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5 液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法による水環境中
愛知県環境調査センター所報 41,27 − 34(2013) 液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法による水環境中の クロルマジノン,酢酸クロルマジノン及びエクイリンの定量 内藤宏孝 水環境中に残留する微量のクロルマジノン(CM),酢酸クロルマジノン(CMA)及びエクイリン (EQ)を,液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC/MS/MS)で定量する方法を検討し た.試料にサロゲート物質を添加し,固相カートリッジに通水した後,ジクロロメタン/メタノ ール(9:1, v/v)で溶出し,シリカゲルカートリッジによるクリーンアップを行い,LC/MS/MS-SRM 法で定量した.本法の検出下限値は,CM 0.030 ng/L,CMA 0.032 ng/L,EQ 0.060 ng/L で,水質試 料(精製水,河川水,海水)を用いた添加回収試験による回収率は,CM で 89~97%(変動係数 2.1~8.4%),CMA で 85~97%(変動係数 2.7~8.5%),EQ で 99~104%(変動係数 2.1~6.0%)で あった.本法により,環境水中に存在する 0.1 ng/L レベルの CM,CMA 及び EQ を定量すること が可能であり,環境モニタリング法として有用であると考えられた. キーワード 1 クロルマジノン,酢酸クロルマジノン,エクイリン,LC/MS/MS,環境試料 はじめに 高く,その活性は,酵母ツーハイブリッド・アッセ イ法 (Pharmaceuticals and Personal Care Products; PPCPs) されており 1,2) ,これらによる環境汚染の関心が高ま によると,メダカに対し内分泌攪乱作用が確 認されている 4-ノニルフェノール(分岐型)や 4-tert- 近年, 医薬品や化粧品などのパーソナルケア製品 由来の化学物質が,河川や湖沼等の水環境中で検出 3) オクチルフェノール されている 6) 4,5) の 1000~2000 倍程度と評価 .このため,エストロンとほぼ同じ構 造の EQ は,相当程度のエストロゲン様活性をもつ っている.PPCPs は,広範囲に使用され,人や家畜 ものと考えられ,生態系への影響が懸念されている. 等から継続的に排泄されており,下水処理場や医療 また,CMA は,CM の酢酸エステル体で,黄体・ 7) ,抗アン 機関,畜水産施設等からの放出により,人の健康や 卵胞ホルモン剤の中で最も出荷量が多く 生態系への影響が懸念されている.なかでも,ホル ドロゲン剤として前立腺肥大症治療にも使用され, モン様活性をもち,生体の内分泌攪乱を引き起こす 人だけでなく動物用としても用いられ,その使用範 おそれのある物質は,非常に低い濃度でも影響を及 囲は広い.このため,これらの物質の環境中での残 ぼす可能性があることから,これらの水環境中での 留状況の把握が必要となっている. 環境中のエストロゲン様活性をもつ医薬品の分析 挙動を明らかにし,そのリスクを評価することが必 要となっている. クロルマジノン(CM),酢酸クロルマジノン(CMA) 及びエクイリン(EQ)は,ホルモン剤として使用され としては,17β-エストラジオールと同等以上の活性 をもつ,経口避妊薬のエチニルエストラジオールの 分析が数多く報告されているが 9,12) 8-12) ,その他のホル .CMA は,動物用医薬 ている医薬品であり,CM,CMA は合成黄体ホルモ モン剤の分析例は少ない ン剤とし,EQ は妊馬尿から抽出される天然エスト 品として,食品に残留する農薬等に関するポジティ ロゲンで卵胞ホルモン剤として使用されている.構 ブリスト制度により食品では分析されているが 造は,3 物質ともにステロイド骨格を有しており, 環境中での分析はほとんど報告されていない.この 特に EQ は,人畜由来の主要な天然エストロゲンの ため,本報では,環境水中に残留する CM,CMA 及び 1つであるエストロンと 7,8 位の C-C 結合が二重結 EQ を高感度かつ高精度に定量するため, 液体クロマ 合となるだけで,ほぼ同じ構造となっている.エス トグラフィー/タンデム質量分析 (LC/MS/MS)によ トロンのエストロゲン様活性は,人畜由来の天然エ る SRM (Selected Reaction Monitoring)法で定量する ストロゲンのなかで 17β-エストラジオールの次に 方法を検討した.その結果,比較的簡便な前処理方 ─ 27 ─ 13) , 法で,環境水中に存在する CM,CMA 及び EQ を 0.1 2.2 ng/L レベルで精度よく定量することが可能であったので 試料の採取及び取り扱い 分析対象物質の酸化, 分解等を抑制するため, 報告する. 