...

ポリエーテルイミド(PEI)/ポリビニルピロリドン(PVP) 多孔質膜形成過程の

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

ポリエーテルイミド(PEI)/ポリビニルピロリドン(PVP) 多孔質膜形成過程の
1 白石典久
ポリエーテルイミド(PEI)/ポリビニルピロリドン(PVP)
多孔質膜形成過程の観察
B-14
Observation of Formation Processes of Polyetherimide(PEI)/Polyvinylpyrrolidone(PVP)
Porous Membranes
応用化学専攻 白石典久
SHIRAISHI Norihisa
N-メチル-2-ピロリドンを溶媒に用い、PVP を添加した PEI 多孔質膜を作製した。湿潤大気
中ではセル状構造膜が形成され、水中ではフィンガー構造膜が観察された。PVP を様々な濃度
で添加したところ、PVP の添加によりセル状構造膜、 フィンガー構造膜とも孔が大きくなるこ
とが分かった。PEI 多孔質膜の形成過程を凍結乾燥−SEM 観察により調べ、水中でのフィンガ
ー構造形成、湿潤大気中でのセル状構造形成の様子を明らかにした。作製された膜の赤外全反
射スペクトルより、基板の種類などに依存して膜内のポリマー組成分布が偏ることが分かった。
緒言
燥・割断後の電子顕微鏡(SEM)観察により調べた。
ポリエーテルイミド(PEI 右図 a) (Tg :217℃)はポ
また、作製された膜の赤外全反射(ATR)スペクトル
リイミドの中では例外的に有機溶媒に可溶であり、
を測定することで膜内のポリマー組成分布も調べ
ポリビニルピロリドン(PVP 右図 b)とも良く混和す
た。セル状構造膜の作製においては、製膜過程での
るので、PEI/PVP の組み合わせによる多孔質膜の形
ポリマー溶液の重量の経時変化も測定した。水の流
1)
成が広く研究されている 。
入から膜の形態形成に至るメカニズムを検討した。
PEI を親水性を持つ有機溶媒に溶かしておき、溶
媒を水に置き換えると、その過程で多孔構造を持っ
た膜を形成させることができる。PEI/PVP 多孔質膜
の場合、球状の孔の空いたセル状構造膜と細長い孔
O
CH3
O
O
O
CH3
N
NO2
N
O2N
O
O
n
a. PEI
の空いたフィンガー構造膜があり、
どちらも透過膜、
濾過膜として利用される。水蒸気が永久気体や有機
CH2
化合物よりも遥かに速く透過する特性を生かして水
CH3
CH
N
の浄化、有機物蒸気や永久気体の乾燥等に利用され
N
O
n
b. PVP
2)
る 。
PVP は親水性であり、透過膜への水の収着係数を
増加させると考えられているため、PEI への添加剤
O
c. NMP
1.実験
1.1.多孔質膜の細孔構造観察
として利用されるのである。このとき、添加する PVP
PEI(Aldrich)及び PVP(和光純薬)を共通溶媒であ
の分子量が増加するに従い、フィンガー構造膜中に
る NMP(和光純薬)に溶解し、ガラス基板に滴下した。
おける孔の形成が妨げられるということについては
その後、セル状構造膜を作製する場合は湿潤空気を
3)
既に報告がある 。
通じて水分を浸透させた後、風乾して溶媒を除いた。
本研究では N-メチル-2-ピロリドン(NMP 右図 c)を
フィンガー構造膜を作るときは基板ごと純水中
用いた溶媒置換法での膜形成において、PVP の濃度
に4時間浸し、溶媒の NMP が完全に水中に溶出した
による膜の形態や組成の変化を検討した。多孔質膜
後、空気中で十分に乾燥させて製膜した。膜中の細
が形成される途中過程を液体窒素を用いた凍結乾
孔構造を調べるため、製膜後、膜を液体窒素に入れ
2 白石典久
凍結割断し、SEM で膜の切断面を観察した。製膜過
換速度が大きいと考えられる。全表面が大量の水と
