・ビークルの結合・
離脱ができる
正常時
結合時
引留金具
ゴムモールドがローラー
にあたり、引留金具が結
合位置まで上昇できな
いので、結合スライダが
作動せず、ランチャー・
ビークルの結合ができな
い。
ル
No.296Dive 時
ゴムモールド
結合できない
図 1-3-④
-5-
離脱時
結合スライダ
ローラー
一次ケーブル巻取(線速 25/分)
(13 時 29 分~16 時 47 分)
微速前進
線速 25m/分
かいこ う
流体抵抗によりケーブルが自
然に繰り出された
図 1-3-⑤
-6-
1-3 事故発生直後の現場の対応
ランチャーとビークルの結合不可であったため、現場では緊急揚収と判断し、「かいこう」
オペレーションマニュアルに基づいて対応が行われた。その後の時間経過は、次の通りで
あった。
(1)5 月 29 日、13 時 29 分、「かいこう」の高圧給電「断」、結合不能後、すぐに運航長より「かい
れい」は船速 0.5kt で前進し、一次ケーブルを線速 25m/分にて巻き取るよう船長に指示
があった。指示通り針路 120~130°、対水速力 0.5kt にて前進した。その後、分離揚収
のための道具および作業手順の確認を行った。
また、ビークル浮上時のビーコン受信に備え方向探知機の準備をした。
(2)16 時 47 分、ランチャー揚収が完了した。なお、二次ケーブルはランチャー揚収直前に船
上に揚収した。
(3)16 時 48 分、ビークルビーコン音を3回受信した。
この発信音は3名が確認し、3回とも同じような音量で確かに聞いたが、その後聞こえな
くなった。
(4)16 時 55 分、船の速度を上げ潜航地点に引き返し捜索を開始した。ビークル視認およびビ
ーコン音聴取に努めた。本船は対水速力 0.5kt にて前進していたこと、および当時の気
象・海象・海流からして、航跡の北側にビークルが浮上しているものと判断し、航跡の北
側を引き返した。
(5)17 時 15 分、潜航地点付近に到着したが、ビークルは視認できず、またビーコン音も聞くこと
ができなかった。
その後、日没後の常用薄明(19 時 40 分)までは、潜航地点付近からランチャー揚収地
点までの距離の 2 倍程度(3 マイル)範囲を中心に捜索した。
(6)20 時 26 分、JAMSTEC 海務課からの指示で、ビークルの流れと速度を知るためのフラッシ
ャー付ブイを投入した。
(7)23 時 44 分、同ブイを回収した。JAMSTEC 海務課から指示された捜索点を経由し、30 日
06 時 00 分まで NE 方向に捜索範囲を延ばし捜索した。以後は、JAMSTEC の指示によ
り捜索を行った。
1-4 ビークル捜索
ビークルの捜索は、以下の方針に基づいて 5 月 29 日から 6 月 21 日まで、室戸岬南東沖
から犬吠埼東方沖に至る海域(図 1-4)を、母船の深海調査研究船「かいれい」、および「よ
こすか」、「なつしま」、「かいよう」の船舶や、チャーター航空機、海上保安庁および航空宇
宙技術研究所の航空機により行ったが、ビークル発見の手がかりは全く得られなかった。
(1)ラジオビーコンの電池が寿命に達する6月8日を目途に、船舶による海上の捜索、および
航空機による上空からの捜索を行う。
(2)海域の流況を考慮したシミュレーションを行い、捜索海域を設定する。
(3)海上保安庁と連携して、海と空から集中的な捜索を行う。
-7-
(4)センター各船を、研究に支障のない範囲で捜索に投入する。
(5)最寄りの漁業者等に漂流物の情報提供等を依頼する。
以上の捜索については、外部専門家からなる『「かいこう」ビークル漂流捜索アドバイザリ
グループ』を設置し、捜索の妥当性を検討すると共に、今後の捜索活動について提言を受
けた(注)。
1-5 JAMSTEC における事故の対応
「かいこう」ビークルの漂流に際して、JAMSTEC が定めた「事故・トラブル緊急対処要領」
に基づいて対応した。
事故当日の時間経過と陸上における対応は次の通りであった。
(1)5 月 29 日、13 時 55 分、二次ケーブル断線、ビークルの結合不可による揚収開始との連絡
あり(緊急度ランク3)。
(2)ランチャーが 16 時 47 分に揚収されたこと、二次ケーブル先端が破断してビークルが脱落し
ていること、およびビークルに搭載したラジオビーコンの電波を受信したとの連絡を受け
た(緊急度ランク4)。
(3)16 時 55 分、緊急連絡体制(図 1-5)に基づいて関連部署に連絡を取った。
(4)6 月 2 日、文部科学大臣に事故報告を行った後、事態の重要性を考慮して(注)、同日、
『「かいこう」ビークル漂流緊急対策本部(図 1-6)』を設置した。
(5)6 月 3 日、同本部の実行体制を整備(図 1-7)した。
(注):緊急対策本部は、緊急度ランク5の場合に設置するが、状況によっては
ランク 4 の場合にも設置する。
-8-
134
136
138
140
36
142
144
36
犬吠埼
房総半島
御前崎
紀伊半島
34
34
かいこうビークル推定
浮上地点
32-21.215N
134-56.700E
32
32
134
136
138
海洋科学技術センター捜索範囲
(船舶および航空機)
140
海上保安庁捜索範囲
(航空機)
142
144
航空宇宙技術研究所捜索範囲
(航空機)
5月30日捜索範囲
6月1日
6月1日
6月2日
6月3日
6月3日
6月4日
6月5日
6月5日
6月5日航空機捜索飛行ルート
6月6日
6月7日
6月7日
6月8日
6月9日
6月9日
6月10日
6月11日
6月11日
6月12日
6月13日
6月14日
6月15日
6月14日
6月15日
6月14日
6月16日
6月17日
6月18日
6月19日
6月20日
6月21日
図1-4「かいこう」ビークル捜索 実施海域(5月30日∼6月21日)
- 9 -
図1-5
- 10 -
図1-6
- 11 -
第2章 No.0 二次ケーブル破断に至る経過
2-1 二次ケーブルおよび二次ケーブルハンドリング装置
(1)二次ケーブル
「かいこう」二次ケーブルは、ランチャーとビークルを結合し、電力の供給および信号
の伝送を行う光・電力複合ケーブルである(「かいこう」の概要、および二次ケーブル開
発の詳細は別冊-4,5 参照)。
主な仕様は、以下の通りである(図 2-1、図 2-2 参照)。
① 形式:均圧型光・電力複合ケーブル
② 全長:250m
③ 外径:29.5mm
④ 重量:約 700g/m(空中)、約 40g/m(水中)
⑤ 破断強度:3tonf以上(アラミド繊維編組抗張力体)
光ファイバユニット
導 体
架橋ポリエチレン絶縁体
介 在
軟質プラスチック
内部シース
抗張力体
接地線導体
外部シース
絶縁体
図 2-1 二次ケーブル断面図
ランチャー側
2.255m
④
ビークル側
ゴムモールド
2.535m
⑦
③
⑥
⑨
⑧
②
⑤
①
2.066m
⑩
⑪
250m
0.8m
2.890m
⑫
光均圧型ケーブル
光均圧型ケーブル
動力線均圧型ケーブル
動力線均圧型ケーブル
N o.
名 称
① 二次ケーブル
(ラ ン チ ャ ー 側 )
② 分岐箱
③ 動 力線 プラグ
④ 動 力線 レセプタクル
⑤ 光 プ ラグ
⑥ 光 レセ プタクル
図 2-2 二次ケーブル構造図
- 13 -
N o.
名 称
(ビ ー ク ル 側 )
⑦ 引留金物
⑧ 分岐箱
⑨ 動 力 線 プラグ
⑩ 動力 線レセプタクル
⑪ 光 プラグ
⑫ 光レセプタクル
(2)
二次ケーブルハンドリング装置
二次ケーブルハンドリング装置は、「かいこう」ランチャーに設置され、二次ケーブルの巻
取り、繰出を行う装置である。
①構成
二次ケーブルハンドリング装置は、以下の主要部で構成される。
・ ケーブルリール部(ブレーキおよびストッパ付き)
・ シーブ/圧着ローラ部
・ シフタ部
・ 張力計部
・ 結合装置部
・ 船上操縦装置
装置の構成を図 2-3 に示す。
圧着ローラ
シフタ
シーブ
ローラチェーン
分離揚収用ストッパ
巻取ドラム
ケーブルリー
ルブレーキ
張力計
メカニカル
油圧モータ
ストッパ
結合
シーブ/
装置部
圧着ローラ部
シフタ部
ケーブルリール部
図 2-3 二次ケーブルハンドリング装置構成図
- 14 -
②各部の作動
ア)ケーブルリール部
巻取ドラム用の油圧モータにより巻取ドラムを回転させ、二次ケーブル巻取りおよび繰出
しを行う。
・ケーブルリールブレーキ
油圧ポンプ停止時、バネ力によって巻取ドラムにブレーキをかける。
保持力は 24kgf。
・メカニカルストッパ
二次ケーブルが 230m 繰出された場合、メカニカルストッパがかかる。保持力は
2tonf。
・分離揚収用ストッパ
巻取ドラムに巻かれている二次ケーブルが 1 層目の 6 列まで繰出されると、二次ケ
ーブルで抑えられていたストッパ作動腕が作動し、バネ力によってストッパがかか
る。
イ)シーブ/圧着ローラ部
シーブ用の油圧モータによってシーブが回転し、圧着ローラ(圧着力 25kgf×8 個)が
ケーブルの動きによりケーブルを押さえ付けながら連れ回ることで、二次ケーブルを
巻取ドラムに整列巻きするための張力を発生させる。なお、二次ケーブルと二次ケー
ブルハンドリング装置の取合い(実測)を図 2-4、表 2-1 に示す。
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
③
外 径 140 / 内 径
②
R414
外 径 820 / 内 径
①
250
289
⑩ ⑪
1586
図 2-4 二次ケーブル寸法取合図(単位:mm)
- 15 -
表 2-1 二次ケーブル長実測結果
計測箇所
ケーブル実長計測
備考
間隔
①
0mm
圧着ローラ1(引留め側)
②
126mm
①-②
126mm
圧着ローラ2
③
258mm
②-③
132mm
圧着ローラ3
④
386mm
③-④
128mm
圧着ローラ4
⑤
513mm
④-⑤
127mm
圧着ローラ5
⑥
642mm
⑤-⑥
129mm
圧着ローラ6
⑦
771mm
⑥-⑦
129mm
圧着ローラ7
⑧
900mm
⑦-⑧
129mm
圧着ローラ8(ドラム側)
⑨
1046mm
⑧-⑨
146mm
シーブ出口
⑩
2299mm
⑨-⑩
1253mm
ドラム入口
⑪
5547mm
⑩-⑪
3248mm
二次ケーブルドラム1周の長さ
ウ)シフタ部
ローラチェーンによりケーブルリールの回転に同調してシフタが左右に横移動する
ことで、二次ケーブルを巻取ドラムに整列巻するためのケーブルの案内を行う。
エ)張力計
二次ケーブルのビークル側張力を監視する。張力 500kgf 以上になると、「かいこう」操
縦盤にて警報を発する。
オ)結合装置部
結合装置には結合と離脱の二状態があり、結合スライダを油圧シリンダで駆動し、
二次ケーブル引留金物の座面を支持することでランチャー・ビークルの結合を行う
装置である。
二次ケーブルハンドリング装置の主要性能を表 2-2 に示す。
表 2-2 二次ケーブルハンドリング装置性能
項 目
性 能
3~30m/分 無段連続
巻取・繰出速度
ブレーキ力
・巻取時(ケーブル張力による油圧モータの空転)
・約 230m 繰出し時(メカニカルストッパーにて)
・油圧ポンプ停止時(ケーブルリールブレーキの
バネによる)
- 16 -
約 350 kgf
約 2 tonf
約 24 kgf
(3)結合時の位置関係
ランチャー・ビークル結合位置の寸法取合図を図 2-5 に示す。結合および離脱時、緩衝
装置のゴムストッパーがランチャーフレームに接触するまで二次ケーブルを巻込み、図
2-5 の位置からビークル(二次ケーブル引留金物)が 5mm 上昇した位置で結合スライダ
を嵌合・離脱させる。結合時、二次ケーブル引留金物の座下面の張出しを結合スライダ
で挟み込むことで、ランチャー・ビークルの結合時の方位ズレを整合する。また、ビーク
ルの回頭力をランチャーに伝える。
ガイドローラ径:20mm
ローラ間隙間:30mm
シーブ中心
190mm
隙間 11mm
ローラ中心
550mm
φ76mm
560mm 571mm
φ84mm
結合スライダ
211mm
12mm 98mm 110mm
59mm
80mm
ランチャーフレーム
5mm
145m
139mm
150mm
ビークル上面
ゴムバンパー
ゴムストッパー
緩衝装置
フレーム
図 2-5 ランチャー・ビークル結合位置 寸法取合図
上記図中の緑丸部の寸法取合図を図 2-6 に示す。
ゴムモールド部とガイドローラーまでの隙間は、図面上 11mm であるが、ゴムモールド部先
端の厚みから、ガイドローラーまで 5mm の隙間である。
- 17 -
29mm
30mm
20mm
