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第5章 優良事例の普及啓発

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第5章 優良事例の普及啓発
第5章 優良事例の普及啓発
はじめに
1 優良事例の選定についての考え方
○今年度は、「活力ある漁村づくり促進事業」における研修会、多角化、子ども達の漁業体験ガイドラ
イン、に地域居住、大学企業連携等、事業全体の取組の中で、優良事例として情報発信すべき事例を幅
広く収集した。
2
優良事例
以下の事例を対象として調査・ヒアリングを行なった。
調査項目
研修会
多角化
優良事例地と内容
類型
・保田漁協(千葉)/ばんや食堂
流通・販売、経営
・岩井漁協(千葉)/道の駅への直営売店・レストラン出店
流通・販売、地域連携
・NPO 館山海辺の鑑定団(千葉)/無人島体験ツアー
体験・交流
・野母崎漁協(長崎)/アンテナショップ・出島朝市
流通・販売、経営
・大村湾漁協(長崎)/「クロナマコ石鹸」商品化
商品開発
・五島市(福江島)大浜漁協/漁業体験への取組
子 ど も 漁 村 ・土佐清水市・窪津漁協(高知)/漁業体験、地元小学校との交流
体験
・若狭三方五湖わんぱく隊(福井)/漁業と観光が連携したツーリズムの取組
その他
3
体験・交流
体験・交流
・志摩市・安乗地区(三重)/安乗ふぐブランド化と観光との相乗
ブランド化
・中土佐町・土佐久礼地区(高知)/大正市場による漁村活性化
流通・販売、地域連携
漁港の広域ネットワー
ク、地域・大学連携
・黒潮町他(高知)/カツオ学会立ち上げと広域の漁村ネットワーク
・愛南町・外泊地区(愛媛)/石垣の漁村景観を活かした活性化
採択地
(10 事例)
体験・交流
観光交流
歯舞、落石、厚岸、標津、豊浦、鼠ヶ関、伊東、西伊豆、上五島、竹富・小浜
成功要因の分析
○事例分析の視点
昨年までと同様の成功要因分析を行い、データベースの蓄積を継続するとともに、今年度の事例に関
しては、事例ごとの「漁村活性化の類型」ごとの成功要因の抽出を実施した。
手順は、以下の通り。
優良事例の所損の活性化ポイントごとの類型化
<類型化の項目>
①流通・販売、経営
②体験・交流、観光業との連携、
③ブランド化、商品開発
④地域連携、ネットワーク
5-1
漁村の活性化の類型ごとの
「成功要因」の分析
→類型ごとに、どの成功要因
が重要となるかを分析す
る。
4 講習会の開催
(1)長崎県島原半島南部漁協「体験型観光・都市漁村交流」を考える講習会
実施日時
講師・
事務局
実施内容
平成 22年 10 月6日(水)~7日(木)
JOYZ
鈴木達志氏、ランドブレイン株式会社
中村、齋藤
・講演会・現地視察・意見交換会
6 日:計 20 名程度(漁協(漁師)、観光協会、南島原市、イルカウォッチングインストラ
クター、NPO 法人がまだすネット(中間支援組織))
参加人数
7 日:計 6 名(漁協、観光協会、南島原市、イルカウォッチングインストラクター、NPO
法人がまだすネット(中間支援組織))
(2)三重県尾鷲市早田
実施日時
講師・
事務局
実施内容
平成 23 年 2 月 25 日(金)~26 日(土)
ランドブレイン株式会社
中村、後藤
・事例紹介・現地視察・意見交換会
25 日:計 11 名(漁協、公民館長、地域づくり部会、仲買人、消防団長、㈱早田大敷 (大
参加人数
型定置企業)、尾鷲市、三重県)
26 日:計 5 名程度(漁協、地域づくり部会、仲買人、早田大敷㈱)
(3)佐良浜漁業協同組合・カツオ漁業の将来ビジョンを考える講習会
実施日時
平成 23 年 3 月 7 日(月)
講師・
事務局
実施内容
愛媛大学農学部教授 若林良和氏、宮古島市農林水産部水産課 課長
ランドブレイン株式会社 中村
・若林先生より話題提供・意見交換会
計 10 名
(佐良浜漁協)7 名
(宮古島市)1 名
(講師、事務局)2 名
参加人数
(4)宮古島漁業協同組合・宮古島市・水産振興計画策定について考える講習会
実施日時
講師・
事務局
実施内容
参加人数
平成 23 年 3 月 8 日(火)
愛媛大学農学部教授 若林良和氏、ランドブレイン株式会社 中村
・若林先生より講演~意見交換会
計 10 名
宮古島市教育委員長、沖縄県・宮古農林水産振興センター・漁港水産班
名
池間漁協 1 名 宮古島市農林水産部水産課 課長 他 2 名
宮古島漁協
2
(5)茅ヶ崎漁業協同組合・魚市場職員を対象とした講習会
5
実施日時
平成 23 年 3 月 15 日(火)
講師・
事務局
(有)鮮魚の達人 山根博信氏、ランドブレイン株式会社
実施内容
・試食会・現地視察(漁港・魚市場)・意見交換会
参加人数
計 10 名(茅ヶ崎漁協)2 名(茅ヶ崎丸大魚市場)8 名
中村、齋藤
漁村活性化の取組事例に関する調査結果
(1)漁村活性化の取組事例の分類
平成 22 年までの全国沿海 40 都道府県における都市漁村交流取組事例の整理・分類を行った。
(2)漁村活性化の取組分類別実施数(H22 年現在の取組について)
今年度の最新情報については、取組分類別に集計を行なった。
(3)漁村活性化の取組詳細分析(H22 年現在の取組について)
今年度の最新情報については分類の内容を再度見直し、より細かい分類での実施内容の分析を行った。
(4)漁村活性化の取組数の推移(H16 年~22 年の取組について)
過年度の情報についても分類の内容を再度見直し、より細かい分類での実施内容の分析を行った。
5-2
1
優良事例の選定についての考え方
○今年度は、「活力ある漁村づくり促進事業」における研修会、多角化、子ども達の漁業体験ガイドライン、
に地域居住、大学企業連携等、事業全体の取組の中で、優良事例として情報発信すべき事例を幅広く
収集した。
調査項目
研修会
多角化
優良事例地と内容
特徴
・保田漁協(千葉)/ばんや食堂
流通・販売
・岩井漁協(千葉)/道の駅への直営売店・レストラン出店
流通・販売
・NPO 館山海辺の鑑定団(千葉)/無人島体験ツアー
体験・交流
・野母崎漁協(長崎)/アンテナショップ・出島朝市
流通・販売
・大村湾漁協(長崎)/「クロナマコ石鹸」商品化
商品開発
子 ど も 漁 ・五島市(福江島)大浜漁協/漁業体験への取組
村体験
・土佐清水市・窪津漁協(高知)/漁業体験、地元小学校 体験・交流
との交流
・若狭三方五湖地区(福井)/漁業体験による活性化
その他
体験・交流
体験・交流
・志摩市・安乗地区(三重)/安乗ふぐブランド化と観光と ブランド化
の相乗
・黒潮町他(高知)/カツオ学会立ち上げと広域の漁村ネ 漁 港 の 広 域 ネ ッ ト ワ
ットワーク
ーク、地域・大学連携
・愛南町・外泊地区(愛媛)/石垣の漁村景観を活かした 漁港の景観整備
活性化
採択地
(10 事例)
歯舞、落石、厚岸、標津、豊浦、鼠ヶ関、伊東、西伊豆、上五島、竹富・小浜
○上記の表を見ると、取り組みの特徴から、大きく4つの類型に分けることができる。
類型
事例・地区
類型1
流通・販売
①保田地区、②岩井地区、⑤野母崎地区
類型2
ブランド化・商品開発
④大村湾漁協、⑧安乗地区
類型3
体験・交流
③館山地区、⑥五島市大浜地区、⑦窪津地区、
⑨若狭三方五湖地区
類型4
その他
⑩愛南町外泊地区、⑪カツオ学会
以下、各事例の詳細について整理する。
5-3
2
優良事例
5-4
≪事 例1≫ばんや食堂~漁協直営・「売り切れ御免」の人気レストラン~
保田漁協(千葉県鋸南町 保田地区)
【類型1:流通・販売】
◆地区の概要
保田地区のある鋸南町は、東京湾口の浦賀水道に面する房総半島の南西部に位置し、豊かな漁場を有
する古くから沿岸漁業の盛んな地域であるが、近年、東京湾口航路整備事業等による巨大船舶の輻輳な
ど、東京湾内での安全な漁業が困難となっている。かつては 3 ヶ統あった中型まき網も廃業・休業を余
儀なくされ、同時に東京湾内の開発等と海流の変化により、
現在、漁獲高が年々城少している。
保田漁協の漁業種別水揚げ金額
(H21.9.1~ H22. 8.31)
主な漁業は、大型定置網(漁協直営)1、刺し網 36、一本釣り 4、
採貝 14、たこつぼ 10、小型定置 1、中型まき網 1(中断中)。
平成 21 年度末正組合員は 106 名、准組合員は 108 名、役員 9
名(理事 7 名、うち常勤 1 名、監事 2 名)、職員 14 名(うち食堂部
門 7 名。
◆事業取組の概要
上記のような現状を踏まえ、今後販売手数料では組合経営が困
難になるという危機感から、15 年前から「海業」への取組みを開始、保田漁協直営の食堂事業「ばんや」
を開業した。
開業の経緯は以下のとおりである。
○平成 7 年 7 月: 定置網乗組員・組合員の福利厚生事業を目的に、「魚食普及食堂」として「ばんや」
をオープン。(当初は中古コンテナ 2 棟スタート)
○平成 12 年 7 月:「第 2 ばんや」をオープン。
収容人員 210 名、
総事業費 8,150 万円(漁協自己資金 4,150 万
円)
○平成 14 年 3 月:「第 1 ばんや」をオープン。
収容人員 132 名、
総事業費 7,200 万円(漁協全額自己資金)
○平成 15 年 12 月:高濃度炭酸泉「ばんやの湯」をオープン。収
容人員 132 名、総事業費 1 億 5,000 万円(漁
協全額自己資金)
○平成 20 年 4 月:「第 3 ばんや」をオープン。収容人員 200 名(団体向け、予約のみ)、総事業費 1 億
9,525 万円(自己資金 9,525 万円)
平成 9 年のアクアライン開通などもあり、首都圏からのドライブの目的地として認識され、週末のラ
ンチタイムなどは、行列ができるほどの人気となっている。人気のポイントはメニューの工夫にもあり、
定置網でとれた新鮮な魚など、その日提供できるメニューを壁に張り出し、早いもの順に販売、食材が
なくなり次第「売切れ」の札を貼る。これにより、人気メニューを食するためには食堂に早く着く必要
があると話題になり、人気に拍車をかける一因となっている。また、食堂側としても少量の食材でも合
理的に提供でき、無駄を省くことが可能となる。
◆事業実施の効果
1.水産物の高付加価値化
5-5
保田漁協の産地市場で保田漁協が入札参加。食堂部門の総売上=約 832 百万円。食堂部門の総仕入
