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6月2日(火) 12:30~13:45 フランス原子力庁(CEA)サクレーサイトで
6月2日(火) 12:30~13:45 フランス原子力庁(CEA)サクレーサイトで実験炉「OSIRIS」視察 <CEAサクレーサイトについての概要説明> (CEA国際本部日本担当課長:パトリック・ブラントゥランシャン氏) CEAは、全体の従業員約 15,000 人(うち、CEA職員が約 10,500 人)、予算約 19 億ユーロの規模を有し、393 種類の出版物を発行(2005 年)し、305 の基本特許を 抱えるなど、フランスのエネルギー政策実施の基幹を担う官庁である。 CEAは、自らが研究開発した技術や特許を積極的に民間企業に開放するとともに、 民間企業の研究開発支援も行っているほか、フランスエネルギー産業の主要企業であ るアレバグループの筆頭株主であるなど、民間企業を活用したフランスのエネルギー 政策推進に大きく貢献している。 サクレーサイトは、フランスの首都パリの南西約 40kmの距離にあり、CEAが有 する7地域に所在する 9 総合研究所のうちの 1 つである。 サクレーサイトには、従業員が約 5,000 人おり、CEA職員が約 3,500 人、その他 の職員が約 1,500 人で、9 総合研究所の中で従業員数は最大である。 サクレーサイトでは、今回訪問する実験原子炉「OSIRIS」などによる核エネ ルギー研究のほか、生命科学、材料科学、地球環境やバイオマス燃料開発等幅広い研 究を行っている。 また、ここサクレーサイトには、フランスにおける原子力研究人材の育成機関「I NSTN」が設置されており、現在約 200 名が修士・博士課程に在籍している。「I NSTN」は外国人にも開放されており、将来的には 1,000 名規模で原子力技術者・ 研究者を養成する予定である。 <実験炉「OSIRIS」についての概要説明> (OSIRIS研究所長:フィリップ・デュランドゥ氏) 施設玄関ホールにある模型の前で概要説明を受けた後、実際に原子炉建屋内に入り 詳細説明を受けた。 (説明要旨) 「OSIRIS」は 70MWの定格出力を有する実験炉である。1966 年に建設された 軽水開放型炉であり、その目的は、厳しい中性子流量条件下における使用済み燃料の 耐久試験及び医療用放射線源の製造である。 試験炉は 60cm×60cmの大きさで、 その構造は右図のとおりとなっており、 4 つの燃料棒に 6 本の制御棒からなって いる。試験は、炉心の周囲にある 2 つの ループに、試験材料を封入した縦 4m直 径 37cmの試験管を配置して行う。 炉心はタワー型になっており、上部に 実験環境設定のための装置が設置され ている。 炉心は水深 9.5mの軽水で覆われて おり、1 時間当たり 130tの水を内部循 環させていることから、完全に遮蔽され ており、周囲に放射線が漏れることはない。 開放型となっているため、稼働中でも炉周辺の状況確認が容易で、炉心から青いチ ェレンコフ光が発生している。 実験の性質から、炉心周辺の中性子量は通常の 10~20 倍となっており、短時間で モデル実験ができるようになっている。 実際の実験としては、フランス電力公社(EDF)からの依頼を受け、発電炉とま ったく同じ環境を再現し、使用済み燃料の耐久性の確認などを行っている。 また、医療用放射線源の製造に ついては、現在、炉心の周囲にヨ ウ素やソマリウム、モリブデン等 を配置することで、主にがん治療 に用いられるそれらの放射性同位 体を製造している。 特に、肺がんや骨肉腫等の治療 に用いられるモリブデン 99 につ いては、現在世界で製造している のは実質 3 カ国しかなく、 「OSI RIS」による増産が要請されている状況である。 (主な質疑) 問 これまでに大きな事故はなかったのか。 答 ポンプの故障等軽微なものはあったが、重大なものはない。ただし、古い使用済 み燃料を扱うことから、試験中に燃料棒被覆管に亀裂が入るなどのトラブルはあっ た。しかしこれは、実験の性質上ある程度予測されうるものであり、想定の範囲内 である。 問 ここで扱った使用済み燃料は再処理しないのか。 答 EDFに返還され、EDFで再処理される。 問 なぜ炉心から青い光が出るのか。 答 燃料中の中性子が光の速度より早く飛び出すことで青い光を発する。 飛び出した中性子がエネルギーを放出する際に青い光の波長を放出するためで ある。 6月3日(水) 10:00~14:00 フランス原子力庁(CEA)マルクールサイトで廃棄物展示館及び放射性廃棄物貯 研究所視察 廃棄物展示館「ビジアトム」内の シアターでマルクール施設及び「ビ ジアトム」の概要を OHP により説明 を受けた後、「ビジアトム」内見学。 