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児童館で子どもとハッとフッとホッとアート!

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児童館で子どもとハッとフッとホッとアート!
児童館で子どもとハッとフッとホッとアート!
児童館で子どもとハッとフッとホッとアート!
や まと
大和
かつよし
勝好
(狛江市和泉児童館館長、元岩戸児童センター館長)
なんぺい
南平
た えこ
妙子
(美術翻訳家)
み
つ
き
三ツ木
の りえ
紀英
(アートコーディネーター)
はじめに
1950年代からの人口の都市集中化に伴い、遊び場を奪われた代償として子どもたちに与
えられたのが「屋根付きの遊び場」児童館の発祥と言われている。
現在その数は全国4,368館(1999年)にまで増加してきているがこのことは、われわれの
生活している地域がいかに子どもたちにとって住みにくい(遊びにくい)環境であるかを
うかがわせる数字とも受け取れる。
そうだとするなら、児童館の管理・運営にあたっては、今日子どもたちが醸し出すさま
ざまな現象や問題行動に対して、真摯な取り組みが求められるではないだろうか。
こうした状況の中で、狛江市立岩戸児童センター及び和泉児童館では次のような基本的
考え方に立って管理・運営にあたってきた。
「子どもたちは、地域の人と環境と文化によって育てられる。子どもの可能性は無限で
あり、そのため子どもが選択できるよう、多様であらゆる人と環境と文化を与えていく」
ここでいう「地域」とは直接的には子どもたちの日常の生活圏を指すが、それは世界へ
の入り口であり、世界から影響を受ける「地域」でもあることを意識している。したがっ
て出発点としての「子どもたちの日常生活圏」としてとらえている。
1.創作ワークショップからのはじまり
岩戸児童センター及び和泉児童館ではさまざまな分野の人たちの力を借りて管理・運営
されているが、ここではその中の一つ「美術関係者」による現代美術への取り組みの実践
を報告する。
事の発端は単純である。かねてから、センター入り口に立つ高さ6mの時計塔を事務室か
ら眺めながら「何かおもしろいことが出来ないか」と模索していた頃、たまたま知り合い
の美術翻訳家南平妙子氏に相談したところ、アート・コーディネーターの三ツ木紀英氏を
紹介され、三人で取り組んだことが始まりである。
2000年5月∼2000年12月までの間におこなわれた計4回のワークショップ(別紙年表参照)
は、すべてこの屋外の時計台に設置することを企画のポイントとされた。できあがった結
果が常に子ども達の目に触れ、子ども達を出迎えるところにあるということと、街の人た
ちにこの試みを見てもらうためである。
これらの創作ワークショップは、当初から次のような目的と約束がスタッフに伝えられて
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いた。
目的
1.今まで話ししたり遊んだりしたことのなかった子ども同士がコミュニケーションする。
2.普段は机にのる程度の大きさのものしか制作したことのない子ども達が、自分の体よ
り大きなものを創作する。思いっきり体を使って、表現することの楽しさを体験する。
約束
1 子どもに「ダメ」といわない
2 子どもに無理強いしない
3 子どもと一緒に楽しむ
各回、手弁当で協力してくれたスタッフは美術関係者5∼20名。参加する子どもたちは10
数名から20数名。子どもたちが無心に取り組む姿はなによりも代え難い思いを与えてくれ
る。大きな、真っ白なビニールシートを前に何を描こうかと考え込む子。足の裏に墨をつ
けて歩き回る子。頭に描きたいものがはっきりと描かれているのか、思いっきりすらすら
と筆を動かす子。時間が来ても描く事をやめようとしない子。満足なのか不満なのか、自
分の描いた絵をじっと見つめる子。
ある時、「うまいな∼。ずいぶん勉強したんだね」と声かけたら、「勉強じゃないもん」
と返ってきた。「なんで?」と聞くと「だって楽しいもん」と言う。
児童館は学校の主要5科目以外を大切にしたい。4回の創作ワークショップを通しての率
直な感想である。
2.岩戸児童センター現代美術展「ハッとフッとホッとアート!」のはじまり
南平
妙子
さて、三者ともがかつてから、子どものワークショップは日常的に子どもがいる地域に
必要だ、と考えていた中で5月から始まったワークショップが、大和館長に押されるかたち
で12月までに4回もの開催に及んだ。そして岩戸児童センター民間委託直前に、子どもが「ワ
クワク」感じ、想像し、動き、話すことに的を絞ったワークショップが、ほんものの作品
を子どもの館で見せるという展開に発展した。
「たくさんの本物の文化を子どもに見せたい」という大和氏の言葉に共感はしていたも
のの、美術家に負担をかける形での展覧会開催は避けるべきだと考えていたところ、我々
の活動に対して知人が寄付金をくれた。これでなんとか美術家に金銭的負担をかけずに展
覧会が可能だと思い、展示作家の吉田重信氏と小河朋司氏の賛同と協力、杉田里佳氏の企
画協力、デザイナーの山田真介氏によるポスター、チラシでの協力を得、そして美術関係
者に助っ人として登場してもらった。これらの条件がそろい、子ども達がじかにほんもの
の作品に触れることができる「ハッとフッとホッとアート!―いろいろ光のいろあそび!
