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EGFR阻害薬の薬剤管理

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EGFR阻害薬の薬剤管理
第8回
福岡大学病院とのがん治療連携勉強会
EGFR阻害薬の薬剤管理
福岡大学病院 薬剤部
柿本 秀樹
本日の講演内容
・殺細胞性抗がん剤と分子標的薬の違い
・抗EGFR抗体薬
(セツキシマブ, パニツムマブ)
・皮膚障害
・EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
(ゲフィチニブ, エルロチニブ)
・肺障害
●がん細胞の増殖や浸潤などの阻
止を目的にある特定の分子に対
し、選択的に作用するように作
られた薬剤である
●がん細胞と間質細胞(血管内皮
細胞など)の一方または両者の
標的分子に作用する
Quality of treatment
分子標的薬
分子標的治療薬
殺細胞性抗がん薬
Autitumor spectrum
抗腫瘍スペクトラムと治療効果の差
1.細胞表面抗原
抗CD20抗体
2.増殖因子・受容体、シグナル伝達系
抗EGFR抗体、抗HER2抗体、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
BCR-ABL阻害薬、m-TOR阻害薬、プロテアソーム阻害薬
3.転移・血管新生
抗VEGF抗体、VEGF阻害薬
4.多標的分子標的治療薬
臨床腫瘍薬学研究会JASPO 第1回スタートアップセミナーテキストより
殺細胞性抗がん剤の作用機序
ribonucleotide
pyrimidine
purine
MTX
deoxyribonucleotide
5-FU
アルキル化剤
プラチナ系
DNA
アントラサイクリン
トポイソメラーゼ阻害薬
ビンカアルカロイド
タキサン系薬剤
RNA
酵素など
タンパク
微小管
分子標的薬の作用機序
増殖因子
細胞外
ベバシズマブ
チロシンキナーゼ受容体
抗体薬
細胞膜
T
K
細胞内
ATP
T (チロシンキナーゼ)
K
小分子化合物
チロシン
ボルテゾミブ
ATP
ADP
P
シグナル伝達カスケード
・RAS/RAF/MEK/ERK経路
・P13K/Akt/mTOR経路
核
恒常的
シグナル
亢進
DNA
プロテアソーム
分解
腫瘍性病態の亢進
・細胞増殖の促進
・抗アポトーシス
・血管新生の促進
・浸潤/転写の促進
薬局 2010 Vol.61, No.2
抗EGFR抗体薬
セツキシマブ, パニツムマブ
抗EGFR抗体薬の作用機序
EGFRへのリガンドの結合を
競合的に拮抗し、結合する
EGFRの二量体形成の阻害、
自己リン酸化の阻害
EGFRの内在化、分解促進
細胞表面のEGFRが減少
情報伝達の阻害
細胞分化、血管新生、転移、増
殖を抑制、アポトーシスを促進
上皮成長因子受容体(EGFR:epidermal growth factor receptor)
抗EGFR抗体の特徴
セツキシマブ(商品名;アービタックス®)
●適応
EGFR 陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・
直腸癌
●用法・用量
初回400mg/m2を2時間で点滴静注
その後、1週毎に250mg/m2を1時間で点滴静注
● IgG1ヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体の
ためADCC(抗体依存性細胞障害)を有する
パニツムマブ(商品名ベクティビックス® )
●適応
KRAS 遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・
再発の結腸・直腸癌
●用法・用量
6mg/kgを1時間で点滴静注し、2週毎に投与
● IgG2型完全ヒト化抗EGFR抗体である
K-RAS
K-RASとは
EGFRからのシグナルを受け、RASRAF-MAPK経路により細胞増殖など
に関与
KRAS遺伝子変異が抗EGFR抗体薬の
治療効果の予測因子である
大腸癌において約40%にK-RAS
変異が認められ、K-RAS変異型で
は上乗せ効果がない
抗EGFR抗体薬の副作用
・Infusion reaction
アナフィラキシーショック、呼吸困難、バイタル低下、発疹、疼痛他
初期症状;痒み、発疹発赤、鼻づまり、鼻水
セツキシマブ投与の約20%に発症し、3%の症例では重篤(ヒト/マウスキメラ型)
抗ヒスタミンの予防投与が必須であり、ステロイドの併用で発現頻度は低下する
・皮疹
ざ瘡様皮疹の頻度は80%以上でほぼ必発
・下痢
重篤な下痢を副作用とするイリノテカンとの併用では注意が必要
・急性肺障害、間質性肺疾患
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬よりも頻度は低いが、致死的
2-16週が発現時期
・心毒性(うっ血性心不全)
・血栓、塞栓症
・創傷治癒遅延
・眼障害(角膜炎など)
ヒト涙液にはEGFが存在し、角膜上皮細胞の増殖刺激作用
