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2 グローバリゼーションとインフレーション BIS VIEW・FED VIEW
2 グローバリゼーションとインフレーション ── BIS VIEW・FED VIEW をめぐって 翁邦雄 村田啓子 要 旨 90 年代には世界的にインフレーションの生成過程に大きな変化が見られ, ディスインフレが進行した.その主な理由として,米国連邦準備制度(以下, FED)の首脳はインフレ抑制に関する金融政策運営技術の向上を主な理由 としてあげてきた.他方,国際決済銀行(以下,BIS)のスタッフはグロー バリゼーションがインフレ生成過程に大きな影響を与え,その影響はさらに 拡大している,としてそうした実証結果を提示している.FED はこうした BIS の見方には懐疑的であり,実際,FED のスタッフの実証結果は BIS ス タッフの実証結果に対して否定的である. グローバリゼーションがインフレ生成過程に与える影響についてのこうし た見方の違いは,グローバリゼーションが金融政策運営指針についても異 なったインプリケーションをもたらす.本稿は,それらを踏まえ,グローバ リゼーションについての BIS の見方(BIS VIEW)が,日本経済についてど の程度の妥当性をもつか,という点を BIS-FED の分析枠組みを拡張する形 でマクロの時系列データを使用して検証し,さらに業種別データを用いた代 替的なアプローチによってもグローバリゼーションが価格形成に与える影響 を検証した.結論として,使用できるデータ期間の制約があるなどの点で留 40 保は必要であるものの,一連の分析結果をみるかぎり,日本経済については グローバリゼーションが日本におけるインフレ生成過程に強い影響を与えた との実証的な証拠はこれまでのところ見られない. しかし,最近の世界経済の展開に照らすとグローバルなファクターがイン フレ生成過程に及ぼす影響について分析する重要性が一段と高まっている. 金融政策の適切な運営のためには,さまざまな切り口・代替的な枠組みを用 い,グローバルなファクターの影響を引き続き注視していくことが必要であ ろう. 本稿の作成にあたって翁は日本経済研究財団の助成を受けた.また,内閣府・経済社会総合研究 所「バブルの発生・崩壊からデフレ克服までの日本経済とマクロ経済政策に関する研究会」・金融 政策,物価分科会の出席者各位から有益なコメントを頂いた.本稿にありうべき誤りは,すべて筆 者たち個人に属する. 2 グローバリゼーションとインフレーション 41 1 はじめに 90 年代には世界的にインフレーションの生成過程に大きな変化がみられ, ディスインフレが進行した.その理由については,経済学者の間では,イン フレ抑制に関する金融政策運営技術の向上をあげる向きが多い.日本銀行の 政策決定会合に当たる連邦公開市場操作委員会(FOMC)メンバーの多数 をマクロ経済学者が占める米国連邦準備制度(以下,FED)も,首脳がし ばしばそうした見解(FED VIEW)を披瀝している 1).他方,国際決済銀行 (以下,BIS)のスタッフは,金融政策運営技術向上の可能性は否定しない もののグローバリゼーションがインフレ生成過程に大きな影響を与え,その 影響はさらに拡大している,とする.FED のスタッフはこうした BIS の見 方には懐疑的であり,実際,BIS スタッフと FED スタッフの実証結果も非 常に異なっている. グローバリゼーションがインフレ生成過程に与える影響についてのこうし た見方の違いは,グローバリゼーションが金融政策運営に与える影響につい ても異なったインプリケーションをもたらす.本稿では,それらを踏まえ, グローバリゼーションについての BIS の見方(BIS VIEW)が日本経済につ いて,どの程度の妥当性をもつか,他の主要国と比較してなんらかの特異性 が観察されるとすれば,それはどのような点か,といった点を検討すること を企図したものである 2). 本稿の構成は以下のとおりである.まず,第 2 節では,グローバリゼー ションの進行のもとでグローバルな需給ギャップがインフレ生成過程に影響 1) 2) Mishikin[2007],Kroszner[2007]など. FED と BIS の考え方の違いは,グローバリゼーションに限らず,資産価格の大幅な変動(お よびその結果としての金融的不均衡)のもとでの金融政策のあり方にも顕著にみられ,両者は日 本の経験についても違った点に着目し,異った教訓に力点をおいた解釈を示してきている.この 点については,本書,第 1 章を参照. 42 を与えつつある一方,国内の需給ギャップに対するインフレの感応度が低下 しつつある,とする BIS VIEW の実証結果とその金融政策運営上の含意の 概略を紹介する.ついで,第 3 節で,BIS VIEW の実証結果に対する FED の懐疑的見方とその根拠となっている実証結果を紹介する.次に,これらの 分析のなかで得られている日本の結果を紹介する.第 4 節で以上の先行研究 と上記の問題意識を踏まえた本稿の実証結果を説明する.第 5 節はそれらを 踏まえた暫定的な結論である. 2 グローバリゼーションについての BIS VIEW と FED VIEW 2.1 グローバリゼーションについての BIS VIEW(グローブ・セント リック・ビュー) BIS はグローバリゼーションがインフレに与える影響について,強い関心 を示してきた 3).その 1 つである Borio and Filardo[2007]は,インフレ生成 過程におけるグローバリゼーションの重要性を強調したいわゆるグローブ・ セントリック・ビューを実証的に展開し,2007 年 5 月に BIS の Working Paper として公表された.しかし,この論文は,2005 年の BIS のエコノミ スト会議で未定稿が公表されて以来,幅広くサーキュレートされ,彼らの主 張(グローブ・セントリック・ビュー)は,中央銀行サークルで大きな関心 を呼んできた.その骨子は以下のようにまとめられよう. ・ 世界各国において,近年,インフレ過程は変化しており,国内の需給 ギャップや投入コストに対する感応度は明らかに落ちている. ・ その原因については,金融政策の貢献,という説明はもっとも有力で多 くの支持を得ていると思うが,これと補完的な要素として,グローバリ ゼーションも重要と思われる.現在使われているモデルは現実のインフレ 過程のグローバルな側面を十分取り入れていない,という意味で too country-centric なのではないか. ・ 実際,グローバルな需給ギャップ指標を構築しクロスカントリーで分析 3) BIS は,これまで本問題について年次報告やスタッフによる Working Paper 等で検討結果を公 表している.最近のものとしては,たとえば White[2008]がある. 2 グローバリゼーションとインフレーション 43 すると,原油価格や輸入価格といった伝統的な海外要因を織り込んでも, 非常に高い説明力をもち,かつ 90 年代に時を追うごとに重要性を高めて いること,また,国内の需給ギャップ以上の重要性をもっていること,が 示される. 彼等の実証結果は多岐にわたるが,より詳しい議論は後回しにし,ここで は,彼らの議論のポイントを示す代表的な計測結果をあげておく. Borio and Filardo[2007]の実証分析の基本は(ニューケインジアンではな い)コンベンショナルなフィリップス曲線に「グローバルな需給ギャップ」 を付加し,それをさまざまな形に拡張したものである. ただし,被説明変数は,インフレ率からインフレのトレンド(期待インフ レ率の代理変数)を引いたもの,説明変数は前期の国内の需給ギャップと前 期のグローバル需給ギャップ(貿易額で加重和した貿易相手国の国内需給 ギャップ)である. Borio and Filardo[2007]は,主要 15 カ国とユーロエリアの 1975 年から 2005 年のデータを使ってこの式を推計し,それらの国のパラメータの変化 の平均値を報告している(図表 2 1). Borio and Filardo[2007]は,この結果について,グローバル需給ギャップ 図表 2 1 Borio and Filardo[2007]の推計による国内の需給ギャップとグローバル 需給ギャップのパラメータの時間的変化 Global gap (φ) Domestic gap (β) 0.3 0.2 0.1 0 1975─1995 1985─2005 1975─1995 1985─2005 Note: The bars represent the simple averages of the country-by-country estimates. 44 のパラメータが最近 20 年で,平均的に見てかなり大きくなっているのに対 し,国内需給ギャップのパラメータがかなり小さくなっている点を指摘し, これは,各国のデータをプールした分析結果と整合的であり,インフレ生成 過程に対するグローバルな需給ギャップの影響の強まりを示唆していると主 張している. さらに,Borio and Filardo[2007]は需給ギャップ以外にインフレに影響し そうなその他の諸要因を取り込む形で計測式を拡張した定式化での検討も 行っている.ここで追加されているその他の諸要因は,石油価格,輸入価格, 商 品 市 況,ユ ニ ッ ト・レ イ バ ー・コ ス ト な ど で あ る.Borio and Filardo [2007]は,これらの要因を取り込んでも上記のような結果は保持される,と している. この他,Borio and Filardo[2007]は 1985 年から 2005 年の時期を 2 つに分 け,グローバル需給ギャップを落としたより単純なフィリップ曲線の計測結 果も報告している.それによると,国内需給ギャップに対するインフレ率の 感応性は,大多数の国で程度の差こそあれ低下している.ただし,日本は唯 一の例外になっており,インフレ率の国内需給ギャップに対する感応性が高 まっている(図表 2 2). 2.2 グローブ・セントリック・ビューの金融政策運営への含意 かりに,インフレ生成過程におけるグローブ・セントリック・ビューが妥 当性をもつとすれば,それは,金融政策運営上にどのような含意をもつだろ うか.この点について,Borio and Filardo[2007]は以下のように主張してい る. ① 中央銀行は海外要因へのモニタリングへの傾注度を高める必要性が増大 している. ② より推測的になるが,中央銀行は政策においてシステマティックな誤り を犯すリスクをヘッジする必要がある.もし,グローバリゼーションがも たらすデフレ圧力を過小推計すると,超低金利の下で資産価格高騰と信用 供与の行きすぎなどの金融面での不均衡を累積させるとともに,中央銀行 の対応の遅れをまねき,予想外のインフレをもたらしかねない. 2 図表 2 2 グローバリゼーションとインフレーション 45 Borio and Filardo[2007]の推計による国内の需給ギャップに対するイン フレ感応度の時間的変化 Declining sensitinity of inflation to domestic measures of slack, 1980-2005 *) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 BE CA CH DE FR GB IT JP NL SE US XM ES AU AT NO NZ −0.2 Note: AT = Austria; AU = Australia; BE = Belgium; CA = Canada; CH = Switzerland; DE = Germany; ES = Spain; FR = France; GB = United Kingdom; IT = Italy; JP = Japan; NL = Netherlands; NO = Norway; NZ = New Zealand; SE = Sweden; US = United States; XM = euro area. *) The allow indicates the one-year impact on inflation of a change in the domestic output gap between 1980‒1992 and 1993‒2005; the one-year impact is measured as β×(1+γ+γ +γ ), +ε. See Table 1 for further calculated based on the estimated equation π=c+γπ+ βGap details. ③ さらに推測的になるが,このことは,各国中央銀行の金融政策の有効性 についての疑問をもたらしかねない.国内インフレがグローバルな需給 ギャップに左右される程度が高まるほど,金融政策の短期的有効性を弱め るであろう.フィリップスカーブが水平に近づいてきていることとあい まって,中央銀行はより大幅な政策変更を迫られるのではないか,さらに, 金融面のグローバリゼーションが長期金利の連動性を高めつつあることが, いっそう,金融政策による対応を難しくしないか. これらの点を踏まえると,グローブ・セントリック・ビューの当否は,今 後の金融政策運営を考える上で,大きな意味をもつことになり,Borio and Filardo[2007]の計測結果が,どの程度,頑健かは重要な論点になる. 