いろとひかりのコンサート!」の構想が2001年3月実現に至った。
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ハットフットホットアート1
吉田重信の虹の写真
しかしながら子どもほど辛らつで自分の感性に正直な観賞者はいない。感覚に引っかか
らない作品など見向きもしない人々だ。ある意味では作家が試される場でもある。そうし
て見れば、頭を入れて中を観る小河氏の作品がゼッタイ落ちない頑丈な設置をしたにも関
わらず、最終日には落ちて破損したのは、よっぽど子どもの感覚に訴えたのだろう。こん
なエピソードもある。ある日、鏡と水を使って三本の大きな虹を体育館の壁に作る吉田氏
の作品を、吉田氏不在のため、「虹の職人」となった大和館長が体育館の外から中に向かっ
て作っていた。それがたまたま小学校の下校時間にあたった。私は体育館の外側のガラス
戸から中を覗き込んで手をかざし、虹の位置を指示する役目であった。通る大人たちは「体
育館の中を覗く不審人物」といったケゲンな表情を浮べたが、子どもの反応はすごかった。
みるみる内に私より背の低いやつらが回りにワイワイ集まり、みんな私と同じ格好で中を
覗き込んでいるのだ。一群が去るとまた一群が寄ってくる。「きれい!」「な∼んだ、虹じ
ゃん!」と反応はさまざまだが、子どもの好奇心と感覚のすごさを目の当たりにした出来
事だった。
展覧会に合わせて作成したワークシートに書かれた子どもたちの感想には「へん」、「マ
ブシー」、「ふしぎだ」、また「ぶったいス」など感覚的言葉(?)も書かれる。かと思えば
学校の影響か模範回答もある。しかしこのいずれの言葉も、彼らの内面に「何かが響いた」
からではないか。子どもは「芸術と出会っている」などと思っているわけはないが、感覚
で捉える力はどの子も豊かに持っている。よって地域の大人の役割は、彼らの中に「響く」
良い種をたくさん蒔くことだ。「こどもの館」が必要な状況を生んでしまった現在だからな
おさらである。どの種の芽を出すかは子どもが好きに選べばよいことなのだ。
それまでのワークショップに加え、子どもが日常的に訪れる自分たちの場にほんものの
作品が現われたことの反応を受けて、大和館長の移動先である和泉児童館での取り組みも
大きく変化した。
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3.アートとの出会い、体感
三ツ木
紀英
「ハッとフッとホッとアート!パート1」の実績は、広報活動の効果もあったのだろうか、
このような試みに賛同する美術家を巻き込むことにつながっていった。そして、作品展を
軸に、美術家によるワークショップを開催するという企画がたてられるようになる。
具体的な事例に入る前に、現代美術に携わる者として、なぜ「現代美術と子ども」なの
かということから話を始めたい。
作品は、美術家が広く深く思考し、独自の世界観を目に見える形として創り出したもの
だ。観る者は、その内面に入っていくことができれば、新たな思考や視点を獲得すること
ができる。現代美術には、見たり、触ったり、聴いたり、時にはにおったり、かじったり、
遊んだりと感覚的なところから、その内側へと入っていくことができるものがある。大人
は美術というと何か説明的に捉えようとしてしまうものだが、なんの先入観もなく物事(作
品)と向き合える子どもには、むしろ親しみやすいものなのではないかと考える。
一方で昨今の現代美術は、コンセプトを重視し、観者が直感的に魅了されるような造形
を軽視する傾向があるように思える。もちろん、たくさん作品を見るという経験によって
得られる知識から、作品を紐解いてゆく楽しみもあるが、まずは第一印象で興味をもって
もらわなければはじまらない。
ということで、まずは子どもが親しみやすい「体感する展覧会」を中心に企画を立てた。
また、作家は子どもを理解しようとする前向きな姿勢があることが大前提で、展示する作
品は「子ども」と対話しやすい感覚に訴えるタイプを選んでいった。
和泉児童館での初めての現代美術展は「ハッとフッとホッとアート!パート2 -バルーン!