額=328 百万円(約 2.5 倍の付加価値化が実現)。
2.地域の雇用拡大
食堂事業では、土・日曜に 60~70 名の地元スタッフを雇用。食堂事業の総支払人件費は 242 百万円。
食堂事業の付加価値化は、地域の雇用と所得を支えている。
3.流通コストの省略
直接食べてもらうことができるため、流通に係わるコストの省略化を実現。
4.ロットがまとまらなくても売れるシステムの構築
ロットがまとまらない水産物も調理して食べてもらうことで販売可能。資源の無駄がない。
5.漁業経営の安定化に貢献
漁協の事業利益の 67.0% を食堂部門で捻出、漁業経営を支える大きな柱を形成している。
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
漁獲高の低迷などの危機感から、平成 7 年に漁協直営での第 3 次産業=「海業」の展
開を決定。
「ばんや食堂・ばんやの湯」などで 8.3 億円の売上げと最大 70 名の雇用創
出を達成。漁業手数料と比べて約 2.5 倍の付加価値を確保。
2)活動組織の概要、 漁協直営事業。地域商店等との相乗効果を狙った連携は、日常的に実施している(飲
他団体との連携
3)人的要因
料の地元仕入、満席時の地元飲食店の紹介等)。
漁協組合長の強力なリーダーシップによる事業推進を図ってきた結果、組合とし
て強力な経営力、営業力で事業を推進、効果的な効果発揮につなげている。
4)地域・漁村活性化 食堂という安定的な販売チャンネルを組合自身が持つことで、組合員の「とれば
効果
必ず売れる」安心感につながっている。また、海業による事業の雇用により、組
合員および関係者には、漁に出なくても就業機会が提供されている。
5)実施上の問題点
解決に向けて工
組合長のリーダーシップによる事業推進と、アクアラインなどの交通インフラの
充実により、段階的事業展開を着実に行ってきている。
夫した点
6)支援制度等の活用 事業立ち上げ期および拡大期において、補助事業を活用している。
状況
7)その他の成功要因 交通アクセスの拡充に合わせて、事業規模が拡大。売り上げの増加に併せて、事
業を段階的に展開。組合長のリーダーシップによる経営マネジメントの手腕が全
体事業の拡大に反映されている。
8)事業取組の課題
現在建設中の冷凍冷蔵施設による食品加工業の事業展開の立ち上げ成功、定着化が課
題。
5-6
≪事 例2≫道の駅への漁協直営売店・レストラン「網納屋」出店
岩井漁協(千葉県南房総市 岩井地区)【類型1:流通・販売】
◆地区の概要
千葉県房総半島の南部、東京湾の入り口に程近い南房総市岩井地区は都心に程近い立地と、豊かな海
と山に恵まれた自然環境を理由に漁業や農業に加え、都心の避暑地として海水浴や観光も盛んに行な
われてきた地域である。
岩井漁協の漁獲高・販売実績(平成 21 年度)は、組合員数 203 名(うち正組合員 144 名)、自営の大型
定置網1ヶ統(販売事業の取扱い実績 537 トン 106、457 千円)と、組合員が行っている小型定置網 7 ヶ
統他(
〃 177 トン、70、692 千円)。
小型定置網、刺網、一本釣り、磯根漁業、わかめ・あわび養殖漁漁業と、これらに加え、組合自営の
直販事業、加工体験事業、大型定置網漁業などの複合事業を中心に実施。
近年、観光客の減少や漁業環境が年々厳しくなり、従来の販売事業からの手数料収入及び自営定置漁
業の水揚げだけでは、組合の経営収支が不安定となってき
た。
◆事業取組の概要
<道の駅への出店(特売、レストラン)>
平成 16 年の富津館山道路開通に併せて、道路に隣接された
地域振興施設「道の駅
富楽里とみやま
ハイウェイオア
シス富楽里」が開業した。岩井漁業協同組合は、直営で 1 階
ハイウェイオアシス富楽里とみやま
に直営店舗「大漁市場」、2 階に直営レストラン「網納屋」を
出店、地元民宿や周辺住民に海の幸を届けるとともに、観光客への海産物の提供事業も開始した。
高速道路と一般道の双方から利用できるサービスエリア
と新鮮な地場産物の取扱う地元の漁業者・農業者直営店に
よる新たな連携は南房総観光の中継点として、多くの利用
者に人気を博しており、総売上高は 11.7 億円(平成 21 年
度)も上る。
<民宿組合との連携>
・また、岩井地区は東京湾に面して静か海岸線を有しており、
戦前より「子供の海」として首都圏でも有数の海水浴場で
あった。海岸一帯には約 150 の民宿があり、その収容人数
定置網で獲れた新鮮な魚が店内に並ぶ
は約 2 万人ある。岩井漁協では観光協会・民宿組合とも連
携し、各民宿が独自の水産体験プログラムを開発して修学
旅行や合宿の積極的に受け入れなどにも積極的に取り組ん
でおり、漁業を中心とした地域連携を実践する都心近郊の
農山漁村地域の事例として注目を集めている。
5-7
人気商品 雑魚を詰め合わせた
“お得パック”
◆事業実施の効果
1. 水産物の高付加価値化
・岩井漁協の地方卸売市場で、漁協自ら入札に参加している。
・網納屋の絵売上額 125、926 千円に対する総仕入額 48、641 千円によって、約 2.5 倍の付加価値化
が実現。
2. 地域の雇用拡大
・網納屋では、地元周辺からパートスタッフを 15~20 名雇用。
3. 未利用資源の開発
・サイズが小さくて食用に向かない又はロットがまとまらない水産物を加工(干物・甘露煮等)し大漁
市場で販売。資源の無駄を省くと共に収益性の向上につながっている。
4. 漁協経営の安定化
・事業利益の殆どを直販事巣で生み出し、大きな柱を形成している(大漁市場、網納屋)。
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
・道の駅(ハイウェイオアシス)「富楽里とみやま」への漁協力売店、直営レス
トラン「網納屋」出店。
・岩井民宿組合と連携した体験漁業への取組
2)活動組織の概要、 ・漁業協同組合が中心となり、道の駅の関連団体や地元民宿組合と連携し、地域
他団体との連携
3)人的要因
の総合力を発揮し、相乗効果を上げている。
・漁協の組合長はクロアワビの養殖に成功した熱心な漁家で、道の駅の支配人、
民宿組合長とも効果的に連携する仕組みづくりや、直営店のコンセプトづく
り、店舗運営にもさまざまなアイディアをだし、売り上げを継続的に確保す
るための工夫をしている。
4)地域・漁村活性化
効果
・地域資源を活かした、多彩な漁協の経営が功を奏し、相乗効果を上げている。
・具体的には、高速道路の集客力をビジネスチャンスとして生かすこと。伝統あ
る観光との連携により、地産地消の推進や、体験交流事業の実践などを効果
的に実施している。
5)実施上の問題点
解決に向けて工
・地域の資源と集客のための交通インフラ(アクアライン開通、館山道の全通、
ハイウェイオアシス・道の駅の整備等)を効果的に活用した。
夫した点
6)支援制度等の活
・道の駅への出店に公的資金を活用。
用状況
7)その他の成功要
因
・地域の総合力による相乗効果。
・「獲った魚を捨てないで売り切る」という組合長の思い(コンセプト)が浸透
した直販店の商品開発、販売手法(お得パック、甘露煮等)。
8)事業取組の課題
・後継者問題をいかに解決するかが大きな課題。
5-8
≪事 例3≫海業としての無人島体験ツアー
NPO たてやま海辺の鑑定団(千葉県館山市) 【類型3:体験・交流】
◆地区の概要
千葉県房総半島南部に位置する館山市は年間平均気温 16℃以上の温暖な気候と豊かな海・山に恵ま
れた首都圏郊外有数の観光地の一つであり、31.5 キロの海岸線は、マリンスポーツのメッカとして、
夏の海水浴場として、さらには、サンゴの北限ともいわれる美しい海中の世界を持つ「海のまち」で
ある。
漁業は沿岸漁業を中心として、大型・小型定置網漁業を始め、まき網漁業、釣り、さし網、採藻、
採貝などが行われています。中でも、まき網漁業で生産され、かつおの一本釣りで使用される「えさ
いわし」の供給基地としては全国的に有名である。
現在、水産物の安定的な供給が出来るよう、さざえ・あわび・まだい・ひらめ等の種苗放流や、魚
礁等による漁場の整備を行い、資源及び生産量の増大に努めているが漁獲量、漁獲高とも年々減少し
ており、漁業従事者についても同じく減少しています。また、従事者の半数以上が60歳以上となっ
ており、後継者不足とあわせて高齢化問題等、厳しい状況が続いている。
◆事業取組の概要
「特定非営利活動法人たてやま・海辺の鑑定団」は、南房総の恵まれた自然環境や歴史・文化を守り
ながら、広く多くの人々に対して、
「海辺の自然体験」を組織的に提供し、自然環境や生態系を考える
きっかけを与え、地域振興に寄与することを目的として設立された。
南房総館山湾の南側に位置する高さ 12.8m、面積約 4.6ha 周囲約 1km の陸続きの小島「沖ノ島」をフ
ィールドに、①沖ノ島無人島探検、②体験ビーチコーミング、③大山ネイチャーツアー、④沖ノ島ス
ノーケリング体験、⑤シットオンカヤックで自然体験、⑥海辺のクラフト体験など、海辺の自然体験
プログラムなどを提供するエコツーリズムに取り組んでいる。
平成 19 年には環境省より第 2 回エコツーリズム大賞特別賞を受賞した。
漁村地域ではに当たり前の風景、自然環境、生活を、体験
者の視点で地域資源として活用し、新たな地域産業の創出、
環境保全へと繋げている。これらの取組は、漁村地域ですぐ
に取り組む事の出来るという点で、他地域への汎用性も高い
優良事例であると言える。
<沖ノ島無人島探検プログラム>
南房総国定公園内にある沖ノ島は約 8000 年前の縄文海中
遺跡や世界的に注目されている北限域のサンゴを育む貴
重な自然が残る無人島。沖ノ島無人島探検プログラムでは普
無人島体験前のガイダンス=タカ
ラ貝の学習の標本
段見過ごしてしまっている海辺環境の自然や生き物を丁寧
に解説しながらの島内を散策する自然体験学習の取組み。
<体験ビーチコーミング>
ビーチコーミングとは、海岸に打ち上げられた漂流物を観
察・収集し、楽しみながら海辺の自然を学習すること、海岸
を散歩することです。海岸をコーム(櫛)ですくい取るとい
う意味で欧米から始まったこの取組は海辺の自然体験学習
ガイドの名調子により、普通の海岸散歩
が、刺激的な体験学習のプログラムに
5-9
となるばかりでなく、海岸清掃等の環境学習にも繋がる。