採取後,直ちに L(+)-アスコルビン酸を,試料 200 mL に対し 0.2 g 添加した. 2 実験方法 2.3 2.1 試薬及び装置 分析方法 本研究により,開発した分析方法は以下のとおり CM は Toronto Research Chemicals 製のものを, であった.水質試料 200 mL を共栓付き三角フラス CMA は和光純薬工業製のものを,EQ は Fluka 製の コに取り,サロゲート標準液を 10 μL 添加し,よく ものを使用した.これらをアセトニトリルに溶解し 振り混ぜた後,ジクロロメタン 10 mL,メタノール 100 μg/mL の標準原液を調製した後,アセトニトリ 10 mL, 精製水 10 mL で順次コンディショニングし ル/水 (1:1, v/v)で必要濃度に希釈して標準溶液と た固相カートリッジ Oasis HLB plus に流速 10~20 した.また,EQ のサロゲートとしてシグマアルド mL/min で通水した.通水後, 固相カートリッジを少 リッチ製の EQ-2,4,16,16-d4 (EQ-d4)を,アセトニトリ 量の精製水で洗浄し, 15 分間減圧吸引し間隙水を除 ルで溶解し,200 ng/mL のサロゲート標準液として 去した.固相カートリッジを反転させ,ジクロロメ 使用した. タン/メタノール(9:1, v/v) 5 mL で逆方向から溶出 アセトニトリル ,メタノールは和光純薬工業製 した.この溶出液を無水硫酸ナトリウムで脱水した LC/MS 用のものを,ジクロロメタンは和光純薬工業 後,窒素吹き付けにより濃縮・乾固し,残留物をジ 製残留農薬・PCB 試験用を,無水硫酸ナトリウムは クロロメタン 1 mL で溶解した. 和光純薬工業製 PCB・フタル酸エステル試験用を使 溶解液を,アセトン 3 mL,ジクロロメタン 10 mL 用し, その他の試薬は, 試薬特級のものを使用した. で順次コンディショニングしたシリカゲルカートリ また,固相抽出に用いるカートリッジカラムとして, ッジ(LC-Si SPE tube)に負荷し,ジクロロメタン 5 Waters 製の Oasis HLB plus(充填剤量 225 mg)を使 mL で洗浄した後,アセトニトリル/ジクロロメタ 用し,クリーンアップ用の順相カラムとして ン(2:98, v/v) 10 mL で溶出した.溶出液を窒素吹き付 SUPELCO 製の LC-Si SPE tube(充填剤量 1 g/ 6 mL) けにより濃縮・乾固し,残留物をアセトニトリル/ を用いた. 水 (1:1, v/v) 1 mL で溶解し LC/MS/MS 用試料液とし 実験に用いた LC/MS/MS は, AB Sciex 製 API3200 た. これを表 1 に示す条件で LC/MS/MS により分析 質量分析計に島津製作所製 LC-20 Series 液体クロマ し, CM,CMA については,あらかじめ標準物質の トグラフを装備したもので, これを表 1 に示す条件 注入濃度とピーク面積から作成した検量線により, で使用した. EQ については,標準物質とサロゲートの注入濃度 比とピーク面積比の関係から作成した検量線により 表1 LC/MS/MS 測定条件 LC: SHIMADZU LC-20 Series カラム:Ascentis Express C18 (2.1mmφ×150mm, 2.7μm) 移動相: A: 精製水, B:CH3CN B: 20→100 % (0→17 min, gradient) - 100 %(17→24 min) 流量: 0.2 mL/min 、カラム温度: 40 ℃、注入量: 10 μL 定量を行った. 3 3.1 LC/MS/MS の測定条件及び検量線 LC/MS のイオン化法として,エレクトロスプレー MS: AB Sciex API3200 EQ-d 4 CM CMA EQ ESI + ESI + ESI ESI イオン化法 IS (kV) 5.5 5.5 -4.5 -4.5 TEM (℃) 700 700 700 700 モニターイオン (m/z ) 363>309 405>309 267>265 271>269 DP (V) 46 56 -60 -60 CE (V) 21 21 -32 -34 結果及び考察 イオン化(ESI)法と大気圧化学イオン化 (APCI)法で 検討した.その結果,今回対象とした CM,CMA 及 び EQ ともに,ESI 法のピーク強度は,APCI 法と比 較して 10 倍以上となったため ESI 法を用いることと した.モニターイオンについては,CM 及び CMA では[M+H] +が,EQ は[M-H]-が主要なピークとして 確認されたため,それらをプレカーサーイオンとし ─ 28 ─ た. 図 1 に各プレカーサーイオンから生成されたプ 度の良いプロダクトイオン m/z 309 を定量用のモニ ロダクトイオンのマススペクトルを示したが,CM ターイオンとした. 