Comments
Description
Transcript
ハイライト表示 - 金沢工業大学
平成 25 年度 博士学位論文 「オゾンを用いた環境に優しい レジスト除去に関する研究」 金沢工業大学大学院 工学研究科 バイオ・化学専攻 指導教員: 大澤 敏 教授 後藤 洋介 (学籍番号: 7100020) 目次 第 1 章 序論 1.1 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.2 レジスト材料及び回路パターン形成における化学反応機構 1.2.1 ノボラック系ポジ型レジスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1.2.2 ノボラック系ネガ型レジスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 1.3 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 1.4 本論文の構成 参考文献 第 2 章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する研究 2.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.2 実験 2.2.1 湿潤オゾンを用いたレジスト除去におけるオゾン濃度と・・・・・・・・18 レジスト除去速度との関係 2.2.2 湿潤オゾンを用いたレジスト除去反応の活性化エネルギー評価・・・・・18 2.3 結果及び考察 2.3.1 湿潤オゾンを用いたレジスト除去におけるオゾン濃度と・・・・・・・・20 レジスト除去速度との関係 2.3.2 湿潤オゾンを用いたレジスト除去反応の活性化エネルギー評価・・・・・21 2.4 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 参考文献 i 第 3 章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 3.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 3.2 実験 3.2.1 vis-UV によるレジスト用ベースポリマー及びレジストの光学特性・・31 3.2.2 化学構造の異なるポリマーの除去・・・・・・・・・・・・・・・・32 3.2.3 分光学的手法による湿潤オゾンとポリマーとの反応機構の解明・・・34 3.2.4 分子量の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去・・・・・・・・・36 3.2.5 膜厚の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去・・・・・・・・・・38 3.3 結果及び考察 3.3.1vis-UV によるレジスト用ベースポリマー及びレジストの光学特性・・38 3.3.2 化学構造の異なるポリマーの除去・・・・・・・・・・・・・・・・40 3.3.3 分光学的手法による湿潤オゾンとポリマーとの反応機構の解明・・・42 3.3.4 分子量の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去・・・・・・・・・44 3.3.5 膜厚の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去・・・・・・・・・・45 3.4 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 参考文献 第 4 章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 4.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 4.2 実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 4.3 結果及び考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 4.4 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 参考文献 ii 第 5 章 イオン注入レジスト化学構造の解析 5.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 5.2 実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 5.3 結果及び考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 5.4 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 参考文献 第 6 章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 6.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 6.2 実験 6.2.1 イオン注入量の異なるイオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 ・71 6.2.2 高濃度湿潤オゾンによるイオン注入レジストの除去・・・・・・・・ 74 6.2.3 加速エネルギーの異なるイオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 75 6.2.4 イオン注入ポリビニルフェノールの湿潤オゾンによる除去・・・・・ 78 6.3 結果及び考察 6.3.1 イオン注入量の異なるイオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去・ 81 6.3.2 高濃度湿潤オゾンによるイオン注入レジストの除去・・・・・・・・ 83 6.3.3 加速エネルギーの異なるイオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 85 6.3.4 イオン注入されたポリビニルフェノールの湿潤オゾンによる除去・・ 95 6.4 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99 参考文献 第 7 章 総括 謝辞 研究業績目録 iii 第 1 章 序論 第1章 序論 1.1 研 究 背 景 今 日 の 情 報 化 社 会 は , シ リ コ ン (Si)な ど の 真 性 半 導 体 や GaAs な ど の 化 合 物 半 導 体 に よ る 半 導 体 エ レ ク ト ロ ニ ク ス に よ っ て 支 え ら れ て い る .科 学 技 術 の 発 展 に 伴 い ,半 導 体 デ バ イ ス に は 小 型 化 ,省 電 力 化 な ど ,さ ら な る 高 集 積 化・高機能化が求められている 1) . 半 導 体 (Integrated Circuit: IC, Large Scale Integration: LSI),液 晶 (Liquid Crystal Display: LCD)等 の 電 子 デ バ イ ス 製 造 で は ,レ ジ ス ト と 呼 ば れ る 感 光 性 樹 脂 が 用 い ら れ て お り ,こ れ に マ ス ク を 通 し て 露 光 し ,そ の 後 現 像 す る こ と に よ り レ ジ ス ト 上 に 集 積 回 路 の パ タ ー ン が 転 写 さ れ る .図 1.1 に 半 導 体 デ バ イ ス 製 造 プ ロ セ ス に つ い て 示 す . ま ず , Si 基 板 を 800~1000℃ の 高 温 の 炉 に 挿 入 し て 酸 素 (O 2 )ま た は 水 蒸 気 (H 2 O)と 反 応 さ せ る と 基 板 表 面 で 下 記 の 酸 化 反 応 を 起 こ し , SiO 2 膜 が 形 成 す る . Si+O 2 → SiO 2 Si+2H 2 O→ SiO 2 +2H 2 続 い て , SiO 2 膜 を 成 膜 し た Si 基 板 に レ ジ ス ト を 塗 布 す る . そ れ を 100℃ 前 後 の 温 度 で ,1 分 か ら 2 分 間 加 熱 し ,レ ジ ス ト 中 に 残 存 す る 溶 媒 を 除 去 す る (プ リ ベ ー ク :Pre Bake). こ れ に よ り , 残 存 溶 媒 を 揮 発 さ せ る と と も に 基 板 と の 密 着 性 を 高 め ,レ ジ ス ト 特 性 を 安 定 化 さ せ る 2) .そ の 後 ,マ ス ク を 通 し て 露光し,一般にはアルカリ性の現像液で現像し,純水によってリンスする. こ れ に よ っ て ,レ ジ ス ト 上 に パ タ ー ン を 作 製 す る .レ ジ ス ト パ タ ー ン 作 製 後 , レ ジ ス ト を マ ス ク に CF 4 +H 2 に よ る エ ッ チ ン グ を 行 い , 基 板 に 微 細 パ タ ー ン を 形 成 す る . ま た , p 型 /n 型 半 導 体 を 作 製 す る 際 に , 14 族 の Si に 対 し て 13 族 /15 族 の イ オ ン ビ ー ム (ホ ウ 素 :B,リ ン :P,ヒ 素 :As 等 )を 基 板 全 体 に 照 射 し , 基 板 中 に イ オ ン を 注 入 す る . こ こ で , Si に 13 族 元 素 (B)を 打 ち 込 む と p 型 , 15 族 元 素 (P, As)を 打 ち 込 む と n 型 半 導 体 と な る .最 後 に ,レ ジ ス ト を 薬 液 に よ っ て 除 去 す る . こ の 工 程 が , 半 導 体 デ バ イ ス 製 造 で は 20 回 程 度 , 液 晶 デ -1- 第 1 章 序論 ィスプレイ製造では 5 回程度繰り返される. レジスト除去及び不純物除去方式として,一般的な基板洗浄方式である RCA 洗 浄 3) が あ る . 図 1.2 に RCA 洗 浄 の プ ロ セ ス 及 び 処 理 条 件 を 示 す . こ れ は ,1970 年 代 に RCA 社 が 開 発 し た 基 板 洗 浄 方 式 で あ り ,異 な る 種 類 の 薬 液 を 用 い て レ ジ ス ト 除 去 ,有 機 不 純 物 除 去 ,パ ー テ ィ ク ル 除 去 及 び 金 属 不 純 物除去を行うものである. 半 導 体 製 造 プ ロ セ ス の イ オ ン 注 入 工 程 に お い て ,注 入 イ オ ン は マ ス ク に 用 い る レ ジ ス ト に も 注 入 さ れ る た め レ ジ ス ト が 変 質 し ,除 去 が 困 難 と な っ て い る 4,5) .現 在 の レ ジ ス ト 除 去 工 程 で は 酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ や 薬 液 (硫 酸 -過 酸 化 水 素 混 合 液 (Sulfric Peroxide Mixture: SPM)を 用 い て レ ジ ス ト を 除 去 し て い る . 表 1.1 に レ ジ ス ト 除 去 に 用 い ら れ る 薬 液 及 び 除 去 条 件 を 示 す 6,7) .この レ ジ ス ト 除 去 に 用 い る 薬 液 は 環 境 負 荷 が 高 く ,大 量 に 使 用 さ れ て い る た め 環 境へのダメージが大きい 8) .ま た ,薬 液 方 式 で は ,薬 液 処 理 の 後 に 数 回 の 純 水 に よ る リ ン ス を 行 わ な け れ ば な ら ず ,6 イ ン チ 基 板 1 枚 当 た り 5~7 ト ン の 純水を必要とする 9) . さ ら に , SPM に よ る レ ジ ス ト 除 去 で は , 除 去 速 度 が 0.20 µm/min 程 度 と 遅 い た め 通 常 の 製 造 ラ イ ン で は 25 枚 程 度 の 基 板 を バ ッ チ 式で処理することにより見かけの除去速度を向上させている 1 0 , 11 ) . 薬 液 を 用 い た 手 法 が 高 環 境 負 荷 で あ る こ と か ら ,ガ ス や プ ラ ズ マ に よ る レ ジ ス ト 除 去 手 法 が 検 討 さ れ て い る .表 1.2 に 薬 液 を 用 い な い レ ジ ス ト 除 去 手 法 を 示 す .酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ は ,酸 素 プ ラ ズ マ な ど の 反 応 性 ガ ス の プ ラ ズ マ を 発 生 さ せ ,レ ジ ス ト レ ジ ス ト を 二 酸 化 炭 素 や 水 に 分 解 除 去 す る 手 法 で あ る .発 生 さ せ た 酸 素 ラ ジ カ ル が レ ジ ス ト 樹 脂 に 付 加 し ,レ ジ ス ト 樹 脂 中 の ベ ン ゼ ン 環 が 開 裂 す る .最 終 的 に レ ジ ス ト 樹 脂 は 二 酸 化 炭 素 や 水 に 分 解 さ れ る (図 1.3). こ の プ ロ セ ス は , 反 応 性 の 高 い 酸 素 プ ラ ズ マ を 用 い て お り , 高 い 除 去 速 度 が 得 ら れ る が ,基 板 を 250℃ 以 上 に し な け れ ば な ら ず ,非 常 に 高 温 プ ロ セ ス と な る . ま た , 荷 電 粒 子 に よ っ て Si 基 板 の チ ャ ー ジ ア ッ プ や 欠 陥が生じる場合がある 12) . 薬 液 や 酸 素 プ ラ ズ マ を 用 い な い 方 式 と し て 強 い 酸 化 力 を 持 つ オ ゾ ン (O 3 ) が レ ジ ス ト や 有 機 残 渣 の 除 去 に 期 待 さ れ て い る .し か し ,オ ゾ ン の み で は レ ジ ス ト を 除 去 で き ず ,ド ラ イ オ ゾ ン プ ロ セ ス で は ,レ ジ ス ト を 除 去 す る た め に ,オ ゾ ン の 熱 分 解 に よ っ て 酸 素 ラ ジ カ ル を 発 生 さ せ る た め 250℃ 以 上 の 温 度 を 必 要 と す る .そ の た め ,ド ラ イ オ ゾ ン プ ロ セ ス は 基 板 や 金 属 配 線 の 酸 化 -2- 第 1 章 序論 を引き起こす問題がある 13) .また,オゾンを用いた手法として超純水にオ ゾ ン を バ ブ リ ン グ し て 溶 解 さ せ た オ ゾ ン 水 を 用 い , レ ジ ス ト 付 Si 基 板 を 浸 漬 す る こ と で レ ジ ス ト を 除 去 す る 場 合 が あ る .図 1.4 に オ ゾ ン 水 を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 反 応 の 概 要 を 示 す .し か し ,オ ゾ ン の 水 に 対 す る 溶 解 度 は 非 常 に 低 く ,水 中 オ ゾ ン 濃 度 は 数 十 ~数 百 ppm オ ー ダ ー で あ る た め ,レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 0.010 µm/min と 非 常 に 低 速 で あ る 14) . そ の た め , 25 枚 程 度 の バ ッ チ 式によりレジスト除去し,見かけのレジスト除去速度を向上させている. 原 子 状 水 素 に よ る レ ジ ス ト 除 去 は , 20 A 以 上 の 定 電 流 で 加 熱 さ せ た 触 媒 体 (タ ン グ ス テ ン フ ィ ラ メ ン ト )に 水 素 ガ ス を 減 圧 雰 囲 気 で 接 触 さ せ る こ と に よ り 発 生 し た 水 素 ラ ジ カ ル を 用 い て レ ジ ス ト を 還 元 分 解 す る 手 法 で あ る .触 媒 体 と レ ジ ス ト 間 距 離 を 20 mm と す る こ と で 1.6 µm/min と 高 い レ ジ ス ト 除 去 速 度 が 得 ら れ る が ,加 熱 触 媒 体 か ら の 輻 射 熱 に よ り 基 板 温 度 が 240℃ 程 度 の高温になるという問題が生じる 15) . 湿 潤 オ ゾ ン で あ る が ,こ れ は オ ゾ ン ガ ス と 水 蒸 気 の 混 合 物 (湿 潤 オ ゾ ン )を レ ジ ス ト に 照 射 し ,レ ジ ス ト を 親 水 性 の カ ル ボ ン 酸 に 酸 化 分 解 さ せ る 手 法 で あ る .薬 液 方 式 や 酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ 方 式 と 比 較 し て レ ジ ス ト 除 去 速 度 は若干遅いが,薬液を用いず低環境負荷であることと水を使用しており, 70~90℃ で 処 理 が 可 能 と い う 利 点 が あ る . し た が っ て , 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 が 低 環境負荷であるレジスト除去手法として最も適していると考えられる. 図 1.1 半導体デバイスの製造プロセス -3- 第 1 章 序論 純水 SPM レジスト SC1 純水 純水 SC2 Si基板 硫酸-過酸化水素混合液 (SPM) レジスト除去 硫酸: 過酸化水素=1:4 (体積比) 100℃~120℃, 10min Standard Clean 1 (SC1) パーティクル、有機不純物除去 アンモニア: 過酸化水素: 水=1:1:5 (体積比) 70℃~80℃, 10min Standard Clean 2 (SC2) 金属汚染物除去 塩酸: 過酸化水素: 水=1:1:5 (体積比) 70℃~80℃, 10min 図 1.2 RCA 洗 浄 の プ ロ セ ス 及 び 処 理 条 件 表 1.1 3) レジスト除去に用いられる薬液 硫 酸 -過 酸 化 水 素 水 (SPM) 半導体デバイス 硫 酸 : 過 酸 化 水 素 =1:4 (体 積 比 ) (IC, LSI) 100℃ ~120℃ , 10min 6 ) 液晶ディスプレイ ”106 溶 剤 ” (エ タ ノ ー ル ア ミ ン 70%+ジ メ チ ル ス ル ホ キ シ ド 30%) (LCD) 80℃ ~120℃ , 10min 7 ) 表 1.2 薬液を用いないレジスト除去手法 除去方式 環境負荷 処理温度 除去速度 薬液方式 高 80~120℃ 0.20 µm/min アッシング方式 低 200~300℃ 2~3 µm/min 14) 低 常 温 (25℃ ) 0.010 µm/min 低 240℃ 1.6 µm/min 低 70~90℃ 1.4 µm/min オゾン水方式 原子状水素方式 15) 湿潤オゾン方式 -4- 第 1 章 序論 R N2 O・ + O2 ノボラック系ポジ型 レジスト 高周波 OH OH CH3 CH3 図 1.3 CO2+H2O O OH OH CH3 CH3 酸素プラズマを用いたレジスト除去反応の概要 R 遷移状態 ノボラック系ポジ型 レジスト N2 O3 O O O OH OH 樹脂に酸素ラジカルが付加し、 ベンゼン環が開裂 OH C OH C C O C HO O O C H 3O C O + C O + O C OH CH3 CH3 CH3 図 1.4 CH3 モルオゾニド オゾニド カルボン酸 オゾン水を用いたレジスト除去反応の概要 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 は ,薬 液 フ リ ー で レ ジ ス ト を 除 去 す る 有 力 な 手 法 と し て 開 発 さ れ た も の で あ る .図 1.5 に 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 装 置 の 概 要 を 示 す . 温 水 に オ ゾ ン を バ ブ リ ン グ さ せ , 微 量 の 水 が 混 在 し た オ ゾ ン (湿 潤 オ ゾ ン )を 発 生 さ せ る .湿 潤 オ ゾ ン と 基 板 の 間 に 温 度 差 (∆T=T 1 -T 2 )を 設 け ,微 量 の 水 を レ ジ ス ト 上 に 結 露 さ せ る .こ こ で ,両 者 の 温 度 差 を 調 節 す る こ と に よ り , レ ジ ス ト 表 面 に 結 露 す る 水 分 量 を 制 御 す る . 図 1.6 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 及 び オ ゾ ニ ド の 加 水 分 解 に つ い て 示 す .湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 で は ,ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト に 含 ま れ る ベ ン ゼ ン 環 の 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と オ ゾ ン が 反 応 し ,モ ル オ ゾ ニ ド か ら オ ゾ ニ ド が 生 成 し , レジスト表面に結露した微量の水により親水性のカルボン酸になると考え て い る .最 後 に ,大 量 の 純 水 で 生 成 し た カ ル ボ ン 酸 を 洗 い 流 す (リ ン ス 工 程 ). オ ゾ ン は 反 応 後 ,酸 素 に 戻 る た め 環 境 に 優 し い 方 法 と 言 え る .湿 潤 オ ゾ ン 方 式 で は , 水 蒸 気 が 混 在 し た オ ゾ ン (湿 潤 オ ゾ ン )が 100℃ 以 下 で レ ジ ス ト に 照 射 さ れ ,オ ゾ ン 及 び 結 露 し た 水 に よ っ て レ ジ ス ト は 親 水 性 の カ ル ボ ン 酸 に 変 化する 16, 17) . こ こ で ,湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 温 度 差 に よ る 結 露 量 で あ る が ,結 露 量 過 多 の 場 合 ,オ ゾ ン ガ ス の 水 に 対 す る 溶 解 度 は 低 く ,レ ジ ス ト 樹 脂 に 対 し て 有 効 に 反 応 す る オ ゾ ン 濃 度 は 低 い .ま た ,照 射 さ れ る オ ゾ ン ガ ス は 厚 い 水 膜 中 に 拡 散 -5- 第 1 章 序論 しなければならないためレジストに対して有効に反応するオゾン濃度は低 下 す る .一 方 ,最 適 結 露 量 と な っ た 場 合 ,結 露 に よ り 作 製 さ れ た 薄 い 水 膜 中 に O 3 /O 2 =10/90 vol%程 度 の オ ゾ ン ガ ス が 拡 散 し ,高 濃 度 の 状 態 で レ ジ ス ト 樹 脂と反応することが可能となる 16) .また,結露水によりレジスト樹脂とオ ゾ ン と の 反 応 生 成 物 が 加 水 分 解 し ,レ ジ ス ト 除 去 反 応 は 促 進 さ れ る (図 1.7). 本 方 式 で は 基 板 を 回 転 さ せ ,1 枚 ず つ 処 理 を 行 う「 枚 葉 ス ピ ン 方 式 」を 採 用 し て い る .図 1.8 に 枚 葉 ス ピ ン 方 式 と バ ッ チ 浸 漬 式 に よ る パ ー テ ィ ク ル 除 去 に つ い て 示 す .オ ゾ ン 水 方 式 に 用 い ら れ て い る バ ッ チ 浸 漬 式 で は ,基 板 を 引 き上げる際に反応生成物やパーティクルが引き上げ方向へ沿うように再付 着する.一方,枚葉スピン方式は基板を回転させ,リンス液を外側へ流す. そ の た め ,反 応 生 成 物 や パ ー テ ィ ク ル は 基 板 上 に 残 存 せ ず ,よ り 基 板 清 浄 度 の高いレジスト除去が可能である 18) . 本 研 究 で は ,薬 液 フ リ ー で 環 境 に 優 し く ,か つ 低 温 プ ロ セ ス で あ る 湿 潤 オ ゾン方式を用いたレジスト除去の実用化に向けた知見を得ることを目的と し ,湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト の さ ら な る 高 速 除 去 に つ い て 検 討 し た .ま た ,液 晶 デ ィ ス プ レ イ 製 造 用 途 と し て 開 発 さ れ た 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 更 な る 展 開として半導体デバイス製造において用いられる化学構造の異なるポリマ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 や 反 応 メ カ ニ ズ ム を 解 明 し た .さ ら に イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 に つ い て 検 討 し ,レ ジ ス ト 除 去 工 程 に お け る レ ジ ス ト 除 去 が 適 用 可 能 な 範 囲 (化 学 構 造 , 注 入 イ オ ン 種 , イ オ ン 注 入 量 , 加 速 エ ネ ル ギ ー )を 明 ら か に し た . O3/O2 ガス 湿潤オゾン(T1) チャンバー 湿潤オゾン(T1) リンス(純水) 大気圧雰囲気 モータ モータ 図 1.5 ヒータ ヒータ Si 基板 (T2) Si 基板 (T2) ヒータ レジスト リンス(純水) リンス(純水) ヒータ ヒータ ヒータ 湿潤オゾン(T1) Si 基板 (T2) レジスト 湿潤オゾン照射時 モータ 純水リンス時 湿潤オゾンによるレジスト除去装置の概要 -6- ヒータ レジスト 第 1 章 序論 O O + O - O O H R2 C R1 R3 O C R1 R3 H R2 - O + C C H C O O R1 + C R2 R3 molozonide O R1 H - O + C H + R1 C O R2 C O R3 R2 O C R3 O ozonide H HO - R1 C O OH R2 O C R3 O H C O R1 R2 H C O aldehyde - + C R R3 2 HO O C C O R3 R1 図 1.6 + O O R1 carboxylic acid ketone 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 及 び オゾニドの加水分解 結露量過多 最適結露量 オゾンガス オゾンガス 濃度 高 レジスト Si 基板 Si 基板 図 1.7 バッチ浸漬式 低 結露量による水膜中のオゾン拡散 枚葉スピン式 流れ方向 引き上げ 方向 パーティクル 図 1.8 パーティクル 枚葉スピン方式とバッチ浸漬式によるパーティクル除去 -7- 第 1 章 序論 1.2 レ ジ ス ト 材 料 及 び 回 路 パ タ ー ン 形 成 に お け る 化 学 反応機構 1.2.1 ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト 図 1.9 に ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト の 化 学 構 造 を 示 す .ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト は ,ベ ー ス 樹 脂 に ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 を 用 い ,感 光 剤 及 び 溶 解 抑 制 剤 としてベンゾフェノン骨格に付加された疎水性のジアゾナフトキノン誘導 体 (DNQ: diazonaphthoquinone)が 用 い ら れ て い る . ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 と DNQ の 比 率 は 70:30 wt%程 度 で あ り , そ の DNQ の N 2 と ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の ヒ ド ロ キ シ ル 基 (-OH)は 水 素 結 合 し て お り , DNQ は 疎 水 性 の た め DNQ と 水 素 結 合 し たノボラック樹脂はアルカリ現像液に対する溶解性が抑制される 19) .図 1.10 に DNQ の 光 反 応 に つ い て 示 す . レ ジ ス ト が 露 光 さ れ る と DNQ は 窒 素 を 放 出 し て カ ル ベ ン と な り , ケ テ ン に 転 移 す る (ウ ル フ 転 移 ). そ の 後 , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 に ト ラ ッ プ さ れ て い る 水 と 反 応 し て イ ン デ ン カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し ,水 素結合は消失する. 図 1.11 に ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト の 現 像 液 へ の 溶 解 性 の 変 化 に つ い て 示 す .ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 単 体 は ヒ ド ロ キ シ ル 基 を も っ て お り ,酸 性 で あ る た め ア ル カ リ 現 像 液 に 対 し て 溶 解 す る が , DNQ と の 水 素 結 合 に よ り ア ル カ リ 現 像 液 に 対 す る 溶 解 性 は 抑 制 さ れ る . 露 光 さ れ た 部 分 は DNQ が イ ン デ ン カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し ,ア ル カ リ 現 像 液 に 溶 解 す る た め 露 光 部 の ア ル カ リ 現 像 液 に 対 す る 溶 解 性 は 向 上 す る .一 方 ,未 露 光 部 は ア ル カ リ 現 像 液 に 浸 漬 さ れ た 場 合 , DNQ と ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 間 で ジ ア ゾ カ ッ プ リ ン グ 反 応 を 起 こ す た め アルカリ現像液への溶解性は低下する 20) .このように,レジストの現像液 への溶解特性を露光によって変化させることで微細パターンを作製する. O DO OH n CH3 ノボラック樹脂 図 1.9 DO OD OD C N2 D: or H SO2 O ベンゾフェノン骨格 ジアゾナフトキノン誘導体 ノボラック系ポジ型レジストの化学構造 -8- 第 1 章 序論 O O H2O カルベン DNQ 図 1.10 R R R R 図 1.11 COOH O N2 ケテン インデンカルボン酸 ジアゾナフトキノン誘導体の光反応 ノボラック系ポジ型レジストの現像液への溶解性の変化 1.2.2 ノ ボ ラ ッ ク 系 ネ ガ 型 レ ジ ス ト 図 1.12 に 一 般 的 な 化 学 増 幅 i 線 用 ネ ガ 型 ノ ボ ラ ッ ク レ ジ ス ト の 架 橋 反 応 を 示 す .化 学 増 幅 i 線 用 ネ ガ 型 ノ ボ ラ ッ ク レ ジ ス ト は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 ,酸 発 生 剤 (ト リ ア ジ ン ), 架 橋 剤 (ヘ キ サ メ ト キ シ メ チ ル メ ラ ミ ン )か ら な る . 光 照 射 に よ っ て 酸 発 生 剤 か ら プ ロ ト ン 酸 を 発 生 さ せ る .こ の プ ロ ト ン 酸 を 触 媒 と し て 露 光 後 に 行 う 熱 処 理 工 程 (PEB: post-exposure baking)に よ り メ ラ ミ ン 架 橋剤とノボラック樹脂が架橋反応を起こす 21) .これによりノボラック樹脂 が 架 橋 し て 分 子 量 が 増 大 し ,現 像 液 で あ る ア ル カ リ 水 溶 液 に 不 溶 に な る .メ ラ ミ ン 架 橋 剤 と ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 が 架 橋 反 応 す る と き に ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 中 の ベ ン ゼ ン 環 か ら 水 素 が 脱 離 す る た め ,プ ロ ト ン 酸 が 再 生 さ れ て 化 学 増 幅 ネ ガ 型レジストとなる. -9- 第 1 章 序論 N(CH2OCH3)2 OH OH OH N (H3COH2C)2N N + N N(CH2OCH3)2 CH3 OH H2C CH3 + H CH2 ∆ CH3 CH3 OH CH3 OH CH3 NCH2OCH3 N CH3OCH2N N N NCH2OCH3 H2C 図 1.12 化学増幅 i 線用ネガ型ノボラックレジストの架橋反応 1.3 研 究 目 的 半 導 体 製 造 プ ロ セ ス に お け る レ ジ ス ト 除 去 工 程 で は ,一 般 的 に 環 境 負 荷 の 高 い 薬 液 や 酸 素 プ ラ ズ マ に よ る ア ッ シ ン グ が 用 い ら れ て い る .環 境 へ の 負 荷 を 考 慮 す る 際 ,薬 液 を 用 い な い レ ジ ス ト 除 去 方 式 が 必 要 で あ る .ま た ,酸 素 プ ラ ズ マ は Si 基 板 や 金 属 配 線 へ の ダ メ ー ジ が あ り , デ バ イ ス 品 質 の 劣 化 が 問題となっている. そ こ で ,薬 液 フ リ ー で あ り ,か つ 100℃ 以 下 で レ ジ ス ト 除 去 可 能 な 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 開 発 を 目 的 と し て 研 究 を 行 っ た .原 理 と し て ,温 水 に オ ゾ ン を バ ブ リ ン グ さ せ ,微 量 の 水 と オ ゾ ン の 混 合 物 (湿 潤 オ ゾ ン )を 発 生 さ せ る .こ れ を,温度差を設けた基板に照射し,湿潤オゾンと基板との温度差に応じた, 微量の水がレジスト上に結露する. 微量の水とオゾンの混合物によってレジストを除去する湿潤オゾン方式は, 上 記 問 題 に 対 す る 有 効 な 解 決 手 段 と 考 え ら れ る .表 1.3 に オ ゾ ン と 酸 素 の 物 性について示す 22) .オゾンはフッ素に次ぐ高い酸化還元電位を持ち,酸化 力 が 高 い た め 硫 酸 -過 酸 化 水 素 水 (SPM)を 用 い た 方 式 に 替 わ る も の と し て 注 目 さ れ て い る .し か し な が ら ,湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 に つ い て 湿 - 10 - 第 1 章 序論 潤 オ ゾ ン の 照 射 条 件 ,湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 反 応 メ カ ニ ズ ム ,さ ら に イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 除 去 性 に つ い て 検 討 さ れ て お ら ず ,湿 潤 オ ゾ ン が 適 用 可 能 な 範 囲 (化 学 構 造 , イ オ ン 種 , イ オ ン 注 入 量 , 加 速 エ ネ ル ギ ー )も 解 明 さ れ て い な い .本 研 究 で は ,湿 潤 オ ゾ ン の 実 用 化 に 向 け た 知 見 を 得 る た め に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 最 適 条 件 の 検 討 ,分 光 学 的 手 法 を 用 い た 湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 反 応 メ カ ニ ズ ム の 解 明 ,さ ら に 除 去 が 困 難 と さ れ て い る イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 に つ い て 検 討 し ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 が 適 用 可 能 な 範 囲 (化 学 構 造 , イ オ ン 種 , イ オ ン 注 入 量 , 加 速 エ ネ ル ギ ー )を 解 明 し た . 表 1.3 オ ゾ ン と 酸 素 の 物 性 項目 オゾン 酸素 分子量 48.0 32.0 気 体 密 度 (0℃ , 101.3kPa)/gdm - 3 2.144 1.429 結 合 解 離 エ ネ ル ギ ー /kJmol - 1 101.0 491.6 イ オ ン 化 エ ネ ル ギ ー /eV 12.3 12.07 電 子 親 和 力 /eV 1.92 0.15 酸 化 還 元 電 位 (25℃ )/V 2.07 1.23 1.4 本 論 文 の 構 成 本 論 文 は , 第 1 章 (序 論 ), 第 2 章 か ら 第 6 章 (本 論 ), 第 7 章 (結 論 )か ら 構 成されている. 第 1 章 で は ,本 論 文 の 背 景 、目 的 及 び レ ジ ス ト の 光 化 学 反 応 及 び 湿 潤 オ ゾ ンによるレジスト除去の原理について述べた. 第 2 章 で は ,最 適 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 の 検 討 及 び 半 導 体 プ ロ セ ス で 一 般 的 に用いられるノボラック系ポジ型レジストの湿潤オゾンによる除去につい て 述 べ た . 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 T 1 = 74℃ , 基 板 温 度 T 2 =66℃ の と き , レ ジ ス ト 除 去 速 度 が 最 も 速 く な る こ と を 明 ら か に し ,ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト に つ い て 実 際 の 半 導 体 プ ロ セ ス で 求 め ら れ る 除 去 速 度 (1.0 µm/min)の 約 1.8 倍 の 除去速度を達成した. 第 3 章 で は ,化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 と 分 光 学 - 11 - 第 1 章 序論 的手法を用いた湿潤オゾンとポリマーとの反応メカニズムの解析について 述 べ た . 各 露 光 波 長 用 の レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル :PVP, ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル :PMMA)及 び そ れ ぞ れ に 類 似 し た 化 学 構 造 の ポ リ マ ー (cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン , ポ リ ス チ レ ン :PS, ポ リ 塩 化 ビ ニ ル :PVC)の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 い ,主 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 持 つ ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン )が 最 も 速 く 除 去 で き ,次 に ,側 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 持 つ ポ リ マ ー (PVP, PS)が 除 去 で き た . 湿 潤 オ ゾ ン を 照 射 し た ポ リ マ ー の FT-IR ス ペ ク ト ル を 測 定 し た . 結 果 , PS お よ び PVP の 両 者 に お い て , 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 の 増 加 に し た が っ て カ ル ボ ン 酸 由 来 の C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク (1690 cm - 1 ,1740 cm - 1 )と O-H 伸 縮 振 動 ピ ー ク (3400 cm - 1 )が 増 加 し , 芳 香 族 C-H 伸 縮 振 動 の ピ ー ク (3000 cm - 1 )及 び C=C 骨 格 振 動 の ピ ー ク (1520 cm - 1 , 1600 cm - 1 )が 減 少 し た . こ れ よ り , ベ ン ゼ ン 環 が 主 鎖 に 存 在 す る ポ リ マ ー は 主 鎖 が 切 断 さ れ る こ と に よ る 分 解 反 応 ,側 鎖 に ベ ン ゼ ン 環 が 存 在 す る ポ リ マ ー は ,ベ ン ゼ ン 環 が 分 解 さ れ ,カ ル ボ ン 酸 に 変 化 す る こ と に よ っ て 除 去 さ れ て い る こ と を 明 ら か に し た .さ ら に ,湿 潤 オ ゾ ン方式では除去速度はポリマーの分子量に依存しないことが判明した. 第 4 章 で は ,今 回 ,化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 い , FT-IR 及 び in situ FT-IR に よ り 反 応 生 成 物 と ポ リ マ ー 除 去 中 の ア ウ ト ガ ス 分 析 か ら 以 下 の こ と を 明 ら か に し た .化 学 構 造 の 異 な る 種 々 の ポ リ マ ー の 除 去 に お い て ,オ ゾ ン は 酸 化 反 応 に よ り 求 電 子 的 に 反 応 す る た め 主 鎖 お よ び 側 鎖 に C=C を 有 す る ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 ,PVP)は 除 去 で き た が ,C=C の な い ポ リ マ ー (PMMA)は 除 去 で き な か っ た . ま た , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 除 去 速 度 は ,PVP の 除 去 速 度 に 比 べ て 速 か っ た .主 鎖 に C=C を 有 す る ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 )は 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 で 主 鎖 が 切 断 さ れ カ ル ボ ン 酸 に 分 解 さ れ る こ と で 除 去 さ れ る .一 方 ,側 鎖 に C=C を 有 す る ポ リ マ ー (PVP)は 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 で 側 鎖 が カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し ,水 溶 性 ポ リ マ ー と な り ,水 へ の 溶解性が増加することで除去されるためと考えられた. リ ン ス の 有 無 に お け る 湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー の 除 去 で は ,リ ン ス 無 で 湿 潤 オ ゾ ン と PVP の 反 応 生 成 物 が 基 板 上 に 残 存 し た . し か し な が ら , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 は ,リ ン ス の 有 無 で 除 去 速 度 は 変 化 し な か っ た .こ れ は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 主 鎖 が 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ り 切 断 さ れ ,ガ ス に 低 分 子 化 さ れ た た め と 考 え ら れ る .PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 で は , FT-IR 測 定 よ り 1690 - 12 - 第 1 章 序論 cm - 1 , 1740 cm - 1 に 飽 和 脂 肪 カ ル ボ ン 酸 の C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク が み ら れ ,カ ル ボン酸の生成が確認された.