11mm
5mm
図 2-6 二次ケーブルハンドリング装置 ガイドローラー部寸法取合図
(1/1 寸法図)
- 18 -
2-2 二次ケーブル開発時のトラブル
以下のトラブルが開発時に発生し、対策を行った。
(1)平成 5 年 6 月の海上試験において、二次ケーブルがランチャーに絡まり、アラミド繊維編組
および導体が損傷した。
①原因
ケーブル水中重量が多少浮き気味だったために、ケーブルの余長がランチャー直
下に貯まり、ランチャーに絡んだものと判断された。
②対応
導体の材質をアルミから銅に変更し、沈み気味のケーブルとした。
(2)平成6年3月1日、マリアナ海溝の最大深度試験において、海底上2mで光通信異
常が発生した。
①原因
高圧下での再現試験の結果、外部シースと内部シース間のアラミド繊維編組の均
圧機構(引留部近傍で外部シースを剥がし、海水を導入して均圧する)が機能しな
かったため、以下の事象が起こったと判断した。
・ アラミド繊維編組が押さえ付けられ、アラミド繊維編組が切断した。
・ その箇所のトルクバランスが崩れ、ケーブルの捻れが集中し、光ファイバーに
マイクロベンディングが起った。
・ その結果、光ロスが増大し、通信障害が起った。
②対応
ケーブル製造時にアラミド繊維編組にジェリーを塗布し、均圧する方式を採用した。
この No.0 二次ケーブルは、納品後一年間運用した後に外部シースを剥がして、ア
ラミド繊維編組の均圧状態を点検し、均圧状態に異常がないことを確認した。
2-3 二次ケーブル運用上のトラブル
JAMSTEC 引き渡し後の運用で起こったトラブルは、接地線の断線である。その経緯と対
策を以下に示す。
(1)平成7年9月 20 日、No.0 二次ケーブル接地線が引留金物と分岐箱間で断線。
(2)平成8年 1 月 8 日、No.1 二次ケーブル接地線が引留金物と分岐箱間で断線。
(3)平成8年 12 月、No.2 二次ケーブル接地線が引留金物と分岐箱間で断線。
(4)原因究明のため、繰り返し屈曲試験、実機モデル繰り返し屈曲試験を行ったが再現しなか
ったため、原因不明であった。
(5)原因不明のため、接地線心のサイズアップ(0.48mm2→2.0mm2)を行い、運用で効果を確
認することとした。
本改善を行った No.4 二次ケーブルの運用は平成 15 年 5 月までに 123 回の潜航を
- 19 -
行っているが、接地線の断線は起きていない。
なお、この対策は、事故ケーブル(No.0 二次ケーブル)には適用されていない。
2-4 破断した No.0 二次ケーブル装備の経緯
No.0 二次ケーブルは、平成 8 年 7 月に製作され、平成 11 年度に 48 回の潜航に使用し
た後、予備として保管されていた。平成 15 年 5 月 4 日、実装していた No.4 二次ケーブル
の修理のため、No.0 二次ケーブルに換装した。
平成 15 年 5 月 3 日、No.4 二次ケーブルのビークル側引留金物付近の中間接続金具を
取り外し、開口部を点検した結果、ポリエステルテープが大きく捲れ上がり、アラミド繊維編
組 18 本中 9 本が切断していることを確認した。No.4 二次ケーブルによる潜航回数は、123
回であった。
No.4 二次ケーブルの状態に鑑み、平成 15 年 5 月 3 日、No.0 二次ケーブルについて点
検を行った。その結果、開口部のアラミド繊維編組 1 本の切断が確認されたが、アラミド繊
維編組およびポリエステルテープの乱れもなく、全体的にしっかりしていることから、メーカ
ーと協議の結果、定期的な点検・観察を行えば、当面の使用は問題ないと判断した。
また、原因の究明と対策については、別途検討することとした。なお、No.0 二次ケーブル
は、電気特性計測、光特性計測および全長に亘る外観点検を実施し、異常のないことを確
認した。
2-5 No.0 二次ケーブル破断に至る経過(一部推定)
(1)事故発生までの経過
No.0 二次ケーブル換装後、平成 15 年 5 月 7 日に第 294 回潜航、5 月 28 日に第 295
回潜航を実施したが、ランチャーのTVカメラの観察では引留金物、ベルマウスおよび
ゴムモールド部付近に異常は認められていない。
平成 15 年 5 月 29 日、No.0 二次ケーブル換装後 3 回目の第 296 回(No.0 二次ケー
ブル通算使用回数 51 回)潜航中、No.0 二次ケーブル引留金物付近の開口部で、アラ
ミド繊維編組が切断した。
(2)アラミド繊維編組が切断に至る経過(一部推定)
事故当日、「かいこう」は 09 時 30 分に着水し、11 時 07 分、一次ケーブル長 4540m、
ランチャー高度 130m でビークルの離脱を行った。離脱時のランチャーTVカメラの観察
では、二次ケーブル引留金物、ベルマウスおよびゴムモールド部付近は正常な状態で
あったことが確認されている。
アラミド繊維編組が切断したことをランチャーの白黒TVカメラで確認したのは、結合
直前の 13 時 22 分、二次ケーブル繰出長 2m から 1m の時点である。従って、アラミド繊
維編組が切断した時期は、11 時 07 分に離脱した後から 13 時 22 分の結合直前までの
間である。
アラミド繊維編組切断後、二次ケーブルの巻き取りによって、引留金物から分岐箱に
- 20 -
至る内部シースが引留金物より抜け出て、550mm 程度のところで止まった。結果として、
ゴムモールド部が定位置から約 550mm 上方に移動した状態となった。
このため、結合を試みたが、上方へ移動したゴムモールド部が二次ケーブルハンドリ
ング装置入口のローラーに当たり、結合位置まで巻き取れず、結合できなかったと考え
られる。
結合を試みていた 13 時 28 分 54 秒に光ラインが「断」、13 時 29 分 09 秒に地絡が発
生し、高圧給電が「断」となった。
直ちに、マニュアルに従って緊急揚収作業に入り、一次ケーブルを線速 25m/分で巻
き上げ開始し、母船を微速前進とした。
(3)二次ケーブルの破断に至る経過(一部推定)
16 時 47 分にランチャーを「かいれい」船上に揚収した。その時点では、二次ケーブル
が全長(約 250m)繰り出され、二次ケーブルリールに約 5 巻きを残し、ストッパーが作動
した状態であった。
「かいこう」への高圧給電が「断」となった時点で、二次ケーブルリールにブレーキが
かかるが、ブレーキ力は約 24kgf であり、線速 25m/分で巻き上げ時のビークルの流体
抵抗は、計算上 30kgf 程度であるため、一次ケーブル巻き上げ中に二次ケーブルが繰
り出されたと考えられる。
従って、少なくとも二次ケーブルリールにストッパーがかかり、二次ケーブルの繰り出
しが停止した時点までは、二次ケーブルは内部シースで繋がっていたと考えられる。
その後、内部シースが切断し、二次ケーブルが完全に破断したと推定される。
- 21 -
第3章
二次ケーブル破断原因の調査
3-1
原因調査方法について
二次ケーブルの破断原因の調査のため、ランチャー側に残された No.0 二次ケ
ーブルについて、下記の調査を行った。
(1)外観調査
(2)X 線による非破壊調査
(3)解体調査
(4)アラミド繊維編組顕微調査
(5)アラミド繊維編組引っ張り試験
(6)芯線解体調査
また、現有する No.0 以外の 2 本の二次ケーブル(No.3,No.4)について、繰
り返し引っ張り試験を行った。
3-2
No.0 二次ケーブル破断状況の調査
「かいこう」システムの二次ケーブルとビークルの接続部は、通常時は図 3-1
に示すようになっている。5 月 29 日の事故当日、ランチャー/ビークルの結合作
業時に、オペレータが視認した接続部の状況は、図 3-2 に示すようなものであり、
アラミド繊維編組が 18 本全て切断され、内部シースの余長分が引き出されていた。
ランチャーを船上に揚収した時には、二次ケーブルが破断してビークルは脱
落していたが、この二次ケーブル破断部の状況は、図 3-3 のようであった。赤色
動力線の絶縁体には溶けた跡があり、また煤らしきものが付着していた。白色動
力線および光ファイバユニットの絶縁体には引き伸ばされたような跡が認められ
た。青色動力線および接地線については、内部シース端部からは視認出来なかっ
た。
- 23-
図 3-1
図 3-2
通常運用時の二次ケーブル接続部イメージ図
ブラックアウト前に視認した二次ケーブル引留部付近イメージ図
- 24-
図 3-3
No.0 二次ケーブル破断部
- 25-
3-3
No.0 二次ケーブルの解体調査結果
破断した No.0 二次ケーブルについて、表 3-1 に示すような外観および解体調
査を実施した。表 3-2 に結果の概要を示す。
表 3-2
実施日
7月1日
7月5日
実施試験一覧
実施内容
外観調査
外形寸法およ
び長さ計測
捻れ計測
うねり計測
外観調査
X 線撮影によ
る芯線調査
外部シース解
体調査
内部シース解
体調査
実施箇所
備
考
破断部から
事故調査委員会の
50m までの部 指示の下に海洋科学
分
技術センターが実施
破断部から
事故調査委員会委
5m ま で の 部 員の立会いの下に実
分
施
事故調査委員会の
指示の下に検査会社
に委託
破断部付近
事故調査委員会委
アラミド繊維
お よ び 切 断 員長指名者(東京大
編組引っ張り試
部から 5m 付 学生産技術研究所海
験
近
中工学センター)の
立会いの下に実施
芯線解体調査 破断部付近
7 月 6 日~
アラミド繊維
破断部付近
11 日
編組顕微調査
7 月 17 日
表 3-2
調査項目
調査要領
外観調査
目視にてケーブ
ル外観を調査し、
傷、変形等の有無
について確認す
る。写真等に記録
する。
試験結果概要
判定基準等
キズ等の
有・無
結
先端からの
位置
2.8m部分
15.8m部分
17.6m部分
- 26-
果
内
容
キズ
膨らみ
有り
膨らみ
有り
表 3-2(続き)
調査項目
調査要領
試験結果概要
判定基準等
破断部を基準
として 5m 間隔で、
π尺およびノギ
外径寸法 ス を 用 い て ケ ー
建造時判定
および長 ブ ル 外 径 を 計 測 基準:
さ計測
φ28~29 mm
する。
レングスマー
ク間の長さを計
測する。
ケーブルの黒
線を基準として、
捻 れ 許 容
捻れ計測
捻 れ 量 を 計 測 す 値:45°/m
る。
うねりの有無
について調査し、
うねり
う ね り の
うねりがある場
計測
有・無
合はその山高を
計測する。
破断部から 5m
までの部分を
X 線撮影
90°離れた 2 方向
による芯線
から X 線により撮
調査
影し、芯線の様子
を調査する。
破断部から 5m
までの外部シー
スを細く裂いて
はがし、アラミド
繊維編組の状況
外部シー を調査する。
ス解体調査
破断部から 1m
までの外部シー
スを全周に亘っ
て解体し、アラミ
ド繊維編組の状
況を調査する。
3 本の動力
線、接地線お
よび光ファイ
バ芯線の異常
の有・無
-
- 27-
結
果
外径寸法
最大:29.60mm、
最小:28.00mm
(特異点部は除く)
レングスマーク間の長さ
は、全体的に 2cm 程度短くな
っていたが、製作時の検査項
目に無かったため、比較評価
はできない。
45°/m を越える箇所は無
かった。
うねりは無かった。
赤色動力線の破断部から
約 310mm、および約 410mm の
位置の 2 箇所の、内部導体に
ワライもしくは座屈状の変
形が認められた。他に 3 箇所
に内部導体の膨らみが、1 箇
所にヒゲ状のものが認めら
れた。(図 3-4)
破断部から 1m までの部分
のアラミド繊維編組には、数
箇所で大きく乱れとたわみ
が見られた。ゴムモールドが
固定されている部分に乱れ
が特に大きくなっている。
1 から 5m 部分には、大き
な編組の乱れは認められな
かった。(図 3-5)
表 3-2(続き)
試験結果概要
調査項目
調査要領
判定基準等
破断部から 1m ま
での内部シースを
全周に亘って解体
し、動力線・接地線・
光ファイバの状況
内部シー
-
を調査する。
ス解体調査
外部からは見え
なかった青色動力
線および接地線に
ついて切断部を確
認調査する。
18 本のアラミド
繊維編組の内 5 本
ア ラ ミ ド について、光学顕微
繊 維 編 組 顕 鏡および走査型電
微調査
子顕微鏡によって
外観および破断面
の観察を行う。
アラミド繊維編
組単位で引っ張り
試験を行い、強度を
計測する。No.0 お
よび No.4 二次ケー
ブルの引留部付近
と 5m 付近の 2 箇所
アラミド
について S,Z 各撚
繊維編組引
りのものを 3 本選
っ張り試験
択し、試験を行う。