及び EQ については,プレカーサーイオンがコリジ + ョンセルで開裂されない[M+H] (m/z 363),[M-H] CM 及び CMA はポジティブモードで,EQ はネガ - ティブモードでの測定となるが,今回使用した機種 (m/z 267)がプロダクトイオンの基準ピークとなった. は,ポジティブモードとネガティブモードでの同時 しかし,当該イオンは,夾雑物の影響を受けやすく 測定は,切り替え待ち時間が長いため実質的に困難 クロマトグラム上ノイズが上昇し,低濃度で十分な であった.このため,ポジティブモードとネガティ S/N が確保できなかった.このため,定量に用いる ブモードでの測定を,時間を区切って行うこととし モニターイオンは,2 番目のピーク強度であったプ た.図 2 に標準溶液を表 1 の条件で測定した SRM ク ロダクトイオンとし,CM については m/z 309,EQ ロマトグラムを示したが,10.9 min までをネガティ は m/z 265 を用いることとした.CMA については, ブモードにより EQ を,10.9 min 以降をポジティブ プレカーサーイオン m/z 405 から生成される最も感 モードで CM 及び CMA を測定することにより,今 +MS2 (363.00) CE (21): 11.641 to 11.792 min from Sample 1 (500ppb) of DataChl_Po... Max. 3.4e6 cps. 回対象となっている 3 物質を一斉に分析することが 363.0 3.4e6 可能であった. CM 3.2e6 3.0e6 XIC of -MRM (3 pairs): Period 1, 267.333/264.700 Da from Sample 15 (1) of DataEquChl_20130318_1.wiff (Turbo ... Product Ion of m/z 363 2.8e6 3400 (CE: 21 V) 2.4e6 In te n s ity , c p s Max. 1493.9 cps. 3570 2.6e6 309.1 3200 2.2e6 3000 2.0e6 2800 CM 2600 1.8e6 2400 I n t e n s it y , c p s 1.6e6 1.4e6 1.2e6 345.1 1.0e6 2000 1800 1600 10.10 EQ 1400 8.0e5 1200 6.0e5 1000 4.0e5 301.1 267.1 2.0e5 0.0 CMA EQ-d4 2200 207.0 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 m/z, Da 800 327.1 285.3 317.0 249.1 260 280 300 600 361.1 320 340 360 +MS2 (405.00) CE (21): Period 2, 13.305 to 13.406 min from Sample 1 (500ppb EqChl) of ... 380 400 400 200 0 8.0 Max. 1.2e6 cps. 1.20e6 CMA 1.10e6 1.00e6 9.0 図2 405.0 Product Ion of m/z 405 8.5 9.5 10.0 10.5 11.0 Negative mode 309.1 11.5 12.0 Time, min 12.5 13.0 13.5 14.0 14.5 15.0 Positive mode 標準溶液の SRM クロマトグラム (CM, CMA, EQ: 1.0 ng/mL, EQ-d4: 2.0 ng/mL) 345.0 In te n s ity , c p s 9.00e5 (CE: 21 V) 8.00e5 CM 及び CMA については,0.020 ng/mL~10.0 7.00e5 ng/mL の標準溶液の各 10 μL を LC/MS/MS に注入し, 301.1 6.00e5 5.00e5 標準物質の注入濃度と得られたクロマトグラムのピ 267.1 4.00e5 3.00e5 ーク面積から検量線を作成した.また,EQ につい 303.0 2.00e5 1.00e5 175.2 0.00 60 207.1 249.2 265.1 291.1 ては,サロゲート(EQ-d4)の濃度が 2.0 ng/mL となる 327.1 403.0 346.2 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280 300 320 340 360 380 400 420 440 m/z, Da -MS2 (267.00) CE (-32): Period 1, 10.117 to 10.251 min from Sample 1 (500ppb EqChl) of ... Max. 2.1e6 cps. 267.0 2.1e6 2.0e6 のピーク面積比の関係から検量線を作成した.どの 1.8e6 Product Ion of m/z 267 In te n s ity , c p s 検量線もこの濃度範囲では良好な直線性(r2 > 0.999) (CE: -32 V) 1.4e6 溶液の各 10 μL を LC/MS/MS に注入し, 標準物質と サロゲートの注入濃度比と得られたクロマトグラム EQ 1.6e6 ように調製した EQ 0.050 ng/mL~20.0 ng/mL の標準 が確認された. 