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毒ガス被害者に関する日本イラン医学共同セミナー報告書 県立広島病院

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毒ガス被害者に関する日本イラン医学共同セミナー報告書 県立広島病院
毒ガス被害者に関する日本イラン医学共同セミナー報告書
県立広島病院 呼吸器内科・リウマチ科 土井正男
私は 2009 年 3 月 1 日から 3 日にイランのテヘラン市で開催されたイラン・イラク戦争
における化学兵器被害者に関する日本イラン医学共同セミナーに呼吸器科医師とし
て参加させてもらいました。
呼吸器科グループのセミナーは、2009 年 3 月 2 日、呼吸器障害者のための専門クリ
ニックが置かれている Baqyatallah 病院において、ガネイ教授(Mostafa Ghanei)を中心
とする呼吸器部門スタッフとともに開催されました.余談になりますが、ガネイ教授は前
日まで毒ガス被害者診療のためイラクに出張でした.しかし、帰りの飛行機が欠航とな
り、このセミナーのために自身で 12 時間以上運転し帰ってこられたことを聞き感激しま
した.セミナーでは私が大久野島毒ガス工場の従事者にみられた呼吸器障害に関す
る総論とガネイ教授らによるイラン・イラク戦争における化学兵器被害者に関する業績
のまとめを呈示し日本とイランの毒ガス障害を比較し議論しました.その中で、同じ毒
ガスによる呼吸器障害であるが、日本の毒ガス被爆は主に長期微量であるのに対して、
イランは短期多量被爆であることに起因すると思われる違いが浮かび上がりました.第
一に、日本では被爆直後から気道に発生する癌が問題となっていましたが、イランで
は発癌は少なく問題となっていないようです.第二に、イランでは高濃度被爆のため初
期に急性肺障害による呼吸不全や中枢気道のびらんや狭窄・閉塞で多くの犠牲者が
でた点です.第 3 に、イランでは毒ガス被爆から約 20 年が経過して末梢の気道障害に
よる慢性閉塞性肺疾患が最大の問題となっている点です.ガネイ教授らはこの閉塞性
肺疾患に対して過去 10 年間に種々の治療を試みながら、画像診断や被害者の肺生
検をおこない、その病態を閉塞性細気管支炎であると考え報告しています.
議論の後に当日外来受診となっていた 5 名の被害者を一緒に診察させてもらいまし
た.呼吸器障害は軽症の患者も重症の患者もいましたが、印象的だったのは 5 名中 3
名が不眠や不安感で悩み抗精神薬を処方されていたことでした.患者を悩ませる不
眠・不安や安静にしていても突然感じる呼吸困難には、毒ガス攻撃という恐ろしい体
験による心的外傷後ストレス障害(Post-traumatic stress disorder, PTSD)が関与して
いることは間違いありません. 3 月 3 日の合同セミナーでは、これまでの呼吸器疾患と
しての治療に加え、毒ガス攻撃という恐ろしい体験による PTSD の評価と治療が呼吸
器症状改善のためにも必要ではないかと提案しました.
セミナーのために一緒に日本から来た 3 人の医師(井内教授、木内教授、森田教
授)はスケジュールの都合で 3 月 4 日に帰国となりましたが、私は 3 月 7 日までモース
トの会のメンバーとイランに滞在する機会を得ました.その 3 日間で、毒ガス弾頭が着
弾した戦争の要地、ミサイル攻撃で多くの犠牲者がでた学校とその犠牲者の墓地、平
和教育を行っている戦争博物館などを見て回りました.そこでは、毒ガスのような化学
兵器を 2 度と使用させないという彼らの強い決意と、自分たちの過酷な体験を風化さ
せずイランで起こった毒ガス被害を世界中の人々に知ってもらいたいという彼らの強い
意志を感じました.
最後に、日本は第 2 次世界大戦から 60 年間以上平和が続いています.私も祖父と
叔母が原子爆弾の犠牲者であったことを日常生活では忘れています.昨年 80 歳にな
った父から「1945 年 8 月 6 日 家族の原爆当時」と題した手書きの冊子を忘れない欲
しいと手渡されました.私にとっては、その冊子をもう一度新たな気持ちで読むきっか
けとなる今回のイランへの旅でした.
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