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愛本床止工における災害復旧及び 補修工事について
愛本床止工における災害復旧及び 補修工事について 佐藤利行1・池田敏男2・石川 伸3 1黒部河川事務所 黒部川出張所(〒938-0801 富山県黒部市荻生大本7280-3). 2前黒部河川事務所 工務課(〒938-0042 富山県黒部市天神新173). 富山県黒部市天神新173). 3黒部河川事務所(〒938-0042 黒部川愛本床止工は,愛本狭窄部の直下流に位置し,急流河川である黒部川の扇頂部にあり, 黒部川を管理する上で重要な施設である.平成23年6月の梅雨前線豪雨により愛本床止工が被 災し復旧工事を行った.その際に,既設構造物の著しい摩耗も確認されたことから緊急的に維持 修繕工事を実施した. キーワード 災害復旧,河川管理施設の維持管理,施設の長寿命化,摩耗対策 1.はじめに 前線の影響により,愛本床止工護床ブロックが沈 下・流失し,この被災によって照らし出された施設 下流域のみお筋固定による河床低下の影響や施設の 摩耗,急流河川の狭窄部での工事における問題点を 報告するものである. 富山県東部に位置する黒部川は源を北アルプスに 位置する鷲羽岳に発し,流路延長約85km,山間・渓 谷部平均河床勾配1/5~1/80,扇状地部河床勾配 1/80~1/120といった我が国でも有数の急流河川で ある.愛本床止工は黒部川河口より13.2km付近の愛 本狭窄部下流に位置し,また黒部川扇状地の扇頂部 に位置することから黒部川を管理する上で重要な施 設である.(写真-1) 2.平成 23 年 6 月出水における施設被害 平成23年6月25日に発達した梅雨前線の影響によ り,総雨量196mmに達し,氾濫注意流量(700m3/s)を 上回る洪水(ピーク時:約1,000m3/s)となり,愛本 床止の護床工が被災した.(写真-2) 写真-1 愛本床止工 愛本床止工は,昭和44年8月に大きな被害を被っ た愛本農業用水取水堰が上流に移転したことに伴い, 写真-2 被災後の愛本床止工(H23.7.17) 旧施設の基礎部を昭和48年に富山県より譲り受けて 被災概要は,護床工下流の河床洗掘,根固ブロッ 補強を施し維持管理してきた施設である.これまで ク(8t)及び護床ブロック(60t)の流失・沈下で 昭和58年~昭和62年,平成10年~平成11年に災害復 あり,被災要因として考えられるのは以下の3点で 旧を契機とした改良復旧を進めてきている. ある. このような中,平成23年6月25日に発達した梅雨 1 2.0 よって右岸に偏っているのが分かる.その後,ブ ロックの沈下・移動が下流から上流に進行し,筋状 の大沈下域が形成され,その左右のブロックが落ち 込んでいる.(図-5) 土砂収支 土 砂 収 支 (万 m 3 ) 1.5 1.0 0.5 13.2 13.0 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 ① -2.0 H11-H13 H13-H14 H14-H15 H15-H17 H17-H18 護床ブロック H18-H20 H20-H21 H21-H22 図-1 愛本床止工下流の土砂収支 1つは,上流からの流出土砂量の減少である.愛 本床止下流ではH18~H20を除き,経年的に洗掘傾向 にあり,特に愛本床止工の直下流である13.2kの洗 掘が顕著に進行している.(図-1) 12.2k ② 澪筋の形成 13.2k ③ 6.00 愛 本 愛本床止工 堰 堤 4.00 河床変動量(m) 護床ブロック 2.00 護床ブロック 0.00 -2.00 -4.00 H2 H7 H11 H13 H14 H17 H18 H20 H21 H22 H15 ④ -6.00 10 11 12 距離標(km) 13 14 図-2 愛本床止工下流の平均河床変動量 12.2k 4.00 13.2k 愛 本 愛本床止工 堰 堤 河床変動量(m) 2.00 図-5 推察される護床ブロックの被災メカニズム 0.00 また,付帯的要因として護床ブロックの摩耗によ り被災が助長されたことが考えられる. -2.00 -4.00 H2 H14 H20 -6.00 H7 H15 H21 H11 H17 H22 H13 H18 -8.00 10 11 12 距離標(km) 13 14 3.平成 23,24 年災害復旧工事 図-3 愛本床止工下流の最深河床変動量 被災した愛本床止の従前の効用復旧を行うため, 平成23年度より災害復旧事業費を充当し,沈下した もう1つは下流域の局所的な河床低下が考えられ, 護床工部を水叩とし,その下流に垂直壁と護床工を 13.2kの平均河床はH11~H22の10年間で1m程度下 新たに設ける工事を行う.(図-6) がっている(図-2)のに対し,最深河床では3m程度 また被災した状況を踏まえると従前の効用復旧を 低下している.(図-3)これは澪筋に限定された河 行うためには前述2.の被災要因の対策が必要不可 床低下が進行し,局所的な深掘れが進んでいたこと 欠である.このため復旧工事の中で,想定される10 がわかる. 年後の最深河床高を踏まえた護床工の設置,河床低 下に伴い追従可能な異形ブロックの採用,河床の局 所洗掘がおきたとしても河床低下の進展を遅らせる 構造として護床ブロック底面にかごマット工を敷設 する.