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Title クライエントの歴史性〈historia〉と物語生成の一考察

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Title クライエントの歴史性〈historia〉と物語生成の一考察
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クライエントの歴史性〈historia〉と物語生成の一考察 :
多世代的視点から見た病・症状の意味
布柴, 靖枝
京都大学大学院教育学研究科紀要 (2010), 56: 237-250
2010-03-31
http://hdl.handle.net/2433/108477
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
京都大学大学院教育学研究科紀要 第56号2010
ク ライ エ ン トの歴 史性<historia>と
物 語 生 成 の 一考 察
一 多世 代 的 視 点 か ら見 た病 ・症 状 の 意 味 一
布柴 靖枝
1.は
じめ に ∼ 病 ・症 状 の 意 味
私 達 は 、偶 然 と必 然 の織 り成 す 産 物 と して こ の世 に 生 を受 け た。 あ る意 味 、生 き て い る こ
と 自体 が 奇 跡 の なせ る業 と もい え る か も しれ な い。 そ して 、 私 達 は この 世 に生 を 受 け、 偶 然
と必 然 の狭 間 の 営 み に よ り、 今 の 自 己 が形 成 され て い る。 た と え それ が 自 らに苦 しみ を も た
らす こ こ ろ の病 や 症 状 で あ っ て も 、生 き て い く上 で の 偶 然 と必 然 の狭 間 の 中で 生 み 出 され た
適 応 の 一 形 態 で あ る こ とを 忘 れ て は な らな い 。 た とえ ば 、 嘔 吐 恐 怖 症 が な けれ ば 、歯 止 め な
く、 こ こ ろ の 隙 間 をア ル コ ー ル で 埋 め て しま った で あ ろ う と推 測 され る事 例 、身 体 の 一 部 へ
の 強 烈 な こだ わ りが な けれ ば 、 そ こは か とな い 不 安 に飲 み 込 ま れ て しま うの で は な い か と思
わ せ る事 例 、 ま た 向 け どこ ろ の な い 怒 りや 悲 しみ の あ ま り解 離 す る 自分 自身 を 、 自傷 行 為 を
す る こ とで 心 とか らだ に つ な ぎ とめ よ うとす る もの と して 、 ま た 、変 化 へ の 願 望 と して 表 現
して い る の で は ない か と思 わ せ る事 例 な ど に 出会 うと、 そ の 個 人 が生 き て い こ う とす る営 み
そ の も の が病 や 症 状 を 引 き 起 こ して い る こ とに も気 づ く の で あ る。 医療 人 類 学 者 の ク ライ ン
マ ン(Kleinman,A.1988)は
、病 は 「
多 義 的(polysemic)」
で、 「
多 声 的(multi-vocal)」
で あ る と述 べ 、病 の 体 験 や 病 の 出 来 事 は 、 「
つ ね に複 数 の意 味 を表 した り、 あ るい は 隠 蔽 し
て い る」 と述 べ 、科 学 的 治 療 の対 象 と され て き た 病 い に個 々 の 体 験 と して の 多 義 性 を見 出 し
て きた 。 一 方 、 精 神 分 析 家 の ア ル マ ー ギ ュ リー(AlMargulies,2008)は
、精神 的な症状 に
は、 「
人 を苦 し め る 面 も あ り、 防 衛 の 側 面 もあ る が 、 同 時 に そ の ク ラ イ エ ン トの 強 さで も あ
る」 こ と を指 摘 して い る。 つ ま り、 よ り重 篤 な病 や 症 状 の 防 波 堤 の よ うな 役 割 を 担 い つ つ 、
ク ライ エ ン トが い ま だ 語 る こ と が で き な い 物 語 を代 弁 す る物 語 と して 多 弁 に 物 語 っ て い る
こ と を示 唆 して い る。
これ らの病 や 症 状 の 体 験 や 出来 事 は 、 あ る程 度 の 年 齢 ま で 達 す る とそ の ク ライ エ ン トに と
っ て 、 ア イ デ ン テ ィテ ィ に 取 り込 ま れ 、 ク ラ イ エ ン トの生 き る物 語 の 一 部 と化 して い る こ と
を 忘 れ て は な らな い 。 そ の た め 、 ク ライ エ ン トに と っ て の 病 や 症 状 の意 味 を理 解 せ ず して 、
そ れ らを た だ 単 に取 り去 ろ うとす る試 み は 、 ク ライ エ ン トの 一 部 を否 定 す る行 為 に もな りか
ね ず 、 そ こへ の十 分 な 配 慮 と手 立 て が な い ま ま に 病 や 症 状 を と っ た と して も更 な る形 を変 え
た 新 た な苦 しみ を も た らす に 過 ぎ な い。 こ の よ うに 病 や 症 状 へ の否 定 的側 面 のみ を み る の で
は な く、 そ の 病 や 症 状 が ク ライ エ ン トの人 生 に お い て 何 を担 っ て き た の か を 問 う肯 定 的 側 面
に つ い て 、 ク ライ エ ン トの 歴 史性<historia>の
に お い て 重 要 で あ る と考 え る。
一237一
中 か ら理 解 して い こ う とす る試 み は 心 理 臨床
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
2.問
第56号2010
題 と 目的
物 語 に 関す る研 究 は 、今 や 、臨床 心 理 学 分 野 だ け で な く、幅 広 く展 開 され る よ うに な った 。
Sarbinに
よ る 「NarrativePsychology」(1986)やBrunerの
Worlds」(1986)、
「ActsofMeaning」(1990)は
な影 響 を与 え て きた(江
「ActualMinds,Possible
、心 理 学 に物 語 論 を もた らす 著 書 と して 大 き
口,2001)。 ま た 、家 族 療 法 を源 流 と し、 ポ ス トモ ダ ニ ズ ム の社 会 構
成 主 義 の潮 流 の 中 で生 まれ て きた ナ ラ テ ィブ ・セ ラ ピー(White,M.&Epston,D.,1990,
Andersen,T、,1991,McNamee,S.&Gergen,KJ.,1992)や
、生涯発 達心理学 の立場か ら
ラ イ フ ヒス ト リー の質 的研 究(や ま だ,2000,2008)、
ィス ン)を重 視 して き た 医療 ・看 護 分 野 で もNBM(ナ
入 しよ う とす る研 究(齋 藤,2001,2003,江
あ っ て 、 河 合(1993,2001,2003)は
ま たEBM(エ
ビデ ン ス ・べ 一 ス ト ・メデ
ラテ ィ ブ ・べ 一 ス ト ・メ デ ィ ス ン)を 導
口,2001,2008)が
展 開 され て い る。 そ の 中 に
、ユ ン グ心 理 学 を基 盤 と した 分 析 的 立 場 か ら、 「
物 語 は無
意 識 と意 識 の 協 調 に よ っ て 作 り出 され る と こ ろ に本 質 が あ る 」 と論 じ、 ク ライ エ ン トの 日々
の 営 み を通 して の 現 実 と心 的 現 実 、そ して意 識 と無 意 識 の ダ イ ナ ミ ック な 交 互 的 なや り と り
の積 み 重 ね の 中で 新 た な意 味 づ け が な され 、 物 語 が生 成 され て い る こ とを示 唆 し、 日本 の心
理 臨 床 にお け る物 語 論 を先 駆 けて 展 開 して き た。 皆 藤(2001)も
ま た、 「
人 間 の 営 み は物 語
の創 出 の歴 史 で あ り」、 心 理 療 法 は 「ク ライ エ ン ト自身 の物 語創 出 の トポ ス(場)」
指 摘 す る。 しか し一 方 で 、 河 合(2001)は
で ある と
、物 語 の 生成 に 関 して 、十 分 に 議 論 し尽 く して い
る と は言 えず 、 詳 細 に考 察 し続 け る作 業 が 必 要 で あ る と も指 摘 して い る。
筆 者 は心 理 臨 床 を通 して 、物 語 生 成 に 関 して 、多 世 代 的 視 点(multi-generationalaspect)
か らみ た ク ライ エ ン トの歴 史 性<historia>が
2002)も
大 き く関 与 して い る と考 え て きた 。森 岡(1999,
指 摘 す る よ うに分 析 的 ア ブ.ロー チ で は 、早 くか ら ク ライ エ ン トの 歴 史 性 に 注 目 して
