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ボランティア労働供給曲線を用いた里山林の経済評価

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ボランティア労働供給曲線を用いた里山林の経済評価
環境経済・政策学会
年大会
於:東京大学
ボランティア労働供給曲線を用いた里山林の経済評価∗
○寺脇 拓†・村中 亮夫‡
∗
† 立命館大学経済学部
°
‡ 立命館大学大学院文学研究科・日本学術振興会特別研究員
はじめに
■ 里山林とは
• かつて燃料や肥料の採取地として利用されてきた,人間の干渉の大きい農村集
落周辺の雑木林.
• 生活様式,農業生産様式の変化から,現在では放置されるケースが増加して
いる.
• 里山林には,人間の持続的な活動と密接に関わる形で多様な動植物が生息して
おり,生物多様性の観点からその保全が求められている.
■ 本研究の目的
• 里山林保全の便益を経済学的に評価する.
• ボランティア労働供給曲線を用いた評価手法を提案する.
■ 評価手法の基本的な考え方
• ボランティア労働供給量はどのように決定されるのか−里山林保全の場合−
⇒ 労働供給の便益:公共財の生産・レクリエーション活動としての消費
⇒ 労働供給の費用:アクセスにかかる費用・活動の時間費用
⇒ 「供給」と名がついていても,その構造は通常の財と同じ.
• ボランティア労働の費用と労働供給量との関係を表すボランティア労働供給曲
線は,通常の需要曲線と同じように,右下がりの曲線として描かれることが予
想される.
⇒ トラベルコスト法の考え方と類似している.
• この曲線から得られる消費者余剰は,里山林がボランティアに及ぼす便益とし
て捉えられる.
• ただし,活動の時間費用は通常賃金率で捉えられるため,その増大は所得の増
大を招き,所得効果が働く世界では逆にボランティア労働供給量を増大させる
方向にも作用する.
⇒ ボランティア労働供給曲線が後屈的,あるいは右上がりになる場合には,そ
こから消費者余剰を導くことが基本的に不可能となる.
■ 類似の先行研究
•
において,労働意志時間(
問する形式がみられる.
)を質
• ボランティア労働供給曲線を用いたアプローチは,表明選好データではなく,
顕示選好データを用いるものであるため,その意味で信頼性が高いといえる.
理論モデル
• 個人の制約付き効用最大化問題.
xi,li,vi
. .
Ui(xi, li, Z(V, Q), vi)
µ
¶
vi m i
ci v i
yi + wi t − li − vi −
≥ xi +
tv
tv
xi ≥ 0, t > li ≥ 0, t > vi ≥ 0
式における記号の定義
•
∗
∗
∗
∗
∗
∗
∗
Ui:個人 i の効用関数.
xi:個人 i の合成私的財.
li:個人 i のレジャー時間.
Z(·):公共財 Z の生産関数.
vi:個人 i のボランティア労働時間.
Pn
V :n 人の総ボランティア労働時間(V := i=1 vi).
Q:Z の生産に不可欠な環境資源.
式における記号の定義
•
∗
∗
∗
∗
∗
∗
yi:個人 i の不労所得.
wi:個人 i の賃金率.
t:個人が所有する時間.
tv:一回あたりのボランティア活動時間.
mi:個人 i のボランティア活動地までいくのにかかる往復の旅行時間.
ci:個人 i のボランティア活動地までいくのにかかる往復の旅行費用.
• 予算制約式を変形すると,次のようになる.
µ
¶
ci
w i mi
yi + wit ≥ xi + wili +
+ wi +
vi
tv
tv
• これは,ci/tv + wi + wimi/tv をボランティア労働供給量 vi の価格と解釈し
た場合の予算制約式のようにみえる.
⇒ しかし,wi は所得水準を規定するものであるため,その変化には初期保有
効果が伴うことになる.
計測モデル
• ボランティア活動が組織的に行われるとき,その活動地での一日あたりの活動
時間は固定されていることが多い.
⇒ このとき,労働供給量のデータはしばしば活動日数として非負の整数値で表さ
れる.
⇒ こうした状況においては,従属変数が非負の整数値をとるカウントデータモデ
ルをその回帰モデルとして適用することが望ましい.
■ ポワソン回帰モデル
y
(Yi = yi) =
λi = xi0β
(−λi)λi i
yi !
yi = 0, 1, 2 · · ·
式における記号の定義
•
∗
∗
∗
∗
Yi:被験者 i のボランティア活動日数のポワソン確率変数.
yi:Yi の実現値.
xi:被験者 i の属性ベクトル.
β:xi の係数パラメータベクトル.
• Yi の平均と分散は,ともに λ になる.
■ 負二項回帰モデル
(Yi = yi)
Γ (α−1 + yi)
=
Γ (α−1)Γ (yi + 1)
λi = xi0β
Ã
α−1
α−1 + λi
!α−1 Ã
λi
α−1 + λi
!y
i
yi = 0, 1, 2 · · ·
• Yi の平均は λi,分散は λi(1 + αλi) となる.
⇒ α は過剰分散(
)パラメータと呼ばれ,平均と分散の乖離
の程度を表す.
■ ポワソン・正規混合モデル
(Yi = yi) =
λi = xi0β
•
る.
Z∞
−∞
µ
¶
εi
1
(Yi|εi) φ
dεi
σ
σ
yi = 0, 1, 2 · · ·
(Yi|εi) は条件付ポワソン確率関数,φ(·) は標準正規密度関数を表してい
• Yi の平均は λi
なる.