程を調べるときは製膜開始から一定時間おいて液
接する表面層(①)では細かい孔が形成されるが、水
体窒素に入れ、試料を凍結割断した後真空引きして
が内部に浸入するに従って相分離のサイズが大きく
溶媒を除き、割断面の構造を SEM 観察した。
なり、中層(②)では細長い孔、内層(③)では大きな
1.2.成分高分子の分布
丸い孔が形成されている。
フィンガー構造膜については製膜後に水側表面
Table.1 にセル状構造膜とフィンガー構造膜につ
と内部(切断面)を、セル状構造膜では空気側表面と
いて、PVP 添加濃度に対する孔の大きさ(後者につい
ガラス基板側の面の赤外 ATR スペクトルをそれぞれ
ては Fig.1b の内層③部分)の変化を示した。セル状
測定し、組成を比較した。セル状構造膜については、
構造膜とフィンガー構造膜のどちらの場合も、PVP
テフロン基板上で製膜した膜においても測定を行
を添加することにより、孔が大きくなったが、フィ
い、基板の性質による膜の組成の違いを検討した。
ンガー構造膜では PVP 添加の効果が著しい。PVP は
1.3.製膜過程での重量変化
親水性が高いので、PVP を含むポリマーは固相とし
セル状構造膜の作製において、基板にポリマー溶
て析出しにくく、
相分離が大きくなると考えられる。
液を滴下した後の重量の経時変化を測定した。製膜
100μm
過程での NMP の親水性による、ポリマー溶液中への
100μm
upper face
①
upper face
水分の流入を、PVP 添加濃度の異なる溶液で比較し、
②
膜の断面構造との関係を検討した。
inside
③
3.結果及び考察
3.1.セル状構造膜・フィンガー構造膜の形成過程
substrate
(b)finger-like structure
(a)cell-like structure
Fig.1 Cross-sectional SEM images of PEI membranes.
と PVP の効果
Fig.1(a)に PVP 無添加(仕込み:PEI/NMP=15/85wt%
)のセル状構造膜(湿度 36% 24.9℃)の断面の SEM 画
像を示す。セル状構造膜では大気側ほど孔が大きく
なった(Fig.1(a))。セル状構造膜では水は水蒸気と
して供給されるため、水の浸透および NMP との置換
は遅いが、膜の上部では水の浸入が速い。上部の水
Table1 Pore diameters of PEI/PVP membranes formed by
the two methods starting with different compositions.
PEI/PVP/NMP
cell-like
finger-like
15/0/85
6μm
40μm
12.5/2.5/85
7μm
125μm
10/5/85
11.5μm
170μm
部分が大きく成長してからポリマーが析出するため
大気との接触面では孔が大きくなると考えられる。
セル状構造膜の構造形成のメカニズムは基本的に
は以下のように考えられる。まず、NMP の親水性に
①
PEI/NMP
solution
② H2O(g)
NMP
③ H2O(l)
NMP
substrate
より水蒸気が大気中からポリマー溶液に浸入する
(Fig.2②)。ポリマーは水に溶解しないため、ポリマ
④
H2O(g)
NMP
⑤
air
ー溶液は、 ポリマー+NMP の相と 水+NMP の2
相に相分離する(Fig.2③)
。 水+NMP の部分が孔
Polymer
wall
PEI
membrane
を形成し、水の周りでポリマーが析出し孔の壁を形
Fig.2 Phenomenological model for the formation of
成する(Fig.2④)。最後に水、NMP が完全に揮発し、
cell-like structure.