試験する編組の長
さ は 、 300mm と す
る。比較用として、
同一規格の新品の
編組も試験計測す
る。
−
参考
メーカー
の受け入れ
検査基準:
240kgf 以上
結
果
青色動力線は、内部シース
切断部より、約 135mm の位置
で切断されていた。
接地線は、内部シース切断
部より、約 75mm の位置で切
断されていた。
どちらも被覆先端部には、
引きちぎられたような伸び
が観察された。
(図 3-6、図 3-7)
アラミド繊維編組の被覆
材に長期的若しくは繰り返
して曲げが付加されたこと
によると思われるシワが観
察された。繊維破損部に圧縮
により繊維が座屈したこと
を示す、キンクバンドが観察
された。
繊維破壊部に比較的短時
間で破壊したことを示すも
のと、長期的な疲労が付加さ
れたことを示すものとの、二
つの破壊形態が観察された。
新品の編組と比較して、実
海域で使用済みの編組は全
検 査 試 料 て破断張力が低くなってい
長 さ が 本 試 た。
験と異なる
(100mm) た
め、参考基準
とする。
- 28-
表 3-2(続き)
調査項
調査要領
目
X 線撮影により
異常が認められた
芯 線 解 赤色動力線につい
体調査
て、シースを解体
し芯線の様子を調
査する。
試験結果概要
判定基準
-
破断部より
約 310mm
図 3-4
結
等
果
赤色動力線の切断部より、
約 310mm、約 410mm および約
490mm の位置の 3 箇所の内部導
体に座屈状の変形が認められ
た。約 310mm および約 410mm
の位置では素線の一部が切断
されている半断線状態であっ
た。(図 3-8)
破断部より
約 410mm
X 線検査結果(破断部より 250~500mm 付近)
編組に大きな乱れが確認できる。
(ゴムモールドの当たっている部分に相当)
図 3-5
破断部から 1m までの外部シースを解体した写真
- 29-
75m
図 3-6
内部シースを剥いた芯線の写真(破断部から 150mm まで)
2mm
10mm
58mm
図 3-7
内部シースを剥いた芯線の写真(90mm から 200mm まで)
- 30-
図 3-8
赤色動力線の解体調査結果
上:破断部から約 310mm の位置の写真(半断線状態)
中:破断部から約 410mm の位置の写真(半断線状態)
下:破断部から約 490mm の位置の写真(ゴムモー
ルド部の内側に相当する位置、断線は認められな
い)
- 31-
3-4
No.3,No.4 二次ケーブル試験結果
アラミド繊維編組の内 2 本に切断が見られた No.3 二次ケーブル、および端末
加工後未使用の No.4 二次ケーブルを用いて、引留部の繰り返し引っ張り試験を
行い、これによって、アラミド繊維編組に折れ或いは切断が発生するかを確認し
た。
以下に、調査の概要について記す。
(1)試験内容
表 3-3 に試験に使用したケーブルの概要を示す。
まず、切断しているアラミド繊維編組が含まれている No.3 二次ケーブル
に、結合・離脱時の最大荷重に近い 472kgf を印加し、引っ張り試験を行った。
引っ張り試験は、ベルマウスを取り外し、中間接続金物を移動させて、外部シ
ース開口部の様子を確認しながら行った。
次いで、目視上は引留部に異常の認められない No.4 二次ケーブルについて
引っ張り試験を行った。この試験については、No.3 二次ケーブルの試験結果
を考慮し、200,300,400kgf と負荷を変えて引っ張り試験を行って、二次ケー
ブル引留部近傍の外部シース開口部でアラミド繊維編組の伸びを計測した。そ
の後、負荷を 300kgf に固定して、690 回の繰り返し引っ張り試験を行った。
繰返し引っ張り試験は、通常の運用状態を模擬するため、ベルマウスおよび中
間接続金物を正規の位置に取り付け、また、通常の運用で発生する二次ケーブ
ルの押し込みを考慮して、ケーブル先端部の重みがかかるようにして行った。
表 3-3
製作
試験前の二次ケーブルの状態(図 3-9 参照)
No.3
No.4(再加工後)
参考値
No.4 再加工前
1999 年 3 月
2003 年 5 月
(端末再加工)
2000 年 2 月
潜航回数
潜航時間
使用時間
19 潜航
123 潜航
未使用
167 時間 06 分
818 時間 57 分
81 時間 01 分
458 時間 39 分
アラミド繊維編
アラミド繊維編
試験前の抗
組のうち 2 本が切
異常なし
組 18 本中 9 本が切
張力体の状態
断している。
断
2003 年 3 月 21
2003 年 5 月 3 日アラミド繊維編組の
特記事項
日分離揚収を行っ 切断を確認。ケーブル先端を切詰めて
た。
端末再加工した。
- 32-
(2)試験結果概要
試験結果について概要を表 3-4 にまとめる。
表 3-4
引っ張り試験結果概要
ケーブル
試験名
荷重
番号
No.3 二
引っ張り
次
472kgf
試験
ケーブル
200 kgf
引っ張り
300 kgf
試験
400 kgf
No.4 二次
ケーブル
結
果
クレーンで吊り上げて、引留部に荷重が
かかったのとほぼ同時に、アラミド繊維編
組が全数切断した。(図 3-10)
負荷を増やすに従って、引留金具端と外
部シース間は広がった。構造には特に変化
は見られなかった。(図 3-11)
(1) 50 回(通算 111 回)荷重付加後の外部シ
ース開口部の状況
一部アラミド繊維編組が折れ曲がって
いることが確認された。引留金具近傍に
押し込みの力がかかった場合、アラミド
繊維編組の折れ曲がりが発生することが
繰返し引っ
分かる。また、アラミド繊維編組の折れ
張り試験
曲がりは、ブチルゴムをまいた部分と外
690 回 ( 引
部シース端部の間で発生していることが
300 kgf
っ張り試験
わかる。
と通算して
(2)以後の外部シース開口部の状況
750 回)
繰り返しの回数が増えるにつれて、ア
ラミド繊維編組の折れ曲がっている箇所
が増えたが、顕著な折れ曲がりが発生し
ているのは、S 巻き編組がブチルゴム上
端にかかる部分がほとんどであった。
(図 3-12)
- 33-
切断
(a)
折れ曲がり(座屈) 赤丸
青
No.3 二次ケーブル
(b)
No.4 二次ケーブル
図 3-9 試験前の二次ケーブル引留部(ベルマウスを外し、中間接続金物を移動さ
せて、アラミド繊維編組が見える状態にした写真)
図 3-10 No.3 二次ケーブル引っ張り試験結果(アラミド繊維編組が切断され、引留
金具内に位置していた内部シースが上部へ抜けてきている。)
(a)
200 kgf 印加
(b)
- 34-
300 kgf 印加
図 3-11
(c) 400 kgf 印加
引っ張り試験において荷重を印加した状態
折れている
ブチルゴムを巻い
た部分
浮いている
のが見える
(a)
繰り返し荷重 51 回印加後
(b)
(c) 繰り返し荷重 300 回印加後
図 3-12
(a)の写真の反対側
(d) 繰り返し荷重 688 回印加後
繰り返し引っ張り試験時の状況
- 35-
3-5 二次ケーブル引留部近傍におけるアラミド繊維編組の切断原因
「かいこう」ビークルは、No. 0 二次ケーブルの破断により浮上、漂流した。
二次ケーブルの破断は、ケーブル引留部近傍のアラミド繊維編組の切断を契機として起
こったことが分かった。そこで、No. 0 二次ケーブルのみならず、No. 3 および No. 4 二次ケ
ーブルについてアラミド繊維編組の切断原因を調査した結果、これらには共通の原因があ
り、以下のように通常の運用によっても座屈や切断が発生することが明らかになった。
(1)二次ケーブルに加わる張力
通常の運用で二次ケーブルに加わる張力には、以下のように 2 種類あり、ビークルとラ
ンチャーの水中における結合・離脱による張力が最も大きい。なお、二次ケーブルの破
断強度は、設計上 3tonf 以上である。
① ビークル・ランチャー結合・離脱時
最大 450 kgf(水中)
最大 200 kgf(船上)
② ビークル海底作業または分離曳航時
最大 400 kgf
結合・離脱時は、ランチャーとビークルの方位を一致させるため、ケーブル先端もしくは引
留金具本体には、大きな捻れは生じない。また、ビークル海底作業や分離曳航中のビーク
ル回頭に伴う捻れも、繰り出したケーブル長(最大約 200m)に分散されるため、ケーブル先
端部に曲げが生ずることはあっても、局所的捻れは生じないと考えられる。
(2)二次ケーブル引留部近傍の構造
二次ケーブルは、3 相動力線、接地線およびマルチモード光ファイバユニット等からな
る撚り線を内部シースで被覆し、アラミド繊維編組を抗張力体として、外部シースで被覆
した構造である。高水圧下の使用を考慮して、内部に空隙がないように、充填剤を注入
している。
図 3-16 に引留部の概略構造を示すように、二次ケーブルの引留は、先ず外部シース
を剥いで 18 本のアラミド繊維編組をむき出し(さらに各編組に被せたナイロンチューブ
を除去し)、これらを内部補強金物に被せたのち、引留金具に接着剤を注入して固定
するもので、合成繊維の端末引留として一般的な方法である。「かいこう」二次ケーブル
の場合、端末加工上の理由により、引留金具から(ランチャー側に)40mm にわたってア
ラミド繊維編組がむき出しになっている。これを外部シース開口部(以下単に開口部)と
呼んでいる。開口部の編組には、透明ポリエステル粘着テープが巻かれ、その外側は
中間金物で保護されている。また、ナイロン製エレファントノーズにより、引留金具近傍
においてケーブルに強い屈曲が加わるのを避けている。
今回、No. 0 二次ケーブルで発生したアラミド繊維編組の切断は、引留金具内部(接
着部)ではなく、ランチャー側ケーブルの外部シース開口部で発生した。
- 36 -
(3)引留部近傍開口部におけるアラミド繊維編組の損傷プロセス
破断した No. 0 二次ケーブルを使用する前は、No. 4 二次ケーブルを使用していた。
No. 4 二次ケーブルは、ビークル側油浸電線に漏油が生じたため、引留部を点検したと
ころ、開口部のアラミド繊維編組 18 本中、右(Z)撚りの全数 9 本が切断していることが分
かった。このため、No. 0 二次ケーブルと交換したが、同ケーブルも右撚りの編組 1 本が
切断していた。メーカーと相談した結果、当面の使用には支障ないと判断した。しかし、
ケーブル交換後 3 回目の運用で二次ケーブルが破断してしまった。いずれの運用にお
いても、二次ケーブルの設計破断荷重である、3tonf の張力がかかっていなかったこと
は、張力記録からも明らかである。
以上のことから、二次ケーブルおよび引留部の構造から見て、高水圧や過張力が必
ずしも加わらなくても、二次ケーブルが破断するのではないかと考えられる。すなわち、
以下のようなプロセスによって、開口部のアラミド繊維編組が損傷し、切断に至ったと思
われる(図 3-16 参照)。
①一般に、編組構造は張力の印加によって伸び、張力の除去によって元の長さに戻る。
②編組に張力が加わると、内部シースは編組と強く密着するため、編組構造の伸びと共に
内部シースがランチャー側に引き出される。
③一方、外部シースと編組の間は、水圧によって変形や微小曲げが起こりにくいように充
填剤で満たされている。これには潤滑作用もあり、外部シースに対して編組が自由に動
けるようになっている。実際には若干の摩擦があるため、内部シースと共に外部シース
もランチャー側に引き出される。この引き出し量は、内部シースに比べて少ないと考えら
れる。これによって、外部シースの開口部が広がる。
④次に、張力を除去すると、編組構造が縮んで内外シースがビークル側に引き戻される。
この時の引き戻し量は、内部シースの引き出し量に規制されるため、外部シースがポリ
エステルテープを押し下げて、テープがめくれ上がる。
⑤テープがめくれ上がると、編組の押さえがなくなるため、張力が緩んだ際に編組の膨らみ
が生じ(「バードケージ」と呼ぶ)、屈曲する。
⑥この屈曲を繰り返すと、アラミド繊維編組が座屈し、最終的に切断に至る。
⑦屈曲や座屈によって編組に乱れが生じれば、それぞれのアラミド繊維にかかる荷重が
不均一となり、さらなる座屈や損傷を発生させる。これにより、切断へのプロセスが加速
される。
すなわち、二次ケーブル引留部近傍におけるアラミド繊維編組の座屈や切断は、高
水圧や分離揚収等によらなくても、通常の運用における張りと緩みによっても発生する
と考えられ、端末引留部の構造や、ケーブル自体の構造に起因して起こる可能性があ
る。
(4)No. 3 および No. 4 二次ケーブル引留部引っ張り試験
