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第 3 章. 鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討
第 3 章. 鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 第三章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 3-1.鎌倉の邸園小径空間の2つのパターンと特性 旧鎌倉地域の邸園小径空間(地先道路) について、 鎌倉市道路台帳を基に、2項道路及び幅員 4m 以下 の私道の分布図を作成した( 図 2-4-1 参照)。 その結果、旧鎌倉地域の邸園小径空間は2種類 の性格に大別できる。 ■アンコ型小径 一つは、旧鎌倉地域の平坦な市街地に見られるパ ターンで、街区を囲む幅員6m 前後以上のサービス 道路から街区内部に入り込む不規則な網目状の細 街路である。街区外周の街路は鎌倉時代の都市計 画に由来する歴史を持つ道路で、グリッドパターンが 地形に応じて変形したものである。また、近年の宅地 開発等で整備された比較的広い幅員のサービス道 路も見受けられる。 られるパターンである。谷戸はフィンガー状に隆起し た峰と峰の間に生じる襞のような谷であり、鎌倉の山 裾に多く見られる。この谷戸に入り込むように細街路 が枝分かれしながら延びている。多くは途中から坂道 になり、最後は行き止まりとなる。これも鎌倉期あるい は江戸期の農道に起源を持つものと推測される。巾 のある谷戸では、宅地化に従って枝道が造られてい く。こちらは「 谷戸型小径」 と呼ぶ。 谷戸型小径は大町地区( 1丁目及び3丁目) 、長谷 地区(1丁目及び5丁目)から佐助地区にかけてのエ リアに特に多く分布している。宅地の背後に傾斜地を 背負った狭い谷戸の住宅地は道路を拡幅するため の余地が限られており、それが路地が比較的多く残 っている理由であろう。 「アンコ型小径」、「 谷戸型小径」の2つの邸園小径 空間の特性や小径景観の特性をケーススタディ地区 を設定して具体的に見ていく。また、それぞれの街路 特性に応じた邸園小径空間の保全形成方策の検討 アンコ型小径が多く見られる地区は、まず海岸線 に沿った材木座地区(5丁目及び3丁目)、および長 谷地区(2丁目)である。古くからの漁師町であったこ ととの関連が推察される。ただし、同じ海岸沿いでも も行う。 都市計画道路や海浜公園などの近年の都市整備が 進んだ由比ケ浜4丁目は路地が少なくなっている。 3-2.ケーススタディ地区①・ 雪の下 A・ B 地区 <パターン: アンコ型> 3-2-1.雪ノ下 A 地区 ■地区の概要 東は若宮大路、西は JR 横須賀線、北は川喜多邸 の山、南は小町2丁目との間の道路に囲まれる、南 北約 200m、東西約 320mほどの地区である。 また、小町地区(2丁目)と雪ノ下地区(1丁目) にも アンコ型小径が多い。このあたりは明治まで田畑が多 く見られた地域で、下馬周辺の商業地に比べて街路 の整備が遅れたためであろう。 内部の不規則な網目状の細街路は、鎌倉室町期 の市街地がその後寒村に戻って耕作地等になって 明治の復興期まで続いたが、明治以降の市街化で は江戸期の田畑の畦道や漁師町の路地がそのまま 地先道路として利用されてきたものと推測される。ま た、戦後広い別荘敷地を細分化する際に短い行き止 まりの細街路( この場合、当然のことながら幅員 4m が 多い。)が加わり更に複雑なパターンを形成している 地区もある。これを住区セルの中の細街路という意味 で「 アンコ型小径」と読んでおこう。 若宮大路沿道は商店街であるが、地区中央を南 北に走る小町通り沿道は、10 年ほど前までは住宅地 であったが、現在は観光商店街化している。 小町二丁目との間の東西の道路も、小町通りとの 交差点を中心に商店街化し、西側は集合住宅の立 地も始まっている。