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郊外ニュータウンにおける空家の現状とその発生要因に関する研究

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郊外ニュータウンにおける空家の現状とその発生要因に関する研究
郊外ニュータウンにおける空家の現状とその発生要因に関する研究
―三田市フラワータウンの住宅地図解析を通じて―
大阪大学大学院工学研究科
関西学院大学総合政策学部
1.研究の背景と目的
人口減少社会に突入した日本においては、今後、集約
型都市構造への転換が進むことが期待1)されており、そ
れに伴って郊外市街地等の急速な衰退が懸念される。特
に、戦後の大都市への集中人口の受け皿として開発され
た郊外ニュータウンでは、住宅の老朽化や、家族構成の
変化による住宅規模のミスマッチの増加などによって、
住民が日常生活や自宅の維持管理に負担を感じて、より
生活しやすい住宅への住み替えを希望する傾向がある2)。
同時に、高齢化が進む郊外ニュータウンにおいて空家と
なる戸建住宅が増加している3)住宅地もある。2008 年の
住宅・土地統計調査によると、2007 年 10 月時点で、全国
の住宅総数に占める空家の割合は 13.1%に達している。
空家は、管理せずに放置すれば老朽化が進むほか、ま
ちの活気や地域の防災・防犯上の観点から問題視されて
いる。日本最初の大規模ニュータウンとして 1962 年に開
発された千里ニュータウンでは、開発から
50 年余りが経過し、空家の増加が問題とな
り、既存住宅の転貸に取り組む NPO もある
4)
。一方で、1980 年代頃の比較的開発年代
の浅い郊外ニュータウンの空家は、老朽化
がさほど激しくないために深刻な問題と
は捉えられていない。しかし、兵庫県三田
市のニュータウンでは子世代の定住志向
は低く5)、入居後 5 年を経過しても定住
率が高くならない傾向がある。いずれは
子世代の独立と親世代の高齢化に伴い、空
家の問題が深刻化する可能性がある。
そこで本研究では、三田市にある郊外ニ
ュータウンを事例にして、空家の現状を調
査し、分布図を作成する。さらに、空家の
発生要因が、まちの中心にある鉄道駅からの距離が関係
していると仮定し考察する。これらにより、今後の空家
発生の予防に資する基礎的な知見を得ることを目的とす
る。
2.研究対象地の概要
本研究では、三田市にあり 1982 年 4 月にまちびらきが
行われた、神戸三田国際公園都市のフラワータウンを対
象地とする。フラワータウンは、大阪や神戸への通勤者
の多い郊外ニュータウンである。大阪市の北西約 40km に
位置し、ニュータウンの中心駅から大阪都心までは電車
1
杉本絵里
客野尚志
で約 1 時間を要する。ニュータウンの中心駅から各住戸
への交通(自家用車やバスなど)も含めると、交通の利
便性はやや低い。フラワータウン地区は、神戸三田国際
公園都市のうち開発時期が最も古いエリアであり、住宅
用地面積が約 67%を占め、戸建住宅が主体の地区である。
神戸電鉄フラワータウン駅付近を中心に商業施設が立地
し、周辺に住宅が立地している。生活の利便性は高いよ
うに思えるが、市民意識調査アンケートにおける居住環
境評価 5)によると、特に若い世代が、交通の利便性の面で
三田市での暮らしに不満を抱いていることが報告されて
いる。
同地区では、住宅開発が進む一方で、人口および平均
世帯人員が減少している。平成 2 年のフラワータウン平
均世帯人員は 3.6 人であったが、平成 17 年には 3.2 人に
減少している6)。
図-1 北摂三田フラワータウン地区計画概要図
(出典:三田市ホームページ「北摂三田フラワータウン地区計画」7))
3.既往研究
郊外住宅地を対象とした研究では、人口減少社会に対
応した郊外住宅地等の再生・再編手法の開発に関する研
究8)や、川西市大和団地を事例とした郊外住宅地の変容
に関する研究 3)などがあり、子世代が世帯分離し、人口減
少と同時に高齢化が進んでいる状況や低未利用地が増加
していることが明らかにされている。