また,湿潤オゾンの照射時間の増加に従い, C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク 強 度 が 増 加 し た . こ の 結 果 よ り , PVP は 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 が 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 分 解 さ れ ,カ ル ボ ン 酸 (ポ リ ア ク リ ル 酸 )に 変 化 し て い る と 言 え る . 一 方 , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 で は , C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク は 10 s 湿 潤 オ ゾ ン を 照 射 し た 後 は 変 化 し な か っ た .し た が っ て ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 と 湿 潤オゾンの反応生成物はガス化していると考えられる. in situ FT-IR よ り , 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 中 に CO 2 等 の 低 分 子 ガ ス の 生 成 も 確 認 さ れ た .し た が っ て ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー の 除 去 に お い て ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 は 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 主 鎖 が 低 分 子 化 さ れ ,カ ル ボ ン 酸 を 経 て ,最 終 的 に CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ る .一 方 ,PVP は 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 に 湿 潤 オ ゾ ン が 反 応 し , ポ リ マ ー は カ ル ボ キ シ ル 基 を 持 つ 水 溶 性 ポ リ マ ー (ポ リ ア ク リ ル 酸 )に 変 化 し , ま た , 副 生 成 物 と し て 低 分 子 の カ ル ボ ン 酸 も 生 成 す る が ,オ ゾ ン に よ り 酸 化 さ れ ,CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ る と 考えられる. 第 5 章 で は ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 化 学 構 造 の 解 析 結 果 に つ い て 述 べ た . UV, XPS 及 び FT-IR 測 定 よ り ヒ ド ロ キ シ ル 基 の ピ ー ク 強 度 は 低 下 し , ベ ン ゼ ン 環 由 来 の ピ ー ク 強 度 が 増 加 し た .こ れ よ り ,レ ジ ス ト 変 質 層 は ポ リ マ ー 中 の ヒ ド ロ キ シ ル 基 が 脱 離 し ,架 橋 し た 構 造 で あ る た め 除 去 が 困 難 に な ることを初めて解明した. 第 6 章 で は , 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 を 用 い て , イ オ ン 注 入 条 件 (イ オ ン 種 , イ オ ン 注 入 量 , 加 速 エ ネ ル ギ ー )の 異 な る レ ジ ス ト の 除 去 に つ い て 述 べ た . レ ジ ス ト 断 面 の SEM 観 察 や 溶 剤 を 用 い た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 剥 離 現 象 の 観 察 よ り ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 表 面 に 変 質 層 が 存 在 す る こ と を 明 確 に し た .湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 に お い て , レ ジ ス ト へ の イ オ ン 注 入 量 (5×10 1 3 , 5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 )を 変 化 さ せ た 場 合 , イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト は 除 去 さ れ に く く な っ た .イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 微 小 押 し 込 み 硬 さ 試 験 よ り ,イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 表 面 の 硬 さ が 増 加 し た た め で あ る こ と が 判 明 し た . イ オ ン 注 入 量 を 固 定 し , イ オ ン 種 (ホ ウ 素 :B, リ ン :P)つ い て 比 較 し た 場 合 , B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト よ り 容 易 に 除 去 さ れ た . SRIM2008 に よ る イ オ ン 注 入 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 よ り ,B イ オ ン は P イ オ ン よ り 軽 く ,レ ジ ス ト の 奥 深 い 部 分 ま で 注 入 さ れ た . - 13 - 第 1 章 序論 イオンがレジストの深くまで注入されることによりイオンからレジストに 与えられるエネルギーが分散したため,レジスト変質の度合いは B イオン 注 入 レ ジ ス ト の 方 が 低 く な り ,除 去 さ れ や す く な る と 言 え る .注 入 イ オ ン 種 , イ オ ン 注 入 量 を 固 定 し た 場 合 ,加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト は 除 去 さ れ に く く な っ た .こ れ は ,微 小 押 し 込 み 硬 さ 試 験 よ り ,加 速 エ ネ ル ギーの増加にしたがってレジスト表面の硬さが増加したためであることが わ か っ た .最 終 的 に ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 塑 性 変 形 硬 さ が 未 注 入 レ ジ ス ト の 2 倍以下であれば未注入レジストとほぼ同様に除去できることを明らか にした. 高濃度湿潤オゾンを用いてレジストの高速除去及びイオン注入レジスト の除去について検討した.B イオン注入レジストにおけるオゾン濃度が 30vol%, 及 び 10vol%の と き の 除 去 性 の 比 較 よ り , オ ゾ ン 濃 度 が 高 く な る こ と で レ ジ ス ト 除 去 時 間 は 短 く な っ た . オ ゾ ン 濃 度 を 30 vol%に す る こ と に よ り , オ ゾ ン 濃 度 が 10vol%で は 除 去 で き な か っ た P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト (5×10 1 4 /cm 2 )の 除 去 が 可 能 と な っ た . オ ゾ ン 濃 度 が 30 vol%で の B, P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト (加 速 エ ネ ル ギ ー : 70 keV, 注 入 量 : 5×10 1 4 /cm 2 )の 除 去 性 は ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 表 面 か ら の 溶 解 と 界 面 か ら の 剥 離 の 両 方 で あ り , P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 剥 離 の み で あ る と 言 え る . 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 を 用 い て ,様 々 な 条 件 で イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP)の 除 去 を 行 っ た .ま た ,イ オ ン 注 入 PVP 変 質 層 の 深 さ に つ い て SIMS か ら 検 討 し , 湿 潤 オ ゾ ン と イ オ ン 注 入 PVP と の 反 応 性 に つ い て FT-IR か ら 検 討 し た . 湿 潤 オ ゾ ン に よ る イ オ ン 注 入 PVP の 除 去 結 果 よ り , い ず れ のイオン種においてもイオン注入量の増加に従って,除去速度が低下した. SIMS 測 定 の 結 果 よ り ,PVP 変 質 層 の 厚 み は ,そ れ ぞ れ 387 nm (B), 232 nm (P) で 142nm (As)で あ っ た . し か し な が ら , い ず れ の イ オ ン 種 も 70keV で 注 入 さ れ て い る た め 変 質 の 度 合 い は As が 最 も 高 く , P, B の 順 で 小 さ く な る と 考 え ら れ る .さ ら に FT-IR の 結 果 よ り ,ベ ン ゼ ン 環 含 有 率 が 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 除 去 可 能 な も の と 不 可 で あ る も の の 間 で ほ ぼ 変 化 が な い の に 対 し , OH 基 含 有 率 は B 及 び P の 5×10 1 4 /cm 2 か ら 急 激 に 低 下 し た . し た が っ て , イ オ ン 注 入 PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 は , ベ ン ゼ ン 環 の 濃 度 よ り も ヒ ド ロ キ シ ル 基 (OH 基 )の 濃 度 に 依 存 す る こ と を 解 明 し た . 第 7 章は結論であり,以上 6 章で得られた知見についてまとめた. - 14 - 第 1 章 序論 序論 オゾンによるレジスト除去の必要性 ・薬液を用いないレジスト除去 ⇒環境負荷低減 ・オゾンを用いたレジストの高速除去 第1章 序論 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に 関する検討 オゾンによるレジスト除去反応機構の解明 及びレジスト除去工程への応用の検討 ・湿潤オゾンによるレジスト除去における最適温 度条件の検討 ・オゾン濃度とレジスト除去速度との関係 ・g/i線, KrFエキシマレーザ, ArFエキシマレーザ 用レジストベースポリマーの除去 ・各ベースポリマーと湿潤オゾンとの反応機構 の解析(化学構造,分子量) ・注入条件(イオン注入量, イオン種, 加速エネル ギー)の異なるイオン注入レジストの湿潤オゾン による除去 ・低加速エネルギー(0.5keV, 3keV)でイオン注入 されたレジストの湿潤オゾンによる除去 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンに よる除去 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の 解析 第5章 イオン注入レジスト化学構造の検討 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 第7章 総括 総括 図 1.13 本論文の構成 本 研 究 成 果 は ,低 環 境 負 荷 か つ 低 温 プ ロ セ ス で あ る 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 有 効 性 を 実 証 し た も の で あ り ,レ ジ ス ト 除 去 技 術 の 発 展 に 大 き く 貢 献 で き る も の と期待する. 参考文献 1) 山 岡 亜 夫 , ナ ノ テ ク ノ ロ ジ ー と レ ジ ス ト 材 料 , シ ー エ ム シ ー (2007), pp.14-17. 2) 山 岡 亜 夫 , 半 導 体 レ ジ ス ト 材 料 ハ ン ド ブ ッ ク , シ ー エ ム シ ー (1996), p211 3) 小 川 洋 輝 , 堀 池 靖 浩 , は じ め て の 半 導 体 洗 浄 技 術 , 工 業 調 査 会 (2002), p50. 4) H. Umemoto, K. Ohara, D. Morita, Y. Nozaki, A. Masuda and H.Matsumura, Jpn. J. Appl. Phys., 91 (2002),1650. 5) Mark N. Kawaguchi, James S. Papanu, Bo Su, Matthew Castle, and Amir Al-Bayati, J.Vac.Sci.Technol, ,B24 (2006),657. - 15 - 第 1 章 序論 6) 小 川 洋 輝 , 堀 池 靖 浩 , は じ め て の 半 導 体 洗 浄 技 術 , 工 業 調 査 会 (2002), p66. 7) 島 健太郎, 半導体集積回路用レジスト材料ハンドブック, シーエムシ ー (1996), p222. 8) M. Yamamoto, T. Maruoka, A. Kono, H. Horibe, and H. Umemoto, Jpn. J. Appl. Phys. 49 (2010), 016701. 9) 都 田 昌 之 , BREAK THROUGH No.10, リ ア ラ イ ズ 理 工 セ ン タ ー (2001), p2 10) H. Morinaga, T. Futatsuki, T. Ohmi E. Fuchita, M. Oda, and C. Hayash, J. Electrochem. Soc., 142 (1995), 966. 11) H. Morinaga, M. Suyama, and T. Ohmi, J. Electrochem. Soc., 141(1994), 2834. 12) C.K. Huynh, ,Mitchener,J.C.,J.Vac.Sci.Technol. B, 9(1991), 353. 13) W. L. Gardner, A.P. Baddorf, W.M. Holber, J.Vac.Sci.Technol. A, 15(1997), 1409. 14) H. Vankerckhoven et al., Solid State Phenomena, 103-104 (2005), 309. 15) T. Maruoka, Y. Goto, M. Yamamoto, H. Horibe, E. Kusano, K. Takao and S. Tagawa, J. Photopolym.Sci.Technol., 22(2009),325. 16) S. Noda, M. Miyamoto, H. Horibe, I. Oya, M. Kuzumoto, and T. Kataoka, J. Electrochem. Soc., 150 (2003), 537. 17) S. Noda, K. Kawase, H. Horibe, I. Oya, M. Kuzumoto, and T. Kataoka, J. Electrochem.Soc., 152(2005), G73. 18) 服 部 毅 , 電 子 材 料 別 冊 超 LSI製 造 ・ 試 験 装 置 ガ イ ド ブ ッ ク 2004年 版 , 工 業 調 査 会 , pp24-28. 19) H. Horibe, M. Yamamoto, Y. Goto, T. Miura, and S. Tagawa, Jpn. J. Appl. Phys. 48 (2009), 026505. 20) 伊 藤 洋 , レ ジ ス ト 材 料 , 共 立 出 版 (2005), pp13-16. 21) T. Ueno, T. Iwayanagi, S. Nonogaki, H. Ito and C. G. Wilson, Resist Materials for Short Wavelength (Tanpacho Photo Resist Zairyo), pp. 89-96, Bunshin Syuppan , Japan (1988) 22) 杉 光 英 俊 , オ ゾ ン の 基 礎 と 応 用 , 光 琳 (1996), p19. - 16 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に 関する検討 2.1 緒 言 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 で は , 湿 潤 オ ゾ ン と Si 基 板 の 温 度 差 を 制 御 す る こ と に よ り 産 業 界 で 求 め ら れ る 除 去 速 度 1.0 µ m/min が 達 成 さ れ て い る .ま た ,酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ で は ,反 応 場 の 温 度 を 変 化 さ せ ,ア レ ニ ウスプロットより酸素プラズマとレジストとの反応における活性化エネル ギ ー を 算 出 し た .そ の 結 果 ,活 性 化 エ ネ ル ギ ー は 50 kJ/mol と 見 積 ら れ た 1) . 本 章 で は ,湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 反 応 に お け る 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を 算 出 す る た め に ,正 確 な 反 応 場 温 度 測 定 と 横 軸 を 絶 対 温 度 の 逆 数 ,縦 軸 を レ ジ ス ト 除 去 速 度 の 自 然 対 数 と し た ア レ ニ ウ ス プ ロ ッ ト に つ い て 検 討 し た .さ ら に ,湿 潤 オ ゾ ン 方 式 に お い て ,湿 潤 オ ゾ ン 温 度 ,基 板 温 度 を パ ラ メ ー タ に レ ジスト除去速度を評価し,除去速度に支配的な要因を明らかにした. レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 水 分 量 に 大 き く 影 響 さ れ ,最 適 量 の 水 分 を 供 給 す る た め の 温 度 差 (= 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 - 基 板 温 度 )の 制 御 が 非 常 に 重 要 で あ る こ と を 明 ら か に し た .条 件 の 最 適 化 に よ り ,半 導 体 プ ロ セ ス で 要 求 さ れ る 除 去 速 度 の 約 1.8 倍 (1.8 µ m/min)を 達 成 し た . こ の 時 の 反 応 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は , ア レ ニ ウ ス 則 よ り 28.0 kJ/mol で あ っ た . こ の 値 よ り , 本 方 式 で は ,レ ジ ス ト を オ ゾ ン 分 解 し て オ ゾ ニ ド に す る 過 程 よ り ,オ ゾ ニ ド を 加 水 分 解 す る 過 程 が 律 速 段 階 と 推 測 さ れ る .一 般 的 な ア ッ シ ン グ 方 式 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー に 比 較 し 10~20 kJ/mol 小 さ い た め ,低 温 で も 高 速 に レ ジ ス ト を除去できることを解明した. - 17 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 2.2 実 験 2.2.1 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 に お け る オゾン濃度とレジスト除去速度との関係 今 回 使 用 し た レ ジ ス ト は ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 /ジ ア ゾ ナ フ ト キ ノ ン (DNQ)レ ジ ス ト (AZ6112; AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ )で あ る . ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active)を 用 い て 8 イ ン チ の Si 基 板 に レ ジ ス ト を 2000 rpm, 20 s で 回 転 塗 布 し ,100℃ ,1min プ リ ベ ー ク を 行 っ た も の を サ ン プ ル と し た .本 実 験 で は , 初 期 膜 厚 を 測 定 し た サ ン プ ル (初 期 膜 厚 : 1.0 µm)を レ ジ ス ト 除 去 装 置 で 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 ,リ ン ス ,乾 燥 を 行 い ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 後 の レ ジ ス ト 膜 厚 を 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 (DekTak 6M; ULVAC)で 測 定 し , 膜 厚 減 少 量 を 求 め た . O 3 /O 2 ガ ス は 高 濃 度 オ ゾ ン 発 生 装 置 (HAP-3024; Iwatani corp.)で 発 生 さ せ た . 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 は 10 s, リ ン ス は 5 s, 乾 燥 は 20 s 行 っ た . 基 板 回 転 数 は ,湿 潤 オ ゾ ン 及 び リ ン ス は 2000 rpm,乾 燥 は 1000 rpm で あ る . O 3 /O 2 ガ ス 流 量 は 1.27×10 3 Pa m 3 /min で あ り , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 は 70℃ , 基 板 温 度 は 60℃ と し た . 以 上 の 条 件 の 下 , オ ゾ ン 濃 度 を 0, 5, 10, 15, 20, 25 及 び 30 vol%と し , レ ジ ス ト 除 去 を 行 っ た . 2.2.2 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 反 応 の 活 性 化 エネルギー評価 図 2.1 に ,本 実 験 で 使 用 し た レ ジ ス ト 除 去 装 置 の 模 式 図 を 示 す .オ ゾ ン ガ ス は オ ゾ ナ イ ザ ー (OP-300C-S; Mitsubishi Electric Corp.)に よ り 生 成 し た .オ ゾ ン ガ ス の 濃 度 お よ び 流 量 は ,そ れ ぞ れ 230 g/Nm 3 (10.7 vol%),1.27×10 3 Pa m 3 /min で あ る . オ ゾ ン ガ ス を 温 水 に バ ブ リ ン グ さ せ , 水 蒸 気 と 混 合 さ せ る こ と で 湿 潤 オ ゾ ン (Wet O 3 )を 生 成 し た . レ ジ ス ト を 塗 布 し た Si 基 板 (8 inch) を ケ ー ス 内 の 回 転 台 上 に 設 置 し ,湿 潤 オ ゾ ン を ノ ズ ル か ら レ ジ ス ト 表 面 に 照 射 し た .ノ ズ ル と 基 板 表 面 と の 距 離 は 2 mm で あ る .ノ ズ ル か ら 噴 出 直 後 の 湿 潤 オ ゾ ン の 温 度 は 温 水 タ ン ク の ヒ ー タ に よ り 調 整 し た .湿 潤 オ ゾ ン 照 射 前 - 18 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 の Si 基 板 の 温 度 は ケ ー ス 内 の ヒ ー タ に よ り 調 整 し た . レ ジ ス ト の 加 水 分 解 に 必 要 な 水 分 は ,湿 潤 オ ゾ ン 温 度 と 基 板 温 度 と の 温 度 差 に よ り 生 じ る 結 露 量 を 制 御 す る こ と で 調 整 し た .本 装 置 の 動 作 内 容 は ,基 板 昇 温 80 s (300 rpm), 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 10 s (2000 rpm),リ ン ス 5 s (70°C,1000 rpm),乾 燥 20 s (1000 rpm)で あ る .こ れ を レ ジ ス ト が 除 去 さ れ る ま で 複 数 回 繰 り 返 し た .除 去 時 の Si 基 板 の 表 面 温 度 は , Si 基 板 の 中 心 か ら 60 mm に 設 置 し た ク ロ メ ル - ア ル メ ル 型 熱 電 対 を デ ジ タ ル マ ル チ メ ー タ (Digital Multimeter PC520M; SANWA) に 接 続 し て 測 定 し た .評 価 レ ジ ス ト に は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 と ナ フ ト キ ノ ン ジ ア ジ ド か ら 成 る ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (AZ6112; AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ )を 用 い た . ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active) で Si 基 板 上 に レ ジ ス ト を 2000 rpm で 20 秒 間 回 転 塗 布 し た 後 , ホ ッ ト プ レ ー ト (PMC 720 Series; Dataplate) に よ り 100°C で 1 分 間 プ リ ベ ー ク し た . レ ジ ス ト 膜 厚 は 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 (DekTak 6M; ULVAC)で 計 測 し た . レ ジ ス ト の 初 期 膜 厚 は 約 1.2 µ m で あ る . 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 に よ る レ ジ ス ト 除 去 で は ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 中 の 表 面 温 度 は , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 や Si 基 板 温 度 に よ っ て 変 動 す る こ と が 予 想 さ れ る .そ こ で , ノ ズ ル 噴 出 直 後 の 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T W O [°C])を 47~ 74°C, 照 射 前 の 基 板 温 度 (T I S [°C])を 33~ 82°C と し て 各 温 度 条 件 下 に お け る 照 射 後 の レ ジ ス ト 膜 厚 を 計 測 し , レ ジ ス ト 除 去 速 度 (照 射 時 間 に 対 す る 膜 厚 の 変 化 )を 算 出 し た . O2/O3 gas Wet O2/O3 Rinse water Chassis Hot-water tank Heater Heater Resist Si-wafer Thermocouple 図 2.1 Heater Nozzle Motor レジスト除去装置の模式図 - 19 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 2.3 結 果 及び考 察 2.3.1 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 に お け る オゾン濃度とレジスト除去速度との関係 図 2.2 に オ ゾ ン 濃 度 と 除 去 速 度 と の 関 係 を 示 す .レ ジ ス ト 除 去 速 度 は オ ゾ ン 濃 度 に つ い て 1 次 で あ っ た .こ の 結 果 よ り ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 で は , オ ゾ ン 濃 度 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 除 去 速 度 が 速 く な り , 30 vol% で は 3.84 µm/min( 半 導 体 製 造 工 程 で 求 め ら れ る 除 去 速 度 ( = 約 1.0µm/min)の 約 4 倍 )と な っ た . こ れ は , オ ゾ ン 濃 度 の 増 加 に よ り レ ジ ス ト と 反 応 す る オ ゾ ン 分 子 数 が 増 加 し た た め と 考 え ら れ る .こ の こ と か ら ,レ ジ スト除去速度は以下の式に従うと考えられる. v r m v =k[O 3 ][R] (2.1) こ こ で , v r m v は レ ジ ス ト 除 去 速 度 , [O 3 ]は オ ゾ ン 濃 度 , [R]は レ ジ ス ト 濃 度 を Photoresist removal rate [µm/min] 表す. 4.00 O3/O2 gas flow: 7.5slm 3.00 2.00 1.00 0.00 0 5 10 15 20 25 30 35 Ozone concentration [vol%] 図 2.2 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 に お け る オ ゾ ン 濃 度 と レジスト除去速度との関係 - 20 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 2.3.2 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 反 応 の 活 性 化 エネルギー評価 図 2.3 に ,T W O =74°C お よ び T I S =66°C に お け る 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 (t W O I [s]) に 対 す る レ ジ ス ト 膜 厚 (L RT [µm]) の 変 化 を 示 す . レ ジ ス ト 除 去 速 度 (v r m v [µm/min])は , こ の グ ラ フ の 傾 き , す な わ ち 以 下 の 式 よ り 算 出 し た . こ の 結 果 よ り ,時 間 と と も に 直 線 的 に 膜 厚 が 減 少 し ,傾 き か ら レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 1.8µm/min と 見 積 も ら れ た . v rmv = dLRT L = RT dt t WOI (2.2) Photoresist thickness [µm] 1.20 Photoresist removal rate = 1.8 µm/min 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 0 10 20 30 40 50 Wet ozone irradiation time [s] 図 2.3 T W O =74°C お よ び T I S =66°C に お け る 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 (t W O I [s])に 対 す る レ ジ ス ト 膜 厚 (L RT [µm])の 変 化 図 2.4 に 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 で の 反 応 メ カ ニ ズ ム を 示 す .湿 潤 オ ゾ ン 方 式 で は , レ ジ ス ト 表 面 層 を 加 水 分 解 し て 水 溶 性 の カ ル ボ ン 酸 に 変 化 さ せ ,こ れ を 水 洗 す る こ と で レ ジ ス ト を 表 面 か ら 徐 々 に 分 解・除 去 す る .主 な 分 解 反 応 過 程 は , レ ジ ス ト を「 オ ゾ ン 分 解 す る 過 程 」と「 そ の 分 解 生 成 物 を 加 水 分 解 す る 過 程 」 の 2 つ で あ る .オ ゾ ン は ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 や ナ フ ト キ ノ ン 誘 導 体 に 含 ま れ る 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と 反 応 し て モ ル オ ゾ ニ ド を 生 成 す る . そ の 後 , モ ル オ ゾ ニ ドはオゾニドへと変化する. オゾニドに微量水分を供給すると加水分解により親水性かつ低分子のカ ルボン酸が生成される 16, 17) . ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 で は , 電 子 密 度 の 高 い OH 基 - 21 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 の オ ル ト 位 を オ ゾ ン が 酸 化 (求 電 子 付 加 )す る 反 応 か ら 始 ま り 上 記 過 程 を 経 18) て主鎖が切断され低分子化すると考えられる .前述の水洗は,このとき 生 成 し た 低 分 子 化 合 物 (カ ル ボ ン 酸 )を 洗 い 流 す た め で あ る . 図 2.5 に 各 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 に お け る Si 基 板 温 度 と レ ジ ス ト 除 去 速 度 と の 関 係 を 示 す . い ず れ の 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 に お い て も , レ ジ ス ト 除 去 速 度 は Si 基 板 温 度 に 対 し て 極 大 値 が 確 認 さ れ た .各 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 で の レ ジ ス ト 除 去 速 度 の 極 大 値 は ,湿 潤 オ ゾ ン 温 度 46°C で は 基 板 温 度 44°C の と き 0.9 µm/min, 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 68°C で は 基 板 温 度 62°C の と き 1.6 µm/min,湿 潤 オ ゾ ン 温 度 74°C で は 基 板 温 度 66°C の と き 1.8 µm/min で あ っ た . 基 板 温 度 が 極 大 値 よ り 低 温 側 で は ,レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 基 板 温 度 に 比 例 し て 増 加 し た . ∆T(= T W O - T I S )が 大 き く な る た め 結 露 水 量 が 多 く な る と 推 測 さ れ る .供 給 さ れ る 水 分 量 が 十 分 あ れ ば ,除 去 速 度 は ア レ ニ ウ ス 則 に 従 っ て 温 度 と と も に 増 加 す る と 考 え ら れ る .一 方 ,基 板 温 度 が 極 大 値 よ り 高 温 側 で は , 除 去 速 度 は 基 板 温 度 の 増 加 と と も に 急 激 に 低 下 し た .∆T が 小 さ く な る た め , 湿潤オゾン照射中の結露水量が少ないことが推測される. O O + O - O O H R2 C R1 R3 O C R1 R3 H R2 - O + C C H C O O R1 + C R2 R3 molozonide O R1 H - O + C H + R1 C O R2 O R3 R2 O C C R3 O ozonide H HO - R1 C O OH R2 O C R3 O H C R1 R2 H C O aldehyde O - + C R R3 2 HO O C C O R3 R1 図 2.4 + O O R1 carboxylic acid ketone 湿潤オゾン方式での反応メカニズム - 22 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 以 上 よ り ,レ ジ ス ト 除 去 速 度 は ,基 板 表 面 温 度 の 上 昇 に と も な う 分 解 反 応 速 度 の 増 加 と ,そ の 反 応 (加 水 分 解 )に 必 要 な 結 露 水 量 (湿 潤 オ ゾ ン 温 度 と 基 板 温 度 と の 差 )に 左 右 さ れ る . 図 2.6 に 各 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 に お け る Si 基 板 温 度 と 単 位 面 積 ・ 単 位 時 間 あ た り に 基 板 表 面 に 供 給 さ れ る 水 分 量 (結 露 水 量 )と の 関 係 を 示 す . 結 露 水 量 は , 各 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 お よ び Si 基 板 温 度 に お け る 飽 和 水 蒸 気 量 (A[g/m 3 ]) の 差 に 湿 潤 オ ゾ ン 供 給 量 (1.27×10 3 Pa m 3 /min (12.5 L/min))を 乗 じ て 算 出 し た . 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 が Si 基 板 温 度 よ り も 高 い 場 合 の 結 露 量 は “正 ”と な り , 結 露 水 量 が 多 く な る . 逆 に , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 が Si 基 板 温 度 よ り も 低 い 場 合 は “負 ”と な り , 結 露 し に く く な る . 飽 和 水 蒸 気 量 (A) は ,Tetens の 式 (式 (2.3): 飽 和 水 蒸 気 圧 (E[hPa]))を 水 蒸 気 の 状 態 方 程 式 か ら 導 か れ る 式 (2.4)に 代 入 し て 見 積 も っ た . こ こ で , T[°C]は 雰 囲 気 温 度 で あ り , TWO お よ び TIS を 代 入 し た . 7 .5 T E = 6.11 × 10 7 ⋅ T + 273.15 (2.3) E A = 217 × T + 273.15 (2.4) 図 2.6 中 に , 図 2.5 で 示 し た 除 去 速 度 の 極 大 値 (Maximum ν r m v )を 記 載 す る . 各 条 件 で の Maximum ν r m v を 破 線 で 結 ぶ と , 最 速 の 除 去 速 度 を 得 る た め に 必 要 な 結 露 量 が 求 ま る .こ の 破 線 よ り 下 方 (結 露 量 が 少 な い )側 で は 結 露 量 不 足 と な る .な お ,結 露 量 が マ イ ナ ス 領 域 で は ,結 露 が 起 こ ら な い こ と を 意 味 す る .し た が っ て ,図 2.5 で 示 し た よ う に 基 板 温 度 が 高 温 側 で は 結 露 量 不 足 に よ り 除 去 速 度 が 大 き く 低 下 す る た め ,除 去 速 度 が 極 大 値 を 示 し た と 考 え ら れ る .基 板 温 度 が 高 く な る と オ ゾ ニ ド の 生 成 量 が 増 加 す る た め ,こ れ を 加 水 分 解 す る た め に 必 要 な 結 露 量 が 増 加 す る .こ の た め ,Maximum ν r m v を 結 ん だ 破 線 が 基 板 温 度 と と も に 増 加 し た と 考 え ら れ る . 図 2.5 と 図 2.6 か ら , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 の 上 昇 に 伴 い , レ ジ ス ト 除 去 速 度 が 極 大 と な る Si 基 板 温 度 が 高 く な っ た . ま た , 各 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 に お い て 除 去 速 度 が 極 大 値 (Maximum v r m v ) と な る と き の 結 露 水 量 は 基 板 温 度 に 比 例 し て 増 加 す る 傾 向 が 見 ら れ ,極 大 値 よ り 高 温 側 (図 2.6 中 の Maximum v r m v を 結 ぶ 破 線 の 下 方 )で は ,加 水 分 解 に 必 要 な 水 分 (オ ゾ ン 溶 解 水 )が 不 足 し て い る と 予 想 さ れ る . - 23 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 Resist removal rate [µm/min] 2.0 TWO=46°C TWO=68°C TWO=74°C 1.5 1.0 0.5 0.0 20 30 40 50 60 70 80 90 Substrate temperature (TIS) [°C] 図 2.5 各 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 に お け る Si 基 板 温 度 と Dew condensation water [µg/(s·cm2)] レジスト除去速度との関係 150 Maximum νrmv 100 50 0 -50 -100 20 TWO=46°C TWO=68°C TWO=74°C Few water 30 50 40 60 70 80 90 Substrate temperature (TIS) [°C] 図 2.6 各 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 に お け る Si 基 板 温 度 と 単 位 面 積・単 位 時 間 あ た り に 基 板 表 面 に 供 給 さ れ る 水 分 量 (結 露 水 量 )と の 関 係 - 24 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 図 2.7 に 除 去 速 度 の 極 大 値 と そ の と き の 結 露 水 量 と の 関 係 を 示 す .こ れ ら の 間 に は 線 形 性 が あ る こ と が わ か っ た .一 般 に 基 板 温 度 が 高 く な る と 反 応 速 度 が 速 く な る .そ れ に 伴 い ,反 応 に 必 要 な 水 分 量 が 増 加 す る た め ,除 去 速 度 が 結 露 水 量 に 比 例 し て 増 加 し た と 考 え ら れ る .す な わ ち ,湿 潤 オ ゾ ン 方 式 で は ,各 温 度 条 件 に 応 じ て 最 適 量 の 水 分 を 供 給 す る た め の 温 度 差 ∆T が 存 在 す る と 言 え る .