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首里城公園未開園区域における 現場見学会の取組について
別紙2(論文) 首里城公園未開園区域における 現場見学会の取組について 知念 1沖縄総合事務局 国営沖縄記念公園事務所 2沖縄総合事務局 弘1・池田 首里出張所長 国営沖縄記念公園事務所 豊2 (〒903-80812 沖縄県那覇市首里当蔵町3-1) 首里出張所 計画係長 ( 同 上 ). 首里城公園は、平成4年に一部供用を開始し、平成12年には史跡「首里城跡」は「琉球王国の グスク及び関連遺産群」のなかの一つとして「世界遺産」に登録され、入園者数は毎年200万人 を超える沖縄の観光拠点としての役割を担っており、今後もより一層期待される。しかしなが ら、県内在住者の来園者数の割合は約9%程度となっており、県内在住者の来園の低さが課題と なっている。首里出張所では、県内在住者に首里城の魅力を知って貰おうと毎月第三土曜日に 未開園区域の現場見学会を開催しており、現場見学会の取組事例について報告する。 キーワード 県内在住者,現場見学会,開園区域,未開園区域 1. はじめに 国営沖縄記念公園首里城地区は、昭和61年に「沖縄復 帰記念事業として行う都市公園の整備」が閣議決定され、 平成4年に正殿等を含む主要建物を一部開園し、平成27 年4月時点で整備面積約4.7haのうち約2.9haを開園してい る。(図-1) 現在は、正殿裏の注1御内原(おうちばら)地区(図-2) を中心に復元整備を進めている。 正殿 図-2 御内原地区整備イメージ図 注1:国王やその家族及びそれらに仕える多くの女官達が生 活する場所であり、王族を除いて男子禁制となってい た。王妃を頂点とした女官組織のもと、儀礼の場とし て多くの建物があった生活・儀礼の空間。 2. 首里城公園来園者の現況 図-1 国営公園区域図 首里城公園の来園者数は、平成22年度から増加傾向に あり、平成26年度の来園者数は約252万人(対前年度比 7.2%増)に達した。(図-3) 平成26年度の来園者内訳を見てみると、日本人県外在 住が72.6%と高く、次いで外国人が19.5%となっている (図-4)。利用交通手段の内訳を見ても、レンタカー 48.5%、貸し切りバス21.7%(図-5)となっており、来園 者数の観光客の占める割合が高い。今後も沖縄県入域観 光客数は増加傾向(図-6)にあることから、比例して首 里城公園の観光客の来園者数も増加していくものと予測 される。 図-6 入域観光客と公園入園者の推移 一方県内在住の来園者数を見てみると、平成25年度は 11.0%(図-7)に対し、平成26年度は6.9%(図-4)と減少 傾向にある。 図-3 首里城公園来園者数 図-7 平成25年度首里城公園来園者内訳 図-4 平成26年度首里城公園来園者内訳 その原因の一つとして、県民が琉球の歴史や文化に触 れる機会が少なく首里城に関心が無い事が推測される。 このままでは、首里城復元の意義としてある ①貴重な国民文化遺産の回復 ②新たな県民文化の創出 ③伝統技術の継承と発展 ④歴史的風土探訪の場の形成 が薄れ、単なる観光名所とての役割だけに止まりつつあ る。県民の強い願いで復元された首里城。もう一度県民 に首里城の魅力、新しい発見を知って貰うため、首里出 張所では開園区域を管理している沖縄美ら島財団首里城 管理センターと連携して現場見学会を実施した。 3. 現場見学会の取組内容 図-5 平成26年度首里城公園来園者 利用交通手段 (1) 現場見学会を実施するまでの問題点 これまで首里城公園は多数の施設を復元してきており、 それと同時に施設に関する解説板を設置している。しか しながら、解説板の内容は施設概要の説明や文献に記載 されている往時の名称等の説明だけになっており、復元 の経緯、復元方法等の伝統技術・工法の説明が十分にさ れていない。 首里城正殿を復元する際、遺構保護の観点から約 70cm嵩上げされている為、発掘調査で遺構が確認され ても復元の際には、往時の遺構の上に新しい石材を積ん で復元する為、来園者は生の遺構を見ることが無い。 復元された施設でも、新たな根拠資料が発見されると その資料に基づいて修復していくが、修復した跡もその ような説明等及び情報発信をしていない。 沖縄で唯一大規模な伝統工法(木造建築、漆塗り、石 積み)を採用して復元しているのにも関わらず復元過程 を公開しておらず、伝統技術の発展に寄与していない。 以上の問題点から、現場見学会は下記の観点で説明会を 開催することにした。 ①開園区域における復元の経緯及び復元方法の説明 ②開園区域で開催している企画展の説明 ③未開園区域の今後の整備計画、復元方法及び発掘調 査箇所の説明 ①、②については、首里城公園管理センターの学芸員が 担当し、③については、首里出張所の職員で担当するこ とにした。 (3) 見学会の内容 平成25年11月より月一回実施。(毎月第3土曜日) 10:30~12:00までの1時間30分程度。 まず始めに、首里城管理センターの学芸員が開園区域 の復元方法や復元経緯を説明(図-10)。その後南殿の 展示室等で開催している企画展の説明。約40分程度。 その後未開園区域に移動し、出張所職員から未開園区 域の今後の整備計画、復元方法、発掘調査の現場説明 (図-11)。約50分程度。 図-10 学芸員による開園区域の説明の様子 (2) 現場見学会の広報 毎週木曜日に発刊される新聞情報誌のインフォメーシ ョンコーナーに見学会の案内を掲載(無料)(図-8)及 び美ら島財団首里城公園管理センターが月一で発行して いる広報紙『首里城通信』(図-9)にて見学会の案内を 告知している。 それにより定員25名に対し毎回50名を超える応募者が ある。 図-8 地元新聞情報誌による掲載 図-9 首里城通信による広報 図-11 出張所職員による未開園区域の説明の様子 開園区域においては、学芸員が文献資料を基に時代背景 や、根拠資料の出所、根拠資料に基づいた復元経緯の説 明を行うことで、解説板には無い新たな情報、知識を得 ることが出来る。また、春分の日、夏至、秋分の日、冬 至の日には復元された日影台(日時計)を利用して、実 際に日時計の計測体験(図-12)を行っている。その体 験により復元施設が単なるレプリカでは無く、根拠資料 に基づく高いクオリティで復元していることを実感して もらえる。また、企画展の説明においては、伝統工法の 技術の説明や、工程等を詳細に説明することから、伝統 技術及び伝統文化の凄さに改めて気づくことが出来る。 図-14 東のアザナからの眺望(西側方面) (4) 現場見学会の参加者の声 毎回現場見学会終了後は、参加者から普段入ることの 未開園区域においては、今後の整備計画を中心に説明を 出来ない未開園区域を見学できた喜び、往時の遺構、復 行い、古絵図や古写真を基に復元の手法や、復元根拠に 元の過程を見れた満足度は非常に高く、感謝の御礼や激 ついて説明している。特に重点的に説明をしているのが、 励を頂き、全面開園を楽しみにしている等の喜びの声を 復元建物の復元ランク(図-13)である。復元ランクは 頂いている。開園区域においても、何回か来ているが初 復元の特A~平面表示のFまで7段階に分かれている。こ めて知る事ばかりで、改めて首里城の魅力を知ることが れは根拠資料の充実さによりランク分けを行っているも 出来た等の感想を頂いている。 ので、木造による復元から、外観だけ木造で内装はRC 構造の外観復元等がある。その説明をすることで完成後、 4. 今後の課題・まとめ 復元なのにRC構造にしている誤解を解消することが出 来る。また、発掘現場の遺構の見学においては、見学者 現場見学会を実施したことにより首里城の新たな発 の誰もが遺構の凄さに感動し、かつて約580年前ここに 見、首里城の魅力を再認識させる事の効果は発揮できて 琉球王国があったことに驚きを隠せない様子である。さ いると思われる。しかしながら現場見学会の効果が県民 らに、未開園区域の現場見学会において大変喜ばれる箇 来園者の増加には未だ結びついていない。その理由は、 所がある。そこは東のアザナという展望台で首里城で一 今現在現場見学会に参加している多くは、元々琉球の歴 番標高の高い場所(標高約140m)であり、東に久高島、 史や首里城に興味があり、個人的に何回も首里城に来園 西に那覇港や慶良間諸島、南に南部方面の町並み、北に している人が多く、ボランティアガイドやバスガイドの 読谷方面等360度の眺望を見ることが出来る。(図-14) 参加も見られるからである。しかし、未開園区域等の情 そこでは、首里城正殿が西向きに建っている理由(仮説) 報を事前に与えることによって、未だ知られていない首 や、首里に都を移した理由等の説明をする事によって、 里城の魅力を知ることが出来、見学会に参加した人達の 首里城の魅力を最大限に味わうことが出来る場所となっ 口コミによって、全面開園時には入園者の増加に繋がる ている。 ことを期待したい。今後は未だ首里城に来たことが無い 人や、若い層の参加者を増やしていき首里城に関心を持 って貰うことが課題である。その改善策として、現場見 学会の認知度をさらに高めていく必要がある。 県内でこれ程大規模な伝統技術・工法を用いての復元 整備を行っているのは首里城だけである。だからこそ、 我々は積極的に復元過程をPRしていく義務があり、そ れが伝統技術の継承と発展に寄与していくものと思われ る。現場や整備過程を積極的に広報することは、社会資 本整備の意義を正確に伝える手段の一つであり、首里城 復元の意義、沖縄総合事務局の必要性を最大限にPR出 来る手段だと思う。今後も積極的に現場説明会を行い、 図-13 建物復元ランクの凡例 県民に首里城の魅力を伝えて行きたい。 図-12 日影台の計測体験の様子