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「心の傷(トラウマ)の知識を福島県民のものに」
発行日:平成 26 年 9 月 19 日 発行人: 橋本和典(センター代表) 編集:吉田愛・田中令子 今号の「さすけねえ」は、コミュニティ・カレッジリレー講演第 10 回「沖縄戦の PTSD と福島のトラウマ反応」(6/22 開 講)のレポートをお届けします。心の傷(トラウマ)って?どんな反応が起きる?どう回復する?など、トラウマについての知識 を学んでいくトラウマレクチャーシリーズ(全 3 回)の第 2 回目でもある本講演は、メンタルクリニックなごみ(福島県相馬市) 院長である蟻塚亮二先生にお話いただきました。また、講演に参加された方のご感想、センター体験談もご紹介します。 橋本所長からのメッセージ 「心の傷(トラウマ)の知識を福島県民のものに」 センター代表 橋本和典 (博士(教育学)、須賀川市出身、ICU 准教授、PAS 心理教育研究所非営利事業部理事) 2013 年 9 月 1 日に、会場を無償で提供してくれ 「そういう厳しいところに生きている人に比べたら ている全日本不動産協会福島県本部の久保田善九郎 自分は大丈夫、あるいは自分が助けを求めるのは申 さんはじめ、多くの地元の方と、われわれプロのト し訳ない」と、嫌な夢を見る、不眠、下痢、疲れや ラウマや PTSD 心理療法家の協力で立ち上げたセン すさ、体の痛み、イライラしやすさ、酒の量が増え ターも 1 年を迎えました。1 年で、28 日開所し、の る、人中に出るのが怖い、絶望感・無力感にさいな べ約 700 人の方がセンターを訪れました。改めまし まれる「うつ」などの心の傷つきの反応を抱えなが て、ここまでご支援、ご協力、そして、何より、本 ら踏ん張っている方が多くいます。「地産地消」と センターのプログラムや、心理療法の意味を感じ利 高校生が言い、雨の日は外に出るのを嫌がる小学生 用していただいているみなさまには、代表として、 もいます。この底なしのストレスのある福島では、 深く感謝申し上げます。 誰もがこうした反応をしてもおかしくありませんが、 この一周年は、震災からちょうど 3 年半に当たり ます。心の専門家からすると、福島の現状は厳しさ これらを適切に理解し、対応する技術も、組織も絶 対的に足りていません。 を増しています。原発事故、その後の放射線の問題 こうした心の傷の反応は、癒すことができます。 に端を発した風評被害がいまだ大きな問題となって 癒すだけではなく、依然よりも強い心の力を育てる います。海外からの福島へのホームステイは軒並み ことができます。それが、対話を通して元気を高め キャンセルされるなど、多くの関係者の悩み、苦闘 る心理療法のパワーです。センターでは、「トラウ が私に届きます。そして、風評を取り払う多大なる マの知識を福島県民のものに」を合言葉に、福島県 努力をし、ポジティブな面を強調すればするほど、 民のあらゆるところに、トラウマの知識を届け、確 苦しむ人々との較差、不信を大きくしてしまう難し かな対応の知恵を広める運動を大きく始めようと思 さが福島にはあります。特に、自分にも周囲にも見 います。われわれで訳した「最新大災害メンタルヘ えにくい人の心の痛み(トラウマ)やストレスの問 ルスガイド:不測の衝撃」キャンペーンです。10 月 題が、社会の対応の網からこぼれ落ちてしまう。そ からのこの本をテキストにした講習会もはじめます。 の深刻な現れの一つが、1753 人にも達した自死を 2 年目もどうぞ、よろしくお願いいたします。 含む震災関連死(原発事故関連死)です。また、 コミュニティ・カレッジ リレー講演レポート 蟻塚亮二先生 講演 「沖縄戦の PTSD と福島のトラウマ反応」 2014 年 6 月の講演は蟻塚亮二先生のリレー講演 流出問題など様々なストレス要因があり、原因が単 であった。2004 年に沖縄県に移住し、精神科医と 一要因でない難しさがある。さらに、対応や再建の して活躍なさった後、2013 年からは、相馬市のメ 遅れにより、実生活が不安定なまま放置され、トラ ンタルクリニックなごみの院長をなさっている。