既 存 の 酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ や オ ゾ ン ア ッ シ ン グ で は 200°C 程 度 以 上 に 基 板 を 加 熱 し た 条 件 に お い て 1 µ m/min 以 上 の 除 去 速 度 が 報 告 さ れているのに対し 1,7) , 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 で は 100°C 以 下 で も 同 等 以 上 の 除 去 速度を達成可能である. 既存の方式に比較し湿潤オゾン方式の除去速度が速い理由を考察するた め ,湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 除 去 速 度 式 を ア レ ニ ウ ス 則 に 当 て は め て ,分 解・除 去 反 応 に お け る 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を 見 積 も っ た .横 軸 に Si基 板 温 度 (絶 対 温 度 )の 逆 数 を と り , 縦 軸 に レ ジ ス ト 除 去 速 度 の 自 然 対 数 を と っ た ア レ ニ ウ ス プ ロ ッ ト (図 2.8)の 傾 き か ら 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を 算 出 し た .除 去 速 度 が 極 大 値 を と る ま で の 基 板 温 度 範 囲 (低 温 側 )に お け る 除 去 速 度 を 線 形 近 似 し た 傾 き か ら 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を 算 出 し た .そ の 結 果 ,28.0 kJ/molで あ っ た .既 存の薬液フリーなレジスト除去技術である酸素プラズマアッシングの活性 化 エ ネ ル ギ ー は 50 kJ/mol 1 9 ) , オ ゾ ン ア ッ シ ン グ で は 41.5 kJ/mol(200°C以 下 ) 7 ) で あ り ,ど ち ら も 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 に 比 較 し 大 き い .こ の た め ,湿 潤 オ ゾ ン 方 式 で は 比 較 的 低 温 で も 高 速 で の 除 去 が 可 能 で あ っ た と 考 え ら れ る .と こ ろ で , オ ゾ ン と エ チ レ ン と の 反 応 に よ り 1,2,3-ト リ オ キ ソ ラ ン が 生 成 さ れ る と き の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は 3.3 kJ/mol, ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 化 学 構 造 の 一 部 で あ る ベ ン ゼ ン や フ ェ ノ ー ル と オ ゾ ン と の 反 応 で は 15.8 kJ/mol(ベ ン ゾ ト リ オ キ ソ ル 生 成 ), 9.5~ 12.5 kJ/mol(ベ ン ゾ ト リ オ キ ソ ル オ ー ル 生 成 )と 言 わ れ て い る 2 0 ) . 本 実 験 で 得 ら れ た 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は ,上 記 オ ゾ ン 分 解 反 応 時 の そ れ に 比 較 し大きい.したがって,活性化エネルギーの値より,湿潤オゾン方式では, レ ジ ス ト を オ ゾ ン 分 解 し て オ ゾ ニ ド に す る 過 程 よ り ,オ ゾ ニ ド を 加 水 分 解 す る過程が律速段階と推測される. - 25 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 Maximum νrmv [µm/min] 2.0 1.5 1.0 T WO=46°C, T IS=44°C T WO=68°C, T IS=62°C T WO=74°C, T IS=66°C 0.5 0.0 0 10 20 30 40 50 Dew condensation water [µg/(s·cm2)] 図 2.7 除去速度の極大値とそのときの結露水量との関係 1.0 ln ( νrmv (µm/min) ) Activation energy: 28.0 kJ/mol 0.5 T WO=74°C T WO=68°C T WO=46°C 0.0 -0.5 -1.0 2.9 3.0 3.0 3.1 3.1 3.2 3.2 3.3 3.3 -1 1000/T IS [K ] 図 2.8 湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 反 応 に お け る ア レ ニ ウ ス プ ロ ッ ト (横 軸 : Si 基 板 温 度 の 逆 数 , 縦 軸 : レ ジ ス ト 除 去 速 度 の 自 然 対 数 ) 2.4 結 言 高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い て レ ジ ス ト の 高 速 除 去 に つ い て 検 討 し た .そ の 結 果 , オ ゾ ン 濃 度 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 除 去 速 度 が 速 く な り , 30 vol% で は 3.84µm/min(半 導 体 製 造 工 程 で 求 め ら れ る 除 去 速 度 (= 1.0 µm/min)の 約 4 倍 )と な っ た . 薬液フリーで且つデバイス品質を低下させない新規なレジスト除去技術 - 26 - 第2章 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 の 1 つである湿潤オゾン方式を用いてノボラック系ポジ型レジストの除去 を 行 い ,レ ジ ス ト と オ ゾ ン と の 反 応 に お け る 結 露 の 影 響 を 解 明 し た .レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 水 分 量 に 大 き く 影 響 さ れ た .基 板 温 度 の 増 加 に 比 例 し て レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 速 く な っ た .た だ し ,必 要 十 分 な 水 分 量 を 供 給しなければ除去速度が急激に低下した.すなわち,湿潤オゾン方式では, 単 に 基 板 を 加 熱 す る の で は な く , 最 適 量 の 水 分 を 供 給 す る た め の 温 度 差 (= 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 - 基 板 温 度 )の 制 御 が 非 常 に 重 要 と 言 え る . 条 件 の 最 適 化 に よ り , 半 導 体 プ ロ セ ス で 要 求 さ れ る 除 去 速 度 の 約 1.8 倍 (1.8 µ m/min)を 達 成 し た . こ の 時 の 反 応 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は , ア レ ニ ウ ス 則 よ り 28.0 kJ/mol で あ っ た .こ の 値 よ り ,本 方 式 で は ,レ ジ ス ト を オ ゾ ン 分 解 し て オ ゾ ニ ド に す る 過 程 よ り ,オ ゾ ニ ド を 加 水 分 解 す る 過 程 が 律 速 段 階 と 推 測 さ れ る .一 般 的 な ア ッ シ ン グ 方 式 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー に 比 較 し 10~20 kJ/mol 小 さ い た め , 低温でも高速にレジストを除去できたと考えられる. 参考文献 1) K.Shinagawa, , H. Shindo, K. Kusaba, T. Koromogawa, J. Yamamoto, and M. Furukawa, Jpn. J. Appl. Phys., 40 (2001), 5856. 2) Van der ven, E. P. G. T. and H. Kalter, Electrochem. Soc. Ext. Abst., 76-1 (1976), 332. 3) S.Fujimura, and H. Yano, J. Electrochem. Soc., 135, 1195-1201 (1988). 4) W. L. Gardner, A. P. Baddorf and W. M. Holber: J. Vac. Sci. Technol. A 15 (1997), 1409. 5) K. Omiya, and Y. Kataoka, J. Electrochem. Soc., 145 (1998), 4323. 6) C. K. Huynh and J. C. Mitchener, J. Vac. Sci. Technol. B 9(1991), 353. 7) T. Miura, M. Kekura, H. Horibe, M. Yamamoto, J. Photopolym. Sci. Technol. 21 (2008), 311. 8) S. Fujimura and H. Yano, J. Electrochem. Soc., 135 (1988), 1195. 9) K. Tsunokuni, K. Nojiri, S. Kuboshima, and K. Hirobe, Extended Abstracts of the 19th Conference on Solid State Devices and Materials, Tokyo, 195-198, 1987. - 27 - 第2章 10) 湿潤オゾンを用いたレジストの高速除去に関する検討 H. Horibe, M. Yamamoto, T. Ichikawa, T. Kamimura and S. Tagawa, J. Photopolym. Sci. Technol., 20 (2007), 315. 11) S. Noda, M. Miyamoto, H. Horibe, I. Oya, M. Kuzumoto, and T. Kataoka, J.Electrochem. Soc., 150 (2003), G537. 12) S. Noda, H. Horibe, K. Kawase, M. Miyamoto, M. Kuzumoto, and T. Kataoka, J. Adv. Oxid. Technol., 6 (2003), 132. 13) S.Noda, K. Kawase, H. Horibe, I. Oya, M. Kuzumoto, and T. Kataoka, J. Electrochem. Soc., 152 (2005), G73. 14) Y. Kataoka, S. Saito and K. Omiya, Jpn. J. Appl. Phys., 38(1999), 3731. 15) R. G. Frieser, J. A. Bondur and E. F. Gorey, J. Electrochem. Soc., 134 (1987), 419. 16) C. Geletneky and S. Berger, Eur. J. Org. Chem., 1998 (1998), 1625. 17) Wade Jr., L. G.; Organic-chemistry, 6th ed, 360-362, Pearson Prentice Hall, USA (2006). 18) Y.Abe, A. Kaneko, T. Yagi, H. Hamada, M. Ike, T. Asano, T. Kato and K. Fujimori, KAGAKU KOGAKU RONBUNSHU, 36 (2010), 41. 19) S.Fujimura, K.Shinagawa, M.Nakamura and H.Yano, Jpn. J. Appl. Phys., 29 (1990), 2165. 20) M. F. A. Hendrickx, and Vinckier, C, J. Phys. Chem. A, 107(2003), 7574. - 28 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンに よる除去 3.1 緒 言 本 章 で は ,化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 い ,ポ リマーと湿潤オゾンの反応メカニズムについて検討した結果を述べる. 現 在 ,半 導 体 デ バ イ ス 製 造 工 程 に お い て 製 造 コ ス ト の 低 減 化 及 び 半 導 体 の 小 型 化 の た め に パ タ ー ン の 微 細 化 が 重 要 な 課 題 と な っ て い る .図 3.1 に 半 導 体フォトレジストの材料技術ロードマップ 1) を示す. パターンの微細化は以下に示すレイリーの式により露光波長を短波長化 し ,レ ジ ス ト 解 像 度 を 向 上 さ せ る こ と で 実 現 さ れ て お り ,半 導 体 製 造 工 程 で は g 線 (436 nm),i 線 (365 nm)か ら KrF(フ ッ 化 ク リ プ ト ン ) エ キ シ マ レ ー ザ ー (248 nm),さ ら に ArF(フ ッ 化 ア ル ゴ ン )エ キ シ マ レ ー ザ ー (193 nm)へ と 露 光 波 長が変遷している 2) . R=kλ /NA (3.1) こ こ で ,R は レ ジ ス ト 解 像 度 (最 小 露 光 寸 法 ),λ は 露 光 波 長 ,NA は レ ン ズ の 開 口 数 で あ る . し か し な が ら , g/i 線 用 レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー で あ る ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 (Novolak resin)は ,主 鎖 に 含 ま れ る ベ ン ゼ ン 環 が 270nm, 190nm の 波 長 域 に 強 い 吸 収 帯 を 持 つ た め 248nm, 193nm の 波 長 で は 基 板 の 下 ま で 露 光されない 3) . そ の た め , KrF 用 レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー に は ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP), ArF 用 レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー と し て ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル (PMMA)が 用 い ら れ て い る (図 3.2) 4 , 5 ) . ま た , 波 長 13.5nm の 極 端 紫 外 線 (Extreme Ultraviolet: EUV)を 用 い た リ ソ グ ラ フ ィ 技 術 が 現 在 開 発 さ れ て お り ,レ ジ ス ト 材 料 に は ,PVP を 主 体 と し た ポ リ マ ー に 酸 発 生 剤 (Photo Acid Generator: PAG)を 付 加 さ せ た も の や ベ ン ゼ ン 環 含 有 の 低 分 子 ア モ ル フ ァ ス を 用 い た も の な ど が 検 討 さ れ て い る (図 3.3) 6 , 7 ) . EUV 用 レ ジ ス ト に は ベ ン ゼ - 29 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 ン 環 が 含 ま れ て い る が ,EUV 露 光 で は 膜 厚 が 100nm か ら 150nm と 薄 い た め 露 光 が 可 能 で あ り ,エ ッ チ ン グ 耐 性 を 向 上 さ せ る 目 的 で ベ ン ゼ ン 環 を 用 い る 必要がある. 本 章 で は , 各 露 光 波 長 用 レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル :PVP, ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル :PMMA)及 び そ れ ぞ れ に 類 似 し た 化 学 構 造 の ポ リ マ ー (cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン , ポ リ ス チ レ ン :PS, ポ リ 塩 化 ビ ニ ル :PVC)の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 っ た . こ れ よ り , ベ ン ゼ ン 環 が 主 鎖 に 存 在 す る ポ リ マ ー は 主 鎖 が 切 断 さ れ る こ と に よ る 分 解 反 応 ,側 鎖 にベンゼン環が存在するポリマーはベンゼン環が分解されカルボン酸に変 化 す る こ と に よ っ て 除 去 さ れ て い る こ と を 明 ら か に し た .さ ら に ,分 子 量 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 い ,ポ リ マ ー の 除 去 速 度 は 分 子 量に依存しないことを明らかにした. 年代 1990 線幅 [nm] 500 1995 2000 300 250 180 150 2005 130 2010 90-65 g線(436nm)/i線(365nm) KrF(248nm) 露光源 ArF(193nm) EUV ノボラック系樹脂 ベース 樹脂 PVP PMMA 図 3.1 半導体フォトレジストの材料技術ロードマップ CH3 OH CH2 C CH2 CH n n CH3 Novolak resin C O n O OH 図 3.2 1) PVP CH3 PMMA 各露光波長用レジストベースポリマーの化学構造 - 30 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 OH CH2 CH2 CH CH l OH H3C CH2 CH CH3 n m CH3 CH3 H3C CH3 OH OH R R' HO PAG 図 3.3 RO CH3 OR CH3 EUV 用 レ ジ ス ト の 化 学 構 造 3.2 実 験 3.2.1 vis-UV に よ る レ ジ ス ト 用 ベ ー ス ポ リ マ ー 及 び レジストの光学特性 レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 ,ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP), ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル (PMMA))及 び g/i 線 用 レ ジ ス ト , KrF 用 レ ジ ス ト , ArF 用 レ ジ ス ト の 光 透 過 率 を 調 べ る た め に , vis-UV(可 視 紫 外 光 吸 収 ス ペ ク ト ル )測 定 を 行 っ た . ノボラック樹脂はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート (PGMEA)に 溶 解 さ せ , 20 wt%に 調 製 し , PVP 及 び PMMA は 乳 酸 エ チ ル (EL) に 溶 解 さ せ , そ れ ぞ れ 20 wt%, 13 wt%に 調 製 し た . こ れ ら を ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active)に よ り 2000 rpm, 20 s, 石 英 ガ ラ ス に 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た も の を サ ン プ ル と し て 用 い た .膜 厚 は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 が 1.03 µm,PVP が 1.18 µm, PMMA が 1.21 µm で あ っ た .ま た ,レ ジ ス ト の vis-UV ス ペ ク ト ル 測 定 で は , ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (AZ6112; AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ ), KrF エ キ シ マ レ ー ザ ー 用 化 学 増 幅 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (TDUR-P015PM; 東 京 応 化 工 業 ),ArF エ キ シ マ レ ー ザ ー 用 化 学 増 幅 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (TARF-P6239ME; 東 京 応 化 工 業 )に 対 し て ,ノ ボ ラ ッ ク 系 レ ジ ス ト は 4000rpm,KrF 用 レ ジ ス ト 及 び ArF 用 レ ジ ス ト は 1000 rpm で 20 s 石 英 ガ ラ ス に 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た も の を サ ン プ ル と し た . 膜 厚 は , ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト は 0.86 µm,KrF 用 レ ジ ス ト は 0.95 µm,ArF 用 レ ジ ス ト は 0.17 µm で あ る . - 31 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 上 記 サ ン プ ル の vis-UV ス ペ ク ト ル は 紫 外 分 光 光 度 計 (UV-2450; 島 津 製 作 所 )に よ り 測 定 し た . さ ら に , ベ ー ス ポ リ マ ー 及 び レ ジ ス ト の 吸 光 係 数 は 以 下の式より算出した. I/I 0 =exp (-αd) (3.2) こ こ で ,I 0 は 入 射 前 の 光 強 度 ,I は 入 射 後 の 光 強 度 ,d は 膜 厚 [µm]で ,α は 吸 光 係 数 [µm - 1 ]で あ る 8) . 3.2.2 化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 除 去 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い て 異 な る 化 学 構 造 の ポ リ マ ー を 除 去 し ,湿 潤 オ ゾ ン と 化 学構造の異なるポリマーとの反応性を評価した. 湿潤オゾンによるポリマー除去では,レジスト基板への湿潤オゾン照射, リ ン ス ,乾 燥 の 工 程 を 繰 り 返 す .除 去 速 度 は 初 期 膜 厚 を ポ リ マ ー が 完 全 に 除 去 さ れ た 時 間 で 除 す こ と で 算 出 し た . 表 3.1 に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 を 示 す . 1 回 あ た り の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 は 10 s,リ ン ス は 5 s,乾 燥 は 20 s で あ る . 基 板 回 転 数 は 湿 潤 オ ゾ ン ,リ ン ス 工 程 で は 2000 rpm,乾 燥 工 程 で は 1000 rpm で あ る . オ ゾ ン 濃 度 及 び 流 量 は そ れ ぞ れ 230 g/Nm 3 (10.7vol%), 1.27×10 3 Pa m 3 /min で あ り , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 を T 1 =70 ℃ , 基 板 温 度 を T 2 =60 ℃ と し , ポ リマーの除去を行った. サ ン プ ル と し て 溶 媒 に 溶 解 さ せ た ポ リ マ ー を 用 い た .こ の ポ リ マ ー を ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active)で Si 基 板 上 に 2000 rpm, 20 s 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト (PMC; 720 series)で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た .表 3.2 に 評 価 し た ポ リ マ ー と 溶 媒 及 び 膜 厚 を 示 す .ま た ,図 3.4 に 評 価 し た ポ リ マ ー の 化 学 構 造 を 示 す . 評 価 し た ポ リ マ ー は , 主 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 ま た は ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン ,側 鎖 に ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP), ポ リ ス チ レ ン (PS), 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 や ベ ン ゼ ン 環 を 持 た な い ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル (PMMA), ポ リ 塩 化 ビ ニ ル (PVC) で あ る . ま た , リ フ ァ レ ン ス と し て ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (AZ6112; AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ )の 除 去 を 行 っ た .オ ゾ ン は ,オ ゾ ン は 求 電 子 反 応 で あ り , 電 子 密 度 の 高 い 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 や ベ ン ゼ ン 環 に 対 し て 優 先 的 に 反 応 す る た め ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン が 最も早く除去されると予想される. - 32 - 第3章 表 3.1 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 湿潤オゾン照射条件 (化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 除 去 ) 項目 条件 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T 1 ) 70 ℃ Si 基 板 温 度 (T 2 ) 60 ℃ リンス温度 70 ℃ 1 回あたり湿潤オゾン照射時間 10 s 1 回あたりリンス時間 5 s 乾燥時間 20 s 基 板 回 転 速 度 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 , リ ン ス ) 2000 rpm 基 板 回 転 速 度 (乾 燥 ) 1000 rpm 湿潤オゾン濃度 230 g/Nm 3 (10.7vol %) O 3 /O 2 ガ ス 流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min 表 3.2 評価したポリマーと溶媒及び膜厚 ポ リ マ ー /溶 媒 膜 厚 [µm] AZ6112 1.35 ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 (M w =15000)/ PGMEA 0.96 cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン (M w =38000)/キ シ レ ン 0.40 PVP(M w =20000)/乳 酸 エ チ ル 1.62 PS(M w =4000~20000)/ト ル エ ン 0.66 PMMA(M w =96700)/乳 酸 エ チ ル 1.30 PVC(M w =68750)/シ ク ロ ヘ キ サ ノ ン 1.32 - 33 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 H3C OH H C n C CH2 CH2 n CH3 novolak resin cis-1,4-polyisoprene CH2 CH CH2 CH n n OH PS PVP CH3 CH2 C C O CH2 CH n n Cl O PVC CH3 PMMA 図 3.4 評価したポリマーの化学構造 3.2.3 分 光 学 的 手 法 に よ る 湿 潤 オ ゾ ン と ポ リ マ ー と の 反応機構の解明 ポ リ ス チ レ ン (PS) 及 び ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP) に 湿 潤 オ ゾ ン を 照 射 し ,FT-IR ス ペ ク ト ル 測 定 に よ っ て 湿 潤 オ ゾ ン と ポ リ マ ー と の 反 応 機 構 を 検 討した. Si 基 板 表 面 上 の SiO 2 膜 及 び 有 機 不 純 物 を 除 去 す る た め の 前 処 理 と し て , 基 板 を 0.5%フ ッ 化 水 素 酸 (HF)水 溶 液 で 1min 洗 浄 後 ,さ ら に 30%ア ン モ ニ ア 水 (NH 4 OH): 30%過 酸 化 水 素 水 (H 2 O 2 ): H 2 O=1:20:100 の 混 合 溶 液 で 10min 洗 浄 し , イ オ ン 交 換 水 で リ ン ス し た . 乾 燥 さ せ た 基 板 に PS/ キ シ レ ン (PS: 10wt%) 及 び PVP/ 乳 酸 エ チ ル (PVP: 15wt%) を ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active) で 2000 rpm, 20 s 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト (PMC 720 Series; Dataplate)で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た も の を サ ン プ ル と し た . 表 3.3 に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 を 示 す .オ ゾ ン 濃 度 を 10.7 vol%,流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min と し ,湿 潤 オ ゾ ン 温 度 は 70℃ ,基 板 温 度 は 60℃ で あ る .湿 潤 オ ゾ - 34 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 ン は 2000 rpm で 30 s 連 続 照 射 し ,リ ン ス 工 程 を 省 略 し ,乾 燥 を 1000 rpm で 20 s 行 っ た .FT-IR ス ペ ク ト ル は シ リ コ ン (Si)基 板 を バ ッ ク グ ラ ウ ン ド と し , 透 過 法 に よ り 積 算 回 数 100 回 ,分 解 能 4.0 cm - 1 で 測 定 し た .ま た ,溶 媒 の FT-IR ス ペ ク ト ル は , ATR 法 に よ り 積 算 回 数 100 回 , 分 解 能 4.0 cm - 1 で 測 定 し た . 図 3.5 に PS と PVP の 化 学 構 造 を 示 す .PS/キ シ レ ン に は ,カ ル ボ ニ ル 基 及 び ヒ ド ロ キ シ 基 は 存 在 し な い が ,湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ り カ ル ボ ン 酸 が 生 成 す れ ば カ ル ボ ン 酸 由 来 の C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク (1740 cm - 1 )と O-H 伸 縮 振 動 の ピ ー ク (3400 cm - 1 )が 現 れ る と 考 え ら れ る . 表 3.3 湿潤オゾン照射条件 (湿 潤 オ ゾ ン と ポ リ マ ー と の 反 応 機 構 の 検 討 ) 項目 条件 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T 1 ) 70 ℃ Si 基 板 温 度 (T 2 ) 60 ℃ 1 回あたり湿潤オゾン照射時間 30 s 乾燥時間 20 s 基 板 回 転 速 度 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 ) 2000 rpm 基 板 回 転 速 度 (乾 燥 ) 1000 rpm 湿潤オゾン濃度 230 g/Nm 3 (10.7vol %) O 3 /O 2 ガ ス 流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min O CH2 CH n H3C CH3 O OH OH Ethyl lactate PVP CH3 CH2 CH n CH3 PS 図 3.5 Xylene PS/キ シ レ ン と PVP/乳 酸 エ チ ル の 化 学 構 造 - 35 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 3.2.4 分 子 量 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除去 分 子 量 の 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 (金 沢 大 学 山 岸 教 授 の 提 供 )の サ ン プ ル 作 製を行った. 表 3.4 に 分 子 量 が 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 重 量 平 均 分 子 量 M w , 数 平 均 分 子 量 M n 及 び 分 子 量 分 布 M w /M n を 示 す .こ れ ら の 樹 脂 を 乳 酸 エ チ ル に 溶 解 さ せ , 20, 15, 13, 10 wt%に 調 製 し た も の を 孔 径 0.45 µm の メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー で ろ 過 し た .こ れ ら を Si 基 板 に 2000 rpm で 20 s 回 転 塗 布 し ,ホ ッ ト プ レ ー ト (PMC ; 720 Series)で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た .こ の 中 か ら 膜 厚 が 1.0 µm 程 度 の サ ン プ ル を 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 除 去 し た . 表 3.4 分 子 量 が 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 数 平 均 分 子 量 Mn 及 び 分 子 量 分 布 M w /M n サンプル 数 平 均 分 子 量 Mn 重量平均分子量 分子量分布 F-3 5915 7328 1.239 F-4 7634 10237 1.341 F-8 14854 19013 1.280 F-9 17620 25566 1.451 F-10 22091 36030 1.631 F-11 16474 127558 7.743 表 3.5 に 作 製 し た フ ェ ノ ー ル 樹 脂 サ ン プ ル の 膜 厚 を 示 す . こ れ よ り , F-3 か ら F-8 ま で は 20 wt%で 調 製 さ れ た サ ン プ ル , F-9, F-10 は 15 wt%で 調 製 さ れ た サ ン プ ル , F-11 は 13 wt%で 調 製 さ れ た サ ン プ ル を 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 除 去した. - 36 - 第3章 表 3.5 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 フ ェ ノ ー ル 樹 脂 サ ン プ ル の 膜 厚 (サ ン プ ル 名 は 表 3.4 に 対 応 ) サンプル 20wt% 15wt% 13wt% 10wt% F-3 1.03µm - - - F-4 1.03µm - - - F-8 1.20µm - - - F-9 1.40µm 0.82µm - - F-10 1.65µm 0.86µm - - F-11 3.23µm - 1.30µm 0.65µm 表 3.6 湿 潤 オ ゾ ン の 照 射 条 件 (分 子 量 の 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 除 去 ) 項目 条件 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T 1 ) 70 ℃ Si 基 板 温 度 (T 2 ) 60 ℃ リンス温度 70 ℃ 1 回あたり湿潤オゾン照射時間 10 s or 5s 乾燥時間 20 s 基 板 回 転 速 度 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 , リ ン ス ) 2000 rpm 基 板 回 転 速 度 (乾 燥 ) 1000 rpm 湿潤オゾン濃度 230 g/Nm 3 (10.7vol %) O 3 /O 2 ガ ス 流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min 表 3.6 に 湿 潤 オ ゾ ン の 照 射 条 件 を 示 す .フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 で は ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 ,純 水 に よ る リ ン ス ,乾 燥 を 1 つ の プ ロ セ ス と す る . 1 工 程 当 た り の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 は 10 s ま た は 5 s, リ ン ス は 5 s, 乾 燥 は 20 s で あ り ,オ ゾ ン 濃 度 及 び O 3 /O 2 ガ ス 流 量 は 230 g/Nm 3 (10.7vol%), 1.27×10 3 Pa m 3 /min で あ る .ま た ,湿 潤 オ ゾ ン 温 度 は 70℃ で 基 板 温 度 は 60℃ である. - 37 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 3.2.5 膜 厚 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 湿潤オゾンによるフェノール樹脂の除去速度と膜厚との関係について検 討した. そ れ ぞ れ の 分 子 量 の フ ェ ノ ー ル 樹 脂 を 乳 酸 エ チ ル に 溶 解 さ せ ,ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active)で 2000 rpm, 20 s 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト (720 Series; PMC)で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た も の を サ ン プ ル と し た .表 4.7 に 膜厚の異なるフェノール樹脂の初期膜厚を示す. 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 は 3.2.4 と 同 様 で ,オ ゾ ン 濃 度 10 vol%,流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min で ,湿 潤 オ ゾ ン 温 度 は 70℃ ,基 板 温 度 は 60℃ で あ る .湿 潤 オ ゾ ン は 2000 rpm で 10 s 照 射 し ,10 s 以 内 に 完 全 除 去 さ れ る と 考 え ら れ る 場 合 ,5 s 照 射 と し た . リ ン ス は 2000 rpm で 5 s 行 い , 乾 燥 は 1000 rpm で 20 s 行 っ た .ま た ,フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 除 去 速 度 は ,完 全 除 去 さ れ た 時 間 を 初 期 膜 厚 で 除することにより算出した. 表 3.7 膜 厚 の 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 初 期 膜 厚 サンプル Mn M w /M n 初期膜厚 F-9 17620 1.451 1.35 µm (20wt %) F-10 22091 1.631 1.56 µm (20wt %) 3.3 結 果 及 び 考 察 3.3.1 vis-UV に よ る レ ジ ス ト 用 ベ ー ス ポ リ マ ー 及 び レジストの光学特性 i 線 レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー は ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 で KrF レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー は PVP(ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル )で , ArF レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー は PMMA(ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル )で あ る . 図 3.6 に レ ジ ス ト 用 ベ ー ス ポ リ マ ー の vis-UV ス ペ ク ト ル を 示 す . ま た , 表 3.8 に 各 ベ ー ス ポ リ マ ー の そ れ ぞ れ の 露 光 波 長 に お け る 吸 光 係 数 を 示 す . ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 と PVP は 193 nm に お い て 透 過 率 は 0%で あ り ,PMMA の み が 80%程 度 の 透 過 率 で あ っ た .こ - 38 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 れ は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 及 び PVP に 含 ま れ る ベ ン ゼ ン 環 が 270 nm 付 近 に 吸 収 9) を持つためと考えられる .図 3.7 に 露 光 波 長 の 異 な る レ ジ ス ト の vis-UV ス ペ ク ト ル を 示 す .表 3.9 に 各 種 レ ジ ス ト の そ れ ぞ れ の 露 光 波 長 に お け る 吸 光 係 数 を 示 す .