◆事業実施の効果
1. どの地域でも実践可能な海の体験プログラム
・プログラムの構成と進行次第で、あらゆるものが地域資源となる。
2. ソフトの工夫によるプログラム開発で、コストがかからずすぐに実施可能
・プログラム開発のソフトのノウハウを習得すれば、新規投資なくにすぐに実践可能。
3.漁師以外のNPOが、漁協や漁師に働きかけて連携した事業取組
・シュノーケリングなど、海に入るプログラムでは、地元漁協と連携している。体験交流事業を実施
することにより、海岸の清掃活動や漁場の見守りになることなどが評価され、地域における互恵的
な関係づくりに成功した。
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
・自然体験のNPOから、漁村の活性化事業の実現のため、漁協・漁師にアプロ
ーチした事例。
・海に対する広範な知識を有するNPOとの連携で、体験プログラムの幅が広が
る典型的な事例。
2)活動組織の概要、 ・NPO たてやま海辺の鑑定団は、会員約 30 名、常時活動しているスタッフは 5
他団体との連携
名ほど(うち専従者 1 名)
。
・体験プログラムの実施に関しては、館山市、観光協会、地元漁協との連携を心
掛けている。
3)人的要因
・ホテルマンであったNPO代表者のノウハウと人柄が、事業成功の大きな要因
といえる。
・漁業者だけでは決して思いつかない、何気ない海岸を、豊かな体験フィールド
に変えてしまう手法は新鮮で、漁業者以外、地域外の人との連携による取り
組みの大切さを再認識することができる。
4)地域・漁村活性化
効果
・直接的な効果は大きくないが、海岸の清掃活動や、海・漁業に対する関心の喚
起、活動フィールドとして継続的に海域を利用することによる漁場の荒廃防
止など、漁業者にもメリットが大きい。
5)実施上の問題点
・都会生活者である体験者に、いかに地域の地形や歴史、海と暮らす文化、環境
解決に向けて工
問題などに興味を持ってもらえるか。楽しみながら、遊びながら学ぶプログ
夫した点
ラム開発がカギ。
6)支援制度等の活用
・特になし。
状況
7)その他の成功要因 ・漁師や漁協とは異なるソフトな事業ノウハウを持つNPOからのアプローチを受け
入れたことが成功の要因。
・どの地域でもそれなりに実施可能であり、荒天時の代替プログラムとしても有効。
8)事業取組の課題
・継続的に体験者を受け入れることができる体制づくりと、経済効果の仕組みの強化。
5-10
≪事 例4≫クロナマコ石鹸の商品開発~未利用資源の活用による新商品開発~
大村湾漁協(長崎県西彼郡時津地区) 【類型2:ブランド化・商品開発】
◆地区の概要
時津地区は、「琴の海」と呼ばれる静かな閉鎖性内水面である大村湾の南端に位置する。水深が浅く
(平均 15m)干満の差が小さい(1m 内外)のため、砂泥底である。大村湾では昔から、底引き、小型定
置、刺し網、採貝業、真珠の養殖などが盛んで、平成 17 年に琴海漁協、東西彼漁協と合併して発足し
た大村湾漁協の特産品はナマコ、モズク、近海漁などである。このなかでは特にナマコが有名である。
◆事業取組の概要
長崎では、正月に縁起物としてナマコを食する慣習があり、大村湾漁協の特産品であるマナマコは普
段でも 2,500 円/kg、正月前には最高で 4,400 円/kg の高値を付けるほどである。しかし、マナマコには
体色に違いによりアカナマコ、アオナマコ、クロナマコの 3 種類があるが、上記の単価はアカナマコ・
アオナマコに付けられる値段であり、クロナマコはその体色ゆえに(味や食材としての品質に大きな差
はないにもかかわらず)消費者にもう問われ、値段も 50 円/kg にしかならず、畑の肥料程度にしかなら
ない厄介者であった。漁師は、お金にならないクロナマコの身を漁場に残すため、ますますクロナマコ
のみが資源として選択的に増加することになり、漁協としても駆除対象とするなど対応に苦慮していた。
こういった背景のもと、クロナマコの有効活用法を検討していたところ、平成 19 年に福岡市のベン
チャー・商品企画会社である㈱ディレクターズカンパニー社から打診があり、クロナマコ石鹸の開発に
取り組むことになった。
ナマコは漢字では「海参」と書き、「海の(朝鮮)人参」と言われるくらい漢方薬として古代から滋
養強壮薬、皮膚病薬として用いられてきた。ナマコの“ヌルヌル”の成分を混入した石鹸は、保湿性に
優れ、洗浄後も肌がつっぱらないことが知られていた。クロナマコ石鹸の製造の役割分担としては、大
村湾漁協は、地元の水産加工会社であるオフィスフロンティア社を通じてクロナマコの加工原料を供給、
㈱ディレクターズカンパニーが 100%出資で設立した大村湾水産加工㈱ が石鹸の製造を担当している。
大村湾漁協は総代理店として、大村湾水産加工㈱から石鹸を仕入れ、直販および 2 次代理店を通じての
販売を行っている。なお、大村湾水産加工㈱は、ナマコ資源の管理費として、収益の 2%を大村湾漁協
に還元している。
この事業の結果、大村湾漁協は、従来駆除対象であったクロナマコを、石鹸原料として 525 円/kg(事
業前の 10 倍強)で漁師から引き取ることが可能となった。
クロナマコは、2,500 円/個と比較的高価な商品にもかかわらず、テレビや雑誌の通信販売などで売れ
筋に育っており、「ほとんどクレームのない」ヒット商品として、今後も事業規模の拡大が図られる期
待が大きい。
5-11
◆事業構造
クロナマコ
原料販売
特約代理店
特約代理店
特約代理店
消費者
直売
卸売
漁師
漁師
漁師
大村湾漁協
原料供給
525 円/kg
オフィスフロンティア(時津町)
組合長会(大村湾内漁協)
出資
㈱ディレクターズカンパニー
資源管理費
(収益の 2%)還元
加工原料
供給
大村湾水産加工㈱
出資
ノウハウ供与
クロナマコ
原料加工
石鹸製造
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
・未利用資源であり駆除対象でもあったクロナマコを、商品開発ノウハウを持っ
た民間事業者との協働により、石鹸の原料として活用することで、高い付加価
値を実現(50 円→525 円/kg)した。
2)活動組織の概要、 ・漁師の売上と、未利用資源(駆除対象)の有効活用による新規事業の展開。
他団体との連携
・クロナマコ原料の供給=漁協と地元水産加工・販売会社のオフィスフロンティ
ア社が連携
・石鹸の企画・商品開発=漁協とノウハウを持つ民間事業者である㈱ディレクタ
ーズカンパニー(福岡市)が連携。
3)人的要因
・漁協組合長の経営に対する問題意識と、民間事業者のアプローチがタイミング
よく合致した結果、新規事業が創出された。地元出身で、東京等に販売チャン
ネルを持つ時津の地元企業との人的連携係も、漁師からの買い取り価格を高く
設定する事業構造の構築に寄与した。
4)地域・漁村活性化 ・漁師にとって、駆除対象であったクロナマコが、525 円/kg で引き取られるよ
効果
うになった。
・石鹸製造会社の大村湾水産加工㈱は、収益の 2%をナマコ等の資源管理費とし
て、漁協に還元
・漁協の有望なヒット商品が生まれ、代理店ビジネスとして収益の柱ができた。
5)実施上の問題点
・ノウハウのある民間事業者との協働・連携がポイントとなった。
解決に向けて工
夫した点
6)支援制度等の活 ・民間企業との収益事業創出であり、公的支援は特になし。
用状況
7)その他の成功要 ・ディレクターズカンパニー社や、オフィスフロンティア社の販売チャンネル。
因
8)事業取組の課題 ・クロナマコ石鹸の事業安定と、新たな商品開発による事業継続(漁協の経営の
柱が不安定な状況に陥らないための継続的取組)。
5-12
≪事 例5≫近郊都市への漁協直営アンテナ店舗“出島朝市・朝市食堂”
野母崎三和漁協(長崎県長崎市 野母崎地区)【類型1:流通・販売】
◆地区の概要
野母崎地区は、長崎市の南端、野母崎半島の先端部、かつての野母崎町にある。平成 17 年に
同じ半島の三和町等とともに長崎市と合併した。長崎市の中心部からは車で約 40 分。半島らし
い風光明媚な自然景観に恵まれ、ドライブの目的地として、また日帰り~1 泊の近郊型観光・レ
ジャーのスポットが多く立地している。
野母崎三和漁協は、組合員 500 名弱、半島地形による豊かな漁場を活かして、沖合いでは、ま
き網、中型一本釣り、固定式刺網など、沿岸では採介藻、一本釣り、定置網、刺網、小型底曳網、
たこ壷などの小型漁船漁業、魚介類養殖漁業があり、煮干、かまぼこ、からすみ、塩干物などの
水産加工も盛んである。また、「野母んあじ」がブランドとして定着しており、漁協としても最
新の技術を備えた活魚流通センター等を
整備し、鮮度・品質管理に力を入れている。
野母崎地区には漁協直営店舗「のもざき
朝市」があり、とれたての海産物や漁協生
産の加工品が手軽に購入できる店舗とし
て、長崎市中心部から自家用車で買い物に
訪れる人も多かった。
「野母んあじ」は漁協の登録商標である
◆事業取組の概要
2010 年に漁協は、長崎市出島地区のフェリーターミナルに隣接する商業施設「出島ワーフ」に、
直営店舗“出島朝市”と、直営レストラン“朝市食堂(席数 40+テラス席 16)”を開店した。
これまでも漁協では野母崎地区内に直営店舗のもざき朝市を経営してきたが、長崎市中心地への出
店は、①消費地により近い安定的な流通・販売先の確保による漁家収入の増加(漁業者には市場の競
り値より高く、消費者には市価より安く魚を流通させるため)、②野母崎三和漁協の広報・知名度ア
ップ、およびブランドである「野母んあじ」をはじめとする海産物の販売促進のための情報発信拠点
の整備、③それらによる野母崎半島地域への誘客・地域活性化などを目的として整備した。
店舗の内装は、シンプルで清潔感あふれるものとなっており、店舗内のサイン内装、商品表示に至
るまで、デザイナーによる統一感を感じさせる、都会的なセンスでまとめられている。
事業的成果については、5 月 29 日の開店以来まだ 1 年もたたないこともあり、今後の事業継続の
中で評価されることになるが、開店から半年の販売、あるいは集客は予想を上回る好調さで推移して
いる。市内中心部の利用者からも、
「水揚げされたばかりの魚が市価より 2 割から 3 割ほど安い」、
「特
にランチが新鮮でおいしく、