その後、放射性廃棄物貯蔵研究所に 移動し、実験模型による概要説明を 受けた。 <マルクールサイト及びビジアトムについての概要説明> (マルクール研究所広報本部長:セドリック・ガルニエ氏) (マルクールサイトについての説明要旨) マルクールサイトは、フランスの南部の都市アビニヨンの北北西の車で 1 時間半程 度の距離にあり、サイトの敷地は数万平方メートルにも及んでいる。 1955 年に設立され、当初は国防研究サイトとして発足したが、その後、平和利用研 究に転用され、現在では主に核燃料サイクル事業の研究開発を行っている。 当サイトには、約 4,000 名の従業員がおり、主にバックエンドの研究開発、再処理、 リサイクル技術、サイクル事業を完結させるための高レベル放射性廃棄物処理、将来 の第 4 世代炉についての研究開発を行っているほか、ガラス固化技術、ラ・アーグの 再処理技術の研究開発を通じて、アレバ社やEDFなどへの支援を行っている。 当サイトには、本年度で廃炉となる高速増殖炉「フェニックス」があり、最先端の 核種変換(使用済み燃料から毒性の高いものを分離し、中性子線等を照射して、より 短い毒性の低い半減期の短い物質に変換する技術)の研究が行われ、それについては 実現可能との実証がなされている。 今後、次世代高速増殖炉プロトタイプの建設が予定されており、「フェニックス」 跡地か、カダラッシュに建設されるかが、2012 年に決定されることとなっている。 (ビジアトムについての説明要旨) 放射性廃棄物の取扱いは、フランスでもデリケートな問題となっている。 2006 年に廃棄物処理計画法が新たに成立し、国民の理解を深めるため、廃棄物処理 に関する正しい情報を広く世論に提供するため、これまでの放射性廃棄物に関する研 究成果を公表するとともに、公聴会や説明会を開催するなどにより広報に努めること とされたことを契機に、欧州で初めての廃棄物PR館として、当展示館が建設された。 当展示館は、面積約 1,500 ㎡、約 500 万ユーロで建設され、2003 年に企画立案、2004 年に建設着手、2005 年末に開館という、短期間で建設されている。 展示内容は、一般の方にもわかりやすく、教育的かつ中立的な情報提供となるよう、 原子力のみではなく、地球環境等各分野の国際的な専門家 12 名からの意見をもとに 企画されている。 フランスの原子力、産業、生活各分野からの廃棄物の種類や発生量、その処分方法、 放射能とは何かなどについて、一般の方にも興味をもってもらえるよう、各ブースの 展示物、ビデオ等に工夫を凝らし、わかりやすく説明しており、政府による一方的な 原子力宣伝ととらえられないよう、できるだけ中立的な観点から、それぞれの利点や 欠点、課題等も紹介している。 当展示館は、入館者から入場料をいただき、1~2 時間で見学できるよう企画されて おり、海外からの見学者用に英語での解説も行っている。 また、リピーター対策として、様々な特別展や講演会、イベントを企画したり、フ ランス義務教育省と連携を図り、小学生から高校生に向けた各種講座を企画・実施し 好評を得ている。 ちなみに、昨年は年間約 20,000 人が見学している。 展示内容は、専門の研究者が企画し、国の安全当局のチェックを受けており、次世 代に対する正しい知識の提供による教育を行うという観点から、非常に高い評価を受 けている。 このPR館のノウハウについては、国際的に輸出されつつあり、南アフリカ、ロシ ア、ブラジル等から同様の施設設置のための協力要請がある。 (主な質疑) 問 日本の高速増殖炉「もんじゅ」は温度計周辺でナトリウム漏れ事故を起こしたが、 フェニックスはそのようなことはあったのか。 答 フェニックスでも、そのよう小規模のトラブルは多々あった。ナトリウム漏れも あったが、大した問題とはならなかった。 フランスでは、これまで 3 タイプの高速増殖炉が企画されている。①原型炉(カ ダラッシュ)②フェニックス(当サイト)③スーパーフェニックス(当サイト)で、 ②、③は実証炉である。③は世論の同意が得られず、具体化できなかった。 実証炉であるから、様々な不具合が起こることはやむを得ないものである。 問 核燃料サイクルの完結のためには高速増殖炉が不可欠と思うが、フランス政府は どう考えているのか。 答 フランスでも同様の考えで、核燃料サイクルの最適化を図り、長期的にはウラン 資源の枯渇に備え、短期的にはプルトニウムの有効利用と世論が心配する放射性廃 棄物の核種変換の研究開発を行うために、高速増殖炉は必要と考えており、2020 年までに新たな炉を作ろうとしている。 <ビジアトム見学の概要> (ビジアトム広報課長:キャロリーヌ・キャンぺロ氏) (説明概要等) 昨年の入館者の 1/3 が 8~11 歳までの 生徒、1/3 が専門家、残りが一般の方々 とのこと。 主に、生活廃棄物、産業廃棄物、原子 力廃棄物に分類し、その具体的廃棄物や 処理方法等について各コーナーに解説 パネルや模型を展示。 ・生活廃棄物コーナー フランスでは年間 1 人当たり 500kgの生活廃棄物が生じ、20%がリサイクル、 40%が焼却処分、40%が埋設処分との説明。 ・産業廃棄物コーナー フランスでは年間 1 人当たり 10t、そのうち有害廃棄物は 150kgで、その中 に占める放射性廃棄物は 1kgとの説明。 ・原子力廃棄物コーナー フランスでは極低・低・中・高の 4 レベルに分類。建屋廃棄物(コンクリート など)、手袋、作業服、放射性医療廃棄物(注射器など)等中レベル以下が 90%で、 残る 10%が高レベルとの説明。コジェマ社やアレバ社の実際の高レベル放射性廃 棄物のガラス固化体キャスク模型展示。 ・放射性廃棄物処分コーナー 基本的には、六ヶ所村と同じ方式。ドラム缶をコンクリートピットに収納し、 プラスチックシートで覆い、覆土して、その上を緑地化。医療用放射線源の廃棄 物も同じ。 ・原子力発電コーナー 原子力発電のしくみ、核分裂の説明、PWR模型、燃料集合体や燃料ペレット の展示。フランスには現在 58 基のPWRがあり、順次第 3 世代炉(EPR)に移 行予定とのこと。 ・放射性廃棄物再処理コーナー 再処理のしくみや再処理することのメリット、デメリットや廃棄物の分離方法 (使用済み燃料棒せん断→硝酸溶解→分離→ウラン(95%)・プルトニウム(1%) 回収、高レベル廃棄物(4%)→ガラス固化)について説明。TRUは長寿命である ことから高レベル廃棄物だが、ガラス固化せず、中間貯蔵後最終処分地で貯蔵。 高レベル廃棄物については、将来的に核種変換していく方針とのこと。 ・放射線コーナー 原子の構造や原子が放射能を持つ理由を解説。自然放射線を説明し、身近な物 質(野菜や水、岩石など)の実際の線量が計測体験できる。放射線が目視できる スモークガラスを設置。 ・ガラス固化コーナー フランスのガラス固化技術を紹 介。高レベル廃棄物(液状)→回転 する筒状の焼却炉(内部はらせん状 になっている)で焼却(粉状)→溶 解ガラスに混入→キャスクに注入 とのこと。 <放射性廃棄物貯蔵研究所についての概要説明> (サイクル技術開発部長:G・ラン氏) 研究所敷地内に展示された貯蔵コン テナの模型の前で研究所の概要及び貯 蔵コンテナについて説明。 (説明要旨) 当研究所では、高レベル放射性廃棄 物の長期中間貯蔵のための研究を行っ ている。 300 年程度の長期中間貯蔵を念頭に おいて、まず収納するコンテナの研究 を行ってきた。 この鋼鉄製のコンテナの中に使用済み燃料等のコンテナを収納し、専用収納庫に中 間貯蔵することとしている。 コンテナは、本体が鋼鉄製で、口金の部分は溶かせるように鉄製となっており、そ の継ぎ目の溶接技術は難しい技術で、CEAが特許を取っている。 現在は、ガラス固化体、使用済みウラン燃料、MOX燃料の 3 種類の長期中間貯蔵 についてのコンテナ研究をしている。 放射性廃棄物貯蔵研究所内で貯蔵 施設模型により説明。 (説明要旨) 当研究所では、先ほどのコンテナを はじめ、貯蔵施設に使用するコンクリ ートなど関連資材の耐久性の研究を 行っており、貯蔵施設内部の予想管理 温度 80℃に資材を加熱し、すでに 2 年 前からデータを取り始めている。 中レベル・高レベルとも研究方法は同じで、当初は表層貯蔵についての研究が行わ れたが、現在は浅地層処分についての研究が行われており、併せて貯蔵施設の構造や 建設・運営費用などの研究も行っている。 貯蔵庫の施設構造としては、建屋の中に 14~15m程度の立坑を堀り、その立坑に縦 に 2 本分のコンテナを収納し、コンテナと収納する立坑の隙間を活用して、外気をそ のまま冷却材としてその隙間に自然流入させ、立坑の蓋から放出される熱せられた空 気を排気口から外気へ自然放熱するしくみが研究されている。 長期中間貯蔵で重要なことは、300 年という長期の保管期間において、貯蔵施設の 安全性が保たれていることを確認することであり、そのために、コンクリートをはじ め、使用されている資材のすべての健全性がいかに保たれるかをここで研究し、安全 性確保のために検討すべき課題の特定を行っている。 (主な質疑) 問 日本の中間貯蔵の考え方は、50 年程度中間貯蔵施設に保管した後、最終処分地で 保管するという考え方だが、フランスにおける高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵の 考え方はどうか。 