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T4.1.1
[T4.1.1]
貴金属使用量低減水素分離膜の探索・評価
(水素分離膜グループ)
横浜第604研究室
1.
小堀良浩、紺野博文
研究開発の目的
膜分離改質器によって灯油から水素を製造する技術は、次のようなメリットがある。
① 水蒸気改質反応あるいはシフト反応を進行させながら同時に純粋な水素を抜出す。
このため後段の PSA(Pressure Swing Adsorption)のような水素精製装置が不要とな
り、システムを単純化して装置をコンパクト化できる。
② 水素を、、抜き出し平衡をずらしながら反応を行うことで反応温度を低く設定できる。
このため、低コスト化、高効率化に有効である。
このように膜分離改質法は水素社会において、特に分散型水素製造に適したプロセスを
与える。しかし、膜素材としては従来から Pd 系合金膜が用いられてきたが、資源が偏在し
量も限られていること、高価でかつ経済状況や需要動向により価格が大きく変動すること
など国民生活の根幹を支えるエネルギー機器に使用するには好ましくない状況があり、Pd
使用量の低減が望まれている。
本研究開発では後述する Nb 系合金膜、金属微粒子膜の 2 通りの方向から、Pd 使用量を
低減させた水素透過膜の開発を目指した。
2.
研究開発の内容
2.1 Nb 系合金膜
Nb 系合金膜の開発は、北見工業大学と連携して実施した。
従来から、5A 金属である V, Nb, Ta が Pd より高い水素透過能を示すことが知られてい
たが、水素脆化に弱く使用できなかった。本研究において取り扱う Nb-Ti-Ni 合金は水素透
過性に優れた相(初晶(Nb, Ti)相)と水素脆化耐性に優れた相(共晶{TiNi+(Nb, Ti)}相)
に分離する複相合金を形成し、それぞれの相が水素透過性と水素脆化耐性の役割を分担し
て担うので、両方の性質を両立しやすいと言う特徴を持つ。
一方で、本合金系を実用化するまでに解決すべき技術課題を次のように整理した。
①
表面 Pd 層の逸散を防止する方法の確立
本合金膜はその両表面に 100nm 程の Pd 層をスパッタリングなどで付着させることが
水素解離能の付与、あるいは水蒸気など合金を腐食する成分からの保護などのため、必
要とされる。しかし、水素透過試験を行うと透過性能が急激に失われてしまう現象が観
測された。この原因を調べた所、表面を覆っていた Pd が合金内部に拡散し、替わりに
表面が水素解離能のないチタニアで覆われるためであることがわかった。これを防ぐた
めには、まず、Pd の拡散を防止することが必要であり、金属と相溶性のない層を中間層
として Pd と合金層の間に作成することを試みた。
②
相分離構造の最適化(機械的強度)
相分離構造を構成する初晶と共晶では水素の溶解度が異なるので水素に触れた場合
には膨張の度合いが異なる。従って相分離構造の各部に応力が生じ破壊の原因になって
-285-
いると考えられる。そこでモデル化した相分離構造とX線回折から求めた水素吸蔵/放
出時の結晶バラメータを用いて相分離各部にどのような応力が掛かるかを解析し、好ま
しい相分離構造を考察した。
③
相分離構造の最適化(水素透過速度)
合金の薄膜化は圧延で行うため、合金の内部構造は延伸方向の連続性は保たれるが膜
厚方向は反対におびただしい数の界面が水素移動の妨げになる。このために薄膜化して
も水素透過速度は思うようには改善しなかった。そこで、圧延で生じる異方性を解消す
る必要があった。本件については、昨年度合金膜を圧延し薄膜する際、これ以上圧延す
るとフィルムが破けてしまう、と言う極限の加工条件で薄膜化した後熱処理すると比較
的短時間の処理で膜厚方向の水素透過度が回復する現象を見出し、まだ満足とは言えな