46 3 Ihrig [2007]によるグローブ・セントリック・ビューの実 証的再検討 3.1 グローバリゼーションについての FED VIEW こうした,BIS のスタッフの計測結果と解釈について FED は,大きな関 心を示しているが,インフレ生成過程へのグローバリゼーションの影響につ いての実証的妥当性については,きわめて懐疑的な見解を示している.たと えば,バーナンキ議長は,グローバリゼーションが金融政策に与える影響を 主題とした講演(Bernanke[2007])のなかで,「相対価格変化である輸入価 格はインフレに影響を与えないはずであり,インフレ率は基本的に金融政策 のみで決まるというボール 4) などの主張があるが,これに対しては,短期 的には,ショックの影響を完全にオフセットしきれない,中央銀行はオポ チュニスティック・ディスインフレーションを進めた,という見方もありう ることに注意が必要であろう」 ,とグローバリゼーションのインフレ生成過 程への影響を全否定することは,慎重に避けたうえで, 「Borio and Filardo [2007]など,BIS エコノミストのグローブ・セントリック・ビューは興味深 い仮説だが,FED のスタッフの検討では,実証結果は不安定でロバストな ものではない」と述べ,金融政策への大きな影響には否定的立場をとってい る. 3.2 グローブ・セントリック・ビューの基本的ロジック バーナンキ議長が言及した FED のスタッフの検討結果は,その後,ディ スカッション・ペーパーとして対外公表された Ihrig [2007]であり,彼 らは,Borio and Filardo[2007]の計測結果を詳細に再検討したうえで,代替 的な計測結果を示している. Ihrig [2007]は, 「グローバリゼーションがインフレ生成過程に影響 を与える,という仮説は,各国市場の統合度が高まり,財,サービス,労働, 資本の価格の国家間の裁定関係が強まるなかで,最終的な財価格および要素 価格が国内市場での需給関係だけで決まる,というより,グローバル市場に 4) Ball[2006]. 2 グローバリゼーションとインフレーション 47 おける需給関係を反映する,という前提に立つものだ」 ,としたうえで,こ の場合, ① 国内物価の輸入価格に対するセンシティビティは直接・間接に高まる, ② たとえば,国内の需給ギャップが逼迫しで海外の需給ギャップが緩和し ているとき,要素価格の上昇を避けるため,海外にアウトソースする,と いうような連動関係が生じる可能性がある.この場合,フィリップス曲線 の説明変数にグローバルギャップの導入が正当化される余地が生じる, ③ 前項の系として,グローバリゼーションの進行のもとでは,物価の国内 需給ギャップへの感応度は低下する可能性がある, といった可能性があることを認める.こうしたロジックに対しては,インフ レ生成過程へのグローバリゼーションの影響を見る上では,①の輸入物価の 導入だけで十分ではないか,海外の需給逼迫度も輸入物価動向に反映されて いるはずであるから,との反論も考えられる.しかし,Borio and Filardo [2007]も指摘しているように,Ihrig [2007]は,輸入物価は海外要因が 国内物価に与える影響の「十分統計量」ではない,とし,輸入物価には実際 に輸入された財・サービスの価格しか反映せず,国内物価が上がりすぎた場 合に輸入財に切り替えられる潜在的可能性が国内物価や賃金を抑制するルー トは取り込まれていないこと,国内財が国内市場と海外市場の双方で販売さ れている場合,企業は海外の価格動向と国内市場の価格動向を比較して,販 売先を選定するはずであり,こうした要素は輸入価格で十分とらえきれない 可能性があること,などを指摘し,グローバリゼーションの影響を検証する 上では,①だけでは十分でない可能性がある,という仮説を原理的に認める 立場をとっている. このほか,Ihrig [2007]は,インフレ生成過程の変化とグローバリ ゼーションの関連についての追加的な仮説として,グローバリゼーションに よる競争圧力の高まりがマージンを抑えて物価の抑制につながっているとい う仮説 5) と,こうした競争圧力の高まりが生産性を高めることにより物価 を下方にシフトさせているという仮説を紹介し,前者については,コーンも 指摘しているように 6),近年,利益率は実際には上昇していること,後者に 5) 6) Chen, Imbs, and Scott[2004]. Kohn[2007]. 48 ついては,米国はともかく,他国では生産性上昇率の加速は観察されない 7) こと,などを理由にいずれも実証的に支持されない,としている. なお,Ihrig [2007]が実証的に否定している第 2 の論点に関連したも う 1 つの仮説として,ロゴフの議論も挙げられる.ロゴフ 8) の仮説は,グ ローバリゼーションとディレギュレーションは,各国市場における競争を高 めて市場における賃金・物価の硬直性を減らすとともに独占的競争にかかる マージンも小さくした,と論じ,こうした硬直性の低下とマージンの減少が 中央銀行にとってバロー・ゴードン的なサプライズ・インフレを起こす誘引 を低下させることにより,中央銀行のインフレ目標についてのクレディビリ ティを高め,合理的期待均衡におけるインフレ率を低下させたのではないか, というものである.このロゴフの推論は③と正反対の帰結をもたらす.しか し,上記のように,そもそもマージン率の圧縮は実際には観察されないうえ, Bernanke[2007]は,もし,この推論が正しければ,国内需給ギャップに対 する物価の感応度は上昇し,フィリップス曲線の傾きは急になるはずであり, フィリップス曲線のフラット化という観察事実に合わない,と主張している. その意味で,Borio and Filardo[2007]の仮説の方が③に関しては,妥当性が 高いといえよう. 3.3 Ihrig [2007]によるグローブ・セントリック・ビューの再検 証 Ihrig [2007]は,上述のように Borio and Filardo[2007]のロジックに 一定の説得力を認めた上で,その実証結果を詳細に検証し,いくつかの問題 点を指摘し,再推計を行っている. 具体的には,被説明変数であるインフレ率と期待インフレ率の乖離の代理 変数として,ヘッドライン・インフレからコア・インフレのトレンドを引く, といったやや特異な定式化を選択していること,グローバル需給ギャップを 計算する際の貿易相手国のカバレッジが小さいこと(Borio and Filardo [2007]では貿易相手国を上位 10 カ国に限定しているため,多くの貿易相手 国が捨象されてしまう) ,計算結果に系列相関が存在し,推計結果にバイア 7) 8) Gust and Marquez[2004]. Rogoff[2003]. 2 グローバリゼーションとインフレーション 49 スをもたらしている可能性があること,などである. そこで,Ihrig [2007]は貿易相手国を上位 35 カ国に広げるなど, Borio and Filardo[2007]の問題点を改善し,新たにフィリップス曲線の推計 を行っている. その結果,多くの国で国内ギャップの影響は低下しているとの結果は得ら れたが,肝心のグローバルな需給ギャップが有意との結果は得られないこと, 輸入物価の影響が上昇している国もあるが,その要因が輸入シェアの上昇と いえるほどの結果は得られない,金融政策の向上によるインフレーション安 定化の可能性や,貿易統合は長期と考えると,推計期間が短い可能性が考え られる,などの点を指摘し,現時点でのグローブ・セントリック・ビューの 実証的妥当性には否定的な結論を示している. Ihrig [2007]の推計例を 1 つ挙げておく.図表 2 3 の例は主要国の データをプールした推計であるが,グローバルな需給ギャップは有意でなく, 符号条件すら満たしていない. 上記の計測結果は各国データをプールしたものであるが,Ihrig [2007]は,各国別の推計も行っている.たとえば,コア・インフレ率を,そ のラグ値と食料品およびエネルギー価格(コア・インフレ率が被説明変数な ので,これらの変数を含めることによりセカンドラウンドの効果の把握を企 図することになる) ,国内需給ギャップ(グローバルな需給ギャップは有意 でないとの理由で落としている)で回帰した場合の国内需給ギャップ・パラ メータの推計結果 9) の変遷(10 年間のウィンドウをとったローリング・リ グレッション)を見ると,平均的には正だが小さくなる傾向がある,として いる.ただし,実際には,各国ごとにかなりばらつきがある.図表 2 4 では, 4 カ国を並べている. これを見ると,日本についてのインフレ率の国内需給ギャップ感応度の推 計結果は,Borio and Filardo[2007]と同様に上昇しているように見える. 9) 自由度不足からラグ・パターンについてアプリオリな制約(等ウェイト)を課している. 50 図表 2 3 Ihrig [2007]によるプールデータを用いた推計結果 Table 5a: Headline CPI Inflation and Foreign Output Gap*―Pooled Sample 1977 2005 1985 2005 1977 1990 1991 2005 Lagged inflation. sum SE 0.863 0.068 0.681 0.066 0.754 0.100 0.526 0.090 0.845 0.071 0.716 0.077 0.744 0.102 0.410 0.095 Domestic Output Gap SE 0.138 0.023 0.121 0.032 0.112 0.031 0.115 0.034 0.157 0.034 0.152 0.031 0.059 0.029 0.067 0.027 Foreign Output Gap −0.001 −0.063 −0.001 −0.059 −0.001 SE 0.000 0.067 0.000 0.110 0.000 −0.113 −0.001 −0.159 0.094 0.000 0.075 Import price. sum ** SE 0.021 0.013 0.010 0.014 0.021 0.014 0.002 0.015 0.012 0.018 0.004 0.019 0.034 0.015 0.014 0.017 Food price. sum ** SE 0.071 0.028 0.156 0.027 0.118 0.030 0.178 0.028 0.068 0.051 0.115 0.051 0.087 0.030 0.147 0.029 Energy price. sum ** SE 0.029 0.011 0.029 0.014 0.019 0.014 0.059 0.016 0.051 0.013 0.019 0.015 0.010 0.015 0.052 0.016 Adj R2 SER 0.906 1.113 0.931 1.009 0.812 0.928 0.856 0.858 0.909 1.336 0.934 1.219 0.747 0.847 0.813 0.769 No No Yes Yes No No Yes Yes No No Yes Yes No No Yes Yes Time Dummy Country Dummy * Inflation is measured as the annualized quarterly percent change in the seasonally adjusted headline CPI; equation includes constant and tax dummies (not shown) U.S. inflation uses the BLS current-methods headline CPI ** Annualized quarterly precent change difference from lagged core CPI inflation 3.4 日本のフィリップス曲線と国内需給ギャップの別の見解 ――木村ほか[2008] ただし,日本についての実証研究では,日本のフィリップス曲線の傾きは フラット化している,というパーセプションが一般的で,Borio and Filardo [2007],Ihrig [2007]の結果は一般的ではない. たとえば,木村ほか[2008]では, 「日本の 1990 年代後半以降のインフレ率と実体経済の関係について振り 返ってみると,① 1997 年末以降,景気の悪化にもかかわらず,デフレは 加速せず,インフレ率が小幅のマイナス領域に止まった,②また,2002 年以降,景気の長期回復にもかかわらず,インフレ率は目立って高まって いない,という特徴がうかがわれる.……本稿は,これを,フィリップス 2 図表 2 4 Ihrig Japan 95 2000 05 1.2 1.2 0.8 0.8 0.4 0.4 0.0 0.0 −0.4 −0.4 −0.8 −0.8 −1.2 −1.2 −1.6 −1.6 −2.0 Netherlands 1990 出典) Ihrig 51 [2007]による各国データを用いた推計結果例 United Kingdom 1990 グローバリゼーションとインフレーション 1990 95 2000 05 −2.0 United States 95 2000 05 1.2 1.2 0.8 0.8 0.4 0.4 0.0 0.0 −0.4 −0.4 −0.8 −0.8 −1.2 −1.2 −1.6 −1.6 −2.0 1990 95 2000 05 −2.0 [2007],アミ部分は 90%有意水準. 曲線のフラット化という観点から捉え考察を行った.