そこで、他の二次ケーブルについても、上記の仮説が成り立つか否かを確認するため、
- 37 -
No. 3 および No. 4 二次ケーブルのビークル側引留部について、陸上で繰り返し引っ張
り試験を行った。これらのケーブルは、端末加工され、予備ケーブルとしてドラムに巻い
て保管してあったものである。実際のランチャー・ビークル結合・離脱時の条件を再現す
るため、ケーブル全長をドラムに巻いたまま、引留金具に重錘を吊って、ケーブルに張
力を加えることにした。
No. 3 二次ケーブルは、開口部の編組が 2 本切断しており、No. 0 二次ケーブルと同
様な編組の条件であったと考えられる。そこで、No. 3 二次ケーブルに、結合・離脱時の
最大張力に近い、472 kgf の静的引っ張り力を加えたところ、1 回の加重で開口部のアラ
ミド繊維編組が全数切断した。
No. 4 二次ケーブルは、前述のように 18 本中 9 本の編組が切断していたため、先端か
ら 5m切断した後、復旧したものである。No. 4 二次ケーブルは、200 kgf から 400 kgf の
静的張力を加えて異常のないことを確認した後、300 kgf の繰り返し張力を合計 750 回
印加した。その結果、50 回目で開口部の編組が座屈し、回を重ねる毎に編組の座屈が
増えることが明らかになった。
すなわち、No. 3 および No. 4 二次ケーブルにおいても、上記の仮説が成立することが
証明された。
(5)アラミド繊維編組切断についてのまとめ
以上より、No. 0、 No. 3 および No. 4 二次ケーブルのアラミド繊維編組は、「非常揚
収による過張力」、または「スナップロードのような過張力」によってのみ切断するのでは
ないことが明らかになった。ただし、繰り返し引っ張り試験に使用した No. 4 二次ケーブ
ルの引留部は未使用であったが、ケーブル自体は既に繰り返し使用済みのものであり、
新品ケーブルにおいても仮説が成立するか、今後検証が必要である。
No. 0 二次ケーブルについて、ビークル側先端引留部のみならず、先端から 150mお
よび 200m付近について、外部シースをはがしてアラミド繊維編組を点検したところ、先
端部と同様な縦皺(編組の折れと考えられる)が存在することが分かった。この縦皺は、
実装時には確認できなかったもので、各編組に直交したものではなく、ケーブルに直交
していることから、ケーブルの屈曲によるものではないかと考えられる。また、No. 0 およ
び No. 4 二次ケーブルについて、先端から 5mまでのアラミド繊維編組の単体引っ張り
試験を行ったところ、未使用編組の引っ張り強度(240 kgf 以上)に比べて、平均 33%強
度が低下していることが分かった。
アラミド繊維編組切断部の電子および光学顕微鏡観察を行ったところ、アラミド繊維
編組の疲労や劣化を確認した。
① アラミド繊維ナイロン被覆材に、繰り返し曲げを示唆する皺が観察された(図 3-13 参
照)。
② アラミド繊維単繊維については、キンクバンド(繊維の座屈を示す構造)が観察された
- 38 -
(図 3-14 参照)。
③ また、繊維の長期的な疲労を示すフィブリル化(繊維の再分割)も観察された(図
3-15 参照)。
これらのことから、何らかの原因で編組に縦皺が生じ、本来の強度が低下したところに、
上述の繰り返し屈曲が加わり、急速にアラミド繊維編組が劣化して切断に至ったと考え
られる。縦皺発生の原因としては、高水圧下におけるケーブルの屈曲が考えられる。特
に、No. 0 二次ケーブルは外部シース表面に編組の形状が浮き上がって見えるため、
均圧構造が十分ではなかった可能性がある。
図 3-13 皺
図 3-14 キンクバンド
図 3-15 フィブリル化
- 39 -
引留め金具
接着剤充填部
外部シース開口部 ポリエステルテ-プ
外部シース
40 m m
ケブラー編組
アラミド繊維編組
ビークル側
ランチャー側
ブチルゴム
内部補強金具
内部シース
繰り返し張力
0
4
-
メクレ
屈曲→座屈
図図-1 二次ケーブル引き留め部近傍構造図
3-16
第4章
浮上後ビークルを発見できなかった原因
4-1
ビークル浮上時刻のケーススタディ(二次ケーブル破断時刻の推定)
二次ケーブル破断時刻の推定を行った。ランチャー上昇速度は、当日の現場記録
をもとにした。この結果、バラスト投下前の 14 時 7 分頃、ランチャー深度約 3700m
(ビークル深度約 3950m)で二次ケーブルが破断したか、または 16 時 30 分頃、ラン
チャー深度約 125m(ビークル深度約 250m)付近で二次ケーブルが破断した可能性が
あることが分かった。
(1)
二次ケーブル破断時の安全対策
① ビークルの二次ケーブル破断時の安全対策は、「ビークルの電源喪失」等の条件でビ
ークルに取り付けたバラストやサンプルバスケット等をタイマーで自動的に投棄して、ビ
ークルの浮力を増し、海面に浮上させて機体を回収することとしていた。
② 事故当日のビークルの重量浮量計画は、72kgf のバラスト、17kgf のサンプルバス
ケットと 18kgf のペイロード(観測機器)を投棄することとしていた。
③ 事故当日のペイロードの結線状態から、サンプルバスケット等が切り離されな
かった可能性があり、二次ケーブル破断後のビークル水中重量については、下
表 4-1 のケースが考えられる。
ケース1
ケース2
ケース3
表 4-1 ビークル水中重量について
バラストのみ落下。サンプルバスケットとペイロード全て残って
いる。
バラストとペイロードの一部が落下。サンプルバスケットと一部
ペイロードが残っている。
バラスト、サンプルバスケット、ペイロード全て落下。
(2)ビークル浮上に関する条件
① ビークルの重量・浮量を、最も可能性の高い「ケース2」(表 4-1)とした。
② ラジオビーコン受信時刻(16 時 48 分)を、ビークル浮上時刻とする。
③ 「ケース2」の条件より、各深度におけるビークル浮力から、浮上速度を計算
する。深度をいくつかの区間に分け、各区間を上昇する所要時間を計算する。
ビークル浮上時刻よりこの時間を引き、各深度の通過時刻を算出した。これが、
図 4-1 のビークル浮上ライン(緑色実線)である。
- 41 -
(3)図 4-1 の解説
図 4-1 において、ピンクの実線は、ランチャー上昇ラインを示す。(1)の条
件より、ビークルが 16 時 48 分に浮上するためには、どこかでビークル浮上ライ
ン(緑色実線)に乗る必要がある。このラインに乗る可能性としては、以下の 2
つのケースが考えられる。
① バラスト離脱前に破断した場合
ランチャー揚収時、二次ケーブルが全て繰り出されていたことから、二次ケー
ブルの破断は、ブラックアウト直後ではなく、早くても約 250m 繰り出されてか
らと考えられる。したがって、一次ケーブル巻上後、ビークルは、図 4-1 の青い
点線のようにランチャーの下部 250m に、二次ケーブルにぶら下がった状態で上
昇を開始したと考えられる。
一方、バラスト離脱前は、ビークルは負の浮力(沈みがち)となっているため、
二次ケーブルが破断すると、約 20m/分の下降速度に従って沈降する。
ブラックアウト後、14 時 7 分頃、ランチャー深度約 3700m(ビークル深度約
3950m)まで、ランチャーと共に上昇し、ここで二次ケーブルが破断し、図 4-1
の緑色の一点鎖線に従って沈降した。14 時 29 分にバラストを離脱し、ビークル
浮上ラインに乗って、16 時 48 分に海面に浮上すると考えられる。
② バラスト離脱後に破断した場合
バラスト離脱直後、図 4-1 青色点線に従い、ビークルは上昇する。この時、上
昇するにつれて二次ケーブルの自重が加わり、ビークルは緑色の実線より遅い速
度で上昇する。ビークルは、二次ケーブルとつながっているため、ランチャーの
上 250m まで上昇する。しかし、ランチャー深度が浅くなるにつれて、ビークル
の浮力が減少するため、深度約 1250m 付近よりビークル浮上速度がランチャー浮
上速度より遅くなり、再びビークル浮上ラインと交わる(この場合も、二次ケー
ブルの自重を入れて考えている)。図 4-1 より、16 時 30 分頃、ビークル深度約
250m 付近で二次ケーブルが破断した場合、ビークル浮上ラインに乗って 16 時 48
分に浮上する。
尚、ケーブル自重は、ビークルとランチャーの距離により配分を行った。
(4)まとめ
ビークルの重量・浮量条件として最も可能性の高い「ケース2」(バラストと
ペイロードの一部が落下、サンプルバスケットと一部ペイロードが残っている)
について、二次ケーブル破断時刻を推定した結果、次の2つのケースが考えられ
る。いずれの場合にも、二次ケーブルの破断は、ブラックアウト直後ではないこ
とが明らかになった。
① 14 時 7 分頃、ランチャー深度約 3700m(ビークル深度約 3950m)で二次ケーブ
- 42 -
ルが破断し、ビークルが 4300m まで下降した後、
14 時 29 分にバラストを離脱し、
ビークル浮上ラインに従って 16 時 48 分に浮上した。
② 16 時 30 分頃、ランチャー深度約 125m(ビークル深度約 250m)付近で二次ケー
ブルが破断し、ビークル浮上ラインに従って 16 時 48 分に浮上した。
深度(m)
0
250
C
14:29
バラスト離脱時刻
500
750
1000
1250
1500
1750
16:39
ランチャー水切り時刻
296DIVE潜航時ビークル下
降速度グラフ
2000
2250
- 44 -
2500
16:48
ビークル浮上時刻
(ビーコン受信時刻)
2750
3000
3250
ランチャー上昇ライン
3500
ビークル浮上ライン(ケース2)
3750
C
4000
4250
図 4-1 ランチャー/ビークル浮上時刻と深度の関係
16:45
16:40
16:36
16:32
16:27
16:23
16:19
16:14
16:10
16:06
16:01
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13:39
13:35
13:30
13:26
4500
時刻
4-2
浮上後ビークルを発見できなかった原因
「かいこう」は、ビークルの電源が喪失した場合、タイマーにより1時間後にバ
ラスト切離装置が作動し、バラストおよびサンプルバスケットが切り離され、海面
に上昇、浮上する。切離装置の作動と同時に、リンク機構によりラジオビーコンが
起立し、海面浮上後、電波を発射する仕組みになっている。母船では、この電波を
頼りにビークルを発見し、回収を行うシナリオであった。
平成 15 年 5 月 29 日、二次ケーブルが破断して「かいこう」ビークルが、前節 4-1
の浮上シナリオにより海面に浮上したと考えられる。しかし、「かいれい」船上では、
ラジオビーコン信号を 3 回連続して受信したのみで、その後は受信できず、ビーク
ルの手がかりは全く得られていない。
ビークル浮上後発見できなかった原因として、以下が考えられる。
(1)ブラックアウト発生後、ビークルの水中位置が測定できなかったこと
ビークルにはレスポンダが搭載されていたが、ランチャーとの間で音響測位を
行う機能しかなかった。また、レスポンダにはバックアップ・バッテリー等は装
- 43 -
備されておらず、ブラックアウト後は音響測位ができない構造であった。このた
め、浮上中のビークルを追跡できず、浮上位置を特定することができなかった。
(2)ラジオビーコンを3回しか受信できなかったこと
ラジオビーコンは、ビークル浮上の判定や浮上方位の測定に重要な装置であっ
たが、ビーコンは3回しか「かいれい」船上で受信されず、方位を特定すること
ができなかった。その理由として、事故当時、台風4号の影響により海象が悪化
しており、強風と強い砕波によりアンテナが破損して送信できなくなった可能性
が考えられる。
ビークルは余剰浮量が少なく、浮上しても海面スレスレと考えられるので、時
化模様の海上で船上からの捜索で見落した可能性は否定できない。フラッシャー
を搭載していなかったので、夜間の捜索も出来なかった。
以上のように、ラジオビーコンが浮上したビークルの唯一の確認手段であった
事が、浮上後のビークルを発見出来なかった要因の一つと考えられる。
(3)ビークルが海面下で漂流した可能性
ビークルは余剰浮量が少ないので、一旦浮上した後、まもなく水没した可能性
がある。事故当時の海面付近は、海水密度が小さく、ビークルの浮力が少なくな
るため、ビークルはいったん浮上した後、暖かく密度の小さい黒潮域に入り、余
剰浮量が小さくなって海面下を漂っている可能性がある。ビークルが海面下で漂
