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深海化学合成生態系最後の処女地を攻める
ブラジル沖潜航調査への誘い –深海化学合成生態系最後の処女地を攻める− ○藤倉克則・倉本真一・北里洋(海洋研究開発機構) 深海化学合成生態系は,巨大なバイオマス,固有な生物群,バクテリア−真核生物共生システムの発 達,極限環境への適応といった特徴を持つ.そして,この生態系を対象に,不連続な場所に類似した 生物群が形成されるメカニズム,共生に伴う生物進化メカニズム,有毒物質への適応とその機能の応 用といった研究が世界的に展開されている. 炭化水素が湧出する湧水域に形成される湧水生物群集(化学合成生態系)は,プレート沈み込みと 天然ガスの湧出に伴うものに大別でき,海底油田も天然ガスの湧出域になる.ブラジル沖のサントス 海盆・カンポス海盆は,広大な海底油田域であり,これらの場所には湧水生物群集が形成されている 可能性が高いが,これまで潜水調査船やROVといった先進的で詳細な深海調査が行われておらず,湧水 生物群集は未だ見つかっていない(図1) .これまでの研究で, ・ カ ン ポ ス 海 盆 で 還 元 環 境 に 特 異 的 な 多 毛 類 Ammelina sp. nov. や シ ロ ウ リ ガ イ 属 に 属 す る Calyptogena birmani の死殻採集, ・ サントス海盆のParana 州沖やRio Grande Riseには夥しい数のポックマーク(図2) , ・ ブラジル石油会社Petrobrasにより,地形・地下構造の詳細なデータは取得されガス湧出の兆候が ある,ということがわかっている.これらの結果から,サントス海盆を含むブラジル沖に湧水生物群 集が存在している可能性は極めて高い.そこで(1)南大西洋からの化学合成生物群集の発見と生物 地理の理解, (2)海底油田域における化学合成生態系の種多様性と構造の把握, (3)炭化水素湧出域における酸 化−還元環境間の物質循環, (4)特殊機能生物の探索, (5)化学合成生物群集の地学・化学環境の把 握, (6)Rio Grande Riseの成因解明と分布生物の多様性の把握といったことを目的に,ブラジル沖 で「しんかい6500」による潜航調査を行うことを計画している. 本報告では,これらブラジル沖の研究情報,計画について紹介するとともに,他の研究者の参画を呼 びかけたい. 図 1.グローバルスケールでの深海化学合成生態系の分布.四角で囲った南大西洋域からは未発見. 図 2.ブラジル沖の海底油田域とポックマーク.