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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
Title
ドメスティック・バイオレンス被害母子に対する親子相
互交流療法の効果に関する研究
Author(s)
加茂, 登志子; 氏家, 由里; 伊東, 史ヱ; 中山, 未知; 伊
藤, まどか; 金, 吉晴
Journal
東京女子医科大学雑誌, 86(臨時増刊1(医学部精神医学講
座 石郷岡純教授退任記念特別)):E48-E58, 2016
URL
http://hdl.handle.net/10470/31400
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
84
l
臨時増刊 1 号 )
平成 82 年 1 月 |
束女医大誌第泌
頁
著
原
E4
必
8~E5
臼
8
ドメスティック・バイオレンス被害母子に対する
親子相互交流療法の効果に関する研究
1
2
東京女子医科大学附属女性生涯健康センター
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
Toshiko
NAKA
ihcM
etutit1snI
etutitsnI2
sraey
)sraey
The
lacideM
snoises
redrosid
detac
suounitnoc
dezilanretxe
noitcaret
ECB
Key
Therapy
rof
ot etamitnI
Partne
KAMO¥
Yuri
Y AMA¥
Madoka
fo Women's
fo latneM
htlaeH
…同付金
noitcaretnI
Exposed
宇
品
dlihC
胴
リ里か
ユ由ど
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作家寸藤
w氏引伊
コ子チ知
、ン志ミ未
ト
登
モ茂竹山
カ加付中
ycaifE
htlaeH
lano,
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2.1
Fumie
ITO¥
and Y urahiso
Women's
retneC
etamitni
yrotnevnIlaroi
rentrap
ecneloiv
,
mother
and dlihc
lacideM
foygolorueN
dlihC,
-tneraP
緒 言
dlihC-retoM
Dyads
ecnloiV
UJIE¥
IT0
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ykT
Jesnap
sihT
yduts
detaulave
eht ycaciffe
fodlihC-tneraP
noitcaretnI
Therapy
dlo and rieht .srehtom
nI siht yduts
,
eht nerdlihc
had laroivaheb
smelborp
and rieht
srehtom
(mean
ega = 6.73 )sraey
had decneirepxe
egufer
srehtom
had ydaerla
deviecer
cirtaihcysp
tnemtaert
ta eht etutitsnI
and dlihc
sday
ytisrevinU
erofeb
gniviecer
.TICP
Out fo 8 mother
=8.71 ,mean noitarud
= 8.
1 .)shtnom
The srehtom
wer
most netfo
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eviserped
.redrosid
The mean serocs
fo eht Eyberg
taht eht s'nerdlihc
laroivaheb
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symptoms
on eht dlihC
roivaheB
tsilkcehC
and eht mean erocs
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sertS
trohS-xednI
Form
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tropus
eht ycaciffe
fo PCIT rof mother
and dlihc
W :sdro
ヨシハル
吉 晴L
平成 7
2 年 21 月 21 日)
(受理
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Women's
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PCIT
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fo
fo eht dlihc-tnerap
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-ni
sa lew sa eht mean
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fo
sday
dezimitciv
by .VPI
)TICP(
noitcaretnI
Therapy
,
Eyberg
dlihC
-vaheB
みならず,その子どもたちの精神面・行動面にも深
02 代
, 03 代の女性が幼児を連れて被害の場から保
刻な影響を与えることは周知の事実でありへわが国
護施設へとたどり着くといったケースはドメス
においても公立一時保護所仰や母子生活自立支援施
ティック・バイオレンス(以下 DV)
の現場において
設に入所中の母子を対象にした調査吋こよって指摘
一つの典型ともいえるものである. DV が被害者の
されてきた金ら勺ままた,母子関係の悪化と子ども
図:加茂登志子
干5
0-261
東京都新宿区若松町 9-9
パークホームズ新宿若松町
センター
:liam-E
pj.ca.umwt.hwi@omak
-E48
ー
東京女子医科大学附属女性生涯健康
94
の「攻撃的行動」との聞に関連があることを示唆し
対象および方法
.1 対象
母子関係の質が子どもの「攻撃的行動」の予測に有
DV 被害がありうつ病や心的外傷後ストレス障害
効である可能性も報告している.これらの先行研究
や臨床的経験から, DV 被害母子をユニットとして
citamuarT-tsoP(
sertS
捉え,早期から母子の相互交流に着目した治療的介
redrosiD
神健康障害を発症し, 902
: PTSD)
入を行っていく必要があるとの認識は現場において
までの期間に東京女子医科大学附属女性生涯健康セ
徐々に広がりつつあり
などの精
年 1 月から 0
12
年4 月
日本においても既に母子の
ンターを受診した女性のうち, 2 歳から 8 歳の子ど
同時並行グループプログラムの試み )5 等があるが,介
もと同居しており,病痛を起こす,なかなか言うこ
入による治療効果の具体的検証には至っていないの
とを聞かない,激しいきょうだい喧嘩をする等,子
が現状である.
どもの問題行動が主訴のーっとなっている母子 21
親 子 相 互 交 流 療 法 tneraP(
Therapy
: PCIT)
dlihC
noitcaretnI
田
は,米国で 0791
組を母集団とした精神科主治医から概要と期待さ
年 代 に Eyberg
れる治療効果を母親に書面で説明し,同意が得られ
によって開発された行動療法であり,行動上の問題
たものに対してアイバーグ子どもの行動評価尺度
を有する子どもや,育児困難に悩む養育者がその治
(Eyberg
療対象となっている.)6 DV 被害親子に焦点を絞った
し,子どもの問題行動の強度を示す ECBI
PCIT
ア得点が 41
の有効性に関する研究加はまだ少ないが,良
dlihC
roivaheB
yrotnevI
ける PCIT
PCIT
とは,米国の平均点6.69 )2.53DS(
子どもの問題行動の
導入例とした. ECBI
強度スコア 41
点に
)21
改善をターゲットに既に多くのランダム化比較試験
偏差を加えた値であり,米国で PCIT
が行われており,メタアナリシス研究でもアメリカ
善の基準点となっているものである.