しかも価格がリーズナブル」。
「仕事の帰りに、新鮮な魚介
類を購入して帰ることがで
きて便利」と大変好評で、特
に昼食時はランチ目当てに
行列ができるほどである。
「野母んあじ」ブランドの発信
5-13
港に面した出島ワーフの 1 階に出店
◆事業実施の効果
1. 組合員の安定売り上げの確保化
・直販場を確保することにより、輸送費を差し引いても産地市場のセリ値より高く魚介類を販売する
ことができる。
・消費者にとっては、スーパーや町の市場で買うより新鮮で安くおいしい海産物を買うことができる
場の提供になっている。
2.「野母んあじ」をはじめとするブランド、加工品等のアンテナショップとしての役割
・すでに、ブランドとして定着している「野母んあじ」をリーディング商品として、新たな加工品や
ブランド形成のためのアンテナショップ機能(テスト販売、販促イベント等による市場調査等)を
果たすことが期待される。
3.野母崎・三和地域の情報発信拠点としての機能を発揮
・約 50 万人都市の長崎中心部において、野母崎・三和の自然環境、豊かな海、新鮮で美味な海の幸
などの情報を発信することにより、来訪客が増加し、地域間の交流が促進され、地域活性化につな
がる効果が期待される。
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
・自家用車で約 40 分離れた大消費地の中心部へのアンテナショップと直営レス
トラン出店による、販売チャンネルの確保、情報発信によるブランド商品等
の販売促進、市場調査機能の確保。
2)活動組織の概要、 ・漁協直営事業。組合長の強いリーダーシップにより事業を推進した。
・既存の地区内直販場(のもざき朝市)の漁協内ノウハウが活用できた。
他団体との連携
3)人的要因
・組合長のリーダーシップにより、店舗計画・デザイン戦略など清潔で統一感の
ある情報発信拠点が実現した。
4)地域・漁村活性化
効果
・安定的な販売先の確保による漁師の安定収入の確保。
・ブランド「野母んあじ」のアピールによる他の魚介類の高品質イメージの発信
・店舗に通うたびに「漁港に行ってみたい」と思わせる情報発信による地域活性
化効果
5)実施上の問題点
解決に向けて工
夫した点
6)支援制度等の活
用状況
・開店まもなく、安定的な経営スタイルと店舗運営体制についての模索がしばら
く続く見込み。
・店舗スタッフ(漁協職員)の教育に力を入れている。
・国の雇用対策事業である「ふるさと雇用再生特別交付金事業」を活用。
・実施主体は長崎市が野母崎三和漁業協同組合に委託するという形で事業を実
施。
7)その他の成功要
因
・漁師にも、店舗利用者にもメリットがある新業態となっている(近所の料理店
などが仕入れのために開店前から行列をなし、まとまった量の魚を仕入れて
いく姿も見られる)。
・積極的な漁協の取り組み姿勢がなければ、新規投資が伴う中心部への出店は困
難であったと思われる。
8)事業取組の課題・長崎市内に生活する住民やビジネスマンなどに固定客を作ることができれば、大
きな効果を発揮することができる。そのための魅力的な店舗運営が課題。
5-14
≪事 例6≫観光との連携による海業振興、拠点づくり
大浜海業振興協議会、大浜漁業協同組合(長崎県五島市)
【類型3:体験・交流】
◆地区の概要
大浜漁業協同組合は、長崎県の五島列島の福江島の南西部に位置する大浜漁港にある。
主な漁は、小型定置網とイセエビなどの刺網、一本釣り(男女群島などにも漁に出る)、採貝藻など
である。五島列島の多様で豊かな漁場に恵まれ、多様な漁がおこなわれており、組合員は 50 名。
しかしながら、漁協では①組合員の高齢化、②漁価の低迷、③燃料コストの高騰などの課題を抱えて
いた。
◆取組の概要
このままでは漁師がいなくなるという危機感から、平成 17 年に漁協内部で喧々諤々議論を開始。当
時行政が進めていた「五島市ブランド確立協議会」で、大浜がモデル地区に選ばれたことをきっかけ
に、若者が後継者として暮らしていける新しい活性化として、観光業との連携、子どもたちの体験受
け入れによる交流事業などを目標に取組みを開始した。
まず実施したのは漁業体験の先進地への視察(松浦、壱岐、体験旅行では安心院)。
また、平成 17 年から始まった「離島漁業再生交付金」で 13.6 万円/世帯、組合全体で約 570 万円/団
体×5 年が決定したことが大きい。組合内部では勿論反対する意見もあったが、この資金を活用して
体験漁業への取組みを決定した。
これまで、
「踊る!伊勢えび大捜査線」とネーミングをつけたイベント(名物のイセエビ刺し網体験)
が大当たりで多くの集客実績を作った。そのほかにも、磯遊び体験、灰ダコ獲りなどのプログラムを
独自に立ち上げ、修学旅行(東京の高校生など)を受け入れてきた。
この体験漁業をきっかけに平成 20 年に漁協青年部が復活した。メンバーは 5 人だが、地引網体験な
どに積極的に取組んでいる。若者の定着が最も大きな効果である。
こうした動きを受け、漁業体験の拠点施設が必要と考え、県の新世紀水産活性化事業を活用して平成
22 年 4 月に「ふれあい海工房」を開設。団体の受入時にも動きやすくなった。
集客営業は現時点では特に行っていない。受入客も、ホームページを見て直接漁協(海業振興会)に直
接電話が入るケースがほとんど。件数も現在はまだ少なく、行政や観光協会との連携による安定集客
と、一定の件数を受け入れることができる体制整備が今後の課題。
体験交流の拠点施設「ふれあい海工房」
5-15
修学旅行の地引網体験
◆事業実施の効果
1.イベント実施による集客効果
・これまで、隣接する海水浴場への夏場の集客以外は素通りであった大浜集落にも、一定期間観光客
が滞在するようになり、特にイベント実施による経済効果が現れている。
2. 拠点整備による体験・交流事業の開始
・イベントに参加した観光客や、修学旅行などの子どもたちを安心して受け入れることができる拠点
施設ができ、これまでなかった観光業との相乗効果が期待できる状況となってきた。
3.若い漁師たちの交流事業への積極的参加
・ 体験・交流事業の実施などにより、若い漁師(3 名)が定着。「漁協青年部」が復活し、漁協の将
来を語ることができるようになった。大浜集落にも活気が出てきた。
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
・ユニークなネーミングのイベント「踊る!伊勢えび大捜査線」開催による刺し
網漁による伊勢海老のアピールと販売促進。
・大浜海業振興協議会の設立と、体験交流の拠点施設「ふれあい海工房」の整備。
2)活動組織の概要、 ・大浜漁協が中心となり設立した大浜海業振興協議会が中心。
他団体との連携
3)人的要因
・同じ五島列島の離島の漁協とも連携し、集客の相乗効果を狙っている。
・組合長のリーダーシップにより組合員が結束し、県の新世紀活性化交付金を、
個々の漁師に分配するのではなく、組合の意思決定のもと、漁村活性化に活用
することができた。
4)地域・漁村活性化 ・イベントの実施による観光客の新たな集客の経済効果と、体験交流受入れによ
効果
5)実施上の問題点
解決に向けて工
夫した点
る後継漁師の定着、漁協青年部の復活。
・公的資金を漁村の活性化に結び付けるため、組合の意思決定のもとプールし、
ふれあい海工房の拠点整備に結び付けることができた。
・地域の名物であるイセエビ刺網量をアピールするため、若者に認知度の高いド
ラマのネーミングに掛け「踊る伊勢えび大捜査線」というネーミングに工夫。
マスコミに取り上げられるなど効果があった。
6)支援制度等の活用 ・平成 17 年から 5 年間、
「離島漁業再生交付金」
(13.6 万円/世帯、組合全体で約
状況
570 万円/団体×5 年)を受けた。
・平成 17 年「五島市ブランド確立協議会」において大浜がモデル地区に選定さ
れた。
・平成 22 年 4 月、県の「新世紀水産活性化事業」により「ふれあい海工房」を
開設。
7)その他の成功要因 ・豊かな漁場と豊富な漁法があり、遊漁などが既に行われていたことで、観光との連
携がスムーズに進んだ。
8)事業取組の課題
・安定した経済効果の創出。
・体験・交流事業において、一定数を受け入れる運営体制づくり。
5-16
≪事 例7≫漁協が中心となった子供たちの漁業体験受入れ
窪津漁協(高知県土佐清水市 窪津地区)【類型3:体験・交流】
◆地区の概要
高知県土佐清水市窪津地区は四国最南端に位置する国立公園「足摺宇和海国立公園」の中にあり、
足摺半島の東側の付け根に位置し、黒潮洗う豊かな漁場に恵まれている。
近くには日本最後の清流と言われる四万十川が流れ、四万十川からの栄養分と日本で最初に黒潮
が接岸することにより、足摺沖合は天然の好漁場を形成し、全国各地より沿岸漁船が集結し多種多
様な魚介類が水揚げされている。
かつては「鯨の郷」として、またカツオの一本釣りの拠点としても知られた漁港であり、藩政時
代に開港、その後の記録によれば、明治 24 年窪津から鯨肉 4.6 トン、鰹節 5.3 トンが輸出された
という記録が残っている。
現在、漁協の組合員300名強で、クジラ漁の代わりにホエールウォッチングを組合事業とし
て実施、あるいは定置網漁事態を体験観光と結びつけるなど、漁業と観光・交流を連携させる取り
組みを実施している。
◆事業取組の概要
漁協では 「漁獲高に左右されない漁協経営を目指す事が重要であるとの考えのもと、漁業と観光
事業を一体化させた取組み」を積極的に行ってきた。
○平成 6 年
定置網観光事業開始
○平成 7 年
港朝市開始 ※現在は「直販センター大漁屋(下記)」に発展。
○平成 8 年
ホエールウォッチング開始(鯨との出会い確率約 60%)
○平成 10 年
修学旅行生の民泊受入れを開始
→現在は、東京慶応義塾幼稚舎の生徒約120名が毎年来訪。
○平成 12 年
「直販センター大漁屋」開業(とれたて鮮魚、干物、お寿司、もち、パン、
惣菜、野菜、他を販売)
○平成 18 年
「レストラン海鮮館
大漁屋」開業(刺身定食、日替定食、たたき定食、
海鮮丼、その他とれたて鮮魚を漁協女性部による手料理を提供)
これらの取り組みが評価され、平成 20 年に「地域資源である魚を活用した直売所、食堂、交
流活動の展開」として水産庁長官賞を受賞している。
受賞の受賞理由は、以下の 2 点となっている。