答 フランスにおいても、製造したガラス固化体は最終処分地で保管されることとな っているが、2006 年の廃棄物計画法の中で、最終処分には可逆性を持たせることと されている。最終処分とは、本来最終的に持ち込んだら永久にそのまま保管という ことであるが、将来的に技術が進歩し、高レベル廃棄物を毒性の小さいものに変換 することが可能となったような場合、再処理する可能性を示唆したものである。 フランスにおいても、最終処分地の決定は簡単なものではなく、長期中間貯蔵の 研究は、最終処分地が決定されるまでの間、高レベル廃棄物を安全に保管可能かど うか確認するとともに、高レベル廃棄物の核種変換技術が確立された場合、容易に 中間貯蔵している高レベル廃棄物を取り出せることも視野に入れたものである。 問 フランスでは最終処分地以外に、新たに長期中間貯蔵施設を建設しようとしてい るのか。 答 現在のところ具体的なプロジェクトはない。1991 年法の中で長期中間貯蔵の研究 を行うこととされており、アンドラが主に研究を行っているが、CEAでもその研 究の一部を行っている。この研究成果がすぐに具体化されるわけではなく、将来の 一選択枝としての位置づけである。 問 可逆性を持たせるということは、例えば、最終処分場からガラス固化体を取り出 して核種変換を行ったうえ、処理できないものを再度貯蔵するなどということか。 答 基本的にはそういうことだが、最終処分地に貯蔵されたガラス固化体を取り出し て、一旦ガラス固化したものを再処理することはかなり高度な研究が必要な技術と 考えている。しかしながら、最終処分地の候補となっている地元の住民から、次世 代にも選択肢があるような可能性を示してほしいとの要望が出されたことから、法 律にそのように盛り込まれたものである。 問 どのような内容のテストを行っているのか。 答 300 年間という長期間の実験はできないことから、金属については、温度を数段 階に分けて急激に上げることで劣化を加速させることによって 300 年後を予測し、 コンクリートについては、数年間分のデータを拾って、劣化モデルを計算したうえ、 シミュレーションを行って予測することとしている。計測サンプルについては、で きるだけ原寸大のものを用い、予測の誤差が極力生じないよう配慮している。 <昼食会における主な質疑> (マルクールサイト副所長:ジル・ボルディエ氏) 問 サイ クル事業において、ガラス 固 化 技 術は難しい技術と思うが 、 フランスにおけるガラス固化技術確 立のうえで、どのような点が一番難 しかったか。 答 現在のガラス固化技術は、マルク ールで開発されラ・アーグで使用さ れている技術で、高温の炉で、少な いガラス流量で少ない廃棄物を流し 込む技術である。高温の炉で金属を溶かすとガラスと混ぜやすくなり、かつ、特に 白金族は底に溜まりやすいが、容量が少ないと混ぜやすく、底に詰まって流れを止 めてしまう危険性が少なくなる。フランスでは、長年にわたって研究を重ねた結果、 このように少量ずつに分けて作ることが、均質で安定したガラス固化体を作る技術 として確立された。 問 炉が大きい場合でも技術的に可能か。 答 大きい炉でガラスを溶かし込む技術は一般的に確立された技術だが、炉が大きい 場合、炉内の温度管理に高度な技術が必要である。 問 高レベル廃棄物を一旦加熱して、粉末化してからガラスと混ぜるフランス式のメ リットはどのようなところにあるのか。 答 ガラス固化体の容量を圧縮できるとともに、ガラスと混合しやすくなるというメ リットがある。次世代のガラス固化技術では、液体のまま混合する方法を考えてい るが、そのためには廃液中に含まれる水分を蒸発させるというプロセスを1つ追加 し、炉の形も現在のものよりも浅く広い形に改良を行った。 問 不溶解残渣(白金族)混入の問題解決のために、どのような研究を行ったのか。 答 白金族を溶かし込むための研究として、どのようなガラス母材が適しているのか、 ガラスの流量はどうか、メンテナンスのため固まったガラスをどのように洗い流す か、一旦止めた炉をどのように再稼動させるかなどの技術について研究を行った。 問 ガラス固化技術は難しい技術であるが、開発に当たっての留意点はあるか。 答 炉内の温度管理、ガラス母材、化学反応度など細かいデータの収集や研究者の専 門的知識とともに、オペレーション経験者の意見を聞くことが重要である。また、 長期安定的なガラス固化体を作るという観点から、ガラス母材の組成についても研 究が必要で、化学の専門家の知識とガラスの専門家が連携して、長期的にガラスが どのように変性するのかを研究し、良いガラス母材を開発することも重要である。 問 次世代のガラス固化技術は、燃焼度の高い使用済み燃料に対応したものか。 答 そのとおり。