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書評
書評 カフカ [著 [ 著 ] , 高 橋 義 孝 訳 『 変 身 』 改 版 ( 新 潮 社 , 1985) 1985 ) ((新 新 潮 文 庫 ; カー1 カー 1 - 1). 文学部文学科ドイツ文学専攻 3 年 正月 瑛 カフカの作 品 において決 して欠 かすことの出 来 ないキーワード、それは「疎 外 」ないしは「孤 独 」であろう。 形 式 は問 わず、様 々な種 類 の疎 外 ・孤 独 を彼 は一 貫 して描 き続 けた。ある時 は一 人 、檻 の中 で四 〇日 間 の断 食 を決 行 したり(Ein Hungerkuenstler 断 食 芸 人 )、またある時 は身 に覚 えの無 い裁 判 にかけら れ、犬 のように死 んで行 く(Der Prozess 審 判 )。そしてある獣 は何 十 年 も地 中 の洞 穴 を一 人 で改 築 し 続 ける(Der Bau 巣 穴 )。 本 書 においても例 外 ではない。とある外 交 販 売 員 グレーゴル・ザムザは目 覚 めの悪 い朝 、突 如 として 醜 悪 な毒 蟲 へと成 り果 てていた。家 族 から見 放 されたグレーゴルは部 屋 に閉 じこもり、散 々な仕 打 ちを 受 けて死 ぬ。この構 図 だけを取 り上 げると、何 か酷 く不 条 理 な展 開 が淡 々と進 んでいくだけのつまらない ファンタジーに過 ぎない、とでも思 ってしまう。「これは現 代 の引 きこもり症 候 群 の到 来 を予 言 していたの だ」とも取 れるかもしれない。だが本 書 において特 筆 すべき点 はただ一 つ、意 思 疎 通 をするということの 困 難 性 を暗 示 的 に、しかし明 確 に表 現 していることであろう。グレーゴルの声 はもはや獣 のようで、人 間 としての意 識 はまだあるにも関 わらずまともなコミュニケーションは不 可 能 である。家 族 を困 らせるつもり など毛 頭 ないのに、言 葉 を持 たないために嫌 悪 される。グレーゴルが死 ぬ間 際 のシーンでは彼 の父 が 「こいつがわしたちのことをわかってくれさえしたら」と、何 度 も繰 り返 す(八 六 項 )。伝 わらない、ということ がこんなにも辛 いことであろうか。つまりこれは異 種 間 の不 理 解 という型 を借 りた、人 間 の意 思 疎 通 や相 互 理 解 の困 難 性 、ならびにそれに伴 った深 淵 な孤 独 を表 した作 品 であるのだ。 情 景 描 写 という点 でも目 を見 張 るものがある。冒 頭 、虫 になったグレーゴルがベッドから降 りるのに悪 戦 苦 闘 するシーンの、現 実 には決 して体 験 し得 ないことであるのに、何 故 だかそれをリアルに感 じてしま うような緻 密 な描 写 など、カフカの他 に誰 が描 けよう(しかも彼 は挿 絵 に虫 そのものを描 くことを禁 じた。こ れは読 者 の想 像 力 に対 する挑 戦 なのだろうか、はたまた文 章 がある一 つの完 成 された虫 像 への想 像 を かき立 てるに充 分 な説 得 力 を持 っているであろうという自 信 なのか、それはわからない)。また、ぞんざい に扱 われながらも家 族 の変 化 に聞 き耳 を立 てて一 喜 一 憂 しているグレーゴルの心 理 なども興 味 深 く追 いかけていける。 百 年 近 く前 の作 品 だが、ひょっとしたら現 代 の個 人 主 義 的 孤 立 社 会 においては、(皮 肉 なことながら) 当 時 の読 者 よりも多 くのシンパシーを我 々は感 じることが出 来 るかもしれない。扱 っているテーマが普 遍 のものである限 り、作 品 は時 代 を超 越 する。本 書 は図 書 館 には必 ず置 いてあるし、書 店 でもワンコイン でおつりが来 るほど安 価 で並 んでいるため、機 会 があったら是 非 手 に取 ってみてほしい。