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リウマチ患者の残された機能を生かすための援助 -パンツの改良を試みて-

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リウマチ患者の残された機能を生かすための援助 -パンツの改良を試みて-
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8
リウマチ患者の残 された機能 を生かすための援助
◎報
告
リウマチ患者の残 された機能 を生かすための援助
-パ ンツの改良を試みて 土海
智穂,寺崎
佳代,岡本
和代 ,山田 修子
岡山大学医学部附属病院三朝分院看護部
要旨 :関節の変形と骨破壊を伴い ,排池動作 に支障をきた している慢性関節 リウマチ患者に対
し改良パンツの作成を試みた。残存機能 に合わせはきなれたパンツを=夫することによ り,排
雅動作が自立でき満足感が得 られた。
索引用語 :慢性関節 リウマチ ,改良衣類 ,排潜自立 ,満足感
Ⅱ.研究方法
Ⅰ.はじめに
慢性 関節 リウマチ (
以下 RA と略す)は , 多
発性の非化膿性の関節炎 を主症状 とする原因不明
の慢性全身性疾患である。軽快 と増悪 を繰 り返 し,
0日∼ 9月 2
0日
平成 9年 7月 2
1.研究期間
2.対
象 、
1)患者紹介
やがて軟骨や骨 を破壊 し,機能障害 を起 こす進行
患者 :A氏 6
3歳
性の病気であ り,多関節障害 をきたす とADLの
病名 :RA (
ス テー ジ Ⅳ クラス 3)
自立が困難 となる。
その ような状況の中で も,自立 しようとする意
志のある患者は,残 された機能 を最大限に活用 し,
女性
主婦
糖尿病 (
以下 DM と略す)合併
体格 :身長
1
53.
4c
m 体重
5
3.
0
kg
家族 :1年前 に夫 を亡 くし,2人の息子 は
可能な限 り何事 も自分で行お うと努力 している。
県外で暮 らしてお り,現在独居。外
特 に,排池 に関 しては,人手 を借 りず 自分でや り
泊時は家政婦の介護 を受ける。
たい と考えるのは当然の ことである。
症例 は,発症か ら 1
4年 を経過 した RA患者で,
2)入院迄の経過
RA 昭和 57年発病
現在関節の変形 と骨破壊 を伴い,徐 々に握力低下
平成元年 よ り当内科 に通院。年 に 1
をきた し,最近は排准後のパ ンツを上げることが
回 2- 3ケ月入院 し, リハ ビリテー
困難 とな り,人の手 を借 りなければならない状態
シ ョン (
以下 リハ ビリと略す),D
にあった。
Mのコン トロールを受 けていた。
そこで,今回患者の残存機能 に合わせたパ ンツ
平成 3年 2月川崎医大 にて頚椎固定
の工夫 を行い,自分で着脱可能になった一例 を報
術。
告す る。
平成 8年 8月 1日より自宅 にて家政
婦の世話 にな り,家庭療養 を行 う。
自宅では, リハ ビリも行 えず,行動
8
9
リウマチ患者の残 された機能 を生かすための援助
範囲 も狭 ま り,徐 々に下肢筋力低下
く資料 1)
をきた し8月 3
0日再入院 となる。
DM 平成元年発病,同年 よりインシュ リ
ン注射開始
3)現在の状態
電動ベ ッ トを使用 し,ほ とん どベ ッ トの
上での生活。 リハ ビリや売店などには電動
車椅子 を使用 している。
インダシン坐薬 5
0
mg (
朝 ・夕)挿入介助
プ レ ドニ ン 7.
5
mg内服
イ ンシュ リン注射 (ヒューマ カー ト3
/
7
朝2
8単位,夕 1
6単位)Nsで施行
リハ ビリは鉱泥湿布,エルゴメー ター,低
周波 ,PTによる筋力増強訓練 を行 ってい
る。
①食
事
DM 1
2
0
0
K
c
al ス プー ンを使 用 し自力
で摂取,果物の皮む きのみ介助
②排
壮
尿 8回/ 日,便 1回/ 日 ベ ッ トサ イ ド
関節可動域
でポータブル トイレ使用
R
t
Lt
伸展
屈曲
外反
内反
回内
回外
-20
145
25
20
50
100
-20
135
25
20
75
90
背屈
掌
屈
模屈
70
50
15
120
70
25
下着 に便汁が付着することがあるので,
パ ッ トをあてている。
③清
肘
潔
エ レベーターバスによる介助入浴
2回
/過
④活
前腕
動
リハ ビリ以外 はほ とん どベ ッ トの上でテ
レビを観て過 ごす。
移動 は電動車椅子 を使用 し,毎 日午前中
手 関節
はリハビリに出かけた り,他者 とのコミュ
ニケーシ ョンをとっている。
⑤ 身体状態
関節可動域 (
手 ・指)
全身の関節変形,軽度の拘縮,骨破壊 あ
り,関節可動域 は両肘関節内 ・外反 と左
手関節背屈の過剰可動性がみ られ,両遠
位指節間関節 (
D IP関節)の屈 曲が小 さ
MCP
Rt
+I
第2
い。
事3
両指先 と両足部 は しびれ,下腿 は感覚鈍
?4
麻がある。下肢筋力低下のため立位保持
+5
が困艶である。 (
資料 1)
屈曲
仲
屈曲
伸展
屈曲
伸展
屈曲
伸展
屈曲
I
.
