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8 高病原性鳥インフルエンザ監視体制の整備と防疫訓練の実施
高病原性鳥インフルエンザ監視体制の整備と防疫訓練の実施 中央家畜保健衛生所 山家 崇 里麻 啓 太田洋一 はじめに 松本和之 牧井賢充 中田 稔 (2)情報提供 国内外のHPAI発生状況についてFAX等で情報 高 病 原 性 鳥 イ ン フ ル エ ン ザ ( HPAI) は 伝 染 力が強く死亡率の高い法定伝染病である。平 提供を行うと共に、注意喚起を実施した。 成22年11月には島根県の養鶏場でH5N1亜型のH (3)ウイルスの監視 PAIが 発 生 し 、 平 成 23年 1月 に は 、 宮崎 県、 鹿 定 点 モ ニ タ リ ン グ と し て 、 毎 月 1回 、 管 内 3 児島県及び愛知県でも発生が確認された。ま 農 場 を 対 象 に 特 定 の 鶏 10羽 か ら 気 管 ス ワ ブ 、 た、平成22年2月には大分県、和歌山県及び三 ク ロ ア カ ス ワ ブ 及 び 血 液 を 採 材 し 、 HPAI抗 体 重県でも発生が確認されている。2月20日まで 検査及びウイルス分離を実施した。強化モニ に 7県 19戸 で 発 生 し 約 123万 羽 の 鶏 が殺 処分 さ タ リ ン グ と し て 、 毎 年 10農 場 を 抽 出 し 、 鶏 10 れた。全国各地の死亡野鳥からもウイルスが 羽から血液を採材して抗体検査を実施した。 分離されており、依然として予断を許さない (4)徴求報告と病性鑑定 家 畜 伝 染 病 予 防 法 第 52条 に 基 づ く 徴 求 報 告 状況である。 当所ではHPAI監視体制の強化に努めている 。 により、毎週1回、死亡鶏の羽数と農場の状況 養鶏場に対し、ウイルス侵入防止対策の指導 について報告を求め、異常が見られた場合は とウイルスモニタリングを、愛玩鳥飼養者に 病 性 鑑 定 を 実 施 し た 。 今 年 度 は 11件 の 立 ち 入 はHPAIの啓発及び注意喚起等を行っている他 、 り 調 査 を 実 施 し 、 す べ て の 農 場 で HPAI陰 性 を 関 係 機 関 と 協 力 し 死 亡 野 鳥 の HPAI検 査 を 行 っ 確認した(表1 )。 ている。さらに、万が一の発生に備えて防疫 表1 訓 練 を 実 施 し 、 HPAI防 疫 体 制 の 整 備 に 取 り 組 んでいるのでその概要を報告する。 養鶏場における病性鑑定事例 検査No. 畜種 1,2,3 肉用鶏 原因不明(アデノウイルスの関与を疑う) 4 5,6 7 8 9 10 11 採卵鶏 肉用鶏 採卵鶏 カモ 採卵鶏 肉用鶏 種鶏 原因不明 鶏壊死性腸炎を疑う 脂肪肝 原因不明 腸重積 鶏壊死性腸炎 鶏大腸菌症及び鶏ブドウ球菌症 管内の概要 管内の鶏100羽以上を飼養する養鶏場は41戸 であり、最大50,000羽規模、平均飼養羽数は1 6,000羽で中小規模の養鶏場が多いのが特徴で ある。一方、愛玩鳥飼養者は約400戸であり、 診断名 養 鶏 場 の 10倍 以 上 に も 及 ん で い る 。 ま た 、 管 内には佐潟、鳥屋野潟、福島潟といった野鳥 2 が飛来する湖沼が複数存在し、多くの飛来野 (1)HPAI啓発リーフレットの配布 鳥が見受けられる。 愛玩鳥飼養者への対応 平 成 21年 度 よ り 、 愛 玩 鳥 飼 養 者 等 に HPAIを 啓発するリーフレットを配布した。 HPAI監視体制の整備 1 養鶏場における対応 (1)飼養衛生管理指導 原則年2回鶏巡回調査を実施し、防鳥ネッ トによる野鳥侵入防止対策、踏み込み消毒槽 の設置など飼養衛生管理の徹底を図った。 (2)注意喚起及び早期通報の呼びかけ 平 成 22年 10月 、 電 話 に よ り 飼 養 の 有 無 を 確 認 す る と と も に HPAIの 注 意 喚 起 及 び 異 常 鶏 発 見時の早期通報を呼びかけた。 (3)病性鑑定 リーフレットの配布や早期通報の呼びかけ により、愛玩鳥飼養者から3件の病性鑑定依頼 し、管内の地域振興局や市町村を含む関係機 を受け、全ての事例でHPAIを否定した。 関から57名が参加した。 3 死亡野鳥の検査 訓 練 で は 、 HPAIや 防 疫 作 業 に 関 す る 講 演 会 環境省の野鳥サーベイランスとして、管内 を開催するとともに、発生農場における防疫 で 死 亡 し た 野 鳥 に つ い て 、 HPAI検 査 を 行 い 、 措置を想定し、防疫服の着脱演習、鶏のケー ウイルス浸潤を監視した。平成22年11月1日か ジからの取り出し、鶏の殺処分、箱詰め及び ら2月3日まで計260件の死亡野鳥に対応し環境 搬出までの流れを演習し、発生農場における 省が示したマニュアルに基づき 、関係機関( 県 防疫作業の方法及び作業性について体験して 環境企画課、市町村、保健所)と協力して簡 もらった(図2 )。 易 キ ッ ト に よ る HPAI検 査 を 実 施 し 、 全 て の 個 体 で 陰 性 を 確 認 し た ( 図 1 )。 12月 4週 目 か ら 講演会の開催 検査個体数も増加し、休日における連絡体制 を整備するなど死亡野鳥の監視強化に取り組 んだ。 検査数 100 94 90 鶏のケージからの取り出し 80 70 60 56 49 50 防疫服着脱演習 40 30 30 20 10 13 3 4 4 4 4 2 17 20 2 2 0 1週 2週 3週 4週 1週 2週 3週 4週 1週 2週 3週 4週 5週 1週 2週 3週 H22.11月 図1 H22.12月 図2 22 18 H23.1月 H23.2月 死亡野鳥検査数と1週間毎の推移 防疫訓練の開催 アンケート調査 防疫訓練の演習前後にアンケート調査を行 い、演習の成果と今後の課題について検討し た 。 演 習 前 後 の ア ン ケ ー ト 調 査 は 参 加 者 50名 HPAI防疫訓練の実施 1 実施内容 から回答を得られた。 演 習 前 ア ン ケ ー ト 結 果 で は 、 HPAIに つ い て 万 が 一 、 HPAIが 発 生 し た 際 は 、 鶏 の 殺 処 分 「知らない」という回答が72%であり、発生時 等のまん延防止措置を迅速かつ的確に行うこ に自分が行う「防疫作業について知らない」 とが重要である。そこで、県では本年度新規 と の 回 答 が 70%で あ っ た 。 ま た 、「 鶏に 触 っ た 事業として防疫措置を指揮・指導する防疫作 ことがない」という回答が42%と高率であり、 業 リ ー ダ ー の 育 成 を 目 的 と し た HPAI危 機 管 理 「鶏の扱い」に不安を感じている人も多く見 対策強化事業を開始した。防疫作業の経験とH 受 け ら れ た 。 さ ら に 、「 ウ イ ル ス 感 染 」 に 不 PAIの正しい知識を習得した作業リーダーを育 安 を 感 じ る 人 が 60% 、「 作 業 内 容 」 に 不 安 を 持 成することは、実際の作業時において防疫従 つ人が38%であった(図3 )。 事 者 へ の 作 業 内 容 の 説 明 や HPAIの 正 し い 知 識 演 習 後 の ア ン ケ ー ト 結 果 で は 、「 HPAIに つ の普及につながり、防疫従事者が持つ作業内 い て 理 解 で き た 」 と い う 回 答 が 96% 、「 防疫 作 容や感染への不安が解消され、迅速なまん延 業の内容について理解できた」という回答が9 防止措置が図れると考えられる。 8%であった。 平 成 22年 11月 25日 、 当 所 で 防 疫 訓練 を実 施 だ。 ○「高病原性鳥インフルエンザ」について知っていますか? 愛 玩 鳥 飼 養 者 に は 、 HPAIの 注 意 喚 起 や 早 期 28% 72% 知っている 知らない ○発生時に自分が従事する防疫作業について知っていますか? 