フラット化の原因に ついては,既往理論をもとに,インフレ率の傾向的低下に伴う価格改定頻 度の低下や,競争激化を背景とした需要の価格弾性値の上昇など幾つかの 仮説が考えられるが,これらの要因だけで,計測されたフィリップス曲線 の特性を十分に説明することは難しい.我々は, 経済のグローバル化や 規制緩和などを背景に,財市場の競争構造や労働市場において,一方向の 調整圧力が持続的に発生すると,企業は個々の需給動向よりも,世間相場 を重視した価格設定を行うようになる ことを理論モデルで示す.そして, そうした企業の価格戦略が名目硬直性を高め,フィリップス曲線のフラッ ト化をもたらすことを指摘する」 としており,他の主要国同様,インフレ生成過程におけるインフレ率の国内 52 需給ギャップ要因に対するセンシティビティの低下がフィリップス曲線のフ ラット化をもたらしている,ということを前提として議論を展開している. 木村ほか[2008]では,インフレ率(前期比年率)を自己ラグ,産出ギャッ プ,供給ショック,で説明するタイプの誘導型フィリップス曲線で,インフ レ率に関しては,CPI(総合除く生鮮)と企業間取引価格も含む国内民需デ フレータ(SNA ベース)の 2 つを用い,産出ギャップについては,日本銀 行調査統計局計測の GDP ギャップ(以下「BOJ ギャップ」)と,HodrickPrescott フィルターによるトレンド除去後の実質 GDP(以下「HP ギャッ プ」)を使用している.また, 「供給ショック」としては,円建て輸入物価の 変化率(前期比)を用いている.逐次推計に当たっては,推計期間を 10 年 間(40 四半期)とし,推計始期を BOJ ギャップの利用可能な 1976/1Q から 1 四半期ずつずらして計測している. その結果について,木村ほか[2008]は,フィリップス曲線の傾きは,90 年代以降徐々に低下し,近年は統計的にゼロと有意に異ならないものとなっ ており,こうしたフラット化は,1990 年代以降の景気の長期低迷のもとで もデフレが加速しなかったこと,2002 年以降の長期の景気回復局面のもと でも,インフレ率が目立って高まらなかったことを定量的に描写したものと 考えられる,としている.また,以上の結果は,使用する国内ギャップやイ ンフレ率指標,逐次推計期間の長さに依存しない頑健なもの,としている (図表 2 5). 4 本稿での検討 10) 以上の先行研究を踏まえ,本節前半では,主として Borio and Filardo [2007]および Ihrig [2007]を出発点としてさらにグローブ・セントリッ ク・ビューの妥当性を掘り下げた実証的検討を行うとともに,Auer and Fischer[2008]による業種別データを用いた実証分析も行い,日本経済なら びに金融政策運営についてのインプリケーションを検討する.なお,前者の 実証分析については日本との比較の観点から必要に応じ米国,英国について 10) 本節での実証分析には,野口美雪氏(内閣府),鈴木一成氏(内閣府),および山本知範氏 (元内閣府,現在日本航空)にデータのご協力を頂いた.記して謝意を表したい. 2 図表 2 5 グローバリゼーションとインフレーション 53 木村ほか[2008]による誘導型フィリップス曲線の計測結果 インフレ率:CPI,計測期間:40 期 ⑴産出ギャップ:BOJ ギャップ ⑵産出ギャップ:HP ギャップ 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0 −0.5 −0.5 傾き (κ) 信頼区間(±1標準偏差) 信頼区間 (±2標準偏差) −1.0 −1.5 1976 78 80 82 84 (推計始期,年) 86 88 90 92 傾き (κ) −1.0 94 96 −1.5 1976 78 1.2 1.2 1.0 1.0 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 0.0 0.0 −0.2 80 82 84 (推計始期,年) 86 88 90 92 94 96 −0.2 慣性 (Σλ) −0.4 −0.6 1976 78 80 82 84 (推計始期,年) 86 88 90 92 94 96 −0.6 1976 78 1.0 2.0 1.0 0.0 0.0 −0.5 −1.0 −1.0 −2.0 −3.0 出尽くしベースの傾き −2.0 −4.0 −2.5 −5.0 −3.0 1976 78 80 82 84 (推計始期,年) 86 88 90 92 94 96 80 82 84 (推計始期,年) 0.5 −1.5 慣性(Σλ) −0.4 86 88 90 92 94 96 90 92 94 96 出尽くしベースの傾き −6.0 1976 78 80 82 84 (推計始期,年) 86 88 54 も対象とする. 4.1 Borio and Filardo[2007]の検証――グローバルな需給ギャップは国 内物価に重要な影響を及ぼしているか Ihrig [2007]は,第 3 節でみたように,グローブ・セントリック・ ビューの実証的妥当性に強い疑問を投げかけている.そこで,推計前の予備 作業として,まず,両論文によるグローバルな需給ギャップの作成方法の主 な相違点── Borio and Filardo[2007]は貿易相手上位 10 カ国の加重平均値 で計算したのに対し,Ihrig [2007]はその対象を 35 カ国に広げたとい う点──につきその影響を日米英について見る.貿易(輸出+輸入)総額に 上位 10 カ国が占める割合は,日米英とも 6 割前後であるのに対し,上位 35 カ国では 9 割近くまで上昇する(図表 2 6). また,日本の場合,2006 年における上位 10 カ国のうち,90 年,80 年に も上位 10 カ国に含まれる国は 6 カ国(米国,中国,韓国,オーストラリア, ドイツ,インドネシア)に止まるのに対し,2006 年における上位 35 カ国の うち,80,90 年に上位 35 カ国に含まれていない国は 6 カ国に過ぎない(章 末付表 1 参照).これらの傾向は米英も類似している.したがって,上位 10 カ国に限定することに疑問をもった Ihrig [2007]の問題意識は,妥当性 をもつと考えられる. 次に,Borio and Filardo[2007]の基本的定式化を踏襲した再推計を行った (図表 2 7) .ただし,グローバルな需給ギャップ変数としては,上位 10 カ国 と 35 カ国それぞれにつき可能な範囲で再現し変数を作成した 11).国内需給 ギャップのみを説明変数とした推計結果を見ると,国内需給ギャップの係数 は,日米では有意でかつ Borio and Filardo[2007]および Ihrig [2007]と 11) Borio and Filardo[2007]と Ihrig [2007]によるグローバルな需給ギャップ計算方法のその 他の主な相違点として,各国需給ギャップの加重平均値を計算する際に,前者ではある年におけ る固定ウェイトを用いているのに対し,後者では各年の値による可変ウェイトを用いていること, Ihrig [2007]では固定した 35 カ国を対象としていることがある.ただし,Borio and Filardo [2007]では,いつ時点の固定ウェイトを用いたかは明示されておらず,Ihrig [2007]では当 該 35 カ国が明示されていない.そこで,推計にあたっては,上位 10 カ国でのグローバル需給 ギャップ変数についても可変ウェイトを用い,35 カ国については,各年の上位 35 カ国を用い可 変ウェイトにより算出した.なお,Borio and Filardo[2007]では,ウェイトとして貿易以外に輸 入のみ,GDP 等のウェイトも試みているほか,Ihrig [2007]はウェイト作成にあたり第 3 地 域の競争力率も考慮している. 2 図表 2 6 グローバリゼーションとインフレーション 55 上位貿易相手国数による貿易シェアの変化――日米英の比較 貿易相手上位 10 カ国,35 カ国が貿易輸出入総額に占める割合(%) 1980 年 1990 年 2006 年 上位 10 カ国 上位 35 カ国 上位 10 カ国 上位 35 カ国 上位 10 カ国 上位 35 カ国 日本 米国 英国 58.0 56.7 60.5 87.3 86.0 89.0 61.0 65.4 68.7 88.9 90.5 94.5 63.1 64.9 62.1 89.0 88.5 88.6 注) IMF,DOT より輸出+輸入で計算.相手国の詳細は付表参照. ほぼ同様の結果が得られた一方,英国では有意にならなかった(5 列目).グ ローバルな需給ギャップを説明変数に加えた場合,米国は,両論文と同様国 内ギャップが有意でなくなり,代わりにグローバルな需給ギャップが有意に なるという結果が得られた(6 7 列目).しかし,日本については,グローバ ルな需給ギャップはともに有意とならず,国内需給ギャップが引き続き有意 という結果となった.英国は,上位 10 カ国で計算したグローバルな需給 ギャップは有意だが,上位 35 カ国の場合は 5%水準では有意とならなかっ たほか,誤差項の相関をコントロールする 1 つの手段として推計式に AR ⑴ を加えて推計を行った場合,ともに有意性が失われた. 以上をまとめると,Borio and Filardo[2007]のもっともベーシックな定式 化による推計については,グローバルな需給ギャップの係数が米国はグロー バルな需給ギャップの定義の仕方にかかわらずプラスで有意となったものの, 日英では有意でない結果となった. 4.2 Ihrig [2007]によるより一般的な定式化による推計 Borio and Filardo[2007]による定式化では,第 3 節でも述べたように,期 待物価上昇率の代理変数として CPI コア上昇率を用いる等やや特殊な定式 化を採用しているほか,系列相関が存在する点にも留意する必要がある. Ihrig [2007]は,これらを考慮し(2.1)式を用いた推計も行っている. π = α + ∑ β π + γ GAP + δ GAP + ∑ ρ ( p − π ) + ∑ τ ( p − π ) + ∑ θ ( p − π ) + + e (2.1) Adj R Serial independence GAP_frb (−1) GAP_bis (−1) GAP (−1) const. Adj R Serial independence GAP_frb (−1) GAP_bis (−1) GAP (−1) const. Adj R Serial independence GAP_frb (−1) GAP_bis (−1) GAP (−1) 0.13 ― −0.17 (0.13) 0.24 (0.06) 0.07 ― 0.03 (0.11) 0.22 (0.08) 0.22 ― −0.19 (0.09) 0.20 (0.04) ⑵ 0.28 ― 0.11 (0.14) 0.00 (0.08) 0.79 (0.19) 0.42 ― −0.03 (0.09) −0.13 (0.08) 0.61 (0.09) 0.31 ― −0.18 (0.08) 0.12 (0.04) 0.22 (0.07) BIS 0.13 0.00 −0.16 (0.13) 0.24 (0.07) 0.08 0.00 0.03 (0.11) 0.23 (0.08) 0.22 0.00 −0.20 (0.09) 0.19 (0.04) ⑶ ⑷ 0.15 0.00 0.32 (0.17) −0.04 (0.15) 0.18 (0.07) 0.29 0.00 0.60 (0.12) 0.03 (0.10) −0.03 (0.09) 0.21 0.00 0.03 (0.10) −0.19 (0.09) 0.19 (0.04) FRB ⑹ ⑺ ⑻ ⑼ ⑽ (参考)AR ⑴を加えた場合 0.22 0.00 0.22 0.00 0.01 0.00 −0.26 ** (0.13) 0.13 (0.09) 0.12 0.00 0.22 0.00 0.13 0.00 0.04 0.00 −0.19 −0.26 ** (0.12) (0.13) 0.18 * 0.18 ** (0.09) (0.10) 0.38 *** (0.11) 0.21 * (0.12) 0.28 0.00 0.75 −0.02 (0.46) 0.23 (0.11) 0.75 0.15 (0.40) 0.16 (0.11) 0.70 0.75 −0.02 (0.42) 0.23 ** (0.11) 0.13 (0.16) 0.77 0.13 (0.34) 0.03 (0.11) 0.38 *** (0.14) 0.71 [2007]の Table 1 より転載. −0.02 −0.02 −0.08 (0.10) (0.10) 0.23 *** −0.02 0.04 (0.07) (0.08) (0.09) 0.49 *** (0.11) 0.38 *** (0.11) 0.22 0.00 0.75 0.13 (0.17) −0.04 (0.44) 0.24 ** (0.11) 0.76 0.33 *** (0.14) 0.10 (0.37) 0.05 (0.11) 0.70 −0.24 ** −0.23 ** −0.23 ** −0.25 −0.24 −0.25 (0.26) (0.27) (0.26) (0.09) (0.09) (0.09) 0.16 *** 0.15 *** 0.17 *** 0.15 *** 0.14 *** 0.16 *** (0.04) (0.04) (0.04) (0.07) (0.07) (0.07) 0.02 0.14 (0.09) (0.12) 0.15 0.13 (0.09) (0.13) ⑸ 注) 1.OLS により推計.