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浜北のラウンドアバウトについて
浜北のラウンドアバウトについて 藤原祐二1・大杉秀明2・宮平広行1 1浜松市土木部 東・浜北土木整備事務所(〒434-8550 静岡県浜松市浜北区西美薗6) 2浜松市土木部 東・浜北土木整備事務所(〒435-8686 静岡県浜松市東区流通元町20-3) 浜松市浜北区内野台地内にあるロータリー交差点は、昭和48年1月に完成し、約42年間に わたり運用してきたが、道路交通法改正に伴い、環状交差点(ラウンドアバウト)が定義さ れたことにより、静岡県公安委員会との協議の結果、ロータリー交差点から環状交差点(ラ ウンドアバウト)へ変更することになった。 本論分は変更に向けての調査、準備、周知活動等について報告する。 キーワード:歴史、ルール、実用性、譲り合いの心 1.はじめに 2.環状交差点(ラウンドアバウト) 日本における円形交差点としてはロータリー交差点の みが定義されていたが、平成25年6月14日法律第43号改 正の道路交通法第4条第3項により環状交差点(ラウンド アバウト)が定義された。これにより、浜松市浜北区内 野台地内にあるロータリー交差点を環状交差点(ラウン ドアバウト)へ変更するため、平成26年9月1日からの運 用開始に向けて準備や調査を実施した。(図-1) (1) ラウンドアバウトとは ラウンドアバウトとは、円形の平面交差部のうち、主 に環道、中央島、エプロン、路肩、分離島、流出入部及 び交通安全施設を有し、環道において車両が時計回りに 通行しかつ進入する車両によりその通行を妨げられない 交通が確保できる構造であるもの1)をいう。(図-2) 基本方針としては、導入に当たって、その必要性を明 確にした上で、交通量及び幾何構造の観点から適用が可 能かどうかを確認し、他の交差点形状と比較して安全性、 円滑性等の効果、維持管理の容易さ、経済性等の観点か ら優位性を評価した上で、導入の可否を判断するものと すること。なお、導入に当たっては、利用者及び地域住 民への情報提供並びに合意形成を図るものとする。1) 浜松市 浜北区 山梨県 長野県 県 神奈 静岡県 浜松市 浜松市浜北区 内野台ラウンドアバウト 天竜川 東名高速道路 図-1 位置図 図-2 ラウンドアバウト標準図 (2) 歴史 円形交差点の歴史は古く、主に欧米やヨーロッパで多 く設置されてきた。19世紀後半からヨーロッパで作られ はじめた円形交差点は、都市中心部などに景観上の工夫 として考案されたものだった。 例えばフランスパリ、凱旋門で有名なシャルル・ド・ ゴール(エトワール広場)は、このような目的で作られた 円形交差点であったが、1907年に整備され、5本の道路 が集まる円形交差点となった。現在は12本の道路のロー タリー交差点として機能している。2) (写真-1) 出典:Wikimedia Commons (3) 日本のラウンドアバウト 日本では平成25年6月14日法律第43号改正の道路交通 法第4条第3項中により環状交差点(ラウンドアバウト)が 定義され、平成26年9月1日から8都府県34箇所で運用が 開始された。 全国では宮城県が19箇所と最も多く、静岡県内では焼 津市関方、菊川市柳1丁目、浜松市浜北区内野台の3箇所 で運用が開始されている。(図-3) 出典:著作権2015 Google,ZENRIN 写真-1 フランス凱旋門 図-3 平成26年9月1日より運用を開始した箇所 交通システムの一環として設計された円形交差点は、 1905年にニューヨークに作られたコロンバスサークルが 最初のものだと言われている。3) (写真-2) 日本では1936年に作られた北海道の旭川常盤ロータ リーがよく知られている。4) (写真-3) (4) 交通ルール ロータリー交差点からラウンドアバウト交差点への変 更に伴い主な交通ルールの違いを調査した。 