蟻 ウマ刺激が表面化しやすい状態にある。蟻塚先生は 塚先生は「沖縄戦と心の傷: トラウマ診療の現場か 「トラウマの雪だるま効果」ということで、ストレ ら」を 2014 年に出版。今回の講演も「沖縄戦トラ スが積み重なってしまうことの問題を挙げ、トラウ ウマと福島のストレス症候群」というタイトルで、 マ反応を長期経過で見ることの重要性を訴えてい 沖縄と福島の現状を比較しながらの講演であった。 た。 沖縄での診療経験を豊富な事例を交えてのお話し 震災から 3 年半が過ぎようとしている。まだまだ 下さった。事例、そして、事例を語る蟻塚先生には 問題は山積みの中、中長期でものを捉える視点が必 迫力があり、お話を伺いながら身震いがするほどで 要になっていると感じる。目に見える震災の影響だ あった。その中でテーマになったものの一つが不眠 けでも大きいものがあるが、目に見えない心への影 である。高齢者の方が不眠を訴え、それをたどって 響はこれからますます生じるであろう。沖縄戦のこ いくと沖縄戦での逃げ歩いた記憶やにおいの感覚な とから学ぶ必要がある。3 年、5 年、10 年、30 どにたどり着き、その影響が 50 年近く経った今に 年、50 年経ってもこの震災のトラウマ刺激の影響 なって現れる。こうしたトラウマ刺激が過覚醒型の は現れる。そのことを我々は肝に銘じておく必要が 不眠をもたらす。「高齢者の不眠を見たら戦争トラ ある。そして、伝えていく必要がある。そう感じた ウマを疑え」というのが蟻塚先生のポイントであっ 講演であった。 た。 高田毅 (福島復興心理・教育臨床センター) 一方、福島では、津波、原発、仮設住宅、若者の 講師紹介 蟻塚亮二(メンタルクリニックなごみ院長) 全国の精神科医に震災支援によって立ち上がった 福島県相馬市のメンタルクリニック・なごみに勤務する精神科医で、 大震災・原発問題による PTSD、トラウマ反応(心の傷)の問題に取り組んで いらっしゃいます。 参加者の声 蟻塚先生の講演に参加された方の感想をご紹介します。 ・被災に対して知識のなさを感じました。(野口伸一さん) ・症状の出ている人はまだ救われる可能性があるのだと思いました。(匿名 A さん) ・「オリンピック+アベノミクス」VS 被災地という現状に社会的搾取を感じる。互いの生存権(生活の権利など)を認 められないでいるのでは…?「被災地優先」というのはなんだったのかな…。また、もう一つの側面。バルネラビリ ティ(脆弱性)を引き受けるそうした教育もいるだろう。(星郁夫さん) 福島復興心理・教育臨床センター体験談 ここでは、福島復興心理・教育臨床センターでの体験談をご紹介いたします。今回は、国際基督教大学の学生 (現卒業生)で、サポートグループに参加された吉田早紀さんの体験談です。 サポートグループとは、普段我慢して いて言えない思いや、不安、憤り・・・心に溜め込まれているこれらの思いを言葉にし、心のゆとりを取り戻すためのグ ループを使った心理教育手法です。災害等の大きな出来事があった後に、ストレスを解放し、その後の PTSD(心的 外傷後ストレス障害)を予防するために、研修次第でどなたにでもできる方法です。震災の体験は一人一人違い、そ の意味も異なります。その体験を言葉にしていくことが難しくなっている今、吉田さんの率直な言葉が印象的でした。 【サポートグループ体験】 このプログラムを通して、やっと自分なりに東日 ていくことが出来ました。自分の中にある申し訳な 本大震災と向き合いはじめることが出来たような気 いという気持ちや、後悔の気持ちなどを言葉にする がします。東京で東日本大震災を経験し、その後、 ことによって、プログラム中にあったもやもやとし すぐに実家の方へと帰ってしまった私は、メディア た感情の原因がはっきりとし、またその自分の発言 を通しての情報しか得られず、また、すぐに東京か に対して温かい反応をしてくださるプログラムの参 らさえも逃げてしまったという罪悪感から、頭では 加者の皆様のおかげで、とても心が軽くなったのを 理解をしていても、心のどこかで東日本大震災が起 覚えています。 こったという事実から逃げていたように思います。 