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わが国株式投資の活性化に向けた 「株主資本コスト」の活用について

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わが国株式投資の活性化に向けた 「株主資本コスト」の活用について
優秀賞
優秀賞
わが国株式投資の活性化に向けた
「株主資本コスト」の活用について
宮 永 雅 好 CMA
目
1.はじめに
2.株主資本コストに関する基礎的理解
3.株主資本コストの再定義
次
4.株式市場における株主資本コストの役割と活
用法
5.終わりに
本稿は、わが国の株式投資の収益性が長期的に低迷しているという現状認識の下、株式市場の信頼回復と株式
投資の活性化のために、株式会社の経営者と株主・投資家は株主資本コストという概念をどのように活用してい
くべきか、について論じる。まず、株主資本コストに関する基礎的理解を確認しつつ、株主資本コストに関して
株主・投資家と企業経営者の間において認識のギャップがあることを示し、株主資本コストの定義を3つに分け
ることを提起する。
そして、それらの定義を用いて株式市場における株主資本コストの役割と活用法を具体的に論じる。すなわち
「ROE目標と株主資本コストの関係」、「株主資本コストと株主リターンの関係」そして「株主資本コストと時価
発行増資」という3点につき、理論的な枠組みを考察する。それらの結果を踏まえ、株式会社の経営者は、自社
の株主資本コストの重要性を十分に認識した上で、①自社の株主資本コストを定義し決定する。そして、②株主
資本コストの定義と推計値を株主に開示し、③経営成果との関係において十分な説明責任を果たす。さらに、④
適切な情報開示によって市場株価の適正化を図る。という責務を負うべきと結論する。
1989年末以降22年間で投資資産が約3分の1に
1.はじめに
なるという悲惨な結果である。東京証券取引所上
わが国の株式市場は1990年以降、何度か立ち
場株式の時価総額は1989年末には600兆円近くに
直りの兆しをみせたものの、長期的な低迷から本
上り、世界市場全体の時価総額の約30%を占め、
格的に脱することができない状況にある。代表的
世界一の規模を誇った。しかし、直近(2012年
な市場ベンチマークである東証株価指数(TOPIX)
1月末)のデータでは300兆円を切り、世界シェ
の投資パフォーマンスは、図表1に示すように
アは約6.8 %、アジアパシフィック内のシェアで
宮永 雅好(みやなが まさよし)
1981年早稲田大学法学部卒業。日本債券信用銀行を経て、シュローダー投信投資顧問取
締役運用部長、プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパンCIO(最高
投資責任者)等を歴任。現在は企業の情報開示、財務戦略、M&Aなどに係る各種コンサ
ルティングを行うアイ・アール・ビー株式会社の代表取締役。東京大学大学院法学政治学
研究科卒業、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程修了、学術博士(早稲田大学)
。
©日本証券アナリスト協会 2012
25
優秀賞
図表1 東証株価指数(配当込み)のパフォーマンス
暦年
1990年
1991年
1992年
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
22年間平均
TOPIX(配当込み)
指数化
年間収益率
(1989年末:100)
-39.4%
60.6
-0.4%
60.3
-23.0%
46.4
+11.0%
51.5
+9.1%
56.2
+2.1%
57.4
-6.1%
53.9
-19.4%
43.5
-6.6%
40.6
+59.7%
64.8
-25.0%
48.7
-18.9%
39.5
-17.5%
32.5
+25.2%
40.7
+11.3%
45.4
+45.2%
65.9
3.0%
67.9
-11.1%
60.3
-40.6%
35.8
+7.6%
38.6
+1.0%
38.9
-16.7%
32.4
算術平均:-2.25% 幾何平均:-4.99%
(出所)東京証券取引所
③低い株主還元率、の3点を指摘することができ
る。
まず、資本収益性は、一般に株主資本収益率
(ROE)によって評価される。わが国の上場企業
のROEが諸外国に比べて低いことはこれまでも頻
繁に指摘されている。また、企業年金連合会が
2007年にいわゆる「ROE8%以上ルール」を設
定したことからも、投資家サイドにおいても上場
企業の低い資本収益性は問題視されていることが
分かる(注2)。ROEが低いと株主から委託された
資本が有効に活用されていないことになり、市場
株価は低評価にならざるを得ない。理論的には、
成長期待がない場合においてROEが株主資本コス
トより低くなると、株価は1株当たりの純資産を
下回る価値になる(注3)。実際にわが国の上場企
業の過半数以上で、株価純資産倍率(PBR)は1
を下回っているのが現状である(注4)。このよう
も約21.9%に後退している(注1)。
な状況では、事業を継続するよりも株式会社を清
こうした日本株市場の長期低迷の最大の原因
算して投下資本を回収した方が、株主にとって経
は、日本企業の業績や株主還元が投資家の期待通
済的利益が大きいと指摘されることも少なくな
りに実現しないことにあると考えられる。具体的
い(注5)。
には、①低い資本収益性、②低い実績利益成長率、
第2に、株式市場では利益成長による将来の配
(注1) 世界各国の株式市場の時価総額に関するデータは、以下のWorld Federation of ExchangeのHPを参照。
http://www.world-exchanges.org/
(注2) 企業年金連合会(旧厚生年金基金連合会)は、わが国企業のコーポレート・ガバナンスの現状や2006
年5月の会社法施行を踏まえ、2007年2月に「企業年金連合会 コーポレート・ガバナンス原則」を改
訂し、投資先企業が株主価値を最大限尊重した経営を行うよう議決権行使をすることとしている。中でも
最も特徴的な議決権行使基準は、取締役の選任に関するものであり、
「過去3年間の赤字・無配」基準に
加えて「過去3期間連続してROEが8%を下回る企業については、その原因や対応策を含め、事業計画や
資本政策等について納得のいく説明が得られない場合、再任候補者に肯定的な判断はできない。
」という
いわゆる「ROE 8%以上ルール」を設定した。なお、同連合会は、本ルール導入後の2007年6月の株主
総会のインハウス議決権行使において、行使対象企業808社のうち271社がこのROE基準に抵触したとし
ており、取締役選任議案を提出した762社のうち、296社の議案に反対(一部反対を含む)している(反
対行使比率38.8%)。
(注3) 現実のROEの変化は大きいので、平均値などで評価する必要がある。なお、有利子負債の大きい企業の
場合、通常負債レバレッジは株主資本コストに反映されるため、株主資本コストは相対的に高くなる。