①地域の魚や野菜を活用した直売所や食堂の展開
平成7年から開始した、新鮮な魚介類など地域食材を販売する日曜朝市をさらに進めるため、
平成12年に、地域の新鮮な魚介類、野菜、加工品を購入できる漁協直販センター「大漁屋」
を整備。さらに平成18年には、地域の魚介類、野菜等食材を使った地元ならではの料理を提
供する食堂(「大漁屋海鮮館」)を整備し、地域食材の有効利用や郷土料理の伝承普及を推進。
②消費者との交流
定置網漁を見学し、港に水揚げされた獲れたての魚が食べられる観光定置網の実施。
「親子ふれ合いキャンプ」、
「窪津みなと祭り」
、
「修学旅行生の漁家受入れ」などの漁村の生活・
文化体験を通じた都市と漁村との交流。
5-17
◆事業実施の効果
1.漁業と観光との連携による漁村の活性化効果発揮
・地域資源である「魚」を活用して、観光定置網などの交流活動を行うことにより、一次産業である
漁業の高次化を実現。
2.多様な資源の連携による地域の総合力の発揮
・漁協直営事業ではあるが「魚」だけではなく、「地場野菜」などの農産物も取り扱う直売所、地元
産の魚介類や野菜を使った料理を提供する食堂などを展開し、交流人口の拡大、地元の農水産物の
販売の安定化、付加価値向上などにより、地域の水産、農業の両面の活性化に大きく貢献。
3.体験漁業・漁家民泊による子供たちとの交流による漁村コミュニティの活性化
・定置網体験などの体験漁業と、20軒の漁家民宿の組み合わせにより、一度に最大120人の生徒
を受け入れる体制が構築されている。子供たちとの交流により、民泊や体験プログラムの関係者へ
の一定の経済循環とともに、子供たちとの交流によるコミュニティの活性化効果がみられる。
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
・漁業と観光の連携による漁協直営店舗・レストランの経営体験漁業等の実施による
漁業の6次産業化の実践。
・体験漁業・民泊島での子供たちの受入れによる交流事業の実践
2)活動組織の概要、 ・漁業協同組合による直営事業。
他団体との連携
3)人的要因
・組合長の強力なリーダーシップにより、事業を推進。
4)地域・漁村活性化
・来訪者の増加と、経済循環を生む直営事業(店舗、レストラン、体験プログラム)
効果
と、コミュニティ活性化に結びつく交流事業(子供たちの受入れ)の両立による
バランス良い地域活性化効果がみられる。
5)実施上の問題点
・定置網やクジラなど、地域資源をうまく活用した複数の直営事業の立ち上げ。
解決に向けて工
夫した点
6)支援制度等の活
・高知県:にぎわいのある産業づくり支援事業費等を活用
用状況
7)その他の成功要
因
・観光業との連携による漁業の活性化という基本方針を早くから明確に打ち出し、ス
テップを踏みながら着実に直営事業を添加、定着させてきた。
8)事業取組の課題
・体験事業の許認可や保険、子供たちの受入れ・交流施設等、実務的な部分での安全・
衛生管理等のさらなる徹底、施設整備が課題。
漁協直営レストラン「大漁屋」
定置網体験の様子(修学旅行の受入れ)
5-18
≪事 例8≫あのりふぐのブランド化と観光との連携による漁村活性化
安乗地区(三重県志摩市 三重外湾漁協志摩支所安乗事業所)
【類型1:ブランド化・商品開発】
◆地区の概要
三重外湾漁協は、志摩市以南の12漁協(志摩の国、鵜方、布施田、くまの灘、錦、長島町、海山、
須賀利、九鬼、三木浦、曽根浦、梶賀浦)が 2010(平成 22)年に合併し発足した新組合で、組合員数
は正・准組合員合わせて 1 万 2,485 人と、全国でも最大規模の漁協である。本所は伊勢市に置き、2008
年度決算での販売取扱高は計 148 億円。
あのりふぐのブランド化に取組んだ安乗地区は、三重県東南部の志摩市(平成 22 年人口 54,700 人)
の旧阿児町、阿児半島の先端に位置し、安乗東大は景勝地として知られ、多くの観光客が訪れる地区
である。近鉄と級の停車駅からも近く、伊勢志摩、鳥羽島の観光地からの周遊先として、基幹産業で
ある漁業に加えて、旅館や民宿も多く立地している地区である。
安乗漁港は旧志摩の国漁協に属し、組合員 521 名、水揚げ高は約 10 億円に上る。巻き網によるアジ・
サバ漁が水揚げの約半分の 5 億円を占めるほか、トラフグ(あのりふぐ)の延縄漁で 1.5~2 億、中型
定置網が 2 日等で役 1 億円、その他海女漁、伊勢エビ漁、クルマエビ漁などが行われている。
◆事業取組の概要
<あのりふぐのブランド化>
安乗地区では、昭和初期からトラフグの延縄漁が細々と続けられていた。もともと規模的には小さい
ものであったが、昭和 59 年に突然の豊漁(理由は不明)となって以来、東海 3 県において着業者が急
増し、冬季の重要な収入源となった。
この海域でトラフグの漁獲が安定した背景には、漁業者自らがトラフグ資源を維持するために厳しい
漁獲制限(700 グラム以上のみ漁獲等)や、種苗放流事業を積極的に実施してきたことがあげられる。
自主的な資源管理型漁業として全国的にも注目されている。
トラフグは有毒の高級魚であることから、流通のルートは限られており、全国的な産地である下関か、
近郊の大阪への販売が中心であった。
しかし、2000 年ごろから、従来型観光に陰りが見え始め、伊勢志摩地域でも観光客の減少が目立ち始
めた。この流れを受け、冬季の観光の目玉としてフグをブランド化できないかという機運が盛り上が
り、安乗岬旅館組合と観光組合、安乗漁港(当時)が平成 11 年に「あのりふぐ」ブランドを使いブラ
ンド化推進のために伊勢神宮への権能を実施し、マスコミ等で話題となった。
平成 15 年、三重県が認定する三重ブランドへの登録を
めざし、
「平成 15 年度三重ブランドチャレンジャービジ
ネスプラン」および「中核的漁業者協業体等取扱支援事
業」などの支援制度を活用し、「あのりふぐ協議会」が
発足、ロゴデザインの制作、「あのりふぐ」の商標登録
などを行い、観光キャンペーンに結びつけた。
<観光との連携>
以上の動きと連携して、行政が事務局となり、観光業と
の連携を推進した。
あのりふぐの大看板がある安乗漁協市場
5-19
具体的には、あのりふぐの流通段階において、商品を取り扱う仲買や末端の商品・飲食店を「認定取
扱店」とする制度を確立し、料理人の研修会等を実施するなどブランド維持に努めている。現在認定
店は宿泊施設、飲食店などを中心に役 40 店舗強となっている。
その結果、現在トラフグの漁に携わる漁船は 41 隻。いずれも、刺し網漁、カ
ツオや味の一本釣りと組み合わせて通年で操業している。
あのりふぐの市場価格は、一般のトラフグに比べて、3~4 割程度高く取引され、
ほとんどいなかった冬季の観光客を 2~2.5 万人見込むことができる地域資源と
して定着した。
◆事業実施の効果
1. 産地市場での漁価向上
・水産振興の視点からは、産地市場における漁家の向上と安定の効果が最も大きい。
2.地域イメージの向上と観光業への波及
認定飲食店の
メニュー看板
・あのりふぐのブランド化は、水産業にとどまらず、安乗地区の知名度を押し上げ、地元の漁師・住
民の大きな誇りとなった上に、2.5 万人にも及ぶ冬季(オフシーズン)の観光客を安定的に創出した。
3. ブランド維持のための地域連携
・ブランドイメージを維持していくため、漁業者と観光業との前向きな連携が図られたほか、部感度
企画の徹底を通じて、漁業者の資源管理や海洋環境の保全に対する意識が高まった。
◆成功要因の分析
項目
内容
1)活動概要
・トラフグの漁獲規制の強化とブランド化による魚価の向上。
・旅館組合や観光組合との連携によるあのりふぐブランドの地域全体での維持体
制構築、相乗効果の波及。シーズンオフの安定集客を実現。
2)活動組織の概要、 ・漁業協同組合が中心となり、行政、旅館組合、観光協会などをメンバーとする
他団体との連携
あのりふぐ協議会を立ち上げ、ブランドの徹底と波及効果を発揮する仕組み
を協働でつくり上げた。
3)人的要因
・トラフグの大漁を受けて、当時の組合長がリーダーシップを発揮し、ブランド
化の下地となった漁獲規制や種苗放流を実施したことが大きな成功要因。
・行政が事務局となり、漁業と観光のキーマンが協議会に参加したことも大きい。
4)地域・漁村活性化 ・漁業者にとっては、産地市場で安定して高い値段がつくトラフグ量が定着した
効果
ことによる経済効果は大きい。
・観光業にとっては、閑散期にあのりふぐ目当ての宿泊観光客が 2~2.5 万人(客
単価を 15,000 円/人として 3~4 億円の経済効果)安定的に地域に来訪。
5)実施上の問題点 ・漁業者にブランド維持のための漁獲規制などを徹底し、資源管理に努めたこと。
解決に向けて工
夫した点
6)支援制度等の活 ・「平成 15 年度三重ブランドチャレンジャービジネスプラン」
用状況
・「中核的漁業者協業体等取扱支援事業」
7)その他の成功要
因
8)事業取組の課題
・伊勢神宮への献上など、イメージ戦略が大きく奏功。
・刺し網や一本釣りの裏創業として、冬季のトラフグ延縄が取り組みやすく、安
定収入に直結したこと。
・陳腐化しつつあった観光地に、食資源のブランド化により、閑散期の集客を実
現できたこと。
・今後はトラフグ資源の安定的漁獲と、ブランド力の継続が課題。
5-20
≪事 例9≫若狭三方五湖地域 観光協会と漁協・漁師民宿が連携した
体験漁業の受入れ
若狭三方五湖わんぱく隊(福井県若狭町)【類型3:体験・交流】
◆地区の概要
若狭町は福井県の西部に位置し、若狭湾に北面してリアス式海岸の一部を成している。南に滋賀県と
の県境にある山々は 800m 級と比較的低い山々があり、東に隣接する美浜町にまたがって、関西では観
光地として名高い三方五湖がある。
産業は農水産業と観光。特産品は「福井梅(ブランド)」と「へしこなどの水産加工品」である。
水産業は、常神半島の西岸の津々浦々に 8 つの小規模な漁村が点在しており、大敷(大型定置網)、
を中心に近海の魚を水揚げしている。
◆事業取組の概要
1970 年代頃の民宿・海水浴ブームの時代、若狭町をはじめとする若狭湾・三方五湖地域は、京阪神か
らの手軽で人気の海水浴スポットであり、夏休みは民宿が常に民宿になるほどのにぎわいであった。
若狭町でも約 200 軒の民宿が営業していた。