バルーン!!バルーン!!!-」である。作家の加藤力氏が3月の展示を見学した際、参加を依頼し、
彼が賛同してくれたことから実現した。その後、体育館の壁面を黒板にしたらどうかとい
う彼のアイデアが、8月の黒板をつくるワークショップ「でかでか黒板。」と、田中健太郎
氏の子どもとのコラボレーションのライブペインティング「でかでか黒板でらくがきしよ
う!」につながる。また加藤氏の紹介により、横井修氏の「ハッとフッとホッとアート!
パート3− おっとっとっと!ねぇねぇ何して遊ぶ?!」が9月に開催されることになる。
ハットフットホットアート2
加藤力のバルーン
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児童館で子どもとハッとフッとホッとアート!
加藤力氏のバルーン作品は6日間の展示のなかで子どもが子どもを呼び、のべ800人の来
場を誇る人気展示であった。部屋一杯に直径1.2-2.5mの真っ赤なバルーンが詰まっているの
を、いつも通りにやってきた子ども達が見つけたときの悲鳴はすごかった。彼らは「きゃ
ーーーー!!!」「すごーーーい!!」大声を上げながら、部屋に飛び込んで思いっきりバ
ルーンに体当たりし、蹴ったり、飛び乗ったり、くぐったり、はじいたり、くたくたにな
るまで遊んだ。それは、怪我をあっちこっちしながら、野山をかけずり回るような経験の
ない現代の子どもたちが、自分自身の身体を確認するような作業であったかもしれない。
また、横井修氏の作品にいたっては、一定期間を美術展としたが、実際は現在でもその
まま残している。児童館の屋外に壁を伝うような、杉材でできた長さ22mの長い廊下とそ
の先に広がる傾斜した床。それが横井氏の作品だ。ただそれだけなのに、子ども達は作品
を舞台に多様な遊びを見つけだす。その上で一輪車に乗ったり、ボールを棒で高いところ
まで転がす競争をしたり、ただ、かけっこしているだけで、嬉々としている。床下はある
日、隠れ家になっていた。子ども達が遊びを創造してしまう舞台のような作品といえよう
か。息の長い静かなる想像の源なのだろう。それまでひっそりとしていた裏庭が今ではい
つも子ども達でにぎわっているのだ。
ハットフットホットアート3
横井修の廊下と床
多くの大人に現代美術は小難しくわけがわからないと思われているのだが、子どもは全
くお構いなし。勝手に作品をネタに想像力を膨らまし、遊び出す。大人は子どもの反応に
影響され、やっと一緒に「ワクワク」し、作品のおもしろさに気がつくのである。美術家
も子どもによって自分の作品がいろんな遊ばれ方(使われ方)をすることで、作品の可能
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性の広がりを認識する。難解と思われている現代美術と子どもは、実は相思相愛、とても
相性がいいのである。
また、現代美術は単なる「お遊び」なのかといったら、もちろん、それだけではない。
入り口にある「ワクワク」の先には、受け取る側の想像力次第で、どこまででも飛んでい
ける知的で深遠な世界が広がっている。そして、「なんじゃこれー」からはじまる好奇心は、
その先にある何かを自力で見つけようとする探求心へ育つ可能性を持っているのだ。
4.体験から思考へ
2002年、私が同児童館の非常勤職員になり、それまでの「子ども達に表現すること感じ
ることの楽しさを体験してもらう」ということから、もう一歩深い世界に踏み込むために
今までの体感ワークショップに加え、思考的ワークショップにも取りかかることになる。
作品(物事)をよく見つめそこで起こっていることを理解しようと、想像力を駆使し、
思ったことを言葉で表現し、さらに他の人の意見を聞くことは、物事をさまざま角度から
総合的にとらえ、理解していく力につながっていくのではないかと考えたのだ。
そこまで子ども達を導くために、具体的なモチーフを描き、ストーリー性があって物語
を紡ぎやすい絵画を制作している白濱雅也氏に参加を依頼する。彼はそれまでの「ハッと
フッとホッとアート」シリーズを見学していて、申し出を快諾してくれた。そして、「絵に
も不思議な物語」展が始まった。