(注4) 2012年4月末時点でTOPIX採用銘柄のうち65.4 %(1,631社中1,067社)が連結PBRで1未満となって
いる。
26
創立50周年記念懸賞論文集 2012.10
優秀賞
当増加期待が株価に反映される。有名なゴードン
(金利ゼロ)で貸したお金の価値は、元本よりも
モデルによれば、株価の期待リターンは「配当利
低い価値で評価される。そのため、株式会社は利
回り+成長率」によって単純に計算できる(注6)。
益成長が低い場合は、株主還元率を高めて内部留
すなわち、現在の配当利回りが低くても、将来の
保を少なくしないと、内部留保金の価値の減価に
増配が期待できれば、株式市場では将来の配当成
よって、株価は内部留保に見合った価格で評価さ
長を加味した株価が形成される。わが国の株価が
れないことになる。わが国の東証1部上場企業の
歴史的なピークをつけた1989年12月末には、配
配当性向は過去10年の平均で26.6 %となってお
当利回りはわずか0.44%であり、また典型的な株
り、米国の平均(33.4%)に比べて低いことが指
価評価指標として用いられる株価収益率(PER)
摘されている(注7)。したがって、株主還元率が
は60倍を超えていた。つまり、当時の株式市場
低いことはわが国の上場企業の株価にマイナス効
は将来の高い利益成長、配当成長を期待していた
果をもたらしている可能性がある。
ことは明らかである。
このように、わが国の株式投資における収益性
第3の株主還元率とは、当期純利益をどれだけ
が低いのは、日本企業の業績や株主還元が期待通
配当と自社株買いに割り当てたかを示す指標であ
りに実現していないことに原因があるとすると、
る。株主を総体として捉えれば、株主は配当か会
株式会社の経営者は、株主から委託された株主資
社による自社株買いによってのみ経済的利益を享
本を効率的に活用し、株主に対して期待通りの経
受することが可能になる。株式会社が利益の一部
済的利益を提供していくことが重要になる。そこ
を配当と自社株買いによって株主に還元し、残り
で、株主が期待する投資収益率の期待値を「株主
を内部留保する場合、その内部留保金が、資本コ
資本コスト」と定義し、株式投資における実績と
ストを上回って合理的に使用されることで将来の
して収益率を「株主リターン」と定義すると、株
利益成長性に結び付かなければ、株主は会社に無
主資本コストに見合った株主リターンを上げるこ
償でお金を預けていることになってしまう。無償
とが重要な経営課題ということになる。
(注5) 会社の純資産は、会計上の株主価値であるが、会計上の資産・負債価値は必ずしも公正な時価を表示し
ていないこと、また実際に会社を清算する場合、資産の換価に伴う諸費用や清算に伴う債務(解雇従業員
への特別退職金等)が発生することから、株式会社の清算価値は、純資産を下回ることも想定される。
(注6) ゴードンモデルは配当割引モデルとも呼ばれ、これを用いて、現在の配当(D0)から一定の成長率(g)
を前提として、株価と株主資本コストの関係を導く方法は頻繁に用いられる。すなわち、株価(P)は将
来の受け取り配当金(Dt)の現在価値の総和と考えられるため、配当金が一定率(g)で成長する場合、
株価(P)は以下のような算式で求められる。
Dt
D0
D1
+g)
=
Σ(1+r )= (r(1-g)
(r -g)
P=
e
t
e
e
上式から株主資本コスト(re)は次の式で求められ、右辺は「
(次期)配当利回り+成長率」となる。
re=
D1
+g
P
(注7) 生命保険協会[2012]の調査結果に基づき、平成13年度から平成22年度の10年間の赤字企業を除いた
企業の配当性向を単純平均したもの。なお、直近(平成22年度)のデータでは日本が30.3 %、米国が
30.0%となっているが、2005年(平成17年)以降米国企業は大量の自社株買いを行っていることから株
主還元率は米国の方が相当高いといえる。
©日本証券アナリスト協会 2012
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優秀賞
そこで本稿では、わが国の株式投資の収益性が
「総資本コスト」を指す場合の2つの意味を持つ。
長期的に低迷しているという現状認識の下で、株
本稿では、特に株主にとっての期待値と実績値と
式市場の信頼回復と株式投資の活性化のために、
いう点を重視して話を進めるため、株主資本コス
株式会社の経営者と株主・投資家は、株主資本コ
ト、すなわち狭義の資本コストを中心に考えてい
ストという概念をどのように理解し、活用してい
くこととする。
くべきか、という点について論じることを目的と
する。
2.2 株主資本コストの推計法
株主資本コストを算出する方法としてはさまざ
2.株主資本コストに関する基礎的理解
まな理論や考え方が存在するが、米国企業におけ
る株主資本コストの推計法に関する研究として
2.1 株主資本コストの定義
は、Gitman and Mercurioによるものが有名である。
「株主資本コスト」とは、株主資本に掛かるコ
Gitman and Mercurio[1982]は、1980年にFortune
ストのことである。株主資本とは企業が株主から
1000の企業に対して、長期の経営意思決定にお
委託された資本を意味し、またコストとは日本語
いて用いている資本コストに関するサーベイを行
で言えば費用のことで、何らかの経済的負担のこ
い、その結果をまとめている。その後Gitman and
とを指す。つまり株主が出資した資本に対して株
Mercurio[2000]では、前回の1980年時点のデ
式会社に要求する期待収益率のことを言う。
一方、
ータと1997年に行ったサーベイの結果を比較し
株主資本コストと類似した概念として「総資本コ
ている。
スト」
という用語もよく使われる。この場合の
「総
その結果は図表2の通りである。米国における
資本」は、自己資本と他人資本から成り立ってい
株主資本コストの推計法として80年当時は、配
る。自己資本とは狭義の資本、つまり株主資本の
ことであり、他人資本とは有利子負債(借入金や
社債など)を指す。すなわち、
総資本コストとは、
株式会社が使用する全ての負担付き資本に対して
発生する費用であり、株式会社が資金を調達する
ことにより生じる負担、
すなわち広義の「利子率」
と考えられる(注8)。
また、単に「資本コスト」という言葉も多く用
いられている。この資本コストとは、自己資本に
対する要求利回り(期待収益率)である「株主資
本コスト」を指す場合と、自己資本と他人資本を
合わせた広義の資本に対する要求利回りである
図表2 米国大企業における株主資本コスト推計法
(Gitman and Mercurio[2000]
)
各種推計法
過去平均配当利回り+予想成長率
現在配当利回り+予想成長率
予想配当利回り
投資家の要求するレート
うち、APT
CAPM
その他
負債コスト+リスク・プレミアム
益利回り(E/Pレシオ)
リスク調整後市場リターン
合計
1980年回答
3.4%
26.0%
1.7%
35.6%
n.a.
n.a.
n.a.