今思えば、なんとなく発言する内容は決まってい 最近のメディアでは、復興の明るいニュースや、福 ても、どんな反応をされるのかが怖くて、話せてい 島の元気な方たちの報道をするニュースが多く、そ なかったのかもしれません。自分の正直な悩みを誰 れで勝手に安心していたのかもしれません。 かに言うことは、とても勇気がいることでした。た しかし、プログラムの中で、福島に住まれている だ、それを内に溜め込めるのではなく、言葉で表現 方の本音や悩み、苦しみを聞いていくうちに、何も し、誰かに聞いてもらえる、そして受け止めてもら 考えずにのうのうと生活をしていた自分をどうしよ えることが、心には必要であり、そんな空間がこの うもなく恥ずかしく感じ、いかに自分が東日本大震 「サポートグループ」には存在していたから、話せ 災と、そして福島の現状から目をそむけていたのか たのではないかなと思っています。 を実感しました。プログラム中は、何か話そうと挑 これからは、この発覚した自分の気持ちに向き合 戦してみるものの、何を話せばよいのか分からず、 い、自分に出来ることを積極的に探して行動してい とういうよりも、頭の中に湧き出るもやもやとした きたいと思っています。プログラムに参加された皆 感情を言葉に表現することが出来ず、全く話すこと 様、橋本先生、どうもありがとうございました。こ が出来ませんでした。しかし、プログラムの最後の れから、一緒にがんばらせてください! まとめの時間に、橋本先生に話す機会を頂き、言葉 (吉田早紀) にならない想いを、思いつく言葉でなんとか表現し ニュースレター「さすけねぇ」について 「さすけねぇ」は、大震災の大規模な心の傷やストレスを越えて心の力を高めることを目的に、福島の地元の方と心の 専門家が協働して立ち上げた本センターの活動についてお伝えし、広く心の復興の必要性を呼びかけるためのニュー ズレターです。タイトルは、あきらめの意味の「さすけねぇ」ではなく、福島に暮らす人々が厳しい心の復興を勝ち抜き、 腹の底から「さすけねぇ」と震災を乗り越える日を目指して名づけました。 <センターからのお知らせ> ◇2014 年下半期開室日について 2014 年:10/25(土),10/26(日)、11/15(土),11/16(日)、12/20(土)、12/21(日) 2015 年:1/24(土),1/25(日)、2/21(土),2/22(日)、3/14(土),3/15(日) プログラムについては随時お知らせいたします。 また、ホームページでもお知らせを更新いたしますので、http://www.fukushimafreeclinic.com/を ご 参照ください。 新プログラム「不測の衝撃―危機介入のためのメンタルヘルスガイド」講習会ご案内 10 月より全 6 回の新プログラムがはじまります。このプログラムは、9 月中旬に刊行された「不測の 衝撃―危機介入のためのメンタルヘルスガイド」をテキストに、震災後の心のケア、心の復興の基礎を 学ぶ講習会です。テキストとなるのは、9.11 後にアメリカのメンタルヘルス専門家によって作られた最 新の災害メンタルヘルスガイドの日本語版です。災害時、そして復興において、どのように心を支えて いくのか。会社のリーダー、専門家、お父さん、お母さん、どなたでもぜひご参加ください。 「不測の衝撃―危機介入のためのメンタルヘルスガイド」講習会 第 1 回 日時:10/26(日)10 時から 福島復興心理・教育臨床センター Free Clinical-Educational Center for Fukushima Reconstruction センター所在地: 〒963-0115 福島県郡山市南 1 丁目 45 番地 公益社団法人 全日本不動産協会 福島県本部内 アクセス 相談窓口/センター事務局: 〒153-0041 東京都目黒区駒場 2-8-9 PAS 心理教育研究所 非営利事業部 担当:中村有希(臨床ディレクター) 橋本和典(福島復興心理・教育臨床センター代表 ) 電話: 03-6407-8201 携帯電話:080-3606-0640(代表 橋本) どうぞお気軽にご連絡ください。 郡山駅下車。駅から約 3 ㎞。 車で約 5 分。 郡山ICから約 7.5 ㎞。車で 約 10 分。