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ACモータのモデリングと制御 - 近藤研究室
解 説 AC モータのモデリングと制御 正 員 近藤 正示∗ Modeling and Control of AC Motors Seiji Kondo∗ , Member q 1. q はじめに モータをながめる座標を変換すると,その挙動を理解し Nsinθ I やすくなったり,制御系を考案しやすくなることがある。二 d θ 軸理論や回転座標変換は,まさに,このためにある。回転 I Ncosθ d 機の二軸理論をマスターするつもりなら,名著「基礎電気 機器学」 (1) を薦める。 本文は,誘導機と PM モータのモデリング,および,その 制御に関する要点をまとめたものである。次の事項が,目 (a) 巻数 N のコイル 新しいと思われる。 • 複素平面では正回転を左回り(反時計回り)とする習 (b) コイル巻数の分解 図 1 自己インダクタンスの計算モデル 慣に合わせて,座標系の図でも左回り(反時計回り) を正回転とした。 ではパーミアンスが異なることを考慮する必要がある。そ • 線間電圧から直交二相電圧を計算する式を, 〈3・3〉 項で こで,図 1(a) の巻数 N のコイルは,図 1(b) のように d 軸 導出した。 および q 軸に沿って分解した二つのコイルを直列接続した • 突極機でも使える複素数表記による回転座標変換を ものと考えてよいことに着目する。図 1(b) の二つのコイル 〈5・4〉項に示した。 の等価な巻数は • いわゆるすべり周波数形ベクトル制御の安定性に関す Nd0 = N cos θ , る簡単な証明を 〈6・4〉項に示した。 なお,本文では,座標変換を適用するためにモータの起 となる。ここで,d 軸方向と q 軸方向のそれぞれの鉄心を通 磁力は正弦波状に分布しているものと仮定する。実際,多 る磁路のパーミアンスを Pd ,Pq とする。パーミアンスと くのモータでは正弦波分布巻線が施されており,この仮定 巻数の二乗の積が有効な自己インダクタンスである。よっ は満たされる。この仮定により,モータの電圧・電流・磁 て,二つのコイルの自己インダクタンスは,それぞれ, 束鎖交数などの空間的な加法を定義できて,それらをベク 0 Led = Pd (Nd0 )2 , トルとして表現し,座標変換することが可能となる。ただ し,起磁力分布が正弦波状でも,磁気抵抗が正弦波状でな 0 Leq = Pq (Nq0 )2 · · · · · · · · · · · · · · · · (2) となる。d 軸と q 軸は直交しているから二つのコイルの間 ければ磁束は正弦波状に分布しない。ここでは,磁気抵抗 に相互誘導はなく,これらを直列接続したものの合成イン のことは不問にする。 2. Nq0 = N sin θ· · · · · · · · · · · · · · · · · · · (1) ダクタンスは単純に和をとればよい。したがって,図 1(a) 回転機のインダクタンス の巻数 N のコイルの自己インダクタンスは 〈2・1〉 突極性を考慮したインダクタンスの計算式 0 0 L(θ) = Led + Leq = Led cos2 θ + Leq sin2 θ · · · · · · · (3a) 〈2・1・1〉 自己インダクタンスの計算式 Led = Pd N 2 , 図 1(a) に示 した突極機において,巻数 N のコイルの自己インダクタン となる。 スを計算してみよう。突極性のために d 軸方向と q 軸方向 ∗ Leq = Pq N 2 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (3b) ところで,自己インダクタンスの計算には鉄心以外の空 長岡技術科学大学 電気系 〒 940–2188 新潟県長岡市上富岡町 1603–1 Dept. of E&E, Nagaoka University of Technology 1603–1, Kamitomioka-cho, Nagaoka, Niigata 940–2188 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 隙を通る漏れ磁束も考慮しなければならない。そこで,鉄 心以外の磁路のパーミアンス Pl による自己インダクタン スの増加分を加算すると,(3a) と (3b) 式は 1 q Nα sin θ q Nα cos θ θ' Nβ Nα q N β sin θ ′ I d θ Nd Nα d θ d N β cos θ ′ (a) 巻数 N のコイル 図3 (b) コイル巻数の分解 異なる鉄心上の巻線の相互インダクタンス 図 2 相互インダクタンスの計算モデル q i sq β L(θ) = Ld cos2 θ + Lq sin2 θ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (4a) Ld = (Pl + Pd )N 2 , vsq Lq = (Pl + Pq )N 2 · · · · · · · (4b) ように修正される。自己インダクタンス L(θ) はコイルの回 irβ 転角 θ によって変化する。 vrβ しかし,突極性がない円筒形の回転機では Pd = Pq であ vrα irα α θ るから,それを上式に代入して d isd vsd L(θ) = Ld ( = Lq )· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (5) のように,回転角 θ に関わらず一定となる。 〈2・1・2〉 相互インダクタンスの計算式 図4 図 2(a) のよ 二相回転機のインダクタンスの計算モデル うに配置された二つのコイル間の相互インダクタンスを計 算してみよう。上記と同じように,まず,巻数 Nα のコイ となる。ただし,(4b) 式を使った † 。 ルを d 軸と q 軸に分解すると 0 Ndα = Nα cos θ , 0 Nqα 一方,円筒形のときは Pd = Pq であるから, = Nα sin θ· · · · · · · · · · · · · · · · (6) M(θ) = 0· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (12) となる。同じく,巻数 Nβ のコイルを分解すると 0 Ndβ = Nβ cos θ0 , である。 0 Nqβ = Nβ sin θ0 · · · · · · · · · · · · · · · (7) 〈2・1・3〉 異なる鉄心上の巻線の相互インダクタンス 0 0 となる。d 軸上にある Ndα と Ndβ のコイル同士の相互イン 図 3 のように配置されたコイル間の相互インダクタンス ダクタンスは は上の〈2・1・2〉項を応用して計算できる。図 2(a) において θ0 = 0 とすれば同図の Nβ が,図 3 の Nd に対応する。した がって,(10) 式に θ0 = 0 と Nβ = Nd を代入して 0 Md = Pd Nα Nβ cos θ cos θ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (8) 0 0 となる。q 軸上にある Nqα と Nqβ のコイル同士の相互イン Mdα (θ) = Pd Nd Nα cos θ· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (13) ダクタンスは Mq = Pq Nα Nβ sin θ sin θ0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9) のように求められた。 で表される。また,d 軸上のコイルと q 軸上のコイルは互い 〈2・2〉 二相回転機のインダクタンス行列 前項に示 に直交しているから相互インダクタンスはない。したがっ した計算式を利用して,図 4 の二相回転機のインダクタン て,以上を合わせた全体の相互インダクタンスは ス行列を求めると次のようになる。 M(θ) = Md + Mq = Pd Nα Nβ cos θ cos θ0 + [ ] sd L = sq ra rb 0 Pq Nα Nβ sin θ sin θ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (10) のように求められた。 とくに,Nα = Nβ = N かつ θ0 = θ + π/2 の場合は 1 M(θ) = − (Pd − Pq )N 2 sin 2θ 2 1 = − (Ld − Lq ) sin 2θ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (11) 2 sd (Pl + Pd )Nd2 0 Pd Nd Nα cos θ −Pd Nd Nβ sin θ sq 0 (Pl + Pq )Nq2 Pq Nq Nα sin θ Pq Nq Nβ cos θ † 正確には (3b) 式を使ったが,漏れインダクタンスは差 Ld − Lq で はキャンセルされるから (4b) 式でもよい。 2 S.Kondo Note, FileName: 00denACMcontrol.tex Nov.08, 2005 解 説 M = Md = Mq , L s = L sd = L sq , Lr = Lrd = Lrq (17) rα Pd Nd Nα cos θ Pq Nq Nα sin θ (P0l + Pd cos2 θ + Pq sin2 θ)Nα2 1 − (Pd − Pq )Nα Nβ sin 2θ 2 とおける。これらを (16) 式の代入すると,さらに簡単な次 式が得られる。 