セル状構造膜が完成する(Fig.2⑤)
。
Fig.1(b)に PVP 無添加(仕込み:PEI/NMP=15/85wt
次にフィンガー構造膜のできる過程を追跡した。
%)のまま水中で製膜したフィンガー構造膜の断面の
Fig.3 に PEI の みの フィ ンガ ー構 造膜 ( 仕込
SEM 画像を示す。水中では親水溶媒の NMP と水の交
み:PEI/NMP=15/85wt%)の断面の SEM 画像を示す。
3 白石典久
Fig.3(a)-(c)はそれぞれ水中に1s、3s、600s 浸漬
(a)15min
upper
face
(b)600min
した後、すぐに引き上げて凍結し、製膜を止めた状
態で乾燥することにより作製した膜である。
Fig.3(a)では最表面に細かい孔のみ(Fig.2(b)①)が
形成され、Fig.3(b)では細長い孔(Fig.2(b)②)が形
成し始めている。Fig.3(c)ではほぼフィンガー状の
孔が完成されているが、丸い孔(Fig.2(b)③)は形成
substrate
Fig.4 Cross-sectional SEM images of cell-like structure
membranes formed in air for (a) 15min and (b) 600min
(scale bar=100μm).
途中である。これらのことより、水に浸した時間に
応じて表面から内部に向けてフィンガー状の孔が育
3.2. PEI/PVP 膜の成分高分子の分布
ってゆく過程を観察できた。
次に、PEI/PVP フィンガー構造膜の成分高分子の分
布を調べるため、水中で製膜した膜をスライスし、
(a)1s
uppe
(b)3s
r fa ce
表面および内部の赤外 ATR スペクトルを測定した。
Fig.5 に(a)純粋な PEI フィンガー構造膜、(b)PVP
原料粉末、そして(c,d)PEI/PVP フィンガー構造膜
upper face
(仕込み:PEI/PVP/NMP=10/5/85wt%)の赤外スペクト
ルを示す。PEI/PVP 膜の(c)表面では PEI(1720cm−1
uppe r
fa
(c)600s
ce
C=O伸縮振動)とPVP(1670cm−1 アミドC=O伸縮振動)
両方の強いピークが観察されたが、
(d)膜の内部では
PVP の吸収は弱かった。また他の濃度で PVP を添加
した膜においても、同様に水側表面で PVP の強い吸
収が観察できた。このことより水と接する表面付近
100μm
Fig.3 cross-sectional SEM images of PEI finger-like
structure membranes formed during immersion in water.
には PVP が多く存在し、内部には PVP があまり存在
しないことが分かる。PVP は親水性であるので、製
膜時に大量の水と接触したとき、表面に引き出され
次にセル状構造膜の製膜過程を観察するため、
PEI
/NMP=15/85wt%のポリマー溶液を基板に滴下し空気
るものと考えられる。
セル状構造膜においては空気側表面および基板側
中に 15 分(湿度 56% 25.0℃)、10 時間(湿度 35%
表面の赤外 ATR スペクトルを測定した。基板による
26.3℃)放置した試料を凍結乾燥した。
それぞれの膜
影響を調べるため、親水的であるガラス基板と疎水
の断面の SEM 画像を Fig.4 に示す。Fig.4(a),(b)で
的であるテフロン基板にポリマー溶液を滴下した。
セル状構造膜の孔の大きさに大きな差は見られず、
ガラス基板で作製した膜では、空気側表面、基板側
どちらも孔の大きさは初期段階で決まっていること
表面で組成の違いはあまり見られなかったが、テフ
が分かる。Fig.4(a)の段階では基板上のポリマー溶
ロン基板では、空気側表面で PVP の強いピークが観
液に NMP がまだかなり含まれていることが確認でき
察された。疎水的であるテフロン基板は PEI と親和
る。NMP 表面に取り込まれた水分子は比較的速く内
性があり、PVP は空気側に集まると考えられる。基
部に拡散して均一に分布し、NMP の濃度低下に伴っ
板にポリマー溶液を滴下後、上下反転させて製膜し
て一斉に相分離を生じてセル構造になると推定され
たセル状構造膜でも、ガラス基板、テフロン基板共
る。
に同様の結果が得られている。したがって組成の偏
りが、成分高分子の比重の差によるものではない。
4 白石典久
0.22
***215-PEIfiber-a
0.40
0.35
1723.0cm−1
0.18
0.16
1667.6
cm−1