一見シニカルで奇妙な作品に対して、はじめの2,3日、子ども達は「なんだこれー」「こ
わーい」「気持ちわるーい」と、驚きや軽い恐怖感を口にしていたのだが、日を重ねるにつ
れて、もう少し良く作品を見て、言葉にしようという状況が現れてきた。例えば、Honeyと
いう作品の前で、「なんだなんだこれは?」という5ー6人の男の子グループがいた。2ー3日
して、その絵の前で同じ子ども達が「これ神様じゃないか?」「なんで?」「だって後ろに
羽がついているじゃないか」。「そうだー、これは神様だ!」(全員)。はじめの「なんだこ
れは?」から、数日間作品と一緒に過ごすうちに、子ども達が新たな発見をしたのだった。
展覧会初日から一週間後に、子どもと白濱氏と私が、一緒に絵を見ながら話をするとい
うワークショップ「絵の探検隊!」を行った。集合場所に集まった子どもは最初4人。絵の
ひとつひとつに何が描かれているのか、彼ら1人1人が思いを巡らせ、それを言葉にできる
ように質問をしていく。たった4人ではじまったワークショップだったのだが、気がつくと
十数人の子ども達に囲まれて、大騒ぎになっていた。1週間一緒に過ごした作品に対して、
それぞれの子どもなりに感じること、また、作者に聞きたいことも山のようにあったよう
だ。滑り台の上から、床に転がりながら、自分の言葉で話をし他の子の言葉を聞いては、
また意見をいう。美術館のギャラリートークのような形式とは異なり、いつもの遊びの延
長にある自然なおしゃべり会だった。コンスタントに一年間このワークショップを続けた
ら、一年後に子ども達に一体どんな変化が起こるだろう。
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ハットフットホットアート4
白濱雅也展示の様子
ハットフットホットアート4
土のワークショップ地獄の絵
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ハットフットホットアート4
思考的ワークショップ
また、今までの活動の意味を再確認するようなエピソードを最後にあげたい。
土と卵の黄身から絵の具を作り(古典的な絵画技法の1つを応用)、それで絵を描くとい
う白濱氏のワークショップ「顔、かお、カオ、KAO?!」の時のことだ。2人の女の子が、
筆だけでなくスポンジや指を使って、激しいタッチの迫力のある絵を描いていた。絵を描
き終わり、片づけをしていたとき、その女の子の1人があるスタッフに話しかけた。
「今日ね、絶対、地獄を描こうって計画してきたの。」(女の子)
「地獄?どうして?」(スタッフ)
「だって、学校じゃー地獄かけないんだもん。
」(女の子)
「先生が駄目って言うの?」(スタッフ)
「うううん。言わないけど、地獄は描かないの。学校だと天国とか天使を描くの。」(女の
子)
子ども達は結果的に評価をされるような場所では思った通りの表現がしにくいのだろう。
無意識に大人が好ましいとする結果を作り出そうとする。児童館という「遊び場」だから
こそ、表現できることがあるのだと考えさせられる出来事であった。地獄を描く子どもの
心は病んでいるのだろうか?いや、いつも天国だけでなく、地獄も描きたいというのは、
とても自然で健全な欲求ではないだろうか。そして、なにより自然な表現欲求に突き動か
されて立ち上がった絵は、抜群に迫力があり、私たちの心に訴えるものがあった。
すでに述べているが、私たちはあえてここでの企画では、子ども達を評価したり、強制
したりしない。子ども達を大人から何かを期待されているというプレッシャーから開放し、
ただ感じ、思うがままに表現していいのだという場を提供するのである。学校ではできな
いことを児童館でしていくのだ。
現在学校でも2002年の総合学習のカリキュラムとしてアートワークショップの可能性が
取り上げられることがある。例えば、先に述べた白濱氏の土のワークショップは、美術だ
けでなく、家庭科、歴史、科学と多教科にまたいだ体験的なカリキュラムに発展できる。
今後、同時並行で、学校での総合学習の時間でのワークショップや、学校からの課外授業
として美術館を訪れるようなカリキュラムが各地で行われることに大いに期待したい。美