13.0%
15.8%
22.6%
118.1%
1997年回答
4.5%
9.0%
0.0%
70.3%
0.9%
64.9%
4.5%
17.1%
2.7%
14.4%
118.0%
(図表注)1.サ ン プ ル 数 は1980年 が177社、1997年 が
111社。
2.重複回答があるため、合計は100 %を超え
ている。
(注8) 総資本コストとしては、通常WACC(Weighted Average Cost of Capital;加重平均資本コスト)が用いら
れる。WACCは、株主資本コストと平均負債利子率を自己資本と有利子負債の残高で加重平均することに
よって求められる。
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創立50周年記念懸賞論文集 2012.10
優秀賞
当利回りに成長率を加算したゴードンモデルの考
社の経営者において株主資本コストに対する認識
え方が約3割を占めていた(
「過去の平均配当利
は一致していることが望ましい。
回り+予想成長率」が3.4%、
「現在配当利回り+
①株主・投資家にとっての株主資本コスト
予想成長率」
が26.0%)
。しかし、97年の調査では、
生命保険協会が、上場企業と投資家を対象に昭
これが13.5%と半減している。また、益利回りに
和49年から継続的に実施している「株式価値向
よる推計法も80年時点の15.8 %から、97年には
上に向けた取り組みについて」というアンケート
2.7%と激減している。
調査がある(注9)。この平成21年度調査の結果に
一方で「投資家の要求するレート」という回答
よれば(図表3)、機関投資家(回答数:89)が
は、80年から97年にかけて35.6 %から70.3 %へ
企業に対して経営目標として公表を要望したい指
と倍増している。中でもCAPMは97年の回答者の
標は、第1位がROE(回答率:79.8 %)、第2位
64.9%が使用しており、株主資本コストの推計法
が利益の伸び(同46.1%)、第3位が売上高利益率、
として最も支持された推計法といえる。その他の
売上の伸び(同36.0 %)となっており、選択肢
推計法としては、負債コストにリスク・プレミア
12のうち、資本コストは第9位(同25.8 %)で
ムを上乗せするいわゆる「ビルディング・ブロッ
あった。投資家サイドは、株主価値を高めるため
ク方式」が17.1%、リスク調整後の市場リターン
の経営目標値としてROEを最も重視しており、ま
が14.4%と比較的多くの企業に使用されているよ
た4人に1人は資本コストの公表を望んでいる。
うだ。
一方で、資本コストを用いた経営評価手法の1つ
である経済的付加価値(EVA)(注10)に関しては、
2.3 株主資本コストに対する認識
公表を要望する投資家は12.4%と低い(選択項目
それでは次に株主資本コストに関する関係者の
中最下位)。
認識(認知度)について考えてみたい。株主資本
また、別の質問において、投資家のほとんど
コストを要求する側(権利者)の株主・投資家と、
(89.9 %)がROEの重要性は低下していないと考
株主資本コストを負担する側(義務者)の株式会
えており、そのうち77.5%は、理由として「利益
(注9) このアンケートは毎年実施されており、直近の調査結果は平成23年度のものが入手可能であるが、平
成22年度から質問形式が一部変わっている。すなわち、平成21年度までは、投資家に対しては「企業の
経営目標として公表を要望したい具体的指標」を、また企業に対しては「経営に際して重視している具体
的指標」を尋ねているが、平成22年度からは、投資家に対しては「中期経営計画での公表を望む経営指標」
を、企業に対しては「中期経営計画において公表している経営指標」について質問している。つまり、平
成22年度からは中期経営計画の開示に絞った設問になっているため、実際に投資家が開示を望んでいる
指標や企業が経営上重視している指標が回答に反映されていない可能性がある。そこで、本稿では敢えて
変更前の質問に対する回答データを用いている。なお調査結果の詳細に関しては、以下のHPを参照。
http://www.seiho.or.jp/data/opinion/securities.html
(注10) 経済的付加価値(Economic Value Added)とは米国のコンサルティング会社であるスターン・スチュワ
ート社が用いた用語である。しかしその考え方自体は特に斬新なものではなく、資本コストとしてのハー
ドルレートを超える剰余価値ないしは残余価値をどの程度生んでいるか、という企業経営における財務的
な成果を表す指標に当たる。会社全体の資本を各事業分野に割り振って各部門の利益管理を行う場面など、
経営管理における一手法として有益な概念である。
©日本証券アナリスト協会 2012
29
優秀賞
図表3 投資家から企業へ公表を期待する経営指標
a. ROE
h.
b. ROA
i.
c. DOE
d.
j.
(EVA Ⓡ)
k. EPS
e. ROIC
f.
1
EPS
l.
WACC
m.
g. FCF
H21
89, H20
91, H19
90
(出所)生命保険協会
成長や資産効率向上を目指し、資本コストを意識
した経営を行うことの意義に変わりはないから」
と回答している。
一方で、
企業の資本コストへの意識について
「満
足できる企業はあまり多くない(2~4割程度)
」
と「満足できる企業はほとんどない(2割未満)
」
図表4 株主資本コストについての考え方(企業財
務担当役員宛てアンケート結果)
(有効回答数:896)
1.支払配当率(=支払配当/額面)
332(37.1%)
2.支払配当利回り(=支払配当/株価)
353(39.4%)
3.株主の期待投資収益率
189(21.1%)
(=[期待配当+期待資本利得]/株価)
4.その他
22(2.5%)
(出所)赤石他[1998]
という回答が合わせて66.3%に上っている。つま
り、投資家はROEを最も重要な経営指標と考える
員に対してアンケートを行い「株式の資本コスト
理由として、資本コストを意識した経営の重要性
をどのように捉えていますか。」という質問をし
を挙げているが、企業側の資本コストに関する意
た と こ ろ、 回 答 結 果 は 図 表 4 の よ う に な っ
識は不十分であると考えている。
た(注11)。
②上場企業にとっての株主資本コスト
選択肢のうち資本コストの概念に合致する
株式会社側における株主資本コストに対する認
「3.」という回答は、第3位で、わずか21.1%と
識はどうであろうか。赤石他[1998]の調査に
驚くべき低い正答率であった。赤石らは、「通説
よれば、1996年に上場会社の財務・経理担当役
どおり、一般的には、わが国の実務家にとって『資
(注11) 1996年6月時点での非金融業の全上場企業、店頭登録企業2,805社に対して郵送でアンケートを実施し
た。全サンプルで940社から回答があり、回収率は33.5%となっている。
30
創立50周年記念懸賞論文集 2012.10
優秀賞
本コスト』という言葉は、資本利用にかかわる現
53.6 %)となっており、資本コストは選択肢12
金支出コストを意味していることが確認された」
の中では、最下位(同5.1%)であった(図表5)。
と指摘している(注12)。現在では、わが国の上場
もっとも、資本コストを把握していると回答した
企業においても、EVA等による経営管理の概念が
企業は43.8%(282社)であり、そのうち31.5%(全
普及していることから、1996年当時のように「株
回答数の13.8%)の企業が株主に対して資本コス
主資本コスト=配当利回り」と考える経営者も減
トについて説明していると回答している(十分行
少していると思われる。しかしながら、少なくと
っているという回答が5.3 %、一定程度行ってい
も1990年代の後半までは、株主資本コストを正
るという回答が26.2 %)。しかし、これは前述の
しく理解している企業経営者はごく少数であった
投資家サイドの回答結果(投資家の25.8%が資本
ことは驚くべき事実である。
コストの公表を要望)に比べると、低い回答率と
また、先の生保協会のアンケート調査(平成
いえる(注13)。
21年度)によれば、回答した企業(回答数:644
また、筆者が2010年10月末から11月初めにか
社、複数選択可)において、株主価値向上に向け
けて、東京証券取引所1部上場の時価総額上位
て経営に際し重視している経営指標としては、第
100社の開示資料を調査したところ、自社の株主
1位が売上高利益率(回答率:63.5 %)
、第2位
資本コストの数値および計算方法を明示している
が利益の伸び率(同59.2 %)
、第3位がROE(同
企業は東京ガスのみであった。この100社のうち、
図表5 企業が重要と考える経営指標
a. ROE
h.
b. ROA
i.
j.
c. DOE
d.
k. EPS
(EVA Ⓡ)
f.