1.2e6 265.0 ま た , 検 量 線 の 最 低 濃 度 の 標 準 溶 液 (CM, CMA 1.0e6 8.0e5 0.02 ng/mL,EQ 0.05 ng/mL)を繰り返し測定し(n=7), 6.0e5 「化学物質環境実態調査実施の手引き(平成 20 年度 4.0e5 239.0 143.0 2.0e5 0.0 版)」 14) に定められた方法に従って装置検出下限値 223.0 145.2 60 80 100 120 140 156.0 160 182.0 197.0 211.1 180 m/z, Da 200 220 249.0 240 260 280 300 (IDL)を算出した.その結果を表 2 に示したが,CM, CMA 及び EQ ともに良好な再現性で高感度に定量す 図1 プロダクトイオンのマススペクトル ることが可能であった. ─ 29 ─ 表2 添加することにより,海水, 河川水ともに,どの対 装置検出下限値 物 質 IDL (ng/mL) 注入量 最終液量 試料量 IDL試料換算値 (μL) (mL) (L) (ng/L) 象物質も 7 日後の残存率は 80%以上となり,残存率 CM 0.0050 10 1.0 0.200 0.025 の低下を抑制する効果が認められた.このことから, CMA 0.0060 10 1.0 0.200 0.030 試料採取後,試料 200 mL に対しアスコルビン酸を EQ 0.011 10 1.0 0.200 0.055 0.2 g 添加することとした. 3.2 3.2.1 対象物質の保存性 3.2.2 環境水中での保存性 溶媒中での保存性 3.3 の試料の前処理方法で後述するが,固相抽出 環境水中での CM,CMA 及び EQ の保存性を評価 した後,順相カラムによるクリーンアップが必要で するため, 海水, 河川水に対象物質を添加し,濃度 あった.このため,順相カラムに使用する展開溶媒 が 5.0 ng/L となるように調製し,10℃以下の冷暗所 を検討する上で,溶媒中での対象物質の安定性を確 に保存した後, ある経過時間ごとに試料を分取し, 認した.溶媒 5 mL を試験管に入れ,対象物質をそ 2.3 の分析方法に従って対象物質の定量を行った. れぞれ 1.0 ng 添加し,1 時間後及び 1 日後に窒素吹 また,対象物質の酸化,分解等を抑制する目的で, き付けにより濃縮・乾固し,残留物をアセトニトリ 試料にアスコルビン酸を添加したものも用意し同様 ル/水 (1:1, v/v) 1 mL で溶解し LC/MS/MS で定量を に保存性試験を行った.アスコルビン酸は試料 200 行った.その結果を表 4 に示した.CM 及び CMA mL あたり 0.2 g 添加した.その結果を表 3 に示した. については,どの溶媒中でも安定であったが,EQ 海水,河川水ともに,CM 及び EQ の残存率が低く, では,ヘキサン及びアセトンが含まれる溶媒中で分 特に海水については 7 日後までにほとんどが残存し 解することが確認された.EQ は,エストロゲンの ていなかった.両物質とも,水酸基を有しており, 一種であり,エストロゲンの分析法としては,既に 環境水中で酸化されたものと考えられた.CMA につ エストロン,エストラジオール及びエストリオール いては,CM 及び EQ と比べ安定で,7 日後までは の分析法が,環境省の「要調査項目等調査マニュア 80%以上の残存率を示したが, 14 日後には海水につ ル」 15)で示されている.しかし,当該マニュアルで いて残存率の低下が認められた.CMA は,CM の酢 は,順相カラムにヘキサンやアセトンを含有する溶 酸エステル体であるため,弱アルカリ下で徐々に加 媒が使用されており,当該マニュアルを EQ の分析 水分解されたものと考えられた.アスコルビン酸を に適用できないことが判明した. 表3 物 質 保存性試験結果(環境水) 試 料 河川水 CM 海水 河川水 CMA 海水 河川水 EQ 海水 添加剤 無添加 アスコルビン酸a) 無添加 アスコルビン酸a) 無添加 アスコルビン酸a) 無添加 a) アスコルビン酸 無添加 アスコルビン酸a) 無添加 アスコルビン酸a) 初期濃度 (ng/L) 1時間後 5.0 92 5.0 98 5.0 96 5.0 98 5.0 106 5.0 92 5.0 102 5.0 95 5.0 99 5.0 96 5.0 95 5.0 91 残存率(%) 1日後 3日後 7日後 37 8 <1 97 94 87 54 14 <1 99 90 93 91 103 93 96 91 86 98 86 81 99 95 95 71 63 53 90 81 82 31 11 <1 93 92 90 14日後 <1 78 <1 91 79 80 36 91 32 65 <1 92 a) アスコルビン酸は試料200 mLに対し0.2 g添加した. 