いが一応の目処は立てることができたと判断した。そして、むしろ②の課題が目処が立
っておらず重要と考えられたため、これに優先して取り組むこととなった。従って今年
度は③の課題に対する検討は実施しなかった。
2.2 金属微粒子膜
金属微粒子膜の開発は、東京工業大学および岐阜大学と連携して実施した。
これまでに、Pd 金属微粒子の作成方法を検討し、昨年度までに Pd ナノ粒子の合成法を
確立した。またディップコート法を用い多孔質アルミナ中空糸基材上に Pd ナノ粒子薄層を
生成する方法を確立し、Pd 膜を低コストで生成する手法を確立した。
今年度は、同様の手法を用いて、PdAg 及び PdPt の各合金ナノ粒子を作成し、透過型電
子顕微鏡像(TEM)、高解像度 TEM、粉末 X 線解析、SAED(制限視野電子解析図形)などによ
る観察・解析を行った。また、本合金ナノ粒子を用いてディップコートにより多孔質基材
上に薄膜を形成させた。しかし、本膜の水素透過膜としての性能は芳しくなかった。
原 因 検 討 の 結 果 、 Pd ナ ノ 粒 子 の 安 定 化 剤 と し て 添 加 し て い る ポ リ ビ ニ ル ピ ロ リ ド ン
(PVP)が、Pd ナノ粒子同士の接触を阻害しているため水素が移動する経路の連続性が失わ
れている可能性が高いことを見出した。そこで、ナノ粒子を傷めることなく PVP を除去す
る方法の開発を行った。その結果、OH ラジカルを用いて PVP を分解するフェントン法を提
案し、TG-MS による分析を通じて Pd ナノ粒子から PVP が完全に除去できることを確認した。
2.3
開発膜の耐久評価
初期性能については Nb 系合金膜、金属微粒子膜共にそれぞれの評価装置を用いてデー
タを取り、一定レベルに達したと判断されるものについて、長期性能試験を実施する。
一方、必要に応じて耐久性に影響する因子を明らかにし、材料開発の指針を得るために
劣化原因解明を目指した検討を実施する。
項 目
Nb系合金膜の開発
金属微粒子膜の開発
水素分離膜の耐久評価
水素分離膜のコスト評価
平成20 年度
図 2.3.1
平成21 年度
開発スケジュール
-286-
平成22 年度
3.
Nb 系合金膜の開発
Nb-TiNi 合金を水素透過膜合金として用いるためには、水素の解離促進および酸化防止
のために合金表面を Pd で被覆する必要がある。ところが、Pd を被覆した合金を高温で長
時間使用すると、表面の Pd が合金内部へ拡散し、表面での活性が低下する問題が生じた。
そこで本研究では、Pd と合金の間に Pd の拡散を抑制する層を形成させ、Nb-TiNi 合金の性
能低下を抑制できるか否かの検討を行った。
3.1
合金表面の空気酸化による拡散抑制層(中間層)の形成
3.1.1
大気中熱処理した Nb 40 Ti 30 Ni 30 合金の透過性能試験
鏡面研磨した Nb 40 Ti 30 Ni 30 合金を 573-973K の温度範囲で 1-2 時間大気中熱処理したとこ
ろ、熱処理前は銀色の金属光沢を呈しているが、573K から温度の上昇とともに金属光沢の
ある金色、青紫色、灰色に変化する。また試料のX線回折図形を測定することで酸化物の
生成を確認した。
酸化皮膜を形成した Nb 40 Ti 30 Ni 30 合金の水素透過度時間劣化を調べるため、573K にて 100
時間の水素透過試験を行った。図 3.1.1 に大気中熱処理を行った後、スパッタリングによ
り表面 Pd 層を形成した試料の水素透過度の変化を示す。573K で 2 時間熱処理した場合、
初期性能は 3.5 (10 -8 molH 2 m -1 s -1 Pa -0.5 )であり、酸化膜無しの試料より高い値が得られたが、
性能劣化自体を抑制するものではなく、効果としては不十分と言わざるを得ない。
3.1.2
試験前後の表面組成の変化