1
EPS
l.
e. ROIC
m.
WACC
g. FCF
H21
644, H20
630, H19
590
(出所)生命保険協会
(注12) 赤石他[1998]17頁参照。
©日本証券アナリスト協会 2012
31
優秀賞
過去の開示資料等からEVAなど資本コストに関連
る。また、ROEに関しても、投資家の約8割が経
した経営指標を導入したことがある企業は14社
営目標としての公表を求めているが、実際に重要
あったが、東京ガス以外の企業においては、株主
な経営指標として認識しているのは企業の半数程
資本コストの具体的な数値は公表されていな
度にとどまる。さらに、ROE目標値のある企業は
い(注14)。一方、自社のROEの目標値を開示して
38.0%であり、ROE目標を実際に公表している企
いる企業は33社(全体の33 %)あったが(注15)、
業は、全体の26.8%に過ぎない。すなわち、投資
投資家の関心の高さに比べると、決して高い比率
家の約8割が重要視しているROEの目標値を公表
とはいえない。すなわち、わが国では超大企業に
している会社が約4分の1に過ぎないという結果
おいても、株主資本コストやROEに関する意識は
は、株主と会社においてROEの重要度に関する認
それほど高くないことが分かる。
識もかなりの温度差があることを示している。ま
③投資家と企業の認識ギャップ
た時価総額上位100社のうち14社で導入実績があ
上場企業の資本収益性を測るための指標として
り、資本効率性を示す代表的な経営指標である
は、株主資本コストやROE、それにEVAに代表さ
EVAについては、投資家はそれほど高い関心を持
れる残余価値モデルなど幾つかの考え方がある。
っていない。
しかし、投資家と企業の間ではそれらの指標に対
すなわち、わが国の株主・投資家と株式会社の
する共通の理解や認識は得られていないように感
間において、株主資本コストやROEなどの経営指
じられる。
標に関する重要性の認識に大きな差異があり、ま
生保協会の平成21年度調査によれば、資本コ
た開示に対するニーズと実際の対応においても相
ストについて、投資家の4分の1が企業に対して
当のギャップがあるといえそうだ(図表6)。
公表を望んでいるのに対して、実際に説明をして
いるという企業は13.8%と少なく、経営上重視し
ている企業はたったの5%に過ぎないことから、
両者の意識には明らかな差異があるように思え
3.株主資本コストの再定義
このような株主・投資家と株式会社の間におけ
(注13) このアンケート結果によれば、回答企業の13.8%は資本コストの説明をしているとしているが、一方で、
経営指標としての重要性を感じている企業は5.1%と少ないことが分かる。また、このアンケートの回収
率は56.9%であり、回答しなかった企業の中には、資本効率や経営効率に関する意識が相対的に低い企業
が多い可能性がある。したがって、実際に資本コストの説明をしている企業は、無回答企業を合わせると、
10%以下であることが想定される。
(注14) 2010年10月末時点の東証1部上場企業の時価総額上位100社(市場全体に占める時価総額比率で
59.1%)のHP上の開示資料(有価証券報告書、決算短信、アニュアルレポート、決算説明会資料、中期
経営計画、など)を基に独自の調査を実施した。このうち、EVA等の採用の有無については、各社のHP
や一般の新聞・雑誌記事、および経営学に関する先行研究などを基に、EVAに類似した経営指標を採用し
たことがあるとされている会社を選択した。その結果、三菱商事、パナソニック、ソニー、東芝、富士通、
花王、東京ガス、旭硝子、リコー、HOYA、オリックス、パナソニック電工、旭化成、大阪ガス、の14社
が該当した。
(注15) この33社のROE目標の平均値は11.2%で、中央値は10.0%であった。ちなみに最大値は20%(コマツ)
、
最小値は6%(東京海上ホールディングス)となっている。
32
創立50周年記念懸賞論文集 2012.10
優秀賞
図表6 株主・投資家と株式会社における認識ギャップ
重要な経営指標
ROE目標の開示
株主資本コスト
の意義
資本コストの重
要性と開示状況
EVAの重要性
株主・投資家
大半はROEを 非 常 に
重視している。
株式会社(経営者)
約 半 数 がROEを 重 視
するが、売上高利益
率、利益成長の方が
重視される。
約80%が開示を要求 約4分の1が開示。
している。
時 価 総 額 上 位100社
でも3分の1のみが
開示。
投資の要求リターン 正しい理解は浸透し
として認識。
ていない。配当利回
り、額面配当率、と
して認識する経営者
も少なくない。
重視しており、約4 経営上重視している
分の1は開示を要求 会社は少なく、開示
している。
はほとんど皆無。
(1
社のみ)
あまり重視されてい 重視している会社は
ない。
(選択肢の中 多くないが、優良企
では最下位)
業では比較的用いら
れている。
主資本」と「簿価株主資本」という2つの概念が
ある。前者は、市場株価等をベースとした株式時
価総額であり、後者は、会計上の株主資本(簿価)
を意味する。PBRが1でない限り、株主資本の定
義を時価で考えるか簿価で考えるかによって、同
じ株主資本コスト(率)を用いた場合、リターン
(期待収益)の値は異なることになる。
はたして、株主・投資家と株式会社において、
「株
主資本」はどのように認識されているのであろう
か。株主・投資家にとって株主資本コストとは、
投資における期待収益率に相当することはほぼ間
違いない。したがって投資の期待収益率である以
上、会計上の株主資本ではなく、時価ベースの株
主資本が重要になる。厳密に言えば、既存の株主
は購入時の株価に対して、また現在の投資家は今
る認識ギャップはなぜ生じるのであろうか。中で
の市場株価を基礎として、期待収益率を考えるこ
も株主資本コストに対する認識は、その重要性の
とが自然である。すなわち、株主・投資家は、株
みならず、意義についても両者間で差異があるよ
主資本コストを簿価株主資本ではなく、時価株主
うだ。その背景・原因は、株主・投資家と株式会
資本に掛かるコストとして認識しているはずであ
社の間で株主資本コストの共通の定義付けや用い
る。
方が確立されていないことではないかと考えられ
一方、株式会社の経営者は、株主資本コストを
る。株主資本コストとは、文字通り「株主資本」
単なる配当利回りとして考える場合は、時価(市
に掛かる「コスト(率)
」である。つまり、株主
場株価)を基礎としており、額面配当率として考
資本に対する要求利回りであり、株主資本に株主
える場合は、簿価株主資本の一部である資本金を
資本コストを乗じたら、その解は、
「リターン」
基礎とすることになる(注16)。ただ、こうした明
になるはずである。
らかな誤解に基づく考え方を除くと、株主資本コ
リターン=株主資本×株主資本コスト,
リターン
株主資本コスト=
株主資本
ストはEVAなどの経営指標におけるハードルレー
トとして用いられることが多い。そして資本収益
性のような経営管理指標においては、客観性、安
まずここで問題となるのは、株主資本コストは
定性が求められることから、通常は会計上の株主
いかなる「株主資本」に対して掛かるのかという