道路交通法では標識等で優先関係が決まっている場合 を除いては、車両は左方優先となり、左方向から進入し てくる車両の進行を妨害してはならないと定められてい る為、ロータリー交差点では進入優先となるが、今回の 改正で環状交差点内を通行する車両等の進行妨害をして はならないと定められたことにより、ラウンドアバウト 交差点は還流車両(交差点内を通行する車両)が優先とな る。また、ラウンドアバウト交差点では進入時の一時停 止義務が無くなったことが大きな特徴である。(図-4) 出典:Wikimedia Commons 写真-2 コロンバスサークル 図-4 通行車両優先図 出典:K.Takeda撮影 写真-3 旭川常盤ロータリー 3.内野台ラウンドアバウトの実施に向けて (1) 内野台の紹介 浜北区の前身である浜北市は、昭和38年7月1日に全国 556番目の静かな田園都市として誕生した。当時の5ヶ町 村である「浜名町・赤佐村・麁玉村・中瀬村・北浜村」 の合併により構成され、現在もこの5地区は自治会のま とまりの名称が継承されている。今回の内野台は、浜名 地区に属している。(図-5) (3) 静岡県公安委員会との協議 本交差点はロータリー交差点であったため、環道、中 央島、路肩、流出入部が備わっていたことにより、中央 島周りのエプロンや各流出入部の導流帯の設置、また、 それに伴う区画線の変更を計画し、平成26年6月25日に 交通処理計画の意見聴取について依頼書を静岡県公安委 員会に提出した。(図-6)(図-7) 図-6 施工前の現況表示内容図 図-5 浜北区の地区図 (2) 内野台ラウンドアバウト 浜松市浜北区内野台1丁目と2丁目の境にあり、市道浜 北内野台富岡線と市道浜北富岡姥ヶ谷線が交差する交差 点にある。円形交差点の直径は約30m、中央島の直径は 約10m、車両が通行する環状道路の幅員は5.0mになって いる。本交差点はロータリー交差点であったが、静岡県 公安委員会から打診があったことにより、ラウンドアバ ウトへの変更手続きを進めた。(写真-4) 図-7 施工後の改良表示内容図 平成26年8月1日付けで静岡県公安委員会から回答があ り、回答図のとおり指示を受けた。(図-8) ・環道内の矢印については破線とする。 ・導流帯を全方向に設置する。 ・横断歩道のセットバックは1~2m程度とする。 ・中央島に視線誘導看板等を設置する。(4箇所) ・マーキングの施工にあたっては、所轄警察署の立会 いを受けること。 ・本整備に伴う工事費用は貴職負担とされたい。 出典:著作権2015 Google ,ZENRIN 写真-4 内野台ラウンドアバウト 図-8 静岡県公安委員会の回答図 (4) 準備施工 平成26年8月14日に施工業者と契約し、8月21日から8 月29日の間に交差点内の区画線の変更、区画線文字(止 まれ)の抹消、中央島に視線誘導看板の設置を実施した。 また、規制看板の変更については、9月1日早朝に公安委 員会側で発注した施工業者が工事を実施した。 (写真-5)(写真-6) (6) 運用開始当日からの取組み 運用開始当日の9月1日から9月5日の5日間、所轄であ る浜北警察署交通課の職員と共に、朝7時から8時まで現 地で街頭指導をおこない、通勤通学で交差点を利用して いる方にルール変更のビラを配布し周知を図った。また、 この時間帯は一番交通量が多いこともあり、同時にピー ク時間当たりの交通量調査を実施した。(表-1) 調査の結果、総流入交通量は10,000台未満1)で適用範 囲内であった。しかし、横断交通量(横断歩行者と横断 自転車の合計交通量)は100を超える1)結果になったため、 今後ラウンドアバウトの交通容量の低下に繋がらないよ う引き続き現地を調査していきたい。 写真-5 交差点内の施工状況 表-1 交通量調査集計表 3.関係機関への聞取り調査及び現地調査 写真-6 工事完了写真 (5) 関係機関への周知 9月1日からの運用開始ということもあり、夏休み前に 周知を行わなければならなかったため、ラウンドアバウ トの交通ルールが記載されている文書を作成し、学区内 にある小中学校や幼稚園に7月中旬に出向き、生徒への 配布と周知をお願いした。