⑴は Borio and Filardo[2007] Table 3,⑵は同 Table 4,⑶,⑷は⑴の再現を行った Ihrig ⑴,⑵の推計期間の最終期は,日米については 05 年第 2 四半期,米国については第 4 四半期.推計式は, π − π = const. + β GAP + Φ GAP + ε 国 英 国 米 本 日 const. ⑴ 図表 2 7 Borio and Filardo[2007]型推計の再検証(1985.1 2005.4) 56 77 05 0.918 0.680 0.464 0.785 0.806 85 05 0.879 0.619 0.823 0.185 0.347 0.821 (0.112) 0.048 (0.060) 0.087 (0.114) −0.007 (0.019) 0.124 (0.071) −0.005 (0.031) 0.927 0.611 0.998 0.959 0.300 0.950 *** (0.044) −0.009 (0.037) −0.033 (0.072) 0.040 (0.027) 0.105 * (0.055) 0.006 (0.015) 0.932 0.471 0.858 0.312 0.728 0.859 *** (0.078) 0.045 (0.039) 0.026 (0.070) 0.058 ** (0.026) 0.170 *** (0.053) −0.018 (0.022) 77 05 0.958 0.528 0.083 0.173 0.987 0.976 (0.031) 0.179 (0.052) −0.157 (0.087) 0.024 (0.025) 0.088 (0.047) 0.028 (0.010) 85 05 米 0.886 0.469 0.024 0.061 0.873 0.902 (0.079) 0.140 (0.061) −0.048 (0.098) 0.042 (0.027) 0.101 (0.056) 0.013 (0.010) FRB 0.886 0.875 0.011 0.570 0.009 1.032 *** (0.064) 0.284 *** (0.088) −0.249 (0.151) 0.007 (0.027) 0.155 * (0.088) 0.014 (0.016) 80:1 05:4 国 0.895 0.467 0.094 0.388 0.986 0.890 *** (0.101) 0.050 (0.060) 0.085 (0.115) 0.023 (0.019) 0.122 ** (0.052) −0.002 (0.009) 85:1 05:4 77 05 0.868 1.589 0.018 0.125 0.791 0.918 (0.054) 0.245 (0.113) −0.081 (0.211) −0.035 (0.051) 0.381 (0.161) 0.083 (0.056) 85 05 英 0.663 1.402 0.008 0.025 0.928 0.847 (0.092) 0.470 (0.149) −0.235 (0.297) 0.024 (0.055) 0.188 (0.187) 0.093 (0.066) FRB [2007]によるより一般的な定式化による再推計 85:1 05:4 Ihrig 80:1 05:4 本 0.853 1.368 0.000 0.001 0.404 0.921 *** (0.055) 17.34 (12.66) 0.356 ** (0.143) 0.027 (0.034) 0.140 (0.163) −0.067 (0.043) 80:1 05:4 国 0.717 1.228 0.000 0.084 0.116 0.831 *** (0.106) 19.42 (15.93) 0.322 ** (0.149) 0.019 (0.037) −0.040 (0.170) −0.065 (0.054) 85:1 05:4 注) 1.OLS により推計.被説明変数は CPI 総合の前期比. ( )内は標準偏差.* は 10%,** は 5%,*** は 1%水準で有意であることを示す.Import price, Food price, Energy Price は,Ihrig , Table 3 にならいそれぞれ輸入物価,CPI 食料,CPI エネルギーを CPI コア一期ラグとの乖差を取り年率化. Normality test は Jarque-Bera Normality test. 2.各国の最初の 2 列の結果は Ihrig [2007]の Table 3 より転載. Adj R2 s.e Normality Serial independence ARCH 1 4 0.936 (0.044) Domestic output gap −0.022 (0.042) Foreign output gap 0.065 (0.069) Import price, sum 0.006 (0.015) Food price, sum 0.081 (0.057) Energy price, sum 0.017 (0.018) Lagged inflation, sum FRB 日 図表 2 8 π:消費者物価総合前年同期比,π:消費者物価(コア)前年同期比,GAP:国内需給ギャップ,GAP:グローバル需給ギャップ,ε:残差項 Serial independence は 4 期ラグの LM テストの P 値で,たとえば 0.05 未満であれば 5%水準で棄却される(系列相関が存在する)ことを示す. 2.国内 GDP ギャップは日米については OECD のデータを用い,英国は当初 OECD データを用いたところ国内 GDP ギャップの係数が負となったことから, 実質 GDP を用いて HP フィルターにより作成. 3.グローバル需給ギャップとして,⑹は Borio and Filardo[2007]にならい貿易相手上位 10 カ国,⑺は Ihrig にならい上位 35 カ国で計算した指標を用いた. 4.⑵で提示された推計に用いられたグローバル需給ギャップは日本の結果は為替ウェイト,米国は輸入ウェイト,英国は GDP ウェイトで計算した結果である. 5.日本の消費税ダミーについては,89 年第 2 四半期と 97 年第 2 四半期のみについてそれぞれ入れているが,継続する 4 期間について入れてもグローバル需 給ギャップ,国内ギャップの有意さは変わらなかった. 2 グローバリゼーションとインフレーション 57 58 ただし,π は消費者物価総合指数(ヘッドライン CPI)の前期比年率, GAP はグローバルな需給ギャップ,GAP は国内需給ギャップ,p は消 費者物価(エネルギー) ,p は消費者物価(食料),p は輸入価格(一次 は税ダミー,e は誤差項である. 産品除く), (2.1)式は,期待物価について適応的期待を用いたより一般的(conventional)な推計であり,また,供給ショック要因として輸入価格,エネル ギー価格および食料価格を考慮している.本稿第 3 節でみたように,Ihrig [2007]は(2.1)式を用い各国別およびプールデータによる推計を行い, グローバルな需給ギャップは有意でなく符号条件すら満たさないという結果 を得ている. この結果を確認するため(2.1)式を用いて日本,米国,英国について各 国毎に推計したところ,図表 2 8 にあるように英国についてはグローバルな 需給ギャップが正で有意になったものの,分散不均一性や系列相関の問題が あるという結果となり,日本および米国についても有意にならなかった. 4.3 日本について若干のさらなる検討① ――輸出入を通じた国内物価への影響 以上の結果によれば,グローバルな需給ギャップが国内物価に与える影響 について,彼らの手法に従った定式化で各国推計を行った場合,少なくとも 日米英についてはロバストな結果が得られず,Ihrig [2007]の結論を支 持する結果となっている.しかし,グローバリゼーションが国内のインフレ 生成過程に及ぼす影響としては,グローバルな需給ギャップ以外のパスも考 えられる.Ihrig [2007]では,グローバリゼーションによる国内物価へ の影響として,IMF[2006]等の先行研究を参照しつつ(2.2)式を用いた検 証も行っている. π = α + ∑ β π + δ G AP + δ G AP ⋅ + ∑ ρ ( p − π ) + ∑ τ ( p − π ) + ∑ θ ( p − π ) + ∑ θ ( p − π ) ⋅ ( Mshare ) 2 + グローバリゼーションとインフレーション 59 (2.2) + ε ただし,π は CPI コア前期比年率, は(名目輸出+名目輸入)/名 目 GDP,Mshare は名目輸入/名目 GDP,e は誤差項である.ここで,グ ローバリゼーションにより国内需給ギャップが国内物価に及ぼす影響が低下 しているのであれば,δ は負になると考えられる. 国内の需給ギャップに対する国内物価への影響を分析するために,このよ うなクロス項をとり入れた先行研究はすでに存在するものの,結果について は必ずしもコンセンサスがあるとはいえない.たとえば,IMF[2006]は G7 およびオーストラリアの 8 カ国について 1960 年から 2004 年を対象に SUR による推計を行い,国内 GAP と (輸出入/GDP)のクロス項は有 意という結果を得ている.一方,Ball[2006]は 1971 年から 2005 年を対象に G7 についてパネル・データにより推計し,当該クロス項はマイナスに有意 だがきわめて小さいと結論づけている.一方,Ihrig [2007]は,先進 11 カ国については多くの国で有意でないという結果を得ているものの,日本に ついては負の符号条件を満たしているともとれる結果となっている. また,グローバリゼーションの影響は,輸入物価を通じて国内物価に及ぶ 可能性についても指摘されている.IMF[2006]は,直接的な検証とは異なる ものの,相対輸入価格変化率と輸入の対 GDP 比とのクロス項を追加した推 計を行い,プラスで有意なパラメータを得る一方で,この項を追加すると, 国内 GAP と のクロス項が有意でなくなる(1%有意から 10%有意 に低下)という興味深い結果を得ている.Ihrig [2007]は,輸入価格と 輸入/GDP のクロス項を入れて推計を行い,ほとんど有意でないか,有意で 小さいという結果を得ている. そこで,以下では,日本について,まず Ihrig により推計を行った後,Ihrig [2007]と同様の定式化 [2007]では先験的に強い制約が課されて いるラグ変数の長さやパラメータの大きさについての制約を緩めた推計を 行った(図表 2 9). まず,Ihrig GAP と 果が得られた(6 [2007]と同様のラグパターン制約を課した場合,国内 のクロス項は Ihrig 行目)12) [2007]と同様マイナスで有意な結 .ただし,推計期間を 80 年代と 91 年以降とに区分 60 図表 2 9 と国内ギャップのクロス項,輸入価格と輸入シェアのクロス 項を含めた場合 FRB unrestricted Lagged inflation, sum Domestic output gap Domestic output gap ×openness Import price, sum Import price ×import share, sum Food price, sum Energy price, sum Adj R2 Serial independence restricted unrestricted restricted 77 05 77 05 77 90 91 05 80:1 05:4 80:1 05:4 80:1 90:4 91:1 05:4 ⑴ ⑵ ⑶ ⑷ ⑸ ⑹ ⑺ ⑻ 0.830 (0.050) 1.219 (0.387) −5.866 (1.832) −0.189 (0.072) 2.143 (0.727) 0.036 (0.074) 0.017 (0.021) 0.784 (0.104) 1.140 (0.342) −5.542 (1.621) −0.223 (0.056) 2.621 (0.530) 0.085 (0.065) −0.017 (0.021) 0.707 (0.178) 1.140 (0.532) −5.529 (2.379) −0.248 (0.083) 2.855 (0.775) 0.151 (0.185) −0.021 (0.033) 0.557 (0.189) 1.208 (0.628) −5.258 (3.032) −0.266 (0.172) 2.877 (1.917) 0.103 (0.060) 0.005 (0.048) 0.839 0.783 0.840 0.781 0.719 0.877 0.798 0.582 0.923 *** 0.873 ***−0.021 *** 0.551 *** (0.057) (0.061) (0.023) (0.170) 0.798 ** 0.934 ** 0.791 0.656 (0.392) (0.392) (0.961) (0.637) −3.939 ** −4.556 ** −4.262 −2.343 (1.896) (1.876) (4.265) (3.221) 0.017 −0.173 −1.145 *** 0.198 (0.186) (0.187) 0.319 (0.473) 0.738 2.771 11.019 ***−1.530 (0.864) (1.922) (0.288) (4.831) 0.091 0.089 −0.119 0.168 *** (0.068) (0.073) (0.219) (0.063) −0.004 −0.011 0.005 −0.060 (0.023) (0.028) (0.041) (0.050) 0.841 0.199 0.802 0.170 0.750 0.085 0.818 0.994 注) 1.OLS により推計.