表4 保存性試験結果(溶媒) 保存溶媒 初期濃度 (ng/mL) メタノール アセトニトリル ジクロロメタン (DCM) 酢酸エチル アセトン ヘキサン(Hex) Hex/DCM (3:1) 5%アセトン/DCM 0.20 0.20 0.20 0.20 0.20 0.20 0.20 0.20 CM 1時間後 1日後 91 90 98 87 103 98 97 89 92 95 90 85 92 94 98 90 残存率 (%) CMA 1時間後 1日後 95 91 95 100 103 107 107 91 ─ 30 ─ 89 91 92 94 108 95 102 91 EQ 1時間後 1日後 104 98 97 90 72 22 27 32 102 98 95 88 59 18 20 43 3.3 120 試料の前処理方法 100 用し,固相カートリッジは, 疎水性化合物のほか親 80 回収率 (%) 水質試料からの抽出方法としては固相抽出法を採 水性化合物の保持も可能な Oasis HLB plus (225 mg) を用い検討を行った.溶出溶媒として,ジクロロメ タンとジクロロメタン/メタノール(9:1, v/v)を用い, CM CMA EQ 60 40 20 対象物質の溶出状況を確認した.比較的 SS 分の多 0 い河川水 200 mL にアスコルビン酸 0.2 g 加え,CM, 0~5 mL CMA 及び EQ をそれぞれ 1.0 ng 添加し,ジクロロメ DCM 0~5 mL 10~15 mL 15~20 mL 20~25 mL CH3CN/DCM (2:98, v/v) 図3 タン 10 mL,メタノール 10 mL,精製水 10 mL で順 5~10 mL LC-Florisil の溶出パターン 120 次コンディショニングした固相カートリッジに通水 100 媒 5 mL で通水方向と逆の方向から溶出させた.そ 80 の結果,ジクロロメタン/メタノール(9:1, v/v)では 5 mL ですべての対象物質がほぼ 100%溶出されたが, 回収率 (%) した後,15 分間減圧吸引し間隙水を除去し,溶出溶 CM 40 20 れなかった.この原因として,固相カートリッジに 0 0~5 mL 0~5 mL DCM ートリッジの水分除去は,試料の状態や吸引時間, 図4 減圧度さらには室内環境等に影響され,完全には除 EQ 60 ジクロロメタンではどの対象物質も完全には溶出さ 残留する水分の影響が考えられた.通水後の固相カ CMA 5~10 mL 10~15 mL 15~20 mL 20~25 mL CH3CN/DCM (2:98, v/v) LC-Si の溶出パターン を,シリカゲルは 同製の LC-Si (1 g/6 mL)を用いた. 去できない場合があり,この場合,疎水性の溶出溶 媒では充填剤内部に浸透せず,対象物質が完全に溶 どちらのカラムも,EQ の保持が一番弱かったが, 出されない.ジクロロメタン/メタノール(9:1, v/v) 展開溶媒であるジクロロメタン 5 mL では溶出され では,親水性溶媒であるメタノールが加わったこと なかった.シリカゲルの方が,保持の一番強い CM により,水分がある程度残留していても充填剤内部 においても,少量の比較的低極性の溶出溶媒で溶出 に浸透し,短い脱水時間でしかも少量の溶媒量で対 させることが可能であったことから,今回はシリカ 象物質の再現性のある溶出が可能となったと考えら ゲルを使用することとした. 最後に,固相抽出する際に目詰まりする試料につ れた.このため,溶出溶媒としてジクロロメタン/ いて,ろ過処理の検討を行った.海水,河川水を今 メタノール(9:1, v/v)を用いることとした. 次に,この溶出液のクリーンアップ法を検討した. 回は 1000 mL 用い,ろ過後のろ紙中に残存する対象 溶出液をアセトニトリル/水 (1:1, v/v)に溶媒転溶 物質の状況を確認した.海水,河川水に対象物質を して,そのまま LC/MS/MS で測定すると,イオン化 各々1.0 ng 添加し,ガラス繊維ろ紙(GF/B)でろ過 抑制により,特に CM,CMA のピーク強度が 50~ し,ろ過後のろ紙をメタノールで 3 回超音波抽出し, 60%程度となったことから,クリーンアップが必要 抽出液を濃縮・精製して定量した.その結果,どの であった.クリーンアップは,順相カラムを用い検 試料からも対象物質は検出されず,対象物質はすべ 討を行った.展開溶媒は,3.2.2 溶媒中での保存性 てろ液に移行していたことが確認された.このため, で述べたように,ヘキサン,アセトンを含む溶媒中 今回の試験に用いた試料については,ろ過後のろ紙 では EQ が分解することが確認されたため,比較的 の洗浄は精製水で十分であった.しかし,対象物質 低極性のジクロロメタンを展開溶媒とした.順相カ のオクタノール/水分配係数(log Pow)はどれも 3 ートリッジカラムとして,環境省の「要調査項目等 ~4 で疎水性であり,環境水の性状も様々であるこ に示されているフロリジルのほ とから,ろ過後のろ紙はメタノールで洗浄する方が か,シリカゲルについても検討し,それぞれの溶出 確実であると考えられた.精製水 200 mL にメタノ パターンを図 3, 4 に示した.