こ の 結 果 よ り ,ベ ー ス ポ リ マ ー と 比 較 し て 全 体 的 に 透 過 率 が 低 下 し た .こ れ は ,レ ジ ス ト の 場 合 ,感 光 剤 及 び 酸 発 生 剤 を 含 み ,こ れ ら が 芳 香環を有しており,紫外光が吸収されたためと考えられる. PMMA PVP novolak 120 Transmittance [%] ArF KrF i -ray 100 80 60 40 20 0 200 図 3.6 表 3.8 250 300 Wavelength [nm] 350 400 レ ジ ス ト 用 ベ ー ス ポ リ マ ー の vis-UV ス ペ ク ト ル 各ベースポリマーのそれぞれの露光波長における吸光係数 ノボラック 樹脂 PVP PMMA i 線 (365nm) 0.00 µm - 1 0.04 µm - 1 0.00 µm - 1 KrF(248nm) 1.49 µm - 1 0.61 µm - 1 0.00 µm - 1 ArF(193nm) 10.31 µm - 1 8.91 µm - 1 1.33 µm - 1 - 39 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 ArF resist KrF resist i -ray resist 120 ArF KrF i -ray Transmittance [%] 100 80 60 40 20 0 200 250 300 350 400 Wavelength [nm] 図 3.7 表 3.9 露 光 波 長 の 異 な る レ ジ ス ト の vis-UV ス ペ ク ト ル 各種レジストのそれぞれの露光波長における吸光係数 i 線レジスト KrF レ ジ ス ト ArF レ ジ ス ト i 線 (365nm) 1.06 µm - 1 0.03 µm - 1 0.03 µm - 1 KrF(248nm) 3.74 µm - 1 0.41 µm - 1 1.01 µm - 1 ArF(193nm) 12.57 µm - 1 8.47 µm - 1 2.24 µm - 1 3.3.2 化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 除 去 図 3.8 に 化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 結 果 を 示 す . ま た , 表 3.10 に 化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 速 度 を ま と め て 示 す . こ の 結 果 よ り , 主 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 ま た は ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン )の 除 去 速 度 が 最 も 速 く , 次 に , 側 鎖 に ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ ポ リ マ ー (ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル :PVP, ポ リ ス チ レ ン :PS)が 除 去 さ れ た .炭 素 -炭 素 二 重 結 合 及 び ベ ン ゼ ン 環 が 存 在 し な い ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル (PMMA), ポ リ 塩 化 ビ ニ ル (PVC) は 除 去 で き な か っ た . オ ゾ ン に よ る 酸 化 反 応 は 求 電 子 的 で あ り , 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 形 成 す る π 電 子 系 を 攻 撃 す る た め , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン - 40 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 は 主 鎖 に 存 在 す る 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 が 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ っ て 分 解 さ れたと考えられる 10) .PVP, PS は 側 鎖 に 含 ま れ て い る ベ ン ゼ ン 環 が 湿 潤 オ ゾ ン と 反 応 し て カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し ,水 に 対 す る 溶 解 性 が 増 加 し た た め 除 去 さ れ た と 考 え ら れ る .PMMA, PVC は 分 子 中 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 含 ま な い た め湿潤オゾンによる除去ができなかったと考えられる. ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン は 主 鎖 が 分 解 さ れ て 除 去 さ れ る の に 対 し , PVP, PS は 湿 潤 オ ゾ ン と 反 応 し て カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し , 除 去 さ れ る . そ の た め , 主 鎖 が 分 解 さ れ て 除 去 さ れ る ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン の 除 去 速 度 が PVP, PS の 除 去 速 度 よ り 速 か っ た と 言 え る . Polymer thickness [µm] 1.60 1.40 1.20 Novolak resist poly isoprene Novolak PVP PS PMMA PVC 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 0 100 200 300 400 500 600 Wet ozone irradiation time [s] 図 3.8 表 3.10 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去速度 ポリマー 除 去 速 度 [µm/min] AZ6112 1.01 ノボラック樹脂 0.96 cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン 0.61 PVP 0.35 PS 0.12 PMMA 0.01 PVC × - 41 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 3.3.3 分 光 学 的 手 法 に よ る 湿 潤 オ ゾ ン と ポ リ マ ー と の 反応機構の解明 図 3.9 に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 後 の ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP)の FT-IR ス ペ ク ト ル ,図 3.10 に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 後 の ポ リ ス チ レ ン (PS)の FT-IR ス ペ ク ト ル を 示 す . こ の 結 果 よ り , PVP 及 び PS の 両 者 に お い て , 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 の 増 加 に し た が っ て カ ル ボ ン 酸 由 来 の C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク (1690 cm - 1 , 1740 cm - 1 ) 11 ) と O-H 伸 縮 振 動 ピ ー ク (3400 cm - 1 )が 増 加 し た . さ ら に , 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 の 増 加 に 伴 い , 芳 香 族 C-H 伸 縮 振 動 の ピ ー ク (3000 cm - 1 )及 び C=C 骨 格 振 動 の ピ ー ク (1520 cm - 1 , 1600 cm - 1 )が 減 少 し た . こ れ よ り , PVP 及 び PS の 側 鎖 に 存 在 す る ベ ン ゼ ン 環 は ,湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ り カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し た と 考 え ら れ る .ま た ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 の 増 加 に し た が っ て カ ル ボ ン 酸 由 来 の C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク (1690 cm - 1 , 1740 cm - 1 )が 増 加 し た こ と か ら も 湿 潤 オ ゾ ン に よ り PVP 及 び PS 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 が 分 解 さ れ て カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 後 の リ ン ス に よ っ て 除 去 さ れ た と 考 え ら れ る .こ れ は ,リ ン ス 工 程 後 に お け る リ ン ス 液 の イ オ ン ク ロ マ ト 分 析 を 行 っ た 結 果 ,カ ルボン酸由来のピークが現れたことからも言える 12) . PVP の FT-IR ス ペ ク ト ル に お い て PVP を 溶 解 し て い る 乳 酸 エ チ ル に は カ ル ボ ニ ル 基 が 含 ま れ て い る が ,ピ ー ク は 現 れ な か っ た .こ れ は ,プ リ ベ ー ク に よ り ,ポ リ マ ー 膜 中 に乳酸エチルがほぼ残存していなかったためと考えられる. 図 3.11 に 湿 潤 オ ゾ ン と PS, PVP と の 化 学 反 応 に つ い て 示 す . PS 及 び PVP 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 が 湿 潤 オ ゾ ン と 反 応 す る こ と に よ り カ ル ボ ン 酸 と な る .そ れ に よ り , PS 及 び PVP は 一 般 的 な 水 溶 性 ポ リ マ ー で あ る ポ リ ア ク リ ル 酸 に 類 似 し た カ ル ボ キ シ ル 基 を 持 つ 構 造 と な る た め 水 へ の 溶 解 性 が 向 上 し ,除 去 さ れ た と 考 え ら れ る . こ の こ と か ら , 湿 潤 オ ゾ ン は 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と 主 に 反 応 し ,主 鎖 に ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ ポ リ マ ー は 主 鎖 切 断 に よ る 分 解 反 応 ,側 鎖にベンゼン環を持つポリマーは側鎖がカルボン酸に変化することによっ て 水 に 対 す る 溶 解 性 が 向 上 す る こ と に よ り 除 去 さ れ る と 言 え る .ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 ,cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン は 主 鎖 が 分 解 さ れ て 除 去 さ れ る の に 対 し ,PVP, PS は 湿 潤 オ ゾ ン と 反 応 し , カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し , 純 水 リ ン ス に よ っ て 除 去 されたと考えられる. - 42 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 without rinse PVP Absorbance (a) (b) (c) Ethyl lactate (ATR) 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 Wavenumber [cm-1] (a)湿 潤 オ ゾ ン 60 s 照 射 図 3.9 (b)湿 潤 オ ゾ ン 30 s 照 射 (c)未 照 射 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 後 PVP の FT-IR ス ペ ク ト ル PS without rinse Absorbance (a) (b) (c) Xylene (ATR) 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 Wavenumber [cm-1] (a)湿 潤 オ ゾ ン 60 s 照 射 図 3.10 (b)湿 潤 オ ゾ ン 30 s 照 射 (c)未 照 射 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 後 PS の FT-IR ス ペ ク ト ル - 43 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 CH2 CH PVP +O3/H2O n CH2 n COOH HO PS CH CH2 CH ポリアクリル酸(水溶性ポリマー 水溶性ポリマー) 水溶性ポリマー +O3/H2O n 図 3.11 ベンゼン環がカルボン酸に変化 湿 潤 オ ゾ ン と PVP, PS と の 反 応 3.3.4 分 子 量 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除去 図 3.12 に 分 子 量 の 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 結 果 を 示 す . 表 3.11 に そ れ ぞ れ の 除 去 速 度 を ま と め て 示 す . 除 去 速 度 は , 初 期 膜 厚を完全除去されたときの湿潤オゾン照射時間で除することにより算出し た .こ の 結 果 よ り ,す べ て の 分 子 量 の フ ェ ノ ー ル 樹 脂 は 除 去 す る こ と が で き , 除 去 速 度 に ほ と ん ど 変 化 が な い こ と が わ か る .こ れ は ,ポ リ マ ー 膜 表 面 に お ける湿潤オゾンの反応サイトの密度は分子量に関わらず一定であるためと 考えられる. Polymer thickness [µm] 1.60 AZ6112 F-3 F-4 F-8 F-9 F-10 F-11 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 0 10 20 30 40 50 60 70 Wet ozone irradiation time [s] 図 3.12 分子量の異なるフェノール樹脂の湿潤オゾンによる除去 - 44 - 第3章 表 3.11 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 分子量の異なるフェノール樹脂の除去速度 サンプル 除 去 速 度 [µm/min] AZ6112 1.23 F-3 1.10 F-4 1.11 F-8 1.08 F-9 1.08 F-10 1.13 F-11 1.16 3.3.5 膜 厚 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 図 3.13 に 膜 厚 の 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 結 果 を 示 す . ま た , 表 3.12 に そ れ ぞ れ の 除 去 速 度 を ま と め て 示 す . こ の 結 果 よ り , 1.5 倍 程 度 の 膜 厚 の 違 い で は ,除 去 速 度 に は 変 化 は み ら れ な か っ た .こ れ は , フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の よ う な 主 鎖 に ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ ポ リ マ ー は ,湿 潤 オ ゾ ン が ポリマー表面から反応していることを示唆している. Polymer thickness [µm] 2.00 AZ6112 F-9 (15wt%) F-9 (20wt%) F-10 (15wt%) F-10 (20wt%) 1.75 1.50 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 Wet ozone irradiation time [s] 図 3.13 膜厚の異なるフェノール樹脂の湿潤オゾンによる除去 - 45 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 表 3.12 膜 厚 の 異 な る フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 除 去 速 度 サンプル 除 去 速 度 [µm/min] AZ6112 1.22 F-9 (15wt%) 1.08 F-9 (20wt%) 1.08 F-10 (15wt%) 1.13 F-10 (20wt%) 1.11 3.4 結 言 本 章 で は ,各 種 レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 っ た .主 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 含 む ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン , 側 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 含 む PVP, PS は 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 が 可 能 で あ っ た . ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン の 除 去 速 度 は , PVP, PS の 除 去 速 度 に 比 べ て 速 か っ た . 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 の 存 在 し な い ポ リ マ ー (PMMA, PVC)は 除 去 さ れ な か っ た .ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , cis-1,4-ポ リ イ ソ プ レ ン は , 主 鎖 が 分 解 さ れ る こ と に よ っ て 除 去 さ れ る . 一 方 , PVP, PS は , FT-IR ス ペ ク ト ル 測 定 よ り ,側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 が 湿 潤 オ ゾ ン に よ っ て カ ル ボ ン 酸 ま た は 過 酸 化 物 に 変 化 し ,水 に 対 す る 溶 解 性 が 増 加 す る こ と に よ っ て 除 去 さ れ る た め で あ る .PMMA, PVC は ,炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 含 ま な い た め 湿 潤 オ ゾ ンと反応できなかったため除去されなかったと考えられる. 分 子 量 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 で は ,除 去 速 度 に 変 化 は み ら れ な か っ た .こ れ は ,湿 潤 オ ゾ ン が フ ェ ノ ー ル 樹 脂 の 表 面 か ら 反 応 し て お り ,ポ リ マ ー 膜 表 面 に お け る ベ ン ゼ ン 環 の 分 子 密 度 が 変 化 し な い た め と 考 え ら れ る .膜 厚 を 変 化 さ せ た 場 合 に お い て も ポ リ マ ー 膜 表 面 に お け る ベ ン ゼ ン 環 の 分 子 密 度 は ,膜 厚 に 依 存 し な い た め ポ リ マ ー の 除 去 速 度 は 変 化 し な か ったと考えられる. - 46 - 第3章 化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去 参考文献 1) 石橋健夫,半導体・液晶ディスプレイフォトリソグラフィ技術ハンドブ ッ ク , リ ア ラ イ ズ 理 工 セ ン タ ー (2006), P20 2) 伊 藤 洋 , レ ジ ス ト 材 料 , 共 立 出 版 (2005), p4 3) 庄 野 利 之 , 脇 田 久 伸 , 入 門 機 器 分 析 化 学 , 三 共 出 版 (2007), pp11-14 4) H. Ito, C. G. Willson, Polym. Eng. Sci., 23(1983), 1012. 5) S. Takechi, M. Takahashi, A. Kotachi, K. Nozaki, E. Yano and I. Hanyu, J. Photopolym. Sci. Technol, 9(1996), 475. 6) H. Oizumi, Y. Tanaka, T. Kumise, D. Shiono, T. Hirayama, H. Hada, J. Onodera, A. Yamaguchi and I. Nishiyama, J. Photopolym. Sci. Technol, 20(2007), 403. 7) Y. Fukushima, T. Watanabe, R. Ohnishi, H. Kinoshita, S. Suzuki, S. Yusa, Y. Endo, M. Hayakawa and T. Yamanaka, J. Photopolym. Sci. Technol, 21(2008), 465. 8) L. Eckertova, 井 上 泰 宣 , 浜 崎 勝 義 , 鎌 田 喜 一 郎 , 薄 膜 物 性 入 門 , 内 田 老 鶴 圃 (1994), p319 9) 山 岡 亜 夫 , 半 導 体 レ ジ ス ト 材 料 ハ ン ド ブ ッ ク , シ ー エ ム シ ー (1996), p99 10) 大 島 晴 一 , 高 分 子 の 劣 化 機 構 と 安 定 化 技 術 , シ ー エ ム シ ー (2005), p51 11) R. M. Silverstein, 有 機 化 合 物 の ス ペ ク ト ル に よ る 同 定 法 , 東 京 化 学 同 人 (1999), p100 12) 野 田 清 治 「 , 高濃度オゾンを用いた液晶基板製造用フォトレジストの除去 技 術 に 関 す る 研 究 」 ,平 成 16 年 度 東 京 大 学 博 士 論 文 (2005), pp76-83 - 47 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の 解析 4.1 緒 言 半 導 体 (IC, LSI),液 晶 (LCD)等 の 電 子 デ バ イ ス 製 造 で は ,レ ジ ス ト と 呼 ば れ る 感 光 性 樹 脂 が 用 い ら れ て い る .基 板 上 に 塗 布 し た レ ジ ス ト を 回 路 パ タ ー ンが 描 か れた フ ォ トマ ス ク を通 し て 露光 し ,現 像す る こと に よ り ,レ ジ ス ト 上 に 集 積 回 路 の パ タ ー ン が 転 写 さ れ る .こ の レ ジ ス ト を マ ス ク と し て 基 板 の エ ッ チ ン グ や イ オ ン 注 入 が 行 わ れ ,最 終 的 に 不 要 に な っ た レ ジ ス ト を除去する.現在,半導体用のレジスト除去工程では酸素プラズマアッ シ ング 1, 2) や 薬 液 (硫 酸 -過 酸 化 水 素 水 )が 用 い ら れ て い る . 薬 液 は 環 境 負 荷 が 高く大量に使用されているため環境へのダメージが大きいという問題が あり 3, 4) , ま た , 酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ は 高 温 プ ロ セ ス (250℃ )の た め 下 地へのダメージが問題となる 5, 6) .これらを解決する新規なレジスト除去 技 術 の 開 発 が 産 業 界 で 強 く 求 め ら れ て い る (原 子 状 水 素 12) , YAG レ ー ザ ー 1 3 - 1 5 ) , 高 濃 度 オ ゾ ン 16) 7-10) , UV/オ ゾ ン 11 , ). 本研究では,研究室で以前から開発を行っている環境に優しく,かつ低 温プロセスである湿潤オゾン方式によるレジスト除去技術の高度化を目 指した.この方式は,オゾナイザーで発生させるオゾンガスを温水中に バ ブリングし生成する湿潤オゾンを大気圧下でレジストに照射するもので あ る .オ ゾ ン は フ ッ 素 に 次 ぐ 高 い 酸 化 還 元 電 位 を 持 ち ,酸 化 力 が 高 い た め , 酸素プラズマアッシングや薬液に替わる新規なレジスト除去方式になる 見込みがある 17-20) . 図 4.1 に 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 装 置 の 概 要 を 示 す .温 水 に オ ゾ ン を バ ブ リ ン グ さ せ , 微 量 の 水 が 混 在 し た オ ゾ ン (湿 潤 オ ゾ ン )を 発 生 さ せ る . 湿 潤 オ ゾ ン と 基 板 の 間 に 温 度 差 (∆T=T 1 -T 2 )を 設 け , 微 量 の 水 を レ ジ ス ト 上 に - 48 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 結 露 さ せ る .こ こ で ,両 者 の 温 度 差 を 調 節 す る こ と に よ り ,レ ジ ス ト 表 面 に 結 露 す る 水 分 量 を 制 御 す る .湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 で は ,レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー に 含 ま れ る ベ ン ゼ ン 環 の 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 に オ ゾ ン が 反 応 し ,モ ル オ ゾ ニ ド か ら オ ゾ ニ ド を 生 成 ,微 量 の 水 を 添 加 す る こ と に よ っ て 親水性かつ低分子のカルボン酸に加水分解する 21) .最後に,生成したカル ボ ン 酸 を 純 水 で 洗 い 流 す (リ ン ス 工 程 ). こ の よ う な , 一 連 の 工 程 を 経 て , レ ジストは基板表面から除去する. また,半導体デバイス製造工程においてパターンの微細化は重要な課題であ る。露光波長を短波長化することでレジストの解像度の向上を図っており、そ れぞれの露光波長に応じた化学構造を有するベースポリマーが用いられている 22-25) . 本 研 究 で は , 各 露 光 波 長 に 応 じ た レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル :PVP, ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル :PMMA)の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 い , フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 法 (FT-IR)及 び in situ FT-IR (リ ア ル タ イ ム FT-IR)に よ り 各 種 化 学 構 造 の ポ リ マ ー と 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 メカニズムを解明した. 4.2 実 験 図 4.2 に 本 章 で 用 い た ポ リ マ ー の 化 学 構 造 を 示 す . ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , PVP, PMMA を 溶 媒 に 溶 解 さ せ ,3inch Si 基 板 に ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A, Active) に よ り 2000 rpm で 20 s 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト で 100℃ , 1min プ リ ベ O3/O2 ガス 湿潤オゾン(T1) チャンバー 湿潤オゾン(T1) リンス(純水) 大気圧雰囲気 モータ モータ 図 4.1 ヒータ ヒータ Si 基板 (T2) Si 基板 (T2) ヒータ レジスト リンス(純水) リンス(純水) ヒータ ヒータ ヒータ 湿潤オゾン(T1) Si 基板 (T2) レジスト 湿潤オゾン照射時 モータ 純水リンス時 湿潤オゾンによるレジスト除去装置の概要 - 49 - ヒータ レジスト 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 ー ク し た も の を 用 い た .溶 媒 と し て ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 に は プ ロ ピ レ ン グ リ コ ー ル モ ノ メ チ ル エ ー テ ル ア セ テ ー ト (PGMEA)を 用 い , PVP 及 び PMMA に は 乳 酸 エ チ ル を 用 い た .ま た ,比 較 評 価 に ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (AZ6112, AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ ) を 3inch Si 基 板 に ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A, Active)に よ り 2000 rpm で 20 s 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た も の に つ い て も 検 討 し た . 温 水 に オ ゾ ン を バ ブ リ ン グ さ せ ,微 量 の 水 が 混 在 し た オ ゾ ン (湿 潤 オ ゾ ン ) を 発 生 さ せ る . 湿 潤 オ ゾ ン と 基 板 の 間 に 温 度 差 (∆T=T 1 -T 2 )を 設 け , 微 量 の 水 をレジスト上に結露させる.ここで,両者の温度差を調節することにより, レ ジ ス ト 表 面 に 結 露 す る 水 分 量 を 制 御 す る .図 4.3 に 今 回 用 い た ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト の 化 学 構 造 を 示 す .こ の レ ジ ス ト は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 と ジ ア ゾ ナ フ ト キ ノ ン (DNQ)か ら 構 成 さ れ て い る .図 4.4 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 及 び オ ゾ ニ ド の 加 水 分 解 に つ い て 示 す .湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 で は ,ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト に 含 ま れ る ベ ン ゼ ン 環 の 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と オ ゾ ン が 反 応 し ,モ ル オ ゾ ニ ド か ら オ ゾ ニ ド が 生 成 し , レジスト表面に結露した微量の水により親水性のカルボン酸になると考え ている 26,27) . 最 後 に , 純 水 で 生 成 し た カ ル ボ ン 酸 を 洗 い 流 す (リ ン ス 工 程 ). 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 は ,レ ジ ス ト 基 板 へ の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 ,リ ン ス ,乾 燥 工 程 を 繰 り 返 す こ と で ,レ ジ ス ト を 除 去 す る .ま た ,ポ リ マ ー 及 び レ ジ ス ト 膜 厚 は 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 (DekTak 6M;ULVAC)を 用 い て 測 定 し た .レ ジ ス ト 除 去 速 度 は ,初 期 膜 厚 を レ ジ ス ト が 完 全 に 除 去 さ れ た 時 間 で 除 す こ と で 算 出 す る .こ こ で は ,湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 反 応 性 を 評 価 す る た め に ,リ ン ス 時 間 と 乾 燥 時 間 を 除 外 し て 求 め た .表 4.1 に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 を 示 す . 1 プ ロ セ ス あ た り の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 は 10 s, リ ン ス は 5 s, 乾 燥 は 20 s 行 う . 基 板 回 転 数 は 湿 潤 オ ゾ ン , リ ン ス で は 2000 rpm, 乾 燥 で は 1000 rpm で あ る .オ ゾ ン 濃 度 及 び O 3 /O 2 ガ ス 流 量 は そ れ ぞ れ 230 g/Nm 3 (O 3 : O 2 =10.7 vol%: 89.3 vol%) , 1.27 × 10 3 Pa m 3 /min と し , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 は T 1 =70℃ , 基 板 温 度 T 2 =60℃ で 除 去 を 行 っ た . 湿潤オゾンと各種ポリマーとの反応メカニズムについて検討するために 反 応 後 の 基 板 を FT-IR に よ り 測 定 し た . FT-IR (IR Prestage-21; SHIMADZU Corp.)は Si 基 板 を バ ッ ク グ ラ ウ ン ド と し ,透 過 法 で 積 算 回 数 100 回 ,分 解 能 4.0 cm - 1 で 測 定 し た . 反 応 後 の チ ャ ン バ ー 内 の ア ウ ト ガ ス を in situ FT-IR - 50 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 (FG-110; HORIBA)に よ り 分 析 し た . セ ル 長 を 0.80 m と し , 引 き 込 み 経 路 温 度 を 80℃ と し た . OH n CH3 For g/i-ray (436nm/365nm) novolak resin CH2 CH n For KrF excimer laser (248nm) OH PVP CH3 CH2 C C O n For ArF excimer laser (193nm) O CH3 PMMA 図 4.2 評価したポリマーの化学構造 O DO OH n CH3 ノボラック樹脂 図 4.3 DO OD OD C N2 D: or H SO2 O ベンゾフェノン骨格 ジアゾナフトキノン誘導体 ノボラック系ポジ型レジストの化学構造 - 51 - 第4章 O 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 + O O - O O H R2 C R1 R3 O C R1 R3 H R2 - O + C C H C O O R1 + C R2 R3 molozonide O R1 H - O + C H + R1 C O R2 O R3 R2 O C C R3 O ozonide H HO - R1 O OH R2 O C C R3 O H C O R1 R2 H +O C O 図 4.4 C R R3 2 C O R3 aldehyde - + HO C R1 O O R1 carboxylic acid ketone 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 と 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 及 び オゾニドの加水分解 表 4.1 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 (反 応 機 構 解 析 ) 項目 条件 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T 1 ) 74 ℃ Si 基 板 温 度 (T 2 ) 66 ℃ リンス温度 70 ℃ 1 回あたり湿潤オゾン照射時間 10 s 1 回あたりリンス時間 5 s 乾燥時間 20 s 基 板 回 転 速 度 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 , リ ン ス 工 程 , 乾 燥 ) 2000 rpm 湿潤オゾン濃度 230 g/m 3 (10.7vol %) O 3 /O 2 ガ ス 流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min - 52 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 4.3 結 果 及 び 考 察 図 4.5 に 異 な る 化 学 構 造 の ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 示 す .こ の 結 果 よ り ,主 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 持 つ ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 )の 除 去 速 度 が 最 も 速 く ,側 鎖 に 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 を 持 つ ポ リ マ ー (PVP)の 除 去 速 度 は ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 除 去 速 度 に 比 べ て 遅 か っ た . 一 方 , 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 が 存 在 し な い PMMA は 除 去 で き な か っ た . 除 去 速 度 は , 1.01 µm/min (ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト , AZ6112), 0.96 µm/min ( ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 ), 0.31 µm/min (PVP) 及 び 0.01 µm/min (PMMA)で あ っ た . こ れ は , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 は , 主 鎖 の 炭 素 -炭 素 二 重 結 合 が 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ っ て 樹 脂 の 主 鎖 が 分 解 さ れ た た め と 考 え ら れ る .こ こ で ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 中 の ベ ン ゼ ン 環 は ヒ ド ロ キ シ ル 基 (OH 基 )に よ り オ ル ト , パ ラ 位 の 電 子 密 度 が 高 く な っ て お り , オ ゾ ン は 求 電 子 反 応 で あ る た め OH 基 の 特 に オ ル ト 位 に オ ゾ ン が 反 応 し た 時,樹脂の主鎖が切断され,低分子化されると考えられる 28, 29) . PVP は 側 鎖に含まれているベンゼン環が湿潤オゾンと反応してカルボン酸に変化し, 水 溶 性 ポ リ マ ー で あ る ポ リ ア ク リ ル 酸 と な り ,水 に 対 す る 溶 解 性 が 増 加 す る ため除去されたと考えられる. 図 4.6 に リ ン ス の 有 無 に お け る PVP 及 び ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 除 去 結 果 を 示 す . PVP に お い て リ ン ス 有 の も の が リ ン ス 無 と 比 較 し て 速 く 除 去 さ れ ,除 去 速 度 は リ ン ス 有 が 0.36 µm/min に 対 し , リ ン ス 無 は 0.13 µm/min で あ っ た . こ れ は , リ ン ス が 行 わ れ な い こ と に よ り 湿 潤 オ ゾ ン と PVP の 反 応 生 成 物 が 基 板 上に残存していることを示唆している.しかしながら,ノボラック樹脂は, リ ン ス の 有 無 で 除 去 速 度 は 変 化 し な か っ た .こ れ は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 主 鎖 が 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ り 切 断 さ れ ,ガ ス に 低 分 子 化 さ れ た こ と が 予 想 さ れ る . こ の 考 察 に つ い て , FT-IR 及 び in situ FT-IR よ り 詳 細 に 検 討 し た . - 53 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 Polymer thickness [µm] 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 AZ6112 Novolak PVP PMMA 0.40 0.20 0.00 0 100 200 300 400 500 Wet ozone processing time [s] 図 4.5 異なる化学構造のポリマーの湿潤オゾンによる除去 Polymer thickness [µm] 1.60 (a) PVP 1.40 without rinse 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 with rinse 0.20 0.00 0 50 100 150 200 250 300 Wet ozone processing time [s] Polymer thickness [µm] 1.20 (b) novolak resin 1.00 0.80 0.60 with rinse 0.40 0.20 without rinse 0.00 0 20 40 60 80 Wet ozone processing time [s] 図 4.6 リ ン ス の 有 無 に お け る PVP 及 び ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 除 去 - 54 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 図 4.7 に PVP 及 び ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の FT-IR ス ペ ク ト ル を 示 す . PVP で は , 1740 cm - 1 付 近 に 飽 和 脂 肪 カ ル ボ ン 酸 の C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク が み ら れ , メ チ レ ン 基 (-CH 2 -)由 来 の ピ ー ク (2920 cm - 1 )も 検 出 さ れ た こ と か ら ポ リ ア ク リ ル 酸が生成していると考えられる 30, 31) .