き た 。 しか し、 一 方 で 個 人 の 内 的 世 界 を 重 ん じ る あ ま り、 個 人 を越 え た 家 族 の物 語 と して 、
多 世 代 的 な 視 点 か ら ク ラ イ エ ン トの 歴 史性 を理 解 した り、 「
外 的 な 出 来 事 や 日々 の営 み と し
て の 現 実 」 と 「内 的 な ク ライ エ ン トの心 的 現 実 」 と して の物 語 との 関連 性 は 十 分 に検 討 され
て きた とは言 い が た い。そ こ で本 論 で は 、historyの 語 源 に な った ラ テ ン 語 くhistoria>を あ え
て 用 い 、ク ライ エ ン トの もつ 物 語 が 日々 の 営 み の 中 で 、ど の よ うに 形 成 され て して き た の か 、
そ して 、 ク ライ エ ン トが 語 る病 や 症 状 に は どの よ うな意 味 が あ る の か を ジ ェ ノ グ ラ ム を用 い
て 、 多 世 代 的 な視 点 か らク ライ エ ン トの歴 史 性<historia>を
理 解 す る こ との 重 要 性 を論 じ
た い 。 尚 、本 論 で は 、 ク ライ エ ン トの 歴 史性<historia>を 、 外 的 な 事 実 と して の生 育歴 に基
づ い た も の に と ど ま らず 、 日々 の 営 み の 中 で ク ライ エ ン トが これ らを どの よ うに 体 験 し、意
味 づ け、 生 きて き た か とい うク ラ イ エ ン トの 内 的 な 体 験 や 世 界 観 が反 映 され た 多 世 代 的 に受
け継 が れ た意 識 と無 意 識 の 織 り成 す 物 語 と して論 ず る こ とを 目的 とす る。
3.ク
ラ イ エ ン トの 歴 史 性 一 世 代 間 伝 達 さ れ た 無 意 識 と 物 語 生 成
<historia>と
が あ る(羅
は 、 ラ テ ン 語 で 、 ① 認 識 、 ② 記 述 ・物 語 ・話 、 ③ 歴 史 、 ④ 史 実 と い う意 味
和 辞 典,1989)。
ま た 、 ラ ン ダ ム ハ ウ ス 英 和 大 辞 典(1982)に
には、 「
歴 史 、 歴 史 学 」 の他 に
よ る と英 語 のhistory
「
個 人 の 履 歴 、 経 歴 、 物 語 、 出 来 事 」、 「
重要 な出来事 に富 ん
だ 過 去 」 と い う意 味 が あ る。 こ れ ら の 語 源 と な っ た ギ リシ ャ 語 のhistoria(learninginquiry;
-238一
布 柴:ク
ラ イ エ ン トの 歴 史 性 〈historia>と
knowledgeacquiredbyinquiry)や
物語 生成 の一 考察
ラ テ ン語 のhistoria(narrativeofpastevents;story)
が 、14世 紀 頃 に英 語 に借 入 され た も の で 、 当時 は 、relationofincidentsつ
出 来 事 の つ な が り(関 係 性)」 とい う意 や
「
想 像 上 の 話 」 と して も用 い られ 、 の ち に 事 実 と
し て の 史 実 の 意 味 合 い が 強 く な っ た 言 葉 で あ る とい う(梅 田,1990)。
(narrative,story)と
ま り、 「
出来事 と
こ の よ うに物 語
史 実 と して の 意 味 の歴 史 一historyとい う言 語 は 、 そ の 語 源 に お い て 分
か ちが た い もの と して存 在 して い た こ とが わ か る。
筆 者 は 、心 理 臨 床 面 接 を 通 して 、 ク ラ イ エ ン トの ジ ェ ノ グ ラ ム を 多 世 代 的 に と る と 、 同 じ
症 状や特徴 ・
パ タ ー ン を持 っ た 人 が 世 代 ご とに 出現 して い く こ とに気 づ い て き た。 明 らか に
家 族 内や 拡 大 家 族 の な か で の 世 代 間伝 達 の メカ ニ ズ ム が あ る こ と を強 く感 じて お り、特 に ア
ル コー ル 症 な どの 依 存 症 の 家 族 で 典 型 的 に見 る こ とが で き る。 これ 等 の こ と を無 意 識 の 発 見
を した 巨 匠達 は ど の よ うに 理 解 して き た の で あ ろ うか 。 「
無 意 識 の 発 見 」の 著 者 で あ り、 深 層
心 理 学 者 の エ レ ンベ ル ガ ー(Ellenberger,且,1970)は
、人 の 「
神 話 産 生 機 能(mythopoetic
function)」 に つ い て 、誰 し もが 、 無 意 識 内 に そ の機 能 を有 し、 「
意識 の閾下 にあ る自己の中
心領 域 」 に存 在 し、 「
物 語 や神 話 の創 造 に 恒 常 的 に 関 与 して い る 」 と論 述 して い る。つ ま り、
物 語 生 成 は無 意 識 の活 動 と切 り離 す こ とは で き な い もの と して 、 私 達 の 生 活 に深 く座 し、 な
くて は な らな い も の と して機 能 して い る こ とが指 摘 され て い る。 つ ま り、 フ ロイ ト理 論 にお
い て は、 「
反 復 強迫 」、 「
転 移 」、 「
抑 圧 」、そ して 「
投 影 」 とい っ た 概 念 で解 釈 が 可 能 で あ ろ う。
辻 河(2008,2009)は
、精 神 分 析 の 立 場 か ら世 代 間伝 達 に つ い て 、フ ロイ トの 娘 ア ン ナ(1936)
の提唱す る 「
攻 撃 者 との 同 一 化 」、 ま た ク ラ イ ン(1946)の
いう 「
投影 同一 化 」 とい っ た概 念
で も説 明す る こ と が 可能 で あ る と述 べ て い る。 フ ロイ トは 、 ク ライ エ ン トの 人 生 の 中で 無 意
識 に 反 復 され る精 神 的状 況 に 着 目 し、そ れ を 無 意 識 に抑 圧 され た 心 的外 傷 で あ る と指 摘 した
し、 ア ンナ は 、 そ の 心 的 外 傷 の 防衛 機 制 と して他 人 に傷 つ け られ た よ うに 傷 つ け て しま う心
的 作 用 を説 明 し、 一 方 、 ク ラ イ ンは 乳 幼 児 と母 親 の 間 で お こ る分 裂 ・投影 の 心 的 メ カ ニ ズ ム
の 中で 世 代 間 の 伝 達 が起 こっ て い る との 解 釈 で あ る。 ま た 、 ユ ン グ(JungC.G.,1961,河
合,1998)は 、 無 意 識 に 反 復 され 出 現 す る もの に は 、 人 類 に 共 通 す る普 遍 的 無 意 識 や コ ンス テ
レー シ ョン が あ る こ とを指 摘 し、 個 人 の 無 意 識 に あ る イ メ ー ジ の源 を 元 型 と名 づ け、神 話 や
夢 ・イ メー ジ を 通 して 、 ア ブ.ロー チ を試 み た 。 そ して 、 シ ャ ドウを 統 合 して 、 い か に個 性 化
す るか が 個 人 の 重 要 な課 題 で 、 自己 実 現 こそ そ れ に あ た る と した 。
一方
、 ソ ンデ ィ ・テ ス トで知 られ て い る ソ ンデ ィ(Szondi,L.,1944,佐
1990)は
、個 人 的 無 意 識 と普 遍 的 無 意 識 の 架 け橋 と して 第3の
竹,1984,大
塚,
無 意 識 と して の 「
家族 的無意
識 」 を提 唱 し、 家族 的 無 意 識 の 中 に運 命 を決 定 す る 「
家 族 的 な種働 力 」 が 力 動 的 な形 で 抑 圧
され て お り、 そ の 人 の恋 愛 、 友 情 、 職 業 、疾 病 、 死 な どに お け る選 択 を 決 定 す る とい う仮 説
を うちた て た。 ソ ンデ ィ は 、無 意 識 の 中 に家 族 的 無 意 識 が あ る と初 め て 提 唱 したハ ンガ リー
生 ま れ の深 層 心 理 学 者 で もあ る。 彼 は 、人 間 の 無 意 識 の 中 に は 、単 に個 人 的 な幼 児 に 抑 圧 さ
れ た 衝 動 力 や 集 合 的 な種働 力 だ け で は な くて 、 抑 圧 され た 家族 的 な衝 動 傾 向 も活 動 して い る
こ と を指 摘 し、500に
も及 ぶ 家 系 調 査 を実 施 し、 運 命 分 析 理 論 を提 唱 す るに 至 っ た。 彼 は 、
自我 の 主 体 的決 断 と して の 選 択 こ そ が 運命 を変 え る重 要 な も の で あ る と述 べ て い る。 つ ま り、
ソ ンデ ィ は 、運 命 に は避 け る こ とが で き な い 強 制 運 命 と選 択 可 能 な 自由 選 択 運 命 が あ る と し
一239一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