今回の空気中焼成により作成したサンプルの表面 Pd 層が水素透過性能試験の前後でど
う変化しているか、すなわち Pd 拡散防止にどのくらい効果があったのかを評価するために、
試験前後の表面組成を XPS で測定した(図 3.1.2)。その結果、試験後の表面 Pd は約半分
まで減少する一方、替わりに Ti 濃度が上昇していることが明らかとなった。この結果は、
従来品と基本的に同じ現象であり、今回作成した酸化層の Pd 拡散防止能は限定的であるこ
とがわかった。
100
Ti
組成, atom%
80
60
40
Nb
Pd
20
Pd
0
未使用
図 3.1.1
2 時間焼成処理した
図 3.1.2
評価後
573K で 2 時間大気中焼
Nb 40 Ti 30 Ni 30 合金の水素透過度の経
成 処 理 し た Nb 40 Ti 30 Ni 30 合 金 膜 に
時劣化(焼成温度図中記載、試験
Pd を蒸着後、773K×100h 水素透過
温度 773K)
試験を実施前後の表面組成変化
-287-
3.2
合金表面への酸化物のスパッタリングによる中間層形成
3.2.1
目的
3.1では合金表面を空気中焼成することで酸化物層を形成させたが、表面酸化層の性
質を制御するのは困難であり、今後の展開について示唆が得られる検討ではなかった。そ
こで、性質の分かった固体酸化物薄膜層をスパッタリングで合金表面に作成することを検
討した。そのための材料としては CeO 2 を選択した。これは、CeO 2 がプロトン伝導性を有す
る可能性があり、そうすれば電子伝導性を何らかの形で付与できればトータルとして水素
を通すことができる中間層となる可能性があると考えたからである。
3.2.2
実験
Nb 系合金膜としては3.1と同様のものを用い、スパッタリングにより 70nm の CeO 2 層
を合金表面上に形成させ、更にその上に Pd 金属層を形成させた。こうして得られた水素透
過膜を 773K での水素透過試験に掛け、透過性能の経時的な変化を一昼夜に渡り観測した。
3.2.3
結果
水素透過試験の結果を図 3.2.1 に示す。残念ながら合金の表面酸化により中間層を導入
する方法は、初期透過係数を低下させた上に、経時的な性能低下も防ぐことはできなかっ
た。また、試験前後の表面組成を比較すると、図 3.2.2 のように、試験前には表面のほと
んどは Pd で覆われていたにもかかわらず、試験後には Pd の表面濃度は大きく低下し替わ
りに、他例と同様に Ti、そして今回スパッタリングで供給した Ce 酸化物が表面を覆った。
温度: 500℃
圧力: 非透過0.2MPaG
透過 0.0MPaG
3.5
100
Ti
80
3.0
組成, atom%
透過係数, 10^-8 mol-H2/m/s/Pa^1/2
4.0
2.5
2.0
CeO2層
あり
1.5
中間層なし
1.0
Nb
60
40
Pd
Ce
20
0.5
Pd
0.0
0
5
10
15
時間, hours
20
25
0
未使用
評価後
図 3.2.2 CeO 2 中間層を導入した
図 3.2.1 CeO 2 中間層が透過
サンプルの水素透過
係数に及ぼす影響
実験(773K, 24h)前後
の表面組成の比較
3.3
今後に向けて
中間層として機能する材料は次のような条件を満たす必要がある。
1) 金属と相溶せず、金属の中間層を越える動きを阻止する。
2) 合金中に含まれる Ti など強い還元能力の合金成分と接触しても変質しないこと。
-288-
3) 水素伝導性を有すこと(プロトン伝導性+電子伝導性でも可)
4) 合金と Pd に挟まれた安定な薄膜を形成可能なこと。
5) コストが安く、資源的な課題の少ない材料で構成すること。
このような材料を見出すのは簡単ではなく、場合によっては膜本体の組成を Nb,Ni,Ti
以外に求めることが必要になる可能性もあると考えている。
4.