カートリッジカラムは, ール 15 mL 加えた溶液を固相抽出しても,通水の際, フロリジルは SUPELCO 製の LC-Florisil (1 g/6 mL) 対象物質の固相カートリッジへの保持に問題はなか 調査マニュアル」 15) ─ 31 ─ った.このため,固相抽出する際に目詰まりする試 本法の検出下限については, 「 化学物質環境実態調 料については,ろ過後のろ紙をメタノール 5 mL で 3 査実施の手引き(平成 20 年度版)」 14)に定められた 回洗浄し,その洗浄液を濃縮することなく,そのま 方法に従って算出した.CM,CMA 及び EQ の検出 まろ液に加え,Oasis HLB plus で固相抽出すること 下限値は,表 6 に示したとおりであり,どの物質も とした. 0.1 ng/L レベルの微量分析が可能であった. なお,今回対象とした物質は,内分泌攪乱化学物 3.4 添加回収実験及び検出下限 質として疑いのあるもので,内分泌攪乱化学物質は, 海水 200 mL, 河川水 200 mL を 2.3 で述べた分析 毒性学上の用量反応(Dose-Response)関係が当てはま 方法に従って定量した. また, 各試料の種類に応じ らず,非常に低い用量で影響を及ぼすことが指摘さ て,CM,CMA 及び EQ を各々1.0 ng 添加したもの れており,今回の物質もできるだけ低濃度まで定量 も同様に定量し,妨害ピークの有無,各試料での対 できる分析法が望まれる.このため,試料量を 200 象物質の検出状況を確認するとともに添加回収率の mL から 1000 mL に増やし,2. 3 で述べた分析方法 検討を行った.各試料について対象物質を添加した に従って定量を行った.対象物質は検出されなかっ ものと添加しないものの SRM クロマトグラムを図 たが,得られた試験液 1.0 mL に対象物質を各々1.0 5, 6 に示したが,定量に影響を及ぼすような妨害ピ ng 添加し,定量値の確認を行ったところ,CM 及び ークは認められなかった.また,どの試料からも CM, CMA については,夾雑物の影響によりイオン化抑制 CMA 及び EQ は,検出されなかった. され,河川水で 50%程度,海水で 30%程度,定量値 一方,添加回収実験の結果は,表 5 に示したとお が低くなった.EQ については,試料量を 1000 mL り,添加回収率は, CM で 89~97%,CMA で 85~97%, にしても,どちらの試料もピーク強度は減少せず, EQ で 99~104%といずれも良好な回収率を示し, そ 良好な定量結果となった.このため, CM 及び CMA れぞれの変動係数(C.V.)も 2.1~8.4%,2.7~8.5%,2.1 については試料量を増やすことはできないが,EQ ~6.0%と再現性は良好であり,実試料に対して十分 については,試料量を増やすことにより,より低い に適用可能であることが確認された. 濃度レベルの分析が期待できた. XIC of -MRM (3 pairs): Period 1, 267.333/264.700 Da from Sample 27 (sea) of DataEquChl_20130318_1.wiff (Turbo ... Max. 12.1 cps. 1700 XIC of -MRM (3 pairs): Period 1, 267.333/264.700 Da from Sample 28 (river) of DataEquChl_20130318_1.wiff (Turbo... 無添加 1600 1500 1500 1300 1200 1200 1100 In te n s ity , c p s In te n s ity , c p s EQ-d4 1400 1300 1000 900 800 700 CM 600 1100 1000 900 800 700 CM 600 500 500 EQ 400 CMA EQ 400 300 CMA 300 200 200 100 100 8.44 8.63 8.75 9.30 9.70 10.25 10.48 0 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 8.16 8.52 8.69 9.33 9.78 10.10 10.50 0 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 10.74 11.0 11.5 12.0 Time, min 12.5 13.0 13.5 14.0 XIC of -MRM (3 pairs): Period 1, 267.333/264.700 Da from Sample 10 (sea REC1) of DataEquChl_20130314_1.wi... 15.0 11.5 12.0 Time, min 12.5 13.0 13.5 14.0 XIC of -MRM (3 pairs): Period 1, 267.333/264.700 Da from Sample 17 (r REC2) of DataEquChl_20130314_1.wiff (... 