資本、つまり「簿価株主資本」が用いられている。
点、つまり、株主資本コストにおける「株主資本」
しかし、先のアンケート結果からも分かるように、
の定義が重要になる。
「株主資本」には「時価株
企業が用いるEVAなどの経営管理指標に対して株
(注16) もっとも、現在では株式の額面制度はなくなっていることから、
「50円額面に対して10%配当」などと
いった考え方は意味がなくなっており、赤石他[1998]の調査当時とは事情が変わっている。
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33
優秀賞
主・投資家の関心はそれほど高くないのが実情で
その際のハードルレートとして株主資本コストが
ある。
用いられる。EVA等に代表される、残余価値(RI)
すなわち、投資家が時価株主資本をベースに株
モデルの考え方によれば、株式会社が株主から期
主資本コストを考えるのに対して、株式会社の経
待される株主資本コストよりも高い自己資本利益
営者は、簿価株主資本を基準に株主資本コストを
率(ROE)を実現することにより、会計株主資本
認識しているように思われる。この株主資本を時
に対する剰余価値を生むことになり、結果として
価で捉えるか、簿価で捉えるか、という違いは、
株式の時価総額は簿価株主資本を上回る価値で評
利用者の共通認識を得る際に大きな問題となる。
価され、PBRは1を超える。すなわち、株主価値
つまり株式会社の用いている株主資本コストと投
(あるいは企業価値)にいわゆるプレミアムが発
資家・株主が考えている株主資本コストの定義自
生することになる。
体に相違があれば、両者の間で正しいコミュニケ
問題は、この会計株主資本コストの算出法とし
ーションはできないはずである。
てどのようなものが使われるかという点である。
要するに、株式会社と株主・投資家の間で株主
実際に最もよく用いられているのはCAPM法であ
資本コストに関して認識のギャップが生じるの
る。しかしながら、CAPM法による株主資本コス
は、その具体的な数値に違いがあるということよ
トは、長期の投資リターンから求められる数値で
りも、株主資本コストを用いる目的や場面が異な
あり、過去の市場全体の収益率を基礎として算出
ることで、その定義自体に齟齬があることが原因
されることが多い。過去の一定期間の市場株価の
と考えられる。そこで株式会社と株主・投資家と
収益率は、あくまで株価という時価をベースに算
の間において、株主資本コストが使われているさ
出される。その際の投下資本は会計上の株主資本
まざまな場面を想定してみると、株主資本コスト
ではない。そう考えると、なぜCAPM法による株
の定義は、おおよそ次の3つの概念に分けること
主資本コストがROEのハードルレートとして用い
ができる。
られるのか甚だ疑問である。
会計株主資本コストの本来の役割である「ROE
3.1 会計株主資本コスト
の基準値」を求めるには、個々の株式会社が株主
会計株主資本コストとは、財務会計上の株主資
から期待されているROEをベースに考えることが
本つまり、株式会社の貸借対照表上における株主
合理的である。つまり、ROEが5%の会社にとっ
資本に対して掛かる資本コストを指す。貸借対照
ては、8%とか10 %のROEをターゲットとする
表上の株主資本は、企業会計のルールに則り計算
ことは意味があるが、ROEが20 %の会社が8%
される。したがって、日々変動する市場株価とは
とか10 %を会計株主資本コストとしても意味が
無関係に決定される。
な い。 し た が っ てCAPM法 よ り も む し ろElliott
この会計株主資本という考え方は、株主・投資
[1980]が提唱した全産業の平均ROE、対象企業
家よりも株式会社の経営者において多く用いられ
と同業者の平均ROE、または自社の過去の平均
ている。資本効率を重視する企業では、経営管理
ROEなどを用いる方が妥当であろう。経営者とし
上株主資本に対する利益の「ハードルレート」つ
ては、それらのROEを上回ることによって、全産
まりROEの最低必達目標を設定することが多い。
業平均や業界平均よりも高い資本効率を達成して
34
創立50周年記念懸賞論文集 2012.10
優秀賞
いることを示すことになり、また、過去の実績を
主・投資家からの期待リターンであることから、
上回るROEを目指すことは株主からの理解も得ら
いわゆるDemand Sideの考え方によることが妥当
れやすいものと思われる(注17)。
であろう(注18)。Demand Sideのアプローチにも
さまざまな算定法があるが、過去の実績を基準に
3.2 要求株主資本コスト
する場合は、CAPM法によって推計されることが
要求株主資本コストとは、株主・投資家が自己
多い。また、アンケート法やビルディング・ブロ
の投資に際して要求するリターンである。
つまり、
ック方式等による推計法も、投資家の要求するリ
現在市場株価が1,000円の会社の株式に対して、
ターンを直截的に反映させる方法として要求株主
投資家が10 %の要求リターンを考えて投資をす
資本コストの算定法として適していると考えられ
る場合、配当と株価の上昇によって、投資額の
る。
1,000円に対して10 %に相当する毎年100円相当
の収益を得ることを期待する。
3.3 市場株主資本コスト
この要求株主資本コストは、厳密には株式会社
市場株主資本コストとは、一時点の市場株価が
ごと、また株主ごとで異なることが多い。一般に
織り込んでいる株主資本コストのことであり、
対象企業の事業リスクが大きい場合、また成長期
Implied Cost of Capitalなどと呼ばれる。つまり、
待が高い場合などは、投資家・株主の期待収益率
ある時点において市場参加者が個別株に対して要
は大きくなる。また、株主の要求株主資本コスト
求している割引率(株主資本コスト)の平均値と
が同じでも、各株主は自己の取得時の価値に対し
いえる。一般的な株価決定理論から考えると、市
てリターンを要求するため、上場企業の株価は
場株価は将来の配当、利益またはCF等の現在価
日々変動して、株主間で取得価格が異なることか
値の総和によって形成されている。したがって、
ら、会社に対して要求する収益の期待値は株主に
市場が予想する将来の配当、利益等の数値や長期
よって異なることになる。
的な成長率などが分かれば、市場株価から割引率
もっとも要求株主資本コストが株主ごとに異な
を推計することができる。そしてその割引率から
る場合でも、一定の合理的な目標数値を株式会社
株主資本コストを算定することが可能にな
と株主・投資家との間で共有することは大切であ
る(注19)。
る。つまり、株式会社の経営者は、株主・投資家
代表的な算定法としては、DCF法の他に配当成
の期待リターンを認識した上で、合理的な方法で
長モデル(ゴードンモデル)や益利回り法といっ
説得力のある目標数値を設定し、それに見合った
た簡便な推計法があり、利便性が高い。またEBO
経営成果を上げるよう努力するべきである。具体
モデル(注20)は、理論的に優れた算定法であるが、
的な決定方法としては、要求株主資本コストが株
個々の株式の将来業績予想のコンセンサスに関す