て お り、 後 者 は 選 択 に よっ て 避 け る こ とが で き る とい う独 自の 考 え を提 唱 した 。
この よ うに 無 意 識 を発 見 した 巨 匠 達 は 、 無 意 識 が私 た ちの こ こ ろ の あ りよ うや 生 き様 、っ
ま りはそ の人 の 生 き る物 語 に 深 く関 わ る こ とをす で に 示 して き た とい え る。 そ して フ ロイ ト
は 自 由連 想 の語 りを 、ユ ン グ は神 話 ・
夢 イ メ ー ジ と語 りを そ の 解 釈 の 手 が か り と して 治 療 を
お こな っ て き た 。 一 方 、 ソ ン デ ィは 、 家 族 的 無 意 識 か ら く る強 制 運 命 とい う概 念 の 中 に家 族
の 中で 伝 達 され て き た無 意 識 の 物 語 が 色 濃 く反 映 され て い る こ と を示 唆 して お り、 自 由選 択
運 命 を 自 らが選 択 し、生 き る こ との 重 要 性 を 提 唱 して き た 。 第 三 の無 意 識 と して家 族 的 無 意
識 を論 じた ソ ンデ ィ の功 績 は 、 特 に今 日、家 族 へ の 求 心 性 と凝 集 性 が 高 ま っ て い る現 代 社 会
を 生 き る ク ライ エ ン トの物 語 の 生 成 を 考 え る上 で看 過 で き な い 重 要 な 概 念 と もい え よ う。
4.多
世 代 的 視 点 か ら見 た ク ラ イ エ ン トの語 られ ざる 物 語
筆 者 は 、 ク ラ イ エ ン トの物 語 の 中 に 、個 人 を越 えた ソン デ ィ の い う家 族 的 無 意 識 を引 き受
け た 物 語 を 多 く聴 い て き た 。 つ ま り、私 達 は 、 最 初 に 出会 う母 親 や 家 族 とい う小 集 団 の 関係
性 の 中 で 無 意 識 に 自 己 を 形 成 し、 自 らの 物 語 を 生 成 し て い る と も い え る。 サ リ ヴ ァ ン
(Sullivan,H.S.,1953)は
、 他 者 と個 人 的 対 人 関係 を 離 れ て 人 格 は存 在 し得 な い と指 摘 し、
自己 の 体 系 は 、様 々 な 対 人 過 程 が ひ とつ の安 定 した 組 織 を な す こ とで成 り立 っ て い る と主 張
した 。 つ ま り、Freud以
来 強 調 され て い る母 子 関係 の み な らず 、背 後 に あ る夫 婦 関係 、 同胞
関 係 や 原 家 族 を含 め た 対 人 関係 の 営 み の た ゆ ま ぬ 関係 性 の 中 で 自 己 の 物 語 が 生 成 され て い
る こ とが 示 唆 され て い る。 ま た 、 対 象 関係 論 の視 点 か ら家 族 の 臨 床 に あ た っ て き た ア ッカ ー
マ ン(Ackerman,N.,1958)も
ま た 、 過 去 の家 族 との 関係 に よ って 形 成 され た 「内 的対 象 」 が
現 在 の 家 族 関係 や 夫 婦 関係 に 影 響 を及 ぼ す こ とを指 摘 し、 世 代 を越 え て伝 達 され て い く こ と
を 示 唆 して き た 。 ま た 、 ア メ リカ の 精 神 医療 の パ イ オ ニ ア 的 存 在 と して 、 多 くの著 名 な 治 療
者 を輩 出 した メニ ン ガ ー ・ク リニ ッ クで 精 神 分 析 の トレー ニ ン グ を受 けた ボー エ ン(Kerr,E.
M.&Bowen,M.,1988)は
、家 族 関 係 の観 察 の 中か ら、 両親 の未 分 化 を 子 ども に伝 達 す る
「
家 族 投 影 過 程 」 を説 明 し、 統 合 失 調 症 患 者 の 発 症 の メ カ ニ ズ ム を 病 的 共 生 関係(融
合)の
3世 代 以 上 に わ た る 世 代 間 伝 達 で あ る こ とを 指 摘 し、 家 族 療 法 の多 世 代 派 の 基 礎 を 築 い て き
た。
筆 者 は 、 ク ラ イ エ ン トの物 語 の 中 に は 、 多 世 代 に わ た っ て伝 達 され て きた 家 族 の歴 史 性 〈
historia>が 色 濃 く反 映 して い る と考 え る。 そ して 、 ク ライ エ ン トに よ っ て 「
語 られ る物 語 」
の 背 後 に は そ の 物 語 に組 み され な か っ た 混 沌 と した い まだ 「
語 られ ざ る物 語 」 が存 在 す る こ
とに な る。 そ の語 られ ざ る物 語 の 中 に実 は病 や 症 状 を 引 き 起 こ して い る物 語 が 秘 め られ て お
り、 そ れ は 同 日
寺に 個 人 を超 え 、脈 々 と変 容 を加 えな が ら家 族 に受 け継 が れ て き た物 語 で あ る
こ と に も気 づ くの で あ る。 心 理 臨 床 面 接 で は セ ラ ピス トと の 関係 性 に 守 られ 、 ク ラ イ エ ン ト
自身 が 病 や 症 状 の 多 義 性 を 内 包 す る混 沌 と した 「
語 られ ざ る物 語 」 を 言 葉 や イ メ ー ジ を通 し
て 、語 りなお す こ とか ら始 ま る。 山 口(2001)は 、 「
物 語 は 自分 自身 に よ っ て 発 見 され る こ と に
意 味 が あ り、 そ の 発 見 過 程 が 新 しい 物 語 を生 き る力 を 与 え る」 と述 べ て い る。 つ ま り、 ク ラ
イ エ ン トが 自 ら の歴 史1生<historia>を
振 り返 る 中で 、病 や 症 状 が 担 っ て き た意 味 を発 見 し、
そ の 肯 定 的 側 面 に 気 づ く と き 、 ク ライ エ ン トは 、 「
語 られ ざ る物 語 」 に翻 弄 され る受 動 的 立
一240一
布 柴:ク
ラ イ エ ン トの 歴 史 性 〈historia>と
物語 生成 の一 考察
場 を抜 け 出 し、 自 らの 生 へ の 主 体 者 と して確 実 に 手 綱 を取 り戻 した コペ ル ニ ク ス 的転 回 とも
言 うべ き変 容 が もた ら され 、 結 果 と して 苦 しみ か ら解 放 され て い く。 この よ うに ク ライ エ ン
トに よ っ て い ま だ 語 られ ざ る物 語 に は 、 ク ラ イ エ ン トに変 容 を も た らす 力 が 内包 され て い る
こ と に も気 づ くの で あ る。
5.語
られ ざ る物 語 を読 み 解 く一 ジ ェ ノ グ ラ ム の活 用
筆 者 は 心 理 臨床 を 通 して 、 ジ ェ ノ グ ラ ム(genogram)を
作 成 す る こ とで 、 世 代 を超 え て
伝 え られ て き た ク ライ エ ン トの物 語 を読 み 解 く作 業 を して き た。ジ ェ ノ グ ラ ム は 、 ク ライ エ
ン トの 歴 史性 を多 世 代 的 に傭 撤 して い く も の と して の 役 割 を果 たす 。 ジェノグラム は 、家 族 構
成 な どを表 記 す るツー ル として、現 在 で は様 々 な立 場 の 心 理 臨 床 家 が用 い てい る家 族 構 成 な どを
表 記 す るマ ッピング法 で ある。ジェノグ ラム は 、アメリカ に お ける家 族 の 臨床 を手 が け てきた多 世 代
派 とい わ れ るボ ー エ ン(Bowen,M)、
フラモ(Froom,J)そ
してマ ダ リー(Medalie,J)ら のグル ー プ に
よって 、1950年 代 より積 極 的 に取 り入 れ られ て活 用 され てきた が 、アメリカ にお い ても統 一 したジ ェ
ノグラム の マッピング 法 が確 立 してい なか った(McGoldrick,M.,1999)。
そ こで 、マ クゴ ー ル ドリッ
クらが ジ ェノグラムを積 極 的 に 臨床 に 取 り入 れ て い るグル ー プ と協 議 をして 、全 米 で 初 め て統 一 し
た 表 記 方 法 を1985年
に 作 り出した 。そ の 後 、多 様 な形 態 の家 族 の 出 現 により、養 子 縁 組 され た子
ども、人 工 受 精 で 産 まれ た 子 ども、ペ ット、トラスジ ェンダ ー な どの 性 的 志 向 、同 じ人 との 再 々婚 等
の 新 しい 標 記 も加 え た 新 た な マ ッピ ン グ 法 が 作 られ て2008年
(MacGoldrick,M.,Gerson,R.,Petry,S.,2008)。
に 改 訂 版 が 発 表 され て い る
また 、ジェノグ ラム は 、た だ 単 に家 族 構 成 を表 記
す るもので はな く、3世 代 以 上 にわ たる拡 大 家 族 の 情 報 を記 載 す ることが 出来 、家 族 の 構 造 の み な