また、小町通り東側地区では路地 裏にも住宅を改良した店舗が出現している。 ■谷戸型小径 もう一つは、鎌倉の特徴的な地形である谷戸に見 北側の川喜多邸前の道路は、幅員は概ね 4m以 33 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 上はあるが、6m未満で、JR 横須賀線以西の住宅地 から若宮大路の混雑を避ける通り抜けとして使われ ており、車両の交通が多い。 小町通り西側の街区は、閑静な住宅地であり、川 喜多邸前の通り、扇川沿いの小径や内部の小径も生 垣や板塀などが多く、風情がある。しかし、小町通り から鏑木清方記念美術館に至る小径は、住宅の更 新により拡幅され、駐車場道路化された印象が強ま っている。 街区内部の邸園が醸し出す小径の親密な空間を 建物等の更新に際しても継承できるような手立てを講 じる必要がある。 ②セル中心部の自動車の入って来られない路地空間( 雪ノ下二丁目) ■邸園小径空間の特性 特性1) サービス道路に囲まれた街区内の路地空間 ・ 雪ノ下地区には、車両の往来ができるサービス 道路に囲まれた四つの街区(セル)があり、親密 な路地空間が存在する。 ・ セルの中心部は道路幅員が狭く、中まで自動車 は入ってこられない状況であるが、建て替えが起 こるごとに壁面後退され、幅員が広がり、徐々に 親密な空間が失われている。 ③建替え時に拡幅されたセル内の道路。奥は細街路。 特性2) 地理条件が生み出す景観 ・ 川沿い・崖沿いの街路では、石積みや植栽が、 邸宅の木塀等とセットになり、魅力的な空間を演 出している。 ④小川、石垣、植栽、細街路による親密な空間演出( 小町二丁目) ①セル中心部の自動車の入って来られない路地空間( 雪ノ下一丁目) 34 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 ⑤石積み、植栽と木塀により囲まれた空間(雪ノ下一丁目) ⑧竹垣(雪ノ下一丁目) 特性3) 邸宅が持つ生垣や木竹垣が生み出す景観 3-2-2.雪ノ下 B 地区 ■地区の概要 鎌倉幕府の正史「 吾妻鏡」 では、道については「大 路」という言い方を多用し、また地名については「○ ○辻子」という言い方も出てくるが、他の文献では「小 路」という言い方が一般的に用いられ[辻子]は「小 路」よりさらに細い小道を指していたようだ。いずれに しても、今日の鎌倉の主な道筋は、鎌倉時代の道筋 とさほど大きく変わっていなかったということが、現在 の道の傍らから鎌倉時代の道の側溝がよく発掘・検 ・ 大規模な邸宅が持つ生垣、木竹垣が、一体的・魅 力的な空間を創出している。 ⑥長い木塀( 雪ノ下一丁目、川喜多邸前) ⑦一体的・連続的な生垣、植栽(雪ノ下一丁目) 35 図 3-2-1. 河野眞知郎著「中世都市鎌倉」 鎌倉道路発掘地図 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 出されることから立証でき、定説になっている。 「大学辻子」「咒師勾当辻子」「宇津宮辻子」 というよう 今回の調査地の雪ノ下B地区は、現在の地名では 雪ノ下一丁目と小町二丁目に含まれる地域であり、こ に名付けられていた。一方南北路地である縦路地は 敷地が細分化されたことによるいわば私的な道、通 こはすでに鎌倉時代から方格地割り的な都市中枢部 路の性格をもってできた路地であった。 の一部分として成立していた。西側に鎌倉の中心都 市軸である若宮大路があり、東側には小町大路、北 明治三十五年に刊行した「鎌倉大観」の再版に添 付された明治 37∼8 年頃の実測図には、現在の針谷 側に八幡宮前の横大路、南側の大町大路に囲まれ た区域を東西に五十丈づつに区切られた辻子を含 む北半分の範囲に当る地域である。 医院から清川病院の北の路地までが確認され、畑だ った土地に更に伸びて横大路に交わったのは大正 の後半だったようだ。両者は成立の時期と用途が異 なっていた。 このあたりは鎌倉時代の「 若宮幕府」 「 宇津宮辻子幕 府」 や「 北条泰時・ 時頼邸」 があった地域であり、当時の 公的機関が配置された中心地区であった。