心理学会の提示するエビデンスに基づく治療のガイ
2/1
点
の標準
を行う際の改
なお,本調査の除外基準は母親に,①現在治療中
ド ラ イ ン に お い て 「 よ く 確 立 さ れ た-llew
Jdehsilbatse
強度スコ
点以上であった母子 8 組を本研究にお
好な結果が示されており,今後の成果が期待できる.
の治療効果については
: ECB )I )02 を施行
の幻覚,妄想,緊張病症状を呈する精神疾患または
治療に位置づけられている )9 近年では,
てんかん,または中枢性神経疾患,②最近 1 年のア
虐待を受けた子どもとその親に対する効果もまた報
ルコール薬物乱用による入院歴,③頭蓋内の器質的
告されるようになり lへ被虐待児の行動障害,親の育
病変もしくは外傷,④過去 3 ヵ月以内の自殺企図に
児ストレスの減少,短期的な虐待の減少が認められ
よる救急外来受診もしくは入院歴があるもの,であ
たとする報告や虐待の再発を防ぐ中期的効果の報告
り,いずれかに該当する親子はあらかじめ母集団か
等が次第に蓄積してきた現在では PCIT
ら除外した
用が全米に広がっており,米国 The
citamurT
sertS
Network
(NCTSN)
はその使
Nlanoita
dlihC
.2
ている 11)これらの状況を鑑み,筆者らは
PCIT
を日本に導入し
802
年に
主として DV 被害親子の養
育再建に対する効果の検討ロ)とともに本療法の紹介
を重ねてきた31 1))4
PCIT
まず, PCIT
においても推
奨されるエビデンスに基づいた治療のひとつとなっ
方法
いて心理社会的プロフィールを調査したうえで,
PCIT
の治療過程における完遂率,治療回数,治療に
要した期間,母親のスキル獲得水準等を検討した.
次に, PCIT
の使用は国内でも広がりを
見せており,母親の自尊感情が回復した事例ベ虐待
事例における効果61 )17)や,ハイリスク新生児フォロー
を終了した群について,治療前後の母子
の精神健康状態と母親の育児ストレスについて,評
価尺度を用いて統計学的に比較検討した
)1 PCIT
アップ外来において育児困難を訴える家族に対する
導入群について,フェイスシートを用
PCIT
について
はライブコーチングを用いるユニークな行
効果lへ低出生体重児の発達障害リスクに対する有
動療法である.具体的には子どもに対し親(養育者)
用性研究目)等が既に報告されているが, DV 被害母子
が遊戯療法を行い,治療者はマジックミラ}を通し
に関する検討はまだ十分ではない.そこで,今回の
てこれを観察し親が獲得すべき相互交流のための
研究では DV 被害母子において
スキルをマスターできるようトランシーバ一等を用
特に既存のエピデ
PCIT
ンス研究でも治療効果が検証されている「子どもの
いて実地訓練(ライブコーチ)を行う.
問題行動」に焦点を当て,複数事例を対象に DV 被
は前述したように,行動上の問題を有する子どもか,
害母子に対する PCIT
育児困難を有する親である.子どもの最適年齢は
の効果を検討する.
-E49-
の対象
05
Treatment
2~7 歳とされているが, 12 歳までは治療可能である
gniarT
retnC
: TTTC)
主催の PCIT
とされている.養育者は生物学的な親のほか,里親
トレーニングワークショップに参加し初期トレー
や祖父母なども含まれる.今回の研究では上述した
ニングを受けた.その後,
ように子どもの問題行動の改善を治療目標とし治
プロトコルをもとにほぼ忠実に翻訳し,
療 に 参 加 す る 養 育 者 は DV 被 害 を 受 け た 母 親 と し
プロトコル(ドラフト版)を完成したこの日本版
た.
02
治療プロトコルを用いて, 8
月 の 2 回 に わ た っ て TTTC
治療回数は親のスキル到達(マステリング)の進
捗度によってケース毎に異なるが,
TTTC
1 回06 分セッ
で用いている治療
日本版治療
年 21 月と 9
02
年 01
か ら 心 理 士 2 名をト
5 日間のワークショップを合
レーナーとして招き
ションを毎週行い,通常 12~20 回で完了する.プロ
3 名の精神科医や臨床心理士などの専門家に
計2
グラムは 2 段階に分かれており,前半部分では「特
行った.また,
別な時間laiceps
Jemit
のなかで,親が子どものリー
2 回のワークショップに並行し,ワー
クショップトレーナーの 2 名から 3 事例についてビ
ドに従うことによって,親子の関係を強化すること
デオを用いたスーパーバイズを受けた.本研究で
を 目 的 と し た 子 ど も 指 向 相 互 交 流 (dlihC
PCIT
noitcaretnI
: CD I)を行う.
Do
キルは行うスキル (
t'noD(
CDI
d-etceriD
で親が獲得すべきス
ショップに参加し,スーパーパイズ研修を修了した
も の で あ る . な お 当 時 TTTC
スキル)と避けるスキル
yberg
プロトコルは, E
スキル)の 2 者であり, Do スキルは(具体的)
賞 賛)delebaL(
noitatimI
esiarP
,繰り返し noitcelfeR
,(行動の)説明
楽しい交流
Enjoy
,
の 頭 文 字 を と っ て PRIDE
キルとも呼ばれる. t'noD
Command
,真似
)lnoitpircseD
aroivaheB(
,批判 msicitirC
部分に若干の変更を加え
ているが,基本的な評価方法や手順には相違はない.
)3
ス
調査項目
(1)フェイスシート
フェイスシートでは,母子の年齢,子どもの性別,
が挙げ
治療対象となる子どもの同胞数,子どもの DV の目
られている.