ところが、1990 年ごろになり、観光のスタイルに変化が見え始めたことを受け、現在の観光協会会長
(自らも漁師民宿を経営)が「小型低地や大式を体験漁業として子供たちに見てもらおう」と行動を
起こした。その当時、若狭の観光客はまだそれほど減少していなかったにもかかわらず、次の方向性
を打ち出すことができたのは、会長の先見の明であるといえる。
会長の呼びかけに応じ、現在は若狭見方漁業協同組合に属する世久見、海山、小川、神子、常神の 5
つの漁村の漁師たちが組合を構成し、社団法人若狭三方五湖観光協会が組織され、さっそく岐阜県の
体験漁業の子供たちを受け入れた。
常神半島においては、海水浴民宿経営や遊漁を通じて、ほとんどの漁師(漁家)が客商売を生業とし
てきたことが大きいと考えられる。それゆえ、他地域と違い、観光客のニーズの変化をいち早く察す
ることができ、サービス業のノウハウが必要な体験漁業の事業化へと抵抗なく円滑に移行できたと考
えられる。
1990 年に 270 人を受け入れて以来、受入れ数は順調に増加
し、2009 年には 8,000 人(売り上げ約 6,000 万円)を受入れ
る規模になった。
子供たちに贈る「若狭三方五湖わんぱく隊
大敷網体験の様子
認定証」
5-21
◆事業実施の効果
1. 漁師民宿(民宿ブーム)→体験漁業へのスムースな移行を実現
・昭和40年代の全国的な民宿ブームの終焉後、民宿に泊まる海水浴客の激減により、多くの漁家が
副収入の道を失ったが、若狭地区の漁村では、漁協と民宿組合・観光協会の連携により、昭和60
(1990)年頃からいち早く体験漁業の受け入れを開始し、漁業と観光の連携による経済循環を
維持することができた。
2.安定収入の確保による漁師民宿の代替わりを実現
・この結果、最盛期に地区内で約150軒あった民宿が、現在約100軒(ほとんどが漁家民宿)に
まで減少したが、そのうち9割は民宿ブームの時期から次世代への代替わりが実現している。
◆成功要因の分析
内容
項目
1)活動概要
・かつて漁業の副業であった漁家民宿を、新たな漁業と観光の連携と位置づけ、
いち早く体験漁業を開始。
・民宿経営の経験が、利用者との円滑なコミュニケーションにつながり、体験漁
業がすぐに地域に定着した。
2)活動組織の概要、 ・若狭町内の漁師が先頭に立ち、行業体験の受け入れの方針を打ち出した。
他団体との連携
・漁協のリーダーと民宿組合のリーダーがほぼ一致しているという地域の特性か
ら、団体間の連携はスムーズに進んだ。
3)人的要因
・漁協、民宿組合、観光協会が一枚岩で連携することができる人的ネットワーク
がすでに地域に存在していたことが成功の要因。
4)地域・漁村活性化
効果
5)実施上の問題点
解決に向けて工
夫した点
・民宿ブームが去った後長い時間が経過した現在でも、2/3の民宿が代替わり
して経営を続けていることが大きな効果として評価できる。
・若狭三方五湖観光協会(一般社団法人)が、漁業体験事業の受け入れを開始し
た 1990 年当時から黒字計上を続けている。
・民宿経営を通じて漁家に経営センスが根付いていたことが、大きな成功要因で
あるといえる。
6)支援制度等の活
用状況
7)その他の成功要
因
・民間事業として当初より黒字を計上していることもあり、公的な支援は受けて
いない。
・観光協会が体験受入れの窓口業務や事業計画など戦略部分の立案、国内外(台
湾、韓国などを含む)からの誘客営業などを実施するなど、漁協との役割分
担が明確で、効率的にそれぞれの事業に専念しながら、事業を実施する体制
が確立されている。
8)事業取組の課題
・平成23年3月以降、海外からの誘客が滞っている状況。継続的に地域の魅力
や安全性を発信していく方針。
5-22
≪事 例10≫石垣のある漁村景観を活かした地域活性化
外泊地区(愛媛県愛南町)
【類型4:その他(景観)】
◆地区の概要
愛南町外泊地区は、愛媛県南西部、宿毛湾の北に突き出た再開半島に位置する。
江戸の末期、隣接する中泊地区に平地が少なかったため、二男・三男などが外泊地区に漁港を開き、
その後背地に掘り出した石を積み上げ、家屋を建設したことで形成された。石垣は、潮害や季節風な
どから家を守るために作られたもの。
入江に面した急斜面には民家が山の中腹まで続き、それぞれの民家は、台風や季節風から家や暮らし
を守るため、軒に達するほどの石垣が整然と積み上げられ、独自の景観を作り出している。
その景観から「石垣の里」と呼ばれ、
「日本の美しいむら農林水産大臣賞」や「未来に残したい漁業
漁村の歴史文化財産百選」にも選ばれている。
平成 19 年(2007 年)には、(財)古都保存財団の「美しい日本の歴史的風土 100 選」にも選ばれ、日
本を代表する石垣文化の一大景観地となっている。
◆事業取組の概要
<石垣の漁村景観の保全活動>
交通アクセスが良くなく、長らく漁業を中心とした暮らしで生計を立てていたが、昭和 40 年代に石
垣景観が注目され、観光客の来訪がみられるようになった。
それに伴い、漁家が民宿を副業としてはじめ、最盛期には 10 件ほどの民宿が村中にあった。現在は
民宿として恒常的に宿泊客を取っているのは 3 軒のみ。
大学の先生が多く訪れ、石垣の景観の歴史的経緯や、警官資源としての活用について地元との議論が
あった。
→徳島大学(三宅氏)、愛媛大学(若林氏 他)など
平成 17 年頃に「石垣守ろう会」ができ、石垣の保全、景観の保全・活用などを行うようになった。
会長は民宿経営者。
かつては、巻き網漁や、定置網が盛んで、村の人も雇われて漁に出ていた。集落は漁業が主産業であ
り男は漁労を行った。女性は家
で家事を行ったため漁労の様子
が見えるよう台所は海側に作ら
れた。更に台所の窓の部分の石
垣は「遠見の窓」と言われるく
ぼみが設けられた(現存)。現在、
漁家は 2 件程度しかない。
<だんだん館>
集落内には、観光の拠点として
利用できる「だんだん館(喫茶・
レストラン、売店)」がある。石
垣の里の眼下に広がる宇和海を
臨みながら、コーヒーを飲んだ
5-23
り、予約をすれば郷土料理も食べることができる。
施設は、民家の風情を残す設計で、施設内に調理体験棟もある。
◆事業実施の効果
1. かつての漁村風情を残す石垣景観の整備による来訪者の確保
・半農半漁の暮らしを基に合理的に構成された生活空間を体感できる漁村。
2.拠点施設「だんだん館」による歴史・生活文化など地域からの情報発信
・拠点施設である「だんだん館」にはかつての暮らしの風景や、農業漁業が盛んに行われていたころ
の写真の展示がある
◆成功要因の分析
項目
内容
1)活動概要
・
「石垣の里」づくりとして石垣の歴史、技術、文化などを地域で検証、
「石垣守
ろう会」の活動に反映させている。
・だんだん館において、来訪者に半農半漁の漁村の暮らしを情報発信。
2)活動組織の概要、 ・「石垣守ろう会」として、民宿経営のリーダーが活動している。
他団体との連携
3)人的要因
・地元リーダーと大学の研究室との共同により、様々な地域活性化の活動を作り
出している。 例)石垣の里ガイド、だんだん館の運営等
4)地域・漁村活性化
効果
5)実施上の問題点
解決に向けて工
夫した点
6)支援制度等の活
用状況
・漁業への直接的な効果は少ないが、漁村の景観と生活文化の伝承・情報発信を
行っている。
・漁業の活性化には直接的にはつながっていない。
・石垣の修復を通じて、石積み技術などの検証により、地域の生活文化が明らか
になってきた(石積みには隙間がある=石と石とは点で接していて、力学的に
考えられた組合わせとなっている)。
・石済みと家並みを守るための建築上の規制などはない。条例を作ろうという動
きはある。
・愛媛県のしまなみ予算を活用し、「石垣間もおろう会」を立ち上げた。
・だんだん館は公的資金で改築し、指定管理者制度で、地元が運営している。
7)その他の成功要
因
・独自の地形と生活が守ってきた石済みをそのままの形で残してきたことによ
り、「石垣の里」としての景観的価値を発揮するに至っている。
8)事業取組の課題
・石垣修復の維持管理。
・建物の老朽化等に対する町並み景観の維持の具体的手法。
石垣に囲まれた村内の生活道路
拠点施設「だんだん館」と内部
5-24
≪事 例11≫カツオ学会の設立、広域の漁港ネットワーク(高知県黒潮町 他)
【類型4:その他(広域ネットワーク)】
◆学会設立の背景
カツオは古来、日本人の食と文化に大きな影響を与えてきた。
「初夏に初ガツオ、秋には戻りガツオ」、
を楽しむことは、古来より日本の豊かな自然と食文化であった。
南は沖縄から北は気仙沼まで、黒潮に乗って日本列島に毎年やってくるカツオを目当てに追いかけて
太平洋側の漁港に属する多くの一本釣り漁船などが、大漁を目指してカツオの群れ(ナブラ)を追い
かける。
ところが、多くの漁港・漁師から「カツオが、これまでのように獲れなくなってきている・・・」とい
う直感的な不安の声が発信されてきたため、これをきっかけにカツオ漁業に関する様々な切り口で、
平成 21 年 10 月、産・学・官の枠組みと地域を超えて、カツオにゆかりのある全国の人たちが集い「第
1回カツオフォーラム」が高知県黒潮町で開催された。
これに続き、平成 23 年 1 月に、黒潮町において「第 2 回カツオフォーラム」の開催に合わせ、カツ
オ学会の設立が呼び掛けられ、関連する大学、行政(10 件 16 町村)を中心にカツオ学会が設立され
た。
◆取組の概要
シンポジウムは、①カツオ資源の枯渇問題に対する学術的研究、②食資源としてのカツオの可能性、
③カツオ漁業と地域文化・活性化
という 3 つのテーマによって議論が深められた。
その結果、カツオに関する様々な課題や可能性が明らかになり、「黒潮一番地宣言」が発表された。
その宣言で確認されたように、私達にとって、これまで身近な食材であったカツオ資源の実態、地球
規模でみて回遊魚であるカツオの生態はどうなっているのか、そして、カツオに関わる漁撈、加工、
流通、消費、文化がどのような現状にあるのか、また、カツオの高付加価値化や有効な利用方法には
どのような可能性があるのかなど、今後、さらに継続した調査・研究と課題への挑戦が必要となって
いる。
またカツオ資源の実態を把握するためには、海洋資源調査機関のデータのみならず、日々海の上でカ
ツオを追っている漁業者による観察情報も、特に貴重な指標として認識する必要がある。そして、有