らず 、家 族 の ライフサ イクル 、世 代 を超 えて繰 り返 され るパ ター ンを 明 らか にす ることが で きる。つ ま
り、事 実 の表 記 だ けで なく、クライエ ントか らみ た そ の家 族 や 拡 大 家 族 の メンバ ー の 性 格 や あ りよう
をも記 述 した り、家 族 関 係 、そ して世 代 を超 えて 生 成 され て きた クライエ ントのもつ 物 語 の 成 り立 ち
を 自らが 知 ることが 出来 る道 具 とな る。心理 臨 床 面 接 に お い て 、クライエ ン トと共 に ジェノグ ラムを作
成 して い くプ ロセ スは 、クライエ ントの 心 の 成 り立 ち を紐 解 く作 業 に なるだ け で な く、クライエ ン トの
抱 える問 題 、病 や 症 状 の意 味 を多 世 代 に わ たる拡 大 家 族 の歴 史 的 枠 組 み の 中 で理 解 して い くこと
を促 進 す ることにもな る。そ れ ゆ え に、個 人 療 法 の み な らず 、夫 婦 合 同 面接 や 家 族 合 同 面 接 にも
取 り入 れ が 可 能 で 、お 互 い を深 く理 解 し、関係 を改 善 す る手 法 としても有 効 で あると考 える。
6.日
米 の 事 例 を 通 して
多 様性 を生 き る時代 に入 った 現在 、心 理 臨床 にお い てパ イ オ ニア 的 な役 割 を果 た して き た
ア メ リカ にお け る事 例 をみ る こ とは 、今 後 の 日本 の 心理 臨 床 の方 向性 を考 えて い く上 で様 々な 示
唆 を与 えて くれ る。 よ って 、 こ こで は筆者 が ア メ リカ で担 当 した2つ の事 例 を提 示 す る こ ととす
る。事 例1は
、ア メ リカ の α大 学 付 属 病 院 精 神 科 の カ ップ ル ・フ ァ ミ リー セ ン ター で 担 当 した
ア メ リカ 人 の レズ ビ ア ン ・カ ップ ル の 事 例 で あ り、事 例2は
、 日本 人 女 子 学 生 が 留 学 先 の ア
メ リカ の大 学 で の 学 生 相 談 事 例 で あ る。 い ず れ も ジ ェ ノ グ ラ ム を 取 り入 れ な が ら、 そ れ ぞ れ
の 物 語 を 自 らの 歴 史1生<historia>を
振 り返 る 中 で 明 らか に し、新 た な物 語 を紡 ぎ 出 して い っ
た 事 例 で あ る。 ま た 、 両事 例 と も、 生 育 歴 が 語 られ た 際 や 、 ク ラ イ エ ン ト自身 が 、 どの よ う
一241一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
に 今 の 自分 が形 成 され た の か 、 ま た 、 家 族 メ ンバ ー が 何 故 あ あい う人 だ っ た の か を理 解 した
い とい う気 持 ちが 強 くな っ た 際 に ジ ェ ノ グ ラ ム を取 り入 れ て 面接 を進 め た。 具 体 的 に は 、三
世 代 以 上 の家 族 一 人 ひ と りに つ い て そ の 人 の 生 き方 、性 格 、 エ ピ ソー ドな ど を聴 き つ つ ジ ェ
ノ グ ラ ム を作 成 し、 自身 の 成 り立 ちや 家 族 の こ とを 理 解 す る作 業 を行 な っ た。
尚、 こ こ で提 示 す る事 例 の ジ ェ ノ グ ラ ム は 、 プ ライ バ シ ー 保 護 の た め 、 テ ー マ の本 質 に 関
わ らな い 情 報 は 変 更 ま た は 削 除 し、簡 略 化 して記 載 して い る こ と をお 断 り して お き た い。
■ 事 例1.ア
メ リカ 人 カ ッ プル の 臨 床 事 例 よ り一 カ ップ ル セ ラ ピー
彼 らは 、 コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン とIntimacy(親
密 性)の 問題 を 主 訴 と して 来 所 した レズ ビ ア
ン ・カ ップ ル で あ る。お 互 い の 理 解 を深 め 、2人 の 関 係 性 を修 復 す る とい うゴー ル に 向 けて 、
カ ップ ル に よ る合 同面 接 を 行 な っ た。
【問 題 歴 】彼 らは 、 コ ミュ ニ ケ ー シ ョン が うま くい か な い こ とに ひ ど くス トレス を 抱 え て
い る こ とを 主 訴 に来 談 した 。A子
は、 立 ち振 る舞 い か ら して 男1生的 で 、 過 去 をふ りか え らぬ
現 実 主 義 者 で 、怒 り以 外 の感 情 を表 出せ ず 、怒 りの 下 に あ る悲 嘆 が著 し く抑 圧 され て い る 印
象 が あ っ た。 一 方 、B子
は 、 正 反 対 の タイ プ で 、 女 性 的 で 甲斐 甲斐 し く世 話 を好 ん で す る 印
象 を持 つ ク ライ エ ン トで あ っ た 。A子 は 、B子 が16歳
B子 がA子
に もな る娘 に対 して 甘 す ぎ る こ とや 、
に 口 うる さ く些 細 な こ とを 指 示 して く る こ とを うっ と う し く感 じて い た 。 一 方 、
B子 は 、A子 が 気 持 ち を理 解 して くれ な い こ とや 大 事 な話 し を しよ うとす る と逃 げ て し ま う
た め 話 しあ い が 出来 な い こ と に不 満 を 訴 えて い た。 ま た 、 こ の カ ップ ル は 、 両 者 と も身 体 的
な 問 題 を抱 え て い た 。2人
とも極 度 の 肥 満 で 、A子 は 慢 性 の腰 痛 症 が あ り、数 度 に わ た り手
術 を受 け て い る。 に も か か わ らず 、 主 治 医 の い うこ とを きか ず 、何 度 か 治 療 を 中 断す る とい
う トラ ブル を起 こ して き た 。B子
か え ってA子
は そ うい うB子
引 き起 こ して きた 。 一 方 、B子
は 、A子
を 心 配 す る あ ま り、 口 うる さ く通 院 を勧 め る が 、
を うっ と う し く感 じ、B子
は17歳
か ら離 れ て しま うとい う悪 循 環 を
に糖 尿 病 を発 症 し、 食 事 と薬 に よ る コ ン トロー ル を
行 な って き た。ま た 、心臓 病 で バ イ パ ス 手 術 を受 け て い る。ま た 、2人 と も離 婚 経 験 が あ り、
A子 は 最 初 の男 性 と の結 婚 で 、2子
を も うけて い る。 しか し、 出産 の 度 に 得 も い わ れ ぬ 息 苦
し さ に気 づ き 始 め、 子 育 て も放 棄 す る よ うに な っ た。 そ の た め離 婚 に 至 った が 、 この 頃 よ り
自分 自身 の性 的 志 向 が レズ ビア ン で あ る こ とに気 づ き は じめ 、複 数 の 女性 と付 き合 うよ うに
な り、5年 前 にB子
に3人
と病 院 で 出 会 い 、 同 居 す る よ うに な っ た。 一 方 、B子 はA子
の 男1生と結 婚 して お り、3子 を も うけて い る。B子
の 過 去 の3度
と出 会 う前
の結婚生活 は苦痛 に
満 ちて お り、1人 目の 夫 は 統 合 失 調 症 で 自殺 を し、2人 目は親 離 れ で き て い な い マ ザ コ ン の
夫 に 嫌 気 が さ して わず か3ヶ.月 で 離 婚 、 そ して3人
目の 夫 は10年
間 生 活 を共 に した が 、娘
2人 に性 的虐 待 を加 え た た め に逮 捕 され 、 離 婚 した。 男1生関係 に ほ とほ と失 望 して い たB子
はA子
か らの ア ブ.ロー チ に 、 レズ ビア ン ・カ ップ ル と して 生 活 す る こ と に合 意 した 。そ れ で
は 、 面 接 を通 して 作 成 した ジ ェ ノ グ ラ ム(図1)を 通 して 、 彼 らの物 語 を紐 解 き 、 多 世 代 的 視
点 か ら理 解 して い き た い。
【A子 の もつ 物 語 】 ま ずA子
の 抱 え る 問題 に つ い て原 家 族(familyoforigin)を
辿 る こ とで
理 解 を試 み た い 。
A子 の 家 族 は 、祖 父 母 の代 に ア メ リカ に移 住 して き て い る。 祖 父 母 は と も にイ タ リア の南
一242一
布 柴:ク
ラ イ エ ン トの 歴 史 性<historia>と
物語 生成 の一 考察
部 の 貧 農 家 の 出 身 で あ っ た 。祖 父 母 達 は 、A子 に 母 国 で の暮 ら しにつ い て ほ とん ど語 ら な か
っ た とい う。 唯 一 、A子
が 聞 か され て い るの は 、 彼 らが 十 分 な教 育 を 受 けず 、字 も満 足 に書
け な い 状 態 の 中で 母 国 か らの 閉塞 的 な 生 活 を抜 け 出 す た め に ア メ リカ で の 生 活 を夢 見 て移
