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Title 日本産硬骨魚類における小脳弁の比較解剖学研究( Abstract_要旨
Title Author(s) Citation Issue Date URL 日本産硬骨魚類における小脳弁の比較解剖学研究( Abstract_要旨 ) 島村, 初太郎 Kyoto University (京都大学) 1964-12-22 http://hdl.handle.net/2433/211422 Right Type Textversion Thesis or Dissertation none Kyoto University 【 51 】 氏 島 しま 村 むら 初 太 郎) はっ た ろう 士 学 位 の 種 類 理 博 学 位 記 番 号 論 理 博 第 86 号 学位授与の 日付 昭 和 39 年 12 月 22 日 学位授与の要件 学 位 規 則 第 5 条 第 2 項 該 当 学位論文題 目 日本 産 硬 骨 魚 類 に お け る小 脳 弁 の 比 較 解 剖 学 的 研 究 論 文 調 査 委員 教 授 中 村 健 児 学 (主 査) 論 文 内 教 授 市 川 容 の 要 衛 教 授 森 主 - 旨 主論文 は, 63科に属 する 103 種の 日本産硬骨魚について, 硬骨魚の脳に特有 な構造である小脳弁の形態 を しらべ, その特徴 と行動の特異性 との関係か ら, この器官の機能を推論 し, また, その形態的特徴 の系 統分類学的意義を論 じたものである。 小脳弁の形態 は種 によって大 きな差異がある。 著者 は, 第三脳室 の一部である視菓室の容積を基準 と し て小脳弁の発達の程度を比較 し, 外部形態か らこれを 15 の型に区分 した。 小脳弁の組織は, 小脳におけると同様に分子層 と頼粒層に区分 され る。 著者 は両層の体積比が小脳本体 の頼粒隆起の発達 に関係することを明 らかに し, この関係か ら小脳弁における頼粒層の発達は聴覚の発達 に関係 しているであろうと している。 小脳のプル キンエ細胞の分布の粗密 は, 分子層 と頼粒層の問の連絡の程度をあ らわす と考 え られて い る。 著者 は 103 種 について しらべた結果, 硬骨魚類では他の脊椎動物 とちが って, この細胞が一層にな ら ばずにこっの細胞層の境界を中心 と して存在 し, 小脳弁では種によってその分布が著 しく異 なることを見 出 した。 脳 の神経路 の研究 は, 脳の各部分の機能的分化を明 らかにする うえで重要である。 著者 は, 小脳弁 に含 まれ る四つの神経路の走行を しらべ, これ らには視覚, 聴覚, 味覚, 平衡感覚 に関係 する知覚神経繊維が 含 まれ るばか りでな く, 延髄 と連絡する運動神経織経 も含 まれ ることをた しかめた。 これ らの神経路の発 達の程度は種によって さまざまであるが, 視覚の発達 した種では滑車神経の繊維 も含 まれているとい う。 著者 は, 以上述べた研究結果を総合 して, 小脳弁は臭覚を除 く諸感覚器官か らの刺激を受 けて, これを 運動器官に伝達する機能を もつ もので, 三半規管および側線帯系にも関係 して体 の平衡を保つためにも重 要な役割を果すであろうと結論 している。 前述 したよ うに, 著者 は小脳弁を15 の型 に区分 したが, その組織学的観察か ら, 複雑な形態の型 は, 小 形 の簡単な型のものが伸長 し, 屈曲または分岐 し, さらにそれ らの重複 と組み合わせによって生 じたもの - 146 - であると して, 型 の変遷を示 す模式図をえがいた。 この模式図は硬骨魚の 目の進化を示す系統樹 には一致 しない。 著者 は, 10 目についてそれぞれ小脳弁の構造に もとづいた系統樹 を作 り, 従来の系統樹 と比較 し ている。 その結果, 小脳弁の形態 の複雑化はそれぞれの目で平行的にお こったものであ り, その変化は種 の問の生態的な違 いに対応するものであると し, また, その形態の複雑化の過程は個体発生の うえで も認 め られ ると している。 硬骨魚の うちで, サケ科 とコイ科では小脳弁の形態が種 の標徴 と して有意義 とする意見がある。 著者が 調査 した限 りでは, その形態 の差が種 と種 との間で明瞭であるO 従 って, その形態 は目または亜 目の標徴 とはな らないけれ ども, 恐 らく硬骨魚類全般 にわた って, 種 の分類学的標徴 と して十分に価値があるであ ろ うと述べている。 