三田市のニュータウンを対象にしたものとしては、居
住意識構造の分析に関する研究9)が挙げられ、子世代で
定住志向と住環境評価が相対的に低く、親世代との間に
差異があることが明らかにされており、広い年齢層を通
じて転出希望の声が聞かれている。しかし、三田市にお
いて、戸建住宅の空家の分布状況を調査した研究は未だ
に見られないことから、フラワータウンにおける空家の
分布状況を地理的に把握し、現状を探る研究には意義が
あると考えられる。
表-1 フラワータウン空家戸数と空家率
丁目
武庫が丘2丁目
武庫が丘4丁目
武庫が丘6丁目
武庫が丘8丁目
狭間が丘2丁目
狭間が丘3丁目
狭間が丘4丁目
弥生が丘2丁目
弥生が丘3丁目
弥生が丘4丁目
弥生が丘5丁目
富士が丘1丁目
富士が丘2丁目
富士が丘3丁目
富士が丘4丁目
富士が丘5丁目
富士が丘6丁目
フラワータウン合計
4.研究手法
本研究は以下の手順で進める。まず「ゼンリン住宅地
図」を用いて、フラワータウン(狭間が丘、富士が丘、武
庫が丘、弥生が丘)の戸建住宅における居住者の表記の有
無を 2005 年、2009 年の両年代で追跡する。フラワータウ
ンでは、まちびらき以降順調に人口が増加していたが、
2004 年以降は人口が減少傾向にあることから、2005 年と
2009 年の住宅地図を選び、各年代において各家屋が空家
か否かについて、調査をおこなった。集合住宅について
は、住宅地図のみから居住者の移り変わりまで把握でき
ないため、今回の調査の対象外とした。
また、空家であるという判断は、住宅地図上に居住者
名の記載が無いこととした。そのため、住宅地図には居
住者名の記載があるが、実際には空家になっている住宅
の存在は本研究に含めていない。
上記によって、空家と判断された家屋を各丁目ごとに
集計し、
最終的にArcGISを用いて空家分布図を作成した。
さらに、空家の分布と駅からの距離に何らかの関連性が
あると仮定し、空家分布図に距離を重ね合わせて検証し
た。また、空家であると判断できた住宅に関して、現地
観察調査をおこなった。
2005年
2009年
世帯数 空家戸数 空家率 世帯数 空家戸数 空家率
202
4
1.98%
4
2.02%
198
329
7
2.13%
314
7
2.23%
185
5
2.70%
189
3
1.59%
177
6
3.39%
175
7
4.00%
337
7
2.08%
363
12
3.31%
374
4
1.07%
383
10
2.61%
217
0
0.00%
226
4
1.77%
291
6
2.06%
296
9
3.04%
318
4
1.26%
307
8
2.61%
191
3
1.57%
200
3
1.50%
169
5
2.96%
184
5
2.72%
432
5
1.16%
432
5
1.16%
138
1
0.72%
143
2
1.40%
461
1
0.22%
515
7
1.36%
242
3
1.24%
239
6
2.51%
92
0
0.00%
204
2
0.98%
300
5
1.67%
309
5
1.62%
4455
66
1.48%
4677
99
2.12%
の親世代とその子世代の2つの年代にピークがある。さ
らに、フラワータウンにおける親世代の定住志向の高さ
5)
から、
20~30 年後もこのままの人口構成が継続したと推
定するならば、現在の 40~50 代層が一斉に 60~70 代と
なり、急速な高齢化が懸念される。
5.三田市フラワータウンの空家分布と空家発生要因
5-1 空家率と高齢化率
前述の研究手法に従い、2005 年と 2009 年の住宅地図に
基づいて、両年代の空家戸数を調べた。次に、空家の戸
数と、丁目ごとの総世帯数から、丁目ごとの空家率を算
出した。本研究における空家率とは、住宅地図に居住者
名の記載のない空家が、総世帯数(平成 22 年 9 月末デー
タ)の何%にあたるかを示す数字である(表-1)
。
表-1 によると、住宅地図上では空家が発生していなか
った地区もあれば、十数件の空家がある地区もあり、2005
年と2009年を比較するとほとんどの地区で空家率が微増