(注17) 現在のわが国の上場企業のROEは、業界平均、過去平均とも低い点に問題がある。そこで実際には、
日本企業の利益水準が本来あるべき正常なレベルになってから、それらの平均的なROEを用いる方が合理
的であろう。それまでの代替的な方法としては、海外の同業他社の水準などを参考にすることが考えられ
る。
(注18) 株主資本コスト(株式の期待リターン)に関するDemand sideとSupply sideという考え方については、
山口[2005]46-47頁を参照。
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35
優秀賞
るデータなどが必要となる。わが国では各企業の
る。また、要求株主資本コストにおける株主資本
将来業績に関するアナリストによる合理的なコン
(要求株主資本)は、株主であれば株式購入した
センサスデータを入手することには限界があ
ときの「投資金額」(投資時の株式時価総額)を、
り(注21)、この手法によって実際に個別株の市場
これから株式購入を考える投資家であれば現在の
株主資本コストの推計するのは必ずしも容易では
市場株価(現在の時価総額)を意味する。そして、
ない。
市場株主資本コストにおける株主資本(市場株主
資本)は「市場株価」(現在の時価総額)になる。
3.4 株主資本コストの三面的定義
これらの3つの概念をまとめると次の図表7のよ
これらの3つの株主資本コストの概念において
うになる。
は、「何を株主資本と考えるのか」という点に違
このように、一概に株主資本コストといっても
いがある。つまり、3つの株主資本コストが前提
3つの異なる概念が存在し、それらが用いられる
とする「株主資本」はそれぞれ定義が異なる。会
各場面において、それぞれ株主資本の定義が異な
計株主資本コストの想定する株主資本(会計株主
り、さらに株主資本コストの推計法も違ってくる。
資本)は、貸借対照表上の自己資本つまり「会計
したがって、株式会社が考える株主資本コストと
上の株主資本」であり、市場株価とは無関係であ
株主・投資家が考える株主資本コストの定義が異
図表7 株主資本コストの三面的定義
株主資本コスト
×
(会計株主資本)
会計上の
株主資本
(要求株主資本)
株主・投資家の
投資時の時価資本
(市場株主資本)
現在の
時価資本
推計法;
ROEの平均値、合理
的なROE目標、など
推計法;
CAPM、アンケート、
積木法、など
推計法;
EBO、益利回り、
ゴードン・モデル、など
(出所)筆者作成
(注19) 一般に配当割引モデル、DCF法、EBOモデルなどが用いられるが、DCF法ではNOPAT(税引後営業利益)
から企業価値(株主時価と負債時価の合計)が算出されるため、割引率としては加重資本コスト(WACC)
が推計され、WACCから負債コスト分を考慮して株主資本コストを推計することになる。一方、配当割引
モデルやEBOモデルでは株主価値が直接算出されるため、割引率は株主資本コストと一致する。
(注20) Edwards-Bell-Ohlsen Modelの略称。詳しくは、Ohlsen[1995]参照。
(注21) 米国市場では、I/B/E/S(The Institutional Brokers’ Estimate System)などがアナリストの予想数値をコン
センサス情報として公表している。同社は米国以外の情報も取り扱っているが、太田[2005]によれば、
日本市場の企業業績については、「アナリスト予想のデータの精度は企業予想や東洋経済(会社四季報)
の予想よりも低い」という。
36
創立50周年記念懸賞論文集 2012.10
優秀賞
なれば、両者の理解は一致しないはずである。仮
たは市場株主資本コストをいかに経営目標に反映
に株主資本コストとして両者が納得できる数値が
させるかが重要になる。そこで、株主が期待する
推計されたとしても、
株主資本の定義が異なれば、
ROE目標値をいかに決定すべきか、という点につ
それを掛け合わせた株主リターンの期待値や収益
いて考えてみたい。
の目標値には齟齬が生じる。例えば、株式会社が
例えば、ある上場企業A社(株主資本100億円、
資本効率性指標として用いている残余価値(EVA
時価総額200億円)の株主・投資家が要求する(要
等)において、CAPM法から算定された株主資本
求・市場)株主資本コストを5%と仮定すると、
コストを用いてWACCを計算し、目標EVAを提示
株主・投資家の期待する利益は時価総額200億円
しても、株主・投資家は会計株主資本コストより
の5%に相当する10億円となる。一方でこの企
もROEを重視しているため、EVA自体にはそれほ
業の経営者がEVAなどの経営指標を用いており、
ど関心を示さないことになる(図表6参照)
。
そのハードルレート(会計株主資本コスト)を要
求株主資本コストと同じ5%としていたとする。
4.株式市場における株主資本コストの
役割と活用法
A社の経営者は、5%の株主資本コストを上回る
8%のROEを達成した場合、株主・投資家の考え
る株主資本コストを充足する結果だと考えるかも
株主資本コストが株主・投資家にとっての収益
しれない。しかし、この8%のROEに相当する利益
期待値であるならば、株式会社が株主資本コスト
は8億円であり、株主・投資家の期待値(10億円)
を決定し、それを株主・投資家に開示することは
を2億円下回ることになる。したがって、この利
重要な意味を持つ。しかし、それだけでは会社と
益水準では市場株価は下落する可能性がある。
株主との間において共通の理解を形成したことに
株主・投資家は、要求株主資本コストまたは市
はならない。株主資本コストは、具体的な数値を
場株主資本コスト、つまり時価株主資本を基準と
示した上で、経営目標との関連性や何らかの成果
した株主資本コストを考えている。それに対して、
との関係性について説明がなされて初めて経営指
経営者が会計株主資本コスト、すなわち簿価株主
標としての意義を持つ。そこで、経営者が株主・
資本を基準としたROEターゲットを設定する場
投資家との対話において、株主資本コストをいか
合、会社の経営者は、この2つの株主資本コスト
に利用していくべきかという視点から、以下3つ
の定義上の差異を調整する必要があり、投資家が
の活用法について論じる。
要求する時価株主資本コストに対応した期待株主
資本利益率(ROE*)を認識すべきである。そこで、
4.1 ROE目標と株主資本コストの関係
時価株主資本をベースとした「時価株主資本コス
これまでわが国の上場企業において、株主資本
ト」とそれによって導かれる期待自己資本利益率
コストはEVA等の算定に用いられることが多かっ
(ROE*)の関係を一般式にすると次のようになる。
た。しかし、これは単なるROEのハードルレート
としての意味を持つに過ぎず、株主が得られる収
益とEVAとは直接の関連性はない。そのため、株
主・投資家にとって重要な要求株主資本コストま
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NI* MCAP×COC
=PBR×COC ・・・1
SE =
SE
(NI*:目標純利益、SE:株主資本、MCAP:時価