sd s l d s + L s [ ] L = sq 0 rα M cos θ rβ −M sin θ (l s + L s )[I2 ] = M[C(θ)]T rβ −Pd Nd Nβ sin θ Pq Nq Nβ cos θ · · · · · · · · (14) 1 − (Pd − Pq )Nα Nβ sin 2θ 2 (P0l + Pd sin2 θ + Pq cos2 θ)Nβ2 なお,(14) 式において,たとえば,sd 行 sd 列要素は sd コ sq 0 ls + Ls M sin θ M cos θ rα rβ M cos θ −M sin θ M sin θ M cos θ (18) lr + L r 0 0 lr + L r M[C(θ)] · · · · · · · · · · · · · · (19) (lr + Lr )[I2 ] ただし イルの自己インダクタンス, sd 行 rα 列要素は rα コイルか cos θ [C(θ)] = sin θ ら sd コイルへの相互インダクタンスである。また,(14) 式 から分かるようにこの行列は対称である。 一般的な (14) 式を使って,後で使用するため特別な場合 について計算しておこう。 − sin θ , cos θ 1 [I2 ] = 0 0 · · · · · (20) 1 である。 まず,固定子および回転子のコイルの巻数がそれぞれ等 〈2・3〉 回転子に突極性がある場合 前項では,図 4 の しい,すなわち,Nd = Nq = N s および Nα = Nβ = Nr のと ように,突極性を持つ dq 軸が固定子にある回転機のイン きは ダクタンス行列を求めた。これを利用して突極性を持つ dq Pd N s2 Pd Nr2 L sd = Lrd = Md = P d N s N r l s = Pl N s2 , , , , L sq = Lrq = · · · · · · · · · (15) Mq = Pq N s Nr l = P0 N 2 軸が回転子にある (したがって,後で示す図 6(b) のように Pq N s2 Pq Nr2 r l αβ 軸が固定子にある) 回転機のインダクタンス行列を求め ておこう。その手順は次のようになる † 。 ( 1 ) インダクタンス行列の固定子添字 s と回転子添字 r r を入れ換える。 とおくことにより (14) 式のインダクタンス行列は次のよう ( 2 ) α 軸から d 軸へ測った回転角を θ0 とすれば,上記 になる。 で使った回転角 θ とは逆回りだから [ ] sd L = sq rα rβ sd l s + L sd 0 Md cos θ −Md sin θ θ = −θ0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (21) sq 0 l s + L sq Mq sin θ Mq cos θ である。これを,インダクタンス行列に代入して θ を消去する。 ( 3 ) 行と列の順番を sα , sβ , rd , rq の順に入れ換える。 この手順を (16) 式のインダクタンス行列に適用して,dq 軸が回転子にある回転機のインダクタンス行列を求めると 次のようになる。 rα Md cos θ Mq sin θ Lrd + Lrq Lrd − Lrq lr + + cos 2θ 2 2 Lrd − Lrq − sin 2θ 2 sα L + L L sd − L sq sd sq sα ` + + cos 2θ0 s 2 2 [ ] L sd − L sq L = sβ sin 2θ0 2 rd Md cos θ0 rq −Mq sin θ0 rβ −Md sin θ Mq cos θ · · · · · · (16) Lrd − Lrq − sin 2θ 2 Lrd + Lrq Lrd − Lrq lr + − cos 2θ 2 2 † 注意:ここは,近藤のオリジナルである。よくある間違いは,手 順 (1) と (2) の代わりに,添字 d,q と添字 α,β をそれぞれ入換えて しまうことである。こんなことをすると,元は突極性が dq 軸にあっ たのに,変更後は突極性が αβ 軸にあることになってしまう。つまり, 間違いである。一方,手順 (1) と (2) のようにすれば,変更後も突極 性が dq 軸にあるから正しい。 (15) 式に加えて,ギャップが一様で Pd = Pq の場合は 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 3 sβ L sd − L sq sin 2θ0 2 L sd + L sq L sd − L sq `s + − cos 2θ0 2 2 Md sin θ0 Mq cos θ0 rd Md cos θ0 Md sin θ0 `r + Lrd 0 iβ iv vv iu vw rq −Mq sin θ0 Mq cos θ0 · · · · · · · · · · · · · · · · (22) 0 `r + Lrq vβ iα vα vu iw (a) (b) 図 5 三相二相相変換 このインダクタンス行列は回転界磁形の同期電動機などの 3. 解析に使われる。 三相−二相変換 〈3・1〉 三相−二相変換とその必要性 なお,元になったインダクタンス行列 (14) 式が対称行列 図 5 に三相巻 であったから,ここで求めたインダクタンス行列 (16), (18), 線 (u, v, w) と直交 2 巻線 (α, β) を示す。同図のように,u (22) 式はすべて対称行列であることに注意しておく。 ***図 〈2・4〉 三 相 回 転 機 の イ ン ダ ク タ ン ス 行 列 † 4.14 *** に示した三相回転機のインダクタンス行列も,同 相方向と α 相方向を一致させ,さらに,二相巻線に 0 相成 分を追加すると,次式のように三相量 (u, v, w) は,二相量 (α, β) と 0 相成分に等価変換できる。 √ u √ 1/ 2 1 0 0 √ √ 2 v = 1/ 2 −1/2 3/2 α · · · · · · (26a) √ 3 √ w 1/ 2 −1/2 − 3/2 β 様に求められる。ただし,簡単のためギャップ長が等しく Pd = Pq である場合を示すと,次のようになる。 sa sa ls + Ls sb L s cos(2π/3) [ ] L = sc L s cos(2π/3) ra M cos θ ) ( rb M cos θ + 2π 3 ( ) 2π rc M cos θ − 3 ra M cos θ ( ) M cos θ − 2π 3 ) ( M cos θ + 2π 3 lr + L r Lr cos(2π/3) Lr cos(2π/3) sb sc L s cos(2π/3) ls + Ls L s cos(2π/3) ( ) M cos θ − 2π 3 M cos θ ( ) M cos θ + 2π 3 r ) (b M cos θ + 2π 3 M cos θ ( ) M cos θ − 2π 3 Lr cos(2π/3) lr + Lr Lr cos(2π/3) L s cos(2π/3) L s cos(2π/3) l s +( L s ) M cos θ + 2π 3 ) ( M cos θ − 2π 3 M cos θ √ 0 √ 1/ 2 2 1 α = 3 β 0 することができる。 ここで注意しておくが,三相 3 線式の回路方程式を三つ rc ( ) M cos θ − 2π 3 ( ) 2π M cos θ + 3 M cos θ Lr cos(2π/3) Lr cos(2π/3) lr + L r M[C0 (θ)] 0 lr [I3 ] + Lr [C (0)] 立てても解けないことがある。なぜならば,三相星形結線 で中性点非接地のときは三つの線電流の和は 0 であるから, 独立な線電流は二つしかない。したがって,三つの線電流 を使った回路方程式を単純に三つ立ててもそのうちの一つ が他の二つに従属してしまえば,連立方程式の係数の行列 式が 0 となり,解けなくなる †† 。あらかじめ三相を二相に 変換しておけば,この問題は起きない。 〈3・2〉 三相巻線と二相巻線の定数の対応 三相巻線のものである。それを,等価な二相巻線の定数に 変換する計算式を以下に示す††† 。なお,三相巻線の定数は, 星形結線に換算したものであると仮定する。 cos θ ) ( [C0 (θ)] = cos θ − 2π 3 ) ( cos θ + 2π 3 ( ) cos θ + 2π 3 cos θ ( ) cos θ − 2π 3 ( ) cos θ − 2π 3 ) ( · (25) cos θ + 2π 3 cos θ 三相巻線の巻線抵抗をステータ R s ,ロータ Rr として,イ ンダクタンス行列 (24) 式とファラデーの法則から,三相交 流モータの電圧・電流方程式は次式となる。 †† 特別な工夫をすれば,三つの線電流を使った回路方程式でも解け るようにすることはできる。 ††† 難波江ほか (1) の第 4.2.3 項,および,研究ノート D-8 p.73, D-16 p.18-20 参照 である。 難波江ほか 実際の交 流モータは三相巻線であるから,測定して得られる定数は (24) ただし † √ 1/ 2 u −1/2 v · · · · · (26b) √ − 3/2 w なお,三相 3 線式では 0 相電流が流れないからこれを省略 (23) l s [I3 ] + L s [C0 (0)] = M[C0 (θ)]T √ 1/ 2 −1/2 √ 3/2 (1) p.81 参照 4 S.Kondo Note, FileName: 00denACMcontrol.tex Nov.08, 2005 解 説 v su i su v sv i sv [ ] v sw i sw = Z 3 vru iru vrv irv vrw irw [ ] R s [I3 ] 0 Z 3 = + 0 Rr [I3 ] d ` s [I3 ] + L s [C0 (0)] dt M[C0 (θ)]T となる†† 。なお,[C(θ)] は (20) 式で与えられた 2 行 2 列の 行列である。 