そのためには、現世代炉の構造ではでは解決ができない課題があっ たことから、新たな炉を開発した。 問 高レベル廃棄物の中から白金族を取り出す研究は行っているのか。 答 炉が詰まる問題は、全体的な流量ではなく、混合率の問題と考えている。ただ、 高速増殖炉の場合は、燃焼度が著しく高くなることから、将来的にガラス固化技術 において白金族処理の問題が必ず起きると予想しており、高速増殖炉の廃棄物処理 のため、その不溶解残渣を取り除く技術や取出した後の白金族の処理技術のための 基礎研究を行っている。 問 白金族から放射能を除去する研究についてはどうか。 答 国内の3研究施設でプルトニウムとマイノアクチノイドとの分離研究を進めて おり、核種変換のための研究は着実に進んでいる。この研究により、長寿命のマイ ノアクチノイドを短寿命に変換することが可能になれば、廃棄物の管理が容易にな るとともに安全性も高まり、貯蔵経費も安価となるなど、大きな効果が見込まれる。 6月4日(木) 14:30~16:30 サヴォアテクノパークで国立太陽エネルギー研究所視察 国立太陽エネルギー研究所会議室で同研究所の概要について、OHP により説明を 受けた後、同研究所内を見学した。 <国立太陽エネルギー研究所の概要について> (国立太陽エネルギー研究所理事長:ジャン・ピエール・ジョリー氏) (説明要旨) 当研究所は、フランス南部のロ ーヌ・アルプ地方サヴォア県のシ ャンベリー近郊に位置し、ブルジ ュ湖と山々に囲まれた風光明美 な地域に立地するサヴォアテク ノパークの中にある。 施設は 2005 年末に完成し、2006 年に太陽光発電による電力の買 取価格が大幅に引き上げられる など政府の太陽エネルギー推進 のための新たな政策が打ち出されたことを契機に、本格的な太陽エネルギー活用の研 究が始まった。 現在、当研究所には約 150 名の従業員がおり、CEA、CNRS(国立科学研究セ ンター)、サヴォア大学、CSTB(建物科学技術センター)と共同で研究を行って いる。 太陽エネルギーに関する研究としては、環境グルネル法に基づき、太陽光発電、太 陽熱を利用した一般住宅の省エネルギー化、電力の備蓄の 3 テーマについて、研究開 発を行っている。 太陽光発電については、太陽光発電モジュール、シリコンセルに関する研究のほか、 モジュールの認証も行っており、シリコン結晶の研究から産業への応用まで一体的な 研究を行っている。 太陽光発電モジュールについては、500 ㎡の専用ラボで、新素材による基盤作成と 品質検査や民間企業との共同による新たな基盤作成技術の研究を行っている。 発電効率については、その土地柄に合わせた最適な発電パネルの作成を目指してお り、様々な環境を想定し、出力 80kwの太陽光発電小規模実験施設を設けて実験を行 っている。 当研究所で発電した電気は、配電盤によってバッテリーや電気自動車に充電するほ か、余剰電力についてはEDFに売電している。 シリコンセルについては、1,000 ㎡の専用クリーンルームで、ホモ結合とヘテロ結 合処理セルの研究を行っている。 また、第 4 世代のセルとして、シリコンナノワイヤーによる光発電セルの開発のほ か、ポリマー素材に塗布するだけで太陽光発電ができる有機素材の開発も行っている。 モジュール認証については、当研究所ができるまでは国内に認証機関がなく、国内 企業の認証に時間がかかったことから、認証をスムーズに行うため、当研究所が認証 資格を取得したものである。 太陽熱を利用した一般住宅の省エネルギー化については、太陽熱を一般住宅に取り 込んで省エネを図るというのもので、太陽熱パネルの開発やそれを取り付けた研究家 屋を 900 ㎡敷地内に 3 棟設置し、太陽熱の利用の効率化に関する研究を行っている。 電力の備蓄については、主にバッテリーの研究を行っており、現在ドイツのアーヘ ン大学と共同で蓄電能力の高いバッテリーの開発研究を行っている。 ここでの研究内容は、様々な蓄電方式のバッテリーについて、過酷な環境下におけ る諸試験を行い、そのデータを分析研究している。 当研究所の研究機能は年々強化されており、2011 年には 250 名まで増員され、予算 も約 1 億ユーロと現在の 2 倍規模となる予定である。 (主な質疑) 問 フランスの1kw/h 当たりの買取価格はいくらか。 答 1kw/h 当たり 0.6 ユーロと世界で最も高い値段となっている。ただし、その値段 となるのは、建物の中に発電モジュールが組み込まれていること、建物の機密性が 強化されていることの 2 条件を備えた場合であり、地上にパネルを設置しているよ うな場合は 0.3 ユーロとなる。 問 民間企業が大規模な太陽光発電所を建設する予定はないか。 答 現在のところない。