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平成 23 年度 科学夢チャレンジ事業(宮崎サイエンスキャンプ)・実施報告
平成 23 年度 科学夢チャレンジ事業(宮崎サイエンスキャンプ)・実施報告 講座名:体に良い成分をナノカプセル化? 所属 : 工学部 物質環境化学科 担当者氏名:大島達也 実施場所:工学部 A 棟 A-616 室(学生実験室) 目的: 経口摂取する医薬品やサプリメントに含まれる有効成分には難水溶性の物質も多く、小腸からの吸 収率が極めて低いことも多い。一例としてサプリメントとして普及するコエンザイムQ10は単体での吸 収率が数パーセント程度であり、残りのほとんどが排泄されてしまうとされている。 このような難水溶性生理活性物質の水溶化技術としてシクロデキストリンによる包接が知られる。 表面が親水性で、内部に疎水性の空間を備えたシクロデキストリンに難水溶性物質が包接されると、 その水溶性・水分散性が大きく増大するため、医薬品・サプリメントの吸収性を高める製剤技術とし てシクロデキストリンとの混合によるいわば「ナノカプセル化」が実際に利用されている。この他に もシクロデキストリンは香料の封じ込め、食品中の揮発成分の保持などに利用され、日常的に食する 食品や、生活品に添加剤として加えられている。 本講座では、分子レベルで物質を閉じ込めることができるシクロデキストリンの効果を確かめるた め、シクロデキストリンによる香気成分のマスキング、難水溶性物質の水溶化に関する実験を行った。 受講者:2日間計7名(中学3年生 1 名、高校1年生 5 名) 実施内容: 実験①として、シクロデキストリンによる粉わさび成分のマスキング試験を行った。市販の粉 わさびを少量の水に溶かし、αシクロデキストリンを加えてにおい成分であるアリルイソチオシ アネートを包接してマスキングできることを確認した。シクロデキストリンの構造類縁体におけ る、マスキング効果の比較を行い、αシクロデキストリンが最もマスキング効果が大きいことを 確認した。さらにはαシクロデキストリンの添加量の依存性を検討し、αシクロデキストリン添 加量を増すほどにおいを抑制できることを確認した。すなわち、これらの実験はホスト化合物 (分子カプセル)の化学的構造が重要であることを示し、実験を定量的に進めていくことを学ぶ 機会とすることを意識して行った。 実験②として、シクロデキストリンによるメチルレッドの水溶化試験を行った。呈色試薬であ るメチルレッドは単独での水溶性に乏しいが、γシクロデキストリンを加えることでその溶解度 が増加することを確認した。シクロデキストリンの構造類縁体における、水溶化の比較を行い、 γシクロデキストリンが最も水溶性を増大できることを確認した。さらに水に溶けたメチルレッ ドのpHによる色の変化を観察し、可視光の視認と補色の関係を、紫外可視光分光光度計で実際 に測定して学習した。 これらの実験は、ミクロスパーテル、マイクロピペット、ボルテックスミキサー、ホールピペ ット、メンブランフィルター、電子天秤などを受講者自身が用いており、これら一般的な化学実 験の器具を使う体験を兼ねている。 分子レベルで物質をカプセルに閉じ込める化学と、実際の応用の関連性についてある程度学習 することができたのではないかと考える。