また,湿潤オゾンの照射時間の増加 に 従 い , C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク 強 度 が 増 加 し た . こ の 結 果 よ り , PVP は 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 が 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 分 解 さ れ ,カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し て い る と 言 え る . ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 に お い て も , C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク が 確 認 さ れ た . イ オ ン ク ロ マ ト グ ラ フ よ り , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 や PVP 除 去 の リ ン ス 液 に お い て ギ 酸 や 酢 酸 の 低 級 カ ル ボ ン 酸 が 検 出 さ れ た .し か し な が ら ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 に お い て C=O 伸 縮 振 動 の ピ ー ク 強 度 は 湿 潤 オ ゾ ン が 10s 照 射 さ れ た 後 , 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 が 増 加 し て も 変 化 し な か っ た .し た が っ て ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂と湿潤オゾンの反応生成物がガス化していることが考えられる. 図 4.8 に 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 樹 脂 の 除 去 に お け る 処 理 チ ャ ン バ ー 内 の 二 酸 化 炭 素 (CO 2 )濃 度 を リ ア ル タ イ ム で 測 定 し た 時 の プ ロ セ ス タ イ ム と の 関 係 を 示 す . こ こ で は , ア ウ ト ガ ス の FT-IR 測 定 よ り 得 ら れ た ス ペ ク ト ル か ら CO 2 固 有 (2350 cm - 1 )の ピ ー ク 強 度 を 濃 度 に 換 算 し ,Si 基 板 の み に 照 射 し た も の か ら 濃 度 を 差 し 引 い た . プ ロ セ ス タ イ ム の 0~60 s で 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 が 行 わ れ て お り ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 の み CO 2 濃 度 が 上 昇 し て い る こ と か ら ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 及 び PVP の 除 去 に お い て CO 2 が 生 成 し て い る と 言 え る .こ の こ と か ら ,湿 潤 オ ゾ ン と ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 と の 反 応 に よ り 生 成 さ れ た カ ル ボ ン 酸 は ,湿 潤 オ ゾ ン に よ り さ ら に 酸 化 分 解 が 進 み ,CO 2 に 分 解 さ れ ると考えられる 32) . ま た , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 >PVP>PMMA の 順 で CO 2 の 生 成 量 が 増 加 し て お り ,除 去 速 度 も ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 >PVP>PMMA の 順 に な っ て い る こ と か ら CO 2 の 生 成 量 は 除 去 速 度 に 依 存 し て い る と 考 え ら れ る . さ ら に , CO 2 生 成 量 を 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 0 s か ら 60 s ま で の 積 分 か ら 算 出 し , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の CO 2 生 成 量 を 1 と す る と PVP は 0.54,PMMA は 0.06 で あ っ た . ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 (繰 り 返 し 単 位 中 の 炭 素 数 : 8)が 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ り 全 て ガ ス 化 し た と 仮 定 す る と ,PVP 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 が 分 解 さ れ ,ポ リ ア ク リ ル 酸 が 生 成 し ,残 り の 5 つ の 炭 素 は ほ ぼ CO 2 に 変 化 し た と 考 え ら れ る .ま た , PMMA は オ ゾ ン 自 身 の 分 解 に よ り 微 量 に 発 生 す る 酸 素 ラ ジ カ ル に よ り CO 2 が 発 生 し た も の と 推 察 さ れ る . 以 上 よ り ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー の 除 去 に お い て ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 は - 55 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 主 鎖 が 低 分 子 化 さ れ , カ ル ボ ン 酸 を 経 て , 最 終 的 に CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ る .一 方 ,PVP は 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 に 湿 潤 オ ゾ ン が 反 応 し ,ポ リ マ ー は カ ル ボ キ シ ル 基 を 持 つ 水 溶 性 ポ リ マ ー に 変 化 し , ま た ,副 生 成 物 と し て 低 分 子 の カ ル ボ ン 酸 も 生 成 す る が ,さ ら に オ ゾ ン に よ り 酸 化 さ れ , CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ る と 考 え ら れ る (図 4.9). Wet ozone processing time (a) PVP Absorbance 240s 180s 120s 60s 30s Ref 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 -1 Wavenumber [cm ] (b) novolak Absorbance Wet ozone processing time 20s 10s Ref 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 -1 Wavenumber [cm ] 図 4.7 PVP 及 び ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の FT-IR ス ペ ク ト ル (a: PVP リ ン ス 未 照 射 , b:ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 リ ン ス 未 照 射 ) - 56 - 第4章 CO2 Concentration [ppm] 600 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 Nv PVP PMMA Wet ozone irradiation 500 400 300 200 100 0 0 20 40 60 80 100 Process time [s] 湿潤オゾンによる樹脂の除去における処理チャンバー内の 図 4.8 CO 2 濃 度 と プ ロ セ ス タ イ ム と の 関 係 PVP O 3/H2O CH2 CH CH2 CH n COOH n CH3COOH or + O 3/H2O CO 2 HCOOH + H2O vaporise Poly acrylic acid OH Novolak resin OH O 3/H2O n CH3 図 4.9 CH3COOH or O 3/H2O CO 2 HCOOH + H2O vaporise 湿 潤 オ ゾ ン と ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 及 び PVP の 反 応 概 略 図 3.4 結 言 今 回 , 化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 い , FT-IR 及 び in situ FT-IR に よ り 反 応 生 成 物 と ポ リ マ ー 除 去 中 の ア ウ ト ガ ス 分 析 か ら 以下のことを明らかにした. 化 学 構 造 の 異 な る 種 々 の ポ リ マ ー の 除 去 に お い て ,オ ゾ ン は 酸 化 反 応 に よ - 57 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 り 求 電 子 的 に 反 応 す る た め 主 鎖 お よ び 側 鎖 に C=C を 有 す る ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 ,PVP)は 除 去 で き た が ,C=C の な い ポ リ マ ー (PMMA)は 除 去 で き な か っ た .ま た ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 除 去 速 度 は ,PVP の 除 去 速 度 に 比 べ て 速 か っ た .主 鎖 に C=C を 有 す る ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 )は 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 で 主 鎖 が 切 断 さ れ カ ル ボ ン 酸 に 分 解 さ れ る こ と で 除 去 さ れ る .一 方 ,側 鎖 に C=C を 有 す る ポ リ マ ー (PVP)は 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 で 側 鎖 が カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し ,水 溶 性 ポ リ マ ー と な り ,水 へ の 溶 解 性 が 増 加 す る こ と で 除 去 さ れ る た めと考えられた. リ ン ス の 有 無 に お け る 湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー の 除 去 で は ,リ ン ス 無 で 湿 潤 オ ゾ ン と PVP の 反 応 生 成 物 が 基 板 上 に 残 存 し た . し か し な が ら , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 は ,リ ン ス の 有 無 で 除 去 速 度 は 変 化 し な か っ た .こ れ は ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 主 鎖 が 湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 に よ り 切 断 さ れ ,ガ ス に 低 分 子 化 さ れ たためと考えられる. PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 で は , FT-IR 測 定 よ り 1740 cm - 1 付 近 に 飽 和 脂 肪 カ ル ボ ン 酸 の C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク が み ら れ , カ ル ボ ン 酸 の 生 成 が 確 認 さ れ た . ま た , 湿 潤 オ ゾ ン の 照 射 時 間 の 増 加 に 従 い , C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク 強 度 が 増 加 し た .こ の 結 果 よ り ,PVP は 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 が 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 分 解 さ れ , カ ル ボ ン 酸 (ポ リ ア ク リ ル 酸 )に 変 化 し て い る と 言 え る . 一 方 , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 で は , C=O 伸 縮 振 動 ピ ー ク は 10 s 湿 潤 オ ゾ ン を 照 射 し た 後 は 変 化 し な か っ た .こ の た め ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 と 湿 潤 オ ゾ ン の 反 応 生 成 物 は ガス化していることが考えられる. in situ FT-IR 測 定 よ り , 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 中 に CO 2 等 の 低 分 子 ガ ス の 生 成 が 確 認 さ れ た .し た が っ て ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー の 除 去 に お い て ,ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 は 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 主 鎖 が 低 分 子 化 さ れ ,カ ル ボ ン 酸 を 経 て ,最 終 的 に CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ る . 一 方 , PVP は 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 に 湿 潤 オ ゾ ン が 反 応 し ,ポ リ マ ー は カ ル ボ キ シ ル 基 を 持 つ 水 溶 性 ポ リ マ ー (ポ リ ア ク リ ル 酸 )に 変 化 し , ま た , 副 生 成 物 と し て 低 分 子 の カ ル ボ ン 酸 も 生 成 す る が オ ゾ ン に よ り 酸 化 さ れ ,CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ ると考えられる. - 58 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 参考文献 1) Strobel, M., Lyons, C.S. and Mittal, K.L., Plasma Surface Modification of Polymers Relevance to Adhesion, VSP BV Publ., Utrecht, The Netherlands, 1994. 2) Liston, E.M., Plasma Modification of Polymer Surfaces, In: Pireaux, J.J., Bertrand, P. and Bredas, J.L. (eds), Polymer-Solid Interfaces, pp. 429-442, Institute of Physics, Belgium, 1991. 3) Mark N. Kawaguchi, James S. Papanu, Bo Su, Matthew Castle and Amir Al-Bayati: J.Vac.Sci.Technol, B24(2) (2006), 657. 4) M. Yamamoto, T. Maruoka, A. Kono, H. Horibe, and H. Umemoto, Jpn. J. Appl. Phys., 49 (2010) 016701. 5) H. Morinaga, M. Suyama, and T. Ohmi, J. Electrochem. Soc.,141 (1994) 2834. 6) H. Morinaga, T. Futatsuki, T. Ohmi, E. Fuchita, M. Oda, and C. Hayashi, J. Electrochem. Soc., 142 (1995) 966. 7) A. Izumi and H. Matsumura, Jpn. J. Appl. Phys., 41 (2002), 4639. 8) M. Yamamoto, H. Horibe, H. Umemoto, K. Takao, E. Kusano, M. Kase, and S. Tagawa, Jpn. J. Appl. Phys., 48 (2009), 026503. 9) H. Horibe, M. Yamamoto, E. Kusano, T. Ichikawa and S. Tagawa, J. Photopolym.Sci.Technol., 21 (2008), 293. 10) T. Maruoka, Y. Goto, M. Yamamoto, H. Horibe, E. Kusano, K. Takao and S. Tagawa: J. Photopolym.Sci.Technol., 22 (2009), 325. 11) M. D. Gurol, and R. Vatistas, Water Res., 21 (1987), 895. 12) Abe, Y., A. Kaneko, T. Yagi, H. Hamada, M. Ike, T. Asano, T. Kato and K. Fujimori, KAGAKUKOGAKU RONBUNSHU, 36 (1) (2010), 41. [in Japanese] 13) H. Horibe, T. Kamiura and K. Yoshida, J. Photopolym.Sci.Technol., 18 (2005), 181. 14) H. Horibe, M. Fujita, I. Nishiyama and A. Yoshikado, Jpn. J. Appl. Phys., 44 (2005), 8673. 15) T. Kamimura, S. Akamatsu, H. Horibe, H. Shiba, Shinji Motokoshi, T. Sakamoto, T. Jitsuno, T. Okamato and K. Yoshida, Jpn. J. Appl. Phys., 43 - 59 - 第4章 湿潤オゾンによるレジスト除去反応機構の解析 (2004), L1229. 16) T. Miura, M. Kekura, H. Horibe, M. Yamamoto, and H. Umemoto, ECS Trans. 19 (2009) 423. 17) S. Noda, M.Miyamoto, H.Horibe, I.Oya, M.Kuzumoto, and T.Kataoka, J. Electrochem. Soc., 150 (2003), 537. 18) S. Noda, K. Kawase, H. Horibe, I. Oya, M. Kuzumoto, and T. Kataoka, J. Electrochem. Soc., 152 (2005), G73. 19) H. Horibe, M. Yamamoto, Y. Goto, T. Miura and S. Tagawa, Jpn. J. Appl. Phys., 48 (2009), 026505. 20) Y. Goto, Y. Angata, M.Igarashi, M.Yamamoto, T.Nobuta, T.Iida, A.Kono and H.Horibe, Jpn. J. Appl. Phys., 51 (2012), 026504. 21) H. Horibe, M.Yamamoto, T.Ichikawa, T.Kamimura and S.Tagawa, J. Photopolym.Sci.Technol., 20 (2007), 315. 22) M.Kato, J. Photopolym.Sci.Technol., 21 (2008), 711. 23) H. Ito, J. Photopolym.Sci.Technol., 20 (2007), 319. 24) N. Abe, S. Takechi, Y. Kaimoto, M. Takahashi, K. Nozaki, J. Photopolym.Sci.Technol., 8 (1995), 637. 25) N. N. Matsuzawa, H. Ozumi, S. Mori, S. Irie, S. Shirayone, E. Yano, S. Okazaki, A. Ishitani and D. A. Dixon, Jpn. J. Appl. Phys., 38 (1999), 7109. 26) C. Geletneky and S. Berger, Eur. J. Org. Chem., 1998 (1998), 1625. 27) L. G. Wade, Jr, Organic-Chemistry (Pearson Prentice Hall, Upper Saddle River, New Jersey, USA, 2006) 6th ed., p. 360. 28) A. Furuta and M. Hanabata, J.Vac.Sci.Technol, B4 (1986), 430. 29) M. Hanabata, Y. Uetani and A. Furuta, J.Vac.Sci.Technol, B7 (1989), 640. 30) Silverstein R. M., Bassler G. C., Morrill T. C., Spectrometric Idenfication of Organic Compounds (John Wiley & Sons, New York, 1981), pp. 181-212. 31) D. Tsvetanova, R. Vos, G. Vereecke, T. N. Parac-Vogt, F. Clemente, K. Vanstreels, D. Radisic, T. Conard, A. Franquet, M. Jivanescu, D. A. P. Nguyen, A. Stesmans, B. Brijs, P. Mertens, and M. M. Heynsa, J. Electrochem. Soc., 158 (2011), H785. 32) Ahmed A. Abd El-Raady and T. Nakajima, Ozone: Sci. and Eng., 27 (1) (2005), 11. - 60 - 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 5.1 緒 言 半 導 体 デ バ イ ス 製 造 に お い て , p/n 接 合 を 形 成 す る た め に , レ ジ ス ト を マ ス ク と し て 基 板 に イ オ ン を 注 入 す る 工 程 が あ る .レ ジ ス ト は 最 終 的 に は 除 去 する必要があるが,イオン注入されたレジストは除去が非常に困難である. こ の 原 因 は ,イ オ ン 注 入 に よ っ て 表 面 が 変 質 す る た め と い わ れ て い る 1) .こ の レ ジ ス ト 変 質 層 の 化 学 構 造 に つ い て 研 究 さ れ て き て お り ,レ ジ ス ト 樹 脂 が イオン注入のエネルギーにより炭化したモデルや注入イオン種を介してレ ジスト樹脂同士が架橋するモデルが提唱されている 2-4) .しかし,イオン注 入 レ ジ ス ト の 詳 細 な 化 学 構 造 に つ い て は い ま だ 明 ら か に な っ て お ら ず ,こ れ を明らかにすることはイオン注入レジストの除去を検討する上でも非常に 重 要 で あ る .そ こ で ,こ れ ら イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 変 質 層 を 含 め た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト を 分 光 学 的 手 法 (FT-IR, UV, XPS)に よ り 解 析 し た . 5.2 実 験 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト に は ,ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト で あ る ジ ア ゾ ナ フ ト キ ノ ン (DNQ)/ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 レ ジ ス ト (AZ6112; AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ )に ,加 速 エ ネ ル ギ ー 70 keV で 5×10 1 3 , 5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 の イ オ ン (ホ ウ 素 :B, リ ン :P)を 注 入 し た も の を 用 い た . 図 5.1 に ジ ア ゾ ナ フ ト キ ノ ン (DNQ)/ノ ボ ラ ッ ク レ ジ ス ト の 化 学 構 造 を 示 す . こ れ ら イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 化 学 構 造 を 紫 外 分 光 光 度 法 (UV),光 電 子 分 光 法 (XPS)と フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 法 (FT-IR)に よ り 解 析 し た . UV は ,190 nm~ 400 nm の 波 長 域 を 8°入 射 の 積 分 球 を 用 い て ,波 長 分 解 能 0.5 nm で 測 定 し た . XPS 測 定 で は , Ar ガ ス に よ り 表 面 を エ ッ チ ン グ し た . エ ッ チ ン グ 条 件 は ,加 速 電 圧 1 kV,管 電 流 10 mA,Ar ガ ス 圧 10 - 4 Pa で あ り , - 61 - 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 1min エ ッ チ ン グ し た .実 際 に 測 定 で 得 ら れ た XPS ス ペ ク ト ル か ら O1s と C1s 以 外 の 信 号 を バ ッ ク グ ラ ウ ン ド (BG)と し て 除 外 し た (図 5.2). X 線 源 に は 波 長 989 pm の Mg-Ka を 用 い , 管 電 圧 10 kV, 管 電 流 10 mA, 測 定 時 の 雰 囲 気 圧 力 は 10 - 6 Pa で 0~1000eV の 範 囲 を 0.2eV 間 隔 で 測 定 し た . FT-IR 測 定 は , 全 反 射 測 定 法 (ATR 法 )に よ り ,1000 cm - 1 ~4000 cm - 1 の 範 囲 を 積 算 回 数 256 回 , 分 解 能 4.0 cm - 1 で 測 定 し た . 5.3 結 果 及 び 考 察 図 5.3 及 び 図 5.4 に B イ オ ン 及 び P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の UV ス ペ ク ト ル を 示 す . UV 測 定 よ り , 紫 外 部 領 域 (200~400 nm)で イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て 吸 収 が 増 加 し た .つ ま り イ オ ン が 注 入 さ れ る に し た が い ,π-π * 吸 収 が増加し,π 共役系が形成されていることが判明した. O DO OH N2 D: ノボラック樹脂 or H SO2 O CH3 ベンゾフェノン骨格 ジアゾナフトキノン誘導体 ジ ア ゾ ナ フ ト キ ノ ン (DNQ)/ノ ボ ラ ッ ク レ ジ ス ト の 化 学 構 造 3000 Intensity [cps] 図 5.1 OD C DO n OD XPS data Background (BG) XPS - BG 2000 O1s 1000 C1s 0 1000 800 600 400 200 0 Binding energy [eV] 図 5.2 XPS ス ペ ク ト ル の バ ッ ク グ ラ ウ ン ド (BG)除 去 - 62 - 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 図 5.5 及 び 図 5.8 に B イ オ ン 及 び P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の XPS ス ペ ク ト ル を 示 す .B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト で は ,O1s ピ ー ク は イ オ ン 注 入 量 に 対 し て ほ ぼ 一 定 の 値 で あ っ た が ,C1s ピ ー ク は イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て 増 加 し , 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 が 不 可 能 で あ る 5.0×10 1 5 /cm 2 で は 大 幅 な ピ ー ク 強 度 の 増 加 が 確 認 さ れ た . P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト で は , O1s ピ ー ク は イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て 減 少 し ,C1s ピ ー ク は イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に 伴 い 増 加 し , 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 が 不 可 能 で あ る 5.0×10 1 5 /cm 2 で は 大 幅 な ピ ー ク 強 度 の 増 加 が み ら れ た . イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の XPS 測 定 よ り , イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 樹 脂 中 の 酸 素 成 分 が 減 少 し ,一 方 ,炭 素 成分が増加したと考えられる. 図 5.7 及 び 図 5.8 に B イ オ ン 及 び P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の FT-IR ス ペ ク ト ル を 示 す . イ オ ン 注 入 に と も な い O-H 伸 縮 振 動 (3400 cm - 1 )及 び C-H 伸 縮 振 動 (3000 cm - 1 )の ピ ー ク は 減 少 し た . ま た , C=C 骨 格 振 動 (1600 cm - 1 )の ピ ー ク が 確 認 さ れ た .イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 化 学 構 造 に 関 し て ,ノ ボ ラ ッ ク 樹脂間に注入イオン種が介在し,架橋したモデルが提唱されているが, B-O(1300-1500 cm - 1 )及 び B-C(1100-1200, 1500-1700 cm - 1 ), さ ら に P-O (8501040, 1160-1260 cm - 1 )及 び P-C(1290-1330, 1400-1480 cm - 1 )に 見 ら れ る イ オ ン 種とノボラック樹脂が架橋した構造に由来するピークは測定されなかった. ま た , イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に 対 し て , エ ー テ ル 結 合 (C-O-C)(1245 cm - 1 )由 来 のピーク増加は観察されなかった. 表 5.1 に ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 に 含 ま れ る 各 結 合 の 結 合 解 離 エ ネ ル ギ ー を 示 す . この値は 2 つの原子または分子に解離するときのエンタルピー変化を表し て お り ,低 い ほ ど 容 易 に 結 合 が 解 離 す る .こ れ よ り ,ベ ン ゼ ン 環 と OH 基 と の 結 合 が 最 も 低 い 値 で あ り ,一 方 ,ベ ン ゼ ン 環 の 結 合 解 離 エ ネ ル ギ ー が 最 も 高 か っ た .し た が っ て ,変 質 層 に は ベ ン ゼ ン 環 が 多 く 残 存 し て い る と 考 え ら れる. 上 記 の 結 果 を 総 括 す る と ,UV, XPS, FT-IR 測 定 に よ り レ ジ ス ト 表 面 は イ オ ン 注 入 の 核 衝 突 に よ り 与 え ら れ る エ ネ ル ギ ー で 表 面 の ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の OH 基や H が脱離し,ラジカル化した部分が架橋したため湿潤オゾンによる除 去 が 難 し く な る と 結 論 付 け ら れ る (図 5.9). - 63 - 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 Absorbance 1.0 0.8 0.6 non-implanted B-5E13 B-5E14 B-5E15 0.4 0.2 0.0 200 250 300 350 400 wavelength [nm] 図 5.3 B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の UV ス ペ ク ト ル Absorbance 1.0 0.8 0.6 non-implanted P-5E13 P-5E14 P-5E15 0.4 0.2 0.0 200 250 300 350 400 wavelength [nm] 図 5.4 P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の UV ス ペ ク ト ル - 64 - Intensity 第5章 1000 イオン注入レジストの化学構造の解析 non-implanted O1s:618 C1s:2673 B70keV-5E13 O1s:728 C1s:2881 B70keV-5E14 O1s:573 C1s:2797 B70keV-5E15 O1s:580 C1s:3175 800 600 400 200 0 Binding energy [eV] Intensity 図 5.5 1000 B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の XPS ス ペ ク ト ル non-implanted O1s:618 C1s:2673 P70keV-5E13 O1s:571 C1s:2539 P70keV-5E14 O1s:755 C1s:2879 P70keV-5E15 O1s:236 C1s:3669 800 600 400 200 0 Binding energy [eV] 図 5.6 P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の XPS ス ペ ク ト ル - 65 - 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 B ions 70keV Absorbance O-H C-H C=C Ref 5E13 5E14 5E15 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 Wavenumber [cm-1] 図 5.7 B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の FT-IR ス ペ ク ト ル P ions 70keV Absorbance O-H C-H C=C Ref 5E13 5E14 5E15 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 Wavenumber [cm-1] 図 5.8 P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の FT-IR ス ペ ク ト ル CH2 CH2 CH2 図 5.9 イオン注入レジスト変質層の化学構造 - 66 - 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 表 5.1 ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 中 の 結 合 の 結 合 解 離 エ ネ ル ギ ー 5 , 6 ) 結合解離エネルギー 結合 [kJ/mol] C6H6 575.8 (結 合 1 つ 当 た り ) H-CH 2 457 H-CH 419 H-C 6 H 5 464 O-C 360 O-H 424.4 5.4 結 言 本 章 で は ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 化 学 構 造 の 解 析 結 果 に つ い て 述 べ た . UV 測 定 よ り , 紫 外 部 領 域 (200~400 nm)で イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て 吸 収 が 増 加 し た .つ ま り イ オ ン が レ ジ ス ト に 注 入 さ れ る に し た が い ,π-π * 吸収が増加し,π 共役系が形成されていることが判明した.イオン注入レ ジ ス ト の XPS 測 定 よ り , イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 樹 脂 中 の 酸 素 成 分 が 減 少 し , 一 方 , 炭 素 成 分 が 増 加 し た と 考 え ら れ る . FT-IR ス ペ ク ト ル よ り イ オ ン 注 入 に と も な い O-H 伸 縮 振 動 (3400 cm - 1 )及 び C-H 伸 縮 振 動 (3000 cm - 1 )の ピ ー ク は 減 少 し た . ま た , C=C 骨 格 振 動 (1600 cm - 1 )の ピ ー ク が 確 認 さ れ た . ま た , イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に 対 す る エ ー テ ル 結 合 (C-O-C) (1245 cm - 1 )由 来 の ピ ー ク 増 加 は 観 察 さ れ な か っ た .こ れ よ り ,レ ジ ス ト 変 質 層 は ポ リ マ ー 中 の ヒ ド ロ キ シ ル 基 が 脱 離 し ,架 橋 し た 構 造 で あ る た め 除 去 が 困難になることを初めて解明した. 参考文献 1) T. Miura, M. Kekura, H. Horibe, M. Yamamoto, and H. Umemoto: ECS Trans., 19 (2009) 423. 2) M. N. Kawaguchi, J. S. Papanu, Bo Su, M. Castle, and A. Al-Bayati, J. Vac. Sci. Technol., B24 (2006) 657. - 67 - 第5章 イオン注入レジストの化学構造の解析 3) S. Fujimura, J. Konno, K. Hikazutani, and H. Yano, Jpn. J. Appl. Phys., 28 (1989) 2130. 4) Jen-Jiang Lee, Chang-Ou Lee, John Alvis, and S. W. Sun, J. Electrochem. Soc., 135 (1988) 711. 5)日 本 化 学 会 編 , 化 学 便 覧 基礎編 改 訂 4版 , 丸 善 (1993), p.Ⅱ -301 6) P.W.Atkins, ア ト キ ン ス 物 理 化 学 要 論 , 東 京 化 学 同 人 (1994), p.54 - 68 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾン による除去 6.1 緒 言 半 導 体 デ バ イ ス や 液 晶 パ ネ ル 製 造 工 程 で は ,p 型 /n 型 半 導 体 を 作 製 す る た め に 最 低 で も 2 回 の イ オ ン 注 入 が 必 要 で あ る .こ の と き ,Si 基 板 上 に 作 製 し た 微 細 パ タ ー ン に 対 し て 13 族 /15 族 の イ オ ン (ホ ウ 素 : B, リ ン : P 等 )が 基 板 全 体 に 注 入 さ れ ,マ ス ク と な っ た レ ジ ス ト に も イ オ ン が 注 入 さ れ る .こ の イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は 表 面 が 変 質 し て お り ,除 去 が 困 難 と な っ て い る 1) そ こ で 現 在 , 酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ と 硫 酸 -過 酸 化 水 素 水 混 合 液 な ど の 薬 液 を 組 み 合 わ せ る こ と で 除 去 し て い る .こ こ で ,薬 液 は 高 価 で あ り ,さ ら に 大 量 に 使 用 す る た め 環 境 負 荷 が 高 い と い う 課 題 が あ る .ま た ,酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ は 基 板 を 250℃ 程 度 ま で 加 熱 す る た め 高 温 プ ロ セ ス と な る .