効活用によってカツオ資源の可能性を高めるためには、産業界や地域の諸団体の積極的な参画を得る
ことが大切であり、カツオに関わる産業の振興や地域の振興に資することが期待されるところである。
そこで、将来にわたり、日本人とカツオとの「上手な付
き合い方」を探るために、カツオ産業の盛んな地域と産・
学・官の関係者、及び、カツオに興味がある人々が集い、
各種の情報交換をはじめ、調査・研究を継続して行う機会
として、平成 23 年 1 月に日本カツオ学会が設立された。
今後の活動については、カツオに関心を持つあらゆる
人々がカツオについて総合的に考える機会を提供するた
めに「カツオ・フォーラム 2011 in 枕崎(2012 年度は宮
古島市を予定)」の開催、カツオ・シンポジウムの開催、
会報誌の発行などを計画している。
シンポジウムの様子(黒潮町)
5-25
◆発起人
○自治体(五十音順)
沖縄県(宮古島市、本部町)、鹿児島県(枕崎市)、宮崎県(日南市)、愛媛県(愛南町)、高知県(黒
潮町、土佐清水市、中土佐町、奈半利町)
、静岡県(御前崎市、焼津市)、三重県(尾鷲市、勝浦市、
志摩市)、茨城県(ひたちなか市)、宮城県(気仙沼市)
○学術関係者(五十音順)
海の博物館、沖縄大学、高知大学、東京水産大学、長崎大学、リアス・アーク美術館、茨城大学、
鹿児島大学、愛媛大学
等
◆取り組みの効果
1.産・官・学によるカツオ資源保護育成に対する連携
・学術的アプローチでカツオ資源の減少を研究する学術研究者と、実際に漁を行う大型一本釣りカツ
オ漁船の船長らによる、カツオ資源とカツオ漁業に関する討議により、産学の垣根を越えた海洋資
源保全に対する現実的な議論が深まる機会が創出された。
2. カツオの食材としての可能性の追求
・栄養学や食育の分野から、またフードビジネスの立場から、カツオという食材の持つポテンシャル
の高さを明らかにする機会が持たれた。
3.カツオを食する文化と、カツオ産業と地域活性化の意義の明確化
・全国のカツオ水揚げ漁港では、鰹節やなまり節、たたきなど様々な形でカツオ職種送る生活文化、
加工の技術などを地域ごとに培ってきた。これらカツオに関する地域文化を、資源として活用して
いくチャンスについて考える契機を創出した。
◆カツオ・シンポジウム 2010 の開催概要
テーマ
「カツオ
第 の生態と
1 資源を考
部 える」
「カツオ
第 の利用と
2 流通を考
部 える」
第
3
部
「カツオ
文化と地
域活性化
を 考 え
る」
パネリスト
二平明=コーディネーター
(茨城大学総合科学研究所)
小倉未基(水産総合研究センター)
竹内正一(元・東京海洋大教授)
上牧英雄(第 88 正丸)
明神正一(第 123 佐賀明神丸)
受田浩之=コーディネーター
(高知大学副学長)
高瀬美和子(水産庁遠洋課)
久塚智明(FBT プラニング代表)
片岡千賀之(長崎大学教授)
大西勝也(黒潮町長)
若林良和=コーディネーター
(愛媛大学教授、カツオ学会長)
川島修一(リアス・アーク美術館館長)
下地敏彦(宮古島市長)
南田敏明(枕崎市水産課)
境文子(高知県漁協女性部長)
討議内容
地 球規 模の カツ オ の
回 遊状 況と 資源 数 の
現状報告、繁殖地域・
太 平洋 南洋 での 資 源
保 全型 漁業 の実 現 可
能性(国際連携)
カ ツオ の有 用成 分 の
活 用に よる 食材 と し
てのポテンシャルと、
フ ード ビジ ネス の 中
での流通・加工の方向
性を模索
カツオを食してきた地
域の文化、カツオをシ
ンボルとした地位活性
化の在り方について歴
史性や地域ごとの取り
組みから討論。
5-26
3.成功要因の分析
1)成功要因分析の方法
・本年度抽出した 11 の事例を、類型別に分析する。
・類型ごとに事例を分類すると、以下のとおりである。
類型
類型1
流通・販売
類型2
ブランド化・
商品開発
類型3
体験・交流
類型4
その他
事例
番号
事例1
地域・主体
保田漁協
(千葉県鋸南町)
事例2
岩井漁協
(千葉県南房総市)
事例5
野母崎三和漁協
(長崎県長崎市)
事例4
大村湾漁協
(長崎県西彼郡時津)
事例8
三重外湾漁協志摩支所
(三重県志摩市安乗)
事例3
NPO たてやま海辺の鑑
定団(千葉県館山市)
事例6
大浜漁協
(長崎県五島市)
事例7
窪津漁協
(高知県土佐清水市)
事例9
若狭三方五湖観光協会
(福井県若狭町)
事例 10 石垣守ろう会
(愛媛県愛南町)
事例 11 カツオ学会
(高知県黒潮町 他)
事例タイトル
ばんや食堂~漁協直営・売り切れ御免の人
気レストラン
道の駅への漁協直営店・レストラン「網納屋」
出店
近郊都市へのアンテナ店舗「出島朝市・朝
市食堂」
クロナマコ石鹸の商品開発~未利用資源に
よる新商品開発
あのりふぐのブランド化と観光との連携によ
る漁村活性化
海業としての無人島体験ツアー
観光との連携による海業振興、拠点づくり
漁協が中心となった子供たちの漁業体験受
入れ
若狭三方五湖わんぱく隊~観光協会と漁
協・漁師民宿が連携した体験漁業の受入れ
石垣のある漁村景観を活かした地域活性化
カツオ学会の設立、広域の漁港ネットワーク
・事例分析の方法としては、昨年までと同様の成功要因ごとの分析を行い、既存データベースの蓄積を継続
するとともに、事例類型ごとに成功要因の抽出を実施する。
優良事例の特徴による類型化
<類型化の項目>
①流通・販売
②ブランド化、商品開発
③体験・交流
④その他
漁村の活性化の類型ごとの
「成功要因」の分析
→類型ごとに、どの成功要因
が重要となるかを分析す
る。
5-27
2)類型ごとの成功要因分析
①類型1:流通・販売
3 つの事例は、ともに漁協の組合長がリーダーシップを発揮して直営の販売所・レストランの経営に乗り出し
た事例となっているため、多くの共通点がみられる。
<事例1>保田漁協
<事例2>岩井漁協
<事例5>野母崎三和漁協
要因
1)活動概要
平成 7 年に漁協直営での第
3 次産業=「海業」の展開
を決定。「ばんや食堂・ば
んやの湯」などで 8.3 億円
の売上げと最大 70 名の雇
用創出を達成。漁業手数料
と比べて約 2.5 倍の付加価
値を確保。
2)活動組織 漁協直営事業。
の概要、他 地元商店等との相乗効果
団 体 と の を狙った連携は、日常的に
実施。
連携
3)人的要因 漁協組合長の強力なリー
ダーシップによる強力な
経営力、営業力で事業を推
進、事業効果を発揮。
4)地域・漁村 漁協自ら食堂という安定
活 性 化 効 的な販売チャンネルを持
つことで、組合員の「とれ
果
ば必ず売れる」安心感と安
定的雇用を創出。
5)問題点解 組合長のリーダーシップ
決 に 向 け と、広域交通インフラの充
て 工 夫 し 実の機会を効果的に活用
し、事業の段階的展開。
た点
道の駅(ハイウェイオアシ
ス)「富楽里とみやま」へ
の漁協力売店、直営レスト
ラン「網納屋」出店。
岩井民宿組合と連携した
体験漁業への取組。
車で約 40 分の大消費地・長崎
市中心部へのアンテナショッ
プと直営レストラン出店。
販売チャンネルの確保、情報発
信によるブランド商品等の販
売促進、市場調査機能の確保。
漁業協同組合が中心とな
り、道の駅の関連団体や地
元民宿組合と連携。
地域の総合力、相乗効果。
漁協直営事業。組合長の強いリ
ーダーシップにより事業を推
進。既存直販場(のもざき朝市)
のノウハウ活用。
漁協組合長の理念が店舗
運営に生かされている。道
の駅の支配人、民宿組合長
とも効果的に連携。
道路アクセスの改善と地
域資源を活かした、多彩な
漁協経営(観光連携等)が
奏功し、漁業・漁獲物が地
域活性化に寄与。
地域資源の活用、集客のた
めの広域交通インフラ充
実、拠点施設(道の駅の整
備等)を効果的に活用。
組合長のリーダーシップによ
り、店舗計画・デザイン戦略な
ど清潔で統一感のある情報発
信拠点が実現。
安定的な販売先の確保による
漁師の安定収入実現と、ブラン
ド「野母んあじ」等の情報発信
により、地域活性化に効果を発
揮。
直金・最大の市場である長崎市
中心部に拠点を設置する挑戦
的事業展開。
6)支援制度等
の活用状
況
7)その他の成
功要因
道の駅への出店に公的資
金を活用。
「ふるさと雇用再生特別交付
金事業」を活用。
事業立ち上げ期および拡
大期において、補助事業を
活用。
交通アクセスの拡充に合 地域の総合力による相乗 漁師にも、店舗利用者にもメリ
わせて、事業規模を段階的 効果。
ットがある新業態の展開。
に拡大。組合長のリーダー 「獲った魚を捨てないで 組合長のリーダーシップによ
シップによる経営マネジ 売り切る」という組合長の る積極的な漁協の取組み姿勢
メント手腕が全体事業の 信念が浸透した直販店の により挑戦的な事業展開を実
拡大に反映。
商品開発、販売手法。
現。
8)事業取組の 現在建設中の冷凍冷蔵施 後継者問題をいかに解決 開店後間もなく、長崎市内の生
設による食品加工業の事 するかが大きな課題。
活者にアンテナショップがど
課題
業展開の定着化が課題
こまで浸透するかが課題。
総括
・組合長の強力なリーダーシップ(コンセプト、経営推進力、地域連携)による事業取組み。
・地元商店、道の駅、観光関連団体等との連携により、地域の総合力を生かした相乗効果を発揮。
・事業立ち上げ期の初期投資には公的資金を活用。
・地域資源(立地条件、既存産業との相乗 等)の活用が事業の魅力付けには効果的。
等)の活用が事業の魅力付けには効果的。
5-28
②類型2:ブランド化・商品開発
ノウハウと販売チャンネルを持つ民間事業者との連携により未利用資源を有効活用した事例と、徹底した品質
管理と地元観光業との連携により、安定した付加価値を生み出している事例。それぞれのポイントとともに、共通
点を抽出する。
要因
<事例4>大村湾漁協
<事例8>安乗地区
1)活動概要
2)活動組織の概要、
他団体との連携
3)人的要因
4)地域・漁村活性化
効果
未利用資源のクロナマコを、ノウハウ
を持った民間事業者との協働により、
石鹸の原料として活用。高い付加価値
を実現(50 円→525 円/kg)。
クロナマコ原料の供給=漁協、水産加
工・販売=地元企業、石鹸の企画・商
品開発=ノウハウを持つ民間企業(福
岡市)が連携。
漁協組合長の経営に対する問題意識
と、民間事業者のアプローチがタイミ
