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「実験動物医学における画像診断技術の応用」

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「実験動物医学における画像診断技術の応用」
実験動物医学シンポジウム抄録
「実験動物医学における画像診断技術の応用」
日時:平成22年9月17日(金)14:00〜16:00
場所:第6会場
座長:木村 透(自然科学研究機構
鈴木
生理学研究所)
真(沖縄科学技術研究基盤整備機構)
1.実験動物用 in vivo CT 装置及びその応用
佐々木 基仁(GE ヘルスケアー・ジャパン)
今日、臨床用(人間用)のコンピューター断層撮像装置(CT 装置)が急速に広まり脳外科疾患、
更には全身各部の疾患の診断にその価値が認められ幅広く使用されています。
一方、その有用性から愛玩動物用にも応用され様々な診断や研究に使用されています。
今回は、臨床用及び愛玩動物用の CT ではなく実験動物、特にマウス・ラットを対象とした研究目
的で使用する CT 装置に関して紹介すると同時にその応用に関して報告します。
これまで実験動物用(マウス・ラット)を使用した研究では、詳細情報(臓器別の情報など)
収集や、長期間の経過観察を行う研究を行うには、多くの実験動物が必要であったり、研究に多
くの時間を消費するなどコスト増大や動物愛護の観点など様々な問題を抱えていました。
しかし、実験動物用 in vivo CT のイメージや、そのイメージ解析(容量測定)を行うことにより、
生体での長期経過観察が可能となり此れまで得ることが困難であった情報を容易に得ることが可
能となりました。特に、貴重な疾患モデルマウスなどを使用する場合など非常に有用です。
また、臨床用の CT 技術の進歩に追随して実験動物用の CT においても様々な撮像方法や画像再構
成方法が実験動物用の CT にも応用され、以前の CT で鮮明な画像が得られ難かった臓器の描出が
可能となりました。
例えば動きがある臓器(心臓や肺及びその周辺臓器)の CT イメージは、心拍や呼吸の動きによ
りアーチファクト(ボケ)が生じてしまい鮮明な画像を得ることが出来ませんでした。この問題
に対して心電図や呼吸の周期に合わせたタイミングで CT 撮影をすることにより動きを止めた画
像を得ることが可能となります。 この技術を実現する為に、X 線管の最適化(パルスチューブや
管電流の増加)、心電・呼吸同期デバイスの開発を行うことにより、特に心拍が早いマウス (600
心拍/分程度)の心臓の動きも追随可能なシステムが開発されています。このことにより、これま
で困難であった実験動物(マウス・ラット)を使用した CT イメージによる心臓領域の研究の幅が
広がっています。
また、マウスの胸部の腫瘍などは、呼吸によるアーチファクトを呼吸同期により除去し 100mm
程度の腫瘍を検出することが可能となりました(人間の大きさに対比すると 1mm 程度)。
以上、最新の実験動物用 CT の紹介と応用に関する報告をすると同時に、一部機能画像(SPECT)
の紹介も織り交ぜて報告いたします。
2.実験動物医学における NMR の応用(臨床病理検査,機能検査や形態学の病理検索からの展開)
木村 透(自然科学研究機構 生理学研究所)
実験動物を対象とする実験動物医学でも、問診と診察をした上で、各種臨床検査に進む。現在
当センターで行っている検査を大別すると以下の 4 種類がある:1.臨床病理学的検査(血液学
的検査、血清生化学的検査、血液凝固系検査、尿検査、糞便検査、細胞診、微生物学的検査およ
5
び血清免疫学的検 査)
、2.機能検査(心電図検査)
、3.画像診断法(X 線、核磁気共鳴画像検査;
MRI、超音波検査および内視鏡検査)および 4.病理組織学的検査(生検、摘出材料)
。
臨床病理学的検査は検査室内検査と市中の臨床検査センターを組み合わせて、病気の診断には