さ ら に ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ に よ る 除 去 で は ,高 温 で ア ッ シ ン グ 処 理 を 行 う と レ ジ ス ト が は じ け 飛 ぶ「 ポ ッ ピ ン グ 」と い う 現 象 が 発 生 し ,チ ャ ン バ ー 汚 染 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る 2) .こ れ ら の 問 題 を 解 決 するために,湿潤オゾン方式によるイオン注入レジストの除去を試みた. 現 在 の デ バ イ ス 製 造 工 程 で は ,低 加 速 エ ネ ル ギ ー ,高 イ オ ン 注 入 量 が 求 め ら れ て い る . 以 下 に こ の 理 由 を 述 べ る . 0.2µm ラ イ ン &ス ペ ー ス の パ タ ー ン を 作 製 す る 場 合 ,ア ス ペ ク ト 比 が 5 を 超 え る と パ タ ー ン の 曲 が り や 折 れ と い っ た パ タ ー ン 倒 れ が 発 生 す る た め ,パ タ ー ン の 微 細 化 に し た が っ て 薄 い 膜 厚 のレジストが必要となる 3) . そ の 薄 い 膜 厚 の レ ジ ス ト に 150keV な ど の 高 い 加 速 エ ネ ル ギ ー で イ オ ン を 注 入 し た 場 合 ,イ オ ン が マ ス ク と な る は ず の レ ジ ス ト を 貫 通 し ,基 板 に ま で 到 達 し て し ま う .ま た ,素 子 の 抵 抗 を 低 く す る た めにイオン注入量を高くする必要がある. 本 章 で は , イ オ ン 注 入 条 件 (イ オ ン 種 , イ オ ン 注 入 量 , 加 速 エ ネ ル ギ ー )が - 69 - . 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 異 な る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 行 い ,そ の 除 去 性 に つ い て SRIM2008 に よ る イ オ ン 注 入 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン と 微 小 押 し 込 み 硬 さ 試 験から検討した.これより,イオン注入レジストは,イオン種の原子番号, イオン注入量,加速エネルギーの増加にしたがって除去されにくくなった. し か し な が ら ,微 小 押 し 込 み 硬 さ 試 験 の 結 果 と 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 結 果 と の 比 較 よ り ,レ ジ ス ト 変 質 層 の 塑 性 変 形 硬 さ が 未 注 入 レ ジ ス ト の 2 倍以下であれば未注入レジストとほぼ同様に除去できることを明らかにし た. さ ら に ,高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い て レ ジ ス ト の 高 速 除 去 及 び イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除 去 に つ い て 検 討 し た .B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト に お い て ,オ ゾ ン 濃 度 が 30vol%, 及 び 10vol%の と き の 除 去 性 を 比 較 す る こ と に よ り , オ ゾ ン 濃 度 が 高 く な る こ と で レ ジ ス ト 除 去 時 間 は 短 く な っ た . オ ゾ ン 濃 度 を 30vol% に す る こ と に よ り ,オ ゾ ン 濃 度 が 10vol%で は 除 去 で き な か っ た P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト (5×10 1 4 個 /cm 2 )の 除 去 が 可 能 と な っ た . オ ゾ ン 濃 度 が 30vol% で の B , P , As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト ( 加 速 エ ネ ル ギ ー : 70keV , 注 入 量 : 5×10 1 4 /cm 2 )の 除 去 性 は ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 表 面 か ら の 溶 解 と 界 面 か ら の 剥 離 の 両 方 か ら 起 こ り ,P,As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 剥 離 の み で あ る と 言 える. 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 を 用 い て ,様 々 な 条 件 で イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP)の 除 去 を 行 っ た .ま た ,イ オ ン 注 入 さ れ た PVP の 変 質 層 の 深 さ に つ い て SIMS か ら 検 討 し ,湿 潤 オ ゾ ン と イ オ ン 注 入 PVP と の 反 応 性 に つ い て FT-IR か ら 検 討 し た . イ オ ン 注 入 さ れ た PVP の 除 去 結 果 よ り , い ず れ の イオン種においてもイオン注入量の増加に従って,除去速度が低下した. SIMS 測 定 の 結 果 よ り ,PVP 変 質 層 の 厚 み は ,そ れ ぞ れ 387nm (B), 232nm (P) で 142nm (As)で あ っ た . し か し な が ら , い ず れ の イ オ ン 種 も 70keV で 注 入 さ れ て い る た め , 注 入 イ オ ン に よ る ポ リ マ ー の 変 質 の 度 合 い は As が 最 も 高 く ,P, B の 順 で 小 さ く な る と 考 え ら れ る .さ ら に FT-IR の 結 果 よ り ,B<P<As の 順 で 変 質 度 合 い が 高 く な る こ と を 明 ら か に し た .ま た ,PVP 中 の ベ ン ゼ ン 環 含 有 率 が ,湿 潤 オ ゾ ン に よ り 除 去 可 能 な も の と 不 可 で あ る も の の 間 で ほ ぼ 変 化 が な い の に 対 し ,OH 基 含 有 率 は B 及 び P の 5×10 1 4 /cm 2 か ら 急 激 に 低 下 し た . し た が っ て , イ オ ン 注 入 PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 は , ポ リ マ ー 中 の ベ ン ゼ ン 環 の 濃 度 よ り も OH 基 の 濃 度 に 依 存 す る と 考 え ら れ る . - 70 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 6.2 実 験 6.2.1 イ オ ン 注 入 量 の 異 な る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 湿潤オゾンによる除去 イオン注入レジスト イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は ,ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (AZ6112; AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ )(図 6.1)に イ オ ン を 注 入 し 作 製 し た . レ ジ ス ト は ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active)に よ り 2000 rpm で 20 s 回 転 塗 布 さ れ ,ホ ッ ト プ レ ー ト で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た .そ の 後 ,加 速 エ ネ ル ギ ー を 70 keV と し ,5×10 1 3 ,5×10 1 4 ,5×10 1 5 /cm 2 の イ オ ン (ホ ウ 素 :B,リ ン :P)を 上 記 レ ジ ス ト に 注 入 し た . 表 6.1 に イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 初 期 膜 厚 を 示 す . 注入量の異なるイオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 図 6.2 に 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 実 験 に お け る 装 置 (Mitsubishi Electric Corp. and SPC Electronics Corp.)の 概 要 を 示 す . 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 は ,レ ジ ス ト 基 板 へ の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 ,リ ン ス ,乾 燥 工 程 を 繰 り 返 し ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 に 対 す る レ ジ ス ト 膜 厚 を プ ロ ッ ト す る .レ ジ ス ト O OD DO OH n DO OD C ノボラック樹脂 D: or H SO2 O CH3 N2 ベンゾフェノン骨格 ジアゾナフトキノン誘導体 図 6.1 ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト の 化 学 構 造 表 6.1 イオン注入量 イオン注入レジストの初期膜厚 初 期 膜 厚 [µm] B イオン P イオン 5.0×10 1 3 /cm 2 0.83 0.97 5.0×10 1 4 /cm 2 0.83 0.96 5.0×10 1 5 /cm 2 0.73 0.93 - 71 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 膜 厚 は 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 (DekTak 6M; ULVAC)を 用 い て 測 定 し た . レ ジ ス ト 除 去 速 度 は ,初 期 膜 厚 を レ ジ ス ト が 完 全 に 除 去 さ れ た 時 間 で 除 す こ と で 算出した.ここでは,湿潤オゾンとレジストとの反応性を評価するために, リンス時間と乾燥時間を除外している. 表 6.2 に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 を 示 す . 1 プ ロ セ ス あ た り の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 は 10 s, リ ン ス は 5 s, 乾 燥 は 20 s で あ る . 基 板 回 転 数 は 湿 潤 オ ゾ ン , リ ン ス 工 程 で は 2000rpm, 乾 燥 工 程 で は 1000rpm で あ る . オ ゾ ン 濃 度 及 び O 3 /O 2 ガ ス 流 量 は そ れ ぞ れ 230 g/Nm 3 (10.7vol%), 1.27×10 3 Pa m 3 /min と し , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 を T 1 =70℃ , 基 板 温 度 を T 2 =60℃ と し て レ ジ ス ト 除 去 を 行 っ た . O3/O2 ガス 湿潤オゾン(T1) 湿潤オゾン(T1) リンス(純水) チャンバー ヒータ ヒータ 大気圧雰囲気 図 6.2 表 6.2 ヒータ ヒータ Si 基板 (T2) Si 基板 (T2) モータ モータ レジスト リンス(純水) リンス(純水) ヒータ ヒータ 湿潤オゾン(T1) ヒータ Si 基板 (T2) レジスト 湿潤オゾン照射時 モータ レジスト 純水リンス時 湿潤オゾンによるレジスト除去実験における装置概要 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 (イ オ ン 注 入 量 の 異 な る レ ジ ス ト 除 去 ) 項目 条件 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T 1 ) 70 ℃ Si 基 板 温 度 (T 2 ) 60 ℃ リンス温度 70 ℃ 1 回あたり湿潤オゾン照射時間 10 s 1 回あたりリンス時間 5 s 乾燥時間 20 s 基 板 回 転 速 度 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 , リ ン ス ) 2000 rpm 基 板 回 転 速 度 (乾 燥 ) 1000 rpm 湿潤オゾン濃度 230 g/Nm 3 (10.7vol %) O 3 /O 2 ガ ス 流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min - 72 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 微小押し込み硬さ試験によるイオン注入レジストの 塑性変形硬さ測定 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 硬 さ を 評 価 す る た め 微 小 押 込 み 硬 さ 試 験 (ENT-1040 ELIONIX)を 行 っ た . 以 前 我 々 は 微 小 押 し 込 み 硬 さ 試 験 の 結 果 よ り , イ オ ン 注入によってレジスト表面に変質層が形成されていることを明らかにした. イ オ ン 注 入 に よ り レ ジ ス ト 中 の 樹 脂 が 架 橋 す る と 膜 密 度 が 増 加 し ,塑 性 変 形 硬 さ が 増 加 す る と 予 想 さ れ る .図 6.3 に 微 小 押 込 み 硬 さ 試 験 に よ る 負 荷 除 荷 曲線を示す.下式の塑性変形硬さ H はサンプルの塑性を示し,塑性押し込 み深さ D D 2 2 µm と 荷 重 P N を 用 い て 以 下 の 式 で 算 出 し た . 塑 性 押 し 込 み 深 さ µm は 除 荷 開 始 部 分 か ら 接 線 を 引 き , 荷 重 0 ま で 接 線 を 延 長 し た と き の 変 位 で あ る .K は 圧 子 形 状 に 起 因 す る 係 数 で あ り ,バ ー コ ビ ッ チ 型 圧 子 で は 2.396×10 8 で あ る 4) . H =K P [ N] 2 D2 [m 2 ] 表 6.3 に 微 小 押 し 込 み 硬 さ 試 験 の 実 験 条 件 を 示 す . 荷 重 は 1.0×10 - 5 ~2.6× 10 - 3 N と し , 荷 重 ス テ ッ プ は 8.0×10 - 5 N 以 上 で は (荷 重 /2000) N/ms で , 荷 重 1.0×10 - 5 ~8.0×10 - 5 N で は 4.0×10 - 8 N/ms と し た . 圧 子 に は , 稜 角 115°の バ ー コ ビ ッ チ (三 角 錐 )型 ダ イ ヤ モ ン ド 圧 子 を 使 用 し た .ま た , イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 塑 性 変 形 硬 さ を 未 注 入 レ ジ ス ト (ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト : AZ6112)の 塑 性 変 形 硬 さ で 規 格 化 し ,こ の 値 を 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H 2 と し た . ①:負荷 ③:除荷 ② P 荷重 ②:保持 図 6.3 ① ③ 深さ D2 D1 微小押込み硬さ試験による負荷除荷曲線 - 73 - 第6章 表 6.3 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 微小押し込み硬さ試験の実験条件 項目 条件 荷重 1.0×10 - 5 ~2.6×10 - 3 N 荷 重 ス テ ッ プ (1.0×10 - 5 ~8.0×10 - 5 N) 4.0×10 - 8 N/ms 荷 重 ス テ ッ プ (8.0×10 - 5 N 以 上 ) (荷 重 /2000) N/ms 荷重保持時間 2 s 圧子形状 バ ー コ ビ ッ チ 型 (稜 角 115°) 6.2.2 高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の除去 オゾン濃度を変化させた湿潤オゾンによりイオン注入レジストの除去を 行 っ た .湿 潤 オ ゾ ン 濃 度 は 10,30vol%,O 3 /O 2 ガ ス 流 量 は 1.27×10 3 Pa m 3 /min (10vol%時 ),7.60×10 2 Pa m 3 /min (30vol%時 )で あ る .O 3 /O 2 ガ ス は 高 濃 度 オ ゾ ン 発 生 装 置 (HAP-3024; Iwatani corp.)で 発 生 さ せ た .表 6.4 に 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 を 示 す . 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 は 10s, リ ン ス は 5s, 乾 燥 は 20s 行 っ た . 基 板 回 転 数 は ,湿 潤 オ ゾ ン 及 び リ ン ス は 2000rpm,乾 燥 は 1000rpm で あ る .湿 潤 オ ゾ ン 温 度 は 70℃ , 基 板 温 度 は 60℃ と し た . イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト に は , ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 /ジ ア ゾ ナ フ ト キ ノ ン (DNQ)レ ジ ス ト に ,加 速 エ ネ ル ギ ー 70keV で 5×10 1 4 /cm 2 の イ オ ン (ホ ウ 素 :B, リ ン :P, ヒ 素 :As)を 注 入 し た も の を 用 い た .こ こ で ,5×10 1 4 /cm 2 イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト を 用 い た の は ,こ の イ オン注入量より湿潤オゾンによる除去性に差異が確認されるためである. 湿 潤 オ ゾ ン に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除 去 で は ,レ ジ ス ト の 基 板 か ら の 剥 離 の 影 響 が 考 え ら れ る .こ れ は ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 表 面 硬 化 層 と 未 注 入 層 か ら な る 2 層 構 造 で あ り ,未 注 入 層 (下 層 )は 容 易 に 溶 解 す る た め で あ る . そ こ で ,レ ジ ス ト 除 去 に は ,レ ジ ス ト 表 面 か ら の 溶 解 に よ る も の と 基 板 か ら の 剥 離 に よ る も の の 両 方 を 含 め る こ と に す る .レ ジ ス ト 表 面 か ら の 溶 解 に つ い て は 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 に よ る 膜 厚 測 定 に よ り 検 討 し ,基 板 か ら の 剥 離 に つ い て は 光 学 顕 微 鏡 観 察 (ECLIPSE L150; Nikon)に よ り 検 討 し た . - 74 - 第6章 表 6.4 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 (高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン ) 項目 条件 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T 1 ) 70 ℃ Si 基 板 温 度 (T 2 ) 60 ℃ リンス温度 70 ℃ 1 回あたり湿潤オゾン照射時間 10 s 1 回あたりリンス時間 5 s 乾燥時間 20 s 基 板 回 転 速 度 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 , リ ン ス ) 2000 rpm 基 板 回 転 速 度 (乾 燥 ) 1000 rpm 湿潤オゾン濃度 10vol %, 30vol% 7.60×10 2 Pa m 3 /min (30vol%) O 3 /O 2 ガ ス 流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min (10vol%) 6.2.3 加 速 エ ネ ル ギ ー の 異 な る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 湿潤オゾンによる除去 イオン注入レジスト イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は ,ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト (AZ6112; AZ エ レ ク ト ロ ニ ッ ク マ テ リ ア ル ズ )に イ オ ン を 注 入 し 作 製 し た . レ ジ ス ト は ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active)に よ り 2000 rpm で 20 s 回 転 塗 布 さ れ ,ホ ッ ト プ レ ー ト で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た . そ の 後 , 加 速 エ ネ ル ギ ー を 10, 70, 150 keV と し 5×10 1 4 /cm 2 の イ オ ン (ホ ウ 素 :B, リ ン :P)を 上 記 レ ジ ス ト に 注 入 し た 表 6.5 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 初 期 膜 厚 (イ オ ン 注 入 量 : 5×10 1 4 /cm 2 ) 加速エネルギー 初 期 膜 厚 [µm] B イオン P イオン 10keV 1.17 1.18 70keV 0.83 0.96 150keV 1.14 1.08 - 75 - 第6章 表 6.6 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 初 期 膜 厚 (イ オ ン 注 入 量 : 1×10 1 5 /cm 2 ) レジスト i 線用レジスト KrF 用 レ ジ ス ト 加速エネルギー 初 期 膜 厚 [µm] B イオン As イ オ ン 0.5keV 0.32 - 3keV - 0.32 0.5keV 0.26 - 3keV - 0.26 も の を サ ン プ ル と し た .ま た ,実 プ ロ セ ス に 近 い イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト も 作 製 し た . 表 6.5 及 び 表 6.6 に イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 初 期 膜 厚 を 示 す . イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 は ,レ ジ ス ト 基 板 へ の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 ,リ ン ス ,乾 燥 工 程 を 繰 り 返 し ,湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 に 対 す る レ ジ ス ト 膜 厚 を プ ロ ッ ト す る . レ ジ ス ト 膜 厚 は 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 (DekTak 6M; ULVAC)を 用 い て 測 定 し た .レ ジ ス ト 除 去 速 度 は ,初 期 膜 厚 を レ ジ ス ト が 完 全 に 除 去 さ れ た 時 間 で 除 す こ と で 算 出 し た .こ こ で は ,湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 反 応 性を評価するために,リンス時間と乾燥時間を除外している. 実 験 条 件 は 6.2.1 と 同 様 で あ る .1 プ ロ セ ス あ た り の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 は 10s, リ ン ス は 5 s, 乾 燥 は 20 s で あ る . 基 板 回 転 数 は 湿 潤 オ ゾ ン , リ ン ス 工 程 で は 2000 rpm, 乾 燥 工 程 で は 1000 rpm で あ る . オ ゾ ン 濃 度 及 び O 3 /O 2 ガ ス 流 量 は そ れ ぞ れ 230 g/Nm 3 (10.7vol%), 1.27×10 3 Pa m 3 /min と し , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 を T 1 =70℃ , 基 板 温 度 を T 2 =60℃ と し て レ ジ ス ト 除 去 を 行 っ た . SEM 及 び 溶 剤 を 用 い た レ ジ ス ト 変 質 層 の 剥 離 に よ る イオン注入レジストの構造観察 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 断 面 の 状 態 を 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (SEM: JSR-6360; JEOL Ltd.)に よ り 観 察 し た .断 面 SEM 像 は ,加 速 電 圧 20kV で 観 察 さ れ た 二 次 電 子 像 で あ る .未 注 入 の ノ ボ ラ ッ ク 系 ポ ジ 型 レ ジ ス ト を 溶 剤 に 浸 漬 し た 場 合,瞬時に溶解する.また,イオンが注入されたレジストを浸漬した場合, 溶 剤 は レ ジ ス ト 断 面 の 未 注 入 レ ジ ス ト が 露 出 し て い る 部 分 に ア タ ッ ク し ,上 層 が 剥 離 す る (図 6.4) 5 ) .こ れ は ,イ オ ン 注 入 に よ っ て 変 質 し た 上 層 が 下 部 の - 76 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 レジスト 変質層 レジスト 変質層 (膜厚を測定) 未注入 レジスト Si 基板 図 6.4 溶剤浸漬によるイオン注入レジスト変質層の剥離 H2C O H2C O C O 図 6.5 炭 酸 エ チ レ ン (Ethylene Carbonate: EC)の 化 学 構 造 未注入レジスト層が溶解することによりリフトオフするためと考えられる. こ の と き 剥 離 し た レ ジ ス ト 膜 を 回 収 し ,レ ジ ス ト 変 質 層 の 膜 厚 を 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 (DekTak 6M ULVAC)に よ り 測 定 し た .レ ジ ス ト 剥 離 に 用 い た 溶 剤 は 炭 酸 エ チ レ ン (Ethylene Carbonate: EC) (図 6.5)で あ り , 回 転 子 で 攪 拌 し な が ら 溶 剤 温 度 を 70℃ に 設 定 し た . レジストへのイオン注入シミュレーション イオン注入されたレジストにおけるイオン種による影響をみるため SRIM2008 に よ る イ オ ン 注 入 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 6) .加速エネルギー は 70keV で 被 注 入 レ ジ ス ト は PMMA で あ る . ま た , 阻 止 能 は 電 子 阻 止 能 及 び 核 阻 止 能 で あ る . SRIM2008 で は , レ ジ ス ト の 化 学 構 造 を 考 慮 し て シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 う こ と が で き な い た め , レ ジ ス ト を 構 成 す る C, O, H 原 子 に 与えられるエネルギーを計算した. TOF-SIMS に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 組 成 分 析 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 組 成 に つ い て 検 討 す る た め に ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト を SAICAS(NN-04; DAIPLA WINTES)に よ り 精 密 斜 め 切 削 し ,飛 行 時 間 二 次 イ オ ン 質 量 分 析 計 (TOF-SIMS: TOF-SIMS 5; ION-TOF)に よ り 深 さ 方 向 に つ い て 分 析 し た . TOF-SIMS は , 発 生 し た 二 次 イ オ ン を 一 定 の エ ネ ル ギ ー で 加 速 し , 質 量 に 応 じ た 速 度 (軽 い イ オ ン は 高 速 , 重 い イ オ ン は 低 速 )で 質 量 分 析 計 に 入 れ る . 検 出 器 に 到 達 す る ま で の 時 間 (飛 行 時 間 )は 質 量 の 関 数 で あ り ,こ の 飛 行 時 間 の 分 布 を 精 密 に 計 測 す - 77 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 SAICAS (surface and interface cutting analysis system)による斜め切削 system)による斜め切削 ダイアモンド 切刃 レジスト 剥離領域 斜め切削 Si基板 Si基板 レジスト 測定領域 基板 図 6.6 SAICAS に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 斜 め 切 削 の 概 要 る こ と に よ っ て 質 量 ス ペ ク ト ル が 得 ら れ る . 図 6.6 に SAICAS に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 斜 め 切 削 の 概 要 を 示 す .TOF-SIMS 測 定 に お い て 一 次 イ オ ン は Bi 3 2 + で ,加 速 電 圧 は 25kV で あ る .測 定 面 積 は 320 µm 角 (未 注 入 レ ジ ス ト ), 380 µm 角 (10 keV), 250 µm 角 (70 keV), 400 µm 角 (150 keV)で あ る . イオン注入レジストには,硬化の度合いを明確にするために,B イオンを 10, 70, 150 keV で 5×10 1 5 /cm 2 注 入 し た も の を 用 い た . 6.2.4 イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル の 湿 潤 オゾンによる除去 イオン注入されたポリビニルフェノール ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP: M w =8000)/乳 酸 エ チ ル 溶 液 (図 6.7)を 3inch Si 基 板 に ス ピ ン コ ー タ ー (ACT-300A; Active)に よ り 2000 rpm で 20 s 回 転 塗 布 し , ホ ッ ト プ レ ー ト で 100℃ , 1min プ リ ベ ー ク し た .こ の PVP に ,70 keV の 加 速 エ ネ ル ギ ー で 5×10 1 3 , 5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 の イ オ ン (ホ ウ 素 : B,リ ン : P,ヒ 素 : As) を 注 入 し た . イオン注入されたポリビニルフェノールの湿潤オゾンによる 除去 湿 潤 オ ゾ ン に よ る PVP 除 去 は ,レ ジ ス ト 基 板 へ の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 ,リ ン ス , 乾 燥 工 程 を 繰 り 返 す こ と で ,PVP を 除 去 す る .ま た ,PVP 膜 厚 は 触 針 式 表 面 形 状 測 定 器 (DekTak 6M; ULVAC)を 用 い て 測 定 し た . PVP 除 去 速 度 は , 初 期 膜 厚 を PVP が 完 全 に 除 去 さ れ た 時 間 で 除 す こ と で 算 出 す る . こ こ で は , 湿 - 78 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 O CH2 CH n H3C OH OH Ethyl lactate PVP 図 6.7 CH3 O ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP)及 び 乳 酸 エ チ ル の 化 学 構 造 表 6.8 湿潤オゾン照射条件 (イ オ ン 注 入 PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 ) 項目 条件 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 (T 1 ) 70 ℃ Si 基 板 温 度 (T 2 ) 60 ℃ リンス温度 70 ℃ 1 回あたり湿潤オゾン照射時間 10 s 1 回あたりリンス時間 5 s 乾燥時間 20 s 基 板 回 転 速 度 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 , リ ン ス ) 2000 rpm 基 板 回 転 速 度 (乾 燥 ) 1000 rpm 湿潤オゾン濃度 230 g/Nm 3 (10.7vol %) O 3 /O 2 ガ ス 流 量 1.27×10 3 Pa m 3 /min 潤 オ ゾ ン と PVP と の 反 応 性 を 評 価 す る た め に , リ ン ス 時 間 と 乾 燥 時 間 を 除 外して求めた. 1 プ ロ セ ス あ た り の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 は 10s,リ ン ス は 5s,乾 燥 は 20s 行 う . 基 板 回 転 数 は 湿 潤 オ ゾ ン , リ ン ス で は 2000rpm, 乾 燥 で は 1000rpm で あ る . オ ゾ ン 濃 度 及 び O 3 /O 2 ガ ス 流 量 は 230 g/Nm 3 (10.7vol%), 1.27×10 3 Pa m 3 /min と し , 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 は T 1 =70℃ , 基 板 温 度 T 2 =60℃ で PVP 除 去 を 行 っ た . SIMS に よ る イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル 変 質 層 の膜厚測定 イ オ ン 注 入 PVP の 変 質 層 の 厚 み に つ い て ア ル ゴ ン ク ラ ス タ ー ビ ー ム を 用 い た SIMS 測 定 か ら 求 め た 7) .イ オ ン 注 入 さ れ た PVP の 深 さ を イ オ ン 照 射 量 - 79 - 第6章 変質層 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 変質層 Td, Rd, Dd 未注入層 Dd PVP 未注入層 Ti, Ri, Di 基板 Dd+Di counts 基板 Dose (/cm2) 図 6.8 イ オ ン 注 入 PVP 変 質 層 の 膜 厚 換 算 概 要 と エ ッ チ ン グ レ ー ト か ら 換 算 し た . エ ッ チ ン グ レ ー ト は PVP 膜 全 て を エ ッ チ ン グ す る の に 要 し た イ オ ン 照 射 量 か ら 算 出 し た .PVP 特 有 の イ オ ン の 照 射 量 依 存 の グ ラ フ か ら , 全 膜 エ ッ チ ン グ 照 射 量 (D d +D i )及 び 変 質 層 エ ッ チ ン グ 照 射 量 D d を 読 み 取 り 、D i を 決 定 す る .未 照 射 サ ン プ ル の 測 定 か ら R i =3.72E-13 nm/(/cm 2 )で あ る の で 、 未 注 入 層 の 膜 厚 は T i =R i ×D i で 求 め ら れ る . さ ら に , 膜 厚 測 定 か ら 全 膜 厚 T t o t a l も 分 か る の で 変 質 層 の 膜 厚 は T d =T t o t a l -T i で 求 め ら れ る (図 6.8).エ ッ チ ン グ に は Ar を 用 い ,加 速 電 圧 は 13 kV で あ る . イ オ ン 注 入 PVP に は ,B, P 及 び As が 70keV の 加 速 エ ネ ル ギ ー で 5×10 1 4 /cm 2 注入されたものを用いた. FT-IR に よ る イ オ ン 注 入 PVP の 分 光 学 的 評 価 イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP)の 化 学 的 組 成 を 定 量 的 に 評 価 す る た め に 全 反 射 測 定 法 (ATR 法 )を 用 い た FT-IR 測 定 を 行 っ た . FT-IR 測 定 は 光 路 を 窒 素 置 換 し た 後 , ATR 法 に よ り 行 っ た .本 実 験 で は , PVP に 含 ま れ る ヒ ド ロ キ シ ル 基 (OH 基 )及 び ベ ン ゼ ン 環 に 注 目 し , OH 基 は 3400 cm - 1 ,ベ ン ゼ ン 環 は 1600 cm - 1 に お け る ピ ー ク 高 さ を 用 い て 定 量 化 し た . - 80 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 6.3 結 果 及 び 考 察 6.3.1 注 入 イ オ ン 種 及 び イ オ ン 注 入 量 の 異 な る レジストの湿潤オゾンによる除去 図 6.9 に 異 な る イ オ ン 注 入 量 で B, P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 を 示 す .表 6.9 に そ れ ぞ れ の レ ジ ス ト 除 去 速 度 を ま と め て 示 す .レ ジ ス ト に は ,70 keV の 加 速 エ ネ ル ギ ー で 5×10 1 3 , 5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 の イ オ ン (B, P)が 注 入 さ れ た も の を 用 い た . 70 keV で イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト を 用 い た の は ,こ の 加 速 エ ネ ル ギ ー に お い て イ オ ン 注 入 量 及 び イ オ ン 種 に よ る 除 去 性 の 変 化 が 顕 著 に 現 れ る た め で あ る .B, P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジストどちらにおいてもイオン注入量の増加にしたがってレジスト除去速 度 は 低 下 し た .5×10 1 3 /cm 2 イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は ,B, P イ オ ン 両 者 で 除 去 が 可 能 で あ り ,除 去 速 度 は B が 1.04 µm/min,P が 1.07 µm/min で あ っ た .5×10 1 4 /cm 2 イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は ,B が P に 比 較 し て 容 易 に 除 去 さ れ (除 去 速 度 : 0.25 µm/min)た が , P は 除 去 さ れ な か っ た . 5×10 1 5 /cm 2 の イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は ,B, P イ オ ン 両 者 と も 膜 厚 が 減 少 せ ず ,除 去 で き な か っ た .ま た ,除 去 可 能 な イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト に つ い て は ,膜 厚 が 急 速 に 減 少 し 始 め る 領 域 に お い て は ,未 注 入 レ ジ ス ト と 膜 厚 減 少 の 傾 向 が ほ ぼ 同 じ で あ っ た こ と か ら ,レ ジ ス ト 表 面 の 変 質 層 よ り 深 い 部 分 は 未 注 入 レ ジ ストと同一であると考えられる. 図 6.10 に 70 keV の 加 速 エ ネ ル ギ ー で B, P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 を 示 す . こ の 結 果 よ り , イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 表 面 の 塑 性 変 形 硬 さ は 増 加 し た .ま た ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は レ ジ ス ト の 深 い 部 分 ま で 変 質 し て い る が ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 表 面 の 塑 性 変 形 硬 さ は P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト よ り 低 か っ た . こ れ は , SRIM2008 に よ る イ オ ン 注 入 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 結 果 よ り ,B は P と 比 較 し て 軽 い イ オ ン の た め レ ジ ス ト の 深 い 部 分 ま で 注 入 さ れ る .そ の た め ,同 じ イ オ ン 注 入 量 の 場 合 ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 変 質 の 度 合 い は 低 く な る の で B イ オ ン 注 入 レ ジストが速く除去されたと考えられる. イ オ ン 種 及 び イ オ ン 注 入 量 の 異 な る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 除 去 の 結 果 (図 - 81 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 6.8)よ り , 70 keV で B イ オ ン が 5×10 1 5 /cm 2 注 入 さ れ た レ ジ ス ト 及 び 70keV で P イ オ ン が 5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は 除 去 さ れ な か っ た こ と か ら ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 塑 性 変 形 硬 さ が 未 注 入 レ ジ ス ト の 5 倍 以 上 で は 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 は 不 可 能 で あ る と 言 え る . 