後半では CDI
で使用されていた本
らが用いているオリジナル
版プロトコルに対し, PDI
スキルとしては,命令
,質問 n
oitseuQ
を担当したセラビストはこの日本でのワーク
で獲得したスキルを維持しながら,
撃の有無,子どもの直接的虐待被害の有無,親の結
オペラント条件付けモデル理論に基づき,よい命令
婚の状況,母親の就労の有無のほか,母親の DV 被
の出し方や子どもがより親の指示・命令に従える効
害度を定量的に把握するため, 1身体的暴行・傷害」
果的なタイムアウトの手順を指導する.後半部分は
「性的強要IJ 心理的攻撃」の 3 つの下位尺度(計 51
子どもの問題行動をターゲットに直接その減少に取
項目)からなる DVSI
)yrotnevnI
り組むため,親が遊びをリードする形を取っており,
そのため親指向相互交流detceriD-tneraP(
noit
-caretnI
ecneloiV
gniercS
却を使用した.
)2(
: PD I)と呼ばれる.親が獲得すべきスキルは,
citsemoD(
母親の精神健康状態
① GHQ
精神健康調査 0
3 項 目 版 larenG(
htlaeH
idayD(
親子対の相互交流評価システム c
-tneraP
dlihC
を用いて
健康状態について評価するために用いたお総点 6
毎回コーデイングされ,プロトコル上具体的な数値
点以下は健常, 7 点以上で何らかの精神健康に関す
で示された課題をマステリングすることによって次
る問題があるとされる.
noitcaretnI
Coding
System
: DPICS)
erianoitseuQ
ン聞には,プログラムの進捗に沿って宿題が出され
のスキルを維持しながら PDI
るスキルをマステリングし
ECBI
動が改善 (
におけ
同時に子どもの問題行
強度スコア 4
1
全般的な精神
:)I-IDB
noiserpD
:うつ状態の評価に使用し
2 点以上を重症のうつ病とす
たベ重症度評価では 5
る.
③改訂版出来事インパクト尺度 t
capmI(
-elacS
desivR
:-SEI
R)
:-SEI
fo Event
R は PTSD
の 3 症状
である「侵入症状IJ 回避・麻痔症状IJ 過覚醒症状J に
る.
502
I-yrotnevnI
点以下) ,かつ親が
養育に対し自信をもつことが治療終了の指標とな
)2
: GHQ-30)
ceB(
②ベック抑うつ質問票第 2 版 k
のセッションに移行することができる.各セッショ
る.親が CDI
03 smeti
関する 2 項 目 か ら な る 自 記 式 質 問 紙 で あ る 一
セラピストとプロトコル
年,センターを中心とする PCIT
研究チーム
PTSD
症状の評価に使用した日本では 5
2 点以上を
のコアメンバー 3 名が米国シンシナテイ子ども病院
PTSD
の疑いありとする.
ト ラ ウ マ 治 療 ト レ ー ニ ン グ セ ン タ ー (Trauma
④ 成 人 版 解 離 体 験 尺 度evitaicosiD(
-E5 -D 一
ecnirpxE
15
elbaT
cihpa1rgomed-oicoS
eliforp
fo eshtnapicitrap
ム
凸」凸
T4
L
)QU)九芯
・
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dlihcdecneirepxe
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morf rentrap
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srehtoM
erew deyolpme
:ISVD citsemoD
ecneloiV gnineercS
.yrotnevnI
II-elacS
:)I-SED
:82 項 目 か ら な る 解 離 体 験 の 重
平均 30%
)5(
: M. .I )N.I.
weivretnI
9.6
5.73
24.
6.5
8.42
.1 3
05
01
83
36
52
%
%
%
%
%
親子の相互交流
degirbA(
II-metsyS
The -retnI-iniM
⑤精神疾患簡易構造化面接法 (
lanoitan
cirtaihcysp-orueN
M..Iz
.N.r 7) は DSM-IV-TR
3.5
.1 5
①親子対の相互交流評価システム短縮版第 3 版
以上を解離性同
一性障害の疑いありとする.
6.73
6.5
構成されている.
症度を測定する尺度である.主観的解離症状の重症
度評価のため使用した)62
DS
cidayD
:I-SCPID
tneraP
dlihC
)1 : DIPCS
四
noitcaretnI
は 0891
gnidoC
年代から
米国で親子の社会的交流の質評価のために作られた
行動の評価システム刊であり
お)による精神疾患の診断に
米国で外在化行動障
用いられる半構造化面接である.母親の精神健康障
害をもっ幼児とその養育者への介入治療の効果の評
害に関する診断可能性を全般的にスクリーニングす
価と治療ガイドとして使われているほか,司法領域
るために用いた.
においても親機能や子どものアタッチメントの評
)3(
価,虐待家族に対する介入療法後の養育行動におけ
子どもの精神健康状態と問題行動
①アイバ一グ子どもの行動評価尺度(包ECB 副
)1
る変化の記録に用いられている.具体的には,子ど
初
20 仰
もに対する負荷量に基づき, dlihC
子どもの問題行動について評価するために用いた.
子どもの問題となる行動を強度スコアと問題数スコ
tneraP
アの両面から測定する.母親が回答したた.
に分けて親子の交流を量的に測定する.今回の研究
日本語版
roivaheB
tsilkcehC
(CBL)
の子どもには C
BL/4-18
BL/2-3
はC
113
03
)
4 歳以上
を
, 3 歳以下の子どもに
elacS
は ADHD
IV : ADHD
の許可を得て筆者らが翻
.3 統計
治療前後の数値比較に対し
ウイルコクソンの符
knar-dengis
)tset
を使用し
た.統計ソフトは SPS
V re0.31 を用いた.加えて,
31021ecxE
を用い Z 値および被験者数から効果量
tceffe(
)ezis
r を算出した.
日本語版注意欠陥/多動性障害評価尺度 ADHD
2
)
,n
aelC
号順位検定 n
oxcliW(
を使用した.母親が回答した.