住 した とい うこ と だ け で あ る。 つ ま り、 ア メ リカ に 移 住 した 日
寺点 です べ て の 過 去 を封 印 して
母 国 を情 緒 的遮 断(cut-off)し
て しま った こ とが 推 察 され る。 父 方 の家 系 は 、 勝 つ か負 け る
か の 二 者 択 一 しか 許 され な い 家 庭 で 、怒 号 が い つ も支 配 して い た とい う。A子
の父 方 の 祖 父
は 、 ビル の塗 装 業 を生 業 と し、 父 親 は長 男 と して 育 ち 、祖 父 の塗 装 業 を 引 き継 い だ 。 尚 、祖
母 は6人
目の子 ど もの 出産 時 に若 く して命 を 落 と して い る。 一 方 、A子 の 母 方 の家 庭 も貧 し
く、祖 母 も6人
目の子 ど も の 出 産 時 に命 を 落 と して い る。母 はA子
に と って 唯 一 、心 落 ち着
け る存 在 で あ る とい う。A子 は 、高 校 を 卒 業 し、バ イ トを して い た が24歳
蘇 病一Di・b・tes(以
下DB),ア
・
レ
・
一・
レ
症一N・
・h・1・cs(以
下乱)そ
¢ 身体的または精神的病気
日 、
、
依存症
で 結 婚 。 しか し、
の 夫 との 間 に 子 ど もを
・・
持 っ 度 に 自分 自身 が女 性
■]①
で あ る こ とに 得 もい われ
◎(DB}
ぬ 違 和 感 を持 ち、 む しろ
怒 りに も似 た 恨 み が ま し
い 気 持 ち を パ ー トナ ー に
向 け る よ うに な っ た とい
…
・由
う。 これ は 、A子 の 原 家
族 の 祖 母 が2人
とも 出産
で 自 らの命 を 落 と して い
る こ と と無 関係 で は な か
ろ う。 ま た 、A子 が 怒 り
図1.レ
以 外 の感 情 を 表 現 で き な
スビアンカップルの ジェノグラム
い 理 由 と して 、 父 方 の原
家族の 「
弱 み を 見せ る こ とは負 け」 とい うA子
の 家 族 が持 つ 物 語 を受 け継 い で い る こ と が わ
か る。ま た 問題 が こ じれ そ うに な る とそ の 問 題 か ら逃 げ よ う とす るA子
の 原 家 族 が母 国 を情 緒 的遮 断(cut-off)し
のパ タ ー ン は 、A子
て ア メ リカ に移 住 して き た こ と と も無 関係 とは 言
え ず 、少 な く とも3世 代 に わ た りこ のパ タ ー ン を繰 り返 して き た こ とが 推 察 され る。つ ま り、
「
葛 藤 に直 面 した ら情 緒 的 遮 断(cut-off)す
る 」 とい う物 語 と して伝 達 され て い る 可能 性 が
高 い 。 しか し、B子 と娘 の情 緒 的 な親 密 な 関 係 を 見 た と き に 、そ れ ら を情 緒 的遮 断(cut-off)
して きたA子
に とっ て は 、切 り捨 て て き た過 去 や 抑 圧 した感 情 を刺 激 され る こ と とな り、「
甘
や か しす ぎ で あ る」 とB子
を非 難 す る こ とにつ な が った と考 え られ る。 しか し、 一 方 で 、A
子 が 切 捨 て 、抑 圧 して きた も の を 持 ち合 わせ て い るB子
を パ ー トナ ー と して 選 ん だA子
は、
失 わ れ た 半 面 を補 償 し よ うとす る無 意 識 の 希 求 と も と らえ る こ とが 可 能 で あ ろ う。 そ れ は皮
肉 に も、A子 が 情 緒 的遮 断(cut-off)し
、抑 圧 し、 目を背 け続 けて き た こ とで あ る が た め に 、
B子 か らの メ ッセ ー ジ は 、 とき にA子
の ア イ デ ンテ ィ テ ィ を揺 る が す 恥 と して 、ま た 安 全 を
お び や か す 恐 怖 や 悲 しみ と して 、 怒 りに転 化 され て い た こ とが推 察 され る。 こ の よ うに傷 つ
き を否 認 し、怒 りに転 化 して き た の は 、 ま さにA子
一243一
の原 家 族 が 「
強 さ崇 拝 」を 、世 代 を越 え て
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
家 族 の 中 で行 な って き た物 語 の パ タ ー ンで あ る こ とが 理 解 で き る。 しか し一 方 、肯 定 的 な側
面 をみ る な らば 、A子
は 、怒 りの 感 情 を 、B子 に な るべ く表 出 す る こ とな く、 「
距 離 を と る」
こ とで 対 応 して きた 。 これ は 、A子
を避 け る た め の 、A子 な りのB子
る こ とは 、 さ ら にB子
自身 が怒 号 と りま く原 家 族 の家 庭 環 境 で の傷 つ きの 再 現
に対 す る配 慮 で あ る こ とが伺 え る の で あ る。つ ま り、避 け
を 傷 つ け る こ と を避 け よ うと して のA子
こ とが み て とれ る の で あ る。ひ い て は 、A子 がB子
な りの最 善 の 対 処 策 で あ る
との 関係 を維 持 して い きた い と思 っ て い
るが 故 に 「
避 け て い る」 と リ フ レー ムす る こ とも可 能 で あ ろ う。 この よ うに 、B子
との 関係
に よ って 生 じた 問 題 が 、A子 に と って は 、少 な く とも三 世 代 に わ た っ て 世 代 を超 え て伝 達 さ
れ た こ とが み て とれ 、そ れ がA子
の 中 に 内在 化 され 、A子 の 物 語 と して あ る こ とが 、 ジ ェ ノ
グ ラ ム を通 して 理 解 で き る。
【B子 の もつ 物 語 】 一 方 、B子
は 、一 見 して 女 性 的 で 、 献 身 的 で 、 世 話 好 き で言 葉 もた つ
タ イ フ.であ っ た 。 しか し、 そ の 世 話 好 き が 時 に高 じて 、過 干 渉 に な り、A子
しま うこ とに もつ な が っ て い た 。B子 はA子
とい うパ タ ー ン を繰 り返 して い た 。B子
よ うに も見 え た 。 しか し、 時 にB子
を辟 易 と させ て
に冷 た く され る ほ どに 、身 を挺 して世 話 をす る
は 、犠 牲 者 と して の 関係 性 を健 気 に 持 ち続 け て い る
は 、犠 牲 者 の ポ ジ シ ョン を と り、相 手 の 罪 悪 感 を刺 激 す
る こ とで 、も の の 見 事 に意 の ま ま にA子 を 動 か して い た こ とが 見 て 取 れ た。彼 女 の この パ タ
ー ンは、 「
犠 牲 者 の ポ ジ シ ョ ン を と りな が ら、 相 手 を 巧 み に コ ン トロー ル す る こ と」 とい う
物 語 をB子
が 有 して い る こ と を示 唆 して い た。 何 故 、B子 が 、 こ の よ うな 物 語 を 内在 化 させ
た の で あ ろ うか 。 ジ ェ ノ グ ラム を見 て み る と、B子
の原 家 族 も 、祖 父 母 の 時 代 に ア メ リカ に
移 住 して き て い る。 そ して 、 祖 父 母 は 、 糖 尿 病 で 亡 く な り、6人 き ょ うだ い 全 員 が糖 尿 病 で
あ る。 す で に父 を含 む 叔 父 、叔 母4名
妻 との 間 に で きた 義 姉2人
を 糖 尿 病 で 亡 く して い る こ とに な る。 そ して 、 父 の前
は 、叔 父 に よ っで1生的虐 待 を受 け て い る。B子
合 い が 悪 く、母 親 と母 方 の祖 父 母 を慕 っ て き た。B子
が17歳
は 、父 親 との 折 り
で 糖 尿 病 を 発 症 した 日
寺に 父 か
ら 「
お 前 は 、糖 尿 病 に な る に値 す る」 とい わ れ た 言 葉 が今 も耳 か ら離 れ な い とい うエ ピ ソー
ドに も語 られ て い る とお りで あ る。 この よ うにB子
の 原 家 族 は 、糖 尿 病 とい う病 が 、家 族 の
中 心 に座 して い た こ とが 見 て 取 れ る。 糖 尿 病 患 者 に とっ て は、 生 き て い くた め に は食 事 制 限
や 運 動 、 薬 な ど生 活 面 す べ て の コ ン トロ ー ル が不 可 欠 で 最 重 要 で あ り、 「コ ン トロ ール を失
うこ とは死 に つ な が る 」 とい う状 況 に あ る。 この よ うに糖 尿 病 が 世 代 を超 えて 家 族 の 病 と し
て座 して い た こ と か ら も、B子 の 中 に コ ン トロー ル に 関す る物 語 が 内在 化 され て い た こ とが
理 解 で き る。B子