術館だけでなく、児童館だけでなく、学校だけでなく、多面的に継続的に子ども達がアー
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トを体験、経験することが、子どもの心に蒔かれた種を育てる養土になると考えるからだ。
5.なぜこの活動が自然に展開できたのか
南平
妙子
我々の2年間の活動は、最初から綿密な考えに添って行ってきたというよりは、ワークシ
ョップと展覧会を一つ一つ実際に行うことによって、そこから何かを学びとって展開して
きた気がする。とても心地よい流れに添って泳いできた感じである。よって今回芸術・文
化政策室に寄稿の機会を与えられ、改めて三人が集まり、文章にまとめることで、「なぜこ
の活動が可能であったか」ということが明確になったことをとても感謝している。
第1回「ハッとフッとホッとアート!」の作家吉田氏は、美術館や公共の場などでの作品
展示/ワークショップの経験を数多く持つが、「公の場でこれほど気持ち良く仕事をした
のは始めてだ」という感想を延べてくれた。また他の参加作家たちからも「気持ち良く関
われた、楽しかった」という言葉を聞くことができた。彼らの心からの言葉だと受け取っ
ている。
なぜそのような状況が作れたのか?それは行政側に専門家がいたということである。児
童館のみならず、公立の美術館や助成財団でさえもまったく畑違いの人間が配置されるこ
とが多い。そんな中で大和館長は大学時代から子ども会活動のため地元に住みつきそこに
関わる。そして、卒業とともに狛江市に住み、社会教育主事として「子ども会は子ども達
自身が運営していくべきである」の信念のもとに実現に向けて20年以上も実践活動を継続
し、その後は児童館勤務、という経歴の持ち主である。
こういった専門家が管理側の立場にいることで、例えば美術家が「この壁ドリルで穴開
けてもいいですか?」と聞かれても「どうぞ」という返事が当然のように口から出る。危
険でないかぎりすべて「どうぞ」なのだ。それは大和氏曰く「気持ちよく関わってくれる
ことが自分にできることだ。何かあれば自分が最終責任を負えばよい」。行政側の人間も作
家もスタッフも皆が一つの目的「子どもにほんものの文化を見せたい」に向かって心地よ
く動けるのだ。この状況が子ども達にほんもののアートと出会うことを可能にしてきたの
だと今我々は思う。
我々の活動は市指定の文道具屋で買える消耗品以外は予算のない実践であった。この試
みが2年間続けられたのは、美術家と関係者の熱意と手弁当の協力があったからこそである
が、大和氏が「子どもにとって何が大切なのか」という信念をなによりも優先し、また美
術家と企画者を尊重してくれたことによることも大きいことを強調しておきたい。助っ人
スタッフが20人近くになることもあったが、イベントのあとは必ず飲み屋でみんなを慰労
してくれた。また、美術家はプロフェッショナルであるという意識から、展覧会が終わる
とこっそりと謝礼の入った封筒を手渡していた。すべて自腹である。しかし、この状況が
良くないことも、継続することに無理があることも一番知っているのも大和氏であろう。
6.終わりに
大和館長はいう。
「子は親の後ろ姿を見て育つ」と言われるように、実際子ども達の心の成長は意識した
親や大人の言葉より、無意識の内に伝わる言動の方がはるかに糧となっているのではない
かと思うことがある。だとするならば豊かな人と環境と文化をこどもたちの身近でくり広
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げたい。そこから子ども達は自由に感性を育てて欲しいのである、と。
現在、市は岩戸児童センターに続いて、和泉児童館も民間委託する方針を打ち出してい
る。我々の活動がいつまでここで続けられるかわからないが、この2年間の活動の中で美術
が子どもを開放し、遊びながら想像することや思考のすることを身につけてゆくのに非常
に適していることを肌身をもって体験したことで、これからも可能なかぎりこの活動をつ
づけていきたい意志を再確認している。
また各地でも同じ様な試みが行われつつあるが、なかなか1つの場所で継続的に続けてい