総額、COC:時価株主資本コスト)
ROE*=
37
優秀賞
式1により、ROE*はPBRと株主資本コストの
4.2 株主資本コストと株主リターンの関係
積で表される。つまり、A社が投資家の期待を満
繰り返しになるが、株主が重視するのは要求株
足させることができるROE*は、PBR(2.0倍)×
主資本コストであり、これは株主が投資した金額
COC(5%)=10 %となる。したがって、8%
に対する収益率、つまり「株主リターン」の期待
のROEを達成しただけでは、投資家の考える時価
値である。ここで株主リターンとは配当と株価の
株主資本コストに見合った資本収益性には足りな
値上がり(キャピタルゲイン)を合わせた収益率
いことが分かる。
になる。つまり株主は投資した金額に対して得ら
このように経営指標としてハードルレートと市
れる収益について高い関心を持ち、株主資本コス
場の期待するROE*に差異がある場合は、経営者
トを期待値とすれば、株主リターンはその実績値
はハードルレートをクリアすることのみならず、
と考えることができる。
株主の期待値であるROE*をクリアすることが求
そこで、株主資本コストに対する成果としての
められる。A社の場合、ハードルレート(5%)
株主リターン、つまり株式会社が株主に対して実
を5%上回る10 %のROEを実現しなければ株主
現したリターンの検証方法について考えてみた
は満足しない。したがって、経営者はハードルレ
い。個々の企業の株主リターンを測定する方法と
ートとしての簿価ベースの会計株主資本コストと
(注22) の
しては、DDMモデル(配当割引モデル)
は別に、株主や市場が要求する時価ベースの株主
考え方を用いて以下のような計算式が考えられ
資本コストから導かれる期待自己資本利益率
る。
(ROE*)を把握しつつ、自らの経営目標を整合的
に説明することが必要である。すなわち、A社の
経営者が自社の株主資本コストを5%に設定した
場合、EVAのような残余価値の目標値は、100(億
n
I=
Dk
Σ(1+r )+(1+rP )・・・・・・・・・・⑵
k=1
e
k
e
n
(I:初期投資金額、P:最終価値)
円)×(10 %-5%)=5(億円)という計算
この式⑵は、投資(I)の現在価値を求める算
になる。
式である。つまり、株主が投資によって得られる
先の生命保険協会のアンケート結果(図表5)
リターンは投資期間内に受け取る配当と最終的な
でも分かる通り、上場企業においてROEは重要な
投資元本の回収額の総和である。したがって、右
経営指標として認識されている。しかし、実際に
辺の前項は将来の配当の投資時点での価値であ
ROEの目標値を明確に開示している企業の数は意
り、後項は投資元本の最終価値を投資時点の価値
外に少なく、また、ROE目標と株主資本コストの
に引き直したものとなる。
関係性について、説得力ある説明をしている企業
この式⑵を使うことで、例えば株式公開時に
はまだ見受けられない。
IPO価格(I)で株式投資を行ったら n 年後にいく
らの投資収益率(re)を獲得できたのか、複利計
(注22) 配当割引モデルとは、株価(P)は、将来の配当と株式処分価値(Pn)の現在価値によって決定される
n
と考える算出法。P=
k=1
38
Dk
Pn
Σ(1+r )+(1+r )
e
k
e
n
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算で求めることができる。同様に、第三者割当増
大をコミットさせるためには、ROEの最低水準の
資などによって資金を調達した場合にも、その第
設定よりも、時価株主資本(市場株価)を基準と
三者割当増資の払い込み価額(I)に対する配当
した株主リターンを測定する方が適切であろう。
とキャピタルゲインを基に、増資後の一定期間に
例えば「過去1年間、3年間、5年の配当と株価
おける投資利回りを計算することも可能になる。
変動による株主リターンが、いずれも年平均X%
会社は新たに投資家から資金を調達する場合、投
(対象企業の株主資本コストに相当する。)を下回
資のリスクに見合ったリターンの提供を期待され
り、かつ過去2年間の株主リターンが東証株価(配
るはずであり、その期待値が株主資本コストであ
当込み)の収益実績を下回る上場企業の経営者(取
る。したがって、資金調達時からの株主リターン
締役)に関しては、合理的な理由がない限り、再
を測定し、株主資本コストと比較することは、資
選には賛成しない」という基準の方が、株主の期
金提供者に対する経営成果の検証としては非常に
待や満足度とも合致しており、合理的と考えられ
有意義である。また、上場後かなりの期間が経過
る。
した企業については、現在から遡って過去のある
時点の株価を基準に実績を示すことも考えられ
4.3 株主資本コストと時価発行増資
る。例えば過去5年、10年、20年といった長期
現在わが国における増資は、新規公開(IPO)
の株主リターンを計測し、株主資本コストと比較
時のものも含めて時価発行つまり市場株価(IPO
することは、既存株主の期待に対する成果の検証
の場合は適正な想定市場株価)による資金調達が
としての意味をもつ。
主流である。しかしながら、時価発行増資には問
こうした株主リターンに関する情報開示は、経
題点も多い。中でも最も大きな問題は、増資後の
営者にとっては、株主に対する説明責任を果たす
利益の希薄化による株価の下落である。この問題
ことになり、また株主にとっては、ガバナンス上
が生じる背景・原因としてはさまざまなものが考
の評価軸として有益である。企業年金連合会が
えられるが、会社と株主・投資家との間において
「ROE 8%以上ルール」を設けた最大の目的は、
株主資本コストに関する理解が不十分なことが影
適正な株主リターンを上げられない企業の経営者
響しているものと思われる。
に説明責任を課すことにあったはずである。そし
株式会社が増資をする場合、増資によって得た
てこのルールの導入は、資本収益性の低い株式会
資金の活用方法によって1株当たりの利益(EPS)
社の経営者にROE向上の必要性を強く認識させる
が変化し、それによって理論株価は変動する。増
ことになった。しかし、全ての上場会社に一律
資によって獲得した資金が株主の期待通りに活用
ROE 8%以上という基準を設けたことは、やや
され、EPSが変わらなければ理論株価は変わらな
乱暴なルール設定だったと思われる。なぜなら、
いが、EPSが下がると株価は下落につながる。そ
元々 ROE水準が高い企業にとっては経営の評価
こでまず、増資によって市場株価がどう動くかに
軸とならないばかりか、これまでROEが低かった
ついて考えてみたい。市場株価が織り込んでいる
企業がROEを高めていく努力をしている際にも的
(市場)株主資本コストを益利回り(PERの逆数)
確な評価を与えることができない。
と仮定し、株価はEPSを益利回りで除したもので
より現実的に、全ての上場企業に株主価値の拡
あると単純化して考えると、増資情報を反映した
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39
優秀賞
理論株価(P*)は、
次のように表すことができる。
E +∆E
P*= 0