フランスの太陽光発電は、まだ普及途上の技術であり、国の 計画では、現在のところ 300Mwを目標とし、1地方で 10Mwの発電所2基程度を 目安としている。 問 モジュールの認証とは何か。 答 太陽光発電のモジュール製造のためには、クリアすべき最低限の国際規格が設け られており、その規格に適合した製品を製造する必要がある。その規格については、 IECという機関から認証を受ける必要があるが、当研究所はフランスで初めて、 その規格認証機関の認定を受けた。これまでフランスの企業がモジュール認証を受 けるには、ドイツの機関に申請しなければならず、取得までに相当の時間がかかっ ていた。 問 日本では一般住宅に太陽光発電パネルを取り付ける際、国からの補助があるが、 フランスではどうか。 答 フランスに補助金はないが、取付費用については、税法上所得控除ができること となっている。 問 フランスにおける太陽光発電効率はどの程度か。 答 12~19%で他国並みと考えている。年間 1,000 時間程度の日照時間があれば、一 般住宅に取り付けた場合、採算が取れると試算している。 問 フランスの景観保護のためには、景観を壊さないようなパネルの開発が必要なの ではないか。 答 フランスは景観保護意識が強く、景観保護地区周辺に対するパネル設置は難しい が、その他の地域では設置が可能であり、一般住宅の省エネ化を図るため、積極的 に導入を推進していく必要があると考えている。周囲の風景に溶け込んで目立たな いような、外観が瓦の形に近いモジュールを開発、実用化している企業も出てきて おり、今後少しずつ普及させていきたい。 (施設見学概要) ・太陽光発電モジュール実験室 数か月前にオープン、新しい特許を取得した企業が、基盤セルのモジュール化 の研究を行っている。セルの間にポリマーを入れない特殊なモジュールを製作し ているとのこと。 ・シリコンセル研究室 2 種類のシリコンセルの研究を行っている。ヘテロタイプのセル研究について は、日本の三洋と共同研究しているとのこと。 ・太陽光・熱利用研究施設 一般住宅へのパネル導入例を展示。一般の瓦の感覚で組み込めるよう工夫して いる。太陽光発電の場合は、パネルが機密性を保ち、熱を逃がさない効果もある。 今のところ、太陽光パネル設置には 2 万ユーロ程度必要。ただ、1 万ユーロは 税控除、残りは売電収入で賄うこととなるとのこと。 ・太陽光発電シミュレーション装置 照射ランプの角度の変更や風を送風する等により、パネルの発電効率を研究。 ・太陽熱併用暖房システム 太陽熱で水を一定温度まで温 め、その温水を他の化石エネル ギー(木材等)でさらに熱水に 加熱して一般住宅の暖房を行う システム。フランスの場合は、 冬が電力使用量のピークである ことから考えられたシステムと のこと。 ・太陽熱実験家屋 現在、太陽熱パネルを設置した実験家屋を 3 棟建築し、様々な研究データを取 っている。 ・配電管理システム研究室 将来的に一般住宅内の一元的なエネルギー管理ができる、家内エネルギー管理 システムの開発研究を行っているとのこと。 ・電気自動車の研究 電気自動車については、プラグインハイブリットの研究を行っており、アメリ カ車プジョー2台で実験している。1 回 2~3 時間の充電で平均約 70Km 走行と成 績が悪いとのこと。 ・バッテリー研究室 既存の各種バッテリーについて、温度や湿度などの稼働環境を変化させ、それ ぞれの条件下における性能、寿命を研究することにより、蓄電効率がよく、かつ 寿命の長いバッテリーの開発研究を行っているとのこと。 ・セル素材研究室 2 タイプの有機素材混合物をフィルムに塗布するだけで光発電ができる素材の 開発を行っている。現在は、湿度と酸化に強い素材を研究中。実用化の目途がつ けば、多方面に応用化の効く有望素材になると期待しているとのこと。 6月5日(金) 14:00~16:30 CEAサクレーサイトでフランスのバイオマス活用研究及び地球の気候変動研究 についての説明受講 当初の視察計画では、パリ市内の 環境エネルギー持続可能開発・国土 整備省(MEDAD)内で説明を受 けることとなっていたが、政府の組 織改正に伴う急な省庁移転に伴い、 急遽、CEAサクレーサイト内のバ イオマス研究施設会議室でフラン スにおけるバイオマス活用研究、気 候変動研究の概要について OHP に より説明を受けることとなった。 <バイオマス活用研究の概要について> (CEA産業開発本部長代理:アンヌ・ファランガ氏) (説明要旨) 現在、フランスでは、植物のセルロースを活用する第 2 世代の液化バイオ燃料(B PL)の開発研究を行っている。 この研究の目的は、フランスにおける新産業の構築と高レベル廃棄物貯蔵施設を誘 致している地域に経済的波及効果をもたらすための大規模事業の実施の 2 つである。 