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平成21年度 高等学校授業力向上研修 実践記録 デジタル教材を活用した地理B授業の試み -アメリカ合衆国 ハワイ州の地誌(自然・文化・観光)- 第1学年 地理歴史科学習指導案 平成21年11月9日 指導者 第5校時 県立有恒高等学校 佐藤 大介 教諭 1.学習者 1年B組 2.単 40人(男子18人・女子22人)(全日制・普通科) 元 大項目 (2)現代世界の地誌的考察 中項目 イ 小項目 アメリカ合衆国 国家規模の地域 1 自然環境 2 住民と文化 3 経済と産業 4 社会と生活 3.指導教材 教科書 詳解地理B(二宮書店) 地図帳 高等地図帳 資料集 図説地理資料 世界の諸地域NOW2009(帝国書院) 統計集 地理統計要覧 2009年度版(二宮書店) 教 デジタル教材 自作プリント 材 改訂版(二宮書店) 指導者撮影写真 実物教材 4.設定課題 「デジタル教材を活用した地理B授業の試み」 -アメリカ合衆国 ハワイ州の地誌(自然・文化・観光)- (1)単元観・指導意図 現行の学習指導要領では地理Bの目標として「現代世界の地理的事象を系統地理的,地誌的に 考察し,現代世界の地理的認識を養うとともに,地理的な見方や考え方を培い,国際社会に主体 的に生きる日本人としての自覚と資質を養う。」とあり、さらにその内容として「(2) 現代世界 の地誌的考察」では、「地域の規模に応じて地域性を多面的・多角的に考察し,現代世界を構成 する各地域は多様な特色をもっていることを理解させるとともに,世界諸地域を規模に応じて地 誌的にとらえる視点や方法を身に付けさせる。」と謳われている。またその中で、「イ 国家規模 の地域」の内容として、「世界の国家を事例として幾つか取り上げ、それらの地域性を多面的・ 多角的に考察してそれぞれの国を地誌的にとらえさせるとともに、それらを比較し関連付けるこ とを通して国家規模の地域を地誌的にとらえる視点や方法を身に付けさせる。」とある。また、 新学習指導要領では、このような地誌的考察の手法の重要性がさらに強調されている。 さらに、第 1 章「総則」の第 6 款「教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項」 5「 教 育課程の実施等に当たって配慮すべき事項」(8)において、 「各教科・科目等の指導に当たっては, 生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用できるようにするた めの学習活動の充実に努めるとともに,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を 図ること。」とされ、この方針は新学習指導要領にも引き継がれている。 そこで本単元では、アメリカ合衆国のハワイ州を例とし、写真やインターネット、パソコンの 電卓機能などのデジタル教材を用いながら、自然環境と文化を生徒にとって身近な地域と多面的 ・多角的に比較することによって特色を理解させ、さらに観光という側面から日本とハワイとの 関係を考察させることで国際理解を深めさせることを目標とする。 (2)生徒観 本校は明るく素直な生徒が多く、授業も明るい雰囲気で行われている。与えられる課題をきちん とこなす生徒がほとんどであるが、中には集中力に欠けるもの、難しい課題に対して最初からあ きらめる者もいる。したがって、プリントを使った調べ学習やグラフ作成、地図作業を通して基 礎・基本を身に付けさせ、そのプリントを各考査前に提出させ内容を点検し、さらにそのプリン トの内容から考査を出題することにより、授業の大切さ、授業内容の定着を図るようにしている。 (3)現状分析 本校は、上越市板倉区の偉大な教育者増村朴斎先生が明治29年に設立した、長い歴史をもつ伝 統校である。新井・頸南地域から通学する生徒が中心である。現在各学年普通科3クラス、全校 353人の小規模校で、生徒と職員間の隔たりが少なく、また豊かな自然環境の中でのびのびと 学校生活を送っている。 昨年度の進路状況は大学・短大が21%、専門学校が41%、就職が37%であった。毎年国 公立大学への進学から就職まで、多様な進路希望がある中で、日々の授業では基礎・基本を身に つけさせるとともに、生徒にとって分かりやすい授業、楽しい授業が求められている。 本校の地歴科の教育課程は、1年次で地理B4単位を必修、2年次で世界史B4単位を必修、 3年次で日本史A2単位を必修と日本史B4単位または世界史B2単位と地理B2単位の選択と なっており、1年次の地理Bは、高等学校の3年間の地歴科の学習において基礎を担う位置づけ となっている。 5.指導目標と評価 ○指導目標について (1)地図帳や統計集などの資料を読み取り、ハワイ州の地名、気候、自然地理などの「基礎」を 理解する。 (2)身近な地域(上越)の気候、自然地理と比較することによりハワイ州の地理的特徴を理解す る。 (3)写真や実物を通してハワイ州の文化様式の日本との違いについて考察し、その特色を理解す る。 ○評価について 関心・意欲・態度 思考・判断 資料活用の技能・表 知識・理解 現 ・アメリカ合衆国ハ ・日本とハワイ州の ・日本とハワイ州の ・ハワイ州について ワイ州と日本の文化 文化的相違点につい 気候の違いについて、の基礎的な地理的知 的共通点や相違点に て、自然環境の違い 雨温図の作成と読み 識を持つことができ ついて関心を持って に着目して考えるこ 取りを通し、ケッペ る。 いる。 とができる。 ンの気候区分に関連 ・自然や文化の相違 ・ハワイ州の地名、 させながら考察する をふまえ、日本とハ 気候、自然地理につ ことができる。 いて意欲的に理解し ・写真資料などから がりについて理解す ようとしている。 気候景観、文化的特 ることができる。 ・積極的な態度で地 徴を把握できる。 図帳や統計集を通し ・パソコンの電卓機 た調べ学習や、写真 能を活用し、計算で や実物を通した学習 きる。 ワイ州の観光的つな に取り組む。 6.指導計画(全3時間) 時限 学習内容 指導上の留意点 第1時 ・ハワイ州の地名を調べる。 ・地図帳を的確に活用し、位置関係を把握 させる。 ・ホノルルと上越の雨温図を ・1学期の学習内容(気候)を再度思い出 作成し、ケッペンの気候区分 させ、作図作業を通してハワイ州の気候的 の気候区を考える。 特徴を考えさせる。 第2時 (本時) ・ハワイ州の自然(気候景観、・第1時を踏まえ、ハワイ州の位置を意識 火山)を考える。 させながら、写真を生徒に見せ、日本とハ ワイ州の気候景観の違いを考えさせる。 ・ハワイ州の文化(衣食住な ・写真、インターネットを見せながら、文 ど)を考える。 化の特徴を考えさせる。その際、自然環境 (気候など)の違いを意識させながら、日 本と比較をさせる。 第3時 ・ハワイ州と日本の観光的つ ・統計集を活用させ、日本人の海外渡航者 ながりを考察する。 数、渡航先の割合などを調べさせ、なぜハ ワイ州が人気の観光地であるかを、第1時、 第2時の学習内容を踏まえて考察させる。 7.本時の学習について (1) 本時の題材名 「ハワイ州の自然、文化」 (2) 本時の目標 ・前時で学習したハワイ州の地理的位置を認識させながら、日本とハワイ州の気候景観などとい った自然環境の違いを考察する。 ・写真、インターネットなどのデジタル教材を通して、自然環境の違いに留意しながら、ハワイ 州の文化的特徴を考察する。 (3) 展開 学習活動 指導内容 導入 ・ 前 時 で 学 習 ・前時に配布し (5 分) し た ハ ワ イ 州 たプリントを見 の地理的位置、せながら、数人 気 候 を ふ り 返 を指名し、気候 る。 などのポイント を答えさせる。 指導上の留意点 評価規準 ・あくまでも確認で あるので、長くなら ないように留意す る。 【知識・理解】 ・ハワイ州についての 基礎的な地理的知識を 持つことができる。 展開 ・ フ ラ ダ ン ス ・ポリネシア系 ・絶海の孤島ハワイ 【関心・意欲・態度】 (40 分) シ ョ ー の ビ デ の 先 住 民 の 他 への移民の歴史につ ・アメリカ合衆国ハワ (5 分) オを見ながら、に、白人、アジ いて、軽く触れる。 イ州と日本の文化的共 ハ ワ イ 州 の 人 ア系などが多い 通点や相違点について 種 、 文 化 を 考 ことに気づかせ 関心を持っている。 察する。 る。 (15 分) ・ ハ ワ イ 島 の 気候景観につ いて、数枚の 写真を見なが ら、撮影場所 の推定、また その理由を考 える。 ・地図帳を用 い、北東貿易風 の影響下で、風 上風下、標高の 違いで気候景観 が違うことに気 づかせる。 ・南国ハワイと言え ども、必ずしもAf だけでなく、BやH などの気候が見られ る点に気づかせる。 (8 分) ・ パ イ ナ ッ プ ・ 資 料 集 を 用 ル、コーヒー、 い、各作物の生 バ ナ ナ な ど の 育に必要な条件 熱 帯 性 作 物 の を理解させなが 写 真 を 見 な が ら、農業の特徴 ら 、 ハ ワ イ 州 を考察させる。 の農業につい て考察する。 ・ ハ ワ イ 州 に ・インターネッ お け る 肉 牛 飼 トで肉牛飼育の ・コーヒー以外には 輸出指向の作物は少 なく、米や小麦など の栽培はみられない ため、食料自給率は 低いことに気づかせ る。 【関心・意欲・態度】 ・積極的な態度で地図 帳や統計集を通した調 べ学習や、写真や実物 を通した学習に取り組 む。 【資料活用の技能・表 現】 ・写真資料などから気 候景観、文化的特徴を 把握できる。 