÷Rm ・・・・・・・・・・・・・⑶
S0+∆S
ただし、E0は増資前の当期利益、ΔEは増資による
増加利益、S0は増資前の発行済株式数、ΔSは増資
Rmは益利回り(=市場株主資本コストと仮定)
株数、
P0)をすると、式⑸よりP*=P0となるため、増資
後も市場株価は変動しない。しかしRad≠Rmの場
合、時価発行増資をするとP*≠P0(=P1)となり、
増資によって株価は変動してしまう。すなわち、
式⑸によれば、株式会社が時価発行増資をした場
合、Rad/Rmが1より大きい場合はP*>P0となり、
増加利益ΔEは、増資株価をP1、限界株主資本
増資によって株価は上昇する。一方、Rad/Rmが1
利益率(増加資本に対する限界利益率)をRadと
未満の場合はP*<P0となり、増資によって株価は
置くと、ΔE=ΔS×P1×Radとなり、これを式⑶
下落することになる。
に代入すると、次の式が得られる。
時価発行増資において問題となるのは、新株発
E +ΔSP1Rad
P = 0
・・・・・・・・・・・・・⑷
(S0+ΔS)Rm
*
行後に市場株価が下落し、新株の株主に短期的な
損益が発生させてしまうことである。そこで、増
資後に株価が変動しないような価格で発行するこ
さらに、P0を増資前の市場株価とすると、増資
とが求められる。そのためには、増資後の情報を
前の利益(E0)はE0=S0×P0×Rmとなるため、式
織り込んだ適正な増資株価(いわゆる「公正な株
⑷は次のようになる。
価」)によって増資を行う必要がある(注23)。先
SP
ΔSP1
R
P = 0 0 +
× ad ・・・・・・・・⑸
S0+ΔS
Rm
S0+ΔS
*
に述べたように式⑸から、Rad>Rmの場合、増資
後の株価(P*)はP0を上回り、Rad<Rmの場合は、
増資後の株価(P* )はP0を下回ることが分かる。
式⑸の右辺の第1項は、増資前の時価総額を増
つまり、株式会社が新規に増資をする際の公正な
資後の株数で除したものであり、増資後の増益効
株価は、限界株主資本利益率(Rad)と市場株主
果を考慮しない希薄化後の理論株価である。
一方、
資本コスト(Rm)によって決定されることになる。
右辺の第2項は、1株当たりの調達資金に、増資
すなわち、株式会社が増資をする際には、新た
資金に対する限界株主資本利益率(Rad)と市場
な株主に対して合理的な投資機会を提供する必要
株主資本コスト(Rm)の比を乗じたものである。
があり、公正な株価によって増資をすることが大
したがって、1株当たりの増資資金をいかに活用
切である。そこで、(市場)株主資本コストと増
するか、すなわちRadの数値によって増資後の株
資資金を活用した限界資本収益率(限界ROE)と
価は変化することになる。
を比べて、後者が前者を下回る場合は、増資によ
もっともRad=Rmの場合、時価発行増資(P1=
って株価が下落するため特に注意が必要となる。
(注23) この時価発行増資の適正株価に関する考え方には、増資によって変化する株価のリスクを既存株主に
のみ負わせるべきという考え方と新旧株主双方に負わせるべきという考え方の2つがあり得る。筆者は、
法学、会計学および経営学の先行研究などを基に考察した結果、下級審裁判例(東京高判昭 46.1.28.高民
事24-1-1)や生駒[1986]74頁などの考え方に賛同し、
時価発行増資における合理的な発行株価とは、
「増
資による効果が株価を上昇させる場合でも下落させる場合であっても、増資時点の情報を十分に織り込ん
だ市場株価、すなわち新株主において短期的な損益が生じない株価」を指すと解することが合理的と判断
した。
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創立50周年記念懸賞論文集 2012.10
優秀賞
株式会社は、増資時のインベスター・リレーショ
必要である。株主資本コストの概念を適切に理解
ンズ(IR)において、市場の投資家に対して十分
し、それを上手に使うことで、株主と経営者との
な説明をすることが求められる。具体的には、①
間のコミュニケーションを円滑にすることがで
時価発行増資の理由、②増資資金の活用方法、③
き、一方株主は、株主資本コストに対する実績(株
将来の業績への影響、などについて市場が判断す
主リターン)を経営成果のモニタリング尺度とし
るために必要な情報を開示し、加えてそれらの情
て用いることで、経営者を評価することが可能に
報に対して市場株価が適正に評価されているのか
なる。また、上場会社が市場で資金調達をする場
を分析し、募集株価が妥当であるのかを確認する
合には、経営者は株主資本コストを踏まえた適切
必要がある。それらの情報が織り込まれた株価に
な株価で資金調達を行い、資本市場の健全な資金
よって増資をすることによって初めて、時価発行
配分機能を損なうことのないよう留意すべきであ
増資後における株価下落という問題の解決が可能
る。
になる。
このように、株式市場において、株式会社の経
営者と株主・投資家が、株主資本コストを上手に
5.終わりに
活用することで、経営者の説明責任が果たされる
とともに、株主からの経営に対するチェック機能
株主資本コストは、株主がその地位に基づいて
の充実が図られ、またそれよって経営者の株主価
獲得できる経済的利益の期待値であり、株主にと
値の増大に対する意識が高まることが期待でき
って極めて重要な指標である。そこで、株式会社
る。株主に対して十分なリターンを提供できなか
の経営者は自社の株主資本コストの重要性を十分
った経営者は、その原因や理由を明確に説明した
に認識し、
経営に活用していくことが求められる。
上で、株主から正しい評価を受けるべきである。
そのためには、経営者は、株式市場に対して次の
そうした経営者と株主との間における適正な緊張
ような責務を果たすことが重要になる。まず、①
関係を形成することが、わが国の株式投資のリタ
そして、
自社の株主資本コストを定義し決定する。
ーン改善を通じて、株式投資の活性化と株式市場
②株主資本コストの定義と推計値を株主に開示
全体の信頼性向上につながるものと考えられる。
し、③経営成果との関係において十分な説明責任
そして、そうした株式投資と株式市場の健全化が、
を果たす。そしてさらに、④適切な情報開示によ
最終的にはわが国における資本主義経済の発展に
って市場株価の適正化を図る、ことも重要にな
寄与していくことを切に望みたい。
る(注24)。
すなわち、わが国の上場企業の経営者は、株式
市場において信頼を得るためには、株主資本コス
トを重要な経営指標として捉え、それを経営目標
の設定や経営成果の分析などに取り入れることが
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(注24) 日本IR協議会が毎年行っている会員企業アンケートによれば、IR活動の目標として「適正株価形成」が、
過去数年間、最も高いポイントをあげている。詳しくは日本IR協議会のHP(https://www.jira.or.jp/)を参照。
©日本証券アナリスト協会 2012
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