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 が 5 以 上 に な る 厚 み は B の 5×10 1 5 /cm 2 で は 200nm,P の 5×10 1 4 /cm 2 で は 45 nm, P の 5×10 1 5 /cm 2 で は 95 nm で あ っ た . ま た , B, P が 5×10 1 3 /cm 2 注 入 さ れたレジストにおいて塑性変形硬さは未注入レジストの 2 倍以下であるこ と か ら 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 が 2 以 下 で あ っ た 場 合 , 未 注 入 レ ジ ス ト と ほ ぼ同様に除去できると考えられる. 6.3.2 高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除去 図 6.11 に オ ゾ ン ガ ス 濃 度 10vol%に お け る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 膜 厚 変 化 を 示 す .B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の み 膜 厚 が 減 少 し た .こ れ よ り ,こ の レ ジ ス ト は レ ジ ス ト 表 面 か ら の 溶 解 に よ り 除 去 で き た と 考 え ら れ る .ま た ,こ の レ ジ ス ト は , レ ジ ス ト 上 層 で は 膜 厚 減 少 の 傾 き が 小 さ く (除 去 速 度 が 遅 い ), 下 層 で は 膜 厚 減 少 の 傾 き が 大 き か っ た (除 去 速 度 が 速 い ). こ れ は , レ ジ ス ト 上 層が B イオンの注入により硬化しており,下層はイオン注入の影響を受け Photoresist thickness [µm] 1.40 70keV 1.20 1.00 AZ6112 B-5E13 B-5E14 B-5E15 P-5E13 P-5E14 P-5E15 0.80 0.60 200nm 0.40 0.20 0.00 0 100 200 300 400 500 600 700 Wet ozone irradiation time [s] 図 6.9 異 な る イ オ ン 注 入 量 の B, P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 湿潤オゾンによる除去 - 82 - 第6章 表 6.9 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 異 な る イ オ ン 注 入 量 の B, P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除 去 速 度 サンプル 除 去 速 度 [µm/min] AZ6112 1.01 B ions (5×10 1 3 /cm 2 ) 1.04 B ions (5×10 1 4 /cm 2 ) 0.25 B ions (5×10 1 5 /cm 2 ) × P ions (5×10 1 3 /cm 2 ) 1.07 P ions (5×10 1 4 /cm 2 ) × P ions (5×10 1 5 /cm 2 ) × Normalized hardness H2 14.0 70keV 12.0 B-5E13 B-5E14 B-5E15 P-5E13 P-5E14 P-5E15 10.0 8.0 6.0 95nm 4.0 2.0 0.0 0 45nm 100 200 300 400 Photoresist depth [nm] 図 6.10 70keV の 加 速 エ ネ ル ギ ー で B, P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 て お ら ず 未 注 入 状 態 に な っ て い る た め で あ る .一 方 ,P,As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 膜 厚 は 減 少 し な か っ た .こ れ よ り ,こ れ ら の レ ジ ス ト で は ,表 面 か ら の 溶 解 は 起 き て い な い と 言 え る .こ れ は ,P,As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 上 層 の硬化の度合いが B イオン注入レジストに比較し大きいためと考えられる. 図 6.12 に オ ゾ ン 濃 度 30vol%に お け る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 膜 厚 変 化 を 示 す . オ ゾ ン 濃 度 30vol%に お け る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除 去 性 は 、 オ ゾ ン 濃 度 10vol%の そ れ ら と 同 じ で あ り 、 B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の み 膜 厚 が 減 少 し た . B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト に お け る オ ゾ ン 濃 度 が 30vol%, 及 び 10vol%の と - 83 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 き の 除 去 速 度 の 比 較 よ り ,オ ゾ ン 濃 度 が 高 く な る こ と で レ ジ ス ト 除 去 時 間 は 短 く な っ た .こ れ は ,オ ゾ ン 濃 度 の 増 加 に よ り レ ジ ス ト と 反 応 す る オ ゾ ン 分 子数が増加したためである. 図 6.13 に B, P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 表 面 の 光 学 顕 微 鏡 写 真 を 示 す .オ ゾ ン 濃 度 は 30vol%で あ る . 全 て の イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト に お い て 剥 離 が み ら れ た .剥 離 の 様 子 と し て ,ま ず ,照 射 初 期 段 階 (湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 が 短 い )で , レ ジ ス ト 表 面 に ク ラ ッ ク が 発 生 し た .照 射 時 間 が 長 く な る に つ れ て ,ク ラ ッ ク 部 が 除 去 さ れ た .ク ラ ッ ク 部 が 除 去 さ れ た 後 ,ク ラ ッ ク 部 周 辺 の レ ジ ス ト が 剥 離 し た .ク ラ ッ ク 部 の レ ジ ス ト が 除 去 さ れ る と ,湿 潤 オ ゾ ン は レ ジ ス ト 下 層 に も ア タ ッ ク す る こ と が 可 能 と な る と 言 え る .イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 下 層 は ,イ オ ン 注 入 の 影 響 を 受 け て お ら ず 未 注 入 状 態 で あ る た め ,湿 潤 オ ゾ ン は レ ジ ス ト を 溶 解 す る こ と が で き る と 考 え ら れ る .し た が っ て ,ク ラ ッ ク 部 周 辺 の レ ジ ス ト が 剥 離 に よ り 除 去 で き た と 考 察 し た .ま た ,光 学 顕 微 鏡 で の 観 察 範 囲 (1.0mm×1.5mm)に お い て は ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 が 120 s, P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 660 s, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 840 s で レ ジ ス ト が 除 去 で き た . こ れ ら よ り , 高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン (30 vol%)を 使 用 す る こ と に よ り ,低 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン (10 vol%)で は 除 去 で き な か っ た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト (5×10 1 4 /cm 2 )が イ オ ン 種 に 関 わ ら ず 除 去 で き る こ と が 判 明 し た .オ ゾ ン 濃 度 が 30 vol%で の B,P,As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除 去 性 は ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 表 面 か ら の 溶 解 と 界 面 か ら の 剥 離 の 両 方 で あ り , P, Photoresist thickness [µm] As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 剥 離 の み で あ っ た (図 6.14). 1.20 O3 : 10vol% 1.00 0.80 0.60 0.40 B-5E14 P-5E14 As-5E14 0.20 0.00 0 200 400 600 800 1000 Wet ozone irradiation time [s] 図 6.11 オ ゾ ン ガ ス 濃 度 10vol%に お け る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 膜 厚 変 化 - 84 - Photoresist thickness [µm] 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 1.40 O3 : 30vol% 1.20 1.00 0.80 0.60 B-5E14 P-5E14 As-5E14 0.40 0.20 0.00 0 200 400 600 800 1000 Wet ozone irradiation time [s] 図 6.12 オ ゾ ン ガ ス 濃 度 30vol%に お け る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 膜 厚 変 化 B ions (70keV 5E14) 10s 70s 120s (removed) P ions (70keV 5E14) 10s 120s 660s (removed) As ions (70keV 5E14) 10s 図 6.13 150s 840s (removed) B, P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 表 面 の 光 学 顕 微 鏡 写 真 6.3.3 加 速 エ ネ ル ギ ー の 異 な る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 湿潤オゾンによる除去 図 6.15 に 異 な る 加 速 エ ネ ル ギ ー で B イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 除 去 性 を 示 す .イ オ ン 注 入 量 は 5×10 1 4 /cm 2 で あ る .こ の 結 果 よ り ,10, 70, 150 keV の 順 で レ ジ ス ト は 除 去 さ れ に く く な り , 150 keV で イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス - 85 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 O3 O3 レジスト表面からの 溶解と剥離 図 6.14 剥離のみ 注入イオン種によるレジスト除去形態の差異 ト は 除 去 で き な か っ た . ま た , 表 6.10 に 異 な る 加 速 エ ネ ル ギ ー で B イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 除 去 速 度 を ま と め た .加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 低 下 し ,10 keV で は 0.69 µm/min,70 keV は 0.25 µm/min で あ っ た . 加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て イ オ ン が レ ジ ス ト に 与 え る エ ネ ル ギ ー が 多 く な り ,レ ジ ス ト 表 面 の 変 質 の 度 合 い が 増 加 し ,湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 が 困 難 に な っ た た め と 考 え ら れ る .ま た ,レ ジ ス ト 変 質 層 が 除 去 さ れ た 後 の 傾 き は ,未 注 入 レ ジ ス ト と ほ ぼ 同 様 に な る こ と か ら レ ジ ス ト 表 面 に 変 質 層 が 形 成 さ れ て お り ,変 質 層 よ り 深 い 部 分 は 未 注 入 レ ジ ス ト で あ り 全 体 と し て 2 層 構 造 で あ る と 考 え ら れ る .B イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の湿潤オゾンによる除去結果よりレジスト変質層とみられる部分の厚みは 10 keV で は 40 nm, 70 keV で は 200 nm で あ っ た . 図 6.16 に 異 な る 加 速 エ ネ ル ギ ー で P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 除 去 性 を 示 す . イ オ ン 注 入 量 は 5×10 1 4 /cm 2 で あ る . こ の 結 果 よ り , B イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト と 同 様 に 10, 70, 150 keV の 順 で レ ジ ス ト は 除 去 さ れ に 1.40 Resist thickness [µm] B-ions 40nm 1.20 1.00 0.80 0.60 200nm AZ6112 10keV-5E14 70keV-5E14 150keV-5E14 0.40 0.20 0.00 0 100 200 300 400 500 600 700 Wet ozone irradiation time [s] 図 6.15 異なる加速エネルギーで B イオンが注入された レジストの除去性 - 86 - 第6章 表 6.10 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 異なる加速エネルギーで B イオンが注入された レジストの除去速度 サンプル 除 去 速 度 [µm/min] AZ6112 1.01 B ions (10keV) 0.69 B ions (70keV) 0.25 B ions (150keV) × く く な り , 70, 150keV に お い て は 除 去 で き な か っ た . 表 5.11 に 異 な る 加 速 エ ネ ル ギ ー で P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 除 去 速 度 を ま と め た .P イ オ ン が 10 keV で 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 除 去 速 度 は 0.18 µm/min で あ っ た . こ れも B イオン注入レジストと同様に,加速エネルギーの増加にしたがって レ ジ ス ト 変 質 層 の 硬 さ が 増 加 し ,湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 が 困 難 に な っ た た め と 考 え ら れ る . ま た , 10 keV で P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 変 質 層 が 除 去された後の傾きが未注入レジストとほぼ同様になることから表面にレジ ス ト 変 質 層 が 形 成 さ れ て お り ,変 質 層 よ り 深 い 部 分 は 未 注 入 レ ジ ス ト で あ る と考えられる. 1.40 Resist thickness [µm] P-ions 30nm 1.20 1.00 0.80 0.60 AZ6112 10keV-5E14 70keV-5E14 150keV-5E14 0.40 0.20 0.00 0 100 200 300 400 500 600 700 Wet ozone irradiation time [s] 図 6.16 異なる加速エネルギーで P イオンが注入された レジストの除去性 - 87 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 表 6.11 異 な る 加 速 エ ネ ル ギ ー で P イ オ ン が 注 入 さ れ た レジストの除去速度 サンプル 除 去 速 度 [µm/min] AZ6112 1.01 P ions (10keV) 0.18 P ions (70keV) × P ions (150keV) × 図 6.17 に 低 加 速 エ ネ ル ギ ー (0.5keV, 3keV)で イ オ ン 注 入 さ れ た i 線 用 レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 に つ い て 示 し , 図 6.18 に 低 加 速 エ ネ ル ギ ー (0.5keV, 3keV)で イ オ ン 注 入 さ れ た KrF エ キ シ マ レ ー ザ ー 用 レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 に つ い て 示 す . ま た , 表 5.12 に 低 加 速 エ ネ ル ギ ー で イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 除 去 速 度 を 示 す .除 去 速 度 は ,初 期 膜 厚 を 完 全 除 去 さ れ た と き の 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 時 間 で 除 す る こ と に よ り 算 出 し た .こ の 結 果 よ り ,低 加 速 エ ネ ル ギ ー で あ れ ば 高 イ オ ン 注 入 量 の レ ジ ス ト も イ オ ン 種 に 関 わ ら ず 除 去 可 能 で あ っ た .ま た ,As が 3keV で イ オ ン 注 入 さ れ た i 線 用 レ ジ ス ト が 除 去 可 能 で あ っ た こ と か ら B が 3keV で 注 入 さ れ た レ ジ ス ト 及 び As が Photoresist thickness [µm] 0.5keV で 注 入 さ れ た レ ジ ス ト も 除 去 可 能 で あ る と 考 え ら れ る . 0.50 non-implanted B-0.5keV-1E15 As-3keV-1E15 0.40 0.30 0.20 0.10 0.00 0 50 100 150 200 250 300 350 Wet ozone irradiation time [s] 図 6.17 低加速エネルギーでイオン注入された i 線用レジストの 湿潤オゾンによる除去 - 88 - Photoresist thickness [µm] 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 0.50 non-implanted B-0.5keV-1E15 As-3keV-1E15 0.40 0.30 0.20 0.10 0.00 0 50 100 150 200 250 300 350 Wet ozone irradiation time [s] 図 6.18 低 加 速 エ ネ ル ギ ー で イ オ ン 注 入 さ れ た KrF エ キ シ マ レ ー ザ ー 用 レジストの湿潤オゾンによる除去 表 6.12 低 加 速 イ オ ン 注 入 さ れ た i 線 用 レ ジ ス ト 及 び KrF エ キ シ マ レーザー用レジストの湿潤オゾンによる除去速度 サンプル 除 去 速 度 [µm/min] i-ray non-implanted 1.05 i-ray(B, 0.5keV, 1E15) 0.64 i-ray(As, 3keV, 1E15) 0.06 KrF non-implanted 0.50 KrF(B, 0.5keV, 1E15) 0.27 KrF(As, 3keV, 1E15) 0.05 SEM 及 び 溶 剤 を 用 い た レ ジ ス ト 変 質 層 の 剥 離 に よ る イオン注入レジストの構造観察 図 6.19 に 10, 70, 150 keV で B, P イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 断 面 SEM 像 を 示 す .こ の 結 果 よ り ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 断 面 に は 境 界 線 が 確 認 さ れ ,イ オン注入レジストには変質層と未注入層の 2 層構造が形成されていると考 え ら れ る .ま た ,B, P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の ど ち ら に お い て も 加 速 エネルギーの増加にしたがってレジスト変質層の割合が高くなっているこ と が わ か る .表 6.13 に SEM 観 察 及 び 溶 剤 を 用 い た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 剥 離 に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 膜 厚 を 示 し , 表 6.14 に レ ジ ス ト 変 質 層 の レ ジ ス ト 全 体 に 対 す る 割 合 を 示 す .こ の 結 果 よ り ,レ ジ ス ト 変 質 - 89 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 層 の 割 合 は 加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 と と も に 多 く な り , SEM 像 及 び 溶 剤 を 用 い た レ ジ ス ト 変 質 層 の 剥 離 に よ る レ ジ ス ト 変 質 層 の 割 合 の 傾 向 は ,ほ ぼ 同 様 で あ っ た .し か し ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 か ら 得 ら れ た 変 質 層 の 割 合 は , SEM 観 察 及 び 溶 剤 に よ る 剥 離 結 果 と 比 較 し て 少 な か っ た . こ れ は , 湿潤オゾンによるレジスト除去において閾値以下の変質の度合いをもつレ ジストが未注入レジストと同様に除去されたためと考えられる. 加速エネルギーの増加にしたがって湿潤オゾンによるレジスト除去が困 難 に な っ た こ と に つ い て 微 小 押 し 込 み 硬 さ 試 験 に よ り 考 察 し た . 図 6.20 に レ ジ ス ト 深 さ に 対 す る B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 を 示 す .こ の 結 果 よ り ,加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 表 面 の 塑 性 変 形 硬 さ が 増 加 し , レ ジ ス ト の 変 質 し て い る 範 囲 (厚 み )が 広 が っ た . ま た , 湿 潤 オ ゾ ン に よ る B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 除 去 の 結 果 (図 6.15)よ り , 150 keV で B イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は 除 去 さ れ な か っ た こ と か ら , 6.3.1 と 同 様にイオン注入レジストの塑性変形硬さの最も高い値が未注入レジストの 5 倍 以 上 で あ っ た 場 合 ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 は 不 可 能 に な る と 考 え ら れ る . 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H 2 が 5 以 上 に な る 厚 み は 150 keV で は 130 nm で あ っ た . 図 6.19 10, 70, 150 keV で B, P イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 断 面 SEM 像 - 90 - 第6章 表 6.13 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 SEM 観 察 及 び 溶 剤 を 用 い た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 剥 離 に よるイオン注入レジスト変質層の膜厚 レジスト除去 レジスト除去 サンプル (湿 潤 オ ゾ ン ) 変質層膜厚 SEM 変質層膜厚 (溶 剤 ) 変質層膜厚 10keV(B ions) 40nm 110nm 90nm 70keV(B ions) 200nm 500nm 407nm 150keV(B ions) - 830nm 660nm 10keV(P ions) 30nm - 40nm 70keV(P ions) - 330nm 140nm 150keV(P ions) - 500nm 400nm 表 6.14 レジスト変質層のレジスト全体に対する割合 レジスト除去 サンプル レジスト除去 SEM (湿 潤 オ ゾ ン ) 変 質 層 /全 体 変 質 層 /全 体 (溶 剤 ) 変 質 層 /全 体 10keV(B ions) 0.04 0.09 0.08 70keV(B ions) 0.25 0.60 0.50 150keV(B ions) - 0.72 0.60 10keV(P ions) 0.03 - 0.03 70keV(P ions) - 0.34 0.25 150keV(P ions) - 0.46 0.36 ま た , 10 keV に お い て 塑 性 変 形 硬 さ は 未 注 入 レ ジ ス ト の 2 倍 以 下 で あ り , 70 keV で は レ ジ ス ト 深 さ 200 nm よ り 深 い 部 分 に 存 在 す る レ ジ ス ト は 未 注 入 レ ジ ス ト と 同 様 に 除 去 さ れ ,規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H 2 ≦ 2 と な る と き の レ ジ ス ト 深 さ が 200 nm で あ る こ と か ら 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H 2 が 2 以 下 で あ っ た 場 合 ,未 注 入 レ ジ ス ト と ほ ぼ 同 様 に 除 去 で き る と 考 え ら れ る . 図 6.21 に レ ジ ス ト 深 さ に 対 す る P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 を 示 す . こ の 結 果 よ り ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト と 同 様 に ,加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 表 面 の 塑 性 変 形 硬 さ が 増 加 し ,レ ジ ス ト の 変 質 し て い る 範 囲 (厚 み )が 広 く な っ た .ま た ,湿 潤 オ ゾ ン に よ る P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 除 去 - 91 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 の 結 果 (図 6.16)よ り ,70, 150 keV で P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は 除 去 さ れなかったことからイオン注入レジストの塑性変形硬さが未注入レジスト の 5 倍以上の部分が存在すると湿潤オゾンによる除去は不可能であると考 え ら れ る .規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H 2 ≧ 5 の 膜 厚 は ,70 keV で は 45 nm,150 keV で は 130 nm で あ っ た . ま た , 10 keV で P イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は , 全 体 的 に 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 が 2 以 下 で あ っ た こ と か ら 表 面 に 存 在 す る 極 薄 い レ ジ ス ト 変 質 層 が 湿 潤 オ ゾ ン に よ っ て 除 去 さ れ た 後 ,未 注 入 レ ジ ス ト Normalized hardness H2 と同様に除去されたと考えられる. 10.0 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 B-ions 0 B-5E14(10keV) B-5E14(70keV) B-5E14(150keV) 100 200 300 400 Photoresist depth [nm] 図 6.20 レジスト深さに対する B イオン注入レジストの Normalized hardness H2 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 12.0 11.0 10.0 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 P-ions 0 45nm P-5E14(10keV) P-5E14(70keV) P-5E14(150keV) 100 130nm 200 300 400 Photoresist depth [nm] 図 6.21 レジスト深さに対する P イオン注入レジストの 規 格 化 塑 性 変 形 硬 さ H2 - 92 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 TOF-SIMS に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 組 成 分 析 図 6.22 に TOF-SIMS 分 析 に よ る 各 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 負 二 次 イ オ ン 質 量 ス ペ ク ト ル を 示 す .未 注 入 レ ジ ス ト 成 分 と し て レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー で あ る ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 由 来 の C 8 H 9 O - (m/z 121.08)が 検 出 さ れ , レ ジ ス ト 硬 化 層 成 分 と し て 不 飽 和 結 合 を 多 く 含 む 炭 化 水 素 系 の C 1 0 H - (m/z 121.01)が 検 出 さ れ た . ま た , 加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て C10H-の イ オ ン 強 度 が 増 大 し た .こ れ よ り ,イ オ ン 注 入 に よ っ て ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 の 分 子 構 造 が 破 壊 さ れ,炭化したため,除去されにくくなったと考えられる. 図 6.23 に 各 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 負 二 次 イ オ ン 像 を 示 す .こ こ で ,h は イ オ ン 注 入 に よ る 表 面 硬 化 層 (変 質 層 ), n.i は 未 注 入 層 , s は 基 板 表 面 で あ る . 加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 内 部 の 深 い 部 分 か ら C10H-の イ オ ン が 検 出 さ れ た .一 方 ,C 8 H 9 O - の イ オ ン 強 度 は 表 面 層 で は 弱 く ,下 層 で は 強 か っ た .こ れ よ り ,加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に 伴 い ,レ ジ ス ト の 深 い 部 分 ま で 炭 化 し て い る と 考 え ら れ る .ま た ,未 注 入 レ ジ ス ト と 比 較 し て す べ て の イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト で C8H9O-の イ オ ン 強 度 は 高 か っ た . こ れ は , イ オ ン 注 入 に よ っ て ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 が 分 子 切 断 さ れ て お り ,イ オ ン 化 さ れ や す か っ た た め と 考 え ら れ る . さ ら に , 10 keV で は , レ ジ ス ト 最 表 面 よ り 深 い 部 分 で 即 座 に C8H9O-の イ オ ン が 観 察 さ れ た . 表 面 形 状 測 定 の 結 果 よ り , 10 keV は 斜 め 切 削 時 に 深 さ 100 nm の 領 域 ま で 欠 落 し て い た た め と 考 え ら れ る . 70 keV は 深 さ 400 nm の 領 域 ま で 欠 落 し , 150 keV は 深 さ 600 nm の 領 域 ま で 欠 落 し て い た . 欠 落 し た 原 因 と し て , レ ジスト硬化層が未注入層付近で剥離したことが考えられる.したがって, 10keV で の レ ジ ス ト 硬 化 層 の 膜 厚 は 約 100 nm で あ り , 70 keV で の レ ジ ス ト 硬 化 層 の 膜 厚 は 約 400 nm, 150 keV で の レ ジ ス ト 硬 化 層 の 膜 厚 は 約 600 nm 程度であると推察される. - 93 - 第6章 図 6.22 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 TOF-SIMS 分 析 に よ る 各 イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 負二次イオン質量スペクトル - 94 - 第6章 inside surface inside h Si surface inside h n.i h surface s h inside h AZ6112 10keV 70keV 150keV AZ6112 10keV 70keV 150keV s Si n.i strong surface イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 C8H9O- (m/z 121.08) Ion intensity C10H- (m/z 121.01) 図 6.23 Depth[nm ] Depth[nm] Depth[nm] weak Depth[nm] 各イオン注入レジストの負二次イオン像 6.3.4 イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル の 湿 潤 オゾンによる除去 イオン注入ポリビニルフェノールの湿潤オゾンによる除去 図 6.24 に 異 な る イ オ ン 注 入 量 で B, P 及 び As イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を 示 す . イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て PVP は 除 去 さ れ に く く な り ,5×10 1 5 /cm 2 の イ オ ン 注 入 量 の PVP は 除 去 で き な か っ た . ま た ,イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て PVP 除 去 速 度 は 低 下 し ,5×10 1 3 /cm 2 で は 0.49 µm/min,5×10 1 4 /cm 2 は 0.12 µm/min で あ っ た .P イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP で は ,イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て 除 去 さ れ に く く な り ,5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 に お い て は 完 全 に 除 去 で き な か っ た .ま た ,P イ オ ン が 5×10 1 3 /cm 2 注 入 さ れ た PVP の 除 去 速 度 は 0.48µm/min で あ っ た .As イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP は ,B,P イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP と 同 様 に イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て 除 去 さ れ に く く な り ,5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 は 完 全 に 除 去 で き な か っ た . ま た , As イ オ ン が 5×10 1 3 /cm 2 注 入 さ れ た PVP の 除 去 速 度 は 0.36µm/min で あ っ た .こ れ ら の 結 果 は ,イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て オ ゾ ン と 反 応 す る PVP の ベ ン ゼ ン 環 及 び ヒ ド ロ キ シ ル 基 (OH 基 )が 変 質 し , 湿 潤 オ ゾ ン に よ る イ オ ン 注 入 PVP の 除 去 性 が 低 下 し た た め と 考 え ら れ る . - 95 - PVP film thickness [µm] 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 0.50 0.40 0.30 non-implanted B-5E13 B-5E14 B-5E15 0.20 0.10 0.00 0 100 200 300 400 500 Wet ozone irradiation time [s] 600 PVP film thickness [µm] (a) B イ オ ン 注 入 PVP 0.50 0.40 0.30 non-implanted P-5E13 P-5E14 P-5E15 0.20 0.10 0.00 0 100 200 300 400 500 Wet ozone irradiation time [s] 600 PVP film thickness [µm] (b) P イ オ ン 注 入 PVP 0.50 0.40 0.30 non-implanted As-5E13 As-5E14 As-5E15 0.20 0.10 0.00 0 100 200 300 400 500 Wet ozone irradiation time [s] 600 (c) As イ オ ン 注 入 PVP 図 6.24 異 な る イ オ ン 注 入 量 で 注 入 さ れ た PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 - 96 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 注 入 イ オ ン 種 で 比 較 し た 場 合 ,B イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP が P 及 び As イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP に 比 べ て 容 易 に 除 去 さ れ た .こ れ は ,SRIM2008 に よ る イ オ ン 注 入 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の 結 果 よ り , B は P, As と 比 較 し て 軽 い イ オ ン の た め PVP の 深 い 部 分 ま で 注 入 さ れ る 8) .そのため,同じイオン注入量 の 場 合 , B イ オ ン 注 入 PVP の 変 質 度 合 い は 低 く な る の で B イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP が 速 く 除 去 さ れ た と 考 え ら れ る . SIMS に よ る イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル 変 質 層 の膜厚測定 図 6.25 に 未 注 入 PVP の SIMS ス ペ ク ト ル を 示 す . こ の 結 果 よ り , 質 量 数 106, 120 及 び 226 の イ オ ン が 強 く 検 出 さ れ ,こ れ ら は PVP 特 有 の イ オ ン で あ る と 推 定 さ れ る (図 6.26).イ オ ン 注 入 PVP で は こ れ ら の 検 出 数 を 深 さ 方 向 に 対 し て プ ロ ッ ト し た . 図 6.27 に 各 種 イ オ ン 注 入 PVP の 質 量 数 106, 120 及 び 226 の 深 さ 方 向 分 析 結 果 を 示 す .