J-VI-SR
(ADH-Rating
)J : ADHD
r-VISR
)PL(
訳した第 3 版短縮版を使用した
:子どもの精
神・行動面の症状の評価のために用いた.
yalP
では開発者である E
yberg
は原版作者の承諾のもと,筆者らが作成した
②dlihC
Led
Led yalP )PLC(
,
Up )UC(
の 3 場面
-VI-SR
の特徴である多動,
注意散漫,衝動性を評価するために使用した.本調
.4 倫理面への配慮
査では母親が評定した.
本研究は東京女子医科大学の倫理委員会にて承認
)4(
①gnitneraP
nidbA
を受けた上で実施した.
親の育児ストレス
sserts
trohs-xedni
form
らにより開発された 021
)FS-ISP(
結 果
項目からなる I
SP
.1
の短縮版として作成された親の育児ストレス尺度で
ある)33
3 つの下位尺度, laI
tnerap
Jlihc-tI
nerap
難d
lanoitcnufsyd
機能的相互関係tluJcifI
fid
ssertsid
noitcaretni
dlihc
養育困
親子の非
難しい子ども」から
-E51-
PCIT
導入群のプロフィール
elbaT
1 に導入時の母集団のプロフイ}ルを示し
た 母 子 の 平 均 年 齢 は そ れ ぞ れ6.73 92.5DS(
,
egnar
):34-82
歳
, 36.5
(SD .1,
51 egnar
)8-3
歳であ
り,治療対象となった子どものうち女児の割合は
25
50%
であった M
. .I N .Iを用いた母親の現在診断(重
複あり)で最も多かったのは PTSD
(n=5
3%)
あり,大うつ病性エピソード n( = 3,
,
56%)
常外来で引き続き経過を追うこととなったなお,
で
,気分変
調症,広場恐怖,強迫行為,強迫観念 (n=2
,
2%)
治療脱落 2 事例の子どもの ECBI
数スコアはそれぞれ 121
強度スコアと問題
点と 41 点および 831
点と
02 点で,全対象の平均点を下回っていた.母親の精
が続いた.各評価尺度の平均点は以下の通りであ
神健康状態では, 1 例は M. .I.N I.を用いてうつ病(現
る; G
HQ-30
在) ,パニック障害, PTSD
点
, R
-SEI
0.71 )8.7DS(
6.35 )9.91DS(
点
, I-IDB
点
, I-SED
7.23 )8.61DS(
2.42 )6.2DS(
点.
,全般性不安障害が診断
され,各評価尺度もすべて平均を超えるなど精神健
全母子が既に加害者の下を離れて生活しており,
康障害重症例として位置づけられたが, もう 1 例は
PCIT
M. .I.N I.では診断がつかず,また,評価尺度では
導入時直接的な被害は受けていなかった.
治療前の子どもの問題行動についてみると,治療
前アセスメントにおける ECBI
強度スコアの平均は
5.841
(SD 62 .1)点,問題数スコアの平均は 8.81 (SD
7.4)点であった.強度スコアにおいて各項目の平均
値がもっとも高かったのは項目 2 1食事のときにぐ
SD .1)2 点であり,
ずぐずしたり時聞がかかる」の0.6 (
これに,項目 82 1絶えず他者の関心を求める j 6.5
(SD .1)5 点,項目 3 1食事のときに行儀がよくない」
6.5 (SD 1が 点 , 項 目 6 1寝る支度が遅い j 54. (SD
.1)5 点,項目 1 1着替えるときにぐずぐずする j3.5
(SD 1が 点 , 項 目 92 1人の邪魔をする j3.5 (
D .1β
S
8
点が続いた.問題数スコアを見ると,
)%5.78(
8 人中 7 人
が問題だと回答した項目は,項目 12 食事の
GHQ-30
がわずかに平均を上回ったのみであり,む
しろ軽症例と言えるものであった.
6 組(子どもの平均年齢 75.5 (SD .1)09 歳)が治療
群の平均治療期間は3.842
(SD
を完遂した. PCIT
)7.54
日であった. 治療に要したセッション回数は,
SD .1)9 回,後半5.01 (SD .1)2
前半 CDI 部分が3.7 (
回,通算DS(8.71
)8.2 回である.これは毎週セッショ
5----4
ヵ月で終了する回数であったが,治
ンを行えば
療期間が平均 8.1ヵ月と長ヲ|いた主たる理由はセッ
ションのキャンセルであり
その理由の主たるもの
は母の病状の悪化と子どもの保育園や学校の行事で
あった.
ない j ,項目 101 何かをするように言われると反抗的
1.giF
に,治療前後のII-SCIPD
の CLP における
強度スコア
親 Do スキル得点および子どもの ECBI
強度スコア得点は治療
得点の推移を示した. ECBI
(SD )5.72
点であったが,
開始前の平均得点、は0.351
β
8DS()
点に有意に減少してお
治療終了時には2.401
knar-dengis
set ,t p =)820.0
,その効果
りnoxocliW(
量 r も0
9.0と大きく 母親は PCIT
の前後で子ど
にふるまう j ,項目 121
もの問題行動が減少していると評価していることが
ときに行儀がよくない」と項目 16 寝る支度が遅い j ,
項目 8 1家のルールに従わない」の 3 項目であり, 8
人中 6 人 )
%57(
が問題としたものは,項目 1 1着替
えるときにぐずぐずする j ,項目 71 時間通りに寝る
ことを嫌がる j ,項目 91 罰として脅されるまで従わ
3
るj ,項目 1
自分のやり方が通らないと怒
かんしゃくをおこす j ,項目 1
7
大声
明らかとなったelbaT(
.)2
母親の Do スキル獲得に
を出したり,悲鳴をあげたりする j,項目 192 人の邪
ついては, 1繰り返し J と「行動の説明」は,治療後,
魔をする」の 8 項目であった.