t
20
60
20
0
85
90
30
30
95
95
80
30
90 100
35
30
95 100
PlP
Lt
35
85
50
40
95
95
0
0
95
950
0
100
95
-15
65
90
Rt
DⅠP
Rt
Lt
50
20
50
10
40
20
50
50
0
55
0
55
0
40
0
9
0
リウマチ患 者 の残 された機 能 を生 かす ための援助
撞 力 は水 銀 握 力計 で R5
2
皿止I
g
,L4
0
m
m
H
g(
入院時 R
6
0
皿H
gL
4
8
m
i1
m
g)
2)実際
Ⅰ)
(
改良
時 々左手関節の固定装具 を装着 している。
ステ ロイ ド剤 内服 し,血沈値
つ
・CPRは
h
l
は
正常域
リウマチ因子定量 は
1
1
5
.
6
Ⅰ
.
U
.
/
ml
と高
値
FBS 1
7
1
mg
/
dl
,
H
g
Ai
c9.
9
%
(
む精神状態
疾病 に対 しては現状 を受 け とめ てお り,
将来寝 た き りになるだろ うと思 ってい る
パ ンツの表 の ゴムのす ぐ下 に指 をかけて
が,病気 に対 して前 向 きな姿勢 で, で き
上げれるように,ゆ とりを持 たせ た棉 レー
るこ とは 自分 で しょうとい う意志 が見 ら
ス を周 囲 6ヶ所 に付 ける。
れ る。 「足 の装 具 はあ るが,手 に代 わ る
装具 はないので,手 は大切 に したい」 と
Ⅲ)
(
改良
言 ってい る。
レ 7仙
明 る く, ク ヨク ヨ しない性格 で友人 も多
後
く,頑張 り屋 。
3.研 究方法
パ ンツの上 げ下 げの現状 を知 り,実際 にパ
ンツのモデル を作 って試着 して もらい A氏 の
感想及 び希望 を聞 き,その上 で不足 の点 があ
れば更 に改 良 して使 い勝手 の良い,本 人 に最
パ ンツの表 の ゴムの下 の前後 ・左右 に指
適 なパ ンツを作 ってい くとい う方法 で進 めて
を下側 か らか けるためのポケ ッ トを 4ケ
い った。
付 ける。
1)パ ンツの上 げ下 げの現状
・綿 1
0
0%L
Lのス タンダー ドシ ョー ツを
第 2-4指 が入 る幅 で,第 2関節 の深 さ
の ポケ ッ トを等 間隔 に付 ける。
着用
・ベ ッ ドサ イ ドでポー タブル トイ レを使
用
(
改良
Ⅲ)
パ ンツの蓑 に改 良 Ⅱと同 じポケ ッ トを 4
・パ ンツ とズボ ンは一緒 に下 げ る
ケ付 ける。
・ベ ッ ド柵 や床頭 台 に捕 ま りなが ら,片
前 中央 のポケ ッ トを左 寄 りに付 ける。
手 で体 を支 え,片手 で交互 に上 げる
・排 壮後 ,汗 をか きなが らもで きる とこ
ろ まで は 自分 で上 げてい るが,坐薬 の
きれ 日や発 汗が多 い時 には困難 な こ と
があ り,や む を得ずN
sコール を してい
る。
・今年 に入 りパ ンツが上 げ に くくな り,
援助 回数が増 えた。
91
リウマチ患者の残 された機能 を生かすための援助
Ⅲ.結
介助の必要が無 くな り,一人で上げ
られるようになった。
果
患者 A氏の握力 ・関節可動域 ・変形 を考え,パ
Ⅳ.考
ンツにひっかか りがあれば上げ易いのではないか
と仮説 し改良 Ⅰのパ ンツを作製 した。ひっかか り
察
ひっかか り部分はパ ンツを引 き上げるためには,
の部分は延び過 ぎるゴム状のものは避け,パ ンツ
延びない素材が好 ましく,パ ンツその ものは伸縮
の横伸びを妨げないよう 1つずつ離 して付けた。
性があった方がはき易い。この相反する二つの条
ひっかか り部分は,感触が分か り易い素材 と見た
件は改良パ ンツを作製するにあた り,最 も苦労 し
目を配慮 して レースを使用 した。
