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再生医療等製品及びバイオ医薬品の開発支援-培地トータル分析-

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再生医療等製品及びバイオ医薬品の開発支援-培地トータル分析-
The TRC News,
201608-02 (August 2016)
再生医療等製品及びバイオ医薬品の開発支援-培地トータル分析-
バイオメディカル分析研究部 内久保 裕介
要 旨 再生医療等製品やバイオ医薬品の開発においては細胞培養が必須であり、使用する培地の品質が、
細胞培養の成否を決定付けるといっても過言ではない。TRC では、培地分析のさまざまなご要望に添えるよ
うトータルのサポートメニューを確立したので紹介する。
を培養できず、通常、血清成分などを添加する。サプ
1. はじめに
リメント成分としては、タンパク質、脂質、微量元素
などがある。細胞の種類や培養の用途により、主成分
近年、バイオテクノロジーを応用したバイオ医薬品や
やサプリメント成分の種類や量比が変わるため、成分
iPS 細胞などの先進技術を利用した再生医療等製品の
の特定が可能な定性分析と量比を正確に測定できる定
開発が進んでいる。これらの市場規模は、バイオ医薬
量分析が重要となる。
品が 2020 年頃に 30 兆円規模、再生医療等製品は周辺
産業も含め、2020 年に 1 兆円規模、2050 年には 15 兆
円規模となり、これからますます成長すると考えられ
ている。
これらの医薬品製造の共通の特徴として、細胞を培養
する工程が存在し、細胞培養に培地が使用される。こ
の培地を適正に管理することで、生産性や品質の向
上・維持が可能なため、
その成分の分析は重要である。
本稿では、培地成分の分析をトータルサポートメニュ
ーとしてまとめたので紹介する。
2. 培地成分についての概要
培地成分は、
「培地の元来成分」
、
「細胞分泌物」
、
「不純
物」
などに分けられる。
以下にこれらの成分について、
簡単に説明する。
図 1 DMEM 培地の組成
Ⅰ.培地の元来成分(主成分・サプリメント成分)
Ⅱ.細胞分泌物
図 1 は、市販培地の DMEM 培地の成分例である。市
培地中には、培地の元来成分の他に細胞から分泌され
販培地は、アミノ酸、無機塩、ビタミン、糖などの主
る成分がある。有名な成分は、サイトカインやホルモ
成分で構成されている。しかし主成分のみでは、細胞
ンといったタンパク質やアミノ酸代謝物などの低分子
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The TRC News, 201608-02 (August 2016)
成分である。これらの成分は、多成分且つ極微量に存
前処理を含んだ状態でも CV 1%以内の高精度な結果
在することが特徴であり、網羅的且つ高感度な分析手
が得られた。特にグリシンは、環境からのコンタミネ
法で測定する必要がある。
ーションに注意が必要な成分であるが、他の成分と同
様に高精度な結果を得ることができた。このように
Ⅲ.不純物
TRC の優れた測定環境・測定技術により、培地中のア
細胞培養に必要な成分であっても、ヒトへの投与が目
ミノ酸の増減を正確に測定することが可能である。
的である場合には,最終的に除去や管理の必要な不純
物成分となることがある。
表 1 リゾチームのアミノ酸分析事例
培地中に存在する不純物は、抗生物質、還元剤、界
面活性剤、残留 DNA、残留タンパク質などがあげられ
る。例えば抗生物質は、雑菌の繁殖を抑えるために添
加されるが、ヒトの健康に影響を与えるため、不純物
である。不純物は ICH ガイドラインなどで規制され、
適切な管理を要求される。
また、
これらの分析結果は、
医薬品の申請資料にも使用される可能性が高く、申請
資料の信頼性の基準下での測定が必要となるケースが
ある。
表 2 再生医療用培地でのアミノ酸分析事例
TRC では、これらすべての培地中成分(図 2)の分
析が可能であり、サービスを提供することができる。
次項より、それぞれについて分析事例をご紹介する。
図 2 培地中の成分
3. 培地の元来成分の分析事例
TRC では、アミノ酸、無機塩、ビタミン、糖などの主