マステリーとして期待されるスキル数 5( 分間に 01
.2
PCIT
PCIT
を導入した 8 組の母子のうち, 6 組 )
%57(
治療終了基準に到達し PCIT
)%52(
回)をほぼ達成していたが, 1具体的賞賛」は平均38.5
の治療経過に関する分析
が CDI
期間中 I
DC(
が
を完遂したが, 2 組
回に留まった.一方 t'noD
, 1批判」が
の頻度を減じたが, 1命令」が平均で O 回
76.0
ーコーチコーチングセッ
スキルはすべて順調にそ
回であったのに比べ, 1質問」は平均1. 38 回とや
ション 5 および 01 に脱落した.脱落の主たる原因
や多かった.治療終了後に行った母親からの聞き取
は,連絡のない連続的な欠席ないし遅刻である. 1
り調査では, CDI
組は子どもを 5 人抱える母子家庭であったため多忙
困難さとともに,子どもを「具体的賞賛」をするこ
を極めていたこと, もう 1 組は母親が就労しており
との困難さが語られることが多かったが,その感想
時間繰りがつかないことをその理由として説明し
を反映する結果となった.なお「具体的賞賛
た.しかし事前に連絡がなかった点についての説
繁に使用することについては子どもを誉めすぎると
明は明確ではなかったため,母親の解離症状や治療
増長するのではないか,謙譲の美徳が失われるので
に対する回避的態度の可能性も考慮した上で治療継
はないかとのためらいを訴える母親も存在した. し
続困難と判断し母親の了解の上 PCIT
かし抵抗感を訴えると同時に, 1子ども時代に親か
を中止し,通
-E52-
において「質問」を減らすことの
J を頻
35
likS
frequncy
ECBI
ytisnetni
erocs
180
21
160
10
140
120
8
delebaL
・噌ー
esiarP
ー
- noitcelfeR
10
laroivaheB
noitpircsiD
岨噂-
6
Comand
80
...
4
noitseuQ
・
ー
-evitageN
60
ー唱ー
klaT
ECBI ytisnetni
erocs
40
2
20
o
.
Pre
.giF
1 g
nirapmoC
eht ytisnetni
ment
:IBCE
Eyberg
Asesment
serocs
dlihc
O
司噌
tsoP
eht ycneuqerf
fo eht
roivaheb
Asesment
fo oD" sllikS
dlihc roivaheb
Eyberg
"nidlihC-tneraP
yrotnevni
には,治療前後の DPICS-
的命令(I tceridn
の PLP
Command
Command)
)CI(
(DC)
におけ
Jと「間接
Jの数の推移,およ
び子どもの「命令に対する従う」率( Compliance)
まず子どもの精神面・行動面の症状では, ECBI
coxon
set t,それぞれ p = 820.0
knar-degis
および CBCL
と
,
)720.0
,
の外向化尺度の T 値の有意な減少が
認められた (Wilcoxn
を示した. PDI
「従わない」率 (Non-cmpliae)
yparehT
dna
dna tsop -ssessa
の強度スコア値,問題数スコア値の有意な減少-liW(
験のなさを訴える母親も多かった.
Fig.2
erp
.yrotnevni
ら誉められることがほとんどなかった」と自身の経
る「直接的命令 tceriD
noitcaretnI
newtb
signed
さらに, ADHD-RS
四
rank
set ,t
p =.)240.0
に お け る 注 意 欠 損 noiteA
スコアおよび多動・衝動性 ytivcarepH
ticifeD
の適切な命令の出し方では,子どもが従うことを要
スコア,全体 latoT
請される命令には「直接的命令」が適当であるとさ
た.これらのスコアに関する治療の効果量は大で
れている.治療前アセスメントでは親がリードする
あった (r=)09.0-------7.0-
場面において「直接的命令J の数は少なく, 1間接的
スコアにおいても,有意差は認められなかったもの
命令」が多かったが,治療後, 1間接的命令」の頻度
のすべてが減少しており,中等度以上の効果量が得
は著しく減じ,代わりに「直接的命令」が増加して
られていた.
は治療前も 88%
が,治療後は 92%
.3
Table
PCIT
が,その他の評価尺度の
母親の精神症状では,すべての評価尺度において
い た 子 ど も の 直 接 的 命 令 に 従 う 率 (DCCompliance)
スコアも減少する傾向にあっ
と高いものであった
治療後に重症度スコアは下がっていたが,有意な変
化には至らなかった.もっとも大きな効果量が得ら
とさらに高くなった.
れたのは外傷後ストレス障害症状における過覚醒症
の治療効果の検討
2 に,子どもの精神面・行動面の症状,母親
の精神健康に関する症状,および母親の育児ストレ
スに関する治療前後の評価を示した.
状
r( = -)327.0
であった.育児スト
レスにおいては親子の非機能的相互交流
dlihc
-E53-
Hyperalous
lanoitcnufsyd
noitcaretni
Parent
田
の得点が有意に減少
45
2 Comparing
Table
xednI
psychometric
selacS
measurements
betwen
erP
selacs-buS
tnemsa
ECBI
ytisnetnI
Problem
serocs-T
dezi
Tserocsdezi
Tserocs-
CBCL
erocs
erocs
fo-lanretnI
symptoms
fo-lanretxE
symptoms
fo latoT
sympto
ADHDRS
司
latneraP
sserts
FS-IP
SD
0.351
7.02
5.07
9.72
6.7
3.01
2.401
76.8
5.36
8.8
3.4
81.
dlihc
knar-dengis
しn
oxcliW(
roivaheb
大であった r(
p
e百tce ezis
-102.2
702.2.1- 763
*820.0
*720.0
01.27
09.009.0065.0-
230.2-
*240.0
038.0-
3.65
11
. 8
5.6
5.9
81.
2.21
7.7
2.71
9.8
3.51
7.01
437.0-
3.72
0.41
7.61
7.01
41
. 3
11
. 6
8.71
0.21
9.8
2.01
3.03
7.21
49.0437.0.1275
.1- 967
.1275
413.0
543.0
04. 36
01.61
770.0
01.61
357.0
1.1-
842.0
- 04.27
.1- 29
*640.0
418.0
459.0.1- 275
043.0
01.61
erocs
2.61
03 4.
