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予習編
メインシリーズ 地理 予習編見本 資源と産業2(鉱工業) GA1061HR1Y1BZ-001 今回は,まず,私たちの生活に不可欠なエネルギー資源・鉱産資源につい て,その利用や主な産地を見ておこう。その上で,これらの資源を利用して成 立した,工業について学習しよう。工業についてはその発展過程を知り,立地 による分類,世界および日本の工業の特色などを理解したい。 1 世界のエネルギー資源・鉱産資源 1 エネルギー資源 ⑴ エネルギー資源の利用 Z ] 一次エネルギー……天然のままのエネルギー。水力・石炭・石油 など ○エネルギー資源 [ ] 二次エネルギー……一次エネルギーから作られるエネルギー。電力 など \ ○石炭は,産業革命以降エネルギー源の主役であったが,㆒⓽⓺₀年代のエネルギー革命によって, エネルギー源は石油(未精製のものは原油) ・天然ガスへ大きく転換した。 ○石炭や石油は環境汚染を引き起こすため,クリーンエネルギーの太陽エネルギー・水力エ ネルギー・風力エネルギーなどが注目されている。また,石炭や石油は有限であることから, ①省エネルギーや②代替エネルギーの利用が考えられている。 エネルギー革命……固体(石炭)―→ 流体(石油・天然ガス) ⑵ エネルギー資源の産出国 ○石炭の産出国……中国・アメリカ合衆国・インド・オーストラリア・南アフリカ共和国 (㆓₀₀叅年) ○原油の産出国……ロシア・サウジアラビア・アメリカ合衆国・イラン・中国(㆓₀₀⓹年推定) ⑶ 産油国の動き 油田の開発には巨大な資本と高度な技術が必要なため,西アジアなど発展途上国の油田はメ ジャー(国際石油資本)によって開発・支配され続けてきた。㆒⓽⓹₀年代から資源ナショナリズ ムが高まり,発展途上国の産油国はメジャーに対抗するために⓺₀年,OPEC(石油輸出国機 構)を結成した。また,アラブ系の産油国は㆒⓽⓺⓼年にOAPEC(アラブ石油輸出国機構)を 結成した。 GA1061HR1Y1BZ-002 OPECやOAPECは,石油の価格や産油量の決定権を持ち,産油量と輸出量の制限,石 油価格の大幅引き上げなどを行ったため,2度にわたり石油危機が起こった。 ➡ 石油輸出国機構・アラブ石油輸出国機構の加盟国を確認しておこう。 ⑷ 電力 電力は,水力発電・火力発電・原子力発電などによって得られる。 長所 水力発電 火力発電 原子力発電 短所 動力費が安い。 発電所の建築費が高い。消費地から遠い。 地形の制約を受けずに,発 燃料費が高い。大気汚染を招きやすい。将来, 電所が建設できる。 燃料の石油が枯渇する。 燃料を石油に依存しない。 放射能による被害を受ける危険性が高い。 2 原料資源 ⑴ 鉄鉱石 鉄鉱石の産出量は,ブラジル・オーストラリア・中国・インド・ロシアで多い(㆓₀₀㆕年)。 ⑵ ボーキサイト アルミニウムの原料となるボーキサイトの産出量は,オーストラリア・ブラジル・ギニア・ ジャマイカ・中国で多い(㆓₀₀㆕年) 。 ⑶ 銅鉱 電線や合金に利用される銅鉱の産出量は,チリ・アメリカ合衆国・ペルー・オーストラリ ア・インドネシアで多い(㆓₀₀㆕年) 。 ⑷ レアメタル 工業上きわめて重要であるが埋蔵量が少ないか,純粋な金属として取り出すことが難しい金 属をレアメタル(希少金属)という。クロム・マンガン・タングステン・コバルト・ニッケ ル・チタン・モリブデン・バナジウムなど。 ①省エネルギー 産業・生活などの社会活動全般にわ たってエネルギーの消費量を削減すること。 ②代替エネルギー 石油などの化石燃料に代わる新し いエネルギー源のこと。無限の自然エネルギー・原 子力エネルギーなど。 GA1061HR1Y1BZ-003 2 工業の発達と分化 1 近代工業の発展 中世まで 手工業 ㆘ 近世 問屋制家内工業 ㆘ 近代初期 ①工場制手工業(マニュファクチュア) ㆘ ㆒⓼世紀後半 ②産業革命……紡績機械・蒸気機関の発明 ㆘ 近代 工場制機械工業 ㆘ 現代 オートメーション(自動制御)……機械が生産工程を制御・管理 ➡ 第二次世界大戦後の工業の発展についてまとめておこう。 2 工業の種類 ⑴ 工業の業種別分類 Z ] 軽工業……日常生活に用いる重量の軽い製品を作る工業。 よう ] 繊維工業,食品工業,出版・印刷業,窯業,木材加工業など ] [ 重工業……大資本や高度な技術を用いて重量の大きな製品を作る工業。 ] ] 金属工業,機械工業など ] 化学工業……化学反応により製品を作る工業。 ③石油化学工業,④パルプ・製紙工業など \ ⑵ 工業の用途別分類 Z ] 生産財工業……他の製品を生産するために必要な原料・材料・製品などを作る工業。 [ 素材工業(鉄鋼・非鉄金属・石油化学) ,組立工業(機械)など ] 消費財工業……日常生活に用いる製品を作る工業。 \ 食品工業,繊維工業,電気機械工業,精密機械工業,出版・印刷業など 3 工業の立地型別分類 工業は,輸送費・労働費などの生産費が安く,利潤が最も大きくなる地域に立地する。 立地条件は,工業の種類によって異なり,同じ工業でも時代とともに変化する。 Z ] 自然条件……地形・気候・用水など 立地条件 [ ] 社会条件……市場・交通・労働力・資本・技術・政策・原料など \ ⑴ 原料指向型工業 ○特徴……原料産地に立地する工業。原料が重いため,生産費に占める原料輸送費の割合が高 い場合に見られる。 ○製品・工業例……セメント,パルプ・製紙,陶磁器,非鉄金属,かつての鉄鋼 ⑵ 市場指向型工業 ○特徴……製品の消費市場に立地する工業。製品が重い場合や,市場の情報・流行を重要視す る場合に見られる。 ○製品・工業例……高級衣服,化粧品,出版・印刷,ビール・清涼飲料 GA1061HR1Y1BZ-004 ⑶ 労働力指向型工業 ○特徴……労働力の得やすい場所に立地する工業。安価で豊富な労働力を必要とする場合や, 高度な技術を持つ労働力を必要とする場合に見られる。 ○製品・工業例……組立加工(自動車部品・電気機器),繊維 ⑷ 交通指向型工業 ・臨海指向型工業 ○特徴……臨海地域に立地する工業。輸入原料に依存する場合に見られる。 ○製品・工業例……鉄鋼,石油化学,造船 ・臨空港指向型工業 ○特徴……空港の周辺に立地する工業。製品が高価・小型・軽量で,生産費に占める輸送費の 割合が低い場合に見られる。 ○製品・工業例……エレクトロニクス(電子)製品 臨空港指向型工業……小型・軽量・高付加価値の製品 ⑸ 用水指向型工業 ○特徴……豊富で安価な用水が得られる地域に立地する工業。大量の水を原料として利用する 場合や,原料の処理や冷却用に利用する場合に見られる。 ○製品・工業例……鉄鋼,パルプ・製紙,化学繊維,醸造 ⑹ 電力指向型工業 ○特徴……豊富で安価な電力が得られる地域に立地する工業。大量の電力を動力として使用す る場合に見られる。 ○製品・工業例……アルミニウム,化学肥料 4 工業立地の変化 経済のグローバル化の進行も,工業立地に変化をもたらす要因となる。 ○多国籍企業……複数の国に支店などを設け,生産・販売活動を行う多国籍企業が増えている。 製造業では,より有利な地域での生産を進めるため,現地生産を行う企業も見られる。 ○産業の空洞化……主に先進国で,製造業での工場の海外移転などにより,国内の産業は衰退 し,雇用機会の悪化,地方公共団体の税収悪化などを招く,産業の空洞化が懸念されている。 ①工場制手工業(マニュファクチュア) 資本家が多 ③石油化学工業 石油や天然ガスを原料にして薬品・ くの労働者を作業所(工場)に集め,簡単な道具を 肥料・合成繊維・合成ゴム・合成樹脂などの製造を 使用して製品を分業的・協業的に生産すること。 行う工業のこと。 ②産業革命 機械と動力の発明により,㆒⓼世紀後半に ④パルプ 木材などから,機械的または化学的に処理 イギリスのランカシャー地方で始まった手工業から して取り出した繊維のこと。紙や化学繊維(レーヨ 機械工業への転換のこと。 ン)の原料になる。 GA1061HR1Y1BZ-005 3 主な工業とその立地 1 金属工業 ⑴ 金属工業 金属工業は,鉄鉱石を原料とする鉄鋼業(製鉄業)と,その他の金属を原料とする非鉄金属 工業に分けられる。非鉄金属工業には,アルミニウム工業などが該当する。 ⑵ 鉄鋼業の立地 ○粗鋼の主要生産国……中国・日本・アメリカ合衆国・ロシア・韓国(㆓₀₀⓹年) ○鉄鋼業の立地と主な工業都市 Z ] 国) ,ジャムシェドプル(インド) など ] 石炭産地立地型…… ニューカッスル(イギリス) ,ピッツバーグ(アメリカ合衆国),エッ ] セン・ドルトムント(ドイツ) など [ ] 鉄鉱石産地立地型…… ダルース(アメリカ合衆国) ,クリヴォイログ(ウクライナ),アン ] シャン(鞍山;中国) など ] 港湾立地型……フィラデルフィア(アメリカ合衆国),ダンケルク・フォス(フランス), \ 鉄鉱石・石炭産地立地型……バーミンガム(イギリス),バーミングハム(アメリカ合衆 日本の①銑鋼一貫工場 など ➡ アルミニウム工業の主要生産国,立地型,主な工業都市について確認しておこう。 鉄鋼業の立地……原料の海外依存度の高まりなどにより, 原料産地から臨海部に移動 2 機械工業 ⑴ 機械工業 機械工業は,一般機械工業(事務用機器・家庭用機器・工作機械など) ,電気機械工業(テ レビ・家庭用電気機器・コンピュータなど) ,輸送機械工業(自動車・船舶・航空機など) ,精 密機械工業(カメラ・時計など)に分けられる。消費地や交通の要地に立地する場合が多い。 ⑵ 自動車工業の立地 ○自動車の主要生産国……アメリカ合衆国・日本・ドイツ・中国・フランス(㆓₀₀⓹年) ○自動車工業の立地と主な工業都市……巨大な資本や熟練労働力を必要とするため,先進国 で発達しやすい。関連工業が発達する消費地の近くに立地する。デトロイト(アメリカ合衆 国),ヴォルフスブルク(ドイツ) ,コヴェントリ(イギリス) ,豊田(日本)など。 ⑶ 造船工業の立地 ○船舶の主要生産国……韓国・日本・中国・ドイツ・ポーランド(㆓₀₀⓹年) ○造船工業の立地と主な工業都市……巨大な資本や熟練労働力を必要とするため,先進国で発 達しやすい。屋外作業が多いため,晴天日数の多い波静かな内湾に立地する。長崎・呉・横 須賀(日本) ,ウルサン(蔚山;韓国) ,ハンブルク(ドイツ)など。 ⑷ 先端技術(ハイテク)産業の立地 ○先端技術(ハイテク)産業の立地……先端技術を利用するため,先進国で発達している。 