欠かせない検査となっている。小動物臨床検査機器の開発が進み、さらに正確で簡便な操作性な
どの要求を満たし、臨床病理学的検査は今後一層広がる検査法である。組織の機能検査は、当セ
ンターでは心電図検査のみであり、術中の麻酔モニタリングを除きこの面における検査は遅れた
状況である。心音図、筋電図あるいは脳波の検査は今のところ日常での実施は困難であり、今後
の課題である。
画像診断は、それぞれ特殊な機器を用いて、生体内の情報を画像化して読影し、診断さらには
治療まで行う方法である。X 線検査は、生体の形態学的情報を得る検査であり、発展させたコン
ピューター断層撮影(CT)では生体の断層像が得られるようになった。MRI は X 線を使用せず、磁
石から発生する磁力(磁場)と電磁波を用い、生体に分布する水素原子核(プロトン)から信号
を収集して生体の断面を観察する装置である。MRI の利点は以下のことが挙げられる:1.放射線
による被爆がない、2.任意断面が撮影できる、3.軟部組織のコントラストに優れる、4.一度の
スキャンで多断面が撮影できる、5.動的情報が得られる。欠点としては、1.撮影時間が長い、2.
動きによるアーティファクトが生じる、3.ペースメーカー使用者などでは利用できない、などで
ある。MRI は軟部組織のコントラストに非常に優れた診断装置で、T1 強調画像、T2 強調画像、プ
ロトン密度強調画像がある。超音波検査は、体内臓器や組織、また病変部の形態的情報と共に動
態的情報が得られる。本検査の利点は、1.動物に対する侵襲性が少なく安全である、2.軟部組
織の描出に優れている、 3.自由に断面構造が得られる、4.血管壁、心臓構造、胎児の心拍動な
どをリアルタイムで表示できる、などが挙げられる。内視鏡検査は、食道、胃、十二指腸および
小腸などの上部消化管、さらには下部消化管までも管腔内側に光を照射して観察する検査法であ
る。スコープ先端部に CCD を内蔵し、画像をモニター画面に映し出す電子内視鏡が主流であり、
小動物専用の内視鏡が利用できる。異物の除去や組織片の採取も可能である。
病理組織学的検査は、実験動物学の一分野である実験病理学の領域で確固たる地位を築いてお
り、実験を終えて剖検時の検査では必ず行われている。生体の疾患の診断には、生体組織から一
部を生検、穿刺あるいは試験的部分切除し、検査材料に供する。採取部位が的確であれば、小片
でも得られる病理組織学的情報は 極めて大きく、確定診断につながる。
以上の検査法を単独あるいは適宜組み合わせて、実験動物の疾患を診断し、次の治療へのステ
ップに進む。我々が対象とする実験動物の場合、ヒトや小動物 (イヌ・ネコ)の臨床知識・技術
が当てはまる事例ばかりではなく、試行錯誤を繰り返している。しかし、実験動物の疾患に対処
して、実験途中で殺処分することなく、目的とする研究が遂行できるように、少しでも実験動物
の苦痛の軽減に努めることが我々の責務と考える。
3.脳神経疾患モデル(サル)を用いた PET 診断の応用
塚田秀夫(浜松ホトニクス中央研究所)
弊社では、1992年に世界初の基礎研究専用の PET(Positron Emission Tomography)セン
ターを設立し、主にサル類を対象とした脳機能イメージング法の構築を目的として、1) 動物用
PET 等の脳機能画像システムの整備、2) 汎用的なポジトロン標識化合物の整備と新規標識化合物
の開発、3) 各種疾患動物モデルの開発、を通じて「分子イメージングによる脳疾患研究」の可能
性を探っている。実験動物を対象にした PET 計測では避けて通る事ができなかった、計測中の固
定のために使用する麻酔薬の影響を排除するために、無麻酔下でのサルの脳機能計測法を開発し
て、覚醒下での評価を可能にした。
(1-2)
6
サルのパーキンソン病モデルを用いた遺伝子治療の効果判定を、PET によるドパミンの生合成・
再吸収部位・受容体活性と共に、タスク評価であるアップルテストを用いた行動薬理学的評価も
組み合わせて多元的に評価した結果、慢性的に MPTP 処理されたサルの線条体では、ドパミン神経