【関心・意欲・態度】 ・積極的な態度で地図 帳や統計集を通した調 べ学習や、写真や実物 を通した学習に取り組 む。 【資料活用の技能・表 現】 ・限られた時間で検 ・インターネットや写 索できるよう、あら 真資料などから気候景 育 の 歴 史 を 調 歴史を調べさせ かじめ参考とするサ 観、文化的特徴を把握 べる。 る。 イトを指定する。 できる。 (12 分) ・ ホ ッ ト ス ポ ・ハワイ諸島の ットについて、形成の仕組みと キ ラ ウ エ ア 火 今後の動きにつ 山 の 写 真 を 見 いて、プレート な が ら 、 そ の テクトニクス理 仕 組 み と 様 子 論を用いて説明 を 理 解 し 、 今 する。 後のハワイ諸 島の動きを考 察する。 ・あと何年後に日本 に近づくかをパソコ ンの電卓機能で計算 させるが、日本は大 陸プレートにあるた め、直接激突するわ けではないことを説 明する。 まとめ ・ プ リ ン ト へ (5 分) の記入 【関心・意欲・態度】 ・積極的な態度で地図 帳や統計集を通した調 べ学習や、写真や実物 を通した学習に取り組 む。 【資料活用の技能・表 現】 ・パソコンの電卓機能 を活用し、計算できる。 【思考・判断】 ・日本とハワイ州の地 理的相違点について、 自然環境の違いに着目 して考えることができ る。 8.実践の考察とまとめ (1)授業を終えて 集中力に欠ける生徒もいるため、普段の授業からプリントを用いた作図や地図の色塗り、グラ フなどの読み取りといった作業学習を行ってきているが、今回の授業においてはさらに写真やイ ンターネット、電卓機能などのデジタル教材を用いることにより、生徒が興味関心を持ち、積極 的に取り組んでいた。 特に今回用いた写真は、授業者本人が撮影をし、また気候景観を比較しやすいよう授業者が登 場しているため、生徒にとってはとても印象に残ったようである。 「私もハワイに行ってみたい。」、 「資料集の気候の絵や写真で理解した知識が、先生自身の写真や話でとても身近に感じることが できた。」などの感想があった。 その一方で、写真の読み取り、プリントの図への記入、インターネットでの調べ学習、電卓機 能を用いた計算と、生徒にとっては盛りだくさんの内容で、授業の展開に少し余裕が無かった。 例えば授業の後半に行ったハワイ諸島とプレートテクトニクスの場面では、ハワイ諸島が日本列 島に向かって移動していく事を生徒が実感できるようにするためには、最終的な「約9000万 年後に日本にぶつかる」という計算の答えも大事であるが、その答えを導き出す式を考えさせる 事も重要である。本校の生徒は基礎的な計算でも時間がかかったり、式を考えることが苦手であ る者が多いことは、時差の単元の授業等を通して実感をしていたが、この計算は次の授業に回し てでも時間をとる必要があったのではないかと思う。 (2)研究協議会での主な論点 デジタル教材を用いた地理の研究授業は、これまで実践例が少なかったということもあり、情 報化社会における新学習指導要領に向けた新しい地理授業として取り組んだ。また教科書にはハ ワイについてほとんど記載されていないため、地図帳や文献、インターネットや実物を参照する ことにより気候区分や歴史、産業を考えさせた。 研究協議会においては、こうした「地図帳や資料集、実物を用いたプリントへの作業学習」と いう既存の地理学習のスタイルと、「写真やインターネットといったデジタル教材を用いた」新 しい地理学習のスタイルが適切に組み合わされていた、と概ね好評をいただいた。ただし、生徒 にとっては進度が少し速かったのではないかというご指摘も受けた。 (3)今後の課題 今回の授業に向けてビデオ資料も撮影していたが、情報教室のパソコンの都合により授業で見 せることができなかった。フラダンスやマウナケア山頂での様子は、写真資料以上に生徒にとっ て印象に残るはずであっただけに大変残念である。 地理授業に用いられる統計数値や国際情勢は、最新の情報が必要な場合も多く、また授業者が 生徒に伝えたい細かな情報などは、インターネットで検索させることによって生徒の理解も深ま るであろう。情報教室を使用すれば生徒一人につき一台のパソコンがあり、授業者の見せたい画 像やグラフなどを全員に表示することができる。しかしその反面、インターネット上の情報は不 正確なものや私的な見解を含む情報も多く、事前に吟味しなければならないであろう。 また、ハワイ等の地誌的分野や気候分野の授業にとどまらず、環境・エネルギー問題等、授業 者自身が見たり食べたり考えたことを生徒に身近に実感させ考えさせるためにも、今後ともデジ タル教材を用いた授業を効果的に取り入れていきたい。 【参考文献】 ・ハワイの地理的見方・考え方 : ハワイ地理巡検報告書 和田文雄, 中山修一責任編集(地理科学学会・研究グループ・広島地理教育懇話会) ・ハワイの自然 : 3000 万年の楽園 清水善和著(古今書院)