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【レポート】 地方公共団体における文化政策評価の現状 ∼平成12年度

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【レポート】 地方公共団体における文化政策評価の現状 ∼平成12年度
地方公共団体における文化政策評価の現状∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
【レポート】 地方公共団体における文化政策評価の現状
∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
藤枝 聡
(三和総合研究所 芸術・文化政策室 研究員)
近年「ブーム」とまで称される行政評価・政策評価の波は、芸術文化の分野にも及びつ
つある。
本レポートでは、平成12年度に全国の主要都市 を対象に文化庁が実施した「地方公共
団体の文化行政に関する実態調査」の調査結果について、特に文化政策・施策評価に関す
る地方公共団体の取り組み状況を整理する。
1.文化行政を客観的に評価する仕組みの有無
文化行政を客観的に評価するための仕組みについて、「評価は特に行っていない」が
57.1%と最も多く、
「単独で評価している」
(高崎市、金沢市、東大阪市、出雲市の4自治体)
は4.4%にとどまる。「総合計画の一環として評価している」は34.1%となっており、全体の
約4割の自治体で、何らかの形で文化行政を評価する仕組みがつくられている。(図表1)
これを都市規模別にみると、人口40万人以上の都市において「単独で評価している」
「総
合計画の一環として評価している」の合計が5割弱と最も高い。(図表2)
図表1 文化行政を評価する仕組みの有無
n=91
無回答
その他
2.2%
2.2%
文化行政
に関して
単独で評
価してい
る
4.4%
総合計画
の評価の
一環とし
て行って
いる
34.1%
評価は特
に行って
いない
57.1%
Arts Policy & Management No.13, 2001.08
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地方公共団体における文化政策評価の現状∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
図表2 文化行政を評価する仕組みの有無(都市規模別)
20万人未満
(n=31)
20万人以上40万人未満
(n=27)
6.5%
3.2%
54.8%
35.5%
3.7%
3.7%
25.9%
66.7%
6.1%
40万人以上
(n=33)
3.0%
39.4%
51.5%
0%
20%
40%
文化行政に関して単独で評価している
評価は特に行っていない
無回答
60%
80%
100%
総合計画の評価の一環として行っている
その他
2 文化行政の具体的な評価方法
「1」において、文化行政について「単独で評価している」
「総合計画の一環として評価
している」と回答した35自治体について、その評価の方法をみると、
「関連する施策の進捗
状況を評価」が65.7%と半数を超えており、従来の進行管理型の施策評価が中心となってい
ると考えられる。(図表3)
図表3 文化行政の具体的な評価方法
n=35
65.7%
関連する施策の進捗状況を評価
数値化が可能な施策について 数値目標を設定し、達成度を評価
34.3%
市民の満足度をアンケート 調査等により把握し、充実度を評価
20.0%
5.7%
その他
無回答
2.9%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
Arts Policy & Management No.13, 2001.08
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地方公共団体における文化政策評価の現状∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
文化政策の具体的な評価方法を都市規模別にみると、図表3と同様に、いずれも「関連す
る施策の進捗状況を評価」が最も多くなっている。(図表4)
図表4 文化行政の具体的な評価方法(都市規模別)
58.3%
75.0%
66.7%
関連する施策の進捗状況を評価
数値化が可能な施策について 数値目標を設定し、達成度を評価
市民の満足度をアンケート調査等
により把握し、充実度を評価
13.3%
その他
8.3%
12.5%
0.0%
0.0%
0.0%
無回答
0%
20万人未満(n=12)