の前シナプス機能の顕著な低下が認められたのに対し、後シナプス機能には変化が見られなかっ
た。この結果から、本動物モデルが患者の病態を良く反映したものである事が確認されたため、
線条体への AADC 遺伝子導入を試みてこの治療法に高い有用性が確認されたため(3)、既に臨床研
究を開始した。
独自に開発したカニクイザルの脳虚血モデル(4)を用いて、虚血再灌流の各段階において神経
障害に関与する神経伝達物質が異なることを見出し(5)
、さらに各種新規脳梗塞治療薬の候補化
合物の評価を行い、ヒトを対象にした臨床評価に移行する直前の段階で有効な化合物を選別する
ことが可能となった (6-8)
。
中枢神経作動薬の評価において、薬物依存形成の有無を評価することは、特に長期間服用する
医薬品の場合には重要になる。薬物依存形成を、ドパミン神経系を中心にした PET イメージング
法で明らかにする事が可能であり、コカイン依存形成時のドパミン D1/D1 バランスの変化を報告
すると共に(9)
、覚せい剤によるドパミン神経障害を抑制できる化合物(10)を見出した。
今後、
「生体分子イメージング法」を前臨床から臨床段階への橋渡しとして活用する事を目標に
して、更なる基礎および応用研究を実施していく。
<参考論文>
1) H. Onoe, et al., NeuroImage 13, 37-45, 2001. 2) Y. Nishimura, et at., Science 318,
1150-1155, 2007. 3) S. Muramatsu, Exp Opin Biol Ther 5, 667-671, 2005. 4) H. Takamatsu,
J Nucl Med 41, 1409-1416, 2000. 5) H. Tsukada, J Cereb Blood Flow Metab 24, 898-906, 2004.
6) H. Takamatsu, et al., J Nucl Med 42, 1833-1840, 2001. 7) Y. Cui, et al., Stroke 37,
2830-2836, 2006. 8) A. T. Kawaguchi, et al., J Pharmacol Exper Ther 332 (2010) 429-436.
9) H. Tsukada, et al., J. Neurosci 16, 7670-7677, 1996. 10) K. Hashimoto, et al.,
Neuropsychopharmacology 29, 2018-2023, 2004.
4.臨床における画像診断の現状
山田一孝(帯広畜産大学臨床獣医学研究部門)
私が学生だった 20 年ほど前、画像診断といえば X 線撮影そのものであった。造影を駆使し、X
線ビームの照射方向を工夫して、診断に取り組んでいた時代である。その後、超音波診断が徐々
に普及してきたが、超音波像の描出は操作者の手技に依存するため、必ずしも客観性の高い検査
とはいえない点が課題であった。しかし、この 10 年の間に CT が爆発的に普及し、獣医臨床にお
ける画像診断は一変した。読影が理解しやすく客観性が高いこと、検出器の多列化によってスキ
ャンタイムが短くなったこと、装置の価格が動物病院で導入できる程度に下がったことが、CT が
普及した理由である。すでに時代は、CT を当然のように診断の道具として利用する診療形態とな
っている。また、昨年 2 月の獣医療法施行規則改正によって、放射性同位元素を利用した核医学
検査が実施できることになった。近い将来、核医学検査は、小動物の腫瘍の早期発見や門脈体循
環短絡症の診断に、馬の疲労骨折の診断に威力を発揮するであろう。これまでの画像診断の進歩
を考えると、核医学検査がルーチンで利用される日も、それほど遠い話ではないかもしれない。
本シンポジウムでは、臨床における画像診断の現状について紹介する。
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