30% 70% 知っている 知らない 野鳥については、関係機関と協力し、死亡 32% 58% 野 鳥 の HPAI検 査 を 実 施 し 、 ウ イ ル ス 浸 潤 の 監 10% 見たことはある 見たこともない ○防疫作業において不安なことはありますか?(複数回答) 60% ウイルスの感染 飼養者に対し、引き続き本病の啓発を行い、 早期対応を実施していきたい。 ○鶏を実際に見たことや触ったことがありますか? 触ったことがある 通報等の呼びかけを実施した。今後も愛玩鳥 42% 38% 4 % 鶏を扱うこと 作業内容 その他 視に努めた。 また、防疫作業リーダーの育成を目的に防 疫 演 習 を 開 催 し 、 HPAIに 関 す る 講 演 と 防 疫 服 の着脱演習並びに鶏を用いて防疫作業を経験 図3 してもらう実地演習を行った。アンケートの 演習前アンケート結果 結 果 か ら 、 多 く の 参 加 者 が HPAI及 び 防 疫 作 業 ま た 、 防 疫 作 業 に お け る 不 安 で は 、「 ウ イ について理解できたと回答した。また、ウイ ル ス 感 染 」 に 対 す る 不 安 が 43%に 減 少 し 、「 作 ルス感染や作業内容に対する不安も減少し、H 業内容 」に対する不安も24%に減少した一方で 、 PAIに対する正しい知識の普及及び防疫作業内 「鶏を扱うこと」に不安を持つ人が47%に増加 容の理解に貢献できた。さらに、多くの人が し 、体力などに不安を持つ人も10%に増加した 。 防疫演習の必要性を実感し、防疫意識の向上 さらに、今後の訓練の必要性を聞いてみたと にも役立った。演習形式は参加型が良いと回 こ ろ 、「 防 疫 訓 練 は 必 要 」 だ と 回 答 し た 人 は 9 答した人が大多数であり、実際の作業を体験 2%で 、多くの参加者が演習は「 参加型が良い 」 してもらうことでより理解が深まると考えら と回答した人は90%であった(図4 )。 る。 しかし、訓練後において、鶏の扱いに不安を ○「高病原性鳥インフルエンザ」について理解できましたか? 96% 4% 理解できた 理解できなかった 98% 2% 理解できなかった ○防疫作業において不安なことはありますか?(複数回答) 43% 47% ウイルスの感染 24% 作業内容 鶏を扱うこと 10% その他 ○今後も防疫訓練は必要だと感じましたか? 92% 8% 必要だと感じた 必要ないと感じた ○防疫演習は参加型と講演型のどちらが理解しやすいですか? 90% 参加型が良い 図4 を持つ人が未だ多く存在していた。鶏の扱い に関しては、実際に鶏を触ったことがない人 ○防疫作業について理解できましたか? 理解できた 持つ人が増加したことやウイルス感染に不安 4% 6% 講演型が良い どちらでもよい 演習後アンケート結果 も多く、鶏を扱うことの難しさを実感したと 考えられ、生きた鶏を用いた今回の演習は良 い経験になったと考えられる。ウイルス感染 に つ い て は 、 HPAIに 関 す る 講 演 を 繰 り 返 し 行 うことで不安を解消できると思われる。今後 は実地演習に鶏の扱いに重点を置いた演習を 組み込んだ訓練を繰り返し実施し、数多くの 作業リーダーを育成することにより万が一の 発生時に迅速且つ的確な防疫措置が行える体 制を構築していきたい。 まとめ及び考察 また、今回の防疫訓練は当所で行ったが、 当 所で は、 養鶏 場に 対し 、ウ イルスの侵入 実際の現場において作業体制や殺処分方法等 を防止するための飼養衛生管理指導、ウイル を検証したことがない。今後は実際の養鶏場 ス侵入状況を監視するモニタリング検査、異 で訓練を行い、作業内容に応じた班構成や必 常鶏を把握する徴求報告等を実施し、ウイル 要人数、殺処分方法や死体の搬出方法等の鶏 スの侵入防止及び監視体制の強化に取り組ん 舎構造を考慮した作業体制の構築などの詳細 な検討が必要だと思われた。