また、同時期に地元自治会へ の回覧配布を依頼して近隣住民への周知を図った。 (図-9) (1) 関係機関への聞取り調査 ラウンドアバウトについて平成27年1月中旬に関係機 関への聞取り調査を実施した。(表-2) 聞取り調査の結果、一時停止がなくなったことによる 不安意見が多く、ラウンドアバウト運用後、約2ヶ月で 交通事故が発生していた。 今後はラウンドアバウトのルールの周知徹底を図り、 徒歩や自転車による通勤・通学者が、安全に通行できる よう、どのような取組みが必要になるか課題になると感 じた。 表-2 聞取り調査一覧表 図-9 回覧文書、配布文書 (2) 現地調査 運用開始から5ヶ月経過した平成27年2月3日朝7時から 8時の間、現状調査を実施した。多くの車両がラウンド アバウトのルールを理解して走行していたが、自転車な どの軽車両は一方通行を守らず、逆走している人が多く、 大変危険に感じた。全体的には渋滞が起きることもなく 交通の流れが確保されているよう見受けられた。 (写真-7)(写真-8) デメリットとしては、交通量が多すぎる市街地交差点 などではかえって渋滞の原因になるため設置できないこ とや、ラウンドアバウト交差点は設置に必要となる面積 が大きいため、用地取得などで時間を費やし設置が困難 になる可能性があること。また、ラウンドアバウト交差 点は、ロータリー交差点ルールとの違いなど、今までの ルールとの違いがあり、事故などトラブルが発生する懸 念があるなどが挙げられる。(写真-10) 出典:Frederic Rivollier/Flickr 写真-7 歩行者横断状況 写真-9 交通量が少ないラウンドアバウト 出典:ACTIVE GALATIC@active_galactic 写真-8 自転車逆走状況 4.今後の設置に向けて (1) 設置条件 平成26年8月8日付け国土交通省からの通達にラウンド アバウトの導入基準が記載されている1)。ラウンドアバ ウトは交通量の少ない平面交差部に導入すること、日当 たり総流入交通量が10000台未満にあっては、ラウンド アバウトを適用することができるなど、細かい条件が記 されている。 (2) メリット・デメリット 設置条件を参考にラウンドアバウトのメリット、デメ リットを考えた。 メリットとしては、信号機を設置しないため、信号機 の設置費用がかからないことや、地震など災害時におけ る緊急の停電の際でも渋滞を招かず、運用可能であるこ と。また、円形になっていることにより、走行車両は速 度を落とす必要があるため、侵入時の正面衝突など、事 故の発生を抑制できるなどが挙げられる。(写真-9) 写真-10 市街地の交通渋滞状況 5.結びに 今回のラウンドアバウト設置箇所は、既設ロータリー を利用したものになったことにより、大きな問題もなく 円滑に移行することができた。今後は新設時に設置基準 を取り入れ実施を検討していく必要があると考えられる。 これからの道路計画において交差点の新しい概念を道路 設計に積極的に取り入れていくことも必要である。 また、ラウンドアバウト運用後に交差点内で1件の人 身事故が発生していることからも分かるように、交差点 部の交通事故が一番多い現実がある。今後、ラウンドア バウト交差点に遭遇しても、戸惑うことのないように、 交差点ルールの周知活動をしていきたいと考えている。 ラウンドアバウトが新基準になる可能性は、高齢者が 増加し、ドライバー人口が減少すれば十分にあり、低速 走行で譲り合う心がキーポイントとなることを期待する。 参考文献 1) 国土交通省:望ましいラウンドアバウトの構造について (平成26年8月8日付け通達) 2)Wikipedia:ラウンドアバウトより 3) Robinson et al.,P2 4) jp.wikipedia.org/wiki/ラウンドアバウト