被説明変数は CPI コア前期比を年率化.Unrestricted は⑵式でラグに係数制 約を課さない場合,restricted は 2 期ラグから 5 期または 6 期ラグの係数を等しいと仮定. 2.Serial independence は 4 期ラグのテスト値.たとえば 0.05 未満であれば 5%水準で棄却される ことを示す. 3.最初の 4 の結果は Ihrig [2007]の Table 7 より転載. した場合はパラメータが有意でなくなった(7 8 行目).一方,輸入物価と輸 入シェア(輸入/GDP)は Ihrig [2007]では輸入価格はマイナスで輸入 シェアとのクロス項はプラスという,輸入価格の影響が輸入シェア拡大とと もに増大することを示唆する結果となっていたのに対し,本稿では符号条件 は満たしたものの有意ではなく,また,推計期間を 80 年代と 90 年代以降に 分けた場合,90 年代は符号条件も満たさなかった. 次に,ラグ変数のパラメータ制約を外した推計を試みた.具体的には, Ihrig [2007]はラグ変数の長さを 6 期としかつ 2 期から 6 期のパラメー タは等しいと仮定していたが,ここではラグの長さもパラメータの大きさも 12) Ihrig [2007]は,ここでのラグ制約について,米国についてテストした場合ラグの長さを 多少変えても結果はロバストであり,各国比較の観点等から他国についてもこの制約をあてはめ たと説明している. 2 図表 2 10 グローバリゼーションとインフレーション 61 ラグ項の長さ・パラメータの大きさについての制約を外した場合 80:1 05:4 80:1 90:4 ⑴ Lagged inflation(−1) 0.387 *** (0.062) Lagged inflation(−2) 0.478 *** (0.061) Domestic output gap(−1) 0.573 ** (0.272) Domestic output gap(−1) −2.670 ** ×openness(−1) (1.288) Import price(−1) 0.061 *** (0.018) Food price 0.077 *** (0.017) Energy price(−1) 0.020 ** (0.009) Adj R2 S.E. of regression Serial independence 0.814 0.793 0.852 91:1 05:4 80:1 05:4 80:1 90:4 91:1 05:4 ⑵ ⑶ ⑷ ⑸ ⑹ 0.338 *** (0.107) 0.303 *** (0.108v 0.332 (0.410) −1.738 (1.824) 0.056 * (0.028) 0.151 *** (0.038) 0.032 ** (0.013) 0.194 ** (0.085) 0.348 *** (0.081) 1.131 ** (0.500) −4.699 * (2.533) 0.026 (0.025) 0.032 ** (0.015) 0.012 (0.018) 0.397 *** (0.637) 0.473 *** (0.062) 0.015 (0.040) 0.666 0.896 0.923 0.842 0.546 0.340 0.342 *** 0.192 ** (0.107) (0.087) 0.291 ** 0.346 *** (0.108) (0.083) −0.052 0.209 *** (0.077) (0.057) 0.048 *** 0.0428 * 0.029 (0.018) (0.025) (0.025) 0.076 *** 0.151 *** 0.032 ** (0.018) (0.038) (0.015) 0.017 * 0.031 ** 0.012 (0.009) (0.013) (0.019) 0.808 0.807 0.952 0.667 0.894 0.973 0.834 0.558 0.276 注) 1.OLS により推計.被説明変数は CPI コア. 2.Serial independence は 2 期ラグの LM テスト値.たとえば 0.05 未満であれば 5%水準で棄却さ れることを示す. 仮定せず,有意でない変数を順次除外していくという general to specific ア プローチにより変数選択をフルサンプルの推計期間(80 年第 1 四半期 2005 年第 4 四半期)で行い,推計期間を分割した式にも同じ説明変数を用いた. また,同時性の問題を考慮し,国内需給ギャップは一期ラグ変数を用いた (図表 2 10). その結果,国内需給ギャップおよび国内需給ギャップと とのク ロス項ともに有意という結果が得られたが(1 行目),推計期間を分割した場 合,80 年から 90 年までの推計ではともに有意でなくなり(2 行目),91 年以 降の推計では国内ギャップは有意となったものの, とのクロス項 については有意でなくなった(3 行目,10%水準では有意) .なお,輸入物 価と輸入比率のクロス項を説明変数に加えた推計も試みたが,クロス項のパ ラメータは正となったものの,統計的に有意とはならなかった. 最後に,国内需給ギャップおよび国内需給ギャップと とのクロ ス項の係数の時系列変化を見るため,これらパラメータの推計結果の変遷 62 図表 2 11 ⑴ 0.5 ローリング推計の結果 とのクロス項を含まない場合 (60期) (参考) とのクロス項を含まない場合(40期) 国内需給ギャップ 国内需給ギャップ 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0.0 0.0 −0.1 −0.1 −0.2 −0.2 1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 −0.3 推計最終期 ⑵ とのクロス項を含む場合 (60期) 国内需給ギャップ 推計最終期 4 15 3 10 国内需給ギャップ× 5 2 0 1 −5 0 −10 −1 −2 1990 91 92 93 94 95 96 97 98 992000 01 02 03 04 05 0607 −15 1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 −20 推計最終期 ±標準偏差 1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 推計最終期 ±2×標準偏差 (15 年間のウィンドウをとったローリング・リグレッション)を見ると,ま ず,クロス項を含まない場合,国内ギャップのパラメータは数年前まで上昇 する傾向にあったが,その後は低下傾向にあるとの結果になった(図表 2 11 ⑴) .これは程度の差はあるものの,Ihrig [2007]および木村ほか[2008] で得られた結果と共通して見られる特徴である.なお,参考として推計期間 を 40 期に短縮するとこの傾向はより明確になる(図表 2 11 ⑴参考). 次に, とのクロス項を含んだ場合, とのクロス項のパ 2 図表 2 12 グローバリゼーションとインフレーション と の推移 0.7 0.35 0.6 0.3 0.5 0.25 0.4 0.2 0.3 0.15 0.2 0.1 0.1 日本 英国 米国 63 0.05 0 1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 日本 英国 米国 0 1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 ラメータは変動しながらも低下し,ここ数年は横ばい傾向がみられる(図表 2 11 ⑵) .ただし,有意水準でみると標準偏差の幅はゼロに近いところまで 達しており, とのクロス項の影響についてこの結果だけでは明確 な判断は難しい面もある. 図表 2 12 は,日米英の る. と (Mshare)を示してい は米国では 80 年代半ば頃から上昇する傾向にあり,日本では 80 年代半ばに大きく低下した後,90 年代後半から再び上昇傾向にある. についても同様な傾向がみられる.なお,図表 2 10 の 1 列目 で得られた国内ギャップと のクロス項のパラメータは−2.67 であ り,1994 年から 2005 年までに これらを単純に当てはめると は約 0.06 上昇していることから, の上昇は,おそらくは国内市場にお ける競争をうながすことなどを通じ,94 年から 2005 年の間に国内ギャップ が国内物価に与える短期的な影響を約 0.16 程度低下させる効果をもったと 解釈される. 以上より,日本については ・グローバル需給ギャップが有意との結果は得られない, ・国内需給ギャップが国内物価に及ぼす影響は,上昇した後低下している 可能性があるが,依然有意である, ・日本のフィリップス曲線の傾きの低下の要因をグローバル需給ギャップ 64 で説明することは難しいが,グローバリゼーションと関係している可能 性はある, との結果が得られた. ちなみにユーロエリアについて分析した Calza[2008]も,日本同様,グ ローブ・セントリック・ビューに否定的な結果を得ている.しかし,Ihrig [2007]も指摘しているように,グローバリゼーションが国内物価に及 ぼす影響を,これまで見てきたデータ・手法で分析することは,とくに 90 年代以降先進国の物価上昇率の変動幅が縮小するという状況のなかでより困 難になっている可能性がある.また, の影響についても, - は多少の変動はあるもののトレンド的な特性をもつ変数であり,有意 な推計結果が得られたとしても,それが本当に による影響なのか を見極めるためには少なくとも一定期間のサンプルを確保すること等が望ま れるが,これは同時にここで用いられている手法では,相対的に短い期間に おける変化の分析には限界があることを意味する. 4.4 日本について若干のさらなる検討②――業種別データによる検証 そこで,これまで行ったマクロ・データによる検証を補完する意味で, Auer and Fischer[2008]の手法による業種別データを用いた検証を試みた. Auer and Fischer[2008]は,中国はデフレを輸出しているか,という国際経 済学上の関心に緻密な実証で応えた Kamin, Marazzi, and Schindler[2006]が, 中国からの輸出が,米国の輸入物価に予想に比べはるかに小さな影響しか与 えておらず,生産者物価にはほとんど影響を与えていない,という結果や オーストラリア,ノルウェー,日本,英国などについての同様の実証が同じ ような結果になっていることについて,推計上のバイアスが大きな影響を与 えている,と主張している.具体的には,グローバリゼーションが物価に与 える影響を低所得国からの輸入増加が国内価格に与える影響により検証する 場合に,両変数はともに国内需要の変数であるために OLS による推計では バイアスが生ずる可能性がある,とする.その上で,業種別データを用いた 操作変数法による推計を行い,製造業において低所得国からの輸入増が米国 における分析対象セクターの国内企業物価を抑制させるうえで大きな効果を もった 13) と主張している.われわれはこの結果に興味をもち,Auer and 2 グローバリゼーションとインフレーション 65 Fischer[2008]を参考に,日本についての業種別データを用いた検証を試み た. Auer and Fischer[2008]は,アメリカの国内企業物価の変化と低所得国 (Low income countries)からの輸入増加との真の関係が ∆p = α + β∆m + ε + ε (2.3) p :米国の j セクターの t 期における国内企業物価 m :j セクターの低所得国からの輸入額 ε:米国内企業物価へのコモン・ショック ε :米国 j セクター国内企業物価への固有ショック で表されるとし,低所得国からの輸入が米国国内物価を押し下げているので あれば,β<0 が期待されるとする.ところが,j セクターの低所得国からの 輸入 m は,米国の国内需給要因の影響を受けている可能性がある.