流していれば、発見することはほとんど不可能である。この場合は、海面付近の
密度が大きくなる冬季や、親潮域に入れば浮上する可能性がある。
(4)海底に沈没した可能性
ビークル浮上後、広範囲にわたる海上捜索にも拘わらず、海底に沈没した証拠
となる浮力材や、機体の一部は発見されていない。したがって、ビークルが海底
に沈没した可能性は低いが、台風4号に伴う時化によって、浮力材が脱落して没
した可能性を完全には否定できない。
- 44 -
第5章
安全に関する対応
5-1 安全装置について
(1)「かいこう」建造時の安全装置
1万m級無人探査機「かいこう」の研究開発は、昭和 61 年に開始され平成7年3月マ
リアナ海溝チャレンジャー海淵の世界最深部への試験潜航をもって終了した。
この間、JAMSTEC 内に「1万m級無人探査機建造プロジェクトチーム」を設置して、
安全対策も含めて技術的な検討・評価を行った。
二次ケーブル破断後の安全対策は、システムの軽量化を優先したことから「ビークル
の水中測位用トランスポンダ」および「ビークル浮上後の夜間確認用フラッシャー」など
は装備されず、「バラスト投棄装置」と「ラジオビーコン」のみとなった。
(2)「かいこう」建造時の安全性評価
JAMSTEC では、調査・研究に係わる安全を確保するために、昭和 63 年4月に研究
安全委員会を設置し、マニュアル、安全基準等の安全上の諸問題を検討・審議してい
る。
しかし、「かいこう」の安全性については、上記の「1万m級無人探査機建造プロジェク
トチーム」で検討・評価したことから、研究安全委員会では審議されなかった。
JAMSTEC では、すでに「ドルフィン-3K」の建造・運用実績があり、深海用無人探査機
の技術的な外部評価は必要ないと判断していた。
(3)「かいこう」建造後の安全装置の見直し
複雑な「かいこう」システムを使いこなすために、補正予算などを使って一次ケーブル
の破断等に対する安全対策や改善が行われた。しかし、二次ケーブル破断については、
設計破断張力3tonf に対し、500kgf 以上の張力が加わることがないことから考えが及ば
なかった。
また、JAMSTEC では「かいこう」が順調に運用されていたこともあり、二次ケーブル破
断後の安全対策の見直しは行われなかった。
5-2 「かいこう」の保険について
(1)これまでの「かいこう」の保険について
JAMSTEC では、所有船舶が損傷した場合の修理費等を確保するため、JAMSTEC
の規定に基づき、保険を付保している。
「かいこう」も所有船舶と同様に完成当初から平成 14 年度までは、船舶保険および船
主責任保険(通称 P&I 保険)を付保していた。
(2)平成 15 年度の「かいこう」の保険について
平成 15 年度の「かいこう」を含む無人探査機の保険は、JAMSTEC の財政状況が厳
- 45 -
しく、研究の推進に必要な運用経費、整備費の確保を優先するため、また、過去の運
用実績の中で、さしたるトラブルがないこと等から第三者に損害を与えた場合に損害を
填補する P&I 保険を除いて、船舶保険を付保しなかった。このため、ビークルの再建
費用を保険により捻出することができなくなった。
- 46 -
第6章 事故に対する委員会所見
本章は事故に関連する事項を、委員会所見としてまとめたものである。
6-1 二次ケーブルについて
(1)二次ケーブルの開発について
「かいこう」は、高圧という特殊環境で使用される装置であり、それを考慮した評価試験
が必要である。二次ケーブルが構造的に引留部が弱いことは明らかであり、高圧環境
下における引留部の試験が必要であった。検討が不十分であったために、事故が発生
したとも考えられる。
運用とは別に高圧環境下の試験を行うには、多くの費用と時間がかかるため、実機の
運用現場で検証する手法に頼らざるを得ないことは理解できる。また、発展途上の技術
であるために、二次ケーブルを消耗品と見なして用い、その欠点を補うという手法につ
いても理解できる。
しかし、高圧環境下の試験ができるような設備を整え、技術の基礎を支えることこそ
JAMSTEC の使命なのであり、検証されていない技術については、不断の改善のため最
新技術動向のフォローと運用のフィードバックを怠らない体制を作ることが重要である。
(2)二次ケーブル開発時の性能確認試験について
建造中のマリアナ海溝における試験において、高圧下で二次ケーブルの光ファイバ
が座屈し、ブラックアウトが発生した。調査の結果、この原因は均圧・潤滑が不十分であ
ることから、抗張力体のアラミド繊維が切断したことを契機としていることが分かった。対
策として、二次ケーブル外部シースと内部シースの間に充填材を入れ、高圧環境下で
の試験装置を製作し、変更の効果を確認した。今回の事故原因である引留部における
アラミド繊維についての諸問題は、短期間で実施される建造段階での実海域試験では
見いだすことができないことは理解する。しかし、繰り返し長期間使用することで生じる
問題は多数あり得ることから、運用部門と開発部門は常により緊密に情報交換・技術交
流し、機器類の改良が迅速にできるような体制を構築すべきである。
(3)二次ケーブル抗張力体材質の検討について
抗張力体の材料にアラミド繊維を使用しているが、アラミド繊維は引張応力には強い
が、剪断応力に対しては非常に弱いことが知られている。建造当時、ポリエチレン、ボロ
ン、カーボン等他の繊維についても検討されたが、ケーブルを中性浮量とすることや、
引留部で接着できない繊維もあることから、アラミド繊維が採用された経緯がある。
「かいこう」の設計・建造からほぼ 10 年経過しており、現在は、さらに優れた材質も実
用化されている。今後は、抗張力体の材質として、他の繊維の可能性も含めて再検討
すべきである。
(4)二次ケーブル点検要領について
- 47 -
メーカーが作成した検査要領では、通常点検整備作業として引留金物出口部の点検
を指示している。また、運用に当たっては、引留部とゴムモールド部の長さを適宜計測し、
外観に異常が見られた場合には、目視検査を実施していた。アラミド繊維は、外観検査
のみで異常の有無を判断することが難しいが、他に方法がない以上、ケーブル破断は
引留部で発生することが多いことから、上記要領には中間接続金具を開放して点検す
るという具体的な指示はないものの中間接続金具を開放して編組を検査しなかったの
が惜しまれる。
二次ケーブル点検については、JAMSTEC の経験を反映させた検査要領を定め、引
留部についても、一次ケーブルのレントゲン検査のような手法を開発すべきである。ま
た、簡単に外観からの検査ができるような引留部の構造を検討する必要がある。
(5)No.0二次ケーブル使用可否の判断について
事前の検査において、破断部近傍のアラミド繊維の編組 18 本中、1本の切断を確認
したが、寸法計測、外観検査(アラミド繊維編組、ポリエステルテープの乱れ)、電気特
性計測、光特性計測および全長にわたる目視点検を行い、メーカーの意見を聞き、定
期的な点検・観察を行えば当面の使用は問題ないと結論して使用した。当時の知識で
はやむを得ない判断であるが、アラミド繊維は、外観検査では強度の低下の程度を判
断することは困難であり、また深海用の二次ケーブルは発展途上の技術であることから
慎重な対応が必要であった。
(6)二次ケーブル張力の計測について
二次ケーブルには、スナップ的な張力が働く可能性があり、潜航中にどのような張力
がかかっているかを把握する必要がある。現状の2秒毎のサンプリング周期では、デー
タを受信する間に高張力がかかる可能性があり、張力のピークを正確に取得できないと
思われるので、張力計測法を見直す必要がある。
6-2 事故発生後の対応について
事故発生時、二次ケーブルの抗張力体(アラミド繊維編組)が破断し、内部シースと電線
のみでつながれていたにも拘わらず、ランチャーとの結合を試みている。最も確実な通常揚
収を行うため、結合を第一義に考えたことは理解できる。しかし、抗張力体が切れた二次ケ
ーブルを巻き込むことによって、電力および通信線の破断が起き、これがビークルの亡失
に繋がる危険性があることを過小に評価していた。たとえケーブルが破断したとしてもラジオ
ビーコンによって発見できて、ビークルを回収できると設計上では考えていたからである。
当日の現場海域は、台風接近に伴い時化模様であり、海況は時間の経過と共に悪化す
る事が懸念された。このため、一次ケーブルの巻き上げを直ちに開始したことも理解できる。
高圧給電遮断後の一連の対応は、二次ケーブルの強度低下を考慮し、緊急時の揚収要
領に従って、分離揚収で過去に実績のある 30m/分よりも更に減速した 25m/分で巻き込ん
だことは慎重な対応と評価できる。バラスト投棄前でも、ビークル水中重量は数 kgf 程度しか
- 48 -
ないため、ケーブルに負担はかからないと考えた。また、ランチャーの上下動もほとんどなく、
動揺による衝撃荷重はほとんどないと判断した。しかし、ランチャーの深度記録によれば、
40cm の上下動があった。また、二次ケーブルの張力記録によれば、スナップ張力がないと
はいえなかった。
このように初めて遭遇する事故は、予想していなかった現象・事例が連続的に起こること
により発生するもので、その対応経験は大変貴重である。この経験を今後の運用に反映さ
せることこそが重要である。
6-3 二次ケーブル破断後の安全対策について
ビークルが行方不明になった二次的要因として、二次ケーブル破断後のビークルの安全
対策が、バラスト投棄とラジオビーコンのみであったことが挙げられる。ラジオビーコンの他
に、海中位置確認用トランスポンダや、浮上時の夜間確認用フラッシャー、GPS 装置、
ARGOS 装置等の装備を検討すべきである。
建造時の計画ではトランスポンダおよびフラッシャーを装備する予定であったが、ビーク
ルの軽量化と建造費の制約により、ビークルが海面に浮上すれば目視で発見、回収が容
易であると判断して、除外された経緯がある。結果として、ケーブル破断時の安全対策が不
十分なものとなった。
また、ビークルや二次ケーブルのトラブルにより、たとえ給電断となっても、ランチャー側の
給電系は生きているようにすることが望ましい。
さらに、二次ケーブル破断後のビークルの十分な浮量の確保についても検討する必要が
ある。
「かいこう」の場合、ビークルやランチャーの搭載機器を耐圧 1 万 m 仕様にする必要がある。
仕様に合致する市販品は少なく、多くが特注品となることが、建造費が高くなった一因であ
る。しかし、耐圧 1 万 m が要求される装置は、「かいこう」以外にはないため、多くの装置を
開発しなければならないことは明らかである。当初装備できなくとも、新しい機器を開発して、
安全性と信頼性を高める努力が JAMSTEC において十分でなかったといえよう。これは、二
次ケーブルについてもあてはまる。
- 49 -
第7章 今後の対応に関する提言
今回の事故を教訓に、JAMSTEC が事故を乗り越え、新たな深海技術の開発に取り組む
ために以下を提言する。
7-1 二次ケーブルの改善について
「かいこう」二次ケーブルは、高水圧によって外形が変形したり、内部の抗張力体、電線
および光ファイバー等に内部変形や損傷がないように、内部の空隙を出来る限り充填し
てケーブル内外の圧力をバランスさせている。現在の二次ケーブルは、抗張力体に皺や
キンクバンドが見られるなど、抗張力体の均圧が完全ではないと思われる。また、接地線
や動力線にも座屈が見られる。このため部分的な改良に留まらず、構造や引留方法を変
更した二次ケーブルを新たに設計し、十分な試作試験を行った上で、より耐久性の高い
二次ケーブルを新規に製作すべきである。
7-2 二次ケーブルの当面の運用について
現在の設計の二次ケーブルを一時的に使用する場合は、二次ケーブルが消耗品であ
るという立場にたって、マニュアルを整備し、必要な点検を行い慎重に運用すべきであ
る。
7-3 二次ケーブル破断時の安全対策について
二次ケーブルが破断することを前提として、浮力を確実に確保し、浮上中、ビークルの
水中位置を確実に捕捉し、浮上後、確実にビークルを回収できるようにすべきである。
7-4 運用と技術開発について
無人機の運用における技術的な問題点が、深海技術の基礎を充実させるという観点で、
運用技術が技術開発部門に確実にフィードバックされるような組織的な構造を構築する
必要がある。
また、最先端の深海調査を推進するためには、最新技術を持続的に導入することが不
可欠であり、安全を含めた技術的な見直しを定期的に行う仕組みが必要である。
7-5 保険について
深海研究に使う無人機は、有人潜水船などの他のシステムでは実現できない活動を行