・低マグネシウム血症
3-4週を中心に10週以内に発現が多い
皮膚障害の作用機序
EGFRの発現
多くの腫瘍細胞で過剰発現
EGFR
皮膚・毛包・爪の増殖や分化に関与
腫瘍細胞以外
でも過剰発現
角化異常
が起こる
抗EGFR抗体薬投与により
●不全角化・角化亢進
●角栓形成→毛包の炎症
●角質菲薄化→水分保持低下
→皮膚乾燥、皮膚炎
活性化EGFRの著しい減少
爪母細胞の
分化異常
●爪甲菲薄化・易刺激性
→爪囲炎、陥入爪
皮膚障害の発現時期
ベクティビックス適正使用ガイドより
皮膚障害の治療アルゴリズム
皮膚障害の予防処置;治療導入時より保湿剤などの皮膚ケアを積極的に行う
(ミノサイクリン100-200mg/日も考慮する)
皮膚障害発現時、上記に加えて以下の対症療法を行う
瘙痒
ざ瘡様皮膚炎
全身・広範囲
●抗ヒスタミン薬内服
or
局所・限局
●ジフェンヒドラミン軟膏
●ステロイド外用
(Very Strong,Strong)
→症状軽減後、medium
に変更
●ミノサイクリン内服
皮膚乾燥
爪囲炎
●保湿剤
1日1回は必ず外用
●ステロイド外用
(Very Strong,Strong)
→症状軽減後、medium
に変更
亀裂部→Stongest
●洗浄、ガーゼ保護
皮膚科的処置
●ステロイド外用
腫脹→Very Strong
肉芽形成→Strongest
●抗生剤内服
(2次感染に対して)
1-2週間経過観察
治療効果の判定
有効
治療の継続
無効
皮膚科医へ紹介
福岡大学病院化学療法委員会 新薬新薬適正ワーキンググループ ベクティビックス副作用とその対処法・予防法改変
主なステロイド外用剤の臨床効果分類
Ⅰ群
Ⅱ群
Ⅲ群
Ⅳ群
Ⅴ群
強さの分類
一般名
商品名
Strongest
プロピオン酸クロベタゾール
デルモベート®
酪酸エプロピオン酸ベタメタゾン
アンテベート®
フランカルボン酸モメタゾン
フルメタ®
ジフルプレドナード
マイザー®
吉草酸ジフルコルトロン
ネリゾナ®
吉草酸ベタメタゾン
リンデロンV®
吉草酸デキサメタゾン
ボアラ®
吉草酸酢酸プレドニゾロン
リドメックス®
プロピオン酸アルクロメタゾン
アルメタ®
酪酸クロベタゾン
キンダベート®
酪酸ヒドロコルチゾン
ロコイド®
フルドロキシコルチド
ドレニゾン®
Very strong
Strong
Medium
Weak
ステロイド外用剤の部位経皮吸収能
前腕部を1.0とした場合
頭皮
×3.5
背
×1.7
頬部
×13.0
腋窩
×3.6
前腕屈側
×1.0
前腕伸側
×1.1
手掌
×0.83
足関節部
×0.42
足底
×0.14
予防的スキンケアにより皮膚障害の発現率低下
予防療法群⇒毎日の保湿剤
外出時の日焼け止めクリーム
就寝時のステロイド外用剤の塗布
ドキシサイクリン200mg/日内服
Lacouture ME. Et al.J Clin Oncol.28:1351-7,2010
皮膚障害の対策①
スキンケアが基本⇒皮膚の清潔・保湿・物理的化学的な刺激を回避
・低刺激の石鹸(弱酸性)
・クリームなどで保湿
・日焼け止めや帽子
・刺激の少ない化粧水
・むやみに触らない
EGFR阻害薬開始時から皮膚障害出現後も継続的に行う
ステロイド外用薬による副作用を恐れて必要時
に使わないとかえって問題となる可能性がある
皮膚障害の対策②
ざ瘡様皮膚炎処方例
ジフルプレドナード軟膏0.05%5g
酪酸ヒドロコルチゾンクリーム0.1% 5g
吉草酸酢酸プレドニゾロンローション0.3%10g
ミノサイクリン錠50mg
2本 体幹
2本 顔・頚部
2本 頭
2錠 分1
塗布
塗布
塗布
夕食後
1日2回
1日2回
1日2回
14日分
ジフルプレドナード軟膏⇒Very strong
酪酸ヒドロコルチゾンクリーム⇒Medium
吉草酸酢酸プレドニゾロンローション ⇒Medium
ミノサイクリン⇒抗菌作用ではなく、皮膚の炎症に対する抗炎症作用目的
(白血球遊走・活性酸素・炎症性サイトカイン・T細胞機能の抑制)
皮膚障害と抗腫瘍効果は相関
症状をコントロールしながら治療を継続して抗腫瘍
効果が得られるようにすることがポイントである
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
(EGFR-TKI)
ゲフィチニブ, エルロチニブ
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の作用機序
EGFRのチロシンキナーゼドメインのATP結合部位にATPと
競合的かつ可逆的に結合してチロシンキナーゼ活性を阻害する
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の特徴
治療目的
延命および無増悪期間の延長
症状が増悪しない限り内服を継続する
ため、コンプライアンス維持が重要
●肺腺がんのEGFRキナーゼ部位における遺伝子変異がEGFRチロシ
ンキナーゼ阻害薬の奏効率と相関することが知られている
●奏効は4週間以内に見られることが多い(CT腫瘍評価)
ゲフィチニブの特徴
ゲフィチニブ(商品名;イレッサ® )