2 つ目の目的については、2006 年に成立した廃棄物計画法に、最終処分地を引き受 ける地域については、経済波及効果をもたらすプロジェクトを関係事業者の責任で行 うことが盛り込まれていることによるものである。 このため、EDF、アレバ、CEAの関係 3 事業者は、数年間にわたり、地元の議 員や商工会議所、企業と協議し、地域の資源や特性を生かし、若者が地域に定着でき、 地域の名誉が上がるような、国策に合致する先端的なプロジェクトについて検討を重 ねた結果、このBPL研究プロジェクトを実施することとなった。 このプロジェクトは、BPLの開発、省エネ住宅の研究、地元調達、地域開発とい う 4 つの基本的な研究テーマからなっている。 今回はバイオ燃料について説明する。 フランスの輸送部門においては、現在 、約 80%がディーゼル燃料に依存しているが、 環境グルネル法の成立により、再生可能エネルギー比率を高めることとされており、 現在のBPL活用実績 5%を、2020 年までに 10%に引き上げる予定としている。 2010 年までは菜種、ひまわりの種子などを原料とする第 1 世代のBPLの製造を行 うが、それ以降は食糧問題を避けるため、間伐材や農業廃棄物(わらなど)など植物 セルロースを原料とする第 2 世代液化バイオ燃料を製造することとし研究開発を行っ ている。 植物セルロースの液化については、原子力の技術を応用し、高温ガス化法を研究し ている。 間伐材、廃材、わら等農業廃棄物等の植物セルロースを高温の蒸気で加熱炭化し、 発生した水素と一酸化炭素を化学反応させて、カーボンチェーン(-CH2-)を合成し、 最後にチェーンを化学反応により切断することで、液化燃料を製造する。 C6H9O4 + 2H2O → CO + H2 → -CH2- 現在は、このプロセスの最適化研究の段階に入っており、生産効率は現在 20%だが、 30%以上に引き上げる研究が続けられている。 今後は、まず小規模なデモ施設を建設し、産業化が可能かどうか、プロセス、施設 の寿命や生産効率に関する研究を行うとともに、原料の確保、製品の流通をどうする か、などの研究を行うこととしている。 その次のステップとしては、中間規模の実証施設を設け、商業化の実証を行ったう え、民間企業に技術提供し、国内生産の拡大を図っていくこととなる。 実際の商業化には、1 時間当たり 100t 程度の生産能力が必要と考えている。 最初のデモ施設は、高レベル廃棄物研究が行われるビュール地域に建設される予定 となっており、年間 75,000t の植物セルロースを処理する予定で、現在、設計、入札 準備中であり、2012~2013 年に運用開始したいと考えている。 施設ができた場合、90~100 人の地元雇用が創出される見込みであり、現在、地元 と原料調達方法や製品の流通システムなどについて、協議を重ねている。 2015 年頃には中間規模の実証施設を運用開始し、2017~2018 年に商業化のための 技術を確立したいと考えている。 (主な質疑) 問 日本では民間で 15,000kl 規模を生産する液化バイオ燃料製造工場が 4 つほどあ るが、いずれも木材を硫酸で溶解してエチルアルコールを製造している。そのよう な方法についてフランスでは研究されているのか。 答 国内の他のバイオ燃料研究プロジェクトで行われている。 問 液化バイオ燃料の生産については生産効率が 40%以上ないと採算がとれないと 日本の研究者が述べている。採算を合わせるためには、政府から何らかの補助が必 要と思うが、フランスで補助はあるのか。 答 燃料販売時に税控除を受けられるほか、設備建設費について補助を受けられる。 問 商業化には 1 時間当たり 100t の燃料製造が必要と話があったが、高レベル廃棄 物貯蔵が予定されている地域では、それを賄うだけの原料調達ができるのか。 答 当初はデモ施設なので、10t ほどできればいいと考えている。商業化が本格化す れば、全国規模で原料調達が行われ、生産拠点も全国に複数できることとなる。 問 高レベル廃棄物貯蔵が予定されている地域でBPLプロジェクトを行うことと なったのは、住民の意思か、それとも国が提案したのか。 答 関係3事業者が地元資源の調査を行い、地元の意見・要望を聞いたうえ、地域の 特性に合致し、かつ国策に叶った事業として、当プロジェクトが選択された。 問 最終処分地を受け入れてもらうための事業実施なのか。 答 1991 年の環境グルネル法の中にバイオマス利用研究推進が盛り込まれており、国 策として実施する必要があった。ただ、どこでどのような機関が研究を行うかの決 定を行う中で、最終処分地となる地域に経済波及効果をもたらすためのプロジェク トを行う必要があり、地域からの要望等を考慮して、その地域でこのプロジェクト を行うこととなった。 <地球環境及び気候変動に関する研究概要について> (環境・気候科学研究所長:アラン・マゾー氏) (説明要旨) フランスにおける地球環境・気候変動の研究は、ここサクレー研究所とCNRS(国 立科学技術センター)の 2 か所で行われている。総勢 250~300 名ほどで、3 機関(C EA、CNRS、サンコンタン大学)及び国際機関であるIPCC(地球変動分析委 員会)と共同で研究を行っている。 主に地球温暖化について研究を行っており、過去からの様々な地球環境の変動パラ メータを収集し、モデル化のうえシミュレーションを行うことによって、CO2 排出量 が地球に与える影響を予測している。 過去の地球環境データの収集については、例えば、南極大陸で表層から 4,000m程 の深さまでの氷柱を繰り抜きデータ分析することによって、100 万年までさかのぼっ た地球環境の研究ができる。 氷柱には過去の降雪が固まることによって閉じ込められた気泡が含まれており、深 度ごとの CO2 の含有量等の変動を調べることで、当時の地球の大気の状況を分析する ことができる。 また、大西洋の海底の掘削調査も行っており、70m程度掘削することによって海水 温度や海流の変化がわかる。 海水温が上昇すれば、白い有機物の堆積層が形成され、それをカーボン 14(年代を 調べる指標元素の1つ)などにより年代特定すれば、海水温が高かった時期が特定で きる。 これらの調査の結果、1800~2000 年の 200 年の間に化石燃料がエネルギーに使用さ れた影響等により、CO2 の水準が一気に 100ppm 以上上昇していることが、判明してい る。 これらから収集した過去のデータをモデル化し、今後の地球環境をシミュレーショ ンしてみると、今後の我々の採る政策や行動により大きくシナリオは異なってくる。 現在は世界的に 3 タイプ、①世界的に CO2 を抑制する政策をとる、②楽観的なシナ リオ、③悲観的なシナリオ、が作成されているが、今の推移の状況は③に近い状況と なっている。 このままだと、今世紀末には気温が 4~5 度上昇、海水位が 50cm~1m上昇する ことが見込まれている。 海水位については、南極の氷の融け方により重大な影響があり、表層の一部が融け た場合でも、5m程度の上昇が見込まれている。 各国が、人類のために地球環境の将来のことをよく考え、賢明な選択をすることで、 将来は大きく異なったものとなる。 (主な質疑) 問 このような地球環境変動の研究が、フランスのエネルギー政策にどのように反映 されているのか。 答 IPPCフランス委員会の委員長は、環境グルネル法制定委員会の委員であった など、研究の成果は、随時政府に報告され、政府の環境エネルギー政策指針決定の 基礎資料とされている。 6月5日(金) 10:00~11:15 国立科学博物館視察 ガイドの案内により、施設を見学した。 (施設及び見学の概要) 国立科学博物館は、パリ市の北部郊 外、パリ市中心部から車で約 20 分のビ レッジ公園内にある。 同公園は、ミッテラン政権下の「パ リ大改造計画」の一環として再開発さ れたもので、同館は、フランスのこれ までの科学、工業技術等の成果を国民 に広く知ってもらうとともに、特に子 供の科学教育用展示施設の整備が必要であるとの観点から、同公園内に 1980 年に建 設されたものである。 地上 3 階、地下 2 階建てで、開館時間は、月曜日を除き 10:00~18:00(日曜日は 19:00)までとなっている。 年間の総来館者は約 350 万人にも及び、そのほとんどが 18 歳未満の学生か子供連 れの家族となっている。 建物内部には、アニメ上映を含めて 4 つの映画館、模擬天文台、プラネタリウム、 公会堂、アナトリウム、疑似プランテーション、年代ごとの子供コーナーのほか、フ ランスで研究開発が行われている原子力、航空・自動車技術、バイオテクノロジーな どの先端技術や地球環境問題などを紹介した展示ブース、科学的な子供用玩具等の売 店などが設けられている。 特に、直径 36mの巨大な半球形映画 館「ジェオッド」は、同館の人気アト ラクションである。 展示ブースは4つのコーナーに分か れており、技術革新コーナーでは、エ ネルギー、航空・自動車、科学犯罪捜 査など、生命科学コーナーでは、バイ オテクノロジー、地球環境など、宇宙 科学コーナーでは、宇宙空間、太陽系 の衛星たちなど、コミュニケーションコーナーでは、音、光、創造など、のブースが 展示されている。 各展示ブースは、パネルによる説明のほか、自動音声案内、模型などの展示物が設 置されており、子供にも理解できるよう、わかりやすい解説の工夫がなされている。