に と っ て 大切 な 存 在 で あ れ ば あ る ほ ど、相 手 を コ ン トロ・
一ル しな けれ ば な
らな い とい う衝 動 に駆 り立 て られ て しま うこ とが理 解 で き よ う。 しか し、 結 果 的 に そ の コ ン
トロー ル が相 手 の 自主 性 を損 な うま で の過 干 渉 に な っ て しま っ て い た こ とに 気 づ か され る
の で あ る。 ま た 、 義 姉 達 が 、親 戚 で あ る叔 父 に性 的 虐 待 を され 、 ま た 、 前 夫 との 問 にで き た
娘 達2人 ま で もが 前 夫 との性 的 虐 待 の 犠 牲 者 に な っ て しま っ た こ と にB子 の 苦 しみ は い か ば
か りの も の で あ ろ うか想 像 す る に難 くな い 。 ま た 、B子 の 母 方 の祖 父 母 は 、 フ ラ ンス 南 部 の
貧 農 の 移 民 で 、 母 親 の き ょ うだ い の男 性3名
は 、 全 員 アル コー ル 依 存 症 で あ る。 そ して 、5
人 き ょ うだ い の 長 女 と して 育 ったB子 は 、弟 妹 た ち の 世 話 に 明 け暮 れ て 育 っ た 。 ま た 、弟 の
一 人 を アル コー ル 依 存 症 で 亡 く して い る。 女 性 と して 、つ ね にケ ア テ ー カ ー と して犠 牲 者 の
一244一
布 柴:ク
ラ イ エ ン トの 歴 史 性 〈historia>と
ポ ジ シ ョン を 余 儀 な く され て きた で あ ろ うB子
物語 生成 の一 考察
の母 親 や 祖 父母 、女 性 と して の悲 しい 性 を背
負 っ て き た こ とが ジ ェ ノ グ ラ ム を通 して 理 解 す る こ とが 出来 る。 男 性 に 対 して 情 緒 的 な つ な
が りを持 つ 恐 怖 心 を根 底 に 持 って い る が た め に 、B子
は 、4番
目に選 ん だ パ ー トナ ー が 男1生
的 な 女 性 だ っ た とい うの も理 解 で き る の で あ る。 犠 牲 者 と して の 女性 の 生 き方 も、 人 生 とは
そ うい う もの だ とい う諦 念 と と も にB子
の 中 に生 成 され て き た物 語 で あ る こ とが 見 て 取 れ
る。
【新 しい 物 語 の 生 成 】 この カ ッ プル は 、2年 間 の カ ップ ル セ ラ ピー を通 して 、お 互 い の 負 の
作 用 を起 こ して い る個 々 の もつ 物 語 が 、2人 の 関係 性 に 問題 を 引 き起 こ して い た こ とに 気 づ
き 、 ジ ェ ノ グ ラム を通 して ど こ に 由来 す るの か を理 解 す る こ とを お こ な っ た。 ま た 、 身 体 の
痛 み も過 去 の祖 父 母 達 の 母 国 との情 緒 的 遮 断(cut-off)の
痛 み と して 身 体 化 され て い る こ と
を 理 解 す る に 至 った 。 こ の カ ップ ル は 、 お 互 い の 違 い に魅 力 を感 じて 惹 か れ あ っ た が 、 の ち
に そ の 違 い が お 互 い の不 和 を もた らす こ と に な っ た の は、 お 互 い が抑 圧 して き た もの を賦 活
され る存 在 で あ った こ と、 失 わ れ た 半 身 、 つ ま りシ ャ ドウ を相 手 が持 つ こ とに気 づ い た 。 相
手 の 存 在 を認 め る こ とが 、 自分 自身 を受 け止 め る こ とにつ な が る こ とで あ る こ とを確 認 しあ
っ た 。 ま た一 方 で 、 決 して 社 会 的 に受 容 され てお らず 、 安 楽 な道 とは い え な い レズ ビア ン ・
カ ップ ル と して 生 き よ う と して い る2人 は 、 ま さに祖 父母 達 がパ イ オ ニ ア 精 神 を 持 ち、 ア メ
リカ に 移 住 を 果 た した 強 さ と して の 肯 定 的 な側 面 の 物 語 と して 受 け継 い で い る こ とも確 認
す る こ とが で きた 。面 接 中 に決 して 涙 を 見 せ なか っ たA子
っ た 。 初 め てA子
は 、 自分 の弱 さをB子
が 、B子 の 前 で 涙 を流 す 場 面 が あ
の 前 で 表 現 で き た 瞬 間 で あ っ た 。 怒 りの感 情 で は
な く、 そ の 下 に あ る悲 嘆 の感 情 に触 れ 、 そ れ を表 現 す る こ とが 出 来 た の で あ っ た 。B子
の 時 に持 ち前 の 包 容 力 で 、A子
はそ
の感 情 を受 け止 め る こ とが 出 来 た 。2人 が お 互 い の 弱 さ を受
け 入 れ た 上 で 、 新 た な物 語 を紡 ぎ だ しつ つ あ る こ と を 目の 当 た りに した瞬 間 で あ っ た。
■ 事 例2.ア
メ リカ 留 学 中 の 女 子 大 生 の 学 生 相 談 事 例
本 事 例 は 、 日本 人 女 子 学 生C子
活 を送 っ て い た ク ライ エ ン トC子
の ア メ リカ の 留 学 先 で の 学 生 相 談 事 例 で あ る。 大 学 で 寮 生
は 、 同 じ 日本 人 の ル ー ム メ ー トR子
との 人 間 関係 の トラ
ブ ル に巻 き込 ま れ 、 精 神 的 シ ョ ッ ク か ら ヒス テ リー 様 の 症 状 が 出 現 して イ
可度 か倒 れ 、 大 学 の
カ ウ ンセ リ ン グセ ン タ ー に 紹 介 され 、来 談 に 至 っ た事 例 で あ る。 面接 の 第1期(#1∼6)は 、 ル
ー ム メー トR子 との トラブ ル を き っ か け に アイ デ ンテ ィテ ィ ・ク ライ シ ス を 引 き起 こ し、希
死 念 慮 や 強 い 身 体 症 状 が 出 現 した た め 、 ク ラ イ エ ン トの 自我 を支 え な が らの 危 機 介 入 的 な 関
わ りを行 う こ と に な っ た。 第2期(#7∼19)は
、R子
と心 理 的 に 距 離 を とれ る よ うに な り、 他
に 友 人 が で き大 学 へ 外 的 に 適 応 して い く こ とを通 し て 、 ア メ リカ へ の第 一 次 適 応 を果 た し、
自信 を回 復 させ て き た。 と こ ろ が 第3期(#20∼25)に
入 り、 日本 へ の一 時 帰 国 を機 に今 ま で 気
づ か な か った 家 族 の 冷 た さや 、 「
見 せ か け の 家 族 」 で あ っ た こ と に気 づ き始 め 、 ま た 、 恋 人
との 関 係 の破 綻 を き っ か け に 再 度 、精 神 的 に 大 き な揺 れ が 生 じた。 この 時 期 に 、近 づ きた く
て も近 づ け な い 存 在 と して の 家 族 につ い て 再 度 向 き合 うこ とに な った 。 友 人 や 異 性 関係 の 中
で 本 当 の 自分 ら し さ を 問 い 直 し、 再 度 、 家 族 関係 を振 り返 り、 自 ら の孤 独 感 に 直 面 化 した 。
第4期(#26∼38)は
、 ア メ リカ に居 な が らに して 、 日本 に住 む 家 族 との 関係 を 見 直 し、家 族 と
一245一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
の 関 係 を再 構 築 す る こ とで 、ク ライ エ ン トの 中 の 「日本 」 と 「
ア メ リカ 」の 再 統 合 を は た し、
「
ハ ー ドル を越 え る とい い こ とが あ る 」 と面 接 の 最 終 回 に 、 豊 か な 日本 の 象 徴 の桜 の 木 を絵
に 描 き、 卒 業 を も っ て 終結 し、 帰 国 して い っ た事 例 で あ る。
こ こ で は 、 主 に ジ ェ ノ グ ラ ム を取 り入 れ て 、 ク ライ エ ン トに とっ て の 症 状 の意 味 を ク ライ
エ ン トの歴 史性 を多 世 代 的 視 点 か ら見 直 し、 理 解 を深 め て い っ た部 分 を 中心 に記 述 し、 考 察
を加 えた い。
【C子 の 問題 歴 】C子 は 、日本 人 のル ー ム メー トR子
との トラブ ル を機 に 、頭 痛 、食 欲 不 振 、
不 眠 、 め まい な どの 身 体 症 状 を 訴 え る と共 に 希 死 念 慮 も認 め られ 、憔 悼 しき っ た様 子 で 来 談
した 。C子
と違 っ て ア メ リカ ナ イ ズ され 、 自分 の 意 見 を は っ き り言 うR子
か ら 「自分 の 意 見
や 感 情 を 出せ 。 そ うで な い とア メ リカ で は や って い け な い 」 と言 わ れ るが 、 そ れ が 出 来 な い
C子 は 、 ま す ますR子
をい らい ら させ て しま っ て い た。C子