尚、鎌倉時 代の中心市街地を形成する大路に若宮大路の西側に 位置する小町大路に相対する今大路がある。 現在、年間 1700 万人が訪れる観光地鎌倉の中心 的存在としてにぎわう若宮大路と背中合わせのこの 路地の両側は、数少なくなったが、街区内には旧大 佛次郎邸、岩崎邸、榎並邸などの歴史的建造物をも つ邸園や、妙隆寺、雪ノ下カトリック教会など、緑多い 境内地が散在し、住民以外の車が進入しないため、 かつての鎌倉の風情をしのばせる閑静な住宅地を保 調査を行なった雪の下B地区の路地は西の若宮 大路と東の小町大路の間を二つ割りにするようにほ ぼ中心に並行に走っている路地と、その路地に直行 する横路地、つまり北の横大路に並行する辻子を形 成する路地である。この一本の縦路地は数条の横路 ち、路地は住民の重要な生活道として機能している。 地を串刺し様に走っている。この縦路地と横路地とは 成立の時期が異なっていた。東西路地である横路地 はすでに鎌倉時代からあった都市街路で、それらは ■邸園小径空間の特性 写真 1: 単純な板塀につたが絡み、緑で演出している 写真2: 旧大佛邸板壁。穏やかに屈曲する焼き杉の黒い板壁が小径 図 3-2-2. 「鎌倉大観」明治 37∼38 年頃の実測図 36 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 のリズムに変化を与えている。 写真 3: 二項道路の後退部分を植栽スペースとして使用している例。 写真 6:隙間をあけない戸板のような板塀。通風のため足元だけ開け てある。シルバーグレーの味のある色になっている。 写真4: この地区で最も立派な四脚門。 写真 7: 四つ目垣と笹の組み合わせによる生け垣が美しい。 写真 5:大谷石が経年変化で朱色になっている石塀。向かい側は珊 瑚樹の生け垣。自然な朱色とグリーンのコントラスト。 写真 8:グリーンの生け垣を背にした四つ目垣とお稲荷様の朱色の板 塀が向かい合っている。板塀の足元はカーブした鎌倉石の石積みで ソフトな隅切りになっている。 37 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 <現況> 3-3.ケーススタディ地区②・ 長谷地区 路地の幅員は 1.8mから 4.0mまであり、最近建築 がおこなわれたところではセットバックにより幅員が広 <パターン: あんこ型小径と谷戸型小径の混合> ■地区の概要 がっている。 北を鎌倉文学館の山、南を由比ガ浜通り、西を笹 目谷戸の通り、東を長谷大仏の通りに囲まれた、南 北約 120m、東西約 730mほどの地区である。 路地の全長は約 350mあり、うち約 80mでは車両の 進入がなく、この路地を主な出入り口にしている住宅 は約 50 軒あり個別の駐車場は 27 箇所ある。この他に 時間貸し、月極め駐車場が4箇所あり、大きな邸宅が 失われた跡が駐車場になっている。 旧坂内邸、旧前田別邸、旧諸戸別邸などの大規 模な別荘が営まれたが、現存するのは旧前田別邸の 特徴的なことは大きな敷地を有する邸宅の方が駐 車場を持っていない、最近建築された住宅ではほぼ 100%駐車場が設けられている。 みで、旧諸戸別邸の俤を伝える洋館の一部が二箇 所に残る。また、吉野信子邸、川端康成邸が記念館 として敷地も含めて、現存する他、地元実業家の石 渡邸の屋敷も現存するなど、邸園文化地区としての 性格を保持している。 旧大仏次郎茶亭前の路地では板塀の連続性が見 られるが、その他では具体的な共通項はないものの 生垣、竹垣、板塀などの個々の工夫が見られ人が歩 く路地を心地良くしている。 由比ガ浜通りの商店街の一筋裏は、閑静な住宅 地であり、東西に走る一本の道路(一部に交道路指 定)が街区のサービス道路として機能している。この サービス道路と直行する形で南北に小径が伸び、南 <今後の課題> は由比ガ浜通りにつながり、北側は山裾まで行き止 まりとなっている。 