1.0 ng 添加 CM 3200 14.5 Max. 1793.9 cps. 3400 2800 14.5 15.0 Max. 1890.9 cps. 1.0 ng 添加 2940 CM EQ-d4 2600 3000 2400 2800 EQ-d4 2600 2200 2400 2000 2200 10.13 1800 CMA EQ 2000 1600 1400 In te n s ity , c p s In te n s ity , c p s 無添加 1600 EQ-d4 1400 Max. 21.2 cps. 1700 1200 10.10 EQ 1800 CMA 1600 1400 1200 1000 1000 800 800 600 600 400 400 200 200 0 8.5 図5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5 12.0 Time, min 12.5 13.0 13.5 14.0 14.5 0 15.0 海水(名古屋港)の SRM クロマトグラム 8.0 図6 ─ 32 ─ 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5 12.0 Time, min 12.5 13.0 13.5 14.0 14.5 15.0 河川水(朝鮮川)の SRM クロマトグラム 表5 添加回収試験結果 試 料 CM 試料量 測定 添加量 (L) 回数 (ng) 検出濃度 (ng/L) CMA EQ 回収率 (%) C.V. (%) 検出濃度 (ng/L) 回収率 (%) C.V. (%) 0.200 3 無添加 < 0.030 - - < 0.032 - - 0.200 5 1.0 4.9 97 a 2.5 4.8 97 a 2.8 3 無添加 < 0.030 - - < 0.032 - - 検出濃度 (ng/L) 精製水 0.200 海水 a b 5.2 < 0.060 1.0 4.4 89 2.2 4.2 85 2.7 5.1 0.200 3 無添加 < 0.030 - - < 0.032 - - < 0.060 0.091 a 0.097 a 0.200 0.02 5 1.0 91 a 4.5 91 8.4 2.1 4.5 8.5 97 a 4.3 90 2.2 c - c 3.7 - (92)c - 101 0.26 (92) - (90) b 5 7 - c 104 0.200 0.200 C.V. (%) < 0.060 - (92)c 河川水 a 回収率 (%) (95) b c 6.0 b c 2.1 104 (100) 4.9 99 (94) a: CM及びCMAの回収率は、絶対回収率である。 b: EQの回収率は、絶対回収率ではなく、サロゲートで補正したものである。 c: ( )内の値は、サロゲートの絶対回収率である。 Houwa, 表6 検出下限値及び定量下限値 物 質 試料量 最終液量 (L) (mL) I., Tanaka, H.: Occurrence of 70 phamaceutical and personal care products in Tone 検出下限値 (ng/L) 定量下限値 (ng/L) CM 0.200 1.0 0.030 0.077 CMA 0.200 1.0 0.032 0.083 EQ 0.200 1.0 0.060 0.15 River basin in Japan, Water Sci. Technol., 56, 133-140 (2007) 3) Nishikawa, J., Saito, K., Goto, J., Dakeyama, F., Matsuo, M., Nishihara, T.: New screening methods for chemicals with hormonal activities using interaction of nuclear hormone receptor with coactivator, Toxicol. 4 まとめ Appl. Pharmacol., 154, 76-83 (1999) 4) 環境省: 化学物質の内分泌攪乱作用に関する環 LC/MS/MS による環境水中の CM,CMA 及び EQ 境の今後の対応方針について – ExTEND2005 – の分析法を開発した.試料は, 固相抽出と順相カラ (2005 年 3 月) ムを組み合わせた前処理とし LC/MS/MS により定量 5) Kang, I.J., Yokota, H., Oshima, Y., Tsuruda, Y., Hano, した.