すな わち,需給要因により国内物価が上昇するときは輸入も増加しやすいと考え られることから, (2.3)式を OLS で推計しても,真の β が得られない可能 性がある. そこで,低所得国からの j セクターの米国向け輸出は,米国における j セ クターの価格動向と輸出サプライショックの影響を受け((2.3)式),j セ クターの輸出サプライショックは,低所得国の成長率と j セクターの労働集 約度に左右される((2.4)式),という観察される低所得国からの輸入の特 徴を踏まえ,以下の 2 式を考える. ∆m = α + δ∆p + θ∆s + ε + ε (2.4) s :j セクターの低所得国における輸出 サプライショック(unobserved) ε:米国輸入へのコモン・ショック ε :米国 j セクター輸入への固有のショック 13) 彼らは,CPER のサイトにおけるこの論文の 6 月 13 日付の紹介記事で Research using a novel empirical technique suggests that import competition from low-wage countries dampens US producer price inflation for manufactured goods by more than 2 percentage points annually. と述 べている. 66 ∆ε = α + λ g + λ g ls + ε + ε (2.5) g :低所得国の製造業成長率, ls :米国における j セクターの労働集約度 ε:供給についてのコモン・ショック ε :j セクター固有の供給ショック ここで,g は米国の総需要と相関している可能性があるため,セクター間 の輸入変化の差に着目すると,労働集約度の差の誘導形関数として表現でき る. ∆m − ∆m = α + θλ g ( ls − ls ) + ε (2.6) 1 − δβ (2.6)式の労働集約度の差を,輸入額の操作変数として用いることにより, 同時バイアスを回避することができる.さらに,パネル・データを用いた推 計に当たっては,固定効果モデルで各年ダミーを含めた推計を行うことによ り,毎年起こるさまざまなマクロ的ショックおよびセクターごとのトレンド 的な要因を除去する. Auer and Fischer[2008]では,OLS で推計すると,図表 2 13 の第 1 列目 に示されているように,低所得国からの輸入は,米国の企業物価にむしろプ ラスの影響を及ぼす結果となるが,操作変数を用いて推計すると,第 5 列目 にあるように,価格に対する輸入の符号は負で有意という結果となっている. そこで,以下では,Kamin, Marazzi, and Schindler[2006]同様,近年高成 長とともに世界への輸出が大幅に拡大し,すでに日本の輸入の 2 割を占める ようになった中国に着目し,中国からの輸入増が日本の企業物価に負の効果 をもたらしたか否かを分析する.また,参考として NIES からの輸入につい ても推計した. 推計に当たっては,国内企業物価統計,貿易統計,工業統計表から,被説 明変数である国内企業物価の個々の品目に対応する輸入コードおよび工業統 計表の品目コード(あるいは細目コード)をマッチングさせてパネル・デー タを作成した 14).マッチングに先立ち工業統計表の細目分類により労働集 約度を計算し,労働集約度が負あるいは 1 を超えた年のある 6 細目は除外し 2 図表 2 13 グローバリゼーションとインフレーション 67 Auer and Fischer[2008]による推計結果 Table 2 LIC Importe and U.S. Prices: OLS and IV Results (Fixed Effects Panel Estimations) ⑴ ⑵ ⑶ ⑷ ⑸ Estimation: Sample: Panel B: OLS or 2nd Stage-Dep. Var. is the v/v Ln-chanae U. S. Producer Price Ch. Imports LIC (in % of U.S. Industriy Size) Ch. % LIC Manfacturing Output Within R-Square 0.232 [0.047]** 0.01 0.048 [0.047] 0.508 [0.038]** 0.08 −0.009 [0.047] 0.11 −3.112 [0.733]** 1.269 [0.187]** −3.097 [0.710]** Panel A: First Stage Estimation-Dep. Var. is the y/y change in (Imports LIC / U.S. industry Size) Labor Share * Ch. % LIC Manfct. Output Ch. % LIC Manfacturing Output 1.07 [0.200]** −0.675 [0.172]** 1.073 [0.197]** Year dummies (both stages) n n y n y Observations Sectors R-Square (first stage within) 2667 325 ― 2667 325 ― 2667 325 ― 2667 325 0.10 2667 325 0.12 Notes: Panel B of Table 2 displays the relation between changes of imports from nine LICs and U. S. Producer Prices. The dependent variable is the annual change in the logarithm of U.S. producer price at the six-digit NAICS level (only manufacturing industries). Ch. Imports LIC is defined as the y/y absolute change in (LIC Imports/US Industry Size) . U.S. Industry Size is defined as the 1997‒2006 average value of U.S. shipments plus world imports. In Columns (2) and (4). Ch. % LIC Manfect is the weighted growth rate of manufacturing output in the nine LICs. In the lower Panel A the first-stage relation is displayed and the instrument is the sectoral labor intensity times Ch. % LIC Manufacturing output. All estimations include fixed effects by sector, *significant at 5%: **significant at 1%. た.このような作業の結果,マッチングが可能であったのは 332 品目であっ た.そこから,説明変数の 3σ を超えるサンプルを異常値として除外し得ら れた 331 品目を推計の対象とした(データ作成および異常値除去の詳細につい ては,補論参照) .推計期間は工業統計表が 2002 年に組替えが行われたこと を踏まえ 2003 年から 2006 年とし,国内企業物価は最新の 2005 年基準は品 目レベルでは 2005 年以前のデータが公表されていないことから,2000 年基 準を用いた.基本統計量は図表 2 14 のとおりである. 14) 当該データの収集・作成にあたっては,関根敏隆氏(日本銀行)にご助力をいただいた.記 して謝意を表したい. 68 図表 2 14 分析に用いたデータの基本統計量 Variable (中国推計) △ lndpi lratio lratio_ave imratio_china △ imratio_china (NIES 推計) △ lndpi lratio lratio_ave imratio_nies △ imratio_nies 変数名: △ lndpi lratio lratio_ave imratio_china △ imratio_china imratio_nies △ imratio_nies Obs Mean Std. Dev. Min Max 1264 1264 1264 1264 1264 0.011 0.330 0.334 0.048 0.004 0.051 0.129 0.123 0.107 0.010 −0.191 0.013 0.017 0.000 −0.041 0.218 0.891 0.670 0.761 0.053 1267 1267 1267 1267 1267 0.010 0.331 0.335 0.012 0.000 0.051 0.127 0.121 0.017 0.006 −0.191 0.013 0.017 0.000 −0.079 0.218 0.891 0.670 0.165 0.030 国内企業物価増減率 労働集約度 労働集約度(02 06 年平均) 中国からの輸入比率 =中国からの輸入/[(出荷額+世界からの輸入)の 02 06 年の平均値] imratio_china-imratio_china(−1) NIES からの輸入比率 =NIES からの輸入/[ (出荷額+世界からの輸入)の 02 06 年の平均値] imratio_nies-imratio_nies(−1) 結果は図表 2 15 に見られるように,固定効果モデルで説明変数が中国から の輸入のみの場合,中国からの輸入比率の上昇は国内企業物価にプラスの効 果をもたらすが(1 列目),説明変数に中国の GDP 成長率を加えるとパラ メータの大きさは小さくなり(2 列目),年ダミーを入れると有意でなくなる (3 列目).次に,4 列目にあるように操作変数を加えると,操作変数は Auer and Fischer[2008]同様プラスで有意となった.すなわち,中国からの輸入 増は出荷に占める労働投入比率の高い,労働集約的なセクターで高い傾向に あることを示唆している.一方,中国からの輸入増が国内企業物価を(相対 的に)引き下げる効果をもったとの結果は得られなかった.ただし,本分析 はデータの制約上推計期間が 4 年間限定されていることは考慮すべきであろ う.NIES については操作変数も有意との結果は得られなかった. 2 図表 2 15 グローバリゼーションとインフレーション 69 中国および NIES からの輸入が日本の国内企業物価に与える影響 中国からの輸入 ⑴ △ imratio_china g_china 0.438 *** (0.130) First stage estimation ⑵ 0.287 ** (0.129) 2.345 *** (0.378) ⑶ ⑷ (4b) (4c) 0.201 (0.127) −0.263 (0.901) 2.124 (0.135) 0.388 (0.784) 3.642 *** (1.299) 3.971 *** (1.162) lratio_ave*g_china Year dummies (both stages) Observations Sectors R-sq: within between overall F test of all u_i=0 3.293 *** (0.754) No 1264 331 0.0121 0.0097 0.0025 6.98 [0.000] No 1264 331 0.0512 0.0353 0.0046 7.26 [0.000] Yes 1264 331 0.0974 0.0600 0.0175 7.62 [0.000] Yes 1264 331 0.0844 0.0005 0.0269 7.41 [0.000] Yes 1328 332 0.0473 0.0008 4.42 [0.000] Yes 1310 332 0.0684 0.0703 0.0025 7.64 [0.000] ⑴ ⑵ ⑶ ⑷ (4b) (4c) −19.216 (57.29) 3.774 (4.181) 5.073 (6.836) 0.015 (0.042) −0.118 (0.083) −0.067 (0.075) Yes 1267 331 0.0074 0.0099 0.0004 2.60 [0.000] Yes 1328 332 Yes 1310 332 0.0729 0.0268 3.50 [0.000] 0.0984 0.0354 2.84 [0.000] NIES からの輸入 △ imratio_nies g_nies 0.543 ** (0.219) First stage estimation 0.501 ** (0.217) 0.151 *** (0.033) 0.367 * (0.209) lratio_ave*g_nies Year dummies (both stages) Observations Sectors R-sq: within between overall F test of all u_i=0 No 1267 331 0.0065 0.0063 0.0060 7.02 [0.000] No 1267 331 0.0278 0.0129 0.0093 7.19 [0.000] Yes 1267 331 0.1059 0.0323 0.0272 7.85 [0.000] 注) 1.固定効果モデルにより推計.( )内は標準偏差.*** は 1%有意,** は 5%有意,* は 10%有意 を示す.g_china, g_nies はそれぞれ中国,NIES の実質 GDP 成長率. 2.(4b)は労働集約度が負となった細目のみを除いたサンプル,(4c)は(4b)から国内企業物価 増減率が ±25%を超えるものを除いたサンプルによる推計.⑷, (4b) , (4c)の R-sq および F テ ストは second stage の結果を示す. 70 5 おわりに 本稿では,グローバリゼーションがインフレ生成過程に大きな影響を与え, その影響はさらに拡大しているとする BIS スタッフの主張(BIS VIEW)お よびそれに対する FED スタッフによる検証および懐疑的な見解(FED VIES)を紹介しつつ,これら分析を踏まえ日本を中心とした実証分析を 行った. 