8.71
21
. 8
7.51
3.55
3.71
7.71
84.
2.6
3.5
5.51
5.41
31
. 8
81.
8.43
51.
8.72
ssertsid
3.34
-c
7.33
8.801
,C
BL:
set ,t p =)640.0
dlihC
8.6
2.8
roivaheB
silkcehC
,効果量も
9.21
2.8
.1- 75
01.51
46.0-
54.
0.5
9.9
6.5
5.21
3.43
0.79
,t ADHD:
9.4
411.
noitnetA
ticifeD
.1- 148
660.0
257.0-
.1- 167
.1- 167
870.0
870.0
917.0917.0-
04.36
65
ytivitcarepyH
03.0683.003.0246.0327.0246.0-0 1.92
093.0246.0-
.redrosiD
導入時,既にほかの臨床に繋がっていた子どもはお
= -.)418.0
らず,母親の精神科受療のなかで初めて事例化され
たことは特筆すべきであり,母親の受療の場が子ど
考 察
PCIT
serts
6.7
8.26
latoT
yrotnevni
set ,t * = p<.50.0
knar-dengis
Z
latnerap
2.26
11
. 4
2.32
開
Eyberg
and
31 4.
71
. 0
erocS
tneraP InIu0dlfih1cstcyadr
lanoit
etni
tluciffiD
dlihc
latoT
erocs
:IBCE
noxcliW
,m
other
tnemsesa
mean
ticifeD
latneraP
dlihc
SD
latoT
erocs
noisurtnI
ecnadiovA
Hyper
lasuora
latoT
erocs
Mean
egatnecrep
DES II
PcrT:
nae1
ytivitcarepyH
latoT
・
tsop
立l
S
noitnetA
GHQ
03
I-IDB
R-SEI
Mother
and
tsoP
立
dlihC
pre
導入群の母親の精神健康障害で最も多かっ
もの受療の場に直接繋がることの意義を示唆するも
,次いで大うつ病エピソードであった
のであった.ここでは DV 被害女性と DV に曝され
が,この両疾患が DV 被害者に多いことはメタアナ
た子どもの治療の場の有機的な連携の必要性と重要
リシス研究でも既に指摘されている)53
性を強調したい.
たのは PTSD
各評価尺度
症
DV に曝された子どもの精神健康障害についての
状,解離症状のどれもがカットオフ値や重症度水準
既存の報告では,不安,抑うつ,学校での成績不振,
などに照らし重症度が比較的高い状態にあること
低い自尊心,反抗,悪夢,身体的愁訴など,情緒的・
が確認されたが,本群の母親が既に精神科外来に通
行動的問題のすべての領域で高いリスクを有してい
の結果からは,導入群の母親のうつ状態, PTSD
院していたことを考えれば想定を著しく超えた結果
るとされている1)が,具体的な問題行動に焦点を当て
とは言えない.一方子どもの症状に目を向けると,
た研究は少ない.本研究では ECBI
-2
日本における 7
コア 01 1. )6.42DS(
歳児の ECBI
平均得点は,強度ス
点,問題数スコア75.6
)64.6DS(
の結果をもとに
子どもの問題行動の頻度と親が問題と捉える子ども
の行動についても検討した.子どもの行動の頻度と
点であり,専門家によるさらなる評価が望まれる臨
いう観点からは,食事や寝る支度,着替え等日常生
床域の目安は強度スコア 521
活の遂行上に生じる問題のほか,絶えず他者の関心
点以上,問題数スコア
41 点以上であったお)が,本研究の対象となった子ど
を求めることや人の邪魔をすることについて母親は
もたちの ECBI
「よくある」以上の項目として捉えていた.これらが
得点はこの臨床域を超えるもので
DV に曝された子どもの問題行動の特徴を示すかど
あった.それにも関わらず,今回の対象では PCIT
-E54-
5
egatncrP
llikS
ycneuqrf
(DC
,
)CI
fo noitelpmoc
(DC-compliane
,
)ecnailpmoc-CI
100%
5
90%
5.4
80%
4
70%
5.3
60%
3
5.2
50%
2
40%
.1 5
30%
1
20%
喝 回I
C
10%
・ 噌 ー DC
5.0
。
0%
Pre
.giF
・噂圃・ DC
Asesment
tsoP
2 Comparing
eht ycneuqrf
noit PDI slliks
ni dlihC-tneraP
DC: tcerid
comand;
I:Ctceridni
之
開
DC-
Compliance(%)
Noncmpliance(%)
Asesment
and
noitelpmoc
egatncrep
noitcaretnI
Therapy
betwen
erp
fodetcerid-tnerap
and
-caretni
tsop
tnemsa
comand.
今 回 の 研 究 で は PCIT
うかは今後一般の子どもから得られたデータとの比
較等を用いて検討を深めていく必要がある.また,
(75%)
導入群 8組のうち 6組
が治療を完遂しており,その治療効果につい
親にとって子どもの行動が問題かどうかといった観
ても良好な効果率を確認することができた PCIT
点からは,上述した頻度の高い項目のほかに,子ど
の治療脱落率に関する研究却では, 50%
もがルールに従わないこと
こともあると報告されており
罰として脅されるまで
が脱落する
これに比較すると今
従わないなど,子どもの不服従や,何かをするよう
回の対象の治療完遂率は比較的高いものであったと
に言われると反抗的にふるまう,かんしゃくを起こ
言えよう.この点については
す,大声を出したり悲鳴をあげたりするなど攻撃的
に治療を受けており,治療者一患者関係が作りやすい
な行動を問題として捉える母親が多かった ECBI
環境にあったことがその背景のーっとして考えられ
の問題数スコアには親の子どもの行動に対する耐性
る.母親の治療が連携する等環境が整えば比較的重
が反映されることが指摘されているが)73
治療開始
い精神健康障害を有した母親でも子どもの治療に積
評価において子どもの直接的命令に従
極的に参画できることもまた今回確認できたことの
前の DPICS
う率が治療前に既に 88%
母親が実施施設で既
一つである.しかし治療回数は米国等の報告とほ
と高い水準にあったこと
も考慮すると,治療の場における初めての親子間交
ぼ同水準で、あったにも関わらず,治療期間はおよそ
流で日常とは異なった反応を子どもが呈した可能性
倍にあたる 8.1ヵ月と長ヲ
とともに,子どもの不服従に対する母親の耐性低下
期化すると施設内で扱えるケースの数もまた減少す
もまた検討の温上に上がる.今回用いた DPICS
る.治療期間の短縮化は医療経済的な問題のほか,
では
lいた. 1 ケースの治療が長
子どもの攻撃的行動は評価の対象ではないため踏み
治療待機親子に与える不利益の解消の観点からも重
込んだ考察はできないが, ECBI
要な視点である.セッションキャンセルの主たる要
において強度スコ
アよりも問題数スコアの領域で問題として挙がって
因に母の病状の悪化があったことを鑑みると, PCIT
きていることから,やはり母親の耐性低下について
を 導 入 す る 前 に PTSD
十分に検討すべきであると考えられる.
