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エアコンに2つの過大表示疑惑(日経ビジネス2010/06/21)

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エアコンに2つの過大表示疑惑(日経ビジネス2010/06/21)
2010年 6■ 21日 発行
[毎
週 月曜 日発 行 ]第 1546号
1969年 10月 9日
三 種郵 便物認可
2010.6.21
蝙嘔
≫靱 米
蓼鰈 鼈
I
エアコンに2つ の過大表示疑惑
エアコンの省エネ性能力ヽ
「かさ上げ」
されている“
疑惑"が 持ち上がった。
大ウ ーカーは否定するが、
通称「爆風モード」と呼ばれる手法を使う。
電気代の節約効果でも、
カタログと実態の乖離が問題視され始めた。
「エ ア コ ンに “
爆風 モー ド"と い う隠
う1つ は、特定 の温度 と湿度を満たす
冷房試験の際、日本の夏では不可欠
し機能 があ るのを知 ってい ますか」。
空間にエ ア コンが置かれると、内蔵 マ
な「除湿運転」を行わない手法 もある。
あるエ ア コン業界関係者は、匿名を条
イ コンが検知 して爆風 モー ドが作動す
湿度 は人 間が感 じる「快適性」を左右
件 に こ う語 った。「これによ り、省 エ
るとい うものだ。
するが、除湿運転をすると消費電力が
ネ性能が実態以上に良 く見えている」。
そ していずれ も、一般家庭では許容
増加するか らだ。カタログに載 ってい
エ ア コンの省 エ ネ性能は日本工業規
できない レベルの騒音を出 しなが ら強
るCOPは 、実際の利用環境を反映 しな
格 (JIS)に 基 づ き、メー カー各社が加
風を吹き出 し始める。騒音を減 らす と
い状況での試験で、測定されているの
盟す る日本冷凍 空調 工 業会
冷 工)
その分消費電 力が増 え、COPが 下 が
が実情だ。しか も省 エ ネ性能を高 く見
のセ ンター で試験 す る。 測定 す るの
るか らだ。 さ らに暖 房 の場合 は肌寒
は冷 暖房 能 力 を消 費 電 力 で割 った
く、冷房では生暖かい風を連続 して吹
せれば拡販効果があるため、な し崩 し
かさ上げ行為 "が 拡大 してきた。
的に “
(日
「COP」 とい う指標 だ。 この値が高 い
き出す ことで、消費電力を抑える。
独立行政法人建築 研究所 の 澤地孝
ほ ど、
省 エネ性能が高い。現在は「APF」
とい う指標がカタログに掲載されてい
るが、実質的にはCOPと ほぼ同 じだ。
APFは 、政府がエコポイ ン トを付与
する基準にもなる。だが前出の関係者
によれば、 この数値が「大 き くかさ上
げされている」とい う。
快
を無視した試験モー ド
爆風 モー ドとは一体何なのか。
大手 エ ア コンメーカーは「何 の こと
か全 く分か らない」(広 報)と 存在を真
っ向か ら否定する。だが複数 の関係者
へ の取材を総合す ると、大 き く2つ の
パ ター ンが浮かび上がってきた。
まず は リモ コ ンに「隠 しスイ ッチ」
を仕込む もの。温度や風向 といった複
数 のボタンを、普段の生活では絶対 に
や らないようなパ ター ンで押す と、エ
ア コ ンが特殊な状態になるとい う。 も
8 NIKKEI BUSINESS艤 2010621
写真
:PANA通 信 社
暖房時のエアコンの実働効率
男・環境研究 グルー プ長は「時速6Klkm
C7
0
員6
で巡航 した時 の 燃費 のみを切 り出 し
15
て、 自動車 のカタロ グに表示 している
書5
の
ようなもの」と手厳 しい。
霧
は大き く異なる可
能性が出てきた。
JISの 基準では、
4
東京の家庭の場合
澤地 グルー プ長が研究用の集合住宅
で1年 の うち、冷
で、エ ア コンの実性能を評価 したのが
房 で3.6カ 月、 暖
右 のグラフだ。実際に人が住んでいる
房で5.5カ 月、1日
ような条件を再現 し、省エ ネエ ア コン
最 大 18時 間 エ ア
その結果、省 エ ネエ ア コンの方がカタ
ロ グ値 との乖離が激 しか った。「カ タ
…6
-4
-2
0
2
4
6
8
10
度温
4
︲
2獅
と一 般 エ ア コ ンの 暖房効率を調 べ た。
コンを利用すると
している。各社の
出所 :独 立行政法人建築研究所及び国土技術政策総合研究所による実験結果