っている。大型無人機については、亡失した場合に再建費用を短期間で捻出することが
困難であり、また、海中無人機技術において 100%の信頼性を求めることが困難であるこ
とから、JAMSTEC は、共用して運用する大型無人機がトラブルに見舞われた場合を想定
し、迅速に復旧して運用を継続するために、代替機の準備や保険などの方策を検討す
ることが望まれる。
7-6 深海での観測・作業の重要性の認識への努力
- 50 -
深海での観測・作業は、第1部第5章に書かれているように、国民生活の安全・安心の
ために必要不可欠なものである。それを実現するのが「かいこう」をはじめとする海中機器
の開発であったのだが、その必要性と重要性および技術の困難さに対する国民の理解
を得る努力が不十分である。
JAMSTEC は、深海での観測と作業の重要性がより多くの人に、認識されるように努力
する必要がある。
- 51 -
第8章 まとめ
JAMSTEC の1万m級無人探査機「かいこう」ビークルは、平成 15 年 5 月 29 日、高知県室戸
岬沖の南東約 130kmの南海トラフにおいて、二次ケーブルの破断により浮上、漂流した。6 月
21 日まで、海空から広域の捜索を行ったが、ビークル発見の手がかりは得られていない。
今回の事故を重視し、平成 15 年6月 17 日付けで設置された『「かいこう」ビークル漂流事故
調査委員会』において、4回の委員会を開催して事故原因を究明し、対策を検討した。
その結果をまとめると、以下のようになる。
8-1 二次ケーブルの破断について
(1)No.0 二次ケーブルの破断は、荷重試験および解体検査等の結果から、設計破断強度を
上回るような張力によるものではなく、ランチャー・ビークルの結合・離脱や、通常の運用
によって、引留部近傍のシース開口部におけるアラミド繊維編組の強度が低下したこと
が原因であったと推測される。これはさらに、引留部の構造や、ケーブルの高水圧に対
する耐久性に起因するものと考えられる。
(2)二次ケーブル引留部については、マニュアルに明確な保守点検の規程や安全性に関す
る基準がなく、運用上の盲点になっていた。
(3)引留部近傍の編組が、一部損傷していたことを確認していたにも拘わらず、損傷の重大性
に対する認識が甘く、十分な検討をせずに No.0 二次ケーブルの使用を決めたことが事
故発生につながった。
8-2 事故全般について
(1)「かいこう」は、平成 7 年から平成 15 年までの 296 回の潜航において、重要な科学的成果
をあげ、多くの社会的貢献も行ってきた。複雑なシステムにも拘わらず、永年の試行錯
誤の積み重ねと、運用法の改善により現在の運用技術を確立したことは、高く評価す
る。
しかし、「かいこう」は世界唯一の1万m級無人探査機の一号機であるが、技術的に課
題の多い二次ケーブルについては建造当初から改良等の見直しのないまま、運用され
ている。このことは、JAMSTEC の技術開発部門と運用部門との連携不足を示唆してお
り、今後は密接な関係を構築することが必要である。
(2)事故発生時の対応については、マニュアルに従うと共に、台風の影響を考慮しており、経
験のない事態に対して、十分とは言えないが運用上大きな手落ちはなかった。ただし、
今回のトラブルを踏まえ、緊急時におけるマニュアルを、現実に則して改訂する必要が
ある。
(3)建造当初、システムの軽量化や予算の制約により、安全装置等が十分整備できなかったの
はやむを得ないが、その後適切な改善が行われなかったことは、事故拡大の一因とな
- 52 -
った。今回の事故を踏まえ、JAMSTEC において安全のための技術開発を促進し、安全
評価体制を見直す必要がある。
(4)二次ケーブルの開発中、光ファイバーのマイクロベンディングが発生し、高圧下試験等を
行って、高水圧の影響に対処したが、今回の事故原因である引留部におけるアラミド繊
維の諸問題については、見出すことは出来なかった。開発に際しては、想定される可能
性を十分検討した上で試験を行う必要がある。技術は常に革新されていくものであり、
開発の時点で十分に検討したとしても、それが現時点で最高の技術であるとは言い難
い。特に「かいこう」のような最先端のプロジェクトにおいては最新技術の持続的な導入
に努めて行くべきである。
(5)高圧という特殊な環境で使用される二次ケーブルを、消耗品として扱うことについては理解
できるが、引留部の検査や寿命の判定に関する基準が無く、適切な運用が出来ていた
とは言い難い。ひとつの技術開発が終わった後はすべて運用部門に任せてしまい、そ
の後の技術的なフォローがなされなかったことにこの「かいこう」事故の原因の一端があ
る。二次ケーブルの引留部の検査や寿命の判定に関する基準の制定だけではなく、
「かいこう」システム全体の定期的な見直しと改良とが必要である。
- 53 -
第3部
『「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会』第一次報告書
指摘事項等に対する海洋科学技術センター対処方針
第 10 章 現有二次ケーブルの暫定的運用について
「UROV7K」を暫定的に「かいこう」ビークル代替機として運用する際の、二次ケーブル引
留部の点検基準を以下の通りとし、マニュアルに追加する。
(1)指摘事項【第 8 章 8-2】
現在の設計の二次ケーブルを一時的に使用する場合は、二次ケーブルが消耗品で
あるという立場にたって、マニュアルを整備し、必要な点検を行い慎重に運用すべきで
ある。
(2)対処方針
恒久対策を施すまでの間、現有二次ケーブルを従来の引留方法で安全に使用する
ために、以下の基準に則り運用する。
①現有二次ケーブルの状況
・表 10-1 の通り、現有の No.0二次ケーブルは 51 回、No.3二次ケーブルは 19 回、No.
4二次ケーブルは 123 回の潜航が行われた。なお、No.1、No.2 二次ケーブルは、接
地線が断線したため廃棄した。
・No.0、No.3、No.4二次ケーブルについて、残存強度試験を行った結果、いずれの
ケーブルも、規定の破断張力3tonf から、約 30%強度が低下していることが判明し
た(表 10-2 参照)。
・すなわち、製作時期や潜航回数に違いがあっても、ケーブル強度が同程度に低下し
ていることから、各ケーブルには性能のばらつきがある。
・現有ケーブルは、いずれも規定の強度を満たしていないため、地絡計測用接地線に
断線対策を施した No.4 二次ケーブルと同一構造もしくは改良した二次ケーブルを
新たに製作して、暫定的に使用する。
表 10-1 二次ケーブルの使用履歴
ケーブル 製作時期 潜航回数
現 状
備 考
No.
(回)
引き留め部で破断
第 296 潜航時
No. 0
1996
51
廃棄
接地線断線のため
No.1
1997
35
〃
〃
No.2
1996
40
張力試験により引き留め部破断
緊急揚収後保管
No.3
1999
19
編組 18 本中 9 本切断のため再加工 接地線断線対策済
No.4
2000
123
表 10-2 二次ケーブル残存強度試験結果
試 料
No.0 ケーブル ビークル引留金物からランチャー側、5.5m〜10.5m の部分
No.3 ケーブル ビークル引留金物からランチャー側、15m〜20m の部分
No.4 ケーブル ビークル引留金物からランチャー側、9m〜14m の部分
No.4 ケーブル ビークル引留金物からランチャー側、245m〜250m の部分
- 14 -
残存強度
18.50kN(1. 9tonf)
21.00kN(2.1tonf)
19.75kN(2.0tonf)
23.50kN(2.4tonf)
②ケーブルの日常点検
従来、二次ケーブル引留部の点検項目がなく、編組の損傷を見落としてしまった。
今後は、毎潜航毎に、ベルマウスおよび中間接続金具を取り外し、外部シース開口
部の編組を目視点検することとする。
点検項目 ・編組の切断、ナイロン被覆の破れ、アラミド繊維飛び出し、毛羽立
ちの有無等
・ 編組の座屈の有無
・ ポリエステルテープのメクレ上がり、剥がれ等の有無
判断基準 ・「編組切断」時は端末再加工
・「アラミド繊維飛び出し、毛羽立ち」時には端末再加工
・「編組の座屈」時は端末再加工
・ポリエステルテープ「メクレ」時にはテープで補修
以上の暫定的運用で得られたデータは、新二次ケーブルの開発および運用に反
映することとする。
③暫定使用におけるケーブル使用回数
上記の現有二次ケーブルの暫定使用に当たって日常点検を励行し、異常を発見し
た場合は、端末再加工等を行う。さらに万全を期するため、新たに製作した二次ケー
ブルは、原則1航海(15 潜航相当)毎に、引留部の強度試験と再加工を行うこととす
る。この結果は、新二次ケーブルに反映させる。
試験項目 ・外部シース開口部近傍の外観検査(編組切断の有無)
・引留部近傍の張力試験(設計破断強度:3tonf 以上)
- 15 -
第 11 章 代替ビークルによる暫定的運用について
新ビークルが建造されるまでの間、細径光ファイバー方式 7000m級 ROV 試験機
「UROV7K」(図 11-1)を改造し、暫定的に「かいこう」ビークル代替機として運用する。
「UROV7K」の暫定運用に際しては、以下に示す安全対策を施す。また、二次ケーブル
については、第 10 章で述べた引留部の点検基準を盛り込んだマニュアルに従う。
①ペイロード等を確実に投棄するためのケーブルカッタを装備し、二次ケーブル破断時
に海面まで確実に浮上するだけの浮量を確保する。
従来の浮力材の他に、海面および浅深度でのみ有効な軟質ウレタン等を使用したブ
イを追加する。
②電源遮断後も水中位置が測定できる非常用トランスポンダを装備する。
③浮上後は、GPS無線機等で海面のビークル位置を確実に把握する。
④少なくとも水中および海面での位置を把握する安全装置は、冗長性を持たせる
(表 11-1 および図 11-2 参照)。
⑤緊急用バラスト離脱を従来のタイマー方式と音響指令方式の併用とし、信頼性を向上
する。
耐圧容器や電池に異常があった場合にも互いに影響を及ぼさないように、安全のため
の各装置は独立のシステムとする。これらの安全装置に付いては、潜航前後に作動確認
を行う。
なお、「UROV7K」は、潜航深度、運動性能および作業能力において「かいこう」ビークル
には及ばない(表 11-2 参照)。したがって、長期的には地震発生メカニズム等の研究に重
大な支障を与えると考えられることから「UROV7K」の運用は、あくまでも暫定的な処置であ
り、1日も早い「かいこう」ビークル後継機の建造が必要である。
- 16 -
図 11-1 「UROV7K」
表 11-1「かいこう」ビークルと「UROV7K」の安全対策の違い
注:下線部は、機器の冗長性を示す。
安全対策
1 海面での浮力確保
2
3
4
5
「かいこう」ビークル
「UROV7K」
24kgf
海面まで確実に浮上するだけの浮量
(設計上の海面浮力) を確保。(海面での目標浮力 50kgf)
バラスト切り離し装置は二重に装備
ペイロード等の投棄
ケーブルカッターなし ケーブルカッターを装備
電源遮断後の水中位
測定不可
トランスポンダ2セット装備
置
(トランスポンダなし)
海面のビークル位置
ラジオビーコン
GPS無線機、アルゴス装置
(位置情報なし)
夜間の視認性
上面に反射テープ フラッシャー装備、反射テープ
- 17 -
図 11-2
- 18 -
表11-2 無人探査機「かいこう」ビークルと「UROV7K」の性能比較表
要目・機器名等
全 長
巾
高 さ
空中重量
最大使用深度
電 源
テザーケーブル
推 進 機
観測装置等
①広角カラーTVカメラ
②3-CCDカラーTV カメラ
③スチルカメラ
④マニピュレータ
⑤サンプルバスケット
⑥ペイロード
⑧照明灯
「かいこう」ビークル
約3.1m
約2.0m
約2.3m
約5,300kg
約11,000m
支援母船「かいれい」からランチャ
ー経由で給電
二次ケーブル
「UROV7K」
約2.8m
約1.8m
約2.0m
約2,700kg
約7,000m
同左
同左
油圧モータ
水平スラスタ 4台×6.6馬力
上下スラスタ 3台×7.0馬力
電動モータ(約1馬力/台)
水平スラスタ 4台(2台追加)
左右スラスタ 2台(2台追加)
上下スラスタ 4台(2台追加)
3台(パノラマ視可能)
1台
1台(撮影枚数800枚)
左右各一本、7自由度、
マスタースレーブ制御
把持力:25kgf
大型バスケット取り付け可能
最大約50kg
ハロゲン
500W5台
メタルハライド 400W2台
2台
1台
1台(撮影枚数20枚)
一本、6自由度、レート制御
把持力:40kgf