41.7%
12.5%
40.0%
25.0%
25.0%
8.3%
20%
40%
20万人以上40万人未満(n=8)
60%
80%
100%
40万人以上(n=15)
一方、文化関連施策について数値目標を設定し、その到達度を評価するベンチマーク型
の評価手法を取り入れているのは12自治体(35自治体のうち34.3%)、市民の満足度を把握
する評価手法を取り入れているのは7自治体(35自治体の20.0%)にとどまっている。
(図
表5)
Arts Policy & Management No.13, 2001.08
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地方公共団体における文化政策評価の現状∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
図表5 評価方法別の文化政策評価実施自治体の一覧
都道府県
市(区)
関連する施策の
進捗状況を評価
数値化が可能な施策
については達成度を
評価
北海道
札幌市
●
北海道
旭川市
●
岩手県
盛岡市
●
宮城県
仙台市
●
宮城県
古川市
秋田県
大館市
●
●
山形県
酒田市
●
●
福島県
いわき市
●
栃木県
宇都宮市
群馬県
高崎市
東京都
世田谷区
東京都
大田区
●
神奈川県
川崎市
●
富山県
高岡市
●
石川県
金沢市
岐阜県
岐阜市
●
岐阜県
大垣市
●
静岡県
静岡市
愛知県
名古屋市
三重県
四日市市
滋賀県
大津市
滋賀県
彦根市
京都府
宇治市
●
大阪府
東大阪市
●
兵庫県
神戸市
●
兵庫県
姫路市
●
奈良県
奈良市
●
島根県
出雲市
岡山県
倉敷市
●
香川県
丸亀市
●
福岡県
久留米市
●
福岡県
大牟田市
●
熊本県
熊本市
市民満足度を把握し
て施策充実度を評価
●
●
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地方公共団体における文化政策評価の現状∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
事例紹介 宇都宮市事務事業評価システムと文化政策分野の評価について
文化関連施策について客観的な評価の仕組みを取り入れている自治体(図表5)の中か
ら、ここでは、宇都宮市教育委員会文化課文化振興係へのインタビューの結果をもとに、
栃木県宇都宮市の行政評価の取り組みについて紹介する。
□宇都宮市事務事業評価システムの概要
・宇都宮市では、
「成果志向の行政運営への転換」「市民への説明責任の充実」「市民との
協働関係の充実」の実現を目的に、平成12年度から全庁をあげて「宇都宮市事務事業評
価システム」(以下、事務事業評価システムという)の構築に取り組んでいる。
・事務事業評価システムでは、市の総合計画に掲載されている事業について、客観的な評
価指標と目標値を設定し、平成13年度以降、この到達状況を毎年度モニタリングする
予定としている。このモニタリングの結果は、事業担当課において事業の継続や新規事
業の立案の根拠資料として活用される予定である。
□評価の対象
・これまで政策評価というと、ハード施設整備の費用対効果の分析が中心であったが、事
務事業評価システムの導入・実施によって、文化政策の分野においても、ソフト・ハー
ド施策の両分野において、事業実施による具体的成果(市民生活への具体的なインパク
ト)を客観的に検証することができる。
・今般、市の事務事業評価システムにおいて、評価対象となった文化政策分野の具体的な
事業は以下の通りである(下表の「主要事業(評価の対象)
」
)
。
事務事業評価システムにおける評価の対象
■施策の体系
文化活動
の 振 興
文化的環境
の 整 備
■施策・事業
芸術文化活動の推進
宮エスペール文化振興事業の推進/百人一首のまちづ
くりの推進/芸術文化団体の支援/宇都宮市民芸術祭
の充実/文化会館・美術館を中心とした鑑賞事業の推
進/移動鑑賞教室の実施
生活文化の創造
言葉、風習、食物など本市固有の生活文化の掘り起こ
し・継承・創造
文化情報の提供・発信
文化情報の収集・提供・発信
文化財の保護・活用の推進
重要遺跡、歴史的建造物等の文化財の保存整備や啓
発・活用の推進/学校単位での文化財保護活動の推進
/文化財愛護団体の育成
文化施設の整備
博物館の整備/文化会館の改修/身近な文化活動施設
の整備
文化的な生活空間の整備
街角ギャラリー等の文化的な生活空間の整備の推進
■主要事業(評価の対象)
■主要事業
■目的
■内容
■実施時期
宮エスペール文化
振興事業の推進
文化活動の振興を図るため、若手芸術家の
育成を図る。
●宮エスペール賞の創設