Nb 系水素透過複相合金の相構造と内部ひずみの関係
4.1 解析方法
本研究では複相構造を有する Nb 系水素透過合金について、水素吸蔵時の強度特性に影
響を及ぼすと考えられる不均一ひずみを X 線回折実験とそのデータに基づくシミュレーシ
ョンによって検討する。試験片材料として共晶部分にラメラ構造を持たない Nb 19 Ti 40 Ni 41
複相合金を新たに開発し、従来型の Nb 40 Ti 30 Ni 30 複相合金との比較を行った。
4.2 実験と結果
検討に用いた 2 種類の合金の SEM 像を図 4.2.1 に示す。(A)は共晶がラメラ構造を示す
縞模様を有するのに対し(B)の共晶部分には微細構造は見られない。本合金の水素吸蔵前後
での結晶変形挙動をX線回折法を用いて調べた。チャンバー内を常温・真空状態から 673K
まで温度を上げ、水素を 0.5MPa で吸蔵する。その後、温度を保ったままチャンバー内から
水素を抜き、真空状態にする。それぞれの状態で X 線回折測定を行う。回折 X 線プロファ
イルは水素吸蔵、放出の過程で生じる歪みを受けてブロードニングする。これを解析する
ことで(Nb,Ti)相と TiNi 相の結晶子サイズ、不均一ひずみについて定量的に評価した。
(Nb,Ti)
TiNi
(Nb,Ti)
(Nb,Ti)+TiN
ラメラ構造を持つ
ラメラ構造を持たない
(A) Nb 40 Ti 30 Ni 30
図 4.2.1
(B) Nb 19 Ti 40 Ni 41
比較した2種類の複相合金の SEM 像
共晶部は初晶部の膨張により大きな変形を受けるが、これは共晶組織のない方が大きく、
水素を放出した後の残留不均一ひずみも大きいこと、その結果、水素吸蔵時の強度特性を
考慮した相構造としては共晶組織を有する方が有利と考えられる、などの結論に至った。
-289-
5.
5.1
水素透過膜のためのパラジウム合金ナノ粒子の合成と PVP 除去
概要
これまでに、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,Nジメチルアセトアミド(DMAc)などアミド系化合物を還元溶媒として、また少量のポリ
ビニルピロリドン(PVP)をキャッピング剤として用いることで、様々な形状やサイズを
有する Pd や Pt のナノ粒子の合成手法を確立してきた。また PVP の分子量が生成物に与
える影響を評価し、PVP のキャッピング剤としての効果の確認も行った。さらにディップ
コート法を用いて、400-500nm の薄い Pd ナノ粒子層をアルミナチューブラー基材上に作
成することができた。しかし、こうして得られた膜は水素透過に対して全く選択性を示さ
なかった。
5.2
Pd 合金ナノ粒子の合成・評価
5.2.1
パラジウム銀(PdAg)ハイブリッドナノ粒子の合成・評価
最初に Ag ナノ粒子を生成させ、これを核として Pd を被せる手法を用いて One-Pot 法で
パラジウム銀ナノ粒子を作成した。1mM AgNO 3 水溶液 5mL に 2 mg の PVP を溶解させ 140℃
で 30 分間熱すると、Ag ナノ粒子の生成(Ag + イオンの還元)に伴い、溶液は白みを帯びて
くる。上記の Ag 水溶液の中に、10 mM の PdCl 2 と 4 mg の PVP、3 mL の NMP の混合溶液を加
えると、加えた時点で黄色みを帯びている溶液は、Pd 2+ の還元に伴い暗褐色へと変化する。
得られたナノ粒子の TEM 像を図 5.2.1 に示す。
20nm
20nm
図 5.2.2
図 5.2.1 PdAg ナノ粒子の TEM 像
直径 10-20nm の範囲で分布が見られる
5.2.2
PdPt ナノ粒子
直径 5-6nm で分布が狭い
パラジウム白金(PdPt)ハイブリッドナノ粒子の合成・評価
Pd と Pt の性質が近いため、同時に還元させてナノ粒子を生成させる方法が有効である。
25 mM のクロロ白金酸 1 mL と 25 mMPdCl 2 水溶液 1 mL の混合溶液に 5.2 mg の PVP を加え、
超音波を用いて溶解させた。Pt 4+ と Pd 2+ の濃度がそれぞれ 5 mM になるように 3 mL の NMP
を加え、溶存酸素を取り除くために 30 分間 N 2 ガスでパージした後、140℃25 分間で Pt と
Pd の同時還元を行った。14 分間の反応の後、溶液色は淡黄色から褐色に変化した。図 5.2.2
に示した PdPt ナノ粒子の TEM 像からは、大きさが 5-6 nm で、サイズ分布が狭い粒子が生
成していることが見て取れる。
-290-
5.3