ここで,(31) 式を (18) 式の対応する部分と比較すれば, (27a) 三相巻線定数と二相巻線定数の対応が得られる。以下では, 二相巻線および三相巻線の定数を,それぞれ上添字で区別 して,L<2> ,L<3> などと書くことにする。各定数の対応式 は次のようになる。すなわち,二相巻線定数が三相巻線定 数の 3/2 倍になるもの, M[C0 (θ)] `r [I3 ] + Lr [C0 (0)] (27b) ただし,[C0 (θ)] は,(25) 式で与えられる。 (32a) Lr<2> (32b) M <2> 上の三相モータの回路方程式を,等価な二相モータの回 3 <3> L 2 s 3 = Lr<3> 2 3 = M <3> 2 L<2> = s (32c) 路方程式に変換する。このため,(26a) 式を参照して, v∗u v∗0 v∗v = [C32 ] v∗α v∗w v∗β i∗0 i∗u i∗v = [C32 ] i∗α i∗β i∗w および,次のように二相巻線定数と三相巻線定数が同じに なるもの, (28a) `<2> = `<3> , s s R<2> s (28b) , R<2> r = (32d) R<3> r (32e) のように分かれる††† 。 ただし,上式の下添字 ∗ は,ステータでは s,ロータでは r 〈3・3〉 三相−二相変換の実装 である。また,変換行列 [C32 ] は,(26a) 式から, √ √ 1/ 2 2 √ [C32 ] = 1/ 2 3 √ 1/ 2 = R<3> s `r<2> = `r<3> 1 0 √ −1/2 3/2 · · · · · · · · · · (29) √ −1/2 − 3/2 ちの二相の電流を検出すれば十分である。つまり,(26b) 式 を利用して, √ iα 2 1 = 3 0 iβ である。(28a),(28b) 式を (27a) 式に代入すれば, i s0 v s0 i sd v sd i sq v sq = [Z 2 ] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (30) ir0 vr0 irα vrα vrβ irβ √ 3 = 1 2 √ 2 (33) よい。 0 [C32 ] √ 3 iα = 12 iβ −√ 2 0 + `r [I3 ] 0 [C(θ)] (31) 0 [I2 ] 0 iu √ i · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (34) − 2 w 三相線間電圧から二相電圧への変換は,(26a) 式を利用し て次のようにする†††† 。 †† (31) の右辺最後の項の 1 行目と 4 行目はすべて 0 である。したがっ て,零相電圧が印加されても有効インダクタンスは零相電流を制限し てくれないことが分かる。 ††† ああ面倒くさい!全部 3/2 倍になればいいのに,そうではない。 †††† 研究ノート D-8 p.74 † ただし,2 行目と 3 行目の添字は, sα と sβ ではなく sd と sq で ある。これは,後で (18) 式と比較できるようにするためである。この ようにしても,三相ステータの a 相軸を二相ステータの d 軸に合わ せれば,矛盾はない。 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 iu −1/2 −1/2 √ √ iv 3/2 − 3/2 −(iu + iv ) 0 iu √ i 2 v のように計算する。なお,iv を消去して次のようにしても となる† 。ただし,[Z 2 ] は 6 行 6 列の行列であり, −1 [C32 ] 0 [Z 3 ] [C32 ] [Z 2 ] = 0 0 [C32 ] R s [I3 ] 0 d ` s [I3 ] = + 0 Rr [I3 ] dt 0 0 0 0 L s M 0 0 [I2 ] d 3 0 dt 2 0 0 M Lr T 0 [C (θ)] 0 中性点が非接地の三 相モータでは,三相の電流の和が 0 であるから,三相のう 5 q i sq β β i sβ q vsq vsβ α irβ vrα irα vrβ θ irq d isd d vrd vrq ird θ ' = −θ α isα vsd vsα (a) ` s + L sd [L11 ] = 0 0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · (38b) ` s + L sq Md cos θ [L12 ] = Mq sin θ −Md sin θ · · · · · · · · · · · · · · · · (38c) Mq cos θ (b) 図 6 一般二相モータ Lr0 ≡ `r + vuv vu vv vvw = vv − vw vwu vw vu √ √ 1/ 2 1 0 v0 √ 2 √ 1/ 2 −1/2 = 3/2 vα − √ √ 3 1/ 2 −1/2 − 3/2 vβ √ √ √ 1/ 2 −1/2 3/2 v0 √ 2 √ 1/ 2 −1/2 − 3/2 vα 3 √ vβ 1/ 2 1 0 √ √ 0 3/2 − 3/2 v0 √ 2 0 = 0 3 v · · · · · √ α 3 0 −3/2 − 3/2 vβ v0 vα vβ ]T [ については解けない。しかし, vα v sd R s v sq 0 = vrα 0 0 vrβ 〈4・1・2〉 固定電機子形モータ (35) と (b) の違いを考慮して,(38a)-(38e) 式の [L] に対して以 下の変更を加える。 vβ ]T ( 1 ) 固定子添字 s と回転子添字 r を入れ換える。 に ( 2 ) θ = −θ0 とする。 ( 3 ) インダクタンス行列の要素を,磁束鎖交数が次式 となるように入れ換える。 [ ]T ψ sβ ψrd ψrq [ ]T = [L0 ] i sα i sβ ird irq · · · · · · · · · · · (40) その結果,図 6(b) のインダクタンス行列 [L0 ] は,(22) 式 一般二相モータ [L0 ] [L ] = 22 0 [L12 ] 0 考慮する。dq 軸の 2 巻線の巻数は等しく,また αβ 軸の 2 0 [L22 ] 添字 r で回転子を表す。図 6(a) は固定界磁形モータであり, まず,図 6(a) の固定界 0 T [L12 ] 磁形モータのインダクタンス行列 [L] を示す。ベクトルの 転置を右肩の T で表すとき,磁束鎖交数が, ψrβ ]T [ = [L] i sd i sq irα irβ ]T (37) 0 [L11 ] となるようにインダクタンス行列 [L] の要素を配置すれば, (16) 式より, [L11 ] [L] = [L12 ]T [L12 ] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (38a) [L22 ] Md cos θ0 = Md sin θ0 `r + Lrd = 0 L s0 ≡ ` s + † 6 0 T [L12 ] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (41a) 0 [L11 ] L s0 + L s1 cos 2θ0 = L s1 sin 2θ0 図 6(b) は固定電機子形モータである。 ψrα ψ sα より, ここでは,図 6 巻線の巻数も等しいとする。また,添字 s で固定子を表し, ψ sq 図 6(b) の固定電機子 形モータの回路方程式は次のようにして求められる。図 6(a) 慣に従い d 軸を主磁束の方向とし,dq 座標系で突極性を ψ sd i sd 0 i sd 0 i sq d i sq + [L] · (39) 0 irα dt irα Rr irβ irβ 0 0 Rr 0 れる。 に示した一般二相モータの回路方程式を示す。以下では,習 [ 0 Rs 0 0 のように,図 6(a) の固定界磁形モータの回路方程式が得ら のように計算できる。 〈4・1・1〉 固定界磁形モータ Lrd − Lrq · · · · · · · (38e) 2 る電圧を考慮すれば, √ √ vα 2/3 1/ 6 vuv = √ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (36) 0 1/ 2 vvw vβ 〈4・1〉 一般二相モータの回路方程式 Lr1 ≡ デーの法則から誘導起電力を求め,さらに,巻線抵抗によ ついてだけなら解くことができて, 4. Lrd + Lrq , 2 である† 。このインダクタンス行列 (38a)-(38e) 式とファラ 線間電圧だけから中性点電圧が決まらないから,上式は [ −Lr1 sin 2θ · · · ·(38d) Lr0 − Lr1 cos 2θ Lr0 + Lr1 cos 2θ [L22 ] = −Lr1 sin 2θ L s1 sin 2θ0 · · (41b) L s0 − L s1 cos 2θ0 −Mq sin θ0 · · · · · · · · · · · · · (41c) Mq cos θ0 0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (41d) `r + Lrq L sd + L sq , 2 L s1 ≡ L sd − L sq · · · · · · (41e) 2 文献 (1) p.80 の (4.22) 式を見やすく直した。 S.Kondo Note, FileName: 00denACMcontrol.tex Nov.08, 2005 解 説 それから θ̇ を除けば発生トルク T が求まる† 。 となる。ただし,(41a) 式の要素の並びは,(38a) 式と対応 づけやすいように,通常の添字のつけ方と変えてあるから T= 注意されたい。