●宮エスペールコンサート・展覧会の開催
前期∼後期
百人一首の
まちづくり
宇都宮に深い関わりのある百人一首を中心
に、短詩型文字の振興を図る。
●短詩型文学の振興
学校・地域での展開
●百人一首市民大会の開催
●うつのみや百人一首の作成
前期∼後期
博物館の整備
個性ある市民文化の創造に寄与する施設と
して、博物館などの施設整備を推進する。
●次期博物館の整備
うつのみや文化の森地内
前期∼後期
身近な文化活動
施設の整備
文化活動の拡大、質の向上を図るため、手
軽に利用できる身近な文化活動施設を整備
する。
●市民ギャラリー
●練習ホール
前期∼後期
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地方公共団体における文化政策評価の現状∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
□事務事業評価の評価手法
・平成13年度の事務事業評価では、さきの評価対象事業について、「事前評価」として客
観的な評価指標と数値目標を設定する予定である。この評価指標と数値目標の設定は、
文化関係の事業を所管する文化課が、過去の事業の実績や社会経済環境の分析を踏まえ
て自ら設定する。
・評価指標の設定方法については、主に他の自治体との実績比較を行う「ベンチマーク指
標」を設定する方法と、事業の成果を市民に直接問う「満足度指標」を設定する方法があ
る。
□事務事業評価実施のメリットと課題
◆メリット
・市文化課の話によると、これまでは特にソフト事業について事業実施前に「この事業を
実施することによって、市民生活にどのようはインパクトがもたらされるか」といった検
討は必ずしも十分でなかったとのことであるが、事務事業評価の実施によって各事業の目
標を立てることによって、事業運営の「道しるべ」が明確になり、事業の進め方を工夫す
るための根拠が明らかになることが最大の効果とのことである。
◆課題
・現在、文化課では、事前評価に向けて、どのような評価指標を設定すべきか検討に入っ
ているが、文化事業の場合、その目的が多岐にわたるため、客観的な指標で一律に評価
することが難しい。例えば、美術館や文化会館運営事業の成果を測定する場合、評価指
標として「入館者数」「利用団体数」などが用いられるケースが一般的にみられる。しか
し、入場者数や利用団体数だけで美術館・文化会館事業の成果を決めることは、多様な
ニーズへの対応を軽視することになりかねないため、美術館の展示物の種類や文化会館
における市民活動の内容等に関する定性的な評価を加味することが課題とされている。
・また、今回の事務事業評価の評価対象事業においては、若手芸術家の育成を図る「宮エ
スペール文化振興事業」のように、実際に事業の成果が現れるまでに長期的な年月を必
要とする事業があり、こうした事業の評価指標の設定方法も今後の課題とされている。
□今後の活用の方向性
・文化課では、今後、事務事業評価と広報課で毎年度実施している市政満足度調査とのリ
ンクを図ったいきたいとのことである。これによって、市政満足度調査では、事業レベ
ルの上位に該当する施策やビジョンに対する市民の満足度を把握することができるため、
これと事業評価をリンクすることによって、事業評価の結果が上位施策に対する満足度
にどう寄与しているかを検討することが可能となり、事業選択の重点化を促進すること
が期待されるとのことである。
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地方公共団体における文化政策評価の現状∼平成12年度文化庁アンケート調査の概要
□インタビューを終えて
・さきの「レポート」で紹介したアンケート調査では、文化政策(事業を含む)を客観的
に評価している自治体は、全体の3割強であったが、宇都宮市の取り組みをはじめ、こ
れらの自治体においても、適切な評価をどのように行うか試行錯誤が続いているようで
ある。
・文化政策に関連する事業は、サービス利用者のニーズが多様であるため、一律の価値基
準で事業の成果(善し悪し)を判断することが難しい場合が多い。ただし、その一方で、
地方財政が逼迫する中、投入した資源に対して、当該政策・事業が市民生活の質の向上
にどの程度寄与しているか、行政内部はもとより市民の関心が高まっていることも事実
である。今後、文化政策に関するソフト・ハードの事業評価については、宇都宮市のよ
うに、一律のベンチマーク指標だけでなく、サービス利用者の満足度などを用いて、き
め細かな成果把握のための仕組みづくりを進めることが求められよう。
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