本法は環境水中に残留する CM,CMA 及び EQ T., Maeda, M., Imada, N., Tadokoro, H. and Honjo, T.: を同時に 0.1 ng/L レベルで定量することが可能であり, Effects of 4-nonylphenol on reproduction of Japanese 環境モニタリング法として有用であると考えられた. Medaka, Environ. Toxicol. Chem., 22, 2438-2445 (2003) なお,本報は,環境省環境保健部環境安全課の委 6) Nishihara, T., Nishikawa, J., Kanayama,T., Dakeyama, 託により実施された「平成 24 年度化学物質分析法開 F., Saito, K., Imagawa, M., Takatori, S., Kitagawa, Y., 発調査」の結果をとりまとめたものである. Hori, S., Utsumi, H.: Estrogenic activities of 517 chemicals by yeast two-hybrid assay, J. Health Sci., 文 献 46, 282-298 (2000) 7) 厚生労働省: 平成 23 年薬事工業生産動態統計年 報統計表 1) Dana, W. K., Edward, T. F., Michael, T. M., E. Michael, T., Steven, D. Z., Larry, B. B., Herbert, T. 8) Ternes, T.A., Kreckel, P., Mueller, J.: Behaviour and B.: Pharmaceuticals, hormones, and other organic occurrence wastewater contaninants in U.S. streams, 1999-2000: treatment plants – Ⅱ . Aerobic batch experiments A national reconnaissance, Environ. Sci. Technol., 36, with activated sludge, Sci. Total Environ., 225, 91-99 1202-1211 (2002) (1999) 2) Nakada, N., Komori, K., Suzuki, Y., Konishi, C., of estrogens in municipal sewage 9) Gentili, A., Perret, D., Marchese, S., Mastropasqua, ─ 33 ─ R., Curini, R., Di Corcia, A.: Analysis of free hormones in wastewater and sludge treatment: A estrogens and their conjugates in sewage and river review waters techniques by solid-phase extraction then liquid chromatography-electrospray-tandem mass spectrometry, Chromtographia, 56, 25-32 (2002) of properties in sludge and analytical matrix, Water detection Res., 46, 5813-5833 (2012) 13) 厚生労働省医薬食品局食品安全部: 「食品に残 10) Isobe, T., Shiraishi, H., Yasuda, M., Shinoda, A., 留する農薬,飼料添加物又は動物用医薬品の成分 Suzuki, H., Morita, M.: Determination of estrogens である物質の試験法について」別添(第2章, 一 and their conjugates in water using solid-phase 斉試験法,HPLC による動物用医薬品等の一斉試 extraction followed by liquid chromatography-tandem 験法 I(畜水産物))(平成 17 年 1 月 24 日付け mass spectrometry, J. Chromatogr. A, 984, 195-202 食安発第 0124001 号) (2003) 14) 環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課: 「化学物質環境実態調査実施の手引き(平成 20 11) Yamamoto, A., Kakutani, N., Yamamoto, K., 年度版)」(平成 21 年 3 月) Kamiura, T., Miyakoda, H.: Steroid hormone profiles of urban and tidal rivers using LC/MS/MS equipped 15) 環境省環境管理局水環境部企画課: エストラジ with electrospray ionization and atmospheric pressure オールおよびその代謝産物の分析法(LC/MS/MS photoionization sources, Environ. Sci. Technol., 40, 法),「要調査項目等調査マニュアル」 (平成 15 年 4133-4137 (2006) 3 月) 12) Hamid, H., Eskicioglu, C.: Fate of estrogenic ─ 34 ─