参考論文 7 編 は, すべて魚類 の神経学的研究であ って, その- は, サケ科 の 8 種について脳 の形態 と溝 泳運動の関係を論 じたものであ り, その二 とその五 は, 深海魚数種 の脳 の形態 の特異性 と行動 の特異性 と の関係を論 じたものである. その三 は, 硬骨魚類 の延髄 にだけ認 め られ るマ ウスナ細胞の機能を明 らかK . した もの, また, その四は, 魚類 の睡眠行動 に関する実験 的研究であ り, その六 とその七 は, 神経組織学 的技術の改良 に関するものである。 論 文 審 査 の 席 黒 の 要 旨 硬骨魚類の脳に特有 な構造である小脳弁 は, 小脳前端 か ら視菓蓋に覆われ た第三脳室 の一部に突 出 した 器官で, 感覚 および運動 に何等かの役割を果す と考え られているが, その機能 の細部については明 らかに されていない。 また, その形態 は種 によって著 しく異 な り, サケ科および コイ科では種 の分類学的標徴 と して価値があるとされているが, その形態的多様性 の意義については全 く検討 されていない。 これ らの点 に関する従来 の研究 は, いずれ も断片的であ って, 総括 的結論 に達するには不十分である。 著者 は, 63科の 日本産硬骨魚に属 する 103 種 について, 小脳弁の発達 の程度 と形態を しらべ, これを15 の型 に区分 した。 小脳弁の機能については, その分子層 と頼粒層の体積比が, 聴覚 に関与す る小脳本体 の 額粒隆起の発達の程度 に関係 していることを見 出 し, 小脳弁が聴覚 に関係 した機能を有するであろ うと推 論 した。 また, プル キンエ細胞の小脳弁における分布状態を しらべ, さらに, 小脳弁に含 まれ る四つの神 経路 の走行 と発達の程度について くわ しい調査を行 ない, それ らの結果 とそれぞれの種 の行動 の特異性 と を比較 して, 小脳弁は臭覚を除 く頭部の諸感覚器官, すなわち, 味覚, 視覚, 聴覚器官か ら伝達 され る刺 激を受 け, これを中継 して延髄をへて身体各部に伝達する機能を もつ ものであるが, 三半規管および側線 器系にも関係 していて, 体 の平衡を保つためにも重要な役割を果す ものであると している。 小脳弁の外部形態の種 による差違 について, 著者 は組織学的観察の結果か ら, その複雑な型 のものは小 形 の簡単な型 のものか ら, 逐次複雑化 したものであって, その複雑化 は簡単 な型 の小脳弁の伸長に伴 う屈 曲, 分岐, その重複, 組 み合わせによる ものであると し, 型の変化の過程を示す模式図を作 った。 この模 式図は, 硬骨魚類 の 目または亜 目の進化を示す系統樹 には一致 しないが, 目の内部における系統分類学的 区分については重要な示唆を与える。 このことか ら, 小脳弁の形態 の複雑化はそれぞれの 目の うちで平行 的にお こったものであ り, その変化 はそれぞれの種 の生態的特異性に対応 したもので, 複雑化の過程は個 - 147 - 体 発生の問に繰 り返 され るものであると した。 種 と種 との問における小脳弁の形態的差異 は明瞭である ので, 著者 は, その形態的特徴 は目または亜 目の分類学的標徴 には用い られないけれ ども, 種の標徴 と し ては十分な価値があることを認 めた。 参考論文 7 編 は, いずれ も硬骨魚類 に関する神経学的研究であ って, その うちの 4 編 は脳 の各部分にお ける特異 な形態 と行動の関係 について論 じたものであ り, 1 編 は魚の睡眠行動 と一般的行動 との差異を, 実験的方法によって神経機能の面か ら明 らかに したものであ り, 2 編 は困難の多い神経組織学的技術に改 良を加えたものである。 ・ 要するに, 著者島村初太郎は,′従来明 らかでなか った小脳弁の機能について解釈を下 し, さらに, そ・の 形態の多様性 の系統分類学的意義を明 らかに して, 魚類 の神経学および系統分類学の分野に対 して大 きな 貢献を した。 この主論文, 参考論文を通 じて, 著者が これ らの領域 における豊富な知識 と, す ぐれた研究 能力を有 することが認め られ る。 よって, 本論文 は理学博士の学位論文 と して価値があるものと認める。 - 118 1-