建築行為により二項道路の宿命で拡幅を余技なく されるが、既に拡幅されたところを比較すると車の進 入が増えるばかりで歩く人の環境は脅かされている。 車中心の道から人が主人公の道づくりを考えるときに 来ている。 若宮大路から大きな敷地一つで路地に接している 箇所があり、若宮大路に面して開発行為がおこなわ 街区サービス道路沿道には、吉野信子記念館、市 長谷こども会館を始めとする歴史的建造物のある庭 園がある一方、ミニ開発や駐車場化も進んでいて、小 径景観の変貌が進んでいる。 二項道路としての整備はやむを得ないが、生垣緑 化、パーキング形態の誘導、庭木の保全等、沿道景 観の誘導が望まれる。 れると路地の姿が激変する可能性があり、路地の環 境を考えるには周辺調整が必要である。 ■邸園小径空間の特性 <新しい動き> 敷地が細分化され、同時期に建築がおこなわれた のをきっかけに「辻子の会」が誕生した。町内会や自 治会とは異なり、周辺住民が任意に集まり自由参加 で「私たちの住む地域を考える会」として活動をスタ ート。セットバック部分の共通仕上げから消防署を呼 んでの路地防災講習や路地イベントの計画など様々 に活動を展開中。今後、地域コミュニティからのまち づくりに発展していくことが期待できる。 40 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 41 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 3-4.ケーススタディ地区③・ 浄明寺宅間谷地区 <パターン: 谷戸型小径> 鎌倉における谷戸地区のケーススタディを行う。そ の地区として選択したのは浄明寺宅間谷である。この 谷戸は、鎌倉市の北東に位置し、金沢街道から南に 延びる全長約 800 メートルの谷戸である。谷戸の両側 は、90∼100 メートルを超える丘陵であり、谷沿いに は住宅が点在し、鎌倉の谷戸の特色をよく残した地 区である。 宅間谷は、竹の庭のあることで知られている報国 寺や、華頂博信伯爵邸として建設された旧華頂宮邸 があり、谷戸の奥は、衣張山への山道に連続してい る。鎌倉の谷戸の中では道幅も比較的広く、奥深い 谷戸であり、一部急傾斜地区がコンクリートの擁壁で 覆われてはいるものの、道沿いに小川( 宅間川) が流 れ、自然の景観に恵まれた地区といえる。 詫間谷という地名は、頼朝に呼ばれて鎌倉に入っ た、京都宅間派の祖、宅間為遠の三男の仏絵師宅 間為久に由来する。為久は、正観音像図を描いた後、 再び壁画作成のため鎌倉に呼ばれ、為久とその子孫 がこの谷戸に住んだことからついた地名と言われて いる。 谷戸の中間に位置する旧華頂宮邸は、昭和4年に 華頂博信の住宅として建設され、その後、たびたび 所有者が代わったものの、平成8年に鎌倉市が取得 し、現在に至っている。鎌倉に残る洋風建築としては、 鎌倉文学館(旧前田伯爵別邸)に次ぐ規模のもので あり、ハーフティンバーのスタイルとフランス式庭園を もつ邸宅であり、庭園のみ常時開放されている。 また、この谷戸には、旧華頂宮手前から東の山道 入る板東三十三カ所観音霊場巡りの巡礼古道が残 っている。逗子の岩殿観音へ向かう古道であるが、鎌 倉逗子ハイランドの住宅地が建設されたため、巡礼 道は中断され、現在一部しか残っていない。 ■邸園小径空間の特性 44 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 ① 小路入口の近くの道路と川 ガードレールはここのみ。 ② 浄明寺自治会館 前面に塀等は何もない場所。 ④報国寺の塀、 下部は大谷石 上部は生垣となっている。 ⑤報国寺にあるイチョウの巨木。 「 ちち」と言われる垂れた樹皮がある くらい巨木となっている ③報国寺前の山門と駐車場 小路の中で唯一開けた空間である ? 国寺脇の宅間川の川面。川の流れを変化させ、土手を作り そこにコンクリートに石を埋め込んでいる。 45 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 ? 