ジャー療法やうつ病に対する認知行動療法など,母
-E55-
に対する持続エクスポー
65
親の精神健康障害によりインテンシブに働きかける
重要と思われたのは, PCIT
治療を導入することが治療期間の短縮に役立つ可能
行動の改善に意識を集中していた期間も,母親の精
性がある.しかしこの場合
神健康状態が悪化しなかった点である.子どもが精
一方で目覚ましい発達
によって子どもの問題
の時期にある子どもに対し親子相互交流に働きかけ
神的・心理的治療を専門施設で受ける場合,親は治
る治療の導入が後回しになることの不利益もまた考
療に同伴し,子どもの症状や日常を報告し,また養
1
育者として治療的なかかわりを要請される等負担は
例は精神健康障害の重症度が脱落に一定の影響を及
少なくないが,自身に精神健康障害があればそれは
ぼした可能性があるが,もう 1 例の重症度は必ずし
なおさら重くなることが予想される.しかし今回
慮すべきであろう.本研究の脱落例を見た場合,
も高くなかった.時間はかかっても治療が完遂した
の研究では母親の精神健康状態の悪化を示した指標
事例のなかには脱落例に比べて評価尺度上重症度が
はなく,統計学的有意差こそ得られなかったものの
より高い事例も含まれることから
むしろすべて改善の方向に向かっていた. PCIT
障害の重症度は PCIT
母親の精神健康
に
よる母親のうつ状態の改善に関する報告羽)を鑑みる
の適用の参考にはなるが,決
定要因としてはやや弱いと考えられた.今後は動機
と,親の精神健康状態の回復に関するテーマは今後
づけに関する検討もまた不可欠である.子どもの保
の PCIT
育園や学校の行事への参加の優先もまた PCIT
の長
後に認められた親子の非機能的相互交流の改善が子
期化に影響を与えていたが,就学後の欠席は学業や
どものみならず親の精神健康にも良好な結果をもた
交友関係より大きな影響を与える可能性があるた
らすとすれば,親に精神健康障害が認められる事例
め,できる限り就学前に PCIT
にも PCIT
を終了するよう治療
導入の可能性は広がるであろう.これら
の結果は,今後も DV 被害親子を対象に PCIT
計画を立てるべきである.
.giF ,l 2 に見る通り,親のスキル獲得は比較的順
によ
る治療的介入を継続していくことに対し,肯定的な
意味を十分に与えるものと結論づけられる.
調であったが,具体的賞賛のみが低い得点にとど
ま っ た PCIT
研究における重要な視点と思われた.治療
最後に,本研究の限界について述べたい.本研究
は子育てという文化差の大きい分野
に積極的に介入する治療であることから,プロトコ
は対象数が小さく,また, PCIT
ルの文化適合的な修正の必要性に関する検討は重要
グループにおける治療効果の検討であった.今後,
な課題の一つである.今回の研究では母親のなかに
PCIT
「謙譲の美徳 J精神を理由に子どもに具体的賞賛を与
ンスを得るためには,ランダム化比較試験が必須で
えることにためらいを表明するものがあり,今後の
あることは言うまでもない.また,今回用いたプロ
を導入したシングル
の治療効果についてより高い治療効果エビデ
課題と思われたしかし一方子どもを褒めること
トコルは米国等においてエビデンスが確立したオリ
への苦手感は母親自身の「褒められることが少な
ジナル版 PCIT
かった」という子ども時代の体験にも影響されてい
た.現在筆者らは本質的エビデンスの確立に加え,
る可能性があり,単純に文化の問題とひとくくりに
国際比較を念頭に
できない面も指摘された.プロトコルの安易な変更
心に推進しているが
は治療効果エビデンスを下げる危険を伴う.加えて
治療効果研究もまた必須である.
具体的賞賛は PCIT
に若干の変更を加えたものであっ
において行動科学論的に子ども
オリジナル版による PCIT
オリジナル版 PCIT
を中
を用いた
結 論
子どもの問題行動を主訴とする DV 被害母子 8 組
の好ましい行動を増やすための強化子として重要な
親スキルとして位置づけられていることから,本ス
に対し, PCIT
キルに係る変更については特に慎重に検討すべきと
が治療を終了した.平均治療期間は 8.lヵ月とやや
長かった. PCIT
考えた.