カタログや店頭に
ロ グ効率か ら期待 されるほ どの省 エ ネ
表示 されているエ
効果 は、必ず しも得 られなかった」と
は想定 していない。それをベー スに し
ア コ ンの電気代は、 この基準を基に計
澤地 グルー プ長は指摘する。
たため「ル ー ルブ ックで禁止 していな
算 されている。
エ ア コ ンの消費電力は室内外の気温
い ことな ら、メー カー は何 でもするよ
や断熱性能な ど、様々な要因によって
うになった」と別の 関係者は指摘する。
影響を受ける。評価の難 しさも、COP
業界団体 も板挟みで苦慮 している。
節約効果も過大表示か
しか し、経済産業省や産業技術総合
の「過大表示」を蔓延 させ る原 因 にな
「様 々
日冷工の岸本哲郎・専務理事は、
研究所 が全 国の約 4000世 帯 に対 して
っている可能性が高い。
な手を使 って、メー カー が トップラン
調査を実施 した ところ、想定 とは違 う
ナー基準を達成 しようとしているの は
数字が浮かび上がってきた。まだ集計
トップランナー諸
1度 の弊害
事実」と認める。特殊な条件下でCOP
途中だが、エ ア コンの年間使用時間は
を測定す る以上、各 メー カー が「試験
「現行基準の5分 の 1か ら6分 の 1に すぎ
が、1999年 に導入 された「 トップラン
対策」を して くるのは競争上仕方ない、
ない」と調査 に関わる東京大学の飛原
ナー制度」だ。 エ ア コ ンではCOPが 指
とい う立場だ。
英治教授は語 る。カタログが うた う
「新
こ うした状況を招 いた背景にあるの
標 とな り、各 メー カー に常 に省 エ ネ努
力が課せ られるようになった。
日冷工は昨年、隠 しスイ ッチによる
型へ の買 い替 えで、年間○円の電気代
爆 風 モー ドの起動 に 関 して は禁止 し
が安 くなる」とい った効果 は、割 り引
しか し、コ ンプレッサ ーやイ ンバー
た。だが、す ぐにメー カー側は抜け穴
いて考 える必要があ りそ うだ。
ター 性能 の 向上 な ど「正 当」なや り方
を探 し出 した。 今年 3月 以降に発売 さ
で、COPを 上 げ るには コ ス トと時間
れた多 くのエ ア コ ンには、起動 スイ ッ
年間販売台数 は過去 10年 以上、700万
がかか る。 そ こで、「 トップランナ ー
チが「消費者 に見 える形」(関 係者 )で
台前後で推移 している。国内で販売台
基準をクリアできない と思 ったある企
リモ コンに搭載されているとい う。
数を維持するには買い替 えを促す しか
業 が、2004年 頃 に爆風 モー ドに手 を
染めた」とメーカー 関係者 は明かす。
一部 のメーカーは リスクを感 じたの
か、爆風 モー ドを使 わず COPを 測定
エ ア コ ンの 国内市場 は既 に飽 和 し、
ない。 だが、消費者 に対 して正 しい情
報 が提供 されているとは言 い難 い。
結果、達成す べ き COP目 標値 が一
し始めた。 日冷工 も、来 年か ら試験 セ
気 に上がって しまい、一 時はほぼすべ
ンターの運営を「エ ア コ ンメーカーの
実態調査 に乗 り出 してい る。 COPな
てのエ ア コンメー カーが追随 した。
「悪
力が及ばない外部機 関 に委託す る」と
どで過大表示が常態化すれば「間違 っ
貨が良貨を駆逐 した典型例」とメー カ
岸本専務理事は語 る。だが、これで「い
た方 向に製 品が進化 しかね ない」(経
ー 関係者 は恨め しそ うに語 る。
たち ごっこ」が収 まるか どうかは不透
産省幹部)か らだ。 国内で「不毛 なス
明だ。
ペ ック競争」を続 けてい るだけでは、
拍 車 を か け た の が 制 度 の 不 備 だ。
JISは そ もそ も、機 器 の性能を一 定 レ
エ アコンにまつわる
「過大表示疑惑」
経産省 もこうした 問題点を把握 し、
エ ア コンで も、海外 に通用 しない「ガ
ベ ル以上に保 ち、粗悪 品を排除するた
は省 エ ネ性能だけに限 らない。買い替
ラパ ゴス製品」ばか りが生み出され る
めの規格で、実際の家庭での利用状況
えの基準 となる電 気代 も、利用実態 と
ことにな りかねない。 (4ヽ 笠原 啓)■
2010621躊 NIKKEI BUSINESS 9
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