川を挟んだ土手部分は鎌倉石。 段違いにセットバックし、山茶花が生垣となって いる。開放感がある。 ? 報国寺と旧華頂宮邸の中間。 ⑧川を挟んだ土手部分に生垣となっており、各種の樹木が植えてあ る。 ⑪谷戸の奥、高いところから見下ろした。 ⑫鎌倉の庭石にある溶岩石を下部に土手のように 積み上げている。 ⑨鎌倉の谷戸の奥によくある風景 46 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 ⑯報国寺前の住宅のかなり大きなサルスベリ。敷地内に同じくらいの 大きさの木が3本ある。 ⑬道幅約 1.8m、この奥には軽自動車があった。 ⑰バラ板の板塀。 ⑭下部は大谷石、上部は竹垣、竹垣は住人が壊れた 部分をその都度、直しているようだ。 ⑱宅地細分化によってできた今風の塀と住宅の前面空間 ⑮報国寺前の住宅の生垣。 47 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 ⑲旧華頂宮邸の手前。味のない万年塀が続く。 22 2本目の支線部分、ちょっとした溜まり場らしい広がりがある。 ⑳旧華頂宮邸正面門 23 川を挟んで自然の崖状の山がある。 21 旧華頂宮邸脇 左はアルミフェンス、右は自然の崖の山 24 わき道の入口。左が自然の崖状の山、右がひな壇状に住宅が並 ぶ。 48 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 25 旧華頂宮邸脇 下り方向を見る 28 下部は鎌倉石、その上に竹垣を施してある。 26 わき道の置く。細分化された土地に所狭しと家が建つ。最近鎌倉 に多い傾向 29 左の法面は鎌倉石を積み上げたもの現在はコケが生え、谷戸の雰 囲気がある 27 下部は鎌倉石、その上に生垣。 30 川の上に駐車場を作り、家までは長い階段を上がる。ほかの谷戸 にもある風景。 49 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 33 正面が直線道路の最後の部分。左が竹垣、右がサンゴ樹 31 奥に住宅がある。鎌倉の谷戸の奥によくある風景 34 いちばん奥の行止り部分、未舗装で生垣も多く。左がやま、右がサ ンゴ樹 32 左側にひな壇状に住宅が並び、右は小さな川を挟んで自然の地盤 がむき出しとなっている。 50 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 3-5.邸園小径空間の保全に係る課題の整理 日照、通風等環境上の配慮がなされれば必ずしも道 路空間として4m 以上に拡幅しなくても良いのではな (1) 法令上の規定と課題 建築のための地先道路については、建築基準法 43 条、42 条、都市計画法 33 条等の規定により、建築 いか。そこには、環境性能に関わる空間的担保のた めに、関係権利者間の協議と合意形成、街区内のマ イカーの進入閾の設定、防災設備の整備、街区にお ける建築ルールやまちづくり協定等の締結が条件と なる。そうすれば既存不適格の邸園街区も継承され 敷地は幅員 4.0m以上の道路に 2.0m以上接道するこ とが法で規定されている。 一方、国内には幅員 4.0 未満の道路や通路が数多 ていく可能性がでてくる。 く存在し、建築基準法第 42 条により、建築物は道路 中心線から2.0m以上セットバックすることが義務づけ られている。幅員 4m 未満の前面道路を中心から2m 別表のように、邸園街路空間の性能水準の基本的 考え方と建築基準法の規定基準との関係を整理して みる。 セットバックしないまま建築を行うと建築基準法 43 条 に抵触する。少なくとも、建築基準法が幅員 4m の道 路に求めている性能を担保する必要がある。 その考え方は、街区という比較的狭い居住環境の 環境水準というものは常にプラス要素とマイナス要素 が釣り合ってゼロになっているという価値観である。 