実証分析から得られた結果をまとめると以下のとおりである. ・BIS VIEW は日本,米国,英国について強いサポーティングエビデンス はなく,日本については支持されない. ・国内需給ギャップが国内物価に及ぼす影響は低下している(フィリップ ス曲線の傾きは低下している)が,金融政策運営にとって国内ギャップ は指標として依然重要である. ・フィリップス曲線の傾きの低下を日本についてグローバル需給ギャップ で説明することは難しいが,グローバリゼーションと関係している可能 性はある. また,本稿では BIS スタッフおよび FED スタッフによる分析の検証とい う目的から,グローバリゼーションの影響について基本的に彼らの手法を踏 まえて検証したが,グローバリゼーションの指標の取り方やモデルの定式化 等,実証分析としてさらなる検討の余地も残されている.とくに,グローバ リゼーションは業種間で速度の緩急をともないながら傾向的に進んでいるこ と等を考慮すると,グローバリゼーションの最近における影響を一国の経済 全体を集計したマクロ変数を用いて分析することで十分かという疑問も残る. 本稿の最後ではこのような問題意識から業種別データによる分析も試みた. 日本についてはデータの制約もあってか,先行研究である Auer and Fischer [2008]のような劇的な改善は見られなかったが,操作変数は有意であり,手 法としての有用性には期待がもたれる結果となった.このような分析は筆者 達の知る限りまだ限られており,手法の洗練・今後データの利用可能範囲が 広がれば,あらたな知見をもたらす可能性が期待される. 2 グローバリゼーションとインフレーション 71 このように BIS VIEW(グローブ・セントリック・ビュー)は,現時点で は十分な実証的裏づけが与えられていない.しかし,Borio and Filardo [2007]が公表されて以来の世界経済の展開はその実証的裏づけの弱さと裏腹 に,政策的インプリケーションについてのかれらの主張─すなわち,グ ローブ・セントリック・ビューが当てはまる状況のもとでは,中央銀行は政 策においてシステマティックな誤りを犯すリスクをヘッジする必要があり, もし,グローバリゼーションがもたらすデフレ圧力を過小推計すると,超低 金利の下で資産価格高騰と信用供与の行き過ぎなどの金融面での不均衡を累 積させるとともに,中央銀行の対応の遅れをまねき,予想外のインフレをも たらしかねず,このことは,各国中央銀行の金融政策の有効性についての疑 問をもたらしかねないという議論─,の説得力を高めているように見える. そうした点に照らすと,グローバリゼーションがインフレ生成過程に及ぼ す影響については,さまざまな切り口・代替的な枠組みで分析する重要性が 高まっている.金融政策の適切な運営のためには,最近のコモディティ・プ ライスの上昇などによって作り出された新たな状況をも踏まえて,その影響 を引き続き注視していくことが必要であろう. 補論 業種別データによる検証で用いたデータベースの作成方法 1 統計の選択 本分析の推計にあたっては,各品目(セクター)について,企業物価,輸 入額,国内出荷,労働集約度が必要となり,かつ可能な限り多くの品目数を 確保することが望ましい.そこで,企業物価は日本銀行「国内企業物価指 数」,輸入額は財務省「貿易統計」 ,国内出荷は経済産業省「工業統計表」の 品目および細目分類を利用し,労働集約度は,工業統計表の細目分類で得ら れる現金給与総額/(国内出荷額−原材料費用)で代用した.なお,国内出荷 額は品目レベルで得られるが,現金給与総額や原材料費用は細目分類でのみ 得られることから,同じ労働集約度が複数の品目に用いられるケースも存在 する. 72 2 各統計のマッチング まず,国内企業物価指数(2000 年基準.農林水産物,鉱産物,電力・都 市ガス・水道,スクラップ類を除く)に工業統計表の品目または細目をマッ チングさせ,それを貿易統計の輸入コードとマッチングさせた.マッチング に先立ち,工業統計表の細目分類で,労働集約度がマイナスとなった細目 (具体的には葉タバコ処理業)あるいは 1 を超えた年があった細目(具体的 には,人造宝石製造業,製糸業,航空機製造業,交通信号保安装置製造業, ピアノ製造業)の 6 細目は除外した. マッチングにあたっては,国内企業物価の最も細かい品目(50000 番台の コード)では工業統計表の品目コードや輸入コードとマッチングが難しいも のの,さらに上の品目コード(40000 番台のコードや 30000 番台のコード) を用いることによりマッチングが可能な場合はその品目コードを採用した. また,輸入コードは 6 桁分類を基本にマッチングさせたが,6 桁では困難だ が 9 桁でマッチング可能であったものは 9 桁コードでマッチングしている. このようにして得られた 332 品目の内訳を国内企業物価のコード分類で示 すと,30000 番台が 5,40000 番台が 59,50000 番台が 268 となっている.な お,国内企業物価の品目数(00 年基準,農林水産物,鉱産物,電力・都市 ガス・水道,スクラップ類を除く)は,50000 番台で 874,40000 番代で 226 である. 付表 1 日本,米国,英国の主要貿易相手国一覧 日本の輸出入相手国(上位 35 カ国) 80 年 総額(mil. $) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 UNITED STATES SAUDI ARABIA INDONESIA AUSTRALIA UNITED ARAB EMIRATES CHINA, P. R.:MAINLAND KOREA GERMANY CANADA IRAQ (小計)上位 10 カ国 90 年 総額に占 271764 総額(mil. $) める割合 56476 24505 16707 10425 9591 9454 8433 8290 7201 6552 0.208 0.090 0.061 0.038 0.035 0.035 0.031 0.031 0.026 0.024 United States Germany Korea Australia China, P. R.:Mainland Indonesia United Kingdom Canada China, P. R.:Hong Kong Singapore 0.580 (小計)上位 10 カ国 2006 年 総額に占 523173 総額(mil. $) める割合 143963 29569 29242 19285 18201 17796 16076 15303 15288 14320 0.275 0.057 0.056 0.037 0.035 0.034 0.031 0.029 0.029 0.027 1225473 United States China, P. R.:Mainland Korea Saudi Arabia Australia Thailand Germany China, P. R.:Hong Kong United Arab Emirates Indonesia 0.610 (小計)上位 10 カ国 216559 211233 77675 41625 40355 39943 38726 37993 37761 31587 総額に占 める割合 0.177 0.172 0.063 0.034 0.033 0.033 0.032 0.031 0.031 0.026 0.631 2 80 年 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 UNITED KINGDOM IRAN, I. R. OF MALAYSIA SINGAPORE CHINA, P. R.:HONG KONG KUWAIT U. S. S. R. PHILIPPINES SOUTH AFRICA BRUNEI DARUSSALAM FRANCE THAILAND BRAZIL NETHERLANDS SWITZERLAND MEXICO OMAN QATAR INDIA ITALY BELGIUM-LUXEMBOURG NIGERIA VENEZUELA, REP. BOL. NEW ZEALAND PANAMA グローバリゼーションとインフレーション 90 年 5767 5662 5574 5445 5356 4752 4669 3655 3610 3352 3337 3051 2693 2451 2233 2167 2049 2029 1939 1903 1810 1622 1533 1514 1503 上位 35 カ国計 0.021 0.021 0.021 0.020 0.020 0.017 0.017 0.013 0.013 0.012 0.012 0.011 0.010 0.009 0.008 0.008 0.008 0.007 0.007 0.007 0.007 0.006 0.006 0.006 0.006 Saudi Arabia France Thailand Malaysia United Arab Emirates Italy Netherlands Switzerland U. S. S. R. Belgium-Luxembourg Iran, I. R. of Philippines Brazil Mexico India South Africa Spain Sweden Panama New Zealand Oman Austria Qatar Kuwait Chile 73 2006 年 13845 13757 13314 10940 10636 8439 7352 7033 5933 5495 5086 4660 4416 4190 3786 3349 3327 3253 3015 2936 2381 2325 2308 2131 2100 0.873 上位 35 カ国計 0.026 0.026 0.025 0.021 0.020 0.016 0.014 0.013 0.011 0.011 0.010 0.009 0.008 0.008 0.007 0.006 0.006 0.006 0.006 0.006 0.005 0.004 0.004 0.004 0.004 Malaysia Singapore United Kingdom Canada Netherlands Philippines France Qatar Russia Italy Mexico Iran, I. R. of South Africa Kuwait Vietnam Belgium India Brazil Panama Chile Spain Switzerland Ireland New Zealand Oman 28799 26931 21892 19523 16916 16914 16637 16508 13733 13476 12118 12049 10762 10670 9497 8972 8603 8095 8024 7790 7609 7496 5175 4624 4555 0.889 上位 35 カ国計 0.023 0.022 0.018 0.016 0.014 0.014 0.014 0.013 0.011 0.011 0.010 0.010 0.009 0.009 0.008 0.007 0.007 0.007 0.007 0.006 0.006 0.006 0.004 0.004 0.004 0.890 米国の輸出入相手国(上位 35 カ国) 80 年 総額(mil. $) 90 年 総額に占 271764 総額(mil. $) める割合 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 CANADA JAPAN MEXICO GERMANY UNITED KINGDOM SAUDI ARABIA FRANCE NIGERIA NETHERLANDS ITALY 77394 53763 27981 23217 22967 19238 13034 12668 10722 10199 0.1619 0.1125 0.0585 0.0486 0.0480 0.0402 0.0273 0.0265 0.0224 0.0213 CANADA JAPAN MEXICO GERMANY UNITED KINGDOM KOREA FRANCE AFRICA ITALY CHINA, P. R.:MAINLAND 上位 10 カ国計 0.567 上位 10 カ国計 11 12 13 14 15 16 VENEZUELA, REP. BOL. 10148 LIBYA 9414 KOREA 9118 BELGIUM-LUXEMBOURG 8667 BRAZIL 8352 CHINA, P. R.:HONG KONG 7717 0.021 0.020 0.019 0.018 0.017 0.016 NETHERLANDS SINGAPORE CHINA, P. R.:HONG KONG BELGIUM-LUXEMBOURG SAUDI ARABIA BRAZIL 2006 年 総額に占 523173 総額(mil. $) める割合 176740 141654 59172 47832 44416 33686 27246 22167 21383 21103 0.194 0.156 0.065 0.053 0.049 0.037 0.030 0.024 0.023 0.023 1225473 CANADA CHINA, P. R.:MAINLAND MEXICO JAPAN GERMANY UNITED KINGDOM KOREA