していることがわかった。空家がある程度存在する状態
は、住宅流通のうえでは当然であり、今後も空家率が増
加しつづけるようであれば問題である。
また、2005 年(平成 17 年)実施の国勢調査に基づくフラ
ワータウンの人口ピラミッド(図-2)を見ると、40~50 代
図-2 フラワータウンの人口ピラミッド
一方で、
既往研究 4)によってフラワータウンの子世代の
定住志向が低いことが明らかにされているように、高齢
化の進行とともに子世代の世帯分離が進み、高齢者のみ
の世帯や高齢者の単独世帯が急増することが見込まれる。
そこで、2005 年の高齢化率6)と空家率(表-1)関係を調べ
るために地区ごとに両者の散布図を作成した(図-3)。図
-3 をみると、相関係数が 0.6 であることから両者には中
程度の強さの正の相関があり、高齢化率が高くなるほど、
空家率も高くなる傾向をよみとることができた。
5-2 空家発生要因の考察
2005 年と 2009 年のそれぞれの年代において空家であ
ると確認した家屋をArcGISを使って地図上にプロットし、
2
指標として、各家屋から駅までの距離を設定した。
ArcGIS によって 2009 年の空家分布図に、各空家の駅ま
での距離のレイヤーを重ね合わせた(図-6)
。これより、
駅から半径 100m ごとのエリアの面積と、エリア内に存在
している空家の戸数を集計することにより、空家の密度
を算出した(表-2)
。その結果とグラフ(図-7)から、どの
距離帯の区間に空家が発生する傾向にあるのかを調べた。
表-2、図-7 によると、駅から 100m ごとのエリアにおけ
る空家の密度は、400~1000m のエリアで高くなっており、
0~400m、1000~1400m のエリアでは空家の密度が低いこ
とが読み取れる。駅から 400m エリア内には商業施設や公
共施設が立地しており、また駅から 1200m 以内にフラワ
ータウン地区全体がほぼ収まるため、戸建住宅地の空家
であると確認できるのはおおよそ400~1200m内のエリア
である。以上のことを考慮すると、400~600m 内のエリア
では空家の密度が相対的に高くなっており、空家の発生
が増加していることがわかる。しかし、600~1200m 内の
エリアでは各距離区間ごとの空家の密度に大差はなく、
駅からの距離が離れるに伴って空家戸数が増加するとは
言えず、フラワータウンにおける空家の発
生要因と駅からの距離との関係性は見ら
れなかった。
図-3 高齢化率と空家率の関係
分布図としてまとめた(1)(図-4、5 の●が空家を示す)
。
5)
市民意識アンケート調査 から明らかなようにニュー
タウン内の交通の利便性には地区差があり、不便と感じ
ている住民も少なくない。
このことから、ニュータウン内の交通の利便性と空家
の発生要因との間に関係性があるのではないかと仮定し
た。そこで、ニュータウン内の交通の利便性をとらえる
5-3 現地調査による空家の現状把握
空家分布図で抽出した空家のなかから、
空家の状況を確認するために、空家が比較
的集中していた狭間が丘、弥生が丘周辺で
現地調査を行った。
空家であるかどうかの判断は、表札が無
いこと、投函されぬようにポストの入り口
が塞がれていること、雨戸が閉められ草木
に手入れがされずに放置であることを外
見上の判断目安とした。
空家であると判断できた住宅の状態は、
想定よりも良好であり、空家の老朽化が現
実的な問題とはなっていなかった。これら
のうち、不動産業者を通じて貸家とされて
いる住宅は数軒しか見られず、空家であっ
ても表札やいくつかの家財はそのままに
残し、時々所有者が戻ってきては住宅の手
入れを行っていると思われる家が多かっ
た。
図-4 2005 年時フラワータウンの空家分布図
6.まとめ
本研究では、住宅地図を用いた空家戸数
の調査によって、フラワータウンの空家率
を明らかにし、空家分布図を作成した。
図-5 2009 年時フラワータウンの空家分布図
3
ラワータウンにおける高齢化率の上昇が
空家率の上昇に寄与している可能性は否
1600m
定できないことから、今後の空家の増加が
1200m
懸念される。