その結果① レースのひっかか りは 6ヶ所あるが,
指 をひっかけるのは難 しく捜 して し
まう。
②引っ張 り上げるのにレースが長す ぎ
て,パ ンツの位置以上に引 き上げな
くてはいけな く辛い。
(
参デザインはお酒落で可愛い。
そこで,つかみ易 く,必要以上に引っ張 り上げ
ないでよく,どの位置で も指がひかかるようにポ
ケッ ト型の改良 Ⅱのパ ンツを作製 した。ポケ ッ ト
た点である。計算 されたものではな く,A氏の意
見 を聞 きなが ら,細やかな調整 を行 ったことがA
氏の満足感 とスムースな動作 につながったと考え
る。そ して,スムースな動作が行 えるということ
は,排壮時の起立時間が短縮 され,関節への負担
の軽減にもなるといえる。
当初,我々には,パ ンツとズボンは別々に上げ
るという固定観念があ り,指のひっかか りを表側
に作ればパ ンツが上げやすいのではないか と考え
たが,A氏には適 さなかった。
その原因としては,①発想の転換が不十分 ②
はスムーズに動作が行 えるように,第 2-4指が
思考の柔軟性が少 ない ③観察が不十分
入る幅で第 2関節の深 さとした。
られ,反省すべ き点である。
その結果◎指のひっかか りはいいようだ
②前中央のポケットは少 し左側に付け
てほ しい。
③ ポケッ トの数は 4ケで丁度良い。
④改良 Ⅰのパ ンツよりは良い。
⑤パ ンツとズボンを一緒 に上げるよう
が考え
しか し,A氏は常 に前向 きな気持 ちを持 ってお
り,非常 に協力的であ り,そのために率直な意見
も聞かれ,決 して我々の自己満足だけで終わるこ
とな く,好結果が得 られたとも言える。
1)
延近は
「
従来の排壮行動 を取 り戻せた時の健
康感 ・満足感は,その後の療養生活に自信 を与え
に,ポケッ トを裏側 に付けたらどう
る」 と述べている。
だろうか。
一度は不可能になるかと思われた トイレ動作が,
再び自力でできるようになることは患者にとって
そこで,パ ンツとズボンを一緒に上げるように,
ポケットを裏側に付け,ポケットの位置は患者の
着脱動作 を踏 まえた 4ヶ所にした改良Ⅲのパ ンツ
を作製 した。
その結果① ポケ ットのゆとりが丁度良い。
この上ない満足感につながるものである。そ して,
それは看護する者にとっても大 きな喜びである。
V.おわりに
②後の裏ポケッ トに 4本の指 をひっか
患者のセルフケアの自立 を考えるにあた り,ま
け,パ ンツとズボンを一緒 にもち上
ず,患者の病態 を理解 し,それに基づいたセルフ
げた時,今 までより楽に上げること
がで きる。
ケアへの援助 をすべ きと考える。
今回A氏のためのパ ンツの改良であったが,R
A
③今 までは中途半端 にしか上げられな
患者は症状 に個人差が大 きいため一つの工夫が誰
かったが,今は腰の位置 まで しっか
り上げられて嬉 しい。
にで も適するというものでな く,患者の数だけ工
夫があるという気持 ちで個人の残 された機能を最
リウマチ患者の残 された機能 を生かすための援助
大阪に生かせ るように,個人に合 った援助 を して
い きたい。
引用 ・参考文献
1.延近久子 :看護援助 における"
便 と尿"の もつ
意味 看護技術
,3
8(
1
4
)
:
1
4
,
1
9
9
2
.
9
2
2.小林茂人他 :慢性関節 リウマチ患者の トータ
ルケア 看護技術 V
ol
.
1
,
3
8
,
1
9
9
2
.
3.西岡淳一他 :日本医事新報 日本医事新報社,
N
o
3
6
1
,
A
p
r
i
1
,
1
9
9
7
.
4.竹内 勤他 :クリニカルス タデ ィ メヂカル
フレン ド社 ,γ
ol
.
1
8N
o
2
,
1
9
9
7
.
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