(σ2/2),分散は λi
⇒ σ は過剰分散パラメータ.
(σ2/2) + λ2i(
(2σ2) −
(σ2)) と
データ
■ 調査地の概要
• 兵庫県の森林ボランティア団体「ひょうご森の倶楽部」の代表的な活動地であ
る,兵庫県多可郡中町奥中「観音の森」を対象とする.
• コナラ,アカマツを中心とする典型的な二次林で構成されており,その
が県の「里山林整備事業」地区として指定されている.
• 湿地植物の森づくり,炭焼き,散策の森づくり,ログハウスづくりの四つのグ
ループに分かれて活動が行われており,参加者が楽しみながらボランティア活
動ができるよう工夫されている.
■ サンプル
•
年度の「観音の森」におけるボランティア活動実績のデータを用いる.
⇒ ひょうご森の倶楽部が毎回現地で収集した参加者の名前と住所をもとに,各
個人の年間の活動回数を集計したもの.
⇒ 会員名簿から「観音の森」でのボランティア活動に参加しない会員の住所
も得られるため,ここでのサンプルは母集団(全サンプル)を表すものと
なる.
• サンプルサイズは
「
.観音の森」におけるボランティア活動者に限れば
■ 距離計算
• 旅行費用の算定に際して,ボランティアの居住地から活動値までの距離を,
(
)を用いて計算する.
⇒ 道路ネットワークに基づく最短距離を計算する.
.
■ 費用計算
• 個人 i の一回あたりの旅行費用 TRCi,一回あたりのボランティア労働の時間費
用 VLCi,一回あたりの旅行の時間費用 TMCi を次のように計算する.
dg
TRCi = i
f
VLCi = wih
diwi
TRCi =
s
式における記号の定義
•
∗
∗
∗
∗
∗
∗
di:個人 i の居住地からボランティア活動地までの往復距離.
g:ガソリンの価格.
f:自動車の燃費.
wi:個人 i の時給.
h:一日当たりのボランティア活動時間.
s:自動車の平均時速.
• データの制約から,di と wi のみを変数とし,それ以外のものは定数として捉
えている.
• wi については各個人のデータが得られないため,個人 i が居住する市町村の
年度の納税者一人あたり課税対象所得額を同年度の総実労働時間で除し
た値でこれを代用する.
•
式から次式が得られる.
f
TMCi =
× TRCi × VLCi
sgh
⇒ TMCi は TRCi と VLCi の交差項として捉えられる.
• VLCi と TMCi の計算における時間費用の割引率はパラメータとして陰伏的に
含める.
⇒ ボランティア労働供給関数が v = v(θ1TRCi + θ2VLCi + θ3TMCi) という
形で推定されるとき,θ2/θ1,θ3/θ1 をそれぞれ VLCi,TMCi の割引率と
して捉える.
分析結果
■ モデル選択の手順
• ボランティア労働供給曲線が後屈的になる可能性を考慮して,モデルの独立変
数の候補として,TRC,VLC,TMC とそれらの二乗項を用意する.
• ポワソン回帰モデル,負二項回帰モデル,ポワソン・ガンマ混合モデルのそれ
ぞれについて
を基準に変数選択を行い,最も
の小さいモデルを選択
する.
■ 全会員についての推定結果
• VLC についてのボランティア労働供給曲線は,明らかに理論と不整合な形状に
なっている.
• TRC についてのボランティア労働供給曲線は,観測データの範囲においてはほ
ぼ右下がりであるが,全体としては後屈型になっている.
■ 活動者についての推定結果
• TRC についてのボランティア労働供給曲線は通常の需要曲線と同様に右下がり
になる.
• VLC についてのボランティア労働供給曲線は,初期保有効果により右上がりに
なっている.
⇒ ここでのボランティア労働供給関数から消費者余剰を計算することは基本的に
できない.
■ 評価額の推定結果
• TRC の係数から,ボランティア活動の総費用が 円上昇したときの活動回数の
減少量は導かれる.
⇒ 次善の策として,TRC の係数にのみ注目し,そこから導かれる消費者余剰を里
山林がボランティアに与える便益の推定値として代用する.
^
⇒ 推定されたボランティア労働供給曲線を V =
(^
α + βTRC)
で表すとすると,
旅行費用が TRCi である個人 i の消費者余剰 CSi は次のように計算される.
Z∞
^
CSi =
(^
α + βTRC)dTRC
TRCi
1
^
(^
α + βTRC
i)
^
β
1
= V(TRCi)
^
β
=
^ となり,個人
⇒ この式から,訪問一回当たりの消費者余剰 CSi/V(TRCi) は 1/β
に渡って均一となる.
⇒ 負二項回帰モデルの結果から,活動一回当たりの評価額の点推定値は
となる.
円
むすび
■ 結論
• ボランティア労働供給曲線は後屈的,あるいは右上がりになる可能性が高く,
実際に右上がりの曲線が推定された.
⇒ ボランティア労働供給曲線を用いて里山林の価値を評価することは極めて難
しい.
■ 今後の課題
• 時間費用の算定の際に各個人の賃金率データを用いる.
• 労働時間の調整が可能な個人と不可能な個人を区別し,不均衡労働市場モデル
を採用する.
⇒ アンケート調査によりこれらのデータを収集し,本研究の結果を検証する必要
がある.
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