このインダクタンス行列 (41a)-(41e) 式と巻 線抵抗を考慮すると, v sα R s v sβ 0 = vrd 0 vrq 0 0 Rs 0 0 0 0 Rr 0 i sα 0 i sα 0 i sβ d 0 i sβ + [L ] (42) ird 0 ird dt irq Rr irq 1 T ∂[L] [i] [i]· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (47) 2 ∂θ ここで,回転機の極対数が p のときは,機械的な角速度 θ̇ M およびトルク T M は,次式で与えられる。 θ̇ M = θ̇/p , T M = pT · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (48) (42) 式の場合も,[L] ⇒ [L0 ],θ ⇒ θ0 とすれば上記と同 のように,図 6(b) の固定電機子形モータの回路方程式が得 られる。 様にして同じ結果になる。 〈4・2〉 一般二相モータの発生トルク モータへの入力 〈4・3〉 円筒機と突極機の発生トルク計算例 電力は,モータ内部の抵抗損失,内部磁気エネルギーを増 前項で 求めた発生トルク (47) 式を具体例で計算してみよう。 減するもの,そして残りは機械出力となるものに分けられ まず,円筒機の場合は,インダクタンス行列が (18) 式で る。この機械出力を回転速度で除算すれば,一般二相モー あるから,それを回転角度 θ で偏微分すれば タの発生トルクを求めることができる。 0 0 ∂[L] = M − sin θ ∂θ − cos θ まず,(39) 式を,電圧・電流・抵抗・インダクタンスのベ クトルまたは行列をまとめて書き直すと次のようになる。 d [[L][i]] dt d[i] ∂[L] = [R][i] + [L] + θ̇ [i] · · · · · · · · · · · · · · · (43) dt ∂θ [v] = [R][i] + 0 0 cos θ − sin θ − sin θ cos θ 0 0 − cos θ − sin θ · · (49) 0 0 これを (47) 式に代入すれば,円筒機の発生トルク T q が T 上式に左から [i] を乗じて回転機の入力電力 Pi を求めれば, Pi = [i]T [v] = [i]T [R][i] + [i]T [L] 1 T ∂[L] [i] [i] 2 ∂θ [ ] 1 = i sd i sq irα irβ M 2 0 − sin θ 0 0 0 cos θ 0 − sin θ cos θ − cos θ − sin θ 0 Tq = d[i] ∂[L] + θ̇[i]T [i] · · · · ·(44) dt ∂θ となる。上式を変形する準備のため,インダクタンスに蓄 えられる磁気エネルギーの時間微分を計算する。 ( ) d 1 T [i] [L][i] dt 2 ( ) 1 d[i]T d[i] T d[L] T = [L][i] + [i] [i] + [i] [L] 2 dt dt dt ∂[L] d[i] 1 = [i]T [L] + [i]T θ̇ [i] · · · · · · · · · · (45) dt 2 ∂θ − cos θ i sd − sin θ i sq 0 irα 0 irβ = irα (−Mi sd sin θ + Mi sq cos θ) − irβ (Mi sd cos θ + Mi sq sin θ) = irα ψrβ − irβ ψrα · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (50) ただし,上式 2 行目右辺の第 1, 3 項は互いに等しい。なぜ ただし, ならば,それらはスカラーであり,(38a) 式に示したように ψrβ = −Md i sd sin θ + Mq i sq cos θ · · · · · · · · · · · · · (51a) [L] は対称行列だからである。よって,3 行目が得られる。 (45) 式を (44) 式に代入して,[i]T [L]d[i]/dt を消去すれば, ψrα = Md i sd cos θ + Mq i sq sin θ · · · · · · · · · · · · · · · (51b) Pi = [i]T [v] ( ) d 1 T [i] [L][i] + = [i] [R][i] + dt 2 ∂[L] 1 [i] · · · · · · · · · · · · · · · · · ·(46) θ̇ [i]T 2 ∂θ である。ここで,ψrβ は固定子 S 巻線の電流が作る磁束鎖 T 交数の回転子 rβ 軸方向成分,ψrα は固定子 S 巻線の電流が 作る磁束鎖交数の回転子 rα 軸方向成分である †† 。 同じことを突極機の場合にやってみよう。突極機のイン となる。(46) 式右辺において,第 1 項は抵抗による電力損 ダクタンス行列は (16) 式で与えられているから,それを θ 失,第 2 項はインダクタンスに蓄えられる磁気エネルギー で偏微分すれば の時間微分であり,残りの第 3 項が機械出力である。その † (46) 式右辺第 3 項の 1/2 に関しては,研究ノート D-13 pp.43-45 を 参照のこと。 †† ただし,このことは次章の回転座標変換を勉強しないと分かり難 い! 機械出力を回転速度 θ̇ で割れば,発生トルク T が求まる。 つまり,回路方程式に左から [i]T を乗じて電力 Pi を計算 し,その中で θ̇ のつく項だけを合計して機械出力を求め, 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 7 sd ∂[L] = sq ∂θ rα rβ sd 0 0 −Md sin θ −Md cos θ sq 0 0 Mq cos θ rα −Md sin θ Mq cos θ −(Lrd − Lrq ) sin 2θ −Mq sin θ −(Lrd − Lrq ) sin 2θ β q β q α θ d α d (a) d rβ −Md cos θ · · · · · · · · · · · · · · · · · · (52) −Mq sin θ −(Lrd − Lrq ) cos 2θ (Lrd − Lrq ) sin 2θ θ' = − θ (b) α 図7 回転座標変換 図 7(b) のように角度の測り方を変えたほうがよいことも ある。電機子巻線が固定子 αβ 軸にある回転機では,図 7(b) となる。これを (47) 式に代入すれば突極機の発生トルク T q のようにすれば電気的回転方向と機械的回転方向が一致す は る。このときは,(55a)-(55c) 式において θ = −θ0 とすれば ( ) T q = irα −Md i sd sin θ + Mq i sq cos θ − ( ) irβ Md i sd cos θ + Mq i sq sin θ − よい。 〈5・2〉 複素数による表記 (Lrd − Lrq )irα irβ cos 2θ − ) Lrd − Lrq ( 2 irα − i2rβ sin 2θ · · · · · · · · · · · · · · · · (53) 2 素数と二次元実数ベクトルとの対応は,あとで表 1 に示す。 回転座標変換は,複素数の極座標表現を使ったほうが位 相角を加算できるから簡略になる。すなわち,図 7(a) の座 標系の回転座標変換は,複素数を使って xdq = d + jq およ となる。上式右辺第 1,2 項に,(51a) と (51b) を適用すれば, び xαβ = α + jβ とすれば, T q = irα ψrβ − irβ ψrα xdq = exp(jθ)xαβ = (cos θ + j sin θ)(α + jβ)· · · · · · (56) −(Lrd − Lrq )irα irβ cos 2θ ) Lrd − Lrq ( 2 − irα − i2rβ sin 2θ · · · · · · · · · · · · · · (54) 2 である。この式は,複素平面で exp(jθ) を乗じれば位相が θ だけ増えるという,あたりまえのことを示してる †† 。この となる。上式右辺の第 1,2 項はフレミングの左手則に相当 ことは,表 1 の No.3 に示したように,回転座標変換 (55a) し,第 3,4 項は***3.1.3 項† ***に示されたリラクタンス 式に対応している。つまり,位相を増やすという意味が,複 トルクである。 5. 二相の電圧・電流は二次元 実数ベクトルで表せるが,複素数で表すこともできる。複 素数表現 (56) 式のほうが二次元実数ベクトル表現 (55a) 式 よりも鮮明に分かる。 回転座標変換 ここで,(56) 式を時間で微分すると, 〈5・1〉 二次元ベクトルの回転座標変換 ベクトルを観 ) dxdq d ( d = exp(jθ)xαβ = exp(jθ)( + jθ̇)xαβ · · · (57) dt dt dt 測する座標系を図 7 に示すように回転すると座標値が変わ る。このような場合に,回転座標変換が用いられる。図 7(a) となる。この式は,回路方程式を回転座標変換するときに において θ̇ = ω ならば,αβ 座標系からベクトルが止まって 出てくる時間微分項を処理するため頻繁に使用される。 みえても,dq 座標系からみれば ω でくるくる回ってみえ 〈5・3〉 複素数と二次元ベクトル る。言い換えると,dq 座標系からみたとき ω でくるくる 二相回転機の回転座 標変換を,二次元ベクトルでやると cos,sin,および,加 回ってみえるベクトルがあったなら,αβ 座標系に乗り換え 法定理がいやになるほど出てくる。それに比べて,複素数 れば止まってみえる。回転座標変換とは,このことを数学 表記を用いれば cos と sin を追放できる。ここでは, 「複素数 的に表現したものである。 の世界」と「二次元ベクトルの世界」を行き来するときに 図 7(a) のように d 軸から α 軸へ角度 θ を測るときは,二 必要となる知識を整理しておく。