治療前後のアセスメント比較において, ECBI
の効果を検討したところ, 6 組 (75%)
導入前,母親の精神健康障害で最も
多かったのは PTSD
強
,次いで大うつ病エピソードで
あり,子どもの行動上の問題は ECBI
得点において
どもの外在化尺度 T スコアの減少に有意差が認め
臨床領域にあると判断されたが, PCIT
導入時,既に
られ, ADHD-RS
でも得点の減少の傾向が確認され
ほかの臨床に繋がっていた子どもはおらず,母親の
たことから,本研究において DV に曝された子ども
受療の場が子どもの受療の場に直接繋がることの意
の問題行動は被害者である母親とともに行う PCIT
義が示唆された治療前後の評価尺度得点の比較に
によって有意に改善することが示唆された加えて
おいて, ECBI
度スコアおよび問題数スコアの減少と CBCL
の子
得点と CBCL
における外在化症状 T
E
75
スコアの有意な改善と注意欠陥/多動性障害評価尺
evisuba
:stnerap
ycacife
rof gnicuder
erutuf
esuba
,
402
.stroper
J tlusnoC
nilC lohcysP
:27 0151)erdlihc1-stnemtaert/netnoc/gro.nstcn.w/:pth
seilimaf-dna-n
)21 加茂登志子:ドメスティック・バイオレンス被害
度の軽減の傾向が認められ,子どもの行動面の症状
が改善したことが示唆されたまた,母親の育児ス
トレス評価では親子の非機能的相互交流が有意に改
母子の養育再建と親子相互交流療法.精神経誌
善していたこれらの結果は,今後も DV 被害親子
を対象に PCIT
21
による治療的介入を継続していくこ
)31
とに対し肯定的な意味を与えるものとして結論づ
けられた.
37-6
)41
謝 辞
)51
石郷岡純教授東京女子医科大学精神医学講座主任に
)61
こころより深謝し本論文を石郷岡純教授講座主任退任
記念論文として捧げます.なお本研究は平成 20 年 度
,0
12
,7
02
伊東史ヱ,加茂登志子:親と子への P
CIT.
保健の科
5 :6-75
,1 4
102
学 6
宮川千春: PCIT
を用いた母親の自尊感情回復のプ
21 :84-1
,
210
ロセス.武蔵野大心理臨セ紀
小平かやの:虐待事例における親子相互交流療法
の有効性の検討.東女医大誌
38 : E219-E27
,
3102
ファイザーヘルスリサーチ健康財団研究助成及び平成
27 年 度 科 学 研 究 費 助 成 事 業 課 題 番 号 i263896
:98-5
正 木 智 子 , 金 吉 晴 , 加 茂 登 志 子 ほ か : PCIT
dlihC-tneraP(
noitcaretnI
Therapy)
親子のための
相互交流療法について. トラウマ・ストレス :
5
)71
1Jを受け
て行われたものです.
)81
開示すべき利益相反状態はない.
小平かやの:被虐待児への治療的アプローチ
虐
親子相互交流療法)の実践.
待事例における PCIT(
児童青年精医と近接領域 5
4 :38-7
,
3102
吉川陽子,平津恭子,竹下暁子ほか:ハイリスク新
生児フォローアップ外来における育児困難を呈し
38 : E408-E41
,
た母子への支援.東女医大誌
3102
文 献
)91
)1 Krug
EG ,
Dahlberg
LL ,
Mercy
JA te :la ecneloiV
nI World
Report
on ecneloiV
by etamitni
.srentrap
,p87-12
,World
htlaeH
noitazinagrO
,
and htlaeH
Geneva
)2002(
)2 金吉晴,柳田多美,成松裕美ほか: DV 被害を受け
た女性とその児童の精神健康調査. f平成 61 年度厚
細金奈奈:極低出生体重児における発達障害の診
断と介入極低出生体重児の発達障害リスク児に
PCIT)
の臨床的有用性.
対する親子相互交流療法 (
-92 ,1 02 日
日周産期・新生児会誌 15 :3
Eyberg
SM ,
Ros
A W: Asesment
fo dlihC
Behavroi :smelborP
The noitadilaV
fo a New .yrotnevnI
J
,
8791
nilC dlihC
cselodA
lohcysP
:7 61-31
2)1 nivloC
A ,Eyberg
SM ,Adams
CD: "azidradnatseR
noit fo eht Eyberg
dlihC
roivaheB
.yrotnevnI
/:pth
,
91
icp/ .mth.seruaeM/ude.lfuph
)2
石井朝子,飛鳥井望,木村弓子ほか:ドメステイツ
簡易スクリーニング尺度
クバイオレンス (DV)
(DVS I)の作成および信頼性・妥当性の検討.精神
4 :328-71
,
302
医 5
)32
中川泰彬: f質問紙法による精神・神経症症状の把
握の理論と臨床応用 j,国立精神衛生研究所,千葉
891( )1
)42 Kojima
M ,Furukawa
T A ,Takahashi
H te :la
larutluc-sorC
noitadilav
fo eht Beck
noiserpD
I-yrotnevnI
ni .napaJ
yrtaihcysP
Res :011 291,
20
)52 Asukai
N,
Kato
H,
Kawamura
N te a:ytilibaileR
and ytidilaV
fo eht egaunL-spJ
noisreV
fo
eht Impact
fo Event
desiveR-elacS
:)J-R-SEI(
Four
seidutS
fotnerefiD
Traumtic
.stnevE
The J Nerv
,
20
Ment
siD :091 281-57
Putnam
FW: The evitaicosiD
-irepxE
)62 Carlson
EB ,
secn
elacS
(DES丑
ト
). citylanohcysP
yriuqnI
:02
163 一63 ,02
Y : fM I.N.I. :精神疾患簡
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金 吉 晴 ) j,
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)502(
)4 奥山員紀子:被害児童への治療・ケアのあり方に
関する研究f. 平成 61 年度厚生労働科学研究「子ど
も家庭総合研究事業 J 報 告 書 ( 主 任 研 究 者 石 井 朝
子) j,
)502(
)5 春原由紀,森田展彰,古市志麻 :DV に曝されたこど
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性障害の評価尺度の作成と判別能力に関する研究
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日本語版の標準値「厚生労
働省精神・神経疾患研究委託費研究報告書注意
欠陥/多動性障害の診断・治療ガイドライン作成と
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井潤朋美,上林靖子,中田洋二郎ほか: dlihC
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日本語版の開発.小児の精と神
,
1891
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