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金属加工分野の技術支援をさせてもらって
たくみ 青森県産業技術センターの匠のお話あれこれ② 金属加工分野の技術支援をさせてもらって 地方独立行政法人 青森県産業技術センター 佐々木 正司 八戸地域研究所 1 .金属加工との出会い 全くと言っていいほど学校で勉強しなかった 鉄鋼材料や金属加工ですが、会社内で先輩方々 学生時代は鉱物を化学的に分離する研究をし から懇切丁寧に指導してもらい、時にはお酒を ていましたので、化学や粉体工学の知識を利用 交えた甲斐もあり、5 年くらいして、なんとな して資生堂や花王といった生活関連商品を扱う くわかってきたような記憶があります。その頃 会社の研究所で仕事したいと思っていました。 は毎年、 「鉄鋼分野から離れたい」とか生意気 しかし、就職活動のはがきを出しても返事が来 なことを人事異動調査に書いていたこともあり ず、困っていた矢先、研究室の先輩からの“暖 ましたが、脚光を浴びた新素材ブームも影を潜 かい”お誘いがあり、 “思いもしない”鉄鋼メーカ め、鉄鋼分野で生きていくしかなかった時代で ー(新日本製鐵(株) 、現在の新日鐵住金) に勤める した。 ことになったのがこの分野との出会いでした。 しかし、大企業ならではの教育制度の充実さ 最初に配属された釜石技術研究室に11年勤 に助けられ、いろんな研修を受けさせてもらっ 務しました(写真 1 )。バブル絶頂期を経験し たことや、いろんな種類の鉄の製造ラインやユ た後は長い鉄鋼不況でしたので、売れる商品を ーザーの製造現場を体験できたことは今の礎に つくるためにコストの重要さを痛切に勉強しま なっています。 した。また、会社の景気に引きずられるかのよ うに、釜石自慢だったラグビーも低迷し、応援 2 .今の仕事に就いて に行くとがっかり肩を落として帰ることが多い 日々でした。 縁あって、生まれ故郷である本県に戻り、企 写真1 会社時代の仲 間と、愛用し た実験設備の 前で( 中央が 筆者) 業の技術支援という仕事に就くことになりまし た。一口に支援といっても多くの仕事があり、 これまで経験してきた“研究開発”はそのうち の一つに過ぎないことを痛感しました。 公設試験研究機関の使命の一つである技術相 談、依頼試験に加え、技術の普及、助成金活用 39 の支援、講習会の開催、各種審査などなど。 程のイメージがつかめないとできませんので、 さ ら に、 金 属 加 工 分 野 に お け る 共 同 研 究 詳しく情報をお聞かせください。 は 1 社と行う場合が多いため、公的な立場で 共同研究する難しさを痛感しています。それゆ え、1 社との共同研究を行って、そこから生ま れる関連技術を広く普及して導入してもらうこ とにも力を入れています(写真 2 ) 。 写真 3 破壊したボルトの表面 ( 2 )金属の溶接・接合について 金属をくっ付ける最もポピュラーな方法に溶 写真 2 研究成果の説明風景 接がありますが、それ以外にも金属の種類、形、 使い方や要求される特性に応じて、たくさんの 3.こんな技術支援ができます 接合方法から適切な方法をご紹介いたします。 レーザ溶接の共同研究を10年行い、企業の ( 1 )金属材料の破断・破損原因 製造ラインに導入してもらった実績もありま 金属加工分野を含め、製造業においては、扱 す。例えば溶接部がどのくらい材料に入り込ん っている材料が破損したなどのトラブル対策は でいるかを調べることで溶接部の強度について 非常に悩ましいですよね。この時、作った自分 の検討もできます(写真 4 ) 。 たちが悪いのか、使ったお客さんが悪いのか、 それとも原料の購入先が悪いのか、原因を見つ けだし、その対策を取らないといけません。こ のような相談には、破損した破面を電子顕微鏡 などで観察し、その形態から原因を推定するこ とができます(写真 3 ) 。 ただし、破面がこすれてつぶれていたり、錆 びたりしていると、原因の特定に結びつかない こともありますので、破断した面には触らず、 写真 4 レーザで溶接した部分の切断面 乾燥剤を入れた箱に保管しておいて、私までお 持ちください。その時、破損品一つから原因を コメントするには、破損が生じた状況、製造工 40 れぢおん青森 2013・2 ( 3 )金属の腐食・錆防止・摩擦低減 会社で鉄線の電気めっき、溶融亜鉛めっきの 研究を行っていました。そのめっきは錆防止、 属線同士をはんだによって接合していた工程を または摩擦を減らすことを目的としていました レーザで接合させる工程に置き換えた共同研究 ので、腐食原因の解明や摩擦低減といったご相 です。自動化によって工程省略ができ、生産性 談にも対応可能です。 を高めたために、企業の利益向上に寄与できま 昨年、県内の塗装店との共同研究で磁石が吸 した(図 1 ) 。 い付く塗装方法を開発しました。塗料中の鉄粉 の錆を発生させない工夫に過去の知識が役立ち ました。現在では、「磁気吸着塗材マグピタッ トウォール」として商品化されています(写 真 5 )。 図 1 従来のはんだ工程をレーザ接合工程 に換えたことによる工程省略例 4 .皆様へのメッセージ 公的試験研究機関は利益を追求するところで 写真 5 保育園の壁に磁気吸着塗材を 施工し、磁石でくっつけた例 (写真左にある装飾など) はないですから、ものを作って売って利益を得 る過程での難しさを経験されている企業の方と 一緒に組まないと実用的なものはできないと思 ( 4 )製造工程の省力化 っています。このため、できるだけ企業との共 今の時代は“品質を下げずにいかに安く作る 同研究という形を取り、最初から企業の方に入 ことができるか”が主流ですので、工程省略の ってもらうことにこだわってきました。一方で 開発も重要です。この場合、エンドユーザーま 企業支援と言っても逆に教えてもらう立場でも で含めた開発体制が必要となってきます。 あると思いますので、常日頃から企業様への訪 本県は、下請け形態が多いこともあり、中小 問、会議や懇親会等を通じてお話しを伺う機会 企業独自でこの開発を行うことは難しいようで を大事にしています。 す。今までよかったものを敢えて別な工程、方 金属加工は、その言葉からすると、地味な古 法に換えるというのは、大きなリスクを伴うか くさいイメージがありますが、ものづくりの基 らです。しかし、こうした事情はよくわかって 礎であり、その知識と技術無くして産業は成り いますので、製造工程に課題がある場合は一声 立ちません。さらに、良い製品を安く作るため かけてください。 にも、皆さんが抱えている課題を一緒に克服し 製造工程の改善例についてご紹介します。金 ましょう。ぜひ、我々をご利用ください。 41