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高校生向け研究内容(概要)
東京農工大学 工学部 化学システム工学科 細見研究室(分野:環境バイオエンジニアリング) トータルに考えて、環境負荷の少ない 工学部 細見正明 教授 システムの技術開発に取り組む ルに物事を見て、考えられる人材を育てた い。得意分野を持つと同時に、その研究の 全体がシステムとして機能し、 持続可能であることが重要 PCBによるカネミ油症事件、水俣病などが 連日、ニュースに取り上げられていた1972 年のこと。公害問題の解決に貢献したいと環 境工学科に進み、衛生工学的な見地から水 に関する研究を始められた。 「排水をきれいにすれば湖がきれいになる わけではありません。泥の中にはリンや窒素 がたまっています。これが様々な形で溶出し てきますから、水を浄化しても汚泥が蓄積さ れるのでは困ります。排水問題を解決するに は、泥、すなわち底質という視点も持つ必要 があります」 このように環境問題の解決には、目の前の 現象だけにとらわれず、全体を見る目、全体 を把握する力が求められる。 「排水を徹底的に浄化するよりも、ある程 度まできれいにして、汚泥もエネルギー消 費量も少なくする方が、いい解かもしれませ ん。物を作る時も、効率だけでなく、製造過 程で出てくる廃棄物を減らし、省エネルギー で生産する方法はないかと追究することで、 初めてトータルな解が出てくるのです」と細 見先生は指摘する。 さらに、リサイクルして物を循環するにし ても、コストがリーズナブルでないと、ある 時期はうまくいっても、長い目で見ると続か 物質循環システムの過程で 発生する温室効果ガスを 削減する微生物を研究 大学院 工学府 応用化学専攻 博士前期2年 上村 美羽さん 東京都立杉並総合高校卒 い」と希望される。 排水処理とエネルギー回収を 組み合わせたシステムを研究 いに情報交換し、全体を見渡しながら研究を 進めている。 研究では実際に田圃を借りて現場実験も 排水、汚泥処理、有害物質、シミュレーショ ンなど、多彩なテーマに取り組んでいる細見 研究室。その一つが排水処理にメタン回収 の技術を組み合わせた研究だ。 養豚業は費用の問題から排水処理が進ん でいない。そこで、豚のふん尿を原料にして メタン発酵させれば、排水処理の問題が解 決でき、エネルギー創出も可能になる。ま た、従来の液状で行われる湿式メタン発酵 法と違い、粘土状で発酵させるために、発酵 後の水処理も不要だ。 一方、メタン発酵によって出る汚泥は、大 量に窒素を入れても倒れない丈夫な多収米 (飼料米)の肥料にできる。稲ができたら、 モミは豚のエサになり、残った稲わらをメタ ン発酵の原料にすると、メタン生成(分解) が促進される。つまり、循環型の排水処理が 可能になる。 しかし、これですべて解決ではない。メタ ンの残渣を農地に撒くと、肥料になるが、メ 行われている。 「環境の問題に取り組むには 閉じこもっていてはダメです」と細見先生。 「実験室の中で水がきれいになる感動も いいですが、フィールドに出て、触れてみる ことで感じることは多いし、視野が広がりま す。夏の暑い日にブタのふん尿を扱うのは 大変な作業ですが、それは研究室の中にい てはわからない問題です。農家の方との対 応など、様々な経験から学ぶことも多く、そ れらすべてが社会に出て役立つものだと思 います」 循環型排水処理 ふん尿 ブタ 可食部 田圃・農地 メタンの排出量を減らせるか。研究室では、 こういったシステム上の課題を学生一人ひと りが研究テーマとして掘り下げ、同時にお互 乾式 メタン発酵 発酵残渣 再生可能エネルギー 細見研究室が取り組んでいる飼料米の稲わらや豚のふ ん尿を利用した循環低負荷型の物質循環システム いくのが大変ですが、知見が広がるのはおも しろくもあります。また、班内では当たり前 だと思われていたことに、他の班の人から疑 問を投げかけられることがあります。このよ うにいい刺激を受けられるのは、研究分野が 広い細見研究室ならではだと思います。 大学院修了後はプラントエンジニアとして 工場の設計に携わります。そこでも、環境の 視点を忘れず、全体を見て、総合的にいいシ ステムを作っていきたいと思います。 ● 学部所在地 :東京都小金井市中町2-24-16(小金井キャンパス) ● 問い合わせ先:〒183-8538 東京都府中市晴見町3-8-1 国立大学法人東京農工大学 広報・社会貢献チーム TEL042-367-5895 ● 大学URL :http://www.tuat.ac.jp/ ● E-mail:[email protected] 1 非可食部 飼料稲の 生産 タンも出やすくなる。では、どうしたら物質 循環とエネルギー回収を行いながら、同時に 養豚排水をメタン発酵に利用する循環排水 処理では、肥料として水田に撒かれたメタン 発酵の残 渣 に窒素が大量に含まれていること が問題です。そこで、私は余分な窒素を除去 しつつ、温室効果ガスの発生を抑えられる微 生物に焦点を当て、その活動を活性化させる 水田の管理の仕方を検討しています。 研究室には、私の所属するバイオ班とは まったく違う研究を行っている班もありま す。だから、幅広く学んでいないと、ついて 養豚排水 工 学 系 工 学 系 意味を客観的に判断できるようになってほし 細見正明先生が大学に進学されたのは、 ない。全体がシステムとして機能し、持続可 能な解決策を模索する細見先生は、 「トータ 工学博士。大阪大学工学部環境工 学科卒業。環境庁国立公害研究所 (現:環境研究所)の研究員等を経て、 1992年東京農工大学工学部物質 生物工学科助教授、1997年から現 職。研究室の山中湖合宿では学生と ともにマラソンを走る。