特に大切なのは, 〈5・3・4〉 相量 (d, q) と (α, β) との変換は,次式となる。 項である。 d = C(θ) α · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (55a) q β α = C(−θ) d · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (55b) β q cos θ − sin θ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (55c) C(θ) = sin θ cos θ 以下,★★★★までは退屈だから,忙しい人は★★★★ へ直行! 〈5・3・1〉 複素数の復習 よく見かける複素数の定義 は,次のようになっている。 実数 xr , xi と虚数単位 j2 = -1 を用いて, x = xr + jxi · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (58) †† † 図 7(a) をみよ。同じベクトルをみても d 軸からの位相角のほうが θ だけ大きい。 難波江ほか (1) p.56 8 S.Kondo Note, FileName: 00denACMcontrol.tex Nov.08, 2005 解 説 されるもの)を区別する††† 。 と書かれる数 x を「複素数」と呼び,複素数が等しいこと と四則演算を次のように定義する。 複素数の積と二次元数ベクトルの対応を次のようにする。 (xr + jxi ) × (yr + jyi ) = xr yr − xi yi + j(xr yi + xi yr ) xr −xi yr xr yr − xi yi ⇔ = · · · · · · · · · · (62) x x y x y + x y xr + jxi = yr + jyi ⇔ xr = yr かつ xi = yi · · · · · · (59a) (xr + jxi ) ± (yr + jyi ) ≡ (xr ± yr ) + j(xi ± yi ) · · · (59b) (xr + jxi ) × (yr + jyi ) i ≡ (xr yr − xi yi ) + j(xr yi + xi yr ) · · · · · · · · · · · (59c) i r 数であるが,二次元数ベクトルでは積の左と右が,それぞ れ,行列(加害者)とベクトル(被害者)というように顔 が変わる。面倒だけど,仕方がない†††† 。 ただし,Y ≡ y2r + y2i , 0 である。単なる実数は xr + j0 = xr ところで,上の 2 × 2 行列は,たった二つの要素で決 のように書くことが多い。 まっている(対角要素が xr で,非対角要素が xi 。これを しかし,上の定義は虚数単位 j が天下り的に導入されて シュワルツ形行列という。)。よって,上の 2 × 2 行列を おり,j が本当に存在するのかと考えると,不満足である。 二次元数ベクトルもどき としよう。この「2 × 2 行列」の性 これを避けるには次のようにする。 質を調べておこう。ただし, xr と xi が 0 でないときだけ。 まず,二つの実数の組を (xr , xi ) と書くことにする。ここ xr xi で,上の定義をそっくりまねして,次のように定義する。 (xr , xi ) = (yr , yi ) ⇔ xr = yr かつ xi = yi · · · · · · · (60a) (xr , xi ) ± (yr , yi ) ≡ (xr ± yr , xi ± yi ) · · · · · · · · · · · (60b) ただし, (xr , xi ) × (yr , yi ) ≡ (xr yr − xi yi , xr yi + xi yr ) · · · · (60c) X≡ xr yr + xi yi xi yr − xr yi , ) · · · (60d) Y Y cos θ −xi = X xr sin θ √ xr2 + xi2 , − sin θ · · · · · · · · · · · · · · · (63a) cos θ θ ≡ tan−1 ( ) xi · · · · · · · · · · · · · · (63b) xr (被害者)ベクトルに 上式から,加害者「2 × 2 行列」は, 襲い掛かかりそれを複素平面の原点を中心にして X 倍に引 ただし,Y ≡ y2r + y2i , 0 である。 き伸ばして,正の角度 θ だけくるっと回してしまうだけで こうすれば,実数の組 (xr , xi ) が「普通の複素数」に対応 ある。なお, xr = xi = 0 のときは,被害者を抹殺する殺人 する。単なる実数は xr = (xr , 0) である。実数の組 (0, 1) は 鬼(作用すると結果が 0 になる)になるから除いておいた 確かに存在するし,それが虚数単位 j に相当する。なぜな わけだ。 ら,上の積の定義 (60c) 式から (0, 1) ×(0, 1) = (-1, 0) だか 〈5・3・2〉 オイラーの公式 らである。したがって,虚数単位 j も確かに存在すること 虚数 jθ を右肩にもつ指数 関数,つまり, になる。よって,ちょっと気味の悪い j2 = -1 を避けること ejθ ≡ exp(jθ) = cos(θ) + j sin(θ)· · · · · · · · · · · · · · · · · (64) ができた。けれども退屈だね! ★★★★ 忙しい人はここからスタート ★★★★ をオイラーの公式という。前項 (63a) 式の正の角度 θ だけ そこで,頭のいい人† は,次のようにピンときたでしょう! くるっと回してまう行列は,複素数ではこの exp(jθ) に対応 『二つの実数の組は,二次元数ベクトルだ。したがって, する。つまり, 複素数と二次元数ベクトルを同一視できそうだ。』 cos θ sin θ しかし,複素数と二次元ベクトルは完全には一対一に対 応しない。たとえば,複素数同士の積は複素数になるが,二 次元数ベクトル同士の積は二次元数ベクトルにならない。 − sin θ ⇔ exp(jθ)· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (65) cos θ というふうに, 「二次元ベクトルの世界」と「複素数の世界」 つまり,下のようにはできない †† 。 が対応する。 二つの指数関数の積は, ????????· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (61) e x ey = e x+y · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (66) そこで,複素数の積に対応づけるために,次のようにす となる。そこで,上式の指数部が虚数のときを考えてみよ る。二次元数ベクトルは,2 行 1 列の行列のことだ。行列 ††† 加害者と被害者がそろったから,種明かし。ジャンジャ∼ン! (参 考文献 杉浦 (3) ) †††† ところで,n 次元数ベクトル空間に加法と乗法を定義して,しか も,積を可換にできるのは,n = 1, 2 の二つだけである。その二つと は,実数体と複素数体のこと。積が可換でなくてもよければ,n=4 の ときは非可換体となりハミルトンの4元数体という・ ・ ・。なんて,え らそうに杉浦 (3) p.42 の受け売り。 の積では左と右を入換えられない。左の掛けるもの(加害 者,作用するもの)と右の掛けられるもの(被害者,作用 † そうあなたのことです! 左の二次元ベクトルを転置してもダメ。結果がスカラーになっちゃ うから。右を・ ・ ・ウフ!! †† 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 r i 二次元数ベクトルの 1 行目が実部に,2 行目が虚部に対応 ≡ (xr yr + xi yi )/Y + j(xi yr − xr yi )/Y · · · · · · (59d) xr yr × xi yi i していることが分かる。複素数なら積の左も右も同じ複素 (xr + jxi ) ÷ (yr + jyi ) (xr , xi ) ÷ (yr , yi ) ≡ ( r 9 おまけ: う。つまり, ( 1 ) 複素平面で考えると,共役複素数は,元の複素数 ejα e±jβ = ej(α±β) = cos(α ± β) + j sin(α ± β) · · · · (67a) を実軸に対して折り返したものだ。 = (cos α + j sin a)(cos β ± j sin β) · · · · · · (67b) ( 2 ) 正方向にくるくる回る複素数の共役を作ると,負 = (cos α cos β ∓ sin α sin β) + 方向にくるくる回り出す。 j (sin α cos β ± cos α sin β) · · · · · · · · (67c) ( 3 ) 二相回転機の一相だけに交流をくわえると交番磁 界ができる。二回転磁界理論によれば,交番磁界は 上の (67a) 式と (67c) 式を,それぞれ,実部と虚部に分けて 正方向と負方向にくるくる回る二つの成分に分けて 比較してみれば,毎度おなじみの三角関数の加法定理が出 考えることができる。このようなときには,共役を てきてしまった。実は,このことが,回転座標変換を複素 導入すると便利だ。 数表記でやると加法定理を一切使わなくてもよい仕掛けに 二相回転機に突極性があると,d 軸インダクタン ( 4 ) :::::::::::::::::::::::::: なっている。 〈5・3・3〉 複素数の実部と虚部を分ける スと q 軸インダクタンスがそれぞれに単相交流的に ところで,上 変化するから,このときも:::::::::::::::::::: 共役複素数が出てくる。 