ングよく合致。地元出身で、東京等に
販売チャンネルを持つ地元企業との人
的連携も効果的に実現に寄与。
漁師にとって、駆除対象であったクロ
ナマコが、525 円/kg で引き取られるよ
うになった。石鹸製造会社の地元企業
は、収益の 2%をナマコ等の資源管理費
として、漁協に還元。漁協は石鹸の代
理店ビジネス=収益の柱を獲得。
ノウハウのある民間事業者との協働が
ポイント。
5)実施上の問題点
解 決に向 けて 工
夫した点
6)支援制度等の活用 民間の収益事業の創出であり、公的支
援は特になし。
状況
7)その他の成功要因
8)事業取組の課題
トラフグの漁獲規制の強化とブランド
化による魚価の向上。旅館組合や観光組
合との連携により継続的な相乗効果を
発揮。シーズンオフの安定集客実現。
漁協が中心となり、行政、旅館組合、観
光協会などをメンバーとするあのりふ
ぐ協議会を立上げ、ブランドの徹底と波
及効果の発揮を協働で実現。
トラフグの大漁を受け、当時の組合長の
リーダーシップにより、漁獲規制や種苗
放流を実施しブランド化を実現。
行政が事務局となり、漁業と観光のキー
マンの協議会参加も大きな要因。
漁師にとっては、産地市場で安定して高
値がつくトラフグ漁が定着、経済効果は
大きい。観光業にとっては、閑散期に宿
泊観光客が 2~2.5 万人(客単価を 15,000
円/人として 3~4 億円の経済効果)安定
的に来訪。
漁業者にブランド維持のための漁獲規制
などを徹底、資源管理に努めたこと。
平成 15 年度三重ブランドチャレンジャ
ービジネスプランおよび中核的漁業者
協業体等取扱支援事業を活用。
民間事業者の営業力(販売チャンネル) 伊勢神宮への献上など、イメージ戦略が
や情報発信力(広告・宣伝)
。
大きく奏功。漁師にとっては冬季の裏創
業として、観光業にはオフシーズンの安
定収入に直結。陳腐化しつつあった観光
地に、食のブランド化で閑散期の集客を
実現。
クロナマコ石鹸の事業安定と、新たな トラフグ資源の安定的漁獲と、ブランド
商品開発による事業継続。
力の継続。
総括
・水産物のブランド化に関しては、徹底した品質管理、持続的な資源管理(稚魚の放流や、漁獲サイズ
の規制など)が必須条件。
・さらに、観光事業者・飲食事業者(料理人)との連携組織の立上げにより、地域のブランドとして一丸で
シーズンオフの目玉に育て上げた体制が成功要因としては大きい。
・加工品など商品開発・販売に関しても、ノウハウを持った事業者との柔軟な連携、民間の情報発信
力・営業力の活用が成功のポイントとなっている。
5-29
③類型3:体験・交流
・漁協、NPO、観光協会など、様々な主体がリードする体験・交流事業を概観し、成功要因を探る。
要因
1)活動概要
2)活動組織
の概要、
他団体と
の連携
3)人的要因
4)地域・漁
村活性化
効果
5)実施上の
問題点解
決に向け
て工夫し
た点
6)支援制度
等の活用
状況
7)その他の
成功要因
<事例3>たてやま
海辺の鑑定団
海に対する広範な知
識を有する自然体験
のNPOから、漁
協・漁師にアプロー
チ、体験プログラム
の幅が広がった事
例。
NPO たてやま海辺の
鑑定団が中心(会員
約 30 名、常時活動ス
タッフ 5 名、専従者 1
名)。体験プログラム
の実施に関しては、
館山市、観光協会、
地元漁協と連携。
NPO代表者のノウ
ハウと人柄が、事業
成功の一要因。
漁業者以外の地域外
の人材との連携も必
要。
直接的な効果は大き
くないが、海岸の清
掃活動、海・漁業へ
の関心喚起、海域利
用による漁場の荒廃
防止の効果。
都会の体験者に、い
かに地域の地形や歴
史、海と暮らす文化、
環境問題などに興味
を持ってもらえる
か。楽しみながら、
遊びながら学ぶプロ
グラム開発。
特になし。
何気なく見過ごして
いる地域資源の活
用。ノウハウを持つ
NPO との連携がポイ
ント。
<事例6>五島市大浜
地区
観光イベント開催によ
る刺し網漁による伊勢
海老の販売促進と、大
浜海業振興協議会の設
立と、拠点施設「ふれ
あい海工房」の整備。
<事例7>土佐清
水市 窪津漁協
体験漁業・民泊島で
の子供たちの受入
れ、漁協直営店舗・
レストランの経営
等、漁業の6次産業
化の実践。
<事例9>若狭三方
五湖観光協会
漁家民宿の伝統を活
かし、いち早く体験
漁業を開始。
体験漁業がすぐに地
域に定着。
大浜漁協が中心となり
設立した大浜海業振興
協議会が中心。
同じ五島列島の離島の
漁協とも連携し、集客
の相乗効果を狙ってい
る。
漁業協同組合によ
る直営事業。民泊受
入れの漁師や地元
住民と協働。
組合長のリーダーシッ
プにより、漁協が一致
団結。将来の漁村のた
め県の交付金を、体験
交流の拠点施設づくり
に投入。
イベントの実施による
観光客の新たな集客の
経済効果と、体験交流
受入れによる後継漁師
の定着、漁協青年部の
復活。
イベントはユニークな
ネーミングでマスコミ
による情報発信が効果
的。公的資金を漁村の
将来のため活用したこ
とで、青年部が復活。
組合長の強力なリ
ーダーシップによ
り、事業を推進。
漁師が先頭に立ち、
行業体験の受入れを
打ち出した。
漁協のリーダーと民
宿組合のリーダーが
ほぼ一致していると
いう地域の特性か
ら、団体間の連携が
実現。
漁協、民宿組合、観
光協会が一枚岩で連
携することができる
人的ネットワークが
すでに地域に存在。。
離島漁業再生交付金、
五島市ブランド確立協
議会において大浜がモ
デル地区に選定。
県の新世紀水産活性化
事業。
豊かな漁場と豊富な漁
法の再認識。遊漁など
が既に行われていたこ
とで、観光との連携が
スムーズに進んだ。
高知県:にぎわいの
ある産業づくり支
援事業費等。
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来訪者の増加と、経
済循環を生む直営
事業、コミュニティ
活性化に結びつく
交流事業による地
域活性化効果。
定置網やクジラな
ど、地域資源をうま
く活用した複数の
直営事業の立ち上
げ。
観光との連携によ
る 6 次産業化、漁協
からの地域活性化
のアプローチ。
民宿ブームが去った
現在でも、2/3の
民宿が代替わりして
経営を継続。
観光協会(一般社団
法人)が漁業体験事
業の受入れ開始時
(1990 年)から黒字
計上。民宿経営を通
じて漁家に経営セン
スが根付いていたこ
とが成功要因。
民間事業として当初
より黒字を計上して
いることもあり、公
的な支援は受けてい
ない。
観光協会が窓口業
務、事業計画、戦略
立案、国内外(台湾、
韓国などを含む)か
らの誘客営業などを
実施。漁協との役割
分担が明確にした事
業推進体制を確立。
8)事業取組
の課題
継続的に体験者を受
け入れることができ
る体制づくりと、経
済効果の仕組みの強
化。
安定した経済効果の創
出。体験・交流事業に
おいて、一定数を受け
入れる運営体制づく
り。
体験事業の許認可
や保険、子供たちの
受入れ・交流施設
等、実務的な部分で
の安全・衛生管理等
のさらなる徹底、施
設整備が課題。
平成23年3月以降、
海外からの誘客が滞
っている状況。継続的
に地域の魅力や安全
性を発信していく方
針。
総括
・自然体験のガイドノウハウを持つNPO、事業推進ノウハウを持つ社団法人の観光協会など、漁師・漁
協だけでは困難な事業部分を各主体との連携で乗り越えることで、地域にふさわしい推進体制を駆
協だけでは困難な事業部分を各主体との連携で乗り越えることで、地域にふさわしい推進体制を駆
逐し事業推進を行っていることが成功の要因。
・民宿経営を兼業する漁家は、サービス業のノウハウを内包している。体験・交流事業の推進には大き
な地域ストックとして活用が可能と考えられる。
・常に地域の総合力を活用して、訪問者を楽しませる工夫(ホスピタリティ)や、観光ルートを意識した集
客戦略など、事業戦略上の視点が必要。
5-31
3)まとめ
・以上のように、類型ごとに成功要因を項目ごとにまとめると、以下のとおりとなる。
要因
類型2(ブランド化・
類型3(体験・交流)
商品開発)
・漁協直営の店舗、レス ・未利用資源の有効活用や品質 ・体験漁業への取組みによ
1)活動概要
トラン開設
管理徹底による新商品開
る漁業と観光の連携、
発、ブランド形成
相乗効果
・ブランド形成、新商品開発
・行政、観光協会等との連
2)活動組織の概要、 ・漁協単独で実施
携が必須
他団体との連携
・組合長の強力なリーダ ・専門ノウハウを持ったパート ・漁業関係者に、取組意欲
3)人的要因
ーシップ、
積極経営の
ナーとの連携
と体験指導など利用者
姿勢が実現のポイン ・漁場を共有する広域ネットワ
とのコミュニケーショ
ト
ークが必要
ンをとる能力が必要
4)地域・漁村活性化 ・安定的な海産物の販売 ・事業による付加価値の内部化 ・観光との連携が図れる地
チャンネルの確保、雇
による経済効果、雇用創出
域には大きな相乗効果
効果
用創出、情報発信効果
が期待できる
5)実施上の問題点 ・経営・施設運営ノウハ ・漁業関係者だけではなく、観 ・安全・衛生管理、体験指
ウの吸収
光事業者や製造業など異な
導者資格等、人財育成
解 決に向 けて 工
・専門人材の確保
る事業ノウハウを持った業
がポイント
夫した点
態との協働が必要
・ノウハウを持つ中間支援
組織の関与が有効
6)支援制度等の活 ・初期投資等に公的資金 ・商品開発やブランド戦略の立 ・水産業関連、観光振興関
の活用は有効
案に際しては、一定の開発
連両方の公的資金が活
用状況
資金が費用であるため公的
用可能
資金の活用が有効
7)その他の成功要 ・一定数の集客が見込め ・業態間の役割分担と収益の分 ・誘客営業、事務作業と窓
ることが成功の要因
配についてのルールづくり
口業務の役割分担
因
8)事業取組の課題
類型1(流通・販売)
・事業継続のための経営
管理
・強豪・市場競争力を意識した ・地域資源の活用による特
継続的な商品開発
徴あるプログラム開発
・上記の結果は、本年度の9件の事例から導かれたものであり、次年度は、本事業の過去の事例調査地
やモデル地区採択地も含め、総括的とりまとめを次年度の課題とする。
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