小型のバスケットを検討
最大10kg
ハロゲン500W2台、250W1台
メタルハライド400W2台(追加)
航海装置
①白黒TVカメラ
1台
1台
②高度計
1台
1台
③深度計
1台
1台
④フラッシャ
なし
1台
⑤方位計
1台(光ファイバージャイロ)
1台(リングレーザージャイロ)
⑥前方障害物探査ソーナ 1台
1台
ー
⑦音響トランスポンダ
1台(レスポンダ)
2台
⑨GPS無線機
なし
1台
⑩アルゴス装置
なし
1台
⑪ラジオビーコン
1台
なし
備 考
① 水深7000mまでの観察を主とするが、1本のマニピュレータで試料採取と軽作業ができる。
②推進力が「かいこう」ビークルの1/6と小さいため、行動範囲が狭い。
③「かいこう」ランチャー装備のサイドスキャンソーナー、サブボトムプロフャイラは、従来通り利用可
能。
- 19 -
第1章
第一次報告書に対する JAMSTEC の対処方針について
海洋科学技術センター(以下 JAMSTEC)の1万m級無人探査機「かいこう」ビーク
ルは、平成 15 年 5 月 29 日、
高知県室戸岬沖の南東約 130kmの南海トラフにおいて、
二次ケーブルの破断により浮上、漂流した。5 月 29 日から 6 月 21 日にかけて、海空
から広域の捜索を行ったにもかかわらず、ビークル発見の手がかりは全く得られて
いない。
本事故の重要性に鑑み、平成 15 年 6 月 17 日、東京大学生産技術研究所教授を委員
長とした 14 名の委員等からなる『「かいこう」ビークル漂流事故調査委員会』が設
置され、事故原因の究明と再発防止に関する検討が行われた。同委員会による精力
的な活動によって、7 月 30 日には事故原因の究明および再発防止に関する第一次報
告書がとりまとめられ、JAMSTEC 緊急対策本部長(JAMSTEC 理事長)に提出された。
報告書では、事故原因の調査結果のみならず、委員会所見、指摘事項、および
JAMSTEC に対する提言がまとめられている。これを受けて、JAMSTEC 緊急対策本部は、
事故の再発防止および新たな深海技術の開発に取り組むための対処方針を以下の内
容でとりまとめた。
(1)事故原因の調査結果について
(2)事故発生後の処置について
(3)現有二次ケーブルの開発について
(4)現有二次ケーブルの運用について
(5)マニュアルの見直しについて
(6)安全対策および安全管理体制について
(7)今後の JAMSTEC における技術開発体制について
(8)新二次ケーブルの開発について
(9)現有二次ケーブルの暫定的運用について
(10)代替ビークルの暫定的運用について
「かいこう」は、1万1千mまで潜航できる世界唯一の深海調査システムであり、
日本周辺に分布する海溝の調査には欠かせない深海調査システムである。
JAMSTEC の社会的使命を全うするためには、早急に「かいこう」ビークル後継機を
建造し、深海調査を継続したい。
- 1 -
第2章
事故原因の調査結果について
(1)指摘事項【第 9 章 9-1(1) 、9-2(4)】
No.0 二次ケーブルの破断は、荷重試験および解体検査等の結果から、設計破断
強度を上回るような張力によるものではなく、ランチャー・ビークルの結合・離
脱や、通常の運用によって、引留部近傍のシース開口部におけるアラミド繊維編
組の強度が低下したことが原因であったと推測される。これはさらに、引留部の
構造や、ケーブルの高水圧に対する耐久性に起因するものと考えられる。
二次ケーブルの開発中、光ファイバーのマイクロベンディングが発生し、高圧
下試験等を行って、高水圧の影響に対処したが、今回の事故原因である引留部に
おけるアラミド繊維の諸問題については、見出すことは出来なかった。開発に際
しては、想定される可能性を十分検討した上で試験を行う必要がある。
(2)対処方針
昭和 61 年度から平成 6 年度にかけて行われた「かいこう」の開発に伴って、一
次および二次ケーブルの開発を行った。二次ケーブル開発当時は、「高水圧によ
って編組が劣化すること」、および「引留部近傍の構造により編組が損傷を受け
ること」は不明であったが、今回の調査で、アラミド繊維抗張力体の諸問題が明
らかになった。
二次ケーブルは、3tonf 以上の破断強度を持っていると考えていたが、指摘の
通り、結合・離脱や通常の運用に伴う 400kgf 足らずの張力で破断する事が明ら
かになった。
その原因は2つあり、第一は引留部近傍のシース開口部において、抗張力体編
組のたるみと張りの繰り返しによって編組に折れが生じ、切断に至ることである。
これは、引留部の構造上の問題と考えられる。
第二の原因は、高水圧下における繰り返し曲げによって編組の強度が約 3 割低
下することであった。これは、抗張力体の繊維レベルの均圧が不十分であったこ
とが原因と考えられる。
今後、引留方法と抗張力体の均圧構造を改善した新設計の二次ケーブルを開発
し、十分な試験を行う。
- 2 -
第3章
事故発生後の処置について
(1)指摘事項【第 7 章 7-2】
抗張力体が切れた二次ケーブルを巻き込むことによって、電力および通信線の
破断が起き、これがビークルの亡失に繋がる危険性があることを過小に評価して
いた。
初めて遭遇する事故は、予想していなかった現象・事例が連続的に起こること
により発生するもので、その対応経験は大変貴重である。この経験を今後の運用
に反映させることこそが重要である。
(2)対処方針
二次ケーブルの破断は、巻き込み直後ではないことが明らかになったが、巻き
込みによってケーブルの強度が必要以上に低下した可能性は高いと考えられる。
指摘の通り、ビークルの状況が確認できないまま、二次ケーブルを巻き取るべき
ではなかった。
ビークルへの電源の供給は、母船「かいれい」より一次ケーブル、ランチャー
および二次ケーブルを経由して行っている。ビークル電源系統に異常が発生した
場合、ビークルのみならずランチャーへの給電も遮断されるため、ランチャーの
ビデオ画像や二次ケーブルの張力が母船上に伝送されなくなり、二次ケーブルや
ビークルの状況が確認できなくなる。
今回の事故の経験から、ランチャーとビークルの電源系統を独立させる。また、
今回の事故の教訓を、「かいこう」運用マニュアルに反映させる。
- 3 -
第4章
現有二次ケーブルの開発について
(1)指摘事項【第 7 章 7-1 (1) 、第 8 章 8-1】
「かいこう」は、高圧という特殊環境で使用される装置であり、それを考慮し
た評価試験が必要である。二次ケーブルが構造的に引留部が弱いことは明らかで
あり、高圧環境下における引留部の試験が必要であった。検討が不十分であった
ために、事故が発生したとも考えられる。
現在の二次ケーブルは、抗張力体に皺やキンクバンドが見られるなど均圧が完
全ではないと思われる。また、接地線や動力線にも座屈が見られる。
(2)対処方針
二次ケーブルに関する経験不足により、ランチャー・ビークルの結合・離脱を
想定した引留部の繰り返し荷重試験を行わなかったことが、今回の事故につなが
った。この教訓を、今後の二次ケーブルの開発に生かしていく。
指摘の通り、抗張力体は、編組内部の繊維レベルの均圧が完全ではなかった。
このため、高圧下の曲げによって柔軟性が失われた編組に、座屈による編組の
皺や繊維のキンクバンドが生じた。接地線や動力線の座屈については、No.0 以外
の二次ケーブルについても引き続き調査し、対策を施す。
- 4 -
第5章
現有二次ケーブルの運用について
5-1
No.0 二次ケーブル使用可否の判断について【第 7 章 7-1 (5)、第 9 章 9-1(3)、
9-2(5)】
(1)指摘事項
事前の検査において、破断部近傍のアラミド繊維の編組 18 本中、1本の切断
を確認したが、寸法計測、外観検査(アラミド繊維編組、ポリエステルテープの
乱れ)、電気特性計測、光特性計測および全長にわたる目視点検を行い、メーカ
の意見を聞き、定期的な点検・観察を行えば当面の使用は問題ないと結論して使
用した。当時の知識ではやむを得ない判断であるが、アラミド繊維は、外観検査
では強度の低下の程度を判断することは困難であり、また深海用の二次ケーブル
は発展途上の技術であることから慎重な対応が必要であった。
引留部近傍の編組が、一部損傷していたことを確認していたにも拘わらず、損
傷の重大性に対する認識が甘く、十分な検討をせずに No.0 二次ケーブルの使用
を決めたことが事故発生につながった。
引留部の検査や寿命の判定に関する基準が無く、適切な運用が出来ていたとは
言い難い。
(2)対処方針
外観から強度の低下を定量的に見積もることは困難と思われるので、「第 10 章
現有二次ケーブルの暫定的運用について」に示す要領に従って、毎潜航毎に引留
部の検査を行うと共に、定期的に解体検査や強度試験を行う。以上の運用基準を
マニュアルに定める。
引留部の検査や二次ケーブルの寿命については、現有二次ケーブルを暫定的に
運用して得られたデータを元に、判定基準を明確にする。
根本的対策として、新二次ケーブルを開発する。
5-2 二次ケーブル張力の計測について【第 7 章 7-1(6)】
(1)指摘事項
二次ケーブルには、スナップ的な張力が働く可能性があり、潜航中にどのよう
な張力がかかっているかを把握する必要がある。現状の2秒毎のサンプリング周
期では、データを受信する間に高張力がかかる可能性があり、張力のピークを正
確に取得できないと思われるので、張力計測法を見直す必要がある。
- 5 -
(2)対処方針
ランチャーから船上への張力データは、0.1 秒周期で伝送されているが、デー
タ記録間隔は 2 秒のため、スナップ張力を正確に記録できなかった。このため、
張力データの記録間隔を 0.1 秒に変更し、二次ケーブル張力のピークを正確に取
得する。
- 6 -
第6章
マニュアルの見直しについて
6-1 現有二次ケーブルの点検要領について【第 7 章 7-1 (4)、 第 9 章 9-1(2)】
(1)指摘事項
二次ケーブル点検については、JAMSTEC の経験を反映させた検査要領を定め、
引留部についても、一次ケーブルのレントゲン検査のような手法を開発すべきで
ある。また、簡単に外観からの検査ができるような引留部の構造を検討する必要
がある。
二次ケーブルについては、マニュアルに明確な保守点検の規程や安全性に関す
る基準がなく、運用上の盲点になっていた。
(2)対処方針
一次ケーブルと同様に、引留部近傍の抗張力体をレントゲンで検査する方法を
検討する。
現有二次ケーブルと同一構造のケーブルを暫定的に運用する場合は、「第 10 章
現有二次ケーブルの暫定的運用について」に示す要領に従って、慎重に運用する。
また、引留部の外観検査を容易に行うための改善を行う。
今回の事故を教訓として、新たな二次ケーブルを開発する。新二次ケーブルの
点検要領については、現有二次ケーブルの暫定運用基準で得られた経験を反映さ
せる。
6-2 マニュアルの改訂【第 9 章 9-2(2)、第 9 章 9-2(5)】
(1)指摘事項
今回のトラブルを踏まえ、緊急時におけるマニュアルを、現実に則して改訂す
る必要がある。
二次ケーブルの引留部の検査や寿命の判定に関する基準の制定だけではなく、
「かいこう」システム全体の定期的な見直しと改良とが必要である。
(2)対処方針
二次ケーブルの電源供給を可能な限り維持しながらビークルを回収する観点か
ら、緊急時におけるマニュアルに、「結合時に監視カメラで引留部抗張力体の破
断を確認した場合の対処法」を追加した(別紙-1参照)。
また、今回の事故そのものに対する見直しばかりではなく、あらゆる緊急事態
を想定した訓練を定期的に実施し、今まで考えていなかった重大事故につながる
- 7 -
事象を洗い出し、研究の進展による運用の変化、および運用技術の蓄積を踏まえ
た見直しを行い、的確に緊急時の対応ができるマニュアルに改訂する。
「かいこう」システムについて、研究上のニーズや運用上のノウハウを反映さ
せて、定期的に見直しと改良を行うための体制を整備する。
- 8 -
第7章
安全対策および安全管理体制について
7-1 二次ケーブル破断後の安全対策について【第 7 章 7-3、第 8 章 8-3】
(1)指摘事項
ビークルが行方不明になった二次的要因として、二次ケーブル破断後のビーク
ルの安全対策が、バラスト投棄とラジオビーコンのみであったことが挙げられる。
ラジオビーコンの他に、海中位置確認用トランスポンダや、浮上時の夜間確認用
フラッシャー、GPS 装置、ARGOS 装置等の装備を検討すべきである。
建造時の計画ではトランスポンダおよびフラッシャーを装備する予定であっ
たが、ビークルの軽量化と建造費の制約により、ビークルが海面に浮上すれば目