で「実部と虚部に分けて・ ・ ・」といったけど,二つの方法 〈5・3・4〉 任意の2 × 2行列を複素数で表現する がある。まず,次のようにすればよい。 xr = Re(xr + jxi ) , 振 り返ってみると,複素数の話から始めて,二次元ベクトル xi = Im(xr + jxi )· · · · · · · · · · · (68) の世界に入りこんでしまった。ここでは,逆に, 「二次元ベク トルの世界」を「複素数の世界」に翻訳する方法を考える。 実部と虚部をそれぞれ取り出すために,二つの関数 Re(), 前に出てきた,加害者の「2 × 2 行列」は Im() が必要です。こんな簡単な仕事に関数を二つも使うな xr xi んて,ちょっともったいない。 † 実部と虚部に分ける,もう一つの方法は共役 を使う。つ まり, x + x∗ (xr + jxi ) + (xr − jxi ) 2xr · · · · (69a) = = 2 2 2 x − x∗ (xr + jxi ) − (xr − jxi ) xi = (−j) = (−j) 2 2 2jxi = (−j) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (69b) 2 上式は,分母を 2j にしておけば,カッコいい。しかし,こ −xi xr と,たった二つの実数 xr と xi だけで表せる。だけど,世 xr = の中はそんなに甘くない。すくなくとも,二軸理論では突 極形回転機のインダクタンス行列は非対称で,おまけに対 角要素まで異なる†† 。 一般の 2 × 2 行列は, a c うしておいたほうが後で行列との対応を考えるときに便利 である。 b · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (71) d というふうに,四つの要素が全部異なっていたりする。こ 共役のほうが,Re(), Im() よりも便利なことを説明して の行列を複素数で表す方法を示しておこう。 おこう。Re(), Im() は,複素数があらかじめ直角座標表現に 以下に示す方法は,上の行列 (71) 式を複素数で表す方法 なっていて実部と虚部に分かれているときはいいけど,極 として,エレガントではない。しかし,なんとかできる。 座標表現のときには不便だ(実部を取り出すのに絶対値に (もっとエレガントな方法があれば,私は知りたい。) cos を掛ける!)。それに比べると,共役は,直角座標表現 まず,次の四つの行列 でも極座標表現でもどちらも虚部の符号を反転するだけで 1 A1 = 0 1 A3 = 0 いい。そもそも複素数表現を導入した背景には,回転座標 変換の cos と sin の加法定理を追放したかったことがある。 Re() を使うと cos が顔を出しかねないから,複素数表記の 計算では Re() を使わずに共役を使ったほうがよい。 共役を使った公式をまとめておこう。 0 0 , A2 = 1 1 0 0 , A4 = −1 1 −1 , · · · · · · · · · · · · · · · · (72a) 0 1 · · · · · · · · · · · · · · · · · · (72b) 0 を考える。この四つから,次のように 2×2 行列で一つの要 (x ± y)∗ = x∗ ± y∗ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (70a) 素だけが 1 になるもの (xy)∗ = x∗ y∗ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (70b) ( )∗ x x∗ = · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (70c) y y∗ A1 + A3 1 = 2 0 A2 + A4 0 = 2 1 x x∗ = |x|2 ⇐ こいつは本当に役に立つ · · · · · · · (70d) Im(xx∗ ) ≡ 0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (70e) † 実部と虚部を取り出す二つの仕事に共に役に立つから, 「共役」な んちゃって。(これ,シャレだからね! 「共役」の本当の意味は違うか らね。) 0 , 0 0 , 0 A1 − A3 0 = 2 0 −A2 + A4 0 = 2 0 0 1 1 0 (73a) (73b) を作ることができる。そこで,上の各式にそれぞれ a, d, c, †† 10 (38c), (38d), (41b), (41c) 式を見よ。 S.Kondo Note, FileName: 00denACMcontrol.tex Nov.08, 2005 解 説 No. 表 1 複素数と実数ベクトルの対応 ただし,上式の要素の並びは,(38a) 式と対応づけやすいよ 複素数 うに,通常の添字のつけ方と変えてあるから注意されたい。 (A + jB)(x + jy) 1 (注 1) = (Ax − By) + j(Bx + Ay) 2 × exp(jθ) 3 exp(jθ) × 4 j× 5 複素共役 conj() 6 j × conj() 二次元実数ベクトル A −B x Ax − By = B A y Bx + Ay cos θ × sin θ cos θ − sin θ × sin θ cos θ 0 −1 × 1 0 1 0 × 0 −1 0 1 × 1 0 L s0 + L s1 cos 2θ0 = L s1 sin 2θ0 [ 0 ] L22 [ 0 ]T L12 [ 0 ] L11 は複素数, は実数である。 Md cos θ0 = Md sin θ0 `r + Lrd = 0 L s1 sin 2θ0 · · (75b) L s0 − L s1 cos 2θ0 −Mq sin θ0 · · · · · · · · · · · · · (75c) Mq cos θ0 0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (75d) `r + Lrq (注 2) 複素数の実部がベクトル 1 行目に,虚部がベクトル 2 行目に対応 する。 1 0 0 −1 1 0 1 0 , A2 = , A3 = , A4 = の (注 3) A1 = 0 1 1 0 0 −1 1 0 1 0 A1 − A3 0 0 A2 + A4 0 0 A1 + A3 , , , とき, = = = 2 2 2 0 0 0 1 1 0 −A2 + A4 0 1 = である。 2 0 0 L s0 ≡ ` s + v sα R s v sβ 0 = vrd 0 vrq 0 0 0 Rr 0 i sα 0 i sα 0 i sβ d [ 0 ] i sβ + L · (76) ird 0 ird dt Rr irq irq 上に示した固定子に電機子巻線がある二相回転機のイン (75b) 式に (74a)-(74d) 式を適用して複素数表現を求め に(加害者モードの)複素数で表現できる。 0 1 ると, 0 [L22 ] = L s0 A1 + L s1 (cos 2θ0 A3 + sin 2θ0 A4 ) (77a) ( ) 0 0 ⇔ L s0 + L s1 cos 2θ conj() + sin 2θ · j · conj() ⇔ 複素数なら 1 を掛ければよい。· · · · · · · · (74a) −1 0 = L s0 + L s1 exp(j2θ0 )conj() 求めると, 0 −1 A1 + A3 A1 − A3 + Mq cos θ0 + 2 2 A2 − A4 A2 + A4 + Mq sin θ0 Md sin θ0 2 2 Md + Mq ( ) 0 0 = cos θ A1 + sin θ A2 + 2 Md − Mq (cos θ0 A3 + sin θ0 A4 ) (78a) 2 Md + Mq ( ) ⇔ cos θ0 + sin θ0 · j + 2 Md − Mq (cos θ0 + sin θ0 · j)conj() 2 Md + Mq = exp(jθ0 )+ 2 Md − Mq exp(jθ0 )conj() 2 = M0 exp(jθ0 ) + M1 exp(jθ0 )conj() (78b) 0 T [L12 ] = Md cos θ0 ⇔ 複素数なら共役作用素,conj() です。· · (74c) 1 0 = 0 1 −11 0 0 0 −1 ⇔ 複素数なら j × conj() です。· · · · · · · · · · · · (74d) 以上に述べたことをまとめたものが,表 1 である。 〈5・4〉 二相回転機の複素数表記の例 固定子に電機子 巻線がある二相回転機のインダクタンス行列は,(41a)-(41e) 式に示したが,それをもう一度書いておく。 [ ] 0 [ 0 ] L22 L = [ ] 0 L12 ]T 0 L12 [ ] · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (75a) 0 L11 [ 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 (77b) (75c) 式に (73b),(74a)-(74d) 式を適用して複素数表現を ⇔ 複素数なら exp(jπ/2) = j を掛ける。· · · · (74b) 0 A4 = 1 0 Rs 0 0 ダクタンス行列 [L0 ] の複素数表現を求めよう。 上の四つの行列 (72a),(72b) 式は,それぞれ,次のよう 1 A3 = 0 L sd − L sq · · · · · · (75e) 2 機の回路方程式は次式となる。 ができる。 0 A2 = 1 L s1 ≡ さらに,巻線抵抗を考慮すると,固定電機子形の二相回転 b を掛けていって全部足したら,前に出てきた行列 (71) 式 になる。