くことは難しいようだ。我々の経験や、同じ様な試みを行っている人たちとの会話から、
それぞれが抱える問題を整理していくと、そこには大きく2つの壁があるようだ。1つは施
設側(行政)の受け入れ体制、もう1つは経済的な問題である。前者において我々は幸運な
ことに、三者が同じ方向を目指していた。しかしどうやら、どこでもそうとはいかないら
しい。後者の経済的問題は我々にとっても非常に悩ましい。現代美術に関わる者は、美術
家も企画者も共にボランティア活動に没頭できるような経済基盤に乏しい。質のいいプロ
ジェクトを続けて行くには、正当な予算措置が必要であろう。
毎回ワークショップに参加している小学校4年生の男の子のかずき君は、白濱雅也氏の展
覧会の搬出の時に何度も聞いてきた。「ねえねえ、次は何やるの?いつやるの?」
。
芽はでてきた。
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活動年表
年月日
2000年5月
2000年8月
タイトル
「ジャイアントてるてる
概略
美術家
あら 時計台に6mのてるてる坊主を作る。子どもたちは「空」
わる!」
「地」「海」を題にして思いのまま絵をかく。
「ぼんぼんあートピッかる」
障子紙に墨と水彩絵の具を使って絵を描き、提灯を作
り、時計台に設置。
2000年10月
「岩戸の森の不思議な動物たち」ビニール袋・紙袋・手袋を使って、指示書通り何かを作
っていくと、最後に子ども達が不思議な動物になってし
まう。
2000年12月
2001年3月
2001年3月
「時計塔を帆船に変身させよう」時計塔を帆船にする。3層の帆に絵を描く。
南平の知人から本活動に対して寄付をもらい、美術家に依頼して展覧会の企画を始める。
「ハッとフッとホッとアート! 太陽光線、光を扱って感覚に訴える事が出来る作品を子 吉田重信・小
いろいろ光りのいろあそび!い ども達がいる日常的な場に置いた。
河朋司
ろとひかりのコンサート!
2001年4月
2001年5月
大和が狛江市岩戸児童センターから和泉児童館へ異動する。活動拠点も和泉児童館に移る。
「ハッとフッとホッとアート! 真っ赤な巨大バルーン(直径1.2m− 2.5m)をたくさん 加藤力
パート2
バルーン!バルーン!!バ 一部屋に詰め込み、そこで子ども達が遊ぶ。
ルーン!!!」
2001年7月
「こいのぼりを作ろう!」
こいのぼり2体の鱗に絵を描く。
加藤力
「大バルーンボール大会!」
真っ赤な巨大バルーンでバレーボールを行う。
加藤力
「自分自身で短冊になろう」
日大理工学部建築学科の「子どもと一緒にデザインしよ
う会」の企画による七夕ワークショップ。
2001年8月
「でかでか黒板。」
2001年8月
「でかでか黒板でらくがきしよ 体育館の壁一面の黒板に作家の田中健太郎がライブペ 田中健太郎
う!」
2001年9月
体育館の壁一面に黒板塗料を塗って黒板にする。
インティングを行う。子どもとコラボレーション。
「ハッとフッとホッとアート! 児童館裏庭に緩やかに斜面のある木の床と廊下の作品 横井修
パート3
おっとっとっと!ねぇ を設置。子ども達がその作品の上で、思い思いに遊ぶ。
ねぇ何して遊ぶ?!」
2001年12月 三ツ木が和泉児童館の非常勤職員になる。
2001年12月
アートバルーンでクリスマス
2500個の風船でクリスマスの絵を作り、グラウンドのフ デザイン:山
ェンスに飾る。
田真介
2002年2-3月 ハッとフッとホッとアート!パ 初めての絵画展。物語性の非常に強い絵画作品をエント 白濱雅也
ート4「絵にも不思議な物語」
ランスと図書室に展示。
「巨大黒板に落書きしよう!」
作家と一緒に黒板一面に落書きをする。
「顔、かお、カオ、KAO?!」
身近にある素材のひとつである土と卵の黄身から、絵の 白濱雅也
白濱雅也
具を作り、大きな画面にみんなで顔を描く。
「絵の探検隊!」
展示作品を美術家と子どもが一緒に絵を見ながら、話を 白濱雅也
していく。子ども1人1人が思いを巡らせ、それを言葉
にする。
黒・・創作ワークショップ
青・・現代美術展と関連ワークショップ
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