GA1061HR1Y1BZ-006 ○エレクトロニクス(電子)工業の立地……シリコンなどの半導体や,半導体を利用した集積 回路(IC)などを作る。製品に高付加価値が付く上,小型・軽量であるため,空港や高速 道路の周辺に立地する。シリコンヴァレー・シリコンプレーン(アメリカ合衆国),シリコ ンアイランド・シリコンロード(日本)など。 3 化学工業 ⑴ 化学工業 化学工業は,石油精製工業,石油化学工業,パルプ工業,製紙工業などに分けられる。 ⑵ 石油化学工業の立地 ○石油化学工業の立地と主な工業都市……油田の近くや,原料の輸入に便利な臨海地域に立地 することが多い。多くの場合,石油精製工場と結び付いた石油化学コンビナートを形成して いる。ヒューストン(アメリカ合衆国) ,ロッテルダム(オランダ),市原・四日市(日本) など。 ⑶ パルプ工業・製紙工業の立地 ○パルプ工業の立地と主な工業都市……原木の輸送費が大きいため,原木と軟水の豊富な地域 に立地する。ポートランド・シトカ(アメリカ合衆国)など。 ○製紙工業の立地……パルプから一貫して生産する場合はパルプ工場の隣接地に,輸入パルプ を利用する場合は消費地の近くに立地する。 4 軽工業 ⑴ 繊維工業の立地 ○綿工業……豊富で安価な労働力がある原料(綿花)産地や,消費地に立地する。ムンバイ (ボンベイ;インド) ,ペキン(北京)・シャンハイ(上海;中国),ランカシャー地方(イギ リス,高級品生産) ,ニューイングランド地方(アメリカ合衆国,高級品生産)など。 ○羊毛工業……原料産地と離れた所で生産されていることが多い。消費地に近い港湾付近に 立地する。ヨークシャー地方(イギリス),フランドル地方(ベルギー・フランス・オラン ダ)など。 さん ○絹織物工業……製糸業や絹織物工業は②養蚕地域に立地する。化学繊維などの普及により衰 退しつつある。 ○化学繊維工業……高度な技術や大資本を必要とするため,主に先進国で発達している。 ⑵ 食品工業の立地 ○醸造業……ビール工業は消費地,ワインは原料(ブドウ)の産地に立地しやすい。 ビール:ミュンヘン(ドイツ) ,ミルウォーキー(アメリカ合衆国)など。 ワイン:ボルドー・シャンパーニュ地方(フランス)など。 ⑶ 窯業の立地 ○窯業……原料産地に立地することが多い。瀬戸・多治見・有田(日本)など。 ○セメント工業……石灰石(原料)や燃料の豊富な所,消費地の近くに立地しやすい。秋吉台 に近い小野田・宇部,秩父(日本)など。 ①銑鋼一貫工場 鉄鉱石から銑鉄を作る製銑,銑鉄か ら鋼鉄を作る製鋼,鋼鉄から鋼板などを作る圧延の 3部門を同一敷地内で連続的に行う工場のこと。 かいこ き いと まゆ ②養蚕 蚕 を飼育して,生糸の原料となる繭をとる こと。 GA1061HR1Y1BZ-007 4 世界の工業地域 1 世界の工業地域の分布 ヨーロッパ・アメリカ合衆国・日本など先進工業国では,工業が発達している。近年,韓国・ 台湾・ホンコン・シンガポール・ブラジル・メキシコなどでも工業が発展してきている。 2 先進国の工業の特色 ⑴ 西ヨーロッパ 産業革命以降,西ヨーロッパは世界の工業の中心であった。アメリカ合衆国・日本などの工 業発展によってその地位は低下したが,現在も世界の主要工業地域の1つになっている。 イギリスのバーミンガム周辺,ドイツのルール地方,フランスのロレーヌ地方などでは,炭 田や鉄鉱山を背景に重工業が発達した。しかし,㆒⓽⓺₀年代にエネルギー源が石炭から石油に転 換したことを受けて,工業地域は原燃料の輸入に便利な臨海部に立地するようになってきた。 ○臨海部の工業都市……ユーロポート周辺(オランダ),ダンケルク・ルアーヴル・マルセイ ユ(フランス),ジェノヴァ(イタリア)など。 西ヨーロッパの工業の立地……炭田・鉄山付近 ―→ 臨海部 ⑵ アメリカ合衆国 アメリカ合衆国は,㆓₀世紀に入ってから工業が急速に発展し,世界最大の工業国となった。 北東部のニューイングランドでは古くから工業が発達している。大西洋岸中部のニューヨー ク・フィラデルフィア・ボルティモアでは機械工業,国内最大の工業地域を形成している五大 湖沿岸では鉄鋼・食品・自動車工業が発達している。 ㆒⓽柒₀年代以降は,サンベルトと呼ばれる北緯叅柒°以南の地域での工業発展が著しく,ヒュー ストンでは宇宙開発産業,ダラスでは航空機工業やエレクトロニクス工業が発達している。 3 旧ソ連の工業の特色 旧ソ連では,原料産地・燃料産地・生産施設を計画的・合理的に結び付けたコンビナートと呼 ばれる総合工業地域で工業生産が盛んに行われ,⓺₀年代以降は利潤方式による地域生産複合体 GA1061HR1Y1BZ-008 (TPC)が採用された。しかしソ連解体後,工業生産は落ち込んだ。 4 NIE s の工業の特色 ⑴ NIEs 発展途上国の中でも急速な工業化が進んだ国・地域をNIE s(新興工業経済地域群)とい う。韓国・シンガポール・ホンコン・台湾・ブラジル・メキシコなどが含まれる。このうち, 特に工業の進展が著しかった韓国・シンガポール・ホンコン・台湾をアジアNIE sという。 ⑵ アジアNIEsの発展 ㆒⓽⓹₀年代には,これまで輸入に依存していた工業製品の国産化をめざす輸入代替型工業が行 われ,繊維工業などの軽工業が発展した。しかし,国内市場が狭いことや,原料の輸入による 外貨の流出によって経済が発展しなかったため,㆒⓽⓺₀年代からは安価な労働力を利用した輸出 指向型工業へ転換した。近年は,①労働集約型工業だけでなく,②知識集約型工業も発達して きている。 ○輸出加工区……製品を輸出することを条件に,輸入原料などの税金を免除する地区のこと。 外国企業の資本や技術を導入するために,輸出指向型工業化政策の1つとして設けられる。 シンガポールのジュロン,台湾のカオシュン(高雄) ,韓国のマサン(馬山)など。 5 発展途上国の工業の特色 ⑴ ASEAN諸国 マレーシア・タイなどのASEAN諸国でも,輸出指向型の工業化が進められてきている。 ⑵ 中国 東北地方で重化学工業が発展している。㆒⓽柒₀年代末以降,税金や土地などの経済的優遇措置 が与えられた経済特区を沿岸部5カ所に設けて外国企業の誘致を行い,工業開発を進めている。 ㆒⓽⓼㆕年以降,経済特区に準じた経済技術開発区も設けられている。 ○経済特区……シェンチェン(深圳) ・チューハイ(珠海) ・スワトウ(汕頭) ・アモイ(厦門) ・ ハイナン(海南)島(㆒⓽⓼⓼年,ハイナン省に昇格) ➡ 経済技術開発区に指定された都市を調べておこう。 ⑶ インド インドでは伝統的に綿工業が盛んであるが,近年,外資や技術の積極導入が進められ,重工 業が発展してきている。バンガロールではエレクトロニクス工業が発達している。 6 工業化の進まない地域 NIE s 諸国などと対照的に,アフリカやラテンアメリカの発展途上国には,工業化が進展し ない国も多い。この理由として,以下のようなことが挙げられる。 ㆒ 工業化に必要な資本・技術が不足している。 ㆓ 電気・水道といった産業基盤の整備が不十分である。 