(b)PVP powder
air
0.14
Absorbance
0.30
Absorbance
***PVP粉
0.20
1723.0
(a)PEI
membrane
1667.6
0.45
0.25
0.12
0.10
0.20
0.08
0.15
0.06
0.10
0.04
0.02
0.05
1700
Wavenumbers (cm-1)
0.44
0.42
1650
1800
1750
0.40
0.38
0.36
PEI/PVP
membrane
1650
(a)PVP0wt%
1673.6
cm−1
1724.2
cm−1
0.34
substrate (b)PVP2.5wt%
air
(c)
0.32
top layer
0.30
0.28
Absorbance
1700
Wavenumbers (cm-1)
***215-PEI-PVPfiber2-a
***215-PEI-PVPfiber2-b
1673.6
1750
1724.2
1800
100μm
0.26
0.24
0.22
0.20
1683.4cm−1
1683.4
0.18
0.16
0.14
0.12
(d)
0.10
0.08
inner layer
0.06
0.04
1800
1750
1700
Wavenumbers (cm-1)
1650
Fig.5 FTIR-ATR spectra of (a) PEI membrane, (b)PVP
substrate
(c)PVP5wt%
Fig.7 cross-sectional SEM images of cell-like structure
membranes with PVP (0-5wt %).
powder, and (c)top layer and (d)inner layer of PEI/PVP
membrane.
4.結論
3.3. セル状構造膜の製膜過程での重量変化
PVP を添加することでセル状構造膜、フィンガー
セル状構造膜の製膜過程での PVP 添加の影響を調
構造膜ともに孔が大きくなることが分かった。PVP
べるため、大気中でガラス基板に PEI/PVP/NMP=15/0
は PEI に比べて親水性が高いので、PVP を含むポリ
/85,12.5/2.5/85,10/5/85wt%のポリマー溶液を滴下
マーは析出しにくく、孔が大きくなると考えられる。
した後の重量の経時変化を測定した。結果を Fig.6
製膜過程の SEM 観察によってフィンガー構造膜では
に示す。PVP 2.5 および 5wt%では PVP 0wt%に比べ製
水の浸入にしたがって、初めに細かい孔、次に細長
膜初期の重量増加が大きいことが分かる。重量の増
い孔、最後に丸い大きな孔が順次形成されて行くこ
加は NMP の親水性により、大気中から水がポリマー
とが分かった。セル状構造膜では内部に侵入した水
溶液に浸入することで起こると考えられる。よって
の割合が限界を超えた所で同時に相分離が起こり、
PVP 添加試料では、PVP 無添加よりも、製膜初期のポ
セル構造が作られると考えられる。フィンガー構造
リマー溶液への水の流入速度が大きいと考えられる。
膜では製膜時に接する水により、セル状構造膜では
それぞれの膜の断面の SEM 画像を Fig.7 に示す。
基板の性質により膜内で成分高分子が偏ることが分
PVP を添加した膜の断面では無添加の膜に比べ空気
かった。
側で大きな孔(図中の赤のだ円○)が見られる。PVP
を添加すると、ポリマー溶液表面に水を多く含んだ
学会発表
大きなセルができることが分かる。
白石,中村,新藤:第56回高分子討論会(2007,9,名
古屋)3L03
14
Massincrease(%)
Variation(%)
Mass
12
10
参考文献
8
1) H. Caquineau et al., Polym Eng. Sci., 43, 798-808
6
PVP 0wt%
PVP 2.5wt%
PVP 5wt%
4
2
0
0
50
100
(2003).
2) R. J. Cranford, H. Darmstadt, J. Yang, C. Roy
150
J. Membr. Sci., 155, 231-240 (1999).
Time(min)
Time(min)
3) Z. Xu, T. Chung, Y. Huang, J. Appl. Polym. Sci., 74,
Fig.6 Mass increase during formation of PEI/PVP
membranes with different polymer composition.
2220-2233 (1999).
Fly UP