また当該地は構造物の摩耗が著しいところで あるため(写真-3),垂直壁と水叩の天端にコンク リート摩耗対策として高強度コンクリートやレール 工を用いて表面対策を施すほか水褥池による落下水 減勢を行った. 図-4 三次元レーダー計測画像 3つ目として,護床ブロック下流端と河床に形成 された段落ち流れにより局所洗掘が進行し,下流端 のブロックが沈下及び移動した.その状況を裏付け るものとして図-4で筋状の沈下域が下流の河床に 図-6 愛本床止災害復旧施工箇所縦断 2 写真-3 千鳥状に配列されていた護床工の摩耗 復旧工事は平成24年1月より契約し,その年の出 水期までに仮締切の部分的な施工と沈下した護床工 部の上流端である既設水叩の下流部の脚部保護のた め,先行的に打設を行い保護を行っている. なお復旧工事は平成25年3月に無事に完了した. 写真-5 常水路内の摩耗状況 4.既設常水路の著しい摩耗 平成24年10月より本格的に災害復旧工事を開始し, 11月上旬には左岸側の施工を行うための転流を完了 させ本体工事に着手している.これを機に,落差が あり常時河川水が流れる常水路は常に気泡や水流が 邪魔をして調査が困難であるこの施設を本体工事と 併せ常水路内に残る水を排水し,水路内の調査を 行った. なお,現況の常水路は平成11年に完成しており, これまでに14回の出水期を経験している. (写真-4) 写真-4 平成11年の常水路状況 3 図-7 常水路摩耗調査結果(太線は10cm) 調査の状況及び確認結果は写真-5や図-7のとおり である.常水路内は著しく摩耗しており,その摩耗 の大きさは帯工直下の側壁部,特に右岸側の摩耗が ひどく,最深箇所のポットホールでは深さ1.27mも の摩耗を受けていた.また帯工下端より約2m下流底 張工の表面で大きく摩耗し,0.5m程度深掘れしてい る状況が確認されている. 常水路内のコンクリート厚は底張工で1.0m,側壁 は重力式構造でコンクリート厚は0.5mである. 各々 は高強度コンクリートで施工されているが,このよ うな摩耗した状況を放っておくことは施設管理上問 題がある. また, 平成11年に完成した帯工及び帯工側壁部に は摩耗対策として弾性板が設置されている.この弾 性板を調査したところ, 弾性板の剥離も無く, 厚さ 50mmのところ1~30mm程度の摩耗量であり, 一部局 所的な摩耗が確認されたが致命的なものでは無く, 当該地において効果を発揮していたことが確認でき た. 災害復旧工事施工期間の中でこのような状況を発 見できたことは不幸中の幸いであり, 緊急的な補修 が必要であることから, 急遽,平成24年度補正予算 を充当し,補修工事を行うこととした. なお,補修にあたっては常水路内で摩耗に対して 効果を発揮した弾性板を用いた補修を行うこととし た. このような事態が発生したにもかかわらず,常水 路工事は施工状況(写真-7)及び完了(写真-8)は 写真のとおりであり, 工事は平成26年3月に無事故 で完成させることができた. 5.平成25年度常水路補修工事 補修工事は, 常水路内で常に河川流水があたる底 版部及び側壁部に弾性板を設置することとし,補修 工事の手順は, ①仮締切工及び工事用道路の設置, ②水路内土砂撤去,③チッピング及び水路内清掃, ④底版コンクリート打設,⑤弾性板設置(図-8), ⑥後打ちアンカー設置,⑦仮締切工及び工事用道路 の撤去の順で施工を行った. 施工においては,弾性板上に重建設機械を置くこ とができないため,使用する機種や配置に気を付け ることと,足場全体がゴムで敷き詰められ,かつ施 工期間の殆どが冬期作業であるため転倒等に気を付 け安全施工に努め,工事を行うこととした. 写真-7 弾性板設置作業状況 弾性板設置 図-8 弾性板設置図 平成25年の補修工事では常水路より上流に仮締切 を設置し,河川流水を右岸側に転流する必要があり, 災害復旧工事同様に現場着手に先だって上流の愛本 堰堤管理者及び発電施設を有する電力会社等の関係 機関と調整を行い,施工時に愛本地点に流入する流 量をコントロールして施工に臨むこととしていた. しかしながら,仮締切施工時に台風26号や低気圧 による出水で2度にわたり施工中の仮締切が流失, 常水路内に土砂が堆積するなどの被災を受け,工事 工程に大きく影響が出るなど多難な工事であった. (写真-6) 写真-6 写真-8 常水路内弾性板設置完了 6.おわりに 愛本床止工は黒部川の治水上,重要な施設である ことから,施設の管理は重要な課題である.今回の災 害復旧及び補修工事が完成し,今後のモニタリング において,測量や施設の健全度の確認を引き続き行 い対応していくこととするが,水叩や常水路等の摩 耗の生じやすい箇所は常時流れがあり,かつプール 内の水深は約1mあることから,弾性板の摩耗量の調 査(監視)方法について検討を要する. また,今回 は致命的では無かったが,局所的な摩耗も見受けら れていることから毎年調査を行う必要がある. 最後に、工事を進めるに当たり, 被災のメカニズ ムなどの検証や復旧工法等でアドバイスをいただき ました, 国土技術政策総合研究所河川研究室の皆様 にこの場をお借りしてお礼を申し上げます. 常水路上流仮締切の被災状況 4