叅 政治情勢が不安定である。 ①労働集約型工業 安価で大量の労働力に依存する割 合の高い工業のこと。繊維工業・組立工業など。 ②知識集約型工業 生産工程の中で高度な技術が必要 とされる工業のこと。エレクトロニクス工業・精密 機械工業など。 GA1061HR1Y1BZ-009 5 日本の工業 1 日本の工業の発展 ⑴ 重化学工業の発展 日本の近代工業は,明治政府の殖産興業政策によって育成された。第二次世界大戦により壊 滅状態になったが,朝鮮戦争での特需を契機に立ち直った。 ㆒⓽⓹₀年代半ばから柒₀年代初期の高度経済成長期に,重化学工業が飛躍的に発展し,先進工業 国となった。これにより,日本の産業構造は,農業や繊維・食品などの軽工業中心から,鉄 鋼・石油化学などの素材型の重化学工業中心に変化した。 ⑵ 産業構造の転換 ㆒⓽柒叅年・柒⓽年の2度の石油危機による原油価格の高騰で,エネルギー資源多消費型の素材工 業が停滞し,電気機械・自動車などの工業種に注力されるようになった。 ㆒⓽⓼₀年代には,エレクトロニクス(電子)工業の発展により,知識集約型の先端技術産業へ の比重が高まった。 ⑶ 日本企業の海外進出 日本の製造業では,特に㆒⓽⓼₀年代半ば以降,生産拠点を海外に移す企業が増加した。この結 果,国内では生産縮小といった現象である産業の空洞化が見られるようになった。 ○自動車工業など……貿易摩擦の解消を目的として,欧米諸国に進出し,現地生産を行う。 ○電気機械工業・繊維工業など……円高による国際競争力低下を受け,生産コストの抑制を目 的として,人件費の安い東南アジアや東アジアなどに進出し,現地生産を行う。 ⑷ 先端技術産業による経済の活性化 ㆒⓽⓽₀年代以降,生産拠点の海外移転に拍車がかかり,産業の空洞化が深刻化する一方で,企 業のグローバル化が進み,自動車産業などで国際的な資本提携や企業の系列化が進んでいる。 ①バブル経済崩壊後の不況の中,先端技術産業分野では,小規模ながら独創的な技術や製品を 開発・商品化するベンチャービジネス(創造型企業)が現れ,経済の活性化を促している。 2 日本の工業の特色 ○日本は鉱産資源に乏しいため,外国の安い原料を輸入し,それを加工して,工業製品として輸 出する加工貿易を行ってきた。 ○鉄鉱石・原油などの工業原 料を海外に依存しているた め,臨海部,特に②太平洋 ベルトに工業地域が集中し ている。 ○大企業の下請けをする中小 企業が多い。 ○地域的な伝統・特色を持つ 地場産業が分布する。 GA1061HR1Y1BZ-010 3 日本の工業地域 ⑴ 三大工業地帯 日本の工業は,京浜工業地帯・中 京工業地帯・阪神工業地帯・北九州 工業地帯の四大工業地帯を中心に発 展してきた。しかし,現在は北九州 工業地帯の生産が落ち,地位が低下したので,三大工業地帯と呼ばれるようになった。 三大工業地帯……京浜・中京・阪神工業地帯 ○京浜工業地帯……東京・川崎・横浜を中心に,東京湾沿岸・内陸部に広がる。機械(東京・ 横浜・川崎),鉄鋼(横浜・川崎) ,造船(横浜)のほか,情報立地型の出版・印刷(東京) などの工業も盛ん。 ○中京工業地帯……近年,工業製品出荷額で日本最大の工業地帯となる。名古屋を中心に,岐 阜南部・三重の伊勢湾沿岸に広がる。自動車(豊田・刈谷) ,石油化学(四日市),機械(名 古屋) ,鉄鋼(東海)のほか,伝統的な綿織物(大垣・一宮),毛織物(尾西) ,窯業(瀬 戸・多治見)などの工業も盛ん。 ○阪神工業地帯……大阪・神戸を中心に,大阪湾沿岸・内陸部に広がる。金属(大阪・堺), 鉄鋼(神戸・姫路・尼崎) ,造船(神戸)のほか,伝統的な繊維(岸和田・泉大津)などの 工業も盛ん。 ⑵ その他の工業地域 ○北九州工業地帯……北九州市を中心に広がる。官営八幡製鉄所の建設を機に,鉄鋼業を中心 に発達したが,近年は出荷額が伸び悩んでいる。鉄鋼・食料品の比重が高い。 ○北関東工業地域……茨城・栃木・群馬・埼玉にかけて広がる。機械工業が盛ん。 ○京葉工業地帯……千葉を中心に東京湾岸の埋立地に広がる。鉄鋼・石油化学工業が盛ん。 ○東海工業地域……静岡南部のJR東海道線・東名高速道路の沿線に広がる。パルプ・製紙 (富士) ,楽器・オートバイ(浜松)などの生産が盛ん。 ○瀬戸内工業地域……瀬戸内海沿岸に広がる。水運の便がよく,造船・石油化学・鉄鋼・機械 工業などが盛ん。 ○北陸工業地域……新潟・富山・石川・福井の沿岸部に広がる。化学・化学繊維工業が盛ん。 ➡ 各工業地帯・工業地域の位置,産業別出荷額の割合を確認しておこう。 ⑶ エレクトロニクス(電子)工業の集積地 エレクトロニクス工業(特に半導体工業)は,製品が小型・軽量・高付加価値で,輸送に航 空機を利用しても採算が取れるため,臨空港指向型工業である。地方空港周辺に立地が多い九 州はシリコンアイランドと呼ばれる。また,沿線に立地が多い東北自動車道はシリコンロード と呼ばれる。なお,日本のエレクトロニクス工業の場合,研究・開発部門は首都圏など大都市 圏に立地し,安価な労働力・用地などを必要とする生産部門が地方に立地する傾向にある。 ①バブル経済 ㆒⓽⓼⓺年暮れから⓽₀年秋にかけて見られ ②太平洋ベルト かつての四大工業地帯とその周辺の た好景気のこと。土地や株式の資産価格が実体以上 工業地域を含む,関東地方から北九州までの太平洋 に膨れ上がり,投資や消費が増大した。 岸の帯状の地域のこと。工業や人口の集積が著しい。 資源と産業2(鉱工業) GA1061HR1R1BZ-001 STEP.1 次の問に答えよ。 □石油(原油)の採掘・輸送・精製・販売などを独占的に支配していた, 国際的な石油会社を何というか。 □1950年代から活発になった,発展途上国などに見られる自国の資源を自 メジャー (国際石油資本) 資源ナショナリズム 国の経済的自立・発展に結び付けようとする動きを何というか。 □世界の主要な産油国が,自国の利益を守り,石油価格の安定などをはか るため,1960年に結成した国際機構を何というか。 □1960年代に見られた,使用するエネルギー資源の中心が,石炭から石 OPEC (石油輸出国機構) エネルギー革命 油・天然ガスに大きく転換したことを何というか。 □現在のエネルギーの主流である石油に代わる,太陽光・風力・地熱など 代替エネルギー の自然エネルギーに代表される,新しいエネルギーを総称は何か。 □ウェーバーの工業立地論で,最も重要とされたのは,輸送費・労働費・ 輸送費 原料費のうちの何か。 □半導体など,製品が小型・軽量で高付加価値であるエレクトロニクス工 臨空港指向型工業 業は,立地条件で分類した場合,何という工業に該当するか。 □1⓼世紀後半以降,基幹産業であり,“産業の米” といわれた工業は何か。 鉄鋼業 □付近の炭田やライン川の水運を背景とする,重化学工業が盛んなドイツ ルール工業地域 最大の工業地域を何というか。 □オランダ南西部,新マース川河口に位置し,石油化学コンビナートなど ユーロポート が立地している港湾地区を何というか。 □アメリカ合衆国で,19柒0年代以降,先端技術産業を中心に,工業が発展 サンベルト している,北緯叅柒°以南の地域を何というか。 □工場の海外進出などにより,国内で産業が衰退して雇用も減少する現象 産業の空洞化 を何というか。 □日本の四大工業地帯や,その周辺部の工業地域が連なる帯状の地域を何 太平洋ベルト というか。 □日本の四大公害のうち,熊本県南西部で発生した有機水銀中毒症を何と いうか。 水俣病 GA1061HR1R1BZ-002 STEP.2 <東・東南アジアの工業地域> 次の各問に答えよ。 問1 近年,工業化が進展し,急速な経済成長を遂げた,韓国・シンガポール・台湾・ホンコンの 4つの国・地域を総称して何と呼ぶか。 問2 韓国・シンガポール・台湾・ホンコンの工業化について述べた文として誤っているものを, 次のア~エの中から1つ選び,記号を記せ。 ア 工業化が進展したのは第二次世界大戦後である。 イ 1950年代は輸出指向型工業が発展し,60年代からは輸入代替工業が発展した。 ウ 豊富な低賃金労働力を背景に労働集約型工業を中心に工業化が進んだ。 エ 近年は,エレクトロニクス工業など知識集約型工業の発達も見られる。 問3 外国の資本や技術を導入するため,外国企業に対して税金や土地代などで優遇措置を採って いる,中国華南の沿海部の5つの特別区域を何というか。 問4 問3の特別区域が設置された都市を,次のア~エの中から1つ選び,記号を記せ。 ア シェンチェン イ シャンハイ ウ テンチン エ チンタオ 問5 中国最大の重化学工業地帯となっている地域を,次のア~エの中から1つ選び,記号を記せ。 ア 華中 イ 華南 ウ 東北 エ 華北 問6 1995年にASEANに正式加盟し,外資導入によって急速に工業化が進んでいる国はどこか。 問1 アジアNIEs 問2 イ 問3 経済特区 問4 ア 問5 ウ 問6 ベトナム 問1 NIE s は Newly Industrializing Economies(新興工業経済地 域群)の略称である。アジアNIE sと呼ばれる韓国・シンガポール・台 湾・ホンコン,ラテンアメリカNIE s と呼ばれるブラジル・メキシコなど がある。 問2 発展途上国が,それまで輸入に依存してきた消費財を自国で生産する ことをめざし,育成をはかった工業を輸入代替型工業といい,輸出を目的に 発展させようとする工業を輸出指向型工業という。アジアNIEsでは当初 は輸入代替型の工業化が進められたが,国内市場が狭いこともあり,政府主 導で輸出指向型工業に転換した。 問3・問4 製品の輸出を条件に,税金を免除するなどして外国企業を誘致 し,工業化を進めている地区を輸出加工区という。19柒0年代末以降,中国華 南の沿海部のシェンチェン・アモイ・スワトウ・チューハイ・ハイナン島 (省に昇格)に,輸出加工区の一種である経済特区が設置された。 問5 中国東北地方は,フーシュン(撫順)の石炭,アンシャン(鞍山)の 鉄鉱石,ターチン(大慶)の原油などの鉱産資源に恵まれ,中国最大の重化 学工業地帯となっている。主要工業都市にはシェンヤン(瀋陽;機械工業), アンシャン(鉄鋼業),ターリエン(大連;造船業)などがある。 問6 ベトナムは1995年のASEAN正式加盟とアメリカ合衆国による経済 制裁解除により外国企業が相次いで進出し,工業化が急速に進んでいる。な お,ベトナムは,19⓼6年以降,ドイ・モイ政策の一環として,社会主義体制 を維持したまま,市場経済を導入していた。