成分、タンパク質、脂質、微量元素などのサプリメン
次に、サプリメント成分の分析として、微量元素の
ト成分を含めたすべての培地元来成分の測定が可能で
分析を行った事例を示す。微量元素は、タンパク質の
ある。主成分分析としてアミノ酸分析の分析事例を示
合成、構造維持、活性制御に関与している極微量の成
す。アミノ酸分析の一般的な注意点として、培地中に
分である。培地中での分析結果を表 3 に示す。細胞培
高濃度で含まれるアミノ酸は細胞培養の前後で著しく
養に比較的重要と考えられている銅、亜鉛、セレンの
増減するため分析精度を要すること、また、環境から
微量元素が分析可能であった。セレンは、培地中に
のコンタミネーションや分析手法の選択により、結果
数 ng/mL 添加されるが、本法で正確に微量元素を分析
に大きく影響をすることなどがある。実際にアミノ酸
できることを実証した。また、他の微量元素も、ng/mL
分析を行った測定例を表 1~2 に示す。
加水分解などの
オーダーとかなり微量に存在しているものが多いが、
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The TRC News, 201608-02 (August 2016)
TRC ではそれらの微量元素も高感度分析が可能であ
4. 細胞分泌物の分析事例
る。
表 3 微量元素の分析事例
細胞分泌物の分析に関しては、低分子成分の網羅的解
析とタンパク質の網羅的解析が可能である。
低分子成分の網羅的解析では、LC/MS/MS により、
表 4 に示すような核酸関連物質やアミノ酸、アミノ酸
誘導体を一度に 90 成分以上測定することができる。
ま
た、本手法は、試料間の成分量を半定量的に比較する
ことができ、細胞培養のキーとなる低分子成分の特定
に役立つと考えられる。
表 4 低分子成分の網羅的解析 対象成分例
さらに、TRC が保有する各種の分析装置・手法を駆使
することで、培地中の未知成分を分析した事例を図 3
~4 に示す。LC/MS では PEG 系界面活性剤を、GC で
はオレイン酸のような未知成分を検出できた。
次にタンパク質の網羅的解析について説明する。本
手法は、高性能な LC/MS/MS とプロテオミクスを利用
し、タンパク質を特定する手法である。図 5 に示すよ
うに、
本手法で 4000~6000 程度の種類のタンパク質の
同定と試料間を半定量的に比較することが可能であり、
図 3 未知成分の分析事例(LC/MS)
成長因子などの解析や増殖・分化などに関わる因子の
同定に役立つと考えられる。
図 4 未知成分の分析事例(GC)
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図 6 不純物分析の測定事例
6. まとめ
培地の元来成分の分析、細胞分泌物の分析、不純物の
図 5 タンパク質の網羅的解析 測定例
分析を通じて、細胞増殖に重要な成分の特定、増殖・
分化メカニズムの解明に関する情報提供、培地の品質
5. 不純物の分析
評価や製品の申請対応が可能である。TRC は本サービ
スを通じ、今後も培地成分分析に関わるあらゆるご要
TRC では、抗生物質、還元剤、界面活性剤、残留 DNA、
望をトータルでサポートとしていく所存である。今回
残留タンパク質などのあらゆる不純物の分析を申請資
紹介できなかったサービスもあるので、培地でお困り
料の信頼性の基準で対応することが可能である。抗生
のことがあれば、ぜひお声をかけていただければ幸い
物質(ペニシリン G)と還元剤(メルカプトエタノー
である。
ル)の分析事例を図 6 に示す。抗生物質は、残留物の
ヒトへの健康被害が懸念されており、特に β-ラクタ
内久保 裕介(うちくぼ ゆうすけ)
ム系抗生物質は、取り扱いなどが GMP で規制されて
バイオメディカル分析研究部
いる。また、サイトカインなどの活性化に使用される
バイオメディカル第 2 分析室 研究員
還元剤のうち、メルカプトエタノールは、毒劇物法で
趣味:テニス、釣り
規制されている。このような化合物についても、TRC
では ng/mL オーダーの高感度分析が可能である。
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