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光と笑顔の溢れる地域に(PDF:469KB)
光と笑顔の溢れる地域に~ネコヤナギの植栽によるホタル復活大作戦~ 熊本県 熊本県立芦北高等学校 林業科3年 今村 透 奥平 直人 小崎 凌平 藤原 佳祐 1 はじめに 本校が位置する芦北町乙千屋地区を流れる乙千屋川は、例年5月下旬になるとたくさんのゲン ジボタルが乱舞し、 「ホタルの楽園」として地域の方々に親しまれています。 その乙千屋川が平成18年4月、南九州自動車道工事のために上流部の一部が埋め立てられ、 代わりに436mの新河川が設置されました。(写真-1)この状態ではゲンジボタルをはじめ、 多数の水生生物が埋め立てにより死滅してしまいます。そのため、私たちはこのホタルの楽園を守 り、次の世代に残すためにさまざまな取り組みを始めました。(写真-2) 南九州自動車道工事変 貌する。 写真-1 乙千屋川の変化 2 埋没される河川の 写真-2 新河川へホタルを移動 研究の目的 乙千屋川を以前のようなホタルの楽園にするためにネコヤナギの植栽などの再生活動を地域の 方々と行い、ゲンジボタルの出現数を増やすことを目的としています。 3 研究・活動の経過(平成18~19年) 平成18年から平成19年の2年間で以下の研究及び活動を行いました。 (1)新河川ネコヤナギ植栽活動 (2)新河川水生生物に関する再生活動 ア カワニナの放流(平成18年度) イ 水生生物の調査(平成19年度) (3)ゲンジボタル成虫調査 現地調査及び聞き取り調査(平成19年度) 4 今年度の取り組みとまとめ (1)新河川の植生調査および植栽活動 ア ネコヤナギの植生調査 現在植栽されているネコヤナギがどの程度定植しているのかを確認するために調査を行い ました。その結果、左岸で80本、右岸で359本の合計439本のネコヤナギの定着を確認 しました。 (写真-3) イ ネコヤナギの植栽活動 成長したネコヤナギからさし穂200本を採取し、地域の小学生、住民の方々と一緒にさ し木による植栽活動を行いました。この活動で新たに200本のネコヤナギを植栽すること ができました。 (写真―4) 植栽場所 ネコヤナギ植栽(赤土団子) 植栽前 植栽場所 2年後 植栽後 (ネコヤナギ活着率約85%) 平成20年度植生調査より 写真-3 新河川植栽による変化 ウ 写真-4 小学生との植栽活動 ゲンジボタルの成虫事前聞き取り調査 地域の方々にゲンジボタルの目撃情報などをお聞きするために聞き取り調査を実施し、た くさんの情報を得ることができました。 乙千屋川ゲンジボタル現地調査 5月下旬に2日間、午後7時40分から9時10分までの1時間30分、新河川を含む乙千 屋川1.3kmを調査しました。新河川では植栽したネコヤナギにゲンジボタルが多数とまっ ているのが確認され、ネコヤナギの必要性を実感しました。 今回の調査結果では2日間で平均236匹、このうち新河川436mだけでは昨年の約4 倍の90匹のゲンジボタルの増加が確認できました。 (図-1)ゲンジボタルが復活した要因 として、ネコヤナギが増加し、成長したこと、あわせてゲンジボタルの住みかができたこと、 クレソンなどの植生が昨年度に比べて増加したことが考えられます。 年度別ホタル発生数 3000 2428 2500 ホタル発生数 エ 2000 昨年度減少 1538 1556 1500 1040 1038 1000 500 412 345 183 236 0 (注)新河川を含む1.3kmで調査 図-1 乙千屋川年度別ホタル発生数 H20 H19 H18 H17 H16 H15 H14 H13 H12 調査年月日 増加 オ 地域の住民の方々にホタルの聞き取りアンケート調査 現地調査のデータだけでは分からない部分もあるため、乙千屋地区の高校生から80代ま での幅広い年齢層の人たち21名にアンケート形式で聞き取り調査を行いました。 「この時期に現れるゲンジボタルは楽しみですか」と尋ねたところ90%の方が「楽しみ」 と答えられ、また、 「昨年に比べてホタルの発生状況はどうですか」の質問に80%の人が少 ない、20%の人が多いという現地調査とは異なる答えが返ってきました。このことに関し て、少なくなったと答えた方は50代以上の方がほとんどで、3年前の1000匹以上出現 していた時期と比較して答えられているのではないかと考察しています。アンケートの結果 より地域の方々にはまだまだゲンジボタルが復活しているとは感じられていないことが分か り、さらなる取り組みの必要性を感じました。 カ 新河川憩いの広場設置活動 ゲンジボタルを観賞に来られた方が、より近くでふれ合ってもらうことと、地域要望されて いた休憩場所を作るために、新河川の中間地点に地域の小学生、住民の方々と一緒になり、設 置場所の除草、ベンチの製作、プランターの設置、林業科でどんぐりから育てたカシ類などの 苗の植栽など作業を行いました。 地域の方々から「ホタルを見るときや犬を散歩させるときに休める所がなかったから良か った」参加した小学生から「自分たちの作ったベンチが置いてあるのがうれしい」などの声 を頂きました。 キ 新河川ホタルの産卵調査 地域の小学生、住民の方々と一緒に植栽したネコヤナギにゲンジボタルが産卵しているの かを確認するために調査を行いました。2時間の調査でネコヤナギに卵が付着しているのが 多数確認できました。 ク 水俣の障がい者施設の方々との取り組み 私たちのホタルの取り組みを知った水俣の障がい者施設の方から、 「利用者の方と一緒に水 俣の川にホタルを復活させる取り組みを行ってほしい」という声を頂き、現在一緒に取り組 みを行っています。 5 まとめ 新乙千屋川の環境が植生の分野、水生生物ともにゲンジボタルの生育する場所として再生され てきていることが確認できました。また、昨年度に比べゲンジボタルの成虫の数が約50匹増加 していることも分かりました。要因として、地域の方々と協力しながら行ってきたネコヤナギの 植栽活動やカワニナの放流活動などの成果が実施から2年が経ち、実を結んできているのではな いかと考察します。 6 今後の課題 (1)ネコヤナギの植栽及びそれ以外の樹木の植栽活動のさらなる推進 (2)地域の方々にゲンジボタルの現状を知らせる情報誌の作成 (3)ゲンジボタルの数をピーク時の2000匹に戻すための養殖方法の検討 (4)地域の方々との交流をさらに深めるための様々なイベントの計画。