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人的資本と内部ガバナンス - 日本証券アナリスト協会
人的資本と内部ガバナンス 佐々木 隆 文 CMA (証券アナリストジャーナル編集委員会委員) 1.高まる人的資本の重要性 とする機関投資家の持ち株比率が趨勢的に増加 今年の夏はディズニー映画の 「アナと雪の女王」 し、日本企業の所有者はかつての金融機関やグル が大ヒットしているが、この映画のヒットに最も ープ企業から機関投資家へと大きく変化してき 貢献したのは誰であろうか。ウォルト・ディズニ た。このような日本企業の所有構造の変化を受け ー・カンパニーに資金を提供している株主であろ 取締役会の構成、経営者報酬などの内部ガバナン うか。多くの人はこの映画のコンテンツを作った スもまた米国型ガバナンスに近づく形で変化して 従業員などのスタッフと答えるであろう。つまり きている。更に今後はスチュワードシップ・コー この映画のヒットに最も貢献したのは金銭的資本 ドの導入により、機関投資家と企業との間で内部 の提供者ではなく人的資本の提供者であると考え ガバナンスに関する議論が活発化することも予想 られる。また、アップルは自社工場を持たずに巨 される(注1)。利益連動報酬、社外取締役の導入 額の利益を計上し続けている。アップルの競争力 といった内部ガバナンスの変化は経営者に利益追 の背後にあるのは新製品の開発力を支える人的資 求へのインセンティブを高め資金調達能力を高め 本であり、生産上のスケールメリットではない。 ることが期待されるが、人的資本の重要性が高ま もちろん、依然としてスケールメリット、そのた っている日本企業にとって望ましいものであろう めの資金調達能力が競争力に直結する企業も少な か。 くないと思われるが、消費者のニーズが多様化、 人的資本の重要性が高まっている現代の企業の 高度化した現在においては金銭的資本よりも人的 コーポレートガバナンスでは従来から論じられて 資本の質が競争力を左右するケースの方が多いと きた経営者のエージェンシー問題の解決に加え、 思われる。わが国においては多額の金融資産の蓄 いかに人的資本、とりわけ企業特殊的な人的資本 積がある一方、今後、少子高齢化により生産年齢 の蓄積を促していくかということも重要な課題で 人口が減っていくと予想されており、金銭的資本 ある。人的資本の重要性が高まっている企業では に対する人的資本の相対的重要性はさらに高くな 従業員にも主権者としての権利を認めるべきなの っていくと考えられる。 であろうか。短期的な利益追求へのプレッシャー その一方、日本企業の株主の状況は1990年代 から人的資本を守るためにどのような工夫が必要 から大きく変容している。外国人投資家をはじめ であろうか。 (注1) スチュワードシップ・コードについては、本誌2014年8月号の特集を参照。 ©日本証券アナリスト協会 2014 41