FRANCE MALAYSIA NETHERLANDS 538080 361012 334682 211893 132542 100023 80092 62474 50071 49183 0.654 上位 10 カ国計 18274 18116 16792 15217 14768 13648 0.020 0.020 0.018 0.017 0.016 0.015 VENEZUELA, REP. BOL. BRAZIL ITALY SINGAPORE SAUDI ARABIA IRELAND 総額に占 める割合 0.182 0.122 0.113 0.072 0.045 0.034 0.027 0.021 0.017 0.017 0.649 47398 47259 46695 42752 40895 37293 0.016 0.016 0.016 0.014 0.014 0.013 74 80 年 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 ALGERIA INDONESIA AUSTRALIA SWITZERLAND SOUTH AFRICA SINGAPORE CHINA, P. R.:MAINLAND SPAIN UNITED ARAB EMIRATES MALAYSIA PHILIPPINES NORWAY SWEDEN ARGENTINA TRINIDAD AND TOBAGO NETHERLANDS ANTILLES COLOMBIA ISRAEL INDIA 90 年 7423 7084 6875 6648 5891 5018 4919 4679 4161 4025 3912 3595 3479 3422 3134 3129 3063 3024 2899 上位 35 カ国計 0.016 0.015 0.014 0.014 0.012 0.010 0.010 0.010 0.009 0.008 0.008 0.008 0.007 0.007 0.007 0.007 0.006 0.006 0.006 2006 年 AUSTRALIA 13499 VENEZUELA, REP. BOL. 13046 SWITZERLAND 10501 MALAYSIA 8921 SPAIN 8755 THAILAND 8581 SWEDEN 8516 NIGERIA 6947 ISRAEL 6601 PHILIPPINES 6094 INDIA 5908 INDONESIA 5578 COLOMBIA 5448 IRELAND 4333 U.S.S.R. 4256 IRAQ 3887 ALGERIA 3795 DOMINICAN REPUBLIC 3485 SOUTH AFRICA 3484 0.860 上位 35 カ国計 0.015 0.014 0.012 0.010 0.010 0.009 0.009 0.008 0.007 0.007 0.006 0.006 0.006 0.005 0.005 0.004 0.004 0.004 0.004 BELGIUM INDIA THAILAND NIGERIA ISRAEL SWITZERLAND AUSTRALIA CHINA, P. R.:HONG KONG RUSSIA SWEDEN SPAIN PHILIPPINES INDONESIA ALGERIA CHILE COLOMBIA IRAQ ANGOLA UNITED ARAB EMIRATES 36137 33084 31837 31190 30364 29166 26345 26063 25448 18356 17807 17754 17420 17191 17081 16535 13725 13725 13368 0.905 上位 35 カ国計 0.012 0.011 0.011 0.011 0.010 0.010 0.009 0.009 0.009 0.006 0.006 0.006 0.006 0.006 0.006 0.006 0.005 0.005 0.005 0.885 英国の輸出入相手国(上位 35 カ国) 80 年 総額(mil. $) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 GERMANY UNITED STATES FRANCE NETHERLANDS BELGIUM-LUXEMBOURG IRELAND ITALY SWITZERLAND SWEDEN SAUDI ARABIA 90 年 総額に占 271764 総額(mil. $) める割合 24978 24630 17301 16854 11644 10306 9771 7319 7202 6683 上位 10 カ国計 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 JAPAN NORWAY CANADA DENMARK SOUTH AFRICA SPAIN CHINA, P. R.:HONG KONG NIGERIA FINLAND AUSTRALIA UNITED ARAB EMIRATES KUWAIT 5367 5189 5044 4964 4087 3620 3276 3151 3065 3021 2296 2124 0.1106 0.1091 0.0766 0.0746 0.0516 0.0456 0.0433 0.0324 0.0319 0.0296 GERMANY UNITED STATES FRANCE NETHERLANDS ITALY BELGIUM-LUXEMBOURG IRELAND JAPAN SPAIN SWITZERLAND 0.605 0.024 0.023 0.022 0.022 0.018 0.016 0.015 0.010 0.014 0.013 0.010 0.009 2006 年 総額に占 523173 総額(mil. $) める割合 59153 48316 40222 32102 21898 20270 17683 16773 12214 11695 1225473 0.145 0.118 0.099 0.079 0.054 0.050 0.043 0.0411 0.030 0.029 GERMANY UNITED STATES FRANCE NETHERLANDS IRELAND BELGIUM ITALY SPAIN CHINA, P. R.:MAINLAND NORWAY 上位 10 カ国計 0.687 上位 10 カ国計 SWEDEN 11177 AFRICA 10430 NORWAY 9455 CANADA 7365 DENMARK 6554 CHINA, P. R.:HONG KONG 5742 FINLAND 5014 AUSTRALIA 4666 SAUDI ARABIA 4631 PORTUGAL 3935 SOUTH AFRICA 3897 SINGAPORE 3698 0.027 0.026 0.023 0.018 0.016 0.014 0.012 0.011 0.011 0.010 0.010 0.009 JAPAN CHINA, P. R.:HONG KONG SWEDEN CANADA SWITZERLAND RUSSIA DENMARK TURKEY SOUTH AFRICA SINGAPORE INDIA KOREA 116004 107166 81956 62392 48187 46798 37094 36249 34820 30807 総額に占 める割合 0.120 0.111 0.085 0.064 0.050 0.048 0.038 0.037 0.036 0.032 0.621 22070 19094 18466 16372 16043 14498 12887 12030 11338 11308 10851 8889 0.023 0.020 0.019 0.017 0.017 0.015 0.013 0.012 0.012 0.012 0.011 0.009 2 80 年 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 グローバリゼーションとインフレーション 90 年 U.S.S.R. IRAQ INDIA PORTUGAL EGYPT NEW ZEALAND AUSTRIA SINGAPORE BRAZIL IRAN, I. R. OF POLAND ISRAEL MALAYSIA 2035 1986 1963 1685 1588 1546 1364 1298 1196 1163 1141 1088 954 上位 35 カ国計 75 2006 年 0.009 0.009 0.009 0.007 0.007 0.007 0.006 0.006 0.005 0.005 0.005 0.005 0.0042 INDIA AUSTRIA KOREA U.S.S.R. MALAYSIA TURKEY GREECE ISRAEL CHINA, P. R.:MAINLAND BRAZIL NEW ZEALAND THAILAND UNITED ARAB EMIRATES 0.890 上位 35 カ国計 3664 2972 2838 2657 2468 2065 1936 1904 1859 1859 1633 1611 1504 0.009 0.007 0.007 0.007 0.006 0.005 0.005 0.005 0.005 0.005 0.004 0.004 0.004 POLAND AUSTRALIA FINLAND UNITED ARAB EMIRATES PORTUGAL AUSTRIA CZECH REPUBLIC SAUDI ARABIA BRAZIL MALAYSIA HUNGARY THAILAND LUXEMBOURG 0.945 上位 35 カ国計 8811 8402 8303 7450 7275 7078 5788 5468 5270 5194 5004 4666 4433 0.009 0.009 0.009 0.008 0.008 0.007 0.006 0.006 0.005 0.005 0.005 0.005 0.005 0.886 注) 日米英ともに IMF, Direction of Tradde Statics より輸出+輸入で計算. 付表 2 BIS VIEW の検証に用いた変数およびデータ出所 データ CPI(総合) CPI コア(食料,エネルギーを除く) CPI 食料価格 CPI エネルギー価格 輸入価格(一次産品除く) 国内 GAP 二国間輸出額・輸入額 名目 GDP 実質 GDP 名目輸入額 名目輸出額 Openness Import share 出所,定義等 OECD,MEI,季調済 OECD,MEI,季調済 OECD,MEI,季調済 OECD,MEI,季調済 OECD,Economic Outlook,季調済 OECD,Economic Outlook,季 調 済.OECD の Economic Outlook から得られない場合,実質 GDP を用い て HP フィルターにより作成. IMF,DOT,暦年値 OECD,Economic Outlook,季調済 OECD,IMF,各国統計,OECD の Economic Outlook で得られない場合 IMF の IFS データを利用.四半期 データが得られない場合は暦年データより線形補完によ り作成.中国については,96 年以降は内閣府推計値を 用い,それ以前については IMF,IFS の暦年データを 用い線形補完により作成. OECD,Economic Outlook,季調済 OECD,Economic Outlook,季調済 (名目輸出+名目輸入)の 4 期後方平均/名目 GDP (名目輸入)の 4 期後方平均/名目 GDP 76 付表 3 日本.米国,英国の国内需給ギャップおよびグローバル需給 ギャップ等の推移 日本 (%) 15 米国 JP_GAPF10 JP_GAPF JP_GAP JP_PAIC4 10 5 (%) 15 US_GAPF10 US_GAPF US_GAP US_PAIC4 10 5 0 0 −5 −5 −10 −10 −15 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 −15 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 (参考)需給ギャップ変数の平均値等 英国 (%) 25 20 15 UK_GAPF10 UK_GAPF UK_GAP UK_PAIC4 10 5 0 −5 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 日本 GAPF10 GAPF 米国 GAPF10 GAPF 英国 GAPF10 GAPF 平均 標準偏差 PAIC4との 相関係数 −0.406 −0.199 −0.635 −0.097 −0.356 0.033 1.320 1.139 1.928 1.151 1.338 1.158 0.192 0.124 0.039 0.291 0.148 0.427 GAPF10:上位 10 カ国で計算したグローバ ル需給ギャップ GAPF:上位 35 カ国で計算したグローバル 需給ギャップ GAP:国内需給ギャップ PAIC4:CPI コア前年同期比 参考文献 木村武,黒住卓司,原尚子[2008], 「日本のフィリップス曲線に何が起こったか――企業 の価格設定行動の変化と名目硬直性の高まり」日本銀行ワーキングペーパー,No. 08 J 1. 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