と して は、 「ど う した らい い の
か わ か らな い 」、 「
何 が本 当の 自分 の感 情 な の か わ か らない 」 と訴 え る 中 で 、今 度 はR子
が 過 呼 吸 発 作 を起 こ し保 健 セ ン ター に 運 ば れ る こ とに な っ た。C子
の方
は 「R子 が 発 作 を 起 こ し
た の は 自分 のせ い だ 。 自分 の 存 在 が 他 人 の 存 在 を不 幸 に す る」 と言 っ て 自責 感 を 強 め て い っ
た 。 小 さい 頃 か ら 自分 に で き る唯 一 の こ とは 人 を傷 つ け な い こ とだ け だ と思 い 、何 が あ っ て
も感 情 を 出 さず に 、怒 らず に ニ コ ニ コ して きた 。 今 は そ れ さえ も友 人 に責 め られ 、R子
をい
らだ た せ て しま い 、発 作 ま で起 こ させ て しま っ た 。「自分 は ど こ にい っ て も人 をい らつ か せ 、
不 幸 にす る トラブ ル メ ー カ ー だ 」、 「
両 親 の反 対 を 押 し切 っ て 留 学 した の に こん な こ と に な っ
て 、 両 親 に あ わせ る顔 が な い 」、 「この 先 ど うや って 生 き て い け ば い い の か 自信 が な い 、 死 に
た い 」 と訴 え て い た 。 ア メ リカ とい う異 国 の 地 で 、 日本 で は 通 用 して き た 対 人 関係 の 持 ち方
が 、R子
に よ っ て否 定 され た こ とで 、脆 く も崩 れ 去 り、 ク ライ エ ン トの ア イ デ ン テ ィテ ィ は
根 本 か ら揺 る が され 、 ク ライ シ ス を も た ら して い た 。 ま た 、 「自分 のせ い で 」 とい う根 強 い
自責 感 は 、R子 の 問題 ま で 背 負 い 込 ん で しま う対 人 関係 に お け る境 界 の 曖 昧 さを物 語 って お
り、人 との適 切 な心 理 的 距 離 を保 つ こ とへ の 困難 さ を もつC子
【ジ ェ ノ グ ラ ム を通 して み たC子
の 物 語 】面 接 の 中 で 、主 にC子
の あ りよ うを も物 語 っ て い た。
が危 機 的 状 況 を 呈 して い た
1期 と3期 に ジ ェ ノ グ ラ ム(図2)を 用 い て 、症 状 や 苦 しみ の意 味 を理 解 す る試 み を行 な った 。
そ こで は 、C子 の 中核 的 な テ ー マ とな っ て い た 、 何 か悪 い こ とが 起 こ る と 「自分 の せ い 」 と
思 い 、「自分 の 存 在 が 他 人 を 不 幸 にす る 」とい う深 く根 ざ したC子
の 自責感 に焦 点 を 当て た 。
C子 は 自己存 在 の 自責 感 を深 く持 っ て い るが 故 に 、ひ たす ら 自分 の存 在 が 邪 魔 に な らな い よ
うに 自分 を抑 え、 他 人 に合 わ せ る態 度 を 演 じて き た の で あ る。C子
よ うに してC子
の この よ うな物 語 は どの
の 中 に 内在 化 され た の で あ ろ うか。
C子 は、 日本 の伝 統 的 風 習 が 色 濃 く残 る地 方 の長 子 と して 生 まれ 、厳 格 な躾 を受 けて 育 っ
て きた 。 家 庭 内 の 人 間 関係 は ギ ク シ ャ ク して お り、父 母 問 の 葛 藤 と、母 と姑 関係 や 父 と父 方
祖 父 の葛 藤 の狭 間 の 中 で ど こ に も身 の置 き 場 の な い 家 庭 環 境 の 中 で 幼 少 期 を過 ご し て き た 。
C子 は どち らか とい う と父 に 近 い 存 在 と して 育 っ て き た が 、 そ ん な 父 は 、C子
ら、「
わ が ま ま 」を言 う と2時 間 で も3時 間 で もC子
が幼 い と き か
を正 座 させ 、説 教 を しつ づ け た とい う。
泣 き続 け る と天 井 裏 に入 れ られ る ほ どに 厳 しい躾 を 受 けて き た。 そ ん な 父 に反 発 心 を持 ち な
が らも 、 自分 は 父 の 言 うとお り 「
わ が ま ま 」 で あ る と思 っ て き た の で 、 ア メ リカ に来 れ ば 、
一246一
布 柴:ク
ラ イ エ ン トの 歴 史 性 〈historia>と
物語 生成 の一 考察
自己 主 張 して もわ が ま ま と思 わ れ な い の で は な い か 、楽 に 生 き られ る の で は な い か と期 待 し
て 、 親 の 反 対 を 押 し切 っ て 留 学 した。 しか し、R子
との 出 会 い に よ り、 そ れ らの期 待 は 、 脆
く も崩 れ 去 っ て しま っ た の で あ る。 「
わ が ま ま 」 と思 っ て 自責 の 念 を も っ て き た が ゆ え に そ
の 反 動 形 成 と して 、 「自分 を抑 え る生 き方 」 を して き たC子
に とっ て は 、 そ の どち らの 自分
を も否 定 され た 思 い で あ っ た の だ ろ う。 そ の シ ョッ ク と混 乱 は い か ほ どで あ っ た か想 像 す る
に 難 くな い。C子
は、 ジ ェ ノ グ ラ ム を通 して 、 しだ い に 「
わ が ま ま=自 分 の や りた い こ とを
や り通 す 」 姿 勢 は母 方 か ら由 来 した も の で 、母 親 や 母 方 祖 母 が 共 通 して もつ 物 語 で も あ る事
に 気 づ く。 ま た 、 「
相 手 の た め に 自分 を抑 え て 我 慢 す る生 き方 」 は 、 父 方 祖 母 、 曾 祖 母 か ら
き た も の で あ る こ と に 気 づ き 、 自分 は
「『わ が ま ま 』 とい わ れ て き た けれ ど も、
実 は 内 面 は我 慢 を強 い られ て き た 」 こ と
70代
に気 づ く こ とに な る。 そ れ は 、C子
も、
父 も、 そ して 父 方 祖 父 母 も ま た長 子 と し
て 、 一 家 を担 う役 割 を期 待 され 、 生 き て
い く上 で 必 要 な 長 子 の物 語 と して 伝 達 さ
父方祖 父母 拓よび祖 母方曾祖母 と
のヰ世 代同居寅 族
図2.C子
豪旗の1面1直
観
● 自分を抑えて我慢 してい る人
● 自由でわがままな⊥
れ て きた 可 能 性 が 高 い。 そ して 、 一 見 す
る と水 と油 の よ うな父 方 の 物 語 と母 方 の
物 語 を引 き受 け て 、C子
の ジ ェノグ ラ ム
は 自分 の 物 語 と
して 内 在 化 して い る こ と に気 づ く こ とに
な る。 ま た 、 同 じ く長 子 で あ る に もか か わ らず 、 「
身 勝 手 」 で 「わ が ま ま」 とい われ て き た
母 親 と不 仲 な 父 は、 思 うよ うに な らな い母 親 の よ うに 「
わ が ま ま 」 に な っ て い く娘 の こ とが
許 せ ず 、 厳 格 な躾 をす る こ とで 母 へ の思 い を 代 理 的 に補 償 して き た の か も しれ な い し、一 方
で 、 父 親 の 立場 に 立 て ば 、 家 を 守 る た め に 持 ち続 け て きた 「
我 慢 す る」 物 語 を否 定 され る こ
とへ の 恐 怖 心 も あ っ た の で は な い か と推 察 され る。 自 由に 生 き る こ とは 、 父 親 自身 が 抑 圧 し
て きた 語 られ ざ る物 語 で あ るが ゆ え に 、C子 に 投 影 し、厳 格 に育 て る こ とで 自 らの抑 圧 した
衝 動 をお さえ よ う と して い た の か も しれ な い 。そ うい っ た 生 き方 は 、父 と父 方 祖 父 の 関係 や 、
父 とC子
との 関係 に お い て も ま た 同 じ状 況 が 繰 り返 され て い る こ と が ジ ェ ノ グ ラ ム を通 し
て み て とれ た。C子
が 「
家 に 帰 りた い が 帰 れ な い 。 長 女 の 重 荷 を感 じ る」 とよ く語 っ て い た
よ うに 伝 統 的 な 風 習 の残 る 日本 の長 子 の 物 語 と して 世 代 間 で 伝 達 され た も の で あ る こ とが
うか が われ た。 ま た 、他 人 の 問題 もわ が 事 の よ うに 引 き受 け る物 語 も ま た そ れ を物 語 っ て い
た 。原 家 族 か らの影 響 か ら免 れ よ う とア メ リカ ま で留 学 したC子
の 背 景 に は 、心 理 的 に父 や
実 家 との強 烈 な 融 合 関係 、 共 依 存 関係 が あ っ た と思 わ れ る が 、一 方 で 、 反 対 を押 し切 って で