つまり、車のアクセスなどの利便性を優先すればそれ と引き替えに快適性のある部分を犠牲にし、その分 快適性を我慢することになり、快適性を優先すれば、 ある種の利便性については我慢しなければならない、 という哲学である。個々の街区や地区の住民がその 環境で何を一番大切にするのか、何を守り、何を捨 てるかを協議し、街区の性能基準を設定する、という 社会規範を共有する社会システムが求められてい る。 (2) 建築基準法が目指している性能とは 建築基準法は一敷地一建築物の原則での敷地単 位の水準規定であり、隣地や周辺の建築計画が不明 の状況、つまりどんな状況であっても、当該敷地自身 が完結的に満たすべき環境水準を規定したものであ る。従って、それぞれの敷地がその環境水準を満た した時に初めて街区全体の環境水準が実現されると いう静的な予定調和を前提とした規定になっている。 しかし、現実の都市は常に建設途上、進行形であ り、具体的な個別の環境の中での相隣環境の向上 を目指すという街区をまとまりとした集団計画的な環 境水準の設定の方が実効性があるといえよう。一定 の良好な住環境が形成されており、画一的な二項道 路整備では、防災性や車の進入による利便性向上と 引き換えに、緑豊かで閑静な歴史的佇まいが失われ てしまうような邸園地区では、地区の特性に応じて、 より効果的に環境水準を保全してゆくために、街区な どの一定のまとまりのある単位での規制のあり方を検 討すべきである。 ( 4) 旧鎌倉地域道路システムの提案 −交通セルシステムとクルドサックシステムー 旧鎌倉地域の道路は、ケーススタディで見たように 幹線的な街路以外はアンコ型小径と谷戸型小径で 構成されている。こうした特性を踏まえて、小径を保 全できる「 街区性能水準」と道路システムの担保手法 を提案する。 「街区性能水準」は、街区を1つのまとまりとして捉 え、街区単位で建築基準法の一般規定を満たすよう にするものである。小径の「街区性能水準」を担保し ながら、消防救急活動も確保する手法として、「鎌倉 市まちづくり条例」に基づく「自立まちづくり計画」、 「鎌倉市都市景観条例」に基づく「景観形成地区」、 あるいは「都市計画法」に基づく「 地区計画」等による 集団計画による水準規定ルールの導入を条件とす る。 いわば、「邸園小径整備ガイドプラン」というべきも のをつくる。 (3) 邸園小径ガイドプランの基本的考え方 先ず、市街地全体の道路ネットワークを交通計画 のヒエラルキー、防災緊急活動等の条件から考えて 骨格道路を設定し、街区を形成する骨格道路を優先 的に改善すれば、その中の街区内の細街路の整備 については、壁面線指定等により、防災上の効果や こうした「街区性能水準」 により担保された街区の道 53 鎌倉地区における景観形成の推進のための調査 第 3 章.鎌倉らしい邸園小径空間の保全方策の検討 路システムをケーススタディ地区で想定すると図のよ うになる。 アンコ型小径街区では、概ね 200m角程度の外周 に 4.0m以上の街路を持つ街区を1つの単位として考 え、街区内部に進入する小径は車両の通り抜けが原 則として出来ないよう、一部を歩行者専用道路化して 拡幅を規制する。また、小径沿道は生垣緑化・板塀 等の保全など鎌倉の伝統的な小径景観の保全に努 めるとともに、「 二項道路」 として拡幅された箇所も、車 両のすれ違いやパーキングへの入口等を除いては 拡幅部を植栽地にするなどの工夫をして、歩行者に とって快適な小径空間に修復していきたい。 谷戸型小径街区では、骨格となる道路をコミュニテ ィ道路化するなど、歩車共存空間としての視認性を 高めることも必要であろう( 図 4)。また、三項道路指定 や 43 条但書きを積極的に活用したり、景観重要公共 施設として邸園小径を指定したり、鎌倉石による擁 壁・ 土手・ 生垣を景観重要建造物に指定したりするな 図 3-5-2. コミュニティ道路化、ハンプの設置、沿道の緑化 ど、景観法とのリンクも工夫したい。 図 3-5-3. カーポートの緑化 図 3-5-1. 交通セルシステムの考え方 54