Pd ナノ粒子コーティング膜のガス透過性
5.3.1
ガス透過性の評価
700nm の空孔を持つ 1mm の基材層(空孔率 35-37%)と 70nm の空孔を持つ 80-100μmの
表面層(空孔率 35-37%)の内外二層からなるアルミナチューブラー基材をアセトンで洗浄
した後、ディップコーターを用いて Pd ナノ粒子のコーティングを行った。
基材の気体透過性を図 5.3.1(a)に、Pd ナノ粒子膜の気体透過性を図 5.3.1(b)に示す。
基材に比べ Pd ナノ粒子膜では同じ圧力をかけた時に透過する気体量が約 1/3 倍となってい
る。これは再現性のある結果であり、すなわち非常に薄い Pd ナノ粒子層が気体抵抗層とし
て存在していることを示している。但しこの時点において H 2 と N 2 の透過選択性は基材と大
差なく、Pd とは別の部分が透過抵抗になっている可能性が高いことが示唆された。
(a) 多孔質基材
図 5.3.1
5.3.2
(b) Pd ナノ粒子を4回ディップコート
水素および窒素の透過特性
Pd PVP ナノ粒子の熱重量測定-質量分析(TG-MS)結果
この原因を追究するため、空気雰囲気中に
おける Pd ナノ粒子の TG-MS を測定した。図
6.4.1 に示す結果から、350-450℃の領域にお
いて CO 2 の脱離を伴う 20 wt%の重量減少が観
測された。MS(CO 2 )に見られる 2 つのピークは
それぞれ主鎖とピロリドン環の切断によるピ
ークと考えられ、PVP の分解がこの温度領域
で生じていることが考えられる。450℃以上で
の重量増加は酸化白金の生成によると推察さ
れる。
TG の 結 果 か ら は 重 量 比 率 に し て 約 20%の
PVP が Pd ナノ粒子の中に含まれていることが
図 5.3.2 Pd PVP ナノ粒子の TG-MS
示唆されている。Pd の密度が約 12 g/cm 3 であ
ることを考えると、実に Pd ナノ粒子のうちの 75vol%が PVP であることを示唆している。
-291-
すなわち図 5.3.3 の模式図に示す通り、Pd の周辺に存在する PVP 中を H 2 が透過してしまっ
ていることが考えられる。
図 5.3.3 PVP で覆われた Pd ナノ粒子では水素透過が非選択的になる理由
5.3.3
フェントン法による PVP の分解
Pd の合金ナノ粒子化から PVP を取り除く手法として、ラジカルにより PVP を分解する手
法に関して検討を行った。フェントン反応は次式にに示すように、
Fe 2+ + H 2 O 2 → 2 OH・
式(6.4.1)
OH ラジカルを生成し、C-C 結合などを切断する反応であり、ラジカル耐久試験によく用
いられる方法である。そこで、様々な条件で反応を行い、PVP 由来のピークが TG-MS に現
れなくなる条件を探索した。その結果、Pd ナノ粒子 20 mg を、H 2 O 2 0.3 %・FeSO 4 3 ppm
の水溶液 100 mL 中に導入し、OH ラジカルが消費された後に順次 H 2 O 2 を 0.3 %の濃度で計 4
回加える操作を行い、Pd 周りの PVP の更なる分解すると言う条件を見出した。なお、反応
は 80℃で行った。この結果は図 5.3.4 の青のラインに示したとおり、CO 2 の MS スペクトル
には何も観測されず、本条件で PVP は完全に分解することが強く示唆された。
図 5.3.4
フェントン反応で処理した後の Pd PVP ナノ粒子の TG-MS 結果。
-292-
5.4
結論
One-Pot 法を応用し PdAg 及び PdPt の合金ナノ粒子化に成功した。特に PdPt 合金ナノ粒
子では、XRD の結果などから、コアシェル構造ではなく均一な合金ナノ粒子が生成されて
いる可能性が強く示唆された。
Pd ナノ粒子をディップコートした膜において気体透過性を測定したところ、Pd ナノ粒
子周りに存在する PVP のため、H 2 と N 2 の透過選択性を得ることはできなかった。Pd ナノ粒
子から PVP を除去するために、Pd ナノ粒子の合金化+熱処理及び OH ラジカルによる PVP
分解の 2 通りの方法を提案し、前者は合金ナノ粒子化に成功、後者は OH ラジカルの量論を
考えることで、PVP の完全分解が可能なことを示した。
以上の結果を踏まえ、Pd ナノ粒子膜から PVP を分解除去することで、Pd ナノ粒子によ
る新たな分離性能が発現することが期待される。
-293-
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