も海 外 留 学 を や り遂 げ たC子
の強 さを も示 して い た 。
【新 しい物 語 の生 成 】世 代 間連 鎖 され た水 と油 の よ うな 父 母 の物 語 をC子 が 自 らの 内 に取
り込 ん で 苦 しん で き た こ とや 、家 族 の しん ど さを 一 身 に 引 き 受 けて き た こ と に気 づ い たC子
は 、 自分 が 苦 しい の は 当 た り前 で あ っ た こ と を改 め て認 識 し、 少 しず つ 自責 の念 か ら解 放 さ
れ て い っ た。 そ して 、C子 は 、3期 で の 危 機 的 な 状 況 下 で 、 「
家 に 帰 りた い け ど帰 れ な い 」 と
い う語 り に代 表 され る依 存 と 自立 の テ ー マ とも な る孤 独 感 に 向 き合 い 、 「
甘 え た くて も甘 え
一247一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
られ な い 」自分 と と こ とん 向 き合 うこ とに な っ た。そ ん な あ る 日の 面接 の 後 、セ ラ ピス トは 、
C子 が 自殺 して しま うの で は な い か と気 が気 で な く 、1週 間 後 の 面 接 を 待 て ず に 、 セ ラ ピ ス
トの 方 か ら電 話 を した こ とが あ っ た。 そ の 時C子
は 、待 っ て い た とば か りに孤 独 で 、寂 しい
胸 の うち を切 々 とひ と しき り語 り、そ の あ と にセ ラ ピス トの声 を 聞 き 、 心 か ら安 堵 した こ と
を 語 った 。 そ の 日を境 に セ ラ ピス トは 、C子 の 中 に芯 が通 った 手 ごた え と、 も う大 丈 夫 だ と
い う確 信 を覚 えた 。 そ れ を裏 付 け るか の よ うに 、一 挙 にC子
は 、感 情 表 現 が 豊 か に な り、 日
本 に 住 む 家 族 に 頻 繁 に電 話 を し、 今 ま で 語 る こ との な か っ た 自分 の弱 み を 家 族 に話 せ る よ う
に な って き た。 す る と、C子 が 思 って い た 以 上 に家 族 が親 身 に相 談 に 乗 って くれ 、親 が 留 学
して 努 力 して い る こ とを評 価 して くれ る よ うに な り、父 親 に と っ て も 留 学 は 密 か な 叶 わ ぬ 夢
で あ った こ と を知 る こ とに な り、 今 ま で 抱 い て い た 家 族 の イ メー ジ が 大 幅 に変 わ っ て い く体
験 をす る。 この 頃 に な る と、C子
は面 接 の 中 で 、 「これ ま で は我 慢 しな が ら泣 い た。 で も 、
泣 き た い とき に は 思 い っ き り泣 い た 方 が い い し、 苦 しい 日
寺は苦 しい とい っ た 方 が い い み た
い 」、 「日本 の イ メー ジ は重 苦 しい も の だ っ た が 今 は 、岩 が バ ー ン と砕 けた 感 じ」、 「
最近、 日
本 が 身 近 に 思 え る」 と語 りが 大 き く変 わ っ て い った 。 そ れ と共 に大 学 生 活 で の適 応 は さ らに
よ くな り、多 くの ア メ リカ 人 の 友 人 も で き 、 学 業 面 で も高 く評 価 され る よ うに な っ た 。 確 実
に 新 た な物 語 を生 き て い くC子
7.お
を確 認 して 、 卒 業 を も っ て 終 結 と な っ た。
わ りに∼ 事 例 を通 して
分 析 的 ア プ ロー チ で は 、 ク ラ イ エ ン トとセ ラ ピス トの転 移 関 係 の 中 で 治 療 を行 な っ て き た。
しか し、 筆 者 は そ れ に加 え て 、 チ ー サ ム ら(Cheathametal.,1996)が
「自責 的 に把 握 され
が ちな 問題 を 、社 会 的 、対 人 関係 的 文 脈 の も とで 理 解 し、新 た な方 向性 を 選 び 取 っ て ゆ く視
点 が 大 切 で あ る」 と強 調 す る よ うに 、セ ラ ピス トとの 関係 性 に守 られ つ つ 、 そ うな ら ざ る を
得 な か っ た 自身 の歴 史 性<historia>を
知 る こ とを 通 して 、 症 状 や 問題 の意 味 を肯 定 的 に捉
え 直 し、 自 らの 罪 責 感 を手 放 して い く作 業 も重 要 で あ る と考 え る。 本 論 で は 、 ク ラ イ エ ン ト
の歴 史 性<historia>を
多 世 代 的 にイ
府目
敢 し、無 意 識 に身 につ け て き た 自 らの 物 語 の成 り立 ち の
ル ー ツ を知 るプ ロセ ス そ の もの が 、主 体 的 な 物 語 の語 り直 しを促 し、新 た な 物 語 生 成 を も た
らす こ とを示 す 事 例 を提 示 した 。 両 事 例 は 、 日本 人 とア メ リカ 人 とい うよ うに文 化 背 景 を異
に す る とは い え、 い ず れ も原 家 族 、 ひ い て は 母 国 へ の情 緒 的 な融 合 関係 ・共 依 存 の反 動 形 成
と して の情 緒 的 遮 断 が行 な わ れ て い た 事 例 で も あ る。 ジ ェ ノ グ ラ ム を 通 して 、分 断 され て い
た 大 地 に根 ざす 身 体 性 を もつ な ぐ作 業 が 行 な われ た よ うに思 わ れ る。
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一249一
博士後 期課程3回 生)
、 受 理2009年12H11日)
京都大学大学院教育学研究科紀要 第56号 2010
A Study on Relation Between Client’s <historia> and the Formation of
Narrative Stories:
The Meanings of Illness and Symptoms in Multigenerational Context
NUNOSHIBA Yasue
This paper explores the formation of client’s narrative stories in psychotherapy
with knowledge of <historia> which means a client’s narrative history and stories in
Latin. It is crucial to understand his /her narrative stories and not-yet spoken stories
through his/her <historia> in multigenerational context. Sometimes clinicians
discover the meaning of illness and symptoms in his/her not-yet spoken stories.
A story refers to an identified role that family members take on individually or
collectively, subconsciously, or consciously, and that is transmitted from generation to
generation. A story represents the way in which the family appears to its members
and is a part of the inner image of the individual and group—an image that all family
members contribute to and attempt to preserve. A family story has both positive and
negative aspects in terms of the formation of the self. Therefore, understanding a
client’s <historia>is crucial in order to understand clients comprehensively and to
promote creating their own narrative stories in psychotherapy. A genogram helps a
clinician understand the formation of their client’s narrative stories in the
multigenerational context.
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