肺腺がんのEGFRキナーゼ部位における遺伝子変異
がEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の奏効率と相関
最近ゲフィチニブ添付文書改訂
●適応:EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌
●CYP3A4で代謝され、CYP2D6を阻害
相互作用
CYP3A4阻害薬・誘導剤、ワルファリン、PPI、H2-blockerなど
食前、食後の規制はないが、『制酸剤を用いて約6-7時間、胃内pHを
5以上で維持したところ、本剤のAUCが約50%減少』との記載があ
り、特に高齢者においては無酸症の症状が多い
食後投与を推奨
エルロチニブの特徴
エルロチニブ(商品名;タルセバ® )
●適応
・切除不能な再発・進行性で、がん化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌
150mgを1日1回投与
・治癒切除不能な膵癌
ゲムシタビンとの併用において100mgを1日1回投与
●脳脊髄液への移行性がゲフィチニブよりもいい
●CYP3A4,CYP1A2で代謝
相互作用
CYP3A4阻害薬、誘導剤、ワルファリン、シプロキサン、PPI、H2-blockerなど
『PPI,H2-blockerとの併用による持続的な胃内pHの上昇により、本
剤のAUCが46%,33%減少』との記載あり
喫煙によりCYP1A2が誘導→エルロチニブの代謝が亢進して血中濃度低下→禁煙
食事の1時間以上前または食後2時間以降(食後投与でAUCが2倍上昇)
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の副作用
・肺障害
・皮膚障害
ざ瘡様皮膚炎、皮膚乾燥、爪囲炎
エルロチニブ96.7% > ゲフィチニブ62.7%
発現時期はゲフィチニブざ瘡様皮膚炎:17日,皮膚乾燥:28日,爪囲炎:52日
(中央値)エルロチニブ皮膚障害のほとんど:30日
・下痢
エルロチニブ71.5% > ゲフィチニブ49%
消化管粘膜はEGFRの高発現部位
発現時期(中央値)はゲフィチニブは1ヵ月以内
エルロチニブは中央値が7日
重症度、頻度に差があるものの全てのEGFR阻害薬で主要な副作用である
・肝機能障害
・悪心・嘔吐、食欲不振、口内炎
・倦怠感
ゲフィチニブの副作用は最大耐用量の約1/3が推奨用量のため
最大耐用量が推奨用量になったエルロチニブより比較的軽い
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による肝機能障害
●EGFRチロシンキナーゼ阻害薬で高頻度に発現
●肝機能検査の実施は必須(1-2ヵ月に1回)
●肝機能障害はエルロチニブに比較してゲフィチニブで頻度が高い傾向に
あり、薬剤の構造特異的な差と考えられている
初期症状
・倦怠感
・食欲低下
・嘔気
・茶褐色尿
・黄疸
減量や休薬など治療継続に最も影響を与える副作用
AST,ALT100IU/L以上になると休止せざるをえない
●肝機能改善後は少量から投与を再開し通常用量まで漸増することも可能
●重篤な肝障害によりゲフィチニブ投与継続不能となった症例においてエ
ルロチニブが問題なく使用できるケースもある
肺障害①
急性肺障害や間質性肺炎が本剤の投与初期
に発生し、致死的な転帰をたどる例が多い
ため、少なくとも投与開始後4週間は
入院またはそれに準ずる管理の下で、
間質性肺炎等の重篤な副作用発現に関する
観察を十分に行うこと。
risk factor
①PS(performance status)が2以上
②喫煙者
③本剤投与時に間質性肺炎疾患の合併症あり
④化学療法歴あり
2002年10月16日
肺障害②
急性肺障害(interstitial lung disease:ILD)
ILDの3分の2は治療開始4週間以内(特に2週間)に発症
致死的な転帰をたどる例が多い(発症例の致死率30%)
発現頻度:ゲフィチニブ5.8% エルロチニブ4.9%
初期症状
風邪の症状
息切れ、咳、発熱
・階段の上り下りの息苦しさ
・生活のなかでの胸の重さ
事前に抗がん剤による肺障害発症を予測することは不可能
ほとんどの分子標的薬に起こりうる副作用
本日の講演内容のまとめ
福岡大学病院と院外薬局とのがん治療連携勉強会
本日のテーマはEGFR阻害薬
EGFR阻害薬は有害事象を最小限に抑
え、治療を継続することを目標とする
・皮膚障害はEGFR阻害薬に必発する副作用であるが、治
療効果と相関し、皮膚のスキンケアによる予防が大事で
ある
・抗EGFR抗体薬はK-RAS遺伝子変異のない(野生型)
患者のみに、一方、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は
EGFRのチロシンキナーゼ部分に遺伝子変異のある患者
に投与することが推奨される
・肺障害の頻度は低いが致死的な副作用であるため早期発
見が大事である
ご清聴ありがとうございました
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