視で発見、回収が容易であると判断して、除外された経緯がある。結果として、
ケーブル破断時の安全対策が不十分なものとなった。
また、ビークルや二次ケーブルのトラブルにより、たとえ給電「断」となって
も、ランチャー側の給電系は生きているようにすることが望ましい。
さらに、二次ケーブル破断後のビークルの十分な浮量の確保についても検討す
る必要がある。
二次ケーブルが破断することを前提として、浮力を確実に確保し、浮上中、ビ
ークルの水中位置を確実に捕捉し、浮上後、確実にビークルを回収できるように
すべきである。
(2)対処方針
万一、二次ケーブルが破断した場合でも、ビークルを確実に回収するため、以
下の安全対策を施す。但し、新ビークルの設計思想を固め、それに基づいて対策
を施すこととする。
安全装置については、陸上のみでなく、実際の作業環境と同等の条件で作動確
認を行う。また、各装置は独立性を持たせ、耐圧容器や電池に異常があった場合
でも他に影響を及ぼさないようにする。
①ランチャー、ビークルに独立して給電可能な電源系統とする。
②砕波の影響を受けることや海水温度変化を踏まえ、海面で適切な浮力を確保す
る。ペイロード等を確実に投棄するためのケーブルカッタを装備する。
③ビークル電源遮断後も水中位置が測定できるように、トランスポンダを装備す
る。
④浮上後は、衛星等で海面のビークル位置を確実に把握する。
⑤安全装置は可能な限り二重化し、冗長性を持たせる。
⑥夜間視認に役立つフラッシャー等も装備する。
⑦緊急用バラスト離脱はタイマー式と音響指令式を併用する。
- 9 -
7-2 安全評価体制【第 9 章 9-2(3)】
(1)指摘事項
建造当初、システムの軽量化や予算の制約により、安全装置等が十分整備でき
なかったのはやむを得ないが、その後適切な改善が行われなかったことは、事故
拡大の一因となった。今回の事故を踏まえ、JAMSTEC において安全のための技術
開発を促進し、安全評価体制を見直す必要がある。
(2)対処方針
約 10 年にわたる「かいこう」の運用による、慣れと油断があった。指摘の通
り、安全装置の改善が行われなかったために、せっかく海面に浮上したビークル
を見失った。
JAMSTEC における研究に関わる業務全般について、調査機器観測機能向上検討
会、研究安全委員会等の安全評価体制を強化し、安全性の見直しを定期的に行う。
- 10 -
第8章
今後の JAMSTEC における技術開発について
8-1
運用と技術開発について
【第 7 章 7-1 (2)、7-3、第 8 章 8-4、第 9 章 9-2(1)、(4)、(5)】
(1)指摘事項
運用部門と開発部門は常により緊密に情報交換・技術交流し、機器類の改良が
迅速にできるような体制を構築すべきである。
耐圧 1 万 m が要求される装置は、「かいこう」以外にはないため、多くの装置を
開発しなければならないことは明らかである。当初装備できなくとも、新しい機
器を開発して、安全性と信頼性を高める努力が JAMSTEC において十分でなかった
といえよう。これは、二次ケーブルについてもあてはまる。
無人機の運用における技術的な問題点が、深海技術の基礎を充実させるという
観点で、確実にフィードバックされるような組織的な構造を構築する必要がある。
「かいこう」は世界唯一の1万m級無人探査機の一号機であるが、技術的に課
題の多い二次ケーブルについては建造当初から改良等の見直しのないまま、運用
されている。このことは、JAMSTEC の技術開発部門と運用部門との連携不足を示
唆しており、今後は密接な関係を構築することが必要である。
「かいこう」のような最先端のプロジェクトにおいては最新技術の持続的な導
入に努めて行くべきである。
ひとつの技術開発が終わった後はすべて運用部門に任せてしまい、その後の技
術的なフォローがなされなかったことにこの「かいこう」事故の原因の一端があ
る。
(2)対処方針
開発後の改善や安全性、信頼性の見直しが不十分であった。
運用部門と技術開発部門の連携を強め、開発部門から運用部門へ最新技術動向
のフォロー、または運用部門から開発部門へのフィードバックがスムーズに行え
る体制を組織的に構築し(別紙-2 参照)、技術開発と安全の確保に意欲的に取り
組んでいく。また、積極的に最新技術の導入に努め、JAMSTEC における深海技術
の継続と発展を目指すことを、JAMSTEC 独立行政法人化後の中期計画に盛り込む。
現在は、深海調査機器の開発担当者と豊富な現場経験を持つ海上勤務者を研究
業務部に配置し、現場を支援する体制を強化している。さらに、支援に関わる職
員等を、一定期間、関連3社の運用部門に出向させる海陸ローテーション制度を
- 11 -
整え、深海技術の継承および支援部門のさらなる強化が行える体制を構築する
(別紙-3 参照)。
8-2 試験設備の充実について【第 7 章 7-1(1)】
(1)指摘事項
高圧環境下の試験ができるような設備を整え、技術の基礎を支えることこそ
JAMSTEC の使命なのであり、検証されていない技術については、不断の改善のた
め最新技術動向のフォローと運用のフィードバックを怠らない体制を作ること
が重要である。
(2)対処方針
「しんかい6500」や「かいこう」本体が収納できるような超大型高圧実験
水槽の建造を目指すと共に、JAMSTEC で所有している高圧実験水槽装置(内径 1.4m
×長さ 3m、最大印可圧力 152.8MPa)でケーブルの引っ張り試験やしごき試験が
行える装置を開発する。
- 12 -
第9章
新二次ケーブルの開発について
(1)指摘事項【第 7 章 7-1(3)、第 8 章 8-1】
「かいこう」の設計・建造からほぼ 10 年経過しており、現在は、さらに優れ
た材質も実用化されている。今後は、抗張力体の材質として、他の繊維の可能性
も含めて再検討すべきである。
部分的な改良に留まらず、構造や引留方法を変更した二次ケーブルを新たに設
計し、十分な試作試験を行った上で、より耐久性の高い二次ケーブルを新規に製
作すべきである。
(2)対処方針
以下の方針で、新二次ケーブルを開発する。
・抗張力体材質については、アラミド繊維を含め、最適な材質を選定する。
・抗張力体繊維レベルの均圧のため、樹脂等を含浸させる。
・構造および引留方法等を見直した複数の二次ケーブルを新たに設計・試作する。
・上記の試作ケーブルで十分な試験を行った上で、より耐久性の高い二次ケーブ
ルを新規に製作する。
・洋上で端末加工が可能な引留部の開発を目指す。
- 13 -
別紙-1
緊急時揚収手順
ケース1:ランチャー/ビークル分離揚収(スイマー方式
スイマーレス方式)
ランチャー/ビークル結合トラブル
ランチャー/ビー
クル結合不能
二次ケーブル
巻き取り不能
原因不明
ビークル
操縦不能
追 加
二次ケーブル
強制巻き取り
引留部抗張力体破断確認
二次ケーブル30m繰り出し
ランチャー/
ビークル結合
ビー クルは約 20m差
で 追 随 上 昇
ランチャー/ビークル分離状態のまま,一次ケーブルハ
ンドリング装置を作動し,一次ケーブルを巻き取る
母船微速前進
次頁へ
- 14 -
揚
収
(通常)
不可
母船は位置保持
一次ケーブル
遠隔手動で
巻 き 上 げ
可
電 源
「断」
次頁へ
1/6
前頁から
前頁から
ビークル深度 200m にて一次ケーブル巻き上げ停止,
ビ ー ク ル も 追 随 上 昇 停 止
ランチャー/ビークル上昇開始
一次ケーブル操作:遠隔から機側に切り換え
作業艇降下・着水
控え索を作業艇に母船から渡す
一次ケーブ
ル巻き上げ
* 高速上昇時、抗力によって二
次ケーブルはメカニカルスト
ッパーまで繰出される。(こ
の結果、二次ケーブル繰出し
長は緊急時揚収を行える十分
な長さとなる。)又、メカニ
カルストッパーが作動しない
場合、二次ケーブルの残りが
ケーブルリールの一層目の5
列となった時、分離揚収スト
ッパーが作動し、二次ケーブ
ルの繰出しを防止する。
指令後又は電源「断」
約1時間後にビークル
バラスト切り離し
ビークルはランチャーに追随
し
て
上
昇
ランチャー水深7mにて上昇停止
ランチャー揚収用別索吊揚金具結合
水面付近で巻き取り停止
二次ケーブルをさらに30m程度繰り出す
ビークルバラスト投下
ビークルはそのままランチャー後方に
上
昇
し
浮
上
次頁へ
- 15 -
母船停止
次頁へ
2/6
前頁から
前頁から
作業艇から竿によりビークルに控え索取り付け
二次ケーブル全量繰り出し
ランチャー/ビークルが水面まで浮上
3000V送電電力”断”
ランチャー揚収
ジンバルシーブ,別索吊揚金
具
取
り
外
し
ランチャー単独,緊急時揚収を行う
別索揚収ワイヤー繰出し
台 車 格 納
10K,別索吊揚金具をランチャーに嵌合させる
ジンバルシーブ取り付け用ワイヤーにスナッ
チ ブ ロ ッ ク を 取 り 付 け
別索揚収ワイヤーにビークル緊急用吊
揚 金 具 を 取 り 付 け
二次ケーブルをビークル緊急用
吊 揚 金 具 に 挿 入
別索吊揚金具をラン
チャーへ結合可能か
不可
ケース3へ
可
次頁へ
次頁へ
- 16 -
2/6
前頁から
ビークル引き寄せ
二次ケーブルをガイドとしてビークル緊急用吊揚
金 具 を ビ ー ク ル に 嵌 合
二次ケーブル破断
前頁から
一次ケーブルから別索揚収ワイヤーへ荷重受け渡し
別索揚収ワイヤー巻き取り,ランチャー水切り
Aフレーム振り込み
嵌合成功
スイマー作業にてビークル緊急用吊
揚 金 具 を ビ ー ク ル に 嵌 合
二次ケーブルを
捌き、保持する.
ビークルと母船
の位置に注意
ランチャー,10K 移動台車へ設置
ランチャーラッシング
ビークル揚収・ラッシング・復旧
一次ケーブルを別索着水揚収装置
のジンバルシーブから取り外す
10K 移動台車を格納位置へ移動
(一次ケーブル巻き取り及び上甲
板上での二次ケーブルの捌き)
次頁へ
- 17 -
2/6
スイマー方式
ビークル緊急時揚収を行う
前頁から
スイマースタンバイ
ランチャー別索吊揚金具を
別索揚収ワイヤーから外す
別索揚収ワイヤーにビークル緊急用吊
揚金具(ワイヤー、フック)を取り付け
別索揚収ワイヤー,ビークルを水切り
Aフレーム振込み
Aフレーム振り出し
ビークルを上甲板へ設置
別索揚収ワイヤー繰出し
ビークル緊急用吊揚金具取り外し
作業艇発進
スイマーがビークルに緊急用
吊揚金具及び控え索を結合
トラブル復旧作業
スイマー退避
ビークル控え索の長さを調整し,
ビークルを揚収位置へ移動
- 18 -
2/6
スイマーレス方式
前頁から
ビークル揚収を行う
Aフレームを船首に倒す
ショックアブソーバーにスナッ
チブロックを取り付ける
スナッチブロックに
二次ケーブルを通す
別索着水揚収装置から別索吊揚金
具を取り外し,緊急用吊揚金具を別
索揚収ワイヤーに取り付ける
ビークルの緊急用吊揚金具
に二次ケーブルを挿入する
二次ケーブルを人力で引っ張って
ビークルを母船の船尾に引き寄せる
ビークルに船上から
控え索を取り付ける
人力にて二次ケーブルを展張させる
別索揚収ワイヤー繰り出し
二次ケーブルをガイドとしてビー
クル緊急用吊揚金具を降下させる
ビークル緊急用吊揚金具
をビークルに嵌合させる
別索揚収ワイヤーを巻
き取り,ビークル水切り
Aフレームを振り込む
(控え索でビークルの振れ止めを行う)
ビークルを上甲板上に降ろす
ビークルラッシング
トラブル復旧作業
- 19 -
2/6
別紙-2
深海技術の継続・発展体制
有人潜水調査船
運航チーム
「しんかい6500」(「よこすか」)
無人探査機
「かいこう」(「かいれい」)
「ハイパードルフィン」(「なつしま」)
「うらしま」(「よこすか」)
↑技術的問題解決策
↓技術的問題提議
↑最新技術の導入
↓機能向上提案
技術的問題解決策検討
運用委託会社
機能向上検討
↓運用における技術的問題
↑技術的問題解決策
↑最新技術の導入
↑機能向上
海洋科学技術センター
→運用における技術的問題
←技術的問題解決策
研究業務部
←最新技術の導入
技術的問題検討
技術的問題検討
機能向上検討
最新技術の導入検討
報告→
↑機能向上提案
機能向上検討
審議
調査観測機能向上検討会
研究安全委員会
調査観測機能検討チーム
(各部門から委員を選出)
(JAMSTEC 研究部門および関連三
社メンバー)
海洋技術研究部
↑情報交換→
研究部
フロンティア
- 20 -
別紙-3
海陸ローテーション
運用者
現場
関連三社
情報・人事交流
海洋科学技術センター
技術情報
研究業務部
海洋技術研究部
人事
研究に関わる情報
安全に関わる情報
研究に関わる情報
研究部
フロンティア
- 21 -
安全管理室
Fly UP