こ こ で は ,イ オ ン カ ウ ン ト 数 を 総 イ オ ン カ ウ ン ト 数 で 規 格 化 し た . ま た , 質 量 数 40 は エ ッ チ ン グ ガ ス の ア ル ゴ ン (Ar) で あ り , こ れ が 検 出 さ れ 始 め た 深 さ か ら Si 基 板 に 達 し て い る と 思 わ れ る . こ れ ら の 結 果 よ り ,イ オ ン 注 入 時 の イ オ ン の 質 量 数 大 き く な る に し た が っ て 変 質 層 の 厚 み は 減 少 し , B イ オ ン 注 入 PVP の 変 質 層 厚 み は 387 nm, P イ オ ン 注 入 PVP は 232 nm で As イ オ ン 注 入 PVP は 142 nm で あ っ た . こ れ は , 質 量 数 の 大 き い イ オ ン に な る に し た が っ て PVP の 表 面 に イ オ ン が 浅 く 注 入 さ れ る た め と 考 え ら れ る . し か し な が ら ,い ず れ の サ ン プ ル も 同 じ 加 速 エ ネ ルギーで注入されているため変質の度合いは質量数の大きいイオンが高く なると考えられる. - 97 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 400 non-implanted PVP Intensity [arb.unit] 106 300 200 120 226 100 0 0 50 100 150 200 250 300 mass [m/z] 図 6.25 未 注 入 PVP の SIMS ス ペ ク ト ル + CH2 H3C CH2 + C OH m/z: 105 m/z: 107 H3C + CH H3C 質量数106 CH3 CH + 質量数120 HC CH 質量数226 + C OH m/z: 121 図 6.26 m/z: 119 OH OH m/z: 226 PVP の SIMS 測 定 に お け る フ ラ グ メ ン ト イ オ ン FT-IR に よ る イ オ ン 注 入 さ れ た PVP の 分 光 学 的 評 価 図 6.28 に B イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP の FT-IR ス ペ ク ト ル を 示 す . ま た , 表 6.15 に 未 注 入 PVP の フ ェ ノ ー ル 性 ヒ ド ロ キ シ ル 基 (OH 基 )含 有 率 を 100% と し た と き の 各 イ オ ン 注 入 PVP の ベ ン ゼ ン 環 及 び OH 基 含 有 率 を 示 す . こ の 結 果 よ り ,い ず れ の イ オ ン 種 に お い て も イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て ベ ン ゼ ン 環 及 び OH 基 含 有 率 は 低 下 し た .ま た ,イ オ ン 種 の 違 い で は 質 量 数 の大きいイオンになるに伴い,表面の変質度合いが増加すると考えられる. FT-IR の 結 果 よ り ,湿 潤 オ ゾ ン に よ り 除 去 可 能 な も の と 不 可 能 な も の の 間 で , ベ ン ゼ ン 環 含 有 率 は あ ま り 変 化 が み ら れ な か っ た . し か し , OH 基 含 有 率 は , 除 去 可 能 な も の と 不 可 能 な も の で 明 確 な 違 い が あ り , P, As の 5×10 1 4 - 98 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 /cm 2 か ら 急 激 に 低 下 し た .こ の 結 果 は ,ベ ン ゼ ン 環 の 結 合 解 離 エ ネ ル ギ ー が 575.8 kJ/mol で あ る の に 対 し , ベ ン ゼ ン 環 と OH 基 の 結 合 解 離 エ ネ ル ギ ー は 360.0 kJ/mol で あ り , ベ ン ゼ ン 環 と OH 基 の 結 合 が 解 離 し や す い た め 妥 当 と 言える 1 0 , 11 ) . し た が っ て , イ オ ン 注 入 さ れ た PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 は , ベ ン ゼ ン 環 の 濃 度 よ り も OH 基 の 濃 度 に 依 存 す る と 考 え ら れ る . 一 方 , オ ゾ ン と フ ェ ノ ー ル (OH 基 含 有 ) と の 反 応 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は 39.7kJ/mol で あ り , オ ゾ ン と ベ ン ゼ ン (OH 基 無 )と の 反 応 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は 66.0kJ/mol で あ っ た 9) .す な わ ち ,オ ゾ ン と ベ ン ゼ ン 環 と の 反 応 性 は ,OH 基 含 有 の フ ェ ノ ー ル と 比 較 し て 低 い と 言 え る .し た が っ て ,イ オ ン 注 入 さ れ た PVP 中 の OH 基 含 有 率 が 減 少 す る に し た が っ て 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 が 困難になったと考えられる. 6.4 結 言 イ オ ン 注 入 条 件 (イ オ ン 種 (B, P),イ オ ン 注 入 量 (5×10 1 3 , 5×10 1 4 , 5×10 1 5 /cm 2 ), 加 速 エ ネ ル ギ ー (10, 70, 150keV))の 異 な る レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 を行った. イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト は 除 去 さ れ に く く な り , 70keV で B イ オ ン が 5×10 1 5 /cm 2 注 入 さ れ た レ ジ ス ト 及 び P イ オ ン が 5×10 1 4 /cm 2 , 5×10 1 5 /cm 2 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は 除 去 で き な か っ た .こ れ は ,イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 変 質 層 の 塑 性 変 形 硬 さ が 増 加 し ,レ ジ ス ト と 湿 潤オゾンとが反応しにくくなったため湿潤オゾンによる除去ができなかっ た と 考 え ら れ る .ま た ,注 入 イ オ ン 種 で 比 較 し た 場 合 ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト が P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト よ り も 容 易 に 除 去 さ れ た . こ れ は , SRIM2008 に よ る イ オ ン 注 入 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 よ り ,B イ オ ン が レ ジ ス ト の 奥 深 い 部 分 ま で 入 り こ み ,イ オ ン か ら レ ジ ス ト に 与 え ら れ る エ ネ ル ギ ー が 分 散 す る の で,同じイオン注入量の場合,レジスト表面における変質の度合いが B イ オンの場合,低くなるためと考えられる. 5×10 1 4 /cm 2 の イ オ ン 注 入 量 で 異 な る 加 速 エ ネ ル ギ ー で B イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 で は , 10, 70, 150keV の 順 で レ ジ ス ト は 除 去 さ れ に く く な り , 150keV で イ オ ン 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は 除 去 で き な か っ た . 5×10 1 4 /cm 2 の イ オ ン 注 入 量 で 異 な る 加 速 エ ネ ル ギ ー で P イ オ ン が - 99 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 0.35 B-ions Normalized counts 0.30 Altered layer 0.25 M106 0.20 M120 0.15 M226 M40 0.10 0.05 0.00 0 100 200 300 400 500 600 Depth [nm] (a) B イ オ ン 注 入 PVP 0.35 P-ions Normalized counts 0.30 Altered layer 0.25 M106 0.20 0.15 M120 0.10 M226 0.05 M40 0.00 0 100 200 300 400 500 600 Depth [nm] (b) P イ オ ン 注 入 PVP 0.35 As-ions Normalized counts 0.30 M106 Altered layer 0.25 0.20 0.15 M120 0.10 M226 0.05 M40 0.00 0 100 200 300 400 500 600 Depth [nm] (c) As イ オ ン 注 入 PVP 図 6.27 各 種 イ オ ン 注 入 PVP の 質 量 数 106, 120 及 び 226 の 深さ方向分析結果 - 100 - 第6章 Absorbance B-ions イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 O-H C=C 5E15 5E14 5E13 Ref 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 -1 Wavenumber [cm ] 図 6.28 表 6.15 B イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP の FT-IR ス ペ ク ト ル 未 注 入 PVP の OH 基 含 有 率 を 100% と し た と き の 各 イ オ ン 注 入 PVP の ベ ン ゼ ン 環 及 び OH 基 含 有 率 (a) フ ェ ノ ー ル 性 OH 基 5×10 1 3 /cm 2 5×10 1 4 /cm 2 5×10 1 5 /cm 2 B ions 90% 75% 10% P ions 90% 40% 5% As ions 90% 40% 0% (b) ベ ン ゼ ン 環 5×10 1 3 /cm 2 5×10 1 4 /cm 2 5×10 1 5 /cm 2 B ions 95% 85% 85% P ions 85% 85% 70% As ions 90% 50% 50% 注入されたレジストの除去性は,B イオンが注入されたレジストと同様に 10, 70, 150keV の 順 で 除 去 さ れ に く く な り ,70keV, 150keV に お い て は 完 全 に 除 去 で き な か っ た .こ れ は ,加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 変 質 層 の 塑 性 変 形 硬 さ が 増 加 し ,湿 潤 オ ゾ ン と の 反 応 が 困 難 に な っ た た め と 考 えられる. イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 断 面 SEM 観 察 及 び 溶 剤 を 用 い た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 剥 離 観 察 よ り レ ジ ス ト 表 面 に 変 質 層 が 確 認 さ れ ,加 速 エ ネ ル ギ ー - 101 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 の増加にしたがってレジスト全体に対する変質層の割合は増加した. 微小押し込み硬さ試験と湿潤オゾンによるイオン注入レジストの除去結 果を比較すると塑性変形硬さが未注入レジストの 5 倍以上であると湿潤オ ゾ ン に よ る 除 去 が で き ず ,2 倍 以 下 で は 未 注 入 レ ジ ス ト と ほ ぼ 同 様 に 除 去 可 能であると言える. 高濃度湿潤オゾンを用いてレジストの高速除去及びイオン注入レジスト の除去について検討した.B イオン注入レジストにおけるオゾン濃度が 30vol%, 及 び 10vol%の と き の 除 去 性 の 比 較 よ り , オ ゾ ン 濃 度 が 高 く な る こ と で レ ジ ス ト 除 去 時 間 は 短 く な っ た . オ ゾ ン 濃 度 を 30vol%に す る こ と に よ り , オ ゾ ン 濃 度 が 10vol%で は 除 去 で き な か っ た P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト (5×10 1 4 個 /cm 2 )の 除 去 が 可 能 と な っ た . オ ゾ ン 濃 度 が 30vol%で の B, P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト (加 速 エ ネ ル ギ ー:70keV,注 入 量:5×10 1 4 個 /cm 2 )の 除 去 性 は ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 表 面 か ら の 溶 解 と 界 面 か ら の 剥 離 の 両 方 で あ り , P, As イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は 剥 離 の み で あ っ た . 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 を 用 い て ,様 々 な 条 件 で イ オ ン 注 入 さ れ た ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル (PVP)の 除 去 を 行 っ た .ま た ,イ オ ン 注 入 PVP 変 質 層 の 深 さ に つ い て SIMS か ら 検 討 し , 湿 潤 オ ゾ ン と イ オ ン 注 入 PVP と の 反 応 性 に つ い て FT-IR か ら 検 討 し た .異 な る イ オ ン 注 入 量 で B, P 及 び As イ オ ン が 注 入 さ れ た PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 結 果 よ り , イ オ ン 注 入 量 の 増 加 に し た が っ て PVP の ベ ン ゼ ン 環 及 び OH 基 の 変 質 度 合 い が 増 加 す る た め 除 去 さ れ に く く な っ た と 言 え る . PVP に 質 量 数 の 大 き い イ オ ン が 注 入 さ れ る に し た が っ て 変 質 層の厚みは減少した.これは,質量数の大きいイオンになるにしたがって PVP の 表 面 に イ オ ン が 集 中 す る た め と 考 え ら れ る . し か し な が ら ,い ず れ の サンプルも同じ加速エネルギーで注入されているため変質の度合いは高い と 考 え ら れ る .湿 潤 オ ゾ ン に よ り 除 去 可 能 な も の と 不 可 で あ る も の の 間 で イ オン注入レジストが有するベンゼン環含有率がほぼ変化がないのに対し, OH 基 含 有 率 は 除 去 可 能 な も の と 不 可 能 な も の で 大 き な 違 い が み ら れ た . し た が っ て , イ オ ン 注 入 PVP の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 は , ベ ン ゼ ン 環 の 濃 度 よ り も OH 基 の 濃 度 に 依 存 す る と 考 え ら れ る . - 102 - 第6章 イオン注入レジストの湿潤オゾンによる除去 参考文献 1) Huynh,C.K,;Mitchener,J.C.,J.Vac.Sci.Technol, ,B9(1991),353. 2) 石橋健夫,半導体・液晶ディスプレイフォトリソグラフィ技術ハンドブ ッ ク , リ ア ラ イ ズ 理 工 セ ン タ ー (2006), pp310-312 3) 山 岡 亜 夫 , 半 導 体 レ ジ ス ト 材 料 ハ ン ド ブ ッ ク , シ ー エ ム シ ー (1996), p217 4) 山本雅史, 五十嵐壮紀, 河野昭彦, 堀邊英夫, 太田裕充, 柳 基典, 電子 情 報 通 信 学 会 C Vol. J93-C No.10 pp.353-359 5) M. Itano, F. W. Kern, Jr., M. Miyashita, and T. Ohmi, IEEE Trans. Semicond.Manuf., 6(1993), 258. 6) J.F.Ziegler, J. P. Biersack, and M. D. Ziegler,”SRIM, The Stopping and Range of ions in Matter”,Lulu PressCo., Morrisville,NC, USA, 2008. (http://www.srim.org ) 7) J. Matsuo, K. Ichiki, Y. Yamamoto, T. Seki and T. Aoki, Surf.Interface Anal. 44 (2012), 729. 8) M. Yamamoto, Y. Goto, T. Maruoka, H. Horibe, T. Miura, E. Kusano, and S. Tagawa, J. Electrochem. Soc., 156 (2009), H505. 9) M. F. A. Hendrickx, and C. Vinckier, J. Phys. Chem. A, 107(2003), 7574. 10) 日 本 化 学 会 編 , 化 学 便 覧 改 訂 4版 , 丸 善 (1993), p.Ⅱ -301 11) P.W.Atkins, ア ト キ ン ス 物 理 化 学 要 論 , 東 京 化 学 同 人 (1994), p.54 - 103 - 第7章 総括 第7章 総括 半 導 体 デ バ イ ス (IC, LSI)や 液 晶 デ ィ ス プ レ イ (LCD)の 製 造 で は , レ ジ ス ト と 呼 ば れ る 感 光 性 樹 脂 が 用 い ら れ て い る .基 板 上 に 塗 布 し た レ ジ ス ト を 回 路 パ タ ー ン が 描 か れ た フ ォ ト マ ス ク を 通 し て 露 光 し ,現 像 す る こ と に よ り ,レ ジ ス ト 上 に 集 積 回 路 の パ タ ー ン が 転 写 さ れ る .こ の レ ジ ス ト を マ ス ク と し て 基 板 の エ ッ チ ン グ や イ オ ン 注 入 が 行 わ れ ,最 終 的 に 不 要 に な っ た レ ジ ス ト を 除 去 す る . 現 在 , レ ジ ス ト 除 去 工 程 で は 酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ や 薬 液 (硫 酸 -過 酸 化 水 素 水 )が 用 い ら れ て い る .酸 素 プ ラ ズ マ ア ッ シ ン グ は 高 温 プ ロ セ ス で ,薬 液 は 高 環 境 負 荷 で あ る と い う 問 題 が あ り ,こ れ ら を 解 決 す る 新 規 な レジスト除去技術の開発が産業界で強く求められている. 本 研 究 で は ,薬 液 フ リ ー か つ 低 温 プ ロ セ ス で あ る 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 に よ る レ ジ ス ト 除 去 技 術 の 高 度 化 を 目 指 し た .こ の 方 式 は ,オ ゾ ン ガ ス を 温 水 に バ ブ リングし生成した湿潤オゾンを大気圧下でレジストに照射するものである. オ ゾ ン は フ ッ 素 に 次 ぐ 高 い 酸 化 還 元 電 位 を 持 ち ,酸 化 力 が 高 い た め ,酸 素 プ ラズマアッシングや薬液に替わる新規なレジスト除去方式になる見込みが あ る と 言 え る .そ こ で 筆 者 は ,湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 に つ い て 湿 潤 オ ゾ ン の 照 射 条 件 ,湿 潤 オ ゾ ン と レ ジ ス ト と の 反 応 メ カ ニ ズ ム ,さ ら に イ オン注入されたレジストの除去性について詳細に検討した. 本 論 文 は , 第 1 章 (序 論 ), 第 2 章 か ら 第 6 章 (本 論 ), 第 7 章 (総 括 )か ら 構 成されている. 第 1 章 で は ,本 論 文 の 背 景 ,レ ジ ス ト の 光 化 学 反 応 機 構 及 び ,目 的 及 び 構 成について述べた. 第 2 章 で は ,最 適 湿 潤 オ ゾ ン 照 射 条 件 の 検 討 に つ い て 述 べ た .レ ジ ス ト 除 去 速 度 は 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 水 分 量 に 大 き く 影 響 さ れ ,最 適 量 の 水 分 を 供 給 す る た め の 温 度 差 (= 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 - 基 板 温 度 )の 制 御 が 非 常 に 重 要 で あ る こ と を 実 証 し た .条 件 の 最 適 化 に よ り ,半 導 体 プ ロ セ ス で 要 求 さ れ る 除 去 速 度 の 約 1.8 倍 (1.8µ m/min)を 達 成 し ,さ ら に 一 般 的 な ド ラ イ ア ッ シ ン グ 方 式 の - 104 - 第7章 総括 活 性 化 エ ネ ル ギ ー と 比 較 し 10~ 20 kJ/mol 小 さ い こ と を 明 ら か に し た . 第 3 章 で は ,化 学 構 造 の 異 な る ポ リ マ ー の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 性 と 分 光 学的手法を用いた湿潤オゾンとポリマーとの反応メカニズムの解析につい て 述 べ た . 各 露 光 波 長 用 (i 線 (365 nm), KrF(248 nm), ArF(193 nm))レ ジ ス ト の ベ ー ス ポ リ マ ー ( ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , ポ リ ビ ニ ル フ ェ ノ ー ル :PVP, ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル :PMMA) 及 び そ れ ぞ れ に 類 似 し た 化 学 構 造 の ポ リ マ ー (cis-1,4- ポ リ イ ソ プ レ ン , ポ リ ス チ レ ン :PS, ポ リ 塩 化 ビ ニ ル :PVC) の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 反 応 を 解 析 し た .FT-IR 測 定 よ り ベ ン ゼ ン 環 を 主 鎖 に 持 つ ポ リ マ ー は 主 鎖 の 切 断 に よ る 分 解 反 応 ,側 鎖 に ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ ポ リ マ ー は ベ ン ゼ ン 環 が カ ル ボ ン 酸 に 変 化 し ,カ ル ボ ン 酸 ポ リ マ ー と な る こ と に よ っ て 除 去 さ れ た と 言 え る .さ ら に ,湿 潤 オ ゾ ン 方 式 で は ,除 去 速 度 は ポ リ マ ー の 分 子量に依存しないことを明らかにした. 第 4 章では,化学構造の異なるポリマーの湿潤オゾンによる除去を行い, FT-IR 及 び in situ FT-IR に よ り 反 応 生 成 物 と ポ リ マ ー 除 去 中 の ア ウ ト ガ ス 分 析 か ら ポ リ マ ー と レ ジ ス ト と の 除 去 反 応 機 構 を さ ら に 明 ら か に し た .ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 は 湿 潤 オ ゾ ン に よ り 主 鎖 が 低 分 子 化 さ れ ,カ ル ボ ン 酸 を 経 て ,最 終 的 に CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ る . 一 方 , PVP は 側 鎖 の ベ ン ゼ ン 環 に 湿 潤 オ ゾ ン が 反 応 し ,ポ リ マ ー は カ ル ボ キ シ ル 基 を 持 つ 水 溶 性 ポ リ マ ー (ポ リ ア ク リ ル 酸 )に 変 化 し ,副 生 成 物 の カ ル ボ ン 酸 の 一 部 は オ ゾ ン に よ り 酸 化 さ れ , CO 2 な ど の 低 分 子 ガ ス に ま で 分 解 さ れ る . 第 5 章 で は ,イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 変 質 層 の 化 学 構 造 の 解 析 結 果 に つ い て 述 べ た . UV, XPS 及 び FT-IR 測 定 よ り ヒ ド ロ キ シ ル 基 の ピ ー ク 強 度 は 低 下 し , ベ ン ゼ ン 環 由 来 の ピ ー ク 強 度 が 増 加 し た .こ れ よ り ,レ ジ ス ト 変 質 層 は ポ リ マ ー 中 の ヒ ド ロ キ シ ル 基 が 脱 離 し ,架 橋 し た 構 造 で あ る た め 除 去 が 困 難 に な ることを初めて解明した. 第 6 章 で は , イ オ ン 注 入 条 件 (イ オ ン 種 , 注 入 量 , 加 速 エ ネ ル ギ ー )の 異 な る レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 に よ る 除 去 性 に つ い て 述 べ た .レ ジ ス ト 断 面 の SEM 観 察 や 溶 剤 を 用 い た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 剥 離 現 象 の 観 察 よ り , イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト 表 面 に 変 質 層 が 存 在 す る こ と を 明 確 に し た .湿 潤 オ ゾ ン に よ る レ ジ ス ト 除 去 に お い て ,注 入 量 の 増 加 (5×10 1 3 →5×10 1 4 →5×10 1 5 /cm 2 )に し た が っ て レ ジ ス ト 表 面 の 硬 さ が 増 加 し ,レ ジ ス ト は 除 去 さ れ に く く な っ た .注 入 量 , 加 速 エ ネ ル ギ ー を 固 定 し , イ オ ン 種 (ホ ウ 素 :B, リ ン :P)つ い て 比 較 し - 105 - 第7章 総括 た 場 合 ,B イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト は P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト よ り 容 易 に 除 去 さ れ た .イ オ ン 注 入 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン (SRIM2008)結 果 よ り ,B イ オ ン は P イ オ ン よ り 軽 く ,レ ジ ス ト の 奥 深 い 部 分 ま で 注 入 さ れ る .こ の 際 ,イ オ ン が レ ジ ス トに与えるエネルギーが分散するため,レジスト硬化の度合いは B イオン 注 入 レ ジ ス ト の 方 が P イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト に 比 べ て 低 く な り ,除 去 さ れ や す く な っ た と 推 察 さ れ る .注 入 イ オ ン 種 ,注 入 量 を 固 定 し た 場 合 ,加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に 伴 い ,レ ジ ス ト 除 去 は 困 難 に な っ た .こ れ は 加 速 エ ネ ル ギ ー の 増 加 に し た が っ て レ ジ ス ト 表 面 の 硬 さ が 増 加 し た た め で あ る と 言 え る .た だ し ,レ ジ ス ト の 塑 性 変 形 硬 さ が 未 注 入 レ ジ ス ト の 2 倍 以 下 で あ れ ば 未 注 入 レ ジ ス ト と ほ ぼ 同 様 に 除 去 で き , ま た 1×10 1 5 /cm 2 の 高 イ オ ン 注 入 量 に お い て も 加 速 エ ネ ル ギ ー が 3keV 程 度 で あ れ ば 除 去 可 能 で あ る こ と を 明 確 に し た . 第 2 章 か ら 第 6 章 ま で を 総 括 す る と ,ベ ン ゼ ン 環 を 主 鎖 ま た は 側 鎖 に 持 つ ポ リ マ ー (ノ ボ ラ ッ ク 樹 脂 , PVP)は 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 が 可 能 で あ る . し た が っ て , 本 方 式 は i 線 用 レ ジ ス ト , KrF エ キ シ マ レ ー ザ ー 用 レ ジ ス ト に 適 用 可 能 で あ る . ま た , 現 在 開 発 中 の EUV 用 レ ジ ス ト も 分 子 内 に ベ ン ゼ ン 環 を 持 つ た め 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 が 可 能 と 推 察 さ れ る .イ オ ン が 注 入 さ れ た レ ジ ス ト は , 150 keV の 高 加 速 エ ネ ル ギ ー で あ っ て も イ オ ン 注 入 量 が 5×10 1 3 /cm 2 程 度 で あ れ ば 注 入 イ オ ン 種 に 関 わ ら ず 除 去 可 能 で あ る こ と を 示 し た .さ ら に , 実 プ ロ セ ス に 近 い 3 keV の 加 速 エ ネ ル ギ ー で 高 イ オ ン 注 入 量 (1×10 1 5 /cm 2 )の i 線 用 レ ジ ス ト ,KrF エ キ シ マ レ ー ザ ー 用 レ ジ ス ト も 加 速 エ ネ ル ギ ー が 3 keV 程 度 で あ れ ば 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い て 除 去 で き る こ と を 解 明 し た . 第 7 章は結論であり,以上 6 章で得られた知見についてまとめた. 本 研 究 成 果 は ,低 環 境 負 荷 ,か つ 低 温 プ ロ セ ス で あ る 湿 潤 オ ゾ ン 方 式 の 半 導 体 デ バ イ ス や 液 晶 デ ィ ス プ レ イ 製 造 へ の 適 用 性 を 実 証 し た も の で あ り ,レ ジスト除去技術の発展に貢献できるものと期待する. - 106 - 第7章 総括 謝辞 本 論 文 は ,多 く の 方 々 に お 力 添 え 頂 い た 賜 物 で す .こ こ に ,筆 者 の 深 甚 な る謝意を表します. 本研究の遂行に際し,終始懇篤なる御指導,御鞭撻を賜りました大澤 敏 教 授 (主 査 ), 堀 邊 英 夫 教 授 に 心 か ら 謝 意 を 表 し ま す .本 研 究 の 研 究 費 用 を 負 担 し て い た だ き ま し た 独 立 行 政 法 人 新 エ ネ ル ギ ー・産 業 技 術 総 合 開 発 機 構 (NEDO)に 甚 大 な る 謝 意 を 表 し ま す . 素 晴 ら し い 研 究 環 境 を ご 提 供 下 さ い ま した金沢工業大学ものづくり研究所に深厚なる謝意を表します. 本 論 文 の 作 成 に 際 し ,副 査 と し て 懇 切 な る 御 指 導 を 賜 り ま し た ,金 沢 大 学 理工研究域 物質化学系 山岸 忠明 教授,金沢工業大学大学院 工学研究科 バイオ・化学専攻 露本 伊佐男 教授,同専攻 谷口 昌宏 教授,金沢工業大 学大学院 工学研究科 電気電子工学専攻 前田 正彦 教授に深く感謝申し上げ ます. オ ゾ ン 発 生 装 置 及 び in situ FT-IRを お 借 り す る と と も に 原 著 論 文 に 関 し ま して多大な御助言を賜りました岩谷産業株式会社 中央研究所 小池 国彦 理 事 ,西 村 宏 博 士 ,古 谷 政 博 氏 に 深 厚 な る 謝 意 を 表 し ま す .微 小 押 込 み 硬 さ 試 験 機 を お 借 り し ま し た ,金 沢 工 業 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 バ イ オ・化 学専攻 草野 英二 教授に深く感謝致します.さらに,本研究を遂行するに あたりご援助およびご協力をいただきました株式会社 明電舎 花倉 満 氏, 三浦 敏徳 氏に感謝の意を表します. 大 学 在 学 中 に 御 指 導 頂 き ま し た ,大 橋 憲 太 郎 教 授 ,小 松 優 教 授 ,藤 永 薫 教授,土佐 光司 教授,大嶋 俊一 講師,坂本 宗明 講師,渡辺 雄二 郎 講 師 に 心 か ら 謝 意 を 表 し ま す .本 研 究 に 際 し て ,実 験 遂 行 に 惜 し み な い 協力を頂いた金沢工業大学大学院 工学研究科 電気電子工学専攻 河野 昭彦 講 師 ,山 本 雅 史 博 士 ,五 十 嵐 壮 紀 君 ,上 田 裕 樹 君 ,北 井 龍 太 君 ,佐 藤 翼 君 , 龍 田 純 君 ,筆 谷 友 貴 君 ,丸 岡 岳 志 君 ,宮 川 直 子 さ ん ,な ら び に 大 城 浩 徳 君 , 加 藤 大 輝 君 ,川 代 聡 君 ,北 野 強 也 君 ,杉 林 敬 太 君 ,中 尾 昭 和 君 ,矢 田 賢 治 君,安形行広君に厚く感謝の意を表します.最後に心身共に支えて下さっ た両親,祖父母,妹に心から感謝いたします. - 107 - 第7章 総括 研究業績目録 【論文】 1. H. Horibe, M. Yamamoto, Y. Goto, T. Miura, and S. Tagawa,“ Removal characteristics of resists having different chemical structures by using ozone and water”, Jpn. J. Appl. Phys., 48(2009), 026505. 2. Y. Goto, T. Maruoka, M. Yamamoto, H. Horibe, E. Kusano, T. Miura, M. Kekura, and S. Tagawa, “Removal of ion implanted resists with various acceleration energy levels using wet ozone”, J. Photopolym Sci. Technol., 22 (2009), 321. 3. M. Yamamoto, Y. Goto, T. Maruoka, H. Horibe, T. Miura, E. Kusano, and S. Tagawa,“Removal of Ion-Implanted Photoresists Using Wet Ozone”, J. Electrochem. Soc., 156(2009), H505. 4. Y. Goto, K. Kitano, T. Maruoka, M. Yamamoto, A. Kono, H. Horibe, and S. Tagawa, “Removal of polymers with various chemical structures using wet ozone”, J. Photopolym Sci. Technol., 23(2010), 417. 5. Y. Goto, Y. Angata, M. Igarashi, M. Yamamoto, T. Nobuta, T. Iida, A. Kono, and H. Horibe, “Study of the removal of ion-implanted resists using wet ozone”, Jpn. J. Appl. Phys., 51 (2012), 026504. 6. Y. Goto, Y. Angata, A. Kono, N. Makihira, K. Koike, and H. Horibe, “Removal of ion-implanted resists using high concentration wet ozone”, J. Photopolym Sci. Technol., 25 (2012), 445. 7. 後藤 洋介・船坂 知宏・山本 雅史・小池 国彦・堀邊 英 夫 , “湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 反 応 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー 評 価 ”,高 分 子 論 文 集 , 70 (2013), 295. 8. Y. Goto, Y. Angata, M. Yamamoto, T. Seki, J. Matsuo and H. Horibe, “Removal of ion implanted poly vinyl phenol using wet ozone” , Photopolym Sci. Technol., 26(2013), 467. - 108 - J. 第7章 総括 【発表】 国際学会 1. H.Horibe, M.Yamamoto, T.Maruoka, Y.Goto, A.Kono, I.Nishiyama, T.Sanada, T.Mashiko, and S.Tagawa,“Ion-implanted Resist Removal Using Atomic Hydrogen”, HWCVD6, France, HW6-2 国内発表 1. 後藤洋介,山本雅史,堀邊英夫,三浦敏徳,花倉 満,草野英二,田川 精 一 ,“湿 潤 オ ゾ ン に よ る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除 去 ”, 応 用 物 理 学 会 北 陸 ・ 信 越 支 部 学 術 講 演 会 ,1D-01 2. 後藤洋介,丸岡岳志,山本雅史,河野昭彦,堀邊英夫,草野英二,三浦 敏 徳 , 花 倉 満 , 田 川 精 一 ,“加 速 エ ネ ル ギ ー を 変 え た イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 湿 潤 オ ゾ ン に よ る 除 去 (2)”, 第 70 回 応 用 物 理 学 会 学 術 講 演 会 (富 山 ), 11a-ZF-10 3. 河 野 昭 彦 , 後 藤 洋 介 , 丸 岡 岳 志 , 安 形 行 広 , 堀 邊 英 夫 , 水 谷 文 一 , “Xe 2 エ キ シ マ UV 光 に よ る レ ジ ス ト 除 去 ”, 第 71 回 応 用 物 理 学 会 学 術 講 演 会 (長 崎 ), 14p-ZA-5 4. 安 形 行 広 , 後 藤 洋 介 , 河 野 昭 彦 , 牧 平 尚 久 , 小 池 国 彦 , 堀 邊 英 夫 , “高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 ”, 平 成 22 年 度 応 用 物 理 学 会 北 陸 ・ 信 越 支 部 学 術 講 演 会 (石 川 ), B-05 5. 安 形 行 広 , 後 藤 洋 介 , 河 野 昭 彦 , 牧 平 尚 久 , 小 池 国 彦 , 堀 邊 英 夫 , “高 濃 度 湿 潤 オ ゾ ン に よ る フ ォ ト レ ジ ス ト の 高 速 除 去 ”,第 58 回 応 用 物 理 学 関 係 連 合 講 演 会 (神 奈 川 ), 24p-BA-9 6. 後藤洋介,安形行広,五十嵐壮紀,山本雅史,信田拓哉,飯田貴之,堀 邊 英 夫 ,“湿 潤 オ ゾ ン に よ る 加 速 エ ネ ル ギ ー の 異 な る イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 除 去 性 ”, 第 8 回 Cat-CVD 研 究 会 (石 川 ), P8 7. 安形行広,後藤洋介,船坂知宏,河野昭彦,牧平尚久,小池国彦,山岸 忠 明 , 堀 邊 英 夫 , “環 境 に 優 し い ポ リ マ ー 除 去 技 術 に つ い て ”, 第 277 回 電 気 材 料 技 術 懇 談 会 若 手 研 究 発 表 会 (大 阪 ), 277-6 - 109 - 第7章 8. 安形行広,後藤洋介,船坂知宏, 河野昭彦,西村 総括 宏,牧平尚久,小 池 国 彦 ,山 岸 忠 明 ,堀 邊 英 夫 ,“湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー 除 去 の 反 応 メ カ ニ ズ ム の 解 明 ”, 平 成 23 年 度 応 用 物 理 学 会 北 陸 ・ 信 越 支 部 学 術 講 演 会 (石 川 ), 18p-C-06 9. 船坂知宏,安形行広,後藤洋介,河野昭彦,西村 宏,牧平尚久,小池 国 彦 ,堀 邊 英 夫 ,“湿 潤 オ ゾ ン を 用 い た レ ジ ス ト 除 去 に 及 ぼ す 基 板 温 度 及 び 湿 潤 オ ゾ ン 温 度 の 影 響 ”, 平 成 23 年 度 応 用 物 理 学 会 北 陸 ・ 信 越 支 部 学 術 講 演 会 (石 川 ), 18p-C-07 10. 後 藤 洋 介 , 山 本 雅 史 , 河 野 昭 彦 , 堀 邊 英 夫 ,“イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 構 造 解 析 ”, 第 60 回 高 分 子 学 会 北 陸 支 部 学 術 講 演 会 (金 沢 ), C-9 11. 安 形 行 広 , 船 坂 知 宏 , 後 藤 洋 介 , 河 野 昭 彦 , 西 村 宏, 古谷政博, 牧平尚 久 , 小 池 国 彦 , 山 岸 忠 明 , 堀 邊 英 夫 , “湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー 除 去 の 反 応 メ カ ニ ズ ム の 解 明 (Ⅱ )”, 第 59 回 応 用 物 理 学 関 係 連 合 講 演 会 (東 京 ), 16a-A5-9 12. 後 藤 洋 介 , 山 本 雅 史 , 信 田 拓 哉 , 飯 田 貴 之 , 河 野 昭 彦 , 堀 邊 英 夫 ,“イ オ ン 注 入 レ ジ ス ト の 構 造 解 析 (2)”, 第 59 回 応 用 物 理 学 関 係 連 合 講 演 会 (東 京 ), 18p-A4-4 13. 安 形 行 広 , 柄 崎 絵 美 , 後 藤 洋 介 , 高 橋 聖 司 , 小 池 国 彦 , 山 岸 忠 明 , 堀 邊 英 夫 , “湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー 除 去 の 反 応 メ カ ニ ズ ム の 解 明 (Ⅲ )”, 平 成 24 年 度 応 用 物 理 学 会 北 陸 ・ 信 越 支 部 学 術 講 演 会 (富 山 ), 16p-A-4 14. 柄 崎 絵 美 , 安 形 行 広 , 後 藤 洋 介 , 高 橋 聖 司 , 小 池 国 彦 , 堀 邊 英 夫 , “湿 潤 オ ゾ ン 方 式 に よ る レ ジ ス ト 除 去 時 の 金 属 薄 膜 へ の ダ メ ー ジ ”, 平 成 24 年 度 応 用 物 理 学 会 北 陸 ・ 信 越 支 部 学 術 講 演 会 (富 山 ), 16p-A-6 15. 後 藤 洋 介 ,安 形 行 広 , 柄 崎 絵 美 , 高 橋 聖 司 , 小 池 国 彦 , 山 岸 忠 明 , 堀 邊 英 夫 ,“湿 潤 オ ゾ ン に よ る ポ リ マ ー 除 去 の 反 応 メ カ ニ ズ ム の 解 明 (Ⅳ )”, 第 60 回 応 用 物 理 学 春 季 学 術 講 演 会 (神 奈 川 ), 28p-G8-13 - 110 -