800m
また、フラワータウンの空家は未だ外見
400m
上新しく、住宅ストックとして有効に活用
されることが望ましい。フラワータウンよ
り北西約 3km ほどの地点にあるウッディタ
ウンは、まちびらきから 22 年経過した現
在も人口が増加している10)。フラワータウ
ンの立地条件から、今後も住宅ニーズがあ
るまちである。住民が望む「交通の利便性」
とは何であるかを具体化し、解決策を講じ
る必要はあるが、立地条件を活かして子育
て世代などを呼び込むと同時に、借家の物
図-6 空家の駅からの距離
件情報を増やすなどして、継続的に住み手が更新される
ような仕組みの構築を図ることが、今後の空家対策の一
表-2 2009 年空家分布図を基にした空家密度
端となるであろう。これは行政と不動産業界が情報を共
有して行われる「空き家バンク」を使った空家情報の積
距離区間 空家
区間面積(㎡) 密度(戸数/㎡)
(半径m)
戸数
極的な提示のような取組みが今後も必要となろう。
0-100
100-200
200-300
300-400
400-500
500-600
600-700
700-800
800-900
900-1000
1000-1100
1100-1200
1200-1300
1300-1400
0
0
2
4
8
23
16
23
24
30
27
9
8
5
31400
94200
157000
219800
282600
345400
408200
471000
533800
596600
659400
722200
785000
847800
0
0
1.27389E-05
1.81984E-05
2.83086E-05
6.65895E-05
3.91965E-05
4.88323E-05
4.49607E-05
5.02849E-05
4.09463E-05
1.24619E-05
1.01911E-05
5.89762E-06
[補注]
(1)弥生が丘 1 丁目、弥生が丘 6 丁目、武庫が丘 1 丁目、武庫が丘 5 丁目、
武庫が丘 7 丁目、狭間が丘 5 丁目は、集合団地であるため、狭間が丘 1
丁目は住宅世帯が無いため、武庫が丘 3 丁目は三田谷公園が占めている
ため調査の対象外とした。
[参考文献]
)国土交通省社会資本整備審議会資料(2003)
「集約型都市構造の実現に
向けて」
、p.5
2)鈴木佐代ほか(2008)
「中高年世帯の住み替えによる郊外戸建住宅地のス
トック活用に関する研究-横須賀市マボリシーハイツを事例として-」
、日
本建築学会計画系論文集、第 73 巻、第 634 号、p.2725
3)水野優子ほか(2005)「郊外住宅地の変容に関する研究―川西市大和団
地を事例として―」日本建築学会学術講演梗概集、p.1106
4)西岡絵美子ほか 2008)「郊外戸建住宅地における空家とその管理現況の
実態-千里ニュータウンを対象にして-」日本建築学会大会学術講演梗概集、
p.1425
5)「平成 21 年度三田市市民意識調査報告書・まちづくり全般について」
p.38~p.51、三田市ホームページ
6)地図で見る統計 2005 年実施の国勢調査、統計局ホームページ
7)北摂三田フラワータウン地区計画、三田市ホームページ、2011.1.15 取
得.http://www.jamgis.jp/jam_sanda/HP/planning/land_use/flower_tow
n.html
8)今西一男(2009)「郊外住宅団地再生にとりくむ住民活動とネットワー
ク形成」
、日本建築学会学術講演梗概集、p.911
9)三好庸隆ほか(2003)「兵庫県三田市のニュータウンにおける居住意識
構造の分析」日本建築学会計画系論文集、第 571 号
10)平成 22 年 3 月末現在の人口・世帯数、三田市ホームページ
1
図-7 距離区間ごとの空家の密度グラフ
空家の空間的分布を知ることにより、空家の発生要因
の一つに、駅までの距離が関係していると推察したが、
現状ではそれらの関連性は見られなかった。しかし、フ
4
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