つまり,A1 , A2 , A3 ,A4 をそれぞれ複素数で表 すことができれば,行列 (71) 式を複素数に対応づけること 1 A1 = 0 L sd + L sq , 2 11 A1 + A3 A1 − A3 + Mq cos θ0 + 2 2 −A2 − A4 −A2 + A4 Mq sin θ0 + Md sin θ0 2 2 Md + Mq ( ) = cos θ0 A1 − sin θ0 A2 + 2 Md − Mq (cos θ0 A3 + sin θ0 A4 ) (78c) 2 Md + Mq ( ) ⇔ cos θ0 − sin θ0 · j + 2 Md − Mq (cos θ0 + sin θ0 · j)conj() 2 Md + Mq exp(−jθ0 )+ = 2 Md − Mq exp(jθ0 )conj() 2 = M0 exp(−jθ0 ) + M1 exp(jθ0 )conj() (78d) M ≡ Md = Mq 0 [L12 ] = Md cos θ0 L ss ≡ ` s + L sd = ` s + L sq Lrr ≡ `r + Lrd = `r + Lrq ( 3 ) 回転子の巻線は短絡されているから,vrd = vrq = 0 である。 ( 4 ) 図 6(b) の dq 軸上の回転子巻線は界磁巻線では なく,dq 軸を後で別の意味に用いるから,添字を d ⇒ γ , q ⇒ δ のように置き換える。 以上を (42) 式に適用すれば,かご形誘導モータの回路方程 式は, v sα R s + DL ss v sβ 0 = 0 DM cos θ0 −DM sin θ0 0 DM cos θ0 DM sin θ0 Rr + DLrr 0 ただし, M0 ≡ Md + Mq , 2 M1 ≡ Md − Mq · · · · · · · · · · · (78e) 2 (75d) 式に (74a)-(74d) 式を適用して複素数表現を求め 上式は,実際の誘導モータのように固定子巻線と回転子 A1 + A3 A1 − A3 + (`r − Lrq ) 2 2 Lrd + Lrq Lrd − Lrq = (`r + )A1 + A3 (79a) 2 2 ⇔ Lr0 + Lr1 conj() (79b) 巻線がそれぞれ別の座標系になっているが,使いにくい。 0 [L11 ] = (`r + Lrd ) その理由は,微分演算子に角度 θ0 依存項がつくため,(81) 式を用いたシミュレーションでは微分方程式を数値計算す るときの時間刻み幅を小さくする必要があり,計算時間が 長くなるからである。 座標系を統一するため,回転座標変換を以下のように適 以上をまとめると,固定電機子形二相回転機のインダク 用する。準備として (81) 式を複素数で表記すると, タンス行列の複素数表現は, 0 [L ] = 0 v sαβ R s + DL ss DM exp(jθ ) i sαβ = · · · (82) 0 0 DM exp(−jθ ) Rr + DLrr irγδ L s0 + L s1 exp(j2θ0 )conj() M0 exp(−jθ0 ) + M1 exp(jθ0 )conj() M0 exp(jθ0 ) + M1 exp(jθ0 )conj() · · · · · · (80) Lr0 + Lr1 conj() となる。上式の固定子と回転子を新 dq 座標系に統一する。 ただし,新 d 軸は,図 6(b) の α 軸から正の角度 θ0 の位置 にあるものとする。(82) 式に回転座標変換, i sαβ exp(jθ0 ) i sdq 0 · · · · · · · (83) = ( 0 ) irγδ 0 exp j(θ0 − θ ) irdq のように求められた。ただし,conj() は複素共役を作る演 算子で,右側に何かくるとそいつに襲い掛かる(微分演算 子と同じ)。 を適用する(上式は電流の変換式であるが,電圧の変換式 誘導電動機とベクトル制御 は i ⇒ v とすればよい)。その結果,新 dq 座標系に統一し たかご形誘導機の回路方程式は, ここでは,誘導機の回路方程式と発生トルク式から出発 v sdq R s + (D + jθ̇0 )L ss ) = ( 0 D + j(θ̇0 − θ̇0 ) M して,直接形および間接形ベクトル制御の制御式を導出す † る 。 〈6・1〉 かご形誘導モータの回路方程式 ( (D + jθ̇0 )M ) i sdq · · · · · · (84) Rr + D + j(θ̇0 − θ̇0 ) Lrr irdq かご形誘導 モータの回路方程式は,次のようにして求められる。 ( 1 ) 電機子巻線が固定子にあるから,図 6(b) が適し, (42) 式を用いる。 となる。ただし,θ˙0 はステータからみたロータの機械的な ( 2 ) 非突極機であるからインダクタンス行列 (41a)- 回転角速度である。また,θ0 はステータの α 軸から新 d 軸 (41e) 式で次のようにおく。 † −DM sin θ0 i sα DM cos θ0 i sβ · · · · · · · (81) 0 irγ Rr + DLrr irδ となる。ただし,微分演算子 D ≡ d/dt である。 ると, 6. 0 R s + DL ss DM sin θ0 DM cos θ0 への角度であり,用途に応じて任意に定めてよい。高速トル ク制御系などでは,上式の新 d 軸を磁束鎖交数ベクトルの 研究ノート D-14 pp.2-5 参照 12 S.Kondo Note, FileName: 00denACMcontrol.tex Nov.08, 2005 解 説 方向に一致させることが多い。このとき,上式では微分演 算子に角度 θ0 依存項がつかず,シミュレーションの積分時 ref isd 間刻み幅を大きくしても誤差が少ない。(84) 式の複素数表 ref isq Current CTL + - + - 現を,dq 座標系の実数ベクトルで表すと次のようになる。 v sd R s + DL ss v sq θ̇0 L ss = 0 DM (θ̇0 − θ̇0 )M 0 DM θ̇0 M Rr + DLrr (θ̇0 − θ̇0 )Lrr −θ̇0 M i sd i sq DM · · · · · (85) 0 −(θ̇0 − θ̇ )Lrr ird Rr + DLrr irq 図8 ref isd α -β d-q uvw iu ,v ,w α -β IM λr PS 磁束センサつき直接形ベクトル制御系 Current CTL + ref isq 用して求めると, - + vu ,v ,w ref vsd , sq d-q α -β α -β INV uvw - isd T = M(i sq ird − i sd irq ) = MIm(i∗rdq i sdq )· · · · · · · · · · (86) 〈6・2〉 ロータ磁束鎖交数の導入 i sq α -β θˆ0 (84) 式の 2 行目を見 やすい形にまとめるために,ロータ巻線の磁束鎖交数を導 phase calc. 入する。まず,ロータ巻線の磁束鎖交数を次式で定義する。 λrdq ≡ Mi sdq + Lrr irdq · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (87) λ̂r iu ,v ,w uvw vu ,v ,w IM flux observer PS 図 9 磁束オブザーバ使用の直接形ベクトル制 御系 (87) 式を使って,(84) 式の 2 行目を変形すると 0 = (D + j(θ̇0 − θ̇0 ))Mi sdq + ref isd 0 Rr irdq + (D + j(θ̇0 − θ̇ ))Lrr irdq ref isq 0 = Rr irdq + (D + j(θ̇0 − θ̇ ))λrdq · · · · · · · · · · · · · · · (88) Rr M Rr =− i sdq + λrdq + (D + j(θ̇0 − θ̇0 ))λrdq (89) Lrr Lrr + - + ref vsd ,sq d-q Current CTL θ0 - isd τ 2 ≡ Lrr / Rr を使って,irdq を消去して i sdq を残していることに注意す ref isq 1 ref isd τ 2 1 + τ 2P † る 。(89) 式を変形して,実数表記すると次式を得る。 i sd (90) i sq α -β d-q isq となる。ただし,(88) 式から (89) 式の変形に再び (87) 式 − Rr 0 θ̇ − θ̇ 0 d λrd λrd Rr M L rr = + dt λrq −(θ̇ − θ̇0 ) − Rr λrq Lrr 0 Lrr α -β d-q となる。ただし,Im は虚数部,*は複素共役を表す。 ∫ ω1dt α -β α -β INV uvw α -β uvw iu ,v ,w IM ω1 ω sl vu ,v ,w ωr PS + + 図 10 間接形ベクトル制御系 〈6・3〉 直接形ベクトル制御 次項では,(90) 式を基にトルク制御法を検討する。 いわゆる直接形ベクトル 制御では,ロータ磁束鎖交数ベクトル λr が何らかの方法で 一方,トルク (86) 式を磁束鎖交数 (87) 式を使って変形 検出できるものと仮定する。このため,直接形ベクトル制 ) 1 ∗ (λrdq − Mi∗sdq )i sdq Lrr ( ) M = Im λ∗rdq i sdq Lrr M (λrd i sq − λrq i sd ) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (91) = Lrr ( 御は,磁束フィードバック形ベクトル制御とも呼ばれる。 T = MIm 直接形ベクトル制御系のブロック図を図 8,9 に示す。図 8 は磁束センサを用いる場合で,図 9 は磁束オブザーバを用 いる場合である。 検出されたロータ磁束鎖交数ベクトル λr に基づいて,そ の方向を d 軸と定めれば,その q 軸成分は 0 となる。つ まり, ただし,上式の1行目から2行目の変形には,恒等式 Im(i∗ i) ≡ 0 を使った。 † uvw flux position calc. 発生トルク式は,(46) 式の下に述べた方法を (84) 式に適 すると, INV α -β i sq vuref,v ,w α -β θ0 isd −θ̇0 L ss R s + DL ss −(θ̇0 − θ̇0 )M DM ref vsd ,sq d-q λrd = |λr | · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (92a) λrq = 0· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (92b) ロータ電流は,所詮,観ることも触ることができないから。 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 13 となる。上の 2 式を (91) 式へ代入すれば,トルクは, d dt M λrd i sq · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (93) Lrr T= となる。これは,i sq が満たすべき方程式である。 一方,i sd が満たすべき方程式は,(90) 式の 1 行目と (92b) 式から, d Rr Rr M λrd = − λrd + i sd · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (94) dt Lrr Lrr となる。 となる。ただし,パラメータの上添字 o は誘導機内部の実 re f トルク指令値 T re f とロータ磁束鎖交数の指令値 λrd が 際値を表し,ハット ˆ は制御器内部の値を表す。 与えられたときには,(93) 式と (94) 式を満たすようにする (100) 式において,上添字 o とハット ˆ がついたものが それぞれ等しければ,まず,右辺第 2 項が [0 0]T とな る。このことと,右辺第 1 項の 2 × 2 行列の固有値は o −Ror /Lrr ± j(θ̇0 − θ̇0 ) であるゆえに応答が漸近的に減衰す る †† ことから,(λord − λ∗rd ) → 0 ,λorq → 0 となることが分 かる。すなわち,q 軸成分がなくなる (λorq = 0 になる) から ロータ磁束鎖交数は d 軸に縛りつけられて,その大きさも re f 指令値どおりになる (λord = λrd ) ことを確認できた。 ために,ステータ電流指令値を, Lrr T re f · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (95) M λre f rd 1 Lrr d re f = (1 + )λ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (96) M Rr dt rd f ire sq = f ire sd とすればよい。(95) 式と (96) 式が直接形ベクトル制御の制 御則である。 〈6・4〉 間接形ベクトル制御 Ro M o L̂rr re f o λ λrd − r rd o R̂r M̂Lrr o λrq o o o − Rr θ̇0 − θ̇0 λo − Rr M L̂rr λre f o Lrr rd rd o + = o R̂r M̂Lrr −(θ̇ − θ̇0 ) − Rr o 0 λrq o Lrr o o[ o ] Ror /Lrr Rr M f λre 1− o Lrr M̂ R̂r /L̂rr rd · · · · · · · · · · · · · · (100) 0 7. いわゆる間接形ベクト PM モータと制御 ル制御は,ロータ磁束鎖交数 λrdq を検出せずに,その指令 〈7・1〉 永久磁石界磁同期機(PMモータ)の回路方程式 値に強引に縛りつける制御である。このため,間接形ベク 回転子に永久磁石界磁を有する同期機の回路方程式を次の トル制御は,磁束フィードフォワード制御とも呼ばれる。 ように求める。 f re f λrdq を検出しないで,その指令値 λre rdq = λrd + j0 に縛 りつけるために,まだ使用していない (90) 式の 2 行目を使 ( 1 ) 電機子巻線が固定子にあるから,図 6(b) が適し, (42) を用いる。 ( 2 ) 図 6(b) の d 軸巻線は永久磁石界磁であり,それが 作る電機子巻線の磁束鎖交数を ψ ≡ Md ird とする。 ( 3 ) q 軸巻線はないから除く。 以上と (42) 式から回路方程式は,電機子巻線のある固定子 αβ 座標系では, i sα v sα i sα d = R s + [A1 ] + dt i sβ v sβ i sβ i sα − sin θ0 0 [A2 ] + θ̇ ψ · · · · · · · · · · (101a) cos θ0 i sβ う!すなわち, d Rr Rr M λrq = − λrq − (θ̇0 − θ̇0 )λrd + i sq · · · · · · · (97) dt Lrr Lrr を満たすように (θ̇0 − θ̇0 ) を制御する。仮に λrq = 0 の状態 を維持できる (残った問題として後で説明する) ものとすれ ば,上式から, (θ̇0 − θ̇0 ) = re f Rr M i sq · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (98) Lrr λre f rd とすればよい。 以上で,間接形ベクトル制御の制御則として,(95) , (96), (98) 式を導出できた。図 10 に間接形ベクトル制御のブロッ L s0 + L s1 cos 2θ0 [A1 ] = L s1 sin 2θ0 L s1 sin 2θ0 · (101b) L s0 − L s1 cos 2θ0 − sin 2θ0 [A2 ] = 2θ̇ L s1 cos 2θ0 cos 2θ0 · · · · · · · · · · · · (101c) sin 2θ0 ク図を示す。ただし,図中の記号は, τ2 ≡ Lrr /Rr , ωr ≡ θ̇0 , ω sl ≡ θ̇0 − θ̇0 · · · · · · · · (99) 0 である。 残った問題は,この制御で,本当に λrq = 0 の状態を維持 L s0 ≡ ` s + できるかどうかである。これを確認するには,次のように すればよい † 。ロータ側方程式 (90) 式に,制御則 (95), (96), L sd + L sq , 2 L s1 ≡ L sd − L sq · · · · · (101d) 2 上式の複素数表記は,複素共役を*で表して, (98) 式を代入して整理すると, †† † 分からなかったら,制御に関する本の「制御系の固有値」を勉強 せよ! 近藤のオリジナル! 14 S.Kondo Note, FileName: 00denACMcontrol.tex Nov.08, 2005 解 説 di∗sαβ di sαβ + L s1 exp(j2θ0 ) dt dt +2θ̇0 L s1 exp(j2θ0 )ji∗sαβ + exp(jθ0 )jθ̇0 ψ · · · (102) v sαβ = R s i sαβ + L s0 である ††† †††† 。上式を図 6(b) の dq 座標系に変換するため, v sαβ = exp(jθ0 )v sdq , i sαβ = exp(jθ0 )i sdq · · · · · · · (103) を代入すれば,永久磁石界磁とともに回転する dq 座標系 での回路方程式は, v sdq di∗sdq di sdq = R s i sdq +L s0 + L s1 dt dt 0 +jθ̇ L s0 i sdq + jθ̇0 L s1 i∗sdq + jθ̇0 ψ · · · · (104) となる † 。上式は 2 次元実数ベクトルで表せば, v sd 0 d i sd = R s i sd + ` s + L sd v sq i sq 0 ` s + L sq dt i sq 0 0 −(` s + L sq ) i sd 0 0 +θ̇ + θ̇ · (105) ` s + L sd 0 i sq ψ となる。発生トルク式は,(105) 式に (46) 式の下に述べた 方法を適用して, T = (L sd − L sq )i sd i sq + ψi sq · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (106) となる。なお,回転機の極対数が p のときは (48) 式を適用 する。 〈7・2〉 予 告 編 PM モータのベクトル制御,高効率 化制御,磁束制御,弱め界磁制御,さらには,位置センサ レス制御などなど。。。乞うご期待! !次号を待て! ! (平成 15 年 3 月 27 日受付,同 17 年 11 月 08 日再受付) 文 献 ( 1 ) 難波江,金,高橋,中村,山田: 「基礎電気機器学」, 電気学会,1984 ( 2 ) 山村: 「電気回路と回転機の解析と制御 ――スパイラルベクトル理 論――」, オーム社,1998 ( 3 ) 杉浦光夫:基礎数学2 解析入門 ,東京大学出版会,1980 ( 4 ) 研究ノート:file name == NoteD14P2.doc 来 2005/11/07 2003/04/25 歴 安本氏の指摘により,式 (104) 右辺最後から 2 つ目の添字修正。 電気学会クラス [2003/01/14 v2.1] 修正版 ieejSK.cls 使用 ††† 研究ノート D-12 pp.50-52 (102) 式の右辺の i∗sαβ に注 目せよ。こいつは,i sαβ と逆方向に回 転する。こいつがあるから位置センサレス。。。 † 研究ノート D-13 pp.40-41 †††† 近藤ノート ファイル名:00denACMcontrol.tex Nov.08,2005 年 15